【課題】リチウムイオン二次電池の放電時のエネルギー密度が高く、リチウムイオン二次電池の充放電時における発熱量を抑制することができるリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、オリビン型化合物とナシコン型化合物との混合物と、酸化物との混合体を含み、前記混合体の体積基準50%粒子径をD50とした場合、該D50が2μm以上16μm以下であり、前記オリビン型化合物の含有量が15質量%以上45質量%以下、前記ナシコン型化合物の含有量が1質量%以上3質量%未満、前記酸化物の含有量が55質量%以上85質量%以下である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0014】
[リチウムイオン二次電池用正極材料]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、オリビン型化合物とナシコン型化合物との混合物と、酸化物との混合体を含み、前記オリビン型化合物が、一般式Li
xA
yD
zPO
4(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされ、前記ナシコン型化合物が、一般式J
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)
3(但し、JはLi、NaおよびKからなる群から選択される少なくとも1種、MはAl、Zr、CrおよびLaからなる群から選択される少なくとも1種、QはSiおよびSからなる群から選択される少なくとも1種、0.8≦a≦1.5、0≦b≦0.5、0≦c≦0.6)で表わされ、前記酸化物が、一般式Li
dNi
eMe
(1−e)O
2(但し、Meは、Al、Mn、Na、Fe、Co、Cr、Cu、Zn、Ca、K、MgおよびPbからなる群から選択される少なくとも1種、1.0≦d≦1.2、0≦e≦1)で表され、前記混合体の体積基準50%粒子径をD50とした場合、該D50が2μm以上16μm以下であり、前記オリビン型化合物の含有量が15質量%以上45質量%以下、前記ナシコン型化合物の含有量が1質量%以上3質量%未満、前記酸化物の含有量が55質量%以上85質量%以下である。
【0015】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、オリビン型化合物の一次粒子の形状としては、柱状、板状、球状等が挙げられる。これらの形状において、オリビン型化合物の一次粒子の最も長い辺の長さが1nm以上1000nm以下であり、30nm以上800nm以下であることが好ましく、50nm以上500nm以下であることがより好ましい。オリビン型化合物の一次粒子の最も長い辺の長さが1nm未満では、炭素被覆の必要量の増加や電極作製に必要な結着剤量の増加により容量が低下するため好ましくない一方、オリビン型化合物の一次粒子の最も長い辺の長さが1000nmを超えると、オリビン型化合物でのリチウムイオンの移動または電子の移動に時間がかかることにより内部抵抗が増加し、出力特性が悪化するので好ましくないなお、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、オリビン型化合物の一次粒子の最も長い辺の長さは、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料に含まれるオリビン型化合物の一次粒子のうち100個のオリビン型化合物の一次粒子の最も長い辺の長さの平均値である。
【0016】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、ナシコン型化合物の一次粒子の形状としては、柱状、板状、球状等が挙げられる。これらの形状において、ナシコン型化合物の一次粒子の最も長い辺の長さが1nm以上1000nm以下であり、100nm以上900nm以下であることが好ましく、200nm以上800nm以下であることがより好ましい。ナシコン型化合物の一次粒子の最も長い辺の長さが1nm未満では、電極作製に必要な結着剤量の増加により容量が低下するため好ましくない。一方、ナシコン型化合物の一次粒子の最も長い辺の長さが1000nmを超えると、オリビン型化合物とナシコン型化合物の混合物(二次粒子)中の分散性および均一性が悪くなり、二次粒子中の電流やイオン伝導のムラを生じるため、リチウムイオン二次電池の高速充放電における放電容量が低くなる。なお、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、ナシコン型化合物の一次粒子の最も長い辺の長さは、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料に含まれるナシコン型化合物の一次粒子のうち100個のナシコン型化合物の一次粒子の最も長い辺の長さの平均値である。
【0017】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、酸化物の一次粒子の形状としては、柱状、板状、球状等が挙げられる。これらの形状において、酸化物の一次粒子の最も長い辺の長さが100nm以上5000nm以下であることが好ましく、200nm以上3000nm以下であることがより好ましく、300nm以上2000nm以下であることがさらに好ましい。酸化物の一次粒子の最も長い辺の長さが100nm以上であれば、粒子が細かすぎるために粉体充填性が低くなるため、充分な電極密度が得られず、電極の体積エネルギー密度が低下する。一方、酸化物の一次粒子の最も長い辺の長さが5000nm以下であれば、粒子と電解液の反応面積が小さくなるためにリチウムイオンの吸蔵・離脱(放出)反応が生じ難くなり、抵抗の増加や低温特性の低下が起こる。なお、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、酸化物の一次粒子の最も長い辺の長さは、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料に含まれる酸化物の一次粒子のうち100個の酸化物の一次粒子の最も長い辺の長さの平均値である。
【0018】
オリビン型化合物の一次粒子の最も長い辺の長さ、ナシコン型化合物の一次粒子の最も長い辺の長さ、および酸化物の一次粒子の最も長い辺の長さは、無作為に100個の一次粒子を選び出して、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)にて個々の一次粒子の最も長い辺の長さを測定して、その平均値として求めることができる。
【0019】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、オリビン型化合物の一次粒子とナシコン型化合物の一次粒子との混合物である二次粒子の形状としては、真球状、楕円形状、不定形状等が挙げられる。
【0020】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、前記の混合物(二次粒子)の平均粒子径は、2μm以上12μm以下であることが好ましく、3μm以上10μm以下であることがより好ましい。二次粒子の平均粒子径が2μm以上であれば、電極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合してリチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを調製する際、導電助剤および結着剤が多量に必要となることを抑制できる。これによりリチウムイオン二次電池の正極の電極材料層における単位質量あたりのリチウムイオン二次電池の電池容量を高くすることができる。一方、二次粒子の平均粒子径が12μm以下であれば、リチウムイオン二次電池の正極の電極材料層中の導電助剤や結着剤の分散性および均一性を高くすることができる。その結果、リチウムイオン二次電池の高速充放電における放電容量が高くなる。
【0021】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、オリビン型化合物の一次粒子とナシコン型化合物の一次粒子との混合物と、酸化物との混合体である二次粒子の形状としては、真球状、楕円球体状、不定形状等が挙げられる。
【0022】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、前記の混合体(二次粒子)の平均粒子径は、2μm以上12μm以下であることが好ましく、3μm以上10μm以下であることがより好ましい。二次粒子の平均粒子径が2μm以上であれば、電極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合してリチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを調製する際、導電助剤および結着剤が多量に必要となることを抑制できる。これによりリチウムイオン二次電池の正極の電極材料層における単位質量あたりのリチウムイオン二次電池の電池容量を高くすることができる。一方、二次粒子の平均粒子径が12μm以下であれば、リチウムイオン二次電池の正極の電極材料層中の導電助剤や結着剤の分散性および均一性を高くすることができる。その結果、リチウムイオン二次電池の高速充放電における放電容量が高くなる。
【0023】
前記の混合物および前記の混合体の平均粒子径は、動的光散乱法により得られる散乱強度分布の累積百分率が50%のときの二次粒子の平均粒子径D50である。二次粒子の平均粒子径D50は、動的光散乱式の粒度分布計(例えば、HORIBA社製、型番:SZ−100SP)により測定することができる。この粒度分布計によれば、固形分をアルコール化合物で5質量%に調整した分散液を対象として、光路長10mm×10mmの石英セルを用いて、二次粒子の平均粒子径D50を測定することができる。
