【解決手段】ヒト患者の慢性腎障害を処置する装置(1)は、超音波生成装置(10)および超音波生成装置(10)から送信される超音波を、ヒト患者の腎臓に照射するためのプローブユニット(20)を備えており、プローブユニット(20)の超音波を照射する面は、上記腎臓の体軸方向における長さの80%以上の長さを有しており、当該腎臓の体軸と直交する方向における長さの80%以上の幅を有している。
上記面は、上記腎臓の体軸方向における長さの100%以上の長さを有しており、当該腎臓の体軸と直交する方向における長さの100%以上の幅を有している、請求項1または2に記載の装置。
上記超音波の、上記ヒト患者の腎臓に対する照射が、TGF−β1タンパク質、リン酸化Smad2タンパク質、リン酸化Smad3タンパク質、α−SMAタンパク質、フィブロネクチン、F4/80またはCD68の、腎臓における存在量を低下させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置。
上記超音波生成装置から送信される超音波の周波数を、0.5〜3MHz±10%に制御する送信条件制御部をさらに備えている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔慢性腎障害を処置する装置〕
本発明の一実施形態は、ヒト患者の慢性腎障害を処置する装置を提供する。当該装置は、超音波生成装置およびプローブユニットを備えている。当該プローブユニットは、当該超音波生成装置から送信される超音波を、上記ヒト患者の腎臓に照射するためのユニットである。当該プローブユニットの超音波を照射する面は、上記腎臓の体軸方向における長さの80%以上の長さを有しており、当該腎臓の体軸と直交する方向における長さの80%以上の幅を有している。波である超音波は、上記面から発せられた後に、当該面と接するヒト患者の身体内を拡散しながら伝播する。したがって、上記プローブユニットの超音波を照射する上記面を、上記ヒト患者の背面に貼り付けることによって、当該面から発せられた超音波は、当該ヒト患者における腎臓の全体に達し得る。
【0013】
ここで、「腎臓の全体」は、腎臓の表面全体ではなく、腎臓の背側に向いている表面を指す。上記装置は、後述する実施例に記載の通り、慢性腎障害(例えば、腎硬化症および糖尿病性腎症)の進行を抑制し得る。上記装置は、慢性腎障害のヒト患者における腎臓に対して超音波を照射する目的にのみ使用される超音波照射装置である。上記ヒト患者の背側(体表面)に照射された超音波は、腎臓まで達し得る。したがって、上記超音波照射装置は、ヒト患者の慢性腎障害を非侵襲的に処置する装置である。
【0014】
上記超音波照射装置において、上記慢性腎障害は、高血圧または糖尿病に起因することが好ましい。腎硬化症(特に高血圧に起因する)および糖尿病性腎症が、現在、人工透析の導入に至った患者における原疾患に占める高い割合を有しており、今後も当該割合の増大が見込まれるからである。上記腎硬化症および糖尿病性腎症は、腎線維化、炎症性細胞(CD68
+細胞、F4/80
+細胞またはCD68
+F4/80
+細胞)の浸潤または尿蛋白の増加をともなう疾患である。腎線維化および炎症性細胞の浸潤は、一般に尿蛋白の増加を起こす。腎線維化は、TGF−β1タンパク質、リン酸化Smad2タンパク質、リン酸化Smad3タンパク質、α−SMAタンパク質および/またはフィブロネクチンの増大と密接に関連している。後述する実施例に示されている通り、上記超音波照射装置は、血圧の上昇、腎線維化、炎症性細胞の浸潤または尿蛋白の増加を、遺伝子レベル、タンパク質レベル、細胞レベルまたは組織レベルの少なくともいずれかで、抑制し得る。
【0015】
本発明の一実施形態に係る超音波照射装置を、図面を参照して以下に詳細に説明する。
【0016】
(超音波照射装置の構成)
上記超音波照射装置の構成の一例について、
図1を参照して説明する。
図1は、一実施形態の超音波照射装置(慢性腎障害を処置する装置)1の構成を示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように、超音波照射装置1は、超音波生成装置10およびプローブユニット20を備えている。超音波生成装置10は、ユーザインターフェース(UI)11、コントローラ(送信条件制御部)12、電源部13および1つ以上の超音波生成部14を備えている。
【0018】
プローブユニット20は、1つ以上の探触子(超音波放出端子)21を備えている。
