【解決手段】 溶剤と、溶剤に溶解する可溶性樹脂と、溶剤に不溶な有機ポリマー粒子と、を含む樹脂組成物を準備する工程と、この樹脂組成物を熱処理し、可溶性樹脂の固化物中に有機ポリマー粒子を含有する樹脂フィルムを得る工程と、を含む樹脂フィルムの製造方法。熱処理が、(a)前記有機ポリマー粒子の融点をTx[単位;℃]とし、前記熱処理の最高到達温度をTmax[単位;℃]とした場合、Tx≦Tmaxの関係にあること、(b)前記熱処理におけるTmaxまでの昇温過程で温度がTx−40℃のときに前記樹脂組成物に含まれる揮発成分の含有量が、前記樹脂組成物の不揮発成分の含有量に対して0.5重量%以下であることを満たす
前記可溶性樹脂が、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル及びそれらの前駆体から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
前記樹脂フィルムの不揮発性成分に対する前記有機ポリマー粒子の占める割合が5〜99体積%の範囲内である請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
本発明の実施の形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、樹脂組成物を準備する工程(工程1)と、この樹脂組成物を熱処理し、有機ポリマー粒子を含有する樹脂フィルムを得る工程(工程2)を含んでいる。
【0022】
[工程1(樹脂組成物を準備する工程)]
本工程では、溶剤と、溶剤に溶解する可溶性樹脂と、溶剤に不溶な有機ポリマー粒子と、を含む樹脂組成物を準備する。
【0023】
<溶剤>
溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール、アセトン、メチルイソブチルケトン等の有機溶媒が挙げられる。これらの溶剤を2種以上併用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。溶剤の含有量としては特に制限されるものではないが、樹脂組成物における固形分濃度が5〜50重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0024】
<可溶性樹脂>
可溶性樹脂としては、上記の溶剤に可溶性の材質であれば特に制限はないが、高耐熱性であり、かつ有機ポリマー粒子の融点を超える温度での加熱が可能な樹脂であることが好ましい。有機ポリマー粒子の融点以上に加熱することで、有機ポリマー粒子が溶融流動し、樹脂フィルムのマトリクス樹脂の空隙を埋めることができる。そのような樹脂として、例えばポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル又はそれらの前駆体樹脂が好ましく、特に、イミド化のために400℃程度の加熱を行うことが多いポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が好ましい。可溶性樹脂は一種類に限らず、二種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
[ポリアミド]
ポリアミドは、特に限定されるものではなく、骨格内にアミド結合(−CO−NH−)を有するポリマーである。このようなポリアミドは、ラクタムの開環反応や、ジアミン成分とジカルボン酸誘導体との重合、及びアミノ基を有するカルボン酸誘導体からの重合等、公知の方法で製造することができる。耐熱性の観点から、芳香族骨格で構成されるポリアミド(アラミドとも総称される)が好ましい。
【0026】
[ポリイミド]
ポリイミドは、下記一般式(1)で表されるイミド基を有するポリマーである。さらにアミド基やエーテル結合を有する場合にはポリアミドイミドやポリエーテルイミドと呼称されることがあるが、本明細書では、これらを総じてポリイミドと記載する。このようなポリイミドは、マレイミド成分とジアミン成分との付加重合させる方法や、ビスマレイミドと芳香族シアン酸エステルを架橋させる方法、ジアミン成分と酸二無水物成分とを実質的に等モル使用し、有機極性溶媒中で重合させる公知の方法によって製造することができる。この場合、粘度を所望の範囲とするために、ジアミン成分に対する酸二無水物成分のモル比を調整してもよく、その範囲は、例えば0.98〜1.03のモル比の範囲内とすることが好ましい。
