【実施例】
【0079】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0080】
実施例及び比較例において、水中での安定性と反応中の安定性は、以下のようにして評価した。評価結果は表1に示す。
【0081】
<水中での安定性>
後述の水素の製造において、水中に光触媒体を浸漬した際の光触媒体の状態を目視で観察して、水中の安定性を評価した。水中での安定性の評価基準は以下の通りである。
◎:光触媒体が基材から剥がれない(基材表面の残存率98%以上)。
○:光触媒体が基材から少しだけ剥がれる(基材表面の残存率90%以上、98%未満)。
×:光触媒体が基材から大きく剥がれる(基材表面の残存率90%未満)。
【0082】
<反応中の安定性>
後述の水素の製造における反応開始から反応後までの光触媒体を目視で観察して、反応中の安定性を評価した。反応中での安定性の評価基準は以下の通りである。
◎:光触媒体が基材から剥がれない(基材表面の残存率98%以上)。
○:光触媒体が基材から少しだけ剥がれる(基材表面の残存率90%以上、98%未満)。
×:光触媒体が基材から大きく剥がれる(基材表面の残存率90%未満)。
【0083】
<実施例1>
(光析出法による酸化チタンへの白金の担持)
300mLのセパラブルフラスコにメタノール50体積%の水溶液を200mL入れ、酸化チタン粉末(日本アエロジル製 P25)を4.0g加えた。ここに、塩化白金酸水溶液(0.1mol/L)を0.64mL加え、セパラブルフラスコに接続したPFAチューブを通じ窒素ガスを90分間バブリングした後、コックを閉じて容器を密閉した。次に、マグネチックスターラーを用いて撹拌(約500rpm)しながら、100W高圧水銀ランプ(SEN特殊光源(株)製 HL100G)の光を横方から90分間照射し、酸化チタンの表面にPtが担持されたPt/TiO
2ゾル(懸濁液)を得た。このゾルは1mL当たり20mgのPt/TiO
2二次粒子を含んでおり、液中で一晩静置後も沈殿はみられなかった。二次粒子の粒径が1μmであったとすると、ストークス則から100分間で1cmの沈降距離となるはずであり、ゾル中に含まれる二次粒子は1μmよりも小さいことが分かる。また、後述の実施例7において、これと同じPt/TiO
2ゾルを下地処理に用いた際の実験結果からはPt/TiO
2二次粒子は0.28μm以下と見積もられることを記載している。
【0084】
(洗浄と乾燥による白金担持酸化チタン二次粒子の調製)
次に遠心分離機(アズワン株式会社、HSIANGTAI CN−2060)を用い懸濁液中のPt/TiO
2を遠心分離(4500rpm、10分間)により沈降させた。上澄みを捨てて蒸留水を加え、再分散させた後、再び遠心分離により沈降させる操作を繰り返し、合計800mLの蒸留水で沈殿の洗浄を行った。得られた沈殿をるつぼに移し、100℃で乾燥し、光触媒凝集塊としての白金担持酸化チタン(Pt/TiO
2)を得た。白金の担持量は0.3重量%であった。
【0085】
(光触媒二次粒子の分級)
Pt/TiO2(40〜125)
光析出によりPtを担持したTiO
2の沈殿物は、100℃の乾燥によりTiO
2粒子表面のOH基が脱水縮合して固い凝集塊となった。これをメノウ乳鉢にて粉砕し、125μmの篩を通過し40μmの篩を通過しない粒を集めた。このままでは粉砕中に生じた微粉が付着しているため、40μm以下の粒を完全に除去することができていない。そこで、以下の水簸操作により付着した微粉を除去した。篩掛けした40〜125μmの粒をスクリュー管瓶(アズワン製 No.8)に入れ、水を100mL加え、蓋をして振り混ぜた後、1分間静置した。完全に沈んでいる粒を残し、微粉が残り若干懸濁した状態の上澄みを水面から8.5cm分だけ捨てた。全体で100mLとなるよう水を再び加え、振り混ぜて1分静置後に上澄みを捨てる操作を5回繰り返した。ストークス則から1分間で8.5cmの沈降距離を有する石英相当粒子径は40μmと計算されることから、この繰り返し操作で篩掛けした40μm超125μm以下の二次粒子に付着した40μm以下の微粉を除去できる。繰り返すうちに、上澄み液からは懸濁状態が消え、完全に清澄な上澄み液が得られるようになった。最後に上澄み液を捨てた後、内容物を少量の水でテフロン蒸発皿に移し約40℃に加温した。水が蒸発し終わった後、乾燥機に入れ100℃で乾燥した。レーザー回折式装置(マイクロトラック・ベル(株) ,MT3000II)により水中での粒度分布を測定したところ、粒径は40〜250μmの区間に分布し、粒子数の93%は125μm以下であったことから篩掛け条件と良く一致した。個数基準の平均粒径は82.3μmであった。以後これを、篩掛け条件に従ってPt/TiO
