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特開2021-11094成形体、複合成形体および複合成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-11094(P2021-11094A)
(43)【公開日】2021年2月4日
(54)【発明の名称】成形体、複合成形体および複合成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20210108BHJP
【FI】
   B29C45/14
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-127918(P2019-127918)
(22)【出願日】2019年7月9日
(11)【特許番号】特許第6796165号(P6796165)
(45)【特許公報発行日】2020年12月2日
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】望月 章弘
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AA25
4F206AA34
4F206AB25
4F206AE10
4F206AG05
4F206AH17
4F206JA07
4F206JB12
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】本発明目的は、接合強度と気密性を高いレベルで両立可能な複合成形体を得ることのできる溝形状を有する第1成形体、そして接合強度と気密性を高いレベルで両立可能な複合成形体およびその複合成形体の製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明の目的は、繊維状充填剤を含み、第2樹脂を射出成形により接合するための、レーザ光の照射により設けられた溝を有する溝付き第1樹脂成形体であって、該溝が、(A)該第1樹脂成形体の該繊維状充填剤の配向方向に対し90°±60°以内で交差する領域の投影面積割合が、溝全体の投影面積に対して60%以上である接合強度確保部、及び、(B)該第2成形体との接合部において、気密性が必要な、一の端部から他の端部への経路に対し、縁切りする方向に交差する気密性確保部を有する、溝付き第1樹脂成形体、によって達成された。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状充填剤を含み、第2樹脂を射出成形により接合するための、レーザ光の照射により設けられた溝を有する溝付き第1樹脂成形体であって、該溝が、(A)該第1樹脂成形体の該繊維状充填剤の配向方向に対し90°±60°以内で交差する領域の投影面積割合が、溝全体の投影面積に対して60%以上である接合強度確保部、及び、(B)該第2樹脂の成形体との接合部において、気密性が必要な、一の端部から他の端部への経路に対し、縁切りする方向に交差する気密性確保部を有する、溝付き第1樹脂成形体。
【請求項2】
前記(A)接合強度確保部が、直線状、縞状、格子状、波線状、樹枝状、魚の骨状から選ばれる1種以上の構造を有する、請求項1記載の溝付き第1樹脂成形体。
【請求項3】
前記(A)接合強度確保部の溝幅が、前記繊維状充填剤の平均繊維長の80%以下である、請求項1または2記載の溝付き第1樹脂成形体。
【請求項4】
前記(B)気密性確保部が、直線状、気密性が必要な接合面の端部に沿った周状、同心円状、等高線状から選ばれる1種以上の構造を有する、請求項1〜3いずれかに記載の溝付き第1成形体。
【請求項5】
繊維状充填剤を含み、レーザ光の照射により設けられた溝を有する、溝付き第1樹脂成形体と、第2樹脂成形体との複合成形体であって、該溝が、(A)該第1樹脂成形体の該繊維状充填剤の配向方向に対し90°±45°以内で交差する領域の投影面積割合が、溝全体の投影面積に対して60%以上である接合強度確保部、及び、(B)該第2樹脂成形体との接合部において、気密性が必要な、一の端部から他の端部への経路に対し、縁切りする方向に交差する気密性確保部を有する、複合成形体。
【請求項6】
繊維状充填剤を含む第1樹脂成形体に第2樹脂を射出成形し複合成形体を製造する方法であって、繊維状充填剤を含む第1樹脂成形体に(A)第1樹脂成形体の繊維状充填剤の配向方向に対し90°±45°以内で交差する領域の投影面積割合が、溝全体の投影面積に対して60%以上である接合強度確保部、及び、(B)第2樹脂の成形体との接合部において、気密性が必要な、一の端部から他の端部への経路に対し、縁切りする方向に交差する気密性確保部を有する溝を、レーザ光の照射により形成する工程、
