は少なくともMo(モリブデン)を含む。Aは前記Mに結合したアニオン元素を表す。Tは4配位のカチオン元素を表す。Oは前記Mと前記Tを繋ぐ酸素を表す。)を繰り返し単位として含むファーマコシダライト構造を有する複合酸化物であって、前記複合酸化物をXPS(X線光電子分光法)で測定して得られる前記Moの3d軌道に帰属されるスペクトルを複数のピークMoに分離したときに、前記複数のピークMoに、3d(3/2)軌道に帰属される235〜237eVの範囲にピークトップを有する第1ピークが含まれていることを特徴とする複合酸化物。
前記複数のピークMoには、前記第1ピークに加え、Moの3d(5/2)軌道に帰属される233〜235eVの範囲にピークトップを有する第2ピークと、Moの3d(5/2)軌道に帰属される230〜232eVの範囲にピークトップを有する第3ピークと、Moの3d(3/2)軌道に帰属される232〜234eVの範囲にピークトップを有する第4ピークと、が含まれており、
前記第1ピークと前記第2ピークの面積の和をAMo6+とし、前記第3ピークと前記第4ピークの面積の和をAMo5+としたときに、前記AMo6+と前記AMo5+が下記式(1)の関係を満足することを特徴とする請求項3に記載の複合酸化物。
AMo6+:AMo5+=(1.4+X):(2.6−X) ・・・(1)
(上記式(1)において、Xは、−0.6〜0.6の実数を表す)
モリブデン源を含む6配位カチオン元素源、4配位カチオン元素源、及び水を含む組成物を加熱することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の複合酸化物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のファーマコシダライト構造を有する複合酸化物について説明する。
【0013】
本発明の複合酸化物は、ファーマコシダライト構造を有している。ここで、ファーマコシダライト構造は、ファーマコシダライト(KFe
4(AsO
4)
3(OH)
4)の結晶構造と同じ原子比率及び原子配置を有している結晶構造を指す。ファーマコシダライト構造は、その構造を形成できる組成であればよく、ファーマコシダライトと同じ原子で構成されていてもよく、異なる元素で構成されていてもよい。なお、ファーマコシダライトの結晶構造は、K(カリウム)を除く、Fe
4(AsO
4)
3(OH)
4で構成される結晶構造である。
【0014】
ファーマコシダライト構造(ファーマコシダライトの結晶構造)は、RCSR(Reticular Chemistry Structure Resource)のデータベース(https://clicktime.symantec.com/3HDh2CUr2315jpuyAxGMc497Vc?u=http%3A%2F%2Frcsr.anu.edu.au%2F)に登録されており、構造コードは「pha」とされている(https://clicktime.symantec.com/3DUJuMdmw3wAxB2DrKaz7hy7Vc?u=http%3A%2F%2Frcsr.anu.edu.au%2Fnets%2Fpha)。このRCSRのデータベースでは、ファーマコシダライト構造の繰り返し単位をM
4A
4T
3O
12としたときに、M、Tを交点としたトポロジー表記において、それぞれのVertex SymbolがM:3.3.3.3.3.3.8.8.8.*.*.*.*.*.*、T:3.3.8.8.8.8とされている。
【0015】
ファーマコシダライト構造の一例を
図1〜3を用いてより具体的に説明する。
【0016】
図1及び2に示すように、ファーマコシダライト構造は、組成式M
4A
4T
3O
12で表されるユニット(以下、「M
4A
4T
3O
12ユニット」という)が、隣接する別のM
4A
4T
3O
12ユニットに互いに連結され、X軸、Y軸及びZ軸方向にM
4A
4T
3O
12ユニットが繰り返し配列している構造である。このため、ファーマコシダライト構造の組成は、繰り返し単位(構成単位)M
4A
4T
3O
12として表すことができる。なお、組成式M
4A
4T
3O
12中、M
、A及びTはファーマコシダライト構造を形成できる任意の元素を表し、Oは酸素を表す。
【0017】
M
4A
4T
3O
12ユニットは、
図2に示すように、M
4A
4O
12クラスターと、当該M
4A
4O
12クラスター中の異なる2個の酸素原子(O)にそれぞれ結合する3個のT原子と、から構成される。M
