【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中にあるパラメータの上限値と下限値とがそれぞれ段階的に記載されている場合、ある段階の上限値と下限値は任意に組み合わせ可能である。また、本明細書において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0021】
<金属空気電池用正極触媒>
一実施形態の正極触媒は、金属空気電池の正極における酸素反応(特に酸素発生反応)を促進するために用いられる触媒(金属空気電池用正極触媒)であり、下記式(1)で表されるメリライト型複合酸化物(以下、「複合酸化物(1)」ともいう)を備える。
(Ba
wSr
1−w)
2Fe
2−2x(Co
yNi
1−y)
x(Si
zGe
1−z)
1+xO
7 (1)
[0≦w≦1、0<x<1、0<y<1、0≦z≦1]
【0022】
本実施形態の正極触媒は、上記複合酸化物(1)を備えるため、OER活性に優れる傾向があり、当該正極触媒によれば、金属空気電池の入力特性を向上させることができる。この正極触媒は、ORR活性にも優れる傾向があり、当該正極触媒を用いることで、放電時の出力特性も向上する傾向がある。さらに、充放電を繰り返した場合にも優れた入出力特性が維持されるという効果も得られる傾向がある。すなわち、本実施形態の正極触媒によれば、優れた寿命特性が得られる傾向がある。
【0023】
一般に、「メリライト型化合物」とは、A
2MM’
2O
7(Aは1〜3族の陽イオン、M及びM’は2価以上の遷移金属又は非遷移金属であり、M及びM’のいずれも四配位サイトに配置される)で表される化合物群をいい、メリライト型構造中で遷移金属は、全て四配位サイトに配置される。メリライト型複合酸化物は、既存の金属空気電池用正極触媒材料として用いられるペロブスカイト型複合酸化物に比べて、遷移金属イオン配位する酸化物イオンの数が少ない。このように、酸化物イオンが遷移金属イオンに対し疎に配位するものであるため、メリライト型複合酸化物は、ペロブスカイト型複合酸化物に比べて、触媒反応の起点となる吸着能が高く、これにより優れたOER活性及びORR活性を示す傾向があると考えられる。
【0024】
複合酸化物(1)は、上記メリライト型化合物とは異なる化学組成であるが、メリライト型構造を有する。特に、複合酸化物(1)はNiを有していることを一つの特徴としているが、Niはほぼすべての結晶性酸化物中で6配位八面体サイト若しくは平面4配位サイトに配置されるため、4配位四面体サイトのみが存在するメリライト型構造の複合酸化物でNiを含む化合物を合成することができることは、意外な結果であり、本発明者らが初めて見出したことである。
【0025】
さらに、複合酸化物(1)は、他のメリライト型複合酸化物と比較しても、優れたOER活性及びORR活性を示す傾向がある。この理由は明らかではないが、(i)メリライト型構造が化学組成について高い柔軟性を有しており、FeとCoとNiの3種の遷移金属を幅広い組成範囲で固溶可能であること、及び、(ii)これら3種の遷移金属間での大きな相乗効果が得られることが理由として考えられる。
【0026】
また、複合酸化物(1)は、優れた化学的安定性を有し、例えばアルカリ浸漬させた場合にはアルカリ溶液へ溶解し難い。これは、複合酸化物(1)が、酸化数が+4で非常に安定なSiイオン又はGeイオンを含むためである。
【0027】
式(1)におけるwは、0≦w≦1を満たす。すなわち、BaとSrの比は、w:1−wである。wは、整数であっても少数であってもよい。wは、0であっても0より大きくてもよく、1であっても1より小さくてもよい。すなわち、複合酸化物(1)は、Ba及びSrの一方のみを含んでいても、両方を含んでいてもよい。wは、0.5以下、0.2以下、0.1以下又は0であってよい。wは、0.5以上、0.7以上、0.9以上又は1.0であってよい。
【0028】
式(1)におけるxは、0<x<1である。すなわち、複合酸化物(1)は、FeとCoと、Niとを含み、且つ、Si及び/又はGeを含む。xは、整数であっても少数であってもよい。OER活性により優れ、より優れた入力特性が得られる観点では、xは、好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.4以上であり、更に好ましくは0.5以上であり、特に好ましくは0.6以上である。OER活性により優れ、より優れた入力特性が得られる観点では、xは、好ましくは0.97以下であり、より好ましくは0.95以下であり、更に好ましくは0.9以下であり、特に好ましくは0.8以下である。これらの観点から、xは、0.2≦x≦0.97を満たすことが好ましく、0.4≦x≦0.95を満たすことがより好ましく、0.5≦x≦0.9を満たすことが更に好ましく、0.6≦x≦0.8を満たすことが特に好ましい。
