【解決手段】金属張積層板10は、第1の金属層M1と、その片側に接する第1の伝送損失抑制層BS1と、第2の金属層M2と、その片側に接する第2の伝送損失抑制層BS2と、第1の伝送損失抑制層BS1と第2の伝送損失抑制層BS2との間に介在する複数の樹脂層を備える。樹脂積層体20は、第1の伝送損失抑制層BS1及び第2の伝送損失抑制層BS2、少なくとも2層以上の寸法精度維持層PL及び寸法精度維持層PLの間に積層されている中間伝送損失抑制層BS3を有している。金属張積層板10は、寸法精度維持層PLの合計厚みが、樹脂積層体20の合計厚みの25〜60%の範囲内にある。
前記寸法精度維持層が、100℃から250℃の温度領域での貯蔵弾性率の最小値が1.0〜8.0GPaの範囲内であり、熱膨張係数が15〜25ppm/Kの範囲内の低熱膨張性ポリイミド層である請求項1に記載の金属張積層板。
前記第1の伝送損失抑制層及び第2の伝送損失抑制層を構成する樹脂が、酸無水物成分と、ジアミン成分と、を反応させてなるポリイミドであって、前記ジアミン成分の全量100モル部に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを50モル部以上含有する請求項1又は2に記載の金属張積層板。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、適宜図面を参照して説明する。
【0016】
[金属張積層板]
図1は、本発明の一実施の形態の金属張積層板の構成を示す模式図である。本実施の形態の金属張積層板10は、
第1の金属層M1と、
第1の金属層M1の片側に接して設けられている第1の伝送損失抑制層BS1と、
第2の金属層M2と、
第2の金属層M2の片側に接して設けられている第2の伝送損失抑制層BS2と、
第1の伝送損失抑制層BS1と第2の伝送損失抑制層BS2との間に介在する複数の樹脂層と、
を備えている。金属張積層板10は、一対の金属層(配線となる第1の金属層M1及び第2の金属層M2)に最も近接する位置に、それぞれ、低誘電正接である第1の伝送損失抑制層BS1及び第2の伝送損失抑制層BS2を設けているため、高周波信号伝送における伝送損失を効果的に抑えることができる。
ここで、第1の伝送損失抑制層BS1と第2の伝送損失抑制層BS2と複数の樹脂層とによって樹脂積層体20が形成されている。この樹脂積層体20は、第1の伝送損失抑制層BS1及び第2の伝送損失抑制層BS2に加え、少なくとも2層以上の寸法精度維持層PLと、寸法精度維持層PLの間に積層されている中間伝送損失抑制層BS3を有している。
このように、第1の伝送損失抑制層BS1と第2の伝送損失抑制層BS2との間に、寸法精度維持層PLと中間伝送損失抑制層BS3との積層構造を設けることによって、高い寸法安定性を確保しながら、低誘電化が実現されている。
なお、樹脂積層体20は、上記以外の任意の樹脂層を有していてもよいが、上記各機能を有する樹脂層のみによって形成されていることが好ましい。
【0017】
図1に示すように、第1の金属層M1と第2の金属層M2は、それぞれ最も外側に位置し、それらの内側に接して第1の伝送損失抑制層BS1及び第2の伝送損失抑制層BS2が配置され、さらに第1の伝送損失抑制層BS1と第2の伝送損失抑制層BS2との間に、複数の寸法精度維持層PLと中間伝送損失抑制層BS3を含む複数の樹脂層が介在配置されている。ここで、第1の伝送損失抑制層BS1は、一つの寸法精度維持層PLに隣接しており、第2の伝送損失抑制層BS2は別の寸法精度維持層PLに接している。
【0018】
図1に示す金属張積層板10は、2層の寸法精度維持層PLと1層の中間伝送損失抑制層BS3とを有しているが、寸法精度維持層PLが2層以上であればよく、中間伝送損失抑制層BS3の層数に特に制限はない。例えば、
図2に示すように、3層の寸法精度維持層PLと2層の中間伝送損失抑制層BS3を有する構成でもよいし、
図3に示すように、5層の寸法精度維持層PLと4層の中間伝送損失抑制層BS3を有する構成でもよい。
【0019】
金属張積層板10において、第1の金属層M1及び第2の金属層M2の構成は、同じであってもよいし、異なっていてもよいが、同じ材質、同じ物性、同じ厚み、であることが好ましい。
【0020】
また、第1の伝送損失抑制層BS1と第2の伝送損失抑制層BS2の構成は、同じであってもよいし、異なっていてもよいが、同じ材質、同じ物性、同じ厚みであることが好ましい。例えば、第1の伝送損失抑制層BS1と第2の伝送損失抑制層BS2の誘電正接や厚みを同じにすることによって、高周波伝送用回路基板を作製したときの伝送損失低減設計が容易になる。
【0021】
さらに、第1の伝送損失抑制層BS1と第2の伝送損失抑制層BS2と中間伝送損失抑制層BS3の構成は、同じであってもよいし、異なっていてもよいが、樹脂積層体20全体の誘電特性を改善し、高周波信号の伝送損失を効果的に抑制するため、同じ材質、同じ物性、であることが好ましい。
【0022】
複数の寸法精度維持層PLの構成は、同じであってもよいし、異なっていてもよいが、回路基板を作製したときの機械的強度や寸法精度の設計が容易になることから、同じ材質、同じ物性、同じ厚み、同じ層構造であることが好ましい。
【0023】
金属張積層板10は、下記の条件i及びiiを満たしている。
【0024】
条件i:
第1の伝送損失抑制層BS1及び第2の伝送損失抑制層BS2の誘電正接をDf
1、寸法精度維持層PLの誘電正接をDf
2としたとき、Df
1<Df
2の関係にあること。
高周波信号の伝送路である回路配線となるべき第1及び第2の金属層M1,M2にそれぞれ接する第1及び第2の伝送損失抑制層BS1,BS2の誘電正接Df
1を、寸法精度維持層PLの誘電正接Df
2に比較して低く設計することによって、高周波信号の伝送損失を効果的に抑制できる。なお、第1の伝送損失抑制層BS1と第2の伝送損失抑制層BS2の誘電正接が異なる場合でも、どちらもDf
1<Df
2の関係を満たすことが必要である。本発明において特に明記しない場合には、誘電率及び誘電正接は、23℃、50%RHの恒温恒湿条件(常態)のもと24時間調湿後にスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される10GHzにおける誘電率及び誘電正接を意味する。
【0025】
高周波信号の伝送損失の抑制を図る観点から、第1及び第2の伝送損失抑制層BS1,BS2の10GHzにおける誘電正接Df
1は、0.005以下であることが好ましく、0.003以下がより好ましい。
【0026】
なお、条件iと同様に測定される10GHzにおける中間伝送損失抑制層BS3の誘電正接Df
3は、高周波信号の伝送損失の抑制を図る観点から、0.005以下であることが好ましく、0.003以下がより好ましく、第1及び第2の伝送損失抑制層BS1,BS2の誘電正接Df
1と同じであることが最も好ましい。
【0027】
また、寸法精度維持層PLの誘電正接Df
2は、出来るだけ低いことが望ましいが、寸法精度と機械的強度の維持を主目的とする層であることから、条件iを満たすことを前提にして、好ましくは0.012以下であればよく、より好ましくは0.010以下がよい。寸法精度維持層PLの誘電正接Df
2が多少高くなっても、より低誘電正接である第1及び第2の伝送損失抑制層BS1,BS2及び中間伝送損失抑制層BS3と積層し、これらとの厚み比率を考慮することによって、樹脂積層体20全体の低誘電化を担保できるためである。
【0028】
条件ii:
寸法精度維持層PLの合計厚みT
PLが、樹脂積層体20(つまり、第1及び第2の伝送損失抑制層BS1,BS2と、一ないし複数の中間伝送損失抑制層BS3と、複数の寸法精度維持層PL)の総厚みTの25〜60%の範囲内にあること。
複数の寸法精度維持層PLの合計厚みT
PLと樹脂積層体20の総厚みTとの比率を上記範囲内とすることによって、金属張積層板10を回路加工したときの寸法精度と機械的強度を維持しながら、高周波信号の伝送損失の低減を図ることができる。かかる観点から、総厚みTに対する厚みT
PLの比率は、25〜50%の範囲内が好ましい。
【0029】
ここで、樹脂積層体20における各層の厚みは、使用目的に応じて適宜設定できるので特に限定されるものではないが、以下のとおり例示できる。
第1及び第2の伝送損失抑制層BS1,BS2の一層の厚みは、2〜100μmの範囲内が好ましく、5〜75μmの範囲内がより好ましい。
寸法精度維持層PLの一層の厚みは、10〜100μmの範囲内が好ましく、12〜50μmの範囲内がより好ましい。
中間伝送損失抑制層BS3の一層の厚みは、12〜150μmの範囲内が好ましく、25〜100μmの範囲内がより好ましい。
樹脂積層体20の総厚みTは、50〜300μmの範囲内が好ましく、75〜200μmの範囲内がより好ましい。
【0030】
また、樹脂積層体20全体の低誘電化を図るため、第1及び第2の伝送損失抑制層BS1,BS2と中間伝送損失抑制層BS3との合計厚みT
Bは、樹脂積層体20の総厚みTに対して、40〜75%の範囲内にあることが好ましく、50〜75%の範囲内がより好ましい。
【0031】
以下、金属張積層板10を構成する各層について説明する。
【0032】
[金属層]
第1の金属層M1及び第2の金属層M2の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。なお、後述する本実施の形態の回路基板における配線層の材質も第1の金属層M1及び第2の金属層M2と同様である。
【0033】
第1の金属層M1及び第2の金属層M2の厚みは特に限定されるものではないが、例えば銅箔等の金属箔を用いる場合、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5〜25μmの範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から金属箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。なお、銅箔を用いる場合は、圧延銅箔でも電解銅箔でもよい。また、銅箔としては、市販されている銅箔を用いることができる。
【0034】
また、金属箔は、例えば、防錆処理や、接着力の向上を目的として、例えばサイディング、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等による表面処理を施してもよい。
【0035】
[伝送損失抑制層]
第1及び第2の伝送損失抑制層BS1,BS2及び中間伝送損失抑制層BS3(以下、これらを総称して「伝送損失抑制層BS1〜BS3」と記すことがある)を構成する樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が180℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましい。伝送損失抑制層BS1〜BS3のガラス転移温度を180℃以下とすることによって、低温での熱圧着が可能になるため、積層時に発生する内部応力を緩和し、回路加工後の寸法変化を抑制できる。伝送損失抑制層BS1〜BS3のTgが180℃を超えると、寸法精度維持層PLの間に介在させて接着する際の温度が高くなり、回路加工後の寸法安定性を損なう恐れがある。
【0036】
伝送損失抑制層BS1〜BS3は、100℃から250℃の温度領域での貯蔵弾性率の最大値が1.0GHz以下であることが好ましい。このような貯蔵弾性率であれば、熱圧着時の内部応力を緩和し、回路加工後の寸法安定性を保持することができる。また、回路加工後の半田リフロー工程を経た後においても、反りが生じにくい。
