【課題】熱安定性に優れ、塩基性充填剤と併用しても分解が抑制される全芳香族ポリエステルアミド、当該全芳香族ポリエステルアミドを含むポリエステルアミド樹脂組成物、当該ポリエステルアミド樹脂組成物を成形してなる成形品を提供する。
【解決手段】芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を少なくとも含み、ホウ素含有量が1〜200ppmである全芳香族ポリエステルアミド、該全芳香族ポリエステルアミドと、無機充填剤又は有機充填剤とを含むポリエステルアミド樹脂組成物、及び該ポリエステルアミド樹脂組成物を成形してなる成形品である。特に、無機充填剤が塩基性である場合に有用である。
フェニル末端基量とカルボキシ末端基量との合計に対するフェニル末端基量が0〜30モル%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の全芳香族ポリエステルアミド。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、全芳香族ポリエステルアミドと、タルク等の塩基性(7<pH≦14)の充填剤(以下、「塩基性充填剤」と呼ぶ。)とを併用すると、加熱を伴う溶融混練時等に塩基性充填剤に起因するアルカリ分解反応が起こり、全芳香族ポリエステルアミドの主鎖又は末端の分解を促進するという問題がある。塩基性充填剤と併用しても、分解が抑制される全芳香族ポリエステルアミドがあれば有用である。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、熱安定性に優れ、塩基性充填剤と併用しても分解が抑制される全芳香族ポリエステルアミド、当該全芳香族ポリエステルアミドを含むポリエステルアミド樹脂組成物、当該ポリエステルアミド樹脂組成物を成形してなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、全芳香族ポリエステルアミドの合成時に、重縮合反応を促進する触媒としてB−O(ホウ素−酸素)結合を有する酸性化合物等を用いると、生成される全芳香族ポリエステルアミドは塩基性充填剤と併用しても分解が抑制できることを見出した。すなわち、当該酸性化合物等を触媒として用いて合成した全芳香族ポリエステルアミドは、塩基性充填剤による分解を阻むホウ素含有基又はホウ酸系化合物が残存することを見出し、本発明を完成させた。
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を少なくとも含み、ホウ素含有量が1〜200ppmである、全芳香族ポリエステルアミド。
【0008】
(2)下記構成単位(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)を含有し、
全構成単位に対して下記構成単位(I)の含有量が40〜70モル%であり、
全構成単位に対して下記構成単位(II)の含有量が0〜8モル%であり、
全構成単位に対して下記構成単位(III)の含有量が12.5〜27.5モル%であり、
全構成単位に対して下記構成単位(IV)の含有量が7.5〜22.5モル%であり、
全構成単位に対して下記構成単位(V)の含有量が1〜9モル%であり、
全構成単位に対して下記構成単位(I)〜(V)の合計の含有量が100モル%である、前記(1)に記載の全芳香族ポリエステルアミド。
【0009】
【化1】
[構成単位(III)〜(IV)におけるAr
1、Ar
2はそれぞれ独立に2価の芳香族基を表す。]
【0010】
(3)B−O結合含有基を含む、前記(1)又は(2)に記載の全芳香族ポリエステルアミド。
【0011】
(4)フェニル末端基量とカルボキシ末端基量との合計に対するフェニル末端基量が0〜30モル%である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の全芳香族ポリエステルアミド。
【0012】
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の全芳香族ポリエステルアミドと、無機充填剤又は有機充填剤とを含む、ポリエステルアミド樹脂組成物。
【0013】
(6)前記無機充填剤が塩基性である、前記(5)に記載のポリエステルアミド樹脂組成物。
【0014】
(7)前記無機充填剤がタルク及びマイカからなる群より選ばれる1種以上である、前記(6)に記載のポリエステルアミド樹脂組成物。
【0015】
(8)前記(5)〜(7)のいずれかに記載のポリエステルアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。
【0016】
