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特開2021-132593ヒマ由来のリパーゼ及びそれをコードするDNA、ベクター、形質転換植物体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-132593(P2021-132593A)
(43)【公開日】2021年9月13日
(54)【発明の名称】ヒマ由来のリパーゼ及びそれをコードするDNA、ベクター、形質転換植物体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20210816BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20210816BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20210816BHJP
【FI】
   C12N15/55ZNA
   C12N15/63 Z
   A01H5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-32310(P2020-32310)
(22)【出願日】2020年2月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000118556
【氏名又は名称】伊藤製油株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】金井 雅武
(72)【発明者】
【氏名】真野 昌二
(72)【発明者】
【氏名】駒澤 謙史
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AD07
2B030CA17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リシノール酸含量の向上に寄与するリパーゼ、そのリパーゼをコードするDNA、ベクター、形質転換植物体を提供する。
【解決手段】本発明のリパーゼは、ヒマ由来のものであり、特定のアミノ酸配列を有するポリペプチドであって、またリパーゼをコードするDNAは、特定の塩基配列のDNAであり、ベクターはそのDNAを有するもの、形質転換植物体はそのDNAが導入されたものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAであり、
ヒマ由来のリパーゼをコードすることを特徴とするDNA。
(a)配列番号3で表される塩基配列を有するDNA
(b)配列番号3で表される塩基配列と70%以上の同一性の塩基配列を有するDNA
(c)配列番号3で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠損、挿入又は付加された塩基配列からなるDNA
(d)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
【請求項2】
請求項1に記載のDNAを有するベクター。
【請求項3】
請求項1に記載のDNAが導入された形質転換植物体。
【請求項4】
下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAであり、
ヒマ由来のリパーゼをコードすることを特徴とするDNA。
(a)配列番号6で表される塩基配列を有するDNA
(b)配列番号6で表される塩基配列と70%以上の同一性の塩基配列を有するDNA
(c)配列番号6で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠損、挿入又は付加された塩基配列からなるDNA
(d)配列番号6で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
【請求項5】
請求項4に記載のDNAを有するベクター。
【請求項6】
請求項4に記載のDNAが導入された形質転換植物体。
【請求項7】
ヒマ由来のリパーゼであって、
下記(a)〜(c)のいずれかに記載のポリペプチドであることを特徴とするリパーゼ。
(a)配列番号18で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)配列番号18で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性のアミノ酸配列を有するポリペプチド
(c)配列番号18で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠損、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
【請求項8】
ヒマ由来のリパーゼであって、
下記(a)〜(c)のいずれかに記載のポリペプチドであることを特徴とするリパーゼ。
(a)配列番号19で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)配列番号19で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性のアミノ酸配列を有するポリペプチド
