【解決手段】合成紙基材と、自己吸着性発泡シートとを備える自己吸着性発泡積層シートであって、前記自己吸着性発泡積層シートが、重合体、架橋剤、およびワックス剤を含む自己吸着性発泡シート用組成物を用いて形成される、自己吸着性発泡積層シート。
前記自己吸着性発泡シート用組成物中の前記脂肪酸エステルの配合量が、前記重合体100質量部当たり0.5質量部以上10質量部以下である、請求項5または6に記載の自己吸着性発泡積層シート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の自己吸着性発泡積層シートは、自己吸着性発泡シート用組成物を用いて得られる自己吸着性発泡シートからなる発泡層と、当該発泡層を支持する支持体層としての合成紙基材とを有するものである。なお、発泡シートは、合成紙基材上に直接形成されていてもよいし、合成紙基材上に任意の層を介して形成されていてもよい。
【0019】
(自己吸着性発泡シート)
本発明の積層シートにおける発泡層を形成する発泡シートは、所定の自己吸着性発泡シート用組成物を架橋および発泡することで形成される。
【0020】
<自己吸着性発泡シート用組成物>
発泡シート用組成物は、重合体、架橋剤、およびワックス剤を含み、任意に、溶媒およびその他の添加剤を更に含有する。
そして、合成紙基材の上に、当該発泡シート用組成物を用いて発泡シートを形成することで、加熱加圧後のエア抜け性に優れる本発明の積層シートを得ることができる。
【0021】
<<重合体>>
発泡シート用組成物に用いられる重合体は、当該発泡シート用組成物を発泡および架橋することで得られる発泡シートにおいて、樹脂マトリックスを形成する。
【0022】
ここで、重合体は、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位、シアン化ビニル単量体単位、およびアルケニル芳香族単量体単位からなる群から選択される少なくとも1つの単量体単位を含むことができる。また、重合体は、(メタ)アクリレート単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位、シアン化ビニル単量体単位、アルケニル芳香族単量体単位以外の単量体単位(以下、「その他の単量体単位」と称する。)を含んでいてもよい。
【0023】
[(メタ)アクリレート単量体単位]
(メタ)アクリレート単量体単位は、(メタ)アクリレート単量体に由来する繰り返し単位である。重合体が(メタ)アクリレート単量体単位を含むことにより、得られる発泡シートに柔軟性を付与し、良好な自着力を有する積層シートを得ることができる。
【0024】
(メタ)アクリレート単量体としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体;(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体;などを挙げることができる。
なお、(メタ)アクリレート単量体は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
また、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0025】
ここで、(メタ)アクリレート単量体としては、発泡シートの柔軟性を更に高めて、積層シートの自着力を一層良好に確保する観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が好ましく、(非カルボニル性酸素原子に結合する)アルキル基の炭素数が1以上14以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(以下、「C1−14(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体」と略記する場合がある。)がより好ましい。
【0026】
なお、C1−14(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸n−ヘプチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸n−ドデシルが挙げられる。これらの中でも、自着力およびコストの観点で、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。
【0027】
そして、重合体中における(メタ)アクリレート単量体単位の割合は、重合体に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%として、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、85質量%以上であることが特に好ましく、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、92質量%以下であることが更に好ましい。重合体における(メタ)アクリレート単量体単位の割合が60質量%以上であれば、積層シートの自着力を十分に確保することができる。一方、重合体における(メタ)アクリレート単量体単位の割合が99質量%以下であれば、積層シートの自着力が過度に高まることもない。そのため、積層シートの被着体への樹脂残りを抑制することができる。
【0028】
[不飽和カルボン酸単量体単位]
不飽和カルボン酸単量体単位は、不飽和カルボン酸単量体に由来する繰り返し単位である。
不飽和カルボン酸単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸;イタコン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノプロピル等のα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステル;などを挙げることができる。また、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの、加水分解などによりカルボン酸基に誘導することができる基を有するものも同様に使用することができる。これらの中でも、後述する架橋剤との反応性、重合体ラテックスの安定性、およびコストの観点で、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、アクリル酸がより好ましい。
なお、不飽和カルボン酸単量体は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0029】
そして、重合体中における不飽和カルボン酸単量体単位の割合は、重合体に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%として、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2.5質量%以下であることが更に好ましい。重合体中における不飽和カルボン酸単量体単位の割合が0.1質量%以上であることにより、後述する架橋剤による架橋反応を十分に進行させることができる。その結果、得られる発泡シートに十分な強度を付与しつつ、積層シートの被着体への樹脂残りを抑制することができる。一方、重合体中における不飽和カルボン酸単量体単位の割合が10質量%以下であることにより、重合時の重合系の粘度を適正な範囲に保つことが容易になり、また、重合体の架橋が過度に進行して積層シートの自着力が損なわれるといったこともない。
