特開2021-151940(P2021-151940A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧

特開2021-151940セメント組成物及びセメント組成物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-151940(P2021-151940A)
(43)【公開日】2021年9月30日
(54)【発明の名称】セメント組成物及びセメント組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/26 20060101AFI20210903BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20210903BHJP
【FI】
   C04B7/26
   C04B14/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2020-53202(P2020-53202)
(22)【出願日】2020年3月24日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井戸 利博
(57)【要約】
【課題】ポルトランドセメントの少量混合成分がJIS規格に規定されている含有量を超えて含まれる場合でも、自己収縮を抑制し得るセメント組成物及び該セメント組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】クリンカと、石灰石と、フライアッシュとを含み、前記クリンカ中のSO含有量が、0.5質量%以上であり、前記石灰石の含有量が、5質量%以上15質量%以下であり、前記フライアッシュの含有量が、1質量%以上5質量%以下である、セメント組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンカと、石灰石と、フライアッシュとを含み、
前記クリンカ中のSO含有量が、0.5質量%以上であり、
前記石灰石の含有量が、5質量%以上15質量%以下であり、
前記フライアッシュの含有量が、1質量%以上5質量%以下である、セメント組成物。
【請求項2】
前記石灰石及び前記フライアッシュの合計含有量が、6質量%以上12質量%以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記クリンカ中の前記SO含有量が、1.0質量%以上である、請求項2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
石灰石の含有量が5質量%以上15質量%以下、かつ、フライアッシュの含有量が1質量%以上5質量%以下となるように、SO含有量が0.5質量%以上のクリンカと、前記フライアッシュと、前記石灰石とを混合する工程を含むセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物及びセメント組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、環境負荷を低減し、また製造に係るコストを削減することを目的として、セメント原料には廃棄物由来のものが一定量利用されている。これらの廃棄物の種類は多岐に渡り、環境負荷の低減という観点から、セメント産業の貢献は極めて大きいと言える。
【0003】
しかし、セメント原料において、上記のような廃棄物を利用するにあたっては、上記廃棄物等を高温で焼成して得られるセメントクリンカとして利用することが大部分であり、このようなセメントクリンカの製造では、二酸化炭素の排出を伴う。そのため、セメント産業から排出される二酸化炭素を低減する観点では、セメントクリンカの使用量を低減すること(省クリンカ)が、有効な対策の一つとして着目されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
混合セメントにおいて、セメントクリンカの使用量を低減する方策として、混合材の使用量の増加させることは極めて有効である。しかしながら、日本国内ではポルトランドセメントの需要が高く、とりわけ普通ポルトランドセメントの出荷量が国内セメント出荷量の7割近くを占めるため、混合セメントの製造による二酸化炭素排出量の低減効果は、セメント業界全体への寄与としては、やや限定的なものとなっている。
【0005】
そのため、今後、セメント業界全体での二酸化炭素の排出量の低減が求められた場合には、特に汎用品として利用される普通ポルトランドセメントに対しての取り組みが必要となると考えられる。
【0006】
現在のJIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」の規格上、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び超早強ポルトランドセメントでは、セメントクリンカ及び石膏以外に、少量混合成分として石灰石、高炉スラグ、フライアッシュ(I種またはII種)及びシリカ質混合材を、これらの合計量で5質量%を上限として添加することが許されている。
