【解決手段】プロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトルが、8.6ppmと、1.3ppmのケミカルシフト(±0.5ppm)にピークを有することを特徴とする、球状シリカ粉体。このシリカ粉体を含有する、球状シリカ粉体と樹脂の複合材料。
プロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトルが、8.6ppmと、1.3ppmのケミカルシフト(±0.5ppm)にピークを有することを特徴とする、球状シリカ粉体。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体パッケージに利用される封止材フィラーは、電気的な絶縁と素子の物理的保護を主な目的とし、樹脂と混練した複合材料として用いられている。半導体封止用のフィラー材料として最も一般的に用いられるのは、シリカ(SiO
2)粒子であり、樹脂との複合材料としての流動性や分散性、充填性などの点から球状のシリカ粒子が広く用いられている。
【0003】
近年、5G技術や自動運転技術の開発進展に対して、高周波やパワーデバイス搭載による素子の発熱環境への対応、また、モバイル機器の小型化に伴う半導体素子の微細化に対応する必要性が高まっている。中でも、半導体素子の微細化に伴って、微小な隙間へ複合材料を空隙なく充填させるために、シリカフィラー自体も微粒子化する必要がある。しかし、シリカフィラーの微粒子化に伴って複合材料の粘性が上がり、流動性が悪化するため、微小な隙間への充填が困難となることが問題となる。さらに、半導体素子が小型、薄型化すると、外力等によりシリカフィラーと樹脂の間の剥離現象も顕在化する懸念があり、微粒子化したシリカフィラーには樹脂との親和性・密着性も求められる。
【0004】
上記の課題に対し、一般的には、シリカフィラー粒子と樹脂との親和性を向上するためにカップリング剤の添加によるシリカ粒子表面への修飾が行われている。しかし、シリカ粒子表面への修飾は、微粒子化することによる複合材料の流動性悪化に対しては効果に限界がある。また、流動性向上の観点では、粒子径の異なる大小のシリカ粒子の配合調整も行われるが、微小な隙間を対象とした場合、用いることのできるシリカ粒子の大きさに制限があり、小粒径の粒子では樹脂との界面の面積が大きくなるために粘度の上昇が大きく、小粒径のシリカ粒子同士の配合調整ではやはり限界がある。したがって、今後求められるより一層の流動性向上効果を狙うためには、フィラー粒子自体の表面改質が重要になると考えられる。
【0005】
シリカ粒子の表面改質方法については、酸・アルカリ処理法、UV照射法、オゾン照射法、コロナ照射法、プラズマ照射法などが挙げられる。このうち、プラズマ照射法は炭素粉体で、親水化等の表面改質効果の報告があり、また、酸やアルカリ処理などのウェット環境での処理と比較してハンドリング性がよく、生産プロセスへの適用が期待できる。
【0006】
プラズマ照射法に関する先行文献では、特許文献1及び2が挙げられる。特許文献1では、アミン系化合物、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、アリルメルカプタン及びアリルアルコールから選ばれた一種以上を、プラズマ重合法によりシリカの表面にコーティングし、シリカとエポキシ樹脂との接着力を向上できることが記載されている。
【0007】
特許文献2では、シリカ粒子にアルゴンプラズマ処理することが記載されており、得られた表面処理シリカ粒子は、液状エポキシ樹脂との複合体の流動性の低下を抑制でき、また凝集発生を抑制できることが記載されている。
【0008】
特許文献1では、樹脂との接着性の向上は示されているものの、流動性の向上効果は示されていない。また、粘度の上昇によるエポキシ樹脂組成物の流動性の低下や、シリカ同士の凝集を充分に抑制できていない。
【0009】
特許文献2では、十分な効果が得られるシリカ粒子の平均粒子径が0.1〜0.5μmである。このシリカ粒子は、実装におけるアンダーフィル材用途の微小粒径に限定され、数μm〜数十μm領域を含むより広範な封止材用のシリカ粒子径に対する効果は示されていない