【0030】
[シアン化ビニル単量体単位]
シアン化ビニル単量体単位は、シアン化ビニル単量体に由来する繰り返し単位である。シアン化ビニル単量体の具体例としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。そして、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらの中でも、発泡シート用組成物の凝集力を向上し、発泡シートの破壊強度を高める観点から、アクリロニトリルが好ましい。
なお、シアン化ビニル単量体は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0031】
そして、重合体中におけるシアン化ビニル単量体単位の割合は、重合体に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%として、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましく、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。重合体中におけるシアン化ビニル単量体単位の割合が1質量%以上であれば、得られる発泡シートに十分な強度を付与しつつ、積層シートの被着体への樹脂残りを抑制することができる。一方、重合体中におけるシアン化ビニル単量体単位の割合が30質量%以下であれば、得られる発泡シートの柔軟性を十分に確保して、良好な自着力を有する積層シートを得ることができる。
【0032】
[アルケニル芳香族単量体単位]
アルケニル芳香族単量体単位は、アルケニル芳香族単量体に由来する繰り返し単位である。アルケニル芳香族単量体の具体例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、α−クロロスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、などが挙げられる。これらの中でも、重合性やコストの観点で、スチレンが好ましい。
なお、アルケニル芳香族単量体は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0033】
そして、重合体中におけるアルケニル芳香族単量体単位の割合は、重合体に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%として、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。重合体中におけるアルケニル芳香族単量体単位の割合が0.5質量%以上であれば、アルケニル芳香族単量体単位の疎水性に基づいて発泡シートへの水の浸入を防ぐことができ、積層シートの耐水性を高めることができる。一方、重合体中におけるアルケニル芳香族単量体単位の割合が20質量%以下であれば、得られる発泡シートの柔軟性を十分に確保して、良好な自着力を有する積層シートを得ることができる。
【0034】
[その他の単量体単位]
その他の単量体単位は、上述した単量体と共重合可能なその他の単量体に由来する繰り返し単位である。
ここで、その他の単量体としては、例えば、共役ジエン単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸完全エステル単量体、カルボン酸不飽和アルコールエステル単量体、オレフィン系単量体、その他官能基を有する単量体などを挙げることができる。これらの単量体は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。そして、このようなその他の単量体の具体例としては、特に限定されず、例えば国際公開第2018/151274号に記載されたものを用いることができる。
【0035】
なお、重合体は、発泡シート用組成物を発泡および硬化する際のホルムアルデヒドの生成を十分に抑制する観点から、N−メチロール基を有さないことが好ましい。より具体的には、重合体は、N−メチロール基を有する単量体単位を含まないことが好ましい。
ここで、N−メチロール基を有する単量体としては、例えば、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドが挙げられる。
【0036】
[重合体の性状]
−ガラス転移温度−
ここで、重合体のガラス転移温度は、−10℃以下であることが好ましく、−13℃以下であることがより好ましく、−17℃以下であることが更に好ましく、−20℃以下であることが特に好ましい。重合体のガラス転移温度が−10℃以下であれば、積層シートの自着力を十分に確保しつつ、積層シートが被着体と良好に密着することで被着体と積層シートの層間に水分が侵入するのを防ぐことができる。そのため、積層シートの耐水性を高めることができる。
また、重合体のガラス転移温度の下限値は、特に限定されないが、積層シートの被着体への樹脂残りを十分に抑制する観点から、−40℃以上であることが好ましい。
なお、重合体のガラス転移温度は、本明細書の実施例に記載された方法を用いて測定することができる。
【0037】
−ゲル分率−
ここで、重合体のゲル分率は、95質量%以下であることが好ましく、93質量%以下であることがより好ましい。ゲル分率が95質量%以下であれば、適切な自着力を有し、且つ、平滑性に優れた発泡シートおよび積層シートを作製することができる。また、重合体のゲル分率の下限値は、特に限定されないが、例えば、50質量%以上とすることができ、70質量%以上とすることができる。
なお、重合体のゲル分率は、本明細書の実施例に記載された方法を用いて測定することができる。
【0038】
[重合体の調製方法]
重合体を得る際の重合方法は、特に限定されず、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合などのいずれであってもよく、これら以外の方法でもよい。重合に用いる重合開始剤、乳化剤、分散剤等の種類や量にも特に制限はない。重合に際して、単量体、重合開始剤、乳化剤、分散剤等の添加方法にも特に制限はない。また、重合温度や圧力、撹拌条件等にも制限はない。
なお、重合体は、固体状で用いることもできるが、乳化重合で得たラテックスや、重合体を後乳化して得たラテックスなど、重合体を含むラテックス(重合体ラテックス)の状態で使用すると、架橋剤やワックス剤等と混合する上で操作が容易であり、また、得られる発泡シート用組成物を発泡させるにも都合がよい。
ここで、上述のように、重合体ラテックスの形態で、重合体を発泡シート用組成物の調製に用いる場合、重合体ラテックスの固形分濃度としては、得られる発泡シートの密度維持などの観点から、40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、52質量%以上であることが特に好ましく、70質量%以下であることが好ましく、58質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