【0007】
仮に、今後、省クリンカを目的として、上記JIS規格の少量混合成分の添加量の上限が緩和され、例えば現状の5質量%から10質量%に添加量が拡大された場合には、更にセメントクリンカ使用量を最大で3.5質量%程度削減することが可能となることが予想される。
【0008】
しかし、普通ポルトランドセメントは、その使用用途も多岐に渡るため、少量混合成分の添加量の上限が大きくなる場合、少量成分無添加の製品との物性差が拡大する恐れがある。その際懸念される物性として、低水セメント比配合での自己収縮が挙げられる。非特許文献2には、フライアッシュの添加によりコンクリートの自己収縮が大きくなることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】丸屋英二、他、「廃棄物使用量の増大とCO2排出量削減に向けたセメントの材料設計」、廃棄物資源循環学会論文誌、Vol.20, No,1, pp.1−11, 2011
【非特許文献2】菅田紀之、他、「フライアッシュとシリカフュームを混和した高強度コンクリートの強度及び収縮特性について」、Cement Science and Concrete Technology, No.63, pp.486−492, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、ポルトランドセメントの少量混合成分が、JIS規格に規定されている含有量を超えて含まれる場合でも、自己収縮を抑制し得るセメント組成物及び該セメント組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、クリンカ中のSO含有量が比較的高い場合において、混和材として石灰石及びフライアッシュを所定量含む場合に、自己収縮を抑制し得るセメント組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の<1>〜<4>を提供する。
<1>クリンカと、石灰石と、フライアッシュとを含み、前記クリンカ中のSO含有量が、0.5質量%以上であり、前記石灰石の含有量が、5質量%以上15質量%以下であり、前記フライアッシュの含有量が、1質量%以上5質量%以下である、セメント組成物。
<2>前記石灰石及び前記フライアッシュの合計含有量が、6質量%以上12質量%以下である、<1>に記載のセメント組成物。
<3>前記クリンカ中の前記SO含有量が、1.0質量%以上である、<2>に記載のセメント組成物。
<4>石灰石の含有量が5質量%以上15質量%以下、かつ、フライアッシュの含有量が1質量%以上5質量%以下となるように、SO含有量が0.5質量%以上のクリンカと、前記フライアッシュと、前記石灰石とを混合する工程を含むセメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、今後、省クリンカを目的として、JIS規格の少量混合成分の添加量の上限が拡大された場合でも、自己収縮を抑制し得るセメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のセメント組成物及びセメント組成物の製造方法について、詳細に説明する。なお、本明細書中の「AA〜BB」との数値範囲の表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0015】
[セメント組成物]
本発明のセメント組成物は、クリンカと、石灰石と、フライアッシュとを含み、前記クリンカ中のSO含有量が、0.5質量%以上であり、前記石灰石の含有量が、5質量%以上15質量%以下であり、前記フライアッシュの含有量が、1質量%以上5質量%以下である。本発明のセメント組成物は、SO含有量が比較的高いクリンカと、少量混合成分として特定量の石灰石及びフライアッシュを含むものであり、これにより自己収縮を抑制し得る。
具体的に、本発明のセメント組成物は、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントである。
【0016】
本発明のセメント組成物は、細骨材及び粗骨材等の骨材、及び各種化学混和材等と混合して、モルタルやコンクリートを作製する際に好適に用いることができる。本発明のセメント組成物を用いたモルタルやコンクリートは、環境負荷を低減しつつ、自己収縮を抑制できる。
以下で、上記セメント組成物の各成分について説明する。
【0017】
<クリンカ>
