【解決手段】破面解析装置1であって、解析対象の樹脂成形体の破面を撮像した対象破面画像を取得する取得部11と、破面画像と破壊原因であるラベルとを教師データとする機械学習によって生成された学習済みモデルに、前記対象破面画像を入力して前記樹脂成形体の破壊原因を特定する解析部13と、を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る破面解析システム全体構成図である。本実施形態の破面解析システムは、樹脂成形体(樹脂成型品)の破面画像から破壊原因を特定する。図示する破面解析システムは、破面解析装置1と、モデル生成装置2と、利用者端末3とを備える。これらの装置はネットワークに接続され、ネットワークを介して相互に通信を行うことができる。ネットワークは、例えばLAN、インターネット等である。
【0016】
利用者端末3は、破面解析を要求する利用者が使用する端末装置である。利用者端末3は、利用者の指示を受け付けて、走査型電子顕微鏡4(以下、「SEM」という)により取得した樹脂成形体の破面画像を含む解析要求を、破面解析装置1に送信する。また、利用者端末3は、解析結果として破壊原因を破面解析装置1から受信する。利用者は、SEM4が撮像および出力した樹脂成形体の破面画像を、例えばUSBメモリ等の記録媒体に格納し、当該記録媒体を用いて利用者端末3に入力して、破面解析装置1に送信する。SEM4が通信機能を有する場合は、SEM4を利用者端末3として用いてもよい。ここで、SEM4は、樹脂成形体の破面を解析に十分な倍率や分解能で観察できるものであれば走査型電子顕微鏡に限定されず、実体顕微鏡や金属顕微鏡といった光学顕微鏡、あるいは高倍率のデジタルカメラなども利用することができる。
【0017】
なお、利用者端末3は、破面解析装置1と同じ敷地(例えば、工場、研究所等)に設置され、前記敷地内の技術者が使用する端末であってもよい。あるいは、利用者端末3は、破面解析装置1から離れた場所にあり、樹脂成形体を製造する加工業者、樹脂成形体を購入した顧客、樹脂材料または樹脂成形体を販売する営業部員などが使用する端末であってもよい。
【0018】
破面解析装置1は、利用者端末3からの要求に応じて、樹脂成形体の破面画像を解析し、樹脂成形体の破壊原因を特定する。図示する破面解析装置1は、取得部11と、変更部12と、解析部13と、出力部14と、モデル記憶部15とを有する。
【0019】
取得部11は、利用者端末3から送信された、解析対象の樹脂成形体の破面を撮像した破面画像(対象破面画像)を取得する。変更部12は、取得した破面画像を、所定の画素数の画像にサイズ変更(リサイズ)する。解析部13は、破面画像と破壊原因であるラベルとを教師データとする機械学習によって生成された学習済みモデルに、破面画像を入力して樹脂成形体の破壊原因を特定する。出力部14は、解析部13が特定した破壊原因を出力する。具体的には、出力部14は、特定した破壊原因を利用者端末3に送信する。
【0020】
モデル記憶部15には、モデル生成装置2により生成された学習済みモデルが記憶される。学習済みモデルは、破面画像が入力されると、破壊原因を出力するように学習されたモデルである。本実施形態では、学習済みモデルは、疲労破壊、脆性破壊、延性破壊などの複数の破壊原因の各確率を出力する。
【0021】
モデル生成装置2は、データ取得部21と、学習部22と、データ記憶部23と、モデル記憶部24とを備える。データ取得部21は、樹脂成形体の破面を撮像した破面画像と、当該樹脂成形体の破壊原因であるラベルとを対応付けた教師データを、データ記憶部23から取得する。学習部22は、複数の教師データを用いた機械学習によって、樹脂成形体の破壊原因を特定するための学習済みモデルを生成する。
【0022】
次に、樹脂成形体の破壊原因について説明する。本実施形態では、破壊原因として、「疲労破壊」、「延性破壊」、「脆性破壊」の3つの種類を想定する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、これ以外の破壊原因を特定することとしてもよい。
