【実施例】
【0049】
(評価方法)
実施例においては、磁束密度変化ΔBの値および発生電圧の量をもって、磁歪素子を評価した。
【0050】
1.磁歪素子の磁束密度変化ΔBの測定
磁束密度変化ΔBの測定には、
図1示した、曲げ歪みを磁歪素子に加える測定ユニット100、または
図2に示した、一軸歪みを加える測定ユニット200を使用した。それぞれのユニットを用いた測定方法について説明する。
【0051】
1−1.
図1の測定ユニットを用いた測定
図1に、磁歪素子に曲げ歪みを加え、磁束密度変化ΔBを測定するためのユニット100の模式図を示した。
図1には、例として、磁歪部111および応力制御部112を有する磁歪素子110の左側端部を固定支持台150に固定し、その右側端部を下方向に押し込んで曲げ歪みを加えるユニットを示した。
【0052】
ユニット100においては、磁歪素子110の右側端部に下方への圧力170を加える(即ち、押し込む)。このとき、磁歪部111(磁歪材料)は圧縮歪みを加えた状態となり、押し込んだ時の磁歪部111の移動距離171が長くなるほど、圧縮歪みは大きくなる。押し込みはマイクロメーターのシリンダヘッドを用いて行い、押し込みの深さは、シリンダヘッドのストロークで調整した。
【0053】
さらに
図1の測定ユニットでは、ヘルムホルツ型のコイルをバイアス磁場用コイル120とし、そこに電流を流して、磁歪素子110に磁場を印加した。磁場の大きさは直流電源140の大きさによって調整し、磁場の大きさは予めガウスメータで校正した。このとき、磁歪素子110に印加される磁場を0〜500e程度まで変化させて、磁束密度変化が最大になる磁場で評価した。磁歪素子110の磁束変化は、検出用コイル130(巻き数:3500ターン)によって誘起電圧として検出し、その誘起電圧をフラックスメーター160で磁束の変化として計測した。さらに、下記式Iに基づき、磁束の変化を検出用コイルの巻き数と磁歪材料の断面積で割って、磁束密度変化ΔBを求めた。
【0054】
【数1】
(式中、Vは発生電圧、Nはコイルの巻き数、Sは磁歪部の断面積である。)
【0055】
尚、この測定方法で得られる磁束密度変化ΔBは電圧変化の時間積分であるため、歪を加える速さには依存しない。
【0056】
1−2.
図2の測定ユニットを用いた測定
図2に、磁歪素子に一軸方向に引っ張り歪みおよび圧縮歪みを加え、磁束密度変化ΔBを測定するためのユニット200の模式図を示した。
図2には、例として、磁歪部211を有する磁歪素子210を示した。磁歪素子210の両端部を非磁性材料で形成した治具(図示しない)で挟んで固定し、磁歪素子210に対して引っ張り歪み270および圧縮歪み280を加えた。歪みは、磁歪素子110に貼り付けた歪ゲージ(図示しない)を用いて測定した。尚、圧縮歪み280を加える場合には、座屈を抑制するために、両側から挟み込む治具以外の部位をアクリル樹脂の板で挟み込んだ。
【0057】
図2の測定ユニット200では、ヘルムホルツ型のコイルをバイアス磁場用コイル220とし、そこに電流を流して、磁歪素子210に磁場を印加した。磁場の大きさは直流電源240の大きさによって調整し、磁場の大きさは予めガウスメータで校正した。このとき、磁歪素子210に印加される磁場を0〜500e程度まで変化させて、磁束密度変化が最大になる磁場で評価した。磁歪素子210の磁束変化は、検出用コイル230(巻き数:3500ターン)で誘起電圧として検出し、その誘起電圧をフラックスメーター260で磁束の変化として計測した。さらに、上記式Iに基づき、磁束の変化を検出用コイルの巻き数と磁歪材料の断面積で割って、磁束密度変化ΔBを求めた。
【0058】
2.発生電圧の測定
発生電圧の測定には、
図1示した、曲げ歪みを磁歪素子に加える測定ユニット、または
図3に示した、磁歪振動デバイスを使用した。それぞれの測定方法について説明する。
【0059】
2−1.磁歪素子に動的振動を与えたときの発生電圧の測定
図1に示した測定ユニット100を載せていたアルミ製架台を加振装置の上に載せて、磁歪素子110に動的な歪みを加えた。具体的には、磁歪素子110の固定されている端部と、その反対側の端部にタングステンの錘(図示せず)を固定した。加振機を所定の加速度、所定の周波数で正弦波振動させた。このとき、検出用コイル130に誘起される交流電圧をデジタルオシロスコープで取り込み、電圧波形のピーク電圧を用いて、磁歪振動発電デバイスとしての性能を評価した。
【0060】
2−2.デバイスによる発生電圧の測定
