【解決手段】(A)エポキシ樹脂及び(B)硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂の50wt%以上を4,4’−ベンゾフェノン系エポキシ樹脂とし、硬化剤の50wt%以上が二官能フェノール類と芳香族ジアミン類であり、かつ、二官能フェノール類を硬化剤の20〜80wt%、芳香族ジアミン類を硬化剤の80〜20wt%とし、エポキシ樹脂中のエポキシ基と硬化剤中の官能基の当量比を0.8〜1.5の範囲としたエポキシ樹脂組成物。このエポキシ樹脂組成物は、無機充填材を30〜95wt%含有することができ、電子材料および複合材料用に適する。
二官能フェノール類が4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンより選ばれる少なくとも1種のフェノール性化合物である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
芳香族ジアミン類が4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンより選ばれる少なくとも1種の芳香族ジアミン類である請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【背景技術】
【0002】
従来、ダイオード、トランジスタ、集積回路等の電気、電子部品や、半導体装置等の封止方法として、例えばエポキシ樹脂やシリコン樹脂等による封止方法やガラス、金属、セラミック等を用いたハーメチックシール(気密封止)法が採用されていたが、近年では信頼性の向上と共に大量生産が可能で、コストメリットのあるトランスファー成形による樹脂封止が主流を占めている。
【0003】
トランスファー成形による樹脂封止方法に用いられる樹脂組成物においては、エポキシ樹脂と、硬化剤としてフェノール樹脂を樹脂成分の主成分とする樹脂組成物からなる封止材料が一般的に使用されている。
【0004】
パワーデバイスなどの素子を保護する目的で使用されるエポキシ樹脂組成物は、素子が放出する多量の熱に対応するため、結晶シリカなどの無機充填材を高密度に充填している。
【0005】
パワーデバイスには、ICの技術を組み込んだワンチップで構成されるものやモジュール化されたものなどがあり、封止材料について熱放散性、耐熱性、熱膨張性の更なる向上が望まれている。
【0006】
これらの要求に対応するべく、熱伝導率を向上するために結晶シリカ、窒化珪素、窒化アルミニウム、球状アルミナ粉末を使用するといった試みがなされているが(特許文献1、2)、無機充填材の含有率を上げていくと成形時の粘度上昇とともに流動性が低下し、成形性が損なわれるといった問題が生じる。従って、単に無機充填材の含有率を高める方法には限界があった。
【0007】
上記背景から、マトリックス樹脂自体の高熱伝導率化によって組成物の熱伝導率を向上する方法も検討されている。例えば、特許文献2、特許文献3および特許文献4には、剛直なメソゲン基を有する液晶性のエポキシ樹脂およびそれを用いたエポキシ樹脂組成物が提案されている。しかし、これらのエポキシ樹脂組成物に用いる硬化剤として芳香族ジアミン化合物のみを用いており、無機充填材の高充填率化に限界があった。また、芳香族ジアミン化合物のみで硬化させた場合、硬化物の液晶性は確認できるものの、硬化物の結晶化度は低く、高熱伝導性、低熱膨張性、低吸湿性等の点で十分ではなかった。特許文献5には、ビスフェノール系のメソゲン構造を有するエポキシ樹脂と二官能性のフェノール性化合物を主成分とする硬化剤を用いたエポキシ樹脂組成物および硬化物が開示され、結晶性の硬化物を与えることが開示されているが、結晶性硬化物の融点の高さおよび融解熱が十分ではないうえに、ガラス転移点も十分ではなく硬化物としての耐熱性が不足していた。また、低吸水性、熱伝導率も十分ではなかった。
【0008】
特許文献6には、4,4’−ベンゾフェノン系エポキシ樹脂が示されているが、酸無水物を硬化剤として得られる硬化物が開示されるのみであり、高熱伝導性を発現する高次構造の制御された硬化物を与えるものではない。特許文献7には、4,4’−ベンゾフェノン系エポキシ樹脂と4,4’−ベンゾフェノン系硬化剤を組み合わせた系の結晶性硬化物が開示されているが、二官能性同士の反応のため架橋密度が上がらず、ガラス転移点が十分ではなかった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記一般式(1)で表される4,4’−ベンゾフェノン系エポキシ樹脂(ベンゾフェノン系エポキシ樹脂ともいう)は、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンとエピクロルヒドリンを反応させることにより製造することができる。この反応は、通常のエポキシ化反応と同様に行うことができる。例えば、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンを過剰のエピクロルヒドリンに溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下に、50〜150℃、好ましくは、60〜100℃の範囲で1〜10時間反応させる方法が挙げられる。この際、アルカリ金属水酸化物の使用量は、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン中の水酸基1モルに対して、0.8〜1.2モル、好ましくは、0.9〜1.0モルの範囲である。