【0037】
第1及び第2の伝送損失抑制層BS1,BS2及び中間伝送損失抑制層BS3を構成する樹脂は、ポリイミドであることが好ましく、酸無水物成分と、ジアミン成分の全量100モル部に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを50モル部以上含有するジアミン成分と、を反応させて得られる前駆体のポリアミド酸をイミド化した熱可塑性ポリイミド(以下、「DDA系ポリイミド」と記すことがある)又はその架橋硬化物であることがより好ましい。なお、本発明でポリイミドという場合、ポリイミドの他、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリシロキサンイミド、ポリベンズイミダゾールイミドなど、分子構造中にイミド基を有するポリマーからなる樹脂を意味する。
【0038】
<DDA系ポリイミド>
DDA系ポリイミドは、脂肪族系の熱可塑性ポリイミドであり、可撓性に富み、液晶性高分子フィラーを大量に添加した場合でも十分な靭性を有し、樹脂フィルムを形成した場合にその形状を保持する能力が高い。
【0039】
DDA系ポリイミドは、原料のテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基及び原料のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含んでいる。なお、本発明において、テトラカルボン酸残基とは、テトラカルボン酸二無水物から誘導された4価の基のことを表し、ジアミン残基とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを表す。原料であるテトラカルボン酸無水物及びジアミン化合物をほぼ等モルで反応させることによって、原料の種類と量に対して、DDA系ポリイミド中に含まれるテトラカルボン酸残基及びジアミン残基の種類と量をほぼ対応させることができる。
【0040】
(酸無水物成分)
DDA系ポリイミドは、原料として一般に熱可塑性ポリイミドに使用されるテトラカルボン酸無水物を特に制限なく使用できるが、全酸無水物成分に対して、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物を合計で90モル%以上含有することが好ましい。換言すれば、DDA系ポリイミドは、全テトラカルボン酸残基100モル部に対して、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を、合計で90モル部以上含有することが好ましい。下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を、テトラカルボン酸残基100モル部に対して合計で90モル部以上含有させることによって、DDA系ポリイミドの柔軟性と耐熱性の両立が図りやすく好ましい。下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基の合計が90モル部未満では、DDA系ポリイミドの溶剤溶解性が低下する傾向になる。
【0042】
一般式(1)中、Xは、単結合、または、下式から選ばれる2価の基を示し、一般式(2)中、Yで表される環状部分は、4員環、5員環、6員環、7員環又は8員環から選ばれる環状飽和炭化水素基を形成していることを示す。
【0044】
上記式において、Zは−C
6H
4−、−(CH
2)n−又は−CH
2−CH(−O−C(=O)−CH
3)−CH
2−を示すが、nは1〜20の整数を示す。
【0045】
上記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸無水物としては、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、2,2−ビス〔4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物(BPADA)、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート(TMEG)などを挙げることができる。これらの中でも特に3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)が好ましい。BTDAを使用する場合は、カルボニル基(ケトン基)が接着性に寄与するため、DDA系ポリイミドの接着性を向上させることができる。また、BTDAは分子骨格に存在するケトン基と、後述する架橋形成のためのアミノ化合物のアミノ基が反応してC=N結合を形成する場合があり、耐熱性を向上させる効果を発現しやすい。このような観点から、テトラカルボン酸残基100モル部に対して、BTDAから誘導されるテトラカルボン酸残基を好ましくは50モル部以上、より好ましくは60モル部以上含有することがよい。
【0046】
また、一般式(2)で表されるテトラカルボン酸無水物としては、例えば、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘプタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−シクロオクタンテトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。
【0047】
DDA系ポリイミドは、発明の効果を損なわない範囲で、上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるテトラカルボン酸無水物以外の酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を含有することができる。そのようなテトラカルボン酸残基としては、特に制限はないが、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-又は2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基が挙げられる。
【0048】
(ジアミン成分)
DDA系ポリイミドは、原料として、ジアミン成分の全量100モル部に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを50モル部以上、より好ましくは70モル部以上含有するジアミン成分を用いる。ダイマージアミンを上記の量で含有することによって、ポリイミドの誘電特性を改善させるとともに、ポリイミドのガラス転移温度の低温化(低Tg化)による熱圧着特性の改善及び低弾性率化による内部応力を緩和することができる。
【0049】
ダイマージアミンとは、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(−COOH)が、1級のアミノメチル基(−CH
2−NH
2)又はアミノ基(−NH
2)に置換されてなるジアミンを意味する。ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の分子間重合反応によって得られる既知の二塩基酸であり、その工業的製造プロセスは業界でほぼ標準化されており、炭素数が11〜22の不飽和脂肪酸を粘土触媒等にて二量化して得られる。工業的に得られるダイマー酸は、オレイン酸やリノール酸、リノレン酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られる炭素数36の二塩基酸が主成分であるが、精製の度合いに応じ、任意量のモノマー酸(炭素数18)、トリマー酸(炭素数54)、炭素数20〜54の他の重合脂肪酸を含有する。また、ダイマー化反応後には二重結合が残存するが、本発明では、更に水素添加反応して不飽和度を低下させたものもダイマー酸に含めるものとする。ダイマージアミンは、炭素数18〜54の範囲内、好ましくは22〜44の範囲内にある二塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるジアミン化合物、と定義することができる。
【0050】
ダイマージアミンの特徴として、ダイマー酸の骨格に由来する特性を付与することができる。すなわち、ダイマージアミンは、分子量約560〜620の巨大分子の脂肪族であるので、分子のモル体積を大きくし、DDA系ポリイミドの極性基を相対的に減らすことができる。このようなダイマー酸型ジアミンの特徴は、DDA系ポリイミドの耐熱性の低下を抑制しつつ、誘電率と誘電正接を小さくして誘電特性を向上させることに寄与すると考えられる。また、2つの自由に動く炭素数7〜9の疎水鎖と、炭素数18に近い長さを持つ2つの鎖状の脂肪族アミノ基とを有するので、DDA系ポリイミドに柔軟性を与えるのみならず、DDA系ポリイミドを非対象的な化学構造や非平面的な化学構造とすることができるので、低誘電率化を図ることができると考えられる。
【0051】
本発明で用いるダイマージアミンは、ダイマージアミン以外の成分を低減する目的で精製することが好ましい。精製方法としては、特に制限されないが、蒸留法や沈殿精製等の公知の方法が好適である。精製前のダイマージアミンは、市販品での入手が可能であり、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、同PRIAMINE1075(商品名)等が挙げられる。
【0052】
DDA系ポリイミドに使用されるダイマージアミン以外のジアミン化合物としては、芳香族ジアミン化合物、脂肪族ジアミン化合物を挙げることができる。それらの具体例としては、1,4−ジアミノベンゼン(p−PDA;パラフェニレンジアミン)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−n−プロピル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−NPB)、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート(APAB)、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2'-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド、4,4'-ジアミノベンズアニリド、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、6-アミノ-2-(4-アミノフェノキシ)ベンゾオキサゾール、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン等のジアミン化合物が挙げられる。
【0053】
DDA系ポリイミドは、上記の酸無水物成分とジアミン成分を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5〜50重量%の範囲内、好ましくは10〜40重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、メタノール、エタノール、ベンジルアルコール、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5〜50重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0054】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500mPa・s〜100000mPa・sの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0055】
