【課題】水質に影響を与えることなく、低コストで、簡易にかつ安全に、地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑えることができる、揚水システム、地下水の供給方法、および地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑える方法を提供する。
【解決手段】井戸管104内に挿入された揚水管20と、揚水管20に接続した水中ポンプ10と、井戸管104内の地下水200に浸漬された、地下水200中における溶存酸素の移動を妨げる溶存酸素移動抑制部材30とを備えた、揚水システム1。
鉛直方向から見て、前記井戸の内部空間の投影面積(ただし、前記揚水管の投影面積を除く。)に対する前記溶存酸素移動抑制部材の投影面積の割合が、60〜100%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の揚水システム。
【背景技術】
【0002】
井戸内の地下水を汲み上げる揚水システムとしては、例えば、井戸内に挿入された揚水管と、揚水管の下端に接続した水中ポンプと、揚水管の上端に接続する導水管と、導水管によって導入された原水を貯留する原水槽とを備えたものが挙げられる。揚水システムによって汲み上げられた地下水は、生活用水、工業用水、農業用水等に利用される。
【0003】
地中の地下水には、二価の鉄がイオン化した溶存鉄として存在している。地中の地下水は、井戸内に湧出すると大気に触れるため、井戸内の地下水には、水面から酸素が供給される。そのため、地下水に含まれる二価の鉄は、酸化されて不溶化し、鉄スケールとなる。鉄スケールは、揚水管および導水管の閉塞を引き起こす。
【0004】
鉄スケールによる揚水管および導水管の閉塞を防止するためには、定期的に揚水システムのメンテナンスが必要となる。メンテナンスにおいては、揚水管については、水中ポンプとともに揚水管を井戸内から引き上げ、揚水管の内部をブラシで洗浄した後、再び、水中ポンプとともに揚水管を井戸内に設置する作業が行われる。導水管については、ピグ洗浄や薬液による循環洗浄が行われる。
【0005】
このようなメンテナンスは、年に数回必要になり、コストがかかる。井戸の設置場所が人や車の通行場所である場合には、メンテナンスの際に安全性への配慮が必要になる。そのため、このような場所では、夜間にメンテナンスを行うことが要求される場合も多い。このように、コスト面のみならず安全性の面からも、揚水システムのメンテナンスの頻度を低減することが要望されている。
【0006】
揚水システムのメンテナンスの頻度を低減するためには、鉄スケールの発生を抑えることが考えられる。鉄スケールの発生を抑える方法としては、地下水の水面に、地下水と大気との接触を妨げる接触防止剤を供給することによって、地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑える方法が提案されている(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法においては、地下水の水面に、接触防止剤として、油や不活性ガス(窒素、アルゴン等)を供給する。しかし、特許文献1に記載の方法には、下記の問題がある。
・地下水の水面に油を供給する場合、飲料水原水である地下水に水質に影響のある油等の物質を混入させるおそれがある。
・地下水の水面に不活性ガスを供給する場合、不活性ガスが大気中に揮散する。そのため、常に不活性ガスを供給する必要があり、地下水の汲み上げコストが高くなる。
・また、常に不活性ガスを供給する場合、不活性ガスを連続供給するための供給設備が必要になる。そのため、揚水システムが複雑になる。特に、井戸の設置場所が人や車の通行場所である場合には、供給設備を井戸から離れた場所に設置しなければならず、揚水システムがさらに複雑になる。
・一方、人や車の通行場所の近傍に供給設備を設置した場合、安全性の問題が生じる。
【0009】
