【解決手段】基板に形成された光導波路と、当該光導波路を伝搬する光波を制御する電極であって、当該光導波路の上を交差する交差部を有する電極と、を有する光導波路素子において、上記基板のうち上記交差部を含む部分には、上記光導波路と電極との間に樹脂層が部分的に設けられており、樹脂層は、電極の延在方向に沿った断面において、その電極の側の隅が曲線で構成されている。
前記樹脂層は、前記断面において、前記隅を構成する曲線の開始点から端部までの、前記電極の延在方向に測った距離が、前記基板の面から測った当該樹脂層の高さよりも大きい、
請求項1に記載の光導波路素子。
【背景技術】
【0002】
高速/大容量光ファイバ通信システムにおいては、基板上に形成された光導波路で構成される光導波路素子である光変調素子を組み込んだ光変調器が多く用いられている。中でも、電気光学効果を有するLiNbO
3(以下、LNともいう)を基板に用いた光変調素子は、光の損失が少なく且つ広帯域な光変調特性を実現し得ることから、高速/大容量光ファイバ通信システムに広く用いられている。このようなLN基板を用いた光変調素子では、例えば、マッハツェンダ型光導波路と、当該光導波路に変調信号である高周波電気信号を印加するための信号電極が設けられる。
【0003】
特に、光ファイバ通信システムにおける変調方式は、近年の伝送容量の増大化の流れを受け、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)やDP−QPSK(Dual Polarization − Quadrature Phase Shift Keying)等、多値変調や、多値変調に偏波多重を取り入れた伝送フォーマットが主流となっており、基幹光伝送ネットワークにおいて用いられるほか、メトロネットワークにも導入されつつある。
【0004】
QPSK変調を行う光変調器(QPSK光変調器)やDP−QPSK変調を行う光変調器(DP−QPSK光変調器)は、所謂ネスト型と呼ばれる入れ子構造になった複数のマッハツェンダ型光導波路を備え、そのそれぞれが少なくとも一つの信号電極を備える。また、このようなマッハツェンダ型光導波路を用いた光変調器では、一般的には、いわゆるDCドリフトによるバイアス点の変動を補償するためのバイアス電極も形成される。
【0005】
これらの信号電極やバイアス電極(以下、総称して単に電極ともいう)は、基板外部の電気回路との接続のため、LN基板の外周近傍まで延在するように形成される。このため、基板上には、複数の光導波路と複数の電極とが複雑に交差し、光導波路の上を電極が横断する複数の交差部が形成される。
【0006】
上記交差部において光導波路と電極とが直接接するように形成されると、これらの交差部では、光導波路を伝搬する光が電極を構成する金属に吸収されることにより光損失(光吸収損失)が発生する。この光損失は、例えば、マッハツェンダ型光導波路を構成する2つの並行導波路間での光損失差を生み、変調された光の消光比を劣化させ得る。消光比に対する要求条件は、光変調器に求められる変調速度が高いほど厳しいため、このような消光比の劣化は、伝送容量の増大化に伴う変調速度の高速化に伴って増々顕在化することが予想される。
【0007】
また、上記のような交差部は、マッハツェンダ型光導波路を用いる光変調器だけでなく、方向性結合器やY分岐を構成する光導波路を用いた光変調器及び又は光スイッチ等の光導波路素子において、広く一般に形成され得るものである。そして、基板上における交差部の数は、光導波路素子の更なる小型化や、多チャンネル化、及び又は高集積化に伴って光導波路パターン及び電極パターンが複雑化すれば増々増加し、無視し得ない損失要因となって当該光導波路素子の性能を制限することとなり得る。
【0008】
このような、光導波路上に形成された電極金属による光吸収損失を低減する技術として、従来、光導波路を形成した基板の表面にSiO
2から成るバッファ層を設け、当該バッファ層の上部に電極金属を形成することが知られている(例えば、特許文献1)。
【0009】
しかしながら、SiO
2は、LN基板に比べて剛性が高いため、LN基板上にSiO
2層を形成した場合には、SiO
2層自身から基板へ応力がかかるのみならず、その上部に形成された電極金属からもSiO
2層を介して基板に応力が付与されることとなる。そして、このような応力は、LN基板の光弾性効果を介して光導波路素子の光学特性や電気特性にも悪影響を及ぼし得る。
【0010】
特に、基板中における信号電界と導波光との相互作用をより強めるべく(すなわち、電界効率を高めるべく)LN基板が薄く(例えば、厚さ20μm以下で)形成されるような光導波路素子では、SiO
2層及びその上部の電極金属から基板に付与される応力は、光学特性及び又は電気的特性に無視し得ない影響を与え得ると共に、SiO
2層とLN基板との線膨張係数差による局所的な歪の発生にも起因して、SiO
2層自身やその上部の電極にひび割れや断線等の損傷を、製造時に及び又は経時的に誘発する要因ともなり得る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述した従来技術の構成におけるSiO
2層から基板にかかる応力を低減する策として、基板の全面にSiO
2層を設けるのではなく、光導波路と電極とが交差する基板部分にのみSiO
2層を形成し、当該SiO
2層の上部に電極を形成する構成が考えられる。
【0017】
しかしながら、
図12に示すように、交差部2140において基板2130上に部分的にSiO
2層2138を形成した場合には、当該SiO
2層2138の段差部分での急峻な形状の変化や、SiO
2層2138と基板2130との間の線膨張係数差に起因する局所的な歪によって、電極2136には、SiO
2層2138の角部近傍において断線2150、2152が生じ得る。
【0018】
なお、
図12において、光導波路2134は、図示右上に示す座標軸のY方向に延在している。また、金属層で構成される電極(又は信号線路)2136は、Z方向に延在して、光導波路2134の上を交差し、交差部2140を形成している。
【0019】
また、電極がより厚く構成される場合には、
図13に示すように、交差部2240において、電極2236からの応力(金属層である電極2236の形成時に当該金属層の内部またはSiO
2層2138との界面に蓄積される応力等)によって、及び又はSiO
2層2138と基板2130との間の線膨張係数差に起因する局所的な歪によって、SiO
