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特開2021-103922発電用磁歪素子および磁歪発電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-103922(P2021-103922A)
(43)【公開日】2021年7月15日
(54)【発明の名称】発電用磁歪素子および磁歪発電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/18 20060101AFI20210618BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20210618BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20210618BHJP
   C22C 38/02 20060101ALI20210618BHJP
   H01L 41/06 20060101ALI20210618BHJP
   H01L 41/20 20060101ALI20210618BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20210618BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20210618BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20210618BHJP
   C22C 14/00 20060101ALN20210618BHJP
【FI】
   H02N2/18
   C22C38/00 303U
   C22C19/07 C
   C22C38/00 303S
   C22C38/02
   H01L41/06
   H01L41/20
   C22F1/10 J
   C22F1/00 623
   C22F1/00 627
   C22F1/00 630A
   C22F1/00 660C
   C22F1/00 682
   C22F1/00 685Z
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 691C
   C22F1/00 686A
   C22F1/00 692A
   C22F1/00 692B
   C22F1/00 693A
   C22F1/00 693B
   C22F1/00 681
   C21D9/00 S
   C22F1/00 607
   C22C14/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2019-234443(P2019-234443)
(22)【出願日】2019年12月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 広明
(72)【発明者】
【氏名】田邊 昌男
【テーマコード(参考)】
4K042
5H681
【Fターム(参考)】
4K042AA25
4K042BA10
4K042BA12
4K042CA15
4K042CA16
4K042DA03
4K042DA06
4K042DC01
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DD05
4K042DE02
4K042DE05
5H681BB08
5H681DD30
5H681GG10
5H681GG42
(57)【要約】
【課題】電圧が高く、且つバラツキの少ない、発電用磁歪素子および磁歪発電デバイスを提供すること。
【解決手段】磁歪材料から形成される磁歪部と、前記磁歪材料に積層された弾性材料から形成される応力制御部とを有し、前記磁歪材料のヤング率をEm[GPa]、板厚をtm[mm]とし、前記弾性材料のヤング率をEs[GPa]、板厚みをts[mm]としたとき、下記式(1)および(2)の関係を同時に満たす発電用磁歪素子、および当該発電用磁歪素子を備えた磁歪発電デバイスを提供する。
【数1】

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪材料から形成される磁歪部と、
前記磁歪材料に積層された弾性材料から形成される応力制御部とを有し、
前記磁歪材料のヤング率をEm[GPa]、板厚をtm[mm]とし、前記弾性材料のヤング率をEs[GPa]、板厚をts[mm]としたとき、下記式(1)および(2)の関係を同時に満たす、発電用磁歪素子。
【数1】
【請求項2】
前記弾性材料が、非磁性材料である、請求項1に記載の発電用磁歪素子。
【請求項3】
前記磁歪材料が、FeGa系合金、FeCo系合金、FeAl系合金、または電磁鋼板である、請求項1または2に記載の発電用磁歪素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の発電用磁歪素子を備える、磁歪発電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電用磁歪素子および磁歪発電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年発展しているモノのインターネット(Internet of Things、以下「IoT」と略す)の利用においては、モノとインターネットとの接続のために、センサ、電源、および無線通信装置等が一体となった無線センサモジュールを使用する。このような無線センサモジュールの電源として、電池交換や充電作業等の人手による定期的なメンテナンスの必要なしに、設置場所の環境で発生しているエネルギーから電力を発生させることが可能な発電装置の開発が望まれている。
【0003】
このような発電装置の一例が、磁歪の逆効果である逆磁歪を使用した磁歪式振動発電装置である。逆磁歪とは、磁歪材料に振動などによって歪みが加えられたときに、磁歪材料の磁化が変化する現象である。磁歪式振動発電は、振動により磁歪材料に歪みを加えて、逆磁歪効果により発生する磁化の変化を、電磁誘導の法則により、磁歪素子の周囲に巻かれたコイルに起電力を発生させるものである。
【0004】
従来、磁歪材料の発電性能を高めるためには、その磁歪量を増加させる方法が試みられてきた。これは、磁歪量が大きいほど、磁歪材料に引っ張り歪みと圧縮歪みを交互に負荷した場合、逆磁歪を利用した磁束密度の変化(ΔB)が大きくなり、発電出力も大きくなるからである。このような観点から、磁歪量の大きな材料として、FeGa合金、FeCo合金、FeAl合金等が開発され、これらの磁歪材料を用いた発電デバイスも開発されている(特許文献1〜6)。
【0005】
例えば、特許文献1に記載の発電デバイスにおいては、発電性能を向上させて品質のバラツキを低減するために、磁歪材料と軟磁性材料とを貼り合わせ、磁歪材料の磁化によって軟磁性材料の磁化を変化させる。こうすることで、磁歪材料の磁化の変化による電圧に加えて、軟磁性材料の磁化の変化による電圧も検出用コイルに誘起させる。使用する磁歪材料としては、FeCo、FeAl、Ni、NiFe、NiCo等が記載されており、軟磁性材としては、Fe、FeNi、FeSi、電磁ステンレスが記載されている磁歪材と軟磁性材を貼り合わせる方法としては、熱拡散接合、熱間圧延、熱間引抜、接着、溶接、クラトッド圧延、爆発圧着、等が記載されている。
【0006】
特許文献2に記載の発電デバイスにおいては、起電力の向上、製造コストの低減、量産性の向上のために、磁歪材料と磁性材料とを合わせた平行梁構造を作製し、磁性材料をバイアス磁場によって磁気飽和させた状態で使用する構造を有するアクチュエータが開示されている。当該アクチュエータにおいては、バックヨークをコの字状とし、中立面を磁歪材料の外に設け、振動によるバイアス磁場の変化を磁歪材料の磁化の変化に重畳させて起電力を向上させる。磁歪材料としてFeGa、FeCo、FeAl、FeSiB、アモルファス材料等が記載されており、磁性材料としては、SPCC、炭素鋼(SS400、SC、SK、SK2)、フェライト系ステンレス鋼(SUS430)等が記載されている。磁歪材と磁性材、さらにバックヨークとの接合方法として、磁歪材両端の半田接合、溶接、ろう付け、抵抗溶接、レーザー溶接、超音波接合、接着剤が記載されている。
【0007】
