【解決手段】本発明のリチウムイオンポリマー電池は、充電によりリチウムイオンを脱離可能な正極材料を少なくとも含む正極と、集電体上にイオン導電性高分子層を設けた負極と、を備える。
前記イオン導電性高分子層が、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド構造を含む共重合体、エチレンオキシド、エチレンオキシド構造を含む共重合体、またはそれらの誘導体からなるイオン導電性ポリマーと、リチウム塩とを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオンポリマー電池。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のリチウムイオンポリマー電池およびその製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
[リチウムイオンポリマー電池]
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池は、充電によりリチウムイオンを脱離可能な正極材料を少なくとも含む正極と、集電体上にイオン導電性高分子層を設けた負極と、を備える。
【0020】
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、正極が、正極集電体と、その正極集電体の少なくとも一主面に形成され、正極材料を含む正極合剤層(正極)と、を備える。また、本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、負極が、負極集電体と、その負極集電体の少なくとも一主面に形成されたイオン導電性高分子層(負極)と、を備える。
【0021】
[正極]
「正極合剤層」
正極合剤層は、正極材料を含む。
【0022】
正極合剤層の厚さは、1μm以上10000μm以下であることが好ましく、10μm以上5000μm以下であることがより好ましい。正極合剤層の厚さが厚い程、電池の容量を高くできる。一方、正極合剤層の厚さが厚くなり過ぎると、抵抗増加により出力低下を招くことがある。
【0023】
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、正極合剤層における正極材料の含有量が50質量%以上99質量%以下であることが好ましく、60質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。正極材料の含有量が多い程、電池の容量を高くできる。一方、正極材料の含有量が多過ぎる場合には、導電性の低下による出力低下や、結着性の低下による正極合剤の剥離・脱落等による耐久性の低下が生じることがある。
【0024】
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、正極合剤層が、正極材料以外の成分を含んでいてもよい。正極材料以外の成分としては、例えば、イオン導電性高分子、結着剤、導電助剤等が挙げられる。
【0025】
結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
【0026】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、ファーネスブラックの粒子状炭素や、気相成長炭素繊維(VGCF;Vapor Grown Carbon Fiber)およびカーボンナノチューブ等の繊維状炭素からなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0027】
「正極材料」
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、正極材料が、充電によりリチウムイオン(Li
+)を脱離可能な材料である。詳細には、リチウム基準で0Vを超える電圧での充電により、リチウムイオン(Li
+)を脱離可能な材料である。ポリマーその他の部材の耐電圧から上限電圧は規定されるが、耐電圧の範囲内でより電圧が高い方が、より容量の高い電池が得られる。例えば、ポリエチレンオキシド系導電性ポリマーを使用する場合、上限電圧は4.5V以下が好ましい。本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、正極材料としては、一般式Li
xA
yD
zPO
4(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる正極活物質からなる中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む炭素質被覆正活物質や、LiAO
2(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種)で表わされる化合物(正極活物質)、Li
2MO
3(但し、MはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種)で表わされる化合物(正極活物質)等が挙げられる。これらのなかでも、正極材料としては、一般式Li
xA
yD
zPO
4(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる正極活物質からなる中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む炭素質被覆正活物質が好ましい。
