【課題】 フェノキシ樹脂と無水マレイン酸共重合体をマトリックス樹脂として用いるFRP積層成形体であって、優れた機械強度と耐熱性を有する繊維強化プラスチック成形体とその製造方法を提供する。
【解決手段】 フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂とするシート状の強化繊維成プラスチック成形材料と、重量平均分子量が20000以上かつ酸価が100以上の無水マレイン酸共重合体のフィルムとを準備し、両者を交互もしくはランダムに積層したのち、加熱しながら加圧成形を行ってFRP積層成形体を得る。FRP積層成形体は、フェノキシ樹脂を含有する層と無水マレイン酸共重合体フィルムを含有する層とが両者の積層界面において架橋反応により接合されている層間接合部位を1以上含み、FRP積層成形体としてのガラス転移点温度が160℃以上と示す。
繊維強化プラスチック層の強化繊維基材が、炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス系繊維、金属繊維及び有機繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の連続繊維である請求項1または2に記載の繊維強化プラスチック積層成形体。
フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂とするシート状の繊維強化プラスチック成形材料2枚以上と、無水マレイン酸共重合体フィルム1枚以上を準備し、前記シート状の繊維強化プラスチック成形材料で前記無水マレイン酸共重合体フィルムを挟み込むようにして層状に積層し、熱プレス機にて加熱プレス成形する請求項1〜3にいずれか一項に記載の繊維強化プラスチック積層成形体の製造方法。
請求項4に記載された繊維強化プラスチック積層成形体の製造方法に使用される無水マレイン酸共重合体フィルムであって、無水マレイン酸共重合体をTダイ法用いてフィルム化した厚みが10〜100μmの無水マレイン酸共重合体フィルム。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に代表される繊維強化プラスチック(FRP)は、軽量かつ高強度の材料として自転車やテニスラケットなどのスポーツ用品から、自動車や鉄道車両、航空機などの各種部材にまで幅広く用いられている。
【0003】
近年はCFRPに耐衝撃性やリサイクル性などを付与するため、熱可塑性樹脂の利用が積極的に検討されているが、ポリアミドなどのエンジニアリングプラスチックは高融点であり、成形加工に高温プロセスを必要とする問題がある。
【0004】
一方、フェノキシ樹脂などの比較的低温で溶融する熱可塑性樹脂は、加工性の面では問題ないものの、FRP材料としての耐熱性に劣り、焼付け塗装などの高温プロセスへの適合性の問題がある。
【0005】
そのため、特許文献1、2では、フェノキシ樹脂の側鎖にある水酸基を利用した架橋反応によりガラス転移温度を上げる手法が提案されている。これは水酸基と酸無水物基とのエステル化反応を利用したフェノキシ樹脂の3次元架橋によるものであるが、架橋剤として使用される芳香族酸二無水物が吸湿しやすく、保管環境の条件によっては架橋反応の反応性が変動してしまう課題がある。さらに、樹脂組成物を溶融混合したり、溶剤に溶解して混合すると架橋反応が開始してゲル化するため、粉末化した材料をドライブレンドしたものを強化繊維基材に付着させるなどの方法をとらなければならないほか、架橋反応を完結させるために30〜60分のポストキュアを行うことが推奨されるため、成形時のタクトタイムが長くなるなど、製造コストの低減が難しい。
【0006】
また、酸無水物と水酸基による架橋反応を利用した樹脂組成物として特許文献3のようにビスフェノールF型エポキシ樹脂に無水マレイン変性スチレン樹脂およびナフタレンエポキシ樹脂、潜在性硬化剤を配合した接着性樹脂組成物があり、実施例にはビスフェノールF型フェノキシ樹脂と無水マレイン酸変性スチレン樹脂、イミダゾール硬化剤の配合物が開示されている。
しかし、特許文献3は、回路基板材料のための導電性の樹脂組成物であり、可とう性の発現とエポキシ樹脂の硬化反応の促進のためにビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用い、スチレン共重合体は粘度調整と気泡の抑制に使用されていて、両者を組み合わせる目的については潜在性硬化剤とエポキシ樹脂の接触を常温域では阻害することにある。また、得られる樹脂組成物のTgは130℃以下であって、FRPのマトリックス樹脂として使用するために必要な溶融粘度などの必要物性は一切開示されていない。
