【課題】積層、成形、注型、接着等の用途において、高熱伝導性に優れるとともに、低誘電性等にも優れた硬化物を与える電気・電子部品類の封止材料、高放熱シート等の回路基板材料に有用なエポキシ樹脂組成物、その硬化物を提供すること、及びそれに使用されるエポキシ樹脂を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エポキシ樹脂は工業的に幅広い用途で使用されてきているが、その要求性能は近年ますます高度化している。例えば、エポキシ樹脂を主剤とする樹脂組成物の代表的分野に半導体封止材料があるが、近年、半導体素子の集積度の向上に伴い、パッケージサイズが大面積化、大容量化に向かうとともに、半導体素子からの発熱も大きくなっており、より放熱性に優れた材料の開発が望まれている。また、プリント配線板の分野においては、近年、大量情報を高速処理するために、多層化、薄型化、回路のファインピッチ化等が行われてきた。しかし、更なる高速処理を実現するため、より誘電特性に優れた材料の開発が望まれている。
【0003】
これらの問題点を克服するため、主剤となるエポキシ樹脂には、高熱伝導性、低誘電性が望まれている。高熱伝導性エポキシ樹脂としてはメソゲン基を含有するエポキシ樹脂等が知られているが、低誘電性との両立化の点で充分ではない。特開2018−159083号には、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂を用いた組成物が提案されており熱伝導性に関する検討がなされているが、誘電特性に関する詳細な検討はなされていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、高熱伝導性に優れ、かつ低誘電性に優れた硬化物を与える新規エポキシ樹脂およびその製造方法、さらにそれを用いたエポキシ樹脂組成物ならびにその硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂である。
【化1】
(但し、nは0から10の数を表し、Gはグリシジル基を示す)
【0007】
また、本発明は、下記一般式(2)のヒドロキシ化合物とエピクロルヒドリンとを反応させることを特徴とする上記に記載のエポキシ樹脂の製造方法である。
【化2】
【0008】
また、本発明は、上記のエポキシ樹脂、及び硬化剤を配合してなるエポキシ樹脂組成物である。
【0009】
更に、本発明は、前記エポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、熱伝導性に優れるとともに、誘電特性に優れた硬化物を与える電気・電子部品等の封止、コーティング材料、積層材料、複合材料等の用途に有用なエポキシ樹脂およびその製造方法、さらにその樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物ならびにその組成物の硬化物に関するものであり、プリント配線板、半導体封止等の電気・電子部品類の封止材料、高放熱シート等の回路基板材料等に好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のエポキシ樹脂は、上記一般式(2)で表されるヒドロキシ化合物とエピクロルヒドリンとを反応させることにより製造することが有利であるが、この反応に限らない。場合により、上記一般式(2)で表されるヒドロキシ化合物と塩化アリルを反応させ、アリルエーテル化合物とした後、過酸化物と反応させる方法をとること等もできる。
【0013】
上記一般式(2)で表されるヒドロキシ化合物は、ヒドロキシ安息香酸とビシクロヘキサノールとを酸触媒下で反応させて得ることができる。この反応は、通常のエステル化の条件を適宜採用することができる。ビシクロヘキサノールは、それぞれのシクロヘキサン環に1個ずつ水酸基が置換された構造を有しており、異性体としては、4,4’-ジ置換体、2,4’-ジ置換体、2,2’-ジ置換体があってもよい。また、ヒドロキシ安息香酸も異性体があるがp体が好ましく、o体、m体があってもよい。本発明のエポキシ樹脂の原料としては、これら異性体の混合物であってもよいが、4,4’-ジ置換体の含有率が高いものが耐熱性の点で好ましく、これを50wt%以上含有しているものが好適に使用される。最も好ましい化合物はすべてが直線となる式(3)の化合物である。
【化3】
【0014】
上記一般式(2)で表されるヒドロキシ化合物をエピクロルヒドリンと反応させる反応は、通常のエポキシ化反応と同様に行うことができる。
例えば、上記一般式(2)で表されるヒドロキシ化合物を過剰のエピクロルヒドリンに溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下に、0〜120℃の範囲で1〜10時間反応させる方法が挙げられる。この場合、加水分解性塩素低減と反応時間の観点からは、50〜70℃で反応を行うことが好ましいが、エステル化合物の加水分解による分解反応抑制の観点からはさらに低い温度の0℃〜40℃で行うことが好ましい。さらに好ましくは10℃〜30℃である。
【0015】
この際のアルカリ金属水酸化物の使用量は、ヒドロキシ化合物中の水酸基1モルに対して、0.8〜15.0モル、好ましくは、0.9〜2.0モルの範囲である。これより少ないと残存加水分解性塩素の量が多くなり、これより多いとエポキシ樹脂合成の際のゲルの生成量が多くなり、水洗時のエマルジョンの生成を引き起こすとともに、収率の低下を招くおそれがある。金属水酸化物としては、水溶液または、固体状態で使用される。
【0016】
また、エピクロルヒドリンはフェノール性水酸基の合計量に対して過剰に用いられるが、通常、オキシメチレン化合物中の水酸基の合計量1モルに対して、1.5〜30モル、好ましくは、2〜15モルの範囲である。これより少ないと、エポキシ樹脂の分子量が大きくなり、粘度が高くなるおそれがある。また、これより多いと生産性が低下するおそれがある。
【0017】
また、このエポキシ化反応に際しては、溶媒としてエチレングリコールジアルキルエーテル類、ジメチルスルホキシド等を共存させることができる。これら溶媒の使用量は、エピクロルヒドリン100重量部に対して、5〜100重量部の範囲であり、好ましくは10〜50重量部の範囲である。これより少ないと加水分解性塩素の低減効果が小さいとともに、合成反応後、水洗を行う際のエマルジョンの生成量が多くなるおそれがある。また、これより多いと容積効率が低下するおそれがあり、経済的に好ましくない。反応終了後、過剰のエピクロルヒドリンを留去し、残留物をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解し、濾過し、水洗して無機塩を除去し、次いで溶剤を留去することにより目的のエポキシ樹脂を得ることができる。