4A
4O
12クラスター中の3個のT原子は、それぞれ、隣接する別のM
4A
4O
12クラスター中の異なる2個の酸素Oと結合し、隣接する3つのM
4A
4O
12クラスターが連結される。なお、
図2では、1つのM
4A
4O
12クラスターの周囲に3つのT原子しか示していないが、ファーマコシダライト構造では、M
4A
4O
12クラスターを囲むように6つのT原子が配置され、1つのM
4A
4O
12クラスターに対し、隣接する6つのM
4A
4O
12クラスターが連結される。
【0018】
M
4A
4O
12クラスターは、
図3に示すように、組成式M
4A
4で表されるサイコロ状のキューブ構造と、それぞれの頂点からキューブ構造の各辺(対角線を除く)をさらに延ばした位置に配置される合計12個の酸素(一部不図示)と、から構成されている。なお、ファーマコシダライト構造におけるキューブ構造の配置は、
図1や
図2に示している。組成式M
4A
4で表されるキューブ構造は、各頂点に配置される4つのM原子と4つのA原子により構成されており、各頂点のM原子とA原子は、キューブ構造の各辺(対角線を除く)においてM原子とA原子が隣り合わないように配置されている。なお、T原子は、キューブ構造の各面に配置される2つのM原子から、キューブ構造の各辺を同軸方向に伸ばした位置に配置される2つの酸素原子に結合している。
【0019】
本発明の複合酸化物は、上述したファーマコシダライト構造を有し、繰り返し単位をM
4A
4T
3O
12とする。本発明の複合酸化物において、組成式M
4A
4T
3O
12中、Mは6配位のカチオン元素を表し、Aは前記Mに結合したアニオン元素を表し、Tは4配位のカチオン元素を表し、Oは前記Mと前記Tを繋ぐ酸素を表す。そして、本発明の複合酸化物では、組成式M
4A
4T
3O
12中のM
4が少なくともMo(モリブデン)を含む。なお、カチオン元素とは、電子を放出する性質を持つ元素を指し、アニオン元素とは、電子を受け取る性質を持つ元素を指す。
【0020】
前述した条件のM
4A
4T
3O
12を繰り返し単位とするファーマコシダライト構造を有することは粉末X線回折で確認することができる。例えば、非特許文献4の結晶構造から計算されるXRDパターンと、実際に測定したXRDパターンが一致することにより確認できる。また、例えば、下表のXRDパターンを含むことによっても確認できる。下表のXRDパターンは、特に、Mo
4P
3O
16を繰り返し単位とするファーマコシダライト構造で確認することができる。なお、下表に示すXRDパターンにおいて、2θは、線源をCuKα線とする値であり、ピーク強度は、2θ=28.2±0.2°のピーク強度を100としたときの相対強度である。
【0022】
本発明の複合酸化物において、組成式M
4A
4T
3O
12中のM
4は、上述した通り、Moを含むが、Moのみにより構成されている必要は無く、Mo以外の6配位のカチオン元素を含んでいてもよい。このような6配位のカチオン元素としては、特に限定するものではないが、例えば、Cr、W、Fe、Ge、Al、Ti等が挙げられる。触媒、吸着剤、イオン交換体に適用しやすくなる観点から、組成式M
4A
4T
3O
12中のMは、全てがMoであることが好ましい。
【0023】
本発明の複合酸化物において、組成式M
4A
4T
3O
12中のTは、4配位のカチオン元素であればよく、特に限定するものではないが、例えば、N、P、As、Sb、Bi、Ge、Si等を用いることができる。触媒、吸着剤、イオン交換体に適用しやすくなる観点から、組成式M
4A
4T
3O
12中のTは、リン(P)を含むことが好ましく、その全てがPであることがより好ましい。
【0024】
本発明の複合酸化物において、組成式M
4A
4T
3O
12中のAは、Mに結合可能なアニオン元素であればよく、特に限定するものではないが、例えば、O、S、N等を用いることができる。触媒、吸着剤、イオン交換体に適用しやすくなる観点から、組成式M
4A
4T
3O
12中のAは、O(酸素)を含むことが好ましく、その全てがOであることが好ましい。
【0025】
本発明の複合酸化物は、複合酸化物をXPS(X線光電子分光法)で測定して得られるMoの3d軌道に帰属されるスペクトルが所定の条件を満足する。具体的には、Moの3d軌道に帰属されるスペクトルを複数のピーク(以下、「ピークMo」ともいう)にピーク分離したときに、複数のピークMoの中に、3d(3/2)軌道に帰属される235〜237eVの範囲にピークトップを有する第1ピーク(以下、単に「第1ピーク」ともいう)が含まれる。6価のモリブデンの酸化物の結合エネルギーは、Mo
