特開2021-105658(P2021-105658A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-105658(P2021-105658A)
(43)【公開日】2021年7月26日
(54)【発明の名称】光導波路デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20210625BHJP
【FI】
   G02F1/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-236815(P2019-236815)
(22)【出願日】2019年12月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】釘本 有紀
(72)【発明者】
【氏名】村田 祐美
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝利
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA22
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102DA04
2K102DA05
2K102DC03
2K102DC04
2K102DD05
2K102EA02
(57)【要約】
【課題】
温度ドリフト現象及びDCドリフト現象を同時に抑制可能な光導波路デバイスを提供すること。
【解決手段】
電気光学効果を有し、熱膨張率に異方性を有する結晶であり、厚さが10μm以下に設定されると共に、光導波路3を備えた光導波路基板1と、該光導波路基板を保持する保持基板4とが接合された光導波路デバイスにおいて、該保持基板は、該光導波路基板より誘電率が低く、熱膨張率に異方性を有する結晶で形成され、該光導波路基板と該保持基板とは、接合面における異なる軸方向に関し、互いの熱膨張率の差が小さくなるように接合されていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有し、熱膨張率に異方性を有する結晶であり、厚さが10μm以下に設定されると共に、光導波路を備えた光導波路基板と、該光導波路基板を保持する保持基板とが接合された光導波路デバイスにおいて、
該保持基板は、該光導波路基板より誘電率が低く、熱膨張率に異方性を有する結晶で形成され、
該光導波路基板と該保持基板とは、接合面における異なる軸方向に関し、互いの熱膨張率の差が小さくなるように接合されていることを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路デバイスにおいて、前記熱膨張率の差が、異方性の軸方向に対し、5ppm/℃以下となるように設定されていることを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光導波路デバイスにおいて、該光導波路基板がニオブ酸リチウム又はタンタル酸リチウムであり、該保持基板がα石英単結晶であることを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光導波路デバイスにおいて、前記接合は、直接接合又は100nm以下の厚みを有する接着層を介する接合のいずれかであることを特徴とする光導波路デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路デバイスに関し、特に、電気光学効果を有し、熱膨張率に異方性を有する結晶であり、厚さが10μm以下に設定されると共に、光導波路を備えた光導波路基板と、該光導波路基板を保持する保持基板とが接合された光導波路デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野や光計測分野において、ニオブ酸リチウム(LN)などの電気光学効果を有する基板に光導波路を形成した、光変調器などの光導波路デバイスが多用されている。LN等を用いた光変調器における広帯域化には、変調用の電気信号であるマイクロ波と、光導波路を伝搬する光波との速度整合や、光変調器を駆動する駆動電圧の低減が必要となる。この課題を解決する手段として、光導波路基板を薄板化し、光導波路や変調電極の直下に、光導波路基板よりも誘電率の低い層を配置する方法が用いられている。
【0003】
この場合、薄板化した光導波路基板と、その直下の低誘電率層との間の線膨張係数差に起因する内部応力により、薄板化した光導波路基板に剥離やクラックが生じたり、温度ドリフトによる光変調器の特性の劣化が発生する。これを抑制するため、光導波路基板と低誘電率層とを貼り合わせる接着剤に、両者と線膨張係数の近い材料を使用する方法(特許文献1参照)や、光導波路基板を保持する保持基板に樹脂基板を用いる方法(特許文献2又は3参照)などが提案されている。
【0004】
また、LN結晶は三方晶結晶であり、Z軸に対して垂直な方向([001]面)と、水平な方向([100]面)で線膨張係数が異なる。具体的には、LNの線膨張係数はZ軸方向が4ppm/℃、X及びY軸方向が15ppm/℃であるため、Z軸に水平に切り出したXカット基板については、接合面となる基板面上において線膨張係数に異方性が存在する。
【0005】
一般的な接着剤や樹脂基板は等方性であるため、Xカット基板の接合面における異なる方向に対して、線膨張係数を合わせることは不可能である。このため、特許文献4では、保持基板に、線膨張係数に異方性を有する液晶ポリマーを用いることを提案している。
【0006】