図2Aから
図2Cに示すように、破壊原因によって破面の状況が異なる。
【0023】
図2Aは、疲労破壊による破面画像の例である。疲労破壊は、負荷の繰り返しにより生じる破壊である。疲労破壊による破面画像には、縞状の模様(ストライエーション・パターン)が現れている。
図2Aの右の画像は、左の破面画像の点線で囲んだ領域を拡大した拡大図である。
【0024】
図2Bは、延性破壊による破面画像の例である。延性破壊は、静的な荷重によって生じる破壊である。低速で荷重をかけた場合、樹脂はネッキングや白化を伴いながら塑性変形して破壊に至るため、破面画像には、樹脂が伸びたような部分が現れている。
図2Bの右の画像は、左の破面画像の点線で囲んだ領域を拡大した拡大図である。
【0025】
図2Cは、脆性破壊による破面画像の例である。脆性破壊は、衝撃的な力により生じる破壊である。破面画像には、破壊の起点から放射状に模様が現れており、断面はうろこ状の模様を示している。
図2Cの右の画像は、左の破面画像の点線で囲んだ領域を拡大した拡大図である。
【0026】
次に、モデル生成装置2が行う学習済みモデルの生成処理について説明する。
【0027】
図3は、学習済みモデルの生成処理(機械学習処理)のフローチャートである。まず、データ取得部21は、教師データとして、破面画像と、当該破断画像の破断原因(ラベル)とを対応付けた教師データをデータ記憶部23から取得する(S11)。データ記憶部23には、あらかじめ複数の教師データが記憶されているものとする。学習部22は、取得した教師データを用いて機械学習を行い、樹脂成形体の破壊原因を特定するための学習済みモデルを生成および更新する(S12)。
【0028】
図4は、本実施形態の学習済みモデルの一例を示す。学習済みモデルは、ニューラルネットワークと、パラメータ(重み付け値、バイアス)とを含む。機械学習は、ニューラルネットワークのパラメータを最適化する処理である。学習前は、パラメータには、初期値が設定されている。本実施形態では、ニューロン(パーセプトロン、ノード)を組み合わせて構成したニューラルネットワークにより、機械学習を行う。具体的には、教師データに含まれる破面画像のデータと、ラベルとの組をニューラルネットワークに与え、ニューラルネットワークの出力がラベルと同じになるように、各ニューロンの重み付け値と、バイアスとを変更しながら学習を繰り返す。このようにして、教師データの破面画像を学習し、破面画像から破壊原因を推定するための学習済みモデルを生成する。
【0029】
図示するニューラルネットワークは、入力層と、中間層と、出力層とを備え、各層はニューロンにより構成される。なお、図示する例では、中間層は1層であるが、高度な画像認識を行うために複数の層で構成されていてもよい。
【0030】
入力層の各ニューロンには、破面画像の各画素の画素値が入力される。本実施形態では、150×150画素(22500画素)の破面画像を用いるものとする。この場合、入力層のニューロンの数は22500個である。また、本実施形態では、破壊原因は「疲労破壊」、「延性破壊」、「脆性破壊」のいずれかであると想定している。したがって、図示する出力層は、3つのニューロンから構成される。出力層のニューロンの数は、想定される破壊原因の数に応じて設定される。
【0031】
ニューラルネットワークでは、各ニューロンの出力は、次層の全てのニューロンへ入力される。各ニューロンの出力値yは、以下の式により表される。
【0032】
y=(x1×w1)+(x2×w2)+・・・+(xn×wn)+b
「xn」は前の層のn番目のニューロンからの入力値、「wn」はxnに対する重み付け値、「b」はバイアスを示す。
【0033】
S12では、学習部22は、誤差逆転伝播法などによる機械学習により、各層の重み付け値wnとバイアスbとを更新する。具体的には、学習部22は、ニューラルネットワークの入力層に破面画像の各画素値を入力して演算を行い、出力層の各ニューロンの出力値と、当該破面画像に対応するラベルとの誤差を出力し、当該誤差が小さくなる(0に近づく)ように、各層の重み付け値wnとバイアスbとを更新する。
