特開2020-76129(P2020-76129A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2020-76129石膏スケールの析出を抑制したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-76129(P2020-76129A)
(43)【公開日】2020年5月21日
(54)【発明の名称】石膏スケールの析出を抑制したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20200424BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20200424BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20200424BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C22B3/06
   C22B3/44 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-210405(P2018-210405)
(22)【出願日】2018年11月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 範幸
(72)【発明者】
【氏名】早田 二郎
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA06
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB23
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】 予備中和工程や中和工程において添加する中和剤に含まれるカルシウムに起因する石膏がスケールとなって析出するのを抑制する方法を提供する。
【解決手段】 ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温加圧下で酸浸出処理を行うHPAL工程S2と、該酸浸出処理で得た浸出スラリーにカルシウム塩を含む中和剤を添加してpH3.0以上3.4以下に調整する予備中和工程S3と、該予備中和工程S3でpH調整された浸出スラリーを向流型多段水洗装置に導入し、析出した石膏を浸出残渣と共に除去してニッケル等を含み且つカルシウム濃度がその溶解度以下に抑えられた硫酸酸性水溶液を得る向流型水洗工程S4と、該硫酸酸性水溶液にカルシウム塩を含む中和剤を添加して中和処理を行う中和工程S5とを有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温加圧下で酸浸出処理を行う浸出処理工程と、該酸浸出処理で得た浸出スラリーにカルシウム塩を含む中和剤を添加してpH3.0以上3.4以下に調整する予備中和工程と、該予備中和工程でpH調整された浸出スラリーを向流型多段水洗装置に導入し、析出した石膏を浸出残渣と共に除去してニッケル、コバルト、及び亜鉛を含み且つカルシウム濃度がその溶解度以下に抑えられた硫酸酸性水溶液を得る向流型水洗工程と、該硫酸酸性水溶液にカルシウム塩を含む中和剤を添加して中和処理を行う中和工程とを有することを特徴とするニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項2】
前記浸出スラリーに含まれる浸出液中のマグネシウム濃度が0.1mol/L未満の場合、前記予備中和工程及び前記向流型水洗工程の液温を常温から50℃の範囲内又は70℃から100℃の範囲内とし、前記中和工程以降の液温を50℃から70℃とすることを特徴とする、請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項3】
前記浸出スラリーに含まれる浸出液中のマグネシウム濃度が0.1mol/L以上0.2mol/L未満の場合、前記予備中和工程及び前記向流型水洗工程の液温を常温から70℃の範囲内又は90℃から100℃の範囲内とし、前記中和工程以降の液温を70から90℃とすることを特徴とする、請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項4】
