【解決手段】樹脂に黒鉛粉末、カーボンナノファイバー、又は黒鉛粉末及びカーボンナノファイバーの混合物を分散させてシート状に形成したグラファイトシート2と、酸化膜を除去した板状チタン3を準備する工程と、圧力方向に離間する板状チタン3、3の間にグラファイトシート2を挟んで積層した積層試料1を作製する工程と、チタンの融点をMp(K)とした場合に、前記積層試料を、973K以上Mp以下の温度条件下で、圧力を加え保持することにより、グラファイトシート2を消失させるとともに、炭化チタン粒子を分散させる。
前記β安定化元素は、モリブデン、ニオブ、タンタル、バナジウム、及びレニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載のチタン基複合材料の製造方法。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は軽くて強くて錆びにくいという、構造用材料として理想的な性質を有しており、航空分野において航空機エンジン用ならびに機体構造用材料として、年々需要が増している。
【0003】
しかしチタンは耐摩耗性が低く、また、その優れた機械的特性、そして活性金属であるが故に、チタン合金の製造は非常に複雑で、高エネルギーや複雑な製造プロセスが必要であり、チタン合金製造の低コスト化と生産性の向上は重要な課題である。
【0004】
一方、チタン合金に代替される新たな材料として複合材料がある。複合材料とは、2種類以上の異なる材料を人為的に組み合わせることによって、単体では持ち得なかった特性を有する材料である。
【0005】
従来、In−situ反応を利用したチタン基複合材料の開発が行われている。In−situ反応により製造された複合材料は、強化粒子自体が反応生成物であるため界面強度が高く、粒子分散性に優れるという利点が挙げられる。
【0006】
また、In−situ反応を利用したチタン基複合材料として、チタン合金の剛性改善を狙ったホウ化チタン(TiB)分散複合材料や、耐磨耗性改善を狙った炭化チタン(TiC)分散複合材料が開発されている。これらの複合材料の特性は従来のチタン合金と比較して非常に優れたものであり、注目を集めている。
【0007】
非特許文献1に開示されているように、In−situ反応を利用したチタン基複合材料の代表的な製造方法がある。この製造方法は、Ti粉末、添加元素粉末、及びAIB
2粉末を混合した後、プレス成形する。その後、真空アーク溶解法を用いて溶解し、In−situ反応を利用してTiB粒子をマトリックス内に晶出させる。その後鋳造、熱間圧延した後、機械的性質の改善のため熱処理を施す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記の製造方法では、製造工程が多く、高いエネルギーを必要とし、製造コストがかかるため、製造コストの低いプロセスの開発が必要であった。
【0010】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、チタンと炭素の固相反応を利用したチタン基複合材料の簡易な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、チタンマトリックス中に粒子状の炭化チタンが分散したチタン基複合材料の製造方法であって、樹脂に黒鉛粉末、カーボンナノファイバー、又は黒鉛粉末及びカーボンナノファイバーの混合物を分散させてシート状に形成したグラファイトシートと、酸化膜を除去した板状チタンを準備する工程と、圧力方向に離間する前記板状チタンの間に前記グラファイトシートを挟んで積層した積層試料を作製する工程と、チタンの融点をMp(K)とした場合に、前記積層試料を、973K以上Mp以下の温度条件下で、圧力を加え保持することにより、前記グラファイトシートを消失させるとともに、炭化チタン粒子を分散させる焼結工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
なお、本発明において「粒子」とは、チタンマトリックス中の炭化チタンのアスペクト比(縦横比)が3未満であることを意味し、「粒子状の炭化チタンが分散した」とは、そのようなアスペクト比が3未満である炭化チタンが、1箇所に凝集することなく、チタンマトリックス中に点在していることを意味する。