【発明を実施するための形態】
【0016】
(球状シリカ粉体)
本発明の球状シリカ粉体は、NH
3ガスを用いて、表面改質されており、シリカ粒子最表面には、−Si−O−NH
2基、−Si−NH
2基が多く存在する状態になっていると考えられる。本発明の球状シリカ粉体は、プロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトルによって特定することができ、8.6ppmのケミカルシフト(±0.5ppm)に−Si−O−NH
2基に由来すると考えられるピークと、1.3ppmのケミカルシフト(±0.5ppm)に−Si−NH
2基に由来すると考えられるピークを有することを特徴とする。本明細書でいう「ピーク」とは、バックグラウンドのベースラインの強度を、例えば−10ppmから−5ppmの範囲のスペクトルの強度の平均値とした場合、指定範囲内、例えば8.6ppm(±0.5ppm)と1.3ppm(±0.5ppm)のスペクトルの最大強度とベースラインの強度の平均値との差が、ベースラインの範囲における最大最小強度差の10倍以上であるとき、最大強度の点をピークと定義する。
【0017】
図1に、本発明の表面改質されたシリカ粉体C(メディアン径:d
50=2.0μm、篩下積算分布における粒子径d
5=0.7μm、d
95=4.1μm)のプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトルを、比較の表面改質されていない未処理シリカ粉体Cと共に示す。スペクトルは、フーリエ変換型NMR装置(静磁場強度:18.8テスラ、マジックアングル回転数:100kHz、測定パルスシーケンス:DEPTH導入型1H MAS NMRスペクトル測定、90°パルス幅:1.4μs、パルス繰り返し時間:15s)で測定した。未処理シリカには2ppm付近に単一のピークがあるが、文献等から孤立シラノール基(−Si−OH)に由来するものと推定される。
【0018】
NH
3ガス雰囲気下でプラズマ処理されたシリカ粉体Cは、7ppmから10ppmの範囲のケミカルシフトに主として一つのピークを有し、0ppmから6ppmの範囲のケミカルシフトに複数のピークの重ね合わせとなった複合ピークを有している。
7ppmから10ppmの範囲のケミカルシフトに見られるピークは、シリカ粒子最表面における−Si−O−NH
2基に相当するものと予想される。また、1ppm近傍に見られる強度の大きなピーク、および2〜5ppmに見られるなだらかな複数のピークの重ね合わせは、それぞれシリカ粒子最表面における−Si−NH
2基に相当するもの、シリカ粒子最表面に結合する複数の形態のシラノール基(−Si−OH)に由来するもの、に対応していると予想される。ここで、とくに樹脂と複合した際の粘度低下に寄与しているのは、プラズマ雰囲気ガスとして用いたNH
3に由来する−Si−O−NH
2基及び−Si−NH
2基であると考えられるが、−Si−O−NH
2基が樹脂との親和性を高める上でより大きな効果を発揮していることが予想される。
【0019】
シリカ粉体の表面はその製法により、表面水酸基(シラノール基)の数、表面処理剤や樹脂とシリカ粉体のシラノール基間の反応性が異なることが知られている。また、シリカ粉体は微粒子化すると界面の面積が増大することから、この表面シラノール基を要因として水分子の吸着、水分子を介した水素結合、シラノール基同士の水素結合など微粒子同士の凝集が経時的に進行し、凝集粒子を形成する傾向がある。この凝集が樹脂との複合体中でも残存すると、分散性の低下、粘度のバラつきをもたらす。従って、−Si−O−NH
2基の効果としては、適度な分子の長さを有する表面修飾基として樹脂との反応性、親和性の向上に寄与しつつ、シラノール基同士が水素結合などにより凝集する要因を抑制していることが考えられる。
【0020】
本発明の球状シリカ粉体は、水を分散媒とした湿式のレーザ回折式粒子径測定装置により測定される光散乱相当径の篩下積算分布において、粒子径d
5が0.2μm超かつd
95が80μm未満であり、d
