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特開2020-68678ストレプトコッカス ミュータンスの検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-68678(P2020-68678A)
(43)【公開日】2020年5月7日
(54)【発明の名称】ストレプトコッカス ミュータンスの検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20200410BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20200410BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20200410BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20200410BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20200410BHJP
【FI】
   C12N15/31
   C12Q1/6844 ZZNA
   G01N33/50 P
   C12N1/20 A
   C12Q1/689 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-203498(P2018-203498)
(22)【出願日】2018年10月30日
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 央子
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】長嶺 憲太郎
(72)【発明者】
【氏名】栗原 英見
(72)【発明者】
【氏名】北川 雅恵
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB06
2G045CB07
2G045CB21
2G045DA13
2G045DA14
2G045FB02
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ20
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
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4B063QS25
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4B065AA49X
4B065AA49Y
4B065AC20
4B065BA23
4B065BC38
4B065CA23
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】口腔内試料中のストレプトコッカス ミュータンスの有無を簡単な操作で短時間に検出できる方法を提供する。
【解決手段】唾液、及び歯垢からなる群より選ばれる少なくとも1種の口腔内試料を、ストレプトコッカス ミュータンスを選択的に増殖させることができる固体培地に塗布して6〜40時間培養する培養工程と、固体培地上に生育した菌を集菌用液中に回収する回収工程と、回収液を用いて、ストレプトコッカス ミュータンス染色体の標的配列部分を増幅する核酸増幅を行う核酸増幅工程と、標的配列部分の増幅の有無を判定する判定工程とを含む、ストレプトコッカス ミュータンスの検出方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
唾液、及び歯垢からなる群より選ばれる少なくとも1種の口腔内試料を、ストレプトコッカス ミュータンスを選択的に増殖させることができる固体培地に塗布して6〜40時間培養する培養工程と、固体培地上に生育した菌を集菌用液中に回収する回収工程と、回収液を用いて、ストレプトコッカス ミュータンス染色体の標的配列部分を増幅する核酸増幅を行う核酸増幅工程と、標的配列部分の増幅の有無を判定する判定工程とを含む、ストレプトコッカス ミュータンスの検出方法。
【請求項2】
固体培地での培養を、コロニーが目視で観察できる前まで行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
回収工程の後、回収液中の菌から核酸を抽出する操作を行わずに核酸増幅工程を行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
核酸増幅をLAMP法で行う、請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
標的配列部分が、cnmタンパク質をコードする遺伝子又はPAタンパク質をコードする遺伝子の全長又は一部を含む配列部分である、請求項1〜4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
口腔内試料が唾液である、請求項1〜5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
配列番号4に示す塩基配列からなる、ストレプトコッカス ミュータンスのcnmタンパク質遺伝子の部分。
【請求項8】
配列番号13の塩基配列からなるプライマー、配列番号14の塩基配列からなるプライマー、配列番号15の塩基配列からなるプライマー、配列番号16の塩基配列からなるプライマー、配列番号17の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号18の塩基配列からなるプライマーのセット。
【請求項9】
請求項1に記載のストレプトコッカス ミュータンスの検出方法に用いる固体培地であって、容器の1又は複数の凹部にストレプトコッカス ミュータンスを選択的に増殖させることができる固体培地が形成されており、その1の凹部に形成された固体培地の表面の面積が0.2〜8cmである固体培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、唾液や歯垢のような口腔内試料の分析により、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)、特に、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスやPA(Protein antigen)−陽性ストレプトコッカス ミュータンスの保有の有無を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレプトコッカス ミュータンスは、齲蝕の代表的な原因菌であるのみならず、全身疾患とも関連することが知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1は、279人の被験者について、I型コラーゲンに結合する表層cnmタンパク質を有するストレプトコッカス ミュータンス(cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス)を唾液中に保有するか否か、脳微小出血を有するか否か、及び認知機能を調べた結果、脳微小出血を有する被検者群は、脳微小出血を有しない被検者群に比べてcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを保有する頻度が高かったこと、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス検出群では非検出群に比べて脳微小出血のリスクが有意に高かったこと(オッズ比=14.3)、及びcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス保有群は認知機能が低かったことを開示している。
非特許文献2も、同様に、51人の被験者について唾液中のcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスの有無、及び脳微小出血の有無を調べた結果、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを有する群では脳微小出血の発生が多かったことを開示している。
【0004】
また、非特許文献3は、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスが血中に侵入することで、炎症性腸炎が増悪することを開示している。
【0005】
また、非特許文献3、4は、ストレプトコッカス ミュータンスのうち、表層にcnmタンパク質及びPAタンパク質を有する菌株を、高脂肪食を投与したマウスに静脈内投与したところ非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:Non-alcoholic steatohepatitis)症状を呈したことを開示している。
近年、アルコール非摂取者でも栄養過剰摂取などにより肝障害が見られるようになり、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:Non-alcoholic fatty liver disease)と称されている。NAFLDのうち、肝臓の脂肪化と共に炎症性変化や線維化が進行する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、肝硬変やさらに肝臓癌に進行することから、問題視されており、早期発見が必要である。
【0006】
このように、ストレプトコッカス ミュータンス、中でも菌体表層にcnmタンパク質やPAタンパク質を有するストレプトコッカス ミュータンスは、脳微小出血とそれによる脳卒中や認知症、炎症性腸炎、NASHといった重篤な全身疾患と関連している。従って、これらの菌の保有の有無を調べることにより、これらの疾患の発症を予測し、早期に予防することができる。
【0007】
口腔内のストレプトコッカス ミュータンスの検出方法は種々知られている。
一般的に行われているのは、非特許文献2が採用している方法である。この方法では、唾液又は歯垢をMSB(Mitis-Salivarius-Bacitracin)寒天培地に塗布し、2日間培養後、コロニーを採取し、液体培地に接種して1日間培養し、増殖した菌体を回収して、リゾチーム溶菌、RNase処理、及びエタノール沈殿によりDNAを抽出し、ストレプトコッカス ミュータンス遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCRを行って、ストレプトコッカス ミュータンスの有無を判定する。この方法は、3〜4日間を要する。
【0008】
また、特許文献1は、歯垢に含まれる細菌を界面活性剤(TritonX−100)処理及び煮沸処理により溶菌させ、溶菌液を、ストレプトコッカス ミュータンスのトランスグルコシダーゼ遺伝子を増幅できるプライマーを用いたLAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法に供し、DNA増幅の副産物であるピロリン酸マグネシウムによる白濁を目視で確認することで、ストレプトコッカス ミュータンスの有無を判定する方法を開示している。この方法は、数日にわたる培養は要さないが、界面活性剤処理及び煮沸処理を行わなければならず、煩雑である。
また、歯垢は被検者自身が簡単に採取できるものではないため、特許文献1の方法は、多人数を対象とする集団検診に適していない。
【0009】
また、特許文献2は、唾液をMSB寒天培地に塗布し、2日間培養し、コロニーを採取し、液体培地に接種して18時間培養し、培養菌液を試薬と反応させて液色変化によりストレプトコッカス ミュータンスを検出する方法を開示している。この方法は、約3日間を要する。
【0010】
このように、口腔内試料からストレプトコッカス ミュータンスを検出する従来の方法は、3〜4日を要するか、又は手間のかかる工程を含む方法である。
ストレプトコッカス ミュータンスの保有の有無を集団検診などで検査する場合、多数の被験試料を検査するため、簡単な操作で短時間に結果が得られることが求められる。また、ストレプトコッカス ミュータンスの検出検査と並行して、脳の画像検査や血液検査などを行うことも想定されるが、早期診断を行うためには、それらの検査よりストレプトコッカス ミュータンスの検出結果の判明が遅くなることは避けるべきである。また、煩雑な工程を含まないことは、検査精度を良くするためにも求められることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4359699号
【特許文献2】特許第5747370号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】SCIENTIFIC REPORTS 6:38561(2016)
【非特許文献2】Oral Diseases(2015)21,886-893
【非特許文献3】大阪大学歯学雑誌,62(1)P.15-17
【非特許文献4】SCIENTIFIC REPORTS 6:36886(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、口腔内試料中のストレプトコッカス ミュータンスの有無を簡単な操作で短時間に検出できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ね、以下の知見を得た。