6+の3d軌道(3d3/2)に帰属されるピーク(ピークトップ)が235〜237eVに検出されるため、複数のピークMoの中に第1ピークが確認できることは、本発明の複合酸化物に、6価のMoが含有されていること意味する。
【0026】
ここで、前述した複数のピークMoの中に第1ピークが確認できるとき、理論上は、Moの3d(5/2)軌道に帰属される233〜235eVの範囲にピークトップを有する第2ピーク(以下、単に「第2ピーク」ともいう)も確認できる。このため、本発明の複合酸化物において、前述した複数のピークMoには、第1ピークに加え、第2のピークが含まれていてもよい。第2ピークが確認できることは、第1のピークが確認できることと同様に、本発明の複合酸化物に、6価のMoが含有されていること意味する。
【0027】
なお、本発明において、XPS(X線光電子分光法)で測定して得られるスペクトルを複数のピークにピーク分離する方法は、各元素(例えばMo)の異なる結合状態から生じるピークを結合エネルギーに応じて分離できる方法であればよく、特に限定されるものではない。具体的なピークの分離方法には、例えば、関数を仮定して最小二乗法でフィッティングする方法を用いることができる。ピークを表す関数は、ガウス関数、ローレンツ関数、ガウス関数とローレンツ関数の混合関数(Gauss−Lorentz)、及びVoigt関数が例示できる。
【0028】
また、本発明の複合酸化物では、触媒、吸着剤、イオン交換体に適用しやすくなる観点から、前述した複数のピークMoの中に、3d(5/2)軌道に帰属される230〜232eVの範囲にピークトップを有する第3ピーク(以下、単に「第3ピーク」ともいう)が含まれていることが好ましい。5価のモリブデンの酸化物の結合エネルギーは、Mo
5+の3d軌道(3d5/2)に帰属されるピーク(ピークトップ)が230〜232に検出されるため、第3ピークが確認できることは、本発明の複合酸化物に、5価のMoが含有されていること意味する。
【0029】
ここで、前述した複数のピークMoの中に第3ピークが確認できるとき、理論上は、Moの3d(3/2)軌道に帰属される232〜234eVの範囲にピークトップを有する第4ピーク(以下、単に「第4ピーク」ともいう)も確認できる。このため、本発明の複合酸化物において、前述した複数のピークMoには、第3ピークに加え、第4のピークが含まれていてもよい。第4ピークが確認できることは、第3のピークが確認できることと同様に、本発明の複合酸化物に、5価のMoが含有されていること意味する。
【0030】
なお、各ピークのピークトップの範囲は互いに重複している部分がある。しかしながら、第1ピークと第2ピークの面積比(第1ピーク:第2ピーク)は、理論上は約2:3になり、第4ピークと第3ピークの面積比(第4ピーク:第3ピーク)は、理論上は約2:3なる。このため、これらの面積比から各ピークを区別することができる。また結合エネルギーは3d3/2の方が3d5/2よりも高くなる。
【0031】
また、本発明の複合酸化物が、組成M
4A
4T
3O
12中のT
3として、少なくともPを含む場合、触媒、吸着剤、イオン交換体に適用しやすくなる観点から、複合酸化物をXPS(X線光電子分光法)で測定して得られるPの2p軌道に帰属されるスペクトルが、131〜135eVの範囲ピークトップを有するピークを含んでいることが好ましい。3価のリンの酸化物の結合エネルギーは、P
3+2p(Pの2p軌道)に帰属されるピーク(ピークトップ)が131〜135eVに検出されるため、このような範囲に前述したピークが確認できることは、本発明の複合酸化物に、3価のPが含有されていること意味する。
【0032】
本発明の複合酸化物では、触媒、吸着剤、イオン交換体に適用しやすくなる観点から、繰り返し単位の組成式M
4A
4T
3O
12が、組成式Mo
4P
3O
16であることが好ましい。言い換えれば、本発明の複合酸化物では、組成式M
4A
4T
3O
12中、M
4が全てMoであり、A
4が全てOであり、T
3が全てPであることが好ましい。繰り返し単位を表す組成式がMo
4P
3O
16である骨格組成は、対カチオンや細孔内に含有される物質(水や有機物)を含まない組成であるが、対カチオンを含んでいてもよい。電荷のバランスを取る目的で、適宜、任意の対カチオンを共存させることが可能である。
