【解決手段】基材10と、該基材10の上に形成された下地層20と、該下地層20の上に形成されたグラッシーカーボン層30と、を備え、該グラッシーカーボン層30は、反転されたモスアイ構造RMを表面に有し、前記グラッシーカーボン層30の表面の算術平均高さ(Sa)が10nm以上40nm以下であることを特徴とするモスアイ転写型1である。
前記物品は、樹脂、ガラス、金属、合金、セラミクス、シリコンウエハ、化合物半導体、炭化ケイ素、太陽電池材料を含む群より選択される一種以上の物質を含有することを特徴とする請求項4又は5に記載の表面微細構造を備える物品。
前記物品は、レンズ、ハーフミラー、タッチパネル、表示機器、サイネージ、ショーケースを含む群より選択される物品であることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか一項に記載の表面微細構造を備える物品。
前記物品の形状が、ロール状、平板状、異形形状を含む群より選択される一種以上の形状を含むことを特徴とする請求項4乃至8のいずれか一項に記載の表面微細構造を備える物品。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態という)に係るモスアイ転写型、モスアイ転写型の製造方法、モスアイ構造の転写方法及び表面微細構造を備える物品について
図1乃至25を参照して説明する。
【0016】
<モスアイ転写型1>
本実施形態のモスアイ転写型1は、
図1に示すように、基材10と、該基材10の上に形成された下地層20と、該下地層20の上に形成されたグラッシーカーボン層30と、を備え、該グラッシーカーボン層30は、反転されたモスアイ構造RMを表面30aに有している。
【0017】
(基材10)
基材10は、樹脂、ゴム、ガラス、金属、合金、セラミクス(金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物)、シリコンウエハ(Siウエハ)、化合物半導体基板に用いられる化合物半導体、パワーデバイス用基板に用いられる炭化ケイ素(SiC)、シリコンなどの太陽電池材料を含む群より選択される一種以上の物質を含有する。
基材10として、ゴムなど柔軟性を有するものを採用した場合、モスアイ転写型1を用いてモスアイ構造を転写する際に、湾曲形状や異形の物品(被処理物)に対しても、物品の形状に沿ってモスアイ転写型1を密着させることができるため好適である。
【0018】
(下地層20)
下地層20は、金属、合金、セラミクス(金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物)、ケイ素(Si)を含む群より選択される一種以上の物質を含有する。
下地層20の膜厚は、10nm以上500nm以下であることが好ましい。
基材10として樹脂(プラスチックやフィルム)を含む材料を採用した場合、下地層20として、Cr、Ti、Ta
2O
5及びこれらの組み合わせ等を用いることが好ましい。
以下の表1に基材10の材料と、好ましい下地層20の組み合わせを示す。下地層を基材10の表面に付加することで、グラッシーカーボン層30の密着性が向上するとともに、グラッシーカーボン層30における膜クラックの発生も抑制することが可能となる。
【0020】
(グラッシーカーボン層30)
グラッシーカーボン層30は、下地層20の上に形成されたグラッシーカーボンを含む層である。
ここで、グラッシーカーボン(Glassy carbon)とは、ガラス状炭素やアモルファス状炭素とも呼ばれ、外観が黒色、かつ、ガラス状で非晶質の炭素であり、均質かつ緻密な構造を有する。グラッシーカーボンは、他の炭素材料と同様の特徴である導電性能、化学的安定性、耐熱性、高純度等の性能に加え、材料表面が粉化し脱落することがないという優れた特徴を有する。ガラス状炭素の一般的な特性としては、密度が1.45〜1.60g/cm
3と軽量であり、曲げ強度が50〜200MPaと高強度であり、硫酸や塩酸などの酸に強く耐食性がある。導電性は比電気抵抗が4〜20mΩcmであり黒鉛と比べるとやや高い値を示すが、ガス透過性が10−9〜10
−12cm
2/sと非常に小さいなどの特徴がある。
【0021】
グラッシーカーボン層30の膜厚は、300nm以上5μm以下であることが好ましい。
【0022】
グラッシーカーボン層30は、その表面30aに反転されたモスアイ構造RMを有している。
ここで、反転されたモスアイ構造とは、モスアイ構造を形成することができるモスアイ転写型の表面の構造をいう。
本実施形態に係るモスアイ転写型1における、反転されたモスアイ構造RMは、ランダムに円錐状の穴が配列して形成されている。このとき、反転されたモスアイ構造RMを構成するグラッシーカーボンの微細構造は、平均直径(D)が、10nm〜400nm、好ましくは30nm〜300nm、特に好ましくは50nm〜150nmの範囲内であり、平均高さ(H)が、30nm〜1000nm、好ましくは50nm〜700nm、特に好ましくは100nm〜500nmの範囲内であり、平均ピッチ(P)が、10nm〜500nm、好ましくは30nm〜400nm、特に好ましくは500nm〜300nmの範囲内である。
なお、本願明細書において、○nm〜△nmは、○nm以上△nm以下を意味する。
【0023】