【0013】
また、チタンの融点Mpは約1941Kである。
【0014】
本発明によれば、樹脂に黒鉛粉末、カーボンナノファイバー、又は黒鉛粉末及びカーボンナノファイバーの混合物を分散させたグラファイトシートにより、厚さの制御等、取扱いが容易となる。そして、そのグラファイトシートを板状チタンの間に挟んで積層した積層試料にチタンの相変態温度(約1158K)前後の温度と圧力を加えることにより、炭化チタン粒子を分散させることができる。
【0015】
固相焼結は、固体の融点の6〜7割程度の温度条件下で行うのが一般的である。本発明では、973K以上Mp以下の温度条件下でα型のチタン基複合材料を製造できる。つまり、本発明は従来よりも低い温度条件においてもα型のチタン基複合材料を製造することができる。そして、このように製造したα型のチタン基複合材料は、炭化チタン粒子の分散により、純チタンよりも硬度を向上させることができる。
【0016】
そして、積層試料は、外周をシート状のβ安定型元素によって覆ってもよい。β安定型元素は、モリブデン、ニオブ、タンタル、バナジウム、及びレニウムからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0017】
β安定型元素を用いることにより、チタンマトリックスの相を容易に変化させることができる。つまり、β安定型元素を用いることにより、α+β型のチタン基複合材料を製造することが可能である。α型チタン及びα+β型チタンは、それぞれ特性が異なるため、チタンの相変態を自在に制御して、用途に応じたチタン基複合材料を製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のチタン基複合材料の製造方法によれば、圧力方向に離間する前記板状チタンの間に前記グラファイトシートを積層し、チタンの融点をMp(K)とした場合に、前記積層試料を、973K以上Mp以下の温度条件下で、圧力を加え保持することにより、前記グラファイトシートを消失させるとともに、炭化チタン粒子を分散させ、従来よりも低い温度条件下においてもα型のチタン基複合材料を製造できるため、従来のチタン合金の製造方法のように、複雑な熱処理や高エネルギーを必要とせず、簡易な製造方法によって省エネルギー化を図ることができる。また、このように製造したチタン基複合材料は、純チタンと比して硬度の向上が見られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る積層試料の模式図である。
【
図3】放電焼成機の電圧波形と焼結プロセスを示すグラフである。
【
図4】比較例1及び実施例1〜4の焼結条件を示す表である。
【
図5A】比較例1に係るチタン基複合材料の縦断面の写真である。
【
図5B】実施例1に係るチタン基複合材料の縦断面の写真である。
【
図5C】実施例2に係るチタン基複合材料の縦断面の写真である。
【
図5D】実施例3に係るチタン基複合材料の縦断面の写真である。
【
図5E】実施例4に係るチタン基複合材料の縦断面の写真である。
【
図6A】比較例1に係るチタン基複合材料の縦断面の模式図である。
【
図6B】実施例1に係るチタン基複合材料の縦断面の模式図である。
【
図6C】実施例2に係るチタン基複合材料の縦断面の模式図である。
【
図6D】実施例3に係るチタン基複合材料の縦断面の模式図である。
【
図6E】実施例4に係るチタン基複合材料の縦断面の模式図である。
【
図9】実施例4に係るチタン基複合材料のFE−SEM像である。
【
図10】
図9中央に位置するダークグレーの粒子に点分析を行った結果を示すスペクトルデータである。
【
図11】実施例4に係るチタン基複合材料のBSE像である。
【
図12】実施例5に係るチタン基複合材料の縦断面の写真である。
【
図13】実施例5に係るチタン基複合材料のBSE像である。
【
