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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-159825(P2021-159825A)
(43)【公開日】2021年10月11日
(54)【発明の名称】光触媒体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20210913BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20210913BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20210913BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20210913BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20210913BHJP
【FI】
   B01J35/02 J
   B01J37/08
   B01J37/02 301C
   B01J23/42 M
   C01B3/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2020-62058(P2020-62058)
(22)【出願日】2020年3月31日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.パイレックス
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】木内 正人
(72)【発明者】
【氏名】神 哲郎
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA02A
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA10A
4G169BA14B
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB09A
4G169BB11A
4G169BB20A
4G169BC75B
4G169BD02B
4G169BD05A
4G169BD09A
4G169CB81
4G169EB14Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169FA01
4G169FA06
4G169FB15
4G169FB29
4G169FC02
4G169FC07
4G169HA07
4G169HB01
4G169HC02
4G169HC29
4G169HD10
4G169HD16
4G169HE09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光触媒二次粒子が基材に好適に固定され、固定化前の二次粒子と同程度の高い光触媒活性を有する新規な光触媒体の製造方法の提供。
【解決手段】基材に、4〜100nmの光触媒一次粒子が凝集してなる粒径が2〜2000μmの光触媒二次粒子及び無機バインダーが固定化された光触媒体の製造方法であって、無機バインダーを含む溶液と、光触媒二次粒子とを基材表面を覆うようにして存在させた後、80〜350℃の温度に加熱する工程を備える、光触媒体の製造方法。光触媒二次粒子が、半導体元素、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属硫化物、金属セレン化物、及び金属シリサイドからなる群より選択された少なくとも1種の光触媒物質を含んでいる、光触媒体の製造方法。無機バインダーが、酸化グラフェン、層状粘土、酸化チタン、及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種である、光触媒体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に、4〜100nmの光触媒一次粒子が凝集してなる粒径が2〜2000μmの光触媒二次粒子及び無機バインダーが固定化された光触媒体の製造方法であって、
前記無機バインダーを含む溶液と、前記光触媒二次粒子とが前記基材表面を覆うようにして存在させた後、80℃以上350℃以下の温度に加熱する工程を備える、光触媒体の製造方法。
【請求項2】
前記光触媒二次粒子が、半導体元素、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属硫化物、金属セレン化物、及び金属シリサイドからなる群より選択された少なくとも1種の光触媒物質を含んでいる、請求項1に記載の光触媒体の製造方法。
【請求項3】
前記無機バインダーが、酸化グラフェン、層状粘土、酸化チタン、及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の光触媒体の製造方法。
【請求項4】
基材に、4〜100nmの光触媒一次粒子が凝集してなる粒径が2〜2000μmの光触媒二次粒子及び無機バインダーが固定化された光触媒体であって、
前記無機バインダーを含む溶液と、前記光触媒二次粒子とが前記基材表面を覆うようにして存在させた後、80℃以上350℃以下の温度に加熱する工程を備える方法によって製造されてなる、光触媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンを代表とする光触媒は、大気浄化、脱臭、浄水、抗菌、防汚などの様々な分野での応用が広がっている。光触媒を空気等の気体中、あるいは水等の液体中に設置し光照射することにより、気体中や液体中の有機物に対して主に酸化分解反応を促進し、優れた浄化作用を得ることができる。また、近年では、光励起により生じた電子によって水中のプロトンやCO2を還元して水素やギ酸等を生成する人工光合成反応が試みられている。また、両者の中間的な反応として、水中に犠牲剤として加えられた有機物を酸化しつつ水素を製造する反応も検討されてきた。
【0003】
これらの種々の光触媒反応において、共通の課題は、どのような形態の光触媒をどのような保持方法で反応させるかという点である。気体反応の場合には、実験室ではガラス管反応器等に粉末の光触媒を充填しガスを流通しながら反応する方法と、基材の表面に光触媒を固定化して光触媒反応を行わせる方法がある。防汚、抗菌、脱臭等の応用分野では紙、布、板、タイル、フィルター、ビーズ、ハニカム等の様々な基材に光触媒を固定化したものが既に多数実用化されてきている。
【0004】
溶液反応の場合には、粉末状の光触媒を液中に懸濁させて用いる方法と、基材や反応器の表面に光触媒を固定化して用いる方法の2つが主に用いられる。いずれの方法でも、空気中で防汚等に用いる場合よりも多量の光触媒を必要とする場合が多い。
【0005】
このうち粉末懸濁で反応を行わせる方式は、光触媒と溶液中の反応物との接触が良く、物質移動がスムーズで反応速度が良くなるため、特に実験室レベルではよく用いられる。これをそのまま水中有機物の分解による浄水等に応用した場合は、懸濁液から光触媒粉末を分離する必要がある。分離のため、分離膜を反応器中に組み込んだメンブレンリアクターが用いられるが、この分離過程が反応器全体の液処理効率を落とす原因となることが多く指摘されている。
【0006】
溶液反応の場合も、光触媒原料となるチタン化合物を基材表面にコーティングして光触媒酸化チタンを固定化する方法を用いることで、光触媒の分離回収と再利用が容易になることから、多くの研究開発がなされている(非特許文献1)。しかしながら、酸化チタンを固定化した場合の水処理効率は、酸化チタンを分散・懸濁させた場合に比べて桁違いに減少することが報告されている(非特許文献2)。この原因としては、光触媒体表面までの物質輸送速度の減少、光触媒二次粒子を固定化する際にバインダー材により表面が被覆されることによる有効表面積の減少が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/159853号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】吉本哲夫、光触媒の固定化法、表面技術、50(1999)242−246.
【非特許文献2】勝又健一、光触媒を用いた水処理の現状と課題、セラミックス、53(2018)82−85.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、光触媒による溶液反応においては、粉末懸濁方式に比べてその活性が劣るものの、実用化の際には光触媒の分離再使用が容易な固定化光触媒方式を採用することが多く検討され、反応器形状や方式によっては固定化が必須となる。
【0010】
液相反応のうち、純水分解または犠牲剤水溶液からの水素製造においては、粉末懸濁方式を避ける事が望ましいもう一つの理由が挙げられる。粉末懸濁方式では光触媒反応により生成した水素が、水中の溶存酸素と反応して水に酸化されてしまう「逆反応」が起こりやすい。光触媒反応の効率を上げるため、光触媒の量を多くすると溶液の濁度が高くなり、反応器内部まで光が届かなくなってしまう。酸化チタン光触媒を水素製造のために用いる場合は、助触媒として白金等の貴金属ナノ粒子を担持することが有効であるが、これらの貴金属担持酸化チタンは光が当たらない暗条件において「逆反応」を起こしやすいことが知られており、懸濁液を用いると逆反応の抑制が非常に難しい。逆反応を起こしにくい白金以外の貴金属(ロジウム等)を助触媒として用いたり、更にその表面を酸化クロムでコートしたりする手段が用いられるが、高価な貴金属の使用や調製手順の複雑化により光触媒のコストが高くなるという欠点を有する。
【0011】
これに対して、特許文献1には、犠牲剤を含む水溶液中に浸漬されており、沈降法による石英相当径が40μm以下の二次粒子を含まない光触媒二次粒子に対して、光を照射する工程を備える、水素の製造方法が開示されている。特許文献1に記載された水素の製造方法を採用することにより、気相の酸素ガスや液中の溶存酸素が存在する雰囲気下においても、「逆反応」を抑制して効率的に水素ガスを発生させることできるという利点を有する。また攪拌等によって光触媒二次粒子を水溶液中に分散させる必要が無く、分離膜を用いることなく水溶液と光触媒の分離が容易にできる利点も有する。
【0012】