本発明は、水質に影響を与えることなく、低コストで、簡易にかつ安全に、地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑えることができる、揚水システム、地下水の供給方法、および地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑える方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、地下水中における溶存酸素の移動を妨げる溶存酸素移動抑制部材を、井戸内の地下水に浸漬することによって、水質に大きな影響を与えることなく、低コストで、簡易にかつ安全に、地下水中の溶存酸素濃度の増加が抑えられることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の態様を有する。
<1>井戸内に挿入された揚水管と、前記揚水管に接続したポンプと、前記井戸内の地下水に浸漬された、前記地下水中における溶存酸素の移動を妨げる溶存酸素移動抑制部材とを備えた、揚水システム。
<2>前記溶存酸素移動抑制部材が、前記井戸内の地下水の水面と、前記揚水システムにおける地下水の取水口との間に位置する、前記<1>の揚水システム。
<3>前記溶存酸素移動抑制部材が、前記地下水の溶存酸素を消費する溶存酸素消費部材である、前記<1>または<2>の揚水システム。
<4>前記溶存酸素消費部材が、担体と、前記担体に担持された菌とを有する菌担持担体である、前記<3>の揚水システム。
<5>鉛直方向から見て、前記井戸の内部空間の投影面積(ただし、前記揚水管の投影面積を除く。)に対する前記溶存酸素移動抑制部材の投影面積の割合が、60〜100%である、前記<1>〜<4>のいずれかの揚水システム。
<6>井戸内に挿入された揚水管と、前記揚水管に接続したポンプと、前記井戸内の地下水に浸漬された、前記地下水中における溶存酸素の移動を妨げる溶存酸素移動抑制部材とを備えた揚水システムを用いる、地下水の供給方法。
<7>井戸内に挿入された揚水管と、前記揚水管に接続したポンプとを備えた揚水システムによって前記井戸内の地下水を汲み上げるに際し、前記地下水中における溶存酸素の移動を妨げる溶存酸素移動抑制部材を、前記地下水に浸漬して、前記揚水システムによって汲み上げられる前記地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑える方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の揚水システムによれば、水質に大きな影響を与えることなく、低コストで、簡易にかつ安全に、地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑えることができる。
本発明の地下水の供給方法によれば、水質に大きな影響を与えることなく、低コストで、簡易にかつ安全に、地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑えることができる。
本発明の地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑える方法によれば、水質に大きな影響を与えることなく、低コストで、簡易にかつ安全に、地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
数値範囲を示す「〜」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
図1〜
図7における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0015】
<揚水システム>
図1は、本発明の揚水システムの一例を示す概略構成図である。
揚水システム1は、井戸100内に挿入されて、地下から地上に延びる揚水管20と;揚水管20の下端に接続し、井戸100内の地下水200に浸漬した水中ポンプ10と;揚水管20に取り付けられ、井戸100内の地下水200に浸漬した溶存酸素移動抑制部材30と;揚水管20の上端に接続して、水平方向に延びる導水管22と;導水管22の終端に接続し、導水管22によって導入された地下水を貯留する原水槽12と;原水槽12に貯留された地下水を引き出す原水引出配管24と;原水引出配管24の途中に設けられた原水ポンプ14と;原水引出配管24の終端に接続し、原水引出配管24によって引き出された地下水を処理する水処理装置16と;水処理装置16で処理された地下水を外部に供給する供給配管26とを備える。