(c)配列番号19で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠損、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒマ由来のリパーゼ、及びそのリパーゼをコードするDNA、前記DNAを有するベクター、前記DNAが導入された形質転換植物体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒマ(トウゴマの別名、学名:Ricinus communis L.)の種子から搾油されるひまし油はヒドロキシ脂肪酸の1種であるリシノール酸を80〜90%程度含み、植物由来の機能性プラスチック原材料として大きな位置を占め、工業用途で有用視されている。
一方、ヒマ種子は毒性の高いリシンと呼ばれるタンパク質を含み、限られた地域でのみ栽培されている。そのため、リシノール酸の生産量を高める目的として、ヒマ以外の作物によるリシノール酸生産が研究されている。その上で、リシノール酸を合成する遺伝子を同定し、他の植物に導入することにより、リシノール酸生産を増大させることを目的とし、ヒマにおけるリシノール酸合成経路が研究されてきた。
そして、リシノール酸の生産に関して、リシノール酸の前駆体であるオレイン酸に水酸基を付加し、リシノール酸を合成する酵素をコードするヒマの遺伝子FAH12が同定され、ヒマを代替する形質転換植物体を作出するには、リシノール酸を合成するヒマ由来の酵素の遺伝コードとしてFAH12遺伝子の導入が有用であることが分かった(特許文献1参照)。尚、ヒマについては、ドラフトゲノムのDNAの解析結果が開示されている(非特許文献1参照)。
また、植物種子の貯蔵脂質は大部分がトリアシルグリセロールであり、ヒマ種子においても合成されたリシノール酸はグリセロールと結合し、トリアシルグリセロールとして貯蔵される。高濃度にリシノール酸を蓄積する形質転換植物を作出するために、ヒマにおける脂肪酸合成経路およびTAG合成経路の詳細な研究が進められ、脂肪酸合成経路においては、水酸基を付加するFAH12の導入に加えて、脂肪酸の伸長酵素であるFAE1および脂肪酸不飽和化酵素FAD2、FAD3を欠損させることでシロイヌナズナ種子におけるリシノール酸含量を向上させることが報告されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−321189号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Agnes et.al. Draft genome sequence of the oilseed species Ricinus communis,NATURE BIOTECHNOLOGY,VOLUME 28,NUMBER 9,SEPTEMBER 2010:951-959
【非特許文献2】Mark A.Smith et.al. Heterologous expression of a fatty acid hydroxylase gene in developing seeds of Arabidopsis thaliana,Planta(2003) 217:507-516
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1におけるFAH12遺伝子が導入された形質転換植物由来の種子においてもリシノール酸含量は低く、より高濃度のリシノール酸を蓄積する形質転換体が求められている。また、非特許文献2におけるFAH12遺伝子の導入に加えて、脂肪酸の伸長酵素であるFAE1及び脂肪酸不飽和化酵素FAD2、FAD3を欠損させる場合でも、十分な結果が得られない場合があった。
そこで、本願の発明者等は、リシノール酸を高濃度に蓄積させるには、脂肪酸合成だけでなく、脂質分解に関与するヒマ由来のリパーゼについても検討し、特定のリパーゼによりTAGを分解させることによって、リシノール酸の含有量を向上させることを見出した。
本発明の目的は、リシノール酸含量の向上に寄与するリパーゼ、そのリパーゼをコードするDNA、ベクター、形質転換植物体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記従来の問題点を解決する手段として、本発明は以下に示される。
1.下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAであり、ヒマ由来のリパーゼをコードすることを特徴とするDNA。
(a)配列番号3で表される塩基配列を有するDNA
(b)配列番号3で表される塩基配列と70%以上の同一性の塩基配列を有するDNA
(c)配列番号3で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠損、挿入又は付加された塩基配列からなるDNA
(d)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
2.上記1.に記載のDNAを有するベクター。
3.上記1.に記載のDNAが導入された形質転換植物体。
4.下記(e)〜(h)のいずれかに記載のDNAであり、ヒマ由来のリパーゼをコードすることを特徴とするDNA。
(e)配列番号6で表される塩基配列を有するDNA
(f)配列番号6で表される塩基配列と90%以上の同一性の塩基配列を有するDNA
(g)配列番号6で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠損、挿入又は付加された塩基配列からなるDNA