【0018】
また、場合により、加水分解性塩素量低減の観点から、得られたエポキシ樹脂に残存する加水分解性塩素に対して、モルを基準として、さらに、1〜30倍量の水酸化ナトリウム、または水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を加え、再閉環反応を行うことができる。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂は、一般式(1)において、nが0から10の整数で表されるものであるが、低粘度性の観点から、n=0のものの含有率が50%以上であることが好ましく、さらに好ましくは70%以上である。これらn=0のものの含有率については、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による面積%の割合で表すことができる。また、n=0のものをこの含有率とするためには、例えば、添加するエピクロルヒドリンのモル比を増加させる方法などが挙げられる。
本発明のエポキシ樹脂は、硬化剤と共に配合して組成物とされて、各種用途に使用できる。
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂及び硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物であって、エポキシ樹脂成分として上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂を必須成分として配合したものである。
【0021】
硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂中のエポキシ基と硬化剤の官能基(多価フェノール類の場合は水酸基)との当量バランスを考慮して配合する。エポキシ樹脂及び硬化剤の当量比は、エポキシ基1当量に対し、硬化剤の官能基が、通常、0.2から5.0の範囲であり、好ましくは0.5から2.0の範囲であり、さらに好ましくは0.8〜1.5の範囲である。これより大きくても小さくても、エポキシ樹脂組成物の硬化性が低下するとともに、硬化物の耐熱性、力学強度等が低下するおそれがある。
【0022】
上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂を必須成分とする場合の硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として知られているものはすべて使用できる。例えば、ジシアンジアミド、多価フェノール類、酸無水物類、芳香族及び脂肪族アミン類等がある。具体的に例示すれば、多価フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類、あるいは、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、ポリビニルフェノール等に代表される3価以上のフェノール類がある。更には、フェノール類、ナフトール類又は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類のホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−キシリレングリコール等の縮合剤により合成される多価フェノール性化合物等がある。
【0023】
酸無水物としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル無水ハイミック酸、無水ナジック酸、無水トリメリット酸等がある。
【0024】
また、アミン類としては、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン等の芳香族アミン類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族アミン類がある。
本発明の樹脂組成物には、これら硬化剤の1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物中には、エポキシ樹脂成分として、一般式(1)で表される本発明のエポキシ樹脂以外に、別種のエポキシ樹脂を配合してもよい。この場合のエポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を2個以上有する通常のエポキシ樹脂はすべて使用できる。例を挙げれば、ビスフェノールA、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン等の2価のフェノール類、あるいは、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック等の3価以上のフェノール類、又はテトラブロモビスフェノールA等のハロゲン化ビスフェノール類から誘導されるグルシジルエーテル化物等がある。これらのエポキシ樹脂は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。そして、本発明のエポキシ樹脂組成物の場合、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂全体中、5〜100wt%、好ましくは60〜100wt%の範囲であることがよい。
【0026】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物中には、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、石油樹脂、インデンクマロン樹脂、フェノキシ樹脂等のオリゴマー又は高分子化合物を適宜配合してもよいし、また、無機充填剤、顔料、難然剤、揺変性付与剤、カップリング剤、流動性向上剤等の添加剤を配合してもよい。無機充填剤としては、例えば、球状あるいは、破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ等が挙げられる。顔料としては、有機系又は無機系の体質顔料、鱗片状顔料等がある。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系等を挙げることができる。また更に必要に応じて、本発明の樹脂組成物には、カルナバワックス、OPワックス等の離型剤、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、三酸化アンチモン等の難燃剤、シリコンオイル等の低応力化剤、ステアリン酸カルシウム等の滑剤等を使用できる。