図15】焼結温度とビッカース硬さの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係るチタン基複合材料の積層試料10の模式図である。積層試料10は、樹脂に黒鉛粉末、カーボンナノファイバー、又は黒鉛粉末及びカーボンナノファイバーの混合物を分散させてシート状に形成したグラファイトシート2と、酸化膜を除去した板状チタン3とからなり、圧力方向に離間する板状チタン3、3の間にグラファイトシート2を挟んで積層したものである。
【0022】
グラファイトシート2は、黒鉛粉末、カーボンナノファイバー、又は黒鉛粉末及びカーボンナノファイバーの混合物を樹脂に分散させて、シート状に形成したものであり、厚さは40〜50μmであることが好ましい。本実施形態においては、平均粒子約3μm、密度2.26の黒鉛粉末を用いた。黒鉛の種類は、土状黒鉛と呼ばれるものであり、液体とのなじみが良く、塗料などに用いられる。このような黒鉛粉末を用い、厚さ約40μmに形成したグラファイトシートを用いた。
【0023】
板状チタン3は、純度99%以上の純チタンからなるものであり、本実施形態においては厚さ約1mmのものを用いた。チタンは酸素と非常に反応しやすく、表面に酸化膜を形成しやすい。酸化膜は炭素の拡散を妨げるため、積層する前に酸化膜を除去する必要がある。
【0024】
ここで、チタン合金の相の種類について説明する。チタンは低温ではhcp構造(α相)であるが、1158K以上でbcc構造(β相)に相変態する。α相は強度に優れるが、延性及び加工性に劣るという短所がある。それに対し、β相は延性及び加工性に優れるため、様々な形に加工することが可能であるが、強度に劣るという短所がある。そこで、実際には用途に応じてα相とβ相の量比や組織を制御させて使用される。
【0025】
相制御の一番主要な方法として、元素の添加が挙げられる。チタンに元素を添加すると、その元素に依存してα相やβ相の安定領域が変化する。アルミニウム、ガリウム、スズ、炭素、酸素、窒素などのα相安定型元素と呼ばれる元素を添加することで、変態温度が上がり、α相の安定領域が拡大する。それに対して、モリブデン、ニオブ、タンタル、バナジウム、レニウムなどのβ安定型元素と呼ばれる元素を添加することで、変態温度が下がり、β相の安定領域が拡大する。本発明の実施形態において、使用する添加元素はα相安定型に該当する炭素であり、チタンの変態温度は1195Kまで上がる。
【0026】
チタン合金の種類は常温の金属組織の状態によって、α型チタン合金、β型チタン合金、α+β型チタン合金の3種類に大別される。これらは、熱処理による特性変更が可能で、組織を変化させることで特性を変えることができる。α相は六方最密構造、β相は体心立法構造で、性質が異なるので、この両者の量的割合、形状、大きさなどによって合金の特性が変化する。
【0027】
α型合金は、耐食性に特に優れ、また耐熱性や高温クリープ特性にも優れるため高温環境下や、低温環境下でも脆性破壊を起こしにくく低温から高温まで安定した強度を持っている。しかし、熱処理による強度の向上は望めず、α+β型合金やβ型合金ほどの強度はない。主な用途としては、高温環境下でも優れた特性を発揮することから、航空機エンジン材料や航空機高温部材で用いられることが多い。
【0028】
β型合金は、チタン合金の中で最も強度に優れたものであり、またβ相が持つ体心立方格子構造によりすべり面が多いため、他のチタン合金に比べて加工性に優れているという利点がある。主な用途としてはその強度を生かして、スポーツレジャーや民生品に用いられる。
【0029】
α+β型合金は、α型合金とβ型合金の持つ特性をバランス良く組み合わせたチタンの代表的な合金であり、耐食性、延性、靭性、加工性、溶接性、強度といった特性が高く、バランスがとれている。欠点としては耐摩耗性が低いといった点が挙げられる。主な用途は航空機分野や医療関連、宇宙産業やスポーツレジャーなど幅広い分野で使用されている。
【0030】
本発明の実施形態では、β安定型元素の有無によってチタンの相変態を制御可能であり、α型のチタン基複合材料又はα+β型のチタン基複合材料を自在に製造することができる。
【0031】
[チタン基複合材料の製造方法]
次に、本発明の実施形態に係るチタン基複合材料の製造方法について説明する。
【0032】
(1)材料の準備工程、(2)積層試料の作製工程、(3)焼結工程の酸3段階に分けて複合材料を作製する。
