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特開2021-147280セメント原料の製造方法及びセメントの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-147280(P2021-147280A)
(43)【公開日】2021年9月27日
(54)【発明の名称】セメント原料の製造方法及びセメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20210830BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20210830BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20210830BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20210830BHJP
【FI】
   C04B5/00 C
   C04B7/38
   B09B5/00 JZAB
   G01N21/27 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-49468(P2020-49468)
(22)【出願日】2020年3月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 定人
(72)【発明者】
【氏名】森川 卓子
【テーマコード(参考)】
2G059
4D004
4G112
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB09
2G059CC03
2G059DD03
2G059EE02
2G059EE13
2G059KK01
2G059MM12
4D004AA43
4D004AB03
4D004BA02
4D004CA08
4D004CA40
4D004CA42
4D004CB31
4D004CC03
4D004CC12
4D004DA01
4D004DA20
4G112JD03
4G112JE00
(57)【要約】
【課題】還元スラグからクロム濃度が低いセメント原料を製造する方法を提供する。
【解決手段】還元スラグから、前記還元スラグ内に含まれる粒子を露出させる工程と、前記粒子の明度を測定する工程と、明度の閾値未満の前記粒子を除去するとともに、前記閾値以上の前記粒子を回収する工程と、を有する、セメント原料の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元スラグから、前記還元スラグ内に含まれる粒子を露出させる工程と、
前記粒子の明度を測定する工程と、
明度の閾値未満の前記粒子を除去するとともに、前記閾値以上の前記粒子を回収する工程と、
を有する、セメント原料の製造方法。
【請求項2】
前記粒子の前記明度と、前記粒子中のクロム(Cr)濃度との関係を取得し、前記関係から前記閾値を決定する、請求項1に記載のセメント原料の製造方法。
【請求項3】
前記明度は、JIS Z8781−4:2013「測色−第4部:CIE1976L色空間」に準じて測定されるL値であり、前記閾値が、前記L値で26以上50以下の範囲内である、請求項1または請求項2に記載のセメント原料の製造方法。
【請求項4】
前記還元スラグを洗浄して前記粒子を露出させ、前記粒子を乾燥し、乾燥した前記粒子の明度を測定する、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のセメント原料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載した製造方法により得られたセメント原料を用いたセメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程で発生する還元スラグからセメント原料を製造する方法、及び、該セメント原料を用いたセメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷の低減を目的にセメントの原料として製鋼工程で発生した製鋼スラグが用いられるようになってきた。製鋼工程には、転炉法と電気炉法とがある。電気炉法では、鉄スクラップに副原料として生石灰などを加えて溶融した後、溶鉱炉に酸素を吹き込み、溶鋼から不純物を酸化除去する酸化精錬が行われる。その後、溶鋼中の酸素等を除去する還元精錬が行われる。上記酸化精錬時に酸化スラグが生成し、上記還元精錬時に還元スラグが生成する。還元スラグにはCaOなどが多量に含まれる。このことから、還元スラグをセメント原料として再利用することにより、省資源化を図ることができる。