<<架橋剤>>
発泡シート用組成物に含まれる架橋剤としては、上述した重合体(特には、上述した重合体の不飽和カルボン酸単量体単位)と架橋構造を形成しうるものであれば特に限定されない。このような架橋剤としては、例えば、カルボジイミド系架橋剤;エポキシ系架橋剤;オキサゾリン系架橋剤;トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパントリレンジイソシアネート、ジフェニルメタントリイソシアネート等の多官能性イソシアネート系架橋剤;金属塩系架橋剤;金属キレート系架橋剤;過酸化物系架橋剤;などが挙げられる。中でも、エポキシ系架橋剤が好ましく用いられ、2以上のエポキシ基を一分子内に有する化合物がより好ましく用いられる。そして、エポキシ系架橋剤としては、脂肪酸ポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。
【0040】
ここで、エポキシ系架橋剤は、既知の手法により合成してもよく、市販品を使用してもよい。市販品のエポキシ系架橋剤としては、例えば、ジャパンコーティングレジン社製の「リカボンド(登録商標)」などが挙げられる。
エポキシ系架橋剤は、それが有するエポキシ基と上記重合体中の官能基等(例えば、不飽和カルボン酸単量体単位に由来するカルボン酸基)との反応により、重合体の分子内または分子間に架橋構造を形成する。エポキシ系架橋剤を用いれば、適度な自着力を有し、強度に優れた発泡シートを形成することができる。そのため、架橋剤としてエポキシ系架橋剤を含む発泡シート用組成物を用いれば、積層シートの被着体への樹脂残りを抑制することができる。
【0041】
なお、本発明においては、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂等のホルムアルデヒドを発生する原因となる架橋剤は使用しないことが好ましい。
【0042】
ここで、発泡シート用組成物中の架橋剤の配合量は、上述した重合体100質量部当たり、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることが更に好ましく、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。架橋剤の配合量が上述した範囲内であることにより、強度や弾性を適度に保った発泡シートを得ることができる。そのため、発泡シートにかけられた圧力が解放された際、潰された発泡シート中の発泡セルは、もとの形状に回復することができる。そして、積層シートの自着力を確保すると共に、積層シートの被着体への樹脂残りを十分に抑制することができる。
【0043】
<<ワックス剤>>
本発明の発泡シート用組成物に含まれるワックス剤としては、脂肪酸エステル(特には、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル)を含むものであれば、特に限定されない。そして、ワックス剤中の脂肪酸エステルの含有量は、ワックス剤全体を100質量%として、50質量%超100質量%以下(即ち主成分)であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下であることが好ましく、80質量%以上100質量%以下であることが更に好ましく、90質量%以上100質量%以下であることが特に好ましい。なお、ワックス剤は、一種の脂肪酸エステルを含んでいてもよく、二種以上の脂肪酸エステルを含んでいてもよい。
【0044】
ここで、ワックス剤は、発泡シート用組成物を用いて形成した発泡シートにおいて、軽剥離剤として機能する。そして、上述した重合体に対しワックス剤が配合された発泡シート用組成物を発泡および硬化して発泡シートを形成することで、発泡シートの連泡構造および弾力性が改善するためと推察されるが、当該発泡シートを備える積層シートの加熱加圧後のエア抜け性を優れたものとすることができる。
【0045】
そして、ワックス剤としては、天然ワックス、合成ワックス、およびこれらの混合物が挙げられるが、天然ワックスを用いることが好ましい。
ここで、天然ワックスの具体例としては、天然由来の脂肪酸エステルを含むものであれば特に限定されないが、例えば、米糠ワックス(ライスワックス)、さとうきびワックス、カルナウバワックス、カンデリラワックス、ホホバ油、木ろう、ワサビノキ種子油(モリンガ油)等の植物由来の天然ワックス;ビーズワックス(蜜ろう)、マッコウ鯨油、羊毛脂等の動物由来の天然ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セラシン等の鉱物由来の天然ワックスなどが挙げられる。これらの中でも、積層シートの加熱加圧後のエア抜け性を一層高める観点から、ワサビノキ種子油が好ましい。これらの天然ワックスは、既知の手法により天然素材から精製してもよく、市販品を使用してもよい。市販品の天然ワックスとしては、例えば、日東物産商事社製の「精製モリンガオイル」などが挙げられる。
なお、ワックス剤は一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0046】
また、ワックス剤に含まれる脂肪酸エステルの脂肪酸部分は、炭素数16以上であることが好ましく、炭素数18以上であることがより好ましく、炭素数34以下であることが好ましく、炭素数30以下であることがより好ましい。脂肪酸エステルの脂肪酸部分の炭素数が上述した範囲内であれば、積層シートの加熱加圧後のエア抜け性を一層高めることができる。そして、炭素数が16以上34以下の脂肪酸の具体例としては、例えば、例えば、ステアリン酸(炭素数18)、アラキジン酸(炭素数20)、ベヘン酸(炭素数22)等の飽和脂肪酸;オレイン酸(炭素数18)、リノール酸(炭素数18)、リノレン酸(炭素数18)等の不飽和脂肪酸などが挙げられる。
なお、これらの脂肪酸は一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0047】
そして、ワックス剤に含まれる脂肪酸エステルのアルコール部分は、炭素数30以上であることが好ましく、炭素数34以下であることが好ましい。脂肪酸エステルのアルコール部分の炭素数が上述した範囲内であれば、積層シートの加熱加圧後のエア抜け性を一層高めることができる。そして、炭素数が30以上34以下のアルコールの具体例としては、例えば、ミリシルアルコール(炭素数30)、メリシルアルコール(炭素数31)、ラクセリルアルコール(炭素数32)、セロメリシルアルコール(炭素数33)、テトラトリアコンタノール(炭素数34)などが挙げられる。
なお、これらのアルコールは一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0048】