一方、波、対流、発泡などの動きのある水溶液中で水素を製造する場合、特許文献1に記載された水素の製造方法においては、光触媒二次粒子が動きやすく、光触媒二次粒子が、光の照射されない場所に移動して水素の製造を継続して行うことができない場合がある。このような場合には、光触媒二次粒子を固定化して用いることが必要となる。更に、光触媒により浄水を行ったり、溶液中の有機物を反応させて有用物を合成したりする場合には、光触媒と溶液の分離工程は必須であり、固定化光触媒の採用により分離は容易になる。
【0013】
酸化チタン光触媒の固定化に際しては種々の方法が知られている(非特許文献1)。耐熱材料への固定化では有機系チタニウム化合物や、有機バインダーを加えた酸化チタンを基材の表面に塗布や吹付の処理を行い、続けて400℃以上で熱処理を行うことで有機物を燃焼除去し結晶性酸化チタンを膜形成する方法がある。しかしながら、この方法では、400℃以上で加熱処理されており、有機物の燃焼で局所的に更に高温になる場合もあり、光触媒活性が低下してしまう原因となることがある。また、色素増感太陽電池の技術においても基材表面に酸化チタンの多孔質膜を形成する必要があり、多くはこの方法により製造される。有機バインダーを加えたペーストを塗布する器具の名称からスキージー法またはドクターブレード法などと呼ばれることも多く、これらの器具を用いてペーストを均一の厚さで大面積に塗布することは熟練を要する。この際の多孔質膜の最適膜厚は10μm程度であることが知られており、それ以上の膜厚になると接着強度や発電性能が低下する問題がある。
一般に光触媒の固定化において、光触媒活性を高くするために固定化量を増やそうとすると耐久性が低下してしまうトレードオフの関係がある(非特許文献1)。このため、希薄なチタニアゾル等を加熱基板に少しずつ加え、塗布と焼成を繰り返すことで耐久性を改善しつつ固定化量を増やす方法(ドロップキャスト法など)も試みられているが、スキージー法と同等の膜厚を得るには10回以上の塗布焼成の繰り返しを行う必要があった。
【0014】
耐熱性の乏しい基材に対しても光触媒を固定化する試みは数多くなされており、無機系接着剤としてフッ素系樹脂の混合、シリカゾル等の無機バインダーの使用などの方法が知られている。これらの方法において、接着強度を向上させるためには添加量を増やす必要があるが、そうすると接着材が酸化チタン表面を覆って光触媒活性が低下してしまう欠点があった。
【0015】
このような状況下、本発明は、光触媒二次粒子が基材に好適に固定され、光触媒反応を効率的に進めることができる新規な光触媒体の製造方法を提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該光触媒体の製造方法によって製造される新規な光触媒体、及び当該光触媒体を利用した光触媒反応方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、光触媒二次粒子が基材に好適に固定され、光触媒反応を効率的に進めることができる新規な光触媒体の製造方法を提供すべく、鋭意検討を重ねた。その結果、基材に、4〜100nmの光触媒一次粒子が凝集してなる粒径が2〜2000μmの光触媒二次粒子及び無機バインダーが固定化された光触媒体の製造方法であって、無機バインダーを含む溶液と、光触媒二次粒子とが基材表面を覆うようにして存在させた後、80℃以上350℃以下の温度に加熱する工程を備える方法を採用することにより、光触媒二次粒子が基材に好適に固定され、光触媒反応を効率的に進めることができる新規な光触媒体を製造できることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0017】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 基材に、4〜100nmの光触媒一次粒子が凝集してなる粒径が2〜2000μmの光触媒二次粒子及び無機バインダーが固定化された光触媒体の製造方法であって、
前記無機バインダーを含む溶液と、前記光触媒二次粒子とが前記基材表面を覆うようにして存在させた後、80℃以上350℃以下の温度に加熱する工程を備える、光触媒体の製造方法。
項2. 前記光触媒二次粒子が、半導体元素、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属硫化物、金属セレン化物、及び金属シリサイドからなる群より選択された少なくとも1種の光触媒物質を含んでいる、項1に記載の光触媒体の製造方法。
項3. 前記無機バインダーが、酸化グラフェン、層状粘土、酸化チタン、及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の光触媒体の製造方法。
項4. 基材に、4〜100nmの光触媒一次粒子が凝集してなる粒径が2〜2000μmの光触媒二次粒子及び無機バインダーが固定化された光触媒体であって、
前記無機バインダーを含む溶液と、前記光触媒二次粒子とが前記基材表面を覆うようにして存在させた後、80℃以上350℃以下の温度に加熱する工程を備える方法によって製造されてなる、光触媒体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光触媒二次粒子が基材に好適に固定され、光触媒反応を効率的に進めることができる新規な光触媒体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、当該製造方法を採用することによって、新規な光触媒体を提供することもできる。例えば、当該光触媒体は、光触媒二次粒子が基材に好適に固定されているため、動きのある水溶液中で光触媒反応を行っても、光触媒体が動きにくく、継続して反応を行うことができる。また、水素等の泡が生じる光触媒反応においても水溶液中の泡の発生によって、光触媒二次粒子が基材から剥がれることも好適に抑制されている。また、例えば、当該光触媒体は、少ないバインダー量でも、光触媒二次粒子が基材に好適に固定され、犠牲剤水溶液中での水素の製造及び水溶液中の有機物の酸化分解反応を効率的に進めることができる。
【0019】
例えば、本発明の光触媒体の製造方法は、以下の(1)〜(4)のうち少なくとも1つの特徴を満たし得る。
(1)5mg/cm2以上の密度で光触媒二次粒子を基材に固定化できる。
(2)光触媒二次粒子の固定化操作を繰り返すことなく、実質的に1回の操作で全量を基材に固定化できる。
(3)400℃未満の熱処理温度で、光触媒二次粒子の基材への固定化を行うことができる。
(4)得られる光触媒体は、基材に固定化する前の光触媒二次粒子の光触媒反応活性を基準として、7割以上の光触媒反応活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の光触媒体の製造方法は、基材に、4〜100nmの光触媒一次粒子が凝集してなる粒径が2〜2000μmの光触媒二次粒子及び無機バインダーが固定化された光触媒体の製造方法であって、無機バインダーを含む溶液と、前記光触媒二次粒子とが前記基材表面を覆うようにして存在させた後、80℃以上350℃以下の温度に加熱する工程を備えることを特徴としている。本発明の光触媒体の製造方法によれば、当該工程を備えることにより、光触媒二次粒子が基材に好適に固定され、光触媒反応を効率的に進めることができる新規な光触媒体が得られる。以下、本発明の光触媒体の製造方法、当該製造方法によって製造することができる光触媒体、及び当該光触媒体を利用した光触媒反応方法について詳述する。
【0021】
1.光触媒体の製造方法
(光触媒二次粒子)
本発明の光触媒体の製造方法は、無機バインダーを含む溶液と、光触媒二次粒子とが基材表面を覆うようにして存在させた後、80℃以上350℃以下の温度に加熱する工程を備える。
【0022】
光触媒二次粒子は、光触媒物質を含んでいる。光触媒物質にバンドギャップ以上のエネルギーの光が照射されると、価電子帯の電子が伝導帯へと励起され、価電子帯には正孔が生じる。このとき、伝導帯の下端の準位が水の還元電位よりも卑な位置にあれば、電子により水が還元されて水素を生成することができ、正孔と有機物の直接反応、または電子や正孔と酸素の反応により生じた活性酸素種によって各種有機物を酸化することが可能である。
【0023】
光触媒物質としては、光触媒活性を有する半導体物質であれば特に制限されず、半導体単体元素、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属硫化物、金属セレン化物、及び金属シリサイド化合物などの公知のものを使用することができる。後述の光触媒二次粒子の調製において、十分な強度を持った二次粒子形成を行う観点からは表面に多くのOH基を有する金属酸化物であることが望ましい。光触媒に含まれる光触媒物質は、1種類であってもよいし、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0024】
光触媒物質の具体例としては、TiO2、ZrO2、Ta25、ZnO、WO3等の単純酸化物;SrTiO3、NaTaO3等のペロブスカイト型複合酸化物;K2La2Ti310、K4Nb617等の層状酸化物、ZnS、CdS等の金属硫化物;CdSe等の金属セレン化物;Ta35等の窒化物;TaON等の窒酸化物;Si、Ge等の半導体元素;TiSi2、FeSi2等のシリサイド化合物などが挙げられる。また、可視光応答性を持たせるためにCr/TaやRhのドーピングを行ったSrTiO3:Cr/Ta、SrTiO3:Rh等が挙げられる。
【0025】
本発明において、光触媒物質の一次粒子と二次粒子を以下のように定義する。一次粒子は、一定の比重と形態を持った結晶子であり、一次粒子径は電子顕微鏡観察により測定される平均値とする。例えば、光触媒物質として酸化チタンを用いる場合、その一次粒子の結晶形としてはルチル、アナターゼ、ブルッカイトのいずれでも良い。またルチルとアナターゼの混晶のように複数の結晶粒子の複合物を用いても良い。光触媒物質の結晶子径(一次粒子径)は4〜100nmの微結晶であるものを用いる。50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることが更に好ましい。
二次粒子は、一次粒子が凝集して形成された粒子である。例えば、後述の実施例で使用した酸化チタンのAEROXIDE TiO2 P25(日本アエロジル製、以下P25とする)のカタログにおいては、一次粒子(一次粒子径は21nm)が製造過程の高温下で一部焼結しつつ凝集した粒子を「凝集粒子」、保存・使用条件下でそれが更に凝集した粒子を「集塊粒子」と区別している。「凝集粒子」は一次粒子が10個以下程度の集まりで、粒径は100nm程度であり、一部焼結しているため液中で超音波処理等を行っても「凝集粒子」を破壊して一次粒子の単位まで完全に分散させることは極めて難しい。一方、後述の2μm以上の粒子を作るための脱水縮合操作などを行わない場合、P25の「集塊粒子」は「凝集粒子」の緩い凝集で形成されて数百nm程度の大きさになっているため、超音波処理等により「凝集粒子」に近いところまで分散させることが可能である。一般的には「凝集粒子」、「集塊粒子」の両者を区別せず「二次粒子」と呼ぶことが多く、本発明においても「凝集粒子」、「集塊粒子」の両者を併せて「二次粒子」とする。
