【課題】 本発明の目的は、新たな構造を有する基を導入することにより、生産性、機械的特性に優れた新規なポリアセタール共重合体およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 少なくとも、トリオキサン(A)および炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(B)およびオルガノポリシロキサン(C)、とを重合反応させたポリアセタール共重合体であって、該オルガノポリシロキサン(C)が、下記式(1)で表される化合物から選ばれる一種以上のシラン化合物の縮合物であって、アルコキシ基を有する化合物である、ポリアセタール共重合体。
少なくとも、トリオキサン(A)、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(B)およびオルガノポリシロキサン(C)、とを重合反応させたポリアセタール共重合体であって、該オルガノポリシロキサン(C)が、下記式(1)で表される化合物から選ばれる一種以上のシラン化合物の縮合物であって、アルコキシ基を有する化合物である、ポリアセタール共重合体。
R1nSi(OR2)4−n (1)
式(1)においてR1は一価炭化水素基を表し、R2は炭素数4以下のアルキル基を表す。nは0〜3の整数である。
少なくとも、トリオキサン(A)、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(B)およびオルガノポリシロキサン(C)、とを、カチオン重合触媒の存在下重合反応させたポリアセタール共重合体の製造方法であって、該オルガノポリシロキサン(C)が、下記式(1)で表される化合物から選ばれる一種以上のシラン化合物の縮合物であって、アルコキシ基を有する化合物である、ポリアセタール共重合体の製造方法。
R1nSi(OR2)4−n (1)
式(1)においてR1は一価炭化水素基を表し、R2は炭素数4以下のアルキル基を表す。nは0〜3の整数である。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的特性、熱的特性、電気的特性、摺動性、成形性等において、優れた特性を持っており、主に構造材料や機構部品等として電気機器、自動車部品、精密機械部品等に広く使用されている。しかし、ポリアセタール樹脂が利用される分野の拡大に伴い、要求特性は益々高度化、複合化、特殊化する傾向にある。そのような要求特性として、ポリアセタール樹脂が本来有する優れた摺動性、外観等を維持したまま、機械的強度に対し一層の向上が要求される。
【0003】
これに対し、単に剛性を向上させるだけの目的であれば、ポリアセタール樹脂に繊維状フィラー等を充填する方法が一般的であるが、この方法では、繊維状フィラー等の充填による成形品の外観不良や摺動特性の低下等の問題、更には靱性低下の問題がある。
【0004】
また、ポリアセタール共重合体では、コモノマー量を減少させることにより、摺動性や外観を実質的に損なうことなく剛性を向上させることが知られているが、コモノマー減量の手法においては、靱性が低下するのみならずポリマーの熱安定性も低下する等の問題が生じ、必ずしも要求に応え得るものではなかった。
【0005】
分岐構造導入による剛性向上も試みられているが、コモノマーの種類によっては、カチオン重合触媒、特にプロトン酸を重合触媒とする場合に、重合開始が遅れ、突然爆発的に重合が起こってしまうことがあり、生産安定性の面からも課題があった。
【0006】
例えば、ポリアセタール共重合体に関して、トリオキサンと、1分子中にグリシジルエーテル基を2個以上有する化合物とを共重合させた共重合体が提案されている(特許文献1)。しかし、グリシジルエーテル基に代表されるエポキシ基とエーテル酸素を官能基として複数個有する化合物を重合に使用する場合、重合安定性に課題が残っている。特にプロトン酸を重合触媒に使用した場合、低触媒量では重合が起こらず、触媒量を上げると、不定期な誘導期ののち、突然激しい重合反応が起こる現象が発生し、重合制御を難しくしている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
<ポリアセタール共重合体>
本発明のポリアセタール共重合体は、トリオキサン(A)、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(B)および特定の一種以上のシラン化合物の縮合物であって、アルコキシ基を有するオルガノポリシロキサン(C)とを重合反応させた共重合体であることを特徴とする。
【0013】