本実施形態に係るモスアイ転写型1における、グラッシーカーボン層30の表面30aの算術平均高さ(Sa)は、10nm以上40nm以下、好ましくは、15nm以上35nm以下、特に好ましくは、20nm以上30nm以下である。
【0024】
算術平均高さ(Sa)は、2次元の粗さパラメータである算術平均粗さ(Ra)を3次元に拡張したものであり、3次元粗さパラメータ(3次元高さ方向パラメータ)である。算術平均高さ(Sa)は、測定対象領域において、各点の高さの差の絶対値の平均を表す。
【0025】
本実施形態に係るモスアイ転写型1における、グラッシーカーボン層30の表面30aの最大高さ(Sz)は、100nm以上400nm以下、好ましくは、150nm以上350nm以下、特に好ましくは、200nm以上300nm以下である。
【0026】
最大高さ(Sz)は、2次元の粗さパラメータであるのRzを3次元に拡張したパラメータである。最大高さ(Sz)は、測定対象領域において、表面の最も高い点から最も低い点までの距離(換言すると、表面の山高さSpの最大値と谷深さSvの最大値の和)を表す。
【0027】
モスアイ転写型1の形状は、ロール状、平板状、異形形状を含む群より選択される一種以上の形状を含む。
【0028】
<モスアイ転写型の製造方法>
本実施形態のモスアイ転写型1は、
図2に示すように、以下のモスアイ転写型の製造方法よって製造される。
【0029】
具体的には、本実施形態のモスアイ転写型の製造方法は、基材10を用意する基材用意工程(ステップS1)と、前記基材10の上に下地層20を形成する下地層形成工程(ステップS2)と、前記下地層20の上にスパッタリング法によりグラッシーカーボン層30を成膜するグラッシーカーボン層成膜工程(ステップS3)と、前記グラッシーカーボン層30を酸素プラズマでエッチングするエッチング工程(ステップS4)と、を行うことを特徴とする。
【0030】
以上のステップS1〜S4で、モスアイ転写型1を得ることができる。
以下、各ステップについて、詳細に説明をする。
【0031】
(基材用意工程)
基材用意工程(ステップS1)では、基材10を用意する。このとき、事前に、基材10の表面10aを洗浄したり、帯電処理をしたりするなど、下地層20の成膜性(積層性)を向上させるような前処理を行ってもよい。
【0032】
(下地層形成工程)
下地層形成工程(ステップS2)では、前記基材10の上に下地層20を形成する。基材10や下地層20の材料などに応じて、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、化学蒸着法などの方法を用いて行うことが可能であるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0033】
(グラッシーカーボン層成膜工程)
グラッシーカーボン層成膜工程(ステップS3)では、前記下地層20の上にスパッタリング法によりグラッシーカーボン層30を成膜する。このとき、出力の条件がDC電源であると好適である。
【0034】
DC電源を用いたスパッタリング法により、グラッシーカーボン層成膜工程を行う場合、スパッタ電力、成膜圧力などを適切な条件とすることで、粒界が小さく膜密度の高いグラッシーカーボン層を成膜することが出来る。
具体的には、スパッタ電力を0.5kW以上5kW以下、好ましくは、1.0kW以上3.0kW以下、より好ましくは1.0kW以上2.0kW以下とし、成膜圧力を1.0Pa以下、好ましくは8×10
−1Pa以下、より好ましくは5×10
−1Paとするとよい。
【0035】
(エッチング工程)
エッチング工程(ステップS4)では、前記グラッシーカーボン層30を酸素イオンビーム又は酸素プラズマでエッチングする。また、イオン化効率やプラズマ密度を上げるために、アルゴン等電離しやすい気体を混合することもある。ガス種に関してはアルゴンに限定されるものではない。
【0036】
エッチング工程では、ECR(電子サイクロトン共鳴)又はICP(誘導結合プラズマ)型のイオンビーム加工装置(プラズマエッチング装置)を用いて行うことが可能である。
まず、グラッシーカーボン層成膜工程でグラッシーカーボン層を成膜した試料をイオンビーム加工装置やプラズマエッチング装置のホルダにセットする。ここで、用いる資料の形状は、板状はもちろん、イオンビーム加工を施す面が曲面となっているものでもよい。
【0037】
試料をイオンビーム加工装置やプラズマエッチング装置内に設置した後、反応ガスを導入するとともに所定の加速電圧をかけてグラッシーカーボン層30の表面30aにイオンビーム加工を施す。
反応ガスとしては酸素を含むガスを用い、酸素のみでもよいし、酸素にCF
4等のCF系のガスを混ぜたガスも用いることができる。また、アルゴンなどの希ガスもイオン電流密度やプラズマ密度を変化させるために混合してもよい。
このようなグラッシーカーボン層30の表面30aにイオンビーム加工を施すことで、針状等、先端に向けて縮径する形状を有する微小な突起群(微細構造)を形成することができる。そして、特に、加速電圧、ガス流量、及び加工時間を制御することで、突起の形状(大きさ、幅、角度等)及びピッチを制御することができる。
【0038】