本発明において、二次粒子径の平均値はレーザー回折法による粒径分布の測定結果から計算した値を採用するものとする。上記の状況から、液中で観測される二次粒子径は、超音波処理などの分散手法と条件により異なる。P25の場合、文献で報告されている液中での超音波処理後の二次粒子径は、100nmを下回ることは無く数百nmとなっていることが多い。
【0026】
本発明において、光触媒二次粒子は、光触媒物質のみにより構成されていてもよいし、光触媒反応活性を高めることなどを目的として、他の成分を含んでいてもよい。例えば光触媒物質の表面に助触媒が担持された構成を例示することができる。
【0027】
このような助触媒の金属種としては、白金、金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、銀、銅、イリジウムなどが知られている。これらの中でも、水素過電圧の小さな白金、パラジウム、金などを助触媒として用いることが特に好ましい。助触媒は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
光触媒物質の表面に助触媒を担持する手法について制限はなく、光析出法、含浸法の他、析出沈殿法、コロイド添着法などの公知の方法を採用することができる。また、金を担持する場合であれば、本発明者らが開発した、金ヒドロキソ錯体溶液を用いた担持法(特許第5740658号)などを用いてもよい。
【0029】
助触媒の担持量は、その増加に伴い光触媒活性が増加するが、多すぎると逆反応が促進されるため最適値を有する。光触媒物質は、上記したように多種存在し、その結晶構造や表面の酸塩基性は個々に異なり、助触媒の担持法の選択は重要である。この点で、貴金属溶液のpH制御を厳密に行うことのできる担持法は、非常に有用である。
【0030】
本発明において、基材に固定化する光触媒二次粒子は、光触媒物質のみの二次粒子であっても良いし、助触媒を担持した光触媒の二次粒子であってもよい。助触媒を担持した光触媒の二次粒子としては、Pt/TiO2二次粒子等を例示できる。これは、凝集前の一次粒子にPt助触媒が担持されたPt/TiO2一次粒子が凝集して二次粒子を構成したものでも良いし、TiO2が凝集したTiO2二次粒子にPt助触媒が担持された構成でも良く、両者の混合物であっても良い。
【0031】
本発明における光触媒二次粒子の粒径は2μm〜2mm、好ましくは2μm〜1mm、より好ましくは2μm〜500μmである。光触媒二次粒子の粒径を本発明の範囲とするためには、原料とする光触媒物質の二次粒子径が適切である場合はそのまま使用し、必要に応じて助触媒である金属の担持を行えば良い。原料とする光触媒物質が微粉状など2μm未満である場合は、光触媒物質の一次粒子から、その凝集塊を形成した後に粉砕し、所定の粒径範囲に分級してから金属を担持するか、微粒子粉末のまま金属を担持してから凝集塊を形成した後に粉砕し、所定の粒径範囲に分級して適切な二次粒子径とする手順のいずれを採用しても良い。原料とする光触媒物質がビーズ状の成形体など、例えば2mm以上の大きさである場合、破砕分級などによって適切な二次粒子径とした後に、必要に応じて助触媒を担持すれば良い。
【0032】
凝集塊の調製は、得られた光触媒二次粒子が基材への固定化及び光触媒反応中に崩れてしまう事のないよう、十分な強度で調製する必要がある。光触媒一次粒子として100nm以下の粒径の酸化物を用いた場合、その表面には多数のOH基を有するので、OH基の脱水縮合反応を利用して凝集塊を得ることができる。例えば、市販の光触媒用ナノ酸化チタンの粉末に少量の水を加えるか、水などに分散させたスラリーから、加温、濾別、遠心分離等により適度に水を除去して粘性のある塊にした後に、100℃以上で加熱することにより一次粒子表面のOH基が脱水縮合して強固な凝集塊を得ることができる。OH基の脱水縮合を促進するためスラリーに塩酸や硝酸などの酸を加えておいてもよい。
【0033】
光触媒物質の表面に助触媒を担持する際に、例えば光析出法を用いた場合には、Pt担持用に用いる塩化白金酸がOH基の脱水縮合を促進する酸を含んでおり、Pt担持後の沈殿物から水分を除去して100℃で加熱すればPt/TiO2凝集塊を得ることができる。続いての分級はJIS試験用ふるい(JIS Z8801−1)を用いて行うか、沈降法(JIS Z8820−1)によって行えば良い。粒径を上記の範囲に調整することにより、基材表面での光触媒二次粒子の担持密度を高くすることができ、二次粒子間の空隙を大きくすることができる。光触媒の表面積を大きくしつつ水素の泡の脱離が容易な構造とすることができ、水素製造反応に特に好適である。
【0034】
光触媒二次粒子が基材表面を覆うようにして存在させる際、基材表面に存在させる光触媒二次粒子の量としては、特に制限されない。基材表面に存在させる光触媒二次粒子の量の具体例としては、例えば1mg/cm2以上、好ましくは2〜100mg/cm2程度、さらに好ましくは5〜50mg/cm2程度が挙げられる。
【0035】
多孔質酸化チタン膜を形成する従来法として、後述の比較例2に示したスキージー法や比較例3で示したドロップキャスト法を適用した場合には、固定化密度が5mg/cm2程度以上に高くなると種々の問題点を生ずることが知られている。スキージー法では均一かつ再現性良く膜形成することが難しく、有機バインダー成分の完全な除去も難しくなってくる。5mg/cm2以上の密度では膜厚が10μmを超えることが多くなり、前述のように色素増感太陽電池などに使用した場合にも性能低下の一因となる。また、ドロップキャスト法においては、希薄な酸化チタンゾルを塗布し加熱固定化する操作を何度も(例えば10回以上)繰り返し行う必要があり手間がかかる。これに対し、本出願の方法を適用することで、5mg/cm2以上の密度であっても光触媒を一度の操作で均一に基材表面に固定化することが可能である。
【0036】
(基材)
光触媒二次粒子を固定化する基材は、80℃以上に加熱が可能であり、光触媒二次粒子を塗布可能な面を有する基材であればその材質を問わない。例えば、ホウケイ酸ガラス板、石英ガラス板、ソーダガラス板、多孔質ガラス板、導電性ガラス板、アルミニウム板、SUS板、耐熱性樹脂板を使用することができる。
【0037】
光触媒二次粒子と基材との付着強度は、例えば基材表面のOH基の脱水縮合により得られる。このため、例えばガラス板などの無機酸化物基材であれば、前処理なしでそのまま用いることができる。また、基材が金属板等で表面OH基を有さない場合、あるいは有ってもその密度が低く付着強度が低くなる場合には、後述の無機バインダーを基材表面に薄膜状に塗布して熱処理し、基材表面に無機バインダー薄膜層を形成することにより光触媒二次粒子の付着強度を高めることができる。別法としては、例えば酸処理によりガラス表面をエッチングすることにより表面OH密度を高めることができるので、これを用いても良い。
【0038】
(無機バインダー)
無機バインダーは、光触媒二次粒子間を接合させる目的(目的1)と、基材表面と光触媒二次粒子を接合させる目的(目的2)で用いる。
【0039】
例えば、下記反応式に示すように、目的1では、例えば、光触媒二次粒子(A)表面のOH基(A−OH)と無機バインダー(B)表面のOH基(B−OH)との脱水縮合(反応1)を利用する。また、目的2においては、無機バインダー(B)が基材(S)と光触媒二次粒子の間に入り、基材(S)表面に膜状に付着させた無機バインダー(B)表面のOH基(B−OH)と光触媒二次粒子(A)のOH基(A−OH)との間の脱水縮合(反応2)により、基材表面に光触媒二次粒子を固定化する。さらに基材(S)がその表面にOH基(S−OH)を多数有する場合には、基材(S)と無機バインダー(B)との間にも脱水縮合反応が期待でき、より強い接着強度が期待される(反応3)。
2(A−OH)+HO−B−OH→A−O−B−O−A+2H2O (反応1)
S+B−OH+A−OH→S−B−O−A+H2O (反応2)
S−OH+HO−B−OH+A−OH→S−O−B−O−A+2H2O (反応3)
【0040】
無機バインダーとしては、OH基を有する1μm未満の無機微粒子を用いることができる。無機バインダーの具体例としては、酸化グラフェン、層状シリケート、コロイダルシリカ、ナノ酸化チタンなどが挙げられる。なお、ナノ酸化チタンを用いた場合には、無機バインダーの機能に加え、光触媒としても機能することができる。同様にナノ酸化チタンにPt等の助触媒を担持したものを用いても良い。
【0041】
無機バインダーの使用量は、光触媒二次粒子100質量部に対して、例えば0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜1質量部とすればよい。
【0042】
無機バインダーを含む溶液において、無機バインダーの分散媒としては、水、メタノール、エタノール、これらのうち少なくとも2種の混合溶液(例えば含水エタノールなど)等を用いることができる。水を用いた場合は、OH基の脱水縮合を促進するため塩酸などを加えて酸性とすることも推奨される。
【0043】
無機バインダーを含む溶液(以下、無機バインダー溶液ということある)において、分散媒の使用量は、無機バインダーを含む溶液と、光触媒二次粒子とが基材表面を覆うようにして存在させた後、80℃以上350℃以下の温度に加熱することで、光触媒二次粒子と無機バインダーとが基材に担持される程度の使用量に調整すればよく、例えば濃度は0.01〜400mg/mL、好ましくは0.05〜100mg/mL、さらに好ましくは0.1〜5mg/mL程度とすればよい。例えば、光触媒コーティング液としてナノ酸化チタンの分散液が市販されており、これを本発明の無機バインダーを含む溶液として使用することも可能である。
【0044】
光触媒体への補助機能の付与の目的で、無機バインダーを含む溶液には、無機バインダーとは異なる無機微粒子を加えてもよい。例えば、光触媒体に導電性を付与する目的で、無機微粒子として、金属コロイド粒子、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等を加えたり、光触媒体に吸着機能を付与する目的で、無機微粒子として、活性炭微粒子、メソポーラスシリカ、ゼオライト等を添加してもよい。
【0045】
(固定化手順)