即ち、唾液、歯垢といった口腔内試料を、ストレプトコッカス ミュータンスを選択的に増殖させることができる固体培地に塗布して培養し、この固体培地上に生育した菌体を使って、ストレプトコッカス ミュータンス染色体の部分配列を標的とした核酸増幅を行うことによりストレプトコッカス ミュータンスの有無を検出する方法において、この固体培地での培養を40時間以内の短い時間とし、固体培地上に生育した菌を集菌用液で回収し、回収液を核酸増幅に供することで、煩雑な操作を要さず短時間に、ストレプトコッカス ミュータンスの有無を検出することができる。
【0015】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、下記〔1〕〜〔9〕を提供する。
〔1〕 唾液、及び歯垢からなる群より選ばれる少なくとも1種の口腔内試料を、ストレプトコッカス ミュータンスを選択的に増殖させることができる固体培地に塗布して6〜40時間培養する培養工程と、固体培地上に生育した菌を集菌用液中に回収する回収工程と、回収液を用いて、ストレプトコッカス ミュータンス染色体の標的配列部分を増幅する核酸増幅を行う核酸増幅工程と、標的配列部分の増幅の有無を判定する判定工程とを含む、ストレプトコッカス ミュータンスの検出方法。
〔2〕 固体培地での培養を、コロニーが目視で観察できる前まで行う、〔1〕に記載の方法。
〔3〕 回収工程の後、回収液中の菌から核酸を抽出する操作を行わずに核酸増幅工程を行う、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕 核酸増幅をLAMP法で行う、〔1〕〜〔3〕の何れかに記載の方法。
〔5〕 標的配列部分が、cnmタンパク質をコードする遺伝子又はPAタンパク質をコードする遺伝子の全長又は一部を含む配列部分である、〔1〕〜〔4〕の何れかに記載の方法。
〔6〕 口腔内試料が唾液である、〔1〕〜〔5〕の何れかに記載の方法。
〔7〕 配列番号4に示す塩基配列からなる、ストレプトコッカス ミュータンスのcnmタンパク質遺伝子の部分。
〔8〕 配列番号13の塩基配列からなるプライマー、配列番号14の塩基配列からなるプライマー、配列番号15の塩基配列からなるプライマー、配列番号16の塩基配列からなるプライマー、配列番号17の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号18の塩基配列からなるプライマーのセット。
〔9〕 〔1〕に記載のストレプトコッカス ミュータンスの検出方法に用いる固体培地であって、容器の1又は複数の凹部にストレプトコッカス ミュータンスを選択的に増殖させることができる固体培地が形成されており、その1の凹部に形成された固体培地の表面の面積が0.2〜8cmである固体培地。
【発明の効果】
【0016】
口腔内試料中のストレプトコッカス ミュータンスを検出する従来の方法は、培養に3〜4日間を要して短時間に結果を得ることができないか、又は、培養後の菌体から核酸を抽出するなどの煩雑な操作が必要であり、何れにしても、簡便に行うことができなかった。
この点、本発明方法は、固体培地での培養時間を40時間以内の(最大1日半の)、例えばコロニーが形成されない程度の短時間にすることができ、また、液体培地での培養を要さないため、全体として、非常に短時間でストレプトコッカス ミュータンスの有無を判定することができる。本発明方法は、被験試料を採取した日、或いは試験開始した日のうちに結果を出すこともできる。
また、本発明方法は、増殖させた菌体から核酸を抽出する操作を行わなくても、ストレプトコッカス ミュータンスが存在していれば、その染色体の標的配列部分を特異的に増幅することができ、非常に簡便である。
【0017】
また、本発明方法は、口腔内試料を固体培地に塗布して培養する時間が非常に短いにも拘らず、例えば直径1cm程度のチューブ内に作製したような培養可能面積が小さい固体培地を用いても、ストレプトコッカス ミュータンスが存在していれば、その後の核酸増幅によりストレプトコッカス ミュータンスを検出することができる。本発明方法では、このように小スケールで培養できるため、集団検診などで多数の被験試料を検査するのに適している。
また、本発明方法は、口腔内試料を固体培地に塗布して培養する時間が非常に短いにも拘らず、歯垢と異なり菌密度が少ない唾液を被験試料として用いても、ストレプトコッカス ミュータンスが存在していれば、その後の核酸増幅によりストレプトコッカス ミュータンスを検出することができる。唾液は、歯垢と異なり、被検者自身が簡単に採取できるため、本発明方法は、多人数を対象とする集団検診に適している。
【0018】
このように、本発明方法は、多数の被験試料を簡便に短時間で処理できるため、病院検査や集団検診などに組み込み易い。それにより、多数の被験者について、脳微小出血とそれによる脳卒中や認知症、炎症性腸炎、NASHとそれによる肝硬変や肝臓癌の発症などを予測し、早期に予防できるようになり、医療費の削減につながる。
【0019】
また、ストレプトコッカス ミュータンスが検出されれば、薬剤による口腔内洗浄、ストレプトコッカス ミュータンスの増殖を抑制するラクトバチルス ロイテリ(Lactobacillus reuteri)L8020株の摂取などにより、ストレプトコッカス ミュータンスを静菌することができる。それにより、う蝕を始めとして、脳微小出血とそれによる脳卒中や認知症、炎症性腸炎、NASHとそれによる肝硬変や肝臓癌の発症などを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】トランスグルコシダーゼ遺伝子増幅用プライマーセット、及びcnmタンパク質遺伝子増幅用プライマーセットの検出感度を示す図である。
図2】唾液の培養法を検討した結果を示す図である。
図3】LAMP法によるストレプトコッカス ミュータンスの検出感度を示す図である。
図4】cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスとcnm-陰性ストレプトコッカス ミュータンスが混在する場合にも、cnmタンパク質遺伝子をターゲットとしたLAMP法でDNAを増幅することによりcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出できたことを示す図である。
図5】cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスとcnm-陰性ストレプトコッカス ミュータンスが混在する場合にも、cnmタンパク質遺伝子をターゲットとしたPCR法でDNAを増幅することによりcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出できたことを示す図である。
