【課題】透明性に優れ、極めて高い耐熱性を有し、支持基材から容易に剥離することができることに加えて、残存溶剤が少なくてポリイミドフィルムとバリア層との剥離が起きず、また、引張伸度が高くて製造工程中等において破れにくく、しかも製膜後に高温加熱しても変色が少なくて、透明ポリイミド基板材料として極めて有用なポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】ポリイミド構造中にフッ素原子及びエーテル基を有するポリイミドフィルムであって、残存溶剤が500ppm以下であり、黄色度が15以下であると共に引張伸度が15%以上であり、尚且つ420℃で30分加熱後の黄色度が20以下であると共にその引張伸度が13%以上であることを特徴とするポリイミドフィルム、及びそれを用いたフレキシブルデバイスである。
エーテル基を有するジアミン由来の構造単位及び/又はエーテル基を有するテトラカルボン酸二無水物由来の構造単位の合計が、ジアミン由来の構造単位及びテトラカルボン酸二無水物由来の構造単位の合計に対して10モル%以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
ポリアミド酸構造中にフッ素原子とエーテル基とを有するポリアミド酸溶液を用いて、当該ポリアミド酸溶液を、硬化後のポリイミドの平均厚みが5〜50μmになるように支持基材上に塗布後、最高温度が390〜470℃となるように熱処理してイミド化を行い、ポリイミドフィルムを形成することを特徴とする、ポリイミドフィルムの製造方法。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、有機EL装置等の表示装置やタッチパネルは、テレビのような大型ディスプレイや、携帯電話、パソコン、スマートフォンなどの小型ディスプレイをはじめ、各種のディスプレイの構成部材として使用される。
例えば、有機EL装置は、一般に支持基材であるガラス基板上に薄膜トランジスタ(TFT)を形成し、更にその上に電極、発光層及び電極を順次形成し、これらをガラス基板や多層薄膜等で気密封止して作られる。また、タッチパネルは、第1の電極が形成された第1のガラス基板と、第2の電極が形成された第2のガラス基板とを絶縁層(誘電層)を介して接合した構成となっている。
【0003】
つまり、これらの構成部材は、ガラス基板上にTFT、電極、発光層等、各種の機能層を形成した積層体である。このガラス基板を樹脂基板へと置き換えることにより、従来のガラス基板を用いた構成部材を、薄型化・軽量化・フレキシブル化することができる。これを利用して、フレキシブルディスプレイ等のフレキシブルデバイスを得ることが期待される。一方、樹脂はガラスと比較して寸法安定性、透明性、耐熱性、耐湿性、フィルムの強さ等が劣るため、種々の検討がなされている。
【0004】
こうした樹脂基板材料として、ポリイミドは、耐熱性や寸法安定性に優れることから有望な材料の一つである。特に、ポリイミド構造中にフッ素原子を有するポリイミド(含フッ素ポリイミド)や脂環構造を有するポリイミド(脂環ポリイミド)は、透明性に優れており、有機EL装置用基板、タッチパネル基板、カラーフィルター基板等の、透明性を必要とするフレキシブルデバイスへの適用が期待されている。
【0005】
フレキシブルデバイス向け透明ポリイミド基板は、ガラス基板を支持基材とし、この支持基材上に透明ポリイミドフィルムを形成し、次いで透明ポリイミドフィルム上に電子部品を実装後、支持基材を剥離することで得られる。含フッ素ポリイミドは、ガラス基板との剥離性に優れるため、透明ポリイミド基板への適用が特に期待される。
【0006】
例えば、特許文献1は、キャリア基板から剥離して製造するフレキシブルデバイス用の含フッ素ポリイミド膜であって、ガラス転移温度が300℃以上、熱分解温度が500℃以上、熱膨張係数が20ppm/K以下であるものを開示する。しかし、透明性についての検討はなされていない。
特許文献2は、含フッ素ポリイミド前駆体溶液を無機基板上に流延し、乾燥およびイミド化して得られるポリイミドフィルムと無機基板とからなる積層体であって、全光線透過率が高く、アウトガスが少ない(0.3%以下)ものを開示する。ここで、アウトガスは300℃における熱重量減少率である。
なお、特許文献2において、アウトガスを低減するためには、イミド化の際の加熱温度を上げることが有効であるが、ポリイミドの結晶性や着色等により、ヘイズの上昇や、全光線透過率の低下の傾向があり、特に最高温度が400℃を超えるとポリイミドの結晶化などにより白化が顕著となる旨を開示している。逆に、透明性の低下や着色の抑制のため比較的緩やかな温度で加熱するとアウトガスの低減が出来なくなるという、イミド化が十分に進まずポリイミドの機械的強度が不足する傾向がある旨を開示している。つまり、耐熱性と透明性の両立はトレードオフの関係にあるといえる。ここで、透明性を損なうことなくアウトガスを低減する有効な方法として、加熱温度と加熱時間を適切に設定する必要がある旨を開示している。しかし、上記の結晶性や着色等の問題が示唆されていることもあって、400℃を超える高い温度領域における耐熱性については検討されていない。
なお、アウトガスの成分の一つにポリイミドフィルム中の残存溶剤が挙げられる。残存溶剤が過剰に存在すると、フレキシブルデバイスの製造工程において、ポリイミドフィルムとバリア層との間の剥離の原因になるおそれがある。
【0007】
特許文献3及び特許文献4は、耐熱性と透明性に優れた、特定のテトラカルボン酸二無水物を有する含フッ素ポリイミドを開示している。この含フッ素ポリイミドは、フィルム状態での400nmにおける光透過率が80%以上であり、かつ、熱膨張係数が20ppm/K以下のものも開示している。一方で、5%重量減少温度は500℃に満たない。
【0008】
