【実施例】
【0061】
(評価方法)
1.材料の評価
1−1.ヤング率
磁歪素子に用いる磁歪材料および弾性材料のヤング率を、以下の方法で測定した。
引張試験によって、応力−歪曲線を測定し、弾性領域の傾きから測定した。
【0062】
1−2.板厚
磁歪素子に用いる磁歪材料および弾性材料の板厚を、以下の方法で測定した。
板厚は、先端形状が平面タイプのマイクロメーターを用いて測定した。
【0063】
1−3.式(1)および式(2)の関係
磁歪素子に用いる磁歪材料および弾性材料について、それらの板厚およびヤング率が下記式(1)および式(2)の関係を満たす否かを確認した。式(2)の関係については、下記式(2−1)の値を算出した。
【0064】
【数4】
(式中、Emは磁歪材料のヤング率[GPa]、tmは磁歪材料の板厚[mm]、Esは弾性材料のヤング率[GPa]、tsは弾性材料の板厚[mm]である。)
【0065】
2.発電用磁歪素子の評価
磁束密度変化ΔBの値および発生電圧の量をもって、磁歪素子を評価した。
【0066】
2−1.磁歪素子の磁束密度変化ΔBの測定
磁束密度変化ΔBの測定には、
図1に示した、曲げ歪みを磁歪素子に加える測定ユニット100を使用した。当該ユニットを用いた測定方法について説明する。
【0067】
図1に、磁歪素子に曲げ歪みを加え、磁束密度変化ΔBを測定するためのユニット100の模式図を示した。
図1には、例として、磁歪部111および応力制御部112を有する磁歪素子110の左側端部を固定支持台150に固定し、その右側端部を下方向に押し込んで曲げ歪みを加えるユニットを示した。
【0068】
ユニット100においては、磁歪素子110の右側端部に下方への圧力170を加える(即ち、押し込む)。このとき、磁歪部111(磁歪材料)は圧縮歪みを加えた状態となり、押し込んだ時の磁歪部111の移動距離171が長くなるほど、圧縮歪みは大きくなる。押し込みはマイクロメーターのシリンダヘッドを用いて行い、押し込みの深さは、シリンダヘッドのストロークで調整した。
【0069】
さらに
図1の測定ユニットでは、ヘルムホルツ型のコイルをバイアス磁場用コイル120とし、そこに電流を流して、磁歪素子110に磁場を印加した。磁場の大きさは直流電源140の大きさによって調整し、磁場の大きさは予めガウスメータで校正した。このとき、磁歪素子110に印加される磁場を0〜500e程度まで変化させて、磁束密度変化が最大になる磁場で評価した。磁歪素子110の磁束変化は、検出用コイル130(巻き数:3500ターン)によって誘起電圧として検出し、その誘起電圧をフラックスメーター160で磁束の変化として計測した。さらに、下記式(3)に基づき、磁束の変化を検出用コイルの巻き数と磁歪材料の断面積で割って、磁束密度変化ΔBを求めた。
【0070】
【数5】
(式中、Vは発生電圧、Nはコイルの巻き数、Sは磁歪部の断面積である。)
【0071】
尚、この測定方法で得られる磁束密度変化ΔBは電圧変化の時間積分であるため、歪みを加える速さには依存しない。
【0072】
2−2.発生電圧の測定
発生電圧の測定には、
図1示した、曲げ歪みを磁歪素子に加える測定ユニットを使用した。測定方法について説明する。
【0073】
図1に示した測定ユニット100を載せていたアルミ製架台を加振装置の上に載せて、磁歪素子110に動的な歪みを加えた。具体的には、磁歪素子110の固定されている端部と、その反対側の端部にタングステンの錘(図示せず)を固定した。加振機を所定の加速度、所定の周波数で正弦波振動させた。このとき、検出用コイル130に誘起される交流電圧をデジタルオシロスコープで取り込み、電圧波形のピーク電圧を用いて、磁歪振動発電デバイスとしての性能を評価した。
【0074】
(実施例1〜11および比較例1〜3)
方向性電磁鋼板と非磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を形成する磁歪材料として、日本製鉄(株)製の方向性電磁鋼板27ZH100、被膜付き、を使用した。当該電磁鋼板の厚みは0.27mm、結晶方位は{110}[100]GOSS集合組織である。方向性電磁鋼板の長手方向を[100]方向とし、長さ40mm、幅6.1mmにシャーリング切断した。切断時の歪みを除去するために800℃、2時間、真空中で焼鈍し、磁歪部用の方向性電磁鋼板を得た。
【0075】
応力制御部を構成する弾性材料として、非磁性材料である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、厚み0.1〜1.1mmを用いた。炭素繊維の方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.5mmに切断し、応力制御部用の非磁性材料を得た。
【0076】
上述した方向性電磁鋼板とCFRPとをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。この際に接着剤の厚みが35〜40μmの範囲になるように接着剤を塗布した。接着剤の厚みは、接着剤の塗布重量を塗布前後の重量変化から一定になるように制御した。接着面積×厚みから接着剤の体積を算出し、それに比重を掛けて塗布重量を求めた。
【0077】
得られた磁歪素子を
図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は2800A/m(350e)とした。
【0078】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔhを2mmとし、このときの磁束密度変化ΔBを測定した。
さらに、CFRPの厚みが0.10mmの場合(比較例1)のΔBの値を基準として、ΔBの増加率も算出した。結果を表1に示した。
【0079】
【表1】
【0080】