【0024】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、オリビン型化合物とナシコン型化合物との混合物の比表面積が7m
2/g以上40m
2/g以下であることが好ましく、10m
2/g以上30m
2/g以下であることがより好ましい。混合物の比表面積が5m
2/g以上であれば、正極材料内のリチウムイオンの拡散速度を高くすることができ、リチウムイオン二次電池の電池特性を改善することができる。一方、混合物の比表面積が40m
2/gを以下であれば、電子伝導性を高めることができる。
【0025】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、オリビン型化合物の一次粒子とナシコン型化合物の一次粒子との混合物と、酸化物との混合体の比表面積が1.5m
2/g以上15m
2/g以下であることが好ましく、3m
2/g以上14m
2/g以下であることがより好ましい。混合体の比表面積が3m
2/g以上であれば、正極材料内のリチウムイオンの拡散速度を高くすることができ、リチウムイオン二次電池の電池特性を改善することができる。一方、混合体の比表面積が14m
2/g以下であれば、電極作製時の結着剤の量を必要以上に増やす必要がなく電池の容量を高くすることができる。
【0026】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、前記の混合物および前記の混合体の比表面積は、比表面積計を用いて、窒素(N
2)吸着によるBET法により求められる。
【0027】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、前記の混合物の二次粒子の体積基準50%粒子径をD50とした場合、混合物のD50が1μm以上14μm以下であることが好ましく、2μm以上12μm以下であることがより好ましい。混合物のD50が1μm以上であれば、電極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合してリチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを調製する際、導電助剤および結着剤が多量に必要となることを抑制できる。これによりリチウムイオン二次電池の正極の電極材料層における単位質量あたりのリチウムイオン二次電池の電池容量を高くすることができる。一方、D50が14μm以下であれば、リチウムイオン二次電池の正極の電極材料層中の導電助剤や結着剤の分散性および均一性を高くすることができる。その結果、リチウムイオン二次電池の高速充放電における放電容量が高くなる。
【0028】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、前記の混合体の二次粒子の体積基準50%粒子径をD50とした場合、D50が2μm以上16μm以下であることが好ましく、3μm以上14μm以下であることがより好ましい。混合体のD50が2μm以上であれば、電極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合してリチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを調製する際、導電助剤及び結着剤が多量に必要となることを抑制できる。これによりリチウムイオン二次電池の正極の電極材料層における単位質量あたりのリチウムイオン二次電池の電池容量を高くすることができる。一方、混合体のD50が16μm以下であれば、リチウムイオン二次電池の正極の電極材料層中の導電助剤や結着剤の分散性および均一性を高くすることができる。その結果、リチウムイオン二次電池の高速充放電における放電容量が高くなる。
【0029】
なお、前記の混合物および前記の混合体のD50は、動的光散乱法により得られる散乱強度分布の累積百分率が50%のときの前記の混合物および前記の混合体の粒子径D50である。前記の混合物および前記の混合体のD50は、動的光散乱式の粒度分布計(例えば、HORIBA社製、型番:SZ−100SP)により測定することができる。この粒度分布計によれば、固形分をアルコール化合物で5質量%に調整した分散液を対象として、光路長10mm×10mmの石英セルを用いて、前記の混合物および前記の混合体のD50を測定することができる。
【0030】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、オリビン型化合物の含有量が15質量%以上45質量%以下であることが好ましく、17質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。オリビン型化合物の含有量が15質量%以上であれば、リチウムイオン二次電池の充放電時における発熱量を抑制でき、発火等の熱暴走のリスクを低減することができる。一方、オリビン型化合物の含有量が45質量%以下であれば、リチウムイオン二次電池の放電時のエネルギー密度を必要以上に低下することなく、充放電時における発熱量を抑制することができる。
【0031】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、ナシコン型化合物の含有量が1質量%以上3質量%未満であることが好ましく、1.1質量%以上2.6質量%以下であることがより好ましい。ナシコン型化合物の含有量が1質量%以上であれば、リチウムイオン二次電池の充放電時における発熱量を効果的に抑制することができる。一方、ナシコン型化合物の含有量が3質量%未満であれば、リチウムイオン二次電池の放電時のエネルギー密度を高く確保できる。
【0032】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、酸化物の含有量が55質量%以上85質量%以下であることが好ましく、60質量%以上84質量%以下であることがより好ましい。酸化物の含有量が55質量%以上であれば、リチウムイオン二次電池の放電時のエネルギー密度を高く確保できる。一方、酸化物の含有量が85質量%以下であれば、リチウムイオン二次電池の充放電時における発熱量を抑制するでき、発火等のリスクを抑制することができる。
【0033】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、オリビン型化合物の一次粒子と、ナシコン型化合物の一次粒子と、酸化物の一次粒子と、オリビン型化合物の一次粒子、ナシコン型化合物の一次粒子および酸化物の一次粒子からなる群から選択される少なくとも1種の表面、並びに二次粒子(オリビン型化合物とナシコン型化合物との混合物、前記の混合物と酸化物との混合体)の表面を被覆する炭素質被膜(熱分解炭素質被膜)と、を有する炭素質被覆オリビン型化合物、炭素質被覆ナシコン型化合物および炭素質被覆酸化物を含んでもよい。また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、炭素質被覆オリビン型化合物、炭素質被覆ナシコン型化合物および炭素質被覆酸化物の一次粒子で造粒された造粒体を含む。
【0034】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、正極活物質の一次粒子およびナシコン型化合物の一次粒子の少なくとも一方の表面を被覆する炭素質被膜の厚さが1nm以上10nm以下であることが好ましく、2nm以上6nm以下であることがより好ましい。一次粒子の表面を被覆する炭素質被膜の厚さが1nm以上であれば、炭素質被膜中の電子の移動抵抗の総和が高くなることを抑制できる。これによりリチウムイオン電池の内部抵抗の上昇を抑制でき、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。一方、一次粒子の表面を被覆する炭素質被膜の厚さが10nm以下であれば、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散することを妨害する立体障害の形成を抑制することができ、これによりリチウムイオンの移動抵抗が低くなる。その結果、電池の内部抵抗の上昇が抑えられ、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。
【0035】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料の一次粒子の平均粒子径は、ポリビニルピロリドン0.1質量%を水に溶解した分散媒に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を懸濁させて、レーザ回折式粒度分析装置を用いて測定される。
【0036】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積は、1.5m
2/g以上かつ20m
2/g以下であることが好ましく、2m
2/g以上かつ18m
2/g以下であることがより好ましい。リチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積が1.5m
2/g以上であれば、正極材料内のリチウムイオンの拡散速度を高くすることができ、リチウムイオン二次電池の電池特性を改善することができる。一方、リチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積が20m
2/gを以下であれば、電子伝導性を高めることができる。