特許文献5は、熱分解温度と透明性に優れた特定のポリイミドを開示している。430℃で製膜(イミド化)するが、ガラス転移温度(Tg)は開示していない。この特許文献5に記載のポリイミドは、特定の脂環構造を必須にするものと解されることから、Tgは400℃以下と予測される。
つまり、特許文献2〜5に開示のポリイミドは、フレキシブルOLED向けTFT基板の製造工程、フレキシブルLCD向けTFT基板及びCF基板の製造工程等、高温で熱処理をするため極めて高い耐熱性を要求する用途・プロセスへの適用という観点では、耐熱性は十分であるとはいえない。
【0009】
特許文献6は、透明性に優れ、極めて高い耐熱性を有し、支持基材から容易に剥離する、フッ素原子を有するポリイミドフィルムを開示する。しかし、高温で熱処理した際の透明性の保持の観点で改善の余地がある。また、機械強度や伸度が十分でないため、上記製造工程でポイイミドフィルムが破れやすい、という課題があった。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を更に説明する。
一例として、本発明のポリイミドフィルムは、原料のジアミンとテトラカルボン酸二無水物(以下、単に「酸二無水物」ともいう。)とを、溶媒の存在下で重合し、ポリアミド酸溶液とした後、これを支持基材上に塗布し、熱処理によりイミド化することによって製造することができる。または、ポリイミドの溶液を支持基材上に塗布し、熱処理により乾燥することによって製造することができる。
ポリイミドフィルムの分子量は、原料のジアミンと酸二無水物のモル比を変化させることで主に制御可能であるが、そのモル比は、0.980〜1.025まで調整することができる。重量平均分子量(Mw)の範囲としては、80,000から800,000の範囲に調整することが望ましい。
【0022】
前記ポリアミド酸溶液は、先ず、ジアミンを有機溶媒に溶解させた後、その溶液に酸二無水物を加え、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を製造する。例えば、窒素気流下で、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどの非プロトン性アミド系溶媒にジアミンを溶解させた後、酸二無水物を加えて、室温で3〜120時間程度反応させることにより得られる。モノマー添加の際に、モノマーをより早く溶解させるために、30〜50℃で2−10時間加熱したほうが良い。また、分子末端を、芳香族モノアミン又は芳香族モノカルボン酸無水物で封止してもよい。有機溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、n-メチルピロリジノン、2−ブタノン、ジグライム、キシレン、ブチロラクトン、トリエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられ、これらを1種又は2種以上併用して使用することもできる。
【0023】
得られたポリアミド酸溶液を支持基材に塗布する際、ポリアミド酸の濃度やMwの調整により、当該溶液の粘度は1,000〜50,000cps(=cP)の範囲とすることが好ましい。粘度が高い場合は、溶剤を加えて希釈すればよい。
【0024】
また、ポリアミド酸溶液の塗布面となる支持基材の表面に対して適宜表面処理を施した後に、塗布を行ってもよい。
【0025】
ポリアミド酸溶液の塗布を行った後、支持基材ごと熱処理を行い、ポリアミド酸をイミド化しポリイミドフィルムを形成する。このイミド化の工程における熱処理の条件は、得られるポリイミドフィルムが、ポリイミド構造中にフッ素原子及びエーテル基を有するポリイミドフィルムであって、残存溶剤が500ppm以下であり、引張伸度が15%以上であり、黄色度が15以下であり、且つ、420℃で30分加熱後において、黄色度が20以下であるとともに引張伸度が13%以上となる範囲において、特に限定しない。好ましくは、熱処理の最高温度(以下、「イミド化最高温度」という)が390〜470℃である。イミド化最高温度の下限は、より好ましくは400℃である。イミド化最高温度の上限は、より好ましくは450℃である。この範囲のイミド化最高温度であれば、特にポリイミドフィルムが含フッ素及びエーテル基のポリイミドを用いた場合に、優れた透明性を維持したまま、極めて優れた耐熱性を有するポリイミドフィルムを得ることができる。イミド化最高温度が390℃未満の場合、残存溶剤が多く、ガラス転移温度が低くなる傾向にある。一方、最高温度が470℃を超えると、可視光領域の透過率が低下し、黄色度(YI)が上昇する傾向にある。なお、上記最高温度における保持時間は、加熱方式、支持基材の熱容量、ポリイミドフィルムの厚み等によって異なるが、1分〜3時間であることが好ましい。1分未満であると、当該温度における熱処理の効果が小さく、3時間を超えると、特にイミド化最高温度を400℃以上とした場合に、過剰な熱がかかり、可視光領域の透過率が低下し、YIが上昇する傾向にある。
【0026】
また、イミド化の際には、空気中、低酸素濃度下、不活性ガス化、減圧下、真空下等、いずれの条件も適用できるが、特にYIを低くするという観点から、酸素濃度が10%以下でイミド化を行うことが好ましい。より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下である。
なお、イミド化の工程における最高温度以外の条件、例えば昇温速度については、ポリアミド酸溶液に含まれる有機溶媒の性質や量、ポリアミド酸の構造によって適宜調整できる。
【0027】
また、イミド化に先立ち、ポリアミド酸溶液に含まれる有機溶媒を揮発させるために、例えば、200℃以下で2〜60分程度の乾燥を行ってもよい。例えば、支持基材上に、ポリアミド酸溶液を、アプリケーターを用いて塗布し、150℃以下の温度で3〜60分予備乾燥した後、溶剤除去、イミド化のために前記の熱処理を行う。また、残存溶媒を飛ばすために、沸点以上の温度で加熱、例えば、300〜400℃の範囲で2〜60分保持時間を入れてもよい。