表1から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上であると、式(2−1)で求められる値が1.1未満のときと比べて、ΔBは50%以上も大きく増加した。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると、ΔBの増加率は90%以上にさらに増加した。これは、式(2)で表される値が大きくなるに従い、中立面が磁歪部からより遠くに外れるために、より均一な歪みが磁歪部に加えられた状態になることに起因していると考えられる。
【0081】
(実施例12と13および比較例4)
上記比較例3、実施例3および実施例8の磁歪素子をそれぞれ10枚ずつ作製した。このとき、エポキシ系の接着剤の塗布をへらで行い、接着剤の厚みは目視でのみ確認し、厚みを揃える管理を行わなかった。
【0082】
各実施例または比較例において、
図1に示した測定ユニットを用いて作製した磁歪素子10枚のそれぞれの発生電圧を測定した。
【0083】
磁歪素子を組み込んだ測定ユニットを、それが載っていたアルミ製架台と共に加振装置の上に載せて、磁歪素子に動的な歪みを与えた。このとき、磁歪素子の固定された端部とは反対側の端部に設置されていたマイクロメーターのシリンダヘッドを外して、そこにタングステンの錘を固定した。錘の重さは、振福が約1.3mm程度になるように調整した。
【0084】
加振機を10Hz、加速度1Gで振動させて、10枚の磁歪素子のそれぞれについて電圧(mV)を測定した。測定した電圧値の最小値、最大値、10枚の平均値、および最大値と最小値との差を求めた。これらの値を式(2−1)で求められる値と共に表2にまとめた。
【0085】
【表2】
【0086】
表2の結果から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上である実施例12では、接着剤の厚みを厳密に制御しなくとも、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが5mVと小さかった。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上である実施例13では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが2mVとさらに小さかった。一方、式(2−1)で求められる値が1.1未満である比較例4では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが13mVと大きかった。
【0087】
このような結果が生じた理由は、式(2−1)で求められる値が1.1未満では、中立面が磁歪材料と弾性材料の境界近傍に位置するために、接着する際の接着剤の厚みのばらつきによって弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が大きく影響を受けるためであると考えられる。式(2−1)で求められる値が1.1以上になると、弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が接着剤厚みのばらつきの影響を受け難くなり、その結果、発電電圧のばらつきも低減するものと考えられる。この効果は、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると更に顕著に発現する。
【0088】
(実施例14〜26および比較例5〜7)
方向性電磁鋼板と非磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を形成する磁歪材料として、日本製鉄(株)製の方向性電磁鋼板27ZH100、被膜付き、を使用した。当該電磁鋼板の厚みは0.27mm、結晶方位は{110}[100]GOSS集合組織である。方向性電磁鋼板の長手方向を[100]方向とし、長さ40mm、幅5.8mmにシャーリング切断した。切断時の歪みを除去するために800℃、2時間、真空中で焼鈍し、磁歪部用の方向性電磁鋼板を得た。
【0089】
応力制御部を構成する非磁性材料として、SUS304、厚み0.17〜2.1mmの冷延板を用いた。長さ40mm、幅6.5mmに切断した後、真空中、1050℃で1分間保持し、ガス急冷よる溶体化処理を行って、切断歪みによる影響を取り除き、応力制御部用の非磁性材料を得た。
【0090】
上述した方向性電磁鋼板とSUS304とをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。この際に接着剤の厚みが35〜40μmの範囲になるように接着剤を塗布した。
【0091】
得られた磁歪素子を
図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は2800A/m(350e)とした。
【0092】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔhを2mmとし、このときの磁束密度変化ΔBを測定した。
さらに、SUS304の厚みが0.17mmの場合(比較例5)のΔBの値を基準として、ΔBの増加率も算出した。結果を表3に示した。
【0093】
【表3】
【0094】
表3から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上であると、式(2−1)で求められる値が1.1未満のときと比べて、ΔBは50%以上も大きく増加した。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると、ΔBの増加率は90%以上にさらに増加した。これは、式(2−1)で求められる値が大きくなるに従い、中立面が磁歪部からより遠くに外れるために、より均一な歪みが磁歪部に加えられた状態になることに起因していると考えられる。