【0029】
式(1)におけるyは、0<y<1である。すなわち、CoとNiの比は、y:1−yである。yは、整数であっても少数であってもよい。yは、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上又は0.6以上であってよく、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下又は0.4以下であってよい。
【0030】
複合酸化物(1)がBaを含む(すなわち、wが0より大きい)場合、OER活性により優れ、より優れた入力特性が得られる観点では、yは、好ましくは0.4以上であり、より好ましくは0.5以上である。複合酸化物(1)がSrを含み(すなわち、wが1より小さく)、xが0.7以上(例えば0.7≦x≦0.9)である場合、OER活性により優れ、より優れた入力特性が得られる観点では、yは、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.6以上であり、更に好ましくは0.7以上である。複合酸化物(1)がSrを含み(すなわち、wが1より小さく)、xが0.7未満(例えば、0.5≦x<7)である場合、OER活性により優れ、より優れた入力特性が得られる観点では、yは、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.4以下であり、更に好ましくは0.35以下である。
【0031】
式(1)におけるzは、0≦z≦1を満たす。すなわち、SiとGeの比は、z:1−zである。zは、整数であっても少数であってもよい。zは、0であっても0より大きくてもよく、1であっても1より小さくてもよい。すなわち、複合酸化物(1)は、Si及びGeの一方のみを含んでいても、両方を含んでいてもよい。OER活性により優れ、より優れた入力特性が得られる観点では、zは、好ましくは1未満であり、より好ましくは0.7以下であり、更に好ましくは0.5以下であり、特に好ましくは0.2以下であり、極めて好ましくは0.1以下である。一方、工業的にはzが大きいほど有利である。
【0032】
複合酸化物(1)の形状は、特に限定されず、使用する金属空気電池の仕様により適宜選択することができる。複合酸化物(1)の形状は、例えば、粒子状又はバルク状であり、好ましくは粒子状である。
【0033】
複合酸化物(1)の粒子径は、特に限定されず、0.01μm以上、0.02μm以上、1μm以上又は2μm以上であってよく、50μm以下、20μm以下、1μm以下又は0.5μm以下であってよい。なお、本明細書中の粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定される体積平均粒子径である。
【0034】
複合酸化物(1)の比表面積は、特に限定されないが、触媒活性により優れる観点では好ましくは0.1m
2/g以上であり、より好ましくは0.5m
2/g以上であり、更に好ましくは0.7m
2/g以上であり、特に好ましくは1m
2/g以上である。複合酸化物(1)の比表面積は、100m
2/g以下であってよく、耐久性(例えばアルカリへの溶解しにくさ)の観点では、好ましくは10m
2/g以下であり、より好ましくは9m
2/g以下である。なお、本明細書中の比表面積とは、前処理装置(Microtrac BEL製BELPREP−vacII製)を用いて試料に前処理を施した後、その処理後の試料について比表面積/細孔分布測定装置(MicrotracBEL製BELSORP−miniII製)を用いてBET法により測定した値をいう。
【0035】
本実施形態の正極触媒は、1種の複合酸化物(1)のみからなっていてよく、複数種の複合酸化物(1)を備えていてもよい。また、本実施形態の正極触媒は、複合酸化物(1)以外の他の複合酸化物を更に備えていてもよい。例えば、ORR活性に優れる複合酸化物と、OER活性に優れる複合酸化物とを組み合わせて、ORR活性及びOER活性のいずれにも優れる正極触媒を得ることもできる。正極触媒中の複合酸化物(1)の含有量は、正極触媒の全質量を基準として、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、97質量%以上又は100質量%であってよい。