(h)配列番号6で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
5.上記4.に記載のDNAを有するベクター。
6.上記4.に記載のDNAが導入された形質転換植物体。
7.ヒマ由来のリパーゼであって、下記(a)〜(c)のいずれかに記載のポリペプチドであることを特徴とするリパーゼ。
(a)配列番号18で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)配列番号18で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性のアミノ酸配列を有するポリペプチド
(c)配列番号18で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠損、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
8.ヒマ由来のリパーゼであって、下記(a)〜(c)のいずれかに記載のポリペプチドであることを特徴とするリパーゼ。
(a)配列番号19で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)配列番号19で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性のアミノ酸配列を有するポリペプチド
(c)配列番号19で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠損、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リシノール酸含量の向上に寄与するリパーゼ、そのリパーゼをコードするDNA(ポリヌクレオチド)、ベクター、形質転換植物体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】TAGリパーゼに係る分子系統樹。
図2】遺伝子発現量を示すグラフ。
図3】リシノール酸含量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のDNA(遺伝子)は、植物体のヒマ(トウゴマの別名、学名:Ricinus communis L.)から調整したゲノムDNAから得られたDNAであり、脂質の分解に関与するリパーゼをコードする塩基配列を含むDNAである。
上記脂質は、1分子のグリセロールに、1〜3分子の脂肪酸がエステル結合したものであれば、特に限定されない。この脂質として、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロールが挙げられる。
上述の脂質の中でも1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合したトリアシルグリセロール、特に3分子の脂肪酸のうち少なくとも1分子がリシノール酸であり、残りがリノール酸であるトリアシルグリセロールは、種子中におけるリシノール酸の含有量の向上に大きく寄与する。このため、本発明のリパーゼは、トリアシルグリセロールに関与するトリアシルグリセロールリパーゼが好ましい。
【0010】
尚、本明細書においては、トリアシルグリセロールを「TAG」ともいうものとし、トリアシルグリセロールリパーゼを「TAGリパーゼ」ともいう。
また、本明細書において、配列番号3で表される塩基配列を有するDNAによる「TAGリパーゼ」を「TAGリパーゼA」、配列番号6で表される塩基配列を有するDNAによる「TAGリパーゼ」を「TAGリパーゼB」ともいう。
尚また、TAGリパーゼA又はBは、本発明のDNAのTAGリパーゼ遺伝子から転写と翻訳により合成されたタンパク質を基にして構成されるポリペプチドからなる。
【0011】
本発明のDNA(DNA断片)は、以下の(a)〜(d)の態様で示されるDNAのうちの一種である。
(a)配列番号3又は配列番号6で表される塩基配列を有するDNA、
(b)配列番号3又は配列番号6で表される塩基配列と70%以上の同一性の塩基配列を有するDNA、
(c)配列番号3又は配列番号6で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠損、挿入又は付加された塩基配列からなるDNA、
(d)配列番号3又は配列番号6で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
【0012】
上記態様(b)における、本発明におけるDNAの塩基配列の同一性については、リパーゼをコードする機能、特にはTAGリパーゼA又はBをコードする機能を発揮すればよく、70%以上の同一性を有する塩基配列であればよく、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上の同一性の塩基配列を有するDNAである。
【0013】
塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Karlin S and Altschul SF (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 2264-2268; (1993) Proc. Natl. Acad Sci. USA, 90: 5873-5877)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al. (1990) J. Mol. Biol. 215: 403)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えば、score=100、wordlength=12とする。