図3に示した評価用の磁歪振動デバイス300を使用した。非磁性材料からなるU字型構造(支持部350)の一部に、磁歪部311(磁歪材料)を接着剤を用いて貼り付けて、磁歪素子部310とした。このとき、磁歪部311(磁歪材料)を貼り付ける非磁性材料の部分の厚みを、支持部となる他の部位よりも薄くして、磁歪素子が振動し易くなるようにした。さらに磁歪部311を非磁性材料から剥がれ難くするために、非磁性材料で磁歪部311の両端を補強した。尚、磁歪部311と貼り付けられた、非磁性材料からなる支持部350の部分が、応力制御部312となる。
【0061】
磁歪素子部310の部分に検出用コイル330(巻き数は4500ターン)を設置した。さらに磁歪素子部310の両端に磁石340を貼り付けて、バイアス磁場を印加した。このとき、2つの磁石の極性を反対にして貼り付けることで、磁歪素子の中で互いに磁場が打ち消し合わないようにした。また、バイアス磁場の大きさは、磁石の強さを変えることで調整した。
【0062】
タングステンの錘を錘320として使用し、これをU字型構造(支持部350)の端部に固定した。検出用コイル330に誘起される交流電圧を、デジタルオシロスコープで取り込み、電圧波形のピーク電圧を用いて、磁歪振動発電デバイスとしての性能を評価した。
【0063】
(実施例1)
方向性電磁鋼板と非磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を構成する磁歪材料として、日本製鉄(株)製の方向性電磁鋼板27ZH100、被膜付き、を使用した。当該電磁鋼板の厚みは0.27mm、結晶方位は{110}[100]GOSS集合組織である。方向性電磁鋼板の長手方向を[100]方向とし、長さ40mm、幅6.1mmにシャーリング切断した。切断時の歪みを除去するために800℃、2時間、真空中で焼鈍し、磁歪部用の方向性電磁鋼板を得た。
【0064】
応力制御部を構成する非磁性材料として、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、厚み0.5mmを用いた。カーボン繊維の方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.5mmに切断し、応力制御部用の非磁性材料を得た。
【0065】
上述した方向性電磁鋼板とCFRPとをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。得られた磁歪素子を
図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は2800A/m(350e)とした。
【0066】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔh(mm)およびこのときの磁束密度変化ΔBを測定した。結果を表1に示した。
【0067】
【表1】
【0068】
表1の結果から明らかなように、磁歪部として方向性電磁鋼板、応力制御部として非磁性材料を積層した本発明の磁歪素子は、押し込み深さΔhが大きくなるにつれて、磁束密度変化ΔBが大きくなり、発電用磁歪素子として優れた性能を示した。
【0069】
(実施例2)
方向性電磁鋼板と非磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を構成する磁歪材料として、日本製鉄(株)製の方向性電磁鋼板27ZH100、被膜付き、を使用した。当該電磁鋼板の厚みは0.27mm、結晶方位は{110}[100]GOSS集合組織である。方向性電磁鋼板の長手方向を[100]方向とし、長さ40mm、幅5.8mmにシャーリング切断した。切断時の歪みを除去するために800℃、2時間、真空中で焼鈍し、磁歪部用の方向性電磁鋼板を得た。
【0070】
応力制御部を構成する非磁性材料として、SUS304、厚み0.5mmの冷延板を用いた。長さ40mm、幅6.5mmに切断した後、真空中、1050℃で1分間保持し、ガス急冷よる溶体化処理を行って、切断歪みによる影響を取り除き、応力制御部用の非磁性材料を得た。
【0071】
上述した方向性電磁鋼板とSUS304とをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。得られた磁歪素子を
図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は2800A/m(350e)とした。
【0072】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔh(mm)およびこのときの磁束密度変化ΔBを測定した。結果を表2に示した。
【0073】
【表2】
