【解決手段】抽出装置1は、農業廃棄物および食品廃棄物のうちの少なくとも1種を含む廃棄物FWからケルセチンQCを抽出する装置であって、廃棄物FWが収納される収納部2と、収納部2にエタノール水溶液EAを供給して、エタノール水溶液EAと廃棄物FWとを接触させる供給ライン3と、エタノール水溶液EAに対し、収納部2内および供給ライン3内のうちの少なくとも一方で加熱を行う加熱部61とを備える。
前記収納部に対して、前記エタノール水溶液の供給と、前記エタノール水溶液の排出とを繰り返して、前記エタノール水溶液を循環させる循環ラインを備える請求項1〜3のいずれか1項に記載の抽出装置。
前記収納部は、前記排出ラインが接続された、開閉可能な下蓋と、該下蓋に設けられ、前記排出ラインに向かう前記エタノール水溶液が前記ケルセチンとともに通過するフィルタ部材とを有する請求項6に記載の抽出装置。
前記廃棄物に残留した前記エタノール水溶液および前記ケルセチンを、前記廃棄物から除去する洗浄液を前記収納部に供給する洗浄液供給ラインを備える請求項1〜7のいずれか1項に記載の抽出装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の抽出装置および抽出方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1〜
図4を参照して、本発明の抽出装置および抽出方法の第1実施形態について説明する。なお、以下では、説明の都合上、
図1〜
図3中(
図5〜
図11についても同様)の上側を「上(または上方)」、下側を「下(または下方)」と言う。
【0011】
図1〜
図3に示すように、抽出装置1は、収納部2と、供給ライン(エタノール水溶液供給ライン)3と、排出ライン4と、循環ライン5と、熱交換部6とを備える。抽出装置1は、農業廃棄物および食品廃棄物のうちの少なくとも1種を含む廃棄物(以下「食物廃棄物」と言う)FWからケルセチン(quercetin)QCを抽出する装置である。
【0012】
また、抽出装置1では、本発明の抽出方法が実行される。この抽出方法は、食物廃棄物FWからケルセチンQCを抽出する方法であり、
図4に示すように、密閉工程と、エタノール水溶液供給工程と、加熱工程と、冷却工程と、排出工程とを有し、各工程が順に行われる。なお、エタノール水溶液供給工程と、加熱工程とは、平行して行われる。
【0013】
本実施形態では、食物廃棄物FWとして、乾燥した玉ねぎの外皮を用いる。玉ねぎの外皮は、ケルセチンQCが比較的多く含まれる。そして、抽出装置1(抽出方法)により、玉ねぎの外皮からケルセチンQCを容易に抽出することができる。ケルセチンQCは、体内摂取により、例えば、動脈硬化等の生活習慣病の予防効果、若年性アルツハイマー病の予防効果等が期待できる。
【0014】
また、玉ねぎの外皮は、腐敗しにくく、例えば堆肥等に利用し難い等の理由により、廃棄処分されることが多いが、抽出装置1(抽出方法)によって有効に利用されることとなる。
なお、食物廃棄物FWとして、本実施形態では玉ねぎの外皮を用いるが、これに限定されず、例えば、蜜柑等の柑橘類の外皮や、その他、リンゴの外皮、ブドウの外皮等も用いることができる。このように「食物廃棄物FW」とは、通常は食されずに、そのまま廃棄処分されるものを言う。
【0015】
収納部2は、食物廃棄物FWを収納する槽である。収納部2は、筒状をなす収納部本体21と、収納部本体21の上側を覆う上蓋22と、収納部本体21の下側を覆う下蓋23と、下蓋23に設けられたフィルタ部材24と、収納部本体21内に配置された噴出部27を有する。
【0016】
上蓋22は、収納部本体21に開閉可能に支持されている。そして、上蓋22を開状態とすることにより、食物廃棄物FWを収納部本体21の上側から投入することができる。これにより、収納部2内に食物廃棄物FWが堆積して、収納される。
下蓋23も、収納部本体21に開閉可能に支持されている。そして、下蓋23を開状態(
図1〜
図3中の二点鎖線の部分参照)とすることにより、例えば、食物廃棄物FWを収納部本体21の下側から排出することができる。これにより、ケルセチンQCが抽出された食物廃棄物FWを廃棄処分することができる。
【0017】
また、上蓋22および下蓋23をそれぞれ閉状態とすることにより、収納部2は、食物廃棄物FWを収納した収納状態で密閉される(密閉工程)。この密閉状態は、排出工程が完了するまで維持される。
なお、収納部2は、収納部本体21内で、鉛直方向と平行な軸回りに回転可能に支持された羽根部を有していてもよい。この羽根部が回転することにより、収納部2内に堆積した食物廃棄物FWの表層(表面)を平らにならすことができる。
【0018】