【0014】
上記態様(c)における本発明のDNAは、TAGリパーゼA又はBをコードする機能を有するものであれば、配列番号3又は配列番号6で表される塩基配列において、1又は複数個の塩基の置換、欠損、挿入又は付加された塩基配列からなるDNAでも構わない。この場合、配列番号3又は配列番号6で表される塩基配列において、その3’末端に翻訳効率を上げる塩基配列などを含むものや、TAGリパーゼA又はBのコード機能を失うことなく、その5’末端を欠失したものも含まれる。
【0015】
上記態様(d)におけるDNAは、配列番号3又は配列番号6で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAである。この「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。
そのような条件の例としては、配列番号1、配列番号2、配列番号4又は配列番号5の配列と相同性の高いDNAが、配列番号3又は配列番号6で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとハイブリダイズし、それより低い相同性のDNAが相補的な塩基配列からなるDNAとハイブリダイズしない条件が挙げられる。
本明細書でいう相同性が高いとは、相同性が70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上を意味する。
ストリンジェントな条件の具体例としては、60℃−70℃の温度条件下、0.1×SSC、0.1%SDS溶液中で洗浄することなどが挙げられる。
【0016】
本発明におけるDNAはTAGリパーゼA又はBをコードしている。本発明のDNAによるTAGリパーゼA又はBは、脂質であるトリアシルグリセロール(TAG)のエステル結合の加水分解能を有し、特定のTAGを分解させることによって、種子中におけるリシノール酸の含有量を向上させる効果を発揮する。種子中におけるリシノール酸の含有量を向上させる作用機構については、TAG中のオレイン酸に係るエステル結合を選択的に加水分解し、オレイン酸を遊離させることが推定され、これにより、リシノール酸がグリセロールと結合して為るTAGが貯蔵されて、リシノール酸含量が増加するものと考えられる。
【0017】
本発明のベクターは、本発明のDNAを有するベクターである。上記ベクターとしては、本発明のDNAを安定に保持するものであり、そのDNAが有するTAGリパーゼ遺伝子を好適に発現させることができるものであれば、その構造や種類等に特に制限はない。このようなベクターとして、例えばプラスミド、ファージ、コスミド、YAC等が挙げられるが、汎用性の観点からプラスミドが好適である。
ベクターは、周知の方法により、本発明のDNAがベクターへ担持(挿入)されることで構築される。ベクターには、本発明のDNAの他に、エンハンサー領域(配列)やターミネーター領域(配列)、薬剤耐性遺伝子や選択マーカー遺伝子等といった周知の要素が組み込まれていてもよい。
【0018】
ベクターは、通常、好適に担持(挿入)された本発明のDNAを、宿主細胞へ導入する場合に用いられる。
例えば、宿主に大腸菌を用いるのであれば、薬剤耐性遺伝子や選択マーカー遺伝子が組み込まれた市販のベクター(プラスミド)や、クローニング用ベクターとして市販されている種々のベクター(プラスミド)を利用することができる。
【0019】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞が挙げられるが、作業性及び汎用性等から、大腸菌が好適である。
宿主細胞へのベクター導入は、塩化カルシウム水溶液等を使用して、カルシウム存在下で大腸菌(コンピテントセル)に取り込ませる方法や、その他、電気パルス穿孔法、リポフェクション法、マイクロインジェクション方法等の公知の方法で行うことができる。
【0020】
また、植物体内で本発明のDNAを発現させる方法としては、本発明のベクターを、例えば、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。ベクターへの本発明のDNAの挿入などの一般的な遺伝子操作は、常法に従って行うことが可能である。植物体内への投与は、ex vivo法であっても、in vivo法であってもよい。
【0021】
本発明の形質転換植物体は、本発明のDNAが導入されたものであり、本発明のDNAを利用して、導入したTAGリパーゼの塩基配列の発現により、植物体を形質転換したものである。
形質転換植物体の作製は、本発明のベクターやCRISPR−Cas9システム等の手法を用い、本発明のDNAを植物細胞に導入して、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させることで行われる。この形質転換に要する期間は、従来のような交雑による遺伝子移入に比較して極めて短期間である。また、他の形質の変化を伴わない点で有利である。