【0028】
一般式(1)において、Ar
1はテトラカルボン酸二無水物残基を含む酸無水物から誘導される4価の基を示し、R
2はジアミンから誘導される2価のジアミン残基を示し、nは1以上の整数である。
【0029】
酸二無水物としては、例えば、O(OC)
2−Ar
1−(CO)
2Oによって表される芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、下記芳香族酸無水物残基をAr
1として与えるものが例示される。
【0031】
酸二無水物は、単独で又は2種以上混合して用いることができる。これらの中でも、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、及び4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)から選ばれるものを使用することが好ましい。
【0032】
ジアミンとしては、例えば、H
2N−R
2−NH
2によって表されるジアミンが好ましく、下記ジアミン残基をR
2として与えるジアミンが例示される。
【0034】
これらのジアミンの中でも、ジアミノジフェニルエーテル(DAPE)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、パラフェニレンジアミン(p−PDA)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、及び2,2−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)が好適なものとして例示される。
【0035】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換して樹脂組成物を形成することができる。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0036】
[ポリエステル]
ポリエステルは、特に限定されるものではなく、骨格内にエステル結合(−COO−)を有するポリマーである。このようなポリエステルは、ジオール類とジカルボン酸誘導体からの重合等、公知の方法で製造することができる。耐熱性の観点から、芳香族骨格で構成されるポリエステルが好ましい。
【0037】
[ポリエーテル]
ポリエーテルは、特に限定されるものではなく、骨格内にエーテル結合(−O−)を有するポリマーである。このようなポリエーテルは、フェノール類のラジカル重合等、公知の方法で製造することができる。耐熱性の観点から、芳香族骨格で構成されるポリエーテルが好ましい。
【0038】
[前駆体]
前駆体とは、ある物質について、その物質が生成する前の段階の物質のことを指し、本明細書においては樹脂の前駆体として、オリゴマー体も含める。前駆体を用いることが好ましい場合としては、溶剤へ不溶なポリマーにおいても、その前駆体は可溶である場合などが挙げられる。具体的には全芳香族ポリイミドの多くは汎用溶剤へ不溶であるが、その前駆体のポリアミド酸はアミド系溶剤に容易に溶解する。また、ポリエステルは、高分子量体では溶剤に不溶な場合でもそのオリゴマー体は溶剤可溶性と成り得る。一般に、オリゴマー体とは重合度の低いポリマーを指し、本明細書においては、反復数が2〜50の範囲内で分子量が5000以下であるものを指す。オリゴマー体は活性点を持つ場合、加熱等のエネルギーを与えること、溶液濃度を上昇させること、活性化剤や架橋剤を添加することによって、反応し、重合度を上げることが可能である。
【0039】
<触媒、硬化剤及び硬化促進剤>
一実施形態に係る樹脂組成物は、硬化剤を含んでも良い。硬化剤としては特に限定されず樹脂に応じた硬化剤を用いることができる。例えば、イミダゾール化合物、酸無水物、ジシアンジアミド、ヒドラジド、アミン付加物、スルホニウム塩、ホルムアルデヒド、ケチミン、三級アミンが例示される。
【0040】
硬化剤の含有量は、特に限定されず、用いる樹脂成分及び硬化条件に応じて適宜選択することができるが、例えば、上述の可溶性樹脂に対して、5〜110重量%であることが好ましく、20〜90重量%であることがより好ましい。
【0041】