【0016】
井戸100は、地面から下方に向かって不帯水層202より下の被圧帯水層204まで掘削された掘削穴102に挿入された有底管状の井戸管104を有する。井戸管104の底部近傍には、被圧帯水層204の位置に、被圧帯水層204から湧出した地下水200を井戸管104内に取り込む取水口104aが形成されている。取水口104aには、井戸管104内への砂等の侵入を防ぐための金網(図示略)が取り付けられている。
【0017】
水中ポンプ10としては、水中カスケードポンプ、水中渦巻ポンプ、水中タービンポンプ、水中斜流ポンプ等が挙げられる。
水処理装置16としては、逆浸透膜装置、pH調整装置、砂ろ過装置、活性炭ろ過装置、膜ろ過装置、イオン交換処理装置、殺菌装置等が挙げられる。
【0018】
溶存酸素移動抑制部材30は、地下水200中における溶存酸素の移動を妨げるものであればよい。すなわち、地下水200の水面にある気中酸素が水中ポンプ10に向かう移動を妨げるものであればよい。溶存酸素移動抑制部材30としては、地下水200の溶存酸素の拡散を物理的に妨げる溶存酸素拡散抑制部材;地下水200の溶存酸素を物理的または化学的に吸着する溶存酸素吸着部材;地下水200の溶存酸素を化学的または生物的に消費する溶存酸素消費部材等が挙げられる。溶存酸素移動抑制部材30としては、地下水200中における溶存酸素の移動を妨げる能力に優れる点から、溶存酸素消費部材が好ましい。
【0019】
溶存酸素拡散抑制部材は、地下水を透過するが地下水の移動の抵抗となるものであればよい。溶存酸素拡散抑制部材としては、多孔質体、粒状物の集合体等が挙げられる。多孔質体としては、スポンジ、布、軽石、炭、粒子(プラスチック、セラミックス等)の焼結体等が挙げられる。粒状物としては、プラスチック片、礫等が挙げられる。プラスチック片としては、中空の成形品(チューブ、ストロー等)を短く切断したもの、中実の成形品(フィルム、シート、板等)を粉砕したもの、ビーズ、ペレット等が挙げられる。粒状物の集合体としては、粒状物をメッシュ状の袋に充填したもの等が挙げられる。
【0020】
溶存酸素吸着部材としては、酸素吸着材からなる多孔質体、酸素吸着材からなる粒状物の集合体、上述した多孔質体に酸素吸着材を含ませたもの、上述した粒状物に酸素吸着材を含ませたものを集合体としたもの等が挙げられる。酸素吸着材としては、酸素を吸着する公知の材料(ゼオライト、活性炭等)が挙げられる。
【0021】
溶存酸素消費部材としては、化学的なものとして、脱酸素剤からなる多孔質体、脱酸素剤からなる粒状物の集合体、上述した多孔質体に脱酸素剤を含ませたもの、上述した粒状物に脱酸素剤を含ませたものを集合体としたもの等が挙げられる。脱酸素剤としては、酸素と反応する公知の材料(鉄等)が挙げられる。
溶存酸素消費部材としては、生物的なものとして、担体と、担体に担持された菌とを有する菌担持担体が挙げられる。
溶存酸素消費部材としては、水質への影響が少ない点から、菌担持担体が好ましい。
【0022】
担体は、地下水を透過でき、かつ菌を担持できるものであればよい。担体としては、菌が繁殖しやすい点から、通気性がよく、表面積の広いものが好ましく、具体的には、上述した多孔質体、粒状物の集合体等が挙げられる。担体としては、揚水管20に取り付けやすい点、井戸管104の形状に追随しやすい点および菌が繁殖しやすい点から、中空の成形品(チューブ、ストロー等)を短く切断したものをメッシュ状の袋に充填したものが好ましい。中空の成形品を短く切断したものとしては、長さ3〜30mm、端面の面積10〜100mm
2、肉厚0.1〜10mmのものが好ましい。担体を井戸管104内に挿入しやすい点から、長さ5〜10mmのものが特に好ましい。
【0023】
菌としては、鉄酸化細菌(鉄バクテリア)、従属栄養細菌(メタン酸化細菌)、硝化菌、亜硝酸酸化菌等が挙げられる。これら菌は、自然界に存在しており、担体を地下水200に浸漬することによって、担体の表面で自然に繁殖する。
