突起が形成された突起表面を有するグラッシーカーボン基板を含む、燃料電池用電極である。一例では、突起は針状突起であってよく、突起の平均高さは5nm〜3μmであってよい。また、突起表面に担持される触媒を含んでよく、触媒は白金粒子であってよい。また、グラッシーカーボン基板に対して、点状のエリア以外をドライエッチングし、突起表面を形成することを含む、燃料電池用電極の製造方法である。
グラッシーカーボン基板に対して、点状のエリア以外をドライエッチングし、突起表面を形成すること、及び前記突起表面が形成されたグラッシーカーボン基板に、アークプラズマ照射によって白金粒子を担持させることを含む、燃料電池用電極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る一実施形態について説明するが、以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0013】
(燃料電池用電極)
本実施形態による燃料電池用電極は、突起が形成された突起表面を有するグラッシーカーボン基板を含むことを特徴とする。より好ましくは、平均高さが5nm〜3μmである針状突起が形成された針状突起表面を有するグラッシーカーボン基板を含むことを特徴とする。さらに好ましくは、針状突起表面は平均高さが20nm〜500nmである。
また、本実施形態において、燃料電池用電極は、グラッシーカーボン基板の突起表面に担持される白金粒子等の触媒を含むことが好ましい。
これによれば、触媒活性が高く、耐久性に優れる燃料電池用電極を提供することができる。
以下、グラッシーカーボンをGCとも記し、グラッシーカーボン基板をGC基板とも記す。
【0014】
本実施形態によれば、グラッシーカーボン(GC)基板の表面に突起が形成されることで、GC基板の表面活性を高めることができる。また、このGC基板の突起表面に白金(Pt)粒子等の触媒が担持されることで、触媒活性を高めることができる。後述する通り、GC基板の突起表面に、アークプラズマ照射によって白金粒子を担持させることで、白金粒子はGC基板上でナノレベルの個々の粒子として担持される。また、白金粒子が担持された状態で、白金粒子による層は薄いため、GC基板の突起表面の外観形状は維持されるようになる。この構造によって、白金粒子の触媒活性及び耐久性を改善することができると考えられる。
【0015】
GC基板に突起表面を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、上記した特許文献3及び特許文献4に開示されている方法にしたがって行うことができる。とりわけ特許文献3に開示の方法は、石英ガラスを対象にしたものであるが、本発明者らは、石英ガラスと同じガラス質であるグラッシーカーボンに対しても好適に突起表面を形成可能であることに着目し、突起表面を有するGC基板を提供するに至っている。また、GC基板に突起表面を形成する方法としては、後述する燃料電池用電極の製造方法にしたがって行うことができる。このような突起表面を有するGC基板は、白金粒子等の触媒を担持させることで、触媒活性及び耐久性に優れ、燃料電池用電極に好ましく用いることができる。
ここで、耐久性は、燃料電池用電極の質量活性(白金1mg当たりの電流(アンペア)であり、単位はA mg
−1Pt)の矩形波及び三角波の電位サイクル試験おいて、質量活性減少率が少ないことから評価が可能な指標である。
【0016】
本実施形態によるグラッシーカーボン(GC)基板は、突起が形成された突起表面を有する。グラッシーカーボンは、非晶質炭素に分類され、ガラスの性質を備える炭素材料である。グラッシーカーボンを用いることで、燃料電池の電極材料として、GC基板自体の耐久性をより高めることができる。
突起表面は、GC基板の少なくとも一面に形成されていればよく、二面以上に形成されていてもよい。突起表面は、GC基板の一つの面に部分的に又は全面に形成されていてもよい。
GC基板において、突起は針状突起であることが好ましく、突起表面は針状突起表面であることが好ましい。
【0017】
GC基板の突起表面において、突起は、GC基板の基底面から上方に向かって先細りして突出する針状突起形状であることが好ましい。より具体的には、突起は、GC基板の基底面を底面とする円錐、三角錐、四角錘等の多角錘等の錐体形状であることが好ましい。
GC基板の突起表面において、突起は複数形成されることが好ましく、複数の突起が密集して形成されることが好ましい。例えば、GC基板の突起表面において、隣り合う突起の底面の最短距離は、隣り合う突起の底面の長径の平均値よりも小さいことが好ましい。
【0018】
