【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(1)標的配列のクローニング
ヒト口腔内から単離した、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)及びcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)を培養した後、DNAゲノム抽出キット(GenCheck DNA Extraction Reagent・FASMAC)を用いて染色体DNAを調製した。
ストレプトコッカス ミュータンスの染色体DNAを鋳型とし、下記プライマーセットを用いて、PCRキット(Expand long renge、Roche社)にて、配列番号1に示す、トランスグルコシダーゼ遺伝子の部分配列を増幅した。
Forwardプライマー:TGAGCTGCTGTTTGTCTT(配列番号2)
Reverseプライマー:GTTTCAGCAGAAACAGAACA(配列番号3)
また、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスの染色体DNAを鋳型とし、下記プライマーセットを用いて、PCRキット(Expand long renge、Roche社)にて、配列番号4に示す、cnmタンパク質遺伝子の部分配列を増幅した。
Forwardプライマー:CAGACTGAATGTCATCTTCAA(配列番号5)
Reverseプライマー:GCAGTAACATTTCATCGCTG(配列番号6)
PCR産物を、pGEM-T Easy Vector System I(Promega社)を用いてTAクローニングした。即ち、PCR産物を、このキットに含まれるベクター及びリガーゼ含有バッファーと混合してライゲーションし、Escherichia coli DH5αコンピテントセル(タカラバイオ株式会社)を形質転換した。
配列番号1に示すトランスグルコシダーゼ遺伝子の部分配列を含むプラスミドをSMプラスミドと称し、配列番号4に示すcnmタンパク質遺伝子の部分配列を含むプラスミドをcnmプラスミドと称する。
【0041】
(2)プライマー感度の検討
配列番号1の塩基配列を有するDNA(トランスグルコシダーゼ遺伝子の部分)を含むSMプラスミド、及び配列番号4の塩基配列を有するDNA(cnmタンパク質遺伝子の部分)を含むcnmプラスミドを鋳型として、LAMP法試薬(Loopamp DNA増幅試薬、栄研化学社)を用いて、DNAを増幅した。
LAMP反応用液25μL中に含まれる各成分量は、以下の通りとした。
プライマー:1600nM FIP、1600nM BIP、800nM LF、800nM LB、400nM F3、400nM R3
標的DNA液:1μL
Loopamp蛍光・目視検出試薬(栄研化学社)1μL
0.8Mベタイン
上記LAMP反応用液を調製した後、反応チューブに移し換えて、転倒混和後64℃で2時間反応させた。
用いたプライマーセットは下記の通りである。
トランスグルコシダーゼ遺伝子増幅用プライマーセット(「SMプライマー」と称する)
F3: GAAGTTTGTGCTTCTTCTGA(配列番号7)
B3: GATAAGGCGGCATCTGAA(配列番号8)
FIP: GCATAACTAAGGAAACTCCTTCACACGTATTTGTTACTGTTTTGTCAT(配列番号9)
BIP: CTTGTATCAGCAACGTTTGCCTGCCAAACAGATGCACCTAA(配列番号10)
LF: TATTACAACACAAGCCAACT(配列番号11)
LB: TGGGCCTGCG TTTGTTCTGT(配列番号12)
cnmタンパク質遺伝子増幅用プライマーセット(「cnmプライマー」と称する)
F3: CCAGTAATACTGTCATTGAAAGT(配列番号13)
B3: CGCTTTGAGTTTGATGAGC(配列番号14)
FIP: AACCATTAAGCTGGAGGTTCAGGAACTGCTTTGTCTTGCGT(配列番号15)
BIP: CGTATAACCTGTTCCTCTGACTGTAATATTAAAGCAGGCGACAC(配列番号16)
LF: GCAAGTATGTTGGTGATTTG(配列番号17)
LB: CCTGAATTCTGCCAGTTAAC(配列番号18)
LAMP反応用液に加える標的DNAの量は、1×10
2、1×10
3、1×10
4、1×10
6、又は1×10
8に変化させた。
【0042】
紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した結果を
図1に示す。トランスグルコシダーゼ遺伝子増幅用のSMプライマーを用いた場合、SMプラスミドが1×10
6分子以上あれば検出でき、cnmタンパク質遺伝子増幅用のcnmプライマーを用いた場合、cnmプラスミドが1×10
3分子以上あれば検出できた。
【0043】
(3)唾液の培養方法の検討
cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを保有することが分かっている被験者から採取した唾液20μLを2mLのBHI (Brain heart infusion)液体培地に移して、1日間培養後の培養液を回収した(唾液のBHI液体培地による培養液)。