【0034】
そして、学習部22は、機械学習を終了するか否かを判定する(S13)。機械学習の終了条件としては、例えば、あらかじめ設定した数の教師データで機械学習を繰り返した場合に、学習部22は、機械学習を終了するようにしてもよい。例えば、破壊原因ごとに、所定の数の教師データ(破面画像およびラベル)を用意し、当該教師データを用いて機械学習を繰り返す。また、終了条件として、ラベルと出力層の出力との誤差が所定値以下になった場合に、学習部22は、機械学習を終了するようにしてもよい。
【0035】
機械学習を終了しないと判定した場合(S13:NO)は、モデル生成装置2は、S11に戻り、以降の処理を繰り返し行う。機械学習を終了すると判定した場合(S13:YES)は、学習部22は、生成した学習済みモデルをモデル記憶部24に出力して記憶する。また、学習部22は、生成した学習済みモデルを、ネットワークを介して破面解析装置1に送信する(S14)。これにより、破面解析装置1のモデル記憶部15には、モデル生成装置2が生成した学習済みモデルが記憶される。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の学習済みモデルは、解析対象の樹脂成形体の破面を撮像した破面画像に基づいて、樹脂成形体の破壊原因を特定するようにコンピュータを機能させるための学習済みモデルであり、破面画像と、破壊原因であるラベルとを対応付けた教師データを用いた機械学習により、破面画像の画素値が入力層に入力されると、出力層が破壊原因の確率を出力するように重み付け値が学習されたものである。また、学習済みモデルは、入力層に入力された破面画像の画素値に対し、学習された前記重み付け値に基づく演算を行い、出力層から破壊原因の確率を出力するように、破面解析装置1を機能させる。
【0037】
次に、破面解析装置1が行う破面解析処理について説明する。
【0038】
図5は、破面解析処理のフローチャートである。取得部11は、利用者端末3から送信された、樹脂成形体の破面を撮像した破面画像を取得する(S21)。
【0039】
そして、変更部12は、取得した破面画像のリサイズを行う(S21)。具体的には、変更部12は、取得した破面画像の大きさ(サイズ)を学習済みモデルの教師データで用いた破面画像と同じ大きさ(所定のサイズ)となるように変更する。モデル記憶部15に記憶された学習済みモデルのニューラルネットワーク(入力層)は、教師データの破面画像の画素数と同じ数のニューロンを備える。そのため、画素数が異なる破面画像が入力されると対応できないため、変更部12は、前処理として、取得した破面画像を教師データの破面画像と同じ画素数(例えば、150×150画素)にリサイズする。
【0040】
例えば、変更部12は、取得した破面画像が教師データの破面画像より大きい場合は、隣接する画素の画素値の平均を用い、取得した破面画像が教師データの破面画像より小さい場合は、隣接する画素の間に新たな画素を補間して、リサイズを行う。また、取得した破面画像の縦横比が、教師データの破面画像の縦横比と異なる場合についても、教師データの破面画像と同じ縦横比となるように、取得した破面画像をリサイズする。
【0041】
これにより、利用者が、SEM4の仕様または設定により様々な画像サイズの破面画像を取得して送信した場合であっても、破面解析装置1は、当該破面画像に基づいた破面解析を行うことができる。なお、取得した破面画像と、教師データの破面画像とが同じ大きさの場合、リサイズ処理は行わない。
【0042】
そして、解析部13は、リサイズ後の破面画像を用いて、破壊原因を特定(判定)する(S23)。具体的には、解析部13は、モデル記憶部15に記憶された学習済みモデル(ニューラルネットワークおよびパラメータ)を読み出し、リサイズした破面画像に含まれるn個の画素値を入力層のニューロンにそれぞれ入力して、学習済みモデルの演算を行う。すなわち、入力層に入力された各画素が、学習済みモデルのパラメータを用いて演算されながら中間層および出力層へと出力され、最終的に出力層の各ニューロンから破壊原因の特定結果が出力される。