【0095】
(実施例27と28および比較例8)
上記比較例7、実施例16および実施例20の磁歪素子をそれぞれ10枚ずつ作製した。このとき、エポキシ系の接着剤の塗布をへらで行い、接着剤の厚みは目視でのみ確認し、厚みを揃える管理を行わなかった。
【0096】
各実施例または比較例において、
図1に示した測定ユニットを用いて作製した磁歪素子10枚のそれぞれの発生電圧を測定した。
【0097】
磁歪素子を組み込んだ測定ユニットを、それが載っていたアルミ製架台と共に加振装置の上に載せて、磁歪素子に動的な歪みを与えた。このとき、磁歪素子の固定された端部とは反対側の端部に設置されていたマイクロメーターのシリンダヘッドを外して、そこにタングステンの錘を固定した。錘の重さは、振福が約1.5mm程度になるように調整した。
【0098】
加振機を10Hz、加速度1Gで振動させて、10枚の磁歪素子のそれぞれについて電圧(mV)を測定した。測定した電圧値の最小値、最大値、10枚の平均値、および最大値と最小値との差を求めた。これらの値を式(2−1)で求められる値と共に表4にまとめた。
【0099】
【表4】
【0100】
表4の結果から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上である実施例27では、接着剤の厚みを厳密に制御しなくとも、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが6mVと小さかった。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上である実施例28では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが3mVとさらに小さかった。一方、式(2−1)で求められる値が1.1未満である比較例8では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが12mVと大きかった。
【0101】
このような結果が生じた理由は、式(2−1)で求められる値が1.1未満では、中立面が磁歪材料と弾性材料の境界近傍に位置するために、接着する際の接着剤の厚みのばらつきによって弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が大きく影響を受けるためであると考えられる。式(2−1)で求められる値が1.1以上になると、弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が接着剤厚みのばらつきの影響を受け難くなり、その結果、発電電圧のばらつきも低減するものと考えられる。この効果は、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると更に顕著に発現する。
【0102】
(実施例29〜37および比較例9〜12)
単結晶FeGa合金と非磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を形成する磁歪材料として、市販の単結晶FeGa合金を使用した。当該FeGa合金の厚みは0.5mm、長さ40mm、幅6mmに切断した。切断時の歪みを除去するために800℃、2時間保定後、Arガスを吹きかけて冷却した。
【0103】
応力制御部を構成する弾性材料として、非磁性材料である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、厚み0.1〜1.1mmを用いた。カーボン繊維の方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.5mmに切断し、応力制御部用の非磁性材料を得た。
【0104】
上述したFeGa合金とCFRPとをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。この際に接着剤の厚みが35〜40μmの範囲になるように接着剤の塗布した。
【0105】
得られた磁歪素子を
図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は3200A/m(400e)とした。
【0106】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔhを2mmとし、このときの磁束密度変化ΔBを測定した。
さらに、CFRPの厚みが0.10mmの場合(比較例9)のΔBの値を基準として、ΔBの増加率も算出した。結果を表5に示した。
【0107】
【表5】
【0108】
表5から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上であると、式(2−1)で求められる値が1.1未満のときと比べて、ΔBは50%以上も大きく増加した。さらに、式(2)(2−1)で求められる2.8以上になると、ΔBの増加率は90%以上にさらに増加した。これは、式(2−1)で求められる値が大きくなるに従い、中立面が磁歪部からより遠くに外れるために、より均一な歪みが磁歪部に加えられた状態になることに起因していると考えられる。
【0109】
(実施例38と39および比較例13)
上記比較例11、実施例31および実施例35の、FeGa合金を磁歪材料として用いた磁歪素子をそれぞれ10枚ずつ作製した。このとき、エポキシ系の接着剤の塗布をへらで行い、接着剤の厚みは目視でのみ確認し、厚みを揃える管理を行わなかった。
【0110】
各実施例または比較例において、
図1に示した測定ユニットを用いて作製した磁歪素子10枚のそれぞれの発生電圧を測定した。
【0111】