【0033】
組成式Mo
4P
3O
16を繰り返し単位とする骨格組成については、多孔性結晶構造を形成しやすくなるという点で、当該組成物として−1.0〜−2.5の負電荷を有することが好ましく、−1.2〜−1.8の負電荷を有することがより好ましい。
【0034】
また、組成式Mo
4P
3O
16を繰り返し単位とする場合、多孔性結晶構造を形成しやすくなるという点で、本発明の複合酸化物は、前述した複数のピークMoの中に、前述した第1〜第4ピークの4つのピークが確認され、第1ピークと第2ピークの面積の和をA
Mo6+とし、第3ピークと第4ピークの面積の和をA
Mo5+としたときに、前記A
Mo6+と前記A
Mo5+が下記式(1)の関係を満足することが好ましい。なお、下記式(1)において、Xは、−0.6〜0.6の実数を表し、−0.3〜0.3の実数であることが好ましく、−0.2〜0.2の実数であることがより好ましく、−0.1〜0.1の実数であることが特に好ましい。
A
Mo6+:A
Mo5+=(1.4+X):(2.6−X) ・・・(1)
【0035】
なお、ピークの面積は、バックグラウンド補正をShirley法で行い、前述したピーク分離(例えば、フィッティング関数としてGauss−Lorentz関数を用いたピークフィット(ピーク分離))を行うことにより求めることができる。また、2つのピークの面積の和は、各ピークの面積をそれぞれ求めた後、これらの面積を合計することで求めることができる。
【0036】
上記(1)の関係を満足することは、言い換えれば、本発明の複合酸化物に、6価のMoと5価のMoが1.4+X:2.6−X(6価のMo:5価のMo)の比率で含有されていることを意味する。上記(1)の関係を満足する本発明の複合酸化物は、ファーマコシダライト構造中の全てのMoが6価のMoと5価のMoであるものと、ファーマコシダライト構造中の一部のMoのみが6価のMoと5価のMoであるものの両方を含む。全てのMoが6価のMoと5価のMoで構成されるファーマコシダライト構造は、繰り返し単位をMo
6+(1.4+X)Mo
5+(2.6−X)P
3O
16(Xは、−0.6〜0.6の実数を表す)で表すことができる。
【0037】
ファーマコシダライト構造に含有させることができる上記の対カチオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、銅イオン、マンガンイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、又はアンモニウムイオンを挙げることができる。
【0038】
本発明の複合酸化物は細孔を有することが好ましい。細孔とはIUPACが定義するミクロ孔を指し、2nm未満の細孔である。更に0.7nm未満のウルトラミクロ孔を有することが好ましく、更には0.4nm以下の細孔を有することが好ましい。細孔を有することによって、分子選択的な触媒反応、吸着挙動を示す。
【0039】
本発明の複合酸化物は、二酸化炭素吸着において、0.007cm
3/g以上、更には0.015cm
3/g以上、更には0.02cm
3/g以上の吸着量を有することが好ましい。
【0040】
次に、本発明の複合酸化物の製造方法について説明する。
【0041】
本発明の複合酸化物は、水熱合成法によって製造することができる。例えば、上記の6配位カチオン元素源、上記の4配位カチオン元素源、及び水を含む組成物を加熱することで製造することができる。
【0042】
6配位カチオン元素源は、前述した6配位のカチオン元素Mを含有する物質である。6配位カチオン元素源については、モリブデン源を必須とし、その他の例として、クロム源、タングステン源、鉄源、ゲルマニウム源、アルミニウム源、又はチタン源を表すことができ、モリブデン源のみを用いることもできるし、モリブデン源に加えて他の6配位カチオン元素源を併用することもできる。モリブデン源としては、例えば、金属モリブデン、酸化モリブデン、水酸化モリブデン、モリブデン酸、又は硫化モリブデンが挙げられる。クロム源としては、例えば、金属クロム、酸化クロム、水酸化クロム、クロム酸、又は硫化クロムが挙げられる。タングステン源としては、例えば、金属タングステン、酸化タングステン、水酸化タングステン、タングステン酸、又は硫化タングステンが挙げられる。鉄源としては、例えば、金属鉄、酸化鉄、水酸化鉄、鉄酸、又は硫化鉄が挙げられる。ゲルマニウム源としては、例えば、金属ゲルマニウム、酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、又は硫化ゲルマニウムが挙げられる。アルミニウム源としては、例えば、金属アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、又は硫化アルミニウムが挙げられる。チタン源としては、例えば、金属チタン、酸化チタン、水酸化チタン、チタン酸、又は硫化チタンが挙げられる。
