特開2020-96619(P2020-96619A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キユーピー株式会社の特許一覧 ▶ キユーピータマゴ株式会社の特許一覧

特開2020-96619加熱調理用加工液卵、卵調理品及び加工液卵の凝集抑制方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-96619(P2020-96619A)
(43)【公開日】2020年6月25日
(54)【発明の名称】加熱調理用加工液卵、卵調理品及び加工液卵の凝集抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20200529BHJP
【FI】
   A23L15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【公開請求】
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-19601(P2020-19601)
(22)【出願日】2020年2月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501149411
【氏名又は名称】キユーピータマゴ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 翔
(72)【発明者】
【氏名】松岡 勇人
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC10
4B042AD40
4B042AE08
4B042AG07
4B042AH09
4B042AK10
4B042AP30
(57)【要約】      (修正有)
【課題】pHを下げて保存性を向上させているにもかかわらず、保管中に沈殿や凝集が生じず、加熱調理をしたときに未加工の液卵と同様に十分な保形性がある卵調理品を調製することができる、加熱調理用加工液卵、卵調理品及び加工液卵の凝集抑制方法の提供。
【解決手段】原料の液卵を60%以上含有し、タンパク質が8%以上15%以下の加熱調理に用いる加工液卵において、pHが5.8以上6.6以下であり、乳タンパクを含有する、ことを特徴とする加熱調理用加工液卵。原料の液卵を60%以上かつ、タンパク質を8%以上15%以下含有した、加工液卵の保管中の凝集抑制方法であって、pHを5.8以上6.6以下とし、乳タンパクを含有させる、加工液卵の凝集抑制方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の液卵を60%以上含有し、タンパク質が8%以上15%以下の加熱調理に用いる加工液卵において、
pHが5.8以上6.6以下であり、
乳タンパクを含有する、
ことを特徴とする加熱調理用加工液卵。
【請求項2】
乳タンパクの含有量が0.2%以上5%以下である、
ことを特徴とする請求項1記載の加熱調理用加工液卵。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の加熱調理用加工液卵を用いた、
ことを特徴とする卵調理品。
【請求項4】
原料の液卵を60%以上かつ、タンパク質を8%以上15%以下含有した、
加工液卵の保管中の凝集抑制方法であって、
pHを5.8以上6.6以下とし、
乳タンパクを含有させることを特徴とする、
加工液卵の凝集抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理用加工液卵、卵調理品及び加工液卵の凝集抑制方法に関する。具体的には、pHを下げて保存性を向上させているにもかかわらず、保管中に沈殿や凝集が生じず、加熱調理をしたときに未加工の液卵と同様に十分な保形性がある卵調理品を調製することができる、加熱調理用加工液卵、卵調理品及び加工液卵の凝集抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に液卵のpHは中性付近であるため、腐敗しやすく、飲食店などでは、使い切れない場合廃棄されることが多く、保存性の良い液卵が求められていた。
このような課題に対して、液卵のpHを下げることで、保存性を向上させることを検討した。
検討の結果、特定範囲のpHにすることで、液卵の物性や風味に大きな影響を与えずに、保存性を向上することができると分かった。
ところが、その保存性が向上した液卵を冷蔵保管していたものは、沈殿が生じ、冷凍保管したものは、著しく凝集が生じてしまっていた。