【0037】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、オリビン型化合物およびナシコン型化合物および酸化物の一次粒子で造粒された造粒体の平均粒子径が、2μm以上かつ12μm以下であることが好ましく、3μm以上かつ11μm以下であることがより好ましく、4μm以上かつ10μm以下であることがさらに好ましい。造粒体の平均粒子径が2μm以上であると、正極材料、導電助剤、バインダー樹脂(結着剤)および溶剤を混合して、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する際の導電助剤および結着剤の配合量を抑えることができ、リチウムイオン二次電池用正極合剤層の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量を大きくすることができる。一方、造粒体の平均粒子径が12μm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極合剤層に含まれる導電助剤や結着剤の分散性、均一性を高めることができる。その結果、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、高速充放電における放電容量を大きくすることができる。
【0038】
造粒体の平均粒子径は、ポリビニルピロリドン0.1質量%を水に溶解した分散媒に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を懸濁させて、レーザ回折式粒度分析装置を用いて測定される。
【0039】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、炭素質被覆オリビン型化合物、炭素質被覆ナシコン型化合物および炭素質被覆酸化物の一次粒子における炭素含有量が0.05質量%以上かつ2.0質量%以下であることが好ましく、0.07質量%以上かつ1.7質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上かつ1.5質量%以下であることがさらに好ましい。炭素質被覆オリビン型化合物、炭素質被覆ナシコン型化合物および炭素質被覆酸化物の一次粒子における炭素含有量が0.05質量%以上であれば、電子伝導性を充分に高めることができる。一方、炭素質被覆オリビン型化合物、炭素質被覆ナシコン型化合物および炭素質被覆酸化物の一次粒子における炭素含有量が2.0質量%以下であれば、電極密度を高めることができる。
【0040】
リチウムイオン二次電池用正極材料の炭素含有量は、炭素分析計(炭素硫黄分析装置:EMIA−810W(商品名)、堀場製作所社製)を用いて、測定される。
【0041】
なお、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、上記の造粒体以外の成分を含んでいてもよい。造粒体以外の成分としては、例えば、バインダー樹脂からなる結着剤、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の導電助剤等が挙げられる。
【0042】
「オリビン型化合物」
オリビン型化合物は、一般式Li
xA
yD
zPO
4(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる化合物からなる。
【0043】
Li
xA
yD
zPO
4において、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1を満たすが、高放電容量、高エネルギー密度の観点から好ましい。
【0044】
Aについては、Co、Mn、Ni、Feが、Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Alが、高い放電電位、高い安全性を実現可能な正極合剤層とすることができる点から好ましい。
【0045】
オリビン型化合物の結晶子径が、30nm以上かつ300nm以下であることが好ましく、50nm以上かつ250nm以下であることがより好ましい。オリビン型化合物の結晶子径が30nm未満であると、オリビン型化合物の表面を熱分解炭素質被膜で充分に被覆するためには多くの炭素を必要とし、また、大量の結着剤が必要となるために、正極中のオリビン型化合物の含有量が低下し、電池の容量が低下することがある。同様に、結着力不足により炭素質被膜が剥離することがある。一方、オリビン型化合物の結晶子径が300nmを超えると、オリビン型化合物の内部抵抗が大きくなり、電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量を低下させることがある。また、充放電を繰り返す際に、中間相を形成しやすく、そこから構成元素が溶出することで、容量が低下してしまう。
【0046】
オリビン型化合物の結晶子径の算出方法としては、X線回折測定により測定した粉末X線回折図形をウィリアムソン−ホール法により解析することで、結晶子径を決定することが実行可能である。
【0047】
「ナシコン型化合物」
ナシコン型化合物は、一般式J
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)
3(但し、JはLi、NaおよびKからなる群から選択される少なくとも1種、MはAl、Zr、CrおよびLaからなる群から選択される少なくとも1種、QはSiおよびSからなる群から選択される少なくとも1種、0.8≦a≦1.5、0≦b≦0.5、0≦c≦0.6)で表わされる化合物からなる。
【0048】
J
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)
3において、0.8≦a≦1.5、0≦b≦0.5、0≦c≦0.6を満たすナシコン型化合物であることが、ナシコン型化合物中のLi
+の移動を早くすることができ、ナシコン型化合物混合による内部抵抗の上昇を抑制でき出力特性の低下を抑制できるため好ましい。
【0049】
Jについては、Li、Na、Kが、Mは、Al、Zr、Cr、Laが、Qは、Si、Sが、ナシコン型化合物中のLi
+の移動を早くすることができ、ナシコン型化合物混合による内部抵抗の上昇を抑制でき出力特性の低下を抑制できるため好ましい。
【0050】
ナシコン型化合物の結晶子径が、50nm以上かつ800nm以下であることが好ましく、80nm以上かつ500nm以下であることがより好ましい。ナシコン型化合物の結晶子径が50nm未満であると、オリビン型化合物とナシコン型化合物の混合物(二次粒子)の充填率が低くなり、かさタップ密度が低下するため体積当たりのエネルギー密度が低下する。一方、ナシコン型化合物の結晶子径が800nmを超えると、オリビン型化合物とナシコン型化合物の混合物(二次粒子)中の分散性および均一性が悪くなり、二次粒子中の電流やイオン伝導のムラを生じるため、リチウムイオン二次電池の高速充放電における放電容量が低くなる。
【0051】
ナシコン型化合物の結晶子径の算出方法としては、X線回折測定により測定した粉末X線回折図形をウィリアムソン−ホール法により解析することで、結晶子径を決定することが実行可能である。
【0052】
「酸化物」
酸化物は、一般式Li
dNi
eMe
(1−e)O
2(但し、Meは、Al、Mn、Na、Fe、Co、Cr、Cu、Zn、Ca、K、MgおよびPbからなる群から選択される少なくとも1種、1.0≦d≦1.2、0≦e≦1)で表わされる化合物からなる。
【0053】
Li
dNi
eMe
(1−e)O
2において、1.0≦d≦1.2、0≦e≦1を満たす酸化物であることが、充放電容量の高い酸化物系正極材料となる観点から好ましい。
【0054】
酸化物の結晶子径が、50nm以上かつ1000nm以下であることが好ましく、100nm以上かつ800nm以下であることがより好ましい。酸化物の結晶子径が50nm未満であると、粒子が細かすぎるために粉体充填性が低くなるため、充分な電極密度が得られず、電極の体積エネルギー密度が低下する。一方、酸化物の結晶子径が1000nmを超えると、粒子と電解液の反応面積が小さくなるためにリチウムイオンの吸蔵・離脱(放出)反応が生じ難くなり、抵抗の増加や低温特性の低下が起こる。
【0055】
酸化物の結晶子径の算出方法としては、X線回折測定により測定した粉末X線回折図形をウィリアムソン−ホール法により解析することで、結晶子径を決定することが実行可能である。
【0056】
「炭素質被膜」
炭素質被膜は、原料となる有機化合物が炭化することにより得られる熱分解炭素質被膜である。炭素質被膜の原料となる炭素源は、炭素の純度が40.00%以上かつ60.00%以下の有機化合物由来であることが好ましい。
【0057】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料における炭素質被膜の原料となる炭素源の「炭素の純度」の算出方法としては、複数種類の有機化合物を用いる場合、各有機化合物の配合量(質量%)と既知の炭素の純度(%)から、各有機化合物の配合量中の炭素量(質量%)を算出、合算し、その有機化合物の総配合量(質量%)と総炭素量(質量%)から、下記の式(1)に従って算出する方法が用いられる。
炭素の純度(%)=総炭素量(質量%)/総配合量(質量%)×100・・・(1)
【0058】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、オリビン型化合物とナシコン型化合物との混合物と、酸化物との混合体を含み、前記混合物の二次粒子の体積基準50%粒子径をD50とした場合、該D50が1μm以上14μm以下であり、前記混合体の体積基準50%粒子径をD50とした場合、該D50が2μm以上16μm以下であり、前記オリビン型化合物の含有量が15質量%以上45質量%以下、前記ナシコン型化合物の含有量が1質量%以上3質量%未満、前記酸化物の含有量が55質量%以上85質量%以下であるため、リチウムイオン二次電池の充放電時における発熱量、リチウムイオン二次電池の寿命の劣化、およびリチウムイオン二次電池の冷却コストの増加を抑制することができるリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0059】
[リチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法は特に限定されないが、例えば、Li
xA
yD
zPO
4粒子と、J
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)
3粒子と、有機化合物とを混合して分散処理して分散体を作製する工程と、この分散体を乾燥して乾燥体とする工程と、この乾燥体を非酸化性雰囲気下で焼成し、Li
xA
yD
zPO
4粒子と、J
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)
3粒子の一次粒子で造粒された造粒体を得る工程と、Li
xA
yD
zPO
4粒子と、J
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)
3粒子の一次粒子で造粒された造粒体とLi
dNi
eMe
(1−e)O
2粒子とを乾式混合する工程と、を有する方法が挙げられる。
【0060】
Li
xA
yD
zPO
4粒子は、特に限定されないが、例えば、Li源、A源、D源、およびPO
4源を、これらのモル比がx:y+z=1:1となるように水に投入し、撹拌してLi
xA
yD
zPO
4の前駆体溶液とし、さらにこの前駆体溶液を15℃以上かつ70℃以下の状態で1時間以上かつ20時間以下、撹拌混合し、水和前駆体溶液を作製し、この水和前駆体溶液を耐圧容器に入れ、高温、高圧下、例えば、130℃以上かつ190℃以下、0.2MPa以上にて、1時間以上かつ20時間以下、水熱処理を行うことにより得られた粒子が好ましい。
この場合、水和前駆体溶液撹拌時の温度及び時間と水熱処理時の温度、圧力及び時間を調整することにより、Li
xA
yD
zPO
4粒子の粒子径を所望の大きさに制御することが可能である。
【0061】
この場合、Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、塩化リチウム(LiCl)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCH
3COO)、蓚酸リチウム((COOLi)
2)等のリチウム有機酸塩の群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
これらの中でも、塩化リチウムと酢酸リチウムは、均一な溶液相が得られやすいため好ましい。
【0062】
A源としては、コバルト化合物からなるCo源、マンガン化合物からなるMn源、ニッケル化合物からなるNi源、鉄化合物からなるFe源、銅化合物からなるCu源、および、クロム化合物からなるCr源からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
また、D源としては、マグネシウム化合物からなるMg源、カルシウム化合物からなるCa源、ストロンチウム化合物からなるSr源、バリウム化合物からなるBa源、チタン化合物からなるTi源、亜鉛化合物からなるZn源、ホウ素化合物からなるB源、アルミニウム化合物からなるAl源、ガリウム化合物からなるGa源、インジウム化合物からなるIn源、ケイ素化合物からなるSi源、ゲルマニウム化合物からなるGe源、スカンジウムム化合物からなるSc源、および、イットリウム化合物からなるY源からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0063】
PO
4源としては、例えば、オルトリン酸(H
3PO
4)、メタリン酸(HPO
3)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)、リン酸アンモニウム((NH
4)
3PO
4)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)、リン酸水素二リチウム(Li
2HPO
4)、リン酸二水素リチウム(LiH
2PO
4)およびこれらの水和物の中から選択される少なくとも1種が好ましい。
特に、オルトリン酸は、均一な溶液相を形成しやすいので好ましい。
【0064】
J
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)3粒子は、特に限定されないが、例えば、J源、Ti源、M源、P源およびQ源を、これらのモル比がa:b:c=1.3:0.3:0となるように原料粉体をボールミルで6時間以上48時間以下で混合し、大気中250℃以上400℃以下で仮焼後、自動乳鉢で0.5時間以上8時間以下粉砕混合し、さらに大気中、800℃以上1200℃以下にて、12時間以上48時間以下焼成して得られた粒子が好ましい。
【0065】
この場合、J源としては、リチウム化合物からなるLi源、ナトリウム化合物からなるNa源、およびカリウム化合物からなるK源からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0066】
Ti源としては、例えば、酸化チタンやチタン酸リチウム等のチタン化合物の群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0067】
M源としては、アルミニウム化合物からなるAl源、ジルコニウム化合物からなるZr源、クロム化合物からなるCr源、およびランタン化合物からなるLa源からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0068】
P源としては、例えば、リン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等のリン塩の群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0069】
Q源としては、ケイ素化合物からなるSi源および硫黄化合物からなるS源からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0070】
Li
dNi
eMe
(1−e)O
2粒子は、特に限定されないが、例えば次のような合成方法で得ることができる。Ni源およびMe源を蒸留水に溶解し、同じくLi源を水に溶解した水溶液中にd:1−e:e=20:0.5:0.5となるように滴下後、得られた沈殿物を蒸留水でろ過洗浄と真空ろ過を繰り返し行う。その後、得られた沈殿物を大気中150℃以上かつ200℃以下で2時間以上かつ120時間以下乾燥させる。この乾燥体にLi源をd:1−e:e=1:0.5:0.5となるように自動乳鉢で5時間以上かつ48時間以下混合し、得られた混合物をペレット化して、大気中2時間以上かつ12時間以下、350℃以上かつ550℃以下で仮焼する。この仮焼の終了時はペレットを急速に室温に急冷する。その後、ペレットを自動乳鉢で5時間以上かつ48時間以下混合し、得られた粉末をペレット化して、大気中2時間以上かつ12時間以下、800℃以上かつ1000℃以下で焼成する。この焼成の終了時はペレットを急速に室温に急冷する。その後、ペレットを自動乳鉢で粉砕して、Li
dNi
eMe
(1−e)O
2粒子とできる。
この場合、仮焼後の自動乳鉢による粉砕時間、焼成時の温度、時間、仮焼後の自動乳鉢による粉砕時間を調整することにより、Li
dNi
eMe
(1−e)O
2粒子の粒子径を所望の大きさに制御することが可能である。
【0071】
Ni源としては、ニッケル化合物からなるNi源が好適に用いられる。
【0072】
Me源としては、アルミニウム化合物からなるAl源、マンガン化合物からなるMn源、ナトリウム化合物からなるNa源、鉄化合物からなるFe源、コバルト化合物からなるCo源、クロム化合物からなるCr源、銅化合物からなるCu源、亜鉛化合物からなるZn源、カルシウム化合物からなるCa源、カリウム化合物からなるK源、マグネシウム化合物からなるMg源および鉛化合物からなるPb源からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0073】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法では、Li
xA
yD
zPO
4粒子の含有量が15質量%以上45質量%以下、J
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)
3粒子の含有量が1質量%以上3質量%未満、Li
dNi
eMe
(1−e)O
2粒子の含有量が55質量%以上85質量%以下となるように、Li
xA
yD
zPO
4粒子とJ
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)
3粒子とG
dNi
eMe
(1−e)O
2粒子を混合することが好ましい。
【0074】
有機化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、多価アルコール等が挙げられる。
多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、グリセリン等が挙げられる。
【0075】
有機化合物は、有機化合物中の炭素が、Li
xA
yD
zPO
4粒子若しくはLi
xA
yD
zPO
4粒子とJ
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)