本発明のセメント組成物に使用されるクリンカは、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定されている品質を満たし、かつ、SO含有量0.5質量%以上であれば特に限定されるものではない。SO含有量が0.5質量%未満であると、モルタルやコンクリートとしたときの自己収縮が大きくなる。自己収縮をより効果的に抑制するとの観点から、クリンカ中のSO含有量は、0.6質量%以上であることがより好ましく、0.7質量%以上であることが更に好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましい。なお、クリンカ中のSO含有量限は、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定されているSO含有量の上限を超えない範囲とする。例えば、クリンカ中のSO含有量は、1.5質量%以下、好ましくは1.2質量%以下とする。
【0018】
また、上記クリンカとして、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定される普通ポルトランドセメントクリンカ、早強ポルトランドセメントクリンカ、超早強ポルトランドセメントクリンカ、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、低熱ポルトランドセメントクリンカ、耐硫酸塩ポルトランドセメントクリンカのいずれも適用できる。なお、現状のJIS規格上の少量混合成分添加の可否の観点及びクリンカ製造量に対する本発明の省クリンカ効果の観点からは、普通ポルトランドセメントクリンカが望ましい。
【0019】
<少量混合成分>
本発明のセメント組成物は、少量混合成分として石灰石及びフライアッシュの両方を含むことを要件とする。本発明者の検討の結果、石灰石及びフライアッシュのいずれか一方のみを含んでも自己収縮抑制への効果が低いことが判明した。更に、石灰石及びフライアッシュの含有量が所定の範囲である場合に、自己収縮の抑制に特に効果があることが判明した。
石灰石及びフライアッシュについて、以下で詳細に説明する。
【0020】
<<石灰石>>
本発明のセメント組成物では、少量混合成分の一つとして石灰石を含む。石灰石をフラアッシュと併用したときに、モルタルやコンクリートとしたときの自己収縮を抑制することができる。
【0021】
本発明に用いられる石灰石は、炭酸カルシウムの含有率が90%以上であるものがより好ましい。石灰石のブレーン比表面積は、好ましくは3000cm/g以上であり、より好ましくは3000〜20000cm/gであり、更に好ましくは3200〜15000cm/gである。上記範囲であると、セメント組成物とした場合の自己収縮を充分に抑制できると同時に、混練時の流動性を良好な範囲にすることができる。
なお、石灰石のブレーン比表面積はJIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法、8 粉末度試験、8.1 比表面積試験」に記載の方法に従って測定した比表面積の数値をいう。
【0022】
本発明において、セメント組成物中の石灰石の含有量は、5質量%以上15質量%以下である。石灰石の含有量が上記範囲であると、自己収縮の抑制効果を十分に発揮しつつ、好適に省クリンカを実現できる。なお、石灰石の含有量が15質量%を超えると、自己収縮が大きくなってしまう。石灰石の含有量は、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
<<フライアッシュ>>
本発明のセメント組成物では、少量混合成分の一つとしてフライアッシュを含む。フライアッシュを用いることにより、モルタルやコンクリートとしたときの自己収縮を抑制するとともに、廃棄物利用の観点から環境負荷を低減することができる。
【0024】
フライアッシュとしては、JIS A 6201:2015「コンクリート用フライアッシュ」に規定されるもののフライアッシュI種およびフライアッシュII種が挙げられる。特に、フライアッシュII種に相当するものがより好ましい。
フライアッシュのブレーン比表面積は、好ましくは2500cm/g以上であり、より好ましくは2500〜4200cm/gであり、更に好ましくは2500〜3800cm/gである。上記範囲であると、セメント組成物とした場合の自己収縮を充分に抑制できると同時に、混練時の流動性を良好な範囲にすることができる。
なお、フライアッシュのブレーン比表面積はJIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法、8 粉末度試験、8.1 比表面積試験」に記載の方法に従って測定した比表面積の数値をいう。
【0025】
フライアッシュの強熱減量は、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは4.0質量%以下である。
なお、フライアッシュの強熱減量は、JIS A 6201:2015「コンクリート用フライアッシュ」に従って測定した数値をいう。
【0026】
