【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔1〕 発行日: 平成31年3月20日 刊行物: 空気調和・衛生工学会北海道支部第53回学術講演会論文集 第99〜102頁 公益社団法人空気調和・衛生工学会北海道支部 <資料> 学術講演会論文集 第99〜102頁 抜粋 〔2〕 開催日 :平成31年3月20日 集会名、開催場所:空気調和・衛生工学会北海道支部第53回学術講演会 公益社団法人空気調和・衛生工学会 主催 北海道大学工学部学術交流会館小講堂・第1会議室 <資料> 学術講演会・プログラム プリントアウト 〔3〕 発行日: 令和1年9月4日 刊行物: 令和元年度空気調和・衛生工学会大会、第117〜120頁(DVD−ROM) 公益社団法人空気調和・衛生工学会 <資料> 令和元年度空気調和・衛生工学会大会 第117〜120頁 抜粋 〔4〕 開催日 :令和1年9月19日 集会名、開催場所:令和元年度空気調和・衛生工学会大会 公益社団法人空気調和・衛生工学会 主催 北海道科学大学 E403講義室 <資料> 令和元年度空気調和・衛生工学会大会・プログラム
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「再生可能エネルギー熱利用技術開発/地中熱利用トータルシステムの高効率化技術開発及び規格化、および再生可能エネルギー熱利用のポテンシャル評価技術の開発/低コスト・高効率を実現する間接型地中熱ヒートポンプシステムの開発と地理地盤情報を利用した設計・性能予測シミュレーションツール・ポテンシャル評価システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【解決手段】地中熱利用熱回収ヒートポンプ11システム10の運転設計方法は、所定の長期間において予測される負荷対象の負荷のうち、長期間を分割してなる複数の短期間ごとに複数台の地中熱ヒートポンプ11が担う負荷を演算する第1演算工程と、分割した短期間ごとに複数台の地中熱ヒートポンプ11における採熱量の総和と放熱量の総和とを演算する第2演算工程と、採熱量の総和と放熱量の総和が第1制限値以下となるように、短期間ごとに複数台の地中熱ヒートポンプ11の運転を設計する運転設計工程と、を備えている。
前記運転設計工程では、前記複数の短期間それぞれについて前記複数台の地中熱ヒートポンプの運転を設計することで、前記長期間での前記複数台の地中熱ヒートポンプの運転を設計する請求項1から4のいずれか1項に記載の運転設計方法。
前記各熱源系統の暖房運転総負荷および冷房運転総負荷と地中熱ヒートポンプ暖房合計定格能力および地中熱ヒートポンプ冷房合計定格能力を各々比較し、その小さい方から地中熱ヒートポンプ合計採熱量Q’g1eおよび地中熱ヒートポンプ合計放熱量Q’g1iを求め、その大きい方の運転状態を地中熱熱回収ヒートポンプシステムの運転状態と判断し、前記運転状態の判断に基づいて、前記地中熱ヒートポンプの冷房および暖房出力のどちらを抑制するか促進するかを判断し制御を行う請求項13または14に記載の制御システム。
制御時点における実測の地中熱ヒートポンプ採熱量および地中熱ヒートポンプ放熱量から地中熱交換器採熱量および地中熱交換器放熱量を算出し、前記地中熱交換器採熱量および前記地中熱交換器放熱量と前記第1制限値を比較することで地中熱ヒートポンプ出力を抑制するか促進するかを判断し制御を行う請求項13または14に記載の制御システム。
前記地中熱交換器が前記地盤に採放熱を行うときに、前記第1期間での前記地盤の温度変化が一定に抑えられるような前記第1制限値を設定する請求項7から13のいずれか1項に記載の制御システム。
前記地中熱ヒートポンプが安定的、かつ連続的に運転可能な熱媒温度を前記採熱許容温度、および前記放熱許容温度とし、前記採熱許容温度に任意の温度余裕を加えた温度を前記採熱準許容温度、および前記放熱許容温度に任意の温度余裕を減じた温度を前記放熱準許容温度とする請求項19に記載の制御システム。
前記運転出力抑制優先順位は暖房採熱運転地中熱ヒートポンプにおいてはCOPが高い順に、冷房放熱運転地中熱ヒートポンプにおいてはCOPが低い順に、加熱運転系統と冷却運転系統で別々に設定する請求項19に記載の制御システム。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、
図1から
図37を参照し、本発明の一実施形態に係る地中熱利用熱回収ヒートポンプシステム10を説明する。なお本実施形態では、「地中熱利用熱回収ヒートポンプ」を「HR-GSHP」ということがある。「地中熱ヒートポンプ」を「GSHP」や「ヒートポンプ」ということがある。「地中熱交換器」を「GHEX」ということがある。
【0030】
[HR-GSHPシステム10の構成]
図1に制御対象となるHR-GSHPシステム10の構成図を示す。制御対象となるHR-GSHPシステム10は、複数種類のGSHP11と、補助熱源機12(例えば、空冷ヒートポンプ(ASHP)・電気ボイラ等)と、各測定点の計測と構成機器の運転制御を行うプログラマブルコントローラー13(以下、「PLC」という。)と、制御パラメータを決定する制御システムソフトウェア14(以下、「ソフトウェア」という。)と、GHEX15と、を備えている。PLC13およびソフトウェア14は、HR-GSHPシステム10を制御する制御システム16を形成する。ソフトウェア14は、コンピュータに実装されている。
【0031】
次に制御システムのフローを
図2に示す。PLC13から計測データを、例えば5日間程度の短期間ごとにソフトウェア14に送信し、ソフトウェア14において制御パラメータを決定し、シミュレーションを実行する。決定した制御パラメータはPLC13に、例えば5日間程度の短期間ごとに送信され、PLC13が各構成機器の運転制御を実施する。制御パラメータは、例えば、HR-GSHPシステム10を構成するGSHP11の出力の上限値や、補助熱源機12の起動開始設定温度などとなっている。
【0032】
[HR-GSHPシステム10の設計方法、制御方法]
以下では、このHR-GSHPシステム10の設計方法、およびこのHR-GSHPシステム10の制御方法について説明する。
これらの説明に先立ち、まず、HR-GSHPシステム10のモデリングについて説明する。なお、以下のモデリングにおいて、各種記号および添え字は下記の各事項を示す。
【0033】
[記号]
d:地中熱交換器口径 [m]
Q:出力負荷 [kW]
t:時間 [h]
t
c:繰り返し(サイクル)時間 [h]
T:温度 [℃]
q’:単位採放熱係数 [W/(m・K)]
L:長さ [m]
λ
e:地盤の有効熱伝導率 [W/(m・K)]
【0034】
[添え字]
c:冷房
e:採熱側
end:最後の時刻
g:GSHP
h:暖房
i:放熱側
j:時間単位 [月]
l:採熱と放熱で時間が長い方
min:最小
max:最大
p:GHEX
pm:GHEX出入口の平均
s:採熱と放熱で時間が短い方
s0:地中の初期条件
1:GSHPシステムの一次側
2:GSHPシステムの二次側
【0035】
[HR-GSHPシステム10のモデリング]
図3にHR-GSHPシステム10の概念図を示す。まず、前提条件として、GSHP11−GHEX15間で発生したり、冷排熱と温排熱が混合することによって発生したりする熱取得・熱損失は考慮しないものとする。また、HR-GSHPシステム10に接続されているGSHP11には補助熱源機12があり、負荷対象20の全負荷はGSHP11と補助熱源機12によって賄われるものとする(詳細な例は実施例に示す)。
【0036】
<i.温度変化予測のモデリング>
後述する設計方法におけるGSHP11負荷の最適化の手順などを示す前段階として、以下にGSHPシステム10の温度変化予測(熱媒の温度変化予測)のモデリングの手順について示す。モデリングでは、(1)負荷対象20の負荷から決定されるGSHP11の負荷の合計値を算出し、(2)(1)で使用したGSHP11の負荷からGSHP11に求められる採放熱量を算出し、(3)その採放熱量からGHEX15に求められる採放熱量を算出し、(4)その採放熱量からGHEX15における熱媒の温度変化を算出する。これらの各種算出結果に基づいて、後述するようにGSHP11負荷を最適化することができる。モデリングにおける各種演算は、コンピュータにより実施される。