【0007】
特許文献4においても、無水マレイン酸変性ポリプロピレンとフェノキシ樹脂を配合した接着剤用の樹脂組成物が開示されているが、フェノキシ樹脂は20wt%程度で変性ポリプロピレンが主成分となる配合であり、その評価も接着強度のみで、Tgの向上やFRPのマトリックス樹脂としての必要な物性については開示されていない。
【0008】
さらに特許文献1〜4はいずれも、開示されている樹脂組成物はいずれもフェノキシ樹脂や無水マレイン酸共重合体を粉末状体でしたり、溶剤もしくは加熱によりメルトブレンドされたものであって、それ以外の手法を着想させるような記載はない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のFRP積層成形体は、フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化プラスチック成形材料(以下、「フェノキシ樹脂FRPプリプレグ」と記すことがある)と無水マレイン酸共重合体フィルムが積層された状態となっているものである。ここで、本発明においてフェノキシ樹脂FRPプリプレグを使用することは、フェノキシ樹脂の強化繊維基材への含浸性が良好であり、かつ接着力も無水マレイン酸共重合体よりも高いためである。
積層状態は、所望するFRP積層成形体の特性によって任意の構造をとることが可能であり、フェノキシ樹脂FRPプリプレグ層と無水マレイン酸共重合体フィルムが交互に積層された状態であってもよいし、ランダムに積層された状態であっても構わない。フェノキシ樹脂含有層と無水マレイン酸共重合体フィルムがランダムに積層されている場合、フェノキシ樹脂FRPプリプレグ層と無水マレイン酸共重合体フィルムとが接合された層間接合部位を、少なくとも1以上含むように積層されていればよいが、FRP積層成形体の機械的強度と耐熱性を優れたものにするため、好ましくは、すべての層間接合部位の75%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上が、フェノキシ樹脂FRPプリプレグ層と無水マレイン酸共重合体フィルムとが接合された層間接合部位であることがよい。
なお、本発明のFRP積層成形体は、ダイヤモンドカッターなどを用いて切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察すると、強化繊維を含む層と樹脂のみの層の多層構造となっている。
【0019】
本発明のFRP積層成形体は、JIS K 7078において規定されている層間せん断強度の評価方法の一つであるILSS法により測定される層間せん断強度が20MPa以上となる。
FRP成形体は、プリプレグと呼称されるシート状のFRP成形用材料を複数枚積層し、熱プレス機やオートクレーブなどを用いて加熱加圧成形を行って製造する方法が一般的であるが、層間せん断強度が低いと外部からの応力がかかると層間剥離を起こして成形体としての強度が大きく低下してしまう。このため、層間せん断強度は、20MPa以上あることが好ましいが、25〜40MPaの範囲内であることがより好ましく、30〜40MPaの範囲内にあることが最も好ましい。
【0020】
本発明のFRP積層成形体は、発明の効果を損なわない範囲で、フェノキシ樹脂FRPプリプレグ及び無水マレイン酸共重合体フィルム以外の任意の樹脂を使用した層(例えば、任意の樹脂によるFRP成形用材料層、任意の樹脂による樹脂フィルムなど)を含有することができる。ここで、任意の樹脂としては、特に制限はないが、フェノキシ樹脂との接着性が良好な樹脂(例えばポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートなど)が好ましい。一方、本発明のFR積層成形体は、優れた機械的強度を維持するため、FRP材料を構成するすべての層数に対するフェノキシ樹脂FRPプリプレグ層及び無水マレイン酸共重合体フィルムの合計の比率(積層枚数基準)が、例えば60%以上、より好ましくは90%以上であることが好ましい。
【0021】
本発明のFRP積層成形体における繊維体積含有率(Vf)は、例えば45〜67%の範囲内であることが好ましい。ここで、Vfは、FRP積層成形体中に含まれる強化繊維の体積含有率のことを指す。Vfを上記範囲とすることは、FRP材料の力学特性の観点から好ましい。Vfが高すぎる場合には、強化繊維基材の空隙をマトリックス樹脂としてのフェノキシ樹脂(熱可塑性樹脂)で埋めることができず、繊維量に見合う力学特性が得られない場合がある。