そして、沈殿や凝集が生じた液卵を用いてオムレツなどの加熱調理が必要な卵調理品を作ってみたところ、保形性が弱く、きれいな形状の卵調理品が得られなかった。
【0003】
これまでに、液卵の加熱による凝集を抑制する方法は、様々な検討がされており、例えば、卵液にラムダカラギーナンを含むことで、加熱による凝集を抑制する(先行文献1)方法などがある。
しかしながら、加熱をすることなく生じる沈殿や凝集を抑制する方法はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−91856
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、pHを下げて保存性を向上させているにもかかわらず、保管中に沈殿や凝集が生じず、加熱調理をしたときに未加工の液卵と同様に十分な保形性がある卵調理品を得ることができる、加熱調理用加工液卵を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、液卵のpHを所定の範囲に調整し、かつ乳タンパクを含有することで、pHを下げて保存性を向上させているにもかかわらず、保管中に沈殿や凝集が生じず、加熱調理をしたときに未加工の液卵と同様に十分な保形性がある卵調理品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)原料の液卵を60%以上含有し、タンパク質が8%以上15%以下の加熱調理に用いる加工液卵において、pHが5.8以上6.6以下であり、
乳タンパクを含有する、加熱調理用加工液卵、
(2)(1)記載の加熱調理用加工液卵であって、乳タンパクの含有量が0.2%以上5%以下である、加熱調理用加工液卵、
(3)(1)又は(2)に記載の加熱調理用加工液卵を用いた、卵調理品、
(4)原料の液卵を60%以上かつ、タンパク質を8%以上15%以下含有した、加工液卵の保管中の凝集抑制方法であって、pHを5.8以上6.6以下とし、乳タンパクを含有させることを特徴とする、加工液卵の凝集抑制方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、pHを下げて保存性を向上させているにもかかわらず、保管中に沈殿や凝集が生じず、加熱調理をしたときに未加工の液卵と同様に十分な保形性がある卵調理品が得られることから、卵調理品市場の更なる拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0010】
<本発明の特徴>
本発明の特徴は、原料の液卵を60%以上含有し、タンパク質が8%以上15%以下の加熱調理に用いる加工液卵において、pHが5.8以上6.6以下であり、乳タンパクを含有することにより、pHを下げて保存性を向上させているにもかかわらず、保管中に沈殿や凝集が生じず、加熱調理をしたときに未加工の液卵と同様に十分な保形性がある、加熱調理用加工液卵、卵調理品及び加工液卵の凝集抑制方法を提供することに特徴を有する。
【0011】
<加熱調理用加工液卵に用いる原料液卵>
本発明の加熱調理用加工液卵に用いる原料液卵は、殻付鶏卵を割卵し得られるものであればいずれのものでもよく、例えば、殻付卵を割卵して卵殻を取り除いた液全卵、又は殻付卵を割卵して液卵黄と液卵白とを分離し、再び液卵黄と液卵白とを当該液全卵と同程度の割合で混合したものなどが挙げられる。
さらに、本発明の加熱調理用加工液卵に用いる原料液卵は、撹拌、ろ過、殺菌、脱糖、酵素処理したものや、冷凍後解凍処理したもの、乾燥後水戻し処理を行ったものを用いてもよい。
特に、保存性の観点から殺菌処理を行った原料液卵がよい。
【0012】
<加工液卵>
本発明の加工液卵とは、前述の原料液卵を60%以上含有し、好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。
前記範囲より少ないと、加工液卵を用いて卵調理品を調製した際、保形性が弱く、きれいな形状の卵調理品が得られない。
上限は、後述の乳タンパクやpH調整剤などの他の原料の配合量に応じて適宜調整すればよいが、例えば99%以下であるとよく、97%以下であるとよい。
さらに、本発明の加工液卵は、タンパク質を8%以上15%以下含有するものであり、好ましくは9%以上14%以下である。
前記範囲であると、経験的に適度な硬さの卵調理品が得られることが分かっている。
したがって、前記範囲よりも少ないと、加工液卵を用いて卵調理品を調製したときに、保形性が弱く、きれいな形状の卵調理品が得られず、前記範囲よりも多いと、卵調理品が硬くなりすぎる。
