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特開2021-161193導電性樹脂組成物及び該組成物を用いた電磁波シールド材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-161193(P2021-161193A)
(43)【公開日】2021年10月11日
(54)【発明の名称】導電性樹脂組成物及び該組成物を用いた電磁波シールド材
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20210913BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20210913BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20210913BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20210913BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20210913BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20210913BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20210913BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K7/06
   C08K7/14
   C08K3/04
   H01B1/24 Z
   H01B1/00 H
   H05K9/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-62856(P2020-62856)
(22)【出願日】2020年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮永 俊明
(72)【発明者】
【氏名】藤 和久
(72)【発明者】
【氏名】梶岡 信由
(72)【発明者】
【氏名】小川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】平本 健治
【テーマコード(参考)】
4J002
5E321
5G301
【Fターム(参考)】
4J002BB121
4J002DA016
4J002DA017
4J002DL008
4J002FD018
4J002FD116
4J002FD117
4J002GQ00
4J002GS00
5E321BB32
5E321BB34
5E321BB57
5E321GG05
5G301DA03
5G301DA05
5G301DA06
5G301DA10
5G301DA18
5G301DA20
5G301DA42
5G301DA44
5G301DA51
5G301DA53
5G301DD06
5G301DE02
(57)【要約】
【課題】優れた電磁波シールド性能及び優れた機械的特性を発現するとともに、低コスト化を実現し得る導電性樹脂組成物及び該組成物を用いた電磁波シールド材を提供する。
【解決手段】導電性樹脂組成物は、マトリクス樹脂、コークス粉及び炭素繊維を含有する。前記コークス粉の体積平均粒子径が1μm以上500μm以下である。前記導電性樹脂組成物における前記コークス粉の含有率が1質量%以上60質量%以下である。前記炭素繊維のアスペクト比が3以上1700以下である。前記導電性樹脂組成物における前記炭素繊維の含有率が0.5質量%以上10質量%以下である。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス樹脂、コークス粉及び炭素繊維を含有する導電性樹脂組成物であって、
前記コークス粉の体積平均粒子径が1μm以上500μm以下であり、
前記導電性樹脂組成物における前記コークス粉の含有率が1質量%以上60質量%以下であり、
前記炭素繊維のアスペクト比が3以上1700以下であり、
前記導電性樹脂組成物における前記炭素繊維の含有率が0.5質量%以上10質量%以下であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記コークス粉がピッチコークス粉であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記コークス粉の体積平均粒子径が10μm以上50μm以下であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
前記炭素繊維の平均繊維径は3μm以上12μm以下であり、
前記炭素繊維の平均繊維長は0.5mm以上25mm以下であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項において、
前記炭素繊維の平均繊維径は6μm以上10μm以下であり、