該(A)接合強度確保部及び(B)気密性確保部を有する溝を備えた第1樹脂成形体に、第2樹脂を射出成形する工程、を有する複合成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体、複合成形体および複合成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、電気製品、産業機器等をはじめとした分野では、二酸化炭素の排出量削減、製造コストの削減等の要請に応えるため、金属成形体を樹脂成形体に置き換える動きが広がっている。それに伴い、一の樹脂成形体と他の樹脂成形体または金属成形体等とを強固に一体化する技術の提供が求められる。
【0003】
特許文献1は、一の樹脂成形体と他の成形体とを一体化して複合成形品を製造する方法を開示する。この方法は、繊維状無機充填剤を含有する樹脂成形品に樹脂の一部除去を行い、側面から無機充填剤が露出された溝を形成して溝付き樹脂成形体を得た後、溝付き樹脂成形体の溝を有する面を接触面として他の成形体と一体化する。溝付き樹脂成形体を得る際、樹脂の一部除去は、レーザ照射によって行われる。この方法によると、溝で露出する無機充填剤が溝付き樹脂成形体及び他の成形体の破壊を抑えるアンカーの役割を果たし、結果として複合成形体の強度を著しく高めることができる。
【0004】
また、特許文献2では、第1成形体に溝を形成するにあたって、溝を凹部、溝間を凸部として、第2樹脂の流動体が射出された方向の凸部、凹部等の溝の形状を規定することにより、複合成形体の接合強度を向上させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2015−91642号公報
【特許文献2】特許第6366861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような溝付き第1成形体を使用する複合成形体では、非常に接合強度を向上させることができたが、接合強度だけでなく気密性をも要求される場合には、接合強度向上のために溝部を多く設けることで、当該溝部を介したエアリーク経路が生成するというジレンマにより、その両立が困難な場合があった。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、接合強度と気密性を高いレベルで両立可能な複合成形体を得ることのできる溝形状を有する第1成形体、そして接合強度と気密性を高いレベルで両立可能な複合成形体およびその複合成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、下記によって上記課題を解決した。
【0009】
1. 繊維状充填剤を含み、第2樹脂を射出成形により接合するための、レーザ光の照射により設けられた溝を有する溝付き第1樹脂成形体であって、該溝が、(A)該第1樹脂成形体の該繊維状充填剤の配向方向に対し90°±60°以内で交差する領域の投影面積割合が、溝全体の投影面積に対して60%以上である接合強度確保部、及び、(B)該第2樹脂の成形体との接合部において、気密性が必要な、一の端部から他の端部への経路に対し、縁切りする方向に交差する気密性確保部を有する、溝付き第1樹脂成形体。
2. 前記(A)接合強度確保部が、直線状、縞状、格子状、波線状、樹枝状、魚の骨状から選ばれる1種以上の構造を有する、前記1記載の溝付き第1樹脂成形体。
3. 前記(A)接合強度確保部の溝幅が、前記繊維状充填剤の平均繊維長の80%以下である、前記1または2記載の溝付き第1樹脂成形体。
4. 前記(B)気密性確保部が、直線状、気密性が必要な接合面の端部に沿った周状、同心円状、等高線状から選ばれる1種以上の構造を有する、前記1〜3いずれかに記載の溝付き第1成形体。
5. 繊維状充填剤を含み、レーザ光の照射により設けられた溝を有する、溝付き第1樹脂成形体と、第2樹脂成形体との複合成形体であって、該溝が、(A)該第1樹脂成形体の該繊維状充填剤の配向方向に対し90°±45°以内で交差する領域の投影面積割合が、溝全体の投影面積に対して60%以上である接合強度確保部、及び、(B)該第2樹脂成形体との接合部において、気密性が必要な、一の端部から他の端部への経路に対し、縁切りする方向に交差する気密性確保部を有する、複合成形体。
6. 繊維状充填剤を含む第1樹脂成形体に第2樹脂を射出成形し複合成形体を製造する方法であって、繊維状充填剤を含む第1樹脂成形体に(A)第1樹脂成形体の繊維状充填剤の配向方向に対し90°±45°以内で交差する領域の投影面積割合が、溝全体の投影面積に対して60%以上である接合強度確保部、及び、(B)第2樹脂の成形体との接合部において、気密性が必要な、一の端部から他の端部への経路に対し、縁切りする方向に交差する気密性確保部を有する溝を、レーザ光の照射により形成する工程、
該(A)接合強度確保部及び(B)気密性確保部を有する溝を備えた第1樹脂成形体に、第2樹脂を射出成形する工程、を有する複合成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、接合強度向上のための溝によるエアリーク経路生成という課題を解決し、接合強度と気密性を高いレベルで両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る第1樹脂成形体を示す模式図である。