3粒子の質量を100質量部とした場合、その100質量部に対して1質量部以上かつ10質量部以下となるように混合すればよい。
【0076】
次いで、得られた混合液を分散して分散体とする。
分散方法は、特に限定されないが、Li
xA
yD
zPO
4粒子とJ
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)
3粒子の凝集状態をほぐすことができる装置を用いることが好ましい。このような分散装置としては、例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー等が挙げられる。特に連続式の分散装置を用いることで、分散処理中にサンプリングすることが可能となり、スパン値による終点判断が容易となる。
【0077】
次いで、上記の分散体を乾燥して乾燥体とする。
本工程では、分散体から溶媒(水)を散逸させることができれば乾燥方法は特に限定されない。
なお、凝集粒子を作製する場合には、噴霧乾燥法を用いて乾燥すればよい。例えば、分散体を100℃以上かつ300℃以下の高温雰囲気中に噴霧し、乾燥させ、粒子状乾燥体または造粒状乾燥体とする方法が挙げられる。
【0078】
次いで、上記乾燥体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上かつ1000℃以下、好ましくは800℃以上かつ900℃以下の範囲内の温度にて焼成する。
この非酸化性雰囲気としては、窒素(N
2)、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気が好ましく、より酸化を抑えたい場合には水素(H
2)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気が好ましい。
【0079】
ここで、乾燥体の焼成温度を700℃以上かつ1000℃以下とした理由は、焼成温度が700℃未満では、乾燥体に含まれる有機化合物の分解・反応が充分に進行せず、有機化合物の炭化が不充分なものとなり、生成する分解・反応物が高抵抗の有機物分解物となるので好ましくないからである。一方、焼成温度が1000℃を超えると、乾燥体を構成する成分、例えば、リチウム(Li)が蒸発して組成にずれが生じるだけでなく、この乾燥体にて粒成長が促進し、高速充放電レートにおける放電容量が低くなり、充分な充放電レート性能を実現することが困難となる。また、不純物が生成され、この不純物が由来となり充放電を繰り返した際に容量の劣化を起こす。
【0080】
焼成時間は、有機化合物が充分に炭化される時間であればよく、特に制限されないが、0.1時間以上かつ10時間以下とする。
【0081】
この焼成により、Li
xA
yD
zPO
4粒子の一次粒子とJ
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)
3粒子の一次粒子で造粒された造粒体が得られる。
【0082】
Li
xA
yD
zPO
4粒子の一次粒子とJ
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)
3粒子の一次粒子で造粒された造粒体とLi
dNi
eMe
(1−e)O
2粒子とを乾式混合して得られた混合体が、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料である。乾式混合手法は、Li
xA
yD
zPO
4粒子の一次粒子とJ
aTi
2−bM
b(P
3−cQ
cO
4)
3粒子の一次粒子で造粒された造粒体とLi
dNi
eMe
(1−e)O
2粒子とが十分に混合される条件であればよく、特に制限されないが、乾式粉体混合機を用いることが好適である。
【0083】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、電極集電体と、その電極集電体上に形成された正極合剤層(電極)と、を備え、正極合剤層が、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するものである。
すなわち、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されてなるものである。
【0084】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層を形成できる方法であれば特に限定されない。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合してなる、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する。
【0085】
「結着剤」
結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
【0086】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける結着剤の含有率は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上かつ6質量%以下であることがより好ましい。
【0087】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素の群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0088】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける導電助剤の含有率は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上かつ10質量%以下であることがより好ましい。
【0089】
「溶媒」
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を含むリチウムイオン二次電池用正極材料ペーストでは、電極集電体等の被塗布物に対して塗布し易くするために、溶媒を適宜添加してもよい。
電極形成用塗料または電極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよい。
溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0090】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と溶媒の合計質量を100質量部とした場合に、60質量部以上かつ400質量部以下であることが好ましく、80質量部以上かつ300質量部以下であることがより好ましい。
上記の範囲で溶媒が含有されることにより、電極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを得ることができる。
【0091】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合する方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカー、ホモジナイザー等の混錬機を用いた方法が挙げられる。
【0092】
次いで、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、この塗膜を乾燥し、次いで、加圧圧着することにより、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されたリチウムイオン二次電池用正極を得ることができる。
【0093】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極によれば、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を含有しているため、リチウムイオン二次電池用正極に含まれる造粒体内に電解液を侵入し易く、電子伝導性とイオン伝導性を両立し、エネルギー密度を向上したリチウムイオン二次電池用正極を提供することができる。
【0094】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を備え、正極として、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極を備える。
【0095】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池では、負極、非水電解質、セパレータ等は特に限定されない。
負極としては、例えば、金属Li、炭素材料、Li合金、Li
4Ti
5O
12等の負極材料を用いることができる。
また、非水電解質とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0096】
非水電解質は、例えば、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を、例えば、濃度1モル/dm
3となるように溶解することで作製することができる。
セパレータとしては、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
【0097】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池では、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極を備えるため、放電容量が大きく、かつ、充放電の直流抵抗が低い。
【実施例】
【0098】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
[実施例1]
以下のようにして、LiFePO
4とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3との混合物を製造した。
まず、LiFePO
4の合成について記載する。
Li源およびP源としてLi
3PO
4を用い、Fe源としてFeSO
4水溶液を用い、これらを、Li、FeおよびPのモル比がLi:Fe:P=3:1:1となるように混合して、2.2L(リットル)の原料スラリーAを調製した。
次いで、この原料スラリーAを耐圧容器に入れた。
その後、この原料スラリーAについて、175℃にて28時間、加熱反応を行い、水熱合成を行った。このときの耐圧容器内の圧力は0.8MPaであった。
反応後、耐熱容器内の雰囲気が室温になるまで冷却して、ケーキ状態の反応生成物の沈殿物を得た。
この沈殿物を蒸留水で複数回、充分に水洗し、乾燥しないように含水率40%に保持し、ケーキ状物質とした。
このケーキ状物質を70℃にて2時間真空乾燥させて、Li
3PO
4(LFP)粒子を得た。
得られたLi
3PO
4(LFP)粒子の96質量%に対し、あらかじめ20質量%に調整したポリビニルアルコール4質量%を水溶媒中に分散してなる原料スラリーBを乾燥造粒後、750℃にて1時間熱処理を行うことにより、LFP粒子の表面を炭素質被膜によって被覆した。
次いで、ジェットミル装置(商品名:SJ−100、日清エンジニアリング社製)を用い、供給速度200g/時間の条件で造粒したLFP粒子を解砕した。
次に、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3の合成について記載する。
Li源としてLi
2CO
3を用い、Al源としてAl
2O
3を用い、Ti源としてTiO
2を用い、PO
4源としてNH
4H
2PO
4を用い、これらを、Li、Al、TiおよびPO
4のモル比がLi:Al:Ti:PO
4=1.3:0.3:1.7:3となるようにボールミルで10時間混合した。
その後、この混合物を、大気中、300℃にて6時間仮焼した。
次いで、仮焼後の混合物を自動乳鉢で1時間粉砕混合し、さらに、大気中、900℃にて28時間焼成することにより、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子を得た。
次いで、解砕したLFP粒子94質量%に対し、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子6質量%を水溶媒中に分散してなる原料スラリーCを乾燥造粒することにより、混合物二次粒子内にLFP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子とがまんべんなく存在した混合物を得た。
続いて、LFP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子の混合物20質量%とLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子80質量%とを、乾式粉体混合機(型番:RM−10G−3)で乾式混合することにより、実施例1のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
最終的な各粒子の混合割合は、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子80質量%、LFP粒子18.8質量%、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子1.2質量%であった。
【0100】
[実施例2]
解砕したLFP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子の混合物30質量%とLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子70質量%とを、乾式混合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
最終的な各粒子の混合割合は、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子70質量%、LFP粒子28.2質量%、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子1.8質量%であった。
【0101】
[実施例3]
解砕したLFP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子の混合物40質量%とLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子60質量%とを、乾式混合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
最終的な各粒子の混合割合は、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子60質量%、LFP粒子37.6質量%、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子2.4質量%であった。
【0102】
[実施例4]
以下のようにして、LiFePO
4とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3との混合物を製造した。
まず、LiFePO
4の合成について記載する。
Li源およびP源としてLi
3PO
4を用い、Fe源としてFeSO
4水溶液を用い、これらを、Li、FeおよびPのモル比がLi:Fe:P=3:1:1となるように混合して、2.2L(リットル)の原料スラリーAを調製した。
次いで、この原料スラリーAを耐圧容器に入れた。
その後、この原料スラリーAについて、175℃にて28時間、加熱反応を行い、水熱合成を行った。このときの耐圧容器内の圧力は0.8MPaであった。
反応後、耐熱容器内の雰囲気が室温になるまで冷却して、ケーキ状態の反応生成物の沈殿物を得た。
この沈殿物を蒸留水で複数回、充分に水洗し、乾燥しないように含水率40%に保持し、ケーキ状物質とした。
このケーキ状物質を70℃にて2時間真空乾燥させて、Li
3PO
4(LFP)粒子を得た。
次に、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3の合成について記載する。
Li源としてLi
2CO
3を用い、Al源としてAl
2O
3を用い、Ti源としてTiO
2を用い、PO
4源としてNF
4H
2PO
4を用い、これらを、Li、Al、TiおよびPO
4のモル比がLi:Al:Ti:PO
4=1.3:0.3:1.7:3となるようにボールミルで10時間混合した。
その後、この混合物を、大気中、300℃にて6時間仮焼した。
次いで、仮焼後の混合物を自動乳鉢で1時間粉砕混合し、さらに、大気中、900℃にて28時間焼成することにより、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子を得た。
次いで、LFP粒子90.24質量%とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子5.76質量%を混合し、これら混合物に対し、あらかじめ20質量%に調整したポリビニルアルコール4質量%を水溶媒中に分散してなる原料スラリーDを乾燥造粒後、750℃にて1時間熱処理を行うことにより、LFP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子の表面を炭素質被膜によって被覆した。
続いて、炭素質被膜で被覆されたLFP粒子と炭素質被膜で被覆されたLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子の混合物30質量%とLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子70質量%とを、乾式粉体混合機(型番:RM−10G−3)で乾式混合することにより、実施例4のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
最終的な各粒子の混合割合は、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子70質量%、炭素質被膜で被覆されたLFP粒子28.2質量%、炭素質被膜で被覆されたLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子1.8質量%であった。
【0103】
[比較例1]
Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子のみを比較例1のリチウムイオン二次電池用正極材料とした。
【0104】
[比較例2]
まず、LiFePO
4の合成について記載する。
Li源およびP源としてLi
3PO
4を用い、Fe源としてFeSO
4水溶液を用い、これらを、Li、FeおよびPのモル比がLi:Fe:P=3:1:1となるように混合して、2.2L(リットル)の原料スラリーAを調製した。
次いで、この原料スラリーAを耐圧容器に入れた。
その後、この原料スラリーAについて、175℃にて28時間、加熱反応を行い、水熱合成を行った。このときの耐圧容器内の圧力は0.8MPaであった。
反応後、耐熱容器内の雰囲気が室温になるまで冷却して、ケーキ状態の反応生成物の沈殿物を得た。
この沈殿物を蒸留水で複数回、充分に水洗し、乾燥しないように含水率40%に保持し、ケーキ状物質とした。
このケーキ状物質を70℃にて2時間真空乾燥させて、Li
3PO
4(LFP)粒子を得た。
得られたLi
3PO