エピクロルヒドリンは、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン中の水酸基に対して過剰量が用いられ、通常は、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン中の水酸基1モルに対して、1.5から15モルである。反応終了後、過剰のエピクロルヒドリンを留去し、残留物をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解し、濾過し、水洗して無機塩を除去し、次いで溶剤を留去することにより目的のベンゾフェノン系エポキシ樹脂を得ることができる。
【0019】
上記一般式(1)において、nは0〜15の数であるが、nの値はエポキシ樹脂の合成反応時に用いるエピクロルヒドリンの4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンに対するモル比を変えることにより、容易に調整することができる。nの値は、適用する用途に応じて、適宜、選択することができる。例えば、フィラーの高充填率化を求められる半導体封止の用途では、低粘度で結晶性を有するものが好ましく、nの平均値として、0.01〜1.0の範囲にあるものが好適に選択される。これより大きいと粘度が高くなり取り扱い性が低下する。
【0020】
本発明に用いるベンゾフェノン系エポキシ樹脂は、原料として4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンと別種のフェノール性化合物と混合させたものを用いて合成することができる。この場合、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンの混合比率は50wt%以上である。混合される別種のフェノール性化合物に特に制約はないが、一分子中に水酸基を2個有する二官能性のものが好ましい。
【0021】
本発明に用いるエポキシ樹脂は、一般式(1)で表されるベンゾフェノン系エポキシ樹脂をエポキシ樹脂成分中50wt%以上、好ましくは80wt%以上、さらに好ましくは90wt%以上含む。このベンゾフェノン系エポキシ樹脂のエポキシ当量は、通常160から20,000の範囲であるが、好適なエポキシ当量は用途に応じて、適宜、選択される。例えば、半導体封止の用途では、無機フィラーの高充填率化および流動性向上の観点からは低粘度のものが良く、上記一般式(1)においてn=0体を主成分とするエポキシ当量が160から250の範囲のものが好ましい。また、積層板等の用途においては、フィルム性、可撓性付与の観点から、好ましくは400〜20,000の範囲である。
【0022】
一般式(1)で表されるベンゾフェノン系エポキシ樹脂の形態は用途に応じて、適宜、選択される。例えば、半導体封止の用途では、粉体で取り扱われる場合が多いため、常温で固形の結晶性のものが好ましく、望ましい融点は80℃以上であり、好ましい150℃での溶融粘度は0.005から0.2Pa・sである。また、積層材料、複合材料等の用途においては、溶剤に溶解させて使用される場合が多いため、エポキシ樹脂の形態に特段の制約はない。
【0023】
本発明に用いるエポキシ樹脂の純度、特に加水分解性塩素量は、適用する電子部品の信頼性向上の観点から少ない方がよい。特に限定するものではないが、好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下である。なお、本発明でいう加水分解性塩素とは、以下の方法により測定された値をいう。すなわち、試料0.5gをジオキサン30mlに溶解後、1N−KOH、10mlを加え30分間煮沸還流した後、室温まで冷却し、さらに80%アセトン水100mlを加え、0.002N−AgNO
3水溶液で電位差滴定を行い得られる値である。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、本発明の必須成分として使用される一般式(1)で表されるベンゾフェノン系エポキシ樹脂以外に、分子中にエポキシ基を2個以上有する他のエポキシ樹脂を併用してもよい。例を挙げれば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、フルオレンビスフェノール、4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ビフェノール、レゾルシン、カテコール、t−ブチルカテコール、t−ブチルハイドロキノン、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5‐ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,4−ジヒドロキシナフタレン、2,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,8−ジヒドロキシナフタレン、上記ジヒドロキシナフタレンのアリル化物又はポリアリル化物、アリル化ビスフェノールA、アリル化ビスフェノールF、アリル化フェノールノボラック等の2価のフェノール類、あるいは、フェノールノボラック、ビスフェノールAノボラック、o−クレゾールノボラック、m−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、キシレノールノボラック、ポリ−p−ヒドロキシスチレン、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フルオログリシノール、ピロガロール、t−ブチルピロガロール、アリル化ピロガロール、ポリアリル化ピロガロール、1,2,4−ベンゼントリオール、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂等の3価以上のフェノール類、または、テトラブロモビスフェノールA等のハロゲン化ビスフェノール類から誘導されるグリシジルエーテル化物等がある。