【0003】
還元スラグには、不純物としてクロム(Cr)が含まれる場合があることが知られている。スラグを原料としてポルトランドセメントを製造する場合、ロータリーキルンでの焼成時に原料が高温かつ酸化雰囲気で処理されることによって、スラグ中のクロム(金属クロムまたは3価クロム)から6価クロムが形成されやすい。セメント中の6価クロムの含有量が高くなると、セメントからの6価クロムの溶出が懸念されることから、セメント中の6価クロムの管理基準が定められている(一般社団法人セメント協会、「セメント中の水溶性六価クロム含有量に関するガイドライン」参照)。このため、クロムを含む原料の使用量が制限されることになる。
【0004】
そこで、スラグからクロムを除去し、セメント原料としての利用を促進する取り組みが行われている。
スラグから金属態のクロムを除去する方法として、磁選方法が広く知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭52−5602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、還元スラグをセメント原料に使用するために上記磁選処理を施しても、還元スラグ中のクロム含有量が高い場合があった。このため、還元スラグのセメント原料への使用量が制限される場合があった。
【0007】
本発明は、上記鑑みなされたものであり、還元スラグからクロム濃度が低いセメント原料を製造する方法、及び、該セメント原料を用いたセメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが検討した結果、製鋼工程により得られた還元スラグの表面に付着している白色の微粉を除去したところ、黒色に近い色を呈する粒子が含まれていることが判明した。還元スラグ由来の粒子は白色〜灰色(緑灰色、灰褐色を含む)を呈し、酸化スラグ由来の粒子は黒色に近い色を呈する。すなわち、還元スラグの中には、還元精錬時に生成する還元スラグ由来の粒子だけでなく、酸化精錬時に生成した酸化スラグ由来の粒子が混入しており、非金属態のクロムを含む酸化スラグ由来の粒子を含むために、磁選処理を施しても還元スラグ中のクロム濃度が低減しない場合がある理由になっていることが分かった。しかし、還元スラグに混在する酸化スラグ由来の粒子の表面には、還元スラグの粉化に伴い発生した微粉が付着しており、そのままの状態では還元スラグ由来の粒子と酸化スラグ由来の粒子とを区別することは困難である。
【0009】
そこで、本発明は、以下の<1>〜<5>のセメント原料の製造方法及びセメントの製造方法を提供する。
<1>還元スラグから、前記還元スラグ内に含まれる粒子を露出させる工程と、前記粒子の明度を測定する工程と、明度の閾値未満の前記粒子を除去するとともに、前記閾値以上の前記粒子を回収する工程と、を有する、セメント原料の製造方法。
<2>前記粒子の前記明度と、前記粒子中のクロム(Cr)濃度との関係を取得し、前記関係から前記閾値を決定する、<1>に記載のセメント原料の製造方法。
<3>前記明度は、JIS Z8781−4:2013「測色−第4部:CIE1976L色空間」に準じて測定されるL値であり、前記閾値が、前記L値で26以上50以下の範囲内である、<1>または<2>に記載のセメント原料の製造方法。
<4>前記還元スラグを洗浄して前記粒子を露出させ、前記粒子を乾燥し、乾燥した前記粒子の明度を測定する、<1>〜<3>のいずれかに記載のセメント原料の製造方法。
<5><1>〜<4>のいずれかに記載した製造方法により得られたセメント原料を用いたセメントの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セメント原料として、クロム濃度が低い還元スラグを得ることができる。このため、セメント原料として還元スラグの使用量を増やすことが可能となり、還元スラグの有効利用を促進することが期待できる。本発明は、より簡便な方法により還元スラグ中の酸化スラグに由来する粒子を判定し除去することができる点で、セメント原料の生産能力を高めることができるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得た粒子について、L値及びクロム濃度をプロットしたグラフである。