【0037】
(1)GSHP合計熱負荷の算出
まず、ある時刻の全てのGSHP11の合計温熱負荷、冷熱負荷を以下の(1)式、(2)式によって求める。
【0040】
ここで、(1)式は合計温熱負荷、(2)式は合計冷熱負荷である。例えば
図3の1番目(i=1)のGSHP11が温熱供給を行っているのであれば、1番目のGSHP11の熱負荷が温熱側に加算され((1)式)、GSHP11が冷熱供給を行っているのであれば、熱負荷が冷熱側に加算される((2)式)。
図4に時刻別のQ
g2h、Q
g2cの例を示す。全てのGSHP11の熱負荷が温熱側、もしくは冷熱側に加算されて
図4のようになる。
なお例えば、これらのQ
g2h、Q
g2cの最大化を図ることで、GHEX15使用の最適化(地中熱利用の最適化)を図ることができる。
【0041】
(2)GSHP合計採放熱量の算出
次に、各GSHP11のCOP(成績係数:Coefficient of. Performance)を仮定して、各時刻における複数台のGSHP11全体での採熱量、放熱量(各GSHP11の採熱量、放熱量)を求める。これらの採熱量、放熱量は、上記(1)でGSHP合計熱負荷を算出した際に用いた各GSHP11の負荷に基づいて求められる。なお、COPはヒートポンプの運転効率を示す指標であり、冷却または加熱出力(処理能力)を電力消費量で除して求めるものである。
【0042】
図3のi番目のGSHP11(以下、「ヒートポンプi」という場合がある。)が温熱供給運転の場合、ヒートポンプiは採熱を行うこととなる。採熱量は以下(3)式となる。
【0044】
図3のi番目のヒートポンプiが冷熱供給運転の場合、ヒートポンプiは放熱を行うこととなる。放熱量は以下(4)式となる。
【0046】
さらには、各時刻における複数台のGSHP11全体の合計採熱量、合計放熱量を以下の(5)式、(6)式により求める。
【0049】
図5に時刻別のQ
g1e、Q
g1iの例を示す。
【0050】
(3)GHEX採放熱量の算出
上記(2)で算出した合計採放熱量Q
g1eとQ
g1iより、GHEX採放熱量Q
pを求める。GHEX採放熱量の計算例を
図6に示す。
図6の例では、(a)に示すように同時刻に発生するQ
g1eとQ
g1iを打ち消し合い、(b)に示すように残るQ
g1がGHEX採放熱量Q
pとなる。すなわち、GSHP11の採放熱量という観点では、あくまで個々のGSHP11が採熱または放熱をどの程度必要としているかを認識する必要があるものの、GHEX15の採放熱量という観点では、複数のGSHP11全体の採放熱量の各時点での合計値を認識すれば足りる。
【0051】
(4)GHEX内熱媒温度変化、ヒートポンプ入口温度の計算
上記(3)で算出したGHEX15の時刻別採放熱量Q
pをもとにGHEX内熱媒温度変化(すなわち、
図3に示す熱媒のGHEX15における入口温度T
pinと出口温度T
poutとの間での変化)、更にはヒートポンプ一次側入口温度T
1inの計算を行う。GHEX内熱媒温度変化については、計算時間の観点より、熱媒の最大温度変化のみを簡易的に以下の(7)式、(8)式により求める。(7)式は、採熱時の熱媒の最大温度変化である。(8)式は、放熱時の熱媒の最大温度変化である。
【0054】
ここで、Q
pemaxは最大採熱量[kW]、Q
pimaxは最大放熱量[kW]、q’
pe、q’
piは採熱時、放熱時それぞれの単位採放熱係数[W/(m・K)](詳細は後述の<ii.熱回収周期に基づく単位採放熱係数q'推定手法の確立>を参照)、L
pは地中熱交換器総長[m]である。なお、最大採放熱量Q
pemax、Q
pimaxは、GHEX15が地中に対して採放熱することができる採放熱量の最大値である。また、単位採放熱係数q’
pe、q’
pi(以降、q’
pe、q’
piをまとめてq’と表すことがある)は、地中熱交換器単位長さあたり、熱媒の温度を単位温度だけ変化させるために必要な採放熱量を表している。単位採放熱係数q’が大きいほど、短い長さや少ない温度変化で多くの採放熱をすることが可能になり、高効率なGHEX15であると言える。
【0055】
上記(7)式、(8)式における最大温度変化ΔT
pmmin、ΔT
pmmaxをもとに、ヒートポンプ一次側入口温度の最低値T
1inmin、最高値T
1inmaxを以下の(9)式、(10)式により求める。
【0058】
なお、T
s0は初期地中温度、ΔT
1はヒートポンプ出入口温度差(一般的には5℃)である。
【0059】
以上により、HR-GSHPシステム10の温度変化予測(GHSP11の負荷から熱媒のGHEX15における温度変化の予測をすること)が可能となる。
【0060】
<ii.熱回収周期に基づく単位採放熱係数q'推定手法の確立>《設計・制御の共通事項》
上記の方法によってHR-GSHPシステム10の温度変化予測を行うためには、GHEX15の採熱時、放熱時それぞれの単位採放熱係数q'を求める必要がある。
【0061】
(単位採放熱係数の着想)
発明者は、HR-GSHPシステム10においては、数時間〜数日の短時間でGHEX15の採放熱が繰り返し行われるため、短時間での採放熱の繰り返しがもたらす短期蓄熱の効果(例えば、後述の「補足:単位採放熱係数q'に関する考察」の欄参照)による採放熱量の増大を加味する必要があることを見出した。そこで、熱回収周期に基づく単位採放熱係数q'という概念について検討した。単位採放熱係数q’は、周期(例えば、採熱する期間、放熱する期間、採熱および放熱の1サイクルの期間)や有効熱伝導率がパラメータとなる。
【0062】
(単位採放熱係数の計算)
本実施形態では、GSHPシステム性能予測ツール(例えば、上記非特許文献1から3参照)を用いてシミュレーションにより、単位採放熱係数を求めた。シミュレーションについては、採放熱の繰り返し運転の計算精度向上のためにボアホール内部熱容量を加味した(例えば、上記非特許文献4参照)。
【0063】
単位採放熱係数の計算は以下の手順ステップ1〜3で実施した。
【0064】
ステップ1:GHEX15の合計の採放熱量が同等であり、一定の周期で繰り返し運転を行う条件を複数設定する。繰り返しの間隔は各条件で変更する。
【0065】
ステップ2:上記ステップ1.の条件でシミュレーションを行う。
【0066】
ステップ3:初期地中温度T
s0 [℃]からシミュレーションによって得られる、地中熱交換器内部熱媒温度T
pm [℃]の最小値(最大値)と、地中熱交換器単位長さあたりの採熱量q [W/m]から、以下の(11)式により単位採放熱係数q' [W/(m・K)]を計算する。
【0068】
すなわち、単位採放熱係数q'は、地中熱交換器(GHEX15)の単位長さあたりの採放熱量と、地中熱交換器(GHEX15)を流れる熱媒の温度変化と、の関係を表す。単位採放熱係数q'が大きいほど、熱媒の小さい温度変化で大きな採放熱をすることが可能になり、地中熱交換器(GHEX15)の効率が高いと言える。
【0069】
(シミュレーションの実施)
間接熱回収効果定量化のためのシミュレーション(すなわち、上記ステップ2のシミュレーション)の条件(すなわち、上記ステップ1の条件)を表1及び表2に示す。
【0072】
図7に一例としてCASE1-2における熱負荷の変化を示す。
図7に示すように、t
ceは1サイクルの採熱(暖房)時間、t
ciは1サイクルの放熱(冷房)時間、t
cは1サイクルの採熱時間及び放熱時間の合計時間、Q
hは1サイクルの採熱量、Q
cは1サイクルの放熱量、
図4に示すように、Q
g2hは暖房出力(上記(1)式)、Q
g2cは冷房出力(上記(2)式)、
図5に示すように、Q
g1eは採熱量(上記(5)式)、Q
g1iは放熱量(上記(6)式)を表す。周期(1サイクル)の採放熱量の合計値が等しくなるように熱負荷(熱出力Q
g2h、Q
g2c)を設定した。
【0073】
表1に示すように、CASE1は採放熱のうち長時間側の運転時間t
lを短時間側の運転時間t
sの1倍に設定し、また、採放熱(採熱量Q
h、放熱量Q
c)のうち長時間側の採熱量(放熱量)Q
lを短時間側の放熱量(採熱量)Q
sの1倍に設定し、t
l / t
s=1、| Q
l| / | Q
s |=1とした。CASE2はt
l / t
s=3、| Q
l| / | Q