本発明のポリアセタール共重合体は、複数のポリアセタール分子の末端がオルガノポリシロキサンと結合した構造を含んでいるため、それにより機械的特性に優れるもの考えられる。
【0014】
≪トリオキサン(A)≫
本発明において用いられるトリオキサン(A)とは、ホルムアルデヒドの環状三量体であり、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることによって得られ、これを蒸留等の方法で精製して用いられる。
【0015】
≪炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(B)≫
本発明において、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(B)をコモノマーとして用いることが可能である。
【0016】
本発明の炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物とは、ポリアセタール共重合体の製造においてコモノマーとして一般に使用される化合物である、具体的には、1,3−ジオキソラン、1,3,6−トリオキソカン、1,4−ブタンジオールホルマール等が挙げられる。
【0017】
本発明において、(B)成分は、トリオキサン100質量部に対して0.01〜20質量部の範囲となるように使用するのが好ましく、さらに好ましくは0.05〜5質量部の範囲である。
【0018】
≪式(1)で表されるシラン化合物から選ばれる一種以上のシラン化合物を縮合させることで得られ、アルコキシ基を有するオルガノポリシロキサン(C)≫
R
1nSi(OR
2)
4−n (1)
式(1)においてR
1は一価炭化水素基を表し、R
2は炭素数4以下のアルキル基を表す。nは0〜3の整数である。
【0019】
式(1)で表されるシラン化合物としては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0020】
本発明のオルガノポリシロキサン(C)は、式(1)で表されるシラン化合物から選ばれる一種以上のシラン化合物を公知の縮合反応触媒、具体的には酸触媒、塩基触媒、有機金属化合物触媒などを用いて、縮合させることにより得られる。
【0021】
具体的には、例えば、特許2904317号公報や同3389338号公報等に記載の方法で(アルコキシ)シラン化合物を部分加水分解縮合し、本発明の効果を生ずる程度のアルコキシ基を含有するものである。
【0022】
本発明のオルガノポリシロキサン(C)がアルコキシ基を有することは、オルガノポリシロキサン中のアルコキシ基を定量することによって知ることができる。例えば、
29Si−NMR測定やKOHを加えて熱分解した際に生成するアルコール量で定量することができる。
【0023】
本発明のオルガノポリシロキサン(C)は、アルコキシ基と場合により炭化水素基を含有しかつシロキサン骨格を有する化合物である。アルコキシ基の具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が挙げられる。
【0024】
上記炭化水素基の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基等の飽和炭化水素基やフェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基が挙げられる。
本発明のオルガノポリシロキサン(C)にかかわる前記式(1)におけるR
2は得られるポリアセタール共重合体の機械物性の観点からメチル基およびエチル基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0025】
また、前記オルガノポリシロキサン(C)にかかわる前記式(1)におけるR
1は得られるポリアセタール共重合体の機械物性の観点からメチル基もしくはフェニル基から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0026】
本発明のオルガノポリシロキサン(C)の市販品としては、例えば、「SR2402Resin」、「AY42−163」、「DC−3074intermediate」及び「DC−3037intermediate」(以上、ダウ・東レ株式会社製)、「KC−89S」、「KR−500」、「X−40−9225」、「X−40−9246」、「X−40−9250」、「KR−9218」、「KR−213」、「KR−510」、「X−40−9227」、「X−40−9247」、「KR−401N」(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0027】