別途、同唾液20μLを、内直径6cmのシャーレ(商品名:BioLite 60mm Tissue Culture Dish、型番:130181、Thermo Fisher Scientific社)中に作成したMSB寒天培地(Becton, Dickinson and Company, 229810)上に載せて、37℃で24時間静置培養した。この培養後にコロニーは目視観察により認められなかった。次いで、このMSB寒天培地上に50μLのBHI液体培地を注入して、培地表面を洗った後、回収した(MSB寒天培地上の菌の回収液)。
【0044】
唾液のBHI液体培地による培養液、及びMSB寒天培地上の菌の回収液を、それぞれ1μLずつ用いてLAMP反応用液を調製した。別途、SMプラスミド、及びcnmプラスミドを、それぞれ1μLずつ用いてLAMP反応用液を調製した。
LAMP反応用液の組成は、標的DNA液1μLに代えて、培養液又は菌回収液又は各プラスミド液1μLを用いた他は、「(2)プライマー感度の検討」の項目に記載した通りである。
プライマーは、「(2)プライマー感度の検討」の項目に記載したトランスグルコシダーゼ遺伝子増幅用のSMプライマーと、cnmタンパク質遺伝子増幅用のcnmプライマーを、それぞれ用いた。
【0045】
64℃で2時間反応させた後、紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した。結果を
図2に示す。
唾液をBHI液体培地で培養した培養液を核酸増幅法に供しても、ストレプトコッカス ミュータンスの上記両遺伝子の増幅を検出することはできなかったが、唾液をMSB固体培地で培養した後、菌を回収した液を核酸増幅法に供した場合は、ストレプトコッカス ミュータンスのトランスグルコシダーゼ遺伝子及びcnmタンパク質遺伝子の増幅を検出することができた。
【0046】
(4)菌数の検出限界の検討
滅菌した爪楊枝で、保存菌液(保菌者から得られた、ストレプトコッカス ミュータンス及びcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス)からピックアップして、別途シャーレ中に作製したMSB寒天培地に、1プレート当たり1コロニー、5コロニー、10コロニー、又は20コロニーが形成されるように接種した。MSB寒天培地の組成は、「(3)唾液の培養方法の検討」で用いたものと同じである。また、コロニーを接種しないMSB寒天培地をネガティブコントロールとして用意した。これらの培地を37℃で24時間静置培養した。
次いで、これらのMSB寒天培地上に50μLのBHI液体培地を注入して、培地表面を洗った後、回収した。回収液1μLを用いてLAMP反応用液を調製した。LAMP反応用液は、標的DNA液1μLに代えて回収液1μLを用いた他は、「(2)プライマー感度の検討」の項目に記載した通りである。
プライマーは、「(2)プライマー感度の検討」の項目に記載したトランスグルコシダーゼ遺伝子増幅用のSMプライマーと、cnmタンパク質遺伝子増幅用のcnmプライマーをそれぞれ用いた。
【0047】
64℃で2時間反応させた後、紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した。結果を
図3に示す。
ストレプトコッカス ミュータンスのトランスグルコシダーゼ遺伝子及びcnmタンパク質遺伝子の何れをターゲットとした場合も、MSB寒天培地上に1コロニーあれば、ネガティブコントロールより明らかに強い蛍光が観察され、DNAの増幅が確認された。
【0048】
(5)cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスの検出限界の検討
口腔内にはcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスとcnm−陰性ストレプトコッカス ミュータンスが混在していることから、MSB寒天培地上に両ストレプトコッカス ミュータンスが混在している場合に、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを特異的に検出できるか否かを検討した。
【0049】
シャーレ中に作製したMSB寒天培地の1プレート上に、保菌者から得られたcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを1コロニーが形成されるように接種すると共に、保菌者から得られたcnm−陰性ストレプトコッカス ミュータンスを1コロニー、9コロニー、又は49コロニーが形成されるように接種した。ネガティブコントロールとして、MSB寒天培地に、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを接種せず、cnm−陰性ストレプトコッカス ミュータンスのみ49コロニーが形成されるように接種したものも作製した。MSB寒天培地の組成は、「(3)唾液の培養方法の検討」で用いたものと同じである。これらの培地を37℃で24時間静置培養した。
次いで、これらのMSB寒天培地上に50μLのBHI液体培地を注入して、培地表面を洗った後、回収した。回収液を1μL用いてLAMP反応用液を調製した。LAMP反応用液は、標的DNA液1μLに代えて回収液1μLを用いた他は、「(2)プライマー感度の検討」の項目に記載した通りである。
プライマーは、「(2)プライマー感度の検討」の項目に記載したトランスグルコシダーゼ遺伝子増幅用のSMプライマーと、cnmタンパク質遺伝子増幅用のcnmプライマーをそれぞれ用いた。