図2】実施例2で得た粒子について、L値及びクロム濃度をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のセメント原料の製造方法について、詳細に説明する。なお、本明細書中の「AA〜BB」との数値範囲の表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0013】
[還元スラグ]
本発明における処理対象は、電気炉法による製鋼工程で発生し回収される還元スラグである。この還元スラグ内には、還元精錬時に生成する粒子(以下、「還元スラグ由来粒子」と称する)だけでなく、酸化精錬時に生成する粒子(以下、「酸化スラグ由来粒子」と称する)、及び、還元スラグ由来粒子及び酸化スラグ由来粒子の凝集体も含まれる。これらの粒子及び凝集体の表面には、還元スラグに含まれる遊離CaOの水和や2CaO・SiOの相転移などによる粉化に起因する微粉(以下、単に「微粉」と称する)が付着している。
【0014】
本発明のセメント原料の製造方法は、還元スラグから、前記還元スラグ内に含まれる粒子を露出させる工程と、前記粒子の明度を測定する工程と、明度の閾値未満の前記粒子を除去するとともに、前記閾値以上の前記粒子を回収する工程と、を有する。
本発明者らの検討により、粒子の明度とクロム濃度とに強い相関があることが分かった。本発明は、高濃度にクロムを含む粒子を明度で判断する点で、個々の粒子のクロム濃度を測定する方法に比べて非常に簡便であると言える。このため、酸化スラグ由来粒子の除去と還元スラグ由来粒子(セメント原料)の回収を迅速に行うことができ、セメント原料の生産能力を高めることができる。
以下、各工程について説明する。
【0015】
<露出工程>
まず、製鋼時に回収される還元スラグに付着している微粉を除去し、還元スラグ内に含まれる粒子(還元スラグ由来粒子、酸化スラグ由来粒子)を露出させる。本工程では、還元スラグに凝集体が含まれる場合には、個々の粒子を露出させるとともに、それら粒子を分離することが好ましい。
【0016】
露出方法としては、洗浄、磨砕などが挙げられる。また、洗浄の例としては、酸洗浄、高圧洗浄などが挙げられる。特に酸洗浄は、微粉が効果的に除去される点で有利である。
【0017】
酸洗浄では、還元スラグを酸水溶液と接触させて、微粉を溶解除去する。酸としては、微粉が溶解できるものであれば、特に制限はない。例えば、硝酸、塩化水素、硫酸、過塩素酸、クエン酸、酢酸などを用いることができる。除去効率の観点から、硝酸、塩化水素用いることが好ましい。
本発明では、酸水溶液と還元スラグとを接触する方法として、酸水溶液中に還元スラグを浸漬する方法、還元スラグに酸水溶液を散布する方法などを採用することができる。還元スラグを酸水溶液中に浸漬する場合、浸漬の間、酸水溶液を攪拌することが好ましい。
【0018】
本発明において酸洗浄の後に、粒子表面に付着する酸成分を除去する目的で、水洗を行っても良い。水洗の方法としては、還元スラグに水(例えば蒸留水)を散布する方法、還元スラグに高圧水を噴射する方法(すなわち、酸洗浄と高圧洗浄とを組み合わせる方法)などが挙げられる。
【0019】
<明度測定工程>
還元スラグから露出させた粒子について、明度の測定を行う。ここでの「明度」は、L色空間における明度(L)、Lh色空間における明度(L)、ハンターLab色空間における明度(HL)、マンセル表色系における明度(V)、XYZ(Yxy)表色系における明度(Y)のいずれでも良い。
【0020】
本発明では、個々の粒子毎に明度を測定しても良い。例えば、露出工程で得られる粒子が比較的大きい場合には、個々の粒子の明度を測定することにより、セメント原料として回収される還元スラグ由来粒子に混入する酸化スラグ由来粒子の量を低減することができる。この結果、セメント原料中のクロム濃度を効果的に低減させることができる。
あるいは、複数個の粒子を採取して、採取した粒子の集合全体について明度を測定しても良い。例えば、還元スラグ自体が比較的小さい場合、磨砕などの粉砕を伴う露出手段を採用した場合などでは、個々の粒子の明度を測定することが困難な場合がある。このような場合、複数の粒子を集合させ、その集合の明度を測定することにより、測定効率を向上させることができる。
【0021】