(9)コネクター、CPUソケット又はリレースイッチ部品である、前記(8)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱安定性に優れ、塩基性充填剤と併用しても分解が抑制される全芳香族ポリエステルアミド、当該全芳香族ポリエステルアミドを含むポリエステルアミド樹脂組成物、当該ポリエステルアミド樹脂組成物を成形してなる成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<全芳香族ポリエステルアミド>
本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を少なくとも含み、ホウ素含有量が1〜200ppmであることを特徴としている。
【0019】
本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を少なくとも含み、ホウ素含有量が1〜200ppmであることで、塩基性充填剤と併用しても分解が抑制できる。より詳細には、重縮合反応を促進する触媒として、B−O(ホウ素−酸素)結合を有する酸性化合物(ホウ酸等)を触媒として用いて全芳香族ポリエステルアミドを合成すると、全芳香族ポリエステルアミドの末端にホウ素含有基が末端に残存したり、ホウ酸系化合物が生成物中に残存したりする。そして、末端のホウ素含有基又はホウ酸系化合物の存在により、塩基性充填剤に起因する芳香族ポリエステルアミドのアルカリ分解反応が阻害される。つまり、本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、塩基性充填剤と併用しても分解が抑えられる。ひいては、全芳香族ポリエステルアミドと塩基性充填剤とを併用することによる利点が維持される。また、本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、熱安定性にも優れる。
【0020】
本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を少なくとも含み、例えば、下記(1)及び(2)のものを挙げることができる。
(1)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(c1)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c2)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド。
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c1)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c2)芳香族ジオール、脂環族ジオール、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド等。
【0021】
本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、さらに具体的には、下記構成単位(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)を含有することが好ましい(ただし、構成単位(II)は必ずしも含有する必要はない。)。また、各構成単位の含有量が以下の範囲であり、かつ、全構成単位に対して下記構成単位(I)〜(V)の合計の含有量が100モル%であることが好ましい。
全構成単位に対して下記構成単位(I)の含有量が40〜70モル%である。
全構成単位に対して下記構成単位(II)の含有量が0〜8モル%である。
全構成単位に対して下記構成単位(III)の含有量が12.5〜27.5モル%である。
全構成単位に対して下記構成単位(IV)の含有量が7.5〜22.5モル%である。
全構成単位に対して下記構成単位(V)の含有量が1〜9モル%である。
【0022】
【化2】
[構成単位(III)〜(IV)におけるAr
1、Ar
2はそれぞれ独立に2価の芳香族基を表す。]
【0023】
構成単位(I)は、4−ヒドロキシ安息香酸(以下、「HBA」ともいう。)から誘導される。本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、全構成単位に対して構成単位(I)を40〜70モル%含む。構成単位(I)の含有量が40モル%未満、又は70モル%を超えると、低融点化及び耐熱性の少なくとも一方が不十分となりやすい。低融点化と耐熱性との両立の観点から、構成単位(I)の含有量は、好ましくは45〜65モル%、より好ましくは47.5〜62.5モル%である。
【0024】
構成単位(II)は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(以下、「HNA」ともいう。)から誘導される。本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、全構成単位に対して構成単位(II)を0〜8モル%含む。構成単位(II)の含有量が8モル%以上であると、低融点化及び耐熱性の少なくとも一方が不十分となりやすい。低融点化と耐熱性との両立の観点から、構成単位(II)の含有量は、好ましくは1〜7モル%、より好ましくは2〜6モル%である。