図1には示していないが、プローブユニット20の超音波を照射する面は、ヒト患者の背面に貼り付けたときに、当該ヒト患者の腎臓と対向する。当該面の形状については、後述する。プローブユニット20は、超音波生成装置10から独立したハウジングに収納され得るか、または超音波生成装置10と同じハウジングに、超音波生成装置10から離して収納され得る。また、プローブユニット20が、ケーブルなどを介して超音波生成装置10に接続されており、プローブユニット20が、超音波生成装置10から離れた位置において動作し得る構成を、超音波照射装置1に適用し得る。
【0019】
また、
図1に示すように、超音波生成装置10は、n個の超音波生成部(超音波生成部14(1)〜超音波生成部14(n))を備えている。この場合、プローブユニット20は、n個の超音波生成部のそれぞれと一対一で対応しているn個の探触子(探触子21(1)〜探触子21(n))を備えている。ここで、nは1以上の任意の整数である。探触子21(1)〜21(n)のそれぞれは、超音波生成部14(1)〜14(n)のそれぞれと、一対一で対応して接続している。
【0020】
超音波生成部14(1)〜14(n)のそれぞれによって生成された超音波は、対応する探触子21(1)〜21(n)に送信される。超音波の送信を受けた探触子21(1)〜21(n)は、超音波照射装置1の外部に超音波を放出することによって、照射対象であるヒト患者の腎臓に超音波を照射する。なお、超音波生成部14(1)〜14(n)のそれぞれは同じ構成であり、探触子21(1)〜21(n)のそれぞれは同じ構成である。したがって、超音波生成部14および探触子21についての説明は、残りの超音波生成部および探触子に対して同様に適用される。
【0021】
UI11は、超音波照射装置1の動作状態および動作条件などを表示する表示部と、ユーザが任意の入力を行う入力部とを備え得る。UI11は、ユーザによる入力を受けたとき、当該入力を表す入力信号をコントローラ12に送信し、コントローラ12は、受信した入力信号に基づいて各構成要素を制御する。
【0022】
また、UI11は、コントローラ12から送信された超音波照射装置1の状態を表す信号を受信すると、受信した信号に基づいて超音波照射装置1の状態を表示部に表示する。UI11の入力部は、例えば、照射する超音波の周波数または照射時間(超音波生成部14からの超音波の送信時間と一致する)などのパラメータの、ユーザによる入力が可能な構成を有し得る。
【0023】
コントローラ12は、超音波照射装置1の各構成要素を制御する。コントローラ12は、プローブユニット20の探触子21に超音波生成部14から超音波を送信させ、探触子21からヒト患者の腎臓に超音波を放出させる。具体的には、コントローラ12は、超音波生成部14の送信用発振部142から超音波を出力させ、送信器141から探触子21に送信させる。また、コントローラ12は、UI11に対するユーザの入力に基づいて、超音波生成部14からの超音波の送信を制御し、超音波照射装置1の状態または動作などの情報をUI11に表示させる制御を行う。さらに、コントローラ12は、電源部13からの電力を送信用電源部140に供給する。
【0024】
また、コントローラ12は、送信用発振部142からの超音波の出力を制御することによって、規定の値によって表される出力の超音波を探触子21から放出させる。探触子21からの超音波の出力は、所望の作用をもたらす適切な程度に設定され、設定された程度の超音波を出力するようにコントローラ12が制御する。また、コントローラ12は、探触子21の感度のばらつきを補正するために超音波出力を制御する構成であり得る。超音波出力の制御は、送信用発振部142における発振周波数の変更、または送信器143から探触子21に超音波を送信するときの送信電圧の変更などによって実現され得る。
【0025】
電源部13は、超音波照射装置1の各構成要素に電力供給する。電源部13は、コントローラ12および超音波生成部14の送信用電源部140に、商用電源または畜電池などからの電力を供給する。
【0026】
なお、コントローラ12によって制御される超音波の種々の照射条件および照射方式は、後ほど項目を設けて詳述されている。この項目に述べられているコントローラ12による制御動作を、後述する超音波の照射条件および照射方式と組み合わせて参照すれば、超音波照射装置1の構成は、より明確に理解され得る。
【0027】
超音波生成部14は、送信用電源部140、送信器141および送信用発振部142を備えている。送信用電源部140は、コントローラ12または電源部13からの電力を送信器141に供給する。送信器141は、送信用発振部142から出力された超音波を探触子21に送信する。送信用発振部142は、コントローラ12からの指示に基づいて超音波を発振して送信器141に出力する。送信用電源部140、送信器141および送信用発振部142として、従来公知の電源部、送信器および超音波発振部などを使用可能である。
