【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電気防食工法は、
電気防食の対象となるコンクリート構造物中の鋼材が露出するようにコンクリートを斫り取って凹部を形成し、鋼材における凹部内に露出した部分に排流端子を連結し、凹部を埋戻材で埋め戻して埋戻部を形成する電気防食工法において、
基準埋戻材で形成した基準埋戻部と基準コンクリートで形成した基準コンクリート部とを備える基準構造物における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、
基準構造物に埋設された鋼材に基準構造物に設置した陽極材から電流を供給する電流供給工程を行った際に基準埋戻部および基準コンクリート部における鋼材の分極量が100mVとなるときの基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である基準電気抵抗率比と、
の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求め、
該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成する。
要求電気抵抗率=対象電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)
【0012】
斯かる構成によれば、基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求める。そして、該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成する。これにより、対象コンクリート構造物における埋戻部以外の領域に位置する鋼材で100mV程度の分極を生じさせても埋戻部に位置する鋼材では100mVを超えないことになる。このため、埋戻部以外の領域で効果的な電気防食を行いつつ、埋戻部では鋼材に過剰な防食電流が供給されるのを抑制することができる。
【0013】
本発明に係る電気防食工法は、
基準埋戻部の電気抵抗率が異なる複数の基準構造物のそれぞれにおける基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である個別基準電気抵抗率比と、
各基準構造物に前記電流供給工程を行って基準コンクリート部における鋼材の分極量を100mVとした際の基準埋戻部における鋼材の分極量と、
の関係を示す散布図を作成し、該散布図に基づいて個別基準電気抵抗率比に対する基準埋戻部における鋼材の分極量の近似曲線を作成し、
該近似曲線に基づいて基準埋戻部における鋼材の分極量が100mVであるときの個別基準電気抵抗率比を求め、該個別基準電気抵抗率比を前記基準電気抵抗率比とすることが好ましい。
【0014】
斯かる構成によれば、個別基準電気抵抗率比と、基準コンクリート部における鋼材の分極量を100mVとした際の基準埋戻部における鋼材の分極量と、の関係を示す散布図を作成する。そして、該散布図の近似曲線に基づいて基準埋戻部における鋼材の分極量が100mVであるときの個別基準電気抵抗率比を求め、該個別基準電気抵抗率比を前記基準電気抵抗率比とする。これにより、基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図をより正確に作成することができるため、上記の効果を得るために要求される埋戻部の電気抵抗率をより正確に推定することができる。
【0015】
本発明に係る電気防食工法は、
基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量が異なる複数の基準構造物のそれぞれにおける基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、前記複数の基準構造物のそれぞれにおける前記基準電気抵抗率比と、
の関係を示す散布図を作成し、該散布図に基づいて塩化物イオンの含有量に対する基準電気抵抗率比の近似曲線を作成し、
該近似曲線に基づいて対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する対象電気抵抗率比を求めることが好ましい。
【0016】
斯かる構成によれば、基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量が異なる複数の基準構造物のそれぞれにおける基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、前記複数の基準構造物のそれぞれにおける前記基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図を作成すると共に、該散布図の近似曲線を作成する。そして、該近似曲線に基づいて対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する対象電気抵抗率比を求めることで、上記の効果を得るために要求される埋戻部の電気抵抗率を対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に基づいて容易に推定することができる。
【0017】
本発明に係る埋戻材の選定方法は、
電気防食の対象となるコンクリート構造物中の鋼材が露出するようにコンクリートを斫り取って凹部を形成し、鋼材における凹部内に露出した部分に排流端子を連結し、凹部を埋戻材で埋め戻して埋戻部を形成する際の埋戻材の選定方法であって、
基準埋戻材で形成した基準埋戻部と基準コンクリートで形成した基準コンクリート部とを備える基準構造物における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、
基準構造物に埋設された鋼材に基準構造物に設置した陽極材から電流を供給する電流供給工程を行った際に基準埋戻部および基準コンクリート部における鋼材の分極量が100mVとなるときの基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である基準電気抵抗率比と、
の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求め、該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成する埋戻材を選定する。
要求電気抵抗率=対象電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)
【0018】
斯かる構成によれば、基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する対象電気抵抗率比を求める。そして、該対象基準電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成する埋戻材を選定する。これにより、選定した埋戻材で対象コンクリート構造物に埋戻部を形成した際に、対象コンクリート構造物における埋戻部以外の領域に位置する鋼材で100mV程度の分極を生じさせても埋戻部に位置する鋼材では100mVを超えないことになる。このため、埋戻部以外の領域で効果的な電気防食を行いつつ、埋戻部では鋼材に過剰な防食電流が供給されるのを抑制することができる。
【0019】
本発明に係る排流端子の設置方法は、
電気防食の対象となるコンクリート構造物中の鋼材が露出するようにコンクリートを斫り取って凹部を形成し、鋼材における凹部内に露出した部分に排流端子を連結し、凹部を埋戻材で埋め戻して埋戻部を形成する排流端子の設置方法であって、
基準埋戻材で形成した基準埋戻部と基準コンクリートで形成した基準コンクリート部とを備える基準構造物における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、
基準構造物に埋設された鋼材に基準構造物に設置した陽極材から電流を供給する電流供給工程を行った際に基準埋戻部および基準コンクリート部における鋼材の分極量が100mVとなるときの基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である基準電気抵抗率比と、
の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求め、該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成する。
要求電気抵抗率=対象電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)
【0020】
本発明に係るコンクリート構造物は、
電気防食の対象となるコンクリート構造物中の鋼材が露出するようにコンクリートが斫り取られて形成された凹部と、鋼材における凹部内に露出した部分に連結された排流端子と、凹部が埋戻材で埋め戻されて形成された埋戻部とを備えるコンクリート構造物であって、
基準埋戻材で形成した基準埋戻部と基準コンクリートで形成した基準コンクリート部とを備える基準構造物における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、基準構造物に埋設された鋼材に基準構造物に設置した陽極材から電流を供給する電流供給工程を行った際に基準埋戻部および基準コンクリート部における鋼材の分極量が100mVとなるときの基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図における対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて算出される要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を備える。
要求電気抵抗率=対象電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)