【0036】
上記実施形態の正極触媒における複合酸化物(1)の製造方法としては、特に限定されるものではなく、セラミックス材料の各種製造方法を用いることができる。例えば、錯体重合法、水熱合成法等の液相法、焼結法等の固相法などを用いることができる。このうち、液相法によれば、低温焼成でも化学的に均一性の高い粒子を得ることができ、その結果として小粒径・高比表面積でより高いORR活性及びOER活性を示す正極触媒を得ることができる。
【0037】
複合酸化物(1)は、例えばアモルファス金属錯体法により合成することができる。この方法によれば、固相法に比べ焼成温度を低くすることができる。そのため、この方法は、複合酸化物を製造するためのエネルギーコストに優れるものである。この方法では、まず、金属源を、目的生成物中に含まれる金属の化学量論比と同様になるよう純水に添加し溶解させ、クエン酸を加えて均一になるよう撹拌し、原料溶液を得る(溶液調製工程)。次に、原料溶液を加熱濃縮してクエン酸ゲルを製造する(ゲル化工程)。その後、クエン酸ゲルに熱処理を施すことによって有機分を分解させることで、粉体の前駆体を得る(前駆体調製工程)。この前駆体を粉砕し(粉砕工程)、焼成することで(焼成工程)、複合酸化物(1)が得られる。ただし、粉砕工程は任意の工程であり、必ずしも前駆体を粉砕する必要はない。
【0038】
溶液調製工程で用いるSr源、Ba源、Fe源、Co源及びNi源としては、特に限定されず、例えばこれらの金属の硝酸塩又は酢酸塩を用いることができる。
【0039】
溶液調製工程で用いるGe源としては、特に限定されず、例えば酸化ゲルマニウム及び/又はゲルマニウム錯体を用いることができる。ゲルマニウム錯体としては、例えばクエン酸錯体、グリコール酸錯体、乳酸錯体、りんご酸錯体、マロン酸錯体、フマル酸錯体、マレイン酸錯体等を用いることができる。また、ゲルマニウム錯体として、カルボキシ基(−COOH)とヒドロキシ基(−OH)とを有し且つこれらの官能基を複数個持つキレート剤の錯体等を用いることもできる。このようなキレート剤は、分子内のカルボキシ基及びヒドロキシ基が脱プロトンしたイオンが陽イオンに配位しやすく、これらの官能基を2以上有することにより、陽イオンを挟むように配位(キレート)し、錯形成能が高い。なお、このようなキレート剤に限られず、他のキレート剤でも、ゲルマニウムと錯体を形成し、そのゲルマニウム錯体が水に溶解可能なものであれば用いることができる。
【0040】
通常、固相法におけるゲルマニウム化合物の出発原料としては、酸化ゲルマニウム(IV)が用いられる。一方で、酸化ゲルマニウム(IV)は水に溶解しないため、特に水を溶媒とする液相法における出発原料としては適当でない。また、酸化ゲルマニウム(IV)は、強塩基の水溶液には溶解するが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いて強塩基の水溶液を調製してゲルマニウムを溶解させても、原料溶液がナトリウム、カリウム等の金属を含むこととなり、生成物中に意図しない金属イオンが含まれる可能性がある。また、液相法における出発原料として、塩化ゲルマニウム(IV)が挙げられる。この塩化ゲルマニウム(IV)は、グリコールにも溶解するが、酸化ゲルマニウム(IV)が析出するおそれがあり、水を主とした溶媒にすることはできない。これに対し、上述の水溶性ゲルマニウム錯体を用いることにより、均一且つ安定なゲルマニウム源の水溶液を得ることができ、ゲルマニウム化合物の均一な液相合成が可能となる。その結果として、メリライト型複合酸化物の低温合成なプロセスを提供することができる。
【0041】
上述のゲルマニウム錯体の中でも、コスト、水への溶解度等の観点から、クエン酸錯体を用いることが好ましい。なお、クエン酸錯体は、酸化ゲルマニウムを、クエン酸水溶液に溶解することにより調製することができる。
【0042】