図2】格子状の溝における繊維状充填剤の配向方向と溝がなす角度(θ1,θ2)を示す模式図である。
図3】本実施形態に係る第1樹脂成形体の溝パターン例(a)を示す模式図である。
図4】本実施形態に係る第1樹脂成形体の溝パターン例(b)を示す模式図である。
図5】実施例の試験片の作製工程を示す概略模式図(a)である。
図6】実施例の試験片の作製工程を示す概略模式図(b)である。
図7】実施例の試験片の作製工程を示す概略模式図(c)である。
図8】実施例となる、同心円状の溝と、繊維状充填剤の配向方向に対して45°の斜格子状の溝とを形成している試験片を示す模式図である。
図9】実施例となる、同心円状の溝と、繊維状充填剤の配向方向に対して90°の縞状の溝とを形成している試験片を示す模式図である。
図10】比較例となる同心円状の溝のみを形成している試験片を示す模式図である。
図11】比較例となる、繊維状充填剤の配向方向に対して45°の斜格子状の溝のみを形成している試験片を示す模式図である。
図12】比較例となる、同心円状の溝と、繊維状充填剤の配向方向に対して0°の縞状の溝とを形成している試験片を示す模式図である。
図13】実施例で使用した気密試験機Eを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0013】
<第1樹脂成形体>
第1樹脂成形体は、繊維状充填剤を含有した樹脂成形体を使用することができる。
繊維状充填剤としては、特に限定されず、ガラス繊維(チョップドストランド、長繊維、扁平断面繊維等)、炭素繊維、ウィスカー繊維、金属繊維等、公知の繊維状充填剤を用いることができる。この中で、後述するレーザ光による樹脂成形体への溝の形成を効率的に行う上では、繊維状充填剤がレーザ光を透過するものであることが好ましく、ガラス繊維を用いることが特に好ましい。
【0014】
第1樹脂成形体を構成する樹脂は、特に限定されないが、成形体中の繊維状充填剤を配向させる点で、射出成形による加工が容易な熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。好適な樹脂の例として、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。なお、後述するレーザ光による樹脂成形体への溝の形成を効率的に行う上では、樹脂成形体がレーザ光を吸収する化合物(着色剤等)を含有していてもよい。
【0015】
図1は、本発明の実施形態である第1樹脂成形体1が有する(A)接合強度確保部の溝3及び(B)気密性確保部の溝4を示している。図1中の2は第1樹脂成形体中に含まれる繊維状充填剤であり、その配向方向に対し、溝3は45°で交差する斜格子状となっている。また、溝3は、繊維状充填剤の繊維長に対し、約70%の幅で形成されているため、繊維状充填剤2はほぼ脱落することなく、溝3の側壁部を橋架けする、あるいは側壁部から突出する状態で存在する。
【0016】
これにより第2樹脂を成形する際に、溝3に入り込んだ第2樹脂が繊維状充填剤2を回り込んで保持することで、高いアンカー効果を発揮し、十分な接合強度を得ることができる。繊維状充填剤2の脱落を抑制し、かつ第2樹脂とのアンカー効果を得るための溝3と繊維状充填剤2の配向方向のなす角度は、90°±45°以内で交差するように形成される。
【0017】
当該角度は、90°±40°以内であることが好ましく、90°±35°以内であることがより好ましく、90°±30°以内であることが特に好ましい。また、溝3全体の投影面積に対し、当該角度で交差する領域の投影面積の割合は、60%以上であり、70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0018】
なお、繊維状充填剤2の配向方向は、必ずしも成形品内で完全に同一方向に揃っている訳では無く、通常ある程度のばらつきが存在するが、本発明において繊維状充填剤2の配向方向とは、接合強度確保部の溝3内部に露出した繊維状充填剤2から無作為に選択した100本の配向方向の平均から算出すればよく、繊維状充填剤2が少ない等によりそれが困難な場合は、第1樹脂成形体を成形する際の接合強度確保部における樹脂の流動方向を、繊維状充填剤2の配向方向とみなしてもよい。
【0019】
なお、当該溝3は、直線状、縞状、格子状、波線状、樹枝状、魚の骨状などのパターンで形成すれば良いが、繊維状充填剤2の配向方向がばらつきを持っている場合を考慮すると、格子状(斜格子状)や波線状、樹枝状、魚の骨状が好ましく、加工の容易性と設計に対する汎用性からは格子状(斜格子状)、第2樹脂を成形する際に溝内の空気を効率よく排出する観点からは樹枝状や魚の骨状であることが、それぞれ好ましい。また、溝3の幅は繊維状充填剤2の繊維長の80%以下で形成されることが好ましく、75%以下で形成されることがより好ましく、70%以下で形成されることがさらに好ましい。