【0025】
構成単位(III)において、Ar
1は2価の芳香族基を示し、2価の芳香族基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。中でも、p−フェニレン基、m−フェニレン基が好ましい。
構成単位(III)は、例えば、1,4−フェニレンジカルボン酸(以下、「TA」ともいう。)、1,3−フェニレンジカルボン酸(以下、「IA」ともいう。)等から誘導される。本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、全構成単位に対して構成単位(III)を12.5〜27.5モル%含む。構成単位(III)の含有量が12.5モル%未満、又は27.5モル%を超えると、低融点化及び耐熱性の少なくとも一方が不十分となりやすい。低融点化と耐熱性との両立の観点から、構成単位(III)の含有量は、好ましくは15〜25モル%、より好ましくは16〜24モル%である。
【0026】
構成単位(IV)において、Ar
2は2価の芳香族基を示し、2価の芳香族基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。中でも、ビフェニレン基が好ましい。
構成単位(IV)は、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(以下、「BP」ともいう。)から誘導される。本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドには、全構成単位に対して構成単位(IV)を7.5〜22.5モル%含む。構成単位(IV)の含有量が7.5モル%未満、又は22.5モル%を超えると、低融点化及び耐熱性の少なくとも一方が不十分となりやすい。低融点化と耐熱性との両立の観点から、構成単位(IV)の含有量は、好ましくは10〜20モル%、より好ましくは11〜19モル%である。
【0027】
構成単位(V)は、N−アセチル−p−アミノフェノール(以下、「APAP」ともいう。)から誘導される。本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドには、全構成単位に対して構成単位(V)を1〜9モル%含む。構成単位(V)の含有量が1モル%未満、又は9モル%を超えると、低融点化及び耐熱性の少なくとも一方が不十分となりやすい。低融点化と耐熱性との両立の観点から、構成単位(V)の含有量は、好ましくは2〜8モル%、より好ましくは3〜7モル%である。
【0028】
本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、熱安定性がさらに向上する観点から、フェニル末端基量とカルボキシ末端基量との合計に対するフェニル末端基量が0〜30モル%であることが好ましく、0〜20モル%であることがより好ましい。
【0029】
本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドの分子量(数平均分子量Mn)は、特に限定されず、溶融重合工程で得られた樹脂としては、1000〜50000であることが好ましく、3000〜30000であることがより好ましい。固相重合工程で得られた樹脂としては、1200〜60000であることが好ましく、3000〜50000であることがより好ましい。なお、数平均分子量Mnは、特開平5−271394号公報に記載されている、アミン分解HPLC法によって算出されるカルボキシ末端基量から算出することができる。
【0030】
本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドの融点は、特に限定されず、250〜380℃とすることができる。全芳香族ポリエステルアミドの溶融粘度は、特に限定されず、溶融重合で得られた場合は、全芳香族ポリエステルアミドの融点よりも10〜30℃高いシリンダー温度及びせん断速度1000sec
−1で測定した溶融粘度が、5Pa・s以上150Pa・s以下であることが好ましく、さらに好ましくは、10Pa・s以上100Pa・s以下である。さらに固相重合工程を行った場合は、全芳香族ポリエステルアミドの融点よりも10〜30℃高いシリンダー温度及びせん断速度1000sec
−1で測定した溶融粘度が、5Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましく、さらに好ましくは、10Pa・s以上150Pa・s以下である。
【0031】