形質転換の手法の一つの具体例として、例えばCRISPR−Cas9システムが挙げられる。CRISPR−Cas9システムは、細菌のCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)システムが侵入したウィルスのDNAをバラバラにしてその中で特定の塩基配列をもつ断片を細菌自身のゲノムに取り込み、記憶して、ウィルスの再侵入時には、記憶したDNAから転写されたRNAがウィルスのDNAを照合して見つけ出し、RNAにガイドされた酵素(Casタンパク質)が、ウィルスのDNAを切断する仕組みを利用するものである。
また、形質転換植物体に用いられる植物細胞としては特に限定されない。具体的には、シロイヌナズナ等が挙げられるが、本発明のDNAを発現可能なものであれば、特に制限はなく、何れが用いられてもよい。
【0022】
本発明のリパーゼは、植物体のヒマ(トウゴマの別名、学名:Ricinus communis L.)に由来するリパーゼであり、タンパク質を基にして構成されるポリペプチドからなる。このリパーゼは、脂質分解に関与することで、種子中におけるリシノール酸含量の向上に寄与するリパーゼである。
上述したように、リパーゼが分解対象とする脂質として、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロールが挙げられ、これらの中でもトリアシルグリセロールは、種子中におけるリシノール酸の含有量の向上に大きく寄与する。このため、本発明のリパーゼは、TAGリパーゼが好ましい。
【0023】
尚、本明細書において、配列番号18で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドによる「リパーゼ」を「TAGリパーゼA」、配列番号19で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドによる「リパーゼ」を「TAGリパーゼB」ともいう。
【0024】
本発明のリパーゼは、以下の(a)〜(c)の態様で示されるポリペプチドのうちの一種である。
(a)配列番号18又は配列番号19で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、
(b)配列番号18又は配列番号19で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性のアミノ酸配列を有するポリペプチド、
(c)配列番号18又は配列番号19で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠損、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0025】
上記態様(b)における、本発明におけるポリペプチドのアミノ酸配列の同一性については、TAGリパーゼA又はBがリシノール酸含量の向上に寄与する機能を発揮すればよく、70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であればよく、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上の同一性のアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0026】
アミノ酸配列の同一性は、既存のアルゴリズムを用いて計算することができる。このアルゴリズムとして、例えば、以下が挙げられる。
Computational Molecular Biology, Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York(1988);Biocomputing:Informatics And Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York(1993)
Computer Analysis of Sequence Data,Part I,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G., eds.,Humana Press,New Jersey(1994)
von Heinje,G.,Sequence Analysis In Molecular Biology,Academic Press(1987)
Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M Stockton Press,New York(1991)
通常は、上記のようなアルゴリズムが組み込まれた解析プログラムが開発されており、こうした解析プログラムを用いてアミノ酸配列の同一性(%)を解析する。
この解析プログラムとして、例えば、以下が挙げられる。
GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに組み込まれた、NeedlemanおよびWunsch(J Mol. Biol. (48):444-453 (1970))のアルゴリズム。
遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムに組み込まれた、Lipman−Pearson法(Science,1985,227:1435−1441)により、Unit size to compare(ktup)を2として算出。