図6】内直径9mmのマイクロチューブ内に斜め45度に傾けて作製したMSB寒天培地を用いて唾液を培養した場合も、LAMP法でDNAを増幅することによりcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出できたことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のストレプトコッカス ミュータンスの検出方法は、唾液、及び歯垢からなる群より選ばれる少なくとも1種の口腔内試料を、ストレプトコッカス ミュータンスを選択的に増殖させることができる固体培地に塗布して6〜40時間培養する培養工程と、固体培地上に生育した菌を集菌用液中に回収する回収工程と、回収液を用いて、ストレプトコッカス ミュータンス染色体の標的配列部分を増幅する核酸増幅を行う核酸増幅工程と、標的配列部分の増幅の有無を判定する判定工程とを含む方法である。
【0022】
口腔内試料
被験試料としては、唾液、及び歯垢の1種以上を用いることができる。
歯垢は細菌の塊であるため、ストレプトコッカス ミュータンスが含まれているとすればその菌密度は非常に高い。従って、培養により菌数を増やし易く、増幅させた核酸を検出し易い。しかし、歯垢は、通常、被検者自身が採取することができないため、ストレプトコッカス ミュータンス検査を簡単に行うためには、唾液を用いることが望ましい。ところが、唾液中の菌密度は低いため、従来のストレプトコッカス ミュータンスの検出方法では、比較的長い時間培養しなければならなかった。この点、本発明方法であれば、唾液を用いても、短時間の培養と核酸増幅によりストレプトコッカス ミュータンスを検出することができる。従って、唾液は、本発明方法の好適な対象試料である。
【0023】
固体培地
ストレプトコッカス ミュータンスを選択的に増殖させることができる固体培地としては、ストレプトコッカス ミュータンスが特異的に高い耐性を示す薬剤であるバシトラシンを含む固体培地を用いることができる。固体培地中のバシトラシン濃度は、0.05〜0.5Units/mL程度とすればよく、中でも0.1〜0.3Units/mLが好ましく、0.2Units/mLがより好ましい。
また、培地が比較的高濃度のショ糖を含むと、夾雑菌の生育は困難となるが、ストレプトコッカス ミュータンスは増殖することができるため、固体培地は、例えば5〜30重量%、中でも10〜25重量%、中でも15〜20重量%のショ糖を含むことが好ましい。
固体培地は代表的には寒天培地とすればよい。
本発明において、ストレプトコッカス ミュータンスを選択的に増殖させることができる固体培地は、ストレプトコッカス ミュータンス以外の菌を全く増殖させないものに限定されず、ストレプトコッカス ソブリナス(Streptococcus sobrinus)などのストレプトコッカス ミュータンス以外の菌が、本発明方法の結果に影響しない程度に増殖するものであってもよい。
ストレプトコッカス ミュータンスを選択的に増殖させることができる固体培地としては、MSB固体培地、TYCSB(Trypticase-yeast-cysteine-sucrose-bacitracin)固体培地などが挙げられる。
【0024】
固体培地は、容器の1又は複数の凹部に形成すればよい。容器の形状は特に限定されないが、皿状容器、筒袋状容器のような単一の凹部を有する容器、複数の皿状又は筒袋状の凹部が設けられた容器、複数の筒袋状容器のセットなどが挙げられる。例えば、シャーレ、マイクロチューブ、マルチウェルプレートなどの汎用品を利用することができる。
【0025】
容器の1の凹部に形成される固体培地の表面積(培養可能面積)は、0.2cm以上、0.5cm以上、1cm以上、2cm以上、3cm以上、4cm以上、5cm以上、10cm以上、20cm以上、又は50cm以上などとすることができる。また、100cm以下、80cm以下、50cm以下、30cm以下、20cm以下、15cm以下、10cm以下、8cm以下、7cm以下、6cm以下、5cm以下、4cm以下、3cm以下、2cm以下、又は1cm以下などとすることができる。
シャーレ、マイクロチューブ、マルチウェルプレートなどの凹部に固体培地を作製すれば、この程度の表面積の培地が得られる。
固体培地を収容する容器は、1の凹部の断面が円形のものが汎用されているが、その場合の内直径は、例えば、0.5cm以上、1cm以上、1.5cm以上、2cm以上、4cm以上、6cm以上、又は8cm以上などとすることができる。また、10cm以下、8cm以下、6cm以下、5cm、4cm以下、3cm以下、2cm以下、又は1cm以下などとすることができる。
本発明は、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの検出方法に用いる、又は本発明のストレプトコッカス ミュータンスの検出方法に用いるための、ストレプトコッカス ミュータンスを選択的に増殖させることができる固体培地(特に、容器の1の凹部に形成された固体培地の表面の面積が0.2〜8cmである固体培地)を提供する。
【0026】
本発明方法は、このような小表面積の固体培地を用いてもストレプトコッカス ミュータンスを検出できるため、多数の被験試料を扱うのに適している。
特に、固体培地を斜面培地として成形すれば、表面積を広げることができるため、小サイズの容器を用いて、より多くの菌を増殖させることができるようになる。
【0027】
口腔内試料の塗布・培養
歯垢は、スケーラーなどでかき取った一かきの量をそのまま、又は少量の水などに懸濁して固体培地に塗布すればよい。それ以上の量の歯垢を使用してもよい。
また、唾液は、そのまま固体培地に塗布すればよい。唾液の塗布量は、10μL以上、20μL以上、50μL以上、又は100μL以上などとすることができる。また、唾液量の上限は特に限定されないが、200μLもあれば十分である。また、150μL、100μL以下、又は50μL以下などとすることができる。
【0028】
次いで、口腔内試料を塗布した固体培地をストレプトコッカス ミュータンスの生育に適した温度下に置くことで培養する。
培養時間は、6時間以上であり、8時間以上が好ましく、10時間以上がより好ましい。また、培養時間は、40時間以下であり、24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましい。本発明方法では、培養を、固体培地上にコロニーが目視又は肉眼で(即ち、顕微鏡などを用いずに)確認できる前までとすることができる。培養時間を長くして菌数を増やす方がストレプトコッカス ミュータンスを検出し易いが、本発明方法では、このような短時間の培養でもストレプトコッカス ミュータンスを検出することができる。本発明方法はこのように培養時間を短くすることができるため、口腔内試料を採取した日に結果を出すこともできる。
培養温度は、30〜45℃、中でも35〜40℃、中でも37℃程度とすればよい。