前記炭素繊維の平均繊維長は3mm以上10mm以下であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、
前記導電性樹脂組成物における前記コークス粉及び前記炭素繊維の含有率の合計が5質量%以上70質量%以下であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項において、
前記導電性樹脂組成物における前記コークス粉及び前記炭素繊維の含有率の合計が5質量%以上40質量%以下であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、
前記導電性樹脂組成物は、さらにガラス繊維を含有し、
前記導電性樹脂組成物における前記ガラス繊維の含有率が10質量%以上40質量%以下であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8において、
前記導電性樹脂組成物における前記コークス粉、前記炭素繊維及び前記ガラス繊維の含有率の合計が15質量%以上70質量%以下であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項において、
前記マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物が用いられてなる電磁波シールド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は導電性樹脂組成物及び該組成物を用いた電磁波シールド材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人体への影響防止、電子機器等の誤作動防止等のために、自動車部品、電子機器等に使用するカバー材等に導電性機能を付与し、電磁波をシールドすることが行われている。具体的には例えば、電気自動車用のバッテリーパックのアッパーカバー等に用いられるカバー材を金属板等を用いて成形することにより、バッテリーパックから放出される電磁波をシールドしている。
【0003】
ところで、自動車、電子機器等の軽量化のために、上記のようなカバー材を樹脂化したいという要求がある。
【0004】
そこで、電磁波シールド性能を有する樹脂成形品が種々検討されている。例えば、特許文献1には、熱硬化性又は熱可塑性樹脂材料に対して、コークス粉と、カーボン系鱗片状導電性フィラー(黒鉛)又は金属系鱗片状導電性フィラーとを、所定の重量比で配合した導電性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−251620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、自動車の分野では、電磁波を用いて、距離や速度のセンシングや障害物をセンシングする技術等が種々実現されている。このような技術では、正確にセンシングするために不要な電磁波を高い精度でシールドする必要がある。また、カバー材としては、高剛性等の優れた機械的特性を有するとともに、コスト性に優れることも重要である。
【0007】
そこで、本開示は、優れた電磁波シールド性能及び優れた機械的特性を発現するとともに、低コスト化を実現し得る導電性樹脂組成物及び該組成物を用いた電磁波シールド材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は、マトリクス樹脂に対し、コークス粉と、炭素繊維とを、導電材として添加することにより、マトリクス樹脂中にコークス粉及び炭素繊維のネットワークを形成するようにした。
【0009】
ここに開示する導電性樹脂組成物は、マトリクス樹脂、コークス粉及び炭素繊維を含有する。前記コークス粉の体積平均粒子径が1μm以上500μm以下である。前記導電性樹脂組成物における前記コークス粉の含有率が1質量%以上60質量%以下である。前記炭素繊維のアスペクト比が3以上1700以下である。前記導電性樹脂組成物における前記炭素繊維の含有率が0.5質量%以上10質量%以下である。
【0010】
前記の構成によれば、マトリクス樹脂に対し、コークス粉と、アスペクト比が3以上1700以下の炭素繊維とを、導電材として添加することにより、マトリクス樹脂中にコークス粉及び炭素繊維のネットワークが形成される。そうすると、マトリクス樹脂中に電気が通るパスが形成され、導電性が飛躍的に上昇するパーコレーション現象が生じる。その結果、優れた電磁波シールド性能を発現できる。また、マトリクス樹脂中にコークス粉及び炭素繊維のネットワークが形成されることにより、電磁波シールド材を成形したときに優れた機械的特性が得られる。さらに、コークス粉及び炭素繊維は比較的少量で用いられているため、材料コストが低減される。
【0011】