GC基板の突起表面において、突起の平均最大直径は、5nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましい。
GC基板の突起表面において、突起の平均最大直径は、400nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、200nm以下がさらに好ましい。
上記した範囲によって、GC基板の表面積当たりの触媒活性をより高めることができる。また、GC基板表面に付与される触媒の耐久性をより高めることができる。平均最大直径が5nm以上である突起構造を持つことで、表面積が大きくなることから、触媒活性をより改善することができる。平均最大直径が400nm以下であることで、単位面積当たりの突起の個数密度を高め、触媒活性をより改善することができる。
ここで、突起の最大直径は、GC基板の基底面から突起の先端部までの間で直径が最大となる部分での直径である。例えば、突起が錐体であれば、GC基板の底面と接する底面が最大直径となる。
突起の平均最大直径の測定方法としては、突起表面が形成されたGC基板の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、所定領域内に観察される所定個数の突起の最大直径を測定し、それらを平均化して求めることができる。例えば、測定個数は、100個であってよい。
【0019】
GC基板の突起表面において、突起の平均高さは、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、20以下がさらに好ましく、15nm以上が一層好ましい。
GC基板の突起表面において、突起の平均高さは、3μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、700nm以下がさらに好ましく、500nm以下が一層好ましい。
上記した範囲によって、GC基板の表面積当たりの触媒活性をより高めることができる。また、GC基板表面に付与される触媒の耐久性をより高めることができる。平均高さが5nm以上であることで、突起が適当な軸方向長さとなり、表面積が大きくなることから、触媒活性をより改善することができる。平均高さが1μm以下であることで、形状安定性を維持しながら、触媒活性をより改善することができる。
ここで、突起の高さは、GC基板の基底面に対し直交する方向において、GC基板の基底面から突起の先端部までの間の長さである。
突起の平均高さの測定方法としては、突起表面が形成されたGC基板の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、所定領域内に観察される所定個数の突起の高さを測定し、それらを平均化して求めることができる。例えば、測定個数は、100個であってよい。
【0020】
GC基板の突起表面において、突起の平均ピッチは、5nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましい。
GC基板の突起表面において、突起の平均ピッチは、400nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、200nm以下がさらに好ましい。
上記した範囲によって、GC基板の表面積当たりの触媒活性をより高めることができる。また、GC基板表面に付与される触媒の耐久性をより高めることができる。上記した範囲によって、GC基板の基底面において突起の重なり防止して、よりシャープな突起形状とし、突起の表面積が大きくなることから、触媒活性をより改善することができる。また、単位面積当たりの突起の個数密度を高めることができ、触媒活性をより改善することができる。
ここで、突起のピッチは、GC基板の基底面において、隣り合う突起のそれぞれの底面の中心部間の距離である。
突起の平均ピッチの測定方法としては、突起表面が形成されたGC基板の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、所定領域内に観察される所定個数の突起のピッチを測定し、それらを平均化して求めることができる。例えば、測定個数は、100個であってよい。
【0021】
GC基板の突起表面において、単位面積当たりの突起の個数密度は、6個/μm
2以上が好ましく、11個/μm
2以上がよりましく、25個/μm
2以上がさらに好ましい。
GC基板の突起表面において、単位面積当たりの突起の個数密度は、40000個/μm
2以下が好ましく、2500個/μm
2以下がより好ましく、1100個/μm
2以下がさらに好ましい。