「全芳香族ポリエステルアミドの融点よりも10〜30℃高いシリンダー温度」とは、全芳香族ポリエステルアミドが溶融粘度の測定が可能な程度まで溶融することができるシリンダー温度を意味しており、融点よりも何℃高いシリンダー温度とするかは、10〜30℃の範囲で原料樹脂の種類によって異なる。全芳香族ポリエステルアミドは、粉粒体混合物の形態とすることができ、ペレット等の溶融混合物(溶融混練物)の形態とすることもできる。
【0032】
本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは液晶性樹脂であり、「液晶性」とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有することをいう。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。液晶性を有する樹脂は、直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0033】
以上の本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、ホウ素含有量が1〜200ppmであるが、当該ホウ素含有量は重縮合反応時に用いる触媒、すなわち、B−O(ホウ素−酸素)結合を有する酸性化合物等に起因する。従って、本実施形態の全芳香族ポリエステルアミド中のホウ素は、B−O結合含有基として含むことが好ましい。ホウ素含有量が1ppm未満の場合、塩基性充填剤と併用した際の全芳香族ポリエステルアミドの分解が抑えられず、200ppmを超えると、副反応が増加して生産性が低下したり、成形時のモールドデポジット(金型への付着物)が増加したり、成形品の物性が低下したりする。ホウ素含有量は1〜100ppmが好ましく、2〜50ppmがより好ましい。
以下に、上記触媒を用いる全芳香族ポリエステルアミドの製造方法について説明する。
【0034】
本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、直接重合法やエステル交換法等を用いて重合される。重合に際しては、溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等、又はこれらの2種以上の組み合わせが用いられ、溶融重合法、又は溶融重合法と固相重合法との組み合わせが好ましく用いられる。
【0035】
本実施形態では、重合に際し、原料モノマーに対するアシル化剤や、酸塩化物誘導体として末端を活性化したモノマーを使用できる。アシル化剤としては、無水酢酸等の脂肪酸無水物等が挙げられる。
【0036】
原料モノマーの具体的な組み合わせとしては、上記の構成単位(I)〜(V)のそれぞれが既述の所定の含有量となるように、構成単位(I)〜(V)を誘導するモノマーを用いることが好ましい。
【0037】
上述の通り、重合に際してはB−O(ホウ素−酸素)結合を有する酸性化合物等を用いる。以下、B−O結合を有する酸性化合物について説明する。
【0038】
(B−O結合を有する酸性化合物)
本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドの製造において、原料モノマーを重縮合するに当たり、B−O結合を有する酸性化合物を触媒として用いる。また、B−O(ホウ素−酸素)結合を有する酸性化合物等を触媒として用いて合成した全芳香族ポリエステルアミドは、既述の通り、塩基性充填剤と併用しても全芳香族ポリエステルアミドのアルカリ分解反応が阻害される。
B−O結合含有化合物を使用することにより、炭酸ガスの発生の低減と、重縮合速度の向上との両立を図ることができる。重縮合反応においてB−O結合含有化合物が存在しても、B−O結合含有化合物は弱酸性であることから、重合系を弱酸性に傾けることができるため、末端カルボキシル基は安定に存在できるようになる。そのため、炭酸ガスの発生が少なくなる。また、末端カルボキシル基がB−O結合含有化合物と反応してボロン酸エステルを形成し、電子吸引性が向上する。従って、原料モノマーの水酸基が引き寄せられるため重縮合速度が向上する。
【0039】
B−O結合含有化合物としては、ボロン酸、アリールボロン酸、フッ素置換ボロン酸等のボロン酸誘導体、ホウ酸等が挙げられ、中でも、アリールボロン酸、ホウ酸が好ましい。
【0040】
B−O結合含有化合物として、アリール基に少なくとも1つの電子吸引性基を有するアリールボロン酸を用いると、電子吸引性が向上し、さらに重縮合速度が向上する点で好ましい。電子吸引性基としては、トリフルオロメチル基、フルオロ基、クロロ基等のハロゲン、ニトロ基、シアノ基、ケト基等が挙げられる。
【0041】
あるいは、本実施形態においては、B−O結合含有化合物をそのまま用いる他に、反応系内で当該B−O結合含有化合物を発生し得る化合物を用いる。反応系内でB−O結合含有化合物を発生させることにより、B−O結合含有化合物を用いた場合の効果と同じ効果を奏する。当該化合物としては、ボロン酸無水物等が挙げられる。これらの化合物は、カルボン酸の存在や、加熱により反応系内に上記酸を発生し得る。
【0042】