特許文献3は、発電効率の向上、一様な応力負荷のために、磁歪材料と補強材としての非磁性材料とを貼り合わせ、磁歪材料と補強材の断面積比を補強材/磁歪材料>0.8になるように規定した発電素子が開示されている。磁歪材料としてはFeGa、FeCo、FeNi等が記載されている。さらに補強材として、フィラー含有樹脂、Al、Mg、Zn、Cu等が挙げられ、ヤング率が40〜100GPaのものが好ましいと記載されている。磁歪材料と補強材との接合方法として、超音波接合、固相拡散接合、液相拡散接合、樹脂系接着剤、金属ろう材が記載されている。
【0008】
特許文献4の発電デバイスにおいては、発電出力を向上させるために、コイルの巻数を多くすることのできる構造が採用されている。具体的には、磁歪板と非磁性構造体とを面接合した構造を作製し、磁歪板からコイルが巻かれたUの字状ヨークに磁界を還流させる。磁歪板としては、FeGaおよびFeCoが記載されており、非磁性構造体としてはステンレス(SUS304、等)が記載されている。磁歪材料と非磁性構造体との接合方法としては、接着剤、接着シート(光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂)が記載されている。
【0009】
特許文献5の発電デバイスにおいては、発電効率の向上および一様な応力負荷のために、磁歪材料と非磁性材料(補強材)とを貼り合わせた構造体を作製し、当該構造体を2本の平行梁として用いている。磁歪材料としては、FeGa、FeCo、FeCo系アモルファス、Fe系アモルファス、Ni系アモルファス、メタ磁性形状記憶合金、強磁性形状記憶合金等が記載されており、非磁性材料としては、酸化シリコン、アルミナ、ポリイミド、ポリカーボネート、繊維強化プラスチック、非磁性金属(Al、Cu)等が記載されている。
【0010】
特許文献6の発電デバイスにおいては、発電出力の向上のために、磁歪材料と磁性材料とを離した平行梁とした構造を使用する。当該構造によって、磁性材料を磁気飽和させない状態で使用し、磁歪材料の磁束の変化によって磁性材料の磁束を変化させ、磁歪材料による誘起電圧に、磁性材料による誘起電圧を足し合せた電圧を取り出せる設計としている。磁歪材料としては、FeGa、FeCo、FeNi、FeDyTeが記載されており、磁性材料としては、フェライト系ステンレス鋼、FeSi、NiFe、CoFe、SmCo、NdFeB、CoCr、CoPtが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2018/230154号
【特許文献2】特開2018−148791号公報
【特許文献3】国際公開第2014/021197号
【特許文献4】国際公開第2013/038682号
【特許文献5】国際公開第2013/186876号
【特許文献6】特開2015−70741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
板形状の磁歪材料の単板に曲げ歪を加えた場合、中立面は板厚方向の真ん中になり、曲げ中立面を境にして一方側が圧縮歪、他方側が引っ張り歪となって、磁歪材料内の磁束密度の変化が互いに打ち消し合う状態になる。この打ち消しによって、検出用コイルに誘起される電圧は小さくなる。そこで、磁歪材料と弾性材料とを積層して磁歪素子とすることによって、磁歪材料に曲げ歪を与えたときの中立面を弾性材料の中に入れるという考え方が従来から知られている。
【0013】
例えば、特許文献1〜6には、磁歪材料を単独で使用するのではなく、他の材料と組み合わせて磁歪素子を構成し、磁歪素子の発電性能などを向上させる発明が記載されている。特に特許文献1〜4においては、磁歪材料と他の材料とを接着剤等を用いて積層する方法が記載されている。このように磁歪材料と他の材料とを積層すると、磁歪材料に曲げ歪を与えたときの中立面を磁歪材料の外に移動させて電圧を上げることが可能である。しかし、磁歪材料と他の材料とを全面的に均一に接合することは難しく、不均一な接合故に、磁歪発電素子に曲げ歪を与えたときに中立面の位置にばらつきが生じてしまうことが判明した。これは、磁歪材料と他の材料との間に接着剤等のインサート材が存在するときに、顕著である。そして中立面のばらつきの結果、当該発電素子を備える発電デバイスの発電電圧にばらつきが生じることも判明した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題に鑑み、本発明の第一は、下記の発電用磁歪素子である。
[1] 磁歪材料から形成される磁歪部と、前記磁歪材料に積層された弾性材料から形成される応力制御部とを有し、前記磁歪材料のヤング率をEm[GPa]、板厚をtm[mm]とし、前記弾性材料のヤング率をEs[GPa]、板厚をts[mm]としたとき、下記式(1)および(2)の関係を同時に満たす、発電用磁歪素子。
【数1】
[2] 前記弾性材料が、非磁性材料である、[1]に記載の発電用磁歪素子。
[3] 前記磁歪材料が、FeGa系合金、FeCo系合金、FeAl系合金、または電磁鋼板である、[1]または[2]に記載の発電用磁歪素子。
【0015】
さらに本発明の第二は、下記の磁歪発電デバイスである。
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の発電用磁歪素子を備える、磁歪発電デバイス。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、磁歪材料と弾性材料とを、接着剤等のインサート材を用いて貼り合わせたものを磁歪素子として用いる磁歪発電デバイスにおいて、磁歪材料のヤング率Emと板厚tm、弾性材料のヤング率Esと板厚tsが上記式(1)および式(2)の関係を同時に満たすと、より均一な歪みを磁歪部に加えることができることが判明した。これは磁歪部から遠くに外れた場所に中立面が位置するためと考えられる。さらに弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が、接着剤厚みのばらつきの影響を受け難くなり、その結果、発電電圧のばらつきも低減するものと考えられる。従って、電圧が高く、且つバラツキの少ない、発電用磁歪素子および磁歪発電デバイスが本発明によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】磁歪素子に曲げ歪みを加えて、磁束密度変化ΔBを測定するためのユニットの模式図である。
図2】磁歪発電デバイスの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、例示的な実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
1.発電用磁歪素子
本発明は、磁歪材料から形成される磁歪部と、磁歪材料に積層された弾性材料から形成される応力制御部とを有する、発電用磁歪素子に関する。
【0020】
本発明において「発電用磁歪素子」(以下、しばしば、「磁歪素子」と略す場合もある)とは、磁歪特性、即ち、磁場の印加による形状変化(即ち、歪み)、を示す磁性材料によって形成された磁歪部を有し、磁歪部の逆磁歪に基づく発電が可能な素子を意味する。
【0021】
本発明の発電用磁歪素子における磁歪部は、磁歪材料から形成される。「磁歪材料」とは、磁歪特性、即ち、磁場の印加による形状変化(即ち、歪み)、を示す磁性材料であり、本発明においては、逆磁歪に基づく発電が可能な材料を意味する。磁歪材料の種類に特に限定はないが、従来から発電用磁歪素子に用いられてきた材料を使用することができる。このような材料としては、FeGa系合金(好ましくはFeGa単結晶)、FeCo系合金(好ましくはFeCo圧延材)、FeAl系合金(好ましくはFeAlインゴット切断材)などが挙げられる。
【0022】
さらに磁歪材料としては、電磁鋼板も使用することができる。本発明において「電磁鋼板」とは、鉄(Fe)にケイ素(Si)を添加して鉄の磁気特性を向上させた、「ケイ素鋼板」と呼ばれることもある機能材料である。本発明における電磁鋼板は、ケイ素の含有量が0.5%以上4%以下の電磁鋼板である。ケイ素の含有量が0.5%以上4%以下の電磁鋼板はケイ素添加による電気抵抗の増加によって、交流振動における磁化の変化を妨げる渦電流の発生を抑制できるため、磁歪部に用いるのに適している。
【0023】