【0022】
本発明のFRP積層成形体は、層状に積層されたフェノキシ樹脂FRPプリプレグと無水マレイン酸共重合体フィルムが両者の接触界面においてフェノキシ樹脂と無水マレイン酸共重合体との3次元架橋反応によって強固に結合されている層間接合部位を含んでいる。
この架橋反応はフェノキシ樹脂の2級水酸基(−OH)と、無水マレイン酸共重合体の酸無水物基との反応であり、フェノキシ樹脂と無水マレイン酸共重合体の混合物の溶融粘度の著しい増加と赤外吸光分析による架橋固化物におけるエステル結合の存在によって確認される。そして、この架橋反応を、フェノキシ樹脂と無水マレイン酸共重合体の界面にて起こさせることによって、機械的強度の向上に利用したものが本発明のFRP成形体(積層成形体)である。
なお、本発明のFRP積層成形体においては、成形体断面の強化繊維が存在する層と樹脂のみの層の境界部分について顕微ATR法などを用いて測定することにより、エステル結合の存在(1751cm−1近辺で観察される赤外光吸収スペクトルのピークの有無)を確認することにより架橋構造の有無を確認することができる。
【0023】
本発明のFRP積層成形体を構成するフェノキシ樹脂FRPプリプレグのフェノキシ樹脂と無水マレイン酸共重合体フィルムの無水マレイン酸共重合体、強化繊維基材については、その詳細を以下で説明する。
【0024】
本発明のフェノキシ樹脂FRPプリプレグにて使用されるフェノキシ樹脂は、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、あるいは2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応から得られる熱可塑性樹脂であり、溶液中あるいは無溶媒下に従来公知の方法で得ることができる。
平均分子量は、重量平均分子量(Mw)として、通常10,000〜200,000であるが、好ましくは20,000〜100,000であり、より好ましくは30,000〜80,000である。Mwが低すぎると成形体の強度が劣り、高すぎると作業性や加工性に劣るものとなり易い。なお、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値である。
【0025】
フェノキシ樹脂の水酸基当量(g/eq)は、通常50〜1,000であるが、好ましくは100〜750であり、特に好ましくは200〜500である。水酸基当量が低すぎると水酸基が増えることで吸水率が上がるため、機械物性が低下する懸念がある。水酸基当量が高すぎると水酸基が少ないので、強化繊維基材、特に炭素繊維との濡れ性が低下するため、炭素繊維強化時に十分な補強効果が望めない。ここで、本明細書でいう水酸基当量は、2級水酸基当量を意味する。なお、フェノキシ樹脂の高分子鎖末端官能基については、エポキシ基もしくは水酸基のいずれか又はその両方を有していても構わない。
【0026】
フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、65℃以上のものが適するが、好ましくは70〜200℃であり、より好ましくは80〜200℃である。ガラス転移温度が65℃よりも低いと成形性は良くなるが、引張弾性率保持率や寸歩変化率保持率が低下する恐れがある。また、200℃を超えるようであると成形加工の際の樹脂の流動性が低くなり、より高温での加工が必要となるため好ましくない。
なお、フェノキシ樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置を用い、10℃/分の昇温条件で、20〜280℃の範囲で測定し、セカンドスキャンのピーク値より求められる数値である。
【0027】
フェノキシ樹脂の種類は、上記の物性を満たしたものであれば特に限定されないが、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートYP−50、YP−50S、YP−55U)、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートFX−316)、ビスフェノールAとビスフェノールFの共重合型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製YP−70)、あるいは特殊フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートYPB−43C、FX293)等が挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して使用することができる。