上記した範囲によって、GC基板の表面積当たりの触媒活性をより高めることができる。また、GC基板表面に付与される触媒の耐久性をより高めることができる。単位面積当たりの突起の個数が多いことで、触媒活性をより高めることができる。また、単位面積当たりの突起の個数が過剰に多くなることを防止することで、1個の突起の形状安定性を維持することができ、触媒の担持の均一性を維持することができる。
単位面積当たりの突起の個数密度は、突起表面が形成されたGC基板の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、所定領域内に観察される突起の個数を測定することで求めることができる。例えば、測定領域は、4μm×4μmとするとよい。
【0022】
また、GC基板のサイズ及びその厚さは特に限定されない。また、GC基板は、基材上にカーボン層が形成されたものであってもよい。
【0023】
本実施形態において、燃料電池用電極は、グラッシーカーボン基板の突起表面に担持される触媒を含むことが好ましい。触媒は、白金(Pt)粒子であることが好ましい。
触媒は、突起の表面に部分的または全面に担持されることが好ましく、全面に渡り均一に担持されることがより好ましい。
触媒は、突起の表面に粒子状に担持されることが好ましく、個々の粒子が離間した状態で担持されてもよく、複数の粒子が凝集体を形成して担持されてもよく、粒子が重なり合って均一な層状となって担持されてもよい。なかでも、触媒は、突起の表面に、個々の粒子の状態で担持されることが好ましく、個々の粒子がグラッシーカーボン基板に強く担持されることがより好ましい。
【0024】
触媒は、突起に対して非常に小さいことが好ましく、触媒が担持された状態で突起の外観形状が維持されることが好ましい。
触媒の平均粒子径は、0.3nm以上が好ましく、0.5nm以上がより好ましく、1nm以上がさらに好ましい。これによって、触媒そのものの触媒活性をより高めることができる。また、あまりに微細な触媒の取り扱いは難しいため、この範囲であれば触媒をGC基板の突起により簡便に担持させることができる。
触媒の平均粒子径は、20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましく、5nm以下がさらに好ましい。これによって、触媒が微細となるため、触媒そのものの触媒活性をより高めることができる。また、GC基板の突起の外観形状を維持した状態で触媒を担持させることができる。
ここで、触媒の平均粒子径の測定方法としては、触媒を担持した状態の突起表面を有するGC基板のSEM像を観察し、所定領域内に観察される所定個数の触媒の円相当径から粒子径を測定し、その平均値から求めることができる。例えば、測定個数は、500個である。
【0025】
触媒は、GC基板の突起に個々の粒子状に担持されていることが好ましく、触媒を担持した状態で、GC基板の突起表面の外観形状はほぼ変わらないことが好ましい。そのため、触媒が担持される層状の部分の厚さは、触媒の1次粒子径とほぼ同じになる程度が好ましい。
【0026】
突起構造を持つGC基板の単位面積当たりの触媒の担持量は、0.5μg/cm
2以上が好ましく、1μg/cm
2以上がより好ましく、2μg/cm
2以上がさらに好ましい。
突起構造を持つGC基板の単位面積当たりの触媒の担持量は、30μg/cm
2以下が好ましく、20μg/cm
2以下がより好ましく、10μg/cm
2以下がさらに好ましい。
ここで、触媒の担持量はGC基板の平滑な単位面積当たりの数値である。
【0027】
GC基板の突起表面に触媒が担持されていればよいが、GC基板の突起表面上には、樹脂層やバインダー等の有機物質は含まれないことが好ましい。GC基板の突起表面上には、単位面積当たり有機物質が0.01μg/cm
2以下が好ましく、0.001μg/cm
2以下がさらに好ましく、0.0001μg/cm
2以下であってもよい。
同様に、GC基板の突起表面上には、マスク材に由来する無機物質は含まれないことが好ましい。マスク材としては、例えば、Al、Al
2O
3等が挙げられる。GC基板の突起表面上には、単位面積当たり、マスク材に由来する無機物質が0.01μg/cm
2以下が好ましく、0.001μg/cm
2以下がさらに好ましく、0.0001μg/cm
2以下であってもよい。
なお、GC基板の突起表面上に担持される触媒が白金粒子であることが好ましいが、白金粒子とともに、又は白金粒子に代えて、白金粒子以外のその他の触媒活性を有する金属粒子を用いてもよい。
【0028】
(燃料電池用電極の製造方法)
本実施形態による燃料電池用電極の製造方法は、グラッシーカーボン基板に対して、点状のエリア以外をドライエッチング処理し、突起表面を形成することを含むことが好ましい。