【0033】
(1)材料の準備工程
まず、準備工程において、樹脂に黒鉛粉末、カーボンナノファイバー、又は黒鉛粉末及びカーボンナノファイバーの混合物を分散させてシート状に形成したグラファイトシート2と、酸化膜を除去した板状チタン3を準備する。
【0034】
具体的には、グラファイトシート2は、黒鉛粉末(西村黒鉛社製)0.625gをポリビニルアルコール水溶液(ヤマト社製、アラビックヤマト(登録商標))12.5gと混合し、薄くシート状に延ばして乾燥させることにより作製した。完成したグラファイトシート2の厚さは約40μmであった。そして、金型に合わせ、φ10mmの円形状に切り出した。黒鉛粉末をシート状にすることにより、金型からの流出を防止し、均一化を図ることが可能であり、作業性が良い。
【0035】
また、板状チタン3は、厚さ約1mmの純チタン(平野清左衛門社製、JIS1種)であり、φ110mmの円形状に切り出したものを2枚用意した。そして、それぞれ研磨紙♯2000で軽く削ることで酸化膜を除去し、その後すぐにシャーレ中でアセトンに浸すことで酸化反応を抑止した。
【0036】
(2)積層試料の作製工程
次に、
図1に示すように、圧力方向に離間する板状チタン3,3の間に、グラファイトシート2を挟んで積層した積層試料10を作製した。
【0037】
具体的には、外径φ40mm、内径φ10mm、高さ60mmのグラファイト製(ISO63)の金型を用いた。金型の内側には、グラファイトの反応防止および焼結体の離型のためにLBNスプレー(昭和電工社製、成分:メチルエチルケトン、ジメチルエーテル、イソプロピルアルコール、ニトロセルロース)を塗布した。そして、金型の底部から上方へ、板状チタン3、グラファイトシート2、板状チタン3の順に積層して積層試料10を作製した。
【0038】
なお、積層試料10は、
図1に示すようにグラファイトシート2を1層のみ有するものだけでなく、複数のグラファイトシート2を用い、それぞれのグラファイトシート2を板状チタン2に挟んで複数の層に積層したものであってもよい。
【0039】
(3)焼結工程
そして、積層試料10を、所定の温度条件下、圧力を加え保持することにより、グラファイトシート2を消失させるとともに、炭化チタン粒子を分散させた。
【0040】
この焼結工程について以下に具体的に説明する。加圧焼結の方法は、特に限定されるものではなく、熱間鋳造や、放電プラズマ焼結等が挙げられる。本実施形態においては、放電プラズマ焼結法を用いた。
【0041】
図2は、放電焼結機の概略図である。放電焼結機には、予備焼結を行うモード1、抵抗焼結を行うモード2の2つのモードがある。モード1では直流パルス通電を、モード2では連続通電を行う。モード1およびモード2の電圧波形、焼結プロセスを
図3に示す。電流は上部電極から下部電極に向かって流れる。両電極はステンレス製で、上部電極は固定されており、下部電極は油圧シリンダに取り付けられ上下に移動できる1軸圧縮の機構である。温度は、焼結型に挿入した熱電対をペンレコーダに接続することで測定した。両電極間の負荷電流は、分流器の電圧を測定することによって検出した。
【0042】
予備焼結として、パルス電流100A、パルス電圧50V、パルス幅100ms1で600秒間、直接焼結金型および積層試料10に通電した。その後本焼結の連続通電で所定の焼結温度まで昇温させ、600秒保持して焼結することでチタン基複合材料を作製した。
【0043】
[焼結温度の検討]
図4に比較例1及び実施例1〜4の焼結条件を示す。比較例1及び実施例1〜4では、上記した同様の方法で積層試料10を作製した。比較例1では焼結温度を873K、実施例1は973K、実施例2は1073K、実施例3は1173K、実施例4は1273Kとした。
【0044】
焼結工程の後、ファインカッターを用いて試料を圧力方向(上下方向)に切断し、チタン基複合材料の断面を走査型電子顕微鏡(JEOL社製、SEM、JXA−8900RL)を用いて観察を行った。
【0045】
組織観察面の写真を
図5A〜Eに示し、これらに対応する組織観察面の模式図を
図6A〜Eに示す。
図5A及び
図6Aに示すように、焼結温度873Kとした比較例1では、未反応のグラファイトシート2がそのまま残っていた。焼結温度873Kでは、炭素はチタンと固相反応を生じないことがわかった。