【0043】
4配位カチオン元素源は、前述した4配位のカチオン元素Tを含有する物質である。4配位カチオン元素源については、例えば、窒素源、リン源、ヒ素源、アンチモン源、ビスマス源、ゲルマニウム源、又はケイ素源を表すことができ、これらのうち一種を単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。窒素源としては、例えば、亜硝酸、硝酸、又はアンモニアが挙げられる。リン源としては、例えば、リン、酸化リン、リン酸、リン酸塩、又は有機リン化合物が挙げられる。ヒ素源としては、例えば、三酸化二ヒ素が挙げられる。アンチモン源としては、例えば、硫化アンチモン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酸塩化アンチモン、又はスチビンが挙げられる。ビスマス源としては、例えば、酸化ビスマス、硫化ビスマス、塩化酸化ビスマス、次硝酸ビスマス、又は炭酸酸化ビスマスが挙げられる。ゲルマニウム源としては、例えば、四臭化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、ゲルマン、二酸化ゲルマニウム、二硫化ゲルマニウム、又は硫酸ゲルマニウムを挙げることができる。ケイ素源としては、例えば、二酸化ケイ素、ケイ酸、シラン、シラノール、有機シラン化合物、又は有機シラノールが挙げられる。
【0044】
なお、ファーマコシダライト構造の繰り返し単位M
4A
4T
3O
12中のAを、酸素以外の元素とする場合には、6配位カチオン元素源、4配位カチオン元素源、及び水とともに、酸素以外のアニオン元素源を含有させた組成物を加熱すればよい。アニオン元素源は、前述したアニオン元素Aを含有する物質であり特に限定されるものではない。
【0045】
触媒、吸着剤、イオン交換体として好適な、繰り返し単位の組成式M
4A
4T
3O
12が、組成式Mo
4P
3O
16である複合酸化物については、モリブデン源、リン源、水を含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)を加熱することで製造することができる。
【0046】
モリブデン源は、モリブデンを含有する物質である。モリブデン源としては、例えば、金属モリブデン、酸化モリブデン、水酸化モリブデン、モリブデン酸、及び硫化モリブデンからなる群の少なくとも1種類を挙げることができる。当該モリブデン源については、その一部として、モリブデン酸を含むことが好ましく、モリブデン酸アンモニウム((NH
4)
6M
O7O
24)を含むことがより好ましく、その全てがモリブデン酸アンモニウム((NH
4)
6M
O7O
24)であることがより好ましい。
【0047】
リン源は、リンを含有する物質である。リン源としては、リン、酸化リン、リン酸、リン酸塩、有機リン化合物からなる群の少なくとも1種類が挙げられる。当該リン源については、リンの価数が異なる2種類以上のリン源を含むことが好ましく、特に、5価と3価のリンを含有するリン源を含むことが好ましく、リン酸(H
3PO
3)と5価のリンを含有するリン酸塩を含むことがより好ましく、リン酸(H
3PO
3)とリン酸水素2アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)を含むことがより好ましい。
【0048】
水は、モリブデン源やリン源に水が含まれる場合には当該水を有効利用することが可能であり、モリブデン源とリン源とは別に水を追加しなくてもよい。
【0049】
原料組成物は、モリブデン源、リン源、及び水の他に、他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば、還元剤、ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、硫酸、及びアンモニアからなる群の少なくとも1種を挙げることができる。なお、硫酸ヒドラジンはモリブデンを還元する作用を有する。