なお、本明細書において、優れた電磁波シールド性能とは、例えば、船舶通信、中波放送(AMラジオ)、船舶・航空機用ビーコン、アマチュア無線等に使用される300kHz〜3MHz(より具体的には、1.7MHz)の周波数の電磁波に対するシールド効果(SE)が45dB(遮蔽率99%)以上であることを意味する。また、電界シールド効果の測定値は、KEC法(一般社団法人KEC関西電子工業振興センターで開発された電磁波シールド効果の測定方法)に準じて測定される値をいう。
【0012】
前記導電性樹脂組成物の一実施形態では、前記コークス粉がピッチコークス粉である。これにより、導電性がより一層向上する。
【0013】
前記導電性樹脂組成物の一実施形態では、前記コークス粉の体積平均粒子径が10μm以上50μm以下である。これにより、導電性がより一層向上するとともに、電磁波シールド材の機械的特性が向上する。
【0014】
前記導電性樹脂組成物の一実施形態では、前記炭素繊維の平均繊維径は3μm以上12μm以下であり、前記炭素繊維の平均繊維長は0.5mm以上25mm以下である。また、前記導電性樹脂組成物の一実施形態では、前記炭素繊維の平均繊維径は6μm以上10μm以下であり、前記炭素繊維の平均繊維長は3mm以上10mm以下である。前記のこれら構成によれば、導電性がより一層向上するとともに、電磁波シールド材の機械的特性が向上する。
【0015】
前記導電性樹脂組成物の一実施形態では、前記導電性樹脂組成物における前記コークス粉及び前記炭素繊維の含有率の合計が5質量%以上70質量%以下である。また、前記導電性樹脂組成物の一実施形態では、前記導電性樹脂組成物における前記コークス粉及び前記炭素繊維の含有率の合計が5質量%以上40質量%以下である。前記のこれら構成によれば、導電性がより一層向上するとともに、電磁波シールド材の機械的特性が向上する。
【0016】
前記導電性樹脂組成物の一実施形態では、前記導電性樹脂組成物は、さらにガラス繊維を含有し、前記導電性樹脂組成物における前記ガラス繊維の含有率が10質量%以上40質量%以下である。また、前記導電性樹脂組成物の一実施形態では、前記導電性樹脂組成物における前記コークス粉、炭素繊維及びガラス繊維の含有率の合計が15質量%以上70質量%以下である。前記のこれら構成によれば、マトリクス樹脂中におけるコークス粉及び炭素繊維の分散性が向上し、コークス粉及び炭素繊維のネットワークがより一層密な構造になる。その結果、マトリクス樹脂中に形成された電気が通るパスが長く、太くなるため、導電性がさらに向上する。また、電磁波シールド材の機械的特性がより一層向上する。
【0017】
前記導電性樹脂組成物の一実施形態では、前記マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂である。これにより、電磁波シールド材を容易に成形できる。
【0018】
ここに開示する電磁波シールド材は、前記導電性樹脂組成物が用いられてなる。これにより、電磁波シールド材は、優れた電磁波シールド性能、優れた機械的特性、及び低コスト化を実現できる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本開示によれば、優れた電磁波シールド性能及び優れた機械的特性を発現するとともに、低コスト化を実現し得る導電性樹脂組成物及び該組成物を用いた電磁波シールド材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】コークス粉(「Coke」ともいう。)を単独で含有する導電性樹脂組成物の電磁波シールド性能を示す図である。
図2】炭素繊維(「CF」ともいう。)を単独で含有する導電性樹脂組成物の電磁波シールド性能を示す図である。図2中、長繊維仕様とは、平均繊維長:4mm、平均繊維径:7μm、アスペクト比:約570の炭素繊維を示す。短繊維仕様とは、平均繊維長:0.9mm、平均繊維径7μm、アスペクト比:約130の炭素繊維を示す。以下の図3図4A図4B図5A図5B図6A及び図6Bにおいて同じ。
図3】コークス粉及び炭素繊維を含有する導電性樹脂組成物の電磁波シールド性能を示す図である。
図4A】コークス粉21質量%及び炭素繊維2質量%を導電材として含有する導電性樹脂組成物、及び該導電材にさらにガラス繊維(「GF」ともいう。)24質量%を含有する導電性樹脂組成物の電磁波シールド性能を示す図である。なお、図4A中、長繊維仕様とは、上述の長繊維仕様の炭素繊維、及び長繊維仕様のガラス繊維(平均繊維長:2mm、平均繊維径:18μm、アスペクト比:約110)を含有する導電性樹脂組成物を示す。短繊維仕様とは、上述の短繊維仕様の炭素繊維、及び短繊維仕様のガラス繊維(平均繊維長:1mm、平均繊維径18μm、アスペクト比:約56)を含有する導電性樹脂組成物を示す。以下の図4B図5A図5B図6A及び図6Bにおいて同じ。
図4B】コークス粉30質量%及び炭素繊維2質量%を導電材として含有する導電性樹脂組成物、及び該導電材にさらにガラス繊維18質量%を含有する導電性樹脂組成物の電磁波シールド性能を示す図である。
図5A】コークス粉21質量%及び長繊維仕様の炭素繊維2質量%を含有する導電性樹脂組成物の内部構造を示す、射出成形方向に沿う面のX線CT画像図である。