【0028】
探触子21は、超音波生成部14の送信器141から送信された超音波をヒト患者の腎臓に放出する。探触子21の数(n)は、例えばnは100〜1000であり得る。このとき、可撓性材料(例えば、シリコーン材料)に対する接着などによって、複数の探触子21(1)〜21(n)を固定すれば、複数の探触子21(1)〜21(n)を、ヒト患者の腎臓に対向させ得る。探触子21は、超音波を伝播する媒体(例えば超音波ゲル)を介してヒト患者に対して非侵襲的に接触しながら、ヒト患者の腎臓に照射する超音波を放出し得るように、プローブユニット20のハウジング内に設けられている。探触子21の構成の詳細については後述する。
【0029】
超音波照射装置1は、規定の値によって表される出力の超音波を放出するため、探触子21の感度のばらつきを補正するため、または超音波の出力を一定に維持するために、送信器141から送信される超音波をモニタリングするフィードバック機構を備え得る。これによって、送信器141から超音波の送信状態がコントローラ12にフィードバックされる。コントローラ12は、超音波の送信状態に基づいて、送信用発振部142および送信器141による超音波の出力を制御する。
【0030】
また、超音波照射装置1は、探触子21とヒト患者の背側とのカップリング不良を検出するために、探触子21からの超音波の出力をモニタリングするフィードバック機構を備え得る。これによって、探触子21とヒト患者の背側との(超音波伝播媒体(水、ゲルまたはカップリング剤))を介したカップリング状態が、探触子21からコントローラ12または送信器141にフィードバックされる。コントローラ12は、このカップリング状態に基づいて、送信用発振部142および送信器141による超音波の出力を制御する。ここで、後述する実施例に記載されている通り、超音波照射装置1は、ヒト患者の血圧および/または尿蛋白の量を変化させ得る。したがって、ヒト患者の血圧および/または尿蛋白の量(を表わす情報)をコントローラ12にフィードバックすることによって、コントローラ12は、送信用発振部142および送信器141による超音波の出力をさらに制御し得る。
【0031】
(超音波照射装置の構成の変形例)
上述の超音波照射装置の構成の変形例について、
図2を参照して説明する。
図2は、他の実施形態の超音波照射装置1aの構成を示すブロック図である。
図2から明らかなように、超音波照射装置1aは、切り替えスイッチ15をさらに備えており、単一の超音波生成部14のみを備えている点において、超音波照射装置1と異なっている。したがって、本実施形態では、切り替えスイッチ15の詳細、および単一の超音波生成部14のみによって超音波照射装置1と同等の機能を示し得る点のみを説明する。
【0032】
図2に示すように、超音波照射装置1aは、単一の超音波生成部14および切り替えスイッチ15を備えている。超音波生成部14は、切り替えスイッチ15を介して、複数の探触子21(1)〜21(n)と接続されている。超音波生成部14は生成した超音波を切り替えスイッチ15に送信する。切り替えスイッチ15は、受け取った超音波を複数の探触子21(1)〜21(n)のそれぞれに送信する。このとき、切り替えスイッチ15は、複数の探触子21(1)〜21(n)から1つ以上を選択して、超音波を送信する。つまり、複数の超音波生成部の動作の、コントローラ12による制御ではなく、超音波を放出させるべき探触子21(1)〜21(n)の、切り替えスイッチ15による切り替え(超音波の送信)にしたがって、超音波は、超音波照射装置1aから照射される。
【0033】
超音波照射装置1aは、単一の超音波生成部14をコントローラ12の制御下においている。よって、コントローラ12による処理は、簡略化されるので、当該処理の向上した速度が実現され得る。超音波照射装置1aは、単一の超音波生成部14を備えているので、小型化され、低コスト化され得る。超音波照射装置1aは、複数の探触子21(1)〜21(n)を備えている利点(広範囲の超音波照射)を維持しつつ、これらの利点を有している。
【0034】
(探触子21)
探触子21の構成の一例について、
図3を参照して説明する。
図3(a)は、探触子21の上面から見た構成を示しており、
図3(b)は、探触子21の断面の構成を示している。
【0035】
図3に示すように、探触子21は、コネクタ213とそれぞれ接続されている複数の振動子211および感度データ格納素子212を、ハウジング210に収納している。振動子211は、ハウジング210において2行3列に配列されている。なお、ここでは、6素子の振動子211を2行3列に配列させているが、振動子211の数および並び方は適宜変更され得る。ハウジング210はシリコーン材料などから形成されている。探触子21は、