また、上述の硬化剤と組み合わせて又は単独で、硬化促進剤を用いることもできる。硬化促進剤としては、特に限定されず、例えば、有機ホスフィン化合物等を挙げることができる。
【0042】
<有機ポリマー粒子>
有機ポリマー粒子の材質としては、融点を有し、上記の溶剤に不溶な材質の樹脂あれば特に制限はないが、例えば、液晶ポリマー、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィドなどが好ましく、特に樹脂フィルムの低誘電正接化及び低吸湿化に有効であるという観点から、液晶ポリマーが好ましい。液晶ポリマーは、誘電特性の周波数依存性がほとんどなく、非常に優れた誘電特性を有するとともに、難燃性向上にも寄与することから、これを配合することによって、樹脂フィルムの誘電特性と難燃性を改善することができる。樹脂フィルムの誘電特性を改善する目的で配合する場合、液晶ポリマー粒子は、単体として、10GHzにおける比誘電率が、好ましくは2.1〜4.0の範囲内、より好ましくは、2.8〜3.8の範囲内であり、10GHzにおける誘電正接が、好ましくは0.0030以下、より好ましくは0.0020以下、さらに好ましくは0.0015以下であるものを用いることがよい。液晶ポリマーの融点は、液晶転移温度や液晶化温度と称される場合があるが、本明細書においては、まとめて融点とした。前記融点は、220℃以上が好ましい。より好ましくは250℃以上、さらに好ましくは290℃以上が好ましい。融点が上記範囲を下回ると電子機器等の製造フローにて融解し、特性の変化をきたすおそれがある。
【0043】
液晶ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の(1)〜(4)に分類される化合物及びその誘導体から導かれる公知のサーモトロピック液晶ポリエステル及びポリエステルアミドを挙げることができる。
(1)芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物
(2)芳香族又は脂肪族ジカルボン酸
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族アミノカルボン酸
【0044】
これらの原料化合物から得られる液晶ポリマーの代表例として、下記式(a)〜(j)に示す構造単位から選ばれる2つ以上の組み合わせを有する共重合体であって、式(a)で示す構造単位又は式(e)で示す構造単位のいずれかを含む共重合体が好ましく、特に、式(a)で示す構造単位と式(e)で示す構造単位とを含む共重合体がより好ましい。また、液晶ポリマー中の芳香環が多くなるほど、誘電特性と難燃性を向上させる効果が期待できることから、上記(1)として芳香族ジヒドロキシ化合物を、上記(2)として芳香族ジカルボン酸を含むものが好ましい。
【0046】
また、有機ポリマー粒子の形状は限定されず、例えば、球状、不定形、小板状、繊維状(ミルドファイバー、チョップドファイバー、カットファイバー等)が例示される。有機ポリマー粒子は、平均粒子径D
50が6〜20μmの範囲内であることが好ましく、8〜15μmの範囲内であることがより好ましい。ここで、平均粒子径D
50は、レーザ回折散乱法による体積基準の粒度分布測定によって得られる頻度分布曲線における累積値が50%となる値である。平均粒子径D
50がこの範囲内であれば、樹脂組成物によって樹脂フィルムを形成したときの表面平滑性を悪化させることがなく、外観良好な樹脂フィルムが得られる。
【0047】
有機ポリマー粒子は、市販品を適宜選定して用いることができる。例えば、液晶ポリマー粒子の場合、低誘電液晶性高分子として、上野製薬社製、UENO LCP(登録商標)、セラニーズジャパン社製、VECTRA/ZENITE(登録商標)、ポリプラスチックス社製、ラぺロス(登録商標)、東レ社製、シベラス(登録商標)、JXTGエネルギー社製、ザイダー(登録商標)などを好ましく使用できる。さらに、有機ポリマー粒子として2種以上の異なる有機ポリマー粒子を併用してもよい。
【0048】
<任意成分>
樹脂組成物には、必要に応じて任意成分として、上記有機ポリマー粒子以外の樹脂成分、難燃剤、架橋剤、無機フィラー、可塑剤、カップリング剤、顔料などを適宜配合することができる。
【0049】
<粘度>