【0020】
ここで、溝3が格子状(斜格子状)のパターンでは、図2に示すように、ある方向に配列した溝が繊維状充填剤2の配向方向と90°±45°以内の角度(θ1)をなす場合、格子を形成する他の方向に配列した溝は必然的に90°±45°以内に該当しない角度(θ2)となる場合もあり、その際は90°±45°以内の角度で交差する割合が60%未満となることがある。
【0021】
そのような場合は、θ2を無視して、θ1が上記割合を満たすようになっていればよい。また、溝3が波線状などの曲線状のパターンの場合は、溝3が繊維状充填剤2の配向方向と交差する位置での接線と、当該配向方向とがなす角度が上記割合を満たすようになっていればよい。
【0022】
さらに図1の(B)気密性確保部の溝4は、気密性が必要な経路5に対し、縁切りする方向で交差した等高線状となっている。溝4の幅も溝3と同様に繊維状充填剤2の繊維長の70%で形成されている。溝4の幅は繊維状充填剤2の繊維長に拘らず、必要な気密性を確保するための沿面距離を考慮して適宜設定すれば良いが、レーザ照射装置の設定を変更する煩雑さを考慮し、通常は溝3に準じて設定すれば良い。通常は、溝の幅は10〜1000μm、深さは10〜1000μmであることが好ましい。
【0023】
当該溝4は、気密性が必要な経路5に対し縁切りする方向に交差するように、直線状、波線状、帯状、気密性が必要な接合面の端部に沿った周状、同心円状、等高線状などのパターンで形成すれば良い。溝4と溝3の配置は特に限定されないが、経路5の始点または終点を確実に縁切りする意味で、溝4は接合領域の外縁部に設けることが好ましい。(A)接合強度確保部及び(B)気密性確保部はそれぞれ複数あってもよい。
【0024】
なお、図3のように、溝3のパターンとして挙げた格子状や魚の骨状などのパターンを、図4のように等高線状などの溝4のパターンとして挙げたような形態で配列させることで、経路5を縁切りしてもよい。
【0025】
溝の断面形状としては、通常知られている形状を適宜選択することができ、矩形・台形・V字・U字・円弧等であることが好ましい。
【0026】
<溝付き第1樹脂成形体の製造方法>
本発明の第1樹脂成形体の溝を形成する方法は、第1樹脂成形体の接合予定領域に対し、レーザ光を照射することにより行う。レーザにより樹脂を分解・昇華させて溝を形成することで、複雑な金型の準備を必要とせず、任意の領域に細かい溝を形成することができる。なお、第1樹脂成形体の溝部表面のラマン分光分析によって、樹脂の炭化層が存在することが確認できれば、レーザ照射によって形成されたものであると判断することができる。
【0027】
<複合成形体>
本発明の複合成形体は、第1樹脂成形体に第2樹脂成形体を結合することによって製造することができる。第1樹脂成形体への結合は、第1樹脂成形体に第2樹脂成形体を構成する第2樹脂を射出成形することによって製造することができる。
【0028】
第2樹脂成形体を構成する樹脂は、熱可塑性又は熱硬化性である。第1樹脂成形体を構成する第1樹脂と、第2樹脂成形体を構成する第2樹脂とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。第1樹脂成形体、第2樹脂成形体ともに、繊維状無機充填剤を含有する樹脂成形体であってもよく、その他公知の添加剤(酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、可塑剤、着色剤、強化材、靱性改良剤、流動性改良剤、耐加水分解性改良剤等)を含有する樹脂成形体であってもよい。
【0029】
<複合成形体の製造方法>
まず第1樹脂成形体を構成する第1樹脂を溶融し、所望の形状を形成する金型によって射出成形する。この時金型に凹凸を設け、レーザによるものとは別途、溝を形成してもよい。その後レーザ光の照射によって第1樹脂成形体の第2樹脂成形体と結合する面に所望の溝を形成する。ついで、溝を形成した溝付き第1樹脂成形体を金型に配置し、そこに第2樹脂成形体を構成する第2樹脂を流動し射出成形する。第1樹脂成形体への射出成形は、通常の条件を適宜選択することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0031】
図5に示すように、第1樹脂成形体として、ガラス繊維を40質量%含むポリフェニレンサルファイド樹脂(ポリプラスチックス株式会社製、ジュラファイド(登録商標)1140A1)を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度140℃、射出速度30mm/sec、保圧力60MPaにて、80mm×80mm×3mmの樹脂板を、1辺の中央部に設けた幅6mm×厚さ3mmのサイドゲートから射出成形にて作製し、図6に示すように、中央部から直径50mmの円盤状試験片を切り出したのち、その中央から直径20mmを切り抜いたもの6を用意した。次いで図7のハッチング部に示すように、この穴の開いた円盤の中心より直径20mmから直径30mmの領域を接合予定領域として、レーザ光照射により後述する各種パターンの溝を形成した試料101を作製した。