なお、最高温度で再配列された分子構造を安定化させるために、最高温度から室温に降温するときには、徐々に時間をかけて降温させることが好ましい。3時間以上かけて室温に戻すことは好ましい。
【0028】
塗布の方法は、公知の方法を用いることができるが、好ましくはスピンコート法、スリットコータ法である。
【0029】
また、熱処理において、ポリアミド酸溶液に脱水剤と触媒を加えて反応させることによる化学イミド化を行うこともできる。
【0030】
支持基材は、公知の基板を制限なく使用できるが、平滑、高耐熱及び寸法変化率が少ないという理由から、ガラス、ステンレス(SUS)、アルミ、銅箔、ポリイミドフィルムが好ましく、より好ましくはガラスである。支持基材の厚みは、例えば20μm〜1.0mm程度のものを使用するとよい。
【0031】
上記熱処理によって得られる本発明のポリイミドフィルムは、低い残存溶剤量、高い引張伸度、低い黄色度、高温で加熱しても変色しない特性を兼ね備える。具体的には、残存溶剤が500ppm以下であり、引張伸度が15%以上であり、黄色度が15以下である。それに加えて、420℃で30分加熱後において、黄色度が20以下、且つ、引張伸度が13%以上である。
【0032】
本発明のポリイミドフィルムは、残存溶剤が500ppm以下であり、残存溶剤の含有量が極めて少ない。そのため、TFT基板として用いる場合、バリア層及び有機EL層が形成されるときの400〜500℃高温プロセスには、ポリイミドフィルムから残存溶剤の発生によるバリア層の膨れ、バリア層の剥離の問題が懸念されるが、これを可及的に抑制することができる。さらに、本発明の範囲で製膜時のイミド化最高温度について、390℃以上を好ましい条件とすることで、残存溶剤が300ppm以下、さらに好ましい条件とすることで150ppm以下とすることもできる。
【0033】
また、製膜時の昇温条件は適宜に選択することができる。例えば、一定の昇温速度でイミド化温度まで上昇させ、一定の時間を保持する方法;溶剤の沸点より高い温度領域である300〜400℃の間で一定の時間を保持してから、再びイミド化温度までに上昇させ、最高温度で一定の時間を保持するという2段階硬化する方法;2段階硬化において、100〜200℃の間に、ゆっくりと溶剤を飛ばせるように一定の保持時間を設定する3段階硬化する方法;更に、2回硬化において、1回目を350℃〜400℃まで昇温させ、最高温度で一定の時間を保持してから室温に降温し、再度室温から一定の昇温速度で一回目よりも高い温度まで昇温し、最高硬化温度で一定の時間を保持する2回硬化方法などの方法によって製膜することができる。段階昇温の場合は、低度領域でより多くの溶媒を除去するために、4℃/分以下のスピードでゆっくり昇温し、高温領域で透明性を維持するために、4℃/分以上の早めのスピードで昇温してよい。
【0034】
本発明のポリイミドフィルムは、引張伸度が15%以上であるため、製造工程中等において破れることはなく、フレキシブルディスプレイとして使用する場合は、折り曲げ性にも優れている。このような引張伸度を有することから、例えば、ポリイミドフィルム表面に表示素子等の機能層が形成された後、ポリイミドフィルムをガラス(支持基材)から剥離するレーザーリフトオフ工程において、ポリイミドフィルムが破れることがなく、きれいにガラスから剥離できるため好ましい。好ましくは、当該引張伸度が20%以上であることがよい。
【0035】
また、本発明のポリイミドフィルムは、YIが15以下であるため、有機EL装置用TFT基板、タッチパネル基板、カラーフィルター基板等の、透明性や着色が少ないことを要求される基板に好適に使用できる。さらに、本発明の範囲ポリイミド成分の酸二無水物及びジアミン由来の構造単位の種類・成分比を好ましい条件とすることで、13以下とすることもできる。このような範囲とすることで、前記基板の視認性がより良くなる。
なお、本発明のポリイミドフィルムについては、好ましくは平均厚みが5〜50μmである。より好ましい下限値は7μmである。一方、より好ましい上限値は30μmであり、さらに好ましくは20μmである。平均厚みの測定は、例えば、後述の方法に従うことがよい。当該YIについては、フィルム厚さ10μmに換算した場合のYIとして、上記範囲を満たすものであることが好ましい。
【0036】
また、本発明のポリイミドフィルムは、420℃で30分加熱後においても黄色度が20以下、且つ、引張伸度が13%以上である。そのため、フレキシブルOLED用途のTFT基板、フレキシブルLCD用途のTFT基板及びCF基板の製造工程等で400℃以上の熱処理を行う場合でも、ポリイミドフィルムの変色はなく、また、ポリイミドフィルムは破れにくいという長所がある。なお、上記と同様に、この加熱処理後のYIについても、フィルム厚さ10μmに換算した場合のYIとして、当該範囲を満たすものであることが好ましい。
【0037】
また、本発明のポリイミドフィルムは、ガラス転移温度が400℃以上であるため、フレキシブルOLED用途のTFT基板、フレキシブルLCD用途のTFT基板及びCF基板の製造工程で400℃以上の熱処理を行う場合でも、ポリイミドフィルムが変質しにくいという長所がある。
【0038】
上記のような性能を満たすポリイミドフィルムは、含フッ素及びエーテル基(結合)のポリイミドであればその構造は限定しないが、エーテル基を含有する構造単位が、全構造単位の10モル%以上であることが好ましい。エーテル基を有するポリイミドは、基板との接着性に優れるため、工程中に基板から剥離することを抑制できる。また、エーテル基は、結合解離エネルギーが−C−結合よりも大きくて、熱分解しにくく、高温加熱しても熱分解による変色は起きにくく、そのため、フレキシブルOLED用途のTFT基板、フレキシブルLCD用途のTFT基板及びCF基板の製造工程で400℃以上の熱処理を行う場合でも、ポリイミドフィルムの変色はなく、また、ポリイミドフィルムは剥離しにくく、破れにくいという長所がある。