図4に示す例では、疲労破壊の確率がm1%、脆性破壊の確率がm2%、延性破壊の確率がm3%で出力される。なお、m1%と、m2%と、m3%の合計は、100%である。解析部13は、学習済みモデルが出力した各破壊原因の確率に基づいて、破壊原因を特定する。例えば、解析部13は、最大の確率を有する破壊原因を特定する。そして、出力部14は、解析部13が特定した破壊原因を、利用者端末3に送信する(S24)。
【0043】
図6は、利用者端末3のディスプレイに表示される、破面解析用の画面の一例を示すものである。図示する例では、1つの画面を入力画面および出力画面として用いる。利用者は、画面の参照ボタン81を用いて利用者端末3の記憶部に格納されたデータの中から所望の破面画像(画像ファイル)を選択し、アップロードボタン82をクリックすることで選択した破面画像を解析対象として決定し、解析ボタン83をクリックする。これにより、利用者端末3は、利用者に選択された破面画像を含む破面解析要求を、破面解析装置1に送信する。
【0044】
そして、
図5に示す破面解析処理が終了すると、画面の解析結果の表示領域に84に、特定した破壊原因(図示する例では、「脆性破壊」)が表示される。なお、図示する画面例では、解析結果として、最大の確率の破壊原因を1つ表示しているが、学習済みモデルが出力した複数の破壊原因とその確率を、解析結果としても表示してもよい。また、解析結果については、別途指定のアドレスに電子メール等で送信して他の端末から確認したり、指定のURLやSNSサイト等にアップロードしてウェブブラウザやアプリ等で閲覧したりできるようにしてもよい。
【0045】
以上説明した本実施形態の破面解析装置1は、解析対象の樹脂成形体の破面を撮像した対象破面画像を取得する取得部11と、破面画像と破壊原因であるラベルとを教師データとする機械学習によって生成された学習済みモデルに、前記対象破面画像を入力して前記樹脂成形体の破壊原因を特定する解析部13と、を有する。これにより、本実施形態では、経験および知識を有する熟練した技術者でなくても、破壊された樹脂成形体の破面画像を取得するだけで、容易に短時間で精度の高い破壊原因を特定(推定)することができる。これにより、利用者の利便性を向上することができる。
【0046】
<第2の実施形態>
本実施形態の破面解析システムは、
図1に示す第1の実施形態と同様に、破面解析装置1と、モデル生成装置2と、利用者端末3とを備える。第1の実施形態では破面画像から破壊原因を特定したが、第2の実施形態では、破面画像に加えて樹脂成形体が破壊する要因となる周辺情報を教師データに含める。以下に、本実施形態のモデル生成装置2が使用する教師データについて説明する。
【0047】
図7は、本実施形態の教師データの例である。図示する教師データは、破壊原因であるラベルと、破面画像の画像データと、周辺情報とを含む。周辺情報は、樹脂成形体に関する情報であり、樹脂成形体が破壊する要因となる情報である。具体的には、周辺情報は、例えば、組成情報(材質)、成形条件、使用環境、形状等である。組成情報については、ここでは樹脂グレードを用いる。
【0048】
図8は、樹脂グレードDB(データベース)の例である。樹脂グレードDBには、樹脂グレード毎に、ベース樹脂の種類と割合、少なくとも1つの添加剤などの種類と割合が規定され、樹脂成形体の組成情報を表すものである。本実施形態のモデル生成装置2のデータ記憶部23には、
図7の教師データ、および、
図8の樹脂グレードDBが記憶される。
【0049】
次に、
図3を参照して、本実施形態のモデル生成装置2が行う学習済みモデルの生成処理について説明する。まず、データ取得部21は、教師データとして、データ記憶部23から教師データを取得する(S11)。本実施形態では、データ取得部21は、教師データの樹脂グレードを、樹脂グレードDBを用いて、対応する組成情報に変換する。そして、学習部22は、樹脂グレードを組成情報に変換した教師データを用いて機械学習を行い、樹脂成形体の破壊原因を特定するための学習済みモデルを生成および更新する(S12)。