2(40〜125)と表記する。
【0086】
Pt/TiO2(3〜40)
光触媒をメノウ乳鉢にて粉砕し、40〜125μmの二次粒子を得る際に40μmの篩を通過した分を集め、Pt/TiO
2二次粒子とした。レーザー回折式装置(マイクロトラック・ベル(株),MT3000II)により水中での粒度分布を測定したところ、粒径は3〜40μmの区間に分布した。個数基準の平均粒径は5.7μmであり、3μm未満の粒子は観測されなかった。以後これをPt/TiO
2(3〜40)と表記する。
【0087】
Pt/TiO2(40〜63)
光析出によりPtを担持したTiO
2の沈殿物を、100℃の乾燥により凝集塊とし、メノウ乳鉢にて粉砕し、63μmの篩を通過し40μmの篩を通過しない粒を集めた。次にPt/TiO
2(40〜125)について行ったのと同様の水簸操作により付着した40μm未満の微粉を除去した。以後これを、篩掛け条件に従ってPt/TiO
2(40〜63)と表記する。
【0088】
(光触媒体の製造)
18mm角のカバーガラス(松浪硝子製)を基材として用いた。シリコンゴム栓を逆さに立て、その上にカバーガラス1枚を置いた。Pt/TiO
2(3〜40)の20mgをカバーガラス中央部に置いた。この上からバインダー液として酸化グラフェン(GO)水分散液(GO−W−175、アライアンスバイオシステムズ製、分散濃度0.5mg/mL)を0.2mL滴下した。スパーテルを用い上からつつくようにバインダー液とPt/TiO
2(3〜40)をなじませ、更にカバーガラス全体にバインダー液が拡がるようにした。この際バインダー液の粘度は低いためカバーガラスから流れ落ちないよう(表面張力で液滴がカバーガラス上に保持されるよう)注意する必要がある。このようにするとバインダー液滴中で粉体状Pt/TiO
2は沈降し、カバーガラス表面に配列する。これをそのまま50℃の乾燥機中に入れ、バインダー液中の水を蒸発させる。乾燥後の試料をシリコンゴム栓から磁性の灰分測定用皿に移し、マッフル炉中、加熱温度100℃で30分間熱処理して、光触媒二次粒子(Pt/TiO
2)と無機バインダー(酸化グラフェン)が基材(カバーガラス)に固定化された光触媒体を得た。
【0089】
(水素の製造)
反応容器としてホウケイ酸ガラス材質のガスクロバイアル瓶(日電理化硝子(株)製 SVG−50)を用い、反応容器の設置場所としては20℃に温度制御した恒温水槽(底面はパイレックス硝子板になっている)を用いた。出力500WのXeランプが入った光源装置(ウシオ電機製 OpticalModuleX SX−UID501XAMQ)を用い、電流値を25Aに設定した出力光を、石英ガラスァイバーを用いて直上に曲げ、恒温水槽中のバイアル瓶に対し石英ガラスァイバー先端の平行レンズを通し下方から照射されるようにした。
【0090】
次に、反応容器中に前記の光触媒体(Pt/TiO
2二次粒子と酸化グラフェンを固定化したカバーガラス)を入れ、光触媒面が上側となるように容器底面に置いた。ここにグリセリン10重量%水溶液10.0mLを加え、ブチルゴム栓と穴あきキャップにより密栓した。反応容器に水を満たして蓋を締めた時の水の重量から求めた内容積は、65mLであったので、反応液量を差し引くと、残りは空気が55mL入っていることになる。これを光触媒体全体に光が照射される(光照射面積が光触媒体の面積の3.2cm
2となる)よう恒温水槽の所定の位置に設置した。Xeランプのシャッターを開け、光照射を開始した時刻を反応開始時刻とした。別途サーマルセンサパワーメータ(PM160T、THORLABS製、測定波長範囲200〜10,600nm)を用い測定した光照射位置における光強度(放射照度)は558mW/cm
2であった。
【0091】