これら他のエポキシ樹脂は、1種または2種以上を混合して用いることができる。この場合、硬化物とした際の熱伝導率の向上の観点から、エポキシ樹脂において、一般式(1)のベンゾフェノン系エポキシ樹脂を含めた二官能性エポキシ樹脂の合計量が好ましくは80wt%以上、より好ましくは90wt%以上とすることが良い。
【0025】
ベンゾフェノン系エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂として、特に好ましいエポキシ樹脂は、下記一般式(2)で表されるビスフェノール系エポキシ樹脂である。
【化2】
(但し、R
1〜R
3は、ハロゲン原子、炭素数1〜8の炭化水素基、または炭素数1〜8のアルコキシ基を示し、mは0〜5の数、Xは単結合、メチレン基、酸素原子、スルホン基、硫黄原子を示す。)
【0026】
上記ビスフェノール系エポキシ樹脂は、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィドを原料として、通常のエポキシ化反応を行うことで合成することができる。これらのエポキシ樹脂は、原料段階で4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンと混合させたものを用いて合成することができる。これらのなかで特に好ましいものは、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルから合成されるエポキシ樹脂であり、取扱性に優れた結晶性のエポキシ樹脂を与えるとともに、熱伝導性にも優れた成形物を与えることができる。
【0027】
本発明に硬化剤として用いる二官能フェノール類は、エポキシ樹脂と二次元的に反応が進行する硬化剤である。具体的にはハイドロキノン、2,5−ジメチルハイドロキノン、2,3,5−トリメチルハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、ジヒドロキシジフェニルメタン類、ナフタレンジオール類等を挙げることができるが、硬化物の結晶化度を向上させるためには、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタンが好ましい。
【0028】
本発明に硬化剤として用いる芳香族ジアミン類は、エポキシ樹脂と三次元架橋反応を起こす多官能性の硬化剤である。例えば、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルアミド、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルアミド、1,5−ジアミノナフタレン等が例示される。本発明に用いる芳香族ジアミン類は、これらからなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族ジアミン類が好適に使用される。
【0029】
硬化物の結晶化は、水素結合等の分子間の相互作用が大きいものほど進行しやすく、好ましい芳香族ジアミン類は、極性基を持つ4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルアミドであるが、特に好ましいものは、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノンである。
【0030】
本発明に硬化剤として用いる二官能フェノール類および芳香族ジアミン類は、硬化物とした際の熱伝導率の向上の観点から、その合計量が硬化剤成分の50wt%以上である。二官能フェノール類の割合は硬化剤中の20〜80wt%であるが、好ましくは20〜70wt%、より好ましくは20〜60wt%である。芳香族ジアミン類の割合は硬化剤の80〜20wt%であるが、耐熱性の観点から芳香族ジアミン類の割合は30〜80wt%が好ましく、より好ましくは40〜80wt%である。
【0031】