供給ライン3は、食物廃棄物FWを収納した状態の収納部2内に対して、エタノール水溶液EAを供給するエタノール水溶液供給部である。エタノール水溶液EAの供給により、収納部2内でエタノール水溶液EAと食物廃棄物FWとが接触した状態となる(エタノール水溶液供給工程)。なお、エタノール水溶液EAの供給量によっては、食物廃棄物FWがエタノール水溶液EAに浸漬した状態となる。そして、エタノール水溶液EAと食物廃棄物FWとが接触することにより、食物廃棄物FWからケルセチンQCが溶出して、ケルセチンQCを抽出することができる。なお、食物廃棄物FWから抽出されたケルセチンQCは、エタノール水溶液EAと混合して混合液MLとなる。
【0019】
供給ライン3は、エタノール水溶液EAが予め貯留されたタンク31と、タンク31と収納部2の噴出部27とを連結する連結管32とを有する。
図1に示すように、タンク31内のエタノール水溶液EAは、連結管32を通過して、噴出部27に至る。噴出部27では、エタノール水溶液EAが食物廃棄物FWに向かって噴出する。これにより、エタノール水溶液EAが供給されることとなり、エタノール水溶液EAと食物廃棄物FWとが接触することができる。
【0020】
排出ライン4は、収納部2からエタノール水溶液EAをケルセチンQCとともに排出する、すなわち、混合液MLを排出する排出部である。排出ライン4は、収納部2の下蓋23と混合液回収部7とを連結する連結管41と、連結管41の途中に設けられたポンプ42とを有する。
【0021】
ポンプ42を作動させることにより、
図3に示すように、混合液MLは、連結管41に流入して、連結管41を迅速に通過することができる。そして、混合液MLは、連結管41から排出されて、混合液回収部7で回収される(排出工程)。
また、混合液MLは、連結管41(排出ライン4)に流入するのに先立って、収納部2のフィルタ部材24を通過する。その際、フィルタ部材24は、食物廃棄物FWを捕捉して、当該食物廃棄物FWが混合液MLとともに連結管41に流入するのを防止することができる。これにより、混合液回収部7で回収される混合液MLは、食物廃棄物FW等の不純物が除去された状態となる。混合液MLの回収後、当該混合液MLを精製することにより、エタノール水溶液EAとケルセチンQCとを分離して、ケルセチンQCを抽出することができる。
【0022】
循環ライン5は、混合液MLを排出ライン4を介して排出する前に、収納部2に対して混合液MLを循環させる循環部である。循環ライン5は、供給ライン3の連結管32の途中と、排出ライン4の連結管41の途中とを連結する連結管51と、連結管32と連結管51との連結箇所に設けられた切換弁52とを有する。
【0023】
切換弁52は、第1切換状態と第2切換状態とを取り得る。第1切換状態では、連結管41を通過した混合液MLは、混合液回収部7に向かわずに、連結管51に向かうことができる。第2切換状態では、連結管41を通過した混合液MLは、混合液回収部7に向うことができる。
【0024】
第1切換状態でポンプ42を作動させることにより、
図2に示すように、収納部2内の混合液MLは、連結管41、連結管51、連結管32を順に通過して、収納部2内に戻ることができる。このように、抽出装置1では、収納部2に対して、混合液MLの排出と、混合液MLの供給とを繰り返して、混合液MLを循環させることができる。この循環を所定時間(複数回)行うことにより、混合液MLは、食物廃棄物FWを複数回通過することとなり、結果、混合液ML中のケルセチンQCの濃度が経時的に高くなる。これにより、高濃度のケルセチンQCの抽出が可能となる。
【0025】
また、混合液MLには、塵や錆等が混在するおそれがある。この場合、混合液MLが食物廃棄物FWを複数回通過することにより、塵や錆等を食物廃棄物FWで捕捉することができる。このように食物廃棄物FWは、塵や錆等を捕捉するフィルタ機能を有する。これにより、混合液回収部7で回収される混合液MLは、塵や錆等が除去された状態となる。
【0026】
混合液MLの循環後、第2切換状態に切り換えることにより、前記のように、排出ライン4を介して混合液MLを排出することができる。この混合液MLは、高濃度のケルセチンQCを含んだ状態となっている。
【0027】
熱交換部6は、供給ライン3の連結管32の途中に設けられた加熱部61と、排出ライン4の連結管41の途中に設けられた冷却部62とを有する。なお、熱交換部6の構成としては、特に限定されず、例えば、ペルチェ素子を有する構成とすることができる。
加熱部61は、連結管32を通過するエタノール水溶液EAを加熱することができる(加熱工程)。これにより、加熱されたエタノール水溶液EAを収納部2に供給して、食物廃棄物FWに接触させることができる。また、加熱されたエタノール水溶液EAが収納部2に供給されることにより、収納部2内の圧力が上昇して、収納部2内が加圧状態となる。このような加熱と加圧との相乗効果により、ケルセチンQCの抽出が促進される。
