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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-105649(P2021-105649A)
(43)【公開日】2021年7月26日
(54)【発明の名称】光導波路素子および光変調器
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20210625BHJP
【FI】
   G02F1/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-236028(P2019-236028)
(22)【出願日】2019年12月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡橋 宏佑
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA03
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA23
2K102CA28
2K102DA05
2K102DB05
2K102DC08
2K102DD01
2K102DD05
2K102EA02
2K102EA12
2K102EB11
2K102EB30
(57)【要約】
【課題】バッファ層による基板への応力の影響を低減させることで、当該応力に起因して生じ得る基板に対するダメージや基板の特性劣化を防ぐことができる光導波路素子および光変調器を提供する。
【解決手段】光導波路素子1は、電気光学効果を有する基板5と、基板5に形成された光導波路10と、基板5上に設けられたバッファ層9とを備えており、基板5とバッファ層9との間に、バッファ層9による基板5への応力の影響を低減させることができる樹脂8が配設されていることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、
前記基板に形成された光導波路と、
前記基板上に設けられたバッファ層と、を備える光導波路素子であって、
前記基板と前記バッファ層との間に樹脂が配設されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
前記樹脂が、変調電極が形成される領域とは異なる前記バッファ層上の領域の直下の一部または全面に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
前記樹脂の厚さが1.0μm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光導波路素子。
【請求項4】
前記樹脂が、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれか一方であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光導波路素子。
【請求項5】
前記基板の厚さが4.0μm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の光導波路素子。
【請求項6】
前記基板上に突設されたリブ部が前記光導波路として用いられることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の光導波路素子。
【請求項7】
複数のマッハツェンダー部により前記光導波路が形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の光導波路素子。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の光導波路素子を構成する光導波路を少なくとも一部に用いたことを特徴とする光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信分野および光計測分野で用いられる光導波路素子および光変調器に関する。本発明は、特に、電気光学効果を有する基板に光導波路および電極等が設けられた光導波路素子、および、当該光導波路素子をパッケージングした光変調器に関する。
【0002】
近年、光通信分野や光計測分野において、ニオブ酸リチウム(LiNbO3:以下LNと記載)等の電気光学効果を有する基板上に光導波路を形成した光導波路素子が使用されている。また、光導波路素子に形成された光導波路内を伝搬する光波を変調するために、光導波路素子に電極等が設けられた光変調器が使用されている。
【0003】
また、光変調周波数の広帯域化を実現するために、変調信号であるマイクロ波と光波との速度整合を図ることが重要である。このため、基板の厚さを薄くする基板の薄板化を行うことによって、マイクロ波と光波との速度整合を図るとともに、駆動電圧の低減を図る試みが行われている。
【0004】
下記の特許文献1には、電気光学効果の媒体として有機材料からなるコア層を有し、コア層とクラッド層との間のコア層の周囲に応力緩和層が形成されている有機導波路型光変調器が開示されている。特許文献1に開示されている光変調器によれば、コア層とクラッド層の材料の熱膨張係数の差により生じる応力を緩和することができる。
【0005】
下記の特許文献2には、電気光学効果を有する基板と、基板に形成された2本の光導波路と、基板を保持する台座とを具備し、基板と台座を接着する接着層が2本の光導波路から遠い位置に配置された光変調器が開示されている。特許文献2に開示されている光変調器によれば、台座と基板との熱膨張係数の差に起因して発生する2本の光導波路間における応力複屈折率の差を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−243376号公報