さらに電磁鋼板には、方向性電磁鋼板と無方向性電磁鋼板とがあり、本発明においては、方向性電磁鋼板と無方向性電磁鋼板のどちらも磁歪部に使用可能である。方向性電磁鋼板とは、鋼板の圧延方向に金属結晶の結晶方位を揃えたものである。具体的には、その圧延方向に<100>方向を揃え、圧延面を(110)方位とした{110}[100]GOSS集合組織を有する電磁鋼板である。一方、無方向性電磁鋼板とは、金属結晶の結晶方位が一定の方向に揃えられていない、比較的ランダムな結晶方位を有するものである。方向性電磁鋼板も、無方向性電磁鋼板も、飽和磁歪がFeGa合金やFeCo合金よりも低い材料であるが、従来の磁歪材料と同等またはそれらを超える発電が可能である。その理由は明確ではないが、次のように推定される。
【0024】
上述したように、方向性電磁鋼板は、その圧延方向に<100>方向を揃え、圧延面を(110)方位とした{110}[100]GOSS集合組織を有する。本発明者らは、方向性電磁鋼板の[100]方向にバイアス磁場を印加した状態で、圧縮歪みを負荷した場合、方向性電磁鋼板の磁束密度が大きく変化することを新たに見出した。これは、方向性電磁鋼板の[100]方向に所定の磁場を印加すると、[100]方向に平行な180°磁区と90°磁区との割合が、両者が上手く相互作用する割合となり、方向性電磁鋼板に歪みを負荷した際に、180°磁区から90°磁区への変換、あるいは、90°磁区から180°磁区への変換が生じやすくなるためと考えられる。具体的には、180°磁区の磁化の方向に平行(すなわち、[100]方向)に圧縮歪みを負荷すると、180°磁区が減少して90°磁区が増加し、[100]方向に引っ張り歪みを負荷すると、90°磁区が減少して180°磁区が増加する。また、180°磁区の磁化の方向に垂直(すなわち、[110]方向)に圧縮歪みを負荷すると、90°磁区が減少して180°磁区が増加し、[110]方向に引っ張り歪みを負荷すると180°磁区が減少して90°磁区が増加する。これらの磁区の変化によって、方向性電磁鋼板の磁化が変化し、磁歪素子の磁歪部として機能する。磁歪発電デバイスにおいては、上記磁化の変化によって、磁歪素子に巻かれた検出用コイルに電圧が誘起される。
【0025】
また、無方向性電磁鋼板には方向性電磁鋼板のような結晶配向は存在しないが、バイアス磁場を印加した状態で歪みを負荷した場合に磁束密度が大きく変化することを見出した。無方向性電磁鋼板では、結晶方位が比較的ランダムであるために、方向性電磁鋼板に比べて磁区が小さい。そのために、歪みを負荷した場合、多数ある磁区の中でより動きやすい磁区から動くことが可能になるため、磁歪素子の磁歪部として使用した際に、大きな磁束密度の変化が得られると考えられる。
【0026】
本発明においては、方向性電磁鋼板の方が無方向性電磁鋼板よりも大きな磁化の変化を誘起しやすいことから、方向性電磁鋼板の方が磁歪部として好ましい。
【0027】
方向性電磁鋼板の具体例としては、例えば、日本製鉄のオリエントコア、オリエントコアハイビー(例えば、27ZH100)、オリエントコアハイビー・レーザー、オリエントコアハイビー・パーマネント、等が挙げられる。
【0028】
無方向性電磁鋼板の具体例としては、例えば、日本製鉄のハイライトコア(例えば、35H210)、ホームコア、等が挙げられる。
【0029】
さらに本発明の発電用磁歪素子は、弾性材料から形成される応力制御部を有する。本発明の磁歪素子における「応力制御部」とは、磁歪素子に曲げ歪み、等を加えた際に磁歪部全体に対して圧縮、または、引っ張りのどちらか一方の応力負荷を達成するために、応力を制御するための部分である。応力制御部を形成する材料は、上記目的を達成し得る弾性材料である限り特に限定はなく、非磁性材料および磁性材料のいずれも使用可能である。
【0030】
応力制御部を形成する弾性材料を非磁性材料とすると、バイアス磁場の調整が容易であるため好ましい。
【0031】
応力制御部を形成する非磁性材料である弾性材料としては、繊維強化プラスチック(例:ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP))、オーステナイト系ステンレス鋼(例:SUS304、SUS316、など)、銅合金(例:黄銅、りん青銅)、アルミ合金(例:ジュラルミン)、チタン合金(例:Ti−6Al−4V)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも、ヤング率が比較的高く、曲げ歪みを負荷した場合の中立面を磁歪部の外に位置させることが容易である点で、繊維強化プラスチック、オーステナイト系ステンレス鋼が好ましい。
【0032】
応力制御部を弾性材料である磁性材料で形成すると、コスト低減に効果がある。応力制御部を形成する弾性材料が磁性材料である鋼板の場合、バイアス磁場を印加したときに、磁歪部と応力制御部の両方にバイアス磁場が流れる。しかし、磁歪部を形成する磁歪材料はそもそも高透磁率材料であるため、磁歪部により多くのバイアス磁場が流れるため、発電に十分な磁区変化が生じると考えられる。しかし、応力制御部が非磁性材料である場合と比較すると、磁性材料で形成された応力制御部に流れる磁束分だけ磁歪部に印加される磁力が少なくなる。この磁力の減少を補うためには、磁歪発電デバイスの備える磁石の強度を高めれば良い。
【0033】
応力制御部を形成する、磁性材料である弾性材料としては、一般構造用圧延鋼材(例:SS400)、一般構造用炭素鋼(例:S45C)、高張力鋼(例:HT80)、フェライト系ステンレス鋼(例:SUS430)、マルテンサイト系ステンレス鋼(例:SUS410)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
応力制御部を有する磁歪素子において、応力制御部は磁歪部と積層体を形成している。このような積層体は、応力制御部と磁歪部とを貼り合わせることによって形成することができる。貼り合わせる方法に特に限定はないが、通常、接着剤や接着シートを間に介した貼り合わせ、ろう材接合、液相拡散接合や、固相拡散接合等が挙げられる。
【0035】
本発明の磁歪素子においては、磁歪部を形成する磁歪材料と、応力制御部を形成する弾性材料とが下記式(1)および式(2)の関係を同時に満たす。
【数2】
(式中、Emは磁歪材料のヤング率[GPa]、tmは磁歪材料の板厚[mm]、Esは弾性材料のヤング率[GPa]、tsは弾性材料の板厚[mm]である。)
【0036】
磁歪材料および弾性材料のヤング率は、引張試験、共振法、超音波パルス法、などによって測定可能な値である。上記式(2)の計算においては、引張試験(JIS Z2241)によって、応力−歪曲線を測定し、弾性領域の傾きから測定した値を使用した。
【0037】
上記式(1)および(2)の関係において、磁歪材料および弾性材料の板厚は、市販のマイクロメーターで測定した値であり、測定には先端形状が平面タイプのマイクロメーターを用いた。
【0038】
式(1)は、磁歪材料のヤング率Emが弾性材料のヤング率Esよりも小さいことを表している。式(1)の関係が満たされると、弾性材料の厚みを薄くすることが可能となり、その分、検出用コイルの巻き数を多くすることができるため、発電性能を向上させることが可能となる。
【0039】
式(2)は、磁歪材料のヤング率Emおよび板厚tm並びに弾性材料のヤング率Esおよび板厚tsの関係を表している。式(2)の右辺の数式で求められる値が1.1以上であれば、磁歪部を形成する磁歪材料と応力制御部を形成する弾性材料との接合が全面にわたって均一でなく、磁歪部と弾性材料の間にインサート材が存在する場合においても、磁歪部に曲げ歪みを与えたときに中立面を常に弾性材料の中に位置させることができる。その結果、磁歪材料全体にわたって圧縮歪み、または、引っ張り歪みのどちらか一方の状態にすることが可能となり、発電性能のばらつきを低減させることが可能となる。そのメカニズムの詳細については明らかではないが、次のように考えられる。
【0040】
本発明者らは、磁歪材料と弾性材料との積層体に対して曲げ歪を与えたときに中立面がどこに存在するかについて、材料力学の考え方を用いて検討し、下記の関係式を導出した。
Es×ts > Em×tm
(式中、Emは磁歪材料のヤング率[GPa]、tmは磁歪材料の板厚[mm]、Esは弾性材料のヤング率[GPa]、tsは弾性材料の板厚[mm]である。)
【0041】
磁歪素子が上記関係式を満たす場合には、中立面は弾性材料の中に存在する。よって、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合には、磁歪材料全体に圧縮歪みまたは引っ張り歪みのどちらか一方を与えることが可能となり、さらに発電性能のばらつきを低減させることが可能となる。
【0042】