ポリアミド酸をイミド化させてポリイミドを形成させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。また、温度は一定の温度条件で加熱しても良いし、工程の途中で温度を変えることもできる。
【0056】
DDA系ポリイミドにおいて、上記酸無水物成分及びジアミン成分の種類や、2種以上の酸無水物成分又はジアミン成分を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、誘電特性、熱膨張係数、引張弾性率、ガラス転移温度等を制御することができる。また、DDA系ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0057】
DDA系ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000〜200,000の範囲内が好ましく、このような範囲内であれば、ポリイミドの重量平均分子量の制御が容易となる。また、例えばFPC用の接着剤として適用する場合、DDA系ポリイミドの重量平均分子量は、20,000〜150,000の範囲内がより好ましく、40,000〜150,000の範囲内が更に好ましい。FPC用の接着剤として適用する場合、DDA系ポリイミドの重量平均分子量が20,000未満である場合、フロー耐性が悪化する傾向となる。一方、DDA系ポリイミドの重量平均分子量が150,000を超えると、過度に粘度が増加して溶剤に不溶になり、塗工作業の際に接着剤層の厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0058】
DDA系ポリイミドのイミド基濃度は、好ましくは22重量%以下、より好ましくは20重量%以下がよい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(−(CO)
2−N−)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が22重量%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化し、Tg及び弾性率が上昇する。
【0059】
DDA系ポリイミドは、完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm
−1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm
−1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出することができる。
【0060】
DDA系ポリイミドには、任意成分として、例えば可塑剤、エポキシ樹脂などの他の硬化樹脂成分、硬化剤、硬化促進剤、無機フィラー、カップリング剤、充填剤、溶剤、難燃剤などを適宜配合することができる。
【0061】
[DDA系ポリイミドの架橋形成]
DDA系ポリイミドがケトン基を有する場合に、該ケトン基と、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物(以下、「架橋形成用アミノ化合物」と記すことがある)のアミノ基を反応させてC=N結合を形成させることによって、架橋構造を形成することができる。架橋構造の形成によって、DDA系ポリイミドの耐熱性を向上させることができる。ケトン基を有するDDA系ポリイミドを形成するために好ましいテトラカルボン酸無水物としては、例えば3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を、ジアミン化合物としては、例えば、4,4’―ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)等の芳香族ジアミンを挙げることができる。
【0062】
架橋構造を形成させる目的において、特に、全テトラカルボン酸残基に対して、BTDAから誘導されるBTDA残基を、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上含有する上記のDDA系ポリイミド、及び架橋形成用アミノ化合物、を含むことが好ましい。なお、本発明において、「BTDA残基」とは、BTDAから誘導された4価の基のことを意味する。
【0063】
架橋形成用アミノ化合物としては、(I)ジヒドラジド化合物、(II)芳香族ジアミン、(III)脂肪族アミン等を例示することができる。これらの中でも、ジヒドラジド化合物が好ましい。ジヒドラジド化合物以外の脂肪族アミンは、室温でも架橋構造を形成しやすく、ワニスの保存安定性の懸念があり、一方、芳香族ジアミンは、架橋構造の形成のために高温にする必要がある。このように、ジヒドラジド化合物を使用した場合は、ワニスの保存安定性と硬化時間の短縮化を両立させることができる。ジヒドラジド化合物としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ二酸ジヒドラジド、4,4−ビスベンゼンジヒドラジド、1,4−ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6−ピリジン二酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物が好ましい。以上のジヒドラジド化合物は、単独でもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0064】
また、上記(I)ジヒドラジド化合物、(II)芳香族ジアミン、(III)脂肪族アミン等のアミノ化合物は、例えば(I)と(II)の組み合わせ、(I)と(III)との組み合わせ、(I)と(II)と(III)との組み合わせのように、カテゴリーを超えて2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0065】
また、架橋形成用アミノ化合物による架橋で形成される網目状の構造をより密にするという観点から、本発明で使用する架橋形成用アミノ化合物は、その分子量(架橋形成用アミノ化合物がオリゴマーの場合は重量平均分子量)が5,000以下であることが好ましく、より好ましくは90〜2,000、更に好ましくは100〜1,500がよい。この中でも、100〜1,000の分子量をもつ架橋形成用アミノ化合物が特に好ましい。架橋形成用アミノ化合物の分子量が90未満になると、架橋形成用アミノ化合物の1つのアミノ基がDDA系ポリイミドのケトン基とC=N結合を形成するにとどまり、残りのアミノ基の周辺が立体的に嵩高くなるために残りのアミノ基はC=N結合を形成しにくい傾向となる。
【0066】
DDA系ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物とを架橋形成させる場合は、DDA系ポリイミドを含む樹脂溶液に、上記架橋形成用アミノ化合物を加えて、DDA系ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物の第1級アミノ基とを縮合反応させる。この縮合反応により、樹脂溶液は硬化して硬化物となる。この場合、架橋形成用アミノ化合物の添加量は、ケトン基1モルに対し、第1級アミノ基が合計で0.004モル〜1.5モル、好ましくは0.005モル〜1.2モル、より好ましくは0.03モル〜0.9モル、最も好ましくは0.04モル〜0.6モルとすることができる。ケトン基1モルに対して第1級アミノ基が合計で0.004モル未満となるような架橋形成用アミノ化合物の添加量では、架橋形成用アミノ化合物による架橋が十分ではないため、硬化後の耐熱性が発現しにくい傾向となり、架橋形成用アミノ化合物の添加量が1.5モルを超えると未反応の架橋形成用アミノ化合物が熱可塑剤として作用し、接着剤層としての耐熱性を低下させる傾向がある。
【0067】
架橋形成のための縮合反応の条件は、DDA系ポリイミドにおけるケトン基と上記架橋形成用アミノ化合物の第1級アミノ基が反応してイミン結合(C=N結合)を形成する条件であれば、特に制限されない。加熱縮合の温度は、縮合によって生成する水を系外へ放出させるため、又はDDA系ポリイミドの合成後に引き続いて加熱縮合反応を行なう場合に当該縮合工程を簡略化するため等の理由で、例えば120〜220℃の範囲内が好ましく、140〜200℃の範囲内がより好ましい。反応時間は、30分〜24時間程度が好ましい。反応の終点は、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1670cm
−1付近のポリイミド樹脂におけるケトン基に由来する吸収ピークの減少又は消失、及び1635cm
−1付近のイミン基に由来する吸収ピークの出現により確認することができる。
【0068】
DDA系ポリイミドのケトン基と上記架橋形成用アミノ化合物の第1級のアミノ基との加熱縮合は、例えば、
(1)DDA系ポリイミドの合成(イミド化)に引き続き、架橋形成用アミノ化合物を添加して加熱する方法、
(2)ジアミン成分として予め過剰量のアミノ化合物を仕込んでおき、DDA系ポリイミドの合成(イミド化)に引き続き、イミド化若しくはアミド化に関与しない残りのアミノ化合物を架橋形成用アミノ化合物として利用してDDA系ポリイミドとともに加熱する方法、
又は、
(3)上記の架橋形成用アミノ化合物を添加したDDA系ポリイミドの組成物を所定の形状に加工した後(例えば任意の基材に塗布した後やフィルム状に形成した後)に加熱する方法、
等によって行うことができる。
【0069】
DDA系ポリイミドの耐熱性付与のため、架橋構造の形成でイミン結合の形成を説明したが、これに限定されるものではなく、ポリイミドの硬化方法として、例えばエポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、マレイミドや活性化エステル樹脂やスチレン骨格を有する樹脂等の不飽和結合を有する化合物等を配合し硬化することも可能である。
【0070】
[寸法精度維持層]
寸法精度維持層PLは、金属張積層板10の機械的強度を維持するため、100℃から250℃の温度領域での貯蔵弾性率の最小値が1.0〜8.0GPaの範囲内であることが好ましく、2.0〜6.0GHzの範囲内がより好ましい。寸法精度維持層PLの貯蔵弾性率の最小値が1.0GPa未満では十分な機械的強度と回路加工後の寸法精度が得られない。貯蔵弾性率の最小値が8.0GPaを超える場合は、積層プレスする際に反りが発生し易くなる。
【0071】
また、寸法精度維持層PLは、金属張積層板10を回路加工したときの寸法精度を維持するため、熱膨張係数(CTE)が15〜25ppm/Kの範囲内であることが好ましく、16〜23ppm/Kの範囲内がより好ましい。寸法精度維持層PLのCTEが15ppm/K未満では、金属張積層板10に反りが発生し易くなり、25ppm/Kを超えると回路加工後の寸法精度が得られない。
【0072】
寸法精度維持層PLは、電気的絶縁性を有する樹脂により構成されるものであれば特に限定はなく、例えばポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ETFEなどを挙げることができるが、ポリイミドによって構成されることが好ましい。つまり、寸法精度維持層PLは、単層又は複数層からなる低熱膨張性ポリイミド層であることが好ましい。