具体的には、高周波電源出力とバイアス電源出力を調整することにより、イオンに加速電圧を印可し、このとき、高周波電源出力を200W以上1000W以下、好ましくは、300W以上700W以下、より好ましくは、400W以上600W以下とし、バイアス電源出力を0W以上100W以下、好ましくは、30W以上70W以下、より好ましくは、40W以上60W以下とするとよい。
【0039】
ガス流量としては、反応ガスとして酸素ガスを用いた場合、10SCCM以上100SCCM以下、好ましくは20SCCM以上80SCCM以下、より好ましくは25SCCM以上70SCCM以下、特に好ましくは30SCCM以上60SCCM以下とするとよい(SCCM:1気圧、25℃に換算したガス流量、cc/min)。
【0040】
加工時間としては、30秒以上500秒以下、好ましくは50秒以上400秒以下、より好ましくは60秒以上300秒以下、特に好ましくは80秒以上190秒以下とするとよい。
【0041】
このとき、イオン電流密度やプラズマ密度が時間的に安定した条件にすると、モスアイ形状の高さが制御しやすくなり、また、均一に加工できるので好適である。
【0042】
また、ECRまたはICP型のイオンビーム加工装置を用いれば、比較的大きい面であっても一括して加工することができる。そして、このような方法によれば、グラッシーカーボン層30を容易に表面加工することができ、高い反射防止効果を発揮することができる反射防止構造体を転写するためのモスアイ転写型1を製造することができる。
【0043】
このようにして得られた、モスアイ転写型1の反転されたモスアイ構造RM(グラッシーカーボン層30の表面30a)に離型処理を施すことも可能である。
【0044】
<モスアイ構造の転写方法>
本実施形態のモスアイ転写型1を利用して、
図3に示すように、被処理物の表面にモスアイ構造を転写することができる。
【0045】
具体的には、本実施形態のモスアイ構造の転写方法は、モスアイ転写型を用意するモスアイ転写型用意工程(ステップS11)と、被処理物を用意する工程(ステップS12)と、前記モスアイ転写型と前記被処理物の表面との間に光硬化樹脂を付与した状態で、前記光硬化樹脂に光を照射することによって前記光硬化樹脂を硬化させる工程(ステップS13)と、前記硬化させられた光硬化樹脂で形成された表面微細構造から前記モスアイ転写型を剥離する工程(ステップS14)と、を行うことを特徴とする。
【0046】
以上のステップS11〜S14で、被処理物の表面にモスアイ構造を転写することができる。
以下、各ステップについて、詳細に説明をする。
【0047】
(モスアイ転写型用意工程)
モスアイ転写型用意工程(ステップS11)では、
図1に示すモスアイ転写型1、具体的には、基材10と、該基材10の上に形成された下地層20と、該下地層20の上に形成されたグラッシーカーボン層30と、を備え、該グラッシーカーボン層30は、反転されたモスアイ構造RMを表面30aに有するモスアイ転写型1を用意する。ここで、反転されたモスアイ構造RMは、ランダムに円錐状の穴が配列して形成されている。反転されたモスアイ構造RMを構成するグラッシーカーボンの微細構造は、平均直径(D)が、10nm〜400nm、好ましくは30nm〜300nm、特に好ましくは50nm〜150nmの範囲内であり、平均高さ(H)が、30nm〜1000nm、好ましくは50nm〜700nm、特に好ましくは100nm〜500nmの範囲内であり、平均ピッチ(P)が、10nm〜500nm、好ましくは30nm〜400nm、特に好ましくは500nm〜300nmの範囲内である。
【0048】
(被処理物を用意する工程)
被処理物を用意する工程(ステップS12)では、処理の対象となる被処理物100(物品100)を用意する。このとき、事前に、被処理物100の被処理物表面100aを洗浄したり、帯電処理をしたりするなど、光硬化樹脂の成膜性(積層性)を向上させるような前処理を行ってもよい。
【0049】
(光硬化樹脂を硬化させる工程)
光硬化樹脂を硬化させる工程(ステップS13)では、前記モスアイ転写型と前記被処理物の表面との間に光硬化樹脂を付与した状態で、前記光硬化樹脂に光を照射することによって前記光硬化樹脂を硬化させる。
【0050】
このとき、モスアイ転写型1の形状がロール状である場合、ロール状のモスアイ転写型1型を、その軸を中心に回転させることによって、モスアイ転写型1の表面構造である反転されたモスアイ構造RMを被処理物100に連続的に転写できる。被加工物として、ロール状のフィルムを用いる場合には、ロール・ツー・ロール方式を採用することが可能となる。
【0051】
また、モスアイ転写型1の基材10として、柔軟性を有する材料を採用した場合、減圧・加圧を組み合わせることで柔軟なモスアイ転写型1を、被処理物100に対して密着させた状態で光硬化樹脂に光を照射することで、光硬化樹脂を硬化させることが可能となる。柔軟性を有するモスアイ転写型1を用いることで、異形の被処理物100に対してもモスアイ構造を転写することが可能となる。
【0052】
光硬化樹脂としては、紫外線などの光で硬化可能なものであれば、特に限定されず、アクリル系樹脂や、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等を用いることが可能である。
【0053】
(モスアイ転写型を剥離する工程)