樹脂組成物の粘度は、樹脂組成物を塗工する際のハンドリング性を高め、均一な厚みの塗膜を形成しやすい粘度範囲として、例えば3000cps〜100000cpsの範囲内とすることが好ましく、5000cps〜50000cpsの範囲内とすることがより好ましい。上記の粘度範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0050】
<樹脂組成物の調製>
樹脂組成物は、例えば、溶剤を用いて可溶性樹脂の溶液を作成し、そこに有機ポリマー粒子を添加して均一に混合することによって調製できる。一回で有機ポリマー粒子を全量投入してもよいし、数回分けて少しずつ添加してもよい。また、あらかじめ有機ポリマー粒子を分散させた溶剤を用いて、可溶性樹脂の溶液を調製してもよい。
【0051】
[工程2(樹脂フィルムを得る工程)]
工程2では、工程1で得られた樹脂組成物を熱処理し、可溶性樹脂の固化物中に有機ポリマー粒子を含有する樹脂フィルムを得る。なお、「固化物」には、硬化物も含まれる。
本工程2で樹脂組成物を熱処理して樹脂フィルムを得る方法は、特に限定されるものではなく公知の手法を採用することができる。ここでは、樹脂組成物中の可溶性樹脂がポリアミド酸である場合を例に挙げて説明する。
【0052】
まず、樹脂組成物を任意の支持基材上に直接流延塗布して塗布膜を形成する。次に、塗布膜を150℃以下の温度である程度溶剤を乾燥除去する。その後、塗布膜に対し、ポリアミド酸のイミド化のために、例えば100〜400℃、好ましくは130〜380℃の温度範囲で5〜30分間程度の熱処理を行う。このようにして支持基材上にポリイミドの樹脂フィルムを形成することができる。
樹脂フィルムを2層以上のポリイミド層によって形成する場合、第一のポリアミド酸の樹脂組成物を塗布、乾燥したのち、第二のポリアミド酸の樹脂組成物を塗布、乾燥する。それ以降は、同様にして第三のポリアミド酸の樹脂組成物、次に、第四のポリアミド酸の樹脂組成物、・・・というように、ポリアミド酸の樹脂組成物を、必要な回数だけ、順次塗布し、乾燥する。その後、まとめて熱処理を行って、イミド化を行うことがよい。イミド化のための熱処理温度が100℃より低いとポリイミドの脱水閉環反応が十分に進行せず、反対に400℃を超えると、ポリイミド層が劣化するおそれがある。
また、イミド化した任意のポリイミド層に適切な表面処理等を行うことで、さらに重ねて樹脂組成物の塗布、乾燥及びイミド化の工程を経て、新たに層を重ねることができる。その場合、途中工程のイミド化は完結させる必要はなく、最終工程にてまとめてイミド化を完結させることができる。
また、イミド化した任意のポリイミド層は、別に形成した樹脂フィルムと加熱圧着することができる。
なお、樹脂フィルムは支持基材付きの状態でも良い。
【0053】
また、ポリイミドの樹脂フィルムを形成する別の例を挙げる。
まず、任意の支持基材上に、樹脂組成物を流延塗布してフィルム状成型する。このフィルム状成型物を、支持基材上で加熱乾燥することにより自己支持性を有するゲルフィルムとする。ゲルフィルムを支持基材より剥離した後、例えば100〜400℃、好ましくは130〜380℃の温度範囲で5〜30分間程度熱処理し、ポリアミド酸をイミド化させてポリイミドの樹脂フィルムとする。
【0054】
工程2における熱処理は、下記の条件(a)及び(b)を満たすように実施する。
【0055】
<条件(a)>
有機ポリマー粒子の融点をTx[単位;℃]とし、熱処理の最高到達温度をTmax[単位;℃]とした場合、下記式(1)の関係にあること。
Tx≦Tmax ・・・(1)
条件(a)を満たす場合、有機ポリマー粒子の融点以上に加熱することで、有機ポリマー粒子が溶融流動し、樹脂フィルムのマトリクス樹脂の空隙を埋めることができる。ここで、Txは、溶剤の沸点以上であることが好ましく、240℃以上であることがより好ましい。Txが溶剤の沸点以上であることによって、溶剤を効率的に系外に排出できる。換言すれば、溶剤は、沸点がTx以下であるものを用いることが好ましい。
【0056】
条件(a)を満たす有機ポリマー粒子と可溶性樹脂の好ましい組み合わせとして、例えば、有機ポリマー粒子が液晶ポリマー粒子であり、可溶性樹脂がポリアミド酸である場合、液晶ポリマー粒子の融点TxはI型が280℃超、II型が220℃以上であり、ポリアミド酸をイミド化するための熱処理の最高到達温度Tmaxはおよそ380〜400℃程度である。
【0057】
<条件(b)>