【0073】
寸法精度維持層PLが単層のポリイミド層である場合、後述する非熱可塑性ポリイミド層31と同様の構成とすることができる。単層のポリイミド層としては、例えば、カプトンEN(商品名;東レ・デュポン社製)、アピカルNPI(商品名;カネカ社製)などの市販品を用いることができる。
【0074】
寸法精度維持層PLが複数のポリイミド層からなる場合、寸法精度維持層PLは、例えば、
図4に示すように、樹脂成分として非熱可塑性ポリイミドを含む非熱可塑性ポリイミド層31の両側に樹脂成分として熱可塑性ポリイミドを含む熱可塑性ポリイミド層33が積層された構造であってもよい。なお、「非熱可塑性ポリイミド」とは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10
9Pa以上であり、350℃における貯蔵弾性率が1.0×10
8Pa以上であるポリイミドをいう。また、「熱可塑性ポリイミド」とは、一般にガラス転移温度(Tg)が明確に確認できるポリイミドのことであるが、本発明では、DMAを用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10
9Pa以上であり、350℃における貯蔵弾性率が1.0×10
8Pa未満であるポリイミドをいう。
【0075】
次に、寸法精度維持層PLを構成するための非熱可塑性ポリイミド層31及び熱可塑性ポリイミド層33の好ましい構成例について説明する。
【0076】
非熱可塑性ポリイミド層:
非熱可塑性ポリイミド層31を構成する非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含むものである。ポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される芳香族テトラカルボン酸残基及び芳香族ジアミンから誘導される芳香族ジアミン残基を含むことが好ましい。
【0077】
(テトラカルボン酸残基)
非熱可塑性ポリイミド層31を構成する非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸残基として、3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)及び1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物(TAHQ)の少なくとも1種から誘導されるテトラカルボン酸残基並びにピロメリット酸二無水物(PMDA)及び2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)の少なくとも1種から誘導されるテトラカルボン酸残基を含有することが好ましい。
【0078】
BPDAから誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「BPDA残基」ともいう。)及びTAHQから誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「TAHQ残基」ともいう。)は、ポリマーの秩序構造を形成しやすく、分子の運動抑制により誘電正接や吸湿性を低下させることができる。BPDA残基は、ポリイミド前駆体のポリアミド酸としてのゲル膜の自己支持性を付与できるが、その一方で、イミド化後のCTEを増大させるとともに、ガラス転移温度を低くして耐熱性を低下させる傾向になる。
【0079】
このような観点から、非熱可塑性ポリイミド層31を構成する非熱可塑性ポリイミドが、全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して、BPDA残基及びTAHQ残基の合計を好ましくは30モル部以上60モル部以下の範囲内、より好ましくは40モル部以上50モル部以下の範囲内で含有するように制御する。BPDA残基及びTAHQ残基の合計が30モル部未満では、ポリマーの秩序構造の形成が不十分となって、耐吸湿性が低下したり、誘電正接の低減が不十分となり、60モル部を超えると、CTEの増加や面内リタデーション(RO)の変化量の増大のほか、耐熱性が低下したりするおそれがある。
【0080】
また、ピロメリット酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「PMDA残基」ともいう。)及び2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「NTCDA残基」ともいう。)は、剛直性を有するため、面内配向性を高め、CTEを低く抑えるとともに、面内リタデーション(RO)の制御や、ガラス転移温度の制御の役割を担う残基である。一方で、PMDA残基は、分子量が小さいため、その量が多くなり過ぎると、ポリマーのイミド基濃度が高くなり、極性基が増加して吸湿性が大きくなってしまい、分子鎖内部の水分の影響により誘電正接が増加する。また、NTCDA残基は、剛直性が高いナフタレン骨格によりフィルムが脆くなりやすく、弾性率を増大させる傾向になる。
そのため、非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドは、全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して、PMDA残基及びNTCDA残基の合計を好ましくは40モル部以上70モル部以下の範囲内、より好ましくは50モル部以上60モル部以下の範囲内、さらに好ましくは50〜55モル部の範囲内で含有する。PMDA残基及びNTCDA残基の合計が40モル部未満では、CTEが増加したり、耐熱性が低下したりするおそれがあり、70モル部を超えると、ポリマーのイミド基濃度が高くなり、極性基が増加して低吸湿性が損なわれ、誘電正接が増加するおそれやフィルムが脆くなりフィルムの自己支持性が低下するおそれがある。
【0081】
また、BPDA残基及びTAHQ残基の少なくとも1種並びにPMDA残基及びNTCDA残基の少なくとも1種の合計が、全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して80モル部以上、好ましくは90モル部以上であることがよい。
【0082】
また、BPDA残基及びTAHQ残基の少なくとも1種と、PMDA残基及びNTCDA残基少なくとも1種のモル比{(BPDA残基+TAHQ残基)/(PMDA残基+NTCDA残基)}を0.4以上1.5以下の範囲内、好ましくは0.6以上1.3以下の範囲内、より好ましくは0.8以上1.2以下の範囲内とし、CTEとポリマーの秩序構造の形成を制御することがよい。
【0083】
PMDA及びNTCDAは、剛直骨格を有するため、他の一般的な酸無水物成分に比べて、ポリイミド中の分子の面内配向性の制御が可能であり、熱膨張係数(CTE)の抑制とガラス転移温度(Tg)の向上効果がある。また、BPDA及びTAHQは、PMDAと比較し分子量が大きいため、仕込み比率の増加によりイミド基濃度が低下することで、誘電正接の低下や吸湿率の低下に効果がある。一方でBPDA及びTAHQの仕込み比率が増加すると、ポリイミド中の分子の面内配向性が低下し、CTEの増加に繋がる。さらに分子内の秩序構造の形成が進み、ヘイズ値が増加する。このような観点から、PMDA及びNTCDAの合計の仕込み量は、原料の全酸無水物成分の100モル部に対し、40〜70モル部の範囲内、好ましくは50〜60モル部の範囲内、より好ましくは50〜55モル部の範囲内がよい。原料の全酸無水物成分の100モル部に対し、PMDA及びNTCDAの合計の仕込み量が40モル部未満であると、分子の面内配向性が低下し、低CTE化が困難となり、またTgの低下による加熱時におけるフィルムの耐熱性や寸法安定性が低下する。一方、PMDA及びNTCDAの合計の仕込み量が70モル部を超えると、イミド基濃度の増加により吸湿率が悪化したり、弾性率を増大させる傾向になる。
【0084】
また、BPDA及びTAHQは、分子運動の抑制やイミド基濃度の低下による低誘電正接化、吸湿率低下に効果があるが、イミド化後のポリイミドフィルムとしてのCTEを増大させる。このような観点から、BPDA及びTAHQの合計の仕込み量は、原料の全酸無水物成分の100モル部に対し、30〜60モル部の範囲内、好ましくは40〜50モル部の範囲内がよい。
【0085】
非熱可塑性ポリイミド層31を構成する非熱可塑性ポリイミドに含まれる、上記BPDA残基、TAHQ残基、PMDA残基、NTCDA残基以外のテトラカルボン酸残基としては、例えば、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基が挙げられる。
【0086】
(ジアミン残基)
非熱可塑性ポリイミド層31を構成する非熱可塑性ポリイミドに含まれるジアミン残基としては、一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が好ましい。
【0088】
式(A1)において、連結基Zは単結合又は−COO−を示し、Yは独立に、ハロゲン原子若しくはフェニル基で置換されてもよい炭素数1〜3の1価の炭化水素、又は炭素数1〜3のアルコキシ基、又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、又はアルケニル基を示し、nは0〜2の整数を示し、p及びqは独立に0〜4の整数を示す。ここで、「独立に」とは、上記式(A1)において、複数の置換基Y、さらに整数p、qが、同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。なお、上記式(A1)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば−NR
2R
3(ここで、R
2,R
3は、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0089】
一般式(A1)で表されるジアミン化合物(以下、「ジアミン(A1)」と記すことがある)は、1ないし3つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。ジアミン(A1)は、剛直構造を有しているため、ポリマー全体に秩序構造を付与する作用を有している。そのため、ガス透過性が低く、低吸湿性のポリイミドが得られ、分子鎖内部の水分を低減できるため、誘電正接を下げることができる。ここで、連結基Zとしては、単結合が好ましい。
【0090】
ジアミン(A1)としては、例えば、1,4−ジアミノベンゼン(p−PDA;パラフェニレンジアミン)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−n−プロピル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−NPB)、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート(APAB)等を挙げることができる。
【0091】
非熱可塑性ポリイミド層31を構成する非熱可塑性ポリイミドは、ジアミン(A1)から誘導されるジアミン残基を、全ジアミン残基の100モル部に対して、好ましくは80モル部以上、より好ましくは85モル部以上含有することがよい。ジアミン(A1)を上記範囲内の量で使用することによって、モノマー由来の剛直構造により、ポリマー全体に秩序構造が形成されやすくなり、ガス透過性が低く、低吸湿性、かつ低誘電正接である非熱可塑性ポリイミドが得られやすい。