前記浸出スラリーに含まれる浸出液中のマグネシウム濃度が0.2mol/L以上の場合、前記中和工程以降の液温を前記予備中和工程及び前記向流型水洗工程の液温と同じか又はより高く維持することを特徴とする、請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する湿式製錬方法に関し、特に予備中和工程及び中和工程において石膏スケールの析出を抑制しながらニッケルを回収する湿式製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル、コバルト、鉄、マグネシウム、亜鉛等を含む酸化鉱石からニッケルやコバルトなどの有価金属を回収する湿式製錬法として、特許文献1に開示されているような、高温加圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach)が知られている。この方法は、乾燥や焙焼等の乾式処理工程を含まないため、乾式製錬法に比べてエネルギーコストを抑えることができる点で優れている。上記の高温加圧酸浸出法では、ニッケル、コバルト、鉄、マグネシウム、亜鉛等を含む酸化鉱石を酸浸出処理することによって得たニッケル、コバルト等の有価金属を含む硫酸溶液に対して、例えば硫化水素ガスなどの硫化剤を添加することで硫化処理することが一般的に行われている。これにより、ニッケル、コバルト等の有価金属を、それらを高品位で含む混合硫化物として回収することができる。
【0003】
具体的には、図1の湿式製錬方法の工程フロー図に示すように、原料としてのニッケル酸化鉱石から高温加圧酸浸出法によりニッケル、コバルト等の有価金属を回収する湿式製錬法では、以下に示す(1)〜(7)の一連の工程によってニッケル酸化鉱石の処理が行われる。
(1)ニッケル、コバルト、鉄、マグネシウム、亜鉛等を含むニッケル酸化鉱石を粉砕及び篩別により粒度数mm以下の粒状にすると共に、水を加えて所定のスラリー濃度の酸化鉱石スラリーを調製する鉱石準備工程S1
(2)上記酸化鉱石スラリーに対して高温加圧下で硫酸を添加してニッケル、コバルト等の有価金属を浸出することで浸出スラリーを得るHPAL工程S2
(3)上記浸出スラリーに石灰石等の中和剤を添加して遊離硫酸や不純物金属を中和することで中和スラリーを得る予備中和工程S3
(4)連続する複数段の固液分離手段に上記中和スラリーと洗浄液とを互いに向流になるように導入して浸出残渣を含む濃縮スラリーを除去することで、ニッケル及びコバルトの他に不純物として亜鉛を含む粗硫酸ニッケル水溶液を得る向流型水洗工程S4
(5)上記粗硫酸ニッケル水溶液に石灰石等の中和剤を添加して残留硫酸と鉄分とを沈殿除去することで、中和終液を得る中和工程S5
(6) 微加圧された反応槽に上記中和終液を装入すると共に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して該中和終液に含まれる亜鉛を硫化し、得られた亜鉛硫化物を固液分離によって除去して脱亜鉛終液を得る脱亜鉛工程S6
(7) 加圧された反応槽に上記脱亜鉛終液を装入すると共に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して該脱亜鉛終液に含まれるニッケル及びコバルトを硫化し、得られたニッケルコバルト混合硫化物を固液分離によって製錬廃液から分離して回収する硫化工程S7
【0004】
上記の湿式製錬法を構成する工程S1〜S7のうち、予備中和工程S3では、HPAL工程S2で得た浸出スラリーに石灰石等の中和剤を添加することで、遊離硫酸や不純物金属をpH3.0程度で中和処理する。その際、3価の鉄イオン、アルミニウムイオン、クロミウムイオンなどが水酸化物を形成する。この水酸化物は、向流型水洗工程S4で沈降分離することができる。そして、中和工程S5にて再度中和剤を添加してpHを更に上昇させることで、残存した3価金属であるアルミニウムやクロミウムを水酸化物として沈殿除去する。
【0005】
この予備中和工程S3で添加される石灰石、消石灰などの安価な中和剤はカルシウム塩であることから、溶解度を超えない範囲で液中にカルシウムイオンとして残存し、溶解度を越えた部分は液中の硫酸イオンと結合して石膏を形成して澱物となる。しかしながら、中和工程S5で中和剤が再度添加されるため、上記予備中和工程S3で添加した中和剤により溶解度を超えない範囲で存在しているカルシウムイオンの濃度が過飽和の状態となり、石膏が析出すると共にカルシウムイオン濃度はその溶解度に達して飽和状態になる。
【0006】
ところで、水に対する石膏の溶解度については、これまで様々な検討がされており、一般的には化学便覧に記載されているように、水温30〜40℃において2.1g(CaSO)/kg(水)程度が上限といわれている。図2に示すように、水温が上記範囲より上昇しても、下降しても溶解度は低下する(非特許文献1参照)。このことから、水に対するカルシウムの溶解量は、カルシウム濃度で最大0.62g/L(30〜40℃)と考えられる。また、図3に示すように、硫酸酸性水溶液においてpHが約3以上では、純水に対する溶解度と変わらないとの記載がある(非特許文献1参照)。
【0007】