しかし、上記結果は、磁歪材料と弾性材料とが全面にわたり均一に、かつ、磁歪材料と弾性材料との間に接着剤等のインサート材が存在せず、理想的に接合された場合に成り立つものである。実際には、磁歪材料と弾性材料とを全面にわたり均一に接合することは難しく、接合は不均一であるため、上記関係式を満たしても、発電性能にばらつきが生じる。これは、積層する際に接着剤等を使用し、磁歪材料と弾性材料との間にインサート材が存在する場合に特に顕著である。
【0043】
このような状況を鑑み、本発明者らが鋭意検討した結果、磁歪素子に用いる磁歪材料と弾性材料が下記式(2−1)で求められる値が1.1以上であると、発電性能のばらつきが激減することを見出した。
【0044】
【数3】
(式中、Emは磁歪材料のヤング率[GPa]、tmは磁歪材料の板厚[mm]、Esは弾性材料のヤング率[GPa]、tsは弾性材料の板厚[mm]である。)
【0045】
上記式(2−1)で求められる値が1.1以上であれば、発電性能のばらつきが激減する。上記式(2−1)で求められる値は1.1以上であることが好ましく、2.8以上であることがより好ましい。これは、上記式(2−1)で求められる値が大きくなるに従い、中立面が磁歪部からより遠くに外れるために、より均一な歪みが磁歪部に加えられた状態になることに起因していると考えられる。
【0046】
さらに式(2−1)で求められる値が1.1以上であると、磁歪材料と弾性材料との接合部分が不均一であっても(例えば、接着剤等のインサート材の厚みにバラツキがあっても)、電圧のバラツキを小さくすることができる。式(2−1)で求められる値が1.1未満の場合は、中立面が磁歪材料と弾性材料の境界近傍に位置するために、不均一な接合部分(例えば、接着する際の接着剤の厚みのばらつき)によって、弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が大きく影響を受けると考えられる。しかし、式(2−1)で求められる値が1.1以上になると、弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が不均一な接合部分の影響を受け難くなり、その結果、発電電圧のばらつきも低減するものと考えられる。
【0047】
さらに式(2−1)で求められる値は100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。式(2−1)で求められる値が100以下であると、応力制御部による振動の抑制が低減されるため有利である。
【0048】
上記式(1)および式(2)の関係が同時に満たされる限り、磁歪材料のヤング率Emに特に限定はない。通常、磁歪材料のヤング率Emは70GPa以上200GPa以下であり、70GPa以上170GPa以下が好ましい。
【0049】
上記式(1)および式(2)の関係が同時に満たされる限り、弾性材料のヤング率Esに特に限定はない。通常、弾性材料のヤング率Esは100GPa以上700GPa以下であり、190GPa以上550GPa以下が好ましい。
【0050】
上記式(2)の関係が満たされる限り、磁歪材料の板厚に特に限定はないが、通常、0.2mm以上0.5mm以下である。磁歪材料の板厚が0.2mm以上であれば、磁束の変化を大きくして、発生電圧も大きくできるため有利であり、0.5mm以下であれば、振動に適した剛性の設計が容易となるため有利である。
【0051】
上記式(2)の関係が満たされる限り、弾性材料の板厚にも特に限定はないが、通常、0.1mm以上2.0mm以下であり、好ましくは0.2mm以上1.0mm以下、より好ましくは0.2mm以上0.5mm以下である。弾性材料の板厚が0.1mm以上であれば、磁歪部全体に対して圧縮、または、引っ張りのどちらか一方の応力負荷を達成する上で有利であり、2.0mm以下であれば、磁歪素子の振動を妨げることが抑制できる。また、弾性材料の板厚を薄くすることで、検出用コイルの巻き数を多くすることができるため、発電性能を向上させることが可能となる。
【0052】
発電用磁歪素子のサイズは、それを備える磁歪発電デバイスの寸法によっても異なるため、本発明の発電用磁歪素子における磁歪部の寸法にも特に限定はない。磁歪部の寸法は、大きければ大きいほど、発電デバイスにおいて検出用コイルの巻き数を多くして、より大きな電圧を得ることができるため好ましい。また、応力制御部の寸法に特に限定はないが、磁歪部全体に対して圧縮、または、引っ張りのどちらか一方の応力負荷を達成するという観点から、磁歪部と同じまたは磁歪部より大きいことが望ましい。
【0053】
磁歪素子の性能を評価するための指標として、磁歪素子に外部応力を負荷した際に生じる素子の磁束密度変化ΔBを用いることができる。ΔB(単位:mTまたはT)は、以下の方法で求めることができる。
【0054】
断面積Sの磁歪素子を巻き数Nのコイルに挿入して、外部応力を負荷する。このとき、時間Δtの間に磁束密度ΔBの変化が生じた場合、コイルにはV=−N(S・ΔB/Δt)の電圧が発生する。したがって、ΔBはコイルに発生した電圧信号の時間積分値として求めることができる。磁歪振動発電素子の性能指標は、Δtの間に発生する総電圧として評価することができる。すなわち、電圧の時間積分値である磁束密度の変化ΔBとして評価することができる。ΔBの測定は、コイルに発生する電圧をフラックスメーターに繋ぐことによって行うことができる。
尚、ΔB(単位:mTまたはT)の詳細な測定方法および測定装置については、下記実施例において説明する。
【0055】
2.磁歪発電デバイス
本発明は、上述した本発明の発電用磁歪素子を備える、磁歪発電デバイスに関する。
【0056】
本発明の磁歪発電デバイスは、上述した本発明の発電用磁歪素子を備えるものである。よって磁歪素子に含まれる磁歪材料と弾性材料とが上記式(1)および式(2)の関係を同時に満たす限り、その構造に特に限定はない。当該デバイスの備える磁歪素子に含まれる磁歪部を形成する磁歪材料の種類や寸法、応力制御部を形成する弾性材料の種類や寸法等については、上述した通りである。
【0057】
本発明の磁歪発電デバイスの構造に特に限定はなく、磁歪素子以外の部分については、従来の磁歪発電デバイスと同様である。
【0058】
本発明の磁歪発電デバイスの一例として、図2に示した磁歪発電デバイス300が挙げられる。
当該デバイスにおいて、磁歪素子310は、磁歪部311と応力制御部312とを有する。磁歪素子310の周りには検出用コイル330が巻かれており、磁石340と、フレーム350と、フレーム350に取り付けられた錘320とを含む。このようなデバイスにおいては、磁石340の磁力線は、磁歪素子310を通過して、磁歪部311に対してバイアス磁場を印加する。そして錘320の振動によってフレーム350が振動し、磁歪素子310に引張力および圧縮力を加える。このとき、磁歪部311に対して歪みを加える方向と、磁歪部311に対してバイアス磁場を印可する方向とが平行関係にあり、逆磁歪効果によって磁歪素子310の磁化を変化させ、検出用コイル330に誘導電流(または誘導電圧)を発生させることができる。
【0059】
磁歪発電デバイスにおいて、バイアス磁場発生には永久磁石を用いることが好ましい。永久磁石は小型化可能であり、バイアス磁場の制御が容易である。また、永久磁石としては、より大きなバイアス磁場を発生させることができる理由から、NdFeB磁石が好ましい。
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
(評価方法)
1.材料の評価
1−1.ヤング率
磁歪素子に用いる磁歪材料および弾性材料のヤング率を、以下の方法で測定した。
引張試験によって、応力−歪曲線を測定し、弾性領域の傾きから測定した。
【0062】
1−2.板厚
磁歪素子に用いる磁歪材料および弾性材料の板厚を、以下の方法で測定した。
板厚は、先端形状が平面タイプのマイクロメーターを用いて測定した。
【0063】
1−3.式(1)および式(2)の関係
磁歪素子に用いる磁歪材料および弾性材料について、それらの板厚およびヤング率が下記式(1)および式(2)の関係を満たす否かを確認した。式(2)の関係については、下記式(2−1)の値を算出した。
【0064】
【数4】
(式中、Emは磁歪材料のヤング率[GPa]、tmは磁歪材料の板厚[mm]、Esは弾性材料のヤング率[GPa]、tsは弾性材料の板厚[mm]である。)
【0065】
2.発電用磁歪素子の評価
磁束密度変化ΔBの値および発生電圧の量をもって、磁歪素子を評価した。
【0066】
2−1.磁歪素子の磁束密度変化ΔBの測定