30分後に反応容器を光照射位置から外し、ブチルゴム栓を通してガスタイトシリンジにより0.2mLのガスを採取し、ArガスをキャリアとするTCDガスクロ(モレキュラーシーブ5Aカラム)により、H
2、O
2、N
2の分析を行った。その後、再び反応容器を恒温水槽の所定の位置に設置することによって光照射を再開し、30分間反応の後2回目のガス分析を行った。このようにして光照射下での反応を合計90分間行った。時間に対してH
2発生量が直線的に増加するのを確認し、その傾きからH
2発生速度を求めた。このようにして得られた反応結果を表1に示す。反応中は水素の生成(生成速度59.6μmol/h)により激しく発泡したが、発泡によるPt/TiO
2二次粒子の脱離は少なく、90分の反応終了後も大部分が固定化された状態で保持された。実施例1で得られた光触媒体は、発泡による動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況で安定して活性を保ちつつ反応を行うことができる。
【0092】
<実施例2>
実施例1の光触媒体の製造において、「マッフル炉中100℃で30分間熱処理」を「マッフル炉中150℃で30分間熱処理」としたこと以外は、実施例1と同様にして光触媒体の製造と水素の製造を行った。水素生成速度は55.5μmol/hと実施例1よりも少し低かったが、90分の反応終了後にPt/TiO
2二次粒子の脱離は認められなかった。実施例2で得られた光触媒体についても、動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況で安定して活性を保ちつつ反応を行うことができる。
【0093】
<実施例3>
実施例1の光触媒体の製造において、「マッフル炉中100℃で30分間熱処理」を「マッフル炉中300℃で30分間熱処理」としたこと以外は、実施例1と同様にして光触媒体の製造と水素の製造を行った。水素生成速度は51.1μmol/hと実施例2よりも少し低かったが、90分の反応終了後にPt/TiO
2二次粒子の脱離は認められなかった。実施例3で得られた光触媒体についても、動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況で安定して活性を保ちつつ反応を行うことができる。
【0094】
<比較例1>
光触媒二次粒子の分級工程において得られた乾燥温度100℃のPt/TiO
2(40〜125)を基材に固定せずに、水素の製造に用いた。ガスクロバイアル瓶(日電理化硝子(株)製 SVG−12)を反応容器として用い、この中に粒状Pt/TiO
2を20mg入れた。更にグリセリン10重量%水溶液5.0mLを加え、密栓した。反応容器に水を満たして蓋を締めた時の水の重量から求めた内容積は、15.6mLであったので、反応液量を差し引くと、残りは空気が10.6mL入っていることになる。これを反応容器底面全体に光が照射される(光照射面積3.6cm
2)よう恒温水槽の所定の位置に設置した。この他は実施例1と同じ条件で光照射し90分間反応を行った。
【0095】
表1に反応結果を示す。比較例1の水素生成速度は59.7μmol/hで実施例1の水素生成速度とほぼ同じであった。比較例1において分級前の乾燥温度が100℃であることを考慮すると、実施例1では固定化時の加熱温度を100℃とすることにより活性を低下させることなく固定化に成功している。実施例2,3では固定化後の加熱温度を150〜300℃とすることによって水素生成速度は若干低下するものの、バインダーによるPt/TiO
2の基材への付着強度が高くなり、反応後に光触媒粉末の脱離が全く認められないようになった。比較例1の反応条件では、30分ごとのガス分析のために反応容器を移動する際に波立つことで光触媒二次粒子がビンの中で動きやすく、片よりが生じると水素生成量が低下する一因となった。このように水素生成速度が高いものの、光触媒二次粒子を基材に固定化せずに反応しているため、動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況では安定して活性を保ちつつ反応を行うのは難しい。
【0096】
<比較例2(スキージー法)>
(ペースト作製)
公称容量20mLのスクリュー管瓶(アズワンNo.5)に実施例1と同様に調製した粉状Pt/TiO