一方、浸出液にはニッケル、コバルトの他に鉱石由来のマグネシウムや亜鉛が残存しており、更に余剰に添加された硫酸によって硫酸イオンも過剰に液中に残存している。そのため、液中に溶解可能なカルシウムイオンは、これら共存元素や余剰酸によって影響を受けることが考えられる。例えば図4に示すように、MgSO共存下ではその濃度によるものの約60〜100℃付近までの液温の上昇に伴って溶解度はほぼ直線的に増加し、 最大値を経て減少する傾向がある(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−350766号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「硫酸酸性水の石灰石による析出セッコウ」Gypsum&Lime、No.234(1991)、梅津芳生(岩手大学工学部資源化学科)
【非特許文献2】「25〜200℃の温度範囲における硫酸塩溶液中のCaSO4の溶解度」東北大学選鉱製錬研究所研究報告、第1685号、日本鉱業会昭和63年度春季大会、梅津良昭ら
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、ニッケル酸化鉱石スラリーに対して高温加圧下で硫酸を添加することでニッケル、コバルト等の有価金属を浸出させる高温加圧酸浸出法では、該ニッケル、コバルト等の有価金属の浸出率を向上させるため、一般に硫酸を余剰に添加している。上記の予備中和工程S3及び中和工程S5では、この遊離硫酸や、有価金属と共に浸出された不純物金属を石灰石等により中和処理し、得られた中和澱物を固液分離により除去することで、ニッケル及びコバルトの他に鉱石由来の不純物として亜鉛やマグネシウムを含む処理液を得ている。
【0011】
上記のように中和剤として添加された石灰石等から処理液中に溶出したカルシウムイオンは、該処理液中に存在する硫酸イオンと結合して石膏を形成する。この石膏の溶解度は上記予備中和処理や中和処理を行う各中和槽やその接続配管において、温度変化やpHの変化、共存イオン濃度によって変動しうるため、pHの上昇や配管による送液中の温度変化等の影響により系内で析出することがある。このような状態のまま長期に亘って操業を続けると、各中和槽においては有効容量が減少する。また、配管においては内壁に析出することで圧損が上昇する。その結果、反応に必要な滞留時間が減少したり、流量の不足による生産量が低下したりするので、安定的な操業を維持するためには頻繁に清掃して析出物を除去することが必要であった。
【0012】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、上記予備中和工程や中和工程において添加する中和剤に含まれるカルシウムに起因する石膏がスケールとなって析出するのを抑制する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の予備中和工程S3及び中和工程S5における予備中和処理の条件及び中和処理の条件について鋭意検討を重ねた結果、上記予備中和工程S3における処理液のpHを従来よりも高めに設定することで下流側のカルシウム濃度の変動を抑えることができ、よってニッケル、コバルト等の有価金属の回収率を高く維持しつつ、系内でカルシウムが石膏スケールとして析出するのを抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温加圧下で酸浸出処理を行う浸出処理工程と、該酸浸出処理で得た浸出スラリーにカルシウム塩を含む中和剤を添加してpH3.0以上3.4以下に調整する予備中和工程と、該予備中和工程でpH調整された浸出スラリーを向流型多段水洗装置に導入し、析出した石膏を浸出残渣と共に除去してニッケル、コバルト、及び亜鉛を含み且つカルシウム濃度がその溶解度以下に抑えられた硫酸酸性水溶液を得る向流型水洗工程と、該硫酸酸性水溶液にカルシウム塩を含む中和剤を添加して中和処理を行う中和工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、槽内壁や配管内壁に石膏スケールが析出するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の実施形態の工程フロー図である。
図2】非特許文献1から引用した石膏の純水における溶解度と液温との関係を示すグラフである。
図3】非特許文献1から引用した石膏の液温60℃の硫酸酸性水溶液における溶解度とpHとの関係を示すグラフである。
図4】非特許文献2から引用した石膏の溶解度と液温との関係を硫酸マグネシウム水溶液濃度をパラメータとして表したグラフである。
図5図1の予備中和工程においてニッケル及びコバルトを含む硫酸酸性水溶液にカルシウム塩を含む中和剤を添加したときのその添加量と、該水溶液中のカルシウム濃度を4時間おきに分析した分析値の結果を1ヶ月間で平均した値との関係を示すグラフである。
図6図1の中和工程においてニッケル及びコバルトを含む硫酸酸性水溶液にカルシウム塩を含む中和剤を添加したときのその添加量と、該水溶液中のカルシウム濃度を4時間おきに分析した分析値の結果を1ヶ月間で平均した値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.湿式製錬プロセス