菌担持担体については、地下水200の汲み上げの抵抗になるような過剰な菌密度にならず、かつ鉄スケールの発生を抑制できる程度の菌密度になるように、担体の数や交換頻度を調整してもよい。
【0024】
溶存酸素移動抑制部材30は、
図2に示すように、揚水管20を囲むようにリング状に設けられる。溶存酸素移動抑制部材30は、溶存酸素を含む地下水200の短絡を防ぐ点から、井戸管104との間隙ができるだけ少なくなるように設けられることが好ましい。一方、溶存酸素移動抑制部材30と井戸管104との間隙が少ない場合、溶存酸素移動抑制部材30を井戸管104内に挿入する際に溶存酸素移動抑制部材30が井戸管104の内壁に接触し、溶存酸素移動抑制部材30を井戸管104内に挿入する際の抵抗が大きくなって挿入しにくくなったり、溶存酸素移動抑制部材30が破損したりしやすい。そこで、鉛直方向から見て、井戸管104の内部空間の投影面積(ただし、揚水管20の投影面積を除く。)に対する溶存酸素移動抑制部材30の投影面積の割合は、30〜100%が好ましく、60〜100%がより好ましく、80〜90%がさらに好ましい。
【0025】
溶存酸素移動抑制部材30は、水中ポンプ10付近での鉄スケールの発生を抑え、揚水システム1への鉄スケールの取り込みを抑える点および揚水管20等内での鉄スケールの発生を抑える点から、井戸100内の地下水200の水面と、水中ポンプ10の取水口(揚水システム1における地下水200の取水口)との間に位置することが好ましい。
井戸100内の地下水200の水面の位置には、静水位L1および動水位L2がある。静水位L1は、地下水200を汲み上げる前(水中ポンプ10が稼働する前)の水面の位置であり、自然水位ともいう。動水位L2は、水中ポンプ10が稼働しているときの水面の位置であり、揚水水位ともいう。溶存酸素移動抑制部材30は、水中ポンプ10が稼働しているときに溶存酸素移動抑制部材30が水面から露出しないようにする点から、動水位L2と水中ポンプ10の取水口との間に位置することがより好ましい。
【0026】
溶存酸素移動抑制部材30は、地上に引き上げやすい点から、揚水管20に固定されることが好ましい。固定方法としては、溶存酸素移動抑制部材30を揚水管20にワイヤー、ヒモ等で縛り付ける方法、溶存酸素移動抑制部材30を揚水管20に接着剤で接着する方法、揚水管20とともに溶存酸素移動抑制部材30を大型のクリップ等で挟持する方法等が挙げられる。
【0027】
(作用機序)
以上説明した揚水システム1にあっては、井戸100内の地下水200に溶存酸素移動抑制部材30が浸漬されているため、水面から地下水200に供給される酸素の移動が妨げられる。そのため、溶存酸素移動抑制部材30よりも下にある地下水200中の溶存酸素濃度の増加が抑えられる。
また、揚水システム1にあっては、地下水200の水面に、接触防止剤として、油や不活性ガスを供給する必要がない。そのため、水質に影響を与えることなく、低コストで、簡易にかつ安全に、地下水200中の溶存酸素濃度の増加を抑えることができる。
【0028】
そして、以上説明した揚水システム1にあっては、地下水200中の溶存酸素濃度の増加が抑えられることによって、井戸100内の地下水200中や揚水管20等内での鉄スケールの発生が抑えられる。特に、溶存酸素移動抑制部材30として担体を用いた場合、地下水200に由来する鉄と溶存酸素によって鉄酸化細菌(鉄バクテリア)が担体の表面で繁殖する。そのため、地下水200中の溶存酸素濃度が消費され、地下水200中での鉄スケールの発生が抑えられる。一方で、揚水管20内では、溶存酸素濃度が低くなるため、鉄酸化細菌(鉄バクテリア)の繁殖が抑えられる。鉄スケールの生成速度は鉄バクテリアの存在量に依存し、鉄バクテリアの存在量が少ないほど鉄スケールは生成されなくなるため、揚水管20内の鉄スケールの生成が抑えられる。
井戸100内の地下水200中や揚水管20等内での鉄スケールの発生が抑えられることによって、揚水システムのメンテナンスの頻度を低減できる。
【0029】
(他の実施形態)
本発明の揚水システムは、井戸内に挿入された揚水管と、揚水管に接続したポンプと、井戸内の地下水に浸漬された、地下水中における溶存酸素の移動を妨げる溶存酸素移動抑制部材とを備えたものであればよく、図示例の揚水システム1に限定されない。