【特許文献2】特開2010−181454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
厚さが数μm以下の薄板リブ型の光導波路構造を有する光変調器では、電極による光吸収を抑制するために、薄板の厚さとほぼ同じ膜厚のバッファ層をスパッタや真空蒸着法によって形成する必要がある。しかしながら、ウェハは従来よりも厚さが薄いため、応力に対して敏感である。また、ウェハには、例えば電気光学効果を有するLNが用いられるのに対し、バッファ層にはSiO等が用いられる。
【0008】
ウェハ(基板)の材料とバッファ層の材料とは、熱膨張率(線膨張率)が異なっている。これにより、ウェハプロセスにおいてバッファ層を成膜する際やウェハまたはチップを加熱する際に、ウェハ(基板)とバッファ層との熱膨張率の差によって、バッファ層とウェハ(基板)とが接触する面に応力(内部応力または残留応力)が生じる。その結果、バッファ層による基板への応力によって基板がダメージを受け、基板にひび割れ等が発生してしまうという問題がある。
【0009】
また、基板はLN等の電気光学効果を有する材料で作られており、電気を印加して屈折率を変化させることで光変調が行われる。しかしながら、バッファ層による基板への応力が生じると、光弾性効果によって基板の屈折率が変化してしまい、光波の伝搬速度が変化してしまうという問題がある。その結果、例えばマッハツェンダー構造を有する光導波路素子では、マッハツェンダー構造における合波の際に位相差が生じてしまいバイアス電圧の変動等の特性劣化が発生してしまうという問題がある。
【0010】
特許文献1の開示技術は、有機材料からなるコア層の周囲に応力緩和層を形成して、コア層とクラッド層との間における応力を緩和するものであり、バッファ層による基板への応力を緩和するものではない。
【0011】
また、特許文献2の開示技術は、基板と台座とを接着する接着層に関して、2本の光導波路間における応力複屈折率の差を小さくするために、2本の光導波路から遠い位置に接着層を配置するものであり、バッファ層による基板への応力を緩和するものではない。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するため、バッファ層による基板への応力の影響を低減させることで、当該応力に起因して生じ得る基板に対するダメージや基板の特性劣化を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係る光導波路素子および光変調器は以下のような技術的特徴を有する。
【0014】
(1) 本発明に係る光導波路素子は、上記の目的を達成するため、電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された光導波路と、前記基板上に設けられたバッファ層と、を備える光導波路素子であって、前記基板と前記バッファ層との間に樹脂が配設されていることを特徴とする。
【0015】
この構成により、基板とバッファ層との間に配設された樹脂によって、バッファ層による基板への応力を低減させることができる。樹脂はバッファ層に用いられるSiO等の材料と比べて剛性の低い材料(樹脂のヤング率:おおよそ1〜2GPa)であり、基板とバッファ層との間に熱膨張率差があっても、熱膨張率差により生じる応力を緩和する緩衝材としての役割を果たす。その結果、樹脂の配設によって、基板に対するダメージや基板の特性劣化を防ぐことができる。
【0016】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、前記樹脂が、変調電極が形成される領域とは異なる前記バッファ層上の領域の直下の一部または全面に配設されていることを特徴とする。
【0017】
この構成により、変調電極から光導波路への電界の印加を妨げることがない領域であって、変調電極からの電界が光導波路へ適切に印加できる領域に樹脂を配設することができる。
【0018】
(3) 上記(1)または(2)に記載の光導波路素子において、前記樹脂の厚さが1.0μm以上であることを特徴とする。
【0019】
この構成により、バッファ層による基板への応力を確実に低減させることができる厚さの樹脂を配設して、基板に対するダメージや基板の特性劣化を防ぐことができる。
【0020】
(2) 上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の光導波路素子において、前記樹脂が、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれか一方であることを特徴とする。
【0021】
この構成により、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれか一方を材料とするフォトレジストを用いて、バッファ層による基板への応力を低減させることができ、基板に対するダメージや基板の特性劣化を防ぐことができる。特に、フォトリソグラフィプロセスによって基板上に樹脂を形成することができ、樹脂のパターン形状や厚さ等を精度良く容易にコントロールすることができる。
【0022】
(5) 上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の光導波路素子において、前記基板の厚さが4.0μm以下であることを特徴とする。
【0023】
この構成により、基板の薄板化に伴って基板に生じる応力の影響が大きくなる場合であっても、基板とバッファ層との間に配設された樹脂によって、バッファ層による基板への応力を低減させることができ、基板に対するダメージや基板の特性劣化を防ぐことができる。
【0024】