s |=1/3となるように設定し、CASE3はt
l / t
s=5、| Q
l| / | Q
s |=1/5となるように設定した。
【0074】
表1に示す各条件において、表2のように地盤の有効熱伝導率(土壌有効熱伝導率)を一般的な値の範囲である1.0、1.5、2.0 W/(m・K)に変更した。また、ボアホールシングルUチューブを1本使用し長さは80 m、T
s0 =11.2 ℃とした。シミュレーションはt
cを1サイクルとし3サイクル行った。各CASEの3サイクルの内、最後のサイクルの単位採熱量の平均値をqとし、T
s0 -T
pmについては各CASEの3サイクルの内、最後のサイクルの最大値とした。それらと上記(11)式により、q’を計算した。
【0075】
(シミュレーションの再現性の検証)
上記シミュレーションにより得られた計算値を、
図8に示される北海道大学構内で行われたHR-GSHPシステムのフィールド試験によって得られた暖冷房出力・採放熱量・地中熱交換器出入口温度の変化の実測値と比較し、シミュレーションの再現性の検証を行った。
【0076】
フィールド試験については、
図8に示される通り、HR-GSHPシステム10Aは、複数本数のボアホール型地中熱交換器15Aと、複数台のGSHP11Aと、模擬負荷装置20A(タンク+ASHP)と、などにより構成されている。模擬負荷装置20Aは、冷房負荷、暖房負荷双方を0〜30 kWの範囲内で模擬することが可能であり、GSHP11Aの暖冷房の繰り返し運転にも対応可能である。
【0077】
フィールド試験ではCASE1-2を想定し、地中熱交換器15A1本とGSHP11A2台を用いて暖冷房運転を繰り返し行った。GSHP二次側、GSHP一次側、地中熱交換器の出入口温度変化や採放熱量を把握するため、GSHP二次側、GSHP一次側、地中熱交換器の出入口に温度センサーを各系統に電磁流量計を設置して計測を行った。
【0078】
図9にCASE1-2における暖冷房出力・採放熱量・地中熱交換器出入口平均温度T
pmの変化の実測値と計算値の比較を示す。暖房出力Q
g2h(
図9(a)における”Heat load”が0以上の範囲)・採熱量Q
g1e(
図9(b)における”Heat extraction or injection”が0以上の範囲)では、実測値と計算値とがほぼ一致しており、冷房負荷Q
g2c(
図9(a)における”Heat load”が0以下の範囲)・放熱量Q
g1i(
図9(b)における”Heat extraction or injection”が0以下の範囲)では若干実測値が大きいものの、実測値と計算値とが概ね一致している。また、T
pm(
図9(c))については、計算値の変化量が実測値の変化量よりも大きい。その原因としては、冷房時においては放熱量が若干大きくなっていること、暖房・冷房双方において実測は地中熱交換器とヒートポンプの間に設置されている横引き管(10 m程度)があることなどが挙げられる。これらの要因を除いた場合、概ね再現性が得られているものと考えられる。
以上より、実測によらずとも、シミュレーションに基づいて単位採放熱係数q'を算出するために必要なパラメータが演算できることが確認された。
【0079】
(単位採放熱係数q'の近似式)
単位採放熱係数q’
pe(採熱側)、q’
pi(放熱側)はt
c、λ
e、t
s、t
lの以下の関数近似式(12)式、(13)式で表される。(12)式、(13)式は、上記シミュレーションを経て具体的に求めることができる。なお、近似式による計算の際には、t
ce、t
ciのうち大きい方をt
l、小さい方をt
sとして評価を行う。
【0082】
(補足:単位採放熱係数q'に関する考察)
次に、
図10〜
図12にCASE1〜CASE3暖冷房交互運転のシミュレーションの単位採放熱係数の計算結果を示す。
【0083】
図10〜
図12の各グラフの読み方について補足する。各図における(a)のグラフはいずれも長時間側(本実施形態では暖房側、採熱側)の運転時間t
lにおけるt
cとq’(すなわちq’
pe)との関係を表し、各図における(b)のグラフはいずれも短時間側(本実施形態では冷房側、放熱側)の運転時間t
sにおけるt
cとq’(すなわち、q’
pi)との関係を表す。
【0084】
各グラフ中、上側に位置する3つのグラフ線は、横軸t
cに対応する縦軸q’の各値を表している。これらの3つのグラフ線では、前提とするλ(地盤有効熱伝導率λ
e)がそれぞれ異なっていて、3つのグラフ線は、上側から下側に向けて順に、λ=2.0、1.5、1.0の場合を表している。
【0085】
各グラフ中、下側に位置する3つのグラフ線は、上側に位置する3つのグラフ線と比較するための値を表示している。下側の3つのグラフ線は、いずれもt
cの値によらずq’が一定であるかのように見えるが、これらの3つのグラフ線は、単にt
c=8760(1年)の場合におけるq’を指しているに過ぎない。すなわち、これらの3つのグラフ線は、横軸t
cの位置によらず、t
c=8760の場合におけるq’を表している。これらの3つのグラフ線では、前提とするλ(地盤有効熱伝導率λ
e)がそれぞれ異なっていて、3つのグラフ線は、上側から下側に向けて順に、λ=2.0、1.5、1.0の場合を表している。
【0086】
図10に示すCASE1では、上側の3つのグラフ線における紙面左側の端、すなわちサイクル(t
c)の時間が最も短いt
c=6と、下側の3つのグラフ線が示す最も長いt
c=8760(1年)のq’を比較すると、採熱側(
図10(a))で2.6〜4.3倍、放熱側(
図10(b))で2.5〜4.4倍になっていることがわかる。
同様に、
図11に示すCASE2ではサイクルの時間が最も短いt
c=12と最も長いt
c=8760のq’を比較すると、採熱側(
図11(a))で2.2〜3.5倍、放熱側(
図11(b))で2.5〜4.4倍になっていることがわかる。
また、
図12に示すCASE3ではサイクルの時間が最も短いt
c=18と最も長いt
c=8760のq’を比較すると、採熱側(
図12(a))で1.8〜3.1倍、放熱側(
図12(b))で2.5〜4.4倍になっていることがわかる。
この結果より、サイクルt
cが短いほうが単位採放熱係数q’の値が大きく、短期の蓄熱効果が定量的に示されたことが確認できた。
【0087】
短期の蓄熱効果について、
図49に示す他の例に基づいて補足する。
図49(a)は、GHEXにおける短期的な採熱・放熱の繰返しを示す。
図49(b)は、ヒートポンプ一次側入口温度の採放熱に対する短期間の温度変化を示す。
図49(c)は、短期的な地中熱熱回収を前提とした場合における、ヒートポンプ一次側入口温度の年間の温度変化を示す。
図49(d)は、GHEXにおける長期的な採熱・放熱の繰返しを示す。
図49(e)は、長期的な地中熱熱回収を前提とした場合における、ヒートポンプ一次側入口温度の年間の温度変化を示す。
【0088】
図49(c)に示すように、短期的(例えば、1サイクル=1日〜3日)な地中熱熱回収を前提とした場合における、ヒートポンプ一次側入口温度の年間の温度変化は、12℃〜22℃である。その温度変化幅は10℃である。
図49(e)に示すように、長期的(例えば、1サイクル=1年)な地中熱熱回収を前提とした場合における、ヒートポンプ一次側入口温度の年間の温度変化は、7℃〜26℃である。その温度変化幅は19℃である。
すなわち、地中熱熱回収を短期的にした場合におけるヒートポンプ一次側入口温度の温度変化幅は、地中熱熱回収を長期的にした場合におけるヒートポンプ一次側入口温度の温度変化幅よりも小さい。
【0089】
ここで、地中熱熱回収が長期間でも短期間でも、同じHR-GSHPシステム10であれば、ヒートポンプ一次側入口温度の上下限値は同一であり、その上下限値まで熱媒の温度変化を許容することができる。地中熱熱回収が短期間の場合、すなわちヒートポンプ一次側入口温度の温度変化幅が小さい場合には、ヒートポンプ一次側入口温度の上下限値までまだ余裕がある。したがって、短期間では長期間よりも採放熱量を大きくすることができる。このため採放熱効率が高くなる。
【0090】
<iii.地中熱採放熱量履歴を考慮した平均温度変化に基づく単位採放熱係数q'推定手法の確立>《設計・制御の共通事項》
(採放熱履歴考慮単位採放熱係数の着想)