ここで、発泡シート用組成物における、ワックス剤の配合量は、上述した重合体100質量部当たり、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることが更に好ましく、10質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることが更に好ましい。ワックス剤の配合量が、重合体100質量部当たり0.5質量部以上であれば、積層シートの加熱加圧後のエア抜け性を一層高めることができる。一方、ワックス剤の配合量が、重合体100質量部当たり10質量部以下であれば、得られる積層シートに良好な自着力を付与することができ、また積層シートの加熱加圧後のエア抜け性を一層高めることができる。
また、発泡シート用組成物における、炭素数が16以上34以下の脂肪酸部分を有する脂肪酸エステルの配合量は、上述した重合体100質量部当たり、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることが更に好ましく、10質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることが更に好ましい。炭素数が16以上34以下の脂肪酸部分を有する脂肪酸エステルの配合量が、重合体100質量部当たり0.5質量部以上であれば、積層シートの加熱加圧後のエア抜け性を一層高めることができる。一方、炭素数が16以上34以下の脂肪酸部分を有する脂肪酸エステルの配合量が、重合体100質量部当たり10質量部以下であれば、得られる積層シートに良好な自着力を付与することができ、また積層シートの加熱加圧後のエア抜け性を一層高めることができる。
【0049】
<<溶媒>>
発泡シート用組成物が任意に含みうる溶媒としては、特に限定されないが、水が好ましい。ここで、溶媒として水を用いる場合、発泡シート用組成物に含まれる水は、例えば、重合体ラテックス由来の水とすることができる。
【0050】
<<その他の添加剤>>
発泡シート用組成物は、任意に、発泡シートおよび積層シートの製造工程における加工性向上や、得られる発泡シートおよび積層シートの性能向上のために、各種添加剤を含有することができる。このような添加剤としては、例えば、高級脂肪酸塩や界面活性剤などの整泡剤、発泡助剤、増粘剤、充填材、防腐剤、防かび剤、ゲル化剤、難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料、染料、粘着付与剤、導電性化合物、耐水剤、耐油剤などを挙げることができる。なお、上述したその他の添加剤の具体例としては、特に限定されることなく、既知の添加剤、例えば国際公開第2016/147679号に記載されているものを用いることができる。
【0051】
<発泡シートの性状>
本発明の積層シートにおける発泡層を形成する自己吸着性発泡シートは、上述した発泡シート用組成物を架橋および発泡することで形成される。
ここで、自己吸着性発泡シートの密度としては、特に限定されないが、0.1g/cm
3以上1.0g/cm
3以下であることが好ましく、0.3g/cm
3以上0.8g/cm
3以下であることがより好ましく、0.5g/cm
3以上0.7g/cm
3以下であることが更に好ましい。発泡シートの密度が0.1g/cm
3以上であれば、発泡シートの強度が確保され、1.0g/cm
3以下であれば、積層シートの加熱加圧後のエア抜け性を一層高めつつ、被着体への樹脂残りを十分に抑制することができる。
なお、発泡シートの密度は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて算出することができる。
【0052】
また、発泡シートの厚みは、0.03mm以上であることが好ましく、0.05mm以上であることがより好ましく、0.1mm以上であることが更に好ましく、3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることが更に好ましく、0.2mm以下であることが特に好ましい。発泡シートの厚みが0.03mm以上であれば、発泡シートおよび積層シートの機械強度を十分に確保することができる。一方、発泡シートの厚みが3mm以下であれば、積層シートの加熱加圧後のエア抜け性を一層高めることができる。また、繰り返しの貼り付け性(リワーク性能)に優れた積層シートを得ることができる。
【0053】
(合成紙基材)
本発明の積層シートにおける基材としては、合成紙基材を用いる。合成紙基材は、上述した通り合成紙からなる基材であれば特に限定されないが、熱可塑性樹脂と、フィラーとを含み、任意にその他の添加剤を含む配合物(樹脂組成物)をフィルム化してなる基材を用いることが好ましい。なお、配合物のフィルム化には、既知の成形法を用いることができる。
【0054】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン系樹脂(低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等)、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレートやその共重合体、ポリエチレンナフタレート、脂肪族ポリエステル等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート、アタクチックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。そしてこれらの中でも、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体や、主成分であるプロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンとの共重合体などが好適に挙げられる。なお、立体規則性は特に制限されず、アイソタクチック又はシンジオタクチック及び種々の程度の立体規則性を示すものを用いることができる。そして、共重合体は、2元系でも3元系でも4元系でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。
【0055】
<<フィラー>>
フィラーとしては、無機フィラー、有機フィラー、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0056】
無機フィラーとしては、無機化合物からなるフィラーであれば特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、焼成クレイ、シリカ、珪藻土、タルク、マイカ、合成マイカ、セリサイト、カオリナイト、酸化チタン、硫酸バリウム、及びアルミナ等の無機化合物の内の少なくとも一種からなるフィラーが挙げられる。なお、無機フィラーは一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。そしてこれらの中でも炭酸カルシウム、酸化チタンからなるフィラーが好ましい。
【0057】
有機フィラーとしては、上述した主成分である熱可塑性樹脂とは異なる種類の樹脂からなるフィラーを用いることができる。
例えば、上述した熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂を用いる場合、有機フィラーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ナイロン6、ナイロン6,6、環状オレフィンの単独重合体や環状オレフィンとエチレンとの共重合体等の内の少なくとも一種からなるフィラーが挙げられる。