(6) 上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の光導波路素子において、前記基板上に突設されたリブ部が前記光導波路として用いられることを特徴とする。
【0025】
この構成により、リブ型の光導波路構造による基板の薄板化に伴って応力の影響が大きくなる場合であっても、基板とバッファ層との間に配設された樹脂によって、バッファ層による基板への応力を低減させることができ、基板に対するダメージや基板の特性劣化を防ぐことができる。
【0026】
(7) 上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の光導波路素子において、複数のマッハツェンダー部により前記光導波路が形成されていることを特徴とする。
【0027】
この構成により、様々な変調方式に対応した光信号を生成することが可能な複数のマッハツェンダー型光導波路構造を有する光導波路素子において、基板とバッファ層との間に配設された樹脂によって、バッファ層による基板への応力を低減させることができ、基板に対するダメージや基板の特性劣化を防ぐことができる。
【0028】
(8) 本発明に係る光変調器は、上記の目的を達成するため、上記(1)から(7)のいずれか1つに記載の光導波路素子を構成する光導波路を少なくとも一部に用いたことを特徴とする。
【0029】
この構成により、基板とバッファ層との間に配設された樹脂によって、バッファ層による基板への応力を低減させ、基板に対するダメージや基板の特性劣化を防ぐことができる光変調器が実現される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、光導波路素子および光変調器において、バッファ層による基板への応力の影響を低減させることで、当該応力に起因して生じ得る基板に対するダメージや基板の特性劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施の形態において、光導波路素子を構成する基板上に形成された光導波路の一例を説明するための平面図である。
図2】本発明の実施の形態における光導波路素子の断面構造の第1の例を示す図であり、図1の線分P−Pの矢視断面図である。
図3】本発明の実施の形態における光導波路素子を模式的に示す平面図であり、図1の領域Rにおける樹脂の配設パターンの一例を模式的に示す図である。
図4】本発明の実施の形態における光導波路素子の一例を模式的に示す平面図であり、(a)〜(d)はそれぞれ、図1の領域Rにおける樹脂の配設パターンの派生例を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における光導波路素子の断面構造の第2の例を示す図であり、基板上に変調電極が形成された状態を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における光導波路素子の断面構造の第3の例を示す図であり、基板上に変調電極が形成された状態を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における光導波路素子の断面構造の第4の例を示す図であり、基板上に変調電極が形成された状態を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における光導波路素子の断面構造の第5の例を示す図であり、基板上に変調電極が形成された状態を示す図である。
図9】本発明の実施の形態に係る光変調器の構成の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態における光導波路素子および光変調器について説明する。
【0033】
図1は、本発明の実施の形態において、光導波路素子1を構成する基板5上に形成された光導波路10の一例を説明するための平面図である。なお、図1では、光導波路素子1の幅方向が紙面の上下方向となり、光導波路素子1の長手方向が紙面の左右方向となり、光導波路素子1の厚さ方向が紙面に垂直な方向となるように、光導波路素子1が図示されている。
【0034】
図1に示す光導波路素子1は、複数のマッハツェンダー型光導波路が集積された光導波路素子1である。複数のマッハツェンダー型光導波路が組み合わされた光導波路は、ネスト型光導波路とも呼ばれる。複数のマッハツェンダー型光導波路が集積された光導波路素子1は、様々な変調方式に対応した光信号を生成することができる。図1には一例として、複数のマッハツェンダー型光導波路が集積された光導波路素子1が図示されているが、本発明はこの構造に限定されるものではなく、例えば単一のマッハツェンダー型光導波路を有する光導波路素子1であってもよい。
【0035】
図1に示すように、本発明の実施の形態における光導波路素子1は、電気光学効果を有する材料で形成された基板5上に形成された光導波路10を備える。図1に示す光導波路素子1は、外部から光信号が導入される入射導波路を分岐する第1分岐部2a、第1分岐部2aで分岐された光導波路10を更に分岐する第2分岐部2b、第2分岐部2bで分岐された光導波路10を更に分岐する第3分岐部2cを備えており、3段階の分岐を経て合計8本の並行導波路が形成されている。第1〜第3分岐部2a〜2cは光カプラ等により実現される。
【0036】
各並行導波路を伝搬する光波の位相は、例えば領域D1において調整される。領域D1には金属製の変調電極(図1には不図示)が形成され、変調電極から各並行導波路に印加される電界によって屈折率を変化させ、光波の伝搬速度を調整することができる。
【0037】
