【実施例】
【0030】
以下、試験例として本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は試験例によって限定されるものではない。
【0031】
(試験例1 アルコール依存症モデルマウスを用いたγ−オリザノールによるエタノール嗜好性試験の評価)
アルコール依存症モデルマウスにγ−オリザノール含有飼料を摂餌させ、エタノール嗜好性の変化を検討した。
【0032】
アルコール嗜好性が高いことが報告されているマウス系統であるC57BL/6Jマウス(11週齢、雄)の飼育において、飲水ボトル内のエタノール濃度を5%から20%へと上昇させてエタノール摂取量を増加させ、2ヶ月間でエタノール嗜好性を定常的に上昇させたマウスを樹立した(EtOH群)。エタノール嗜好性は、水及び20%エタノールゼリー(それぞれ3%スクロース含有)をオープンフィールド(50×50×50cmのプラスチック製のボックス)の対角線上に設置し、各群のマウスを1匹ずつ投入し、30分間で摂食するゼリー餌の重量を測定することで評価した。当初のエタノールゼリーの重量に対する摂食されたエタノールゼリーの重量の割合をエタノール嗜好性として定義した。
【0033】
EtOH群に加え、エタノール嗜好性の増加が認められた後に1%γ−オリザノール含有飼料を摂食した群(EtOH+Orz群)、エタノール投与と同時に1%γ−オリザノール含有飼料を摂餌した群(EtOH+int.Orz群)、及び滅菌水を飲水投与した対照としてのコントロール群についてエタノール嗜好性を評価した。
【0034】
(結果)
エタノール投与開始から2ヶ月後及び3.5ヶ月後のエタノール嗜好性を
図1に示す。コントロール群に比べて、EtOH群及びEtOH+Orz群のエタノール嗜好性はエタノール投与開始2ヶ月で有意に上昇した。2ヶ月目より、γ−オリザノール含有飼料を摂餌させたEtOH+Orz群では、飼料交換1.5ヶ月でエタノール嗜好性が有意に減少した。
図2に示すように、EtOH+int.Orz群では、通常アルコール嗜好性が確立する2ヶ月を経てもエタノール嗜好性は増加しなかった。これらの結果から、1%γ−オリザノール含有飼料の摂餌によって、エタノール嗜好性の改善及び予防効果が得られることが示された。
【0035】
(試験例2 アルコール依存症モデルマウスを用いたγ−オリザノールによる腹側被蓋野におけるドパミンシグナルの評価)
γ−オリザノール含有飼料を摂餌し、エタノール嗜好性が減少したマウスの脳のVTAにおけるドパミン合成律速酵素であるTHの発現量の変化を検討した。また、VTAドパミンニューロンの投射先であるNAcにおけるドパミンの含有量をHPLC−電気化学検出器を用いて測定した。
【0036】
コントロール群、EtOH群、EtOH+Orz群及びEtOH+int.Orz群それぞれのマウスからVTAを採取した。VTAからタンパク質を抽出し、ウエスタンブロット法を用いてTHタンパク質の発現を比較した。なお、神経核における内在性コントロールとしてβ−アクチンタンパク質の発現量を決定し、THタンパク質の発現量をβ−アクチンタンパク質の発現量で除して得られる値を発現量の比較に用いた。
【0037】
コントロール群、EtOH群及びEtOH+Orz群それぞれのマウスのNAcから同体積組織片を採取し、過塩素酸バッファーにてドパミンを抽出した。逆相カラムと電気化学検出器を装備したHPLC装置(エイコム社製)を用いてドパミンを定量した。
【0038】
(結果)
コントロール群におけるTHタンパク質の発現量を1としたEtOH群、EtOH+Orz群及びEtOH+int.Orz群のTHタンパク質の発現量の相対値を
図3に示す。コントロール群に比べ、EtOH群におけるTHタンパク質の発現量は低下し、EtOH+Orz群では、THタンパク質の発現量が回復する傾向が見られた。EtOH群におけるTHタンパク質の発現量に比べ、EtOH+int.Orz群では有意にTHタンパク質の発現増強がみられた。
図4は、NAcにおけるドパミン含有量を示す。EtOH群に比べ、EtOH+Orz群ではドパミン含有量の増加傾向がみられた。
【0039】
これらの結果から、報酬系制御領域であるVTAにおいて、エタノール摂取により低下したTHタンパク質の発現量がγ−オリザノール含有飼料の摂餌によって増大することで、NAcにおけるドパミン含有量が増加し、エタノール嗜好性の改善及び予防効果が得られることが示された。
【0040】
(試験例3 アルコール依存症モデルマウスを用いたγ−オリザノールによる側坐核及び前頭前野におけるGAD65発現量の評価)
γ−オリザノール含有飼料を摂餌し、エタノール嗜好性が減少したマウスの報酬系制御領域NAc及び嫌悪制御領域mPFCにおけるGAD65の発現量の変化を検討した。GAD65によって、グルタミン酸が分解されGABAが生成する。
【0041】
コントロール群、EtOH群、EtOH+Orz群及びEtOH+int.Orz群それぞれのマウスからNAc及びmPFCを採取した。NAc及びmPFCからタンパク質を抽出し、ウエスタンブロット法を用いてGAD65タンパク質の発現を比較した。なお、神経核におけるβ−アクチンタンパク質の発現量を決定し、GAD65タンパク質の発現量をβ−アクチンタンパク質の発現量で除して得られる値を発現量の比較に用いた。