磁歪素子を組み込んだ測定ユニットを、それが載っていたアルミ製架台と共に加振装置の上に載せて、磁歪素子に動的な歪みを与えた。このとき、磁歪素子の固定された端部とは反対側の端部に設置されていたマイクロメーターのシリンダヘッドを外して、そこにタングステンの錘を固定した。錘の重さは、振福が約1.3mm程度になるように調整した。
【0112】
加振機を10Hz、加速度1Gで振動させて、10枚の磁歪素子のそれぞれについて電圧(mV)を測定した。測定した電圧値の最小値、最大値、10枚の平均値、および最大値と最小値との差を求めた。これらの値を式(2−1)で求められる値と共に表6にまとめた。
【0113】
【表6】
【0114】
表6の結果から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上である実施例38では、接着剤の厚みを厳密に制御しなくとも、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが6mVと小さかった。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上である実施例39では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが3mVとさらに小さかった。一方、式(2−1)で求められる値が1.1未満である比較例13では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが13mVと大きかった。
【0115】
このような結果が生じた理由は、式(2−1)で求められる値が1.1未満では、中立面が磁歪材料と弾性材料の境界近傍に位置するために、接着する際の接着剤の厚みのばらつきによって弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が大きく影響を受けるためであると考えられる。式(2−1)で求められる値が1.1以上になると、弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が接着剤厚みのばらつきの影響を受け難くなり、その結果、発電電圧のばらつきも低減するものと考えられる。この効果は、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると更に顕著に発現する。
【0116】
(実施例40〜48および比較例14〜16)
単結晶FeCo合金と非磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を形成する磁歪材料として、FeCo合金を調製した。
純度99.9%の電解鉄および純度99.9%の粒状コバルトを用いて、組成がFe−69.5mol%Coのボタンインゴットをアーク溶解炉を用いて作製した。作製したボタンインゴットの重量は200gだった。
【0117】
次にボタンインゴットを切断し、高さが12mm、幅が10mm、長さが約60mmのサイズの圧延用サンプルを得た。
切り出した圧延用のサンプルを1100℃で1時間保定後、800℃で3時間保定し、その後、水冷した。次に、サンプルを高さが0.52mmになるまで冷間圧延した。冷延材の圧延方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.0mm、厚み0.52mmに切断し、評価用試験材とした。
【0118】
試験材を真空中で1100℃で10分保定した後、800まで降温し、800℃で3時間保定して、冷延組織を再結晶組織に変えた。再結晶した試験材の結晶方位をEBSDを用いて観察した結果、特定の結晶方位の優先配向は無かった。
さらに上記試験材に歪ゲージを貼りつけて、飽和磁歪を測定した結果、飽和磁歪は94ppmであった。
【0119】
上記で作製したFeCo合金を磁歪材料として用いた。
【0120】
応力制御部を構成する弾性材料として、非磁性材料である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、厚み0.1〜1.1mmを用いた。カーボン繊維の方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.5mmに切断し、応力制御部用の非磁性材料を得た。
【0121】
上述したFeCo合金とCFRPとをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。この際に接着剤の厚みが35〜40μmの範囲になるように接着剤の塗布した。
【0122】
得られた磁歪素子を
図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は3200A/m(400e)とした。
【0123】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔhを2mmとし、このときの磁束密度変化ΔBを測定した。
さらに、CFRPの厚みが0.10mmの場合(比較例14)のΔBの値を基準として、ΔBの増加率も算出した。結果を表7に示した。
【0124】
【表7】
【0125】
表7から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上であると、式(2−1)で求められる値が1.1未満のときと比べて、ΔBは50%以上も大きく増加した。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると、ΔBの増加率は250%までさらに増加した。これは、式(2−1)で求められる値が大きくなるに従い、中立面が磁歪部からより遠くに外れるために、より均一な歪みが磁歪部に加えられた状態になることに起因していると考えられる。
【0126】
(実施例49と50および比較例17)