2(3〜40)の0.45gを入れ、水2.25mLを加えた。ここに、ポリエチレングリコール20M(キシダ化学、平均分子量18,000〜25,000)0.135gを少しずつ加え、加えるごとにタッチミキサ(IKA製、VORTEX GENIUS3)で攪拌した。次に、ヒドロキシプロピルセルロース(富士フィルム和光純薬、粘度1,000〜5,000cP)0.045gを少しずつ加え、加えるごとにタッチミキサで攪拌した。全量加えてから更にタッチミキサで攪拌し、超音波洗浄機(アズワン製、US−2R)の水浴中で30分間振とうして全組成を混合することにより、Pt/TiO
2ペーストを得た。加えた粉状Pt/TiO
2は3μm以上の二次粒径であるものの、有機分散剤およびバインダー剤を加え、超音波処理により二次粒子は壊れてPt/TiO
2が1μm未満の粒径で再分散した状態が得られた。
【0097】
(スキージー法によるガラス基材への固定化)
18mm角のカバーガラス(松浪硝子製)を基材として用いた。この上に40℃で加温して粘度を下げたPt/TiO
2ペーストを適量垂らして載せ、スパーテルの平らな面を用いて全面に塗り拡げた。室温で一晩乾燥した後、マッフル炉で300℃の熱処理を30分間行い、カバーガラス固定化Pt/TiO
2試料を得た。得られた試料の重量と、固定化前のカバーガラスの重量の差から、固定化されたPt/TiO
2の重量は20.8mgと求められた。
【0098】
水素の製造は、実施例1と同様に行い結果を表1に示した。光触媒体は反応中に剥がれることなく安定だったが、水素生成速度は42.8μmol/hで実施例1よりも低くなった。
【0099】
<比較例3(ドロップキャスト法)>
(ドロップキャスト法によるガラス基材への固定化)
実施例1と同じ条件で酸化チタン(P25,日本アエロジル)表面にPtの光析出を行った。光照射終了後に得られたPt/TiO
2ゾルをそのまま基材への固定化に用いた。このゾルは1mL当たり20mgのPt/TiO
2二次粒子を含んでおり、液中で一晩静置後も沈殿はみられなかった。二次粒子の粒径が1μmであったとすると、ストークス則から100分間で1cmの沈降距離となるはずであり、ゾル中に含まれる二次粒子は1μmよりも小さいことが分かる。また、後述の実施例7において、これと同じPt/TiO
2ゾルを下地処理に用いた際の実験結果からはPt/TiO
2二次粒子は0.28μm以下と見積もられることを記載している。
【0100】
固定化には18mm角のカバーガラス(松浪硝子製)を基材として用いた。ゾル分散液80μLを室温下でカバーガラスに滴下してスパーテルでカバーガラス面に拡げた。これを150℃に設定したホットプレート上に移し乾燥させた。ホットプレートから外して室温に戻し、再びゾル分散液80μLをカバーガラスに滴下して全体に拡げ、ホットプレート上に移し乾燥させた。このようにゾル滴下と乾燥を合計10回繰り返してPt/TiO
2ゾルをガラス基板に固定化した。
【0101】
水素の製造は、実施例1と同様に行い結果を表1に示した。光触媒は反応中に剥がれることなく安定だったが、水素生成速度は39.6μmol/hで実施例1よりも低くなった。光触媒の希薄なゾル分散液をドロップキャストすることでバインダーを要さず薄膜状に固定化することができ、固定化を繰り返すことによって所定の量を安定に固定化することができる。しかし高い光触媒活性を得るためには固定化を何度も繰り返す必要があり実施例の方法と比べ著しく手間を要する。実施例1〜3では1回の固定化で比較例3よりも高い光触媒活性を得ることができた。
【0102】
<実施例4>
光触媒二次粒子としてPt/TiO
2(40〜125)を用い、TiO
2微粒子(P25、日本アエロジル)の水分散液を無機バインダー溶液として固定化した。具体的には、18mm角のカバーガラスを実施例1と同様にシリコンゴム栓上に設置し、その上にP25の水分散液(分散濃度1.0mg/mL)を0.3mL滴下してスパーテルでガラス面に拡げ水滴を作った。分級により得られたPt/TiO
2(40〜125)をストックした瓶からスパーテルで少しずつ水滴中に添加しガラス面に沈降させた。ガラス面全体にPt/TiO
2二次粒子が分布するまで加えたところでストック瓶に残ったPt/TiO