各並行導波路を伝搬した光波は、上記の第1〜第3分岐部2a〜2cの各々に対応する第1〜第3合成部3a〜3cにおいて合波された後、出射導波路から外部へ出力される。具体的には、図1に示す光導波路素子1は、第3分岐部2cで分岐された並行導波路を合成する第3合成部3c、第2分岐部2bで分岐された光導波路10を合成する第2合成部3b、第1分岐部2aで分岐された光導波路10を合成する第1合成部3aを備えており、3段階の合成を経て出射導波路から光信号が出力される。第1〜第3分岐部2a〜2cと同様に、第1〜第3合成部3a〜3cも光カプラ等により実現される。
【0038】
なお、図1に示す光導波路素子1の光導波路10は一例であり、本発明は、このような構成に限定されるものではない。例えば、図9を参照しながら後述する光変調器200の光導波路素子202のように、光導波路素子202から2本の光信号が出力され、偏波合成部228によって偏波合成される構成であってもよい。
【0039】
また、光導波路10には、動作点を設定するためのバイアス電圧が印加される。バイアス電圧は、位相変調後の光波に対して、例えば領域D2に形成されたバイアス電極によって印加される。
【0040】
図2は、本発明の実施の形態における光導波路素子1の断面構造の第1の例を示す図であり、図1の線分P−Pの矢視断面図である。なお、図2では、光導波路素子1の厚さ方向が紙面の上下方向となり、光導波路素子1の幅方向が紙面の左右方向となり、光導波路素子1の長手方向が紙面に垂直な方向となるように、光導波路素子1が図示されている。
【0041】
図2の断面構造に示すように、光導波路素子1は、補強基板7の上に基板5が設けられており、さらに基板5の上にバッファ層9が設けられた構造を有している。
【0042】
基板5は、電気光学効果を有する材料により形成されている。従来の基板は厚さが8〜10μm程度であるのに対し、本発明の実施の形態における基板5は、例えば厚さが2.0μm以下、好適には1.0μm以下の極めて薄い薄板を用いることが可能である。このように基板5の厚さを極めて薄くすることで(例えば従来の約1/10の厚さ)、駆動電圧の更なる低減化を実現することが可能となる。基板5には、電気光学効果を有する材料として、例えばLNを用いることが可能であるが、タンタル酸リチウム(LiTaO)やジルコン酸チタン酸鉛ランタン(PLZT)等が用いられてもよい。
【0043】
基板5上にはリブ部6が設けられている。リブ部6は、基板5の表面に対して突設されており、光波を閉じ込める作用を有することから光導波路10として利用される。従来の拡散型の光導波路構造では光を閉じ込める作用が弱く、曲線部等で光導波路10からの伝搬光の漏れが生じてしまうことがある。これに対して、リブ型の光導波路構造を採用した場合には、光を閉じ込める作用が強化され、光導波路10を曲げて折り返し構造とすることができ、光導波路素子1の短尺化を実現することが可能となる。リブ部6の高さは、例えば基板5の表面から2.0μm以下、好適には1.0μm以下である。
【0044】
以下、リブ型基板の寸法についてより詳細に説明する。本発明の実施の形態におけるリブ型基板において、例えば、リブ部6を含めた基板5の厚さAの最大値は4.0μm、リブ部6の幅Bの最大値は4.0μm、リブ部6の高さCの最大値は2.0μmであり、厚さAと幅Bとの比率は1:1である。リブ部6や基板5等は設計上小さければ小さいほど良いため、上記の厚さA、幅B、高さCの最小値は、製造プロセスにおける最小化の限界値となる。また、光の閉じ込めの観点からも、光のシングルモード条件が維持される範囲内の寸法であれば、厚さAおよび幅Bの各々の寸法は小さければ小さいほど光が閉じ込められるため好ましい。
【0045】
図2には一例として、基板5上にリブ部6が形成されたリブ型基板を有する光導波路素子1が図示されている。ただし、本発明では、光導波路10としてリブ部6が形成されたリブ型基板を有する構造とすることが好適であるが、これに限定されるものではなく、例えば金属の熱拡散により基板5内に光導波路10が形成された光導波路素子1が用いられてもよい。
【0046】
補強基板7は、極めて薄い基板5の強度を補い、基板5やバッファ層9、さらには基板5上に形成される電極等を安定して支持可能とする部材である。補強基板7は、例えば、基板5の裏側に直接接合法によって直接接合される。補強基板7の材料には、例えば基板5の材料(例えばLN)より誘電率の低い材料、または、基板5と同一の材料(例えばLN)を用いることが可能である。
【0047】
直接接合法は、プラズマ活性化接合法と、FAB(Fast Atom Beam:高速原子ビーム)方式の2つの方式に大別される。
【0048】
プラズマ活性化接合法は、プラズマ等によって接合させる2つの面を親水処理して接合性を向上させた後、2つの面同士を重ね合わせることで直接接合を行う方式である。プラズマ活性化接合法を用いた場合、基板5および補強基板7のそれぞれの面の分子鎖が互いに絡み相溶した界面層(結合層)が形成される。
【0049】
一方、FAB方式は、接合させる2つの面のそれぞれに薄いSi層や金属酸化物層を形成し、2つの面のそれぞれに常温下で中性子原子ビームを照射して活性化させた後、2つの面同士を貼り合わせることで直接接合を行う方式である。FAB方式を用いた場合、基板5と補強基板7との間には、薄いSi層や金属酸化物層等の接着層が形成される。接着層20には、Si、Al、Ta、TiO、Nb、Si、AlN、SiO等が用いられる。
【0050】
また、基板5上にはバッファ層9が設けられている。本発明の実施の形態におけるバッファ層9は基板5と同等の厚さを有しており、例えば厚さが2.0μm以下、好適には1.0μm以下である。バッファ層9に用いられる材料は、特に限定されるものではないが、LNより屈折率が低く、光透過性に優れた材料であることが好ましい。バッファ層9に用いられる材料として、一般的にバッファ層9に用いられているSiOや、Al、MgF、La、ZnO、HfO、MgO、CaF、Y等を用いることができる。