【0074】
表2の結果から明らかなように、磁歪部として方向性電磁鋼板、応力制御部として非磁性材料を貼り合わせた本発明の磁歪素子は、押し込み深さΔhが大きくなるにつれて、磁束密度変化ΔBが大きくなり、発電用磁歪素子として優れた性能を示した。
【0075】
(実施例3)
方向性電磁鋼板と磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を構成する磁歪材料として、日本製鉄(株)製の方向性電磁鋼板27ZH100、被膜付き、を使用した。当該電磁鋼板の厚みは0.27mm、結晶方位は{110}[100]GOSS集合組織である。方向性電磁鋼板の長手方向を[100]方向とし、長さ40mm、幅6.1mmにシャーリング切断した。切断時の歪みを除去するために800℃、2時間、真空中で焼鈍し、磁歪部用の方向性電磁鋼板を得た。
【0076】
応力制御部を構成する磁性材料としては、普通鋼であるSS400、厚み0.5mmを用いた。長さ40mm、幅6.5mmに切断した後、真空中で800℃で30分間保持後、炉冷して、切断歪みによる影響を取り除いた。
【0077】
上述した方向性電磁鋼板とSS400とをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。得られた磁歪素子を
図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は4000A/m(500e)とした。
【0078】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔh(mm)およびこのときの磁束密度変化ΔBを測定した。結果を表3に示した。
【0079】
【表3】
【0080】
表3の結果から明らかなように、磁歪部として方向性電磁鋼板、応力制御部として非磁性材料を貼り合わせた本発明の磁歪素子は、押し込み深さΔhが大きくなるにつれて磁束密度変化ΔBが大きくなり、発電用磁歪素子として優れた性能を示した。
【0081】
(実施例4)
無方向性電磁鋼板と非磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を構成する磁歪材料として、日本製鉄(株)製の無方向性電磁鋼板35H210、被膜付き、を使用した。当該電磁鋼板の厚みは0.35mmとした。無方向性電磁鋼板の圧延方向を長手方向とし、長さ40mm、幅5.8mmにシャーリング切断し、切断時の歪みを除去するために740℃、2時間、真空中で焼鈍し、磁歪部用の無方向性電磁鋼板を得た。
【0082】
応力制御部を構成する非磁性材料として、CFRP、厚み0.5mmを用いた。カーボン繊維の方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.5mmに切断し、応力制御部用の非磁性材料を得た。
【0083】
上述した無方向性電磁鋼板とCFRPをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。得られた磁歪素子を
図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪を加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は3200A/m(400e)とした。
【0084】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔh(mm)およびこのときの磁束密度変化ΔBを測定した。結果を表4に示した。
【0085】
【表4】
【0086】
表4の結果から明らかなように、磁歪部として無方向性電磁鋼板、応力制御部として非磁性材料を貼り合わせた本発明の磁歪素子は、押し込み深さΔhが大きくなるにつれて磁束密度変化ΔBが大きくなった。方向性電磁鋼板を磁歪部とした磁歪素子(実施例1〜3)には及ばないものの、発電用磁歪素子として優れた性能を示した。
【0087】
(実施例5)
無方向性電磁鋼板と磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を構成する磁歪材料として、日本製鉄(株)製の無方向性電磁鋼板35H210、被膜付き、を使用した。当該電磁鋼板の厚みは0.35mmとした。無方向性電磁鋼板の圧延方向を長手方向として、長さ40mm、幅5.8mmにシャーリング切断し、切断時の歪みを除去するために740℃、2時間、真空中で焼鈍し、磁歪部用の無方向性電磁鋼板を得た。
【0088】