モスアイ転写型を剥離する工程(ステップS14)では、前記硬化させられた光硬化樹脂で形成された表面微細構造から前記モスアイ転写型を剥離する。
【0054】
<表面微細構造を備える物品>
本実施形態の表面微細構造を備える物品200は、
図4に示すように、被加工物である物品100と、該物品100の上に形成された表面微細構造Mと、を備え、該表面微細構造Mが、その根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されている。
【0055】
(被処理物100)
本実施形態の表面微細構造の形成方法において、表面微細構造を形成する対象となる被処理物100(物品100)は、防汚性、防曇性、低反射性などの機能性を付与する対象の物品であり、特に限定されるものではない。
【0056】
処理対象となる被処理物100の具体的な例としては、スマートフォン、タブレット端末、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、各種コンピュータ、テレビ、プラズマディスプレイパネル等の各種表示機器やそのタッチパネルやディスプレイ、屋外監視カメラ(防犯カメラ)や人感センサーなどのレンズや窓部材(保護ガラス)、自動車、電車、航空機等の乗物の窓ガラスやミラー、住宅などの建築物の窓ガラス、車載カメラのレンズや窓部材(保護ガラス)、反射防止シート(反射防止フィルム)、防汚シート(防汚フィルム)、防曇シート(防曇フィルム)、液晶表示装置に用いる偏光板、透明プラスチック類からなるメガネレンズ、サングラスレンズ、カメラ用ファインダーレンズ、プリズム、フライアイレンズ、トーリックレンズなどの光学部材、さらにはそれらを用いた撮影光学系、双眼鏡などの観察光学系、液晶プロジェクタなど投影装置に用いる投射光学系、レーザービームプリンターなどに用いる走査光学系等の各種光学レンズ、各種計器のカバーなどの光学部材、太陽電池パネル(太陽電池の保護カバーガラス)、デジタルサイネージ、ショーケースなどが挙げられるが、これらの物品に限定されるものではない。
【0057】
被処理物100は、被処理物表面100aを有するが、その被処理物表面100aの形状は、平面(平板状)に限定されるものではなく、曲面など湾曲した形状(例えば、ロール状)や平面や曲面が組み合わされた複雑な形状(異形形状)、中空部材の内部表面であってもよい。
【0058】
本実施形態の表面微細構造の形成方法では、高温で処理を行うプロセスが不要であるため、樹脂など熱に弱い物質(材料)を含有する被処理物100にも好適に適用することが可能である。
【0059】
被処理物に含まれる樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂のいずれでもよく、例えば、ポリエチレン(高密度、中密度又は低密度)、ポリプロピレン(アイソタクチック型又はシンジオタクチック型)、ポリブテン、エチレン−プレピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルぺンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体、アクリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプチレンテレフタレート(PBT)、エチレン−テレフタレート−イソフタレート共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン、ナイロン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース系樹脂等、又はこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせた(例えば2層以上の積層体としたもの)であってもよい。
【0060】
被処理物に含まれるガラスとしては、例えば、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラス等が挙げられる。
【0061】
被処理物に含まれる金属としては、例えば、金、クロム、銀、銅、白金、インジウム、パラジウム、鉄、チタン、ニッケル、マンガン、亜鉛、錫、タングステン、タンタル、アルミニウム等が挙げられる。
また、上記金属の合金である、SUS316L等のステンレス鋼、Ti−Ni合金若しくはCu−Al−Mn合金等の形状記憶合金、Cu−Zn合金、Ni−Al合金、チタン合金、タンタル合金、プラチナ合金又はタングステン合金等の合金を用いることもできる。
なお、合金とは、前記金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものである。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となる共晶合金、成分元素が完全に溶け合っている固溶体、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0062】