B−O結合含有化合物の酸解離定数pKaは14以下であることが好ましく、−1.0〜13であることがより好ましく、0〜12であることがさらに好ましい。なお、上記pKaは、25℃における水溶液中でのpKaを意味する。
【0043】
本実施形態において、上記B−O結合含有化合物、又は反応系内でB−O結合含有化合物を発生し得る化合物の添加量は、アシル化又は重縮合に悪影響を与えない限り特に限定されないが、一般には得られる全芳香族ポリエステルアミドの理論収量に対して、5〜2200ppmであることが好ましく、10〜1100ppmであることがより好ましい。また、重縮合する際の温度は、300〜400℃とすることが好ましい。
【0044】
重縮合する工程においては、さらに、第3級アミンを有する化合物又はその酸化物を存在させることが好ましい。上述の通り、本実施形態における重縮合反応においては、まず、末端カルボキシル基がB−O結合含有化合物と脱水縮合しボロン酸エステルを形成するが、第3級アミンを有する化合物又はその酸化物が存在すると、当該化合物によりボロン酸部分が置換され、より活性なエステルに変換される。すなわち、末端カルボキシル基の求電子性がさらに高められるため、重縮合速度がさらに向上する。
【0045】
第3級アミンを有する化合物又はその酸化物としては、ジメチルアミノピリジンオキシド(DMAPO)、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP)、4−メトキシピリジン−N−オキシド(MPO)、4−ピロリジノピリジン−N−オキシド(PPYO)、N,N−イソプロピルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。中でも、より強い求核性を有するジメチルアミノピリジンオキシドが好ましい。
【0046】
本実施形態において、第3級アミンを有する化合物又はその酸化物の添加量は、一般には得られる液晶性樹脂の理論収量に対して、50〜2000ppmであることが好ましく、100〜1000ppmであることがより好ましい。
【0047】
<ポリエステルアミド樹脂組成物>
本実施形態のポリエステルアミド樹脂組成物は、以上の本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドと、無機充填剤又は有機充填剤とを含む。本実施形態のポリエステルアミド樹脂組成物は、併用する無機充填剤又は有機充填剤が塩基性であっても、全芳香族ポリエステルアミドの分解が抑えられる。
【0048】
本実施形態のポリエステルアミド樹脂組成物に配合される無機充填剤としては、繊維状、粒状、板状のものが挙げられる。
【0049】
繊維状無機充填剤としてはガラス繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、ウォラストナイトの如き珪酸塩の繊維、硫酸マグネシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。特に代表的な繊維状充填剤はガラス繊維である。
【0050】
また、粉粒状無機充填剤としてはカーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、クレー、硅藻土、ウォラストナイトの如き硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。
【0051】
また、板状無機充填剤としては、タルク、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0052】
既述の通り、本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、塩基性の無機充填剤と併用しても分解が抑えられるため、本実施形態のポリエステルアミド樹脂組成物は、塩基性の無機充填剤を含有していても分解が抑えられる。塩基性の無機充填剤としては、タルク、マイカ等が挙げられる。すなわち、無機充填剤としては、タルク及びマイカからなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
【0053】
本実施形態のポリエステルアミド樹脂組成物に配合される、有機充填剤の例を示せば、芳香族ポリエステル繊維、液晶性ポリマー繊維、芳香族ポリアミド、ポリイミド繊維等の耐熱性高強度合成繊維等である。
【0054】
これらの無機及び有機充填剤は一種又は二種以上を併用することができる。繊維状無機充填剤と粒状又は板状無機充填剤との併用は、機械的強度と寸法精度、電気的性質等を兼備する上で好ましい組み合わせである。特に好ましくは、繊維状充填剤としてガラス繊維、板状充填剤としてマイカ及びタルクであり、その配合量は、全芳香族ポリエステルアミド100質量部に対して120質量部以下、好ましくは20〜80質量部である。ガラス繊維をマイカ又はタルクと組み合わせることで、ポリエステルアミド樹脂組成物は、熱変形温度、機械的物性等の向上が特に顕著である。