無機バインダーを含む溶液と、光触媒二次粒子とが基材表面を覆うようにして存在させた後、80℃以上350℃以下の温度に加熱する工程は、無機バインダーと光触媒二次粒子とを基材に固定化するために行われる。当該固定化手順は、例えば、以下の具体的手順により行うことができる。
【0046】
(1)基材表面の前処理
前記の通り、基材が金属板等で表面OH基を有さない場合、あるいは有ってもその密度が低く付着強度が低くなる場合、必要に応じて、基材表面を無機バインダーで処理して薄膜形成させる。無機バインダー溶液を刷毛塗、ディップコート、スピンコート等の手法で塗布した後に熱処理して表面にOH基を有する薄膜を形成させる。ナノ酸化チタンを無機バインダーとする場合には、チタンイソプロポキシドのアルコール溶液のような、熱処理によって酸化チタン薄膜に変換できる有機チタネートを無機バインダー前駆体として利用することができる。塗布後の熱処理温度は無機バインダー及び無機バインダー前駆体の種類により適宜選択する。基材表面の前処理において、ナノ酸化チタンゾルをバインダー液とした場合には300℃前後が良く、有機チタネートを用いた場合には400℃以上が必要となる。コロイダルシリカを用いた場合には十分な強度を得るために400〜500℃程度が必要とされる。基材との付着強度を強くするために、この薄膜の膜厚は1μm以下とすることが好ましい。
【0047】
(2)基材表面を光触媒二次粒子と無機バインダー溶液で覆う
基材の表面に、光触媒二次粒子と無機バインダー溶液を存在させる。基材の単位面積当たりの光触媒二次粒子の量は、前記の通り、例えば5〜200mg/cm2、好ましくは5〜100mg/cm2、さらに好ましくは5〜50mg/cm2とする。また、光触媒二次粒子と無機バインダー溶液の質量比は、例えば0.01〜100であり、好ましくは0.05〜50、さらに好ましくは0.1〜50である。
【0048】
基材の表面に光触媒二次粒子と無機バインダー溶液を存在させる順序は、いずれが先でもよい。例えば、光触媒二次粒子を基材の表面に存在させてから、無機バインダー溶液を存在させてもよい。また、光触媒二次粒子と無機バインダー溶液とを予め混合し、混合溶液を基材表面に存在させてもよい。光触媒二次粒子と無機バインダー溶液を存在させる方法としては、滴下、塗布などが挙げられる。例えば、スパーテルやヘラ等を用いて、無機バインダー溶液を基材表面の所望の面積に一つの水滴となるように拡げ、その水滴の底に光触媒二次粒子が均等に沈むように整えることが好ましい。
【0049】
(3)乾燥(無機バインダー分散媒の除去)
無機バインダー溶液と、光触媒二次粒子とが基材表面を覆うようにして存在させた後、80℃以上350℃以下の温度に加熱する前に、無機バインダー溶液を乾燥させることが好ましい。乾燥温度は、無機バインダー溶液に含まれる分散媒が乾燥すれば特に制限されないが、例えば、20〜300℃程度とすることができる。乾燥を80℃以上で行った場合、(3)の乾燥工程と(4)の熱処理工程(80℃以上350℃以下の温度に加熱する工程)を同時に行うことになる。ただし、80℃以上の高温で急速に乾燥すると、光触媒二次粒子が均一に乾かず固定化強度低下の一因となる場合があるので、乾燥は20〜50℃の温度で行うことが望ましい。
【0050】
(4)熱処理
熱処理は、無機バインダー溶液と光触媒二次粒子とが基材表面を覆うようにして存在させた後、80℃以上350℃以下の温度に加熱する工程である。80〜350℃で熱処理を行うことで、光触媒二次粒子と無機バインダーを基材表面に固定化する。例えば無機バインダー、光触媒二次粒子、及び基材がOH基を有する場合、OH基の脱水縮合反応を促進し、光触媒二次粒子と無機バインダーが基材表面に強固に固定化される。また、加熱温度が高い方が光触媒二次粒子の固定化強度を強くできる。一方、金属助触媒を担持した光触媒二次粒子では加熱温度が高くなると金属表面が酸化されて光触媒活性が低下する場合があり、この場合は100℃付近の低温で熱処理することが望ましい。好ましい加熱温度としては、80〜300℃、80〜250℃、80〜200℃、80〜150℃、100〜350℃、100〜300℃、100〜250℃、100〜200℃、100〜150℃、150〜350℃、150〜300℃、200〜350℃、200〜300℃などが例示される。また、熱処理時間は必要な固定化強度が得られれば良く、例えば設定温度で1分から10時間の適宜の時間で行えば良い。加熱後は室温まで徐冷して使用する。
【0051】
2.光触媒体
本発明の光触媒体は、光触媒二次粒子及び無機バインダーが基材に固定化された光触媒体であって、光触媒二次粒子は4〜100nmの光触媒一次粒子が凝集してなる2〜2000μmの粒子であることを特徴としている。本発明の光触媒体の製造方法については、特に制限されないが、前述の「1.光触媒体の製造方法」を採用することによって、好適に製造することができる。
【0052】
なお、本発明の光触媒体の製造方法において、80℃以上350℃以下の温度に加熱することで、前記(反応1)〜(反応3)に示した脱水縮合反応が進行して光触媒二次粒子が固定化される。一般に無機物質の脱水縮合反応を測定するにはFT−IR等の手法を用いれば良いが、(反応1)〜(反応3)の他にも二次粒子内部での一次粒子間での脱水縮合反応が進行するため、これと(反応1)〜(反応3)を区別して測定することは極めて難しい。このようなことから80℃以上350℃以下の温度に加熱する工程の結果で得られた構造を測定に基づき解析し特定することも不可能又は非実際的であるといえる。
【0053】
光触媒二次粒子、無機バインダー及び基材の詳細については、前述の「1.光触媒体の製造方法」の欄で説明した通りである。
【0054】
本発明の光触媒体において、光触媒二次粒子はいかなる密度で固定化されていてもよいが、光触媒体の光触媒反応効率を高める観点から、固定化量は、好ましくは5〜100mg/cm2程度、さらに好ましくは5〜50mg/cm2程度が挙げられる。
【0055】
本発明の光触媒体は、例えば、後述の「光触媒反応方法」に好適に適用することができる。
【0056】
3.光触媒反応方法
本発明の光触媒反応方法は、有機物を含む水溶液中に浸漬された、本発明の光触媒体に対して、光を照射する工程を備える方法である。本発明の光触媒体については、前述の「2.光触媒体」の欄に記載の通りである。水中の有機物を酸化しつつ、水中のプロトンを還元して水素を製造することが可能であるが、下記の(A)水素製造又は(B)有機物等の分解による水の浄化、のどちらを主目的として行うかにより反応条件を変える必要がある。
【0057】
(A)水素製造を主目的とする場合
有機物としては、特に制限されない。例えば光触媒反応方法によって水素を製造する場合であれば、有機物としては、光触媒体を用いた水素製造方法に用いられる公知の犠牲剤を使用することができる。有機物としては、それ自体が電子を放出しやすい化合物を使用することが好ましい。有機物としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を有する化合物などが挙げられる。有機物の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール等の1価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール等の2価アルコール;グリセリン等の3価アルコール;ギ酸、酢酸、シュウ酸等のカルボン酸;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエタノールアミン(TEA)等のアミン等を挙げることができる。また、単糖であるグルコース、二糖であるスクロース、多糖であるデンプンやセルロース等の糖類を用いても良い。また、無機犠牲剤としてNa2S、NaIO3などを用いることもできる。有機物は単一物質でなくても良く、例えばポリフェノール、リグニン等の植物成分やフミン質(腐植物質)、排水中のBOD成分、COD成分も用いることができる。有機物は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。水素発生反応に伴い、これらの有機物は酸化される。本発明の光触媒反応方法において、有機物は、必ずしもCO2に完全酸化される必要は無く、例えばエタノールからアセトアルデヒドのような部分酸化であってもよい。
【0058】
本発明において、光触媒体や有機物の使用量は、目的とする水素発生量などに応じて、適宜設定すればよい。有機物が全て使用されるまで(転化率が100%になるまで)光触媒反応を行う必要は必ずしも無く、例えば池水に溶解した成分が犠牲剤として働くような場合には、その一部を利用して水素製造を行えばよい。
【0059】
本発明の光触媒反応方法においては、有機物を含む水溶液中に前述の光触媒体を浸漬し、光触媒体に光を照射することにより、水溶液中で水の分解反応を進行させて、水素を製造することができる。例えば、光触媒反応方法は、水溶液を容器内一杯に満たし、水溶液が気相と接しない状態で行ってもよいし、水溶液が空気などの気相と接する状態で行ってもよい。本発明の光触媒反応方法において、水溶液は、空気や酸素と接していてもよく、例えば、水溶液の攪拌を行わない限り純酸素と接していても水素の生成が行えることを確認している。
【0060】
また、本発明の光触媒反応方法において、水溶液は、溶存酸素を含んでいてもよい。水溶液中の溶存酸素濃度としては、特に制限されないが、16mg/L以下が挙げられる。大気圧下において、空気を水中に吹き込んだ場合、水中の溶存酸素濃度の上限値は、0℃で14.2mg/L、20℃で8.8mg/Lである。溶存酸素が存在しても水溶液を無攪拌で静置することにより、水素の生成に伴い光触媒体の表面近傍が嫌気性となって酸素還元を抑制し、水素生成反応を継続して行うことができる。弱く攪拌した場合や、断続的に溶液の移動が起こる状況でも、無攪拌に比べて水素生成量は減少するものの水素生成を行うことができる。
【0061】
また、水溶液は光触媒反応を阻害しない限り犠牲剤として機能する有機物以外の有機・無機成分を含んでいても良い。即ち、犠牲剤を溶解するための水としては、蒸留水やイオン交換水だけでなく、水道水、雨水、池水、海水、下水、工業排水なども用いることができ、ナノバブル水、マイクロバブル水、ファインバブル水、ウルトラファインバブル水等と呼ばれている微細気泡含有水なども利用可能である。これらの水が犠牲剤成分を含む場合にはそのまま用いることもできる。但し、溶解している犠牲剤やそれ以外の成分の光吸収波長が光触媒成分の吸収波長域と重なると光触媒反応の活性が低下する原因となるので避けることが望ましい。例えば、酸化チタンや貴金属担持酸化チタンの場合には400nm以下の光を吸収して作動するため、水溶液はこの波長域に対して透明性を有することが好ましい。