図3に示すように、ヒト患者との接触面積および超音波の照射面積の増大を目的として、矩形状であることが好ましい。プローブユニット20aは、矩形状の複数の探触子21を備えており、隣り合う探触子21のそれぞれは、矩形の1辺(例えば
図3(a)の上辺)において互いに接する位置関係に設けられている。
【0036】
複数の振動子211のそれぞれは、超音波生成部14から送信される超音波を受信することによって振動し、ヒト患者の腎臓に超音波を放出する。感度データ格納素子212は、探触子21の感度データを記憶する。各探触子21について記憶されている感度データは、コントローラ12または送信器141に送信される。コントローラ12または送信器141は、送信された感度データに基づいて探触子21の感度のばらつきを補正する。また、探触子21は、探触子21の感度分類を示すデータを格納する素子を備え得る。当該データは、コントローラ12などにフィードバックされて、感度のばらつきの補正に使用され得る。
【0037】
(プローブユニット20)
プローブユニット20の具体的な形状を、
図4を参照して説明する。
図4(a)に示す通り、一対のプローブユニット20は、ヒト患者における腎臓のそれぞれと対向するように、ヒト患者の背側に装着される。
図4(a)に示す例では、プローブユニット20における面(超音波を照射する面)のそれぞれは、ヒト患者の正中線を中心にして、軸対称をなしている。上記面は、例えば、伏臥位を取っているヒト患者における腎臓の大部分を覆う大きさを有している。
【0038】
上記面の大きさの具体例を、
図4(b)に示す。プローブユニット20は、縦方向(ヒト患者の体軸に沿う方向)に90mmの長さを有しており、横方向(ヒト患者の体軸と直交する方向)に40mmの長さを有している。
図4(b)に示すようにプローブユニット20の体側側は、中央付近に膨らみのある形状を有しており、逆に、プローブユニット20の体軸側は、中央付近に窪みのある形状を有している。プローブユニット20の上記面の輪郭は、部分的に変形を有している楕円であり、当該楕円が、短軸と交差する部分において曲線的な凹部を有している。他の表現を用いれば、上記輪郭は、ソラマメ、アズキまたはダイズを横から見た形状と類似した形状を有している。このため、プローブユニット20の縦方向の両端付近を除いて、プローブユニット20の横方向の長さはほぼ一定である。
図4(b)に示すように、プローブユニット20は、7.84mmの厚さを有している。
【0039】
以上では、プローブユニット20の形状の一例を示した。当該一例は、一般的な成人のヒト患者における腎臓の全体に超音波を照射するために適したプローブユニット20の形状である。したがって、実際に超音波の照射を受けるヒト患者が有している腎臓の寸法に合わせて、上記形状は変更され得る。成人のヒト患者における腎臓の寸法は、個人差を考慮に入れて、縦方向に100〜120mm、横方向に50〜60mmの長さを有している。上述の通り、プローブユニット20の超音波を照射する面は、上記腎臓の体軸方向における長さの80%以上の長さを有しており、当該腎臓の体軸と直交する方向における長さの80%以上の幅を有している。したがって、当該大きさは、例えば、縦方向に80mm以上であり、横方向に40mm以上である。上記ヒト患者の腎臓の全体に超音波をより確実に照射するために、上記大きさは、上記腎臓の体軸方向における長さの100%以上の長さを有しており、当該腎臓の体軸と直交する方向における長さの100%以上の幅を有していることが、好ましい。好ましい当該大きさは、縦方向に80〜130mmであり、横方向に40〜80mmである。
【0040】
また、プローブユニット20の厚さは、超音波照射装置1および1aにおける上述した各構成の機能を妨げない範囲(例えば、探触子21の高さより大きい厚さ)で、変更され得る。例えば、プローブユニット20の厚さを最小化すると、プローブユニット20を曲げやすくなる(すなわち体表面に即して変形しやすい)。
【0041】
図4(a)には、一対のプローブユニット20を例示しているが、超音波照射装置1および1aは、少なくとも1つのプローブユニット20を備えている。一対の腎臓は体軸を中心にしてほぼ対称なので、超音波照射装置1および1aは、1つのプローブユニット20を用いて2回の超音波照射を実施すれば、両方の腎臓に超音波を照射できる。
【0042】
(超音波の照射時間)