【0028】
中心粒子の結晶子径が、10nm以上かつ1000nm以下であることが好ましく、50nm以上かつ300nm以下であることがより好ましい。中心粒子の結晶子径が10nm未満であると、中心粒子の表面を熱分解炭素質被膜で充分に被覆するためには多くの炭素を必要とし、また、大量の結着剤が必要となるために、正極中の中心粒子の含有量が低下し、電池の容量が低下することがある。同様に、結着力不足により炭素質被膜が剥離することがある。一方、中心粒子の結晶子径が1000nmを超えると、中心粒子の内部抵抗が大きくなり、電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量を低下させることがある。また、充放電を繰り返す際に、中間相を形成しやすく、そこから構成元素が溶出することで、容量が低下してしまう。
【0029】
中心粒子の結晶子径の算出方法としては、X線回折測定により測定した粉末X線回折図形をウィリアムソン−ホール法により解析することで、結晶子径を決定することが実行可能である。
【0030】
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、中心粒子の平均粒子径は、10nm以上1000μm以下であることが好ましく、50nm以上10μm以下であることがより好ましい。中心粒子の平均粒子径が大きい程、結着剤等の使用を減らすことができるため、容量が高い電池を得ることが可能である。一方、大き過ぎると、粒子内イオン拡散や反応面積の低下により出力が低下することがある。
【0031】
中心粒子の平均粒子径は、レーザー回折法等の粒度分布測定法や電子顕微鏡を用いた観察等で求めることができる。
【0032】
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、中心粒子の比表面積が0.2m
2/g以上30m
2/g以下であることが好ましく、5m
2/g以上20m
2/g以下であることがより好ましい。中心粒子の比表面積が小さい程、結着剤等の使用を減らすことができるため、容量が高い電池を得ることが可能である。一方、比表面積が小さくなり過ぎると、粒子内イオン拡散や反応面積の低下により出力が低下することがある。
【0033】
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、中心粒子の比表面積は、比表面積計を用いて、窒素(N
2)吸着によるBET法により求められる。
【0034】
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、正極材料における中心粒子の含有量が95質量%以上100質量%以下であることが好ましく、98質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。中心粒子の含有量が多い程、容量は向上するが、活物質の性質によっては導電性を持たないため、導電性炭素質被覆の欠乏は抵抗の増加、すなわち出力の低下を招く。
【0035】
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、正極材料が、正極活物質の一次粒子と、この一次粒子(正極活物質)の表面を被覆する炭素質被膜(熱分解炭素質被膜)と、を有する炭素質被覆正極活物質を含んでもよい。また、本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、正極材料が、炭素質被覆正極活物質の一次粒子で造粒された造粒体を含む。
【0036】
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、正極活物質の一次粒子の表面を被覆する炭素質被膜の厚さが0nm以上10nm以下であることが好ましく、0.5nm以上3nm以下であることがより好ましい。一次粒子の表面を被覆する炭素質被膜の厚さが薄い程、容量は向上するが、活物質の性質によっては導電性を持たないため、導電性炭素質被覆の欠乏は抵抗の増加、すなわち出力の低下を招く。
【0037】
一次粒子の表面を被覆する炭素質被膜の厚さは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて測定される。
【0038】
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、炭素質被覆正極活物質の一次粒子の平均粒子径が、10nm以上かつ100μm以下であることが好ましく、50nm以上かつ10μm以下であることがより好ましく、100nm以上かつ300nm以下であることがさらに好ましい。炭素質被覆正極活物質の平均一次粒子径が10nm以上であると、比表面積が大きくなり過ぎることによる、炭素量の増加を抑制することができる。一方、炭素質被覆正極活物質の平均一次粒子径が100μm以下であると、比表面積の大きさから電子伝導性とイオン拡散性を維持することができる。
【0039】
炭素質被覆正極活物質の一次粒子の平均粒子径は、レーザー回折法等の粒度分布測定法や電子顕微鏡を用いた観察等で求めることができる。
【0040】
炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素含有量は、例えば、炭素分析計(炭素硫黄分析装置:EMIA−810W(商品名)、堀場製作所社製)を用いて、測定される。