また、フェノキシ樹脂と類似した熱可塑性樹脂である熱可塑性エポキシ樹脂も使用することができるが、一般的にフェノキシ樹脂と呼称されるポリヒドロキシポリエーテル樹脂を使用することが本発明では最も好ましい。
【0028】
また、フェノキシ樹脂は、常温において固形であり、かつ200℃以上の温度において3,000Pa・s以下の溶融粘度を示すものであることが好ましい。より好ましくは2,500Pa・s以下、さらに好ましくは1000Pa・s以下である。
【0029】
繊維強化プラスチック成形材料(FRPプリプレグ)は、マトリックス樹脂として、フェノキシ樹脂と共に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分をさらに含有していてもよい。含有し得るその他の成分としては、例えば、臭素化フェノキシ樹脂などの難燃剤、架橋反応を促進するための架橋触媒、離型剤、染顔料、帯電防止剤、滴下防止剤、セルロースナノファイバー等の衝撃強度改良剤、その他の熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)や熱可塑性樹脂(ポリアミド樹脂や無水マレイン酸共重合体フィルム樹脂、フッ素樹脂など)等が挙げられる。
フェノキシ樹脂FRPプリプレグ層は、他の樹脂成分を含有せず、マトリックス樹脂成分がフェノキシ樹脂のみからなることが最も好ましいが、他の樹脂成分を含有する場合には、フェノキシ樹脂FRPプリプレグ層中のマトリックス樹脂成分100重量%に対して、フェノキシ樹脂を好ましくは60重量%以上、より好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上含有するとよい。
【0030】
前記その他の成分のうち、架橋触媒を、フェノキシ樹脂と無水マレイン酸共重合体との架橋反応を促進させるために添加されていることが好ましい。架橋触媒としては、各トリエチレンジアミン等の3級アミン、2‐メチルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾール、2‐フェニル‐4‐メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルフォスフィン等の有機フォスフィン類、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩、4‐ジメチルアミノピリジンなどのアミノピリジン類などが挙げられる。これらの架橋触媒(促進剤)は、単独で使用してもよいし、2種類以上併用しても良い。
架橋触媒の配合量は、フェノキシ樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。
【0031】
無水マレイン酸共重合体は、フェノキシ樹脂の2級水酸基と反応する無水マレイン酸由来の酸無水物を2つ以上有し、常温で固体であって、昇華性が無いものであれば特に限定されるものではない。
成形物の耐熱性付与や反応性、ハンドリング性の点から、無水マレイン酸と、ポリオレフィンやスチレン、重量平均分子量が5000〜10000程度の高分子量エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂などとの共重合体が好ましく使用される。特に、無水マレイン酸とスチレンとの共重合体は、同じような架橋硬化が可能な酸無水物を2つ以上有する芳香族酸無水物よりも吸湿による反応性の変化が少なく、フェノキシ樹脂やエポキシ樹脂との相溶性も良いので最も好ましい。
【0032】
無水マレイン酸共重合体は、その重量平均分子量(Mw)が20000以上であるものが良い。重量平均分子量が20000未満であっても本発明に使用することはできるが、フィルムが脆くなり積層時に破砕するなどして作業性が大きく低下する。一方、重量平均分子量の上限値については特に限定はしないものの、あまりにも高分子量体であってもフィルム加工性に劣ることから、およそ200000以下であればよい。このため、無水マレイン酸共重合体の重量平均分子量は好ましくは20000〜200000であり、より好ましくは50000〜150000である。
【0033】