本発明において、露出工程において、酸洗浄や高圧洗浄などの洗浄により還元スラグを処理する場合には、明度測定工程の前に粒子を乾燥することが好ましい。すなわち、還元スラグを洗浄して粒子を露出させ、粒子を乾燥し、乾燥した粒子の明度を測定することが好ましい。こうすることにより、明度の測定精度を向上させることができる。この結果、セメント原料中のクロム濃度を確実に低減できる。
【0022】
<除去・回収工程>
本工程では、測定された明度により粒子の選別を行う。具体的に、上記明度測定工程で測定された明度が閾値未満である粒子を「酸化スラグ由来粒子」と判定し、該粒子を除去する。また、上記明度測定工程で測定された明度が閾値以上である粒子を「還元スラグ由来粒子」と判定し、該粒子をセメント原料として回収する。
【0023】
本発明では、粒子の明度とクロム濃度とに強い相関があるため、クロム濃度が低いセメント原料を製造することができる。本発明は、高濃度にクロムを含む粒子を明度で判断する点で、個々の粒子のクロム濃度を測定する方法に比べて非常に簡便であると言える。このため、酸化スラグ由来粒子の除去と還元スラグ由来粒子(セメント原料)の回収を迅速に行うことができ、セメント原料の生産能力を高めることができる。
【0024】
本発明において、粒子の明度と、粒子中のクロム(Cr)濃度との関係を取得し、該関係から閾値を決定することが好ましい。こうすることにより、酸化スラグ由来粒子及び還元スラグ由来粒子の判定精度が向上するので、回収されるセメント原料中のクロム濃度を効果的に低減させることができる。更に、還元スラグ由来粒子の回収率が上がり、製鋼スラグの有効利用を促進することができる。
なお、本発明において、明度の閾値として、通常白色〜灰色と認識し得る任意の数値を選定しても良い。
【0025】
粒子の明度とクロム濃度との関係から明度の閾値を設定する方法について具体的に説明する。
まず、上記明度測定工程と同様にして明度を測定し、その後、その粒子のクロム濃度を測定する。粒子中のクロム濃度は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置、波長分散型蛍光X線分析装置、ICP発光分光分析装置などを用いて測定される。複数の粒子について、明度及びクロム濃度のデータを取得する。
【0026】
明度の閾値は、例えば、下記(1)〜(2)の何れかの手順で決定することができる。
(1)該データを、クロム濃度が大きい群と、クロム濃度が小さい群とに分ける。クロム濃度が小さい群において、最も低い明度の値、または、最も低い明度の近傍の値を、を「明度の閾値」に設定する。(1)による閾値の決定は、分類した2つの群の間で明度の値に顕著な差がある場合に有効である。
(2)該データに基づいて、明度とクロム濃度との相関グラフを作成する。クロム濃度が大きい群と、クロム濃度が小さい群とについて近似線を作成する。更に2つの近似線の内挿線を作成する。内挿線から「明度の閾値」を設定する。例えば、内挿線の中間点でのL値を閾値と設定することができる。あるいは、一方の近似線と内挿線の交点でのL値を閾値と設定することができる。
【0027】
例示的に、明度は、JIS Z8781−4:2013「測色−第4部:CIE1976L色空間」に準じて測定されるL値であり、閾値は、L値で26以上50以下の範囲内である。電気炉の性能やロット毎など、採取する還元スラグが異なっていても、微粉を除去した後の還元スラグ由来粒子のL値を統計すると、上記範囲となる傾向がある。そこで、明度の閾値を上記L値の範囲内で設定することにより、酸化スラグ由来粒子の除去精度を高め、得られるセメント原料中のクロム濃度を確実に低減させることができる。
【0028】
明度の閾値は、定期的に変更してもよい。変更するタイミングとしては、例えば、製造開始後に所定の日数が経過した時点、還元スラグのロットが変更された時点、得られたセメント原料の品質管理において、クロム濃度が基準値を超えた場合などが挙げられる。変更後の閾値の値は、上記の操作を再度行って決定しても良いし、既に取得している明度とクロム濃度の統計データから決定しても良い。あるいは、クロム濃度が基準値を超えた場合は、明度を大きくする方向に値を設定し直しても良い。
【0029】
本発明において、明度測定工程と除去・回収工程とは、同一の装置で行っても良いし、別の装置で行っても良い。明度測定工程と除去・回収工程とを同時に行える装置としては、色彩選別機が挙げられる。本発明において、装置の仕様に応じて明度測定工程や除去・回収工程の前に、粒子を所定の粒度に粉砕しても良い。