50が0.5μm超35μm以下であるシリカ粉体を用いることができる。
この範囲内のシリカ粉体が用いられる理由は、粒径が0.2μm以下の微小な粒子数が多く含まれるようになると、複合体の粘度が大きくなり、半導体封止材用途として用いる際に微小な隙間への充填自体が困難になるためである。また、逆に80μm以上の粗大な粒子数が多く含まれるようになると、フィラー界面の面積(比表面積)が相対的に減少し、プラズマ照射による粘度低下の効果が有意に発現しにくくなるためである。
本発明に用いることができるシリカ粉体は、好ましくは、30μm未満の粒径の粒子が95%以上(篩下積算分布における粒子径d
95<30μm)であり、更に好ましくは、20μm未満の粒径の粒子が95%以上(篩下積算分布における粒子径d
95<20μm)である。
【0021】
本発明に用いることができるシリカ粉体の例として、シリカ粉体C(メディアン径:d
50=2.0μm、篩下積算分布における粒子径d
5=0.7μm、d
95=4.1μm)、D(メディアン径:d
50=8.5μm、篩下積算分布における粒子径d
5=1.2μm、d
95=18μm)、E(メディアン径:d
50=31μm、篩下積算分布における粒子径d
5=3.0μm、d
95=75μm)が挙げられる。
【0022】
本明細書に示す、シリカ粉体の粒径および累積頻度分布(篩下積算分布)の値は、湿式測定装置であるレーザ回折式粒子径測定装置(Malvern Panalytical社製、Mastersizer 3000)を用いて測定した。測定時の設定条件は、分散媒:水、分散媒屈折率:1.33、粒子屈折率:1.544であった。
【0023】
(球状シリカ粉体の製造方法)
本発明の球状シリカ粉体は、アンモニアガスを含む雰囲気中で原料用球状シリカ粉体にプラズマ照射を行うことにより製造される。原料用球状シリカ粉体は、例えば、粉砕したシリカの原料粉末を火炎中に吹き込んで、高温で溶融させ、溶融シリカの粘度が低くなり、表面エネルギーにより球状化することを利用する溶射法を用いて得ることができる。本発明の実施例においては、とくに記載のない限り、この溶射法により製造したシリカ粉体を用いた。具体的には、製造炉の頂部に可燃性ガス供給管、助燃性ガス供給管、高純度シリカ(破砕状の石英)供給管で組まれた管構造のバーナーを設置し、製造炉の下部に捕集系(生成粉末をブロワーで吸引しバッグフィルターにて捕集)を接続されてなる装置を用い、溶射により球状シリカ粒子(非晶質)粉末を製造した。可燃性ガス供給管からLPGを、助燃性ガス供給管から酸素を供給することにより、製造炉内に高温火炎を形成し、ここへ破砕状シリカ粉末(石英)をシリカ供給管から供給して、火炎中で溶融させた球状シリカ粉末をバグフィルターにて捕集した。
【0024】
溶射法により得られた球状シリカ粉体は、円形度が0.83以上となることができる。円形度はマルバーンパナリティカル社製のFPIA−3000を用いて、6000個の円相当径10um以上の粒子について測定した平均値として確認することができる。溶射法で得られる球状シリカ粒子の円形度を0.83以上にするためには、溶射する際の火炎の温度はシリカが溶融する温度より高くする必要がある。より円形度の高い球状シリカを得るためには、火炎の温度が2000℃以上であることが望ましい。また、溶射の際のシリカ粒子同士が接触すると、粒子同士が結合して、いびつな形状になりやすいため、火炎中への原料の供給は、ガス気流中に原料を分散させて供給したり、供給量を調整したりすることが望ましい。
【0025】
原料として用いる球状シリカ粉体は、湿式のレーザ回折式粒子径測定装置により測定される光散乱相当径の篩下積算分布において、粒子径d
5が0.2μm超かつd
95が80μm未満であり、d
50が0.5μm超35μm以下であるシリカ粉体を用いることができる。
この範囲内のシリカ粉体が原料として用いられる理由は、粒径が0.2μm以下の微小な粒子数が多く含まれるようになると、複合体の粘度が大きくなり、半導体封止材用途として用いる際に微小な隙間への充填自体が困難になるためである。また、逆に80μm以上の粗大な粒子数が多く含まれるようになると、フィラー界面の面積(比表面積)が相対的に減少し、プラズマ照射による粘度低下の効果が有意に発現しにくくなるためである。