【0051】
従来の基板の厚さは8.0〜10.0μmであったのに対し、本発明の実施の形態では、上述したようにリブ型基板の厚さを2.0μm以下と極めて薄くすることができ、マイクロ波と光波との速度整合や駆動電圧の更なる低減化を図ることが可能となる。ただし、このように極めて薄い基板5は、応力に対して特に敏感である。
【0052】
また上述したように、基板5には例えばLNが用いられるのに対し、バッファ層9には例えばSiOが用いられるが、基板5の材料であるLNおよびバッファ層9の材料であるSiOは、熱膨張率が異なっている。これにより、特に温度変化を伴うウェハプロセスにおいて、バッファ層9を成膜する際やウェハ(基板5)またはチップを加熱する際に、基板5とバッファ層9との熱膨張率の差によって、バッファ層9と基板5とが接触する面に応力(内部応力または残留応力)が生じる。
【0053】
その結果、バッファ層9による基板5への応力によって基板5がダメージを受け、基板5にひび割れ等が発生してしまうという問題や、バイアス電圧の変動等の特性劣化が発生してしまうという問題がある。
【0054】
このような問題に対処するため、本発明の実施の形態における光導波路素子1では、図2に示すように、基板5とバッファ層9との間に樹脂8が配設されている。樹脂8は、その粘弾性特性により基板5とバッファ層9との間で応力を緩和する応力緩和層としての役割を果たす。樹脂8は剛性の低い材料(樹脂のヤング率:おおよそ1〜2GPa)であり、基板5とバッファ層9との間の熱膨張率の差により生じる応力を緩和する緩衝材としての役割を果たすことができる。樹脂8は、応力緩和に十分な厚さとする必要があり、例えば1.0μm以上とすることが望ましい。
【0055】
樹脂8は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂等の樹脂であり、一例として、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、アミノ系樹脂、エポキシ系樹脂等を含む。
【0056】
また、樹脂8は、例えば永久レジストであり、熱硬化型の樹脂を材料とするフォトレジストである。光導波路素子の製造工程において、スピンコートにより基板5上に樹脂8を塗布し、通常の一般的なフォトリソグラフィプロセスによってパターニングを行った後に熱硬化させることにより、基板5上に樹脂8を配設することができる。
【0057】
フォトリソグラフィプロセスによるパターニングは、従来のスパッタ成膜と比較して微細なパターン形状を高精度で形成することが可能であり、本発明の実施の形態における基板5上の樹脂形成に好適である。また、従来のスパッタ成膜で形成されるバッファ層は膜厚が薄かったが、一方、スピンコートによって樹脂8を塗布した場合には、1.0μm以上の膜厚であれば自在に膜厚をコントロールすることが可能であり、本発明の実施の形態における基板5上の樹脂形成に好適である。
【0058】
基板5上に樹脂8を配設してから、その上にバッファ層9をスパッタ等で成膜する場合、あらかじめ基板5上に形成された樹脂8が応力緩和層としての役割を果たし、その結果、バッファ層9による基板5への応力が緩和され、基板のひび割れやドリフト等の特性劣化を防ぐことができる。また、ウェハプロセスにおいてウェハ(基板5)を加熱する際に、基板5とバッファ層9との熱膨張率差による応力を樹脂8が緩和するため、ウェハプロセス中での基板のひび割れ等を防ぐことができる。さらに、スパッタ成膜等によりバッファ層9を成膜する場合には基板5の表面がプラズマにさらされるが、基板5の表面に樹脂8が配設されていることにより、基板5の表面がプラズマにさらされる面積を小さくすることができる。その結果、基板5の材料であるLNにおける酸素欠損等の発生を抑えて、ドリフト等の特性劣化を防ぐことができる。
【0059】
なお、後述するように、樹脂8は、変調電極(信号電極Sおよび接地電極G)が形成される領域とは異なるバッファ層上の領域の直下の一部または全面に配設されることが望ましい。すなわち、樹脂8は、変調電極が形成されるバッファ層9上の領域の直下には配設されないようにすることが望ましい。これにより、変調電極から光導波路10への電界の印加を妨げない位置に樹脂8を配設することができ、変調電極から光導波路10へ適切に電界を印加することができるようになる。
【0060】
図3は、本発明の実施の形態における光導波路素子1を模式的に示す平面図であり、図1の領域Rにおける樹脂8の配設パターンの一例を模式的に示す図である。なお、図3では、光導波路素子1の長手方向が紙面の上下方向となり、光導波路素子1の幅方向が紙面の左右方向となり、光導波路素子1の厚さ方向が紙面に垂直な方向となるように、光導波路素子1が図示されている。図3に示す配設パターンは、図1の領域Rを上から俯瞰した場合の図であり、バッファ層9の下に配設されている樹脂8の位置を模式的に表したものである。
【0061】
図3に示す配設パターンでは、樹脂8は光導波路素子1の長手方向(光導波路10の延在方向)に沿って配設されている一方、変調電極が形成されるバッファ層9上の領域の直下には配設されていない。この配置パターンによれば、バッファ層9による基板5への応力を樹脂8により緩和することができ、かつ、変調電極から光導波路10への電界印加を妨げることなく光波の変調作用に干渉しない位置に樹脂8を配設することができる。
【0062】
なお、図3に示す樹脂8の配設パターン以外に、例えば図4(a)〜(d)に示すような配設パターンを採用することも可能である。
【0063】