【0029】
集菌
培養後の固体培地の表面(培養面)を集菌用液で洗い、集菌用液を回収することで集菌する。この際、滅菌したコンラージ棒や白金耳などで固体培地上の菌を集菌用液中に擦り取ってもよい。
【0030】
集菌に用いる液は、核酸増幅を阻害する成分を含まないものであればよい。なお、このような成分が、核酸増幅を阻害しない量含まれていても良い。核酸増幅を阻害する成分としては、EDTAのようなキレート剤、SDSのような界面活性剤、タンパク質分解酵素、強酸、強アルカリなどが挙げられる。
DNAポリメラーゼの活性には2価陽イオンが必要であることから、DNAポリメラーゼ活性を阻害しないためにはキレート剤は含まれないことが望ましいが、DNA分解酵素の活性にも2価陽イオンが必要であることから、DNA分解酵素の活性を抑制するためにはキレート剤が含まれることが望ましい。従って、核酸増幅反応液は適切な濃度の2価陽イオンを含む必要がある。集菌用液がキレート剤を含む場合、核酸増幅反応液中に持ちこまれるキレート剤濃度が、DNAポリメラーゼの活性を阻害しない程度の低い濃度であることが求められる。
また、集菌用液が界面活性剤を含む場合、核酸増幅反応液中に持ちこまれる界面活性剤濃度が、DNAポリメラーゼを変性しない程度の低い濃度であることが求められる。
また、集菌用液が強酸または強アルカリを含む場合、核酸増幅反応液中に持ちこまれる強酸または強アルカリ濃度が、反応液のpHをDNAポリメラーゼが機能し難いpHにならない程度の低い濃度であることが求められる。
集菌用液としては水を用いればよいが、緩衝液(例えば、TE緩衝液のようなEDTAを含む緩衝液)、液体培地などを用いてもよい。
【0031】
集菌用液の使用量は、固体培地の面積にもよるが、30μL以上、50μL以上、100μL以上、200μL以上、500μL以上、又は1mL以上などとすることができる。この範囲であれば、固体培地上の細菌を十分に回収できる。また、集菌用液の使用量は、2mL以下、1mL以下、500μL以下、300μL以下、200μL以下、又は100μL以下などとすることができる。集菌用液の量が余りに多いと、回収した液中の菌密度が少なくなりすぎて核酸増幅によりストレプトコッカス ミュータンスを検出し難くなるが、この範囲であれば、十分に検出できる。
【0032】
核酸抽出
本発明方法では、回収した菌から核酸(DNA又はRNA)を抽出しても良いが、抽出せずに菌回収液をそのまま核酸増幅法に供してもストレプトコッカス ミュータンスを検出することができる。
本発明でいう核酸抽出は、細胞の透過性を高めて核酸の少なくとも一部を細胞外に出す処理をいう。このような処理は、当業者に周知であり、例えば、加熱(65〜100℃程度の加熱)処理、界面活性剤(TritonX−100のような非イオン性界面活性剤、SDSやグアニジン塩のようなイオン性界面活性剤など)処理、塩化カルシウム処理、酵素(リゾチームのような細胞壁溶解酵素など)処理、パルス電圧印加、浸透圧ショックの付与、電子線照射などが挙げられる。
【0033】
核酸増幅
菌回収液、又は核酸抽出液を核酸増幅に供する。本発明方法は、回収した菌から核酸を抽出しなくても、菌回収液をそのまま核酸増幅に供することで、ストレプトコッカス ミュータンスを検出することができる。
DNAを増幅する方法としては、PCR(Polymerase chain reaction)(Science 239,487-491(1988))、LCR(Ligase chain reaction)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:189-193(1991))のような二本鎖DNAの熱変性工程を含む方法;LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)(国際公開00/28082)、SDA(Strand displacement amplification)(米国特許第5455166号)、ICAN(Isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids)(国際公開00/56877)、SMAP(Smart amplification process)(Seibutsu butsuri kagaku, 52(4):183-187,2008)、3SR(Self-stranded sequence replication)(Am.Biotechnol.Lab.8,14-25(1990))のような二本鎖DNAの熱変性工程を含まない等温増幅法などが挙げられる。
【0034】
また、DNAに代えてRNAを増幅させることもできる。RNAを増幅させる場合は、RNAは最初から1本鎖であるため熱変性させる必要がなく、等温増幅を行える。また、RNAは細胞内のコピー数が多いため検出感度が高くなり、また種間で多様性が高いためストレプトコッカス ミュータンスの検出精度が高くなる。RNAを増幅させる核酸増幅法としては、TMA(Transcription Mediated Amplification)(In Ferre, F.(ed), Gene quantification, Boston, Birkhauser p189-201(1998))、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)(In Ferre, F.(ed), Gene quantification, Boston, Birkhauser p169-188(1998))、TRC(Transcription-reverse transcription concerted reaction)(J.Clin.Microbiol,.42(9):4284-4292,2004)などが挙げられる。
【0035】
中でも、等温増幅法は温度を変化させる必要がないため、簡便で、また装置が安価であり、好ましい。中でも、LAMP法は、1種類の合成酵素を用いて1ステップでDNAを増幅できるため特に簡便である。また、LAMP法は、増幅効率が高いため、標的DNAが少なくても検出可能に増幅することができると共に、極めて高い特異性を持つため、類縁の菌種の誤検出が抑えられる。
等温増幅法において増幅時の温度は、DNAポリメラーゼの種類によって異なるが、例えば50〜70℃程度とすればよく、中でも60〜70℃が好ましく、62〜67℃がより好ましい。
【0036】