【0041】
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素質被膜の被覆率が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素質被膜の被覆率が50%以上であれば、炭素質被覆の被覆効果が充分に得られる。
【0042】
炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素質被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて測定される。
【0043】
「正極活物質」
正極活物質は、一般式Li
xA
yD
zPO
4(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる正極活物質であることが好ましい。
【0044】
Li
xA
yD
zPO
4において、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1を満たす正極活物質であることが、高放電容量、高エネルギー密度の観点から好ましい。
【0045】
Aについては、Co、Mn、Ni、Feが、Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Alが、高い放電電位、高い安全性を実現可能な正極合剤層とすることができる点から好ましい。また、ポリエチレンオキシド系イオン導電性ポリマーを用いる場合に、その耐電圧との関係から、Aについては、Feであることがより好ましい。
【0046】
「正極集電体」
正極集電体としては、特に限定されないが、例えば、Al、Fe、Ti等の金属からなる金属箔や金属メッシュ等が用いられる。
【0047】
[負極]
「イオン導電性高分子層」
イオン導電性高分子層は、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド構造を含む共重合体、エチレンオキシド、エチレンオキシド構造を含む共重合体、またはそれらの誘導体からなるイオン導電性ポリマーと、リチウム塩とを含む。
【0048】
イオン導電性高分子層の厚さは、1μm以上100μm以下であることが好ましく、30μm以上70μm以下であることがより好ましい。イオン導電性高分子層の厚さが薄い程、抵抗が小さくなり、容量、出力ともに有利である。イオン導電性高分子層の厚さが薄過ぎると、金属リチウムの析出に伴い短絡等の異常が発生することがある。
【0049】
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、イオン導電性高分子層におけるイオン導電性ポリマーの含有量が30質量%以上95質量%以下であることが好ましい。イオン導電性ポリマーの含有量が30質量%以上であれば、良好な成膜性と強度が得られる。一方、イオン導電性ポリマーの含有量が95質量%以下であれば、十分なイオン導電性を示す。
【0050】
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、イオン導電性高分子層が、イオン導電性ポリマーおよびリチウム塩以外の成分を含んでいてもよい。イオン導電性ポリマーおよびリチウム塩以外の成分としては、例えば、結着剤、補強材(フィラー)、イオン導電性無機固体(固体電解質)等が挙げられる。結着剤、としては、正極合剤層に用いられるものと同様のものを用いることができる。
【0051】
「イオン導電性ポリマー」
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池では、イオン導電性ポリマーが、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド構造を含む共重合体、エチレンオキシド、エチレンオキシド構造を含む共重合体、またはそれらの誘導体からなる。
【0052】
ポリエチレンオキシドの誘導体としては、例えば、変成ポリエチレンオキシド等が挙げられる。
【0053】
上記のイオン導電性ポリマーの中でも、ポリエチレンオキシド、変性ポリエチレンオキシドが好ましい。
【0054】
「リチウム塩」
リチウム塩としては、例えば、過塩素酸リチウム、6フッ化りん酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム等が挙げられる。
【0055】
「負極集電体」
負極集電体としては、特に限定されないが、例えば、Cu、Ni、Ti等の金属からなる金属箔や金属メッシュ等が用いられる。
【0056】
[ポリマー電解質膜]
ポリマー電解質膜としては、例えば、ポリエチレンオキシドと、そのポリエチレンオキシドに含有させたリチウム塩とを含むポリマー電解質からなるものが挙げられる。リチウム塩としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiFTSI)、LiPF
6、LiClO
4等が挙げられる。ポリマー電解質膜には、強度を高めることを目的として、架橋性の官能基を導入した変性ポリエチレンオキシドや、低温での導電性確保(結晶化防止)を目的として、官能基を導入した変性ポリエチレンオキシド等も好適に用いることができる。また、ポリマー電解質膜には、正極および負極との密着性を高めたり、温度特性を改善したり、耐酸化性を向上したりすること等を目的として、エチレンオキシドと他のモノマーとのコポリマーを用いることもできる。