また、上述した熱可塑性樹脂としてポリエステル系樹脂を用いる場合、有機フィラーとしては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリメチル−1−ペンテン、環状オレフィンの単独重合体や環状オレフィンとエチレンとの共重合体等の内の少なくとも一種からなるフィラーが挙げられる。
なお、有機フィラーは一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。また、有機フィラーを構成する樹脂は、融点が120℃以上300℃以下であることが好ましい。そして、有機フィラーを構成する樹脂は、ガラス転移温度が120℃以上280℃以下であることが好ましい。
【0058】
そして、上述したフィラーの含有量は、合成紙基材中に、8質量%以上65質量%以下であることが好ましく、10質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。フィラーの含有量を上述した範囲内とすることで、合成紙基材の白色度と不透明度とのバランスをとることができる。
【0059】
<<その他の添加剤>>
その他の添加剤としては、酸化防止剤、光安定剤、分散剤、滑剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、立体障害フェノール系やリン系、アミン系等の酸化防止剤が挙げられる。そして酸化防止剤の含有量は、合成紙基材中に、例えば0.001質量%以上1質量%以下である。
光安定剤としては、立体障害アミンやベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の光安定剤が挙げられる。そして光安定剤の含有量は、合成紙基材中に、例えば0.001質量%以上1質量%以下である。
分散剤(特には、上述した無機フィラー用の分散剤)としては、シランカップリング剤、オレイン酸やステアリン酸等の高級脂肪酸、金属石鹸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、またはそれらの塩等が挙げられる。そして分散剤の含有量は、合成紙基材中に、例えば0.01質量%以上4質量%以下である。
【0060】
<<合成紙基材の性状>>
ここで、合成紙基材は、多孔質であることが好ましい。具体的に、合成紙基材は、全体空孔率が5%以上50%以下であることが好ましく、15%以上45%以下であることがより好ましい。全体空孔率が5%以上であれば、合成紙基材の不透明度や柔軟性を高めることができ、50%以下であれば、合成紙基材の引張弾性率等の機械強度を適切な範囲とし易い。
なお、本発明において、「全体空孔率」は、合成紙基材の断面を切り出して電子顕微鏡で観察し、その全領域(100%)に空孔が占める面積割合(%)を測定することにより求めることができる。
【0061】
また、合成紙基材は、単層構造であってもよいし、あるいは多層構造であってもよい。単層構造の場合、合成紙基材(フィルム)は無延伸、1軸延伸、2軸延伸のいずれであっても構わない。多層構造の場合、合成紙基材は、2層構造、3層以上の構造のいずれであっても構わない。2層構造の場合、無延伸/1軸延伸、無延伸/2軸延伸、1軸延伸/1軸延伸、1軸延伸/2軸延伸、2軸延伸/2軸延伸のいずれの構造であっても構わない。3層以上の構造の場合、上記単層構造と2層構造を組み合わせればよく、いずれの組み合わせでも構わない。
【0062】
そして、合成紙基材は、白色度が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。白色度が80%以上とすることで、合成紙基材に印刷記録された内容をより一層判別し易くすることができる。
なお、本発明において、「白色度」は、JIS−L1015記載の方法に準拠して測定することができる。
【0063】
ここで、合成紙基材は、用途に応じた適当な不透明度にすることができる。具体的には、合成紙基材は、不透明度が40%以上100%以下であることが好ましく、70%以上100%以下であることがより好ましく、80%以上100%以下であることがさらに好ましい。不透明度が40%以上であれば、印刷用紙として十分な隠蔽性が得られる。
なお、本発明において、「不透明度」とは、JIS−P8138記載の方法に準拠して測定することができる。
【0064】
また、合成紙基材は、厚みが20μm以上900μm以下であることが好ましく、30μm以上800μm以下であることがより好ましい。厚みが20μm以上であれば、合成紙基材を備える積層シート全体の機械的強度を向上させることができ、ひいては大面積のポスターなどを形成することが可能となる。一方、厚みが900μm以下であれば、合成紙基材を備える積層シート全体のコシが強くなりすぎることを防止し、かつ自重を軽くして貼着使用時の脱落防止を図ることができる。
【0065】
(自己吸着性発泡積層シートの製造方法)
以下、本発明の積層シートを製造する方法の一例について説明する。
【0066】
図1に、積層シートを製造する方法S10(以下、「製造方法S10」と略記することがある。)の一例を説明するフローチャートを示す。
図1に示すように、製造方法S10は、組成物作製工程S1と、発泡工程S2と、シート化工程S3とをこの順に含む。以下、各工程について説明する。
【0067】
<組成物作製工程S1>
組成物作製工程S1は、自己吸着性発泡シート用組成物を作製する工程である。
【0068】
具体的には、組成物作製工程S1においては、必須成分である重合体、架橋剤、およびワックス剤を含み、所望により用いられる溶媒およびその他の添加剤を、任意の方法で混合することにより、発泡シート用組成物を作製することができる。
【0069】
例えば、発泡シート用組成物の調製に重合体ラテックスを用いる場合には、この重合体ラテックスに、架橋剤と、ワックス剤と、任意に用いられるその他の添加剤とを添加して既知の方法で混合すればよい。
なお、発泡シート用組成物の調製に溶媒を使用せず、固形状の重合体を用いる場合には、固形状の重合体と、架橋剤と、ワックス剤と、任意に用いられるその他の添加剤とを既知の方法(例えば、既知のロール、ヘンシェルミキサー、ニーダー等を使用)で混合すればよい。
【0070】
ここで、溶媒を含む発泡シート用組成物(例えば、エマルションまたはディスパージョンの形態をとる。)の粘度は、1,000mPa・s以上10,000mPa・s以下とするのが好ましく、2,000mPa・s以上10,000mPa・s以下とするのがより好ましく、3,500mPa・s以上5,500mPa・s以下とするのが更に好ましい。発泡シート用組成物の粘度が1,000mPa・s以上であれば、発泡シート用組成物から形成される発泡体を基材上にコーティングして発泡シートを形成する際に液ダレが生じて厚みの制御が困難になるのを防止することができる。一方、発泡シート用組成物の粘度が10,000mPa・s以下であれば、発泡シートを形成する際に機械発泡による発泡倍率の制御が困難になることもない。
なお、発泡シート用組成物の粘度は、本明細書の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0071】