iiに記されているようにHR-GSHPシステムにおいては、数時間〜数日の短時間で採放熱が繰り返し行われるが、その採熱量と放熱量が
図13のように片方が少ない場合、短期蓄熱の効果が少なくなるため、iiで確立した単位採放熱係数の推定手法を用いて温度変化予測を行うと単位採放熱係数が過小評価され、温度変化予測が過剰に評価される可能性がある。
【0091】
また、iiの手法ではコミッショニング期間内の採放熱量を元に推定を行っており、それ以前の地中熱利用状況を考慮していないため、採熱に偏った運転を行った後の期間で温度変化予測を行うと単位採放熱係数が採熱側では過剰、放熱側では過小評価される可能性がある。そこで、地中熱採放熱履歴を考慮した温度変化予測を行い、その予測結果から単位採放熱係数を推定する手法を考案した。
【0092】
(採放熱履歴考慮単位採放熱係数の計算)
地中熱採放熱履歴を考慮した平均温度変化に基づく単位採放熱係数の推定手法を以下に記載する。また、地中温度変化量の算出に関しては、GSHPシステム性能予測ツール(例えば、上記非特許文献1〜3)でも使用している円筒表面熱流境界の温度応答理論解の重ね合わせを使用する。単位採放熱係数の計算は以下の手順ステップ1〜5で実施した。
【0093】
ステップ1:
図14に示すようにHR-GSHPシステム稼働日〜単位採放熱係数を求めるコミッショニング期間までの平均地中熱採放熱量を求め、
図15に示すようにその平均地中熱採放熱量による地中温度の平均温度変化を算出する。
【0094】
ステップ2:
図14に示すように単位採放熱係数を求めるコミッショニング期間内での平均地中熱採放熱量を求め、
図15に示すようにその平均地中熱採放熱量による地中温度の平均温度変化を算出する。
【0095】
ステップ3:
図14に示すように単位採放熱係数を求める期間中最も採放熱が連続する期間での地中熱採放熱量ΣQ
pec、ΣQ
picを求め、
図15に示すようにその地中熱採放熱量による地中温度変化を算出する。
【0096】
ステップ4:ステップ1、ステップ2、ステップ3では地中熱交換器の表面温度変化となっており、単位採放熱係数を求めるためには地中熱交換器内部熱媒温度T
pmが必要となるため、ボアホールの熱抵抗、及び最大採放熱量から期間内の地中熱交換器表面から内部熱媒への最大温度変化を算出する。
【0097】
ステップ5:
図15に示すようにステップ1、ステップ2、ステップ3、ステップ4で求めた温度変化を足した値を期間内の最大熱媒体温度変化ΔT
pmmin、ΔT
pmmaxとし、
図14に示す期間内最大採放熱量Q
pemax、Q
pimaxによりその変化量に相当する単位採放熱係数を式(14)(15)から求める。なお(14)式が採熱時の単位採放熱係数であり、(15)式が放熱時の単位採放熱係数である。
【0100】
<iv.期間内GHEX合計採放熱量の算出>《設計・制御の共通事項》
上記で示したモデル化を行ったHR-GSHPシステム10について、期間内(今回は月単位とする)のGHEX15の合計採放熱量を調整した上で、最適化手法を用いて、任意に設定した地中熱交換器総長L
pに対して、HR-GSHPシステム10のGSHP処理熱量(期間内における全てのGSHPの負荷を合計した値)を最大化とする。言い換えると、上記<i.温度変化予測のモデリング>の「(1)GSHP合計熱負荷の算出」において算出される(1)式、(2)式の値を、「(2)GSHP合計採放熱量の算出」〜「(4)GHEX内熱媒温度変化、ヒートポンプ入口温度の計算」において算出される各種の値などを用いて最大化する。これにより、例えば、総長L
pのGHEX15に対して、補助熱源機12の使用負荷を最小化したHR-GSHPシステム10の最適な運転条件を設定することができる。以下に示す各演算は、コンピュータにより実施される。
【0101】
図16にHR-GSHPシステム10の設計フローを示す。ここで、計算条件(入力条件)は地中熱交換器総長L
p、初期地中温度T
s0、地盤有効熱伝導率λ
e、ヒートポンプ入口温度許容値T
1inmax、T
1inminとする。
以下では、
図17〜
図21を用い、
図16の中に記載されている、期間内GHEX合計採放熱量の調整とGHEX長さ、GSHP負荷の最適化について詳細に説明する。
【0102】
図17に設計フローの期間内GHEX合計採放熱量の調整フローを示す。
図18に某複合施設(負荷対象20)の年間の熱負荷を示す。
図19に某複合施設の1月における熱負荷を示す。
【0103】
ステップ1:GSHP11の最大出力Q
g2cmax、Q
g2hmaxを仮定する。(
図19参照)なお、GSHP11の出力の不足分は、補助熱源機12によって補うことができる。GSHP11の出力の不足分は、
図19に示す例では採熱量の不足分であり、言い換えると、熱負荷の正の範囲であってQ
g2hmaxよりも値が大きい部分である。
【0104】
ステップ2:上記ステップ1の仮定とは別に、各GSHP11の冷房運転COP(COP
c,i)と暖房運転COP(COP
h,i)を仮定する。以下の(16)式、(17)式を用い、各GSHP11の採放熱量を計算する(
図19、
図20参照)。なお
図19は、某複合施設の1月の一週間におけるGSHP熱負荷であり、上記モデリングの説明における
図4((1)GSHP合計熱負荷の算出)に相当する。
図20は、某複合施設の1月の一週間におけるGSHP採放熱量であり、上記モデリングの説明における
図5((2)GSHP合計採放熱量の算出)に相当する。
【0107】
ステップ3:ステップ1、2における仮定に基づいてGHEX15の合計採放熱量を調整するため、期間内における各GSHP11の合計採放熱量を計算する(
図20参照)。合計採放熱量Q
g1eとQ
g1iより、GHEX採放熱量Q
pを求める。GHEX採放熱量の計算例を
図20および
図21に示す。同時刻に発生するQ
g1eとQ
g1iを打ち消し合い、残るQ
g1がGHEX採放熱量Q
pとなる。
【0108】
また、Qpに対して各GSHPの循環ポンプ発熱量が無視できないほど大きい場合、Qg1e、Qg1iをポンプ発熱量を算入した採放熱量に調整する必要がある。
【0109】
上記<iv.期間内GHEX合計採放熱量の算出>で得られたGSHP11の負荷は、負荷対象20が必要とする熱負荷の観点からは最適化されていると言えるが、GHEX15の採放熱に関する能力の観点や、土中への採放熱の影響の観点が考慮されていない。以下では、これらの観点についても考慮して、GSHP処理負荷の最適化設計を実施する。このとき、上記モデリングの説明における「(4)GHEX内熱媒温度変化、ヒートポンプ入口温度の計算」以下に記載した考え方を利用する。
【0110】
<v.期間内GHEX採放熱量上限値(Qpemaxset、Qpimaxset)の決定>《設計・制御の共通事項》
ここでは、ivで算出したGHEX採放熱量Q_pを元に、ヒートポンプ一次側入口温度が上下限値を超えないGHEX採放熱量上限値Q_pemaxset、Q_pimaxsetを決定する。
図22に期間内GHEX上限採放熱量の決定フローを示す。
各処理の詳細な内容を以下に記載する。
【0111】
(1)採放熱サイクルの推定
図23に採放熱サイクルの推定フローを示す。ここでは GHEX15の採放熱性能(単位採放熱係数)を計算する(上記<ii.熱回収周期に基づく単位採放熱係数q'推定手法の確立>、<iii.地中熱採放熱量履歴を考慮した平均温度変化に基づく単位採放熱係数q'推定手法の確立>参照)ために必要となるGHEX15の採放熱の繰り返しのサイクルの時間を推定する。本実施形態では、1年間の採放熱パターン(熱負荷の変遷、熱負荷の長期的な周期)を、負荷性状により7日〜4週間程度の短期周期に分解して採放熱サイクルのモデル化を行い、この短期周期の期間の採放熱サイクルを推定する。なお、採放熱サイクルを推定する「期間」と採放熱パターンの「採放熱サイクル」(サイクルt
c)とは別の概念であり、前者の「期間」は負荷性状によらず任意に設定できるのに対して、後者の「採放熱サイクル」は、負荷性状により決定される。
【0112】
詳細の手順ステップ1〜2を以下に説明する。
【0113】
ステップ1:単位採放熱係数を定量化するために期間内(ここでは前述したように月単位)におけるGHEX15の採熱、放熱の発生時間サイクルt
cの推定を行う。さらには、単位採放熱係数を定量化するため、
図24および