以下、図1を参照しながら本発明の実施形態のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について説明する。この図1に示す湿式製錬方法は、原料としてのニッケル酸化鉱石に対して粉砕及び篩別等の前処理を行って所定の粒度にすると共に水を加えてスラリーの形態に調製する鉱石準備工程S1と、該鉱石準備工程S1で調製された鉱石スラリーに硫酸を添加して高温加圧下で酸浸出処理を施すHPAL(高圧硫酸浸出)工程S2と、該HPAL工程S2で得た浸出スラリーに中和剤を添加して予備中和処理を行う予備中和工程S3と、該予備中和工程S3でpH調整された浸出スラリーを向流多段洗浄しながら、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む貴液とも称する粗硫酸ニッケル水溶液を浸出残渣スラリーから分離する向流型水洗工程S4と、該粗硫酸ニッケル水溶液に中和剤を添加することで不純物元素を含む中和澱物を生成し、これを分離除去してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程S5と、該中和終液に硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を生成し、これを分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液とも称する脱亜鉛終液を得る脱亜鉛工程S6と、該脱亜鉛終液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトを含むNiCo混合硫化物を生成した後、固液分離により該NiCo混合硫化物を回収する硫化工程S7と、該硫化工程S7の固液分離の際に排出される貧液とも称する製錬廃液及び上記向流型水洗工程S4から排出される浸出残渣スラリーに溶存する金属を除去(無害化とも称する)する最終中和工程S8とを有している。以下、これら工程の各々について説明する。
【0018】
(1)鉱石準備工程
鉱石準備工程S1では、ニッケル、コバルト、鉄、マグネシウム、亜鉛等を含む原料としてのニッケル酸化鉱石を必要に応じてジョークラッシャーなどの粉砕機に投入して粉砕した後、所定の目開きを有するスクリーンで篩別して例えば粒径2mm程度以下の粒状の鉱石を作製する。上記篩別は湿式で行ってもよく、この場合は粉砕した鉱石を適量の水と共にドラムウォッシャーなどの湿式スクリーンに導入することで、所定の粒度の鉱石を含んだ鉱石スラリーを原料スラリーとして篩下側に回収することができる。
【0019】
この鉱石準備工程S1で処理されるニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は、一般に0.8〜2.5質量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含まれている。このニッケル酸化鉱石は、鉄の含有量が10〜50質量%であり、これは主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態を有しており、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含まれている。鉱石調合工程S1の原料には、上記のラテライト鉱のほか、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する例えば深海底に賦存するマンガン瘤等の酸化鉱石が用いられることがある。
【0020】
(2)HPAL工程
HPAL工程S2では、上記鉱石準備工程S1で調製された鉱石スラリーをポンプ及びプレヒーターで主に構成される昇温昇圧設備で所定の温度及び圧力まで好適には段階的に昇温昇圧した後、同様に昇温昇圧された硫酸と共にオートクレーブに装入し、更に高圧蒸気を吹き込んで該鉱石スラリーに対して攪拌しながら3〜4.5MPaG、220〜280℃程度の高温加圧条件下で高圧酸浸出処理を施す。これにより、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する。このHPAL工程S2では、上記の高温加圧下で浸出液の酸化還元電位を調整することで浸出反応及び高温熱加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。
【0021】
(3)予備中和工程