【0039】
上記のような性能を満たすポリイミドフィルムは、ポリイミド構造中にフッ素原子及びエーテル基を有していれば、その構造は限定しないが、該ポリイミドフィルムを構成するポリイミド成分が、耐熱性に優れるため、以下の式(1)及び(2)で表される構造単位を、好ましくはジアミン由来の構造単位として含むことがよい。
【0042】
ここで、上記式(1)又は(2)において、R
1〜R
8は、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜5までのアルキル基もしくはアルコキシ基、又はフッ素置換炭化水素基であり、式(1)にあってはR
1〜R
4のうち、また、式(2)にあってはR
1〜R
8のうち、それぞれ少なくとも一つはフッ素原子又はフッ素置換炭化水素基である。フッ素原子又はフッ素置換炭化水素基が、ジアミン由来の構造単位にのみ含まれてもよく、酸二無水物由来の構造単位にも含まれていてもよい。
【0043】
R
1〜R
8の好適な具体例としては、−H、−CH
3、−OCH
3、−F、−CF
3が挙げられるが、より好適には、R
1〜R
8の少なくとも一つが−F、又は−CF
3のいずれかであるのがよい。
【0044】
上記式(1)又は(2)で表される、好ましいジアミン由来の構造単位としては、下記式(4)のi〜xで表される構造単位が挙げられる。
【0046】
上記式(4)のうち、より好ましくは、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(略号:TFMB)由来の構造単位式の式(4)−viiiである。
【0047】
本発明のポリイミドフィルムは、上記式(1)又は(2)で表されるジアミン由来の構造単位のうち1種類又は2種類以上を、全ジアミン由来の構造単位中、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含む。この範囲であれば、イミド化のための熱処理において、最高温度を390℃〜470℃とすることで、高い透明性と優れた支持基材からの剥離性を維持したまま、特に高い耐熱性を発現することができる。
【0048】
また、熱変色性が良く、基板との接着性に優れ、引張伸度を高くする観点から、エーテル基を有するジアミン由来の構造単位及び/又はエーテル基を有するテトラカルボン酸二無水物由来の構造単位の合計が、ジアミン由来の構造単位及びテトラカルボン酸二無水物由来の構造単位の合計に対して10モル%以上であることが好ましい。より好ましくは15モル%以上であり、さらに好ましくは20モル%以上である。
【0049】
エーテル基を有するジアミン由来の構造単位としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DAPE)、3,3−ジアミノジフェニルエーテル、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、又は1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンが挙げられる。より好ましくは、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DAPE)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、又は1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンである。
【0050】
エーテル基を有するテトラカルボン酸二無水物由来の構造単位としては、4,4’−オキシジフタル酸ニ無水物(ODPA)、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、5,5’−ビス(トリフルオロメチル)−3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ジフェニルエーテル二無水物、ビス{3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェノキシ}ピロメリット酸二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ベンゼン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}、ビス(ジカルボキシフェノキシ)トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、2,2−ビス{(4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物等が挙げられる。
【0051】
上記エーテル基を有するジアミン由来の構造単位及び/又はエーテル基を有するテトラカルボン酸二無水物由来の構造単位は、上記の2種類以上を含んでもよい。これらの中でより好ましくは、4,4’−DAPE、APB、TPE−R及びODPAであり、さらに好ましくはODPAである。
【0052】
また、ジアミン由来の構造単位は、上記一般式(1)又は(2)で表される構造単位及びエーテル基を有するジアミン由来の構造単位以外の、公知のジアミン由来の構造単位を含んでもよい。
【0053】