【0046】
図5B及び
図6Bに示すように、焼結温度973Kとした実施例1では、炭素とチタンの固相反応によりグラファイトシート2が消失して上下の板状チタン3、3が接合していた。接合率は約20%であった。
【0047】
図5C〜E及び
図6C〜Eに示すように、焼結温度が高くなるほど接合面積は増えていた。焼結温度1073Kとした実施例2(
図5C、
図6C)では接合率は約50%、焼結温度1173Kとした実施例3(
図5D、
図6D)では約80%、焼結温度1273Kとした実施例4(
図5E、
図6E)では約95%であった。
【0048】
さらに、チタンと炭素の固相反応組織を調べるため、焼結温度1073K(実施例2)で作製したチタン基複合材料を用いて組織観察及び面分析を行った。分析したのは、
図6C中X部分である。X部分には、未反応のグラファイトシート2が残存しており、これについて、電子線マイクロアナライザ(JEOL社製、EPMA、JXA−8900RL)による面分析を行った。その結果を
図7A〜Cに示す。
【0049】
図7Aは、
図6CのX部における反射電子像(以下、BSE像)である。
図7Bは、
図6CのX部におけるチタン原子のBSE像である。そして、
図7Cは
図6CのX部における炭素原子のBSE像である。
【0050】
図7Aに示すように、面分析の結果から、
図6CのX部における黒い部分は未反応のグラファイトシート2であることが確認できた。また、
図7Aにおいて、未反応のグラファイトシート2の上下にダークグレーの部分があった。ダークグレーの部分は、グラファイトシート2部分と比較すると、BSE像においてはっきりとした色の違いが生じていたため、未反応の黒鉛粉末ではないと推定された。また、
図7B及び
図7Cに示すように、チタンと炭素の両方のピークが検出されていたため、ダークグレーの部分が炭化チタンであると推定できる。チタンと炭素の反応により、炭化チタンが板状チタン3側に分散されていた。
【0051】
以上の結果より、板状チタン3、3の間にグラファイトシート2を挟んで積層した積層試料10を焼結温度が973K以上で圧力を加え保持することにより、グラファイトシート2を消失させるとともに、炭化チタン粒子を分散させることができる。なお、板状チタン3が溶融しないよう、焼成温度はチタンの融点をMp(K)とした場合にMpよりも低い温度とする。なお、チタンの融点は約1941Kである。
【0052】
[組織観察]
マトリックスの場所による炭化チタン生成の差を分析するため、焼結温度1273Kで製造した実施例4のチタン基複合材料について、グラファイトシート2が存在していた試料中心部と、グラファイトシート2が存在していた場所から離れた試料上部において、それぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。
【0054】
図8Aに示すように、実施例4のチタン基複合材料の上部では、炭素原子が点在していた。金型がグラファイト製であるため、焼結の際、金型から炭素が入り込んでしまうおそれがあったが、金型から近い場所において炭素は他の場所と同じように点在していたことから、金型からの炭素の拡散による炭化チタン生成の影響はないことが確認できた。
【0055】
図8Bに示すように、実施例4のチタン基複合材料において、グラファイトシート2が存在していた部分でも炭素の点在が確認できた。
【0056】
しかしながら、炭化チタン粒子は超微細であるために、炭化チタン粒子の存在をSEM像では確認できなかった。マトリックス中に生成された炭化チタン粒子を分析するために、焼結温度1273Kで製造した実施例4のチタン基複合材料について、電界放出形走査電子顕微鏡(日立ハイテク社製、FE−SEM、S−5200)を用いて2万倍で組織観察を行った。
【0057】
図9は実施例4に係るチタン基複合材料のFE−SEM像である。観察を行った場所は試料中心部である。
図9に示すように、中央部にダークグレーの粒子が存在することが確認できた。
図10は、ダークグレーの粒子に点分析を行った結果を示すスペクトルデータである。
図10に示すように、