超音波照射装置1および1aは、コントローラ12の制御によって、1回の照射につき一定の照射時間にわたってヒト患者の腎臓に超音波を照射する。上記照射時間は、1回の照射につき少なくとも10分間、20分間、30分間または1時間である。後述する実施例にしたがえば、上記照射時間は、1回の照射につき少なくとも20分間であることが好ましい。
【0043】
(他の照射条件)
超音波照射装置1は、コントローラ12の制御によって、一定の範囲内にある周波数の超音波をヒト患者の腎臓に照射する。当該周波数は、0.5〜3MHz±10%であることが好ましく、1〜2MHz±10%であることがさらに好ましく、2MHz±10%であることが最も好ましい。
【0044】
なお、本明細書において数値範囲または特定の数値の後ろに付されている“±10%”は、当該数値範囲または数値の誤差範囲を意味している。よって、例えば上述の範囲“0.5〜3MHzの±10%”は、下限値としての0.45MHzおよび上限値としての3.3MHzを包含している。“±数値%”は、ここに例示した通りの当該数値のパーセンテージの誤差範囲を意味して使用されている。
【0045】
超音波照射装置1および1aは、コントローラ12の制御によって、一定の範囲内にある出力の超音波をヒト患者の腎臓に照射する。当該出力は、10〜100mW/cm
2±10%であることが好ましく、20〜50mW/cm
2±10%であることが好ましく、30mW/cm
2±10%であることが最も好ましい。
【0046】
超音波照射装置1および1aは、コントローラ12の制御によって、一定の範囲内にあるduty比の超音波をヒト患者の腎臓に照射する。当該duty比は、5〜40%±10%であることが好ましく、10〜30%±10%であることが好ましく、20%±10%であることが最も好ましい。
【0047】
超音波照射装置1および1aは、コントローラ12の制御によって、一定の範囲内にあるパルス繰返し周波数(PRF)の超音波をヒト患者の腎臓に照射する。当該PRFは、0.5〜20kHz±10%または50〜200kHz±10%であることが好ましく、0.7〜15kHz±10%または75〜150kHz±10%であることが好ましく、1.0kHz±10%または100kHz±10%であることが最も好ましい。
【0048】
超音波照射装置1および1aは、コントローラ12の制御によって、複数の探触子21(1)〜21(n)のそれぞれを時分割して順次駆動させ得る。より詳細には、コントローラ12は、複数の探触子21(1)〜21(n)のそれぞれを時分割して順次駆動させることによって、同じ周波数の超音波を超音波生成部14によって生成させる制御を行い得る。例えば、4つの探触子21を用いて、1kHzのPRFおよび20%のduty比の条件において超音波を照射する場合、1つの探触子21を200μ秒間駆動させ、50μ秒間休止させ後に、他の1つの探触子21を200μ秒間駆動させる(さらなる他の探触子を駆動させる場合、50μ秒間の休止がある)。これを1サイクルとして、4つの探触子21を逐次駆動させてゆき、照射時間および出力が上述のような範囲(または特定の数値)に達するまで、サイクルを繰り返させる。探触子21の数および駆動の順序に制限はない。このような方式を採用して超音波照射することによって、特定箇所に超音波照射のエネルギーが集中せずに、腎臓の全体に対して均一に超音波が照射される。
【0049】
以上では、ヒト患者の慢性腎障害を処置する装置について説明した。しかし、超音波照射装置1または1aを用いれば、実施例で実証されている現象を、非侵襲的かつ容易に、ヒト患者以外でも確認することができる。したがって、超音波照射装置1および1aは、ヒト患者の治療のみではなく、他の用途(例えば、生命現象および病態病理の研究、ならびに医薬の開発)にも利用され得る。超音波照射装置1または1aを他の用途に用いる場合の、超音波を照射する対象としては、非ヒト生物および生体材料(例えば生細胞、組織片および組織など)が挙げられる。
【0050】
〔ヒト患者の慢性腎障害を処置する方法〕
本発明の一実施形態は、ヒト患者の慢性腎障害を処置する方法を提供する。当該方法は、上記ヒト患者における腎臓に対して超音波を照射する工程を含んでいる。当該方法は、例えば超音波照射装置1または1aを用いて、実施可能である。したがって、当該方法は、超音波照射装置1または1aと同様の効果を奏する。
【0051】
本発明の一実施形態に係るヒト患者の慢性腎障害を処置する方法において、上記慢性腎障害は、高血圧または糖尿病に起因することが好ましい。腎硬化症(特に高血圧に起因する)および糖尿病性腎症が、現在、人工透析の導入に至った患者における原疾患に占める高い割合を有しており、今後も当該割合の増大が見込まれるからである。上記腎硬化症および糖尿病性腎症は、腎線維化、炎症性細胞(CD68