【0030】
例えば、図示例の揚水システム1は、不帯水層202より下の被圧帯水層204から湧出する地下水200を汲み上げる深井戸に設置されているが、地下水が嫌気的であるならば、不圧帯水層から湧出する地下水を汲み上げる浅井戸に設置されてもよい。また、浅井戸等のように揚程が低い場合は、水中ポンプの代わりに吸引式ポンプを地上に設けてもよい。吸引式ポンプを地上に設けた場合、揚水システムにおける地下水の取水口は、揚水管の下端になる。
【0031】
図示例の揚水システム1では、溶存酸素移動抑制部材30は揚水管20に固定されているが、溶存酸素移動抑制部材30を固定せずに、地下水200中に流動させてもよい。地下水200中に流動させる場合、溶存酸素移動抑制部材30としては、比重の軽いスポンジ、比表面積が大きいプラスチック片等が用いられる。
【0032】
溶存酸素移動抑制部材30を2箇所以上に設けてもよい。溶存酸素移動抑制部材30を2箇所以上に設ければ、地下水200中における溶存酸素の移動を十分に妨げることができる。例えば、
図3に示すように、複数の溶存酸素移動抑制部材30を、揚水管20を囲むように配置してもよい。また、
図4に示すように、揚水管20を囲むリング状の溶存酸素移動抑制部材30を、上下方向に離間して配置してもよい。また、
図5に示すように、複数の溶存酸素移動抑制部材30を、位置をずらしながら上下方向に連なるように配置してもよい。
溶存酸素移動抑制部材30を1箇所に設ける場合でも、
図6に示すように、井戸100内の地下水200の水面と、水中ポンプ10との間を埋め尽くすような大きさのものを配置すれば、地下水200中における溶存酸素の移動を十分に妨げることができる。
【0033】
<地下水の供給方法>
本発明の地下水の供給方法は、井戸内に挿入された揚水管と、揚水管に接続したポンプと、井戸内の地下水に浸漬された、地下水中における溶存酸素の移動を妨げる溶存酸素移動抑制部材とを備えた揚水システムを用いて地下水を供給する方法である。
【0034】
例えば、図示例の揚水システム1を用いる場合、水中ポンプ10を稼働させ、水中ポンプ10の取水口から地下水200を取水し、水中ポンプ10によって地下水200を汲み上げ、揚水管20および導水管22を経由して原水槽12に導入する。原水槽12が満水になった場合、水中ポンプ10を停止する。原水ポンプ14は、後段の水処理装置16における地下水の処理頻度や処理量に応じて、連続的または断続的に稼働する。水処理装置16で処理された地下水は、生活用水、工業用水、農業用水等として外部に供給される。
【0035】
地下水は、通常、鉄酸化細菌(鉄バクテリア)、溶存酸素、二価の鉄イオン、有機物、アンモニア、メタン等を含む。地下水としては、溶存酸素濃度が0.2mg/L以上であり、二価の鉄イオン濃度が0.5mg/L以上であるものが好ましい。溶存酸素濃度および二価の鉄イオン濃度が前記範囲の下限値以上であれば、溶存酸素移動抑制部材として菌担持担体を用いた場合、担体の表面に鉄酸化細菌(鉄バクテリア)が繁殖しやすい。
【0036】
以上説明した地下水の供給方法にあっては、井戸内の地下水に浸漬された溶存酸素移動抑制部材を備えた揚水システムを用いるため、水質に影響を与えることなく、低コストで、簡易にかつ安全に、地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑えることができる。
そして、以上説明した地下水の供給方法にあっては、地下水中の溶存酸素濃度の増加が抑えられることによって、井戸内の地下水中や揚水管等内での鉄スケールの発生が抑えられる。井戸内の地下水中や揚水管等内での鉄スケールの発生が抑えられることによって、揚水システムのメンテナンスの頻度が少なくなる。
【0037】
<地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑える方法>
本発明の地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑える方法は、井戸内に挿入された揚水管と、揚水管に接続したポンプとを備えた揚水システムによって井戸内の地下水を汲み上げるに際し、地下水中における溶存酸素の移動を妨げる溶存酸素移動抑制部材を、地下水に浸漬して、揚水システムによって汲み上げられる地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑える方法である。