【0092】
また、非熱可塑性ポリイミドにおける全ジアミン残基の100モル部に対して、ジアミン(A1)から誘導されるジアミン残基が80モル部以上85モル部以下の範囲内である場合は、より剛直であり、面内配向性に優れる構造であるという観点から、ジアミン(A1)として、1,4−ジアミノベンゼンを用いることが好ましい。
【0093】
非熱可塑性ポリイミド層31を構成する非熱可塑性ポリイミドに含まれるその他のジアミン残基としては、例えば、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2'-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド、4,4'-ジアミノベンズアニリド、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、6-アミノ-2-(4-アミノフェノキシ)ベンゾオキサゾール等の芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミン等の脂肪族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。
【0094】
非熱可塑性ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の種類や、2種以上のテトラカルボン酸残基又はジアミン残基を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張係数、貯蔵弾性率、引張弾性率等を制御することができる。また、非熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、面内リタデーション(RO)のばらつきを抑制する観点から、ランダムに存在することが好ましい。
【0095】
なお、非熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基及びジアミン残基を、いずれも芳香族基とすることで、ポリイミドフィルムの高温環境下での寸法精度を向上させ、面内リタデーション(RO)の変化量を小さくすることができるため好ましい。
【0096】
非熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、33%以下であることが好ましく、32%以下であることがより好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(−(CO)
2−N−)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が33%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化する。上記酸無水物とジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、非熱可塑性ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保している。
【0097】
非熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000〜400,000の範囲内が好ましく、50,000〜350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0098】
非熱可塑性ポリイミド層31の厚みは、ベース層としての機能を確保し、且つ製造時および熱可塑性ポリイミド塗工時の搬送性の観点から、6μm以上100μm以下の範囲内であることが好ましく、9μm以上50μm以下の範囲内がより好ましい。非熱可塑性ポリイミド層31の厚みが上記の下限値未満である場合、電気絶縁性やハンドリング性が不十分となり、上限値を超えると、生産性が低下する。
【0099】
非熱可塑性ポリイミド層31は、耐熱性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が280℃以上であることが好ましい。
【0100】
また、反りを抑制する観点から、非熱可塑性ポリイミド層31の熱膨張係数は、1pm/K以上30ppm/K以下の範囲内、好ましくは1ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内、より好ましくは15ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内にあることがよい。
【0101】
また、非熱可塑性ポリイミド層31を構成する非熱可塑性ポリイミドには、任意成分として、例えば可塑剤、エポキシ樹脂などの他の硬化樹脂成分、硬化剤、硬化促進剤、カップリング剤、充填剤、溶剤、難燃剤などを適宜配合することができる。ただし、可塑剤には、極性基を多く含有するものがあり、それが銅配線からの銅の拡散を助長する懸念があるため、可塑剤は極力使用しないことが好ましい。
【0102】
熱可塑性ポリイミド層:
熱可塑性ポリイミド層33を構成する熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含むものであり、芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される芳香族テトラカルボン酸残基及び芳香族ジアミンから誘導される芳香族ジアミン残基を含むことが好ましい。
【0103】
(テトラカルボン酸残基)
熱可塑性ポリイミド層33を構成する熱可塑性ポリイミドに用いるテトラカルボン酸残基としては、上記非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドにおけるテトラカルボン酸残基として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0104】
(ジアミン残基)
熱可塑性ポリイミド層33を構成する熱可塑性ポリイミドに含まれるジアミン残基としては、一般式(B1)〜(B7)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が好ましい。
【0106】
式(B1)〜(B7)において、R
1は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、連結基Aは独立に−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO
2−、−COO−、−CH
2−、−C(CH
3)
2−、−NH−若しくは−CONH−から選ばれる2価の基を示し、n
1は独立に0〜4の整数を示す。ただし、式(B3)中から式(B2)と重複するものは除き、式(B5)中から式(B4)と重複するものは除くものとする。ここで、「独立に」とは、上記式(B1)〜(B7)の内の一つにおいて、または二つ以上において、複数の連結基A、複数のR
1若しくは複数のn
1が、同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。なお、上記式(B1)〜(B7)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば−NR
2R
3(ここで、R
2,R
3は、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0107】
式(B1)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B1)」と記すことがある)は、2つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B1)は、少なくとも1つのベンゼン環に直結したアミノ基と2価の連結基Aとがメタ位にあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B1)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、−O−、−CH
2−、−C(CH
3)
2−、−CO−、−SO
2−、−S−が好ましい。
【0108】
ジアミン(B1)としては、例えば、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン等を挙げることができる。
【0109】
式(B2)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B2)」と記すことがある)は、3つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B2)は、少なくとも1つのベンゼン環に直結したアミノ基と2価の連結基Aとがメタ位にあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B2)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、−O−が好ましい。
【0110】
ジアミン(B2)としては、例えば1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン等を挙げることができる。
【0111】
式(B3)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B3)」と記すことがある)は、3つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B3)は、1つのベンゼン環に直結した、2つの2価の連結基Aが互いにメタ位にあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B3)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、−O−が好ましい。
【0112】
ジアミン(B3)としては、例えば1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4'-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン等を挙げることができる。
【0113】
式(B4)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B4)」と記すことがある)は、4つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B4)は、少なくとも1つのベンゼン環に直結したアミノ基と2価の連結基Aとがメタ位にあることで高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B4)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、−O−、−CH
2−、−C(CH
3)
2−、−SO
2−、−CO−、−CONH−が好ましい。
【0114】
ジアミン(B4)としては、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド等を挙げることができる。
【0115】