応力制御部を構成する磁性材料として、SS400、厚み0.6mmを用いた。長さ40mm、幅6.5mmに切断した後、真空中で800℃、30分間保持し、その後炉冷して、切断歪みによる影響を取り除き、応力制御部用の磁性材料を得た。
【0089】
上述した無方向性電磁鋼板とSS400をエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。得られた磁歪素子を
図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は4400A/m(550e)とした。
【0090】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔh(mm)およびこのときの磁束密度変化ΔBを測定した。結果を表5に示した。
【0091】
【表5】
【0092】
表5の結果から明らかなように、磁歪部として無方向性電磁鋼板、応力制御部として磁性材料を貼り合わせた本発明の磁歪素子は、押し込み深さΔhが大きくなるにつれて磁束密度変化ΔBが大きくなった。方向性電磁鋼板を磁歪部とした磁歪素子には及ばないものの、発電用磁歪素子として優れた性能を示した。
【0093】
(実施例6)
方向性電磁鋼板のみからなる磁歪素子
磁歪部を構成する磁歪材料として、日本製鉄(株)製の方向性電磁鋼板27ZH100、被膜付き、を使用した。当該電磁鋼板の厚みは0.27mm、結晶方位は{110}[100]GOSS集合組織である方向性電磁鋼板の長手方向を[100]方向とし、長さ20mm、幅6.0mmにシャーリング切断した。切断時の歪みを除去するために800℃、2時間、真空中で焼鈍し、磁歪部のみから磁歪素子を得た。
【0094】
図2に示した測定ユニットを用いて、得られた磁歪素子に圧縮歪みを与えた。具体的には、磁歪素子の座屈を抑制するために、磁歪素子の両側から挟み込み治具以外の部位を厚み0.5mmのアクリル樹脂の板で挟み込んだ。圧縮歪みが410ppm(0.041%)(Δh=0.5mm相当)と830ppm(0.083%)(Δh=1.0mm相当)のときの磁束密度変化ΔBを測定した。尚、印加したバイアス磁場は2800A/m(350e)とした。
【0095】
圧縮歪みが無い状態の磁歪素子を基準として、磁歪素子を圧縮した場合の圧縮歪みと磁束密度変化ΔBとを測定した。測定結果を表6に示した。
【0096】
【表6】
【0097】
表6の結果から明らかなように、方向性電磁鋼板を磁歪部とした磁歪素子に圧縮歪みを加えた場合、圧縮歪みが大きくなるにつれて磁束密度変化ΔBが大きくなり、発電用磁歪素子として優れた性能を示した。
【0098】
(実施例7)
磁歪素子に動的振動を与えたときに発生する電圧の測定
実施例1〜5で作製した磁歪素子について、
図1に示した測定ユニットを用いて発生電圧を測定した。
【0099】
磁歪素子を組み込んだ測定ユニットを、それが載っていたアルミ製架台と共に加振装置の上に載せて、磁歪素子に動的な歪みを与えた。このとき、磁歪素子の固定された端部とは反対側の端部に設置されていたマイクロメーターのシリンダヘッドを外して、そこにタングステンの錘を固定した。
【0100】
測定ユニットに加振する前の錘の位置から、加振後の錘の最下点の位置までの距離Δhをレーザー距離計で測定した。加振機は、10Hz、加速度1Gで振動させた。さらに検出用コイルに誘起される交流電圧をデジタルオシロスコープで取り込み、波形のピーク電圧を測定した。測定結果を表7に示した。
尚、本実施例においては、磁歪素子の材料によらず、Δhが1mm〜2mmの範囲内となるように、錘の重量を調整した。
【0101】
【表7】
【0102】
表7の結果から明らかなように、本発明の磁歪素子は、外部振動に対して曲げモードで振動し、50mV以上の発電性能を示した。
【0103】
(実施例8)
磁歪発電デバイスによる発生電圧の測定
実施例1および実施例4で作製した磁歪部について、
図3に示した磁歪発電デバイスを用いて発生電圧を測定した。
【0104】
図3の磁歪振動デバイス300に磁歪素子を組み込み、そのU字形状の支持部350の下側の部位を、実施例7で使用した加振機の上に固定した。
図3のU字形状の支持部350には、厚み2mmのCFRPを用いた。磁歪素子を貼り付ける、応力制御部に相当する部位のCFRPの厚みを0.5mmとした。
【0105】
磁歪素子部310には、実施例1および実施例4で作製した磁歪部を用いた。ただし、幅は実施例1および実施例4とそれぞれ同じであるが、長さを30mmとした。
【0106】