被処理物に含まれるセラミックとしては、例えば、酸化物(例えば、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ケイ素、ジルコニア、チタン酸バリウム)、窒化物(例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素)、炭化物(例えば、炭化ケイ素)、酸窒化物等が挙げられる。また、これらの混合物を用いることもできる。
【0063】
被処理物に含まれる金属酸化物としては、例えば、アルミニウム、銅、金、銀、白金、インジウム、パラジウム、鉄、ニッケル、チタン、クロム、マンガン、亜鉛、錫、タングステンなどを金属として含有する酸化物、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化チタン(TiO
2)、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化スズ(SnO
2、SnO)、酸化鉄(Fe
2O
3、Fe
3O
4)や、ぺロブスカイト構造、スピネル構造、イルメナイト構造を有する複合酸化物などがあるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0064】
被処理物に含まれる金属窒化物としては、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化クロム(CrN、Cr
2N)、窒化ハフニウム(HfN)などがあるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0065】
その他、被処理物に含まれる材料としては、シリコンウエハ、化合物半導体基板に用いられる化合物半導体、パワーデバイス用基板に用いられる炭化ケイ素(SiC)、シリコンなどの太陽電池材料などがあるが、必ずしもこれら材料に限定されるものではない。
【0066】
(表面微細構造M)
表面微細構造M(モスアイ構造M)は、被処理物100(物品100)の被処理物表面100aの上に積層された微細構造である。表面微細構造Mは、本実施形態に係るモスアイ転写型1を利用したモスアイ構造の転写方法によって形成される。
【0067】
表面微細構造Mは、硬化した光硬化樹脂によって構成されており、その根元から先端に向けて縮径した形状を有する微細な突起、より詳細には、その根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されている。ここで、表面微細構造Mを構成する突起は、平均直径(D)が、10nm〜400nm、好ましくは30nm〜300nm、特に好ましくは50nm〜150nmの範囲内であり、平均高さ(H)が、30nm〜1000nm、好ましくは50nm〜700nm、特に好ましくは100nm〜500nmの範囲内であり、平均ピッチ(P)が、10nm〜500nm、好ましくは30nm〜400nm、特に好ましくは500nm〜300nmの範囲内である。
【0068】
表面微細構造M(モスアイ構造M)の表面の算術平均高さ(Sa)は、20nm以上70nm以下、好ましくは、25nm以上60nm以下、特に好ましくは、30nm以上50nm以下である。
【0069】
表面微細構造M(モスアイ構造M)の表面の最大高さ(Sz)は、100nm以上500nm以下、好ましくは、150nm以上450nm以下、特に好ましくは、200nm以上400nm以下である。
【0070】
表面微細構造Mの厚さは、被処理物100の形状や用途などに応じて、適宜選択すればよく、数nm以上数μm以下とすることが好ましく、より好ましくは数nm以上30μm以下、より好ましくは数nm以上10μm以下、更に好ましくは10nm以上5.0μm以下、更に好ましくは10nm以上1.0μm以下であるとよい。表面微細構造Mの厚さが薄くなりすぎると、耐久性の観点から好ましくない。一方、表面微細構造Mが厚すぎると、被処理物100の用途によっては、透過率の低下、柔軟性の低下、軽量化、コスト面などの観点から好ましくないことがある。
【0071】
表面微細構造を備える物品200は、表面微細構造Mを積層したことにより、表面の反射率が低下しており、その表面の波長300nm〜1000nmにおける反射率が15%以下であり、好ましくは10%以下、より好ましくは6%以下、更に好ましくは4%以下、特に好ましくは2%以下である。表面の反射率の値が上記の範囲であるため、被処理物100の表面の反射を抑制することが可能である。
【0072】
表面微細構造を備える物品200は、表面微細構造Mを積層したことにより、表面のはっ水性が向上しており、表面の水接触角が120°以上であり、好ましくは130°以上、より好ましくは140°以上である。表面微細構造Mの表面の水接触角が上記の範囲であるため、水に対して高いはっ水性を有し、付着した汚れや異物を水洗によって容易に除去することができ、また、水滴付着による曇りを防ぐことが可能である。
【0073】
本実施形態では、主として本発明に係るモスアイ転写型、モスアイ転写型の製造方法、モスアイ構造の転写方法及び表面微細構造を備える物品について説明した。
ただし、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【実施例】
【0074】
以下、本発明のモスアイ転写型、モスアイ転写型の製造方法、モスアイ構造の転写方法及び表面微細構造を備える物品の具体的実施例について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0075】