また、本発明の加工液卵は後述するその他原料を混合したものであっても良い。
【0013】
<卵調理品>
本発明の卵調理品とは、前述の加工液卵を加熱調理することで得られるものであれば特に限定されないが例えば、オムレツ、オムライス、厚焼き卵、卵焼き、スポンジケーキ等が挙げられる。
特に、保形性に課題が生じやすいことから、オムレツ、オムライス、玉子焼きであるとよい。
【0014】
<pH>
通常、未加工の液全卵はpH7.5程度であるが、本発明の加熱調理用加工液卵は、20℃におけるpHが5.8以上6.6以下であり、5.9以上6.4以下であるとよい。
pHが前記範囲より低い場合、未加工の液全卵と比較して保存性は向上するが、沈殿や凝集は抑制できず、反対に、pHが前記範囲より高い場合は、未加工の液全卵よりも保存性を向上させることが出来ない。
また、前記pHを調整する方法は特に限定しないが、クエン酸、乳酸、フィチン酸、リンゴ酸、コハク酸などの有機酸、食酢(黒酢を除く)、柑橘果汁などの酸材を適宜用いることができる。
【0015】
<乳タンパク>
本発明の加熱調理用加工液卵は乳タンパクを含む。
乳タンパクを含むことにより、pHが低い加工液卵の保管中に生じる沈殿や凝集を抑制し、卵調理品の保形性を向上させることができる。
本発明に用いる乳タンパクとしては、特に限定しないが、ホエイタンパクやカゼインタンパクが挙げられる。
ホエイタンパクを含む原料として、WPC(ホエイタンパク濃縮物、タンパク質含有量が75〜85質量%)、WPI(ホエイタンパク分離物、タンパク質含有量が85質量%以上)が挙げられる。
カゼインタンパクを含む原料として、脱脂乳を分離して得られたカゼインカードを中和して得られるカゼインタンパクの塩(カルシウム塩、ナトリウム塩等)を主体とする原料が挙げられる。
また、ホエイタンパク及びカゼインタンパクを含む粉末原料として、粉乳や脱脂粉乳が挙げられる。
保管中の沈殿や凝集を抑制する効果が得られやすいことから、ホエイタンパクを用いるとより良い。
【0016】
<乳タンパクの含有量>
本発明の加熱調理用加工液卵中に用いられる、乳タンパクの含有量は、加熱調理用加工液卵に対して、0.2%以上5%以下であるとよく、さらに0.4%以上3%以下であるとよりよい。
乳タンパクの含有量が前記範囲であると、pHが低い液卵に生じる沈殿や凝集を抑制し、保形性に優れた卵調理品が得られやすくなる。
なお、前記乳タンパクの含有量は、例えば、後述するようなホエイタンパクを用いた場合、当該タンパク質量が80.6%であるので、乳タンパクの含有量は、ホエイタンパクの配合量に80.6%をかけた量となる。
【0017】
<加熱調理用加工液卵の製造方法>
加熱調理用加工液卵の製造方法は特に限定しないが、例えば、割卵して得た原料液卵に乳タンパクやその他原料を添加した後、撹拌、均質化を行い、次いで、クエン酸等を添加し、pHを5.8以上6.6以下に調整後、容器に充填し、得ることができる。
また、必要に応じて、濾過、殺菌、凍結等の処理を行うこともできる。
【0018】
<その他原料>
本発明の加熱調理用加工液卵は、上述の原料以外に、本発明の効果を損なわない範囲でその他原材料を適宜選択し配合することができる。
例えば、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉、これらの澱粉にα化、架橋等の処理を施した加工澱粉、及び湿熱処理を施した澱粉等の澱粉類、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナン、ウェランガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、アラビアガム等のガム質、並びに発酵セルロース、結晶セルロース、ペクチンなどの増粘剤が挙げられる。
また、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナンなどの安定材、砂糖、ショ糖、ぶどう糖、ぶどう糖果糖液糖、水あめ、還元水あめ、オリゴ糖、還元オリゴ糖、はちみつなどの糖類、スクラロース、アスパルテーム、ステビアなどの甘味料、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油、卵黄油等の動植物油又はこれらの精製油(サラダ油)、あるいはMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的、酵素的処理等を施して得られる油脂などの食用油脂、酸化防止剤、香料なども含むことが出来る。