2二次粒子の重さを量り、添加前の重量との差から添加量が67.5mgと決定した。これを80℃の乾燥機に入れて水分を蒸発させ、乾燥後の試料を磁性の灰分測定用皿に移し、マッフル炉中、加熱温度300℃で30分間熱処理することで、光触媒二次粒子(Pt/TiO
2)と無機バインダー(酸化チタン)が基材(カバーガラス)に固定化された光触媒体を得た。
【0103】
水素の製造は、光触媒体の上方から光照射することにより行った。ガスクロバイアル瓶(日電理化硝子(株)製 SVG−50)を反応容器とすることは実施例1と同じであるが、実施例4ではバイアル瓶を横倒しにして用い、ここに光触媒体を光触媒面が上を向くように入れた。そのままグリセリン10重量%水溶液10.0mLを加え、瓶の口から水溶液がこぼれないように光触媒体を液中に沈めた。瓶を横倒しのままブチルゴム栓と穴あきキャップにより密栓した。瓶が転がらないようラボジャッキ上面で左右を固定した。出力100WのXeランプが入った光源装置(朝日分光製 LAX100)を用い、上方から下方に向かってXe光を照射した。光照射強度(放射照度)はソーラーメーター(英弘精機株式会社製、MS−02)を用いて測定し、光触媒体の高さで100mW/cm
2となるよう光源装置の出力コントロールとラボジャッキの高さ調節を行った。MS−02の測定波長範囲は取り扱い説明書に記されていないが、一般的なシリコン製電池を用いたソーラーメーターの測定範囲の300〜1,100nm前後の範囲と考えられるので、前出の実施例などで用いたサーマルパワーセンサでの測定値とは異なることに注意する必要がある。Xeランプのシャッターを開け、光照射を開始した時刻を反応開始時刻とし、以降は実施例1と同様にガス分析を行って反応評価した。反応結果は表1に示した。実施例4で得られた光触媒体は、動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況で安定して活性を保ちつつ反応を行うことができる。
【0104】
<実施例5>
光触媒二次粒子としてPt/TiO
2(3〜40)を用いた他は実施例4と同様に行った。固定化の際に無機バインダー溶液に加えた粉体量は72mgであった。反応結果は表1に示した。水素生成速度は24.1μmol/hでPt/TiO
2(40〜125)を用いた実施例4と比べ少し低くなった。実施例4と比べPt/TiO
2二次粒子の使用量はほぼ同じであるが、Pt/TiO
2(40〜125)の方が二次粒子間の穴のサイズが大きくなるために、泡の脱離が促進されたものと考えられる。実施例5で得られた光触媒体についても、動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況で安定して活性を保ちつつ反応を行うことができる。
【0105】
<実施例6>
光触媒二次粒子としてAu/TiO
2二次粒子を用い、他実施例よりも大きな面積(40cm
2)のガラス基材に固定化した。他実施例と同じ酸化チタン(日本アエロジル、P25)を用い、一般的に金ナノ粒子を酸化物表面に固定化するための方法として知られる析出沈殿法を用い、1.5wt%のAuを担持したAu/TiO
2を用いた。篩粒度としては300μmの篩を通過する粒子を用いており、40μmの篩を通過する粉状の粒子も含んでいる。バインダー液としては層状粘土であるサポナイト(クニミネ工業株式会社製、スメクトンSA)の水分散液(分散濃度1mg/mL)を用いた。
【0106】
ガラス基材としては5.2×7.6cmサイズのスライドガラス(松浪硝子製、S9112)を用いた。この上にAu/TiO
2の二次粒子366mgを全面に撒き、サポナイト分散液1.22mLをパスツールピペットで少しずつAu/TiO
2二次粒子の上から全量滴下した。全量を滴下後にスライドガラス全面にバインダー液が行き渡り水滴状になるようにスパーテルの先で整えて、更に全体を揺らして水滴中に沈んだAu/TiO
2の二次粒子が均一に並ぶように整えた。これを100℃で乾燥した後に、マッフル炉中、加熱温度300℃で1時間加熱して光触媒体とした。
【0107】