これによれば、触媒活性が高く、耐久性に優れる燃料電池用電極を提供することができる。
【0029】
グラッシーカーボンは、非晶質炭素に分類され、ガラス状の性質を備える。そのため、グラッシーカーボンのエッチング速度が比較的速いことを利用して、GC基板に対してドライエッチング処理を施し、GC基板の表面に突起を形成することができる。
この際に、GC基板上において、微細な点状のエリア以外をドライエッチング処理することで、微細な点状部分を頂点として錐体状の突起を形成することができる。
【0030】
具体的な方法としては、GC基板上に、GC基板よりもエッチング速度が遅い微細粒子をランダムに被着させ、ドライエッチングすることができる。この方法では、微細粒子が被着された部分がマスクとして機能し、微細粒子以外の部分からGC基板がエッチングされて、微細粒子が被着された部分を頂点とした錐体状の突起が形成されるようになる。
【0031】
微細粒子をGC基板に被着させる方法としては、GC基板に微細粒子をスプレー法、CVD法、PDV法等を用いてあらかじめ被着し、その後に、微細粒子が被着したGC基板をドライエッチングする方法がある。また、別の方法としては、GC基板をドライエッチングする工程と、スパッタ部材から微細粒子をGC基板に被着する工程とを並行して行う方法がある。
【0032】
具体的には、微細粒子をGC基板に被着させる方法としては、ドライエッチングのチャンバ内に、基板と、マスク材料によって形成されるスパッタ部材とを配置し、基板のエッチングとともにスパッタ部材をスパッタする方法がある。この方法では、基板上にスパッタ部材から微細粒子が被着することと、基板のエッチングとを並行して行うことができる。微細粒子は、基板上にスパッタされるため、微細な点状で、さらにランダムに基板上に被着されるようになる。
この方法では、基板を設置する支持台周辺にスパッタ部材を配置することができる。例えば、基板を設置する支持台の一部又は全部をスパッタ部材で構成してもよい。
【0033】
GC基板に被着される微細粒子となり得るマスク材料は、GC基板よりもエッチング速度が遅い材料であることが好ましく、例えば、Al、Al
2O
3等、又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。Al
2O
3は、非晶質であっても結晶質であってもよく、焼結体であってもよく、単結晶としてサファイアを用いてもよい。
エッチングガスとしては、例えば、O
2、CHF
3、Ar、CF
4、SF
6等、又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0034】
ドライエッチング法としては、例えば、反応性イオンエッチング(RIE)、反応性イオンビームエッチング(RIBE)等が挙げられ、好ましくは反応性イオンエッチングである。
反応性イオンエッチングは、誘導結合プラズマ(ICP)型、容量結合(CCP)型等が挙げられ、好ましくは誘導結合プラズマ型である。
ドライエッチング装置としては、誘導結合プラズマ−反応性イオンエッチング(ICP−REI)装置を用いることが好ましい。具体的には、サムコ株式会社製「RIE−101iPH」等を用いることができる。
【0035】
反応性イオンエッチング(RIE)装置を用いて、GC基板に突起表面を形成する方法の一例について説明する。
反応性イオンエッチング装置は、チャンバと、チャンバ内において対向して配置されるアノード及びカソードと、チャンバ内に反応性ガスを供給する反応性ガス供給源と、チャンバ内を真空にするための真空ポンプとを備える。
カソード上に、スパッタ部材によって形成される支持台を設置し、その上にGC基板を設置する。そして、アノードとカソードとの間に電圧を負荷した状態で、反応性ガスを供給することで、支持台であるスパッタ部材から微細粒子がランダムにGC基板上に被着し、GC基板上の微細粒子がマスク材料として働きながら、GC基板のドライエッチングが進行する。これによって、GC基板を突起表面状に形成することができる。
反応性イオンエッチング装置から取り出した状態では、GC基板は突起表面が形成され、その上にエッチングによる不純物が付着していることがある。例えば、マスク材料である微粒子がGC基板上に残留していることがある。そのため、後述するように、ドライエッチング後に、GC基板を洗浄するとよい。
【0036】
反応性イオンエッチング装置において、チャンバ内は真空であることが好ましい。また、チャンバ内の圧力は1〜20Paであることが好ましい。また、GC基板の温度は20〜50℃が好ましい。