【0062】
本発明の光触媒反応方法において、水溶液の温度としては、特に制限されず、水素を製造している最中に、水が蒸発して無くならない程度の温度(例えば、大気圧中では、0℃〜90℃程度の範囲)であればよい。有機物を犠牲剤として使用した光触媒水分解反応は、温度が高いほど速度が大きくなるため、照射する光が赤外成分などを含む場合は、水温上昇による水分解反応の促進が期待できる。
【0063】
触媒体の使用量と、水溶液中に浸漬する位置は、それぞれ、用いる光触媒体の形状、粒径等に応じて、適宜設定すればよい。なお、発生水素量は、光触媒体に対する光の照射面積に応じて増加させることができる。
【0064】
また、本発明においては、浸漬された光触媒体から光触媒二次粒子が剥がれない程度に、反応液を攪拌してもよい。反応液の攪拌が強すぎる場合には、基板から光触媒二次粒子の一部が剥がれて光が当たらない場所に移動し反応効率が落ちる場合がある。また、剥がれた光触媒二次粒子により、懸濁状態になると光触媒体に対する光照射効率も低下する。更に、犠牲剤を含む水溶液からの水素生成反応の場合には光触媒が懸濁状態になると、水素と酸素から水が生成する逆反応を促進してしまうことにも留意すべきである。
【0065】
反応液が懸濁状態か否かの判断には、濁度計を用いて測定した濁度を目安とすることができる。濁度はJIS K0101に定義が記されており、精製水1Lに対し、標準物質(カオリン、ホルマジン、ポリスチレン等)1mgを含ませ、均一に分散させた懸濁液の濁りが濁度1度と定義されている。例えば、水5mLに対して標準物質50mgを加え攪拌により均一に分散させた場合の濁度は10,000と計算されるが、分散させる物質が標準物質でない場合、この数倍あるいは数分の1となることがある。光触媒体を含まない反応液の濁度をtとし、光触媒体に固定化された光触媒二次粒子を全て剥がして完全分散させた時の濁度をT0とし、光触媒体を沈めて実際に使用する状態で測定した反応液上澄の濁度をTとすると、本発明において以下の式で定義する「濁度比」Rは、光触媒体を粉砕した場合の何%が水中に分散状態で存在しているかの目安となる。
【0066】
R(%)=((T−t)/(T0−t))×100
【0067】
本発明においては、Rが2%以下で反応を実施することが好ましく、Rが1%以下であることがより好ましい。
【0068】
本発明の光触媒体に光を照射するための光源としては、特に制限されず、例えば、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色、青、緑、赤)、レーザー光、太陽光等のうち、用いる光触媒物質が応答可能な波長を含む光を選択すればよい。これらの光を直接光触媒体に当てても良いし、ミラーを用い反射させて当てても良いし、光ファイバーを用いて導いても良い。太陽光であれば、凹面鏡などを用いて集光して当てても良い。
【0069】
光照射によって発生した水素は、例えば、水溶液の外の容器などに誘導し、水上置換法などにより捕集することができる。光触媒による水の完全分解反応の場合は水素と共に酸素が発生し、爆鳴気の組成となっていることから、純度の良い水素を得るためだけでなく、安全のためにも水素と酸素の分離工程は必須である。本発明においても、実施例のように発生ガスを容器上部の空間に放出した場合には空気中の酸素に水素が混じって爆発組成に達することがあるため、発生ガスを捕集することが好ましい。本発明の発生ガスには酸素を全く含まないため捕集ガスからの酸素分離工程は必要ないが、二酸化炭素を少量含んでいる。二酸化炭素は、塩基性固体等の二酸化炭素除去剤で処理することにより後で容易に除去することが可能である。また、光触媒反応を行う犠牲剤水溶液に炭酸ナトリウム等を加えておき、二酸化炭素の水溶液への溶解度を高めておくことで捕集する気体の水素の純度をより高めることができる。
【0070】
(B)有機物等の分解による水の浄化を主目的とする場合
有機物分解を目的反応とする場合、(A)の反応条件と異なり反応溶液を攪拌して溶存酸素と光触媒体との接触を促進することが望ましい。これにより、光触媒物質に光照射することにより生じた正孔による酸化反応のみならず、白金などの助触媒表面で励起電子が溶存酸素を還元することにより、酸化力の強い活性酸素種が生成し、(A)で犠牲剤として例示した有機物よりも広い範囲の有機物等を効率よく酸化分解できる。
【0071】
このような有機物等は、有機物質、無機物質のいずれであってもよい。酸化対象となる物質の具体例としては、脂肪族化合物、芳香族化合物、これらのハロゲン化物、アルコール、アルデヒド、有機酸、エーテル、エステル、アミン、糖類、オリゴマー、ポリマー、界面活性剤、窒素酸化物、有機無機塩、重金属などが挙げられ、また、これらの物質の混合物などであってもよい。また、細菌などの微生物、植物、動物およびその排泄物など各種生物由来の有機性物質であっても良い。
【0072】
水中に含まれる問題物質を酸化して、その濃度を低減することができれば、酸化反応により生成する物質の種類は何でもよい。例えば炭素、酸素、水素のみからなる有機物質の場合は完全酸化により二酸化炭素と水を生じるため、二酸化炭素量を測定することで分解量を知ることができる。アミン等の場合には水素分を水に酸化して窒素分は窒素分子に変換することが理想的であるが窒素酸化物や硝酸への酸化で許容される場合もある。
【0073】
液中の物質濃度の測定が可能である場合は、問題物質の濃度の低減を直接確認できる。このためには対象となる水をサンプリングし、HPLC、GC、LC/MS、GC/MS、イオンクロマトグラフ、イオン電極等の手法で分析すればよい。また、色素物質や特定試薬との反応で発色する物質の場合には分光光度計を用いてUV−VISスペクトルを測定することで濃度測定が可能である。
【0074】
実際の工場等からの排水では各種汚染物質の混合物となっており、上記のような分析を行うことが難しい場合が多い。このような場合に一般に用いられる指標として、COD(化学的酸素要求量)と、BOD(生物学的酸素要求量)、TOC(全有機体炭素)がある。本発明の光触媒処理を行った後に、これらの指標値の変化から物質の酸化反応を確認できる。
【0075】
このような、有機物等の酸化分解を目的とする場合には、水溶液中には、高濃度の溶存酸素が含まれていることが好ましい。水中の溶存酸素濃度としては、特に制限されないが、200mg/L以下が挙げられる。溶存酸素濃度が高いほど反応速度を高くすることができ、溶存酸素は酸化反応により消費されるため、長時間の反応を行う場合には溶存酸素濃度が低下しないよう補給する必要がある。このため、酸素を含んだガス(空気等)を、バブラー等を用いて常時吹き込むことが有効である。大気圧下において、空気を水中に吹き込んだ場合、水中の溶存酸素濃度の上限値は、0℃で14.2mg/L、20℃で8.8mg/Lである。溶存酸素濃度は気相の酸素分圧に比例して高くできるので、純酸素をバブリングすれば空気バブリングの5倍(20℃で44mg/L)が上限となり、更に装置内の気相を加圧することが可能ならば、その圧力に応じて溶存酸素濃度を高めることができる。また、オゾンを含んだ空気または酸素ガスを吹き込んでも良い。実際には装置構成と許されるコストの範囲で吹き込むガスと吹き込み条件を選択すれば良い。
【0076】
酸化分解反応を主に行う場合、光照射工程において、光触媒体が浸漬された水溶液を撹拌、流通または攪拌しつつ流通しながら光触媒体に対して光照射を行うことが好ましい。
【0077】
攪拌は、水中において、光触媒体が壊れることの無い強さで水を撹拌する。攪拌方法としては、かき混ぜ棒による手動の攪拌、振とう機を用いる攪拌、マグネチックスターラーと磁気回転子を用いた攪拌、攪拌モーターと攪拌翼を用いる攪拌、ポンプによりタンク内に水流を作り攪拌する方法等が挙げられる。マグネチックスターラーを用いる場合は、磁気回転子を光触媒体と接触させると光触媒体の一部が崩れる恐れがあることから、光触媒体から離れた位置で磁気回転子を回転させるように攪拌を行うことが好ましい。
【0078】
流通は通常知られたポンプなどを用いて、光触媒体を内部に設置した管型反応器などに、反応液を流通させれば良く、粉体または粒状の光触媒を用いる場合に比して固液分離操作を別途行うことなく連続反応を行うことができる。
【実施例】
【0079】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0080】
実施例及び比較例において、水中での安定性と反応中の安定性は、以下のようにして評価した。評価結果は表1に示す。
【0081】
<水中での安定性>
後述の水素の製造において、水中に光触媒体を浸漬した際の光触媒体の状態を目視で観察して、水中の安定性を評価した。水中での安定性の評価基準は以下の通りである。
◎:光触媒体が基材から剥がれない(基材表面の残存率98%以上)。
○:光触媒体が基材から少しだけ剥がれる(基材表面の残存率90%以上、98%未満)。
×:光触媒体が基材から大きく剥がれる(基材表面の残存率90%未満)。
【0082】
<反応中の安定性>
後述の水素の製造における反応開始から反応後までの光触媒体を目視で観察して、反応中の安定性を評価した。反応中での安定性の評価基準は以下の通りである。
◎:光触媒体が基材から剥がれない(基材表面の残存率98%以上)。
○:光触媒体が基材から少しだけ剥がれる(基材表面の残存率90%以上、98%未満)。
×:光触媒体が基材から大きく剥がれる(基材表面の残存率90%未満)。
【0083】
<実施例1>
(光析出法による酸化チタンへの白金の担持)
300mLのセパラブルフラスコにメタノール50体積%の水溶液を200mL入れ、酸化チタン粉末(日本アエロジル製 P25)を4.0g加えた。ここに、塩化白金酸水溶液(0.1mol/L)を0.64mL加え、セパラブルフラスコに接続したPFAチューブを通じ窒素ガスを90分間バブリングした後、コックを閉じて容器を密閉した。次に、マグネチックスターラーを用いて撹拌(約500rpm)しながら、100W高圧水銀ランプ(SEN特殊光源(株)製 HL100G)の光を横方から90分間照射し、酸化チタンの表面にPtが担持されたPt/TiO2ゾル(懸濁液)を得た。このゾルは1mL当たり20mgのPt/TiO2二次粒子を含んでおり、液中で一晩静置後も沈殿はみられなかった。二次粒子の粒径が1μmであったとすると、ストークス則から100分間で1cmの沈降距離となるはずであり、ゾル中に含まれる二次粒子は1μmよりも小さいことが分かる。また、後述の実施例7において、これと同じPt/TiO2ゾルを下地処理に用いた際の実験結果からはPt/TiO2二次粒子は0.28μm以下と見積もられることを記載している。