式(B5)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B5)」と記すことがある)は、4つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B5)は、少なくとも1つのベンゼン環に直結した、2つの2価の連結基Aが互いにメタ位にあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B5)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、−O−が好ましい。
【0116】
ジアミン(B5)としては、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリン、4,4’-[オキシビス(3,1-フェニレンオキシ)]ビスアニリン等を挙げることができる。
【0117】
式(B6)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B6)」と記すことがある)は、4つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B6)は、少なくとも2つのエーテル結合を有することで高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B6)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、−C(CH
3)
2−、−O−、−SO
2−、−CO−が好ましい。
【0118】
ジアミン(B6)としては、例えば、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)等を挙げることができる。
【0119】
式(B7)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B7)」と記すことがある)は、4つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B7)は、ジフェニル骨格の両側に、それぞれ屈曲性の高い2価の連結基Aを有するため、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B7)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、−O−が好ましい。
【0120】
ジアミン(B7)としては、例えば、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル等を挙げることができる。
【0121】
熱可塑性ポリイミド層33を構成する熱可塑性ポリイミドは、全ジアミン残基の100モル部に対して、ジアミン(B1)〜ジアミン(B7)から選ばれる少なくとも一種のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を60モル部以上、好ましくは60モル部以上99モル部以下の範囲内、より好ましくは70モル部以上95モル部以下の範囲内で含有することがよい。ジアミン(B1)〜ジアミン(B7)は、屈曲性を有する分子構造を持つため、これらから選ばれる少なくとも一種のジアミン化合物を上記範囲内の量で使用することによって、ポリイミド分子鎖の柔軟性を向上させ、熱可塑性を付与することができる。原料中のジアミン(B1)〜ジアミン(B7)の合計量が全ジアミン成分の100モル部に対して60モル部未満であるとポリイミド樹脂の柔軟性不足で十分な熱可塑性が得られない。
【0122】
また、熱可塑性ポリイミド層33を構成する熱可塑性ポリイミドに含まれるジアミン残基としては、一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基も好ましい。式(A1)で表されるジアミン化合物[ジアミン(A1)]については、非熱可塑性ポリイミドの説明で述べたとおりである。ジアミン(A1)は、剛直構造を有し、ポリマー全体に秩序構造を付与する作用を有しているため、分子の運動抑制により誘電正接や吸湿性を低下させることができる。更に、熱可塑性ポリイミドの原料として使用することで、ガス透過性が低く、長期耐熱接着性に優れたポリイミドが得られる。
【0123】
熱可塑性ポリイミド層33を構成する熱可塑性ポリイミドは、ジアミン(A1)から誘導されるジアミン残基を、好ましくは1モル部以上40モル部以下の範囲内、より好ましくは5モル部以上30モル部以下の範囲内で含有してもよい。ジアミン(A1)を上記範囲内の量で使用することによって、モノマー由来の剛直構造により、ポリマー全体に秩序構造が形成されるので、熱可塑性でありながら、ガス透過性及び吸湿性が低く、長期耐熱接着性に優れたポリイミドが得られる。
【0124】
熱可塑性ポリイミド層33を構成する熱可塑性ポリイミドは、発明の効果を損なわない範囲で、ジアミン(A1)、(B1)〜(B7)以外のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含むことができる。
【0125】
熱可塑性ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の種類や、2種以上のテトラカルボン酸残基又はジアミン残基を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張係数、引張弾性率、ガラス転移温度等を制御することができる。また、熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0126】
なお、熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基及びジアミン残基を、いずれも芳香族基とすることで、ポリイミドフィルムの高温環境下での寸法精度を向上させ、面内リタデーション(RO)の変化量を抑制することができる。
【0127】
熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、33%以下であることが好ましく、32%以下であることがより好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(−(CO)
2−N−)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が33%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化する。上記ジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、熱可塑性ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保している。
【0128】
熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000〜400,000の範囲内が好ましく、50,000〜350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0129】
熱可塑性ポリイミド層33を構成する熱可塑性ポリイミドは、例えば回路基板の絶縁樹脂における接着層となるため、銅の拡散を抑制するために完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm
−1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm
−1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出される。
【0130】
熱可塑性ポリイミド層33の厚みは、接着機能を確保する観点から、1μm以上10μm以下の範囲内であることが好ましく、1μm以上5μm以下の範囲内がより好ましい。熱可塑性ポリイミド層33の厚みが上記の下限値未満である場合、接着性が不十分となり、上限値を超えると、寸法安定性が悪化する傾向となる。
【0131】
熱可塑性ポリイミド層33は、反りを抑制する観点から、熱膨張係数が、30ppm/K以上、好ましくは30ppm/K以上100ppm/K以下の範囲内、より好ましくは30ppm/K以上80ppm/K以下の範囲内にあることがよい。
【0132】
また、熱可塑性ポリイミド層33に用いる樹脂には、ポリイミドの他に、任意成分として、例えば可塑剤、エポキシ樹脂などの他の硬化樹脂成分、硬化剤、硬化促進剤、無機フィラー、カップリング剤、充填剤、溶剤、難燃剤などを適宜配合することができる。
【0133】
非熱可塑性ポリイミド層31及び熱可塑性ポリイミド層33を形成するための非熱可塑性ポリイミド及び熱可塑性ポリイミドは、上記DDA系ポリイミドと同様に、酸無水物成分とジアミン成分を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。非熱可塑性ポリイミド及び熱可塑性ポリイミドの合成において、上記酸無水物及びジアミンは、それぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。酸無水物及びジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度等を制御することができる。
【0134】
<熱膨張係数>
金属張積層板10において、樹脂積層体20全体の熱膨張係数(CTE)は、10ppm/K以上がよく、好ましくは10ppm/K以上30ppm/K以下の範囲内、より好ましくは15ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内である。CTEが10ppm/K未満であるか、又は30ppm/Kを超えると、反りが発生したり、寸法安定性が低下したりする。使用する原料の組合せ、厚み、乾燥・硬化条件を適宜変更することで所望のCTEを有するポリイミド層とすることができる。
【0135】
<誘電正接>
金属張積層板10において、樹脂積層体20全体の10GHzにおける誘電正接(Tanδ)は、好ましくは0.02以下、より好ましくは0.0005以上0.01以下の範囲内、更に好ましくは0.001以上0.008以下の範囲内がよい。樹脂積層体20全体の10GHzにおける誘電正接が0.02を超えると、回路基板に適用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。一方、樹脂積層体20全体の10GHzにおける誘電正接の下限値は特に制限されないが、回路基板の絶縁樹脂層としての物性制御を考慮している。
【0136】
<誘電率>
金属張積層板10において、樹脂積層体20は、例えば回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、インピーダンス整合性を確保するために、樹脂積層体20全体として、10GHzにおける誘電率が4.0以下であることが好ましい。樹脂積層体20全体の10GHzにおける誘電率が4.0を超えると、回路基板に適用した際に、誘電損失の増大に繋がり、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0137】
[金属張積層板の製造]
金属張積層板10は、例えば、第1の伝送損失抑制層BS1、第2の伝送損失抑制層BS2、複数の寸法精度維持層PL及び一ないし複数の中間伝送損失抑制層BS3に相当する樹脂シートを準備し、これらの樹脂シートを第1の金属層M1と第2の金属層M2の間に配置して貼り合わせ、熱圧着させることによって製造することができる。