溶液調製工程で用いるSi源としては、特に限定されず、例えばプロピレングリコール修飾シラン、エチレングリコール修飾シラン、ポリエチレングリコール修飾シラン等のグリコール修飾シランを用いることができる。なお、このようなグリコール修飾シランは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン等のテトラアルコキシシランと、グリコールと、塩酸(触媒)とを混合することにより調製することができる。より詳細な調製方法は、例えば特開2010−7032号公報に開示されているため、ここでの記載は省略する。なお、テトラアルコキシシランとしては、他の金属源との混和性の観点等から、テトラメトキシシランを用いることが好ましい。
【0043】
溶液調製工程で用いる原料溶液中のクエン酸添加量は、原料溶液中の全金属イオンに対し、モル比で3〜5倍とすることが好ましい。これにより、後段のゲル化工程でゲルを効率的に生成することができる。
【0044】
ゲル化工程における加熱濃縮の方法としては、特に限定されず、例えば恒温槽や恒温炉を用いることができる。加熱濃縮の温度としては、特に限定されないが、例えば80℃以上150℃以下で加熱することが好ましく、90℃以上140℃以下で加熱することがより好ましい。
【0045】
前駆体調製工程における熱処理の温度は、有機物が分解する温度であれば特に限定されないが、例えば250℃以上600℃であることが好ましく、300℃以上550℃以下であることがより好ましく、400℃以上500℃以下であることが更に好ましい。
【0046】
粉砕工程では、従来公知の粉砕装置を用いることができる。粉砕工程は、複合酸化物(1)の粒子径が上述した粒子径となるように実施することができる。
【0047】
焼成工程における焼成温度は、特に限定されず、例えば800℃以上1200℃以下であることが好ましく、850℃以上1150℃以下であることがより好ましく、900℃以上1100℃以下であることが更に好ましい。
【0048】
以上説明した正極触媒は、公知の金属空気電池に用いられる空気極に広く適用可能であり、例えば、車載用水系空気電池向けのバイファンクショナル空気極への適用が考えられる。
【0049】
<空気極及び金属空気電池>
以下、上記実施形態の正極触媒が用いられる金属空気電池用正極(空気極)及び当該空正極を備える金属空気電池の一例について説明する。
【0050】
金属空気電池は、空気極(正極)と、負極と、電解質と、を少なくとも備える。金属空気電池では、電解質が少なくとも空気極と負極との間に配置されることで、空気極と負極との間のイオン伝導が行われる。金属空気電池は、空気極(正極)と、負極と、電解質と、を少なくとも備える一つのセル(単電池)によって構成されていてもよく、複数のセルで構成されていてもよい。
【0051】
金属空気電池は、空気極と負極との間に短絡抑制のためのセパレータを更に備えてよい。セパレータは必須の構成要素ではない。
【0052】
空気極、負極、電解質及びセパレータは筐体(電池ケース)に収容されていてよい。筐体の形状としては、具体的にはコイン型、平板型、円筒型、ラミネート型等を挙げることができる。筐体は、大気開放型の電池ケースであってよく、密閉型の電池ケースであってもよい。大気開放型の電池ケースは、少なくとも空気極が充分に大気と接触可能な構造を有する電池ケースである。一方、筐体が密閉型電池ケースである場合は、密閉型電池ケースに、気体(空気)の導入管及び排気管を設けることが好ましい。この場合、導入・排気する気体は、酸素濃度が高いことが好ましく、純酸素であることがより好ましい。また、放電時には酸素濃度を高くし、充電時には酸素濃度を低くすることが好ましい。
【0053】
金属空気電池は、例えば、筐体内に空気極を配置した後、電解質を筐体内に注入し、負極及びセパレータを電解質に浸すことで得ることができる。
【0054】
以下、金属空気電池の各構成要素について説明する。
【0055】
(空気極)
空気極は、集電体(空気極集電体)と、当該集電体に設けられた触媒層及びガス拡散層と、を備える。ただし、ガス拡散層は必須の構成要素ではない。
【0056】
空気極集電体、触媒層及びガス拡散層の配置は特に限定されないが、典型的には、ガス拡散層が外気側となり、触媒層が電解質側となるように配置される。また、空気極集電体は、最も外気側となるように(すなわち、ガス拡散層の触媒層とは反対側)に配置されてよく、触媒層とガス拡散層との間に配置されてもよい。
【0057】
空気極集電体は、例えば、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の導電性を有する金属材料で構成される。集電体の形状は、特に限定されず、例えば、メッシュ状である。空気極集電体にはリード(空気極リード)が接続されている。空気極リードの先端には空気極端子(正極端子)が設けられている。