図25のように採放熱量の形状を簡略化する。推定方法はここでは、期間内の最大時間サイクル、すなわち単位採放熱係数が最小で最も安全側となる値をt
cとするが、期間内の各発生時間サイクルの平均値をt
cとしても良い。
【0114】
ステップ2:
図25に示すように上記ステップ1の簡略化を行い、1サイクルあたりの採放熱量積算値ΣQ
gec、ΣQ
gicを採放熱量最大値Q
g1emax、Q
g1imaxで除すことによって、1サイクルあたりの採熱の時間t
ce、放熱の時間t
ciを以下の(18)式、(19)式によって推定する。なお、t
ce、t
ciの短い方をt
s、長い方をt
lとする。
【0117】
なお、上記ステップ1.における簡略化は必須ではない。例えば、ステップ1.における簡略化に代えて、当該期間中において一番長い周期における単位放熱係数q’を採用することも可能である。また、各周期についてのq’を算出して平均を算出してもよい。
【0118】
(2)採放熱量の打ち消し判定によるq'算出方法の決定
単位採放熱係数q'の算出方法に関しては、後述(5)単位採放熱係数q’
pe、q’piの決定に示すように(3)熱回収周期に基づく単位採放熱係数q’
cycleの算出で求めるq’
cycleと(4)地中熱採放熱量履歴を考慮した平均温度変化に基づく単位採放熱係数q’
historyで求めるq’
historyからq'を算出するが、iiの手法で求めるq’
cycleはGHEX採放熱量Q
pe、Q
piのうち片方が極端に小さい場合過小評価される可能性がある。そのため、GSHP合計採放熱量積算値とGHEX採放熱量積算値を比較し、式(20)(21)の条件のどちらかを満たした場合、q’
cycleの算出は行わずq’
historyを単位採放熱係数q'として使用する。
【0121】
また、式(20)(21)では打ち消し後、残った採放熱量が1割以下の場合(式(20)は残った採熱量が1割以下の場合、式(21)は残った放熱量が1割以下の場合)を条件としているが、より上限値を超えないよう安全側の判定を行う場合は、式(20)(21)の右項の値を0.1〜1.0に変更し調整を行う。
【0122】
(3)熱回収周期に基づく単位採放熱係数q’
cycleの算出
(1)で求めたt
ce、t
ciのうち大きい方をt
l、小さい方をt
sとする。単位採放熱係数q’
pecycle、q’
picycleを、t
c、λ
e、t
s、t
lの関数近似式(22)式(採熱側)、(23)式(放熱側)より求める。
【0125】
なお、単位採放熱経緯数を求める関数近似式はシミュレーションにより得られた結果から予め計算しておく。
【0126】
(4)地中熱採放熱量履歴を考慮した平均温度変化に基づく単位採放熱係数q’
historyの算出
HR-GSHPシステム稼働開始日から次の運転期間中までの採放熱量から地中温度変化量を算出し、単位採放熱係数q’
pehistory、q’
pihistoryを計算する。
詳細の手順を以下に説明する。
【0127】
ステップ1:
図14に示すようにHR-GSHPシステム稼働開始日からコミッショニング開始までの採放熱量の平均値Q
pbeforeave、及びコミッショニング期間中の採放熱量の平均値Q
paveを算出する。(HR-GSHPシステム稼働日に行う初回コミッショニング時は、Q_
pbeforeave=0となる。)
【0128】
ステップ2:
図15に示すようにQ
pbeforeave、及びQ
paveによる地中温度変化量を円筒表面熱流境界の温度応答理論解の重ね合わせにより算出し、算出した温度をHR-GSHPシステム稼働開始日からコミッショニング開始までの平均地中温度変化△T
sbeforeave、及びコミッショニング期間中平均地中温度変化△T
saveとする。
【0131】
ステップ3:(1) 採放熱サイクルの推定で求めたt
ce、t
ciの時間中Q
pemax、Q
pimaxで採放熱が行われたときの地中温度変化量が地中温度が最も変化するものする。すなわち
図14に示すように単位採放熱係数を求める期間中最も採放熱が連続する期間での地中熱採放熱量は
図25のΣQ
pec 、ΣQ
pic となり、その採放熱量による変化量を期間中最大地中温度変化△T
smax、△T
sminとする。
【0134】
ステップ4:△T
sbeforeaveと△T
saveと△T
smax、△T
sbeforeaveと△T
saveと△T
sminを合計した値に、ボアホール熱抵抗R
pと最大採放熱量Q
pemax、Q
pimaxによる地中熱交換器の熱媒体温度変化を加え、熱媒体最大温度変化量△T
pmmax、△T
pmminを算出する。
【0137】
ステップ5:式(30)(31)から、地中採放熱履歴を考慮した平均温度変化に基づく単位採放熱係数q’
pehistory、q’
pihistoryを算出する。
【0140】
(5)単位採放熱係数q'
pe、q'
piの決定
(3)、(4)でもとめた各単位採放熱係数から、本設計および制御に使用するq'
pe、q'
piを求める。ここでは、q'
pecycleとq’
pehistory、q'
picycleとq’
pihistoryのうち、式(32)(33)に示すように大きい値を単位採放熱係数q’
pe、q’
piとして決定する。
【0143】
ただし、(2)に示した条件のどちらかを満たす場合は式(34)(35)に示すようにq’
pehistory、q’
pihistoryを単位採放熱係数q’
pe、q’
piとして決定する。
【0146】
(6)GHEX内部熱媒温度変化の算出によるヒートポンプ一次側入口温度の算出
GHEX内部熱媒温度変化T
pmmin、T
pmmaxを計算し、これらよりT
1inmin、T
1inmaxを計算し、許容範囲であるか判定する。許容範囲外となる場合には、
図26に示すように採放熱量(ヒートポンプの負荷)を調整する。例えば、採熱側をt
l、放熱側をt
sとすると、T
pmmin、T
pmmaxは以下の式によって計算できる。
【0149】
ΔT
1をGSHP一次側出入口温度差(一般的には5℃)、T
pmを出入口平均温度とすれば、T
1inmin、T
1inmaxは以下の式で計算できる。
【0152】
以上により、ヒートポンプ一次側入口温度T
1inmin、T
1inmaxが上下限条件に納まるGHEX採放熱量Q_
pemax、Q
_pimax を求めることにより、GHEX採放熱量上限値Q_
pemaxset、Q_
pimaxsetを決定することができる。
【0153】
GHEX採放熱量上限値は、以降の設計手法におけるGSHP処理能力の設定、制御システムにおけるGSHP出力制御値の基となる値であり、GHEX採放熱量を、GHEX15の採熱量最大値・放熱量最大値以下に調整することは、ヒートポンプ運転許容範囲による制約ということとなる。すなわち、上記<iv.期間内GHEX合計採放熱量の算出>において算出した
図21のGHEX採放熱量は、GSHP11の負荷の最適化の観点からGHEX15の採放熱量を算出しただけであり、実際のGHEX15の能力は考慮されていない。言い換えると、上記<iv.期間内GHEX合計採放熱量の算出>において算出したGHEX採放熱量が、GHEX15の採熱量最大値・放熱量最大値よりも大きい場合、GHEX15の能力の観点から、GHEX採放熱量を実現することができない。
【0154】
<vi.GSHP処理負荷の設計>《設計手法の単独事項》
図27にGHSP処理負荷の設計フローを示す。GSHP処理負荷設計ブロックにおいては、各GSHPの合計採放熱量がvで決定したGHEX採放熱量上限値以下となるようQ
pe,i、Q
pi,iを調整して各GSHP毎の処理負荷を算出する。
設計時は、ここで算出した各GSHP毎の処理負荷がHR-GSHPシステム導入時に必要なGSHPの能力を設定する際の基準となる。また、補助熱源機の能力に関しては全負荷からGSHP処理負荷を引いた値を基準として能力を設定する。
【0155】
詳細な手順を以下に説明する。
ステップ1:Q
pとQ
pemaxset、Q
pimaxsetから採放熱抑制量Q
pegap、Q
pigapを算出する。
【0158】
ステップ2:Q
pegap、Q
pigapが採熱、放熱両方とも0以下の場合はQ
g2h,i、Q
g2c,iをGSHP処理負荷として終了する。
【0159】
ステップ3:Q
pegap、Q