【0057】
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池によれば、充電によりリチウムイオンを脱離可能な正極材料を少なくとも含む正極と、集電体上にイオン導電性高分子層を設けた負極と、を備えるため、金属リチウムを用いることなく製造可能であり、製造工程のほとんどを大気雰囲気下で行うことができるリチウムイオンポリマー電池を提供することができる。
【0058】
[正極材料の製造方法]
一般式Li
xA
yD
zPO
4で表わされる正極活物質からなる中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む炭素質被覆正活物質である正極材料の製造方法は特に限定されないが、例えば、Li
xA
yD
zPO
4粒子と、有機化合物とを混合して分散処理して分散体を作製する工程と、この分散体を乾燥して乾燥体とする工程と、この乾燥体を非酸化性雰囲気下で焼成し、炭素質被覆電極活物質の一次粒子からなる正極材料粒子を得る工程と、を有する方法が挙げられる。
【0059】
Li
xA
yD
zPO
4粒子は、特に限定されないが、例えば、Li源、A源、D源、およびPO
4源を、所定の物質量比となるように水に投入し、撹拌してLi
xA
yD
zPO
4の前駆体溶液とし、さらにこの前駆体溶液を15℃以上かつ70℃以下の状態で1時間以上かつ20時間以下、撹拌混合し、水和前駆体溶液を作製し、この水和前駆体溶液を耐圧容器に入れ、高温、高圧下、例えば、130℃以上かつ190℃以下、0.2MPa以上にて、1時間以上かつ20時間以下、水熱処理を行うことにより得られた粒子が好ましい。
この場合、水和前駆体溶液撹拌時の温度及び時間と水熱処理時の温度、圧力及び時間を調整することにより、Li
xA
yD
zPO
4粒子の粒子径を所望の大きさに制御することが可能である。
【0060】
この場合、Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、塩化リチウム(LiCl)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCH
3COO)、蓚酸リチウム((COOLi)
2)等のリチウム有機酸塩の群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
これらの中でも、塩化リチウムと酢酸リチウムは、均一な溶液相が得られやすいため好ましい。
【0061】
A源としては、コバルト化合物からなるCo源、マンガン化合物からなるMn源、ニッケル化合物からなるNi源、鉄化合物からなるFe源、銅化合物からなるCu源、および、クロム化合物からなるCr源からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
また、D源としては、マグネシウム化合物からなるMg源、カルシウム化合物からなるCa源、ストロンチウム化合物からなるSr源、バリウム化合物からなるBa源、チタン化合物からなるTi源、亜鉛化合物からなるZn源、ホウ素化合物からなるB源、アルミニウム化合物からなるAl源、ガリウム化合物からなるGa源、インジウム化合物からなるIn源、ケイ素化合物からなるSi源、ゲルマニウム化合物からなるGe源、スカンジウムム化合物からなるSc源、および、イットリウム化合物からなるY源からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0062】
PO
4源としては、例えば、オルトリン酸(H
3PO
4)、メタリン酸(HPO
3)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)、リン酸アンモニウム((NH
4)
3PO
4)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)、リン酸水素二リチウム(Li
2HPO
4)、リン酸二水素リチウム(LiH
2PO
4)およびこれらの水和物の中から選択される少なくとも1種が好ましい。
特に、オルトリン酸は、均一な溶液相を形成しやすいので好ましい。
【0063】
有機化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、多価アルコール等が挙げられる。
多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、グリセリン等が挙げられる。
【0064】
有機化合物は、有機化合物中の炭素が、Li
xA
yD
zPO
4粒子を100質量部とした場合、その100質量部に対して1質量部以上かつ10質量部以下となるように混合すればよい。
【0065】
Li
xA
yD
zPO
4粒子と有機化合物を混合して、混合液を調製する。
次いで、得られた混合液を分散して分散体とする。
分散方法は、特に限定されないが、Li
xA
yD
zPO
4粒子の凝集状態をほぐすことができる装置を用いることが好ましい。このような分散装置としては、例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー等が挙げられる。特に連続式の分散装置を用いることで、分散処理中にサンプリングすることが可能となり、粒度による終点判断が容易となる。