2層2138の角部にひび割れ2254、2256が生じ得る。
【0020】
なお、
図13において、光導波路2134は、図示右上に示す座標軸のY方向に延在している。また、金属層で構成される電極2236は、Z方向に延在して、光導波路2134の上を交差し、交差部2240を形成している。
【0021】
なお、
図12および
図13において、基板2130は、20μm以下(例えば10μm)の厚さに薄板化されたLN基板であり、接着層2142を介して支持基板2144上に固定されている。支持基板2144は、例えばガラス基板、LN基板、Si基板等である。
【0022】
以下に示す実施形態のようにマッハツェンダ型光導波路を用いた光変調素子では、一般に、バイアス電極等の低周波信号を伝搬する電極は、0.3から5μm程度の厚さで形成され、
図12のような電極金属層の破断の発生が懸念される。また、変調信号を伝搬する高周波信号電極は、一般に、20から40μm程度の厚さで形成され、
図13のようなSiO
2層のひび割れを生じさせることが懸念される。
【0023】
本発明に係る光導波路素子は、このような、光導波路と当該光導波路の上を交差する電極との交差部における断線やひび割れの発生を防止して、当該光導波路素子の光学特性の劣化および長期信頼性の低下を招くことなく、当該交差部での電極金属による導波光の光吸収損失を効果的に低減する。
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光導波路素子である光変調素子を用いた光変調器100の構成を示す図である。光変調器100は、筺体102と、当該筺体102内に収容された光変調素子104と、中継基板106と、を有する。光変調素子104は、例えば、DP−QPSK変調器である。筺体102は、最終的にはその開口部に板体であるカバー(不図示)が固定されて、その内部が気密封止される。
【0025】
光変調器100は、また、光変調素子104の変調に用いる高周波電気信号を入力するための信号ピン110a、110b、110c、110dと、これらの信号ピン110a、110b、110c、110dを筺体102内に導入するためのフィードスルー部108と、を有する。
【0026】
さらに、光変調器100は、筺体102内に光を入力するための入力光ファイバ114と、光変調素子104により変調された光を筺体102の外部へ導く出力光ファイバ120と、を筺体102の同一面に有する。
【0027】
ここで、入力光ファイバ114及び出力光ファイバ120は、固定部材であるサポート122及び124を介して筺体102にそれぞれ固定されている。入力光ファイバ114から入力された光は、サポート122内に配されたレンズ130によりコリメートされた後、レンズ134を介して光変調素子104へ入力される。ただし、これは一例であって、光変調素子104への光の入力は、従来技術に従い、例えば、入力光ファイバ114を、サポート122を介して筺体102内に導入し、当該導入した入力光ファイバ114の端面を光変調素子104の基板230の端面に接続することで行うものとすることもできる。
【0028】
光変調器100は、また、光変調素子104から出力される2つの変調された光を偏波合成する光学ユニット116を有する。光学ユニット116から出力される偏波合成後の光は、サポート124内に配されたレンズ118により集光されて出力光ファイバ120へ結合される。
【0029】
中継基板106は、当該中継基板106に形成された導体パターン(不図示)により、信号ピン110a、110b、110c、110dから入力される高周波電気信号を光変調素子104へ中継する。中継基板106上の上記導体パターンは、例えばワイヤボンディング等により、光変調素子104の信号電極の一端を構成するパッド(後述)にそれぞれ接続される。また、光変調器100は、所定のインピーダンスを有する2つの終端器112aおよび112bを筺体102内に備える。
【0030】
図2は、
図1に示す光変調器100の筺体102内に収容される光導波路素子である光変調素子104の、構成の一例を示す図である。光変調素子104は、例えばLNで構成される基板230上に形成された光導波路(図示太線の点線)で構成され、例えば200GのDP−QPSK変調を行う。これらの光導波路は、基板230の表面にTiを熱拡散することにより形成されるものとすることができる。
【0031】
基板230は、例えば矩形であり、図示上下方向に延在して対向する図示左右の2つの辺280a、280b、および図示左右方向に延在して対向する図示上下の辺280c、280dを有する。なお、
図2においては、図示左上部に示す座標軸に示すとおり、
図2の紙面の奥へ(オモテ面からウラ面へ)向かう法線方向をX方向、図示右方向をY方向、図示下方向をZ方向とする。
【0032】
光変調素子104は、基板230の図示左方の辺280bの図示下側において入力光ファイバ114からの入力光(図示右方を向く矢印)を受ける入力導波路232と、入力された光を同じ光量を有する2つの光に分岐する分岐導波路234と、を含む。また、光変調素子104は、分岐導波路234により分岐されたそれぞれの光を変調する2つの変調部である、いわゆるネスト型マッハツェンダ型光導波路240a、240b(それぞれ、図示一点鎖線で囲まれた部分)を含む。
【0033】
ネスト型マッハツェンダ型光導波路240a、240bは、それぞれ、一対の並行導波路を成す2つの導波路部分に設けられたそれぞれ2つのマッハツェンダ型光導波路244a(図示破線内部分)、246a(図示二点鎖線内部分)、および244b(図示破線内部分)、246b(図示二点鎖線内部分)を含む。これにより、ネスト型マッハツェンダ型光導波路240a、240bは、分岐導波路234により2つに分岐された入力光のそれぞれをQPSK変調した後、変調後の光(出力)をそれぞれの出力導波路248a、248bから図示左方へ出力する。
【0034】
これら2つの出力光は、その後、基板230外に配された光学ユニット116により偏波合成されて一つの光ビームにまとめられる。以下、光変調素子104の基板230上に形成された入力導波路232、分岐導波路234、並びにネスト型マッハツェンダ型光導波路240a、240b及びこれらに含まれるマッハツェンダ型光導波路244a、246a、244b、246b等々の光導波路を、総称して光導波路232等ともいうものとする。
【0035】