【0058】
触媒層は、上記実施形態の正極触媒を含む。触媒層は、導電性材料を更に含んでいてよい。触媒層中において正極触媒及び導電性材料は均一に分散されていることが好ましい。触媒層中では、正極触媒が、導電性材料に担持されていてもよい。
【0059】
触媒層中の正極触媒の含有量は、寿命特性と入出力特性のバランスがより良好となる観点から、触媒層の全質量を基準として、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上であり、更に好ましくは60質量%以上である。触媒層中の正極触媒の含有量は、寿命特性と入出力特性のバランスがより良好となる観点から、触媒層の全質量を基準として、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下であり、更に好ましくは70質量%以下である。本実施形態では、複合酸化物(1)の含有量が、触媒層の全質量を基準として、上記範囲であることが好ましい。
【0060】
導電性材料としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。導電性材料として、黒鉛、カーボンブラック、ケッチェンブラック等を用いる場合には、製造コストを低減しつつ、寿命特性と入出力特性とを高度に両立することができる。
【0061】
触媒層中の導電性材料の含有量は、入出力特性がより向上する観点から、触媒層の全質量を基準として、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは60質量%以上である。触媒層中の導電性材料の含有量は、寿命特性がより向上する観点から、触媒層の全質量を基準として、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下である。
【0062】
触媒層は、正極触媒及び導電性材料以外の他の成分を更に含んでいてよい。他の成分としては、例えば、結着剤等が挙げられる。
【0063】
結着剤としては、フッ素系バインダー等が挙げられ、好ましくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が用いられる。結着剤の含有量は、例えば、触媒層の全質量を基準として、1質量%以上であってよく、30質量%以下であってよい。
【0064】
触媒層の厚さは、例えば、0.5μm以上であってよく、500μm以下であってよい。
【0065】
ガス拡散層は、導電性を有するとともに、触媒層での反応に使用される酸素ガスを拡散する機能を有する。そのため、空気極がガス拡散層を備える場合、触媒層への上記ガスの供給効率が向上し、電池特性(例えば入出力特性)が向上する傾向がある。
【0066】
ガス拡散層は、例えば導電性材料を含む。導電性材料としては、上述した触媒層に用いられる導電性材料が挙げられる。ガス拡散層における導電性材料の含有量は、例えば、ガス拡散層の全質量を基準として、65質量%以上であってよく、99質量%以下であってよい。
【0067】
ガス拡散層は、触媒層に含まれ得る結着剤等の他の成分を更に含んでいてもよい。これらの成分の例及び好ましい態様は、触媒層の場合と同じである。結着剤の含有量は、例えば、ガス拡散層の全質量を基準として、5質量%以上であってよく、35質量%以下であってよい。
【0068】
ガス拡散層の厚さは、例えば、0.5μm以上であってよく、500μm以下であってよい。
【0069】
触媒層の厚さとガス拡散層の厚さの合計は、例えば、1μm以上であってよく、1000μm以下であってよい。
【0070】
上記空気極は、例えば以下のようにして作製することができる。
【0071】
まず、導電性材料と、分散溶媒と、結着剤と、を乳鉢内で混合することで、ガス拡散層形成用組成物(例えばスラリー状組成物)を作製する。分散溶媒としては、例えば、水、エタノール等のアルコールなどが挙げられる。ガス拡散層形成用組成物における導電性材料、結着剤の含有量は、ガス拡散層における各成分の含有量が上述した範囲内となるように調整してよい。
【0072】