【0027】
上記態様(c)における本発明のリパーゼは、TAGリパーゼA又はBの機能を有するものであれば、配列番号18又は配列番号19で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠損、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドでも構わない。
【0028】
本発明におけるリパーゼとして、TAGリパーゼA又はBは、脂質、特にはトリアシルグリセロール(TAG)のエステル結合の加水分解能を有し、特定のTAGを分解させることによって、種子中におけるリシノール酸の含有量を向上させる効果を発揮する。種子中におけるリシノール酸の含有量を向上させる作用機構については、TAG中のオレイン酸に係るエステル結合を選択的に加水分解し、オレイン酸を遊離させることが推定され、これにより、リシノール酸がグリセロールと結合して為るTAGが貯蔵されて、リシノール酸含量が増加するものと考えられる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明をさらに具体化した実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
[1]シロイヌナズナの播種及び生育
シロイヌナズナ種子を、滅菌液(次亜塩素酸ナトリウム2%、Triton(登録商標)X−100(商品名、非イオン系界面活性剤)0.02%の混合液)に5分間浸し、滅菌した。
滅菌したシロイヌナズナ種子を、滅菌した純水で5回洗浄した後、発芽培地に播種した。発芽培地には、1/2濃度のムラシゲ・スクーグ(MS)培地用混合塩類に、スクロース(濃度1%)、2−モルホリノエタンスルホン(MES)緩衝剤(濃度0.5mg/ml)、寒天(濃度0.8%)を添加し、pH5.8としたものを使用した。
播種後は、温度22℃で一定とした環境下において、明期を16時間、暗期を8時間とし、明期に使用する光源を蛍光灯(光量子束密度、70μmol/m/s)として、播種から10日後に芽生えしたものを培養土に移植し、シロイヌナズナの生育を行った。そして、培養土に移植後、約2ヶ月間生育したシロイヌナズナから種子を収穫した。
【0031】
[2]ヒマの播種及び生育
ヒマ種子を、滅菌液(次亜塩素酸ナトリウム2%、「Triton(登録商標)X−100」(商品名、非イオン系界面活性剤)0.02%の混合液)に5分間浸し、滅菌した。
滅菌したヒマ種子を、滅菌した純水で5回洗浄した後、滅菌水で湿潤させたキッチンペーパーで包み、プラスチック製の容器に入れて遮光し、該容器を、室温22℃で一定とした培養室に5日間静置して、発根したヒマ種子を培養土に播種した。
播種後は、室温28℃で一定とした人工気象室内において、明期を16時間、暗期を8時間とし、明期に使用する光源をメタルハライドランプ(光量子束密度、1000μmol/m/s)として、ヒマの生育を行った。そして、培養土に播種後、約4ヶ月間生育したヒマから種子を収穫した。
【0032】
[3]分子系統樹の作成
ヒマと、ヒマの近縁種であるナンヨウアブラギリ(学名:Jatropha curcas、以下「ヤトロファ」とも記載する)とについて、これらのゲノムにコードされるタンパク質の中で、TAGリパーゼに特徴的なドメインであるclass_3 リパーゼ(PF01764)を持つタンパク質を抽出した。この抽出には、Phytozome12〈URL:https://phytozome.jgi.doe.gov/pz/portal.html〉を利用した。
そして、抽出したタンパク質のアミノ酸配列を系統解析し、分子系統樹を作成した。この系統解析には、MEGA7〈URL:https://www.megasoftware.net/〉を利用し、ブートストラップ値は1000回反復から決定された。
作成した分子系統樹を、図1に示す。
尚、図1では、ヒマ由来のタンパク質に○を、ヤトロファ由来のタンパク質に●を付した。
【0033】
[4]TAGリパーゼ遺伝子の探索
上記[3]で作成した分子系統樹から系統樹解析を行い、ヒマ及びヤトロファのゲノムにコードされるclass_3 リパーゼ(PF01764)ドメインを持つ遺伝子を抽出した。
class_3 リパーゼドメインを持つ遺伝子がヒマゲノムには39、ヤトロファゲノムには31存在した。これらの中から、ヒマゲノムにのみ存在し、近縁種であるヤトロファゲノムには存在しないヒマ特異的リパーゼ遺伝子を探索して、28424.m000016、29900.m001596、29935.m000048、30183.m001305の4つの遺伝子を候補として選抜した(図1中に矢印で示す)。
【0034】
[5]ヒマ由来遺伝子の単離
[5−1]RNAの抽出
上記[2]に従って生育した開花後3週間又は4週間のヒマ種子を採取し、ヒマのRNAを抽出した。このRNAの抽出は、以下(1)〜(3)に示す手順に従って行った。
(1)ヒマ種子をチューブ(容量:1.5mL、ポリプロピレン製)に収容し、液体窒素で凍結した後、ポリビニルピロリドン(分子生物学用、濃度:1w/v%)を添加したRNA抽出用の細胞溶解バッファー(以下、「PVP添加バッファー」ともいう)100μLを加え、温度4℃、遠心力1000×gで1分間、遠心分離し、モーターグラインダー及びステンレス鋼製の乳棒を用いて60秒間均質化した。