<発泡工程S2>
発泡工程S2は、発泡シート用組成物を発泡させ、発泡シート用組成物の発泡体を得る工程である。
【0072】
具体的には、発泡工程S2においては、上記組成物作製工程S1で作製した発泡シート用組成物を発泡させることにより、未固化(未架橋)状態の発泡体を得ることができる。ここで、発泡シート用組成物がエマルションまたはディスパージョンの形態である場合には、発泡エマルションまたは発泡ディスパージョンが得られる。
【0073】
発泡の方法としては、通常、機械発泡を採用する。発泡倍率は、適宜、調整すればよいが、通常1.2倍以上5倍以下、好ましくは1.5倍以上4倍以下である。機械発泡の方法は、特に限定されないが、発泡シート用組成物のエマルジョンまたはディスパージョン中に一定量の空気を混入しオークスミキサー、ホイッパー等により連続的またはバッチ式に撹拌することにより行うことができる。こうして得られた発泡エマルジョンまたは発泡ディスパージョンはクリーム状になる。
上記機械発泡により細孔を形成することで、更に後述のシート化工程S3を経て、エア抜け性に優れた発泡シートが得られる。なお、発泡倍率が、1.2倍以上であると、エア抜け性が低下するのを防止することができ、5倍以下であると、発泡シートの強度が低下するのを防止することができる。
【0074】
<<シート化工程S3>>
シート化工程S3は、発泡体をシート状に成形した後、発泡体の架橋反応を行うことで、発泡シートを作製する工程である。
【0075】
シート化工程S3において、上記発泡工程S2で作製した発泡体をシート状に成形する方法は特に限定されない。好適な方法としては、例えば、所望の合成紙基材の上に発泡体をコーティングしてシート状に成形する方法が挙げられる。このように、所望の合成紙基材上へ発泡体のコーティングを行い、架橋反応を進行させれば、合成紙基材上に直接発泡シートが設けられた積層シートを得ることができる。
【0076】
なお、発泡体のコーティングは、上記合成紙基材に替えて、離型性シート(離型性を有する工程紙など)の上に行うこともできる。離型性シートの上へ発泡体のコーティングを行い、架橋反応を進行させれば、離型性シートの上に直接発泡シートが設けられた積層体を得ることができる。そして、この積層体の発泡シートから離型性シートを剥離させることで、発泡シートを単独で(独立膜として)得ることができる。
【0077】
発泡体を合成紙基材または離型性シート(以下、これらを纏めて「基材等」という場合がある。)の上へコーティングする方法としては、アプリケーター、バーコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、スクリーンコーター、ドクターナイフコーター、コンマナイフコーター等の一般に知られているコーティング装置が使用することができる。
【0078】
合成紙基材等の上で、シート状にコーティングされた発泡体を架橋する方法としては、発泡体を加熱乾燥する方法が好ましい。加熱乾燥の方法としては、合成紙基材等の上にコーティングされた発泡体を乾燥、架橋させることができる方法であれば特に限定されず、既知の乾燥炉(例えば、熱風循環型のオーブン、熱油循環熱風チャンバー、遠赤外線ヒーターチャンバー)を使用することができる。乾燥温度は、例えば60℃以上180℃以下とすることができる。また、乾燥を一定温度で実施するのではなく、乾燥初期には低温で内部から乾燥させ、乾燥後期に、より高温で十分乾燥させるような多段階乾燥を行うことが好ましい。
【0079】
なお、発泡シートの性状(密度、厚み、硬度等)は、例えば、気泡の混入比率、発泡シート用組成物の組成、固形分濃度、乾燥および架橋の条件等を変更することにより、調整することができる。
【0080】
上述した工程S1〜S3を経て得られた積層シートは、特に限定されないが、例えば、自己吸着性を有する面(即ち、発泡シート側の面)にセパレーターフィルムが貼られた後、巻取機によって巻き取られ、プレス裁断、スリッター等により裁断されて使いやすいサイズに加工することができる。
【0081】
(積層シートの用途)
本発明の積層シートは、その合成紙基材面に、たとえば、オフセット印刷、シール印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、グラビア印刷、レーザープリンター、熱転写プリンター、インクジェットプリンター等による印刷を施すことができる。
合成紙基材面に印刷を施した積層シートは、例えば、販売促進カード、いわゆるPOPカード(ポスター、ステッカー、ディスプレイ等)、園芸用POP(差しラベル等)、ロード・サイン(葬式・住宅展示場所等)、表示板(立ち入り禁止、林道作業等の)等の屋外での用途に、有利に使用することが可能である。
【実施例】
【0082】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される単量体単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。そして、実施例および比較例において、重合体のガラス転移温度およびゲル分率、発泡シート用組成物の粘度、発泡シートの密度、ならびに、積層シートのエア抜け性(初期および加熱加圧後)およびホルムアルデヒド放散量は、以下の方法で評価した。
【0083】
<重合体のガラス転移温度>
自己吸着性発泡積層シートの材料として用いる重合体のガラス転移温度(Tg)を、以下の方法で測定した。重合体を含む重合体ラテックスを厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に250μmのアプリケーターで塗布し、常温下で24時間乾燥させて、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成されたフィルムを得た。このポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成されたフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム以外)をサンプルとして、JIS K 7121に準じて、測定温度−50℃以上160℃以下、昇温速度10℃/分の条件で、示差走査熱量分析計(日立ハイテクサイエンス社製 DSC7000X)を用いてガラス転移温度(℃)を測定した。
<重合体のゲル分率>
積層シートに用いる重合体のゲル分率を、以下の方法で測定した。重合体を厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に250μmのアプリケーターで塗布し、常温下で24時間乾燥させて、樹脂フィルムを得た。このフィルムをサンプルとして、所定量(X)(約500mg)を精秤し、これを酢酸エチル100ml中に常温で3日間浸漬した後、不溶分を200メッシュの金網で濾過し、15時間常温下で風乾し、その後100℃で2時間乾燥させ、常温下で冷却した後に試料の重量(Y)を測定した。XおよびYを次式に代入することにより、ゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(Y)/(X)×100
<発泡シート用組成物の粘度>
B型粘度計(リオン社製、「VISCOTESTER VT−06」)を用いて、23℃で発泡シート用組成物の粘度を測定した。