本発明において、(C)成分は重合反応において連鎖移動剤として機能していると考えられる。その結果、トリオキサン(A)、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(B)および前記オルガノシロキサン(C)との重合反応を行う際に重合の制御が容易となり、生産性が向上すると考えられる。
【0028】
本発明において、(C)成分は、トリオキサン(A)100質量部に対して0.01〜5質量部の範囲となるように使用するのが好ましく、さらに好ましくは0.03〜1質量部の範囲である。
【0029】
<カチオン重合触媒>
カチオン重合触媒としては、トリオキサン(A)を主モノマーとするカチオン共重合において公知の重合触媒が使用できる。代表的には、プロトン酸、ルイス酸、が挙げられる。特にプロトン酸であることが好ましい。
【0030】
≪プロトン酸≫
プロトン酸としては、パーフルオロアルカンスルホン酸、ヘテロポリ酸、イソポリ酸等が挙げられる。パーフルオロアルカンスルホン酸の具体例として、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸、トリデカフルオロヘキサンスルホン酸、ペンタデカフルオロへプタンスルホン酸、ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸が挙げられる。
【0031】
ヘテロポリ酸とは、異種の酸素酸が脱水縮合して生成するポリ酸をいい、中心に特定の異種元素が存在し、酸素原子を共有して縮合酸基が縮合してできる単核又は複核の錯イオンを有する。イソポリ酸とは、イソ多重酸、同核縮合酸、同種多重酸とも称され、V価又はVI価の単一種類の金属を有する無機酸素酸の縮合体から成る高分子量の無機酸素酸をいう。
【0032】
ヘテロポリ酸の具体例として、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸、ケイモリブドタングステントバナジン酸等が挙げられる。特に、重合活性の観点から、ヘテロポリ酸は、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングステン酸から選択されることが好ましい。
【0033】
イソポリ酸の具体例として、パラタングステン酸、メタタングステン酸等に例示されるイソポリタングステン酸、パラモリブデン酸、メタモリブデン酸等に例示されるイソポリモリブデン酸、メタポリバナジウム酸、イソポリバナジウム酸等が挙げられる。中でも、重合活性の観点から、イソポリタングステン酸であることが好ましい。
【0034】
≪ルイス酸≫
ルイス酸としては、例えば、ホウ素、スズ、チタン、リン、ヒ素及びアンチモンのハロゲン化物が挙げられ、具体的には三フッ化ホウ素(およびそのエーテル錯体)、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモン及びその錯化合物又は塩が挙げられる。
【0035】
重合触媒の量は特に限定されるものでないが、全モノマーの合計に対して0.1ppm以上50ppm以下であることが好ましく、0.1ppm以上30ppm以下であることがより好ましい。
【0036】
本発明においては、上記成分の他に分子量を調整する成分を併用し、末端基量を調整することができる。分子量を調整する成分としては、不安定末端を形成することのない連鎖移動剤、即ち、メチラール、モノメトキシメチラール、ジメトキシメチラール等のアルコキシ基を有する化合物が例示される。
【0037】
本発明で使用する重合装置も特に限定されるものではなく、公知の装置が使用され、バッチ式、連続式等、いずれの方法も可能である。また、重合温度は65℃以上135℃以下に保つことが好ましい。
【0038】
カチオン重合触媒は、重合に悪影響のない不活性な溶剤で希釈して使用することが好ましい。
【0039】
重合後の重合触媒の失活は従来公知の方法で行うことができる。例えば、重合反応後、重合機より排出される生成反応物、重合機中の反応生成物に塩基性化合物又はその水溶液等を加えて行うこともできる。
【0040】
重合触媒を中和し失活するための塩基性化合物は、特に限定されるものでない。重合及び失活の後、必要に応じて更に、洗浄、未反応モノマーの分離回収、乾燥等を従来公知の方法にて行う。
【0041】
上記のようにして得られるポリアセタール共重合体は、サイズ排除クロマトグラフィにて決定されたポリメタクリル酸メチル相当の重量平均分子量が10000〜500000であることが好ましく、特に好ましくは20000〜150000である。また、末端基については、
1H−NMRにより検出されるヘミホルマール末端基量(例えば、特開2001−11143公報記載の方法による)が0〜4mmol/kgであることが好ましく、特に好ましくは0〜2mmol/kgである。