【0026】
原料として用いることができるシリカ粉体は、好ましくは、30μm未満の粒径の粒子が95%以上(篩下積算分布における粒子径d
95<30μm)であり、更に好ましくは、20μm未満の粒径の粒子が95%以上(篩下積算分布における粒子径d
95<20μm)である。
【0027】
本発明の球状シリカ粉体は、上述の球状シリカ粉体に、プラズマ照射を行ったものである。プラズマ照射に用いる装置、条件等は、産業的に利用される各種のプラズマ処理に通常用いられている装置、条件等とすることができる。プラズマを生じる産業機器の機構は多くの場合、0.1〜150Pa程度の減圧環境において、電極間に電界をかけることで気体を電離する。このような減圧環境での電界のかけ方には様々な形態が可能であるが、希薄気体雰囲気中に正負2つの電極を入れて電圧を加える直流放電が基本である。雰囲気ガスを放電現象によって電離させて生じたプラズマに粉体を晒すことが可能な装置であれば特に限定されないが、粉体の粒子表面への修飾基付与などの化学反応をより促進する観点から、グロー放電を用いるものが好ましい。
【0028】
本発明の実施例においては導入した粉体とグロー放電により発生したプラズマがより万遍なく接する観点から、回転軸をグロー放電電極とする回転式のドラム型処理槽を備える回転式卓上真空プラズマ装置YHS−DφS(魁半導体製)を用いた。処理槽を回転状態としてその内部空間にプラズマを生成させることにより、導入した粉体を撹拌しながら、粉体の粒子表面により万遍なくプラズマを照射することが可能である。本発明の実施例においては回転速度は10rpmとし、処理槽の回転軸を水平から20度傾けて行ったが、プラズマの照射方法はこれに限定されるものではなく、粉体を平面上に薄く戴置したり、戴置した粉体を一定時間ごとに撹拌したりする方法によっても効果を得ることが可能である。回転式プラズマ照射は、処理槽へ粉体を250〜300g導入した後、5Pa以下まで真空ポンプにて真空引きを行い、ポンプによる真空引き状態を維持しながら、雰囲気ガスを所定流量導入し、処理槽内が70±10Paに保たれるように調整し、100〜800Vの範囲で電極間に電圧をかけることで行った。なお、回転式のプラズマ照射方法に限定されず同様の効果が得られることを確認するため、一部の実験では平行平板の電極を備える平置き式の真空プラズマ装置CPE−400(魁半導体製)を用い、粉体(5〜50g)を平面上に5〜20cm角の面積に薄く平らに戴置して照射を行った。
【0029】
本発明製造方法のプラズマ処理に使用するガスは、アンモニアガスである。本発明者は、以下に記載するように、半導体封止材用複合材料の低粘度化の実現のために、種々の雰囲気ガスを用いてシリカ粉体にプラズマ処理を行い、好適なプラズマ雰囲気ガスのスクリーニング実験を行った。
【0030】
比表面積の大きい小粒径シリカ粉体でプラズマ処理条件のスクリーニングを行うために、原料として用いる球状シリカ粉体は、シリカ粉C(メディアン径:d
50=2.0μm、篩下積算分布における粒子径d
5=0.7μm、d
95=4.1μm)を用いた。複合材料に使用する樹脂として、液状エポキシ樹脂エピコート801N(三菱ケミカル製)、及び固体エポキシ樹脂YDCN−700−5(日鉄ケミカル&マテリアル製)を用いた。液状エポキシ樹脂は、後述する親和性の評価とレオメーターによる粘度評価に用い、固体エポキシ樹脂は、スパイラルフローによる流動性評価に用いた。使用したプラズマガスは、O
2、N
2、Air、Ar、3%vol.%CH
4in Ar、O
2+H
2O(70℃に加温した純水にO
2ガスをバブリングさせて処理槽へ導入したもの)、NH
3のガスを用いてプラズマ処理されたシリカ粉体と樹脂との親和性を評価した。なお、O
2、N
2、Ar、NH
3のガスの量、純度はそれらのガスを主体とするプラズマが生成される限りとくに限定されないが、5Pa以下の圧力まで真空引きされた処理槽内がプラズマ生成に適する0.1〜150Pa程度の圧力に保たれる量供給されることが好ましく、他のガス成分の混入や十分な数の電離イオンを生成させる観点から純度は99vol.%以上、好ましくは99.9vol.%以上であることが好ましい。本実施例では99.9vol.%のガスを用いた。