反応性イオンエッチング装置において、各エッチングガスの流量は10sccm〜50sccmが好ましい。また、キャリアガスとして、He等の不活性ガスを供給してもよい。
【0037】
ドライエッチング処理をした後には、GC基板の突起表面を洗浄することが好ましい。これによって、ドライエッチング処理による有機物等の付着物をGC基板の突起表面から除去することができる。また、マスク材等の残留物をGC基板の突起表面から除去することができる。これらの付着物を除去することで、後工程においてGC基板の突起表面に触媒を担持させる際に、より均一で強固に触媒を担持させることができる。また、不純物が除去されることで、触媒そのものの触媒活性をより高めることができる。
【0038】
GC基板の突起表面の洗浄には、水、HF希釈液、緩衝HF希釈液、硫酸希釈液等を用いることができ、付着物の除去の観点からHF希釈液又は緩衝HF希釈液を用いることが好ましい。HF希釈液及び緩衝HF希釈液は、それぞれHF濃度が0.1〜10質量%が好ましい。また、HF希釈液又は緩衝HF希釈液による洗浄の前後のいずれか、又は両方において、水洗を施してもよい。
【0039】
本実施形態による燃料電池用電極の製造方法は、突起が形成された突起表面を有するグラッシーカーボン基板に、アークプラズマ照射によって触媒を担持させることを含むことが好ましい。触媒は、白金粒子であることが好ましい。
これによれば、触媒活性が高く、耐久性に優れる燃料電池用電極を提供することができる。
突起が形成された突起表面を有するグラッシーカーボン基板は、上記した方法にしたがって用意することができる。なお、突起が形成された突起表面を有するグラッシーカーボン基板は、上記した方法にしたがって製造されたものに限定されず、各種の方法にしたがって用意されたものでもよく、好ましくは上記した物性値を備えるグラッシーカーボン基板を用いることができる。
【0040】
アークプラズマ照射を用いることで、発生させたプラズマをGC基板に飛来又は付着させることで、GC基板の突起表面に触媒を個々の粒子状態で担持させることができる。触媒として白金粒子を用いる場合では、白金プラズマを発生させて、GC基板の突起表面に白金粒子を担持させることができる。
アークプラズマ照射は、比較的低エネルギーで白金プラズマをGC基板に照射し、GC基板に触媒を担持させることができるため、触媒が1次粒子の粒子形状を維持した状態で、触媒をGC基板に担持させることができる。
【0041】
アークプラズマ照射の一方法では、アークプラズマ蒸着(APD)装置を用いることができる。
アークプラズマ蒸着装置では、チャンバ内にターゲットを設置し、アーク放電によってターゲット材料を蒸発させてターゲット材料を微粒子状態で含むプラズマを発生させ、このプラズマを基板に照射させることができる。
アークプラズマ蒸着装置の一例として、同軸型のアークプラズマ蒸着装置を用いることができる。
同軸型のアークプラズマ蒸着装置は、円筒状のアノードと、その内周に配置される円柱状カソードと、カソードの一方端側に設置されるターゲットとをチャンバ内に備え、ターゲットから離間した位置に基板が配置される。この装置では、コンデンサから電荷をカソードに一気に放電させて、アノードとカソードとの間にアーク放電を発生させ、アーク放電によってターゲット材料を蒸発させることでアークプラズマを発生させ、アークプラズマを基板に照射し、基板上に粒子状のターゲット材料を担持させることができる。
GC基板に触媒として白金粒子を担持させるためには、ターゲット材料として白金材料を用いればよい。また、ターゲット材料は、カソードの一方端側に設置されてもよいし、カソードと一体的に形成されていてもよいし、カソードをターゲット材料で形成してもよい。
【0042】
1ショット当たりの放電電圧が増大すること、アークプラズマのショット回数が増加すること、及びコンデンサの容量が増大すること等によって、GC基板に担持される白金粒子等の触媒のサイズが大きくなる傾向があるため、これらを制御することで、GC基板に担持される白金粒子等の触媒のサイズを調節することができる。
【0043】
アークプラズマ蒸着装置において、1ショット当たりの放電電圧は、10〜200Vが好ましく、30〜180Vがより好ましく、50〜100Vがさらに好ましい。
アークプラズマ蒸着装置において、コンデンサ容量は100〜1000μFが好ましく、200〜700μFがより好ましく、300〜500μFがさらに好ましい。
アークプラズマ蒸着装置において、アークプラズマのショット回数は、100〜2000回が好ましく、500〜1500回がより好ましい。
【0044】
アークプラズマ蒸着装置において、アークプラズマ照射する雰囲気は真空であることが好ましい。