一方、マッハツェンダー型光導波路を有する光変調器などの光導波路デバイスにおいては、バイアス点がずれる、所謂、ドリフト現象が発生する。これは、温度変化によって発生する温度ドリフト現象と、DCバイアス電圧の印加時に発生するDCドリフト現象の2種類がある。
【0007】
温度ドリフトの原因の一つは、光導波路基板とそれに接着した材料との間に、線膨張係数の差がある場合、温度変化によって材料間に熱応力発生し、光導波路近傍の屈折率が変化し、バイアス点が変化するものである。他方、DCドリフトは、光導波路基板及びそれに接する他の部材中における可動キャリア、あるいは極性基の分極/脱分極が原因と想定される。
【0008】
特許文献1乃至4に示すような従来技術では、光導波路基板とその直下に形成する低誘電率層との線膨張係数の差による温度ドリフトの問題や、低誘電率層として用いる樹脂や接着剤中に含まれる、可動キャリアや極性基によりDCドリフトの問題を、同時に解決することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4375597号公報
【特許文献2】特許第4961372号公報
【特許文献3】特許第5262186号公報
【特許文献4】特許第5691808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、温度ドリフト現象及びDCドリフト現象を同時に抑制可能な光導波路デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の光導波路デバイスは、以下のような技術的特徴を有する。
(1) 電気光学効果を有し、熱膨張率に異方性を有する結晶であり、厚さが10μm以下に設定されると共に、光導波路を備えた光導波路基板と、該光導波路基板を保持する保持基板とが接合された光導波路デバイスにおいて、該保持基板は、該光導波路基板より誘電率が低く、熱膨張率に異方性を有する結晶で形成され、該光導波路基板と該保持基板とは、接合面における異なる軸方向に関し、互いの熱膨張率の差が小さくなるように接合されていることを特徴とする。
【0012】
(2) 上記1に記載の光導波路デバイスにおいて、前記熱膨張率の差が、異方性の軸方向に対し、5ppm/℃以下となるように設定されていることを特徴とする。
【0013】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光導波路デバイスにおいて、該光導波路基板がニオブ酸リチウム又はタンタル酸リチウムであり、該保持基板がα石英単結晶であることを特徴とする。
【0014】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光導波路デバイスにおいて、前記接合は、直接接合又は100nm以下の厚みを有する接着層を介する接合のいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、電気光学効果を有し、熱膨張率に異方性を有する結晶であり、厚さが10μm以下に設定されると共に、光導波路を備えた光導波路基板と、該光導波路基板を保持する保持基板とが接合された光導波路デバイスにおいて、該保持基板は、該光導波路基板より誘電率が低く、熱膨張率に異方性を有する結晶で形成され、該光導波路基板と該保持基板とは、接合面における異なる軸方向に関し、互いの熱膨張率の差が小さくなるように接合されているため、温度ドリフト現象及びDCドリフト現象を同時に抑制可能な光導波路デバイスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る光導波路デバイスの第1実施例を示す断面図である。
図2】本発明に係る光導波路デバイスの第2実施例を示す断面図である。
図3】本発明に係る光導波路デバイスの第3実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を好適例を用いて詳細に説明する。
本発明は、図1乃至3に示すように、電気光学効果を有し、熱膨張率に異方性を有する結晶であり、厚さtが10μm以下に設定されると共に、光導波路3を備えた光導波路基板1と、該光導波路基板を保持する保持基板4とが接合された光導波路デバイスにおいて、該保持基板4は、該光導波路基板1より誘電率が低く、熱膨張率に異方性を有する結晶で形成され、該光導波路基板と該保持基板とは、接合面における異なる軸方向に関し、互いの熱膨張率の差が小さくなるように接合されていることを特徴とする。
【0018】
本発明に用いる光導波路基板1は、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)の結晶であり、三方晶結晶である。光導波路基板の厚みtは、マイクロ波と光波との速度整合や駆動電圧の低減などの観点から、10μm以下であり、光の閉じ込めを強くするために導波路を図2又は3に示すようにリッジ構造(リッジ部分10)にする場合は2μm以下、導波路の曲げ半径を小さくするために、さらに好ましくは1μm未満に設定されている。
【0019】
光導波路基板の厚みtが10μm以下の薄板では、靭性が損なわれ非常に脆くなる上、リッジ導波路はエッジ部分に応力が集中し、物性的にはよりクラックが発生しやすくなる。本発明によれば、熱膨張による内部応力発生を抑制するため、クラックを低減させることが出来る。
【0020】
光導波路3の形成方法としては、図1に示すように、Ti等の金属を基板中に熱拡散し、基板材料より高屈折率な部分を形成する方法や、図2又は3に示すように、基板表面に凹凸を形成しリッジ型導波路(リブ導波路)10を構成する方法などが適用可能である。また、光導波路に電界を印加する変調電極(信号電極(S)2,接地電極(G)20)やDCバイアス電極などの制御電極は、基板上に形成されたAu/Tiなどの下地電極層の上に金をメッキ法などで数〜数十μmの厚みで積層し形成される。