基板230上には、ネスト型マッハツェンダ型光導波路240a、240bを構成する合計4つのマッハツェンダ型光導波路244a、246a、244b、246bのそれぞれに変調動作を行わせるための信号電極250a、252a、250b、252bが設けられている。信号電極250a、252aは、図示左方が屈曲して、基板230の図示上方の辺280cまで延在し、パッド254a、256aに接続されている。また、信号電極250a、252aの図示右方は、基板230の図示右方の辺280aまで延在し、パッド258a、260aに接続されている。
【0036】
同様に、信号電極250b、252bの図示左方は、基板230の図示下方の辺280dまで延在して、パッド254b、256bに接続され、信号電極250b、252bの図示右方は、基板230の図示右方の辺280aまで延在し、パッド258b、260bに接続されている。パッド258a、260a、258b、260bは、ワイヤボンディング等により、上述した中継基板106と接続される。
【0037】
なお、信号電極250a、252b、250b、252bは、従来技術に従い、基板230上に形成されたグランド導体パターン(不図示)と共に、例えば、所定のインピーダンスを有するコプレーナ伝送線路を構成している。グランド導体パターンは、例えば、光導波路232等の上には形成されないように設けられ、グランド導体パターンのうち光導波路232等により分割されて形成される複数の領域間は、例えばワイヤボンディング等により互いに接続されるものとすることができる。
【0038】
パッド254a、256aおよび254b、256bは、上述した終端器112aおよび112bに接続される。これにより、パッド258a、260a、258b、260bに接続された中継基板106から入力される高周波電気信号は、進行波となって信号電極250a、252a、250b、252bを伝搬し、マッハツェンダ型光導波路244a、246a、244b、246bを伝搬する光波をそれぞれ変調する。
【0039】
ここで、信号電極250a、252a、250b、252bが基板230内に形成する電界と、マッハツェンダ型光導波路244a、246a、244b、246bを伝搬する導波光と、の相互作用をより強めて高速変調動作をより低電圧で行い得るように、基板230は、20μm以下の厚さ、好適には10μm以下の厚さに形成される。なお、基板230は、その裏面(
図2に示す面に対向する面)が、接着層を介してガラス等の支持基板に接着されている(
図2では不図示。後述する
図4等において、接着層590および支持基板592として記載されている)。
【0040】
光変調素子104には、また、いわゆるDCドリフトによるバイアス点の変動を補償するためのバイアス電極262a、264a、および262b、264bが設けられている。バイアス電極262a、262bは、それぞれ2組の電極ペアで構成されており、それぞれ、マッハツェンダ型光導波路244a、246aおよび244b、246bのバイアス点変動の補償に用いられる。また、バイアス電極264aおよび264bは、それぞれ、ネスト型マッハツェンダ型光導波路240aおよび240bのバイアス点変動の補償に用いられる。
【0041】
これらのバイアス電極262a、264a、および262b、264bも、それぞれ、基板230の辺280cおよび280dまで延在し、当該辺280cおよび280dの近傍部分において、例えば筺体102の側面に設けられたリードピン(不図示)を介して、筺体外部のバイアス制御回路と接続される。これにより、当該バイアス制御回路によりバイアス電極262a、264a、262b、264bが駆動されて、対応する各マッハツェンダ型光導波路のバイアス点変動が補償される。以下、信号電極250a、252a、250b、252bおよびバイアス電極262a、264a、262b、264bを、総称して電極250a等という。
【0042】
バイアス電極262a、264a、および262b、264bは、直流ないし低周波の電気信号が印加される電極であり、例えば、0.3μm以上、5μm以下の範囲の厚さで形成される。これに対し、上述した信号電極250a、252b、250b、252bは、当該信号電極に印加される高周波電気信号の導体損失を低減するべく、例えば20μm以上、40μm以下の範囲で形成される。
【0043】
上記のように構成される光変調素子104は、電極250a等が光導波路232等の上を交差する(横断する)多くの交差部分を含んでいる。
図2の記載から容易に理解されるように、
図2において光導波路232等を示す図示太線点線と電極250a等を示す図示帯状部分とが交差する部分は、すべて、光導波路232等の上を電極250a等が交差する交差部分である。本実施形態では、光変調素子104は、全部で50箇所の交差部分を含んでいる。
【0044】
図3は、
図2に示す光変調素子104のA部の部分詳細図である。
以下、
図3に示された交差部分であるB部、C部、D部、E部、及びF部を例にとり、これら交差部分における構成について説明する。
【0045】
まず、交差部分の第1の構成例としての、
図3に示すB部の構成について説明する。
図4および
図5は、バイアス電極264bの一部であるバイアス電極264b−1が入力導波路232の上を交差するB部の構成を示す部分詳細図である。ここに、
図4は、B部の平面図、
図5は、
図4に示すB部のV−V断面矢視図である。
【0046】
なお、
図4、
図5に示す構成は、光変調素子104における光導波路232等と電極250a等とが交差する部分の構成の一例であって、B部以外の、光導波路232等と電極250a等とが交差する任意の部分にも同様に用いることができる。
【0047】
図4において、図示上下方向(Z方向)に延在するバイアス電極264b−1は、図示左右方向(Y方向)に延在する入力導波路232と交差して、交差部470(図示一点鎖線の矩形で囲まれた部分)を形成している。
【0048】
特に、
図5に示すように、本実施形態では、基板230のうち交差部470を含む基板部分には、入力導波路232とバイアス電極264b−1との間に樹脂層452が部分的に設けられている。そして、樹脂層452は、バイアス電極264b−1の延在方向に沿った断面(すなわち、例えば
図5に示す断面)において、バイアス電極264b−1の側の隅が曲線452−1、452−2で構成されている。すなわち、樹脂層452は、バイアス電極264b−1との境界線が、樹脂層452の端部と、曲線452−1、452−2でつながるように構成されている。