アークプラズマ蒸着装置において、放電周波数は、1〜10Hzが好ましく、3〜6Hzがより好ましい。
アークプラズマ蒸着装置において、GC基板の温度は10〜40℃が好ましく、室温(23℃)であってもよい。
アークプラズマ蒸着装置において、ターゲットとGC基板との距離は、10〜300mmが好ましく、50〜150mmがより好ましい。
【0045】
アークプラズマ蒸着装置としては、同軸型のアークプラズマ蒸着装置としてアドバンス理工株式会社製「APD−1P」等を用いることができる。
【0046】
上記した製造方法によって、白金粒子等の触媒を担持した突起表面を備えるGC基板を提供することができる。得られるGC基板は、上記した好ましい物性を備えることができる。
【0047】
上記した突起表面を備えるGC基板、及び触媒を担持した突起表面を備えるGC基板は、それぞれ燃料電池用電極として好ましく用いることができる。
また、上記した製造方法によって製造される突起表面を備えるGC基板、及び触媒を担持した突起表面を備えるGC基板は、それぞれ燃料電池用電極として好ましく用いることができる。
本実施形態によるGC基板は、燃料電池用電極のカソード及びアノードのいずれか一方として用いることもできるし、両方に用いてもよい。なかでも、少なくともカソードが、本実施形態によるGC電極であることが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下、グラッシーカーボン及び白金をそれぞれ単に「GC」及び「Pt」とも表記する。
【0049】
(評価方法)
「Pt量」
白金(Pt)を担持した電極基板について、Pt量は、以下の手順にしたがって測定した。
Pt量は、同じアークプラズマ蒸着装置において、アークプラズマ蒸着に用いた1ショット当たりの放電電圧、コンデンサ容量とPtの蒸着量との関係式を前もって求めておき、その関係式とショット数とから計算して求めた。なお、電極基板の平滑な単位面積当たりのPt量を求めた。
【0050】
「電気化学的活性表面積」
Ptを担持した電極基板を用いて、サイクリックボルタンメトリー法によりそれぞれの対象試料のサイクリックボルタモグラムを測定し、サイクリックボルタモグラム曲線の吸着水素量を積分して電気化学的活性表面積を求めた。サイクリックボルタモグラムは、窒素で飽和した0.1M HClO
4中でPtを担持した電極基板を0.025Vと1.2Vとの間で50mV/sの速度で掃引することにより得られる。
【0051】
「質量活性」
Ptを担持した電極基板を用いて、線形掃引ボルタンメトリー(LSV)を測定し、0.9Vでの最大電流から質量活性を計算した。LSVは、酸素で飽和した0.1M HClO
4中で0.0Vから1.05Vまでを20mV/sの速度で掃引することにより得られる。
【0052】
「表面比活性」
Ptを担持した電極基板試料の表面比活性は、質量活性を電気化学的活性表面積で除することにより求めた。
【0053】
「CO stripping peak」
Ptを担持した電極基板を用いて、電極基板のCO酸化特性(CO stripping peak)を観察した。Pt電極触媒では、CO stripping peakの電位の数値が小さい方が好ましい結果である。CO stripping peakの測定方法は以下の通りである。
CO stripping peakは、COを飽和させた0.1M HClO
4中で電圧を0.4VにすることでCOをPt電極触媒表面に吸着させ、0.025Vから1.2Vまで50mV/sの速度で掃引した時の吸着COの酸化電流として測定される。
【0054】
「質量活性低下 after 10,000cycle of 0.6−1.0V」
質量活性低下 after 10,000cycle of 0.6−1.0Vは、0.6−1.0Vの矩形波による10,000回の負荷サイクル試験を実施して、サイクル前後の電極基板の質量活性低下率を測定した。この矩形波によるサイクル試験から、電極材料の中から主にPtの状態変化に基づく電極基板の質量活性低下を観察することができる。測定方法は以下の通りである。
回転ディスク電極装置(Pine Research instrumentation社製)を用いてポテンショスタット(電位制御)/ガルバノスタット(電流制御)(AUTOLAB社製)により電極基板の電気化学性能(質量活性)を測定した。サイクル前後の電極基板の酸素還元反応の質量活性は、0.1M HClO
4水溶液中において回転ディスク電極を毎分1600回転の下、20mV/sの速度で電位掃引して電流を測定する線形掃引ボルタンメトリー法(LSV)により評価した。
【0055】
「質量活性低下 after 10,000cycle of 1.0−1.5V」