【0021】
光導波路基板1を保持する保持基板4は、光導波路基板より誘電率が低く、熱膨張率に異方性を有する結晶が用いられる。具体的には、α石英単結晶のような三方晶結晶が好適に用いられる。α石英単結晶は、比誘電率が4.6であり、電気光学効果を有する単結晶基板であるLN(比誘電率29.5)やLT(比誘電率44.5)と比較しても十分低い。
【0022】
また、α石英単結晶は、三方晶結晶であり、非晶質(線膨張係数が等方性)な石英ガラスとは異なる。α石英単結晶の線膨張係数は、Z軸方向が8ppm/℃、X及びY軸方向が13ppm/℃であり、線膨張係数において異方性を有している。しかも、これらの線膨張係数は、LNの線膨張係数(Z軸方向が4ppm/℃,X及びY軸方向が15ppm/℃)やLTの線膨張係数(Z軸方向が5ppm/℃,X及びY軸方向が14ppm/℃)に近い値を有している。
【0023】
したがって、光導波路基板のZ軸と保持基板(低誘電率層)であるα石英単結晶のZ軸が互いに平行になるように両者を接合することによって、低誘電率層の線膨張係数を光導波路基板に近づけることができる。その結果、光導波路基板と低誘電率層との間の熱応力に起因する温度ドリフトを効果的に抑制できる。
【0024】
しかも、α石英単結晶は、不純物の含有が少なく、可動キャリアによるDCドリフト現象の発生も抑制することが可能となる。この点からも、結晶中の不純物量をより低減できる人工水晶(低温型α石英)がより好ましい。
【0025】
また、光導波路基板と保持基板との接合に関しても、α石英単結晶を用いた場合には、両者の線膨張係数が5ppm/℃以下と極めて近く、600℃に近い加熱工程を経ても基板が破損しないため、基板同士を共有結合させた直接接合も可能となる。特に、リッジ型導波路の側面での散乱を抑制するため加熱処理による焼きなましを行う場合や、レジスト材料をベーク処理する場合であっても、基板の破損を抑制することが可能となる。
【0026】
図1又は2に示すように、光導波路基板1と保持基板4は、互いの基板の表面を活性化させるなどの方法を用いて直接接合しても良く、また、図3に示すように、接着層5を介して接合しても良い。
【0027】
接着層5として、接着剤や樹脂、水ガラスあるはガラスフリット等を用いると、接着層と光導波路基板との間の線膨張係数の差による温度ドリフト現象が発生する原因となる。
また、接着層中に含有する極性基や可動キャリア等の影響で、DCドリフト現象も発生する原因となるため好ましくない。これらのドリフトは、接着層の厚さが厚いほど特に発生しやすい。
基板同士の接合で接着層5を使用する場合には、温度ドリフト現象やDCドリフト現象の発生を少しでも抑制する観点から、アルミナ、五酸化タンタル、五酸化ニオブ等の酸化物等をごく薄く(100nm以下)形成することが好ましい。
【0028】
光導波路デバイスは、安定した動作環境を実現し、経年劣化も抑制するため、光導波路デバイスを構成する基板(チップ)が金属等の筐体内に収容されている。筐体にステンレス鋼(線膨張係数10ppm/℃)やコバール(Carpenter Technology Corporationの登録商標。線膨張係数5ppm/℃)等のコバルト合金を用いる場合は、保持基板の線膨張係数とも近く、温度変化に対する耐久性の高い光導波路デバイスを提供することが可能となる。
【0029】
光導波路基板にLNやLTを用い、保持基板にα石英単結晶を用いて光導波路デバイスを作成し、ドリフト現象の影響を評価した。その結果を表1に示す。なお、表1において、光導波路基板の「X−LN」はXカットのLN基板を意味する。また、LT基板についても同様である。「CTE」は線膨張係数であり、「水平」「垂直」は基板の接合面内での異なる軸方向における線膨張係数を示している。接着剤の「無」は直接接合を意味し、「Al 10nmt」はAl(アルミナ)を10nmの厚みで塗布し接合することを意味する。「アクリル」「ガラスフリット」は接着剤の材料であり、数値はその厚みを示す。保持基板の「X−α−石英」はXカットのα石英単結晶である。
【0030】
マッハツェンダー型(MZ構造)光導波路を有する変調器を作成し、ドリフトを評価した。温度ドリフトの評価は、変調器にAC電圧を印加した状態で温度を−5℃から85℃まで変化させ、変調器から出力される光のピーク強度の変化量を電圧値として測定した。
一方、DCドリフトの評価は、測定温度85℃、印加電圧一定(3.5V)とし、変調器から出力される光のピーク強度の24時間での変化量を電圧値として測定した。
表1ではこれらの電圧変化量をドリフト量とし、ドリフト量が3V以下であったものを評価「○」とし、3Vより大きい場合を評価「×」を付した。
【0031】
【表1】
【0032】
表1の結果より、保持基板にα石英単結晶を用い、光導波路基板との接合面における異なる軸方向で線膨張係数の差を5ppm/℃以下に抑制した場合には、温度ドリフト現象もDCドリフト現象も効果的に抑制できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明に係る光導波路デバイスによれば、温度ドリフト現象及びDCドリフト現象を同時に抑制可能な光導波路デバイスを提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1 光導波路基板
2 信号電極(変調電極,制御電極)
20 接地電極(変調電極,制御電極)
3 光導波路
4 保持基板
5 接着層
図1
図2
図3