磁束密度変化ΔBの測定には、図1に示した、曲げ歪みを磁歪素子に加える測定ユニット100を使用した。当該ユニットを用いた測定方法について説明する。
【0067】
図1に、磁歪素子に曲げ歪みを加え、磁束密度変化ΔBを測定するためのユニット100の模式図を示した。図1には、例として、磁歪部111および応力制御部112を有する磁歪素子110の左側端部を固定支持台150に固定し、その右側端部を下方向に押し込んで曲げ歪みを加えるユニットを示した。
【0068】
ユニット100においては、磁歪素子110の右側端部に下方への圧力170を加える(即ち、押し込む)。このとき、磁歪部111(磁歪材料)は圧縮歪みを加えた状態となり、押し込んだ時の磁歪部111の移動距離171が長くなるほど、圧縮歪みは大きくなる。押し込みはマイクロメーターのシリンダヘッドを用いて行い、押し込みの深さは、シリンダヘッドのストロークで調整した。
【0069】
さらに図1の測定ユニットでは、ヘルムホルツ型のコイルをバイアス磁場用コイル120とし、そこに電流を流して、磁歪素子110に磁場を印加した。磁場の大きさは直流電源140の大きさによって調整し、磁場の大きさは予めガウスメータで校正した。このとき、磁歪素子110に印加される磁場を0〜500e程度まで変化させて、磁束密度変化が最大になる磁場で評価した。磁歪素子110の磁束変化は、検出用コイル130(巻き数:3500ターン)によって誘起電圧として検出し、その誘起電圧をフラックスメーター160で磁束の変化として計測した。さらに、下記式(3)に基づき、磁束の変化を検出用コイルの巻き数と磁歪材料の断面積で割って、磁束密度変化ΔBを求めた。
【0070】
【数5】
(式中、Vは発生電圧、Nはコイルの巻き数、Sは磁歪部の断面積である。)
【0071】
尚、この測定方法で得られる磁束密度変化ΔBは電圧変化の時間積分であるため、歪みを加える速さには依存しない。
【0072】
2−2.発生電圧の測定
発生電圧の測定には、図1示した、曲げ歪みを磁歪素子に加える測定ユニットを使用した。測定方法について説明する。
【0073】
図1に示した測定ユニット100を載せていたアルミ製架台を加振装置の上に載せて、磁歪素子110に動的な歪みを加えた。具体的には、磁歪素子110の固定されている端部と、その反対側の端部にタングステンの錘(図示せず)を固定した。加振機を所定の加速度、所定の周波数で正弦波振動させた。このとき、検出用コイル130に誘起される交流電圧をデジタルオシロスコープで取り込み、電圧波形のピーク電圧を用いて、磁歪振動発電デバイスとしての性能を評価した。
【0074】
(実施例1〜11および比較例1〜3)
方向性電磁鋼板と非磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を形成する磁歪材料として、日本製鉄(株)製の方向性電磁鋼板27ZH100、被膜付き、を使用した。当該電磁鋼板の厚みは0.27mm、結晶方位は{110}[100]GOSS集合組織である。方向性電磁鋼板の長手方向を[100]方向とし、長さ40mm、幅6.1mmにシャーリング切断した。切断時の歪みを除去するために800℃、2時間、真空中で焼鈍し、磁歪部用の方向性電磁鋼板を得た。
【0075】
応力制御部を構成する弾性材料として、非磁性材料である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、厚み0.1〜1.1mmを用いた。炭素繊維の方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.5mmに切断し、応力制御部用の非磁性材料を得た。
【0076】
上述した方向性電磁鋼板とCFRPとをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。この際に接着剤の厚みが35〜40μmの範囲になるように接着剤を塗布した。接着剤の厚みは、接着剤の塗布重量を塗布前後の重量変化から一定になるように制御した。接着面積×厚みから接着剤の体積を算出し、それに比重を掛けて塗布重量を求めた。
【0077】
得られた磁歪素子を図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は2800A/m(350e)とした。
【0078】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔhを2mmとし、このときの磁束密度変化ΔBを測定した。
さらに、CFRPの厚みが0.10mmの場合(比較例1)のΔBの値を基準として、ΔBの増加率も算出した。結果を表1に示した。
【0079】
【表1】
【0080】
表1から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上であると、式(2−1)で求められる値が1.1未満のときと比べて、ΔBは50%以上も大きく増加した。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると、ΔBの増加率は90%以上にさらに増加した。これは、式(2)で表される値が大きくなるに従い、中立面が磁歪部からより遠くに外れるために、より均一な歪みが磁歪部に加えられた状態になることに起因していると考えられる。
【0081】
(実施例12と13および比較例4)
上記比較例3、実施例3および実施例8の磁歪素子をそれぞれ10枚ずつ作製した。このとき、エポキシ系の接着剤の塗布をへらで行い、接着剤の厚みは目視でのみ確認し、厚みを揃える管理を行わなかった。
【0082】
各実施例または比較例において、図1に示した測定ユニットを用いて作製した磁歪素子10枚のそれぞれの発生電圧を測定した。
【0083】
磁歪素子を組み込んだ測定ユニットを、それが載っていたアルミ製架台と共に加振装置の上に載せて、磁歪素子に動的な歪みを与えた。このとき、磁歪素子の固定された端部とは反対側の端部に設置されていたマイクロメーターのシリンダヘッドを外して、そこにタングステンの錘を固定した。錘の重さは、振福が約1.3mm程度になるように調整した。
【0084】
加振機を10Hz、加速度1Gで振動させて、10枚の磁歪素子のそれぞれについて電圧(mV)を測定した。測定した電圧値の最小値、最大値、10枚の平均値、および最大値と最小値との差を求めた。これらの値を式(2−1)で求められる値と共に表2にまとめた。
【0085】
【表2】
【0086】
表2の結果から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上である実施例12では、接着剤の厚みを厳密に制御しなくとも、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが5mVと小さかった。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上である実施例13では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが2mVとさらに小さかった。一方、式(2−1)で求められる値が1.1未満である比較例4では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが13mVと大きかった。
【0087】
このような結果が生じた理由は、式(2−1)で求められる値が1.1未満では、中立面が磁歪材料と弾性材料の境界近傍に位置するために、接着する際の接着剤の厚みのばらつきによって弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が大きく影響を受けるためであると考えられる。式(2−1)で求められる値が1.1以上になると、弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が接着剤厚みのばらつきの影響を受け難くなり、その結果、発電電圧のばらつきも低減するものと考えられる。この効果は、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると更に顕著に発現する。
【0088】
(実施例14〜26および比較例5〜7)
方向性電磁鋼板と非磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を形成する磁歪材料として、日本製鉄(株)製の方向性電磁鋼板27ZH100、被膜付き、を使用した。当該電磁鋼板の厚みは0.27mm、結晶方位は{110}[100]GOSS集合組織である。方向性電磁鋼板の長手方向を[100]方向とし、長さ40mm、幅5.8mmにシャーリング切断した。切断時の歪みを除去するために800℃、2時間、真空中で焼鈍し、磁歪部用の方向性電磁鋼板を得た。