さらに本発明のエポキシ樹脂組成物に用いる硬化剤としては、上記の二官能フェノール類および芳香族ジアミン類以外に、硬化剤として一般的に知られている他の硬化剤を併用して用いることができる。例を挙げれば、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤等が挙げられる。これらの硬化剤の配合量は、配合する硬化剤の種類や得られる熱伝導性エポキシ樹脂成形体の物性を考慮して適宜設定すればよい。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物では、エポキシ樹脂と硬化剤の配合比率は、エポキシ基と硬化剤中の官能基が当量比で0.8〜1.5の範囲である。この範囲外では硬化後も未反応のエポキシ基、又は硬化剤中の官能基が残留し、電気絶縁材料としての信頼性が低下するため好ましくない。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、エポキシ樹脂硬化物の熱伝導性等の物性を向上させるため、無機充填材を適量配合することができる。無機充填材としては、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭素材料等が挙げられる。金属としては、銀、銅、金、白金、ジルコン等、金属酸化物としてはシリカ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、三酸化タングステン等、金属窒化物としては窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等、金属炭化物としては炭化ケイ素等、金属水酸化物としては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等、炭素材料としては炭素繊維、黒鉛化炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、球状黒鉛粒子、メソカーボンマイクロビーズ、ウィスカー状カーボン、マイクロコイル状カーボン、ナノコイル状カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等が挙げられる。無機充填材の形状としては、破砕状、球状、ウィスカー状、繊維状のものが適用できる。これらの無機充填材は単独で配合してもよく、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0034】
無機充填材の添加量は、エポキシ樹脂組成物に対して30〜95wt%であるが、好ましくは50〜95wt%である。これより少ないと高熱伝導性、低熱膨張性、高耐熱性等の効果が十分に発揮されない。これらの効果は、無機充填材の添加量が多いほどよいが、その体積(重量)分率に応じて向上するものではなく、特定の添加量から飛躍的に向上する。これらの物性は、樹脂成分の高分子状態での高次構造が制御された効果によるものであり、この高次構造が主に無機充填材表面で達成されることから、特定量の無機充填材を必要とするものであると考えられる。一方、無機充填材の添加量がこれより多いと粘度が高くなり、成形性が悪化するため好ましくない。
【0035】
無機充填材は球状のものが好ましく、断面が楕円状であるものも含めて球状であれば特に限定されるものではないが、流動性改善の観点からは、極力真球状に近いものであることが特に好ましい。これにより、面心立方構造や六方稠密構造等の最密充填構造をとり易く、充分な充填量を得ることができる。球形でない場合、充填量が増えると充填材同士の摩擦が増え、上記の上限に達する前に流動性が極端に低下して粘度が高くなり、成形性が悪化するため好ましくない。
【0036】
熱伝導率向上の観点からは、無機充填材のうち、熱伝導率が5W/m・K以上である無機充填材を50wt%以上使用することが好ましく、アルミナ、窒化アルミニウム、結晶シリカ等が好適に使用される。これらの中で特に好ましいものは、球状アルミナである。その他、必要に応じて形状に関係なく無定形無機充填材、例えば溶融シリカ、結晶シリカなどを併用しても良い。
【0037】
無機充填材の平均粒径は30μm以下であることが好ましい。平均粒径がこれより大きいとエポキシ樹脂組成物の流動性が損なわれ、また強度も低下するため好ましくない。
【0038】
また、無機充填材は、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維状基材、あるいは繊維状基材と粒子状無機充填材を併用したものであっても良い。本発明のエポキシ樹脂組成物を繊維状基材と複合化させる場合には、溶剤を使用しワニスとして、シート状とした繊維状基材(織布や不織布)に含浸し乾燥して本発明半硬化状態のプリプレグとすることができる。エポキシ樹脂組成物の溶液を加熱して部分的に硬化反応させたエポキシ樹脂組成物を、シート状繊維基材に含浸し加熱乾燥することもよい。
この場合の溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール等のアルコール溶剤、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の極性溶剤を使用することができる。
【0039】
このようにして作成したプリプレグは、銅箔、アルミニウム箔、ステンレス箔等の金属基材、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、テフロン等の高分子基材と積層することができる。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、従来より公知の硬化促進剤を用いることができる。例を挙げれば、アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン類、ルイス酸等があり、具体的には、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−へプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフイン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレートなどのテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルポレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルポレートなどのテトラフェニルボロン塩などがある。これらは単独で用いても良く、併用しても良い。