【0027】
更に必要に応じて、本発明の樹脂組成物には、公知の硬化促進剤を用いることができる。例を挙げれば、アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン類、ルイス酸等がある。添加量としては、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.2から5重量部の範囲である。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、上記のエポキシ樹脂組成物を加熱することにより得ることができる。硬化物を得るための方法としては注型、注入、ポッティング、ディッピング、ドリップコーティング、トランスファー成形、圧縮成形、等が好適に用いられ、その際の温度としては通常、100℃〜300℃の範囲である。
【実施例】
【0029】
エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物及び硬化物の試験条件を次に示す。
1)エポキシ当量の測定
電位差滴定装置を用い、溶剤としてメチルエチルケトンを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、電位差滴定装置にて0.1mol/L過塩素酸−酢酸溶液を用いて測定した。
【0030】
2)融点
示差走査熱量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000 DSC/6200)により、昇温速度5℃/分の条件で、DSCピーク温度を求めた。すなわち、このDSCピーク温度をエポキシ樹脂の融点とした。
【0031】
3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定
装置本体(東ソー株式会社製、HLC−8320GPC)に、東ソー株式会社製 TSKgelG4000HXL、TSKgelG3000HXL、TSKgelG2000HXLのカラムを直列に備えたものを使用し、カラム温度は40℃にした。また、溶離液にはテトラヒドロフランを用い、1ml/minの流速とし、検出器はRI(示差屈折計)検出器を用いた。サンプル0.1gを10mlのTHFに溶解した。標準ポリスチレンによる検量線により数平均分子量(Mn)を求めた。
【0032】
4)ガラス転移点(Tg)
熱機械測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000TMA/6100)により、昇温速度10℃/分の条件でTgを求めた。
【0033】
5)熱伝導率
熱伝導率は、NETZSCH製LFA447型熱伝導率計を用いて非定常熱線法により測定した。
【0034】
6)誘電率、誘電正接
マテリアルアナライザー/AGILENT Technologies 社製を用い、容量法により周波数1GHzにおける誘電率および誘電正接を求めることにより評価した。
【0035】
7)電界脱離イオン化質量分析(FD−MS)
質量分析計JMS−T100GCV(日本電子社製)を用いて測定した。試料をアセトンに溶解し、測定に供した。
【0036】
8)
1H−NMR測定
フーリエ変換核磁気共鳴装置(JEOL製、JNM−ECA400)によりCDCL
3を溶媒として
1Hの液体測定を行った。
【0037】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。
合成例1
4−ヒドロキシ安息香酸11.0gと4,4’-ビシクロヘキサノール20.5gをクロロベンゼンに溶解させ、p−トルエンスルホン酸1.5gを加え加熱還流下16時間反応させた。その後反応液を室温まで冷却後、生成物をろ過した。生成物をクロロホルム350ml、エタノール50mlで溶解させた後、5℃に冷却し析出してきた生成物をろ過することにより前記式(3)のヒドロキシ化合物7.5gを得た。
【0038】
実施例1
合成例1で得たヒドロキシ化合物7.0gおよび臭化テトラブチルアンモニウム1.0gを、エピクロルヒドリン80.0gおよびt−ブチルアルコール55.1gに溶解させた後、70℃にて撹拌しながら22時間反応させた。この反応液を冷却して15%水酸化ナトリウム17.4gを加え20℃で2時間反応させた。さらにこの反応液を0℃まで冷却後、クロロホルム400ml加えた後、水洗を行った。濾過により生成した塩を除いた後クロロホルムを留去し、エポキシ樹脂4.0gを得た。得られたエポキシ樹脂は、エポキシ当量が288g/eq.、融点が167℃、数平均分子量(Mn)が599であった(エポキシ樹脂A)。
エポキシ樹脂AのGPCチャートを
図1、FD−MSチャートを
図2、CDCl
3中で測定した
1H−NMRスペクトルを
図3に示す。
【0039】
実施例2、比較例1
エポキシ樹脂成分として、実施例1で得られたエポキシ樹脂(エポキシ樹脂A)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂B;エポキシ当量 190g/eq.)を用い、硬化剤成分として、フェノールノボラック(硬化剤A; OH当量105、軟化点 80℃)を用いた。更に、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを用い、表1に示す配合でエポキシ樹脂組成物を得た。なお、表中のエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤の数値は配合における重量部を示す。
【0040】
これらのエポキシ樹脂組成物を用いてそれぞれ175℃で成形し、更に175℃にて6時間ポストキュアを行い、硬化物試験片を得た後、各種物性測定に供した。結果を表1に示す。
表1の結果から、従来のビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂B)を用いた硬化物と比較して、本発明に係るエポキシ樹脂Aを用いた硬化物は、熱伝導率が高く、しかも、誘電率及び誘電正接が小さいことから誘電特性に優れるものであることが分かる。
【0041】
【表1】