図4(a)〜(d)は、本発明の実施の形態における光導波路素子1の一例を模式的に示す平面図であり、図1の領域Rにおける樹脂8の配設パターンの派生例を模式的に示す図である。なお、図4(a)〜(d)では、光導波路素子1の長手方向が紙面の上下方向となり、光導波路素子1の幅方向が紙面の左右方向となり、光導波路素子1の厚さ方向が紙面に垂直な方向となるように、光導波路素子1が図示されている。図3に示す配設パターンと同様に、図4(a)〜(d)に示す配設パターンも図1の領域Rを上から俯瞰した場合の図であり、バッファ層9の下に配設されている樹脂8の位置を模式的に表したものである。
【0064】
図4(a)に示す配設パターンは、図3に示す配設パターンの樹脂8が光導波路素子1の長手方向に対して分割された状態(長手方向に対して4つの樹脂8のセルに分割)を表している。図4(b)に示す配設パターンは、図4(a)に示す配設パターンの樹脂8が、さらに光導波路素子1の幅方向に対して分割された状態(幅方向に対して4つの樹脂8のセルに分割)を表している。図4(c)に示す配設パターンは、図3に示す配設パターンの樹脂8が光導波路素子1の幅方向に対して分割された状態(幅方向に対して4つの樹脂8のセルに分割)を表している。図4(d)に示す配設パターンは、樹脂8が格子状に配設された状態を表している。
【0065】
図4(a)〜(d)のいずれの配設パターンにおいても、バッファ層9による基板5への応力を樹脂8により緩和することができ、かつ、変調電極から光導波路10への電界印加を妨げることなく光波の変調作用に干渉しない位置に樹脂8を配設することができる。図3および図4(a)〜(d)の樹脂8の配設パターンはあくまでも一例であり、バッファ層9による基板5への応力緩和を達成できるものであれば、任意の配設パターンを採用することができる。
【0066】
図2図3および図4(a)〜(d)は、バッファ層9上に電極が形成されていない領域(例えば、図1の領域R)に樹脂8が配設されている状態を示している。一方、バッファ層9上には電極が形成される領域(例えば、図1の領域D1および領域D2)が存在している。このような領域においては、電極が形成されていない領域の下に樹脂8が配設されることが望ましい。特に光波の位相変調を行う位相変調部(領域D1)においては、変調電極が形成されていない領域の下に樹脂8を配設することが望ましい。
【0067】
また、樹脂8とバッファ層9との間の密着性は、基板5とバッファ層9との間の密着性および基板5と樹脂8との間の密着性に比べて弱くなってしまうため、樹脂8とバッファ層9との接触面積を低減させた任意のパターンを採用することができる。ただし、樹脂8とバッファ層9との接触面積を低減させると、バッファ層9による基板5への応力を緩和する作用が小さくなってしまう。このことから、バッファ層9による基板5への応力を緩和するとともに、バッファ層9が基板5から剥離しない程度に密着性を維持することができる樹脂8の配設パターンを採用することが望ましい。図4(a)〜(d)のいずれの配設パターンは、基板5、樹脂8、バッファ層9のそれぞれの密着性を考慮した配設パターンである。これらの配設パターンでは、基板5とバッファ層9とが接触する密着性の高い部分がバランス良く配置されるように樹脂8が配設されている。
【0068】
以下、いくつかの例を挙げながら、変調電極が形成される位相変調部における樹脂8の好適な配設位置について説明する。
【0069】
図5は、本発明の実施の形態における光導波路素子1の断面構造の第2の例を示す図であり、基板5上に変調電極が形成された状態を示す図である。図5は、図1の線分Q−Qの矢視断面図である。なお、図5では、光導波路素子1の厚さ方向が紙面の上下方向となり、光導波路素子1の幅方向が紙面の左右方向となり、光導波路素子1の長手方向が紙面に垂直な方向となるように、光導波路素子1が図示されている。
【0070】
図5には、基板5上に変調電極(信号電極Sおよび接地電極G)が形成され、基板5のリブ部6を光導波路10として用いるように構成された光導波路素子1の断面構造が示されている。図5に示す基板5は、光導波路10の間に信号電極Sが配置された構造を有している。
【0071】
変調電極である信号電極Sおよび接地電極Gは、例えば、バッファ層9上にTi/Auを蒸着した後、フォトリソグラフィプロセスによって電極のパターニングを行うことで形成される。変調電極は適切な金属であればよく、また、バッファ層9上に変調電極を形成する方法も特に限定されるものではない。変調電極の厚さは、例えば20μm以上である。なお、本明細書では説明および図示を省略するが、バッファ層9上に変調電極を形成する場合には、バッファ層9と変調電極との間にSi等からなる帯電防止用の導電膜層を形成してもよい。
【0072】
信号電極Sは、光導波路10に電界を印加するための電極であり、例えば、光導波路10と並行して延在するように配置されている。不図示であるが、信号電極Sは信号源および終端抵抗に接続されており、信号源から高周波電気信号が供給されて終端抵抗で終端されるようになっている。
【0073】
接地電極Gは、基準電位点に接続された電極であり、例えば、信号電極Sと同様に光導波路10と並行して延在するように配置されている。信号電極Sと接地電極Gとは離隔して設けられており、信号電極Sと接地電極Gとの間に電界が形成される。信号電極Sおよび接地電極Gは、例えばコプレーナ線路を構成している。
【0074】
信号電極Sと接地電極Gとの間に形成される電界は、リブ部6内に形成された光導波路10に印加される。信号源から供給する電気信号を制御して電界強度を調整することで、光導波路10内を伝搬する光波が適切に変調されるようになっている。
【0075】
図5に示すように、位相変調部では、信号電極Sおよび接地電極Gの直下に樹脂8を配設しないようにしている。このように樹脂8の配設位置を配慮することで、図5に示す断面構造では、図5の両端(信号電極Gから遠い位置であって、接地電極Gの形成位置の外側)に樹脂8が配設されている。これにより、バッファ層9による基板5への応力を緩和することができる。