【0031】
(親和性の評価方法)
マイクロピペットを用いて液状エポキシ樹脂液滴をシリカ粉体充填面へ滴下し、充填面を真横から観察した際に、滴下直後の液滴高さを100%、完全に液滴がシリカ粉体充填面に浸透して、液滴高さがシリカ粉体充填面と等しくなった高さを0%としたとき、滴下後90secでの液滴高さを、プラズマ処理を行っていない球状シリカ粉体と比較して、親和性を以下のように判定した。
×:高さが増加もしくは高さの低下が10%未満の場合
△:高さの低下が10%以上30%未満の場合
○:高さの低下が30%以上の場合
【0032】
結果を処理条件と共に表1に示す。これらの結果から、アンモニアガスが最適であることが分かった。
【0034】
(複合材料)
本発明の複合材料は、樹脂中に、本発明の球状シリカ粉体を含有することを特徴とする。本用途に適用する樹脂としては、公知の樹脂が適用できるが、エポキシ樹脂が好ましい。
【0035】
本用途に適用するエポキシ樹脂は一般的に半導体封止材用途に用いられるエポキシ系の樹脂であれば、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、異なる分子量を有する2種類以上を併用することもできる。これらの中でも、硬化性、耐熱性等の観点から、1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂が好ましい。具体的には、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノール類とアルデヒド類のノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールS等のグリシジルエーテル、フタル酸やダイマー酸等の多塩基酸とエポクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル酸エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、アルキル変性多官能エポキシ樹脂、β−ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、1,6−ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、2,7−ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビスヒドロキシビフェニル型エポキシ樹脂、更には難燃性を付与するために臭素等のハロゲンを導入したエポキシ樹脂等が挙げられる。これら1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂中でも特にビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0036】
また、半導体封止材用複合材料以外の用途、例えば、プリント基板用のプリプレグ、各種エンジニアプラスチックスにおいては、エポキシ系以外の樹脂も適用できる。具体的には、エポキシ樹脂の他には、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリアミド;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変成樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリルーアクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム−スチレン)樹脂が挙げられる。
【0037】