無水マレイン酸共重合体は、200℃以上の温度における溶融粘度が100〜3,000Pa・sの範囲にあるものが適しており、好ましくは300〜3,000Pa・s、より好ましくは500〜2,000Pa・sである。
溶融粘度が上記範囲内にあると、無水マレイン酸共重合体が加熱成形時の熱により軟化・溶融したときに、同じく軟化して流動状態にあるフェノキシ樹脂と良く混ざり合い両者の架橋反応が適正に行われるために好ましい。
【0034】
無水マレイン酸共重合体は、その酸価が150〜400であるものが適する。好ましくは170〜375であり、より好ましくは200〜300である。ここで、酸価は、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数(KOH−mg/g)で表される。酸価が400を超えると溶融粘度が高くなるために架橋反応が起こりにくくなり、150を下回ると架橋点が少なくなるためにTgの上昇が抑えられてしまうため使用には適さない。
また、軟化点又はTgは、好ましくは180℃以下、より好ましくは100〜165℃である。軟化点又はTgが180℃を超えると高温かつ長時間のプレスが必要となり、FRP生産性が低下するので好ましくない。
【0035】
無水マレイン酸共重合体フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。含有し得るその他の成分としては、例えば、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン系熱安定剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤などの酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、難燃剤、滴下防止剤、セルロースナノファイバー等の衝撃強度改良剤やその他の熱可塑製樹脂等が挙げられる。
無水マレイン酸共重合体フィルムは、他の樹脂成分を含有せず、樹脂成分が無水マレイン酸共重合体のみからなることが最も好ましいが、他の樹脂成分を含有する場合には、無水マレイン酸共重合体フィルム中の全樹脂成分100重量%に対して、無水マレイン酸共重合体を好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上含有するとよい。
【0036】
本発明のFRP積層成形体において、強化繊維基材には、例えば、炭素繊維やガラス繊維、ボロンやアルミナ、シリコンカーバイドなどのセラミックス系繊維、ステンレスなどの金属繊維、アラミドなどの有機繊維等の強化繊維から幅広く選択が可能であり、チラノ繊維(登録商標)などの市販の強化繊維でもよい。これらのなかでも、炭素繊維、ガラス繊維が好ましく使用され、強度が高く、熱伝導性の良い炭素繊維を使用することが最も好ましい。炭素繊維はピッチ系、PAN系のいずれも使用可能であるが、ピッチ系の炭素繊維は、高強度であるだけでなく高熱伝導性でもあり、それ故に発生した熱を素早く拡散することができるので、放熱が要求される用途ではPAN系よりも好ましい。強化繊維基材の形態は、特に制限されるものでは無く、連続繊維からなる織布または連続繊維を一方向に引きそろえたUD材が好ましく用いられ、例えば一方向材、平織りや綾織などのクロス、三次元クロス、数千本以上のフィラメントよりなるトウを使用することができる。これらの強化繊維基材は、1種類で用いることもできるし、2種類以上を併用することも可能である。
【0037】
強化繊維は、マトリックス樹脂の強化繊維への濡れ性や、取り扱い性を向上させることを目的に、その表面にサイジング剤(集束剤)やカップリング剤等の表面処理剤を付着させたり、酸化処理などを行っても良い。
サイジング剤としては、例えば、無水マレイン酸系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、フェノール系化合物またはこれら化合物の誘導体などが挙げられる。カップリング剤としては、例えば、アミノ系、エポキシ系、クロル系、メルカプト系、カチオン系のシランカップリング剤などが挙げられる。
【0038】
強化繊維100重量部に対し、表面処理剤であるサイジング剤及びカップリング剤の含有量は、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜6重量部である。サイジング剤及びカップリング剤の含有量が0.1〜10重量部であれば、マトリックス樹脂との濡れ性、取り扱い性がより優れる。
【0039】