本発明において、セメント組成物中のフライアッシュの含有量は、1質量%以上5質量%以下である。フライアッシュの含有量が上記範囲であると、自己収縮の抑制効果を十分に発揮しつつ、好適に省クリンカを実現できる。なお、フライアッシュの含有量が1質量%未満では、石灰石を含んでいたとしても自己収縮を抑制する効果が低い。
【0027】
本発明において、フライアッシュ及び石灰石の合計含有量が、6質量%以上12質量%以下であることが好ましい。フライアッシュ及び石灰石の合計含有量と自己収縮とは二律背反の関係にある。廃棄物の有効利用と自己収縮抑制とを両立させるとの観点から、合計含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0028】
また、上記合計量に対する石灰石の含有量は、6質量%以上11質量%以下であることがより好ましく、6質量%以上10質量%以下であることが更に好ましく、6質量%以上8質量%以下であることが特に好ましい。
【0029】
<<その他の成分>>
セメント組成物は、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」の規格を満足し、本発明の効果を妨げない範囲で、上記以外のその他の成分を含むことができる。
その他の成分としては、例えば、石膏、シリカ質混合材、高炉スラグ、粉砕助剤、が挙げられる。
【0030】
なお、本発明において、ベースセメントの石膏の含有量がSO換算で0.5質量%以上となるように石膏を配合すると、自己収縮を効果的に抑制できるので好ましい。本発明において、クリンカと石膏とを混合したものを「ベースセメント」と称する。SO換算での石膏の含有量は、石膏中のSO含有量に相当する。なお、石膏中のSO量は、JIS R 5202:2015「セメントの化学分析法」に従って測定される。ただし、石膏の配合量は、クリンカ中に含まれるSO含有量も考慮して、上記JIS規格に規定されているSO含有量を超えない範囲とする。石膏としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏のいずれも使用することができる。
本発明において、ベースセメント中のSO含有量は、1.8質量%以上であることが好ましい。ベースセメントのブレーン比表面積は、3000cm/g以上3400cm/g以下であることが好ましく、3100cm/g以上3300cm/g以下であることがより好ましい。
【0031】
[セメント組成物の製造方法]
本発明のセメント組成物の製造方法は、石灰石の含有量が5質量%以上15質量%以下、かつ、フライアッシュの含有量が1質量%以上5質量%以下となるように、SO含有量が0.5質量%以上のクリンカと、前記フライアッシュと、前記石灰石とを混合する工程を含む。
混合手段としては、ボールミル、容器回転型混合機(水平円筒型混合機,V型混合機,二重円錐型混合機等)、容器固定型混合機(機械的攪拌型混合機,気流攪拌型混合機等)などが挙げられる。
【0032】
本発明において、各成分を配合するタイミングとして、例えば、(1)〜(4)が挙げられるが、本発明はこれに限定されない。
(1)まず、クリンカ、石灰石、及び、石膏を、所定のブレーン比表面積となるように粉砕混合する。その後、該混合物に所定量のフライアッシュを混合して、セメント組成物を調製する。
(2)まず、クリンカ及び石膏を、所定のブレーン比表面積となるように粉砕混合してクリンカ混合物を製造する。別途、石灰石を所定のブレーン比表面積となるように粉砕する。その後、クリンカ混合物に所定量のフライアッシュ及び石灰石を混合して、セメント組成物を調製する。
(3)クリンカ、フライアッシュ、石灰石、及び、石膏を一度に粉砕機に投入し、所定のブレーン比表面積となるように粉砕混合して、セメント組成物を調製する。
(4)各成分を、所定のブレーン比表面積となるように別個に粉砕する。その後、所定の配合比となるように、各成分を混合手段で混合し、セメント組成物を調製する。
【実施例】
【0033】
[セメント組成物の原料]
以下の実施例及び比較例では、以下の材料を使用した。
(1)クリンカ
普通ポルトランドセメントクリンカ:実機プラントで製造されたもの3種類。化学組成を表1に示す。
(2)フライアッシュ
火力発電所由来の石炭灰(JIS A 6201:2015 フライアッシュII種相当、密度2.2g/cm、ブレーン比表面積3620cm/g)。
(3)石灰石
関東化学株式会社製 鹿1級試薬 炭酸カルシウム(密度2.9g/cm、ブレーン比表面積9760cm/g)。
(4)石膏
半水石膏、火力発電所で得られる排脱石膏を120℃で保持した後、粉砕されたもの(ブレーン比表面積12900cm/g)。石膏中のSO量はJIS R 5202:2015「セメントの化学分析法」に従って測定した。
【0034】
【表1】
【0035】
[セメント組成物の評価]
クリンカの化学組成、セメント組成物中の各材料の密度、ブレーン比表面積は、下記の条件で測定した。
【0036】
<化学組成>