本発明の球状シリカ粉体の、複合材料における添加量は、耐熱性、熱膨張率の観点から、多いことが好ましいが、通常、70質量%以上95質量%以下、好ましくは80質量%以上95質量%以下、更に好ましくは85質量%以上95質量%以下であるのが適当である。これは、シリカ粉体の配合量が少なすぎると、封止材料の強度向上や熱膨張抑制などの効果が得られにくいためであり、また逆に多すぎると、シリカ粉体の表面処理に関わらず複合材料においてシリカ粉の凝集による偏析が起きやすく、複合材料の粘度も大きくなりすぎるなどの問題から、封止材料として実用が困難となるためである。
【0038】
本発明の複合材料は、球状シリカ粉体および樹脂以外に、硬化剤、シランカップリング剤等を含むことができる。硬化剤は前記樹脂を硬化するために、公知の硬化剤を用いればよいが、フェノール系硬化剤を使用することができる。フェノール系硬化剤としてはフェノールノボラック樹脂、アルキルフェノールノボラック樹脂、ポリビニルフェノール類などを単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。前記フェノール系硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂との当量比(フェノール性水酸基当量/エポキシ基当量)が1.0未満、0.1以上が好ましい。これにより、未反応のフェノール硬化剤の残留がなくなり、吸湿耐熱性が向上する。シランカップリング剤についても、公知のカップリング剤を用いればよいが、エポキシ系官能基を有するものが好ましい。
【0039】
本発明の球状シリカ粉体は、粒子最表面に、−Si−O−NH
2基、−Si−NH
2基が多く存在していると考えられ、その作用により、樹脂との親和性が高く、複合材料に流動性を付与して粘度を低下させ、半導体封止材に用いた場合、狭小部に樹脂組成物が容易に侵入することができる。
【実施例】
【0040】
本発明の範囲の粒度分布を有する、上述したシリカ粉体D(メディアン径:d
50=8.5μm、篩下積算分布における粒子径d
5=1.2μm、d
95=18μm)、E(メディアン径:d
50=31μm、篩下積算分布における粒子径d
5=3.0μm、d
95=75μm)を用いて、本発明の球状シリカ粉体を用いた複合材料の粘度、流動性を評価した。
【0041】
実施例1
(レオメーター粘度評価)
シリカ粉体D、Eに対して、NH
3ガス雰囲気下で300W、40分、プラズマ処理をそれぞれ3回ずつ行った。これらのプラズマ処理済みのシリカ粉体D、Eら、プラズマ処理1回分ごとにそれぞれ40gずつ3サンプルの粉体を容器に採取し、プラズマ処理を行っていないシリカ粉体D、Eからも同様に40gを3サンプル分、容器に準備した。その後、これら40gのシリカ粉体を三菱ケミカル製エポキシ樹脂(エピコート801N)10gと混合するため、THINKY製攪拌機(あわとり練太郎)にて大気圧下で2000rpm、15秒間混練し、大気圧状態から5Torrへ真空引きしながらさらに2000rpm、90秒間混練した。混練物は25℃に設定したウォーターバスに容器を静置して1時間冷却した。
【0042】
このようにして得られた冷却後の混練物を複合材料D、Eとして、粘度(単位:μ[Pa・S])を測定した。粘度の測定にはレオメーターを用い、Anton Paar社製のMCR−102を使用した。直径50mmのパラレルプレートPP50をプレートギャップ1mmに設定し、せん断ひずみ0.1%、測定温度28.5℃の条件にて周波数分散モードで0.1〜100rad/sの範囲を測定した。表2に得られた測定結果から1rad/sの条件の粘度測定値を代表例として示す。
【0043】
【表2】
【0044】
未処理のシリカ粉体は、複合材料Eより複合材料Dの方が粘度の値が大きく、従来知られているように、粒径が小さなものほど樹脂との複合材料の粘度が高くなる傾向が確認された。これに対し、NH
3−プラズマ処理の効果については、複合材料D、Eのサンプルで共に、未処理のものと比較して、NH
3−プラズマ処理で粘度が低下する結果が得られた。なお、表2の数値は1rad/sの条件のみでの比較であるが、NH
3−プラズマ処理による粘度の低下効果は測定範囲の0.1〜100rad/s全体で見られた。また、NH
3−プラズマ処理を行った複合材料の特徴として、とくに、表2に示す通り、粘度低下の効果はシリカ粉体の粒径が大きな複合材料Eより、シリカ粉体の粒径が小さな複合材料Dの方が顕著であった。これは、小粒径の粉体ほど比表面積が大きいために、NH