上記HPAL工程S2は、浸出率を向上させる観点から浸出液のpHが0.1〜1.0程度になるように過剰の硫酸が添加されるため、オートクレーブから抜き出される浸出スラリーには浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸が遊離硫酸(フリー硫酸とも称する)として存在している。そこで、予備中和工程S3では、中和剤として石灰石(炭酸カルシウム)又は消石灰(水酸化カルシウム)を好適にはスラリーの形態で添加することでpH調整を行う。この予備中和工程S3及び後工程の中和工程S5における処理液の液温調整及びpH調整については後で詳細に説明する。
【0022】
(4)向流型水洗工程
向流型水洗工程S4では、直列に連結した複数基のシックナーのうち最上流側のシックナーに上記予備中和工程S3にてpH調整された浸出スラリーを導入すると共に、洗浄液として好適には後工程の硫化工程S7から排出される低pHの製錬廃液を最下流側のシックナーに導入してこれらを互いに向流になるように流す。更に、好適にはアニオン系の凝集剤を添加することで、浸出スラリーを多段洗浄しながら重力沈降分離により浸出残渣の除去を行う。これにより、最上流側のシックナーから上澄液としてニッケル及びコバルトのほか亜鉛等の不純物元素を含む粗硫酸ニッケル水溶液が得られる。一方、最下流側のシックナーの底部から浸出残渣を含む濃縮スラリーが抜き出される。この濃縮スラリーは、後述する最終中和工程S8で中和処理を施すことで重金属の除去処理を行った後、テーリングダムに移送される。
【0023】
(5)中和工程
中和工程S5では、上記向流型水洗工程S4において浸出残渣から分離された粗硫酸ニッケル水溶液に中和剤として上記予備中和工程S3と同様の石灰石(炭酸カルシウム)又は消石灰(水酸化カルシウム)を添加してpH調整することで不純物元素を含む中和澱物を生成する。この中和澱物を固液分離により除去することで、ニッケル及びコバルトのほか、主に亜鉛からなる不純物元素を含む中和終液が得られる。
【0024】
(6)脱亜鉛工程
脱亜鉛工程S6では、微加圧された反応槽内に上記中和終液を導入すると共に、硫化水素ガスなどの硫化剤を添加することにより、ニッケル及びコバルトに対して亜鉛を選択的に硫化して亜鉛硫化物を生成させる。この亜鉛硫化物を分離除去することで、ニッケル及びコバルトを含む硫酸溶液からなる脱亜鉛終液が得られる。なお、この脱亜鉛終液は、通常は不純物成分として鉄、アルミニウム、マンガン等の金属イオンを各々数g/L程度含んでいる。
【0025】
(7)硫化工程
硫化工程S7では、加圧された反応槽内に上記脱亜鉛終液を導入すると共に、硫化水素ガスなどの硫化剤を添加することにより、ニッケル及びコバルトを含む硫化物(NiCo混合硫化物)を生成させる。生成したNiCo混合硫化物はろ過などの固液分離により回収され、その際、液相側に貧液として製錬廃液が排出される。なお、この硫化工程S7で処理される脱亜鉛終液には前述したように鉄、アルミニウム、マンガン等の不純物金属イオンが含まれている場合があるが、これら不純物成分はニッケル及びコバルトに比べて硫化物としての安定性が低く、よって上記NiCo混合硫化物にはほとんど含有されない。
【0026】
(8)最終中和工程
最終中和工程S8では、上記硫化工程S7から排出される鉄、アルミニウム、マンガン等の不純物金属イオン及び未反応のNiイオンを含む製錬廃液と、上記向流型水洗工程S4から排出される浸出残渣スラリーとに対して、好適には石灰石を中和剤として用いた第1の中和処理と、消石灰を中和剤として用いた第2の中和処理とからなる2段階の処理で中和処理を施すことで、これら金属イオンをそれらの濃度が排出基準を満たすまで除去する無害化処理を行う。これにより、処理後のスラリーを系外のテーリングダムに移送することができる。
【0027】
2.予備中和工程S3〜中和工程S5における液温調整
上記のHPAL工程S2で得られる浸出スラリーには原料のニッケル酸化鉱石由来のニッケル、コバルト、鉄、マグネシウム、亜鉛等の金属元素が含有されている。これらのうち、マグネシウムは原料に用いる鉱石種や鉱物種によるものの約8割程度が浸出されるので、浸出液中に約8割のマグネシウムが溶存しており、残りの約2割は浸出残渣中に残存している。
【0028】
そのため、非特許文献1から引用した図2に示すように、純水に対する石膏の溶解度と液温との関係では液温が約30℃から40℃において石膏の溶解度は上限に達するのに対し、非特許文献2には図4に示したように、液中のマグネシウム濃度(硫酸マグネシウムmol濃度)がある程度高くなると、液温40℃以上でも液温の上昇に伴って石膏の溶解度は上昇傾向となる。したがって、石膏を析出させたい工程では液温を低下し、逆に石膏を析出させたくない工程では例えば飽和蒸気等を吹き込むことで液温を上昇すればよい。このように、マグネシウムを含むニッケル酸化鉱石を酸浸出処理して得た浸出スラリーの場合は、液温を調整することによって石膏の溶解度を自在に変動させることができるので、石膏の析出を調整できる。
【0029】