【0049】
ここで、樹脂層452は、例えば、電極250a等のパターンニング工程に用いられるフォトレジストであるものとすることができる。また、バイアス電極264b−1の側の角を構成する曲線452−1、452−2の部分は、例えば、上記フォトレジストの、パターンニング後の高温処理時の温度上昇率を通常の1℃/分より大きな速度(例えば、5℃/分)とすることにより形成され得る。あるいは、曲線452−1、452−2の部分は、例えば、樹脂層452を構成するフォトレジストをプラズマ処理(例えば、アッシング処理)することにより形成することができる。
【0050】
また、上述の如くバイアス電極264b−1は厚さ0.3μmから5μmの範囲であって比較的薄く形成されることから、樹脂層452は、従来技術におけるSiO
2層の厚さと同程度の、厚さ0.3μmから1μmの範囲で形成されている。
【0051】
なお、
図5において、基板230は、接着層590を介して支持基板592に固定されている。ここで、接着層590は、例えば熱硬化性樹脂等で構成され、支持基板592は、例えばガラス基板、LN基板、Si基板等で構成される。
【0052】
上記の構成を有する光変調素子104のB部では、交差部470において、入力導波路232とバイアス電極264b−1との間に、樹脂層452が設けられている。これにより、入力導波路232の導波光の、バイアス電極264b−1を構成する金属による吸収損失の発生が防止される。
【0053】
特に、樹脂層452を構成する例えばフォトレジストのような樹脂は、そのヤング率が、上述した従来技術において電極と光導波路との間に用いられるSiO
2のヤング率72GPaから74GPaに対し、一桁小さい1から2GPa程度であり、SiO
2に比べて剛性が低い。このため、光変調素子104のB部では、樹脂層452自身から基板230に加わる応力が、SiO
2層を用いる従来技術の構成に比べて低減されるとともに、バイアス電極264b−1から基板230へ伝わる応力も軽減される。また、樹脂層452自身が有する上記のような低剛性のため、樹脂層452と基板230との間の線膨張係数差に起因して当該樹脂層452の端部近傍に発生し得る局所的な歪の発生も抑制される。
【0054】
さらに、樹脂層452は、
図5に示すバイアス電極264b−1の延在方向に沿った断面において、バイアス電極264b−1の側の隅が曲線452−1、452−2で構成されているので、当該隅の周辺におけるバイアス電極264b−1の形状の連続性が高まる(すなわち、形状の急峻な変化が緩和される)。このため、樹脂層452の上記低剛性による歪の抑制とも相まって、バイアス電極264b−1の断線の発生が抑制される。また、上記歪の抑制に加えて、上記曲線452−1、452−2により、バイアス電極264b−1から樹脂層452の隅部への応力の集中が防止されるので、樹脂層452のひび割れの発生が抑制される。
【0055】
その結果、光変調素子104では、B部と同様の構成を電極250a等と光導波路232等との他の交差部にも用いることで、当該光変調素子104の光学特性の劣化および長期信頼性の低下を招くことなく、基板230上の光導波路232等と電極250a等との交差部に発生し得る電極250a等を構成する金属による導波光の光吸収損失を効果的に低減することができる。
【0056】
なお、樹脂層452の隅におけるひび割れの発生および当該隅の周辺におけるバイアス電極264b−1の断線の発生を抑制する観点からは、上記隅を構成する曲線452−1、452−2の開始点から樹脂層452の端部までの、バイアス電極264b−1の延在方向に測った距離L1、L2は、樹脂層452の厚さt1よりも大きいことが望ましい。すなわち、L1≧t1、L2≧t1であることが望ましい。
【0057】
次に、交差部分の第2の構成例としての、
図3に示すC部の構成について説明する。
図6は、入力導波路232と信号電極252bとが交差するC部の、VI−VI断面矢視図である。
【0058】
なお、
図6に示す構成は、光変調素子104における光導波路232等と電極250a等とが交差する部分の構成の一例であって、C部以外の、光導波路232等と電極250a等とが交差する任意の部分にも同様に用いることができる。
【0059】
図6において、図示左右方向(Z方向)に延在する信号電極252bは、紙面法線方向(Y方向)に延在する入力導波路232の上を交差(横断)して、交差部670(図示一点鎖線の矩形で囲まれた部分)を形成している。
【0060】
図6に示すC部の構成は、
図5に示すB部の構成と同様に、基板230のうち交差部670を含む基板部分には、信号電極252bと入力導波路232との間に樹脂層652が部分的に設けられている。
【0061】
一般に、電極250a等から基板230に伝わる応力は、電極250a等の厚さが厚くなるにしたがって増加するため、電極250a等と光導波路232等との間に設ける樹脂層の厚さt1は、電極250a等の厚さが厚い程、厚くすることが望ましい。信号電極252bは、上述したように、0.3から5μm程度の厚さで形成されるバイアス電極264b等に比べて一桁程度厚い20から40μm程度の厚さで形成される。このため、
図6に示す樹脂層652は、その厚さt1が、従来技術におけるSiO
2層の厚さより一桁程度大きな厚さ2μmから7.5μmの範囲で形成され、従来技術に比べ非常に分厚い層となっている。
【0062】
また、樹脂層652は、
図5に示す樹脂層452と同様に、信号電極252bの延在方向に沿った当該樹脂層652の断面(すなわち、例えば
図6に示す断面)において、信号電極252bの側の隅が曲線652−1、652−2で構成されている。すなわち、樹脂層652は、信号電極252bとの境界線が、樹脂層652の端部と、曲線652−1、652−2でつながるように構成されている。
【0063】
また、樹脂層652は、上述した望ましい形態として、曲線652−1、652−2の開始点から端部までの、信号電極252bの延在方向に測った距離L1、L2が、樹脂層552の厚さt1よりも大きく(すなわち、L1≧t1、L2≧t1となるように)形成されている。これにより、交差部670では、
図5に示す交差部470と同様に、信号電極252bの形状の連続性を高めて樹脂層652の隅部近傍における信号電極252bの断線の発生を抑制すると共に、信号電極252bから樹脂層652の隅部への応力の集中を抑制して当該隅部のひび割れの発生を防止することができる。