【0084】
(洗浄と乾燥による白金担持酸化チタン二次粒子の調製)
次に遠心分離機(アズワン株式会社、HSIANGTAI CN−2060)を用い懸濁液中のPt/TiO2を遠心分離(4500rpm、10分間)により沈降させた。上澄みを捨てて蒸留水を加え、再分散させた後、再び遠心分離により沈降させる操作を繰り返し、合計800mLの蒸留水で沈殿の洗浄を行った。得られた沈殿をるつぼに移し、100℃で乾燥し、光触媒凝集塊としての白金担持酸化チタン(Pt/TiO2)を得た。白金の担持量は0.3重量%であった。
【0085】
(光触媒二次粒子の分級)
Pt/TiO2(40〜125)
光析出によりPtを担持したTiO2の沈殿物は、100℃の乾燥によりTiO2粒子表面のOH基が脱水縮合して固い凝集塊となった。これをメノウ乳鉢にて粉砕し、125μmの篩を通過し40μmの篩を通過しない粒を集めた。このままでは粉砕中に生じた微粉が付着しているため、40μm以下の粒を完全に除去することができていない。そこで、以下の水簸操作により付着した微粉を除去した。篩掛けした40〜125μmの粒をスクリュー管瓶(アズワン製 No.8)に入れ、水を100mL加え、蓋をして振り混ぜた後、1分間静置した。完全に沈んでいる粒を残し、微粉が残り若干懸濁した状態の上澄みを水面から8.5cm分だけ捨てた。全体で100mLとなるよう水を再び加え、振り混ぜて1分静置後に上澄みを捨てる操作を5回繰り返した。ストークス則から1分間で8.5cmの沈降距離を有する石英相当粒子径は40μmと計算されることから、この繰り返し操作で篩掛けした40μm超125μm以下の二次粒子に付着した40μm以下の微粉を除去できる。繰り返すうちに、上澄み液からは懸濁状態が消え、完全に清澄な上澄み液が得られるようになった。最後に上澄み液を捨てた後、内容物を少量の水でテフロン蒸発皿に移し約40℃に加温した。水が蒸発し終わった後、乾燥機に入れ100℃で乾燥した。レーザー回折式装置(マイクロトラック・ベル(株) ,MT3000II)により水中での粒度分布を測定したところ、粒径は40〜250μmの区間に分布し、粒子数の93%は125μm以下であったことから篩掛け条件と良く一致した。個数基準の平均粒径は82.3μmであった。以後これを、篩掛け条件に従ってPt/TiO2(40〜125)と表記する。
【0086】
Pt/TiO2(3〜40)
光触媒をメノウ乳鉢にて粉砕し、40〜125μmの二次粒子を得る際に40μmの篩を通過した分を集め、Pt/TiO2二次粒子とした。レーザー回折式装置(マイクロトラック・ベル(株),MT3000II)により水中での粒度分布を測定したところ、粒径は3〜40μmの区間に分布した。個数基準の平均粒径は5.7μmであり、3μm未満の粒子は観測されなかった。以後これをPt/TiO2(3〜40)と表記する。
【0087】
Pt/TiO2(40〜63)
光析出によりPtを担持したTiO2の沈殿物を、100℃の乾燥により凝集塊とし、メノウ乳鉢にて粉砕し、63μmの篩を通過し40μmの篩を通過しない粒を集めた。次にPt/TiO2(40〜125)について行ったのと同様の水簸操作により付着した40μm未満の微粉を除去した。以後これを、篩掛け条件に従ってPt/TiO2(40〜63)と表記する。
【0088】
(光触媒体の製造)
18mm角のカバーガラス(松浪硝子製)を基材として用いた。シリコンゴム栓を逆さに立て、その上にカバーガラス1枚を置いた。Pt/TiO2(3〜40)の20mgをカバーガラス中央部に置いた。この上からバインダー液として酸化グラフェン(GO)水分散液(GO−W−175、アライアンスバイオシステムズ製、分散濃度0.5mg/mL)を0.2mL滴下した。スパーテルを用い上からつつくようにバインダー液とPt/TiO2(3〜40)をなじませ、更にカバーガラス全体にバインダー液が拡がるようにした。この際バインダー液の粘度は低いためカバーガラスから流れ落ちないよう(表面張力で液滴がカバーガラス上に保持されるよう)注意する必要がある。このようにするとバインダー液滴中で粉体状Pt/TiO2は沈降し、カバーガラス表面に配列する。これをそのまま50℃の乾燥機中に入れ、バインダー液中の水を蒸発させる。乾燥後の試料をシリコンゴム栓から磁性の灰分測定用皿に移し、マッフル炉中、加熱温度100℃で30分間熱処理して、光触媒二次粒子(Pt/TiO2)と無機バインダー(酸化グラフェン)が基材(カバーガラス)に固定化された光触媒体を得た。
【0089】
(水素の製造)
反応容器としてホウケイ酸ガラス材質のガスクロバイアル瓶(日電理化硝子(株)製 SVG−50)を用い、反応容器の設置場所としては20℃に温度制御した恒温水槽(底面はパイレックス硝子板になっている)を用いた。出力500WのXeランプが入った光源装置(ウシオ電機製 OpticalModuleX SX−UID501XAMQ)を用い、電流値を25Aに設定した出力光を、石英ガラスァイバーを用いて直上に曲げ、恒温水槽中のバイアル瓶に対し石英ガラスァイバー先端の平行レンズを通し下方から照射されるようにした。
【0090】
次に、反応容器中に前記の光触媒体(Pt/TiO2二次粒子と酸化グラフェンを固定化したカバーガラス)を入れ、光触媒面が上側となるように容器底面に置いた。ここにグリセリン10重量%水溶液10.0mLを加え、ブチルゴム栓と穴あきキャップにより密栓した。反応容器に水を満たして蓋を締めた時の水の重量から求めた内容積は、65mLであったので、反応液量を差し引くと、残りは空気が55mL入っていることになる。これを光触媒体全体に光が照射される(光照射面積が光触媒体の面積の3.2cm2となる)よう恒温水槽の所定の位置に設置した。Xeランプのシャッターを開け、光照射を開始した時刻を反応開始時刻とした。別途サーマルセンサパワーメータ(PM160T、THORLABS製、測定波長範囲200〜10,600nm)を用い測定した光照射位置における光強度(放射照度)は558mW/cm2であった。
【0091】
30分後に反応容器を光照射位置から外し、ブチルゴム栓を通してガスタイトシリンジにより0.2mLのガスを採取し、ArガスをキャリアとするTCDガスクロ(モレキュラーシーブ5Aカラム)により、H2、O2、N2の分析を行った。その後、再び反応容器を恒温水槽の所定の位置に設置することによって光照射を再開し、30分間反応の後2回目のガス分析を行った。このようにして光照射下での反応を合計90分間行った。時間に対してH2発生量が直線的に増加するのを確認し、その傾きからH2発生速度を求めた。このようにして得られた反応結果を表1に示す。反応中は水素の生成(生成速度59.6μmol/h)により激しく発泡したが、発泡によるPt/TiO2二次粒子の脱離は少なく、90分の反応終了後も大部分が固定化された状態で保持された。実施例1で得られた光触媒体は、発泡による動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況で安定して活性を保ちつつ反応を行うことができる。
【0092】
<実施例2>
実施例1の光触媒体の製造において、「マッフル炉中100℃で30分間熱処理」を「マッフル炉中150℃で30分間熱処理」としたこと以外は、実施例1と同様にして光触媒体の製造と水素の製造を行った。水素生成速度は55.5μmol/hと実施例1よりも少し低かったが、90分の反応終了後にPt/TiO2二次粒子の脱離は認められなかった。実施例2で得られた光触媒体についても、動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況で安定して活性を保ちつつ反応を行うことができる。
【0093】
<実施例3>
実施例1の光触媒体の製造において、「マッフル炉中100℃で30分間熱処理」を「マッフル炉中300℃で30分間熱処理」としたこと以外は、実施例1と同様にして光触媒体の製造と水素の製造を行った。水素生成速度は51.1μmol/hと実施例2よりも少し低かったが、90分の反応終了後にPt/TiO2二次粒子の脱離は認められなかった。実施例3で得られた光触媒体についても、動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況で安定して活性を保ちつつ反応を行うことができる。
【0094】
<比較例1>
光触媒二次粒子の分級工程において得られた乾燥温度100℃のPt/TiO2(40〜125)を基材に固定せずに、水素の製造に用いた。ガスクロバイアル瓶(日電理化硝子(株)製 SVG−12)を反応容器として用い、この中に粒状Pt/TiO2を20mg入れた。更にグリセリン10重量%水溶液5.0mLを加え、密栓した。反応容器に水を満たして蓋を締めた時の水の重量から求めた内容積は、15.6mLであったので、反応液量を差し引くと、残りは空気が10.6mL入っていることになる。これを反応容器底面全体に光が照射される(光照射面積3.6cm2)よう恒温水槽の所定の位置に設置した。この他は実施例1と同じ条件で光照射し90分間反応を行った。
【0095】
表1に反応結果を示す。比較例1の水素生成速度は59.7μmol/hで実施例1の水素生成速度とほぼ同じであった。比較例1において分級前の乾燥温度が100℃であることを考慮すると、実施例1では固定化時の加熱温度を100℃とすることにより活性を低下させることなく固定化に成功している。実施例2,3では固定化後の加熱温度を150〜300℃とすることによって水素生成速度は若干低下するものの、バインダーによるPt/TiO2の基材への付着強度が高くなり、反応後に光触媒粉末の脱離が全く認められないようになった。比較例1の反応条件では、30分ごとのガス分析のために反応容器を移動する際に波立つことで光触媒二次粒子がビンの中で動きやすく、片よりが生じると水素生成量が低下する一因となった。このように水素生成速度が高いものの、光触媒二次粒子を基材に固定化せずに反応しているため、動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況では安定して活性を保ちつつ反応を行うのは難しい。
【0096】
<比較例2(スキージー法)>
(ペースト作製)