ガス拡散層形成用組成物の作製時には、分散剤を更に添加してもよい。分散剤としては、導電性材料に分散安定性を付与し得るものであれば特に限定されず、例えば、オクチルフェノールエトキシレート等の非イオン界面活性剤を使用可能である。オクチルフェノールエトキシレートとしては、Triton X−100が好ましく用いられる。分散剤の添加量は、例えば、導電性材料100質量部に対して、10質量部以上であってよく、60質量部以下であってよい。
【0073】
また、正極触媒と、導電性材料と、結着剤と、を混合することで、触媒層形成用組成物(例えばインク組成物)を作製する。触媒層形成用組成物の作製には、正極触媒をそのまま使用してもよいし、担体に担持した状態で使用してもよい。すなわち、担体と、当該担体に担持された正極触媒と、を含む担持触媒を用いてもよい。担持触媒における担体は、上記導電性材料であってよい。
【0074】
触媒層形成用組成物における正極触媒、導電性材料及び結着剤の含有量は、触媒層における各成分の含有量が上述した範囲内となるように調整してよい。
【0075】
触媒層形成用組成物の作製時には、分散剤を更に添加してもよい。分散剤としては、正極触媒及び/又は導電性材料に分散安定性を付与し得るものであれば特に限定されず、例えば、オクチルフェノールエトキシレート等の非イオン界面活性剤を使用可能である。オクチルフェノールエトキシレートとしては、Triton X−100が好ましく用いられる。分散剤の添加量は、例えば、正極触媒と導電性材料の合計100質量部に対して、5質量部以上であってよく、40質量部以下であってよい。
【0076】
次いで、得られたガス拡散層形成用組成物を延伸して二つに折りたたむ一連の作業を10〜40回繰り返す。延伸に用いる手法は一般的な手法を適用可能であり、ガス拡散層形成用組成物を平滑に伸ばせる手法であれば特に限定されない。例えば、アクリル製の円筒で延伸する手法は好適である。次いで、ロールプレスで規定の厚みになるまで圧延した後に裁断し、150〜170℃に加熱したホットプレートで1〜2時間乾燥する。これにより、ガス拡散層シートが得られる。ここまでで得られた拡散層シートは全体として板状をなしている。
【0077】
次いで、得られたガス拡散層シートに、触媒層形成用組成物を、例えばスプレー法により塗布し、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で加熱処理することで、ガス拡散層と、当該ガス拡散層上に積層された触媒層とを備える空気極用積層体が得られる。加熱処理は、例えば、300〜350℃で、10〜20分間行う。
【0078】
次いで、空気極用積層体に対して、プレス等により空気極集電体を接合することで空気極が得られる。
【0079】
空気極の製造方法は上記方法に限定されず、例えば、ガス拡散層形成用組成物及び触媒層形成用組成物をシート状に形成することなく、空気極集電体に充填する方法(例えば特開2014−49304号公報に記載の方法)により作製することも可能である。
【0080】
(負極)
負極には、一般的な金属空気電池の負極を使用可能である。負極は、例えば、集電体(負極集電体)と、当該集電体に設けられた負極活物質層と、を備える。負極集電体にはリード(負極リード)が接続されている。負極リードの先端には負極端子が設けられている。
【0081】
負極集電体は、例えば、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の導電性を有する金属材料で構成される。集電体の形状は、特に限定されず、例えば、メッシュ状である。
【0082】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質は、還元力の高い卑金属(例えば、標準電極電位が水素より卑な金属)を元素として含む金属単体、合金、化合物等が挙げられる。卑金属としては、亜鉛の他に、例えばリチウム(Li)、亜鉛(Zn)及び鉄(Fe)が挙げられる。
【0083】
(電解質)
電解質は、特に限定されるものでなく、負極に使用される負極活物質の種類に応じて公知の電解質を使用可能である。電解質の形態も特に限定されず、液体電解質、ゲル電解質、固体電解質等であってよい。具体的には、例えば、水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。水酸化物イオンの濃度([OH−])は、1〜10mol/L以上であることが好ましい。
【0084】
(セパレータ)
セパレータの構造及び材料は、空気極と負極との間の金属イオン伝導を阻害せず、且つ、両極間の短絡を抑制し得る構造及び材料であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂などの樹脂材料で構成された多孔質膜又は樹脂不織布が挙げられる。