【0050】
原料組成物は、6配位カチオン元素源(好ましくは、モリブデン源)、4配位カチオン元素源(好ましくは、リン源)、及び水を含んでいればよい。好ましい原料組成物のpHとして、1以上6以下、更には1.5以上5以下、更には1.5以上2.5以下が挙げられる。
【0051】
原料組成物を取得する方法は、特に限定されないが、例えば、6配位カチオン元素源(好ましくは、モリブデン源)を水と混合した後、当該混合物に5価の4配位カチオン元素源(好ましくは、5価のリンを含有するリン源)を加え、続いて3価の4配位カチオン元素源(好ましくは、3価のリンを含有するリン源)を加える方法が挙げられる。6配位カチオン元素源(好ましくは、モリブデン源)及び4配位カチオン元素源(好ましくは、リン源)は、固体でも構わないし、水溶液でも構わない。
【0052】
原料組成物は、特に限定するものではないが、4配位カチオン元素(好ましくは、リン)と6配位カチオン元素(好ましくは、モリブデン)のモル比(以下、「T/M比」、好ましくは「P/Mo比」ともいう。)が3以上10以下であることが好ましく、5以上9以下であることがより好ましく、6以上8以下であることがより好ましく、6.5以上7.0以下であることがより好ましい。
【0053】
また、3価の4配位カチオン元素源(好ましくは、3価のリン)と5価の4配位カチオン元素源(好ましくは、5価のリン)のモル比(以下、「T(III)/T(V)比」、好ましくは「P(III)/P(V)比」ともいう。)は、特に限定するものではないが、0以上10以下であることが好ましく、0.5以上5以下であることがより好ましく、1以上3以下であることがより好ましく、1.5以上1.8以下であることがより好ましい。
【0054】
水と4配位カチオン元素(好ましくは、リン)のモル比(以下、「H
2O/T比」、好ましくは「H
2O/P比」ともいう。)は、特に限定するものではないが、3以上30以下であることが好ましく、5以上20以下であることがより好ましく、10以上15以下であることがより好ましい。
【0055】
上述した比率の範囲は、これらの範囲を満たすことで、原料組成物から本発明の複合酸化物が結晶化しやすくなる点で好ましい。
【0056】
結晶化工程において、原料組成物を加熱するが、加熱温度は、特に限定するものではないが、100℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、230℃以上であることがより好ましい。一方、加熱温度は300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましい。これらの範囲を満たすことで、原料組成物から本発明の複合酸化物が結晶化しやすくなる点で好ましい。
【0057】
加熱時間は加熱温度に依存し、加熱温度が高くなるほど加熱時間は短くなる傾向がある。結晶化工程における加熱時間としては、特に限定するものではないが、10時間以上が好ましく、20時間以上がより好ましく、24時間以上がより好ましい。生産性の観点から、加熱時間は、特に限定するものではないが、7日以下が好ましく、3日以下がより好ましく、24時間以下がより好ましい。
【0058】
結晶化工程において、原料組成物を加熱するときの圧力は、特に限定されるものではないが、原料組成物を密封容器内で加熱して発生する自生圧以上とすることが好ましい。このような自生圧は、例えば、3.0MPaである。
【0059】
好ましい製造方法については、上記の水熱合成工程(結晶化工程ともいう)に加えて、分離工程を含んでいてもよく、分離工程及び乾燥工程を含んでいてもよく、分離工程、乾燥工程及び修飾工程を含んでいてもよい。
【0060】
上記の結晶化工程により、本発明の複合酸化物を含む生成物が得られる。分離工程では、得られた生成物から目的物である複合酸化物と水等のその他の成分を分離することを目的とする。生成物の分離方法は任意である。分離方法としては、ろ過又は遠心沈降の少なくともいずれかが挙げられ、これらを併用又は繰り返し行ってもよい。さらに、分離工程において、生成物を水に混合した後に、分離方法に掛けることで、複合酸化物の分離と洗浄を同時に行うことができる。本発明の複合酸化物は、これらの分離方法により固相として得られる。
【0061】
乾燥工程は、複合酸化物に物理吸着した溶媒や有機物を除去することを目的とする。当該乾燥工程については、複合酸化物に物理吸着した溶媒や有機物を除去できる方法であれば、任意の乾燥方法を用いることができる。乾燥方法として、特に限定するものではないが、大気中、50℃以上200℃未満で処理することが例示できる。