核酸増幅法で増幅させる標的配列部分は、ストレプトコッカス ミュータンスの何れかの遺伝子の全領域又は一部とすればよい。また、遺伝子間にまたがる配列部分を増幅させることもできる。例えば、グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子(GenBank accession number: M1736)は、ストレプトコッカス属の種間で塩基配列が比較的大きく異なっているため、グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子の全部又は一部を含む配列部分を標的とすれば、ストレプトコッカス ミュータンスを精度よく検出できる。また、cnmタンパク質をコードする遺伝子(GenBank accession number: AB465300.1)の全領域又は一部を含む配列部分を標的とすれば、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出することができ、PAタンパク質をコードする遺伝子(GenBank accession number: KM219946)の全領域又は一部を含む配列部分を標的とすれば、PA−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出することができる。
【0037】
中でも、配列番号1に示す塩基配列からなる、ストレプトコッカス ミュータンスのトランスグルコシダーゼ遺伝子の配列部分を標的とすれば、一層特異性の高い核酸増幅を行うことができ、即ち、他菌種の誤検出やストレプトコッカス ミュータンス検出の誤陰性が少なくなる。
また、配列番号4に示す塩基配列からなる、ストレプトコッカス ミュータンスのcnmタンパク質遺伝子の配列部分を標的とすれば、一層特異性の高い核酸増幅を行うことができ、即ち、他菌種又はcnm−陰性ストレプトコッカス ミュータンスの誤検出や、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス検出の誤陰性が少なくなる。
【0038】
また、配列番号1に示す塩基配列部分を増幅するためのLAMPプライマーとして、配列番号7〜12の6つのプライマーのセットを用いれば、標的配列の増幅効率及び特異性が高くなる。また、配列番号4に示す塩基配列部分を増幅するためのLAMPプライマーとして、配列番号13〜18の6つのプライマーのセットを用いれば、標的配列の増幅効率及び特異性が高くなる。
【0039】
ストレプトコッカス ミュータンスの有無の判定
ストレプトコッカス ミュータンスの標的配列部分の増幅は、例えば、エチジウムブロミド (EtBr)、SYBR GREENのような2本鎖核酸に結合するインターカレーター存在下で増幅反応を行い、紫外線ランプ下で蛍光を確認することで行える。また、カルセインのようなキレート剤は、増幅前にはマンガンイオンと結合して消光しているが、核酸増幅反応が進行すると、生成するピロリン酸イオンにマンガンイオンを奪われることで蛍光を発し、さらに反応液中のマグネシウムイオンと結合することで蛍光が増強されるため、紫外線ランプ下で蛍光を確認することで、増幅の有無を確認することができる。
さらに、DNA合成酵素による伸長反応では副産物としてピロリン酸が生成するため、反応液中のマグネシウムイオンと反応してピロリン酸マグネシウムが生じる。LAMP法のように増幅産物の生成量が多い方法では、反応液中にピロリン酸マグネシウムが析出して白濁を生じるため、白濁を目視で確認することで、標的配列の増幅を確認することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(1)標的配列のクローニング
ヒト口腔内から単離した、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)及びcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)を培養した後、DNAゲノム抽出キット(GenCheck DNA Extraction Reagent・FASMAC)を用いて染色体DNAを調製した。

ストレプトコッカス ミュータンスの染色体DNAを鋳型とし、下記プライマーセットを用いて、PCRキット(Expand long renge、Roche社)にて、配列番号1に示す、トランスグルコシダーゼ遺伝子の部分配列を増幅した。
Forwardプライマー:TGAGCTGCTGTTTGTCTT(配列番号2)
Reverseプライマー:GTTTCAGCAGAAACAGAACA(配列番号3)

また、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスの染色体DNAを鋳型とし、下記プライマーセットを用いて、PCRキット(Expand long renge、Roche社)にて、配列番号4に示す、cnmタンパク質遺伝子の部分配列を増幅した。
Forwardプライマー:CAGACTGAATGTCATCTTCAA(配列番号5)
Reverseプライマー:GCAGTAACATTTCATCGCTG(配列番号6)

PCR産物を、pGEM-T Easy Vector System I(Promega社)を用いてTAクローニングした。即ち、PCR産物を、このキットに含まれるベクター及びリガーゼ含有バッファーと混合してライゲーションし、Escherichia coli DH5αコンピテントセル(タカラバイオ株式会社)を形質転換した。
配列番号1に示すトランスグルコシダーゼ遺伝子の部分配列を含むプラスミドをSMプラスミドと称し、配列番号4に示すcnmタンパク質遺伝子の部分配列を含むプラスミドをcnmプラスミドと称する。
【0041】
(2)プライマー感度の検討
配列番号1の塩基配列を有するDNA(トランスグルコシダーゼ遺伝子の部分)を含むSMプラスミド、及び配列番号4の塩基配列を有するDNA(cnmタンパク質遺伝子の部分)を含むcnmプラスミドを鋳型として、LAMP法試薬(Loopamp DNA増幅試薬、栄研化学社)を用いて、DNAを増幅した。

LAMP反応用液25μL中に含まれる各成分量は、以下の通りとした。
プライマー:1600nM FIP、1600nM BIP、800nM LF、800nM LB、400nM F3、400nM R3
標的DNA液:1μL
Loopamp蛍光・目視検出試薬(栄研化学社)1μL
0.8Mベタイン

上記LAMP反応用液を調製した後、反応チューブに移し換えて、転倒混和後64℃で2時間反応させた。

用いたプライマーセットは下記の通りである。
トランスグルコシダーゼ遺伝子増幅用プライマーセット(「SMプライマー」と称する)
F3: GAAGTTTGTGCTTCTTCTGA(配列番号7)
B3: GATAAGGCGGCATCTGAA(配列番号8)
FIP: GCATAACTAAGGAAACTCCTTCACACGTATTTGTTACTGTTTTGTCAT(配列番号9)
BIP: CTTGTATCAGCAACGTTTGCCTGCCAAACAGATGCACCTAA(配列番号10)
LF: TATTACAACACAAGCCAACT(配列番号11)