本発明のFRP積層成形体の製造方法については、以下の代表例により詳細について説明するが、本発明のFRP材料の製造方法はこれらに限定されるものではない。
【0040】
本発明のFRP材料の製造方法は、
図1に示すように、シート状のフェノキシ樹脂FRPプリプレグと無水マレイン酸共重合体フィルムを準備し、これらを交互に積層し、加熱しながら加圧成形を行ってFRP積層成形体を得る方法である。
【0041】
本製造方法で使用されるフェノキシ樹脂FRPプリプレグ10は、一般公知の手法により製造されたものであれば特に限定されるものではない。フェノキシ樹脂を直接強化繊維基材に付着もしくは含浸したFRP成形用プリプレグであってもよく、特許6440222号に開示されているような成形加工時の熱により重合が進行してフェノキシ樹脂となる現場重合型のフェノキシ樹脂FRP成形プリプレグであってもよい。FRPプリプレグの厚みは、例えば、50〜250μm、好ましくは100〜200μmの範囲である。
また、無水マレイン酸共重合体フィルム40についても、製法などに特に限定は無く、例えば、溶液流延法や溶融流延法などの一般公知の方法に基づいて自ら作製しても良いし、市販されているフィルムをそのまま使用することもできる。
無水マレイン酸共重合体フィルム40の厚みについては、シート状のFRP成形用材料10との界面において十分な溶融混合状態を生じさせるために十分な樹脂量を確保する一方で、強化繊維が存在しない樹脂のみからなる部分の厚みを極力小さくして、得られるFPC成形体50のVfをなるべく低下させずに機械的強度を担保する観点から、例えば10〜100μmの範囲内が好ましく、10〜50μmの範囲内がより好ましい。
【0042】
本製造方法において、フェノキシ樹脂FRP成形用材料(FRPプリプレグ)と無水マレイン酸共重合体フィルムは、所望の成形体厚みとなるように交互もしくはランダムに積層したのち、加熱加圧成形されて本発明のFRP積層成形体50に加工される。FRP成形用材料と無水マレイン酸共重合体フィルムをランダムに積層する場合には、フェノキシ樹脂と無水マレイン酸共重合体とが接する積層境界を、少なくとも1以上含むように積層すればよいが、強化繊維を含まない樹脂フィルムを積層すると、FRP積層成形体50としてのVfが低下することとなることから、製造するFRP積層成形体50の機械的強度を優れたものにするため、好ましくは、すべての積層境界の60%以上、より好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上が、フェノキシ樹脂FRPプリプレグと無水マレイン酸共重合体フィルムとが接する積層境界となるように積層することがよい。
また、必要に応じて、フェノキシ樹脂及び無水マレイン酸共重合体以外の樹脂によるFRP成形用材料や樹脂フィルムを層間にインサートしてもよいが、製造するFRP積層成形体50の機械的強度を優れたものにするため、フェノキシ樹脂FRPプリプレグ同士の層間にこれらは配置されることが好ましい。
【0043】
成形に際しては、例えば、平板型の熱プレス機やベルトプレス機、ロールプレス機、オートクレーブなど、FRPの成形を行ううえで一般的な加圧成形機を使用することができるが、200℃以上の成形温度で5分以上の加工条件が必要である。加工条件は、成形温度が230〜300℃で5〜30分間の範囲内が好ましく、240〜280℃で10〜20分間の範囲内がより好ましい。
なお、成形温度が200℃未満であったり、加工時間が5分未満であると、FRP成形用材料のマトリックス樹脂(フェノキシ樹脂)と無水マレイン酸共重合体フィルム間の架橋反応が不十分となるため、両者の界面が脆弱でありFRP積層成形体として十分な機械強度とTgの向上効果が得られない。
【0044】
こうして得られた本発明のFRP積層成形体は、その後塗装を行ったり、他の部品との連結するための穴あけ加工や、射出成形用金型にインサートしてリブなどの成形加工を行う等の後加工をすることができる。
【0045】
本発明のFRP積層成形体の用途は、特に制限はなく、例えば、スポーツ用品や携帯情報端末および電気・電子機器部品、土木・建材用部品、自動車、二輪車用構造部品、航空機用部品が挙げられる。特に、その力学特性の観点から、高い機械的強度が要求される電気・電子機器筐体、自転車およびスポーツ用品用の構造材、自動車および航空機などの内外装の部材により好ましく用いることができる
【実施例】
【0046】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0047】