公称容量20mLのスクリュー管瓶(アズワンNo.5)に実施例1と同様に調製した粉状Pt/TiO2(3〜40)の0.45gを入れ、水2.25mLを加えた。ここに、ポリエチレングリコール20M(キシダ化学、平均分子量18,000〜25,000)0.135gを少しずつ加え、加えるごとにタッチミキサ(IKA製、VORTEX GENIUS3)で攪拌した。次に、ヒドロキシプロピルセルロース(富士フィルム和光純薬、粘度1,000〜5,000cP)0.045gを少しずつ加え、加えるごとにタッチミキサで攪拌した。全量加えてから更にタッチミキサで攪拌し、超音波洗浄機(アズワン製、US−2R)の水浴中で30分間振とうして全組成を混合することにより、Pt/TiO2ペーストを得た。加えた粉状Pt/TiO2は3μm以上の二次粒径であるものの、有機分散剤およびバインダー剤を加え、超音波処理により二次粒子は壊れてPt/TiO2が1μm未満の粒径で再分散した状態が得られた。
【0097】
(スキージー法によるガラス基材への固定化)
18mm角のカバーガラス(松浪硝子製)を基材として用いた。この上に40℃で加温して粘度を下げたPt/TiO2ペーストを適量垂らして載せ、スパーテルの平らな面を用いて全面に塗り拡げた。室温で一晩乾燥した後、マッフル炉で300℃の熱処理を30分間行い、カバーガラス固定化Pt/TiO2試料を得た。得られた試料の重量と、固定化前のカバーガラスの重量の差から、固定化されたPt/TiO2の重量は20.8mgと求められた。
【0098】
水素の製造は、実施例1と同様に行い結果を表1に示した。光触媒体は反応中に剥がれることなく安定だったが、水素生成速度は42.8μmol/hで実施例1よりも低くなった。
【0099】
<比較例3(ドロップキャスト法)>
(ドロップキャスト法によるガラス基材への固定化)
実施例1と同じ条件で酸化チタン(P25,日本アエロジル)表面にPtの光析出を行った。光照射終了後に得られたPt/TiO2ゾルをそのまま基材への固定化に用いた。このゾルは1mL当たり20mgのPt/TiO2二次粒子を含んでおり、液中で一晩静置後も沈殿はみられなかった。二次粒子の粒径が1μmであったとすると、ストークス則から100分間で1cmの沈降距離となるはずであり、ゾル中に含まれる二次粒子は1μmよりも小さいことが分かる。また、後述の実施例7において、これと同じPt/TiO2ゾルを下地処理に用いた際の実験結果からはPt/TiO2二次粒子は0.28μm以下と見積もられることを記載している。
【0100】
固定化には18mm角のカバーガラス(松浪硝子製)を基材として用いた。ゾル分散液80μLを室温下でカバーガラスに滴下してスパーテルでカバーガラス面に拡げた。これを150℃に設定したホットプレート上に移し乾燥させた。ホットプレートから外して室温に戻し、再びゾル分散液80μLをカバーガラスに滴下して全体に拡げ、ホットプレート上に移し乾燥させた。このようにゾル滴下と乾燥を合計10回繰り返してPt/TiO2ゾルをガラス基板に固定化した。
【0101】
水素の製造は、実施例1と同様に行い結果を表1に示した。光触媒は反応中に剥がれることなく安定だったが、水素生成速度は39.6μmol/hで実施例1よりも低くなった。光触媒の希薄なゾル分散液をドロップキャストすることでバインダーを要さず薄膜状に固定化することができ、固定化を繰り返すことによって所定の量を安定に固定化することができる。しかし高い光触媒活性を得るためには固定化を何度も繰り返す必要があり実施例の方法と比べ著しく手間を要する。実施例1〜3では1回の固定化で比較例3よりも高い光触媒活性を得ることができた。
【0102】
<実施例4>
光触媒二次粒子としてPt/TiO2(40〜125)を用い、TiO2微粒子(P25、日本アエロジル)の水分散液を無機バインダー溶液として固定化した。具体的には、18mm角のカバーガラスを実施例1と同様にシリコンゴム栓上に設置し、その上にP25の水分散液(分散濃度1.0mg/mL)を0.3mL滴下してスパーテルでガラス面に拡げ水滴を作った。分級により得られたPt/TiO2(40〜125)をストックした瓶からスパーテルで少しずつ水滴中に添加しガラス面に沈降させた。ガラス面全体にPt/TiO2二次粒子が分布するまで加えたところでストック瓶に残ったPt/TiO2二次粒子の重さを量り、添加前の重量との差から添加量が67.5mgと決定した。これを80℃の乾燥機に入れて水分を蒸発させ、乾燥後の試料を磁性の灰分測定用皿に移し、マッフル炉中、加熱温度300℃で30分間熱処理することで、光触媒二次粒子(Pt/TiO2)と無機バインダー(酸化チタン)が基材(カバーガラス)に固定化された光触媒体を得た。
【0103】
水素の製造は、光触媒体の上方から光照射することにより行った。ガスクロバイアル瓶(日電理化硝子(株)製 SVG−50)を反応容器とすることは実施例1と同じであるが、実施例4ではバイアル瓶を横倒しにして用い、ここに光触媒体を光触媒面が上を向くように入れた。そのままグリセリン10重量%水溶液10.0mLを加え、瓶の口から水溶液がこぼれないように光触媒体を液中に沈めた。瓶を横倒しのままブチルゴム栓と穴あきキャップにより密栓した。瓶が転がらないようラボジャッキ上面で左右を固定した。出力100WのXeランプが入った光源装置(朝日分光製 LAX100)を用い、上方から下方に向かってXe光を照射した。光照射強度(放射照度)はソーラーメーター(英弘精機株式会社製、MS−02)を用いて測定し、光触媒体の高さで100mW/cm2となるよう光源装置の出力コントロールとラボジャッキの高さ調節を行った。MS−02の測定波長範囲は取り扱い説明書に記されていないが、一般的なシリコン製電池を用いたソーラーメーターの測定範囲の300〜1,100nm前後の範囲と考えられるので、前出の実施例などで用いたサーマルパワーセンサでの測定値とは異なることに注意する必要がある。Xeランプのシャッターを開け、光照射を開始した時刻を反応開始時刻とし、以降は実施例1と同様にガス分析を行って反応評価した。反応結果は表1に示した。実施例4で得られた光触媒体は、動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況で安定して活性を保ちつつ反応を行うことができる。
【0104】
<実施例5>
光触媒二次粒子としてPt/TiO2(3〜40)を用いた他は実施例4と同様に行った。固定化の際に無機バインダー溶液に加えた粉体量は72mgであった。反応結果は表1に示した。水素生成速度は24.1μmol/hでPt/TiO2(40〜125)を用いた実施例4と比べ少し低くなった。実施例4と比べPt/TiO2二次粒子の使用量はほぼ同じであるが、Pt/TiO2(40〜125)の方が二次粒子間の穴のサイズが大きくなるために、泡の脱離が促進されたものと考えられる。実施例5で得られた光触媒体についても、動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況で安定して活性を保ちつつ反応を行うことができる。
【0105】
<実施例6>
光触媒二次粒子としてAu/TiO2二次粒子を用い、他実施例よりも大きな面積(40cm2)のガラス基材に固定化した。他実施例と同じ酸化チタン(日本アエロジル、P25)を用い、一般的に金ナノ粒子を酸化物表面に固定化するための方法として知られる析出沈殿法を用い、1.5wt%のAuを担持したAu/TiO2を用いた。篩粒度としては300μmの篩を通過する粒子を用いており、40μmの篩を通過する粉状の粒子も含んでいる。バインダー液としては層状粘土であるサポナイト(クニミネ工業株式会社製、スメクトンSA)の水分散液(分散濃度1mg/mL)を用いた。
【0106】
ガラス基材としては5.2×7.6cmサイズのスライドガラス(松浪硝子製、S9112)を用いた。この上にAu/TiO2の二次粒子366mgを全面に撒き、サポナイト分散液1.22mLをパスツールピペットで少しずつAu/TiO2二次粒子の上から全量滴下した。全量を滴下後にスライドガラス全面にバインダー液が行き渡り水滴状になるようにスパーテルの先で整えて、更に全体を揺らして水滴中に沈んだAu/TiO2の二次粒子が均一に並ぶように整えた。これを100℃で乾燥した後に、マッフル炉中、加熱温度300℃で1時間加熱して光触媒体とした。
【0107】
水素の製造は、公称容量500mLの角型広口メディウム瓶(simax社製、2080M/500)を反応容器とし、ポリプロピレン製のキャップに穴あけをしてシリコンゴムセプタムを取り付けたものを用いた。この容器を横に寝かせ、光触媒体を中に入れて容器側面に光触媒面が上を向くように置いた。そのままグリセリン10重量%水溶液50.0mLを加え、光触媒体を液中に沈めた。容器を横に寝かせたままキャップを閉めて密栓した。キャップの内部にあるシールリングによって気密は良好に保たれた。容器内に一杯に水を満たして実測した実容量は778mLであったので、反応液に接する728mLの空間は空気のままとした。
【0108】
ソーラーシミュレータ(山下電装製、YSS−80)を用いて光照射を行った。光照射強度はソーラーメーター(英弘精機株式会社製、MS−02)を用いて測定し、光触媒体の高さで100mW/cm2となるよう光源装置の出力コントロールと試料台の高さ調節を行った。ガス分析はシリコンゴムセプタムを通し実施例1と同様にして行った。
【0109】
実施例6で得られた光触媒体についても、動きのある反応液中で光照射面積が限定された状況で安定して活性を保ちつつ反応を行うことができる。
【0110】
<比較例4>
実施例1と同じ条件で酸化チタン(P25,日本アエロジル)表面にPtの光析出を行った。光照射終了後に得られたPt/TiO2ゾルをそのまま実施例6と同じ基材(40cm2)への固定化に用いた。
このゾルは1mL当たり20mgのPt/TiO2二次粒子を含んでおり、液中で一晩静置後も沈殿はみられなかった。二次粒子の粒径が1μmであったとすると、ストークス則から100分間で1cmの沈降距離となるはずであり、ゾル中に含まれる二次粒子は1μmよりも小さいことが分かる。また、後述の実施例7において、これと同じPt/TiO2ゾルを下地処理に用いた際の実験結果からはPt/TiO2二次粒子は0.28μm以下と見積もられることを記載している。ガラス基板の縁をテフロンシールテープで囲んで液が漏れないようにして、Pt/TiO2の固定化密度が9.2mg/cm2となるよう、18.4mLのPt/TiO2ゾル液を流し込んだ。そのまま室温(20℃)下ドラフト中で12h乾燥した。乾燥後に目視で状態を確認すると、基板表面での担持密度には明らかにムラが生じ、またひび割れも多数生じた。これを電気炉中で300℃熱処理した後は見た目の変化は無く剥げ落ちも生じなかったが、水中に沈めると2割程度のPt/TiO2が剥げ落ち、付着強度が十分でないため反応に用いることができなかった。
【0111】
<実施例7>