上記公知のジアミン由来の構造単位としては、好ましくは、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,6−ジメチル−m−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノメシチレン、4,4’−メチレンジ−o−トルイジン、4,4’−メチレンジ−2,6−キシリジン、4,4’−メチレン−2,6−ジエチルアニリン、2,4−トルエンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、3,3’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−p−テルフェニル、3,3’−ジアミノ−p−テルフェニル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(2−メチル−4−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(1,1−ジメチル−5−アミノペンチル)ベンゼン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、2,4−ジアミノトルエン、m−キシレン−2,5−ジアミン、p−キシレン−2,5−ジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、2,6−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノ−1,3,4−オキサジアゾール、ピペラジン、9,9-ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、5−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、5−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが挙げられる。
【0054】
公知のジアミン由来の構造単位としてより好ましくは、下記式(5)のi〜ixで表される構造単位である。
【0056】
これらの中でも、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、5−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール(AI)又は5−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール(AO)が、透明性と耐熱性のバランスに優れ、好適なものとして例示される。
【0057】
また、本発明のポリイミドフィルムにおける、上記エーテル基を有する酸二無水物由来の構造単位以外の酸二無水物由来の構造単位は、公知の構造単位を使用できる。
上記公知の酸二無水物由来の構造単位としては、好ましくは、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,6,7−テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−テトラクロロナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’’,4,4’’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’’,3,3’’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’’,4’’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−プロパン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン−2,3,8,9−テトラカルボン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ペリレン−4,5,10,11−テトラカルボン酸二無水物、ペリレン−5,6,11,12−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,2,7,8−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,2,6,7−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,2,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(ヘプタフルオロプロピル)ピロメリット酸二無水物、ペンタフルオロエチルピロメリット酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5,5’−ビス(トリフルオロメチル)−3,3’,4,4’−テトラカルボキシビフェニル二無水物、2,2’,5,5’−テトラキス(トリフルオロメチル)−3,3’,4,4’−テトラカルボキシビフェニル二無水物、5,5’−ビス(トリフルオロメチル)−3,3’,4,4’−テトラカルボキシベンゾフェノン二無水物、トリフルオロメチルベンゼン二無水物が挙げられる。
【0058】
下記の式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物由来の構造単位から選ばれる構造単位が、より好ましい。
【化7】
【0059】
上記式(3)−i〜iiiで表されるテトラカルボン酸二無水物由来の構造単位から選ばれる構造単位のうち、さらに好ましくは、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)である。さらに好ましくは、耐熱変色性が良く、基板との接着性に優れ、引張伸度を高くすることができ、また、CTEがより低くなり、フレキシブル基板の寸法安定性に優れ、フレキシブルデバイスの反りを抑制できるPMDAである。
【0060】
また、本発明のポリイミドにおいては、耐熱性を向上させるために、組成の中に0.1〜5モル単位の架橋成分を添加してもよい。
【0061】