【0066】
次いで、上記の分散体を乾燥して乾燥体とする。
本工程では、分散体から溶媒(水)を散逸させることができれば乾燥方法は特に限定されない。
なお、乾燥には噴霧乾燥法を用いることができる。例えば、分散体を100℃以上かつ300℃以下の高温雰囲気中に噴霧し、乾燥させ、粒子状乾燥体または造粒状乾燥体とする方法が挙げられる。
【0067】
次いで、上記乾燥体を、非酸化性雰囲気下、600℃以上かつ1000℃以下、好ましくは650℃以上かつ900℃以下の範囲内の温度にて焼成する。
この非酸化性雰囲気としては、窒素(N
2)、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気が好ましく、より酸化を抑えたい場合には水素(H
2)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気が好ましい。
【0068】
ここで、乾燥体の焼成温度を600℃以上かつ1000℃以下とした理由は、焼成温度が600℃未満では、乾燥体に含まれる有機化合物の分解・反応が充分に進行せず、有機化合物の炭化が不充分なものとなり、生成する分解・反応物が高抵抗の有機物分解物となるので好ましくないからである。一方、焼成温度が1000℃を超えると、乾燥体を構成する成分、例えば、リチウム(Li)が蒸発して組成にずれが生じるだけでなく、この乾燥体にて粒成長が促進し、高速充放電レートにおける放電容量が低くなり、充分な充放電レート性能を実現することが困難となる。また、不純物が生成され、この不純物が由来となり充放電を繰り返した際に容量の劣化を起こす。
【0069】
焼成時間は、有機化合物が充分に炭化される時間であればよく、特に制限されないが、0.1時間以上かつ10時間以下とする。
【0070】
この焼成により、炭素質被覆電極活物質の一次粒子で構成された活物質粒子が得られる。得られた粒子を必要に応じて再度解砕してもよい。
【0071】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、ファーネスブラックの粒子状炭素や、気相成長炭素繊維(VGCF;Vapor Grown Carbon Fiber)およびカーボンナノチューブ等の繊維状炭素からなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0072】
「溶媒」
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料を含む正極材料ペーストに用いられる溶媒は、イオン導電性高分子材料に応じて適宜選択される。溶媒を適宜選択することにより、正極材料ペーストを、電極集電体等の被塗布物に対して塗布し易くすることができる。
溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミドおよびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド類;並びに、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0073】
正極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料とイオン導電性ポリマーと溶媒との合計質量を100質量%とした場合に、50質量%以上かつ70質量%以下であることが好ましく、55質量%以上かつ65質量%以下であることがより好ましい。
正極材料ペーストにおける溶媒の含有率が上記の範囲内であると、正極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた正極材料ペーストを得ることができる。
【0074】
[正極の製造方法]
正極材料ペーストを、電極集電体の少なくとも一主面に塗布して塗膜とし、その後、この塗膜を乾燥し、上記の正極材料とイオン導電性高分子と導電助剤の混合物からなる塗膜が少なくとも一主面に形成された電極集電体を得る。その後、必要に応じて塗膜を加圧圧着してもよい。イオン導電性ポリマーを架橋させることも可能である。架橋には一般に用いられている、熱、紫外線、電子線などの手法を好適に用いることができる。
また、イオン導電性ポリマーを含まない正極の塗工、乾燥後にイオン導電性ポリマーを含む液を正極上に塗工、含侵させた後、乾燥し、必要に応じて、イオン導電性ポリマーを架橋させることも可能である。架橋には一般に用いられている、熱、紫外線、電子線などの手法を好適に用いることができる。
【0075】
[負極の製造方法]
負極の製造方法は、上記のイオン導電性ポリマーとリチウム塩とを用いて、負極集電体の一主面にイオン導電性高分子層を形成できる方法であれば特に限定されない。負極の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、上記のイオン導電性ポリマーと、リチウム塩と、必要に応じて結着剤と、溶媒とを混合してなる、ペースト(以下、「負極材料ペースト」という。)を調製する。
【0076】
負極材料ペーストにおける結着剤の含有量は、可能な限り少ない方が好ましく、必要な密着性が得られる最小限とすることがよい。
【0077】
負極材料を含む負極材料ペーストでは、負極集電体等の被塗布物に対して塗布し易くするために、溶媒を適宜添加してもよい。
負極材料ペーストに用いる溶媒としては、正極材料ペーストに用いる溶媒と同様のものが挙げられる。