【0028】
また、加熱部61は、常圧時のエタノール水溶液EAの沸点よりも高い温度で、エタノール水溶液EAを加熱するのが好ましい。これにより、ケルセチンQCの抽出がさらに促進されて、ケルセチンQCを効率よく得ることができる。
また、加熱部61による加熱は、混合液MLの循環中も継続される。これにより、混合液MLも加熱されることとなり、エタノール水溶液EAを加熱したときと同様に、ケルセチンQCの抽出促進に寄与する。
【0029】
加熱部61(加熱工程)は、本実施形態ではエタノール水溶液EAを供給ライン3内で加熱しているが、これに限定されず、例えば、収納部2内で加熱してもよいし、供給ライン3内および収納部2内の双方で加熱してもよい。
【0030】
冷却部62は、連結管41を通過する混合液MLを冷却することができる(冷却工程)。これにより、混合液MLを回収する際に、混合液MLを十分に冷ますことができ、よって、排出工程で混合液MLを容易かつ安全に回収することができる。
【0031】
前記のように、ケルセチンQCは、体内摂取により、生活習慣病の予防効果、若年性アルツハイマー病の予防効果等が期待できる。そして、本発明によれば、食物廃棄物FWからケルセチンQCを容易かつ迅速に抽出することができる。食物廃棄物FWは、通常は食されずに、そのまま廃棄処分されるが、ケルセチンQCが抽出されるため、有効利用される。
【0032】
<第2実施形態>
以下、
図5〜
図7を参照して本発明の抽出装置および抽出方法の第2実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、エタノール水溶液の供給の態様が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0033】
食物廃棄物FWが玉ねぎの外皮である場合、玉ねぎの外皮を収納部2に単に投入しただけであると、玉ねぎの外皮同士の間に比較的大きな隙間が生じて、玉ねぎの外皮が収納部2内で容易に嵩張り、収納部2内を過剰に満たしてしまうことがある。そして、この状態でエタノール水溶液EAを供給しても、エタノール水溶液EAが玉ねぎの外皮同士の間をすり抜けてしまい、当該外皮との接触が不十分となるおそれがある。
【0034】
本実施態の抽出装置1は、このような不具合を解消可能に構成されている。
図5に示すように、収納部2内では、食物廃棄物FW、すなわち、玉ねぎの外皮が嵩張った状態となっている。そして、この状態の収納部2内にエタノール水溶液EAを供給する。この1次供給により、食物廃棄物FWがエタノール水溶液EAを吸収して、徐々に収縮していく。これにより、
図6に示すように、食物廃棄物FWの嵩が低下した状態となる。また、このとき1次供給を停止する。
【0035】
次いで、
図7に示すように、エタノール水溶液EAを再度供給する。この2次供給により、エタノール水溶液EAと食物廃棄物FWとの接触が十分となり、ケルセチンQCの抽出が行われる。
以上のように、抽出装置1では、供給ライン3がエタノール水溶液EAを段階的に供給することができる。これにより、収納部2内での食物廃棄物FWの嵩が過剰であったとしても、その嵩を一旦低下させて、食物廃棄物FWを、ケルセチンQCの抽出に適した状態とすることができる。
【0036】
<第3実施形態>
以下、
図8、
図9を参照して本発明の抽出装置および抽出方法の第3実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、循環ラインが省略されており、エタノール水溶液の供給の態様が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0037】
図8に示すように、抽出装置1では、エタノール水溶液EAを供給して、一旦収納部2内を、エタノール水溶液EAの液面が食物廃棄物FWの嵩よりも高い位置にある浸漬状態とする。
【0038】
次いで、
図9に示すように、収納部2へのエタノール水溶液EAの供給を継続していき、その供給量分だけ、収納部2から混合液MLを排出する。これにより、収納部2内での浸漬状態を維持することができる。浸漬状態により、食物廃棄物FWのエタノール水溶液EAとの接触面積を増大させることができる。これにより、ケルセチンQCの抽出が効率的に行われる。
【0039】
<第4実施形態>
以下、
図10を参照して本発明の抽出装置および抽出方法の第4実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、抽出装置が洗浄液供給ラインを備えること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0040】