【0064】
また、光導波路232等の光伝搬特性の安定化の観点からは、樹脂層652から光導波路232等へ加わる応力は均一であることが望ましいことから、樹脂層652の上面(すなわち、信号電極252bと接触する面)のうち、入力導波路232の上部に当たる範囲(すなわち、図示の幅Wの範囲)は、平坦(すなわち、当該範囲における樹脂層652の厚さが一定)となるように形成されている。
【0065】
そして、特に、樹脂層652は、望ましい構成として、信号電極252bの延在方向に測った長さLzが、交差部670における入力導波路232の幅Wの3倍以上の値、すなわち、Lz≧3Wとなっている。これにより、交差部670では、樹脂層652と基板230との接触面積が大きくなるので、樹脂層652を介して信号電極252bから入力導波路232に伝わる応力が更に低減される。このため、例えばLNで構成される基板230における光弾性効果を介して上記応力により入力導波路232の実効屈折率が変化するのを抑制することができる。その結果、例えば10μmを超えるような分厚い信号電極252bを形成する場合にも、当該分厚い信号電極252bからの応力に起因する光変調素子104の光学特性の劣化ないし悪化を防止することができる。
【0066】
さらに、樹脂層652は、望ましい構成として、曲線652−1、652−2の開始点から端部までの、信号電極252bの延在方向に測った距離L1、L2が、樹脂層552の厚さt1よりも大きいだけでなく、交差部670における入力導波路232の幅Wよりも大きく(すなわち、L1≧W、L2≧Wとなるように)形成されている。
【0067】
これにより、信号電極252bからの応力が集中し易い樹脂層652の隅部は、入力導波路232から遠ざかることとなるので、樹脂層652を介して入力導波路232に加わる上記応力を更に軽減することができる。
【0068】
なお、樹脂層652は、例えば、架橋剤を含んだフォトレジストを用いて、例えば高温加熱による架橋反応を経て形成されるものとすることができる。架橋剤を含んだフォトレジストで形成される樹脂は、架橋反応と高温処理(例えば200℃)により変形の程度を通常の微細加工用のフォトレジストより大きくすることができるので、樹脂層652のように1μmを超える厚さで形成される樹脂層の隅部を広範囲に容易に曲線化することができる。架橋剤を含んだフォトレジストは、架橋反応に伴う収縮が避けられないため、サブミクロン精度が要求される微細加工には不向きであるものの、経時的な物性変化(変質)やガスの発生が少ないので、光導波路232等と比べて高精度な加工精度が要求されない樹脂層652においては、筺体102のような気密筐体内において長期に亘って使用する樹脂として好適である。
【0069】
樹脂層652が有する曲線652−1、652−2の部分は、上記高温処理のほか、樹脂層452と同様に、パターンニング後の高温処理時の温度上昇率を通常の1℃/分より大きな速度(例えば、5℃/分)とすることにより、及び又は樹脂層652を構成するフォトレジストをプラズマ処理(例えば、アッシング処理)することにより、形成することができる。
【0070】
なお、本実施形態では、信号電極250a、252b、250b、252bは、例えば20μm以上、40μm以下の範囲で形成されるものとしたが、これには限られない。
図13に示すようなSiO
2層の角部におけるひび割れ2254、2256は、その上部の電極の厚さが10μmより厚い場合に、その発生確率が徐々に高まり得る。したがって、電極250a等の厚さが少なくとも光導波路232等との交差部において10μmより厚い場合には、
図5又は後述する
図6ないし
図9に示す構成により、SiO
2層を用いる従来構成に比べて、光変調素子104の光学特性の劣化および長期信頼性の低下を効果的に防止しつつ、電極250a等による導波光の光吸収損失を低減することができる。
【0071】
次に、交差部分の第3の構成例としての、
図3に示すD部の構成について説明する。
図7は、入力導波路232と信号電極250bとが交差するD部の、VII−VII断面矢視図である。なお、
図7に示す構成は、光変調素子104における光導波路232等と電極250a等とが交差する部分の構成の一例であって、D部以外の、光導波路232等と電極250a等とが交差する任意の部分にも同様に用いることができる。
【0072】
図7において、図示左右方向(Z方向)に延在する信号電極250bは、紙面法線方向(Y方向)に延在する入力導波路232の上を交差(横断)して、交差部770(図示一点鎖線の矩形で囲まれた部分)を形成している。
【0073】
そして、基板230のうち交差部770を含む基板部分には、信号電極250bと入力導波路232との間に、複数の(例えば3つの)樹脂層752−1、752−2、752−3が部分的に設けられている。そして、樹脂層752−1、752−2、752−3のそれぞれは、信号電極250bの側の隅が曲線で構成されている。また、樹脂層752−1、752−2、752−3は、信号電極250bの延在方向に沿って、基板230の面から測った高さが階段状となるように、積層して設けられている。なお、上述したL1、L2、Lz等の望ましい条件は、樹脂層752−1、752−2、752−3のそれぞれについて適用され得る。
【0074】
図7に示す構成は、複数の樹脂層752−1、752−2、752−3が、信号電極250bの延在方向に沿って階段状に形成されているので、これら樹脂層の隅部が曲線で形成されることとあいまって、交差部770における信号電極250bの形状の連続性を更に高めて(すなわち、形状の変化の程度を更に緩和して)、交差部770における信号電極250bの断線の発生を更に抑制することができる。また、隅部が曲線で形成された樹脂層752−1、752−2、752−3が階段状に形成されるので、信号電極250bからの応力は樹脂層のそれぞれの隅部へ分散して加わることとなり、これら隅部におけるひび割れの発生が更に抑制される。
【0075】
また、複数の樹脂層を用いることから、樹脂層752−1、752−2、752−3の全体としての厚さを所望の厚さとしつつ、樹脂層752−1、752−2、752−3のそれぞれの層厚を一定の厚さ以下とすることができる。このため、例えば、それぞれの樹脂層を、サブミクロン加工精度を有する通常のフォトレジストにより構成して、樹脂層752−1、752−2、752−3の全体としての位置や形状を高精度に定めつつ、それら全体の厚さを、信号電極250bの厚さに応じた大きな値とすることができる。