(2)さらにPVP添加バッファー550μLを加え、逆さまにしてPVP添加バッファーを混合し、25℃で10分間インキュベートした後、温度25℃、遠心力8000×gで5分間、遠心分離した。
(3)(2)の遠心分離後、上清550μLを新しいチューブ(容量:1.5mL、ポリプロピレン製)に移し替え、温度25℃、遠心力10000×gで5分間、遠心分離した後、上清450μLを新しいチューブ(容量:1.5mL、ポリプロピレン製)に移し替え、これをヒマRNAの抽出物として使用した。
【0035】
[5−2]cDNAの合成
上記[5−1]で抽出したヒマRNAからcDNA合成キット(「PrimeScript(登録商標) II 1st strand cDNA Synthesis Kit」(商品名)、タカラバイオ社)を用いてcDNA合成を行った。
合成したヒマのcDNAについて、このcDNAを鋳型として、上記[4]で選抜した4つの遺伝子について、表1に示したプライマーセットと、DNAポリメラーゼ(「Prime STAR GXL」(商品名)、タカラバイオ社)とを使用したPCR法により増幅した。
プライマーセットについては、5’末端側のプライマーの塩基配列を配列番号1,4,7,10とし、3’末端側のプライマーの塩基配列を配列番号2,5,8,11とする。
そして、配列番号3で示される29935.m000048、配列番号6で示される30183.m001305、配列番号9で示される28424.m000016、配列番号12で示される29900.m001596の4種の遺伝子を単離し、それぞれの塩基配列を常法に従って解析した。
また、上記4つの遺伝子の他、さらに配列番号13で示される水酸基付加酵素(FAH12)を単離した。
PCR法で用いたプライマー及び得られた遺伝子の関係を表1に示す。
なお、上記PCR法による増幅は、DNA二本鎖解離を95℃で1分、アニーリングを98℃で10秒と60℃で15秒と68℃で3分とを1サイクルとして30サイクル、DNA合成を68℃で5分、を条件として行った。
【0036】
【表1】
【0037】
[6]遺伝子発現量の確認
上記[2]で得られたヒマの種子のうち、開花後25日目の登熟種子、開花後35日目の登熟種子、発芽直後の種子、及び、発芽後の芽生えの子葉、について、上記[4]で選抜した4つの遺伝子の遺伝子発現量を、定量的RT−PCR分析法で定量した。その結果を、図2のグラフに示す。
【0038】
〔6−1〕定量的RT−PCR法
定量的RT−PCR法の手順について、以下(1)〜(3)に示す。
(1)種子については、RNA抽出キット(「RNeasy Plant Mini Kit」(商品名)、QIAGEN社)を使用し、total RNAを抽出した。
子葉については、RNA抽出キット(「「RNeasy Plant Mini Kit」(商品名)、QIAGEN社)を使用し、total RNAを抽出した。
(2)(1)で抽出した2μgのtotal RNAから、cDNA合成キット(「PrimeScript(登録商標) RT Reagent Kit」(商品名)、タカラバイオ社)を使用し、cDNAを合成した。
(3)定量PCRキット(「KAPA SYBR(登録商標) FASTユニバーサルキット」(商品名)、KAPA BIOSYSTEMS社)と、リアルタイムPCRシステム(「Applied Biosystems(登録商標) 7500Fast」(商品名)、Life Technologies社)と、を使用し、参照遺伝子にELF3k(真核生物翻訳開始因子3K)及びMAP2B(メチオニンアミノペプチダーゼ2B)を用いて、遺伝子発現量を定量した。
【0039】
〔6−2〕遺伝子発現量の定量結果
図2のグラフに示されるように、上記[4]で選抜した選抜した4つの遺伝子のうち、8424.m000016、29900.m001596は、登熟種子(開花後25日目、35日目)、発芽直後の種子、及び、発芽後の芽生えの子葉の全てで、遺伝子発現量が検出限界以下であり、遺伝子の発現が見られなかった。
29935.m000048、30183.m001305は、開花後25日目及び35日目の登熟種子で、遺伝子発現量が5を超えており、遺伝子の発現が見られた。また、29935.m000048、30183.m001305は、発芽直後の種子、及び発芽した芽生えの子葉では、遺伝子発現量が0(ゼロ)であり、遺伝子の発現が見られなかった。
上記の結果は、29935.m000048、30183.m001305が、発芽後は機能せず、登熟種子で特異的に機能するリパーゼであることを示唆している。
よって、29935.m000048をTAGリパーゼA、30183.m001305をTAGリパーゼBと同定し、以下ではTAGリパーゼAである29935.m000048をRcTL1、TAGリパーゼBである30183.m001305をRcTL2と記載する。
また、RcTL1の塩基配列(配列番号3)に基づき、TAGリパーゼAのアミノ酸配列を解析し、TAGリパーゼAのアミノ酸配列を、配列番号18に示す。
さらに、RcTL2の塩基配列(配列番号6)に基づき、TAGリパーゼBのアミノ酸配列を解析し、TAGリパーゼBのアミノ酸配列を、配列番号19に示す。
【0040】
[7]シロイヌナズナ由来DNA断片の単離
上記[1]に従って4週間生育したシロイヌナズナから葉を採取し、その葉を液体窒素で凍結させた後、液体窒素を加えて冷やしながら乳鉢・乳棒ですり潰した。