【0030】
本発明では、クロムの除去率を向上させるために、上記露出工程、明度測定工程及び除去・回収工程を、下記に例示する(A)〜(D)の何れかに記載する手順で行うことができる。ただし、本発明は下記の手順に限定されない。
(A)露出工程を洗浄により実施する場合、洗浄と重量測定を繰り返し行う。微粉が除去されることに伴い、重量が低下する。重量変化が所定値以下となった場合に、「微粉の除去が完了した」と判断し、露出工程を終了する。その後、明度測定工程及び除去・回収工程を行う。
(B)露出工程及び明度測定工程を繰り返し、明度の変化量または明度の変化率を取得する。具体的に、酸化スラグ由来粒子の場合は、微粉が除去されることに伴い明度が低下し、微粉がほぼ除去されると明度変化が小さくなる傾向がある。還元スラグ由来粒子の場合は、微粉除去の進行に伴う明度変化は小さい(ほとんどない)傾向がある。該変化量又は変化率が所定値以下となった場合に、「微粉の除去が完了した」と判断する。最後に取得した明度に基づいて、除去・回収工程を行う。手順(B)の場合は、微粉除去の判定制度を高めるために、露光工程及び明度測定工程を4回以上繰り返し、該変化量または変化率を少なくとも3点取得することが好ましい。
(C)露出工程及び明度測定工程を繰り返し、明度が閾値未満となった場合に、その粒子を「酸化スラグ由来粒子」と判定し、除去する。露出工程及び明度測定工程の繰り返しが所定回数以上になっても明度が閾値以上である場合は、その粒子を「還元スラグ由来粒子」と判定し、回収する。
上記(A)〜(C)の手順は、個々の還元スラグに対して適用することもできるし、例えばロット毎など複数個の還元スラグの集合に対して適用することもできる。
【0031】
また、特に、ロット毎など複数個の還元スラグの集合から本発明の方法によりセメント原料を製造する場合には、下記(D)の手順を採用することもできる。
(D)露出工程から除去・回収工程までの一連の処理を通しで行う。除去された酸化スラグ由来粒子があった場合には、回収した還元スラグ由来粒子に対して、再度露出工程から処理を実施する。除去される酸化スラグ由来粒子が無くなるまで、露出工程から除去・回収工程を繰り返す。除去される酸化スラグ由来粒子が無かった時点で回収した還元スラグ由来粒子を「セメント原料」とする。
【0032】
[セメント原料]
本発明の方法により製造されたセメント原料は、処理前の還元スラグに対してクロム濃度が低減された還元スラグである。従って、セメント原料としての還元スラグの使用量を増やすことが可能となり、還元スラグの有効利用を促進することが期待できる。
【0033】
[セメントの製造方法]
本発明で得られるセメント原料を用いてセメントを製造することができる。
その製造方法としては、本発明で得られるセメント原料を、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料などとともに混合し、焼成することによりセメントクリンカを得る。
焼成は、通常、電気炉やロータリーキルンなどを用いて行われる。例えば、予め粉砕・混合した原料をプレヒータにて1000℃程度で予熱した後、ロータリーキルンに送り込み、1450℃以上の高温で焼成を行った後、焼成物を急冷することにより、セメントクリンカを製造することができる。
【0034】
得られたセメントクリンカに石膏等を加え粉砕することにより、セメントを製造することができる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
【0036】
[処理対象の還元スラグ]
異なる電気炉から発生した還元スラグA及び還元スラグBを用いた。還元スラグA及び還元スラグBを目視し、全体がほぼ白色〜灰色であり、微粉で覆われていることを確認した。
(1)還元スラグA:処理前のクロム濃度0.7%(全粒で測定)
(2)還元スラグB:処理前のクロム濃度0.3%(全粒で測定)
【0037】
[実施例1]
<微粉除去処理>
還元スラグA及び還元スラグBから採取した塊状の還元スラグを、硝酸水溶液(濃度10%)に浸漬した状態で、5〜10分間保持した。保持後、硝酸水溶液から取り出した還元スラグに蒸留水を散布して、表面に付着した硝酸水溶液を除去した。蒸留水散布後の粒子を、40℃に設定した乾燥機で6時間乾燥した。
乾燥後に得られた粒子を目視し、表面に付着していた微粉が取り除かれ、白色〜灰色の粒子と黒色に近い濃色の粒子とが混在していること確認した。