熱処理におけるTmaxまでの昇温過程で温度がTx−40℃のときに樹脂組成物に含まれる揮発成分の含有量が、樹脂組成物の不揮発成分の含有量に対して0.5重量%以下であること。
条件(b)を満たすことによって、熱処理の昇温速度や時間に拘わらず、Tmaxまでの昇温過程で、温度がTxに到達するまでに溶剤の残存量を十分に低減しておくことができる。その結果、残溶剤によって生じる複数の有機ポリマー粒子の流動による凝集及び融着を抑制できる。また、マトリクス樹脂と有機ポリマー粒子との間の空隙の生成を抑えることができる。なお、条件(b)を満たす限りにおいて、熱処理における昇温速度や時間は任意に調節できる。
【0058】
[樹脂フィルム]
本実施の形態の樹脂フィルムは、上記方法によって製造されたものである。可溶性樹脂がポリアミド酸である場合、樹脂フィルムのマトリクス樹脂はイミド化されたポリイミドであり、その中に有機ポリマー粒子が分散された状態となっている。
【0059】
<配合量>
樹脂フィルムの不揮発性成分に対するに対する有機ポリマー粒子の占める割合は、使用目的に応じて適宜設定できるが、例えば5〜99体積%の範囲内であることが好ましく、20〜80体積%の範囲内がより好ましい。有機ポリマー粒子の体積比率が5体積%未満では、配合の効果(例えば、液晶ポリマー粒子であれば誘電特性の改善効果)が不十分となる場合があり、99体積%を超えると樹脂フィルムの形成が困難になったり、樹脂フィルムが脆弱化したりする場合がある。なお、樹脂フィルムにおける有機ポリマー粒子の体積比率は、三次元透過型電子顕微鏡(TEM)によるイメージング像から算出することもできるし、強アルカリ溶解による分解分析や熱分解分析法によって得られる重量比から換算して求めることもできる、また、X線回折による相体積比率計測、断面SEM画像の面積比を有機ポリマー粒子の真球度で換算することで求めることができる。
【0060】
<厚み>
樹脂フィルムの厚みは、使用目的に応じて適宜設定できるが、例えば2〜150μmの範囲内が好ましく、10〜120μmの範囲内であることがより好ましい。樹脂フィルムの厚みが2μmに満たないと、樹脂フィルムの製造等における搬送時にシワが入るなどの不具合が生じるおそれがあり、一方、樹脂フィルムの厚みが150μmを超えると樹脂フィルムの生産性低下の虞がある。
【0061】
樹脂フィルムは、フィルム(シート)状であればよく、任意の基材、例えば銅箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどに積層された状態であってもよい。
【0062】
[金属張積層板]
本実施の形態の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を備えた金属張積層板であり、絶縁樹脂層の少なくとも1層が上記方法によって製造された樹脂フィルムからなる。金属張積層板は、絶縁樹脂層の片面側のみに金属層を有する片面金属張積層板であってもよいし、絶縁樹脂層の両面に金属層を有する両面金属張積層板であってもよい。
【0063】
<絶縁樹脂層>
絶縁樹脂層は単層又は複数層から構成され、上記樹脂フィルムからなる層を含んでいる。例えば、上記樹脂フィルムが、機械特性や熱物性を担保するための絶縁樹脂層の主たる層としての非熱可塑性ポリイミド層を形成していてもよい。また、上記樹脂フィルムが、銅箔などの金属層との接着強度を担う接着剤層としての熱可塑性ポリイミド層を形成していてもよい。なお、「主たる層」とは、絶縁樹脂層の総厚みの50%以上を占める層を意味する。
【0064】
樹脂フィルムを絶縁樹脂層とする金属張積層板を製造する方法としては、例えば、樹脂フィルムに直接、又は任意の接着剤を介して金属箔を加熱圧着する方法や、金属蒸着等の手法によって樹脂フィルムに金属層を形成する方法などを挙げることができる。なお、両面金属張積層板は、例えば、片面金属張積層板を形成した後、互いにポリイミド層を向き合わせて熱プレスによって圧着し形成する方法や、片面金属張積層板のポリイミド層に金属箔を圧着し形成する方法等により得ることができる。
【0065】
<金属層>
金属層の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。金属層は、金属箔からなるものであってもよいし、フィルムに金属蒸着したもの、ペースト等を印刷したものであってもよい。また、金属箔でも金属板でも使用可能であり、銅箔若しくは銅板が好ましい。