<試験1 モスアイ転写型の製造>
以下、基材として、ガラス基材を用い、下地層の種類や、グラッシーカーボン層の成膜条件、グラッシーカーボン層のエッチング条件の検討を行った。
【0076】
(1.基材用意工程)
基材として、ガラス基材(サイズ100×100mm、厚み0.7mm)を用意し、純水を用いて洗浄を行った。
【0077】
(2.下地層形成工程)
以下の条件で、ガラス基材上に下地層を形成した。
スパッタ装置 :カルーセル型バッチ式スパッタ装置
ターゲット :5”×25”、厚さ6mm Tiターゲット
スパッタ方式 :RFスパッタ
排気装置 :ターボ分子ポンプ
到達真空度 :5×10
−4Pa
基材温度 :25℃(室温)
スパッタ電力 :1kW
下地層の膜厚:100±10nm
Ar流量 :500sccm
【0078】
(3.グラッシーカーボン層成膜工程)
以下の条件で、下地層上にグラッシーカーボン層を形成した。
スパッタ装置 :カルーセル型バッチ式スパッタ装置
ターゲット :5”×25”、厚さ6mm GC(グラッシーカーボン)ターゲット
スパッタ方式 :DCスパッタ
排気装置 :ターボ分子ポンプ
到達真空度 :6×10
−4Pa
基材温度 :25℃(室温)
スパッタ電力 :実施例1 1kW
実施例2 2kW
成膜圧力 :実施例1 8×10
−1Pa
実施例2 5×10
−1Pa
グラッシーカーボン層の膜厚:1.75±0.25μm
Ar流量 :500sccm
【0079】
(4.エッチング工程)
エッチング工程では、グラッシーカーボン層を酸素プラズマでドライエッチング処理した。
具体的には、各試料をICPプラズマ加工装置(株式会社エリオニクス、商品名:EIS−700)のホルダにセットした。プラズマの場合は、高周波電源出力とバイアス電源出力を調整することにより、酸素イオンに加速電圧が印可される。これら電源出力を調整して加工を行った。また、エッチング条件は以下の通りである。
試料台サイズ:Φ6インチウエハー
高周波電源:500W
バイアス電源:50W
真空度 :1.3×10
−2Pa
反応ガス:酸素
ガス流量:50SCCM
加工時間:280秒間(250秒間+30秒間)
【0080】
試験1の結果、ガラス基材に対して、Tiの下地層を設けた場合、グラッシーカーボン層が剥離することなく、適切に製膜されることがわかった。また、下地層としてCrを用いた場合も同様に、グラッシーカーボン層が剥離することなく、適切に製膜された。
【0081】
なお、金属製の基材に対しては、TiやCrの下地層を設け、プラスチックフィルム基材などのプラスチック製の基材に対しては、Ti、Cr、Ti/Ta
2O
5、Cr/Ta
2O
5など下地層を設けた場合、グラッシーカーボン層が剥離することなく、適切に製膜されることがわかった。
【0082】
<試験2 モスアイ転写型の評価>
試験1において製造した実施例1及び実施例2に係るモスアイ転写型の評価を行った。
具体的には、各試料の表面状態の観察を行った。
【0083】
(1.表面状態の観察)
各試料のエッチング工程前後における表面の状態を電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM、(株)日立ハイテクノロジーズ製、S−4300)を用いて観察した。
【0084】
結果を
図5及び6に示す。
図5は、実施例1の試料のモスアイ転写型のエッチング工程前後における表面の状態を示す電子顕微鏡写真であり、
図6は、実施例2の試料のモスアイ転写型のエッチング工程前後における表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【0085】
図5の下図及び
図6の下図に示すように、モスアイ転写型のエッチング工程後における表面には、直径100nm未満、ピッチ100nmで深さ200nm以上の円錐状の穴がランダムな配置で均一に形成されており、理想的なモスアイ構造の反転形状を有していた。実施例2の試料の方が、実施例1の試料よりも、グラッシーカーボンの微細構造が均一で細かなものとなっていたことから、グラッシーカーボン層成膜工程におけるスパッタ電力が2kW以上と大きい方が好ましく、成膜圧力が5×10
−1Pa以下と低いことが好ましいことがわかった。
【0086】
<試験3 モスアイ構造の転写>
試験1において製造した実施例1及び実施例2に係るモスアイ転写型を用いて、モスアイ構造の転写を行った。
実施例1及び実施例2に係るモスアイ転写型に、フッ素系離型剤(ダイキン工業社製、製品名:UD−509)を塗布して離型処理を行った。
被処理物として、トリアセチルセルロース(Triacetylcellulose)フィルム(TACフィルム)を用いた。
【0087】
次に、紫外線硬化樹脂(アクリル系樹脂、オリジン電気社製、製品名:UVコート TP)を各モスアイ転写型の表面に塗布し、被処理物であるTACフィルムを密着させ、紫外光(メタルハライドランプ光源、波長200nm〜450nm、強度600mJ、照射時間40秒)を照射して硬化処理を行った。
そして、硬化させられた光硬化樹脂で形成された表面微細構造からモスアイ転写型を剥離することで、モスアイ構造(表面微細構造)を備えるTACフィルムを得た。
【0088】