【0055】
これらの充填剤の使用にあたっては必要ならば収束剤又は表面処理剤を使用することができる。
【0056】
本実施形態のポリエステルアミド樹脂組成物は、上述の通り、本実施形態の全芳香族ポリエステルアミド、及び無機充填剤又は有機充填剤を含むが、その効果を害さない範囲であれば、その他の成分が含まれていてもよい。ここで、その他の成分とは、どのような成分であってもよく、例えば、その他の樹脂、酸化防止剤、安定剤、顔料、結晶核剤等の添加剤を挙げることができる。
【0057】
また、本実施形態のポリエステルアミド樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法で、ポリエステルアミド樹脂組成物を調製することができる。
【0058】
<成形品>
本実施形態の成形品は、本実施形態のポリエステルアミド樹脂組成物を成形してなる。成形方法としては、特に限定されず一般的な成形方法を採用することができる。一般的な成形方法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、回転成形、ガスインジェクション成形、インフレーション成形等の方法を例示することができる。
【0059】
以上のような性質を有する本実施形態のポリエステルアミド成形品の好ましい用途としては、コネクター、CPUソケット、リレースイッチ部品、ボビン、アクチュエータ、ノイズ低減フィルターケース等が挙げられ、中でも、コネクター、CPUソケット又はリレースイッチ部品が好ましい。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で3時間反応させた(アシル化)。その後、更に360℃まで4.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら重縮合を行った。減圧開始から撹拌トルクが所定の値に達するまでの時間は、20分であった。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出した。その後、ストランドをペレタイズして全芳香族ポリエステルアミドの液晶性樹脂ペレットを得た。なお、得られた全芳香族ポリエステルアミド中のホウ素含有量は2.4ppmであった。また、触媒として、ホウ酸(B−O結合含有化合物)を用いたため、得られた全芳香族ポリエステルアミドには、B−O結合含有基が存在していると考えられる。
(原料)
4−ヒドロキシ安息香酸(HBA):189g(60モル%)
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(HNA):12.0g(2.8モル%)
テレフタル酸(TA):68.7g(18.4モル%)
イソフタル酸(IA):2.65g(0.7モル%)
4,4’−ジヒドロキシビフェニル(BP):56.6g(13.1モル%)
N−アセチル−p−アミノフェノール(APAP):17.2g(5モル%)
ホウ酸:9.00mg(31ppm)(触媒;B−O結合含有化合物)
アシル化剤(無水酢酸):226g
【0062】
[実施例2]
ホウ酸の使用量を27.0mg(91ppm)としたこと以外は実施例1と同様にして液晶性樹脂ペレットを得た。得られた全芳香族ポリエステルアミド中のホウ素含有量は7ppmであった。
【0063】
[比較例1]
ホウ酸を、酢酸カリウム14.7mg(49ppm)に変更したこと以外は実施例1と同様にして液晶性樹脂ペレットを得た。
【0064】
[比較例2]
ホウ酸を、酢酸カリウム43.2mg(144ppm)に変更したこと以外は実施例1と同様にして液晶性樹脂ペレットを得た。
【0065】
[比較例3]
ホウ酸を、1−メチルイミダゾール363mg(1204ppm)に変更したこと以外は実施例1と同様にして液晶性樹脂ペレットを得た。
【0066】
[比較例4]
ホウ酸を用いなかったこと、つまり触媒を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして液晶性樹脂ペレットを得た。
【0067】
[融点]
各実施例及び比較例において、示差走査熱量計(DSC、(株)日立ハイテクサイエンス製)を使用し、液晶性樹脂を室温から20℃/分の昇温速度で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)を測定した。次いで、(Tm1+40)℃の温度で2分間保持した。さらに、20℃/分の降温速度で室温まで一旦冷却した後、再度、20℃/分の昇温速度で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点として測定した。
【0068】
[結晶化温度]