【0066】
金属層の厚みは、金属張積層板の使用目的に応じて適宜設定されるため特に限定されないが、例えば5μm〜3mmの範囲内が好ましく、12μm〜1mmの範囲内がより好ましい。金属層の厚みが5μmに満たないと、金属張積層板の製造等における搬送時にシワが入るなどの不具合が生じるおそれがある。反対に金属層の厚みが3mmを超えると硬くて加工性が悪くなる。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0068】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV−II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%〜90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから1分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0069】
[残揮発成分量の測定]
各実施例及び比較例に示す残揮発成分量は熱重量示差熱分析装置(TG−DTA、SII社製、商品名;EXSTAR6000)を用い、30〜400℃までの温度範囲を10℃/minで昇温した時の重量減少曲線から、140℃から360℃までの重量減少量を求め、樹脂フィルム中の不揮発性成分量と比較して残揮発性分量とした。
【0070】
[融点の測定]
示差走査熱量分析装置(DSC、SII社製、商品名;DSC−6200))を用いて、不活性ガス雰囲気中、室温から450℃まで1.5℃/minで昇温し、測定を行った。
【0071】
[粒径の測定方法]
レーザ回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製、商品名;Master Sizer 3000)を用いて、レーザ回折・散乱式測定方式による粒子径の測定を行った。
【0072】
[真比重の測定]
連続自動粉体真密度測定装置(セイシン企業社製、商品名;AUTO TRUE DENSERMAT‐7000)を用いて、ピクノメーター法(液相置換法)による真比重の測定を行った。
【0073】
[外観評価]
目視で確認し、A4サイズの面内に0.2mm以上の斑点模様もしくは突起が10個未満を「良」、20個未満を「可」、20個以上を「不可」とした。
【0074】
[比誘電率及び誘電正接の測定]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C)およびSPDR共振器を用いて、周波数10GHzにおける樹脂フィルム(硬化後の樹脂フィルム)の比誘電率(ε1)および誘電正接(Tanδ1)を測定した。なお、測定に使用した樹脂フィルムは、温度;24〜26℃、湿度;45〜55%の条件下で、24時間放置したものである。
【0075】
[断面観察]
1)測定用サンプルの作製
銅張積層板(TD;10mm×MD;10mm)の、サンプルの観察面(厚み方向の断面)がMD方向になるように、エポキシ系樹脂でサンプルを包埋後、回転板型研磨機を用いて、複数のエメリー紙(♯1200まで)及びバフ研磨(ダイヤモンド粒子ペーストの1μmまで)並びに薬液による化学研磨を行い、測定用サンプルを作製した。
2)測定用サンプルの観察
測定用サンプルの観察面を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、3,000倍の倍率で観察した。
【0076】
合成例及び比較例、実施例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BAPP:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
m‐TB:2,2’‐ジメチル‐4,4’‐ジアミノビフェニル
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
フィラー1:液晶ポリマー粒子、不定形粉末状、融点(Tx):320℃、真比重;1.4、メジアン径d
50;10μm、d
95:45μm、d
100:50μm
フィラー2:液晶ポリマー粒子、不定形粉末状、融点(Tx):320℃、真比重;1.4、メジアン径d