光触媒二次粒子としてPt/TiO2(40〜63)とPt/TiO2(3〜40)の混合物を用い、下地処理を行った100cm2のガラス基材に固定化した。基材表面にOH基を増やすための下地処理には実施例1と同様に調製したPt/TiO2ゾルを使用した。このゾル3mLを100×100×0.7mmのガラス基材(材質:ホウケイ酸ガラス)の表面9か所にパスツールピペットで滴下し、スパーテルを用いてガラス面にゾルが均一になるよう整えた。次にガラス面を傾けて流れ落ちるゾルを捨て、更に基材を軽く振って落ちる分のゾルを捨てることにより、ガラス面に付着するゾルのみを残した。これを室温で30分間乾燥した後、マッフル炉に入れて加熱温度300℃で1時間加熱することにより、下地層としてガラス表面にPt/TiO2薄膜を形成した。薄膜はグレーがかった乳白色の半透明膜であり、印刷物の上に下地処理したガラス基材を置いたところ印刷物の文字は可読であった。このような光触媒透明膜の膜厚測定法としては次のような重量測定による方法を適用することが可能である(大谷文章、光触媒標準研究法、東京図書(2015)、p.91)。基材上の薄膜が均一に付着していると仮定し,薄膜の重量(Wg)を,基材だけの重量を差し引くことによって求め,薄膜が付着した基材のみかけの面積(Acm2)と薄膜成分の密度(ρg/cm3)を使って,厚さ(tcm)を以下の式から求めることができる。
t=W/(Aρ)
下地処理後の基材重量は17.465gであり、薄膜の重量Wは11mgであった。基材面積Aは100cm2で、Ptの担持量は0.3重量%と少ないことから薄膜成分の密度ρは純TiO2と同じ4.0g/cm3として計算すると膜厚tは0.28μmであった。この結果から、この薄膜を形成するために用いたゾル中に分散されていたPt/TiO2二次粒子径は0.28μm以下であることが分かった。
【0112】
次にPt/TiO2二次粒子の固定化を行った。Pt/TiO2二次粒子は実施例1と同様に調製したPt/TiO2(40〜63)の0.68gと、Pt/TiO2(3〜40)の0.22gを混合し、PFA時計皿に入れた。ここにバインダー液としてサポナイト(クニミネ工業株式会社製、スメクトンSA)の水分散液(分散濃度1mg/mL)を3.0mL加え、このスラリーを下地処理したガラス基材の上に移した。スラリーの大部分は移すことができたが、少量が時計皿に付着して残り、全量移すことはできなかったため、基板上のPt/TiO2量は完成後の光触媒体の重量から見積もった。
ガラス基材全面にバインダー液が行き渡り水滴状になるようにスパーテルの先で整えて、更に全体を揺らして水滴中に沈んだPt/TiO2二次粒子が均一に並ぶように整えた。これを室温で一晩乾燥した後に、マッフル炉中、加熱温度100℃で1時間加熱して光触媒体とした。得られた光触媒体の重量は18.306gであった。この重量から下地処理後の基材の重量(17.465g)を差引くことにより、固定化されたPt/TiO2二次粒子の重量を841mgと決定した。また、バインダー液3.0mLがPt/TiO2の0.9gと均一に混合され、そのうちガラス基材に移された分と時計皿に残った分があると考えると、バインダー液のうちガラス基材に移された分は3.0×841/900=2.8mLと見積もられる。
【0113】
水素の製造には、縦23cm、横16cm、深さ1cmの内寸の窪みを有するプラスチックトレーを反応器として用いた。内部中央に光触媒体を光触媒面が上を向くように固定し、そのままグリセリン10重量%水溶液150.0mLを加え、光触媒体を液中に沈めた。トレーの縁部(幅1cm)にグリースを塗り、縁の形に合わせて切り抜いたシリコンゴム板(厚さ2mm)を置き、その上からアクリル板をかぶせて縁をダブルクリップで挟んで密閉した。アクリル板の中央部は四角にくり抜いてパイレックスガラス板を接着しており、上面から光触媒体への光照射が可能である。またアクリル板の蓋に取り付けたシリコンゴムセプタムからガスサンプリングが可能な構造になっている。シリコンゴム板とグリースによって気密は良好に保たれた。容器内に一杯に水を満たして実測した実容量は450mLだったので、反応液に接する300mLの空間は空気のままとした。出力500WのXeランプが入った光源装置(ウシオ電機製 OpticalModuleX SX−UID501XAMQ)を用い、照射面積を広げるために石英ガラスァイバーを外して標準コリメータレンズに付け替え、横方に照射される光を、ミラーを用いて下方に反射させた。この直下に上記反応容器を設置して光触媒体の高さで直径6.5cmの円形範囲に約100mW/cm2で光照射されるようジャッキを用いて高さ調節し、ソーラーメーター(英弘精機株式会社製、MS−02)を用いて円形範囲の上下左右位置で強度測定したところ平均値101mW/cm2であった。トレー型反応器の下にはクールプレート(SCP−125,アズワン製)を設置して液温が20℃となるよう温度調節した後に光照射を開始して水素生成反応を行った。ガス分析はシリコンゴムセプタムを通し実施例1と同様にして行った。
【0114】
<実施例8>
ガラス板にPt/TiO2二次粒子を固定化した光触媒体により、有機物の酸化分解反応を行った。有機物としては酢酸を選び、空気中の酸素によって二酸化炭素に酸化分解される速度を評価した。光触媒体は実施例7にて調製したPt/TiO2光触媒体をガラス切りにて18mm角に切り出して、そのまま用いた。反応容器としてホウケイ酸ガラス材質のガスクロバイアル瓶(日電理化硝子(株)製 SVG−50)を用い、反応容器の設置場所としては20℃に温度制御した恒温水槽(底面はパイレックス硝子板になっている)を用いた。出力500WのXeランプが入った光源装置(ウシオ電機製 OpticalModuleX SX−UID501XAMQ)を用い、電流値を25Aに設定した出力光を、石英ガラスァイバーを用いて直上に曲げ、恒温水槽に対し石英ガラスァイバー先端の平行レンズを通し下方から照射されるようにし、水槽底面の硝子板を通し下側から照射された光を三角プリズムで水平方向に曲げた。
【0115】
次に、反応容器中に前記の光触媒体(18mm角に切り出した光触媒体)を入れ、内側から側面に沿わせて立て、18×5cmにカットしたフッ素樹脂網(4メッシュ相当、厚み1.6mm)を反応容器側面に拡げて入れることで支えとし、光触媒体を反応容器側面に立ったまま保持した。反応容器内に、長さ15mmのテフロン被覆撹拌子と酢酸5重量%水溶液20.0mLを加え、ブチルゴム栓と穴あきキャップにより密栓した。反応容器に水を満たして蓋を締めた時の水の重量から求めた内容積は、65mLであったので、反応液量を差し引くと、残りは空気が45mL入っていることになる。恒温水槽の所定の位置に設置し、プリズムで水平に曲げられた光が光触媒体に照射されるようにした。反応容器直下位置の水槽ガラス面には小型マグネチックスターラー(セルスターCS−101、アズワン製)を取り付け、反応容器内の溶液が攪拌されるようにした。Xeランプのシャッターを開け、光照射を開始した時刻を反応開始時刻とした。別途サーマルセンサパワーメータ(PM160T、THORLABS製)を用い測定した光照射位置における光強度は420mW/cm2であった。
【0116】
20分後に反応容器を光照射位置から外し、ブチルゴム栓を通してガスタイトシリンジにより0.2mLのガスを採取し、Heガスをキャリアとするメタナイザー付きFIDガスクロ(化学物質評価研究機構製、Gカラム G−950)により、CO2の分析を行った。その後、再び反応容器を恒温水槽の所定の位置に設置することによって光照射を再開し、20分間反応の後2回目のガス分析を行った。このようにして光照射下での反応を合計60分間行った。時間に対してCO2発生量が直線的に増加するのを確認し、その傾きから求めたCO2発生速度は10.4μmol/hであった。反応中はマグネチックスターラーによる攪拌を続けたが、60分の反応終了後も大部分が固定化された状態で保持された。
【0117】
【表1】
【0118】
反応条件1:実施例1参照、反応条件2:実施例4参照、反応条件3:実施例6参照、反応条件4:実施例7参照、反応条件5:実施例8参照
a)水中での安定性が無いために光照射は行わなかった
b)実施例8のみ反応は水中酢酸の酸化分解反応で、CO2の生成速度を示す。
【0119】
表1の結果から、次のようなことが分かる。光触媒性能は水素生成速度の欄に示しているが、1〜4で示した反応条件番号が異なるところでは、反応装置、光源、照射条件、反応装置などが異なるため、活性比較を行うことは難しい。
【0120】
実施例1〜3のように酸化グラフェンをバインダーとし、加熱処理温度を100〜300℃とすることで、水素発泡を伴う反応中も剥がれることの無い安定な光触媒体を得ることができた。これらの光触媒体は光触媒二次粒子を固定化なしで用いた比較例1と比べて8割以上の高い水素生成速度を示した。
【0121】
基材に光触媒を固定化する従来法として、比較例2のスキージー法、比較例3のドロップキャスト法を用いた場合は、いずれも実施例1〜3よりも低い生成速度となった。本発明の方法は、スキージー法と比較して基材面に均一に再現性良く塗布することが容易である特徴があり、ドロップキャスト法と比べて担持操作を繰り返す(比較例3では10回)事なしに、1回の担持操作で高い活性が得られる特徴もある。
【0122】
実施例4、5のように酸化チタンナノ粒子をバインダーとして用いても反応中安定な光触媒体を得ることができる。担持された光触媒二次粒子が大きい実施例4(40〜125μm)で実施例5(3〜40μm)よりも高い水素生成速度が得られた。但し、溶液を強く攪拌する条件では実施例5の方が壊れにくかった。
【0123】
実施例6ではAu/TiO2とサポナイトバインダーを用いて40cm2の比較的広い面積の基板表面に二次粒子(3〜300μm)を安定に固定化できたが、比較例4のように二次粒子径が1μmに満たない場合は同一密度(9.2mg/cm2)で安定に固定化することができなかった。
【0124】
実施例7では下地処理を行ってから、所定の粒径の光触媒二次粒子を固定化することで、更に広い面積の基板表面に安定に固定化した例を示した。他実施例とは光照射条件等が異なるものの、最も高い水素生成速度を得ることができた。
【0125】
実施例8では実施例7と同じ光触媒体を用いて、水中の有機物の除去反応の1例として酢酸の酸化反応を行い、CO2への完全酸化反応を有効に進めた例を示した。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の光触媒体は基材の表面に光触媒二次粒子が固定化されており、主に水素生成反応と有機物等の分解による水の浄化の目的に有用に用いることができる。水素製造目的では太陽電池パネルに類似した形状の光触媒水素製造パネルを容易に構成することができる。水の浄化用途では、各種工場の排液処理施設、産業廃棄物処理施設、畜舎汚水処理施設などへの適用が例示される。