【0042】
ヘミホルマール末端基量を上記範囲に制御するためには、重合に供するモノマー、コモノマー総量中の不純物、特に水分を20ppm以下にするのが好ましく、特に好ましくは10ppm以下である。
<その他成分>
【0043】
本発明で製造されるポリアセタール共重合体には、必要に応じて選択される公知の各種安定剤を配合するのが好ましい。ここで用いられる安定剤としては、ヒンダードフェノール化合物、窒素含有化合物、アルカリ或いはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩、カルボン酸塩等のいずれか1種または2種以上を挙げることができる。
【0044】
更に、本発明で製造されるポリアセタール共重合体には、必要に応じて、熱可塑性樹脂に対する一般的な添加剤、例えば染料、顔料等の着色剤、滑剤、核剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、或いは、有機高分子材料、無機または有機の繊維状、粉体状、板状の充填剤等を1種または2種以上添加することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
<重合反応>
熱媒を通すことのできるジャケットと撹拌羽根を有する密閉オートクレーブ中に300gのトリオキサン(A)を入れ、さらに(C)成分として表1に記載の化合物と(B)成分として1,3−ジオキソラン(DO)を、それぞれ表1に示した質量部の割合になるように添加した。これら内容物を撹拌し、ジャケットに80℃の温水を通して内部温度を約80℃に保った後、触媒として、リンタングステン酸(PWA)をギ酸メチル溶液の形で(A)と(B)の質量の和に対して4.5ppmまたはトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)をシクロヘキサン溶液の形で(A)と(B)の質量の和に対して1.0ppm添加し、重合反応を行った。実施例6はTfOH、それ以外は、PWAを使用した。
実施例で用いた(C)成分は(C−1)KR−500(R
1:メチル基、R
2:メチル基)、(C−2)KR−401N(R
1:メチル基/フェニル基、R
2:メチル基)(ともに信越化学工業社製)である。実施例、比較例の各成分は、表1に示した。
【0047】
5分後にこのオートクレーブへトリエチルアミン0.1%を含む水300gを加えて反応を停止し、内容物を取り出して200メッシュ以下に粉砕し、アセトン洗浄及び乾燥後、ポリアセタール共重合体収率(重合に使用した(A)と(B)と(C)の質量の和に対して得られた共重合体質量の割合(質量%))を算出した。この結果を表2に示した。
【0048】
比較として下記ジグリシジル化合物(X−1およびX−2)を本発明の(C)成分に替えて重合に用い、比較のポリアセタール共重合体を得た。
【0049】
X−1: ブタンジオールジグリシジルエーテル
【化1】
【0050】
X−2:トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル
【化2】
【0051】
上記の方法で得たポリアセタール共重合体100質量部に、安定剤としてペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(商品名:Irganox1010 BASF社製)を0.35質量部、およびメラミン0.15質量部を添加し、小型2軸押出機にて210℃で溶融混練し、ペレット状のポリアセタール樹脂組成物を得た。
これらのペレットを使用し下記の評価を行った。結果を表2に示す。
【0052】
<引張強度>
ISO527−1、2に準拠し、ISOType1A試験片の引張強度の測定を行った。測定室は、23℃50%RHの雰囲気を保持した。
<曲げ強度および曲げ弾性率>
ISO178に準拠し、曲げ強度、及び曲げ弾性率の測定を行った。測定室は、23℃50%RHの雰囲気を保持した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
実施例1〜7において、低触媒量で、高収率でポリアセタール共重合体が得られ、機械的特性に優れたポリアセタール共重合体であることが明らかになった。比較例2および3では、実施例と同じ触媒量では、重合反応は観測されなかった。比較例2および3において、触媒量を20ppmとした場合、突然激しい反応が起こったが、最終的な収率は50質量%程度と低いものであった。
【0056】
表2の結果から明らかなように、本発明によると、生産安定性、機械的特性に優れた新規なポリアセタール共重合体およびそのポリアセタール共重合体の製造方法を提供することができる。