LB: TGGGCCTGCG TTTGTTCTGT(配列番号12)

cnmタンパク質遺伝子増幅用プライマーセット(「cnmプライマー」と称する)
F3: CCAGTAATACTGTCATTGAAAGT(配列番号13)
B3: CGCTTTGAGTTTGATGAGC(配列番号14)
FIP: AACCATTAAGCTGGAGGTTCAGGAACTGCTTTGTCTTGCGT(配列番号15)
BIP: CGTATAACCTGTTCCTCTGACTGTAATATTAAAGCAGGCGACAC(配列番号16)
LF: GCAAGTATGTTGGTGATTTG(配列番号17)
LB: CCTGAATTCTGCCAGTTAAC(配列番号18)

LAMP反応用液に加える標的DNAの量は、1×10、1×10、1×10、1×10、又は1×10に変化させた。
【0042】
紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した結果を図1に示す。トランスグルコシダーゼ遺伝子増幅用のSMプライマーを用いた場合、SMプラスミドが1×10分子以上あれば検出でき、cnmタンパク質遺伝子増幅用のcnmプライマーを用いた場合、cnmプラスミドが1×10分子以上あれば検出できた。
【0043】
(3)唾液の培養方法の検討
cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを保有することが分かっている被験者から採取した唾液20μLを2mLのBHI (Brain heart infusion)液体培地に移して、1日間培養後の培養液を回収した(唾液のBHI液体培地による培養液)。
別途、同唾液20μLを、内直径6cmのシャーレ(商品名:BioLite 60mm Tissue Culture Dish、型番:130181、Thermo Fisher Scientific社)中に作成したMSB寒天培地(Becton, Dickinson and Company, 229810)上に載せて、37℃で24時間静置培養した。この培養後にコロニーは目視観察により認められなかった。次いで、このMSB寒天培地上に50μLのBHI液体培地を注入して、培地表面を洗った後、回収した(MSB寒天培地上の菌の回収液)。
【0044】
唾液のBHI液体培地による培養液、及びMSB寒天培地上の菌の回収液を、それぞれ1μLずつ用いてLAMP反応用液を調製した。別途、SMプラスミド、及びcnmプラスミドを、それぞれ1μLずつ用いてLAMP反応用液を調製した。
LAMP反応用液の組成は、標的DNA液1μLに代えて、培養液又は菌回収液又は各プラスミド液1μLを用いた他は、「(2)プライマー感度の検討」の項目に記載した通りである。
プライマーは、「(2)プライマー感度の検討」の項目に記載したトランスグルコシダーゼ遺伝子増幅用のSMプライマーと、cnmタンパク質遺伝子増幅用のcnmプライマーを、それぞれ用いた。
【0045】
64℃で2時間反応させた後、紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した。結果を図2に示す。
唾液をBHI液体培地で培養した培養液を核酸増幅法に供しても、ストレプトコッカス ミュータンスの上記両遺伝子の増幅を検出することはできなかったが、唾液をMSB固体培地で培養した後、菌を回収した液を核酸増幅法に供した場合は、ストレプトコッカス ミュータンスのトランスグルコシダーゼ遺伝子及びcnmタンパク質遺伝子の増幅を検出することができた。
【0046】
(4)菌数の検出限界の検討
滅菌した爪楊枝で、保存菌液(保菌者から得られた、ストレプトコッカス ミュータンス及びcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス)からピックアップして、別途シャーレ中に作製したMSB寒天培地に、1プレート当たり1コロニー、5コロニー、10コロニー、又は20コロニーが形成されるように接種した。MSB寒天培地の組成は、「(3)唾液の培養方法の検討」で用いたものと同じである。また、コロニーを接種しないMSB寒天培地をネガティブコントロールとして用意した。これらの培地を37℃で24時間静置培養した。
次いで、これらのMSB寒天培地上に50μLのBHI液体培地を注入して、培地表面を洗った後、回収した。回収液1μLを用いてLAMP反応用液を調製した。LAMP反応用液は、標的DNA液1μLに代えて回収液1μLを用いた他は、「(2)プライマー感度の検討」の項目に記載した通りである。
プライマーは、「(2)プライマー感度の検討」の項目に記載したトランスグルコシダーゼ遺伝子増幅用のSMプライマーと、cnmタンパク質遺伝子増幅用のcnmプライマーをそれぞれ用いた。
【0047】
64℃で2時間反応させた後、紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した。結果を図3に示す。
ストレプトコッカス ミュータンスのトランスグルコシダーゼ遺伝子及びcnmタンパク質遺伝子の何れをターゲットとした場合も、MSB寒天培地上に1コロニーあれば、ネガティブコントロールより明らかに強い蛍光が観察され、DNAの増幅が確認された。
【0048】
(5)cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスの検出限界の検討
口腔内にはcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスとcnm−陰性ストレプトコッカス ミュータンスが混在していることから、MSB寒天培地上に両ストレプトコッカス ミュータンスが混在している場合に、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを特異的に検出できるか否かを検討した。
【0049】
シャーレ中に作製したMSB寒天培地の1プレート上に、保菌者から得られたcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを1コロニーが形成されるように接種すると共に、保菌者から得られたcnm−陰性ストレプトコッカス ミュータンスを1コロニー、9コロニー、又は49コロニーが形成されるように接種した。ネガティブコントロールとして、MSB寒天培地に、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを接種せず、cnm−陰性ストレプトコッカス ミュータンスのみ49コロニーが形成されるように接種したものも作製した。MSB寒天培地の組成は、「(3)唾液の培養方法の検討」で用いたものと同じである。これらの培地を37℃で24時間静置培養した。