<試験4 モスアイ構造の評価>
試験3において転写された実施例1及び実施例2に係るモスアイ構造の評価を行った。
具体的には、転写されたモスアイ構造について、表面状態の観察、分光測定、接触角の評価、摺動試験、曇り度(ヘイズ値)の測定を行った。
【0089】
(1.表面状態の観察)
転写されたモスアイ構造の表面の状態を電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM、(株)日立ハイテクノロジーズ製、S−4300)を用いて観察した。
【0090】
結果を
図7及び8に示す。
図7は、実施例1の試料のモスアイ転写型を用いて転写されたモスアイ構造を示す電子顕微鏡写真であり、
図8は、実施例2の試料のモスアイ転写型を用いて転写されたモスアイ構造を示す電子顕微鏡写真である。
図7及び
図8に示すように、TACフィルムの表面には、その根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列したモスアイ構造が良好に形成されていた。微細な突起は、モスアイ転写型の表面に形成された反転されたモスアイ構造に対応しており、直径100nm未満、ピッチ100nmで高さ200nm以上であった。
【0091】
(2.分光測定)
各試料の透過率及び反射率を、分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製、U−4100)を用い、300nmから1000nmの波長領域で測定した。
【0092】
分光測定の結果を
図9乃至12に示す。
図9は、実施例1の試料のモスアイ転写型を用いて転写されたモスアイ構造の透過率を示すグラフであり、
図10は、実施例1の試料のモスアイ転写型を用いて転写されたモスアイ構造の反射率を示すグラフである。
図11は、実施例2の試料のモスアイ転写型を用いて転写されたモスアイ構造の透過率を示すグラフであり、
図12は、実施例2の試料のモスアイ転写型を用いて転写されたモスアイ構造の反射率を示すグラフである。
【0093】
分光測定の結果、Y値(視感反射率)は0.2%以下であった。
また、
図10に示すように、実施例1の試料では、300nm〜1000nmにおいて、反射率が3%以下であった。
図12に示すように、実施例2の試料では、300nm〜1000nmにおいて、反射率が0.5%以下であった。
実施例1と実施例2では、グラッシーカーボン層成膜工程におけるスパッタ電力及び成膜圧力が異なっており、スパッタ電力が2kW以上、成膜圧力が5×10
−1Pa以下であることが好ましいことが示された。
【0094】
(3.接触角測定)
転写されたモスアイ構造の表面における接触角の測定は、接触角計(協和界面科学社製、型番CA−X)を用いて25℃の条件で測定した。
実施例1のモスアイ構造の表面における接触角は155.8°であり、実施例2のモスアイ構造の表面における接触角は142.8°であった。
【0095】
(4.摺動試験)
摺動試験は、往復摩耗試験装置(新東科学社製、型番TYPE:30/30S)を用いて4.9N荷重の布を10000回摺動させた。
試験後の試料の接触角を、接触角計(協和界面科学社製、型番CA−X)を用いて25℃の条件で測定した。
摺動試験後の実施例1のモスアイ構造の表面における接触角は140°であり、高い接触角が維持されていた。
【0096】
(5.曇り度(ヘイズ値)測定)
曇り度(ヘイズ値)は、ヘイズメーター(スガ試験機社製、型番HGM−2DP)を用いて25℃の条件で測定した。
ヘイズ値は0.3%(実施例2)であった。
【0097】
<試験5 エッチング工程におけるプラズマ照射時間(加工時間)の検討>
実施例2と同じ条件で、基材用意工程、下地層形成工程、グラッシーカーボン層成膜工程を行った。そして、グラッシーカーボン層を酸素プラズマでドライエッチング処理する加工時間を、80〜170秒(実施例3〜実施例7)として、エッチング工程を行った。
【0098】
具体的には、各試料をICPプラズマ加工装置(株式会社エリオニクス、商品名:EIS−700)のホルダにセットし、以下のエッチング条件でエッチングを行った。
試料台サイズ:Φ6インチウエハー
高周波電源:500W
バイアス電源:50W
真空度 :1.3×10
−2Pa
反応ガス:酸素
ガス流量:50SCCM
加工時間:実施例3:80秒間
実施例4:100秒間
実施例5:150秒間
実施例6:160秒間
実施例7:170秒間
【0099】
実施例3乃至実施例7に係るモスアイ転写型の表面状態の観察を行った。電子顕微鏡写真を
図13乃至
図17に示す。実施例3、実施例5、実施例7について、グラッシーカーボン微細構造の、平均高さ、平均直径、平均ピッチを測定した結果を、表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
上記の結果に示されるように、モスアイ転写型の表面には、反転されたモスアイ構造が、ランダムに円錐状の穴が配列して形成されていた。反転されたモスアイ構造を構成するグラッシーカーボンの微細構造は、平均直径(D)が40nm〜300nmの範囲内であり、平均高さ(H)が100nm〜500nmの範囲内であり、平均ピッチ(P)が50nm〜300nmの範囲内であった。
【0102】