水素の製造は、公称容量500mLの角型広口メディウム瓶(simax社製、2080M/500)を反応容器とし、ポリプロピレン製のキャップに穴あけをしてシリコンゴムセプタムを取り付けたものを用いた。この容器を横に寝かせ、光触媒体を中に入れて容器側面に光触媒面が上を向くように置いた。そのままグリセリン10重量%水溶液50.0mLを加え、光触媒体を液中に沈めた。容器を横に寝かせたままキャップを閉めて密栓した。キャップの内部にあるシールリングによって気密は良好に保たれた。容器内に一杯に水を満たして実測した実容量は778mLであったので、反応液に接する728mLの空間は空気のままとした。
【0108】
ソーラーシミュレータ(山下電装製、YSS−80)を用いて光照射を行った。光照射強度はソーラーメーター(英弘精機株式会社製、MS−02)を用いて測定し、光触媒体の高さで100mW/cm
2となるよう光源装置の出力コントロールと試料台の高さ調節を行った。ガス分析はシリコンゴムセプタムを通し実施例1と同様にして行った。
【0109】
実施例6で得られた光触媒体についても、動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況で安定して活性を保ちつつ反応を行うことができる。
【0110】
<比較例4>
実施例1と同じ条件で酸化チタン(P25,日本アエロジル)表面にPtの光析出を行った。光照射終了後に得られたPt/TiO
2ゾルをそのまま実施例6と同じ基材(40cm
2)への固定化に用いた。
このゾルは1mL当たり20mgのPt/TiO
2二次粒子を含んでおり、液中で一晩静置後も沈殿はみられなかった。二次粒子の粒径が1μmであったとすると、ストークス則から100分間で1cmの沈降距離となるはずであり、ゾル中に含まれる二次粒子は1μmよりも小さいことが分かる。また、後述の実施例7において、これと同じPt/TiO
2ゾルを下地処理に用いた際の実験結果からはPt/TiO
2二次粒子は0.28μm以下と見積もられることを記載している。ガラス基板の縁をテフロンシールテープで囲んで液が漏れないようにして、Pt/TiO
2の固定化密度が9.2mg/cm
2となるよう、18.4mLのPt/TiO
2ゾル液を流し込んだ。そのまま室温(20℃)下ドラフト中で12h乾燥した。乾燥後に目視で状態を確認すると、基板表面での担持密度には明らかにムラが生じ、またひび割れも多数生じた。これを電気炉中で300℃熱処理した後は見た目の変化は無く剥げ落ちも生じなかったが、水中に沈めると2割程度のPt/TiO
2が剥げ落ち、付着強度が十分でないため反応に用いることができなかった。
【0111】
<実施例7>
光触媒二次粒子としてPt/TiO
2(40〜63)とPt/TiO
2(3〜40)の混合物を用い、下地処理を行った100cm
2のガラス基材に固定化した。基材表面にOH基を増やすための下地処理には実施例1と同様に調製したPt/TiO
2ゾルを使用した。このゾル3mLを100×100×0.7mmのガラス基材(材質:ホウケイ酸ガラス)の表面9か所にパスツールピペットで滴下し、スパーテルを用いてガラス面にゾルが均一になるよう整えた。次にガラス面を傾けて流れ落ちるゾルを捨て、更に基材を軽く振って落ちる分のゾルを捨てることにより、ガラス面に付着するゾルのみを残した。これを室温で30分間乾燥した後、マッフル炉に入れて加熱温度300℃で1時間加熱することにより、下地層としてガラス表面にPt/TiO
2薄膜を形成した。薄膜はグレーがかった乳白色の半透明膜であり、印刷物の上に下地処理したガラス基材を置いたところ印刷物の文字は可読であった。このような光触媒透明膜の膜厚測定法としては次のような重量測定による方法を適用することが可能である(大谷文章、光触媒標準研究法、東京図書(2015)、p.91)。基材上の薄膜が均一に付着していると仮定し,薄膜の重量(Wg)を,基材だけの重量を差し引くことによって求め,薄膜が付着した基材のみかけの面積(Acm
2)と薄膜成分の密度(ρg/cm
3)を使って,厚さ(tcm)を以下の式から求めることができる。
t=W/(Aρ)
下地処理後の基材重量は17.465gであり、薄膜の重量Wは11mgであった。基材面積Aは100cm
2で、Ptの担持量は0.3重量%と少ないことから薄膜成分の密度ρは純TiO
2と同じ4.0g/cm
3として計算すると膜厚tは0.28μmであった。この結果から、この薄膜を形成するために用いたゾル中に分散されていたPt/TiO
2二次粒子径は0.28μm以下であることが分かった。
【0112】
次にPt/TiO