本発明のポリイミドフィルムは、複数層のポリイミドからなるようにしてもよい。単層の場合には、上述のとおり、5〜50μmの平均厚みを有するようにするのがよい。なお、本発明において平均厚みとは、ダイヤルゲージ又はマイクロメーターで面内の縦方向と横方向にそれぞれ5cmずつの間隔で厚みを測定して、平均した値であることを意味する。一方、複数層の場合においては、主たるポリイミド層が上記の厚みを有するポリイミドフィルムであればよい。ここで主たるポリイミド層とは、複数層のポリイミドの中で、厚みが最も大きな比率を占めるポリイミド層を指し、その平均厚みを5〜50μmにするのがよい。
【0062】
本発明のポリイミドフィルムは、上記好ましい含フッ素ポリイミドを、ポリイミドフィルム中に、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含む。
【0063】
本発明のポリイミドフィルムを使用したフレキシブルデバイス向け透明ポリイミド基板は、例えば、ガラス基板を支持基材とし、この支持基材上にポリイミドフィルムを形成し、次いで透明ポリイミドフィルム上に機能層を積層し、支持基材を剥離することで得られる。前記ポリイミドフィルム上に積層する機能層の種類は特に制限しないが、液晶表示装置、有機EL表示装置、電子ペーパーをはじめとする表示装置、及び、カラーフィルター等の表示装置の構成部品も含んでいる。また、有機EL照明装置、タッチパネル装置、ITO等が積層された導電性フィルム、水分や酸素等の浸透を防止するガスバリアフィルム、フレキシブル回路基板の構成部品などを含めた、前記表示装置に付随して使用される各種機能装置も包含される。すなわち、本発明で言う表示素子とは、液晶表示装置、有機EL表示装置、及びカラーフィルター等の構成部品のみならず、有機EL照明装置、タッチパネル装置、有機EL表示装置の電極層もしくは発光層、ガスバリアフィルム、接着フィルム、薄膜トランジスタ(TFT)、液晶表示装置の配線層もしくは透明導電層等の、1種又は2種以上を組み合わせたものも含めている。
【0064】
支持基材を剥離する方法としては、本発明のポリイミドフィルムであれば、レーザー光を支持基材(ガラス)とポリイミドフィルムとの界面に照射し剥離する、フィルムに切込みを入れて引き剥がす等、公知の手法によって支持基材から簡便に剥離可能である。
【0065】
また、機能層の形成方法は、目的とするフレキシブルデバイスに応じて、適宜、形成条件が設定されるが、一般的には金属膜、無機膜、有機膜等をポリイミドフィルム上に成膜した後、必要に応じて所定の形状にパターニングしたり、熱処理したりするなど、公知の方法を用いて得ることができる。すなわち、これら表示素子を形成するための手段については、特に制限されず、例えば、スパッタリング、蒸着、CVD、印刷、露光、浸漬など、適宜選択されたものであり、必要な場合には真空チャンバー内などでこれらのプロセス処理を行うようにしてもよい。そして、ポリイミドフィルム上に機能層を形成した後、支持基材を剥離するのは、各種プロセス処理を経て機能層を形成した直後であってもよく、又はある程度の期間を経過させて支持基材と一体にしておき、例えば表示装置として利用する直前に剥離してもよい。
【0066】
本発明のポリイミドフィルム上に、有機EL表示素子を付けた機能層付ポリイミドフィルムの一例を示す。
先ず、本発明のポリイミドフィルム上に、水分と酸素の透湿を阻止できるようにガスバリア層を設ける。次に、このガスバリア層の上面に、薄膜トランジスタ(TFT)を含む回路構成層を形成する。有機EL表示装置においては、薄膜トランジスタとして動作速度が速いLTPS−TFTが主に選択される。この回路構成層には、その上面にマトリックス状に複数配置された画素領域のそれぞれに対して、例えばITO(Indium Tin Oxide)の透明導電膜からなるアノード電極を形成する。更に、アノード電極の上面には有機EL発光層を形成し、この発光層の上面にはカソード電極を形成する。このカソード電極は各画素領域に共通に形成される。そして、このカソード電極の面を被うようにして、再度ガスバリア層を形成し、更に最表面には、表面保護のため封止基板を設置する。封止基板のカソード電極側の面にも水分や酸素の透湿を阻止するガスバリア層を積層しておくことが信頼性の観点から望ましい。なお、有機EL発光層は、正孔注入層−正孔輸送層−発光層−電子輸送層等の多層膜(アノード電極−発光層−カソード電極)で形成されるが、有機EL発光層は水分や酸素により劣化するため真空蒸着で形成され、電極形成も含めて真空中で連続形成されるのが一般的である。
【0067】
また、本発明のポリイミドフィルム上に、投影型容量結合方式のタッチパネルを付けた機能層付ポリイミドフィルムの一例を示す。
本発明のポリイミドフィルム上に、縦横に2つの電極列(第1と第2の電極)を設け、指が画面に触れた時の電極の静電容量変化を測定することにより、接触位置を精密に検出できる。具体的な構造としては、第1の電極が形成された第1の基板と、第2の電極が形成された第2基板とを、絶縁層(誘電層)を介して接合した構成とする。薄型化、軽量化、フレキシブル化のためには、電極を形成する基板を従来のガラス基板から屈曲性のある樹脂基板に置き換えることで実現できる。また、第1の電極と第2の電極を1つの基板上に形成して、更なる薄型化、軽量化も進められている。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
実施例等に用いた原材料の略号を以下に示す。(ジアミン)
・TFMB:2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル
・AI:5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール
・4,4’-DAPE:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
(酸二無水物)
・PMDA:ピロメリット酸二無水物
・6FDA:2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物
・ODPA:4,4’−オキシジフタル酸二無水物