【0050】
図9は、本実施形態の学習済みモデルの一例を示す。ここでは、第1の実施形態の学習済みモデル(
図4)との相違点を中心に説明し、重複する記載は省略する。なお、図示する例では、ニューラルネットワークの中間層は1層であるが、高度な画像認識を行うために複数の層で構成されていてもよい。
【0051】
本実施形態のニューラルネットワークは、教師データのデータ群ごとに入力層と中間層とが形成され、データ群ごと中間層の出力が出力層に入力され、出力層が破壊原因の確率を出力するようにパラメータ(重み付け値、バイアス)が学習されたものである。データ群は、カテゴリー毎のデータ集合である。データ群には、破面画像のデータ群と、周辺情報に含まれる複数種類のデータ群(例えば、組成情報のデータ群、成形条件のデータ群、使用環境のデータ群、形状のデータ群等)とがある。
【0052】
図示する例では、データ群Aは破面画像のデータ群であって、破面画像の各画素値が入力層の各ニューロンに入力され、各ニューロンのパラメータを用いた演算結果(出力)が、データ群Aの中間層の各ニューロンに入力される。データ群Aの入力層および中間層は、第1の実施形態の学習済みモデルと同様である。データ群Bは組成情報のデータ群であって、組成情報の各データ(各組成物の割合)が、入力層の各ニューロンに入力され、各ニューロンのパラメータを用いた演算結果が、データ群Bの中間層の各ニューロンに入力される。そして、データ群ごとの中間層の全てのニューロンの出力が、パラメータを用いた演算を経て出力層の各ニューロンに入力され、出力層の各ニューロンが対応する破壊原因の確率を出力する。
【0053】
このように、データ群ごとに入力層と中間層とを形成することで、データの性質に応じた学習済みモデルを生成することができ、高い解析精度を実現することができる。すなわち、データ群ごとにデータの性質(量的データ、カテゴリ)が異なるため、それぞれのデータの性質に応じた中間層を構築し、利用することで、高い解析精度を実現することができる。具体的には、破面画像の画像データについては、画像解析に適したネットワーク構造の中間層を構築し、周辺情報の各種のデータ群についても、各データ群の性質に適した中間層を構築する。なお、データ群ごとに、中間層を構成する層の数が異なってもよい。
【0054】
学習部22は、第1の実施形態と同様に、誤差逆転伝播法などによる機械学習により、各層のパラメータを更新する。そして、学習部22は、機械学習を終了するか否かを判定し(S13)、機械学習を終了しないと判定した場合(S13:NO)は、S11に戻り以降の処理を繰り返し行う。終了すると判定した場合(S13:YES)は、学習部22は、生成した学習済みモデルをモデル記憶部24に記憶し、生成した学習済みモデルを破面解析装置1に送信する(S14)。これにより、破面解析装置1のモデル記憶部15には、学習済みモデルが記憶される。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の学習済みモデルは、解析対象の樹脂成形体の破面を撮像した破面画像に基づいて、樹脂成形体の破壊原因を特定するようにコンピュータを機能させるための学習済みモデルであり、破面画像と、破壊の要因となる周辺情報とを含む複数のデータ群と、破壊原因であるラベルとを対応付けた教師データを用いた機械学習により生成される。そして、学習済みモデルのニューラルネットワークは、データ群ごとに入力層と中間層とが形成され、データ群ごとの中間層の出力が出力層に入力され、出力層が破壊原因の確率を出力するように重み付け値が学習されたものである。また、学習済みモデルは、入力層に入力された複数のデータ群に対し、学習された重み付け値に基づく演算を行い、出力層から破壊原因の確率を出力するように、破面解析装置1を機能させる。
【0056】
次に、