+細胞、F4/80
+細胞またはCD68
+F4/80
+細胞)の浸潤または尿蛋白の増加をともなう疾患である。腎線維化および炎症性細胞の浸潤は、一般に尿蛋白の増加を起こす。
【0052】
腎線維化は、腎臓におけるTGF−β1タンパク質の増大(つまり、腎臓に存在する細胞のトランスフォームの促進)によって発症および/または進行する。Smad2タンパク質およびSmad3タンパク質(Smad2/3)は、少なくともTGF−β1タンパク質の増大の結果として、活性化(リン酸化)され、リン酸化Smad2/3が細胞の核内に移行し、腎線維化に関与する遺伝子の発現を向上させる。α−SMAタンパク質およびフィブロネクチンの発現量は、TGF−β1タンパク質によって誘導された線維芽細胞などにおいて増大する。
【0053】
したがって、後述する実施例に示されている通り、上記方法は、血圧の上昇、腎線維化、炎症性細胞の浸潤または尿蛋白の増加を、遺伝子レベル、タンパク質レベル、細胞レベルまたは組織レベルの少なくともいずれかで、抑制し得る。
【0054】
上記方法は、腎硬化症(特に高血圧に起因する)のヒト患者の腎臓に対して少なくとも2週間、4週間または8週間にわたって、実施される。上記方法は、糖尿病性腎症のヒト患者の腎臓に対して少なくとも4週間、8週間または10週間にわたって、実施される。腎硬化症または糖尿病性腎症のヒト患者は、上述の期間では1日に1回以上の上記方法の実施を受けることが好ましい。後述する実施例に示されている通り、マウス腎硬化症モデルでは4週間目以降に、マウス肥満2型糖尿病性腎症モデルでは8週間目以降に、症状の進行が有意に抑制されていることが、確認されている。
【0055】
上記方法は、上記ヒト患者に対して生涯にわたって実施されることが好ましい。上記慢性腎障害の処置のために、特に上記方法を単独で実施する場合に、実施例に示されている作用(慢性腎障害の進行の抑制)を持続させ得る。当該作用の持続は、上記ヒト患者に対する人工透析の導入を回避させ、上記ヒト患者にすでに実施されている人工透析の頻度を低下させ得る。
【0056】
上記方法は、慢性腎障害の既存の治療方法と並行して、実施されること(つまり併用療法であること)が好ましい。既存の治療方法としては、アンジオテンシン阻害剤またはアンジオテンシンII受容体の投与、生活習慣病(例えば、糖尿病および脂質異常)への対処、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。上記併用療法は、上記方法による上述の作用をより確実にするだけでなく、慢性腎障害の各症状の軽減を示すヒト患者の割合を増大させ得る。
【実施例】
【0057】
〔実施例1:疾患モデルマウス(高血圧に起因する腎硬化症)に対する低出力超音波照射の影響〕
(1−1.試験の準備および実施条件)
日本クレアから入手したマウス(C57BL/6j、雄性、7週齢)を材料として、実施例1に係る疾患モデルマウス(高血圧に起因する腎硬化症)を以下のように作製した。
【0058】
受け取ってから2週間は、通常の条件(飲水:水道水、摂食:自由)で各マウスを飼育し、各マウスの血圧を安定させた。2週間後に、手術(右腎の摘出および浸透圧ポンプ(Alzet model 2004)の皮下への埋め込み)および手術後における飲水の変更(水道水→生理食塩水)を受けたマウスを、疾患モデルマウスとして使用した。上記浸透圧ポンプは、アンジオテンシンIIを、1μg/kg/分の速度において4週間、皮下に放出するように設定されている。
【0059】
手術の翌日から最長で4週間にわたって毎日、疾患モデルマウスに低出力の超音波照射を実施した。超音波照射には、面積1.68cm
2の照射面を有しているプローブを備えている超音波照射装置(日本シグマックス株式会社)を使用した。疾患モデルマウスは、毎日の超音波照射前に、エスカイン吸入(小動物用ガス麻酔システム(DSファーマバイオメディカル社))によって麻酔された。麻酔された疾患モデルマウスの背側(直下に左腎がある位置)に、上記照射面を装着させ、疾患モデルマウスの一群(PUS群)に、以下の条件で超音波を照射した。同時に、PUS群の対照として、Control群(上記超音波照射装置を動作させない(超音波周波数:0Hz)点のみを除いて、PUS群と同じ処理が施されている)を準備した。
超音波周波数:2.0MHz
パルス持続期間:200μ秒
パルス繰返し周波数:1.0kHz
duty比:20%
出力:30mW/cm
2
照射時間:20分間/日。
【0060】
(1−2.低出力超音波照射の、血圧への影響)
PUS群に対する毎日の超音波照射の終了後に、PUS群およびControl群(それぞれn=6〜7)の各マウスにおける収縮期血圧(SBP)を測定した。SBPの測定結果を各群に分けて、