【0050】
64℃で2時間反応させた後、紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した。結果を
図4に示す。
全コロニー数に占めるcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスのコロニー数の比率が2%(cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス:cnm−陰性ストレプトコッカス ミュータンスのコロニー数比が1:49)以上の場合に、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスのcnm結合タンパク質遺伝子を増殖させることができた。
このことは、口腔内に存在するストレプトコッカス ミュータンス中のcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスの比率が2%以上の場合にcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出できることを意味する。一般に、口腔内ストレプトコッカス ミュータンスの約30%がcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスであるため、本発明方法でcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出すれば、cnm-陰性ストレプトコッカス ミュータンスの存在による偽陰性が極めて少ないことが分かる。
【0051】
(6)LAMP法以外の増幅法でのストレプトコッカス ミュータンスの検出限界の検討
「(5)cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスの検出限界の検討」の項目と同様にして、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス:cnm−陰性ストレプトコッカス ミュータンスのコロニー数が0:49、1:1、1:9、又は1:49となるように生育させたMSB寒天培地を用意した。
次いで、これらのMSB寒天培地上に50μLのBHI液体培地を注入して、培地表面を洗った後、回収した。
回収液1μLを用いて、KOD FX Neo(TOYOBO社)を用いて、PCRでDNA増幅した。反応は、PCR Thermal Cycler Diceを用いて94℃で2分熱変性させた後、98℃で10秒、55℃で20秒、68℃で20秒のサイクルを32回行った。プライマーは、ストレプトコッカス ミュータンスのトランスグルコシダーゼ遺伝子を増幅させるために配列番号2及び3のプライマーセットを用い、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスのcnmタンパク質遺伝子を増幅させるために配列番号5及び6のプライマーセットを用いた。
PCRでDNA増幅した後、3%アガロースで電気泳動し、GelRed染色(Biotium社)してバンドを確認した。
【0052】
結果を
図5に示す。全コロニー数に占めるcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスのコロニー数の比率が2%(cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス:cnm−陰性ストレプトコッカス ミュータンスのコロニー数比が1:49)以上の場合に、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスのcnm結合タンパク質遺伝子を増殖させることができた。LAMP法以外の方法でもLAMP法(
図3)と同様の結果となった。
【0053】
(7)MSB寒天培地の形状の検討
「(3)唾液の培養方法の検討」で使用したMSB寒天培地は、内直径6cmのシャーレ中に作製したものである。今回、より小さい培地面積で培養してもcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出できるかを検討した。
即ち、「(3)唾液の培養方法の検討」と同じ操作を行い、但し、MSB寒天培地は、内直径6cmのシャーレ(商品名:BioLite 60mm Tissue Culture Dish、型番:130181、Thermo Fisher Scientific社)中に作製したもの、及び2mL容マイクロチューブ(商品名:2.0ml Graduated Microcentrifuge Tube with Flat Top Cap、型番:508-GRD-Q、Thermo Fisher Scientific社)(内直径9mm)中に斜め45度に傾けて作製したものを使用した。
また、回収した菌液に代えて、cnmプラスミドを1μL用いてLAMP反応用液を調製したものをポジティブコントロールとし、回収した菌液もプラスミドも加えずにLAMP反応用液を調製したものをネガティブコントロールとした。
【0054】
結果を
図6に示す。MSB寒天培地を作製する容器を小さくし、口腔内試料を塗布する表面積を小さくしても、その後の核酸増幅によりcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを含むストレプトコッカス ミュータンスを検出できることが示された。