図5を参照して、本実施形態の破面解析装置1が行う破面解析処理を説明する。ここでは、第1の実施形態の破面解析処理との違いを中心に説明する。取得部11は、利用者端末3から送信された、樹脂成形体の破面を撮像した破面画像および周辺情報を取得する(S21)。
【0057】
図10は、利用者端末3のディスプレイに表示される、破面解析用の画面の一例を示すものである。本実施形態の画面は、周辺情報の入力欄(入力領域)85が設定されている点において、第1の実施形態の画面と異なる。利用者は、画面の参照ボタン81を用いて利用者端末3の記憶部に格納されたデータの中から所望の破面画像(画像ファイル)を選択し、アップロードボタン82をクリックすることで選択した破面画像を解析対象として決定する。そして、利用者は、周辺情報の各入力欄85に、解析対象の樹脂成形体の周辺情報を入力する。なお、図示する例では、組成情報については樹脂グレードを入力する。これにより、利用者の入力負荷および入力ミスを軽減することができる。利用者は、破面画像の選択および周辺情報の入力後、解析ボタン83をクリックする。これにより、利用者端末3は、利用者に選択された破面画像および周辺情報を含む破面解析要求を、破面解析装置1に送信し、破面解析装置1の取得部11は破面画像および周辺情報を受信する。
【0058】
取得部11は、受信した周辺情報の樹脂グレードを、樹脂グレードDBを用いて組成情報に変換する。なお、本実施形態の破面解析装置1は、図示しない記憶部に樹脂グレードDBを記憶しているものとする。そして、変更部12は、取得した破面画像のリサイズを行い(S22)、解析部13は、リサイズ後の破面画像および周辺情報を用いて破壊原因を特定する(S23)。
【0059】
具体的には、解析部13は、モデル記憶部15に記憶された学習済みモデル(ニューラルネットワークおよびパラメータ)を読み出し、データ群ごとに入力層のニューロンに入力して、学習済みモデルの演算を行う。本実施形態では、入力層および中間層は、データ群ごとに演算され、データ群ごとの中間層が出力層へと出力され、最終的に出力層の各ニューロンから対応する破壊原因の特定結果が出力される。
【0060】
解析部13は、学習済みモデルが出力した各破壊原因の確率に基づいて、破壊原因を特定する。例えば、解析部13は、最大の確率を有する破壊原因を特定する。そして、出力部14は、解析部13が特定した破壊原因を、利用者端末3に送信する(S24)。
【0061】
これにより、利用者端末3の画面の解析結果の表示領域に84に、特定した破壊原因(図示する例では、「脆性破壊」)が表示される。なお、
図10の画面例では、解析結果として、最大の確率の破壊原因を1つ表示しているが、学習済みモデルが出力した複数の破壊原因とその確率を、解析結果としても表示してもよい。
【0062】
以上説明した本実施形態の破面解析装置1では、解析対象の樹脂成形体の破面を撮像した対象破面画像および破壊の要因となる周辺情報を取得する取得部と、破面画像と周辺情報と破壊原因であるラベルとを教師データとする機械学習によって生成された学習済みモデルに、対象破面画像および周辺情報を入力して樹脂成形体の破壊原因を特定する解析部と、を有する。これにより、本実施形態では、樹脂成形体の周辺情報を考慮したうえで、容易かつ短時間に高い精度で破壊原因を特定(推定)することができる。すなわち、破面画像だけでは破壊原因の判断が難しい場合であっても、破壊した樹脂成形体の組成などの周辺情報を加味することで、総合的に破壊原因を解析し、高い精度で破壊原因を特定することができる。
【0063】
なお、上記説明した破面解析装置1およびモデル生成装置2は、例えば、CPU(Central Processing Unit、プロセッサ)と、メモリと、ストレージ(HDD:Hard Disk Drive、SSD:Solid State Drive)と、通信装置と、入力装置と、出力装置とを備える汎用的なコンピュータシステムを用いることができる。このコンピュータシステムにおいて、CPUがメモリ上にロードされた所定のプログラムを実行することにより、各装置の各機能が実現される。例えば、破面解析装置1およびモデル生成装置2の各機能は、破面解析装置1用のプログラムの場合は破面解析装置1のCPUが、モデル生成装置2用のプログラムの場合はモデル生成装置2のCPUが、それぞれ実行することにより実現される。利用者端末3についても、CPU、メモリ、通信装置などを備える汎用的なコンピュータシステム(例えばPC等)を用いることができる。