【0042】
(結果)
コントロール群におけるGAD65タンパク質の発現量を1としたEtOH群、EtOH+Orz群及びEtOH+int.Orz群のGAD65タンパク質の発現量の相対値を
図5に示す。VTAからのドパミン神経の投射先であるNAcにおけるGAD65タンパク質の発現量は、EtOH群に比べ、EtOH+Orz群及びEtOH+int.Orz群で有意に減少した。
図6は、mPFCにおけるGAD65タンパク質の発現量の相対値を示す。mPFCでは、GAD65タンパク質の発現量が、EtOH群に比べ、EtOH+Orz群で有意に増加した。
【0043】
これらの結果から、報酬系制御領域であるNAcにおいて、エタノール摂取により上昇したGAD65の発現がγ−オリザノール含有飼料の摂餌により有意に減少することでエタノールに対する嗜好性が抑制されたと考えられる。一方、嫌悪制御領域であるmPFCにおいて、GAD65の発現が上昇し、エタノールに対する嫌悪行動が増加したと考えられる。
【0044】
(試験例4 アルコール依存症モデルマウスを用いたγ−オリザノールによる腹側被蓋野におけるAChE発現量の評価)
γ−オリザノール含有飼料を摂餌し、エタノール嗜好性が減少したマウスのVTAにおけるAChEの発現量の変化を検討した。
【0045】
コントロール群、EtOH群、EtOH+Orz群及びEtOH+int.Orz群それぞれのマウスのVTAからタンパク質を抽出し、ウエスタンブロット法を用いてAChEタンパク質の発現を比較した。なお、神経核におけるβ−アクチンタンパク質の発現量を決定し、AChEタンパク質の発現量をβ−アクチンタンパク質の発現量で除して得られる値を発現量の比較に用いた。
【0046】
(結果)
コントロール群におけるAChEタンパク質の発現量を1としたEtOH群、EtOH+Orz群及びEtOH+int.Orz群のAChEタンパク質の発現量の相対値を
図7に示す。コントロール群に比べ、EtOH群におけるAChEタンパク質の発現量は有意に増加し、EtOH+Orz群及びEtOH+int.Orz群では、AChEタンパク質の発現量がEtOH群に比べて有意に減少した。
【0047】
この結果から、報酬系制御領域であるVTAにおいて、エタノール摂取により上昇したAChEタンパク質の発現がγ−オリザノール含有飼料摂餌により有意に減少することで、VTAにおけるアセチルコリン濃度が上昇し、エタノール嗜好性の改善及び予防効果が得られることが示唆された。
【0048】
(試験例5 γ−オリザノール添加による神経芽細胞株におけるAChE発現量の評価と発現制御機構の検討)
AChEの発現が確認されている神経芽細胞株(SH−SY5Y)を用いて、γ−オリザノール添加によるAChEの発現量の変化を検討した。また、AChE mRNA転写制御機構を検討した。
【0049】
レチノイン酸であらかじめ分化処理を施したSH−SY5Yに、0から60μMまで各濃度のγ−オリザノールを2日間添加投与した。ACh受容体アゴニストであるカルバコール添加2時間後にSH−SY5YからmRNAを抽出精製し、逆転写定量ポリメラーゼ連鎖反応(RT−QPCR)法を用いてAChE mRNAの発現量を比較した。RT−QPCRに用いたフォワードプライマーの塩基配列及びリバースプライマーの塩基配列は、それぞれ配列番号1及び配列番号2に示される。
【0050】
さらに、AChEプロモーター領域における転写制御因子の結合と転写制御機構を解明するため、クロマチン沈降法を用いて、プロモーター領域への転写因子のDNA結合活性を測定し、比較した。40μMγ−オリザノール添加後1時間で細胞を固定し、タンパク質DNA複合体を崩壊しないように抽出し、転写因子特異抗体によりプロモーター領域に結合した転写因子とDNA断片複合体とを回収した。結合ドメイン特異的プライマーを用いて転写因子がAChEプロモーター領域に結合している割合を比較した。
【0051】
AChEプロモーター領域では、転写促進因子Sp1及び転写抑制因子Egr1は同じDNA配列への競合結合により転写調節を担うという報告がある(Getman DK et al.、J.Biol.Chem.、1995年、270:23511−23519及びMutero A et al.、J.Biol.Chem.、1995年、270:1866−1872)。
【0052】
(結果)
γ−オリザノールを添加していない細胞(0μM)におけるAChE mRNAの発現量を1とした場合の各濃度のγ−オリザノールを添加した細胞におけるAChE mRNAの発現量の相対値を
図8に示す。40μM及び60μMのγ−オリザノール添加により、AChE発現量が0μMに比べ有意に減少した。AChE mRNAの発現量は、添加したγ−オリザノールの濃度依存的に減少した。AChEプロモーター領域における転写促進因子Sp1及び転写抑制因子Egr1のDNA結合量を
図9に示す。40μMγ−オリザノールの添加により、Egr1のDNA結合活性が有意に増加した。
【0053】
これらの結果から、γ−オリザノールはAchEプロモーター領域への転写抑制因子Egr1の結合活性を上昇させることで、AChE mRNA発現を抑制することが示された。
【0054】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。