【0076】
次に、交差部分の第4の構成例としての、
図3に示すE部の構成について説明する。本構成例では、2つの交差部にまたがって一つの樹脂層が設けられている。
図8は、マッハツェンダ型光導波路244bを構成する2本の並行導波路244b−1及び244b−2のそれぞれの上を信号電極252bが交差する2つの交差部870−1、870−2を含むE部の、VIII−VIII断面図である。
【0077】
なお、
図8に示す構成は、マッハツェンダ型光導波路を構成する並行導波路と電極との交差部のみならず、光導波路232等と電極250a等とが交差する任意の交差部分であって隣接する複数の交差部に、同様に適用することができる。
【0078】
図8において、図示左右方向(Z方向)に延在する信号電極252bは、紙面法線方向(Y方向)に延在する並行導波路244b−1および244b−2の上を交差(横断)して、それぞれ交差部870−1及び870−2を形成している。
【0079】
そして、信号電極252bと基板230との間に設けられた樹脂層852は、隣接する交差部870−1及び870−2にまたがって延在するよう形成されている。これにより、交差部870−1及び870−2において、信号電極252bと、並行導波路244b−1及び244b−2との間に、それぞれ樹脂層852が設けられる。
【0080】
また樹脂層852は、信号電極252bの延在方向に沿った断面(すなわち、例えば
図8に示す断面)において、信号電極252bの側の隅が曲線852−1、852−2で構成されている。すなわち、樹脂層852は、信号電極252bとの境界線が、当該樹脂層852の端部と、曲線852−1、852−2でつながるように構成されている。
【0081】
上記の構成によれば、一つの樹脂層852が複数の交差部870−1、870−2にまたがって設けられるので、基板230上に形成する樹脂層の数を低減して製造歩留まりを向上することができる。また、一つの樹脂層852が複数の交差部870−1、870−2にまたがって設けられる結果、当該樹脂層852の、基板230の面と接する部分の面積が大きくなるため、基板230に対する樹脂層852の密着性を向上することができる。
【0082】
さらに、交差部870−1、870−2にまたがって樹脂層852を形成する場合には、樹脂層852のうち交差部870−1及び870−2を含む幅Fwの範囲の厚さを、均一な厚さに容易に形成することができる。このため、
図8に示す構成のように、隣接する2つの交差部870−1、870−2が並行導波路244b−1、244b−2を含むものである場合には、2つの並行導波路244b−1、244b−2のそれぞれが樹脂層852から(及び又は樹脂層852を介して)受ける応力等の条件を均一化して、当該応力等の不均一に起因する並行導波路244b−1、244b−2間の付加的な光位相差を抑制し、樹脂層852を設けたことによるマッハツェンダ型光導波路244bの付加的な動作点変動を抑制することができる。
【0083】
次に、交差部分の第5の構成例としての、
図3に示すF部の構成について説明する。本構成例では、光導波路232等の上に、電極250a等による光吸収損失を低減するために、従来技術と同様のSiO
2層が設けられ、その上に、
図12、
図13に示すようなSiO
2層のひび割れ及び又は電極の断線防止のための保護層としての、樹脂層が設けられている。
【0084】
図9は、マッハツェンダ型光導波路244aの一方の並行導波路244a−1の上を信号電極252aが交差するE部のIX−IX断面図である。なお、
図9に示す構成は、光変調素子104における光導波路232等と電極250a等とが交差する部分の構成の一例であって、E部以外の、光導波路232等と電極250a等とが交差する任意の部分にも同様に用いることができる。
【0085】
図9において、図示左右方向(Z方向)に延在する信号電極252aは、紙面法線方向(Y方向)に延在する並行導波路244a−1の上を交差(横断)して、交差部970(図示一点鎖線の矩形で囲まれた部分)を形成している。
【0086】
交差部970には、並行導波路244a−1の上に、従来技術と同様にSiO
2層990が形成されている。ただし、従来技術と異なり、交差部970では、SiO
2層990と信号電極252aとの間に樹脂層952が設けられている。これにより、交差部970は、
図5に示す交差部470と同様に、当該交差部970を含む基板部分に信号電極252aと並行導波路244a−1との間に樹脂層952が部分的に設けられた構成となっている。そして、樹脂層952は、信号電極252aの側の隅が、曲線952−1、952−2で構成されている。ここで、SiO
2層の厚さは、従来技術と同様に、信号電極252aによる並行導波路244a−1における光吸収損失を低減するのに十分な厚さである例えば0.5μmである。また、樹脂層952は、例えば厚さ3μmで形成される。
【0087】
上記構成により、交差部970では、並行導波路244a−1上に設けられたSiO
2層990は樹脂層952により保護されることとなり、信号電極252aからの応力によりSiO
2層990の角部にひび割れが発生するのを防止することができる。また、
図5に示す交差部470および
図6に示す交差部670と同様に、樹脂層952の隅を構成する曲線952−1、952−2により、信号電極252aからの応力により樹脂層952にひび割れが発生するのを防止することができ、且つ、樹脂層952の隅部近傍の信号電極252aの部分に断線が発生するのを防止することができる。
【0088】
特に
図9に示す構成は、SiO
2層が持つ高い電気的絶縁性、透明性、経時安定性を利用しつつ、交差部における電極250a等の断線を抑制したい場合に好適である。
【0089】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、第1の実施形態に係る光変調器100が備える光変調素子104を用いた光変調モジュール1000である。
図10は、本実施形態に係る光変調モジュール1000の構成を示す図である。
図10において、
図1に示す第1の実施形態に係る光変調器100と同一の構成要素については、
図1に示す符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した
図1についての説明を援用する。