具体的には、浸出スラリーに含まれる浸出液中のマグネシウム濃度が0.1mol/L未満の場合、図4に示すように、カルシウムの溶解度は約60℃で最大となるため、予備中和工程S3及び向流型水洗工程S4での液温は、常温から50℃の範囲内又は70℃から100℃の範囲内とすることが好ましく、中和工程S5以降の液温は上記溶解度が最大となる60℃を含む50℃から70℃の範囲内とすることが好ましい。上記の予備中和工程S3及び向流型水洗工程S4での液温を常温以下に維持するには別途冷却設備が必要となり、また液温を100℃以上に維持するには密閉加圧設備が必要となるので現実的でない。
【0030】
また、浸出スラリーに含まれる浸出液中のマグネシウム濃度が0.1mol/L以上0.2mol/L未満の場合、図4に示すように、カルシウムの溶解度は約80℃で最大となるため、予備中和工程S3及び向流型水洗工程S4での液温は、常温から70℃の範囲内又は90℃から100℃の範囲内とすることが好ましく、中和工程S5以降の液温を上記溶解度が最大となる80℃を含む70℃から90℃の範囲内とすることが好ましい。
【0031】
また、浸出スラリーに含まれる浸出液中のマグネシウム濃度が0.20mol/L以上の場合、図4に示すように、カルシウムの溶解度は液温の上昇に伴って上昇傾向となるため、中和工程S5以降の液温を予備中和工程S3及び向流型水洗工程S4での液温と同じか、もしくはより高く維持することが好ましい。
【0032】
3.予備中和工程S3〜中和工程S5におけるpH調整
上記予備中和工程S3及び中和工程S5でのpH管理は、従来、それぞれ以下のように行っていた。すなわち、前述したように高温加圧下で硫酸による酸浸出処理を行うHPAL工程S2では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸が添加されるため、得られた浸出スラリーにはフリー硫酸(浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸、以下遊離硫酸ともいう)が含まれており、そのpHは非常に低い。
【0033】
そのため、予備中和工程S3では、次工程の向流型水洗工程S4において効率よく多段洗浄処理できるように、例えば石灰石スラリー等の中和剤を添加することによって該多段洗浄処理に供する浸出スラリーのpHを2〜6程度に調整することが行われていた。この浸出スラリーのpHが2より低いと、後工程の設備を耐酸構造にするための設備コストが高くなり、逆に浸出スラリーのpHが6より高いと、浸出スラリーに含まれる浸出液中に浸出したニッケルが上記多段洗浄の過程で析出し、浸出残渣と共に沈殿物として除去されるのでニッケル回収率が低下するおそれがある。
【0034】
一方、中和工程S5では、上記向流型水洗工程S4にて浸出残渣等の固形分が除去されることによって得られる粗硫酸ニッケル水溶液からなる浸出液に対して、炭酸カルシウム等の中和剤を添加して酸化を抑制しながらpHを4以下、好ましくは3.0〜3.5、より好ましくは3.1〜3.2に調整することで、浸出液中に残留する3価の鉄イオンやアルミニウムイオン等の不純物から中和澱物を生成する。この中和澱物を分離して、ニッケル回収用母液となるニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る。
【0035】
これに対して、本発明の実施形態においては、上記予備中和工程S3では浸出スラリーのpHを3.0以上3.4以下の範囲内に調整し、中和工程S5では該予備中和工程S3の浸出スラリーのpHとほぼ同じpHとなるように必要に応じてpHを調整する。これにより系内での石膏スケールの析出を抑えることができる。具体的に説明すると、予備中和工程S3では石灰石等のカルシウム塩を含む中和剤を添加するので、図5に示すように、その添加量に応じて処理液中のカルシウム濃度が上昇傾向となる。一方、図3に示すように、カルシウム塩を含む中和剤の添加量が増加するとpHが上昇して処理液中のカルシウム濃度の上限(すなわちカルシウム溶解度)が低下するため、次工程の向流型水洗工程S4で石膏として析出するカルシウムの量は増加する。
【0036】
そこで、本発明の実施形態の湿式製錬方法では、予備中和工程S3において処理液である浸出スラリーのpHを3.0以上3.4以下にする。これにより処理液中のカルシウムを石膏として積極的に析出させ、これを後工程の向流型水洗工程S4で浸出残渣と共に除去することで、中和工程S5以降の工程において反応槽内等で石膏スケールが析出するのを抑えることができる。このpHが3.0未満では処理液中のカルシウムの溶解度が高くなるので、従来と同様に中和工程S5で再度石灰石等の中和剤を添加することでpH調整を行うことが必要となり、カルシウム濃度が高くなるので該中和工程S5以降で石膏スケールが析出しやすくなる。逆に、このpHが3.4を超えると、中和剤を添加した際に部分的なpHの上昇がみられ、処理液中に溶存しているニッケル及びコバルトが一部沈殿物として析出され、浸出残渣と共に除去されるのでロスとなる。また、除去対象物質であるアルミニウム、クロミウム、石膏などの沈殿物が非常に微細な粒子になって懸濁状態で滞留するため、後工程の向流型水洗工程S4において沈降分離性が悪くなり、清澄なニッケル及びコバルトを含む硫酸酸性水溶液が回収できなくなる。