磁歪部311を、支持部350の応力制御部312に相当する0.5mm厚の部位に接着剤で貼り付け、磁歪素子部310とした。磁歪素子部310の両端部をL字状のCFRPで接着補強した。次に、磁歪素子部310のとなりに、7gのタングステンの錘320を固定した。
【0107】
バイアス磁場を印可するために、NdFeB磁石340を磁歪部の2か所に固定した。加振機を0.5Gで加振させ、共振周波数におけるピーク電圧をオシロスコープで測定した。共振周波数は150〜250Hzの範囲であった。結果を表8に示した。
【0108】
【表8】
【0109】
表8の結果から明らかなように、本発明の磁歪素子を用いたデバイスは、外部振動に対して500mV以上の発電性能を示した。また、磁歪部として方向性電磁鋼板を用いた実施例1の磁歪素子の方が、磁歪部として無方向性電磁鋼板を用いた実施例4の磁歪素子よりも高いピーク電圧を達成した。
【0110】
(実施例9)
スイッチ形式の電源を用いた発電
実施例1で作製した磁歪素子を用いて、LED電球の点燈試験を実施した。
図1の測定ユニットの検出用コイルから銅線をLED電球に直接接続した。使用したLED電球は、30個の白色LED電球を外径60mm、内径50mmの基板にリング状に直列配置されたものであり、定格電力は2.4Wであった。バイアス磁場を2800A/m(350e)印加した状態で、磁歪素子の自由端を指で約2mm押し下げた後、指を外して磁歪素子が弾性力で瞬間的に戻る動作をさせた。尚、錘は付けていない。
上記動作によってLED電球が点燈することを目視で確認した。
【0111】
さらに検出用コイルからの銅線をオシロスコ−プに直接接続して、電圧の減衰波形を測定した。測定した波形を
図4に示した。
図4の減衰波形から求めた最大電圧と最小電圧の差(P−P電圧)は21.8Vであった。
この結果から、実施例1の磁歪素子をスイッチ形式の電源に用いることが可能なことが確認できた。
【0112】
(参考例1)
FeCo合金を磁歪材料として用いた、従来の磁歪素子
純度99.9%の電解鉄および純度99.9%の粒状コバルトを用いて、組成がFe−69.5mol%Coのボタンインゴットをアーク溶解炉を用いて作製した。作製したボタンインゴットの重量は200gだった。
【0113】
次にボタンインゴットを切断し、高さが12mm、幅が10mm、長さが約60mmのサイズの圧延用サンプルを得た。
切り出した圧延用のサンプルを1100℃で1時間保定後、800℃で3時間保定し、その後、水冷した。次に、サンプルを高さが0.52mmになるまで冷間圧延した。冷延材の圧延方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.0mm、厚み0.52mmに切断し、評価用試験材とした。
試験材を真空中で800℃、3時間の熱処理に付し、冷延組織を再結晶組織に変えた。
【0114】
図5に、再結晶した試験材の結晶方位をEBSDを用いて観察した結果を示した。圧延方向(RD)、圧延面に垂直方向(ND)、幅方向(TD)において、<100>方位が優先配向していることがわかる。
上記試験材に歪ゲージを貼りつけて、飽和磁歪を測定した結果、飽和磁歪は96ppmであった。
【0115】
上記で作製したFeCo合金を磁歪材料として用いて、磁歪素子を作製した。
応力制御部を構成する弾性材料として、非磁性材料であるCFRP、厚み0.5mmを用いた。カーボン繊維の方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.5mmに切断し、応力制御部を得た。
【0116】
次に、FeCo合金とCFRPとをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて磁歪素子を得た。得られた磁歪素子を
図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを実施例1と同様に測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は3200A/m(400e)とした。
【0117】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔh(mm)およびこのときの磁束密度変化ΔBを測定した。結果を表9に示した。
【0118】
【表9】
【0119】
表9の結果から明らかなように、磁歪部としてFeCo合金、応力制御部として非磁性材料を積層した参考例の磁歪素子は、押し込み深さΔhが大きくなるにつれて磁束密度変化ΔBが大きくなった。しかし、FeCo合金は飽和磁歪が96ppmと電磁鋼板の飽和磁歪よりも約10倍大きいにもかかわらず、ΔBの大きさは、実施例1の電磁鋼板には及ばなかった。