pigapのどちらかが0より大きい場合は、0より大きい方の採放熱量を抑制する。
【0160】
ステップ4:冷却塔等の補助熱源が運転している場合は、Q
pegap、Q
pigapから補助熱源の採放熱量Q
ahse、Q
ahsiを引く。
【0163】
ステップ5:全GSHPの中でCOPが最も低いGSHPの採放熱量から採放熱抑制量を引き調整を行う。
【0166】
ステップ6:ステップ5で調整を行ったGSHPlの放熱量に相当するGSHPlの負荷を算出する。
【0169】
上記のステップ5、ステップ6に関してはCOPが低いGSHPから順番に処理を行っていき、採放熱抑制量が0以下となるまで繰り返しGSHPの出力を調整していく。
【0170】
以上により、期間内GHEX合計採放熱量の調整とGHEX長さ、GSHP負荷の最適化を実現することができる。
【0171】
[HR-GSHPシステム10の制御方法]
<v.GSHP処理負荷の調整制御>《制御システムの単独事項》
次にHR-GSHPシステム10の制御システム16について説明する。
図28にHR-GSHPシステムの概念図、
図29にHR-GSHPシステム10の制御パラメータ決定フローを示す。制御システム16は、設計が変化しない固定された前提条件下において年間を通じてGSHP処理負荷を最適化していくシステムとは異なる。制御システム16は、建物等で実際にHR-GSHPシステム10を運転しながら、実測データからソフトウェア16により逐次変化していく有効熱伝導率λeや熱負荷Q、ヒートポンプの運転効率COPの補正を行うことで精度よく制御パラメータ(GHEX採放熱量上限値Q
pemaxset、Q
pimaxset)の決定を行えるようにしている。また、決定したGHEX採放熱量上限値Q
pemaxset、Q
pimaxsetを元に、PLC13がGSHPの処理負荷を制御することで、地中熱を最大限利用した最適運転を実現する。そしてHR-GSHPシステム10は、設計同様、評価変数を逐次変更し、制約条件を維持するように制御する。
【0172】
(1)PLC出力制御
PLCによるGSHP処理負荷制御の詳細を以下に説明する。
GSHP処理負荷の調整制御であるPLCによるGSHPの温熱供給・冷熱供給の同時運転時の出力制御について説明する。CGC(ソフトウェア14)からPLCに出力される制御パラメータをGHEX採放熱量上限値とし、地中採放熱量を参照しながら出力を制御する仕組みとしている。そのため、暖冷房同時運転時についても、
図30に示す全体フロー、および
図31〜
図36に示す各詳細フローの通りPLC側でGHEXの採放熱量(間接採放熱量)を算出し、それとGHEX採放熱量上限値との比較を行うことで、GSHP出力を増加・減少できるように対応した。
フローの内容は以下で説明する。
【0173】
ステップ1:
図31に示すように、各熱源系統に出力抑制する優先順位(抑制順位)をCOPが低い順に設定する。抑制順位は加熱運転系統と冷却運転系統で別々に設定する。
【0174】
ステップ2:
図32に示すように、各熱源系統の総負荷と定格能力から、全GSHPの合計採放熱量Q’
g1i、Q’
g1eを算出する。
【0175】
ステップ3:ステップ2で算出したQ’
g1i、Q’
g1eの大小関係により式(48)(49)のように制御後のHR-GSHPシステムの運転が冷却運転なのか加熱運転なのかを判断する。
【0178】
ステップ4:HR-GSHPシステムの運転が冷却運転時の加熱運転熱源系統、または加熱運転時の冷却運転熱源系統に関しては、ステップ2で算出した各熱源系統毎の総負荷から求めたGSHP熱量Q’
g2c,i、Q’
g2h,iをその熱源系統の負荷分配値として設定する。
【0179】
ステップ5:HR-GSHPシステムの運転が冷却運転時の冷却運転熱源系統、または加熱運転時の加熱運転熱源系統に関しては、
図32に示すように制御時点での実測GSHP採放熱量からGHEX採放熱量を算出し、GHEX採放熱量と制御パラメータを比較することで出力の抑制を行うか促進を行うかを判断し制御を行う。
【0180】
ステップ6:抑制を行う場合は、
図33、
図35に示すフローに沿って以下のように制御を行っていく。
ア)GHEX採放熱量と制御パラメータから採放熱抑制量を算出する。
イ)採放熱抑制量から冷却塔や蓄熱タンク等の補助熱源で賄える採放熱量を引く。これにより採放熱抑制量が0となった場合は抑制制御を終了し、ステップ2で算出した各熱源系統毎の総負荷から求めたGSHP熱量Q’
g2c,i、Q’
g2h,iをその熱源系統の負荷分配値として設定する。なお補助熱源は、補助熱源機とは異なる。補助熱源機は、熱を作る機械であるのに対し、「補助熱源」は、熱交換を促進するファン等は付いているものの、基本的には熱交換器である。
ウ)残った採放熱抑制量を抑制順位が高い(順位が1の)熱源系統の採放熱量から引くことで採放熱量を抑制する。この時、抑制順位が最も高い熱源系統の採放熱量よりも採放熱抑制量が大きい場合は、その熱源系統の出力を0にし残った採放熱抑制量を次に抑制順位の高い熱源系統から引いていき、採放熱抑制量が0になるまで続ける。また、GSHPは各機器毎に定められた最低出力以下の出力で運転することが出来ないため、抑制後に残った熱源系統の採放熱量がその熱源系統の最低出力に相当する最低採放熱量よりも小さい場合は、その熱源系統の最低採放熱量まで抑制した後、次に抑制順位の高い熱源系統から残りの採放熱抑制量を引いていく。
エ)ウ)で抑制した採放熱量に相当する負荷を求め、その値を負荷分配値とする。
【0181】
ステップ7:促進を行う場合は、
図34、
図36に示すフローに沿って以下のように制御を行っていく。
ア)GHEX採放熱量と制御パラメータから採放熱促進量を算出する。
イ)抑制順位が最も低い(順位が最大の)熱源系統から順番に下記2つの条件を満たす系統を確認し、条件を満たした系統に採放熱促進量を加え、加えた分採放熱促進量を減らしていく。この処理を採放熱促進量が0になるまで続ける。
・補助熱源機が運転している。
・現状のGSHP出力がGSHP定格出力未満である。
ウ)イ)で促進した採放熱量に相当する負荷を求め、その値を負荷分配値とする。
【0182】
ステップ8:各熱源系統のGSHP処理負荷がステップ1〜7で求めたGSHP負荷分配値Q
g2hd、Q
g2cdとなるようにPLCにて地中熱ヒートポンプの出力制御を行う。
【0183】
ここまで(上記ステップ8まで)においては、ヒートポンプ11側の採放熱量のバランスしか考慮しておらず、GHEX15側に過剰な採熱もしくは放熱となる場合もある。これを防ぐため、CGC(ソフトウェア14)側、PLC13側において、
図37に示すように、以下のGHEX15の採放熱バランスを考慮した制御を加える。
【0184】
(2)CGC側での採放熱量の設定
CGC(ソフトウェア14)では、長期的に地中温度が変化しないように出力制御を行うまでの採放熱量の許容積算値-Q
It
n、Q
It
nを設定しておく。採放熱量-Q
It
n、Q
It
nについては、1サイクルあたりの全負荷(採放熱量)-QT
gicj、QT
gecjと設定する。
【0185】
(3)PLC側の採放熱バランス制御運転
(2)で設定した採放熱量許容積算値-Q
It
n、Q
It
nより、実測する採放熱量の積算値が許容積算値を上回らないようにHR-GSHPシステム10の制御運転を行う。制御フローは
図36に示す通りとなる。以下にフローの内容について説明する。
【0186】
ステップ1:採放熱量実測値の積算を計算する。なお積算値は、下記式(A)で表される。
【0188】
ステップ2:下記式(B)の判定を行う。
【0190】
ステップ3:実測の採放熱量の積算値が許容積算値を上回る(下回る)場合に、採熱量上限値Q
pemaxset (放熱量上限値Q
pemaxset)の修正を行う。採放熱上限値は以下の式により計算する。なお、Q
pemaxset、Q
pemaxsetはCGCから出力される値であるが、これを変更することとなる。
【0193】
ここで、単位採放熱係数q’は暖房(冷房)片側のみの運転を想定し、以下の(52)式で計算する(
図37参照)。
【0195】
(4)PLC側の温度補償制御運転
(1)や(3)による出力制御を行うことで、GSHP熱源水側入口温度が最適に運転可能な温度(以降、「許容値」とする。)を超えないようGSHPの出力を調整するが、GSHPの故障等により採放熱バランスが極端に崩れた場合は(1)や(3)の制御だけではGSHP熱源水側入口温度が許容値を超えてしまう可能性がある。そのため、