【0085】
以上説明した金属空気電池では、空気極端子及び負極端子を利用して、充放電の際の電流の入力及び出力が行われる。金属空気電池は、上記実施形態の正極触媒を含む空気極を備えるため、優れた入力特性を示し、優れた出力特性と優れた寿命特性を示す傾向がある。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
<正極触媒の調製>
以下に示す方法により、正極触媒としての試料を調製した。原料としては、以下のものを用いた。なお、Ge源であるクエン酸ゲルマニウムは、GeO
2(99.99%、高純度化学研究所)をクエン酸水溶液に溶解することにより調製した。
Ba源:Ba(CH
3COO)
2(純度99.9%、和光純薬工業)
Sr源:SrNO
3(純度99.5%、和光純薬工業)
Co源:Co(CH
3COO)
2・4H2O(純度99%、和光純薬工業)
Fe源:Fe(NO
3)
3・9H
2O(純度99.9%、和光純薬工業)
Ni源:Ni(NO
3)
2・6H
2O(純度99.95%、関東化学)
Ge源:クエン酸ゲルマニウム
La源:La(NO
3)
3・6H
2O(99.9%、和光純薬工業)
Ca源:Ca(NO
3)
2・4H
2O(99.9%、和光純薬工業)
ゲル化剤:くえん酸C
6H
8O
7(純度98%、和光純薬工業)
【0088】
(実施例1〜10)
表1に示す化学式の目的生成物(メリライト型複合酸化物)における、化学式中の金属イオンの化学両論比と同様の仕込み比で、目的生成物が1mmolとなるように各金属源を純水に溶解し、クエン酸を総カチオン量の3倍モル量加えて均一になるよう撹拌し、原料溶液を得た。原料溶液を120℃に設定した恒温槽に静置し、加熱濃縮した。流動性を失いゲル状となった過飽和クエン酸ゲルに450℃で熱処理を施し、有機分を分解して粉体の前駆体を得た。このようにして得た前駆体を粉砕し、ボックス炉を用いて大気中1000℃で12時間焼成した。これにより、金属空気電池用正極触媒として、表1に示す目的生成物を得た。
【0089】
(比較例1)
目的生成物であるLa
0.5Ca
0.5CoO
3が2mmolとなるように、目的生成物の金属イオンの化学両論比と同様の仕込み比で各金属源を純水に溶解し、クエン酸を総カチオン量の3倍モル量加えて均一な溶液となるよう撹拌し混合した。混合した原料溶液を120℃に設定した恒温槽に静置し、加熱濃縮した。流動性を失いゲル状となった過飽和のクエン酸ゲルに450℃で熱処理によって、有機分を分解して粉体の前駆体を得た。このようにして得た前駆体を粉砕し、ボックス炉を用いて大気中1000℃で12時間焼成した。これにより、金属空気電池用正極触媒として、La
0.5Ca
0.5CoO
3を得た。
【0090】
<正極触媒の評価:OER活性評価>
回転電極装置(RRDE−3A、BAS製)及びポテンショスタット(SP−300、Bio−Logic製)を用い、対流ボルタンメトリー(Rotating Disk Electrode;RDE)法により、実施例及び比較例の金属空気電池用正極触媒のOER活性を評価した。具体的な評価方法を以下に示す。なお、電極としては、以下のものを使用した。
作用電極(WE):5mmφガラス状カーボン(グラッシーカーボン;GC)電極
対電極(CE):コイル状白金(Pt)電極
参照電極(RE):アルカリ参照電極(Hg/HgO/4M KOH)
【0091】
(インクの調製)
まず、アセチレンブラック(Acetylene carbon black、99.99%、STREM CHEMICALS)を硝酸中で30分間超音波分散させた後、80℃で一晩加熱攪拌した。次いで、ろ過し、乾燥し、粉砕することにより、アセチレンブラックを前処理した。
【0092】
次いで、5%ナフィオン(商標登録)分散液(和光純薬工業)を水酸化ナトリウム・エタノール(EtOH)溶液で中和し、得られた中和液とエタノールを3:47の体積比で混合してインク用溶媒を得た。
【0093】
次いで、上記で得られたインク用溶媒とアセチレンブラックと正極触媒とを、5mL:10mg:50mgの比でサンプル瓶に入れ、超音波分散させた。これにより、インク(インク状の評価用試料)を得た。
【0094】
(作用電極へのインクの塗布)