【0078】
負極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、負極材料と結着剤と溶媒の合計質量を100質量部とした場合に、60質量部以上かつ400質量部以下であることが好ましく、80質量部以上かつ300質量部以下であることがより好ましい。
上記の範囲で溶媒が含有されることにより、電極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた、負極材料ペーストを得ることができる。
【0079】
負極材料ペーストを混合する方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカー、ホモジナイザー等の混錬機を用いた方法が挙げられる。
【0080】
次いで、負極材料ペーストを、負極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、この塗膜を乾燥し、次いで、必要に応じて加圧圧着することにより、負極集電体の一主面にイオン導電性高分子層が形成された負極を得ることができる。
【0081】
[リチウムイオンポリマー電池の製造方法]
本実施形態に係るリチウムイオンポリマー電池の製造方法は、充電によりリチウムイオンを脱離可能な正極材料を少なくとも含む正極と、イオン導電性高分子層を含む負極とを貼り合わせて電池用部材を形成する工程(以下、「工程A」と言うこともある。)と、前記電池用部材を封止する前に、少なくとも1回、前記電池用部材から水分を除去する工程(以下、「工程B」と言うこともある。)と、前記電池用部材から水分を除去した後、低水分環境下、前記電池用部材を封止する工程(以下、「工程C」と言うこともある。)と、を有する。
【0082】
工程Aでは、前記の正極と前記の負極とを、貼り合わせて電池用部材を形成する。
ここでは、イオン導電性高分子層を介して、正極合剤層と負極集電体が向き合うように、正極と負極とを貼り合わせる。
工程Aでは、正極と負極とを貼り合わせる際に、必要に応じて、これらを圧着してもよい。
また、工程Aは、大気雰囲気下で行うことができる。
【0083】
工程Bでは、工程Aで形成した電池用部材を、セル内に封止する前に、少なくとも1回、前記の電池用部材から水分を除去する。
電池用部材から水分を除去するには、電池用部材を、50℃以上150℃以下にて、5時間以上48時間以下乾燥することが好ましい。
電池用部材の乾燥温度や乾燥時間は、部材の量、含水率、部材の材質等に応じて適宜調整される。
電池用部材から水分を除去する回数は、電池動作に支障をきたさない含水量にまで水分を除去すればよく、複数回に分けて実施してもよい。
工程Bでは、電池用部材から水分を除去するために、真空乾燥を行ってもよい。
また、工程B以降は、低水分環境下で行い、水分の再混入を避ける。
【0084】
工程Cでは、前記の電池用部材から水分を除去した後、低水分環境下、前記の電池用部材を、セル内に封止する。これにより、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池を得る。
ここで、低水分環境とは、セル内を電池動作に支障をきたさない含水量に保ち得る環境のことであり、通常のリチウムイオン電池製造に使用される、露点管理された環境のこと(例えば、露点−40℃以下)である。
【0085】
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池の製造方法によれば、製造工程のほとんどを大気雰囲気下で行うことができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
[実施例]
「正極材料の合成」
2molのリン酸リチウム(Li
3PO
4)と、2molの硫酸鉄(II)(FeSO
4)とに水を加え、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、150℃にて24時間、水熱合成し、正極活物質の沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質150g(固形分換算)に、水200gと有機化合物としてのポリエチレングリコール10gとショ糖8gを加え、これらの混合物を、媒体粒子としての直径5mmのジルコニアボールを用いて、ビーズミルにて2時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを200℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、平均粒子径が8.5μmの有機物で被覆された、正極材料の造粒体を得た。
次いで、得られた造粒体を、窒素雰囲気下、680℃にて3時間焼成し、平均粒子径が8.5μmである炭素質被膜で被覆された正極活物質の造粒体を得た。
【0088】
「凝集体の解砕」
上記の凝集体を、ジェットミル装置(商品名:SJ−100、日清エンジニアリング社製)を用い、供給速度180g/時間の条件で解砕し、正極材料を得た。
【0089】
「リチウムイオンポリマー電池の作製」