図5にまとめた。
【0061】
図5に示す通り、day14まで各群のSBPに有意差は認められなかった。day21およびday28のそれぞれにおいて、PUS群のSBP(○)に、Control群のSBP(●)と比べて、有意な低下が認められた(P<0.05)。day28において、PUS群のSBPは180.0±9.00mmHgであり、Control群のSBPは153.6±7.68mmHgであった。
【0062】
以上の通り、Control群に認められる持続的な高血圧(day0〜day28)は、PUS群ではday21以降に、有意に抑制されている。したがって、低出力超音波照射は、ヒトの腎障害の進行(持続する高血圧に起因する)を抑制し得ることがわかった。
【0063】
(1−3.低出力超音波照射の、タンパク質レベルへの影響)
day28の超音波照射の終了後に、PUS群およびControl群の各マウスの左腎を摘出した。項目1−1.の記載にしたがって2週間の超音波照射を受けたPUS群およびControl群を準備し、これらの群の各マウスの左腎を摘出した。
【0064】
以上においてに摘出された左腎から採取した細胞のそれぞれに含まれている4種類のタンパク質(TGF−β1タンパク質、α−SMAタンパク質、CD68およびF4/80)をウェスタンブロッティングによって定量化した。さらに、day28に摘出された左腎から組織の凍結切片を作製した。これらの凍結切片を免疫染色した。各タンパク質の定量化および免疫染色には、rabbit polyclonal anti-TGF-β1 antibody(Sigma)、mouse monoclonal anti-α-SMA antibody(Sigma)、mouse monoclonal anti-CD68 antibody(Abcam)、およびrabbit monoclonal anti-F4/80 antibody(Abcam)を用いた。定量化および免疫染色の結果を
図6に示す。
【0065】
図6(a)の上段および中段に示す通り、2 weeksおよび4 weeks(day28)のいずれでも、PUS群の細胞は、Control群の細胞に比べて有意に低い、TGF−β1タンパク質およびα−SMAタンパク質の発現(特に存在量)を示した(n=6〜7)。
図6(a)の下段(スケールバーは100μm)に示すように、組織レベルでも、TGF−β1タンパク質およびα−SMAタンパク質は、PUS群において、Control群と比べて抑制された発現を示していた。
【0066】
ここで、TGF−β1タンパク質およびα−SMAタンパク質はいずれも、ヒトの腎障害における腎線維化への直接的な関与が知られている。したがって、以上の結果から、低出力超音波照射は、分子レベルにおいて、ヒトの腎線維化の進行を抑制し得ることがわかった。
【0067】
図6(b)の上段に示す通り、PUS群の細胞は、Control群の細胞に比べて有意に少ないF4/80およびCD68を示した(n=6〜7、P>0.01)。
図6(b)の下段(スケールバーは100μm)に示す通り、PUS群の組織は、Control群の細胞に比べて少ないF4/80およびCD68を示した。したがって、PUS群の組織では、炎症性細胞(F4/80
+および/またはCD68
+)の浸潤が抑制されていることが分かった。
【0068】
〔実施例2:疾患モデルマウス(肥満2型糖尿病性腎症)に対する低出力超音波照射の影響〕
(2−1.試験の準備および実施条件)
以下の3点:
日本クレアから入手したdb/dbマウスのホモ個体(BKS.Cg-+Lepr
db/+Lepr
db/Jcl、雄性、6週齢)を材料とした。
受け取ってから2週間経過後に右腎の摘出手術を受けたマウスを、疾患モデルマウスとして使用した。
手術の翌日から8週間にわたって毎日、疾患モデルマウスに低出力の超音波照射を実施した。
を変更したことを除いて、項目1−1.と同一の操作を行った。
【0069】
(2−2.低出力超音波照射の、尿蛋白への影響)
2週間ごとに、PUS群およびControl群(それぞれn=6)の各マウスにおける尿を、代謝ケージ(Tecniplast社)を用いて採取し、尿蛋白/クレアチニン比(TP/Cr)を測定した。TP/Crの測定結果を各群に分けて、
図7(a)にまとめた。尿蛋白は、アルブミン、IgG、IgAおよび免疫グロブリン軽鎖などを主としたタンパク質である。
【0070】
図7(a)に示す通り、week2まで各群のTP/Crに有意差は認められなかった。week6において、PUS群のTP/Cr(●)に、Control群のTP/Cr(○)と比べて、有意な低下が認められた(P<0.01)。