【0090】
光変調モジュール1000は、
図1に示す光変調器100と同様の構成を有するが、中継基板106に代えて、回路基板1006を備える点が、光変調器100と異なる。回路基板1006は、駆動回路1008を備える。駆動回路1008は、信号ピン110a、110b、110c、110dを介して外部から供給される例えば変調信号に基づいて、光変調素子104を駆動する高周波電気信号を生成し、当該生成した高周波電気信号を光変調素子104へ出力する。
【0091】
上記の構成を有する光変調モジュール1000は、上述した第1の実施形態に係る光変調器100と同様に、光導波路232等と電極250a等との交差部分において
図4ないし
図9に示す構成を有する光変調素子104を備える。このため、光変調モジュール1000では、光変調器100と同様に、光変調素子104の光学特性の劣化および長期信頼性の低下を招くことなく、基板230上の光導波路232等と電極250a等との交差部分に発生し得る導波光の光吸収損失を効果的に低減して、良好な変調特性を実現して、良好な光伝送を行うことができる。
【0092】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態は、第1の実施形態に係る光変調器100を搭載した光送信装置1100である。
図11は、本実施形態に係る光送信装置1100の構成を示す図である。この光送信装置1100は、光変調器100と、光変調器100に光を入射する光源1104と、変調器駆動部1106と、変調信号生成部1108と、を有する。なお、光変調器100及び変調器駆動部1106に代えて、上述した光変調モジュール1000を用いることもできる。
【0093】
変調信号生成部1108は、光変調器100に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路であり、外部から与えられる送信データに基づき、光変調器100に当該変調データに従った光変調動作を行わせるための高周波信号である変調信号を生成して、変調器駆動部1106へ出力する。
【0094】
変調器駆動部1106は、変調信号生成部1108から入力される変調信号を増幅して、光変調器100が備える光変調素子104の4つの信号電極250a、252a、250b、252bを駆動するための4つの高周波電気信号を出力する。
【0095】
当該4つの高周波電気信号は、光変調器100の信号ピン110a、110b、110c、110dに入力されて、光変調素子104を駆動する。これにより、光源1104から出力された光は、光変調器100により、例えばDP−QPSK変調され、変調光となって光送信装置1100から出力される。
【0096】
特に、光送信装置1100では、光導波路232等と電極250a等との交差部分の光吸収損失を効果的に低減し得る光変調素子104を備えた光変調器100を用いているので、良好な変調特性を実現して、良好な光伝送を行うことができる。
【0097】
なお、本発明は上記実施形態の構成およびその代替構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0098】
例えば、上述した第1の実施形態では、光変調素子104において、入力導波路232とバイアス電極264b−1との交差部分であるB部、入力導波路232と信号電極252bとの交差部分であるC部、入力導波路232と信号電極250bとの交差部分であるD部、並行導波路244b−1及び244b−2と信号電極252bとの2つの交差部分を含むE部、および並行導波路244a−1と信号電極252aとの交差部分であるF部について、それぞれ、
図4及び
図5、
図6、
図7、
図8、並びに
図9に示す構成を有するものとしたが、これらには限られない。
【0099】
光導波路素子である光変調素子104は、光導波路232等と電極250a等との一部又は全部の交差部分について、
図4及び
図5、
図6、
図7、
図8、並びに
図9に示すいずれかの構成を有するものとすることができる。従って、例えば、信号電極250b、252b、又は252aを含む交差部について示した
図6ないし
図9に示すいずれかの構成を、バイアス電極264b等を含むいずれかの交差部に適用することができる。
【0100】
また、当業者において容易に理解されるように、
図4及び
図5、
図6、
図7、
図8、並びに
図9に示したB部、C部、D部、E部、F部の特徴構成を組み合わせて、光導波路232等と電極250a等とのいずれかの交差部に適用するものとすることができる。例えば、
図7の構成と
図9の構成とを組み合わせて、SiO
2層が形成された光導波路232等と電極250a等との交差部分に多段に積層された複数の樹脂層を形成するものとすることができる。
【0101】
また、例えば、
図7の構成と
図8の構成とを組み合わせて、多段に積層された複数の樹脂層を2つの交差部にまたがって形成してもよい。あるいは、
図8と
図9とを組み合わせて、SiO
2層が形成された光導波路232等と電極250a等との、隣接する2つの交差部にまたがって、多段に積層された複数の樹脂層を形成してもよい。
【0102】
また、
図7に示すD部の構成では、多段に積層される複数の樹脂層として樹脂層752−1、752−2、752−3の3つの樹脂層から成る構成を示したが、これには限られない。多段に積層する樹脂層の数は、2つあついは4つ以上であるものとすることができる。
【0103】
また、
図9に示すF部の構成では、並行導波路244a−1上にSiO
2層990が設けられる構成を示したが、これには限られない。光導波路232等の上部には、SiO
2のほか、SiNなどの、当該光導波路232等よりも大きな屈折率と電気的絶縁性を有する任意の材料で構成される絶縁層または透明絶縁層(例えばSiN等で構成される層)を形成するものとすることができる。
【0104】
また、上述した第1の実施形態においては、B部ないしF部が含む交差部は、電極250a等と光導波路232等とが直交することで構成されるものとしたが、これには限られない。上述した
図3ないし
図9に示した交差部の構成は、電極250a等が光導波路232等の上を横断することで形成される当該電極250a等と光導波路232等との交差部であって、電極250a等が光導波路232等に対し(平行でない)任意の角度を持って交差する交差部に適用することができる。
【0105】