図39、
図40に示すフローの通り、出力抑制制御時に用いる制御パラメータをGSHP熱源水側入口温度を使用して補正する熱源水温度補償制御(以降、「温度補償制御」とする。)を行うことでGSHP熱源水側入口温度が許容値を超えないようGSHP出力を制御する。
【0196】
また、ここでいうGSHP熱源水側入口温度許容値T
1inmaxlimit、T
1inminlimitとは制御パラメータ決定時に使用している許容値T
1inmax、T
1inminとは異なりHR-GSHPシステムが稼働できる限界温度を指す。T
1inmax、T
1inminとT
1inmaxlimit、T
1inminlimitの関係は式(53)(54)のようになる。
【0200】
ステップ1:GSHP採放熱量の10分、及び1時間平均値を計算する。
【0201】
ステップ2:地中熱ヒートポンプ熱源水入口温度の10分、及び1時間平均値を計算する。
【0202】
ステップ3:地中熱ヒートポンプ熱源水入口温度の10分平均値が温度許容値T
1inmaxlimit(採熱時はT
1inminlimit)を超えた場合、熱源水往温度10分平均値と温度許容値による温度変化量の比、及び安全率β
h、β
cにより制御パラメータの補正を行う。
【0203】
ステップ4:熱源水往温度の1時間平均値が温度許容値T
1inmaxlimit−X
c℃(採熱時はT
1inmaxlimit+X
c℃)を超えた場合、熱源水往温度1時間平均値と温度許容値による温度変化量の比、及び安全率α
h、α
Cにより制御パラメータの補正を行う。
【0204】
ステップ5:制御パラメータの補正を行った後、10分平均値での抑制の場合は10分間、1時間平均値での抑制の場合は1時間、ステップ3、4で補正した制御パラメータで出力制御を行い熱源水往温度の回復を待つ。
【0205】
安全率α
h、α
Cと安全率β
h、β
cは式(55)(56)の関係となり、10分平均値が温度許容値を超えた方がより抑制をかけるようになっている。
【0208】
さらに、温度補償制御はGSHP熱源水側入口温度を許容値以下に抑えることが目的のため、温度補償制御時の出力制御抑制順位は
図41に示すフローの通りGSHP出力をより抑制できるようGSHPの運転状況により以下のように決定する。
加熱運転GSHP:COPが高い順に抑制順位を設定
冷却運転GSHP:COPが低い順に抑制順位を設定
【0209】
[本実施形態に係るHR-GSHPシステム、設計方法、制御方法のまとめ]
<構成要件>
本実施形態に係るHR-GSHPシステムの設計方法は、温熱供給と冷熱供給を行う2種類以上のGSHPの一次側配管をGHEXに接続する地中熱利用熱回収ヒートポンプ(HR-GSHP)システムにおいて、各々のGSHPの出力を調整することにより、期間内のGHEXの周囲地盤の温度上昇を任意の温度以内に抑えることができる、HR-GSHPシステムの設計手法である。
【0210】
本実施形態に係るHR-GSHPシステムの設計方法は、上記の設計手法であって、GHEXの採放熱量を調整した上で、最適化手法を用いて、任意の地中熱交換器長さに対して、HR-GSHPシステムの費用対効果=GSHP処理熱量(期間内における全てのGSHPの負荷を合計した値)を最大とする、GHEX長さとGSHPの負荷を計算する、HR-GSHPシステムの設計手法である。
【0211】
本実施形態に係るHR-GSHPシステムの設計方法は、短期間の採熱・放熱交互繰り返し運転を行う地中熱ヒートポンプにおいて、採熱・放熱サイクル時間t
c、採熱・放熱時間比t
l/t
cと地盤有効熱伝導率λ
eをもとに単位採放熱係数(地中熱交換器長さあたり、初期地中温度からの熱源水地中熱交換器出入口平均温度差あたりの採放熱量)q’を算定し、さらに短期間内の地中熱ヒートポンプ入口温度T
1inmin、T
1inmaxが規定の最低値以上最高値以下になるように、初期地中温度T
s0からの地中熱交換器出入口平均温度変化ΔT
pmmin、ΔT
pmmaxを算定し、地中熱交換器総長L
p、単位採放熱係数q’、地中熱交換器出入口平均温度変化ΔT
pmmin、ΔT
pmmaxより、それぞれの地中熱ヒートポンプの採熱量の総和又は放熱量の総和の制限値Q
pemax、Q
pimaxを(18)式,(19)式により定め、この制限値以内になるように地中熱ヒートポンプの運転を設定する。
【0212】
GSHPシステムの温度変化予測を行うために用いる単位採放熱係数q’は、地中熱交換器長さあたり、初期地中温度からの熱源水地中熱交換器出入口平均温度差あたりの採放熱量である。本実施形態では、短期間の採熱・放熱交互繰り返し運転を行うHR-GSHPにおいて、採放熱サイクル時間t
c、採熱・放熱時間比t
l/t
cと地盤有効熱伝導率λ
eをもとに求めることができるように、単位採放熱係数q’の推定手法を確立した。
具体的な方法の一つは、無限円筒理論等の伝熱理論を用いたシミュレーション計算を用い、採放熱による地中熱交換器出入口温度変化を求めることにより、単位採放熱係数q’を推定する。
与条件では、固定値として、地中熱交換器長さL
p、地盤有効熱伝導率λ
e、初期地中温度T
s0がある。時々刻々の変動条件として、表1や
図9(b)に示すような採熱量Q
e、放熱量Q
iおよび循環流量Gがある。時系列的には、運転開始直後の地中熱交換器出口温度T
poutは初期地中温度T
s0に等しく、地中熱交換器出口温度T
poutはヒートポンプ入口温度T
1inにも等しい。
変動条件として与えられた採熱量Q
e、放熱量Q
iは、下記式で得られる。
Q
e=C
pρG(T
1in−T
1out)
Q
i=C
pρG(T
1in−T
1out)
(ここで、C
p:定圧比熱[kJ/(kg・K)]、ρ:密度[kg/m
3]、G:熱媒流量[m
3/s])
そのため、ヒートポンプが採熱量Q
e、放熱量Q
iで運転した場合、ヒートポンプ出口温度は、下記式で得られる。
T
1out=T
1in−Q
e/C
pρG
T
1out=T
1in−Q
i/C
pρG
地中熱交換器入口温度T
pinはヒートポンプ出口温度T
1outに等しく、初期地中温度T
s0から変化している。非特許文献1〜3に示すような無限円筒理論式を用いた近似手法を利用すれば、地中熱交換器入口温度T
pinと熱媒流量Gを与えることで、時々刻々と変化する地中熱交換器出口温度T
poutを求めることができる。
具体的な方法のもう一つは、地中熱採放熱履歴を考慮した平均温度変化に基づき単位採放熱係数q’を推定する。以下においても地中温度変化量の算出に関しては、無限円筒理論等の伝熱理論を用いたシミュレーション計算を使用する。
まず、HR-GSHPシステム稼働日〜単位採放熱係数を求める期間までの平均地中熱採放熱量を求め、その平均地中熱採放熱量による地中温度の平均温度変化を算出する。
次に、単位採放熱係数を求める(コミッショニング)期間内での平均地中熱採放熱量を求め、その平均地中熱採放熱量による地中温度の平均温度変化を算出する。
さらに、単位採放熱係数を求める期間中最も採放熱が連続する期間での地中熱採放熱量ΣQ
g1ec、ΣQ
g1icを求め、
図15に示すようにその地中熱採放熱量による地中温度変化を算出する。
1番目、2番目の期間平均地中熱採放熱量による算出値は地中熱交換器の表面温度変化となっており、単位採放熱係数を求めるためには地中熱交換器内部熱媒温度が必要となるため、ボアホールの熱抵抗、及び最大採放熱量から期間内の地中熱交換器表面から内部熱媒への最大温度変化を算出する。
以上で求めた温度変化を合算することにより、期間内の最大熱媒体温度変化による地中熱交換器出口温度T
poutを求めることができる。
さらに、熱源水地中熱交換器出入口平均温度T
pmは以下により求めることができる。
T
pm=(T
pin+T
pout)/2
表1のCASE1-2の採放熱繰り返し条件にて、以上のシミュレーションを行い得られた熱源水地中熱交換器出入口平均温度T
pmの変化が
図9(c)である。また、与条件として与えた採熱量Q
e、放熱量Q
iより地中熱交換器単位長さあたり採放熱量は以下のように求められる。
q
e=Q
e×1000/L
p
q
i=Q
i×1000/L
p
以上により、単位採放熱係数q’は以下により算定できる。