【0041】
硬化促進剤の添加量としては、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.2〜10重量部の範囲である。添加量が少ないと成形性が劣る傾向となる一方、多すぎると成形途中で硬化が進んでしまい、無機充填材の未充填が発生し易くなる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、エポキシ樹脂組成物に一般的に用いられる離型剤としてワックスが使用できる。ワックスとしては、例えばステアリン酸、モンタン酸、モンタン酸エステル、リン酸エステル等が使用可能である。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、無機充填材と樹脂成分の接着力を向上させるため、エポキシ樹脂組成物に一般的に用いられるカップリング剤を用いることができる。カップリング剤としては、例えばエポキシシランが使用可能である。カップリング剤の添加量は、エポキシ樹脂組成物に対して、0.1〜2.0質量%が好ましい。0.1質量%未満では樹脂と基材のなじみが悪く成形性が悪くなり、逆に2.0質量%を超えると連続成形性での成形品汚れが生じる。
【0044】
また本発明のエポキシ樹脂組成物には、成形時の流動性改良およびリードフレーム等の基材との密着性向上の観点より、熱可塑性のオリゴマー類を添加することができる。熱可塑性のオリゴマー類としては、C5系およびC9系の石油樹脂、スチレン樹脂、インデン樹脂、インデン・スチレン共重合樹脂、インデン・スチレン・フェノール共重合樹脂、インデン・クマロン共重合樹脂、インデン・ベンゾチオフェン共重合樹脂等が例示さえる。添加量としては、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、2〜30重量部の範囲である。
【0045】
さらに本発明のエポキシ樹脂組成物には、一般的にエポキシ樹脂組成物に使用可能なものを適宜配合して用いることができる。例えば、リン系難燃剤、ブロム化合物や三酸化アンチモン等の難燃剤、及びカーボンブラックや有機染料等の着色剤等を使用することができる。
【0046】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材と、カップリング剤以外のその他の成分をミキサー等によって均一に混合した後、カップリング剤を添加し、加熱ロール、ニーダー等によって混練して製造する。これらの成分の配合順序には特に制限はない。更に、混練後に溶融混練物の粉砕を行い、パウダー化することやタブレット化することも可能である。
【0047】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、電気絶縁材料として有用であり、特に半導体装置に封止用として好適に用いられる。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて成形物を得るためには、例えば、トランスファー成形、プレス成形、注型成形、射出成形、押出成形等の方法が適用されるが、量産性の観点からは、トランスファー成形が好ましい。この成形の際、加熱が行われ、硬化(重合)が生じる。したがって、得られる成形物は重合した樹脂の成形物であるので、硬化成形物ともいう。
【0049】
本発明の硬化物は、高耐熱性、低熱膨張性および高熱伝導性の観点から結晶性を有するものであることが好ましい。成形物の結晶性の発現は、走査示差熱分析で結晶の融解に伴う吸熱ピークを融点として観測することにより確認することができる。好ましい融点は120℃から350℃の範囲であり、より好ましくは180℃から320℃の範囲、特に好ましくは200℃から300℃の範囲である。
【0050】
本発明の硬化物の結晶化度は高いものほどよい。ここで結晶化の程度は、走査示差熱分析での結晶の融解に伴う吸熱量から評価することができる。好ましい吸熱量は、充填材を除いた樹脂成分の単位重量あたり10J/g以上である。より好ましくは20J/g以上であり、特に好ましくは30J/g以上である。これより小さいと成形物としての耐熱性、低熱膨張性および熱伝導率の向上効果が小さい。なお、ここでいう吸熱量は、示差走査熱分析計により、約10mgを精秤した試料を用いて、窒素気流下、昇温速度10℃/分の条件で測定して得られる吸熱ピークの積分値を指す。また、結晶化した本発明の硬化成形物は、広角X線回折においても、明確なピークとして観察することができる。この場合、結晶化度は、全体のピーク面積から結晶化していないアモルファス状樹脂のピークを差引いた面積を全体のピーク面積で除することにより求めることができる。このようにして求めた望ましい結晶化度は15%以上、より望ましくは30%以上、特に望ましくは50%以上である。
【0051】