図9中のダークグレーの粒子が炭化チタンであることが確認できた。また、
図9のFE−SEM像から、炭化チタンの粒子の直径は約1μmであった。
【0058】
[β安定型元素を用いたマトリックス相の制御]
図11は、
図6E中のZ部の写真であり、実施例4に係るチタン基複合材料の断面中央部のBSE像である。
図11に示すように、実施例4に係るチタン基複合材料では、マトリックス組織のほとんどが粒状のα相であった。
【0059】
そのため、マトリックスの相安定性を改善するため、β安定型元素であるモリブデンを使用して検討を行った。
【0060】
具体的には、まず、実施例1〜4と同様に積層試料10を作成した。そして積層試料10の外周全体に、シート状のモリブデン(二コラ社製、厚さ:約0.05mm、純度:99.95%)を巻き付け、これを焼結した(実施例5)。なお、焼結条件は実施例4と同じ、焼結温度1273K、圧力50MPa、保持時間600秒とした。
【0061】
焼結工程の後、実施例1〜4と同様に、ファインカッターを用いて試料を圧力方向(上下方向)に切断し、チタン基複合材料の断面を、SEMを用いて観察を行った。
【0062】
図12は、SEMによる実施例5に係るチタン基複合材料の縦断面の写真である。
図12に示すように、焼結後、未反応のグラファイトシート2は見られず、モリブデンを巻き付けても焼結性に影響はないことが確認された。
【0063】
図13は、
図12中のW部の写真であり、実施例5に係るチタン基複合材料の断面中央部のBSE像である。
図13に示すように、実施例5に係るチタン基複合材料は、粒状のα相の組織と針状のβ相の組織とが混在したα+β相で構成されていることが確認された。
【0064】
積層試料10の外周を、β安定型元素であるモリブデンをシート状にしたもので覆った状態で焼結することによって、チタン基複合材料のチタンマトリックス相を、α+βチタンとすることができる。α+βチタンは、αチタンとβチタンの特徴をバランス良く合わせ持ち、より多くの分野において、機能性の高いチタン基複合材料として応用できる。
【0065】
実施例5は、焼結温度1273Kにおいて、α+β型のチタン基複合体を製造したが、チタン基複合材料を製造可能な他の温度領域においても、同様にβ安定型元素を用いたチタンの相制御は可能である。また、ニオブ、タンタル、バナジウム、及びレニウムといった、モリブデン以外のβ安定型元素を用いてもよい。
【0066】
α型チタン及びα+β型チタンは、それぞれ特性が異なるため、チタンの相変態を自在に制御して、用途に応じたチタン基複合材料を製造することができる。
【0067】
また、実施例5に係るチタン基複合材料について、炭化チタンの確認をおこなった。
図14A〜Cは、
図12中のW部についてEPMAを用いて面分析を行った結果を示すBSE像である。
図4Aに示すように、黒い粒子が点在している。
図14Bはチタン原子について分析した結果であり、
図14Cは炭素原子について分析した結果である。
図14B及びCによれば、
図14Aに点在する黒い粒子は炭化チタンであると同定できる。
【0068】
[ビッカース硬さの評価]
次に、炭化チタン粒子がチタン基複合材料の硬度に及ぼす影響を分析するため、マイクロビッカース硬度試験を行った。ビッカース硬さの評価には、ビッカース硬度試験機(フューチュアテック社製、FV−110)を用いた。試験荷重30N、荷重時間10sの条件で10点の硬さを測定し、その平均値を算出した。
【0069】
実施例2(焼結温度1073K、モリブデンシートなし)、実施例4(焼結温度1273K、モリブデンシートなし)、及び実施例5(焼結温度1273K、モリブデンシートあり)の3種のチタン基複合材料について、それぞれマイクロビッカース硬度試験を行った。
【0070】
図15は焼結温度とビッカース硬さの関係を示すグラフである。なお、純チタンのビッカース硬さは123.5Hvである。
図15に示すように、純チタンと比較して、全ての試料でビッカース硬さは上昇していた。この中で実施例4は最も硬度が高く、純チタンと比較して約76%向上した。
【0071】
以上のように製造した本実施形態のチタン基複合材料は、純チタンよりも高い硬度を有する。これは、炭化チタンの分散によるものと考えられる。