質量活性低下 after 10,000cycle of 1.0−1.5Vは、1.0−1.5Vの三角波による10,000回のサイクル試験を実施して、サイクル前後の電極基板の質量活性低下率を測定した。この三角波によるサイクル試験から、電極材料の中から主にGCの状態変化に基づく電極基板の質量活性低下を観察することができる。測定方法は以下の通りである。
回転ディスク電極装置(Pine Research instrumentation社製)を用いてポテンショスタット(電位制御)/ガルバノスタット(電流制御)(AUTOLAB社製)により電極基板の電気化学性能(質量活性)を測定した。サイクル前後の電極基板の酸素還元反応の質量活性は、0.1M HClO
4水溶液中において回転ディスク電極を毎分1600回転の下、20mV/sの速度で電位掃引して電流を測定する線形掃引ボルタンメトリー法(LSV)により評価した。
【0056】
(例1)
「グラッシーカーボン基板の作製」
薄板状グラッシーカーボン(GC)基板(25mmx25mmx0.1mm)と、電気特性評価用グラッシーカーボン(GC)電極(φ5mm、6mm)を、誘導結合型プラズマ−反応性イオンエッチング(ICP−RIE)装置(サムコ株式会社製「RIE−101iPH」)のチャンバ内の加工ステージ上に、厚さ5mmのアルミナ焼結体製トレーに乗せた状態で設置し、真空排気後に、CHF
3ガス10〜20sccm、O
2ガス10〜20sccm、Arガス10〜20sccmを導入し、チャンバ内圧力を5〜10Paに保持した後、ICPパワー500W、RFバイアス100Wで30秒から3分間、GC基板にプラズマ照射した。これによって、GC基板表面を、針長10nm〜1000nmの針状形状が密集した針状突起表面に加工することができた。
【0057】
得られた針状突起表面を備えるGC基板のSEM(走査型電子顕微鏡)像を
図1に示す。
図1(a)は断面写真(5.0kV,倍率:100,000倍)、
図1(b)は上面写真(5.0kV,倍率:100,000倍)、
図1(c)は
図1(b)の拡大写真(5.0kV,倍率:200,000倍)である。
図1(a)及び(b)では右下のスケールの10目盛りが500nmであり、
図1(c)では右下のスケールの10目盛りが200nmである。
画像解析から、針状突起表面の物性は以下の通りであった。具体的には、1μm×1μmの測定領域に観察される任意の100個の針状突起について下記の物性値を測定し、その平均値を求めた。
針状突起の平均高さ:90nm
針状突起の平均最大直径:50nm
針状突起の平均ピッチ:55nm
【0058】
ICP−RIE装置から取り出したGC基板からプラズマ汚染物を除去するために、GC基板を10%−フッ化水素(HF)水溶液で1分間洗浄し、純水リンス後乾燥した。
【0059】
「Pt担持グラッシーカーボン基板の作製」
同軸型のアークプラズマ蒸着(APD)装置(アドバンス理工株式会社製「APD−1P」)を用いて、カソードに白金ターゲットを用いて、白金ターゲットとGC基板との距離を100mmに保ち、GC基板を設置した。
1ショット当たりの放電電圧70V、コンデンサ容量360μFの条件でアークプラズマ照射し、GC基板に白金(Pt)を担持させ、Ptを担持した針状突起表面を備えるGC基板としてPt/etched GC(APD法)を得た。ショット数は1200回とし、放電周波数は3Hzとし、GC基板温度を25℃とした。
【0060】
得られたPt/etched GC(APD法)のSEM像を
図2と
図3に示す。
図2(a)は断面写真(10.0kV,倍率:300,000倍)、
図2(b)はその拡大写真(10.0kV,倍率:400,000倍)である。
図3(a)は上面写真(10.0kV,倍率:200,000倍)であり、
図3(b)はその拡大写真(10.0kV,倍率:400,000倍)である。
図2(a)及び(b)では右下のスケールの10目盛りが100nmである。
図3(a)では右下のスケールの10目盛りが200nmであり、
図3(b)では右下のスケールの10目盛りが100nmである。
図2と
図3より、GC基板の針状突起表面にPtは個々の微粒子状に担持され、GC基板の針状突起表面が維持されていることがわかる。
画像解析から、GC基板の針状突起表面に担持されたPt粒子の平均粒子径を求めたところ、1.6nmであった。具体的には、420nm×420nmの測定領域に観察される任意の500個のPt粒子について粒子径を測定し、その平均値を求めた。なお、粒子径は、円相当径の平均値から求めた。
【0061】
(例2)