・CBDA:1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
・BPDA:3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物
(溶剤)
・NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0070】
実施例等における各物性の測定方法及び評価方法を以下に示す。[光透過率T500、黄色度YI〔YI(10)〕及び色彩値b*]
ポリイミドフィルム(50mm×50mm)をSHIMADZU UV−3600分光光度計にて、500nmにおける光透過率(T500)とb*を求めた。
また、下式(I)で表される計算式に基づいてYI(黄色度)を算出した。なお、当該T500、b*、及びYIは、室温(23℃)の測定値である。加熱後のYIについても同様である。
YI=100×(1.2879X−1.0592Z)/Y (I)
X, Y, Zは試験片の三刺激値であり、JIS Z 8722に規定されている。
下式(II)で表される、フィルム厚み10μmに換算した黄色度〔YI(10)〕を、上記の式(I)のYIを用いて算出する。
YI(10)=YI*10/厚み (II)
【0071】
[ガラス転移温度(Tg)]
3mm×15mmのサイズのポリイミドフィルムを、熱機械分析(TMA/SS6100)装置にて30mNの荷重を加えながら一定の昇温速度(5℃/min)で30℃から350℃まで昇温し、次いで、一定の昇温速度(10℃/min)で350℃から50℃まで降温し、次いで、一定の昇温速度(5℃/min)で50℃から450℃までに昇温し、それから、一定の昇温速度(10℃/min)で450℃から50℃まで降温し、2段階目昇温時のTMAと温度の変曲点からガラス転移温度を算出した。450℃まで昇温させても、変曲点が検出されなかったものは、>450℃と表した。
【0072】
[熱膨張係数(CTE)]
3mm×15mmのサイズのポリイミドフィルムを、熱機械分析(TMA/SS6100)装置にて30mNの荷重を加えながら一定の昇温速度(5℃/min)で30℃から350℃まで昇温し、次いで、一定の昇温速度(10℃/min)で350℃から50℃まで降温し、次いで、一定の昇温速度(5℃/min)で50℃から450℃までに昇温し、それから、一定の昇温速度(10℃/min)で450℃から50℃まで降温し、2段階目の降温時(350℃⇒100℃)におけるポリイミドフィルムの伸び量(線膨張)から熱膨張係数を測定した。
【0073】
[引張伸度]
ポリイミドフィルム(10mm×15mm)の試験片を準備し、テンシロン万能試験機(オリエンテック株式会社製、RTA−250)を用い、引張速度10mm/minでIPC-TM-650, 2.4.19に準じて引張試験を行い、引張伸度と引張強度を算出した。
【0074】
[残存溶剤]
硬化したポリイミドフィルムを約0.5mg、20℃/minの速度で昇温し、空気中350℃で1時間加熱時に発生したNMP溶剤ガスを捕集し、GC−MSにて定量測定した。熱分解炉はフロンティア・ラボ社製のPY-2020iDを用い、GC−MSについては、Agilent Technologies社製のガスクロマトグラフ質量分析計を使い、カラムはAgilent Technologies社製のDB-WAXであった。
【0075】
下記の合成例に従い、ポリイミド前駆体溶液A〜Gを調製した。
【0076】
合成例1
窒素気流下で、100mlのセパラブルフラスコの中に、表1の組成の通り、ジアミンをNMPに溶解させ、次いで、酸二無水物を加えた。この溶液を、45℃で2時間加熱し、内容物を溶解させ、その後、溶液を30℃で50時間攪拌を続けて重合反応を行い、高重合度のポリイミド(PI)前駆体溶液A(粘稠な溶液)を得た。
【0077】
合成例2〜7
合成例1と同様に、表1の組成の通りに、合成例2〜7を行い、高重合度のポリイミド(PI)前駆体溶液B〜G(粘稠な溶液)を得た。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
[実施例1]
合成例1で得られたポリイミド前駆体溶液Aに、溶剤NMPを加えて、粘度が4000cPになるように希釈した上で、ガラス基板(コーニング製イーグルXG、サイズ=150mm×150mm、厚み=0.5mm)上に、スピンコーターを用いて、硬化後のポリイミド厚みが10μm程度になるように塗布した。続いて、100℃で15分間加熱を行った。そして、表2に示すように、窒素雰囲気(酸素濃度:3%以下)中で、一定の昇温速度(4℃/min)で室温から435℃まで昇温させ、それから435〜420℃の間で30分間保持し、4時間以上かけて室温に戻して、ガラス基板上に150mm×150mmのポリイミド層(ポリイミドフィルムA−1Fに相当)を形成し、ポリイミド積層体A−1を得た。なお、表2に示すイミド化最高温度、及び30分間の保持温度については、フィルム自体の温度を測定した値である。他の実施例及び比較例も同様である。
【0081】
[実施例2〜5、比較例1〜5]
ポリイミド前駆体溶液Aをポリイミド前駆体溶液B〜Fのいずれかに代えた他は、実施例1と同様にして操作を行い、表2に示すイミド化最高温度とした上で、当該イミド化最高温度から15℃低い温度領域で30分間保持し(ただし、比較例1は保持時間無し)、それぞれのポリイミド積層体B−2〜F−5、D−1’〜E−5’を得た。
【0082】
上記の実施例1〜5と比較例1〜5で得られた積層体を、上のポリイミド層だけを、カッターで剥離する部分の外周に沿って切り込みを入れ、水中に30分浸漬し、取り出して、水分をふき取って、ピンセットでガラスから剥離することによって、ポリイミドフィルムA−1F〜F−5F、D−1’F〜E−5’Fを得た。なお、これらのフィルムの厚みは、表2の厚みの項に示した。
【0083】
[実施例6]