50:5μm、d
95:23μm、d
100:25μm
【0077】
(合成例1)
300mlのセパラブルフラスコに、13gのm−TB(63mmol)、6.4gのBAPP(17mmol)及び230gのDMAcを投入し、室温、窒素気流下で撹拌した。完全に溶解した後、4.3gのPMDA(20mmol)及び20gのBPDA(50mmol)を添加し、室温で18時間撹拌してポリアミド酸溶液1(粘度;24,000cps)を得た。
【0078】
(合成例2)
300mlのセパラブルフラスコに、24gのBAPP(60mmol)及び230gのDMAcを投入し、室温、窒素気流下で撹拌した。完全に溶解した後、6.5gのPMDA(30mmol)及び8.7gのBPDA(30mmol)を添加し、室温で18時間撹拌してポリアミド酸溶液2(粘度;21,000cps)を得た。
【0079】
[実施例1]
140gのポリアミド酸溶液1及び19gのフィラー1を混合し、目視にて一様な溶液となるまで攪拌し、樹脂溶液1(粘度;34,000cps、不揮発性成分に対するフィラー1の含有率;50体積%)を調製した。
【0080】
銅箔(電解銅箔、厚み;12μm)の上に樹脂溶液1を塗布し、130℃で3分間乾燥させて樹脂層を形成した。その後155℃から280℃まで16分間かけて、段階的に熱処理を行い、さらに連続して280℃から380℃(Tmax)まで4分間、熱処理を行ってイミド化を完結し、銅張積層板1を調製した。銅張積層板1における樹脂層の表面の外観は良であった。樹脂層表面の外観の写真を
図1に示す。また、銅張積層板1における樹脂層の断面観察の写真を
図2に示す。
なお、上記熱処理過程における樹脂層の280℃時点での残揮発成分量は0.15重量%であり、熱処理完了後の残揮発成分量は0.07重量%であった。
銅張積層板1の銅箔をエッチング除去し、樹脂フィルム1(厚み;45μm)を調製した。樹脂フィルム1の比誘電率は3.32、誘電正接は0.0024であった。
【0081】
[実施例2]
280℃から380℃までの熱処理時間を6分とした以外は、実施例1と同様にして、銅張積層板2を調製した。銅張積層板2における樹脂層の表面の外観は良であった。
なお、上記熱処理過程における樹脂層の280℃時点での残揮発成分量は0.15重量%であり、熱処理完了後の残揮発成分量は0.06重量%であった。
銅張積層板2の銅箔をエッチング除去し、樹脂フィルム2を調製した。
【0082】
[実施例3]
155℃から280℃までの熱処理時間を14分とした以外は、実施例1と同様にして、銅張積層板3を調製した。銅張積層板3における樹脂層の表面の外観は可であった。
なお、280℃時点での残揮発成分量は0.23重量%であり、熱処理完了後の残揮発成分量は0.06重量%であった。銅張積層板3の銅箔をエッチング除去し、樹脂フィルム3を調製した。
【0083】
[実施例4]
140gのポリアミド酸溶液1及び2.2gのフィラー2を混合し、目視にて一様な溶液となるまで攪拌し、樹脂溶液4(粘度;28,000cps、不揮発性成分に対するフィラー2の含有率;10体積%)を調製した。
実施例1と同様にして、銅張積層板4を調製した。銅張積層板4における樹脂層の表面の外観は良であった。
なお、上記熱処理過程における樹脂層の280℃時点での残揮発成分量は0.35重量%であり、熱処理完了後の残揮発成分量は0.06重量%であった。銅張積層板4の銅箔をエッチング除去し、樹脂フィルム4を調製した。
【0084】
[実施例5]
140gのポリアミド酸溶液1、175gのフィラー1及び20gのDMAcを混合し、目視にて一様な溶液となるまで攪拌し、樹脂溶液5(粘度;50,000cps、不揮発性成分に対するフィラー1の含有率;90体積%)を調製した。
実施例1と同様にして、銅張積層板5を調製した。銅張積層板5における樹脂層の表面の外観は良であった。
なお、上記熱処理過程における樹脂層の280℃時点での残揮発成分量は0.10重量%であり、熱処理完了後の残揮発成分量は0.03重量%であった。銅張積層板5の銅箔をエッチング除去し、樹脂フィルム5を調製した。
【0085】
[実施例6]
20gのポリアミド酸溶液1、136gのフィラー2及び30gのDMAcを混合し、目視にて一様な溶液となるまで攪拌し、樹脂溶液6(粘度;55,000cps、不揮発性成分に対するフィラー2の含有率;98体積%)を調製した。