<発泡シートの密度>
積層シートを作製後、20cm×20cmのサイズに切り出した試験片を用意した。切り出した試験片の質量:Xgを精秤し、また、20cm×20cmに切り出した基材の質量:Ygを精秤した。その後、作製した積層シートおよび基材の厚みを厚み計にてそれぞれ計測し、積層シートの厚みから基材の厚みを差し引くことで、発泡シートの厚み:Tcmを得た。このとき、厚みの値は6点測定した際の平均値より算出した。測定したX、Y、およびTの値を次式に代入することにより、発泡シートの密度を算出した。
密度(g/cm
3)=(X−Y)/(T×20×20)
<エア抜け性>
<<評価装置>>
エア抜け性の評価は、
図2で示される評価装置100を用いて行った。
図2に示す評価装置100は、発泡シート51と基材52が積層してなる積層シート50のエア抜け性を評価する装置であり、貫通孔11を有する試料固定板10と、試料固定板10の他方の表面側(
図2では上側)から一方の表面側(
図2では下側)へと貫通孔11を介して気体としての空気を一定の圧力で圧送する気体圧送機構40とを備えている。
ここで、気体圧送機構40は、試料固定板10の他方の表面側で試料固定板10の貫通孔11に先端が接続されたシリンジ20と、錘30とを有している。そして、シリンジ20は、先端を鉛直方向下側(
図2では下側)に向けて試料固定板10に接続されており、試料固定板10の貫通孔11に挿入および固定された針21と、先端(
図2では下側端)が針21を介して貫通孔11に接続されている円筒状の外筒22と、外筒22の後端側から外筒22内に挿通されるピストン23とを備えている。
なお、錘30は、ピストン23の後端(
図2では上側端)に設けられたフランジ上に取り付けられている。
また、上述した構成を有する気体圧送機構40では、ピストン23および錘30の自重によりピストン23が外筒22内へと押し込まれ、外筒22内の空気が針21および貫通孔11を介して試料固定板10の一方の表面側(発泡シート51)へと一定の圧力で圧送される。
そして、上述した構成を有する評価装置100では、例えば、針21が固定された試料固定板10の一方(針21側とは反対側)の表面に、積層シート50を貫通孔11を覆うように貼り付けた後(工程(A))、錘30を取り付けたピストン23を先端からの距離がLとなる位置まで挿入した外筒22を針21に接続し、ピストン23および錘30の自重でピストン23が距離Lを進むまでに要する時間を測定することにより(工程(B))、積層シート50のエア抜け性を評価することができる。即ち、外筒22内の空気はピストン23および錘30の自重により一定の圧力で貫通孔11から押し出されるところ、距離Lを一定とし、外筒22内から押し出される空気の量を一定にすれば、エア抜け性が低い積層シート50ほど距離Lを進むまでの時間が長くなり、エア抜け性が高い積層シート50ほど距離Lを進むまでの時間が短くなる。従って、ピストン23が距離Lを進むまでに要する時間によって積層シート50のエア抜け性を定量的に評価することができる。また、圧送される空気の量および圧力が一定の条件下で評価することができるので、高い繰り返し精度でエア抜け性を評価することができる。更に、積層シート50を試料固定板10に貼り付けた状態で評価することができるので、被着体に貼り付けた状態における積層シート50のエア抜け性を正確に評価することができる。
なお、試料固定板10としては厚さ1mmの透明なポリカーボネート板(50mm×50mm)を使用し、シリンジ20としては直径2mmの金属製シリンジ針を有する容量2mLのガラス製シリンジを使用し、錘30としてはピストン23に両面テープで取り付けられた重さ30gの錘を用いた。
<<エア抜け性(初期)の評価>>
積層シートを作製後40mm×40mmのサイズにカットし、評価対象の試料とした。
そして、準備した試料の発泡シート側の面を、針21が固定された試料固定板10の一方(針21側とは反対側)の表面に、貫通孔11を覆うように且つ空気が入らないように貼り付けた後(工程(A))、錘30を取り付けたピストン23を目盛が2mLとなる位置まで挿入した外筒22を針21に接続した。その後、錘30およびピストン23から手を離し、ピストン23および錘30の自重で落ち切るまで(即ち、2mLの空気が圧送されるまで)に要する時間を測定した(工程(B))。この測定操作を3回繰り返し、測定した時間の平均値を算出し、以下の基準で評価した。この平均値が小さいほど、積層シートがエア抜け性(初期)に優れることを示す。
A:測定した時間の平均値が10秒以下
B:測定した時間の平均値が10秒超20秒以下
C:測定した時間の平均値が20秒超30秒以下
D:測定した時間の平均値が30秒超
<<エア抜け性(加熱加圧後)の評価>>
積層シートを80mm×120mmのサイズにカットした後、60℃、80%RHの条件下、110g/cm
2の圧力をかけ、24時間置いた。その後、23℃、50%RHの条件で圧力を開放して24時間静置してから、当該積層シートをさらに40mm×40mmのサイズにカットしたものを評価対象の試料とした。それ以外は、「エア抜け性(初期)の評価」と同様の手順で、測定および評価を行った。この平均値が小さいほど、積層シートがエア抜け性(加熱加圧後)に優れることを示す。
<ホルムアルデヒド放散量>
自己吸着性発泡シートを作製し、さらに、発泡層(吸着層)表面にセパレーターフィルムを張り付けた後、200mm×200mmのサイズに切り出した試験片を用意した。試験片を容積5Lのテドラーバッグに入れ、密閉した。その中に2Lの空気を封入し、23℃、50%RHに設定した恒温槽内で6時間放置した後、検知管(ガステック社製、No.91L)にてバッグ内のホルムアルデヒド濃度を測定した。ホルムアルデヒド濃度が0.1ppm以下である場合を「A」、0.1ppmを超える場合を「B」とした。
【0084】
(実施例1)
<重合体の調製>
脱イオン水27.0部に、アクリル酸エチル64部、アクリル酸2−エチルヘキシル12部、アクリル酸n−ブチル12部、アクリロニトリル9部、スチレン2部およびアクリル酸1部からなる単量体混合物、ならびに、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム0.4部(花王社製:ラテムルE−118B)を混合、撹拌して、単量体乳化物を得た。
次いで、上記とは別に、還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口、および撹拌機を備えたガラス製反応容器を準備し、このガラス製反応容器に、脱イオン水43.0部およびポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム0.2部を入れ、撹拌しながら、温度を80℃に昇温させた。そして、80℃を維持した状態で、脱イオン水5.7部に溶解させた過硫酸アンモニウム0.3部を添加し、続いて、上記にて得られた単量体乳化物を、4時間かけて徐々に添加した。添加終了後、さらに4時間撹拌を継続した後、冷却して反応を終了させ、反応混合物を得た。この時の重合転化率は、ほぼ100%(98%以上)であり、得られた反応混合物を、5%アンモニア水にてpH5.0に調整し、ポリオキシエチレンラウリルエーテル2.5部(花王社製:エマルゲン120)を添加後、濃縮を行い、固形分濃度55%の重合体ラテックスを得た。そして、得られた重合体ラテックスに含まれる重合体のガラス転移温度およびゲル分率を測定した。結果を表1に示す。