2二次粒子の固定化を行った。Pt/TiO
2二次粒子は実施例1と同様に調製したPt/TiO
2(40〜63)の0.68gと、Pt/TiO
2(3〜40)の0.22gを混合し、PFA時計皿に入れた。ここにバインダー液としてサポナイト(クニミネ工業株式会社製、スメクトンSA)の水分散液(分散濃度1mg/mL)を3.0mL加え、このスラリーを下地処理したガラス基材の上に移した。スラリーの大部分は移すことができたが、少量が時計皿に付着して残り、全量移すことはできなかったため、基板上のPt/TiO
2量は完成後の光触媒体の重量から見積もった。
ガラス基材全面にバインダー液が行き渡り水滴状になるようにスパーテルの先で整えて、更に全体を揺らして水滴中に沈んだPt/TiO
2二次粒子が均一に並ぶように整えた。これを室温で一晩乾燥した後に、マッフル炉中、加熱温度100℃で1時間加熱して光触媒体とした。得られた光触媒体の重量は18.306gであった。この重量から下地処理後の基材の重量(17.465g)を差引くことにより、固定化されたPt/TiO
2二次粒子の重量を841mgと決定した。また、バインダー液3.0mLがPt/TiO
2の0.9gと均一に混合され、そのうちガラス基材に移された分と時計皿に残った分があると考えると、バインダー液のうちガラス基材に移された分は3.0×841/900=2.8mLと見積もられる。
【0113】
水素の製造には、縦23cm、横16cm、深さ1cmの内寸の窪みを有するプラスチックトレーを反応器として用いた。内部中央に光触媒体を光触媒面が上を向くように固定し、そのままグリセリン10重量%水溶液150.0mLを加え、光触媒体を液中に沈めた。トレーの縁部(幅1cm)にグリースを塗り、縁の形に合わせて切り抜いたシリコンゴム板(厚さ2mm)を置き、その上からアクリル板をかぶせて縁をダブルクリップで挟んで密閉した。アクリル板の中央部は四角にくり抜いてパイレックスガラス板を接着しており、上面から光触媒体への光照射が可能である。またアクリル板の蓋に取り付けたシリコンゴムセプタムからガスサンプリングが可能な構造になっている。シリコンゴム板とグリースによって気密は良好に保たれた。容器内に一杯に水を満たして実測した実容量は450mLだったので、反応液に接する300mLの空間は空気のままとした。出力500WのXeランプが入った光源装置(ウシオ電機製 OpticalModuleX SX−UID501XAMQ)を用い、照射面積を広げるために石英ガラスァイバーを外して標準コリメータレンズに付け替え、横方に照射される光を、ミラーを用いて下方に反射させた。この直下に上記反応容器を設置して光触媒体の高さで直径6.5cmの円形範囲に約100mW/cm
2で光照射されるようジャッキを用いて高さ調節し、ソーラーメーター(英弘精機株式会社製、MS−02)を用いて円形範囲の上下左右位置で強度測定したところ平均値101mW/cm
2であった。トレー型反応器の下にはクールプレート(SCP−125,アズワン製)を設置して液温が20℃となるよう温度調節した後に光照射を開始して水素生成反応を行った。ガス分析はシリコンゴムセプタムを通し実施例1と同様にして行った。
【0114】
<実施例8>
ガラス板にPt/TiO
2二次粒子を固定化した光触媒体により、有機物の酸化分解反応を行った。有機物としては酢酸を選び、空気中の酸素によって二酸化炭素に酸化分解される速度を評価した。光触媒体は実施例7にて調製したPt/TiO
2光触媒体をガラス切りにて18mm角に切り出して、そのまま用いた。反応容器としてホウケイ酸ガラス材質のガスクロバイアル瓶(日電理化硝子(株)製 SVG−50)を用い、反応容器の設置場所としては20℃に温度制御した恒温水槽(底面はパイレックス硝子板になっている)を用いた。出力500WのXeランプが入った光源装置(ウシオ電機製 OpticalModuleX SX−UID501XAMQ)を用い、電流値を25Aに設定した出力光を、石英ガラスァイバーを用いて直上に曲げ、恒温水槽に対し石英ガラスァイバー先端の平行レンズを通し下方から照射されるようにし、水槽底面の硝子板を通し下側から照射された光を三角プリズムで水平方向に曲げた。
【0115】