4(LFP)粒子の96質量%に対し、あらかじめ20質量%に調整したポリビニルアルコール4質量%を水溶媒中に分散してなる原料スラリーBを乾燥造粒後、750℃にて1時間熱処理を行うことにより、LFP粒子の表面を炭素質被膜によって被覆した。
次いで、炭素質被膜で被覆されたLFP粒子20質量%とLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子80質量%とを、乾式粉体混合機(型番:RM−10G−3)で乾式混合することにより、比較例2のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
最終的な各粒子の混合割合は、炭素質被膜で被覆されたLFP粒子20質量%、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子20質量%であった。
【0105】
[比較例3]
解砕したLFP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子の混合物10質量%とLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子90質量%とを乾式混合したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
最終的な各粒子の混合割合は、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子60質量%、LFP粒子36質量%、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子4質量%であった。
【0106】
[比較例4]
解砕したLFP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子の混合物50質量%とLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子50質量%とを乾式混合したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
最終的な各粒子の混合割合は、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子50質量%、LFP粒子47質量%、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子3質量%であった。
【0107】
[実施例5]
以下のようにして、LiFe
0.26Mn
0.7Mg
0.0349Co
0.05Ca
0.001PO
4とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3との混合物を製造した。
まず、LiFe
0.26Mn
0.7Mg
0.0349Co
0.05Ca
0.001PO
4の合成について記載する。
Li源およびP源としてLi
3PO
4を用い、Fe源としてFeSO
4水溶液を用い、Mn源としてMnSO
4水溶液を用い、Mg源としてMgSO
4を用い、Co源としてCoSO
4水溶液を用い、Ca源としてCaSO
4水溶液を用い、これらを、Li、Fe、Mn、Mg、Co、CaおよびPのモル比がLi:Fe:Mn:Mg:Co:Ca:P=1:0.26:0.7:0.0349:0.05:0.001:1となるように混合して、2.2L(リットル)の原料スラリーAを調製した。
次いで、この原料スラリーAを耐圧容器に入れた。
その後、この原料スラリーAについて、190℃にて12時間、加熱反応を行い、水熱合成を行った。このときの耐圧容器内の圧力は1.0MPaであった。
反応後、耐熱容器内の雰囲気が室温になるまで冷却して、ケーキ状態の反応生成物の沈殿物を得た。
この沈殿物を蒸留水で複数回、充分に水洗し、乾燥しないように含水率40%に保持し、ケーキ状物質とした。
このケーキ状物質を70℃にて2時間真空乾燥させて、LiFe
0.26Mn
0.7Mg
0.0349Co
0.05Ca
0.001PO
4(LFMP)粒子を得た。
得られたLiFe
0.26Mn
0.7Mg
0.0349Co
0.05Ca
0.001PO
4(LFMP)粒子の96質量%に対し、あらかじめ20質量%に調整したポリビニルアルコール4質量%を水溶媒中に分散してなる原料スラリーBを乾燥造粒後、750℃にて1時間熱処理を行うことにより、LFMP粒子の表面を炭素質被膜によって被覆した。
次いで、ジェットミル装置(商品名:SJ−100、日清エンジニアリング社製)を用い、供給速度200g/時間の条件で造粒したLFMP粒子を解砕した。
次に、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3の合成について記載する。
Li源としてLi
2CO
3を用い、Al源としてAl
2O
3を用い、Ti源としてTiO
2を用い、PO
4源としてNF
4H
2PO
4を用い、これらを、Li、Al、TiおよびPO
4のモル比がLi:Al:Ti:PO
4=1.3:0.3:1.7:3となるようにボールミルで10時間混合した。
その後、この混合物を、大気中、300℃にて6時間仮焼した。
次いで、仮焼後の混合物を自動乳鉢で1時間粉砕混合し、さらに、大気中、900℃にて28時間焼成することにより、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子を得た。
次いで、解砕したLFMP粒子99質量%に対し、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子1質量%を水溶媒中に分散してなる原料スラリーCを乾燥造粒することにより、混合物二次粒子内にLFMP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子とがまんべんなく存在した混合物を得た。
続いて、LFP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子の混合物20質量%とLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子80質量%とを、乾式粉体混合機(型番:RM−10G−3)で乾式混合することにより、実施例5のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
最終的な各粒子の混合割合は、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子80質量%、LFMP粒子28.2質量%、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子1.8質量%であった。
【0108】
[実施例6]
解砕したLFMP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子の混合物30質量%とLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子70質量%とを乾式混合したこと以外は、実施例5と同様にして、実施例6のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
最終的な各粒子の混合割合は、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子70質量%、LFMP粒子28.2質量%、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子1.8質量%であった。
【0109】
[実施例7]
解砕したLFMP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子の混合物40質量%とLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子60質量%とを乾式混合したこと以外は、実施例5と同様にして、実施例6のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
最終的な各粒子の混合割合は、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子60質量%、LFMP粒子37.6質量%、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子2.4質量%であった。
【0110】
[実施例8]
以下のようにして、LiFe
0.26Mn
0.7Mg
0.0349Co
0.05Ca
0.001PO
4とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3との混合物を製造した。
まず、LiFe
0.26Mn
0.7Mg
0.0349Co
0.05Ca
0.001PO
4の合成について記載する。
Li源およびP源としてLi
3PO
4を用い、Fe源としてFeSO
4水溶液を用い、Mn源としてMnSO
4水溶液を用い、Mg源としてMgSO
4を用い、Co源としてCoSO
4水溶液を用い、Ca源としてCaSO
4水溶液を用い、これらを、Li、Fe、Mn、Mg、Co、CaおよびPのモル比がLi:Fe:Mn:Mg:Co:Ca:P=1:0.26:0.7:0.0349:0.05:0.001:1となるように混合して、2.2L(リットル)の原料スラリーAを調製した。
次いで、この原料スラリーAを耐圧容器に入れた。
その後、この原料スラリーAについて、190℃にて12時間、加熱反応を行い、水熱合成を行った。このときの耐圧容器内の圧力は1.0MPaであった。
反応後、耐熱容器内の雰囲気が室温になるまで冷却して、ケーキ状態の反応生成物の沈殿物を得た。