エッチング処理を行わない平滑な表面を備えるグラッシーカーボン(GC)基板に、上記例1と同じ条件にしたがって、アークプラズマ照射し、Ptを担持した平滑な表面を備えるGC基板としてPt/flat GC(APD法)を得た。Pt/flat GC(APD法)のHAADF−STEM(高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡)像とPtのEDSマップを
図4に示す。
図4(a)は断面HAADF−STEM画像(10.0kV,倍率:400,000倍)であり、
図4(b)はその拡大像(10.0kV,倍率:1,000,000倍)であり、
図4(c)は(b)のPtのEDSマップである。
画像解析から、平滑なGC基板表面層に担持されたPt粒子の平均粒子径を求めたところ、約2.0nmであった。具体的には、66nm×66nmの測定領域に観察される任意の100個のPt粒子について粒子径を測定し、円相当径の粒子径の平均値を求めた。
【0062】
(例3)
エッチング処理を行わない平滑な表面を備えるグラッシーカーボン(GC)基板に、化学的ウェット担持法によりPtを担持させ、Ptを化学担持した平滑な表面を備えるGC基板としてPt/GC(化学担持法)を得た。
化学ウェット担持法では、エチレングリコール中で平均粒子径3.1nmのPtナノ粒子を作製し、その所定量(10.3μg
Pt cm
−2GeO)を平滑なGC基板に担持した。具体的には、150mLの圧力容器に、エチレングリコールを20mL、1.94MのNaOHを0.1mL、及び0.077MのH
2PtCl
6の0.1mLを入れ、15分撹拌し、30分間超音波混合させた後、18分間180
oCに加熱してPtナノ粒子形成を完結させた。室温に下げ、遠心分離(15000回転/分)を30分間行ってPtナノ粒子を得た。得られたPtナノ粒子を10mLのエタノールに分散させ、その10μLを直径5mmのGC基板に滴下し、乾燥させてPt/GC(化学担持法)を得た。電気化学性能を測定するためには、試料表面にナフィオン溶液(0.03wt%)の5μLを滴下して担持Ptナノ粒子表面を被覆し電極試料とした。
【0063】
【表1】
【0064】
表中に示す通り、例1のPt/etched GC(APD法)は、質量活性が高く、表面比活性も高く、触媒活性に優れる電極基板であることがわかる。
例4及び例5の市販試料を用いた2nmPt/C TEC10E20E及び5nmPt/C TEC10E50E−HTは、Pt量を多く使用しているが、質量活性及び表面比活性が小さかった。市販試料は多孔性カーボンを電極基板に用いているが、それらに比べてPt/etched GC(APD法)は、質量活性及び表面比活性がかなり高いことがわかる。
例2の平滑な表面を備えるGC基板を用いたPt/flat GC(APD法)は、例1に比べると、電気化学的活性表面積が小さいが、質量活性及び表面比活性は市販試料の例4及び例5の質量活性及び表面比活性より高かった。例1の針状突起表面構造を持つPt/etched GC(APD法)は、平滑な基板表面を持つPt/flat GC(APD法)より触媒活性に優れる電極基板であることがわかる。
例3の平滑な表面を備えるGC基板に化学的担持法によってPtを担持させたPt/GC(化学担持法)は、例1及び例2に比べると、質量活性及び表面比活性が低かった。また、触媒活性が生じるにはPt/etched GC(APD法)及びPt/flat GC(APD法)より3倍以上の高価なPtが必要であった。
【0065】
CO stripping peakは、Pt触媒の場合は、COが容易に酸化脱離する方が好ましいため、小さい電位であることが好ましい。例1のPt/etched GC(APD法)は、CO stripping peakの電位が小さく、触媒活性に優れることがわかる。
【0066】
矩形波の0.6−1.0Vでの10,000回の負荷サイクル試験による質量活性低下から、サイクル試験によるPtの耐久性を観察することができる。例1のPt/etched GC(APD法)は、Ptの質量活性低下が観察されず、触媒の耐久性に優れることがわかる。
三角波の1.0−1.5Vでの10,000回の負荷サイクル試験による質量活性低下から、サイクル試験によるカーボンCの劣化に起因する電極基板の耐久性を観察することができる。例1のPt/etched GC(APD法)は、質量活性低下が少なく、例4及び例5の市販の電極基板に比べ基板自体の耐久性に優れることがわかる。例2のPt/flat CG(APD法)も質量活性低下が少ない。しかし、例3のPt/GC(化学担持法)は質量活性低下が多くなった。これより、グラッシーカーボン基板にPtをアークプラズマ処理することで、基板自体の耐久性が改善されることがわかる。