【0138】
以上のようにして得られる本実施の形態の金属張積層板10は、第1の金属層M1及び/又は第2の金属層M2をエッチングするなどして配線回路加工することによって、片面FPC又は両面FPCなどの回路基板を製造することができる。
【0139】
[回路基板]
上記金属張積層板10は、主にFPC、リジッド・フレックス回路基板などの回路基板材料として有用である。金属張積層板10の第1の金属層M1及び第2の金属層M2の片方又は両方を、常法によってパターン状に加工して配線層を形成することによって、本発明の一実施の形態であるFPCなどの回路基板を製造できる。この回路基板は、図示は省略するが、樹脂積層体20と、この樹脂積層体20の片側又は両側の面に設けられた配線層と、を備えており、高周波伝送においても伝送損失の低減が可能で、かつ、寸法安定性に優れている。
【実施例】
【0140】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0141】
[粘度の測定]
粘度の測定は、E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV−II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%〜90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0142】
[貯蔵弾性率の測定]
5mm×20mmのサイズの樹脂シートを、動的粘弾性測定装置(DMA:ユー・ビー・エム社製、商品名;E4000F)を用いて、30℃から400℃まで昇温速度4℃/分、周波数11Hzで測定を行った。
【0143】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から265℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。
【0144】
[誘電率及び誘電正接の測定]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名;E8363C)ならびにSPDR共振器を用いて、10GHzにおける樹脂シートの誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)を測定した。なお、測定に使用した材料は、温度;24〜26℃、湿度;45℃〜55%RHの条件下で、24時間放置したものである。
【0145】
[寸法変化率の測定]
寸法変化率の測定は、以下の手順で行った。まず、150mm角の試料を用い、100mm間隔にてドライフィルムレジストを露光、現像することによって、位置測定用ターゲットを形成する。温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中にてエッチング前(常態)の寸法を測定した後に、試験片のターゲット以外の銅をエッチング(液温40℃以下、時間10分以内)により除去する。温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に24±4時間静置後、エッチング後の寸法を測定する。縦方向及び横方向の各3箇所の常態に対する寸法変化率を算出し、各々の平均値をもってエッチング後の寸法変化率とする。エッチング後寸法変化率は下記数式により算出した。
【0146】
エッチング後寸法変化率(%)=(B−A)/A×100
A;エッチング前のターゲット間距離
B;エッチング後のターゲット間距離
【0147】
次に、本試験片を250℃のオーブンで1時間加熱処理し、その後の位置ターゲット間の距離を測定する。縦方向及び横方向の各3箇所のエッチング後に対する寸法変化率を算出し、各々の平均値をもって加熱処理後の寸法変化率とする。加熱寸法変化率は下記数式により算出した。
【0148】
加熱寸法変化率(%)=(C―B)/B×100
B;エッチング後のターゲット間距離
C;加熱後のターゲット間距離
【0149】
[銅箔の表面粗さ(Rz;十点平均粗さ)の測定]
触針式表面粗さ計(株式会社小坂研究所製、商品名;サーフコーダET−3000)を用い、Force;100μN、Speed;20μm、Range;800μmの測定条件によって求めた。なお、表面粗さの算出は、JIS−B0601:1994に準拠した方法により算出した。
【0150】
合成例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
BTDA:3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3',4,4'‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BPADA:2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物
DAPE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
p−PDA:p−フェニレンジアミン
BAPP:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
m‐TB:2,2'‐ジメチル‐4,4'‐ジアミノビフェニル
TPE−R:1,3-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
DDA:炭素数36の脂肪族ジアミン(クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1074、アミン価;205mgKOH/g、環状構造及び鎖状構造のダイマージアミンの混合物、ダイマー成分の含有量;95重量%以上)
OP935:有機ホスフィン酸アルミニウム塩(クラリアントジャパン社製、商品名;Exolit OP935)
N−12:ドデカン二酸ジヒドラジド
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0151】
(合成例1)
熱電対および攪拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、312gのDMAcを入れた。この反応容器に14.67gのDAPE(0.073モル)を容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、23.13gのBTDA(0.072モル)を加えた。その後、3時間撹拌を続け、溶液粘度2,960mPa・sのポリアミド酸の樹脂溶液aを調製した。
【0152】
(合成例2)
熱電対および攪拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、200gのDMAcを入れた。この反応容器に1.335gのm−TB(0.0063モル)及び10.414gのTPE−R(0.0356モル)を容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、0.932gのPMDA(0.0043モル)及び11.319gのBPDA(0.0385モル)を加えた。その後、2時間撹拌を続け、溶液粘度1,420mPa・sのポリアミド酸の樹脂溶液bを調製した。
【0153】
(合成例3)
熱電対および攪拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、250gのDMAcを入れた。この反応容器に2.561gのp−PDA(0.0237モル)及び16.813gのDAPE(0.0840モル)を容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、18.501gのPMDA(0.0848モル)及び6.239gのBPDA(0.0212モル)を加えた。その後、3時間撹拌を続け、溶液粘度29,500mPa・sのポリアミド酸の樹脂溶液cを調製した。
【0154】
(合成例4)
熱電対および攪拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、250gのDMAcを入れた。この反応容器に12.323gのm−TB(0.0580モル)及び1.886gのTPE−R(0.0064モル)を容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、8.314gのPMDA(0.0381モル)及び7.477gのBPDA(0.0254モル)を加えた。その後、3時間撹拌を続け、溶液粘度31,500mPa・sのポリアミド酸の樹脂溶液dを調製した。
【0155】
(合成例5)
<接着層用の樹脂溶液eの調製>
窒素導入管、攪拌機、熱電対、ディーンスタークトラップ、冷却管を付した500mLの4ッ口フラスコに、44.92gのBTDA(0.139モル)、75.08gのDDA(0.141モル)、168gのNMP及び112gのキシレンを装入し、40℃で30分間混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、4時間加熱、攪拌し、留出する水及びキシレンを系外に除去した。その後、100℃まで冷却し、112gのキシレンを加え撹拌し、更に30℃まで冷却することでイミド化を完結し、接着層用の樹脂溶液e(固形分;29.5重量%)を得た。
【0156】
(合成例6)
<接着層用の樹脂溶液fの調製>
42.51gのBPADA(0.082モル)、34.30gのDDA(0.066モル)、6.56gのBAPP(0.016モル)、208gのNMP及び112gのキシレンを原料組成とした以外は、合成例5と同様にしてポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を合成例5と同様にして処理し、接着層用の樹脂溶液f(固形分;30.0重量%)を得た。
【0157】
(作製例1)
<ポリイミドフィルムの調製>
電解銅箔1(厚さ12μm、Rz;2.1μm)の片面の表面に、ポリアミド酸の樹脂溶液cを硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を30分以内で行い、イミド化を完結した。塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム1(厚み;25μm、Dk;3.4、Df;0.0085、CTE;16ppm/K、貯蔵弾性率最小値(100〜250℃)2.9GHz)を調製した。
【0158】
(作製例2)
<ポリイミドフィルムの調製>
樹脂溶液dを用いたこと以外、作製例1と同様にして、ポリイミドフィルム2(厚み;25μm、Dk;3.3、Df;0.0034、CTE;17ppm/K、貯蔵弾性率最小値(100〜250℃)3.0GHz)を調製した。
【0159】
(作製例3)
<ポリイミドフィルムの調製>