【0032】
<溝の形成>
レーザマーカMD−V9900(キーエンス社製、レーザータイプ:YV04レーザ、発信波長:1064nm、最大定格出力:13W(平均))を用い、出力90%、周波数40kHz、走査速度1000mm/sにて、第1樹脂成形体の接合予定領域に、図4〜11に示すような各種パターンの溝を形成した。なお、溝の深さと幅、及び溝の間隔はいずれも100μmとなるように調整した。
【0033】
図8に示す実施例1では、内縁から100μmオフセットした位置から100μm間隔で100μm幅の等高線状(同心円状)の溝を2周形成した上で、100μmの間隔を空けて、外縁まで幅100μmで100μm間隔の斜格子状の溝を形成している。ここで、繊維状充填剤の配向方向は紙面上下方向であり、θ1とθ2はいずれも45°である。
【0034】
図9に示す実施例2では、内縁から100μmオフセットした位置から100μm間隔で100μm幅の等高線状(同心円状)の溝を2周形成した上で、100μmの間隔を空けて、外縁まで幅100μmで100μm間隔の紙面左右方向の縞状の溝を形成している。ここで、繊維状充填剤の配向方向は紙面上下方向であり、溝とのなす角度は90°である。
【0035】
図10に示す比較例1では、内縁から100μmオフセットした位置から100μm間隔で100μm幅の等高線状(同心円状)の溝を5周形成している。ここで、繊維状充填剤の配向方向は紙面上下方向であり、溝とのなす角度は紙面の円周上下端部では90°であるが、円周左右端部では0°であり、90°±45°以内で交差する溝の割合は50%である。なお、比較例1の場合は接合強度確保部が存在しないパターンとも言えるが、気密性確保部が接合強度確保部としても機能する部分と見て上記割合を算出している。
【0036】
図11に示す比較例2では、内縁から外縁まで幅100μmで100μm間隔の斜格子状の溝を形成している。ここで、繊維状充填剤の配向方向は紙面上下方向であり、θ1とθ2はいずれも45°である。
【0037】
図12に示す比較例3では、内縁から100μmオフセットした位置から100μm間隔で100μm幅の等高線状(同心円状)の溝を2周形成した上で、100μmの間隔を空けて、外縁まで幅100μmで100μm間隔の紙面上下方向の縞状の溝を形成している。ここで、繊維状充填剤の配向方向は紙面上下方向であり、溝とのなす角度は0°である。
【0038】
次いで、図7に示すように、各実施例、比較例の第1樹脂成形体101の接合予定領域に接するように、第2樹脂を、直径30mm、厚さ1mmの円盤状に射出成形して第2樹脂成形体102を形成し、複合成形体(101および102)を得た。第2樹脂は、ガラス繊維を30質量%含むポリブチレンテレフタレート樹脂(ポリプラスチックス株式会社製、ジュラネックス(登録商標)3300)を用い、シリンダー温度270℃、金型温度80℃、射出速度30mm/sec、保圧力60MPaで、接合面の反対側の面の中心に設けた直径1mmのピンゲートから充填した。
【0039】
<評価>
上記の方法で作製した複合成形体について、以下の方法によりエアリーク試験を実施した。図13は、気密試験機Eを用いた気密性評価の方法を示す縦断面図である。気密試験機Eは、気密試験機本体106と気密試験機蓋103とを備える。Oリング105を介して複合成形体を気密試験機本体106に取り付け、複合成形体の下部を封止した。その後、気密試験機蓋103を複合成形体の第1樹脂成形体101上に載せてクランプした。
【0040】
第2樹脂成形体102を含む複合成形体上に蒸留水104を注ぎ、複合成形体の第2樹脂成形体102部分を蒸留水104中に完全に浸した。ライン107を介して空気を送り込み、気密試験機本体内部106に0.2MPaの圧力をリークが発生するまで加え、気泡の漏れを目視で観察した。
【0041】
<結果>
実施例1と2ではリークよりも先に第2樹脂成形体が破壊した。比較例1と3では接合強度の不足により第1樹脂成形体と第2樹脂成形体の界面が剥離した。比較例2では第1樹脂成形体と第2樹脂成形体の界面からリークが発生した。以上から、本発明によれば、高い接合強度と気密性を両立できることが確認された。
【符号の説明】
【0042】
1 第1樹脂成形体
2 繊維状充填剤
3 (A)接合強度確保部の溝
4 (B)気密性確保部の溝
5 気密性を確保することが必要な経路

(A) 接合強度確保部
(B) 気密性確保部

101 第1樹脂成形体
102 第2樹脂成形体
103 気密試験機蓋
104 蒸留水
105 Oリング
106 気密試験機本体
107 加圧用ライン
108 圧力
図1
図2
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図13