本発明の硬化物は、上記成形方法により加熱成形させることにより得ることができるが、通常、成形温度としては80℃から250℃であるが、成形物の結晶化度を上げるためには、得られる硬化成形物の融点よりも低い温度で成形することが望ましい。好ましい成形温度は100℃から220℃の範囲であり、より好ましくは150℃から200℃である。また、好ましい成形時間は30秒から1時間であり、より好ましくは1分から30分である。さらに成形後、ポストキュアにより、さらに結晶化度を上げることができる。通常、ポストキュア温度は130℃から250℃であり、時間は1時間から20時間の範囲であるが、好ましくは、示差熱分析における吸熱ピーク温度よりも5℃から40℃低い温度で、1時間から24時間かけてポストキュアを行うことが望ましい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0053】
参考例1
4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン1070gをエピクロルヒドリン6500gに溶解し、60℃にて減圧下(約130Torr)、48%水酸化ナトリウム水溶液808gを4時間かけて滴下した。この間、生成する水はエピクロルヒドリンとの共沸により系外に除き、留出したエピクロルヒドリンは系内に戻した。滴下終了後、さらに1時間反応を継続して脱水後、エピクロルヒドリンを留去し、メチルイソブチルケトン3500gを加えた後、水洗を行い塩を除いた。その後、80℃にて20%水酸化ナトリウムを100g添加して2時間攪拌し、温水1000mLで水洗した。その後、分液により水を除去後、メチルイソブチルケトンを減圧留去し、淡黄色結晶状のエポキシ樹脂1460gを得た(エポキシ樹脂A)。
【0054】
エポキシ樹脂Aのキャピラリー法による融点は128℃から131℃であり、150℃での粘度は11.6mPa・sであった。エポキシ当量は179であり、加水分解性塩素は270ppm、得られた樹脂のGPC測定より求められた一般式(1)における各成分比は、n=0が91.0%、n=1が8.2%であった。ここで、加水分解性塩素とは、試料0.5gをジオキサン30mlに溶解後、1N−KOH、10mlを加え30分間煮沸還流した後、室温まで冷却し、さらに80%アセトン水100mlを加えたものを、0.002N−AgNO
3水溶液で電位差滴定を行うことにより測定された値である。また融点とは、キャピラリー法により昇温速度2℃/分で得られる値である。粘度はBROOKFIELD製、CAP2000Hで測定し、軟化点はJIS K−6911に従い環球法で測定した。また、GPC測定は、装置; 東ソー(株)製、HLC−8320型、カラム;TSKgel SuperHZ2500×2本、TSKgel SuperHZ2000×2本、(いずれも東ソー(株)製)、溶媒;テトラヒドロフラン、流量;0.35 ml/min、温度;40℃、検出器;RIの条件に従った。
【0055】
実施例1〜7、比較例1〜7
エポキシ樹脂成分として、参考例1のエポキシ樹脂(エポキシ樹脂A)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルのエポキシ化物(エポキシ樹脂B:日鉄ケミカル&マテリアル(株)製、YSLV−80DE、エポキシ当量174)又はビフェニル系エポキシ樹脂(エポキシ樹脂C:三菱化学製、YX−4000H、エポキシ当量195)を使用し、硬化剤とした二官能フェノールとして、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン(フェノールA)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル(フェノールB)、芳香族ジアミンとして4,4’−ジアミノスルホン(ジアミンA)、4,4’−ジアミノジフェニルベンゾフェノン(ジアミンB)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ジアミンC)を使用した。また、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン、無機充填材として、球状アルミナ(平均粒径12.2μm)を使用した。表1に示す成分を配合し、ミキサーで十分混合した後、加熱ロールで約5分間混練したものを冷却し、粉砕してそれぞれ実施例1〜7、比較例1〜7のエポキシ樹脂組成物を得た。
このエポキシ樹脂組成物を用いて160℃で8分の条件で成形し、160℃で5時間ポストキュアを行い、硬化成形物の各種物性を評価した。なお、成形性は、離型性や表面平滑度などからして、いずれの組成物も問題無かった。
【0056】
結果をまとめて表1に示す。なお、表1中の各配合物の数字は重量部を表す。また、評価は次により行った。
【0057】
[評価]
(1)熱伝導率
熱伝導率は、NETZSCH製LFA447型熱伝導率計を用いて非定常熱線法により測定した。
(2)融点、融解熱の測定(DSC法)
示差走査熱量分析装置((株)日立ハイテクサイエンス製DSC7020型)を用い、昇温速度10℃/分で測定した。吸熱のピーク温度を融点、吸熱ピークの積分値を融解熱とした。
(3)線膨張係数、ガラス転移温度
線膨張係数およびガラス転移温度は、(株)日立ハイテクサイエンス製TMA7100型熱機械測定装置を用いて、昇温速度10℃/分にて測定した。
(4)吸水率
エポキシ樹脂組成物を170℃、5分の条件で、直径50mm、厚さ3mmの円盤に成形し、ポストキュア後、85℃、相対湿度85%の条件で100時間吸湿させた後の重量変化率とした。
【0058】
【表1】