次いで、これらのMSB寒天培地上に50μLのBHI液体培地を注入して、培地表面を洗った後、回収した。回収液を1μL用いてLAMP反応用液を調製した。LAMP反応用液は、標的DNA液1μLに代えて回収液1μLを用いた他は、「(2)プライマー感度の検討」の項目に記載した通りである。
プライマーは、「(2)プライマー感度の検討」の項目に記載したトランスグルコシダーゼ遺伝子増幅用のSMプライマーと、cnmタンパク質遺伝子増幅用のcnmプライマーをそれぞれ用いた。
【0050】
64℃で2時間反応させた後、紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した。結果を図4に示す。
全コロニー数に占めるcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスのコロニー数の比率が2%(cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス:cnm−陰性ストレプトコッカス ミュータンスのコロニー数比が1:49)以上の場合に、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスのcnm結合タンパク質遺伝子を増殖させることができた。
このことは、口腔内に存在するストレプトコッカス ミュータンス中のcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスの比率が2%以上の場合にcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出できることを意味する。一般に、口腔内ストレプトコッカス ミュータンスの約30%がcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスであるため、本発明方法でcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出すれば、cnm-陰性ストレプトコッカス ミュータンスの存在による偽陰性が極めて少ないことが分かる。
【0051】
(6)LAMP法以外の増幅法でのストレプトコッカス ミュータンスの検出限界の検討
「(5)cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスの検出限界の検討」の項目と同様にして、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス:cnm−陰性ストレプトコッカス ミュータンスのコロニー数が0:49、1:1、1:9、又は1:49となるように生育させたMSB寒天培地を用意した。
次いで、これらのMSB寒天培地上に50μLのBHI液体培地を注入して、培地表面を洗った後、回収した。
回収液1μLを用いて、KOD FX Neo(TOYOBO社)を用いて、PCRでDNA増幅した。反応は、PCR Thermal Cycler Diceを用いて94℃で2分熱変性させた後、98℃で10秒、55℃で20秒、68℃で20秒のサイクルを32回行った。プライマーは、ストレプトコッカス ミュータンスのトランスグルコシダーゼ遺伝子を増幅させるために配列番号2及び3のプライマーセットを用い、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスのcnmタンパク質遺伝子を増幅させるために配列番号5及び6のプライマーセットを用いた。
PCRでDNA増幅した後、3%アガロースで電気泳動し、GelRed染色(Biotium社)してバンドを確認した。
【0052】
結果を図5に示す。全コロニー数に占めるcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスのコロニー数の比率が2%(cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンス:cnm−陰性ストレプトコッカス ミュータンスのコロニー数比が1:49)以上の場合に、cnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスのcnm結合タンパク質遺伝子を増殖させることができた。LAMP法以外の方法でもLAMP法(図3)と同様の結果となった。
【0053】
(7)MSB寒天培地の形状の検討
「(3)唾液の培養方法の検討」で使用したMSB寒天培地は、内直径6cmのシャーレ中に作製したものである。今回、より小さい培地面積で培養してもcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出できるかを検討した。
即ち、「(3)唾液の培養方法の検討」と同じ操作を行い、但し、MSB寒天培地は、内直径6cmのシャーレ(商品名:BioLite 60mm Tissue Culture Dish、型番:130181、Thermo Fisher Scientific社)中に作製したもの、及び2mL容マイクロチューブ(商品名:2.0ml Graduated Microcentrifuge Tube with Flat Top Cap、型番:508-GRD-Q、Thermo Fisher Scientific社)(内直径9mm)中に斜め45度に傾けて作製したものを使用した。
また、回収した菌液に代えて、cnmプラスミドを1μL用いてLAMP反応用液を調製したものをポジティブコントロールとし、回収した菌液もプラスミドも加えずにLAMP反応用液を調製したものをネガティブコントロールとした。
【0054】
結果を図6に示す。MSB寒天培地を作製する容器を小さくし、口腔内試料を塗布する表面積を小さくしても、その後の核酸増幅によりcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを含むストレプトコッカス ミュータンスを検出できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のストレプトコッカス ミュータンスの検出方法は、簡便に短時間で行えるため、多数の口腔内試料を処理する病院検査や集団検診などで行い易い。ストレプトコッカス ミュータンスの中でもcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスの存在は、脳微小出血とそれによる脳卒中や認知症、炎症性腸炎、NASHの発症と関連しているため、本発明方法により、これらの疾患の発症を予測し、早期に予防できるようになり、医療費の削減につながる。成人の約9割がストレプトコッカス ミュータンスを保有し、その約3割がcnm−陽性ストレプトコッカス ミュータンスを保有しているとされている。従って、本発明方法を用いた検査は市場価値が高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]