【0064】
また、破面解析装置1用のプログラム、および、モデル生成装置2用のプログラムは、HDD、SSD、USBメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、MOなどのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶することも、ネットワークを介して配信することもできる。また、モデル生成装置2は、機械学習の演算量が多いためGPU(Graphics Processing Unit)を備え、高速処理を行うこととしてもよい。
【0065】
また、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。例えば、以下の変形例がある。
【0066】
<変形例1>
上記第1の実施形態では、学習済みモデルを用いて、破面画像から破壊原因を特定することとしたが、テンプレートマッチングを用いて破面画像から破壊原因を特定してもよい。この場合、破面解析装置は、学習済みモデルの代わりに、破壊原因毎に、破面画像の中で特徴的な部分を示す部分画像を、テンプレート画像として記憶部に記憶する。テンプレート画像には、例えば、
図2A〜
図2Cに示す、各破面画像の点線で囲んだ領域の部分画像を用いることができる。
【0067】
破面解析装置1は、利用者端末3から送信された破面画像を、記憶部に記憶された複数のテンプレート画像のそれぞれと、テンプレートマッチングを行い、類似度を算出する。テンプレートマッチングでは、入力された画像の一部分とテンプレート画像との類似度を算出し、類似度が最も大きい場所を探索し、当該箇所における類似度(最大類似度)を出力する。テンプレートマッチングの類似度の算出方法には、SSD(Sum of Squared Difference)、SAD(Sum of Absolute Difference)、NCC(Normalized Cross Correlation)などがある。
【0068】
そして、破面解析装置1は、テンプレートごとに出力された類似度に応じて破壊原因を特定する。すなわち、破面解析装置1は、類似度が最も高いテンプレート画像に対応する破壊原因を、受信した破面画像の破壊原因として特定する。
【0069】
このように、変形例2の破面解析装置は、破面画像の中で特徴的な部分を示す部分画像を、破壊原因毎にテンプレート画像として記憶する記憶部と、解析対象の樹脂成形体の破面を撮像した対象破面画像を取得する取得部と、前記対象破面画像と、前記記憶部に記憶された複数の前記テンプレート画像のそれぞれとテンプレートマッチングを行って前記テンプレート画像毎の類似度を算出し、前記類似度に基づいて前記樹脂成形体の破壊原因を特定する解析部と、を有する。すなわち、変形例2の破面解析装置は、
図1の破面解析装置1のモデル記憶部15に学習済みモデルを記憶する代わりに、破壊原因毎のテンプレート画像が記憶されている。
【0070】
<変形例2>
上記第1および第2の実施形態の破面解析システムは、ネットワークを介して利用者端末3から送信された破面画像を受信し、解析結果である破壊原因を利用者端末3に送信することとした。しかしながら、本発明は、利用者がUSBメモリ等の記録媒体等を用いて直接、破面解析装置1に破面画像を入力することとしてもよい。また、解析結果は、ネットワークを介して利用者端末3に送信してもよいし、破面解析装置1が備える出力装置(ディスプレイ、プリンタ等)に出力することとしてもよい。
【0071】
<変形例3>