【0076】
図6は、本発明の実施の形態における光導波路素子1の断面構造の第3の例を示す図であり、基板5上に変調電極が形成された状態を示す図である。図6は、図1の線分Q−Qの矢視断面図である。なお、図6では、光導波路素子1の厚さ方向が紙面の上下方向となり、光導波路素子1の幅方向が紙面の左右方向となり、光導波路素子1の長手方向が紙面に垂直な方向となるように、光導波路素子1が図示されている。
【0077】
図6には、基板5上に変調電極(信号電極Sおよび接地電極G)が形成され、基板5のリブ部6を光導波路10として用いるように構成された光導波路素子1の断面構造が示されている。図6に示す基板5は、光導波路10の間に信号電極Sが配置された構造を有している。
【0078】
図5の断面構造と図6の断面構造とを比較した場合、図5の断面構造では中央付近に1つの信号電極Sが配置された構成となっている一方、図6の断面構造では、中央付近に2つに分割された信号電極Sが配置された構成となっている。図5の中央付近の信号電極Sの幅方向の寸法は、2本の光導波路10の幅方向の寸法に応じて大きくなってしまう場合がある。これに対し、図6の断面構造では、図5の中央付近の信号電極Sにスリットを入れることで2つの信号電極Sに分けられている。
【0079】
光変調器では、線路伝送中の外部ノイズ等の影響を抑制したり、低電圧での動作を可能としたりするために、DSP(デジタル信号処理回路:Digital Signal Processor)やドライバ素子の出力に差動出力構成が用いられることがある。図6に示す断面構造のように、こうした差動出力構成における差動の電気信号を利用することができる、いわゆる「GSSG型」の電極構造を採用することが可能である。
【0080】
図6の2つの信号電極Sとバッファ層9との接触面積は、図5の信号電極Sと基板5との接触面積よりも小さいので、2つの信号電極Sの間に樹脂8を配設することが可能な領域を確保することができる。このように、図6に示す構成によれば、図5に示す構成では樹脂8を配設することができなかった2つの光導波路10の間(幅方向中央部)に樹脂8を配設することができる。したがって、図6に示す構成は、図5に示す構成と比べて、バッファ層9による基板5への応力をより緩和することができる構成となっている。
【0081】
図7は、本発明の実施の形態における光導波路素子1の断面構造の第4の例を示す図であり、基板5上に変調電極が形成された状態を示す図である。図7は、図1の線分Q−Qの矢視断面図である。なお、図7では、光導波路素子1の厚さ方向が紙面の上下方向となり、光導波路素子1の幅方向が紙面の左右方向となり、光導波路素子1の長手方向が紙面に垂直な方向となるように、光導波路素子1が図示されている。
【0082】
図7には、基板5上に変調電極(信号電極Sおよび接地電極G)が形成され、基板5のリブ部6を光導波路10として用いるように構成された光導波路素子1の断面構造が示されている。図7に示す基板5は、光導波路10の上に信号電極Sが配置された構造を有している。
【0083】
図7に示すように、位相変調部では、信号電極Sおよび接地電極Gの直下に樹脂8を配設しないようにしている。このように樹脂8の配設位置を配慮することで、図7に示す断面構造では、信号電極Sと接地電極Gと間に樹脂8が配設されている。これにより、バッファ層9による基板5への応力を緩和することができる。
【0084】
図8は、本発明の実施の形態における光導波路素子1の断面構造の第5の例を示す図であり、基板5上に変調電極が形成された状態を示す図である。図8は、図1の線分Q−Qの矢視断面図である。なお、図8では、光導波路素子1の厚さ方向が紙面の上下方向となり、光導波路素子1の幅方向が紙面の左右方向となり、光導波路素子1の長手方向が紙面に垂直な方向となるように、光導波路素子1が図示されている。
【0085】
図8には、基板5上に変調電極(信号電極Sおよび接地電極G)が形成され、基板5のリブ部6を光導波路10として用いるように構成された光導波路素子1の断面構造が示されている。図8に示す基板5は、光導波路10の上に信号電極Sが配置された構造を有している。
【0086】
図7の断面構造と図8の断面構造とを比較した場合、図7の断面構造では中央付近に1つの接地電極Gが配置された構成となっている一方、図8の断面構造では、中央付近に2つに分割された接地電極Gが配置された構成となっている。図7の中央付近の接地電極Gの幅方向の寸法は、2本の光導波路10の幅方向の寸法に応じて大きくなってしまう場合がある。これに対し、図8の断面構造では、図7の中央付近の接地電極Gにスリットを入れることで2つの接地電極Gに分けられている。
【0087】
図8の2つの接地電極Gとバッファ層9との接触面積は、図7の接地電極Gと基板5との接触面積よりも小さく、2つの接地電極Gの間に樹脂8を配設することが可能な領域を確保することができる。このように、図8に示す構成によれば、図7に示す構成では樹脂8を配設することができなかった2つの光導波路10の間(幅方向中央部)に樹脂8を配設することができる。したがって、図8に示す構成は、図7に示す構成と比べて、バッファ層9による基板5への応力をより緩和することができる構成となっている。
【0088】
図5図8の断面構造を例に挙げて説明したように、本発明は、光導波路10の間に信号電極Sが配置された構造を有する基板5、および、光導波路10の上に信号電極Sが配置された構造を有する基板5のいずれに対しても、バッファ層9による基板5への応力を緩和することができる。
【0089】