また、上述した実施形態では、光導波路素子の一例として、LN(LiNbO3)である基板230により形成された光変調素子104を示したが、これには限られない、光導波路素子は、任意の材料(LNのほか、InP、Siなど)の基板で構成される、任意の機能(光変調のほか、光スイッチ、光方向性結合器など)を有する素子であるものとすることができる。
【0106】
以上説明したように、上述した第1の実施形態に係る光変調器100は、光変調素子104を備える。光導波路素子である光変調素子104は、基板230に形成された光導波路232等と、当該光導波路232等を伝搬する光波を制御する電極であって、光導波路232等の上を交差する交差部470等を有する電極250a等と、を有する。そして、基板230のうち交差部470等を含む部分には、光導波路232等と電極250a等との間に樹脂層452等が部分的に設けられており、樹脂層452等は、電極250a等の延在方向に沿った断面において、電極250a等の側の隅が曲線で構成されている。
【0107】
この構成によれば、光変調素子104の光学特性の劣化および長期信頼性の低下を招くことなく、基板230上の光導波路232等と電極250a等との交差部470等に発生し得る電極金属による導波光の光吸収損失を効果的に低減することができる。
【0108】
また、光変調素子104では、樹脂層452等は、上記断面において、上記隅を構成する曲線の開始点から端部までの、電極250a等の延在方向に測った距離が、基板230の面から測った当該樹脂層452等の高さの値よりも大きい。この構成によれば、樹脂層452等の隅を一定値以上の曲率をもった曲線で構成して、交差部470等における電極250a等の形状の連続性を更に高めると共に、電極250a等から樹脂層の隅部に加わる応力をさらに分散することができる。このため、交差部470等における電極250a等の断線や、樹脂層452等の隅部におけるひび割れの発生を更に効果的に抑制することができる。その結果、光変調素子104の光学特性の劣化および長期信頼性の低下を更に効果的に防止して、基板230上の光導波路232等と電極250a等との交差部470等に発生し得る電極金属による導波光の光吸収損失を低減することができる。
【0109】
また、例えば光変調素子104の樹脂層652は、信号電極252bの延在方向に沿って、交差部670における入力導波路232の幅の3倍以上の距離に亘って設けられる。この構成によれば、信号電極252bの応力が光導波路に対し集中的に作用することが抑制されるので、例えばLNで構成される基板230における光弾性効果を介して光導波路の実効屈折率が変化するのを抑制することができる。その結果、例えば10μmを超えるような分厚い信号電極252bを形成する場合にも、当該分厚い信号電極252bからの応力に起因する光変調素子104の光学特性の劣化ないし悪化を防止することができる。
【0110】
また、例えば光変調素子104の交差部770では、入力導波路232と信号電極250bとの間に、複数の樹脂層752−1、752−2、752−3が、信号電極250bの延在方向に沿って階段状に積層して設けられている。この構成によれば、交差部770又は周辺における信号電極250bの形状の連続性を更に高めて、交差部770における信号電極250bの断線の発生や樹脂層752−1等の隅部のひび割れ発生を、さらに抑制することができる。
【0111】
また、例えば光変調素子104の交差部970には、並行導波路244a−1と樹脂層952との間に絶縁層であるSiO
2層990が形成されている。この構成によれば、SiO
2の持つ高い電気的絶縁性、透明性、経時安定性を利用しつつ、例えば信号電極252aの断線の発生を抑制すると共に、SiO
2層990および樹脂層952におけるひび割れの発生を防止することができる。
【0112】
また、例えば光変調素子104の樹脂層652を構成する樹脂は、架橋剤を含んだフォトレジストを用いて形成される樹脂である。この構成によれば、通常の微細加工用のフォトレジストを用いる場合に比べて容易に、樹脂層652の隅部に曲線部分を広範囲に形成することできる。
【0113】
また、例えば光変調素子104の樹脂層852は、隣接する交差部870−1、870−2にまたがって形成されている。この構成によれば、樹脂層852と基板230との接触面積を広くして、基板230に対する樹脂層852の密着性を向上することができる。また、2つの交差部を含む範囲において樹脂層852を均等な厚さで容易に形成することができるので、例えばマッハツェンダ型光導波路244bの2つの並行導波路244b−1、244b−2をそれぞれ含む2つの交差部870−1、870−2において樹脂層852の厚さを同じ厚さに形成し、上記2つの並行導波路のそれぞれが樹脂層852から受ける応力等の条件を均一化することができる。その結果、マッハツェンダ型光導波路244bの付加的な動作点変動を抑制して、良好な変調特性を実現することができる。
【0114】
また、光変調素子104では、電極250a等は、少なくとも光導波路232等との交差部において、10μmより厚く形成されている。また、光変調素子104では、基板230は20μm以下の厚さである。これらの構成によれば、従来技術のようにSiO
2層を用いた場合に電極の断線や当該SiO
2層の隅部のひび割れの発生頻度が比較的高くなりやすい電極構成および基板構成を採用した場合にも、これらの断線およびひび割れの発生を効果的に抑制することができる。
【0115】
また、第1の実施形態に係る光変調器は、光導波路素子である上記いずれかの光変調素子104と、光変調素子104を収容する筺体102と、光変調素子104に光を入力する入力光ファイバ114と、光変調素子104が出力する光を筺体102の外部へ導く出力光ファイバ120と、を備える。
【0116】
また、第2の実施形態に係る光変調モジュール1000は、光導波路素子である光の変調を行う光変調素子104と、当該光変調素子104を駆動する駆動回路1008と、を備える。
【0117】
また、第3の実施形態に係る光送信装置1100は、光変調器100または光変調モジュール1000と、光変調素子104に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路である変調信号生成部1108と、を備える。
【0118】
これらの構成によれば、良好な特性を有する光変調器100、光変調モジュール1000、又は光送信装置1100を実現することができる。