【0071】
以上の通り、Control群に認められる肥満2型糖尿病性腎症の持続的な進行(TP/Crの上昇)(week0〜week8)は、PUS群ではweek6以降に、有意に抑制されている。したがって、低出力超音波照射は、ヒトの腎障害の進行(2型糖尿病に起因する)を抑制し得ることがわかった。
【0072】
(2−3.低出力超音波照射の、遺伝子発現への影響)
week8の超音波照射の終了後に、PUS群およびControl群の各マウスの左腎を摘出した。
【0073】
week8に摘出された左腎から採取した細胞に含まれる2種類のタンパク質(TGF−β1タンパク質およびα−SMAタンパク質)を用いてウェスタンブロッティングによって定量化した。さらに、week8に摘出された左腎から組織の凍結切片を作製した。これらの凍結切片を免疫染色した。各タンパク質の定量化および免疫染色には、rabbit polyclonal anti-TGF-β1 antibody(Sigma)およびmouse monoclonal anti-α-SMA antibody(Sigma)を使用した。定量化および免疫染色の結果を
図7に示す。
【0074】
図7(b)の中段に示す通り、week8において、PUS群の細胞は、Control群の細胞に比べて有意に低い、TGF−β1タンパク質およびα−SMAタンパク質の発現(特に存在量)を示した(n=6〜7)。
図7(b)の下段(スケールバーは100μm)に示すように、組織レベルでも、TGF−β1タンパク質およびα−SMAタンパク質は、PUS群において、Control群と比べて抑制された発現を示していた。
【0075】
以上の結果から、低出力超音波照射は、分子レベルにおいて、ヒトの腎線維化の進行を抑制し得ることがわかった。
【0076】
〔実施例3:低出力超音波による、線維化の直接的な抑制作用〕
(3−1.試験の準備および実施条件)
ヒト近位尿細管細胞(HK-2cell)を、6ウェルプレートに1×10
5細胞/ウェルで播種し、10%DMEM培地で18時間培養した。培地を、TGF−β1(10ng/mL)を添加した10%DMEM培地に交換した。1時間後に、2つの6ウェルプレートの下面に、それぞれ超音波照射装の照射面を貼り付けた。一方の6ウェルプレートには、1−1.に記載の条件(照射時間を除く)で、20分間の超音波照射を1回のみ行った(PUS群)。他方の6ウェルプレートには、超音波周波数が0Hzであることを除いてPUS群と同じ処理を行った。
【0077】
(3−2.低出力超音波照射の、遺伝子発現への影響)
超音波照射の終了から2時間後に、6ウェルプレートからHK-2cellを回収した。回収した細胞に含まれているSmadタンパク質(Smad2タンパク質、リン酸化Smad2タンパク質、Smad3タンパク質およびリン酸化Smad3タンパク質)を、ウェスタンブロッティングによって定量化した。各タンパク質の定量化には、mouse anti-Smad2 antibody(Cell Signaling Technology)、rabbit anti-phospho-Smad2 antibody(Cell Signaling Technology)、rabbit anti-Smad3 antibody(Cell Signaling Technology)、およびrabbit anti-phospho-Smad3 antibody(Cell Signaling Technology)を用いた。超音波照射の終了から24時間後に、別の6ウェルプレートからHK-2cellを回収した。回収した細胞に含まれているα−SMAおよびフィブロネクチン(FN)のmRNAを、RT−PCRによって定量化した。定量化した結果を
図8に示す。
【0078】
図8(a)に示すように、PUS群の細胞は、Control群の細胞に比べて有意に低い、Smad2タンパク質、リン酸化Smad2タンパク質、Smad3タンパク質およびリン酸化Smad3タンパク質の量を示した。
図8(b)に示すように、PUS群の細胞は、Control群の細胞に比べて有意に低い、α−SMAおよびFNのmRNAの転写量を示した。
【0079】
腎線維化を引き起こすシグナル伝達経路(TGF−β1→リン酸化Smad2/3→α−SMAおよびFN)が、知られている。したがって、以上の結果は、低出力超音波照射は、直接的に腎線維化を抑制していることが、わかった。
【0080】
本発明は、上述した実施形態および実施例のそれぞれに限定されず、特許請求の範囲に示した範囲における種々の変更が可能であり、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。