図5図8の断面構造は、図3および図4(a)〜(d)の配設パターンを含む任意の配設パターンを適用することができる。すなわち、本発明では、光導波路10に電界を効率的に印加できるように配慮された位置であれば、光導波路10の間に信号電極Sが配置された構造を有する基板5、および、光導波路10の上に信号電極Sが配置された構造を有する基板5のいずれに対しても、任意の形状および任意のサイズの樹脂8を配設することができ、バッファ層9による基板5への応力を緩和することができる。
【0090】
本実施の形態では、基板5上にリブ部6が形成されたリブ型基板を一例に挙げて説明している。しかしながら上述したように、本発明は、リブ型基板に限定されず、例えば金属の熱拡散により基板5内に光導波路10が形成される基板に対しても適用することができる。拡散型光導波路を有する基板においても同様に、図3および図4(a)〜(d)の配設パターンを含む任意の配設パターンで樹脂8を配設することが可能である。
【0091】
また、本実施の形態では、1つの信号電極Sの両側に接地電極Gが1つずつ配置されたコプレーナ線路構造を一例に挙げて説明している。しかしながら、本発明はこのようなコプレーナ線路構造に限定されず、例えば、並行する2つの信号電極Sの両側に接地電極Gが1つずつ配置された差動線路を有するコプレーナ線路構造が採用されてもよい。
【0092】
本発明は、本実施の形態で説明した光導波路素子を構成する光導波路を少なくとも一部に用いた光変調器を提供することができる。
【0093】
図9は、本発明の実施の形態に係る光変調器200の構成の一例を示す平面図である。図9に示す光変調器200は、光導波路素子202と、光導波路素子202を収容する筐体204と、光導波路素子202に光を入射するための入力光ファイバ208と、光導波路素子202から出力される光を筐体204の外部へ導く出力光ファイバ210とを備える。なお、図9に示す光変調器200の構成は一例にすぎず、本発明は、この構成に限定されるものではない。任意の構成を有する光変調器に対して、本発明に係る特徴を有する光導波路素子を組み込むことが可能である。
【0094】
図9に示す光変調器200は、長手方向一端部(図面左側)に入力光ファイバ208を備え、長手方向他端部(図面右側)に出力光ファイバ210を備える。ただし、光変調器200における光の入力位置および出力位置は任意に設定可能である。
【0095】
光導波路素子202は、例えば、基板上に設けられた光導波路206と、光導波路206内を伝搬する光波を変調するために基板上に形成された複数の電極212a〜212dとを有する。光導波路素子202は、例えば図9に示すように、複数のマッハツェンダー型光導波路が組み合わされた光導波路206を有する。
【0096】
図9に示す光変調器200は、一例として、光導波路素子202から2つの光が出力されて偏波合成部228により偏波合成された光を、出力光ファイバ210を介して筐体204の外部へ出力するように構成されている。ただし、本発明に係る光変調器200は、このような構成に限定されるものではない。例えば、上述した図1に示す光導波路素子1のように、第1合成部3aを備えて出射導波路から1つの光信号を出力する構成であってもよい。
【0097】
また、光導波路素子202も上述した光導波路素子1と同様に、基板とバッファ層との間に、樹脂が任意の配置パターンで配設された構成を有する。この構成により、基板とバッファ層との間に配設された樹脂によって、バッファ層による基板への応力低減が実現される。
【0098】
筐体204は、光導波路素子202が固定されるケースおよびカバーにより構成されている。カバーは、ケース全体を覆うように配置され、これにより、筐体204の内部が気密封止される。なお、筐体204内にドライバや受光素子(PD:Photo Detector)等の電子部品が収容されてもよい。
【0099】
筐体204のケースには、高周波信号を入力するための導体である複数のリードピン240a〜240dが設けられている。リードピン240a〜240dは、中継基板218を介して、光導波路素子202のマッハツェンダ型光導波路に設けられた複数の電極212a〜212dのそれぞれの一端が接続されている。また、複数の電極212a〜212dのそれぞれの他端は、インピーダンス素子である終端基板250により終端されている。なお、図9では詳細な構成について図示省略しているが、複数の電極212a〜212dは信号電極Sおよび接地電極Gを含み、光導波路206を伝搬する光波を変調できるようになっている。
【0100】
以上説明したように、本発明によれば、基板とバッファ層との間に樹脂が任意の配置パターンで配設された構成を有する光導波路素子を含んだ光変調器を提供することができる。
【0101】
本発明は、上記の実施の形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例および設計変更等をその技術的範囲内に包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、バッファ層による基板への応力の影響を低減させることで、当該応力に起因して生じ得る基板に対するダメージや基板の特性劣化を防ぐことができる光導波路素子および光変調器を提供するものであり、光通信分野や光計測分野等に適用可能である。
【符号の説明】
【0103】
1、202 光導波路素子
2a〜2c 分岐部
3a〜3c 合成部
5 基板
6 リブ部
7 補強基板
8 樹脂
9 バッファ層
10、206 光導波路
200 光変調器
204 筐体
208 入力光ファイバ
210 出力光ファイバ
212a、212b、212c、212d 電極
218 中継基板
228 偏波合成部
240a、240b、240c、240d リードピン
250 終端基板
G 接地電極
S 信号電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9