クリンカの化学組成は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に準じて蛍光X線測定装置(PRIMUS IV、株式会社リガク製)を用いて、ガラスビード法にて成分分析を行った。
【0037】
<密度>
密度の測定は、ガス置換型真密度測定装置(ULTRAPYCNOMETER1000、QUANTACHROME INSTRUMENTS製)を用いて、窒素ガス置換により行った。
【0038】
<ブレーン比表面積>
ブレーン比表面積の測定は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準じて行った。
【0039】
[ベースセメントの調製]
試料番号1〜3のクリンカに、表2に示すSO配合量となる半水石膏と、更に粉砕助剤(ジエチレングリコール、200ppm)を添加し、ボールミルで粉砕を行い、ブレーン比表面積が3200±200cm/gとなるようにベースセメントを作製した。表2に、作製した各ベースセメントについて、クリンカ、石膏、ベースセメント中の各SO含有量、及び、ブレーン比表面積を示す。ベースセメント中のSO含有量は、クリンカ中のSO含有量と石膏中のSO含有量の合計とした。
【0040】
【表2】
【0041】
表3に示す配合で、各ベースセメントに対して石灰石(LSP)及びフライアッシュ(FA)を添加し、混合して、実施例1〜26及び比較例1〜12のセメント組成物を調製した。表3に、ベースセメントにおけるクリンカ、石膏及びベースセメント中の各SO含有量を示す。また、表3に、石灰石の含有量(表中、「LSP」)及びフライアッシュの含有量(表中、「FA」)、石灰石及びフライアッシュの合計含有量(表中、「LSP+FA」)、及び、合計含有量に対する石灰石の含有率(表中、「LSP/(LSP+FA)」を示す。
【0042】
[モルタル供試体の製造]
モルタル供試体の配合は、細骨材/セメント比が質量比で1、減水剤/セメント比は1.2質量%、(水+減水剤)/セメント比は35質量%とした。細骨材として、一般社団法人セメント協会製のセメント強さ試験用標準砂を使用した。減水剤として、BASFジャパン株式会社製のポリカルボン酸エーテル系高性能AE減水剤 マスターグレニウム SP8SBSを使用した。
モルタルの混錬手順は、JIS R 5201:2015に準拠した。
【0043】
まず、継ぎ目箇所にビニールテープを用いて漏水対策処置を行った蓋部付きのテフロンシート製の内部型枠(40mm×40mm×160mm)を、木製の外部型枠内に設置し、糸を用いて、歪みゲージが供試体中心に水平配置されるよう固定した。その際、固定に用いた糸の端部は、テフロンシート製内部型枠、木製外部型枠に設けた穴を通じて、型枠外まで通され、養生テープにて固定した。
上記テフロンシート製内部型枠内に、混練直後のフレッシュモルタルを投入し、内部型枠の上面を、テフロンシート蓋部と養生テープによって封止処理を行い、材齢24時間までの水分の逸散を防止した。歪みゲージの固定に用いた糸は、モルタルの凝結の始発開始後に切断して開放し、歪みゲージの伸縮の妨げとならないようにした。
材齢24時間で、木製型枠から脱型し、継ぎ目箇所をブチルゴム系のテープにて封止し、供試体全体をアルミニウム箔粘着テープで封止し、更にビニール袋内に供試体を封止した。なお、歪みゲージの測定用ケーブルのみ、ビニール袋外に配した。
【0044】
[自己収縮評価]
上記構成として、打ち込み後28日目での自己収縮ひずみ(μ)の計測を行った。
参考例の配合のポルトランドセメント(クリンカ中のSO含有量:0.72質量%、石膏中のSO含有量:1.28質量%、石灰石及びフライアッシュの添加量:0質量%)を用いた供試体の材齢28日における自己収縮ひずみを基準値として、該基準値からの差([参考例の自己収縮ひずみ]−[実施例及び比較例の各自己収縮ひずみ])を算出した。結果を表3に示す。本実施例では、材齢28日において基準値からの差が−100μ〜0μである場合を合格と評価した。
【0045】
【表3】
【0046】
実施例はいずれも、参考例より自己収縮は大きくなる傾向があったが、自己収縮は0〜−100μの範囲であり、自己収縮が抑制されていることが確認された。特に、石灰石及びフライアッシュの合計含有量を6〜12質量%とすることにより、自己収縮が効果的に抑制できると言える(実施例1〜4、13〜16、24〜26参照)。更に、フライアッシュ含有量が同じ場合には、クリンカ中のSO含有量が高い方が、自己収縮が小さくなる傾向があった。すなわち、1.0質量%以上とすることにより、自己収縮が効果的に抑制できると言える。
【0047】
これに対し、クリンカ中のSO含有量が低い場合(比較例1〜6)は、石灰石及びフライアッシュを配合しても、自己収縮を抑制することができなかった。
比較例7,8に示すように、石灰石の含有量が5〜15質量%の範囲内としても、フライアッシュを配合しない場合には、自己収縮が大きくなることが判明した。
また、石灰石及びフライアッシュの含有量がそれぞれ範囲外である場合(比較例9〜12)も、自己収縮抑制に効果がないことが判明した。