超純水とEtOHで洗浄したグラッシーカーボンに評価用試料を20μL(触媒量:0.2mg)滴下し、完全に乾燥させることにより、インクを作用電極上に塗布した。
【0095】
(サイクリックボルタンメトリー測定)
回転電極装置(RRDE−3A、BAS製)の作用電極を1600rpmで回転させ、ポテンショスタット(SP−300,Bio−Logic製)と接続し、電解液に4MのKOH水溶液を用い、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。測定は、1.10〜1.70V(vs可逆水素電極(Reversible hydrogen electrode;RHE))の範囲で1mV/sの掃引速度で3サイクル行い、3サイクル目の1.7V時点の電流密度の比較により触媒のOER活性を評価した。なお、実際に使用した参照極は水銀―酸化水銀参照極であるが、便宜上、電位をRHE参照極基準へ換算した。
【0096】
【表1】
【0097】
<金属空気電池の作製>
(実施例11〜12及び比較例2)
カーボン(東海カーボン社製、商品名:TOKABLACK#3855)3.3g、PTFEディスパージョン(固形分濃度:60質量%、三井・デュポン フロロケミカル社製、商品名:PTFE31−JR)0.909mL、Triton X−100(オクチルフェノールエトキシレート)1.33mL及び水4.0mLを乳鉢内で混合して、ガス拡散層形成用組成物である合剤スラリーを作製した。得られた合剤スラリーを、厚さ0.5mmまで延伸して二つに折りたたむ一連の作業を40回繰り返した。次いで、ロールプレスで厚さ0.35mmになるまで圧延した後に裁断し、160℃に加熱したホットプレートで1時間乾燥することでガス拡散層シートを得た。
【0098】
カーボン(東海カーボン社製、商品名:TOKABLACK#3855)0.132g、正極触媒0.264g、PTFEディスパージョン(固形分濃度:60質量%、三井・デュポン フロロケミカル社製、商品名:PTFE31−JR)0.110mL及びTriton X−100(オクチルフェノールエトキシレート)0.089mL、プロパノール0.381mL及び水2.727mLを混合して触媒層形成用組成物であるインク(インク状の評価用試料)を調製した。正極触媒としては、表2に示す触媒を用いた。
【0099】
上記で得られたガス拡散層シートに、スプレー法によって上記で得られたインクを塗布し、アルゴン下335℃で13分間焼成して空気極用積層体を得た。得られた積層体にニッケルメッシュを圧着させ、空気極を得た。
【0100】
得られた空気極をそれぞれ用いて、以下の方法で、
図1に示す実験用セルを作製した。
【0101】
まず、開口(6)を設けたアクリル製の筐体(5)に、空気極(1)を、開口(6)を塞ぐように触媒層(11)側から接着した。次いで、電解質(4)として8mol/L水酸化カリウム水溶液を上記筐体(5)に注入した後、対極(負極)(2)として白金板を、参照極(3)として水銀―酸化水銀電極を上記筐体(5)内の電解質(4)に浸し、実験用セル(10)を作製した。参照極(3)は空気極(1)と負極(2)との間に配置した。なお、
図1中の(12)はガス拡散層を示し、(13)は集電体(ニッケルメッシュ)を示す。
【0102】
<金属空気電池の評価>
上記で作製したセルの入出力特性及び寿命特性を以下に示す方法で評価した。評価結果は表2に示す。
【0103】
[入出力特性の評価]
まず、25℃の環境下において、OER電流値40mA/cm
2、ORR電流値−40mA/cm
2、OERとORRは各1時間、OERとORRの間の休止時間を3分とし、OERとORRの充放電サイクルを100回繰り返した。その後、40mA/cm
2の定電流密度によるOER又はORRを1分間実施し、1分経過時点での空気極電位をOER又はORR電位とした。空気極電位は空気極と参照極間の電位差で規定した。なお、実際に使用した参照極は水銀―酸化水銀参照極であるが、便宜上、電位をRHE参照極基準へ換算した。入出力特性の評価は、上記OER又はORR電位を比較することにより行った。
【0104】
[寿命特性の評価]
まず、25℃の環境下において、OER電流値+40mA/cm
2、ORR電流値−40mA/cm
2、OERとORRは各1時間、OERとORRの間の休止時間を3分として、OERとORRの充放電サイクルを繰り返し、OER電位が1.726V以上又はORR電位が0.526V以下になった時点を、電池のサイクル寿命とした。
【0105】
【表2】