各種物性の試験及び測定方法は、以下のとおりである。
【0048】
[耐吸湿性]
温度35℃、湿度80%RHに設定した恒温恒湿器にFRP成形用材料および樹脂フィルムを24hr放置後、各実施例および比較例に記載した内容でFRP積層成形体を作製し、熱物性や機械物性の評価を行った。放置前のFRP成形材料を用いた積層板との比較を行い、物性の差が±10%の範囲内であれば合格とし、表中に○と表記した。
【0049】
[ポストキュアの有無]
実施例および比較例で作製したFRP積層成形体を240℃のオーブンにて1時間熱処理を行い、熱処理前後のTgを測定した。処理前のTgが160℃以上かつ、処理前後のTgの差が10℃以内であればポストキュアを不要とした
【0050】
[FRP積層成形体の機械強度の評価]
JIS K 7074:1988 炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法に基づいて、実施例および比較例として作成したFRP積層成形体の機械物性(曲げ強度、曲げ弾性率)を測定した。
【0051】
[FRP積層成形体のガラス転移温度(Tg)]
実施例および比較例として作製したFRP積層成形体から、ダイヤモンドカッターを用いて幅10mm、長さ10mmの試験片を作製し、上記動的粘弾性測定装置を用いて5℃/分の昇温条件、25〜250℃の範囲で測定し、得られるtanδの極大ピークをガラス転移点とした。
【0052】
[FRP積層成形体の層間せん断強度]
JIS K 7078:1991 炭素繊維強化プラスチックの層間せん断試験方法に基づき、長さ21mm×幅10mm×厚み3mmの試験片を作製し、万能強度試験機(オートグラフ AG−Xplus100kN 島津製作所製)を用いて測定した。
【0053】
[フェノキシ樹脂]
フェノトートYP−50S(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、ビスフェノールA型、Mw=60000、水酸基当量=284)、Tg=84℃、200℃における溶融粘度=400Pa・s
[無水マレイン酸共重合体]
XIBOND160(POLYSCOPE POLYMERS BV製、Mw=115000、酸価=250)、Tg=150℃
XIBOND120(POLYSCOPE POLYMERS BV製、Mw=245000、酸価=90)、Tg=120℃
【0054】
[硬化触媒]
4−ジメチルアミノピリジン(DMAP、広栄化学工業社製)
【0055】
実施例1
フェノキシ樹脂YP−50Sを粉砕、分級して平均粒子径d50が80μmであるマトリックス樹脂粉末を作製し、開繊処理された炭素繊維(東レ株式会社製、T700)からなる平織の強化繊維基材に、静電場において電荷100kV、吹き付け空気圧0.1MPaの条件でマトリックス樹脂粉末の粉体塗装を行った。その後、オーブンでマトリックス樹脂粉末は200℃で3分間加熱して強化繊維基材に熱融着させ、厚み150μmのシート状のFRP成形用材料(プリプレグ)を得た。得られたFRP成形用材料の樹脂割合(RC)は33%であった。
無水マレイン酸共重合体(XIBOND160)をTダイ押出成形機(株式会社プラスチック工学研究所製)を用い、ダイス幅150mm、コートハンガーダイ、リップ幅0.2mmの条件にて20μm厚ののフィルムを得た。
上記FRP成形用材料と無水マレイン酸共重合体フィルムを最外層がFRP成形用材料となるように交互に積層して熱プレス機で5MPa、240℃、10minの条件で加熱加圧成形した厚み1mmのFRP積層成形体の各種物性を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0056】
実施例2
フェノキシ樹脂YP−50S粉末に架橋触媒DMAPを表1の配合比で添加したこと以外は、実施例1と同様にして厚み1mmのFRP積層成形体を作製し、各種物性を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0057】
比較例1
無水マレイン酸共重合体フィルムにXIBOND120を使用したこと以外は実施例1と同様にして厚み1mmのFRP積層成形体を作製し、各種物性を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0058】
比較製2