実施例3乃至実施例7に係るモスアイ転写型の表面の反射率を、分光光度計((株)島津製作所製、UV−3100PC)を用い、300nmから1000nmの波長領域で測定した結果を
図18に示す。なお、参考例として、加工時間200秒(参考例A)の試料についても合せてプロットしている。
【0103】
図18に示すように、実施例3乃至実施例7のモスアイ転写型の表面の反射率は300nm〜1000nmにおいて5%以下であった。一方、参考例Aの試料では、700nm以上で反射率が大きく上昇し、5%より大きくなっていた。
【0104】
また、実施例3乃至実施例7及び参考例Aに係るモスアイ転写型の表面における接触角の測定を、接触角計(協和界面科学社製、型番CA−X)を用いて25℃の条件で測定した結果を表3に示す。表3には、プラズマ加工前、プラズマ加工後、離型処理後の水接触角をそれぞれ記載している。離型材として、フッ素系離型剤(ダイキン工業社製、製品名:UD−509)を用いた。
【0105】
【表3】
【0106】
実施例3乃至実施例7のモスアイ転写型の表面の水接触角は、プラズマ加工後に3.5°以上4.9°以下と小さな値であった。離型処理後には、147.3°以上154.1°以下と大きな値を示した。
【0107】
実施例3乃至実施例7に係るモスアイ転写型を用いて、試験3と同様の方法でモスアイ構造の転写を行い、モスアイ構造(表面微細構造)を備えるTACフィルムを得た。
【0108】
転写された実施例3乃至実施例7に係るモスアイ構造の評価を、試験4と同様の方法で行った。具体的には、転写されたモスアイ構造について、表面状態の観察、接触角の評価、曇り度(ヘイズ値)の測定、分光測定を行った。
【0109】
各試料のモスアイ転写型を用いて転写されたモスアイ構造を示す電子顕微鏡写真を
図19乃至
図23に示す。実施例3、実施例5、実施例7の各試料について、モスアイ構造の、平均直径、平均ピッチを測定した結果を、表4に示す。
【0110】
【表4】
【0111】
上記の結果に示されるように、TACフィルムの表面には、硬化した光硬化樹脂によってモスアイ構造が転写されていた。モスアイ構造は、その根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されていた。モスアイ構造を構成する突起は、平均直径(D)が30nm〜100nmの範囲内であり、平均ピッチ(P)が60nm〜200nmの範囲内であった。
【0112】
各試料の接触角、ヘイズ値を以下の表5に示す。なお、表5には、参考例として、加工時間200秒(参考例A)の試料について、接触角、ヘイズ値を合せて記載している。
【0113】
【表5】
【0114】
上記の結果を転写されたモスアイ構造の形状と併せて検討すると、エッチング工程におけるプラズマ照射時間(加工時間)が、80秒以上170秒以下であることが好ましく、150秒以上170秒以下であると特に好ましいことがわかった。プラズマ照射時間(加工時間)が、200秒以上となると、TACフィルムの表面にムラが観察された。
【0115】
各試料の分光測定の結果を
図24(TACフィルムの厚み=120μm)及び
図25(TACフィルムの厚み=60μm)に示す。
図24及び
図25に示すように、波長400nm以上1000nm以下の範囲内で、透過率90%以上95%以下であり、反射率6%以内であった。なお、TACフィルム面反射をなくすために、TACフィルムのモスアイ構造が形成されている面と反対側の面を黒塗りした場合、
図24の下図及び
図25の下図に示すように、波長400nm以上1000nm以下の範囲内で、反射率2%以下と低反射であった。
【0116】
<試験6 表面粗さの測定>
試験5において製造した実施例3、実施例5、実施例7に係るモスアイ転写型及びこれらのモスアイ転写型を用いて転写されたモスアイ構造の表面粗さについて評価を行った。
【0117】
具体的には、原子間力顕微鏡(AFM、(株)島津製作所製、SPM−9700HT)を用いて、各試料の表面の算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)を測定した。結果を、以下の表6に示す。
【0118】
【表6】
【0119】
実施例3、実施例5、実施例7に係るモスアイ転写型の表面(つまり、グラッシーカーボン層の表面)の算術平均高さ(Sa)は、20nm以上30nm以下の範囲にあり、最大高さ(Sz)は200nm以上300nm以下の範囲内にあった。
【0120】
実施例3、実施例5、実施例7に係るモスアイ転写型を用いて転写されたモスアイ構造の表面の算術平均高さ(Sa)は、30nm以上45nm以下の範囲内にあり、最大高さ(Sz)は250nm以上350nm以下の範囲内にあった。
前記課題は、本発明のモスアイ転写型によれば、基材と、該基材の上に形成された下地層と、該下地層の上に形成されたグラッシーカーボン層と、を備え、該グラッシーカーボン層は、反転されたモスアイ構造を表面に有し、前記グラッシーカーボン層の表面の算術平均高さ(Sa)が10nm以上40nm以下であ
このとき、前記グラッシーカーボン層が、前記反転されたモスアイ構造を構成するグラッシーカーボンの微細構造は、平均直径が10nm〜400nmであり、平均高さが30nm〜1000nmであり、平均ピッチが10nm〜500nmの範囲内であると好適である。