上記変形例2は、利用者がUSBメモリ等の記録媒体等を用いて、破面解析装置1に破面画像を入力することとした。しかしながら本発明では、破面解析装置1とSEM4を一体的に構成し、SEM4が撮像および出力した樹脂成形体の破面画像を、破面解析装置1に直接入力することとしてもよい。また、解析結果は、変形例2と同様にネットワークを介して利用者端末3に送信してもよいし、破面解析装置1が備える出力装置(ディスプレイ、プリンタ等)に出力することとしてもよい。後者の場合、記録媒体を介したデータの移動と、利用者端末3を介したデータの送信とを省略することができる。
【0072】
<変形例4>
上記第1の実施形態、第2の実施形態および変形例1〜3では、利用者端末3は、破面解析装置1とは別の構成としてネットワークを介して接続することとした。しかしながら本発明では、利用者端末3を破面解析装置1および/またはSEM4と同一の筐体に一体的に組み込むこととしてもよい。
【0073】
<変形例5>
上記第2の実施形態では、取得部11は、受信した周辺情報の樹脂グレードを、樹脂グレードDBを用いて組成情報に変換することとした。しかしながら本発明では、ベース樹脂や添加剤などの組成情報を個々に入力してもよい。このためには例えば、
図10に示す周辺情報の入力欄85の樹脂グレード欄において、選択肢(ドロップダウンリスト)の1つに「組成情報入力」を設定しておく。そして、ユーザが「組成情報入力」を選択すると、組成情報の入力欄が表示されるようにしておき、そこでユーザが入力した組成情報が、周辺情報として破面解析装置1に送信されるようにしておけばよい。このように利用者が個別に組成情報を入力することにより、樹脂グレードDBに登録のない樹脂形成体についても、周辺情報として組成情報を加味した解析が可能となる。
【0074】
<変形例6>
上記変形例5では、あらかじめ把握済の組成情報を個々に入力することとした。しかしながら本発明では、SEM4、利用者端末3、破面解析装置1のいずれか1つ以上と一体で、またはそれらとは別で、組成分析装置をさらに備えることとしてもよい。組成分析装置は、解析対象の樹脂成形体の組成分析を、破面の撮像と同時および/または撮像の前および/または撮像の後に行い、そこで得られた組成情報を、周辺情報として破面解析装置1に入力するようにしてもよい。この場合、破面解析装置1の取得部11は、組成情報を組成分析装置の解析結果を用いて取得する。
【0075】
ここで用いる組成分析装置としては、例えば赤外分光分析装置、核磁気共鳴装置、質量分析装置、X線回折装置、蛍光X線分析装置、原子発光分析装置、各種クロマトグラフィ等、公知の組成分析装置の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。この場合、使用する装置の組成分析方法に応じた組成情報のデータ群を含む教師データをモデル生成装置2に入力することで、使用する組成分析方法に応じた学習済みモデルを生成することができる。これにより、組成情報が不明確な樹脂成形体においても、より精度の高い解析が可能となる。
【0076】
<変形例7>
上記第1および第2の実施形態や変形例1〜6では、利用者が破面の特定箇所を選択して撮影した画像データを破面画像として入力することとした。しかしながら本発明では、SEM4、利用者端末3、破面解析装置1のいずれか1つ以上において、破面の特徴的な部位を特定する特徴部特定機能を持たせ、当該箇所の破面画像が自動的に取得および入力されるようにしてもよい。特徴的な部位の破面画像は、樹脂成形体の破面全体を撮影した画像から、特定の範囲を選択および拡大して取得してもよいし、樹脂成形体の破面を部分ごとに拡大して撮影した複数枚の画像から、特定の画像を選択して取得してもよい。ここで、特徴部特定機能における特徴的な部位の選択については、破壊原因の特定と同様に、機械学習により生成したモデルを用いて特定させてもよいし、あらかじめ記憶させた特徴的な部位のテンプレートとの類似度から特定させてもよい。なお、入力する破面画像としては、特徴部特定機能が選択した画像をそのまま用いてもよいし、特徴部特定機能が絞り込んだ画像から適切な画像を利用者が選択して用いてもよいし、利用者が範囲や枚数を絞り込んだ画像から特徴部特定機能が選択した画像を用いてもよい。