実施例1と同様にして、銅張積層板6を調製した。銅張積層板6における樹脂層の表面の外観は良であった。
なお、上記熱処理過程における樹脂層の280℃時点での残揮発成分量は0.08重量%であり、熱処理完了後の残揮発成分量は0.02重量%であった。
実施例1と同様に、樹脂フィルム6(厚み;70μm)を調製した。樹脂フィルム6の比誘電率は3.19、誘電正接は0.0009であった。
【0086】
[実施例7]
40gのポリアミド酸溶液2及び14gのフィラー2を混合し、目視にて一様な溶液となるまで攪拌し、樹脂溶液7(粘度;43,000cps、不揮発性成分に対するフィラー2の含有率;70体積%)を調製した。
実施例1と同様にして、銅張積層板7を調製した。銅張積層板7における樹脂層の表面の外観は可であった。
なお、上記熱処理過程における樹脂層の280℃時点での残揮発成分量は0.24重量%であり、熱処理完了後の残揮発成分量は0.03重量%であった。
実施例1と同様に、樹脂フィルム7を調製した。樹脂フィルム7の比誘電率は3.04、誘電正接は0.0024であった。
【0087】
(比較例1)
155℃から280℃までの熱処理時間を13分とした以外は実施例1と同様にして、銅張積層板8を調製した。銅張積層板8における樹脂層の表面の外観は不可であった。樹脂層表面の外観の写真を
図3に示す。
なお、上記熱処理過程における樹脂層の280℃時点での残揮発成分量は0.71重量%であり、熱処理完了後の残揮発成分量は0.06重量%であった。
銅張積層板8の銅箔をエッチング除去し、樹脂フィルム8を調製した。
【0088】
(比較例2)
155℃から280℃までの熱処理時間を12分とした以外は実施例1と同様にして、銅張積層板9を調製した。銅張積層板9における樹脂層の表面の外観は不可であった。
なお、上記熱処理過程における樹脂層の280℃時点での残揮発成分量は1.11重量%であり、熱処理完了後の残揮発成分量は0.07重量%であった。
銅張積層板9の銅箔をエッチング除去し、樹脂フィルム9を調製した。
【0089】
(比較例3)
実施例4における樹脂溶液4を使用し、155℃から280℃までの熱処理時間を12分とした以外は実施例1と同様にして、銅張積層板10を調製した。銅張積層板10における樹脂層の表面の外観は不可であった。
なお、上記熱処理過程における樹脂層の280℃時点での残揮発成分量は0.57重量%であり、熱処理完了後の残揮発成分量は0.07重量%であった。
銅張積層板10の銅箔をエッチング除去し、樹脂フィルム10を調製した。
【0090】
(比較例4)
実施例7における樹脂溶液7を使用し、155℃から280℃までの熱処理時間を12分とした以外は実施例1と同様にして、銅張積層板11を調製した。銅張積層板11における樹脂層の表面の外観は不可であった。
なお、上記熱処理過程における樹脂層の280℃時点での残揮発成分量は0.65重量%であり、熱処理完了後の残揮発成分量は0.05重量%であった。
銅張積層板11の銅箔をエッチング除去し、樹脂フィルム11を調製した。
【0091】
(参考例1)
155℃から280℃までの熱処理を13分間とし、最高到達温度を300℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、銅張積層板12を調製した。銅張積層板12における樹脂層の表面の外観は良であったが、280℃時点での残揮発成分量は0.70重量%であり、熱処理完了後の残揮発成分量は0.60重量%であった。
銅張積層板12の銅箔をエッチング除去し、樹脂フィルム12(厚み;70μm)を調製した。樹脂フィルム12の比誘電率は3.28、誘電正接は0.0029であった。
【0092】
以上の結果をまとめて表1及び2に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
実施例1〜7の結果から、熱処理においてフィラーの融点よりも低い温度(Tx−40℃)での絶縁層の残揮発成分量を0.5重量%以下に制御することで、外観不良が生じないことがわかる。また、参考例1では、熱処理過程における絶縁層の残揮発成分量を制御していないので、熱処理完了後の絶縁層中の揮発成分の残存量が高いことがわかる。
【0096】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。