<発泡シート用組成物の調製>
混合容器に、100部の上記重合体ラテックス(即ち、重合体ラテックスに含まれる重合体が55部)、3部(重合体100部当たり5.5部)のエポキシ系架橋剤(ジャパンコーティングレジン社製、リカボンド EX−8、脂肪酸ポリグリシジルエーテル)、2部(重合体100部当たり3.6部)のワックス剤(炭素数が16以上34以下の脂肪酸部分を有する脂肪酸エステルを含有)、および4部の整泡剤〔ステアリン酸アンモニウム(サンノプコ社製、ノプコDC−100A)〕をこの順に添加した。最後に増粘剤〔ポリアクリル酸ナトリウム(東亞合成社製、アロンA−20L)〕を添加して、粘度を4250mPa・sに調整することによって発泡シート用組成物を得た。
<合成紙基材の準備>
プロピレン単独重合体(日本ポリケム社製、ノバテックPP:MA4)74%、高密度ポリエチレン(日本ポリケム社製、ノバテックHD:HJ360)10%及び炭酸カルシウム(備北粉化工業社製、ソフトン1800)16%を、250℃で溶融混練した後、250℃に設定したダイに供給しシート状に押し出し、冷却ロールで冷却して無延伸シートを得た。得られた無延伸シートを、135℃に加熱して縦方向に4倍の倍率で延伸して基材層(b)とした。
次に、プロピレン単独重合体(日本ポリケム社製、ノバテックPP:EA8)52%、高密度ポリエチレン(日本ポリケム社製、ノバテックHD:HJ360)3%及び炭酸カルシウム(備北粉化工業社製、ソフトン1800)45%を、それぞれ別々の押し出し機にて250℃で溶融混練した後、250℃に設定したダイに供給しシート状に押し出し、表面層(a)、裏面層(c)として上記基材層(b)の両側に積層し、60℃まで冷却して、3層構造の積層フィルム(a/b/c)を得た。
そして、得られた3層構造の積層フィルムを、再び180℃まで加熱してテンターで横方向に9倍の倍率で延伸した。その後、160℃でアニーリング処理した後、60℃まで冷却し、耳部をスリットして、多層樹脂延伸フィルムからなる合成紙基材を得た。
<積層シートの作製>
上記の通り得られた発泡シート用組成物を泡立て器で撹拌し、発泡倍率が1.6倍になるように泡立て、更に撹拌速度を落として5分間撹拌を続行した。
発泡済みの発泡シート用組成物(発泡体)を、上述した合成紙基材の上に、0.3mmのアプリケーターを用いてコーティングした。これを乾燥炉に入れ、80℃で1.33分間、120℃で1.33分間、140℃で1.33分間保持して、乾燥および架橋を実施して合成紙基材上に発泡シートを備える積層シートを得た。なお、乾燥後の発泡シートの厚みは0.133mmであった。得られた積層シートを用いて各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例2)
以下のようにして調製した重合体を使用した以外は、実施例1と同様にして、発泡シート用組成物および積層シートを準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<重合体の調製>
脱イオン水27.0部に、アクリル酸エチル56部、アクリル酸2−エチルヘキシル15部、アクリル酸n−ブチル18部、アクリロニトリル8部、スチレン2部およびアクリル酸1部からなる単量体混合物、ならびに、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム0.4部(花王社製:ラテムルE−118B)を混合、撹拌して、単量体乳化物を得た。それ以外は、実施例1と同様にして、重合体ラテックスを得た。
【0086】
(比較例1)
<重合体の調製>
脱イオン水27.0部に、アクリル酸エチル46.9部、アクリル酸n−ブチル45.8部、アクリロニトリル5.9部、およびN−メチロールアクリルアミド1.4部からなる単量体混合物からなる単量体混合物、ならびに、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム0.4部(花王社製:ラテムルE−118B)を混合、撹拌して、単量体乳化物を得た。それ以外は、実施例1と同様にして、重合体ラテックスを得た。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<発泡シート用組成物の調製>
上記のようにして得られた重合体ラテックスを使用すると共に、架橋剤の添加量を3部から3.6部(即ち、重合体100部当たり架橋剤6.5部)に変更した。また、ワックス剤は添加しなかった。それ以外は、実施例1と同様にして、発泡シート用組成物を調製した。
<積層シートの作製>
発泡倍率を1.6倍に代えて2倍とし、また上記のようにして得られた発泡シート用組成物を使用した。それ以外は、実施例1と同様にして、積層シートを製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(比較例2)
<重合体の調製>
脱イオン水27.0部に、アクリル酸n−ブチル70部、メタクリル酸メチル14部、スチレン14部およびイタコン酸2部からなる単量体混合物、ならびに、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム0.4部(花王社製:ラテムルE−118B)を混合、撹拌して、単量体乳化物を得た。それ以外は、実施例1と同様にして、重合体ラテックスを得た。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<発泡シート用組成物の調製>
上記のようにして得られた重合体ラテックスを使用すると共に、架橋剤の添加量を3部から3.6部(即ち、重合体100部当たり架橋剤6.5部)に変更した。また、ワックス剤は添加しなかった。それ以外は、実施例1と同様にして、発泡シート用組成物を調製した。
<積層シートの作製>
上記のようにして得られた発泡シート用組成物を使用した以外は、実施例1と同様にして、積層シートを製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
なお、以下に示す表1中、
「EA」は、アクリル酸エチル単位を示し、
「MMA」は、メタクリル酸メチル単位を示し、
「2EHA」は、アクリル酸2−エチルヘキシル単位を示し、
「BA」は、アクリル酸n−ブチル単位を示し、
「AA」は、アクリル酸単位を示し、
「IA」は、イタコン酸単位を示し、
「AN」は、アクリロニトリル単位を示し、
「ST」は、スチレン単位を示し、
「NMA」は、N−メチロールアクリルアミド単位を示し、
「Tg」は、ガラス転移温度を示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1より、重合体、架橋剤、およびワックス剤を含む発泡シート用組成物を用いた実施例1および2では、加熱加圧後のエア抜け性に優れる積層シートを形成できていることが分かる。
一方、ワックス剤を含まない発泡シート用組成物を用いた比較例1および2では、加熱加圧後のエア抜け性に優れる積層シートを形成できていないことが分かる。