【0062】
修飾工程は、本発明の複合酸化物に所望の特性を付与することを目的とする。例えば、修飾工程として、本発明の複合酸化物のイオン種を交換することが挙げられる。これにより、例えば、プロトン型にした場合には、複合酸化物の細孔を拡張することができる。プロトン型にする方法として、特に限定するものではないが、例えば、アンモニウム型の複合酸化物を大気圧の空気雰囲気、大気圧の窒素下、又は減圧下において50℃以上500℃以下で加熱することが挙げられ、好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下で加熱することが挙げられる。
【0063】
以上説明した本発明の複合酸化物は、6価のモリブデンを含有する新規な複合酸化物である。この複合酸化物は、例えば、Mg
2+、Ca
2+に対し、選択的にSr
2+、Cs
+を吸着することができる。このため、本発明の複合酸化物は、吸着剤や触媒、イオン交換体として利用することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、「比」は特に断らない限り、「モル比」である。
【0065】
(結晶構造の同定)
一般的なX線回折装置(装置名:RINT Ultima+、リガク社製)を使用し、以下の条件で試料の粉末X線回折を測定した。
線源 :CuKα線
管電圧 :40kV
管電流 :40mA
測定範囲 :2θ=4°〜80°
【0066】
得られた回折パターンをRietveld解析することによって結晶構造を同定した。Rietveld解析にはMaterials Studio v7.1.0(アクセリルス社製)のReflexツールを用いた。
【0067】
(組成分析)
水酸化カリウム水溶液に試料を溶解して試料溶液を調製した。一般的なICP装置(装置名:ICPE−9820、島津製作所製)を使用して、当該試料溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)で測定することにより、試料のモリブデン量、リン量を分析した。質量バランスから、試料中に含まれる酸素量を計算した。
【0068】
試料中に含まれるNH
4+量は、試料を室温から600℃まで昇温した際に脱離するNH
3を質量分析計で定量することによって測定した。
【0069】
(XPS)
一般的なXPS装置(装置名:JPC−9010MC、日本電子株式会社製)を使用して、下記の条件で測定した。
線源 :非単色化MgKα線
X線ビーム径:200μmφ(10W、10kV)
なお、Moの3d軌道に帰属されるスペクトルのピーク分離は、バックグラウンド補正をShirley法で行い、フィッティング関数としてGauss−Lorentz関数を用いたピークフィット(ピーク分離)により行った。また、各ピークの面積は、分離したピークから求めた。
【0070】
(CO
2吸着)
測定には一般的な窒素吸着装置(装置名:BELSORP MAX、マイクロトラック・ベル社製)を用いた。試料を真空下300℃で2.5時間前処理し、0℃で二酸化炭素ガスを吸着させた。
【0071】
(イオン交換)
Cs
+(1mg/L)、Sr
2+(1mg/L)、Na
+(996mg/L)、Mg
2+(118mg/L)、及びCa
2+(41mg/L)を含む水1Lに試料0.05gを投入し、25℃で24時間攪拌した。0.1μmメンブレンフィルタで固液分離した後、液相のCs
+量、Sr
2+量、Mg
2+量及びCa
2+量をICPを用いて測定した。除去率は下式で求めた。
除去率(%)=100−(イオン交換後の濃度/イオン交換前の濃度)×100
【0072】
(イオン交換時のICP測定)
試料液体を一般的なICP装置(装置名:OPTIMA5300DV、PerkinElmer社製)を使用して、当該試料液体を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)で測定することにより、試料のCs、Sr、Mg、及びCa量を分析した。
【0073】
実施例1
モリブデン酸アンモニウム((NH
4)
6M
O7O
24) 2.45g(モリブデン含有量14mmol)を18.6ml(1033mmol)の水に溶解させ、硫酸ヒドラジン((N
2H
4)
2H
2SO
4)を1.30g(10mmol)添加して攪拌した。そこにリン酸水素2アンモニウム((NH
4)