次に、反応容器中に前記の光触媒体(18mm角に切り出した光触媒体)を入れ、内側から側面に沿わせて立て、18×5cmにカットしたフッ素樹脂網(4メッシュ相当、厚み1.6mm)を反応容器側面に拡げて入れることで支えとし、光触媒体を反応容器側面に立ったまま保持した。反応容器内に、長さ15mmのテフロン被覆撹拌子と酢酸5重量%水溶液20.0mLを加え、ブチルゴム栓と穴あきキャップにより密栓した。反応容器に水を満たして蓋を締めた時の水の重量から求めた内容積は、65mLであったので、反応液量を差し引くと、残りは空気が45mL入っていることになる。恒温水槽の所定の位置に設置し、プリズムで水平に曲げられた光が光触媒体に照射されるようにした。反応容器直下位置の水槽ガラス面には小型マグネチックスターラー(セルスターCS−101、アズワン製)を取り付け、反応容器内の溶液が攪拌されるようにした。Xeランプのシャッターを開け、光照射を開始した時刻を反応開始時刻とした。別途サーマルセンサパワーメータ(PM160T、THORLABS製)を用い測定した光照射位置における光強度は420mW/cm
2であった。
【0116】
20分後に反応容器を光照射位置から外し、ブチルゴム栓を通してガスタイトシリンジにより0.2mLのガスを採取し、Heガスをキャリアとするメタナイザー付きFIDガスクロ(化学物質評価研究機構製、Gカラム G−950)により、CO
2の分析を行った。その後、再び反応容器を恒温水槽の所定の位置に設置することによって光照射を再開し、20分間反応の後2回目のガス分析を行った。このようにして光照射下での反応を合計60分間行った。時間に対してCO
2発生量が直線的に増加するのを確認し、その傾きから求めたCO
2発生速度は10.4μmol/hであった。反応中はマグネチックスターラーによる攪拌を続けたが、60分の反応終了後も大部分が固定化された状態で保持された。
【0117】
【表1】
【0118】
反応条件1:実施例1参照、反応条件2:実施例4参照、反応条件3:実施例6参照、反応条件4:実施例7参照、反応条件5:実施例8参照
a)水中での安定性が無いために光照射は行わなかった
b)実施例8のみ反応は水中酢酸の酸化分解反応で、CO
2の生成速度を示す。
【0119】
表1の結果から、次のようなことが分かる。光触媒性能は水素生成速度の欄に示しているが、1〜4で示した反応条件番号が異なるところでは、反応装置、光源、照射条件、反応装置などが異なるため、活性比較を行うことは難しい。
【0120】
実施例1〜3のように酸化グラフェンをバインダーとし、加熱処理温度を100〜300℃とすることで、水素発泡を伴う反応中も剥がれることの無い安定な光触媒体を得ることができた。これらの光触媒体は光触媒二次粒子を固定化なしで用いた比較例1と比べて8割以上の高い水素生成速度を示した。
【0121】
基材に光触媒を固定化する従来法として、比較例2のスキージー法、比較例3のドロップキャスト法を用いた場合は、いずれも実施例1〜3よりも低い生成速度となった。本発明の方法は、スキージー法と比較して基材面に均一に再現性良く塗布することが容易である特徴があり、ドロップキャスト法と比べて担持操作を繰り返す(比較例3では10回)事なしに、1回の担持操作で高い活性が得られる特徴もある。
【0122】
実施例4、5のように酸化チタンナノ粒子をバインダーとして用いても反応中安定な光触媒体を得ることができる。担持された光触媒二次粒子が大きい実施例4(40〜125μm)で実施例5(3〜40μm)よりも高い水素生成速度が得られた。但し、溶液を強く攪拌する条件では実施例5の方が壊れにくかった。
【0123】
実施例6ではAu/TiO
2とサポナイトバインダーを用いて40cm
2の比較的広い面積の基板表面に二次粒子(3〜300μm)を安定に固定化できたが、比較例4のように二次粒子径が1μmに満たない場合は同一密度(9.2mg/cm
2)で安定に固定化することができなかった。
【0124】
実施例7では下地処理を行ってから、所定の粒径の光触媒二次粒子を固定化することで、更に広い面積の基板表面に安定に固定化した例を示した。他実施例とは光照射条件等が異なるものの、最も高い水素生成速度を得ることができた。
【0125】
実施例8では実施例7と同じ光触媒体を用いて、水中の有機物の除去反応の1例として酢酸の酸化反応を行い、CO
2への完全酸化反応を有効に進めた例を示した。