【0038】
揚水システムによって井戸内の地下水を汲み上げるに際し、溶存酸素移動抑制部材を地下水に浸漬することによって、水質に影響を与えることなく、低コストで、簡易にかつ安全に、地下水中の溶存酸素濃度の増加を抑えることができる。
そして、地下水中の溶存酸素濃度の増加が抑えられることによって、井戸内の地下水中や揚水管等内での鉄スケールの発生が抑えられる。井戸内の地下水中や揚水管等内での鉄スケールの発生が抑えられることによって、揚水システムのメンテナンスの頻度が少なくなる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
(地下水中の鉄濃度)
原水槽から地下水を採取し、上水試験方法(1,10−フェナントロリンによる吸光光度法)に準拠して地下水中の鉄濃度を測定した。
【0041】
(地下水中の溶存酸素濃度)
原水槽から地下水を採取し、上水試験方法(隔膜型溶存酸素による測定)に準拠して地下水中の溶存酸素濃度を測定した。
【0042】
(揚水システム)
愛知県がんセンターの井戸に設けられた揚水システムを利用した。この揚水システムは、井戸内に挿入されて、地下から地上に延びる揚水管と、揚水管の下端に接続し、井戸内の地下水に浸漬した水中ポンプと、揚水管の上端に接続して、水平方向に延びる導水管と、導水管の終端に接続し、導水管によって導入された地下水を貯留する原水槽とを備える。
図7に示すように、井戸の動水位L2は地下56mであり、井戸管104の内径は100mmであった。水中ポンプ10は、地下64mに設置した。揚水管20としては、1本当たりの長さ5m、内径28mmの配管を複数接続したものを用いた。
【0043】
(比較例1)
まず、揚水管20に担体32を取り付けない状態で地下水の汲み上げを行った。汲み上げ期間は191日(2017年4月25日〜2017年11月2日)であり、揚水量は110〜120m
3/dayとした。
汲み上げ開始から191日後、水中ポンプ10とともに揚水管20を引き上げ、揚水管20を構成する配管1本当たりのスケール蓄積量を計量した。また、半年換算のスケール蓄積量を算出した。結果を
図8に示す。
【0044】
(実施例1)
担体として、枕用のストローチップの2L(容量)を洗濯用ネットに充填したものを2つ用意した。揚水管20を十分に洗浄した後、
図7に示すように、担体32が地下59mおよび地下64mに位置するように、担体32を揚水管20にワイヤーで縛り付けて固定した。担体32の外径は100mmであった。水中ポンプ10とともに揚水管20を井戸管104に挿入し、設置した。
揚水管20に担体32を取り付けた状態で地下水の汲み上げを行った。汲み上げ期間は106日(2017年11月3日〜2018年2月17日)であり、揚水量は110〜120m
3/dayとした。
【0045】
原水槽に貯留された地下水中の鉄濃度および溶存酸素濃度を定期的に測定した。結果を
図9に示す。汲み上げ開始直後は、溶存酸素濃度が1.3mg/Lであったが、それ以降は0.6〜0.7mg/L程度に低下した。溶存酸素濃度が低下するとともに、鉄濃度が上昇しており、地下水中の鉄が、鉄スケールにならずに二価の鉄イオンの状態で原水槽に導入されていることがわかる。
【0046】
汲み上げ開始から106日後、水中ポンプ10とともに揚水管20を引き上げた。担体32においては菌が繁殖していた。揚水管20を構成する配管1本当たりのスケール蓄積量を計量した。また、半年換算のスケール蓄積量を算出した。結果を
図8に示す。
担体32の有無で、配管1本(5m)当たりの半年換算のスケール蓄積量に2.6倍の差が見られた。
【0047】
以上のように、担体32を地下水に浸漬させることによって、担体32の表面に菌が繁殖して菌担持担体(溶存酸素移動抑制部材)となり、地下水中の溶存酸素濃度の増加が抑えられ、鉄スケールの発生が抑えられた。そして、配管洗浄までの期間が単純計算で2.6倍になるため、メンテナンスの費用削減につながると予想される。