【0089】
応力制御部を構成する非磁性材料として、SUS304、厚み0.17〜2.1mmの冷延板を用いた。長さ40mm、幅6.5mmに切断した後、真空中、1050℃で1分間保持し、ガス急冷よる溶体化処理を行って、切断歪みによる影響を取り除き、応力制御部用の非磁性材料を得た。
【0090】
上述した方向性電磁鋼板とSUS304とをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。この際に接着剤の厚みが35〜40μmの範囲になるように接着剤を塗布した。
【0091】
得られた磁歪素子を図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は2800A/m(350e)とした。
【0092】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔhを2mmとし、このときの磁束密度変化ΔBを測定した。
さらに、SUS304の厚みが0.17mmの場合(比較例5)のΔBの値を基準として、ΔBの増加率も算出した。結果を表3に示した。
【0093】
【表3】
【0094】
表3から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上であると、式(2−1)で求められる値が1.1未満のときと比べて、ΔBは50%以上も大きく増加した。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると、ΔBの増加率は90%以上にさらに増加した。これは、式(2−1)で求められる値が大きくなるに従い、中立面が磁歪部からより遠くに外れるために、より均一な歪みが磁歪部に加えられた状態になることに起因していると考えられる。
【0095】
(実施例27と28および比較例8)
上記比較例7、実施例16および実施例20の磁歪素子をそれぞれ10枚ずつ作製した。このとき、エポキシ系の接着剤の塗布をへらで行い、接着剤の厚みは目視でのみ確認し、厚みを揃える管理を行わなかった。
【0096】
各実施例または比較例において、図1に示した測定ユニットを用いて作製した磁歪素子10枚のそれぞれの発生電圧を測定した。
【0097】
磁歪素子を組み込んだ測定ユニットを、それが載っていたアルミ製架台と共に加振装置の上に載せて、磁歪素子に動的な歪みを与えた。このとき、磁歪素子の固定された端部とは反対側の端部に設置されていたマイクロメーターのシリンダヘッドを外して、そこにタングステンの錘を固定した。錘の重さは、振福が約1.5mm程度になるように調整した。
【0098】
加振機を10Hz、加速度1Gで振動させて、10枚の磁歪素子のそれぞれについて電圧(mV)を測定した。測定した電圧値の最小値、最大値、10枚の平均値、および最大値と最小値との差を求めた。これらの値を式(2−1)で求められる値と共に表4にまとめた。
【0099】
【表4】
【0100】
表4の結果から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上である実施例27では、接着剤の厚みを厳密に制御しなくとも、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが6mVと小さかった。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上である実施例28では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが3mVとさらに小さかった。一方、式(2−1)で求められる値が1.1未満である比較例8では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが12mVと大きかった。
【0101】
このような結果が生じた理由は、式(2−1)で求められる値が1.1未満では、中立面が磁歪材料と弾性材料の境界近傍に位置するために、接着する際の接着剤の厚みのばらつきによって弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が大きく影響を受けるためであると考えられる。式(2−1)で求められる値が1.1以上になると、弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が接着剤厚みのばらつきの影響を受け難くなり、その結果、発電電圧のばらつきも低減するものと考えられる。この効果は、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると更に顕著に発現する。
【0102】
(実施例29〜37および比較例9〜12)
単結晶FeGa合金と非磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を形成する磁歪材料として、市販の単結晶FeGa合金を使用した。当該FeGa合金の厚みは0.5mm、長さ40mm、幅6mmに切断した。切断時の歪みを除去するために800℃、2時間保定後、Arガスを吹きかけて冷却した。
【0103】
応力制御部を構成する弾性材料として、非磁性材料である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、厚み0.1〜1.1mmを用いた。カーボン繊維の方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.5mmに切断し、応力制御部用の非磁性材料を得た。
【0104】
上述したFeGa合金とCFRPとをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。この際に接着剤の厚みが35〜40μmの範囲になるように接着剤の塗布した。
【0105】
得られた磁歪素子を図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は3200A/m(400e)とした。
【0106】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔhを2mmとし、このときの磁束密度変化ΔBを測定した。
さらに、CFRPの厚みが0.10mmの場合(比較例9)のΔBの値を基準として、ΔBの増加率も算出した。結果を表5に示した。
【0107】
【表5】
【0108】
表5から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上であると、式(2−1)で求められる値が1.1未満のときと比べて、ΔBは50%以上も大きく増加した。さらに、式(2)(2−1)で求められる2.8以上になると、ΔBの増加率は90%以上にさらに増加した。これは、式(2−1)で求められる値が大きくなるに従い、中立面が磁歪部からより遠くに外れるために、より均一な歪みが磁歪部に加えられた状態になることに起因していると考えられる。
【0109】
(実施例38と39および比較例13)
上記比較例11、実施例31および実施例35の、FeGa合金を磁歪材料として用いた磁歪素子をそれぞれ10枚ずつ作製した。このとき、エポキシ系の接着剤の塗布をへらで行い、接着剤の厚みは目視でのみ確認し、厚みを揃える管理を行わなかった。
【0110】
各実施例または比較例において、図1に示した測定ユニットを用いて作製した磁歪素子10枚のそれぞれの発生電圧を測定した。
【0111】
磁歪素子を組み込んだ測定ユニットを、それが載っていたアルミ製架台と共に加振装置の上に載せて、磁歪素子に動的な歪みを与えた。このとき、磁歪素子の固定された端部とは反対側の端部に設置されていたマイクロメーターのシリンダヘッドを外して、そこにタングステンの錘を固定した。錘の重さは、振福が約1.3mm程度になるように調整した。
【0112】
加振機を10Hz、加速度1Gで振動させて、10枚の磁歪素子のそれぞれについて電圧(mV)を測定した。測定した電圧値の最小値、最大値、10枚の平均値、および最大値と最小値との差を求めた。これらの値を式(2−1)で求められる値と共に表6にまとめた。
【0113】
【表6】
【0114】