溶媒である水に、正極材料と、イオン導電性ポリマー(母材)としてのポリエチレンオキキシド100000(PEO100000、平均分子量100000g/mol)と、リチウム塩としてのLiTFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、ペースト中の質量比で、正極材料:PEO100000:LiTFSI:AB:CMC=65:24:6:4:1、さらにペーストの総固形分量が40質量%となるよう混合し、混練機(商品名:あわとり練太郎、シンキー社製)を用いて、公転1200rpm、自転600rpmの条件で30分混練し、正極材料ペースト(正極用)を調製した。
この正極材料ペースト(正極用)を、厚さ30μmのアルミニウム箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を、大気雰囲気下、120℃で乾燥し、アルミニウム箔の表面に正極合剤層を形成した。
その後、正極合剤層を、5000N/100mmの線圧にて加圧し、正極を作製した。
【0090】
次に、溶媒である水に、イオン導電性ポリマー(母材)としての架橋ポリエレンオキキシド系高分子(商品名:IX−O−LP−02、日本触媒社製)と、リチウム塩としてのLiTFSIとを、質量比で、IX−O−LP−02:LiTFSI=4:1となるように溶解し、さらに、開始剤としての4,4´−アゾビス(4−シアノ吉草酸)をIX−O−LP−02の100質量部に対して0.5質量部加えた溶液を作製した。
得られた溶液を、厚さ20μmの銅箔上に塗工し、大気中、150℃で乾燥・架橋させて、銅箔の表面にイオン導電性高分子層を形成し、負極を作製した。なお、イオン導電性高分子層の厚さが60μmとなるように、溶液の濃度と塗工厚を調整した。
【0091】
得られた正極と負極を貼りあわせた後、所定の圧力で圧着し、2cm
2の大きさに切り出して、電池用部材とした。
次に、電池用部材を80℃にて12時間、真空乾燥し、水分を除去した後、露点−70℃以下の環境下にて、その電池用部材をCR2032型コインセル内に配置・封止しし、実施例のリチウムイオンポリマー電池を作製した。
【0092】
「比較例」
電池用部材の真空乾燥工程を含まないこと以外は、実施例と同様にして、比較例のリチウムイオンポリマー電池を作製した。
【0093】
[リチウムイオンポリマー電池の評価]
実施例および比較例のリチウムイオンポリマー電池の放電容量を、次のように評価した。
60℃環境下で、電流値0.1Cにて電池電圧が3.65Vになるまで定電流充電した後、3.65Vの定電圧で電流が0.01C相当に低下するまで充電を行った。その後、電流値0.1Cにて電池電圧が2.0Vになるまで放電した。
実施例および比較例のリチウムイオンポリマー電池の充放電曲線を
図1に示す。
図1の結果から、実施例のリチウムイオンポリマー電池は、放電容量が134mAhg
−1であり、良好な充放電動作を示すことが分かった。一方、比較例のリチウムイオンポリマー電池は、電池内の残留水分のために、負極集電体上で金属リチウムが析出せず、不活性化してしまう。そのため、比較例のリチウムイオンポリマー電池は、放電容量が15mAhg
−1であり、ほとんど放電することができないことが分かった。
前記イオン導電性高分子層が、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド構造を含む共重合体、エチレンオキシド、エチレンオキシド構造を含む共重合体、またはそれらの誘導体からなるイオン導電性ポリマーと、リチウム塩とを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオンポリマー電池。
とを貼り合わせて電池用部材を形成する工程と、前記電池用部材を封止する前に、少なくとも1回、前記電池用部材から水分を除去する工程と、前記電池用部材から水分を除去した後、低水分環境下、前記電池用部材を封止する工程と、を有するリチウムイオンポリマー電池の製造方法を提供する。
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、正極集電体上に設けた充電によりリチウムイオンを脱離可能な正極材料を少なくとも含む正極と、負極集電体上に設けたイオン導電性ポリマーおよびリチウム塩を含
本発明の一態様においては、前記イオン導電性高分子層が、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド構造を含む共重合体、エチレンオキシド、エチレンオキシド構造を含む共重合
イオン導電性高分子層を形成する工程と、前記正極と前記イオン導電性高分子層とを貼り合わせて電池用部材を形成する工程と、前記電池用部材を封止する前に、少なくとも1回、前記電池用部材から水分を除去する工程と、前記電池用部材から水分を除去した後、低水分環境下、前記電池用部材を封止する工程と、を有するリチウムイオンポリマー電池の製造方法を提供する。
前記イオン導電性高分子層が、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド構造を含む共重合体、エチレンオキシド、エチレンオキシド構造を含む共重合体からなるイオン導電性ポリマーと、リチウム塩とを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオンポリマー電池。
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、正極集電体上に設けた充電によりリチウムイオンを脱離可能な正極材料を少なくとも含む正極と、負極集電体上に設けたイオン導電性ポリマーおよびリチウム塩