上記比較例15、実施例42および実施例46の、FeCo合金を磁歪材料として用いた磁歪素子をそれぞれ10枚ずつ作製した。このとき、エポキシ系の接着剤の塗布をへらで行い、接着剤の厚みは目視でのみ確認し、厚みを揃える管理を行わなかった。
【0127】
各実施例または比較例において、
図1に示した測定ユニットを用いて作製した磁歪素子10枚のそれぞれの発生電圧を測定した。
【0128】
磁歪素子を組み込んだ測定ユニットを、それが載っていたアルミ製架台と共に加振装置の上に載せて、磁歪素子に動的な歪みを与えた。このとき、磁歪素子の固定された端部とは反対側の端部に設置されていたマイクロメーターのシリンダヘッドを外して、そこにタングステンの錘を固定した。錘の重さは、振福が約1.3mm程度になるように調整した。
【0129】
加振機を10Hz、加速度1Gで振動させて、10枚の磁歪素子のそれぞれについて電圧(mV)を測定した。測定した電圧値の最小値、最大値、10枚の平均値、および最大値と最小値との差を求めた。これらの値を式(2−1)で求められる値と共に表8にまとめた。
【0130】
【表8】
【0131】
表8の結果から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上である実施例49では、接着剤の厚みを厳密に制御しなくとも、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが4mVと小さかった。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上である実施例50では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが2mVとさらに小さかった。一方、式(2−1)で求められる値が1.1未満である比較例17では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキは6mVであるものの、電圧の平均値は4mVであり、バラツキよりも小さかった。
【0132】
このような結果が生じた理由は、式(2−1)で求められる値が1.1未満では、中立面が磁歪材料と弾性材料の境界近傍に位置するために、接着する際の接着剤の厚みのばらつきによって弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が大きく影響を受けるためであると考えられる。式(2−1)で求められる値が1.1以上になると、弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が接着剤厚みのばらつきの影響を受け難くなり、その結果、発電電圧のばらつきも低減するものと考えられる。この効果は、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると更に顕著に発現する。
【0133】
(実施例51〜59および比較例18〜20)
FeAl合金と非磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を形成する磁歪材料として、FeAl合金を調製した。
純度99.9%の電解鉄および純度99.9%の金属Alを用いて、Fe−13質量%Alの組成でアーク溶解して、200gのボタンインゴットを作製した。ボタンインゴットの形状は、直径60mm、厚み約10mmとした。ボタンインゴットを板厚方向に切断して、長さ約60mmm、幅約10mm、厚み0.5mmの板形状とし、更に、その板から長さ60mm、幅6.0mm、厚み0.5mmの大きさに切り出した。その切出した複数枚の板を真空中で20℃/分で1000℃まで昇温し、1000℃で3時間保定後、20℃/分で室温まで冷却する熱処理行った。
得られた試料に歪ゲージを貼りつけて飽和磁歪値λsを測定したところ、40ppmであった。
【0134】
上記で作製したFeAl合金を磁歪材料として用いた。
【0135】
応力制御部を構成する弾性材料として、非磁性材料である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、厚み0.1〜1.1mmを用いた。カーボン繊維の方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.5mmに切断し、応力制御部用の非磁性材料を得た。
【0136】
上述したFeAl合金とCFRPとをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。この際に接着剤の厚みが35〜40μmの範囲になるように接着剤の塗布した。
【0137】
得られた磁歪素子を
図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は3200A/m(400e)とした。
【0138】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔhを2mmとし、このときの磁束密度変化ΔBを測定した。
さらに、CFRPの厚みが0.10mmの場合(比較例18)のΔBの値を基準として、ΔBの増加率も算出した。結果を表9に示した。
【0139】
【表9】
【0140】
表9から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上であると、式(2−1)で求められる値が1.1未満のときと比べて、ΔBは50%以上も大きく増加した。さらに、式(2)の値が2.8以上になると、ΔBの増加率は300%までさらに増加した。これは、式(2−1)で求められる値が大きくなるに従い、中立面が磁歪部からより遠くに外れるために、より均一な歪みが磁歪部に加えられた状態になることに起因していると考えられる。
【0141】