表6の結果から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上である実施例38では、接着剤の厚みを厳密に制御しなくとも、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが6mVと小さかった。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上である実施例39では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが3mVとさらに小さかった。一方、式(2−1)で求められる値が1.1未満である比較例13では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが13mVと大きかった。
【0115】
このような結果が生じた理由は、式(2−1)で求められる値が1.1未満では、中立面が磁歪材料と弾性材料の境界近傍に位置するために、接着する際の接着剤の厚みのばらつきによって弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が大きく影響を受けるためであると考えられる。式(2−1)で求められる値が1.1以上になると、弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が接着剤厚みのばらつきの影響を受け難くなり、その結果、発電電圧のばらつきも低減するものと考えられる。この効果は、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると更に顕著に発現する。
【0116】
(実施例40〜48および比較例14〜16)
単結晶FeCo合金と非磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を形成する磁歪材料として、FeCo合金を調製した。
純度99.9%の電解鉄および純度99.9%の粒状コバルトを用いて、組成がFe−69.5mol%Coのボタンインゴットをアーク溶解炉を用いて作製した。作製したボタンインゴットの重量は200gだった。
【0117】
次にボタンインゴットを切断し、高さが12mm、幅が10mm、長さが約60mmのサイズの圧延用サンプルを得た。
切り出した圧延用のサンプルを1100℃で1時間保定後、800℃で3時間保定し、その後、水冷した。次に、サンプルを高さが0.52mmになるまで冷間圧延した。冷延材の圧延方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.0mm、厚み0.52mmに切断し、評価用試験材とした。
【0118】
試験材を真空中で1100℃で10分保定した後、800まで降温し、800℃で3時間保定して、冷延組織を再結晶組織に変えた。再結晶した試験材の結晶方位をEBSDを用いて観察した結果、特定の結晶方位の優先配向は無かった。
さらに上記試験材に歪ゲージを貼りつけて、飽和磁歪を測定した結果、飽和磁歪は94ppmであった。
【0119】
上記で作製したFeCo合金を磁歪材料として用いた。
【0120】
応力制御部を構成する弾性材料として、非磁性材料である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、厚み0.1〜1.1mmを用いた。カーボン繊維の方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.5mmに切断し、応力制御部用の非磁性材料を得た。
【0121】
上述したFeCo合金とCFRPとをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。この際に接着剤の厚みが35〜40μmの範囲になるように接着剤の塗布した。
【0122】
得られた磁歪素子を図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は3200A/m(400e)とした。
【0123】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔhを2mmとし、このときの磁束密度変化ΔBを測定した。
さらに、CFRPの厚みが0.10mmの場合(比較例14)のΔBの値を基準として、ΔBの増加率も算出した。結果を表7に示した。
【0124】
【表7】
【0125】
表7から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上であると、式(2−1)で求められる値が1.1未満のときと比べて、ΔBは50%以上も大きく増加した。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると、ΔBの増加率は250%までさらに増加した。これは、式(2−1)で求められる値が大きくなるに従い、中立面が磁歪部からより遠くに外れるために、より均一な歪みが磁歪部に加えられた状態になることに起因していると考えられる。
【0126】
(実施例49と50および比較例17)
上記比較例15、実施例42および実施例46の、FeCo合金を磁歪材料として用いた磁歪素子をそれぞれ10枚ずつ作製した。このとき、エポキシ系の接着剤の塗布をへらで行い、接着剤の厚みは目視でのみ確認し、厚みを揃える管理を行わなかった。
【0127】
各実施例または比較例において、図1に示した測定ユニットを用いて作製した磁歪素子10枚のそれぞれの発生電圧を測定した。
【0128】
磁歪素子を組み込んだ測定ユニットを、それが載っていたアルミ製架台と共に加振装置の上に載せて、磁歪素子に動的な歪みを与えた。このとき、磁歪素子の固定された端部とは反対側の端部に設置されていたマイクロメーターのシリンダヘッドを外して、そこにタングステンの錘を固定した。錘の重さは、振福が約1.3mm程度になるように調整した。
【0129】
加振機を10Hz、加速度1Gで振動させて、10枚の磁歪素子のそれぞれについて電圧(mV)を測定した。測定した電圧値の最小値、最大値、10枚の平均値、および最大値と最小値との差を求めた。これらの値を式(2−1)で求められる値と共に表8にまとめた。
【0130】
【表8】
【0131】
表8の結果から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上である実施例49では、接着剤の厚みを厳密に制御しなくとも、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが4mVと小さかった。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上である実施例50では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが2mVとさらに小さかった。一方、式(2−1)で求められる値が1.1未満である比較例17では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキは6mVであるものの、電圧の平均値は4mVであり、バラツキよりも小さかった。
【0132】
このような結果が生じた理由は、式(2−1)で求められる値が1.1未満では、中立面が磁歪材料と弾性材料の境界近傍に位置するために、接着する際の接着剤の厚みのばらつきによって弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が大きく影響を受けるためであると考えられる。式(2−1)で求められる値が1.1以上になると、弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が接着剤厚みのばらつきの影響を受け難くなり、その結果、発電電圧のばらつきも低減するものと考えられる。この効果は、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると更に顕著に発現する。
【0133】
(実施例51〜59および比較例18〜20)
FeAl合金と非磁性材料とを含む磁歪素子
磁歪部を形成する磁歪材料として、FeAl合金を調製した。
純度99.9%の電解鉄および純度99.9%の金属Alを用いて、Fe−13質量%Alの組成でアーク溶解して、200gのボタンインゴットを作製した。ボタンインゴットの形状は、直径60mm、厚み約10mmとした。ボタンインゴットを板厚方向に切断して、長さ約60mmm、幅約10mm、厚み0.5mmの板形状とし、更に、その板から長さ60mm、幅6.0mm、厚み0.5mmの大きさに切り出した。その切出した複数枚の板を真空中で20℃/分で1000℃まで昇温し、1000℃で3時間保定後、20℃/分で室温まで冷却する熱処理行った。