無水マレイン酸共重合体XIBOND160を粉砕、分級して平均粒子径d50が80μmであるマトリックス樹脂粉末を作製し、開繊処理された炭素繊維(東レ株式会社製、T700)からなる平織の強化繊維基材に、静電場において電荷100kV、吹き付け空気圧0.1MPaの条件でマトリックス樹脂粉末で粉体塗装を行った。その後、オーブンでマトリックス樹脂粉末は240℃で3分間加熱して共重合体を強化繊維基材に熱融着させ、無水マレイン酸共重合体をマトリックス樹脂とする厚み150μmのシート状のFRP成形用材料(プリプレグ)を得た。得られたFRP成形用材料の樹脂割合(RC)は33%であった。
フェノキシ樹脂YP−50SをTダイ押出成形機を用い、ダイス幅150mm、コートハンガーダイ、リップ幅0.2mmの条件にて20μm厚のフィルムを得た。
上記FRP成形用材料とフェノキシ樹脂フィルムを最外層がFRP成形用材料となるように交互に積層して熱プレス機で5MPa、240℃、10minの条件で加熱加圧成形した厚み1mmのFRP積層成形体の各種物性を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0059】
比較例3
フェノキシ樹脂YP−50、無水マレイン酸共重合体XIBOND160、硬化触媒DMAPをそれぞれ粉砕、分級して平均粒子径d50がおよそ80μmである粉体にしたものを、表1に示す配合比でドライブレンドし、マトリックス樹脂組成物粉末を作製した。次いで、開繊処理された炭素繊維(東レ株式会社製、T700)からなる平織の強化繊維基材に、静電場において電荷100kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で、マトリックス樹脂組成物粉末の粉体塗装を行った。その後、オーブンで200℃、1分間加熱して樹脂を熱融着させ、厚み150μmのシート状のFRP成形用材料(プリプレグ)を得た。得られたFRP成形用材料の樹脂割合(RC)は33%であった。
上記FRP成形用材料を積層して熱プレス機で5MPa、240℃、10minの条件で加熱加圧成形した厚み1mmのFRP積層成形体の各種物性を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0060】
比較例4
フェノキシ樹脂YP−50、結晶性エポキシ樹脂YSLV80XY(日鉄ケミカル&マテリアル製テトラメチルビスフェノールF型、エポキシ当量:192、融点:72℃)、架橋剤TMEG(新日本理化製エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、酸無水物当量:207、融点:160℃)をそれぞれ粉砕、分級して平均粒子径d50がおよそ80μmの粉体にしたものを、表1に示す配合比でドライブレンドし、マトリックス樹脂組成物粉末を作製した。次いで、開繊処理された炭素繊維(東レ株式会社製、T700)からなる平織の強化繊維基材に、静電場において電荷100kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で、マトリックス樹脂組成物粉末の粉体塗装を行った。その後、オーブンで180℃、1分間加熱して樹脂を熱融着させ、厚み150μmのシート状のFRP成形用材料(プリプレグ)を得た。得られたFRP成形用材料の樹脂割合(RC)は33%であった。
上記FRP成形用材料を積層して熱プレス機で5MPa、200℃、10minの条件で加圧成形した加熱加圧成形した厚み1mmのFRP積層成形体の各種物性を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
実施例のFRP積層成形体は、シート状のFRPプリプレグのマトリックス樹脂(フェノキシ樹脂)と無水マレイン酸共重合体フィルムの積層界面における架橋反応によって強固な接着界面ができる。よって、無水マレイン酸共重合体の酸価が小さいために架橋が不十分な状態となる比較例1のFRP積層成形体や、フェノキシ樹脂よりも炭素繊維との密着性が劣る無水マレイン酸共重合体をFRPプリプレグに用いた比較例2のFRP積層成形体、無水マレイン酸共重合体の分子量が大きいためにフェノキシ樹脂と相溶せずにとけ残ってしまう比較例3のFRP積層成形体のいずれよりも、実施例のFRP積層成形体は、構造材料にも使用しえる高い機械物性、及び原料(フェノキシ樹脂、無水マレイン酸共重合体)自体のTgを越える170℃以上のTgを発揮することができる。
実施例のFRP積層成形体は、比較例4のFRP積層成形体に比べても、耐吸湿性が高く保存性に優れるほか、ポストキュアも不要であるために高い生産性を有する。