(実施例60と61および比較例21)
上記比較例19、実施例52および実施例57の、FeAl合金を磁歪材料として用いた磁歪素子をそれぞれ10枚ずつ作製した。このとき、エポキシ系の接着剤の塗布をへらで行い、接着剤の厚みは目視でのみ確認し、厚みを揃える管理を行わなかった。
【0142】
各実施例または比較例において、
図1に示した測定ユニットを用いて作製した磁歪素子10枚のそれぞれの発生電圧を測定した。
【0143】
磁歪素子を組み込んだ測定ユニットを、それが載っていたアルミ製架台と共に加振装置の上に載せて、磁歪素子に動的な歪みを与えた。このとき、磁歪素子の固定された端部とは反対側の端部に設置されていたマイクロメーターのシリンダヘッドを外して、そこにタングステンの錘を固定した。錘の重さは、振福が約1.3mm程度になるように調整した。
【0144】
加振機を10Hz、加速度1Gで振動させて、10枚の磁歪素子のそれぞれについて電圧(mV)を測定した。測定した電圧値の最小値、最大値、10枚の平均値、および最大値と最小値との差を求めた。これらの値を式(2−1)で求められる値と共に表10にまとめた。
【0145】
【表10】
【0146】
表10の結果から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上である実施例60では、接着剤の厚みを厳密に制御しなくとも、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが3mVと小さかった。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上である実施例61では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが2mVとさらに小さかった。一方、式(2−1)で求められる値が1.1未満である比較例21では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが4mVであるものの、電圧の平均値は3mVであり、バラツキよりも小さかった。
【0147】
このような結果が生じた理由は、式(2−1)で求められる値が1.1未満では、中立面が磁歪材料と弾性材料の境界近傍に位置するために、接着する際の接着剤の厚みのばらつきによって弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が大きく影響を受けるためであると考えられる。式(2−1)で求められる値が1.1以上になることによって、弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が、接着剤厚みのばらつきの影響を受け難くなり、その結果、発電電圧のばらつきも低減するものと考えられる。この効果は、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると更に顕著に発現する。
【0148】
(比較例22〜30)
式(1)の関係を満たさない磁歪素子
磁歪部を形成する磁歪材料として、実施例40と同じFeCo合金を使用した。具体的には、長さ40mm、幅6.0mm、厚み0.52mm、ヤング率150GpaのFeCo合金を使用した。
【0149】
応力制御部を構成する弾性材料として、市販の7−3黄銅の薄板、板厚2mmを用いた。黄銅の薄板を長さ40mm、幅6mmに切断した後、平面研削盤で削って、板厚を0.40〜1.50mmに調整した。切断、研削後の熱処理は行っていない。ヤング率は110GPaだった。
【0150】
上記FeCo合金の薄板および黄銅の薄板を使用して、実施例40と同様に磁歪素子を作製し、磁束密度変化ΔBを測定した。
さらに、黄銅の厚みが0.40mmの場合(比較例22)のΔBの値を基準として、ΔBの増加率も算出した。結果を表11に示した。
【0151】
【表11】
【0152】
比較例25〜30は、式(1)の関係を満たさないが、式(2)の関係を満たし、さらに式(2−1)で求められる値は表7に示した実施例40〜47と同等である。しかし、これら比較例のΔBの値は、式(2−1)で求められる値が同等の実施例のΔBと比べて、60%以下まで低下した。さらに、式(1)および式(2)の関係を満たさない比較例22〜24では、ΔBの値が式(1)の関係を満たし、式(2)の関係を満たさない比較例14〜16の20〜40%程度まで低下した。
【0153】
(比較例31と32)
上記比較例24および29の磁歪素子をそれぞれ10枚ずつ作製した。このとき、エポキシ系の接着剤の塗布をへらで行い、接着剤の厚みは目視でのみ確認し、厚みを揃える管理を行わなかった。
【0154】
各比較例において、
図1に示した測定ユニットを用いて作製した磁歪素子10枚のそれぞれの発生電圧を測定した。
【0155】
磁歪素子を組み込んだ測定ユニットを、それが載っていたアルミ製架台と共に加振装置の上に載せて、磁歪素子に動的な歪みを与えた。このとき、磁歪素子の固定された端部とは反対側の端部に設置されていたマイクロメーターのシリンダヘッドを外して、そこにタングステンの錘を固定した。錘の重さは、振福が約1.3mm程度になるように調整した。
【0156】
加振機を10Hz、加速度1Gで振動させて、10枚の磁歪素子のそれぞれについて電圧(mV)を測定した。測定した電圧値の最小値、最大値、10枚の平均値、および最大値と最小値との差を求めた。これらの値を式(2−1)で求められる値と共に表12にまとめた。
【0157】
【表12】
【0158】
式(2)の関係を満たすが、式(1)の関係を満たさない比較例32においては、電圧の平均値が9mVで、式(1)と式(2)の関係を満たす実施例50の半分以下であった。さらに、式(1)と式(2)の関係を満たさない比較例31においては、電圧は測定できないレベルにまで低下した。