3−プラズマ処理によるシリカ粒子の表面改質効果が相対的に大きく粘度に寄与するためであると考えられる。
【0045】
実施例2
(スパイラルフロー流動性評価)
樹脂との複合体の流動性を評価するため、シリカ粉体と日鉄ケミカル&マテリアル製エポキシ樹脂(YDCN−700−5)を混合し、3mmの内径を有する渦巻き(スパイラル)状の管を形成する金型に175℃に加熱した複合体を7MPaで圧入し、所定時間(180秒間)で金型の管入口より管内に流入する複合体の距離を測定することで流動性を評価した。圧入に使用した装置は、ダンベル社製の竪型トランスファー成形機(SDOP−1002−SP)である。複合体はシリカ粉体を80質量%、エポキシ樹脂(クレゾールノボラック系樹脂)を14質量%、硬化剤(フェノールノボラック系樹脂)を5質量%、シランカップリング剤(エポキシ系官能基)を1質量%添加してヘンシェルミキサーで1分間撹拌後、2軸混練器で混合したものを用いた。実施例1で作製した複合材料と同様に、NH
3ガス雰囲気下で300W、40分、プラズマ処理をそれぞれ3回ずつ行ったシリカ粉体と未処理のシリカ粉体からサンプルを準備し、複合体D’、複合体E’とした。これらのサンプルを用いて、上記のスパイラルフロー評価用の金型により流動性(単位:cm)を評価した。結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
複合材料D’、複合材料E’のサンプルは共に、未処理のものと比較して、NH
3−プラズマ処理でスパイラルフロー長が増大(流動性向上)する傾向が得られた。スパイラルフロー評価においても、実施例1で見られたように、流動性増大効果は複合材料Dで特に有意であった。このことからも、上述したように、小粒径の粉体ほど比表面積が大きいために、NH
3−プラズマ処理によるシリカ粒子の表面改質効果が相対的に大きく発現することを示唆していると考えられる。
【0048】
NH
3−プラズマ処理の効果についてシリカ粉の粒子径との関係を調べるため、上述の粉体C、D、Eに加え、粒子径分布の異なる粉体A、B、F、G、Hを用いて、粉体C、D、Eにて評価した樹脂との親和性、1H−NMRスペクトルの8.6ppmと、1.3ppmのケミカルシフト(±0.5ppm)におけるピークの有無、スパイラルフロー評価による流動性、レオメーター評価による粘度をそれぞれ同様の手法で測定した際の測定結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
表4において、樹脂との親和性に示す「○」は、前述の(親和性の評価方法)項に記載した通り、樹脂液滴の滴下後90secでの高さが未処理の粉体と比較して30%以上低下した場合であり、1H−NMRピークに示す「○」は、前述の(球状シリカ粉体)の項に記載した通りの判定基準により1H−NMRスペクトルが、8.6ppmと、1.3ppmのケミカルシフト(±0.5ppm)にピークを有するものである。
また、流動性は、前述の(スパイラルフロー流動性評価)の項に記載のとおり3回の測定を行い、平均値が未処理粉における平均値より2%以上向上したものを「○」とし、2%以上の向上が見られなかったものを「△」とした。
粘度も同様に、1rad/sにおける粘度の平均値が未処理粉と比較して2%以上低下したものを「○」、2%以上の低下が見られなかったものを「△」とした。
【0051】
それぞれ樹脂との親和性、1H−NMRスペクトルのピークから、測定した粉体の粒径の範囲では、粉体の粒径に依らず、NH
3−プラズマ処理によるシリカ粉粒子への表面改質効果が見られる一方、樹脂との複合体における流動性の向上、粘度の低下については、粒径が大きいシリカ粉体では相対的な表面積が小さいため、効果が小さくなっているものと考えられる。なお、粉体Aについては、樹脂との複合体を形成する際にシリカ粒子同士の凝集による複合体での偏析が起きやすく、複合体自体の形成が困難であったことに加え、プラズマ処理の有無にかかわらず樹脂複合体の流動性が悪く、スパイラルフローによる流動性の測定自体が困難であった。