合成例1で得られたポリイミド前駆体溶液Aに、溶剤NMPを加えて、粘度が4000cPになるように希釈した上で、ガラス基板(コーニング製イーグルXG、サイズ=150mm×150mm、厚み=0.5mm)上に、スピンコーターを用いて、硬化後のポリイミド厚みが10μm程度になるように塗布した。続いて、100℃で15分間加熱を行った。そして、表2に示すように、窒素雰囲気(酸素濃度:100ppm以下)中で、一定の昇温速度(4℃/min)で室温から425℃まで昇温させ、425〜430℃の間で30分間保持し、続いて、一定の昇温速度(4℃/min)で450℃まで昇温し、その温度で13分保持し、それから5時間以上かけて100℃に戻して、空気を導入し、室温に戻ってから、サンプルを窒素オーブンから取り出した。ガラス基板上に150mm×150mmのポリイミド層(ポリイミドフィルムA−6Fに相当)を形成し、ポリイミド積層体A−6を得た。なお、ここに記載する温度、および表2に示すイミド化最高温度については、フィルム自体の温度を測定した値である。
【0084】
[実施例7]
硬化条件として、一定の昇温速度(4℃/min)で室温から415℃まで昇温させ、405〜415℃の間で30分間保持し、続いて、一定の昇温速度(4℃/min)で465℃まで昇温し、450℃〜465℃の間で30分間保持した。硬化条件以外については、実施例6と同様に行い、ポリイミド積層体A−7を得た。
【0085】
[実施例8]
硬化条件として、一定の昇温速度(4℃/min)で室温から395℃まで昇温させ、380〜395℃の間で30分間保持し、続いて、一定の昇温速度(4℃/min)で425℃まで昇温し、410℃〜425℃の間で30分間保持した。硬化条件以外については、実施例6と同様に行い、ポリイミド積層体A−8を得た。
【0086】
[実施例9]
硬化条件として、一定の昇温速度(2℃/min)で室温から155℃まで昇温させ、155℃で30分間保持し、続いて、一定の昇温速度(3℃/min)で305℃まで昇温し、300℃〜305℃の間で20分間保持し、更に、一定の昇温速度(7℃/min)で415℃まで昇温し、400℃〜415℃の間で30分間保持した。硬化条件以外に、実施例6と同様に行い、ポリイミド積層体A−9を得た。
【0087】
[実施例10]
ポリイミド前駆体溶液Aをポリイミド前駆体溶液Gに代えて、硬化後のポリイミド厚みが6.5μm程度になるように塗布し、ほかの操作は実施例8と同様に行い、ポリイミド積層体G−10を得た。
【0088】
上記の実施例6〜10で得られた積層体を、上のポリイミド層だけを、カッターで剥離する部分の外周に沿って切り込みを入れ、空気中に10時間静置し、ピンセットでガラスから剥離して、ポリイミドフィルムA−6F、A−7F、A−8F、A−9F、G−10Fを得た。なお、これらのフィルムの厚みは、表2の厚みの項に示した。
【0089】
実施例1〜10、比較例1〜5で得られたポリイミドフィルムA−1F〜E−5’Fについて、それぞれのYI、YI(10)、CTE、Tg、500nm波長における光透過率(T500)、b*、残存溶剤、引張伸度など各種評価を行った。結果を表2に示した。
【0090】
実施例1〜5、比較例1〜5で得られたポリイミドガラス積層体A−1〜F−5、D−1’〜E−5’を用いて、6℃/minの昇温速度で、窒素雰囲気で420℃まで昇温し、それから420℃で30分保持し、その後、室温に降温して、サンプルを取り出した。上記と同様に、ポリイミド層だけを、カッターで剥離する部分の外周に沿って切り込みを入れ、水中に30分浸漬し、取り出して、水分をふき取って、ピンセットでガラスから剥離することによって、ポリイミドフィルムを得た。この加熱後のYI、YI(10)と引張伸度を測定し、合わせて、結果を表2に示した。
【0091】
実施例10で得られたポリイミドフィルムの厚みは6.5μmで、その厚みのままでの黄色度YIは、上記式(II)から14.3である。
【0092】
実施例6〜10で得られたポリイミドガラス積層体A−6〜G−10を用いて、6℃/minの昇温速度で、窒素雰囲気でそれぞれ400℃及び420℃まで昇温し、それからその温度で30分保持し、その後、室温に降温して、サンプルを取り出した。上記と同様に、ポリイミド層だけを、カッターで剥離する部分の外周に沿って切り込みを入れ、空気中に10時間静置してから、ピンセットでガラスから剥離することによって、ポリイミドフィルムを得た。この加熱後のYI、YI(10)と引張伸度を測定し、合わせて、結果を表2に示した。
【0093】
実施例10で得られた6.5μmのポリイミドフィルムは、400℃/30分加熱後の黄色度YIは14.3である。
【0094】
実施例10で得られた6.5μmのポリイミドフィルムは、420℃/30分加熱後の黄色度YIは15.0である。
【0095】
表2に示したとおり、本発明の製造条件を満たした実施例1〜10に係るポリイミドフィルムは、残存溶剤が500ppm以下、引張伸度が15%以上、黄色度YIが15以下であり、且つ、420℃で30分加熱後、引張伸度が13%以上であり、黄色度YIが20以下であり、透明性を保持したままで、きれいに支持体基板から剥離できるものであった。従って、このようなポリイミドフィルムは、有機ELディスプレイ、有機EL照明、電子ペーパー、タッチパネル等の表示装置のほか、蒸着マスク、ファンアウトウェハーレベルパッケージ(FOWLP)を形成する支持基材として、好適に使用できる。
一方、表2に示したとおり、本発明の製造条件を満たさない比較例1〜比較例5に係るポリイミドフィルムからなるものは、残存溶剤が多いものもあり、それはTFT製造工程の中でポリイミドフィルムは膨れが発生し、バリア層は部分的に剥離が発生した。また、引張伸度が小さいものは、最後の工程において、レーザーリフトオフ剥離の際に、ポリイミドが破れた。また、YIが15以上のものや420℃/30分加熱後のYIが20以上のものは、透明性が劣り、ディスプレイは着色となり、光学効果がよくなかった。