2HPO
4) 4.75g(36mmol)を加えて攪拌した。そこにリン酸(H
3PO
3) 5g(リン含有量60mmol)を水 3ml(167mmol)に溶かしたものを滴下し、10分間攪拌して原料組成物を得た。pHは2.02であった。
【0074】
原料組成物のP/Mo比は6.9であり、P(III)/P(V)比は1.7であり、H
2O/P比は12.5であった。
【0075】
得られた原料組成物を圧力容器に移して密封し、230℃で24時間、自生圧下で加熱した後、容器を開放し、吸引ろ過により混合物から個体を得た。水 500mlで洗浄後、80℃で乾燥させて、本実施例の複合酸化物を得た。
【0076】
XRD解析の結果、本実施例の複合酸化物は、ファーマコシダライト構造を有していた。本実施例の複合酸化物のXRDパターンを
図4、表2に示す。
【0077】
【表2】
※1 2θは線源をCuKα線とする値
※2 2θ=28.2±0.2°のピーク強度に対する相対強度
【0078】
組成分析の結果、本実施例の複合酸化物の繰り返し単位はMo
4P
3O
16であった。
【0079】
本実施例の複合酸化物のXPS測定結果及びピークフィット(ピーク分離)解析結果を
図5、
図6に示す。
図5はモリブデンの測定結果であり、Moの3d軌道に帰属されるスペクトルと、該スペクトルからピーク分離されたピークを示している。ピーク分離されたピークについて、Mo
6+の3d(3/2)に相当する結合エネルギーが236.0eV、Mo
6+の3d(5/2)に相当する結合エネルギーが234.2eVに検出(ピークトップが検出)され、Mo
5+の3d(3/2)に相当する結合エネルギーが232.8eV、Mo
5+の3d(5/2)に相当する結合エネルギーが230.9eVに検出(ピークトップが検出)された。つまり、第1〜第4ピークが確認できた。
図6がリンの測定結果であり、Pの2p軌道に帰属されるスペクトルを示している。測定されたスペクトルについて、P
3+の2pに相当する結合エネルギーが133.3eVに検出(ピークトップが検出)された。
【0080】
これらの結果から、本実施例の複合酸化物は、Mo
4P
3O
16を繰り返し単位として含むファーマコシダライト構造を有し、Moとして6価のMo及び5価のMoを含有し、Pとして3価のPを含有していたことが理解できた。
【0081】
また、XPS測定結果から、Moの3d軌道に帰属されるスペクトルについて、236.0eV、234.2eVにピークトップを有するピーク(第1ピーク及び第2ピーク)の面積を求めて合計し、これをA
Mo6+として得た。同様に、Moの3d軌道に帰属されるスペクトルについて、232.8eV、230.9eVにピークトップを有するピーク(第4ピーク及び第3ピーク)のそれぞれの面積を求めて合計し、これをA
Mo5+とした。A
Mo6+とA
Mo5+は、下記(2)式の関係であった。
A
Mo6+:A
Mo5+=(1.4):(2.6) ・・・(2)
【0082】
この結果から、本実施例の複合酸化物は、6価のMoと5価のMoが1.4:2.6(6価のMo:5価のMo)の比率で含有されていたことが理解できた。また、2価のMoや3価のMoが複合酸化物に含まれていることは、Moの3d軌道に帰属されるスペクトルをピーク分離したときに、227〜229eV付近にピークが含まれることで確認することができるが、本実施例の複合酸化物では、このようなピークは確認できなかった。このため、本実施例の複合酸化物の繰り返し単位は、Mo
6+1.4Mo
5+2.6P
3O
16であると考えられた。カチオン(NH
4)を加えた組成は(NH
4)
1.6Mo
6+1.4Mo
5+2.6P
3O
16であると考えられた。
【0083】
本実施例の複合酸化物について、350℃、窒素雰囲気化、2時間加熱の前処理をした後、上記の(CO
2吸着)方法に基づいて二酸化炭素の吸着量を測定したところ、0.0204cm
3/gであった。本実施例の複合酸化物について、400℃、窒素雰囲気化、2時間加熱の前処理をした後、上記の(CO
2吸着)方法に基づいて二酸化炭素の吸着量を測定したところ、0.0079cm
3/gであった。吸着等温線を
図7に示す。
【0084】
本実施例の複合酸化物のイオン交換能を測定した。表3に液相のイオン濃度を示した。Sr
2+の除去率は26.6%であり、Cs
+の除去率は37.3%であった。Mg
2+、Ca
2+に対して選択的にSr
2+、Cs
+を吸着することが示された。
【0085】
【表3】