図10に示すように、本実施形態の抽出装置1は、洗浄液供給ライン8を備える。洗浄液供給ライン8は、洗浄液CSを収納部2に供給する洗浄液供給部である。洗浄液供給ライン8は、洗浄液CSが予め貯留された収納部81と、収納部81と供給ライン3の連結管32の途中を連結する連結管82と、連結管32と連結管82との連結箇所に設けられた切換弁83とを有する。
【0041】
連結管82は、連結管32の連結管51との連結箇所よりも上流側に連結されている。
切換弁83は、第1切換状態と第2切換状態とを取り得る。第1切換状態では、
図10に示すように、連結管82を通過した洗浄液CSが、連結管32に流入することができる。第2切換状態では、連結管82を通過した洗浄液CSは、連結管32への流入が遮断される。
また、洗浄液CSとしては、特に限定されず、例えば、純水を用いることができる。
【0042】
排出工程では、食物廃棄物FWに、エタノール水溶液EAおよびケルセチンQC、すなわち、混合液MLがどうしても残留してしまう。
そこで、排出工程で切換弁83を第1切換状態とすることにより、洗浄液CSを収納部2内に供給することができる。なお、収納部2内への洗浄液CSの供給を停止する場合には、切換弁83を第2切換状態とする。
【0043】
洗浄液CSの供給により、食物廃棄物FWに残留した混合液MLを洗浄液CSで押し流すことができ、よって、食物廃棄物FWから混合液MLを除去することができる。これにより、ケルセチンQCを無駄なく回収することができる、すなわち、ケルセチンQCの回収率が向上する。また、食物廃棄物FWに混合液MLが残留した場合に生じるエタノール臭を防止することができる。これにより、例えば、ケルセチンQCが抽出された食物廃棄物FWを廃棄処分する際、その廃棄作業者が、不快なエタノール臭を嗅ぐのを防止することができる。
【0044】
<第5実施形態>
以下、
図11を参照して本発明の抽出装置および抽出方法の第5実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、抽出装置が不活性ガス供給ラインを備えること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0045】
図11に示すように、本実施形態の抽出装置1は、不活性ガス供給ライン9を備える。不活性ガス供給ライン9は、収納部2に不活性ガスIGを供給する不活性ガス供給部である。不活性ガス供給ライン9は、不活性ガスIGが予め貯留されたタンク91と、タンク91と排出ライン4の連結管41の途中とを連結する連結管92と、連結管41と連結管92との連結箇所に設けられた切換弁93とを有する。
【0046】
連結管92は、連結管41のポンプ42よりも上流側に連結されている。
切換弁93は、第1切換状態と第2切換状態とを取り得る。第1切換状態では、
図11に示すように、連結管92を通過した不活性ガスIGが、連結管41に流入することができる。第2切換状態では、連結管92を通過した不活性ガスIGは、連結管92への流入が遮断される。
また、不活性ガスIGとしては、特に限定されず、例えば、窒素が用いられる。
【0047】
ケルセチンQCは、比較的酸化し易いことが知られている。
そこで、密閉工程とエタノール水溶液供給工程(加熱工程)との間で、収納部2内に不活性ガスIGを供給する不活性ガス供給工程を行うのが好ましい。不活性ガス供給工程を行うには、切換弁93を第1切換状態とする。これにより、タンク91からの不活性ガスIGは、連結管92、連結管41を順に通過して、収納部2に流入する。この流入が継続されることにより、収納部2内を不活性ガスIGで置換することができる。これにより、エタノール水溶液供給工程でケルセチンQCが抽出された際に、当該ケルセチンQCが酸化するのが防止される。
なお、収納部2内への不活性ガスIGの供給を停止する場合には、切換弁93を第2切換状態とする。
【0048】
以上、本発明の抽出装置および抽出方法を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。また、抽出装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0049】
また、本発明の抽出装置および抽出方法は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
また、収納部2内を加圧状態とする方法としては、前記各実施形態では、加熱されたエタノール水溶液EAを収納部2内に供給する方法を採っているが、これに限定されず、例えば、収納部2内に空気を供給する方法を採ってもよい。