各実施例及び比較例において、示差走査熱量計(DSC、(株)日立ハイテクサイエンス製)を使用し、液晶性樹脂を室温から20℃/分の昇温速度で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)を測定した。次いで、(Tm1+40)℃の温度で2分間保持した後、20℃/分の降温速度で室温まで冷却した際に観測される発熱ピーク温度を結晶化温度として測定した。測定結果を表1に示す。
【0069】
[溶融粘度]
各実施例及び比較例において、(株)東洋精機製作所製キャピログラフを使用し、液晶性樹脂の融点よりも10〜30℃高い温度で、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いて、剪断速度1000/秒で、ISO11443に準拠して、液晶性樹脂の溶融粘度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0070】
[ホウ素含有量]
各実施例及び比較例において、得られた液晶性樹脂ペレット0.1gに硝酸10mLを加え、湿式灰化装置(CEM社製「MARS−5」)を用いて湿式分解した後、超純水を加えて50mLに定容し、分析試料とした。分析試料を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(スペクトロ社製「CIROS−120」)にて分析し、ホウ素含有量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0071】
[フェニル末端基量とカルボキシ末端基量との合計に対するフェニル末端基量]
各実施例及び比較例において、得られた液晶性樹脂ペレットを、凍結粉砕によりパウダーとした。液晶性樹脂のパウダーを用いて、特開平5−271394号公報に記載されている、アミン分解HPLC法によってフェニル末端基量とカルボキシ末端基量を算出した。具体的には、液晶性樹脂のパウダーをn−プロピルアミンで分解し、HPLC(Thermo Fisher製「Ultimate 3000」)を用いて、末端から生じた分解生成物を主鎖由来の分解生成物と分離し、そのピーク強度よりフェニル末端基量とカルボキシ末端基量を算出した。算出したフェニル末端基量とカルボキシ末端基量から、フェニル末端基量とカルボキシ末端基量との合計に対するフェニル末端基量を算出した。算出結果を表1に示す。
【0072】
[タルクとの混合加熱前後の数平均分子量]
まず、上記で得られた液晶性樹脂のパウダーを用いて、上記と同様に特開平5−271394号公報に記載されている、アミン分解HPLC法によってカルボキシ末端基量を算出した。1000000をカルボキシ末端基量(mmol/kg)で除した値を数平均分子量として算出した。算出結果を表1に示す。
次いで、上記で得られた液晶性樹脂のパウダー70mgとタルクのパウダー30mgとを、窒素下においてバイアル密閉容器に投入し、均一に混合した後、液晶性樹脂の融点よりも25℃高い温度(Tm2+25℃)で100秒間加熱した。さらに、タルクとの混合加熱後の液晶性樹脂の数平均分子量を算出した。当該加熱後の数平均分子量を、加熱前の上記数平均分子量で除した値に100を乗じた数値を数平均分子量保持率(%)として算出した。算出結果を表1に示す。
【0073】
[タルクとの混合加熱時のガス発生量]
上記で得られた液晶性樹脂のパウダー70mgとタルクのパウダー30mgとを、窒素下においてバイアル密閉容器に投入し、均一に混合した後、液晶性樹脂の融点よりも25℃高い温度(Tm2+25℃)で100秒間加熱した。次いで、水素炎イオン化検出器(FID)とバリア放電イオン化検出器(BID)を備えたヘッドスペースガスクロマトグラフ((株)島津製作所製「Tracera」)を用いて、発生したガス成分を分析し、FIDにてフェノール量、BIDにて二酸化炭素量をそれぞれ測定した。フェノールと二酸化炭素の合計量(μg)を液晶性樹脂とタルクの合計量(g)で除した値をガス発生量(ppm)として算出した。算出結果を表1に示す。
【0074】
[TGA測定での重量減少量]
各実施例及び比較例において、得られた液晶性樹脂ペレット10mgを、熱重量測定装置(TGA、TAインスツルメント(株)製)を使用し、窒素気流下にて、表1に示す測定温度で30分保持した際の重量減少量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1より、ホウ素含有量が1〜200ppmの範囲内の実施例1及び2においては、タルク混合加熱後の数平均分子量の保持率及びTGA測定での重量減少量のいずれにおいても良好な結果が得られたことが分かる。また、実施例1及び2においては、タルク混合加熱時のガス発生量が比較例1〜4よりも少ないことから、タルクとの併用による分解が抑えられたと推察される。
一方、比較例1〜4においては、上記いずれの評価も同時に良好な結果を得ることができなかった。
以上より、ホウ素含有量が1〜200ppmの全芳香族ポリエステルアミドは熱安定性に優れ、タルクなどの塩基性充填剤と併用しても分解が抑えられることが示された。