【0037】
上記のように、本発明の実施形態では予備中和工程S3において従来よりもpHを高く設定することにより、中和工程S5で消費する石灰石等の中和剤の量を削減することができる。具体的には、中和工程S5では処理液のpHを上記予備中和工程S3と同程度の3.0以上3.4以下とするのが好ましい。この場合、中和工程S5では、中和剤はpH調整程度の少量の添加、もしくは無添加とすることができる。この中和工程S5でのpHが3.0より低い場合、次工程の脱亜鉛工程S6での硫化水素ガスの溶解量が低下し、硫化反応の効率が低くなる。逆に、このpHが3.4を超える場合は石灰石等の中和剤を多く添加することが必要となり、中和工程S5以降において処理液中のカルシウム濃度が上昇して石膏スラリーが析出するおそれがある。
【0038】
上記の予備中和工程S3から中和工程S5までの処理液のpH調整においては、中和工程S5での処理液のpH値に基づいて予備中和工程S5で添加する中和剤の添加量を調整し、中和工程S5では通常は石灰石等の中和剤の添加を行わないのが好ましい。これにより、予備中和工程S3及び向流型水洗工程S4において積極的に石膏を析出させることができ、中和工程S5以降の処理液中のカルシウム濃度を低下させることができる。
【0039】
このように、本発明の実施形態の湿式製錬法は、従来中和工程S5で添加していた中和剤の少なくとも一部を、予め予備中和工程S3において添加することで予備中和処理時の処理液のpHを従来よりも高く推移させ、これにより液中に溶解可能なカルシウム濃度(石膏の溶解度)を低下させることで該予備中和工程S3において積極的に石膏を析出させ、この析出した石膏を予備中和工程S3と中和工程S5の間の向流型水洗工程S4で沈殿分離により除去している。
【0040】
この予備中和工程S3での中和剤の添加量を中和工程S5における処理液のpHに応じて調整することで、中和工程S5における中和剤の添加量を抑制し、カルシウム濃度が中和工程S5で再上昇することを抑えることができる。よってニッケル、コバルト等の有価金属の回収率を高く維持しつつ、脱亜鉛工程S6や硫化工程S7において反応槽内及び配管内壁に石膏スケールが析出するのを効率的に抑制することができる。
【実施例】
【0041】
<実施例>
浸出スラリーに含まれる浸出液中マグネシウム濃度が0.2〜0.4mol/Lの範囲内で異なる3種類の浸出スラリー試料1〜3を用意し、それらの各々に対して液温を60℃でほぼ一定に保ちながら、中和工程S5における処理液のpHが3.1程度となるように、且つ予備中和工程S3における処理液のpHが3.2〜3.3の範囲内となるように石灰石を添加し、中和工程S5での石灰石の添加は予備中和工程S3と同じpHを維持する微調整のためだけのわずかな量に留めた。
【0042】
この時の中和工程S5での石灰石の添加量とカルシウム濃度を図6に黒四角のマークで示す。この図6から分かるように、処理液中のカルシウム濃度は0.61〜0.63g/Lの範囲内に抑えられており、図5に示したように、予備中和工程において中和剤の添加量を増やした場合と比較しても大きな増加はみられていない。すなわち中和工程S5以降の工程に持ち込まれるカルシウム量が低減していると判断できる。その結果、中和工程S5以降の工程における配管内壁への石膏スケールの析出を抑えることができた。
【0043】
<比較例>
実施例と同様の8種類の浸出スラリー試料1〜8に対して予備中和工程S3における処理液のpHが2.9〜3.0の範囲内となるように、且つ中和工程S5における処理液のpHが3.1〜3.3の範囲内となるようにそれぞれ石灰石を添加してpHを調整した以外は上記実施例と同様にした。この場合の中和工程S5での石灰石の添加量とカルシウム濃度を図6に黒丸のマークで示す。
【0044】
この図6から分かるように、中和工程S5で更にpHを上昇させるため、石灰石を使用したことで図5に示す予備中和工程S3と比較しても、更にカルシウム濃度は0.65〜0.67g/L近くまで上昇している。すなわち向流型水洗工程S4での石膏の払出し量が少なくなり、中和工程S5以降の工程に持ち込まれるカルシウム量が増加していると判断できる。その結果、溶解度を超えた過飽和部分が石膏結晶として析出し、上記実施例に比べて配管内壁へのスケールの形成が顕著になった。
【符号の説明】
【0045】
S1 鉱石準備工程
S2 HPAL工程
S3 予備中和工程
S4 向流型水洗工程
S5 中和工程
S6 脱亜鉛工程
S7 硫化工程
S8 最終中和工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6