電解銅箔1(厚さ12μm、Rz;2.1μm)の片面の表面に、樹脂溶液aを硬化後の厚みが約2〜3μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。次に、その上に樹脂溶液dを硬化後の厚みが約21μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。更に、その上に樹脂溶液aを硬化後の厚みが約2〜3μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。このようにして、3層のポリアミド酸層を形成した後、120℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結した。塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔層をエッチング除去して、ポリイミドフィルム3(厚み;25μm、Dk;3.4、Df;0.0052、CTE;21ppm/K、貯蔵弾性率最小値(100〜250℃)2.8GHz)を調製した。
【0160】
(作製例4)
<ポリイミドフィルムの調製>
電解銅箔1(厚さ12μm、Rz;2.1μm)の片面の表面に、樹脂溶液bを硬化後の厚みが約2〜3μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。次に、その上に樹脂溶液dを硬化後の厚みが約21μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。更に、その上に樹脂溶液bを硬化後の厚みが約2〜3μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。このようにして、3層のポリアミド酸層を形成した後、120℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結した。塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔層をエッチング除去して、ポリイミドフィルム4(厚み;25μm、Dk;3.3、Df;0.0032、CTE;23ppm/K、貯蔵弾性率最小値(100〜250℃)2.7GHz)を調製した。
【0161】
(作製例5)
<樹脂シートの調製>
樹脂溶液eの169.49g(固形分として50g)に1.8gのN−12(0.0036モル)及び12.5gのOP935を配合し、6.485gのNMPと19.345gのキシレンを加えて希釈して、ポリイミドワニス1を調製した。
【0162】
ポリイミドワニス1を乾燥後の厚みが25μmとなるように離型基材のシリコーン処理面に塗工した後、80℃で加熱乾燥し、離型基材上から剥離することで樹脂シート1を調製した。樹脂シート1の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、2.7、0.0023であった。
【0163】
(作製例6)
<樹脂シートの調製>
乾燥後の厚みが50μmとなるようにすること以外、作製例6と同様にして、樹脂シート2を調整した。樹脂シート2の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、2.7、0.0023であった。
【0164】
(作製例7)
<樹脂シートの調製>
乾燥後の厚みが75μmとなるようにすること以外、作製例6と同様にして、樹脂シート3を調整した。樹脂シート3の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、2.7、0.0023であった。
【0165】
(作製例8)
<樹脂シートの調製>
乾燥後の厚みが5μmとなるようにすること以外、作製例6と同様にして、樹脂シート4を調整した。樹脂シート4の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、2.7、0.0023であった。
【0166】
(作製例9)
<樹脂シートの調製>
接着層用の樹脂溶液fを乾燥後の厚みが25μmとなるように離型基材のシリコーン処理面に塗工した後、80℃で加熱乾燥し、離型基材上から剥離することで樹脂シート5を調製した。樹脂シート5の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、2.8、0.0028であった。
【0167】
(作製例10)
<樹脂シートの調製>
乾燥後の厚みが50μmとなるようにすること以外、作製例10と同様にして、樹脂シート6を調整した。樹脂シート6の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、2.8、0.0028であった。
【0168】
[実施例1]
2枚の電解銅箔1と、2枚の樹脂シート1、1枚の樹脂シート2、2枚のポリイミドフィルム4を準備し、電解銅箔1/樹脂シート1/ポリイミドフィルム4/樹脂シート2/ポリイミドフィルム4/樹脂シート1/電解銅箔1の順に積層した後、160℃、4MPaの条件で、60分間熱圧着することで、両面金属張積層板1を調整した。両面金属張積層板1について、評価した結果は、次のとおりである。
MD方向のエッチング後寸法変化率;−0.05%
TD方向のエッチング後寸法変化率;−0.04%
MD方向の加熱後寸法変化率;−0.03%
TD方向の加熱後寸法変化率;0.03%
また、両面金属張積層板1における電解銅箔1をエッチング除去して調製した樹脂積層体1(厚み;150μm)における誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、2.9、0.0026であった。寸法精度維持層の合計厚みは、樹脂積層体1全体の厚みの33%であった。
【0169】
[実施例2]
2枚の電解銅箔1と、2枚の樹脂シート1、1枚の樹脂シート3、2枚のポリイミドフィルム4を準備し、電解銅箔1/樹脂シート1/ポリイミドフィルム4/樹脂シート3/ポリイミドフィルム4/樹脂シート1/電解銅箔1の順に積層した後、160℃、4MPaの条件で、60分間熱圧着することで、両面金属張積層板2を調整した。両面金属張積層板2について、評価した結果は、次のとおりである。
MD方向のエッチング後寸法変化率;−0.06%
TD方向のエッチング後寸法変化率;−0.04%
MD方向の加熱後寸法変化率;−0.04%
TD方向の加熱後寸法変化率;0.04%
また、両面金属張積層板2における電解銅箔1をエッチング除去して調製した樹脂積層体2(厚み;175μm)における誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、2.92、0.0026であった。寸法精度維持層の合計厚みは、樹脂積層体2全体の厚みの29%であった。
【0170】
[実施例3]
2枚の電解銅箔1と、1枚の樹脂シート1、2枚の樹脂シート2、2枚のポリイミドフィルム4を準備し、電解銅箔1/樹脂シート2/ポリイミドフィルム4/樹脂シート1/ポリイミドフィルム4/樹脂シート2/電解銅箔1の順に積層した後、160℃、4MPaの条件で、60分間熱圧着することで、両面金属張積層板3を調整した。両面金属張積層板3について、評価した結果は、次のとおりである。
MD方向のエッチング後寸法変化率;−0.02%
TD方向のエッチング後寸法変化率;0.03%
MD方向の加熱後寸法変化率;−0.06%
TD方向の加熱後寸法変化率;−0.02%
また、両面金属張積層板3における電解銅箔1をエッチング除去して調製した樹脂積層体3(厚み;175μm)における誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、2.9、0.0026であった。寸法精度維持層の合計厚みは、樹脂積層体3全体の厚みの29%であった。
【0171】
[実施例4]
ポリイミドフィルム4の替わりに、ポリイミドフィルム1を使用したこと以外、実施例1と同様にして、両面金属張積層板4を調整した。両面金属張積層板4について、評価したところ、寸法変化は問題がなかった。また、両面金属張積層板4における電解銅箔1をエッチング除去して調製した樹脂積層体4(厚み;150μm)における誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、2.9、0.0044であった。寸法精度維持層の合計厚みは、樹脂積層体4全体の厚みの33%であった。
【0172】
[実施例5]
ポリイミドフィルム4の替わりに、ポリイミドフィルム2を使用したこと以外、実施例1と同様にして、両面金属張積層板5を調整した。両面金属張積層板5について、評価したところ、寸法変化は問題がなかった。また、両面金属張積層板5における電解銅箔1をエッチング除去して調製した樹脂積層体5(厚み;150μm)における誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、2.9、0.0027であった。寸法精度維持層の合計厚みは、樹脂積層体5全体の厚みの33%であった。
【0173】
[実施例6]
ポリイミドフィルム4の替わりに、ポリイミドフィルム3を使用したこと以外、実施例1と同様にして、両面金属張積層板6を調整した。両面金属張積層板6について、評価したところ、寸法変化は問題がなかった。また、両面金属張積層板6における電解銅箔1をエッチング除去して調製した樹脂積層体6(厚み;150μm)における誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、2.9、0.0033であった。寸法精度維持層の合計厚みは、樹脂積層体6全体の厚みの33%であった。
【0174】
[実施例7]
樹脂シート1の替わりに樹脂シート5を、樹脂シート2の替わりに樹脂シート6を使用したこと以外、実施例1と同様にして、両面金属張積層板7を調整した。両面金属張積層板7について、評価したところ、寸法変化は問題がなかった。また、両面金属張積層板7における電解銅箔1をエッチング除去して調製した樹脂積層体7(厚み;150μm)における誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、3.0、0.0029であった。寸法精度維持層の合計厚みは、樹脂積層体7全体の厚みの33%であった。
【0175】
[実施例8]
樹脂シート1の替わりに、樹脂シート4を使用したこと以外、実施例1と同様にして、両面金属張積層板8を調整した。両面金属張積層板8について、評価したところ、寸法変化は問題がなかった。また、両面金属張積層板8における電解銅箔1をエッチング除去して調製した樹脂積層体8(厚み;110μm)における誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、3.0、0.0027であった。寸法精度維持層の合計厚みは、樹脂積層体8全体の厚みの45%であった。
【0176】
[比較例1]
2枚の電解銅箔1と、2枚の樹脂シート2、1枚のポリイミドフィルム1を準備し、電解銅箔1/樹脂シート2/ポリイミドフィルム1/樹脂シート2/電解銅箔1の順に積層した後、160℃、4MPaの条件で、60分間熱圧着することで、両面金属張積層板9を調整した。両面金属張積層板9について、評価した結果は、次のとおりである。
MD方向のエッチング後寸法変化率;0.02%
TD方向のエッチング後寸法変化率;0.08%
MD方向の加熱後寸法変化率;−0.10%
TD方向の加熱後寸法変化率;−0.05%
また、両面金属張積層板9における電解銅箔1をエッチング除去して調製した樹脂積層体9(厚み;125μm)における誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)はそれぞれ、2.8、0.0035であった。寸法精度維持層の合計厚みは、樹脂積層体9全体の厚みの20%であった。
【0177】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。