この沈殿物を蒸留水で複数回、充分に水洗し、乾燥しないように含水率40%に保持し、ケーキ状物質とした。
このケーキ状物質を70℃にて2時間真空乾燥させて、LiFe
0.26Mn
0.7Mg
0.0349Co
0.05Ca
0.001PO
4(LFMP)粒子を得た。
次に、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3の合成について記載する。
Li源としてLi
2CO
3を用い、Al源としてAl
2O
3を用い、Ti源としてTiO
2を用い、PO
4源としてNF
4H
2PO
4を用い、これらを、Li、Al、TiおよびPO
4のモル比がLi:Al:Ti:PO
4=1.3:0.3:1.7:3となるようにボールミルで10時間混合した。
その後、この混合物を、大気中、300℃にて6時間仮焼した。
次いで、仮焼後の混合物を自動乳鉢で1時間粉砕混合し、さらに、大気中、900℃にて28時間焼成することにより、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子を得た。
次いで、LFMP粒子90.24質量%とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子5.76質量%を混合し、これら混合物に対し、あらかじめ20質量%に調整したポリビニルアルコール4質量%を水溶媒中に分散してなる原料スラリーDを乾燥造粒後、750℃にて1時間熱処理を行うことにより、LFMP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子の表面を炭素質被膜によって被覆した。
次いで、炭素質被膜で被覆されたLFMP粒子と炭素質被膜で被覆されたLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子との混合物30質量%とLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子70質量%とを、乾式粉体混合機(型番:RM−10G−3)で乾式混合することにより、実施例8のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
最終的な各粒子の混合割合は、炭素質被膜で被覆されたLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子70質量%、炭素質被膜で被覆されたLFMP粒子28.2質量%、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子1.8質量%であった。
【0111】
[比較例6]
解砕したLFMP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子の混合物10質量%とLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子90質量%とを乾式混合したこと以外は、実施例5と同様にして、比較例6のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
最終的な各粒子の混合割合は、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子90質量%、LFMP粒子9.4質量%、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子0.6質量%であった。
【0112】
[比較例7]
解砕したLFMP粒子とLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子の混合物50質量%とLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子50質量%とを乾式混合したこと以外は、実施例5と同様にして、比較例7のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
最終的な各粒子の混合割合は、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2粒子50質量%、LFMP粒子47質量%、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3粒子3質量%であった。
【0113】
[電極材料の評価]
実施例1〜実施例8および比較例1〜比較例7で得られたリチウムイオン二次電池用正極材料、並びにリチウムイオン二次電池用正極材料が含む成分について物性を評価した。評価方法は、以下の通りである。なお、結果を表1に示す。
【0114】
(1)炭素量
炭素分析計(型番:EMIA−220V、堀場製作所社製)を用いて、実施例1〜実施例8および比較例1〜比較例7で得られたリチウムイオン二次電池用正極材料の炭素量を測定した。
【0115】
(2)比表面積
比表面積計(商品名:BELSORP−mini、日本ベル社製)を用いて、窒素(N
2)吸着によるBET法により、実施例1〜実施例8および比較例1〜比較例7で得られたリチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積を測定した。
【0116】
(43)体積基準50%粒子径(D50)
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(商品名:LA−950、堀場製作所社製)を用いて、実施例1〜実施例8および比較例1〜比較例7で得られたリチウムイオン二次電池用正極材料の体積基準50%粒子径(D50)を測定した。
【0117】
[ラミネート型リチウムイオン二次電池の作製]
N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に、実施例1〜実施例8および比較例1〜比較例7で得られたリチウムイオン二次電池用正極材料90質量%と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)5質量%と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%とを加えて混合し、スラリーを調製した。
次いで、このスラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、アルミニウム箔の両面に正極合剤層を形成した後、所定の密度となるように正極合剤層を圧着して正極とした。
N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に、天然黒鉛粉末90質量%と、アセチレンブラック(AB)5質量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%とを加えて混合し、スラリーを調製した。
次いで、このスラリーを、厚さ15μmの銅箔からなる集電体の両面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、銅箔の両面に負極合剤層を形成した後、所定の密度となるように負正極合剤層を圧着して負極とした。
得られた正極を縦2.8cm×横2.6cm、負極を縦3.0cm×横2.8cm、セパレータとして厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンフィルムを縦3.2cm×横3.2cmに切断した。
その後、負極8枚、正極7枚、負極と正極の間にセパレータ8枚を交互に配置し、電極積層体を形成した。
次に、電極積層体を2枚のアルミニウムラミネートフィルムで挟み、長辺の片側を除いた3辺を幅8mmで熱封止し、電解液を注入した後、残りの一辺を熱封止して、ラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
電解液としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとを1:1(質量比)にて混合し、さらに、その混合物に1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)溶液を加えて溶解したものを用いた。
【0118】
[リチウムイオン二次電池の評価]
(1)3C放電時エネルギー密度
環境温度25℃にて、正極の電圧が天然黒鉛負極電圧に対して4.2Vになるまで電流値0.1CAにて定電流充電を行い、目標電圧に到達した後、電流値が0.01CAになるまで定電圧充電を行った。
その後、1分間休止した後、環境温度25℃にて、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して2.0Vになるまで3CAの定電流放電を行い、3C放電エネルギー密度を評価した。結果を表1に示す。
【0119】
(2)3C充電時セル温度
リチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。環境温度25℃にて、正極の電圧が天然黒鉛負極電圧に対して4.2Vになるまで電流値3CAにて定電流充電を行い、目標電圧に到達した時点でのセル表面の温度を測定した。結果を表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
表1の結果から、実施例1〜実施例8では、リチウムイオン二次電池の放電時のエネルギー密度が高く、また、充放電時におけるリチウムイオン二次電池の温度の上昇を抑制できることが分かった。
一方、比較例1〜比較例7では、放電容量が実施例1〜実施例9よりも、リチウムイオン二次電池の放電時のエネルギー密度が低く、また、充放電時におけるリチウムイオン二次電池の温度の上昇を抑制できないことが分かった。