すり潰した植物体粉末0.1gからDNA抽出キット(「DNeasy Plant Mini Kit」(商品名)、Qiagen社)を用いてシロイヌナズナのゲノムDNAを抽出した。
抽出したシロイヌナズナのゲノムDNAについて、このゲノムDNAを鋳型とし、シロイヌナズナ由来の特定のDNA断片をPCR法により増幅し、単離した。
単離したDNA断片を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
[8]形質転換植物体の作成
リシノール酸合成を担う水酸基付加酵素であるFAH12を導入No.1として、このNo.1のみをシロイヌナズナへ導入し、比較試料とした。
さらに、No.1のFAH12とともに、上記[6]で同定されたリパーゼのうち、RcTL1(TAGリパーゼA)を導入No.2、RcTL2(TAGリパーゼB)を導入No.3として、No.1+No.2の組み合わせと、No.1+No.3の組み合わせとを、それぞれシロイヌナズナへ導入し、No.1+No.2を実施試料1、No.1+No.3を実施試料2とした。
比較試料、実施試料1及び2のシロイヌナズナからそれぞれ採取した種子を、25μg/mlのハイグロマイシンを含む発芽培地に播種し、形質転換植物としてそれぞれ30個ずつ合計150個を選抜した。
上記No.1〜3のシロイヌナズナへの導入は、クローニングキット(「In−Fusion(登録商標) HD Cloning kit」(商品名)、タカラバイオ社)を用い、Tiプラスミド(「pGWB501」(Addgene提供))に導入後、このTiプラスミドをアグロバクテリウム法によりシロイヌナズナへ導入して行った。
No.1について、種子における強力な発現を目的として、FAH12を、シロイヌナズナのプロモーター(12S1)及び3’UTR(12S1)と融合した。
No.2及びNo.3については、RcTL1及びRcTL2をそれぞれ、シロイヌナズナのオレオシン1および2のプロモーターと融合した。
この導入における組み合わせを表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
[9]リシノール酸含量の定量
上記[8]で得られた形質転換植物について、ガスクロマトグラフィー質量分析法(以下、「GC−MS」と略す)により、リシノール酸含量の定量を行った。その結果を、図3のグラフに示す。
なお、比較試料、実施試料1及び2の形質転換植物(種子)は、リシノール酸含量を定量化するため、各30個ずつをホモジナイザーで粉砕して使用した。
【0045】
[9−1]GC−MSの手順
GC−MSは、以下(1)〜(6)に示す手順に従って行った。
(1)比較試料、実施試料1及び2の形質転換植物(種子)各30個ずつを、クロロホルム:メタノールを2:1で混合した抽出溶媒400mLと、ホモジナイザーと、を使用して粉砕した後、温度25℃、遠心力2000×gで5分間、遠心分離し、上清を回収した。
(2)(1)の上清の回収後に残ったペレットに、クロロホルム:メタノールを2:1で混合した抽出溶媒400mLを加え、温度25℃、遠心力2000×gで5分間、遠心分離し、上清を回収した。
(3)(1)で回収した上清と、(2)で回収した上清とを混合し、乾燥した後、得られた乾燥脂質を25mLのヘキサンに溶解させた。
(4)(3)で得た乾燥脂質から、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)用のプレート(Merck Millipore社)を用い、TAGを分離した。TLCにおけるTAG中の脂肪酸定量時の内標準物質には、トリヘプタデカノイン(和光社)を使用した。TLC溶媒には、ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸を80:20:1で混合したものを使用した。
(5)(4)のプレートから、TAGのスポットを収集し、ヘキサン100mLでTAGを抽出した。
(6)前処理として、脂肪酸メチル化キット(ナカライテスク社)を使用してTAG中の脂肪酸をメチル化して脂肪酸メチルエステルとした後、カラム(DB−23、アジレント・テクノロジー社)と、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−14、島津製作所社)と、スペクトル測定に二重収束型質量分析計(JMSDX−300、日本電子社)と、を用い、TAG中の脂肪酸メチルエステルを定量した。
【0046】
[9−2]リシノール酸含量の定量結果
図3のグラフに示されるように、FAH12のみを導入した比較試料(図3中に「No.1」と記載)は、リシノール酸含量が4〜6%前後であった。
FAH12とRcTL1(TAGリパーゼA)を導入した実施試料1(図3中に「No.1+No.2」と記載)は、リシノール酸含量が7〜10%であった。
FAH12とRcTL2(TAGリパーゼB)を導入した実施試料2(図3中に「No.1+No.3」と記載)は、リシノール酸含量が9〜12%であった。
これらの結果から、リパーゼ(RcTL1、RcTL2)の機能により、種子中におけるリシノール酸含量が向上することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のヒマ由来リパーゼは、種子中のリシノール酸含量を向上させる機能を有し、形質転換に有用であるから、産業上利用可能である。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]