得られた試料に歪ゲージを貼りつけて飽和磁歪値λsを測定したところ、40ppmであった。
【0134】
上記で作製したFeAl合金を磁歪材料として用いた。
【0135】
応力制御部を構成する弾性材料として、非磁性材料である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、厚み0.1〜1.1mmを用いた。カーボン繊維の方向を長手方向として、長さ40mm、幅6.5mmに切断し、応力制御部用の非磁性材料を得た。
【0136】
上述したFeAl合金とCFRPとをエポキシ系の接着剤を用いて室温で貼り合わせて、磁歪素子を得た。この際に接着剤の厚みが35〜40μmの範囲になるように接着剤の塗布した。
【0137】
得られた磁歪素子を図1に示した測定ユニットに組み込み、磁歪素子に曲げ歪みを加えた場合の磁束密度変化ΔBを測定した。具体的には、磁歪素子の磁歪部を下側として、左側端部を固定し、右側端部を下に押し込んだ時に磁歪部に圧縮歪みが加わるようにした。尚、印加したバイアス磁場は3200A/m(400e)とした。
【0138】
磁歪素子の右側端部を下に押し込む前、即ち、曲げ歪みが無い状態を基準として、磁歪素子を押し込んだ深さΔhを2mmとし、このときの磁束密度変化ΔBを測定した。
さらに、CFRPの厚みが0.10mmの場合(比較例18)のΔBの値を基準として、ΔBの増加率も算出した。結果を表9に示した。
【0139】
【表9】
【0140】
表9から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上であると、式(2−1)で求められる値が1.1未満のときと比べて、ΔBは50%以上も大きく増加した。さらに、式(2)の値が2.8以上になると、ΔBの増加率は300%までさらに増加した。これは、式(2−1)で求められる値が大きくなるに従い、中立面が磁歪部からより遠くに外れるために、より均一な歪みが磁歪部に加えられた状態になることに起因していると考えられる。
【0141】
(実施例60と61および比較例21)
上記比較例19、実施例52および実施例57の、FeAl合金を磁歪材料として用いた磁歪素子をそれぞれ10枚ずつ作製した。このとき、エポキシ系の接着剤の塗布をへらで行い、接着剤の厚みは目視でのみ確認し、厚みを揃える管理を行わなかった。
【0142】
各実施例または比較例において、図1に示した測定ユニットを用いて作製した磁歪素子10枚のそれぞれの発生電圧を測定した。
【0143】
磁歪素子を組み込んだ測定ユニットを、それが載っていたアルミ製架台と共に加振装置の上に載せて、磁歪素子に動的な歪みを与えた。このとき、磁歪素子の固定された端部とは反対側の端部に設置されていたマイクロメーターのシリンダヘッドを外して、そこにタングステンの錘を固定した。錘の重さは、振福が約1.3mm程度になるように調整した。
【0144】
加振機を10Hz、加速度1Gで振動させて、10枚の磁歪素子のそれぞれについて電圧(mV)を測定した。測定した電圧値の最小値、最大値、10枚の平均値、および最大値と最小値との差を求めた。これらの値を式(2−1)で求められる値と共に表10にまとめた。
【0145】
【表10】
【0146】
表10の結果から明らかなように、式(2−1)で求められる値が1.1以上である実施例60では、接着剤の厚みを厳密に制御しなくとも、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが3mVと小さかった。さらに、式(2−1)で求められる値が2.8以上である実施例61では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが2mVとさらに小さかった。一方、式(2−1)で求められる値が1.1未満である比較例21では、10枚の磁歪素子間の電圧のバラツキが4mVであるものの、電圧の平均値は3mVであり、バラツキよりも小さかった。
【0147】
このような結果が生じた理由は、式(2−1)で求められる値が1.1未満では、中立面が磁歪材料と弾性材料の境界近傍に位置するために、接着する際の接着剤の厚みのばらつきによって弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が大きく影響を受けるためであると考えられる。式(2−1)で求められる値が1.1以上になることによって、弾性材料から磁歪材料への応力の伝わり方が、接着剤厚みのばらつきの影響を受け難くなり、その結果、発電電圧のばらつきも低減するものと考えられる。この効果は、式(2−1)で求められる値が2.8以上になると更に顕著に発現する。
【0148】
(比較例22〜30)
式(1)の関係を満たさない磁歪素子
磁歪部を形成する磁歪材料として、実施例40と同じFeCo合金を使用した。具体的には、長さ40mm、幅6.0mm、厚み0.52mm、ヤング率150GpaのFeCo合金を使用した。
【0149】
応力制御部を構成する弾性材料として、市販の7−3黄銅の薄板、板厚2mmを用いた。黄銅の薄板を長さ40mm、幅6mmに切断した後、平面研削盤で削って、板厚を0.40〜1.50mmに調整した。切断、研削後の熱処理は行っていない。ヤング率は110GPaだった。
【0150】
上記FeCo合金の薄板および黄銅の薄板を使用して、実施例40と同様に磁歪素子を作製し、磁束密度変化ΔBを測定した。
さらに、黄銅の厚みが0.40mmの場合(比較例22)のΔBの値を基準として、ΔBの増加率も算出した。結果を表11に示した。
【0151】
【表11】
【0152】
比較例25〜30は、式(1)の関係を満たさないが、式(2)の関係を満たし、さらに式(2−1)で求められる値は表7に示した実施例40〜47と同等である。しかし、これら比較例のΔBの値は、式(2−1)で求められる値が同等の実施例のΔBと比べて、60%以下まで低下した。さらに、式(1)および式(2)の関係を満たさない比較例22〜24では、ΔBの値が式(1)の関係を満たし、式(2)の関係を満たさない比較例14〜16の20〜40%程度まで低下した。
【0153】
(比較例31と32)
上記比較例24および29の磁歪素子をそれぞれ10枚ずつ作製した。このとき、エポキシ系の接着剤の塗布をへらで行い、接着剤の厚みは目視でのみ確認し、厚みを揃える管理を行わなかった。
【0154】
各比較例において、図1に示した測定ユニットを用いて作製した磁歪素子10枚のそれぞれの発生電圧を測定した。
【0155】
磁歪素子を組み込んだ測定ユニットを、それが載っていたアルミ製架台と共に加振装置の上に載せて、磁歪素子に動的な歪みを与えた。このとき、磁歪素子の固定された端部とは反対側の端部に設置されていたマイクロメーターのシリンダヘッドを外して、そこにタングステンの錘を固定した。錘の重さは、振福が約1.3mm程度になるように調整した。
【0156】
加振機を10Hz、加速度1Gで振動させて、10枚の磁歪素子のそれぞれについて電圧(mV)を測定した。測定した電圧値の最小値、最大値、10枚の平均値、および最大値と最小値との差を求めた。これらの値を式(2−1)で求められる値と共に表12にまとめた。
【0157】
【表12】
【0158】
式(2)の関係を満たすが、式(1)の関係を満たさない比較例32においては、電圧の平均値が9mVで、式(1)と式(2)の関係を満たす実施例50の半分以下であった。さらに、式(1)と式(2)の関係を満たさない比較例31においては、電圧は測定できないレベルにまで低下した。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明によって、電圧が高く、且つバラツキの少ない、発電用磁歪素子および磁歪発電デバイスが提供される。本発明の発電用磁歪素子は、従来の磁歪素子よりも低コストでありながら、従来と同等またはそれらを超える発電量の達成を可能にすることから、IoT等における無線センサモジュールのみならず、様々な機器の電源として有用である。
【符号の説明】
【0160】
100 磁束密度変化ΔB測定用ユニット
110 磁歪素子
111 磁歪部
112 応力制御部
120 バイアス磁場用コイル
130 検出用コイル
140 直流電源
150 固定支持台
160 フラックスメーター
170 圧力
171 移動距離
300 磁歪発電デバイス
310 磁歪素子部
311 磁歪部
312 応力制御部
320 錘
330 検出用コイル
340 磁石
350 フレーム
図1
図2