【0019】
以下、本発明の加熱調理用加工液卵について、具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0020】
[実施例1]
原料液全卵(キユーピータマゴ株式会社製)90%、ホエイタンパク(商品名:キユーラクトNo.10、キユーピータマゴ株式会社製)0.8%を攪拌機で均一に混合した。
次に、クエン酸でpH6付近に調整した後、清水で100%に調整した。
調製したスラリーをポリプロピレン製の袋に500g充填し、中心品温58℃×10分間の加熱殺菌を行った。
加熱殺菌後、速やかに冷却し、実施例1の加熱調理用加工液卵を得た。
なお、実施例1の加熱調理用液卵中のタンパク質量は下記の計算により11.7%となった。
(加熱調理用加工液卵中のタンパク質量の計算)
全卵のタンパク質:12.3%(七訂食品成分表参照)
ホエイタンパクのタンパク質:80.6%(分析値)
加熱調理用加工液卵のタンパク質量
=(全卵のタンパク質量)+(ホエイタンパクのタンパク質量)
=(90%×0.123)+(0.8%×0.806)
=11.7%
【0021】
[試験例]
乳タンパクの有無およびpHの違いによる、保管中の沈殿や凝集の発生及び加熱調理したときの保形性への影響を調べた。
具体的には、実施例1のホエイタンパクの配合量やpHを[表1]の配合にしたがって変更し、実施例2〜5及び比較例1〜2の加熱調理用加工液卵を調製した。
なお、タンパク質量の違いによる保形性への影響を考慮し、実施例2〜5及び比較例1〜2の加熱調理用加工液卵のタンパク質量は、全卵の配合量を調整することにより、実施例1のタンパク質量11.7%に合わせている。
【0022】
試験は、冷蔵保管より沈殿や凝集が発生し易い冷凍保管で行った。具体的には、得られた実施例1〜5及び比較例1、2の加熱調理用加工液卵を、−30℃で冷凍保管した。
加熱調理用加工液卵の沈殿や凝集の状態は、冷凍保管していたものを解凍してから確認した。
【0023】
<沈殿又は凝集の評価基準>
〇:全く沈殿又は凝集は発生していなかった。
△:若干沈殿又は凝集が発生していたが問題のない程度であった。
×:沈殿又は凝集が多数発生していた。
【0024】
<保形性の確認>
前記、冷凍解凍後の、実施例1〜5及び、比較例1〜2の加熱調理用加工液卵、並びに、対照として、未加工の液全卵を用いてオムレツを作り、加熱調理したときの保形性を確認した。
具体的には、加熱調理用加工液卵又は未加工の液全卵120gと、生クリーム20gを混合した後、フライパンでオムレツを調理し、下記評価基準で評価を行った。
【0025】
<保形性の評価基準>
〇:対照と同程度に、全体的にまとまりがあり、成形しやすい。
△:対照と比較して、若干まとまりは弱いが、問題なく成形できる。
×:対照よりも崩れやすく、成形が難しい。
【0026】
[表1]
【0027】
[表1]より、pHが5.8以上6.6以下であり、乳タンパクを含有した加熱調理用加工液卵は、沈殿や凝集が抑制され、オムレツにしたときの保形性も得られることがわかる(実施例1〜5)、さらに、乳タンパクが0.4%以上3%以下配合されていると、沈殿・凝集抑制効果とオムレツの保形性が優れていることが分かる(実施例1、3〜5)。
一方、比較例1及び2の加工液卵は、沈殿や凝集が多数発生し、オムレツの保形性についても、対照のオムレツより悪かった。
【0028】
[実施例6]
乳タンパクの種類による影響を確認するため、実施例1のホエイタンパク0.8%をカゼインタンパク(商品名:EMULAC−CC、MEGGLE社製、タンパク含量90.3%)0.8%に置き換えた以外は、実施例1の加工液卵と同様、タンパク質量11.7%、pH6.1となるように調製した(実施例6)。
【0029】
得られた実施例6の加熱調理用加工液卵を前記試験例に準じ評価したところ、若干の沈殿又は凝集が発生していたが問題のない程度であり、また対照のオムレツと比較して若干まとまりは弱かったが、問題なく成形することができた。
【0030】
[比較例3]
実施例1のホエイタンパク0.8%を大豆タンパク(商品名:ニューフジプロ11700、不二製油株式会社製、タンパク含量84.8%)0.8%に置き換えた以外は、実施例1の加工液卵と同様、タンパク質量11.7%、pH6.1となるように調製した(比較例3)。
【0031】
得られた比較例3の加熱調理用加工液卵を前記試験例に準じ評価したところ、多数の沈殿又は凝集が発生し、オムレツの保形性も対照より悪かった。