【0038】
<明度測定>
微粉除去処理を施して得られた粒子について、それぞれ、JIS Z8781−4:2013「測色−第4部:CIE1976L色空間」に準じて、L値を測定した。測定には、コニカミノルタ社製、色彩色差計CR−400を用いた。
【0039】
<クロム濃度測定>
明度測定後の粒子の各々について、粒子中のクロム濃度を測定した。
粒子をメノウ乳鉢にて粉砕し、測定に供した。測定にはエネルギー分散型X線蛍光分析装置(パナリティカル社製、Epsilon3)を使用し、ファンダメンタルパラメータ法(FP法)により定量した。
【0040】
表1に、実施例1で得た粒子のL値及びクロム濃度を示す。図1に、実施例1で得た粒子について、L値及びクロム濃度をプロットしたグラフを示す。図1において、横軸はL値、縦軸はクロム濃度(%)である。
【0041】
【表1】
【0042】
クロム濃度が0.21%以下と低い粒子(図1で白丸プロット)はいずれも、目視観察で白色〜灰色の粒子であり、L値が高かった。一方、クロム濃度が2.0%超の粒子(図1で白三角プロット)はいずれも、目視観察で黒色に近い粒子であり、L値が低かった。L値が大きい粒子群とL値が小さい粒子群との間で、クロム濃度の差は大きい結果となった。
【0043】
表1に基づくと、L値が大きい粒子群の中で、最も小さいL値は46.41である。この結果に基づいて、L=46.41を閾値として、L≧46.41の粒子を「還元スラグ由来粒子」、L<46.41の粒子を「酸化スラグ由来粒子」と判定し、分別する。
また、表1に基づいて、L値が大きい粒子群の中で最も小さいL値(46.41)と、L値が小さい粒子群の中で最も大きいL値(42.87)の間の数値として、L=45.00を閾値とすることも可能である。この場合、L≧45.00の粒子を「還元スラグ由来粒子」、L<45.00の粒子を「酸化スラグ由来粒子」と判定し、分別する。
【0044】
また、図1に、L値が大きい粒子群及びL値が小さい粒子群の近似線とその内挿線を連続させた線を点線で示す。図1において、点線がL値が小さい側で変曲する範囲(L値が小さい粒子群の近似線と内挿線の交点に近い範囲)内のL*値として、L=44.00を閾値とすることができる。この場合、L≧44.00の粒子を「還元スラグ由来粒子」、L<44.00の粒子を「酸化スラグ由来粒子」と判定し、分別する。
【0045】
分別後の還元スラグ由来粒子はいずれもクロム濃度が0.21%以下であるので、Lの閾値以上の粒子を回収すれば、クロム濃度が低いセメント原料とすることができる。
【0046】
[実施例2]
還元スラグBから採取した塊状の還元スラグ対し、実施例1と同様の条件で酸洗浄及び水散布を実施し、粒子を得た。なお、実施例2では水散布後の乾燥を行わなかった。
得られた粒子に水が付着している状態で、実施例1と同じ条件で明度を測定した。
その後、実施例1に記載の条件で、粒子を乾燥し、クロム濃度を測定した。
【0047】
表2に、実施例2で得た粒子のL値及びクロム濃度を示す。図2に、実施例2で得た粒子について、L値及びクロム濃度をプロットしたグラフを示す。図2において、横軸はL値、縦軸はクロム濃度(%)である。
【0048】
【表2】
【0049】
クロム濃度が0.18%以下と低い粒子(図2で黒丸プロット)はいずれも、目視観察で白色〜灰色の粒子であり、L値が高かった。一方、クロム濃度が2.0%超の粒子(図2で黒三角プロット)はいずれも、目視観察で黒色に近い粒子であり、L値が低かった。実施例2においても、L値が大きい粒子群とL値が小さい粒子群との間で、クロム濃度の差は大きい結果となった。
【0050】
表2に基づくと、L値が大きい粒子群の中で、最も小さいL値は35.31である。この結果に基づいて、L=35.31を閾値として、L≧35.31の粒子を「還元スラグ由来粒子」、L<35.31の粒子を「酸化スラグ由来粒子」と判定し、分別する。
また、表2に基づいて、L値が大きい粒子群の中で最も小さいL値(35.31)と、L値が小さい粒子群の中で最も大きいL値(25.08)の間の数値として、L=30.00を閾値とすることも可能である。この場合、L≧30.00の粒子を「還元スラグ由来粒子」、L<30.00の粒子を「酸化スラグ由来粒子」と判定し、分別する。
【0051】
分別後の還元スラグ由来粒子はいずれもクロム濃度が0.18%以下であるので、Lの閾値以上の粒子を回収すれば、クロム濃度が低いセメント原料とすることができる。
図1
図2