q'=q/(T
s0−T
pm)
表1におけるt
cが採放熱サイクル時間、t
lをt
cで除したものが採熱・放熱時間比である。
【0213】
本実施形態に係るHR-GSHPシステムの制御システムは、温熱供給と冷熱供給を行う2種類以上のGSHP熱源機の一次側配管をGHEXに接続するHR-GSHPシステムにおいて、ソフトウェアにより地中熱交換器の採放熱性能を評価し、その結果をもとに温熱供給もしくは冷熱供給どちらかのみの運転を行った場合のGSHP熱源機の出力上限値を決定し、それに合わせてGSHP熱源機の出力制御を行うことで、熱源水の過度な上昇・低下を抑制することができる制御システムである。
【0214】
本実施形態に係るHR-GSHPシステムの制御システムは、上記HR-GSHPシステムにおいて、2種類以上のGSHP熱源機から温熱供給と冷熱供給双方を行った場合に、PLCにより一次側の熱回収熱量を評価し、その結果をもとにGSHP熱源機の出力上限値を変更し、熱源水の過度な上昇・低下を抑制した上で、HR-GSHPシステムの利用熱量を最大限に増やすことができる制御システムである。
【0215】
<作用効果>
これまでのGSHPシステムの設計は、季節間(冬季・夏季)の採熱・放熱のバランスを取るように行っていたため、比較的小さな季節間の蓄熱効果しか得られないものであった。本実施形態においては、短期(1か月以内の範囲)の採熱・放熱のバランスととる設計を行うことによって、季節間の蓄熱効果よりも大きな短期の蓄熱効果を得ることが可能となる。これと温熱供給と冷熱供給を行うそれぞれのヒートポンプを同時に運転することによる熱回収の運転を組み合わせることで、地中熱を利用するヒートポンプから供給する熱量に対する必要な地中熱交換器長さを大幅に削減することが可能となる。
さらに、中期的な地中熱採放熱履歴を考慮した設計を行うことにより、短期的には採熱・放熱のバランスが完全には取れない場合でも完全な短期の蓄熱効果には劣るものの季節間の蓄熱効果よりは大きな蓄熱効果を得ることも可能とし、適用負荷形態を拡げている。
【0216】
本実施形態では、HR-GSHPシステムについて、独自の方法で最適化手法を応用することにより、任意に設定したGHEX長さで、最大限のGSHPシステムの導入効果が得られるよう、最適化を行うものである。
【0217】
任意に設定したGHEX長さで、最大限のGSHPシステムの導入効果が得られるようになるため、地中熱ヒートポンプシステムの導入の費用対効果を最大化することや、コスト回収年数を最小化することが可能となる。
【0218】
本実施形態に係るHR-GSHPシステムの設計方法を用いることにより、HR-GSHPシステムについて、必要最小限のGHEX長さで、最大限のGSHPシステムの導入効果が得られるようになる。その結果として、HR-GSHPシステムの導入の費用対効果を最大化することや、コスト回収年数を最小化することが可能となる。
【実施例】
【0219】
[設計に関する実施例]
上記に説明した設計手法を用い、HR-GSHPシステム必要長さ検討のケーススタディを行った。
図42に実施例の対象となる某複合建物の年間時刻別負荷を示す。複合建物の年間合計は44,506 MWであり、年間負荷の特徴は冬期でも冷熱負荷、夏期でも温熱負荷が発生することである。
【0220】
本実施例では某複合施設の負荷を利用して、i〜viのHR-GSHPシステム設計手法を用いて、各期間の各GSHPの時刻別負荷の最適化を実施した。さらには表3に示す計算条件でシミュレーションを行った。
【0221】
【表3】
【0222】
なお、地中熱交換器総長は両設計手法におけるGSHP年間処理負荷量が同等になるように試算した結果の長さとしており、
図43にその場合のHR-GSHPシステムを導入する場合の年間時刻別負荷および、夏期に冷房、冬期に暖房運転を行う従来のGSHPシステムを導入する場合の年間時刻別負荷を示す。HR-GSHPシステムは、Lp = 1,600 m で2,551MWhの温熱負荷と1,870MWhの冷熱負荷の合計4,421MWの熱負荷を処理でき、従来のGSHPシステムは、Lp = 14,400 m で2,606MWの温熱負荷と1,766MWの冷熱負荷の合計4,372 MWの熱負荷を処理できる。すなわち、HR-GSHPシステムの場合は従来のGSHPシステムの場合の約11%の長さで同等の熱負荷を処理できる結果が得られた。
【0223】
また、シミュレーションの結果として得られる、HR-GSHPシステムと従来のGSHPシステムの期間平均COPも表3に示している。HR-GSHPシステムの期間平均COPは暖房時が5.97、冷房時が8.42であり、従来のGSHPシステムの期間平均COPは暖房時が4.00、冷房時が5.00である。従って、HR-GSHPシステムは効率においても従来のGSHPシステムと比較して優位性を有している結果となった。
【0224】
さらには、HR-GSHPシステム10とGSHPシステムのエネルギー消費量およびランニングコスト(電気料金)についても表3に示す。なお、HR-GSHPシステム10の処理熱量に対するGSHPシステムの処理熱量の不足分は暖房は補助熱源のガスボイラで賄い、冷房は補助熱源機のASHP(冷房COP5.8)で賄うこととした。また、電気料金は1kW=15円として計算を行った。
この結果より同じ熱量を処理した場合、本事例においてはHR-GSHPシステム10は従来のGSHPシステムと比較してイニシャルコストで71%、ランニングコストを35%削減できる結果が得られた。
【0225】
図44に各負荷に対するGHEXの出口温度T
poutの計算結果を示す。各負荷に対するT
poutの温度が0℃<T
pout<35℃の範囲内に収めるが、HR-GSHPシステム10の場合、温度変化が少ない。結果よりHR-GSHPシステム10の場合は地中温度の変化が少ないことがわかった。
【0226】
[制御システムに関する実施例]
上記<v)GSHP処理負荷の調整制御>に説明した制御運転を北海道大学構内に設置したフィールド試験装置により検証を行った。
図31にフィールド試験系統図を、表4に試験装置構成機器概要を示す。
【0227】
【表4】
【0228】
フィールド試験装置10Bは、主に複数台の地中熱ヒートポンプ11B(GSHP)と、補助熱源機である空気熱源ヒートポンプ12B(ASHP)と、地中熱交換器15Bと、任意に設定した暖房・冷房負荷を模擬できる模擬負荷装置20B(模擬負荷タンクとASHP)と、で構成される。表5に設定負荷を示す。
【0229】
【表5】
【0230】
まず、ソフトウェアからのGSHP熱源機の出力上限値を暖房時、冷房時それぞれで4 kWと設定した。
そしてCASE1では全体の冷房負荷を11 kWと設定したGSHPを冷房片側運転とした。従ってCASE1ではGSHPの出力は4 kWとなり、残りの7 kWはASHPが負担することになる。
CASE2では全体の暖房負荷を15 kW、冷房負荷を9 kWとした。この場合には、
図25に示すPLC側出力制御により、判定出力が小さくなるため、温熱供給用、冷熱供給用いずれのGSHP出力とも4 kW以上となる。
CASE3では全体の暖房負荷を4 kW、冷房負荷を10kWとした。この場合には、温熱供給用GSHP出力は、4 kWなるが、
図25に示すPLC側出力制御により、冷熱供給用のGSHP出力はおよそ6kWとなり、残りの4kWはASHPが負担することになる。
【0231】
図32にCASE1におけるGSHP熱源機およびASHP熱源機の出力を、
図33にCASE2におけるGSHP熱源機の出力を、
図34にCASE3におけるGSHP熱源機およびASHP熱源機の出力を示す。
図32、
図34には
図25に示すPLC側で計算される判定出力値も示す。
CASE1では冷房片側の運転のため、ソフトウェアの出力上限値である4 kWにGSHP出力が抑制されていることが確認できた。一方で、CASE2は温熱供給、冷熱供給両方が行われることにより、PLC側で計算される判定出力値が出力上限値よりも小さくなっているため、ASHPの運転が起こらず、GSHPのみで全ての負荷が賄われていることが確認できた。CASE3では温熱供給、冷熱供給両方が行われているが、PLC側で計算される判定出力値が冷房側にて出力上限値よりも大きくなっているため、GSHP出力が抑制されていることが確認できた。
以上より、本制御の有効性が確認された。