図5B】コークス粉21質量%、長繊維仕様の炭素繊維2質量%及びガラス繊維24質量%を含有する導電性樹脂組成物の内部構造を示す、射出成形方向に沿う面のX線CT画像図である。
図6A】コークス粉21質量%及び長繊維仕様の炭素繊維2質量%を含有する導電性樹脂組成物の導電性樹脂組成物の内部構造を示す、射出成形方向に対する垂直断面のX線CT画像図である。
図6B】コークス粉21質量%、長繊維仕様の炭素繊維2質量%及びガラス繊維24質量%を含有する導電性樹脂組成物の内部構造を示す、射出成形方向に対する垂直断面のX線CT画像図である。
図7】導電性樹脂組成物の性能指標に対する電磁波シールド性能を示す図である。
図8】導電性樹脂組成物のコスト比率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
<導電性樹脂組成物>
本実施形態に係る導電性樹脂組成物は、マトリクス樹脂、コークス粉及び炭素繊維を含有する。換言すると、マトリクス樹脂には、2成分の導電材が添加されている。この導電性樹脂組成物は、後述する電磁波シールド材の成形材料として使用できる。
【0023】
マトリクス樹脂は、熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂である。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン系、酢酸ビニル系、ポリエステル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリアミド系、ゴム系、アクリル系等の樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール系、エポキシ系、ウレタン系、メラミン系、アルキッド系等の樹脂が挙げられる。これらマトリクス樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。なお、マトリクス樹脂は、電磁波シールド材の成形容易性の観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましく、コスト面及び機械的特性の観点から、ポリプロピレン(PP)であることがより好ましい。マトリクス樹脂としては、一般に市販されている樹脂材料を使用できる。
【0024】
導電性樹脂組成物におけるマトリクス樹脂の含有率は、成形性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。また、前記マトリクス樹脂の含有率は、導電性を向上させる観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0025】
コークス粉は、石炭の乾留や、石油や石炭系重質油をコーキング(熱重合)させることによって得られる炭素材料(コークス)を粉砕した粒子である。このコークス粉は、カーボンブラックや、人造黒鉛に比して比較的安価な材料である。また、コークス粉は、カーボンブラックや炭素繊維と同等の導電性を有する。
【0026】
コークス粉は、一般に市販されているコークス粉を使用できるが、導電性を向上させる観点から、ピッチコークス粉が好ましい。このピッチコークス粉は、石炭を乾留(蒸し焼き)する際の副産物であるコールタールから分離された軟ピッチ(SOP)を高温焼成して揮発分を除去することにより得られる易黒鉛化性炭素材料である。
【0027】
ピッチコークス粉の中では、X線回折装置(XRD)を使用して測定される「002面」の面間隔d002が0.338nm以上であるピッチコークス粉が好ましく、面間隔d002が0.343〜0.360nmの範囲にあるピッチコークス粉がより好ましい。
【0028】
さらに、前記ピッチコークス粉を構成する炭素の主要結晶面、即ちX線回折測定(XRD)で測定した際に検出される「002面」のピーク強度(A)と、「100面」及び「004面」のどちらかで他方よりも高いピークのピーク強度(B)との相対強度比α〔ピーク強度(A)/ピーク強度(B)〕の値が2.5以上27未満であることが好ましく、より好ましくは16以上26.5未満であり、最も好ましくは19以上26未満である。
【0029】
なお、コークス粉の「002面」の面間隔d002、及びピーク強度の相対強度比αはX線回折装置にて測定できる。
【0030】
面間隔d002は、「002面」に起因する26°付近の最大ピーク強度の回折角度θから、Braggの式d=λ/{2×Sin(θ/2)}より求めた。λは、使用したX線回折の線源CuのKα1の波長0.15405nmを用いた。
【0031】
ピーク強度の相対強度比αは、以下の手順で求めた。まず、コークス粉の回折角度10〜90°におけるX線回折図形を測定し、「002面」に起因する26°付近のX線回折ピークのピーク強度(A)、「100面」に起因する43°付近のX線回折ピークのピーク強度、及び「004面」に起因する54°付近のX線回折ピークのピーク強度をそれぞれ算出した。ここで、「100面」及び「004面」のうち、より高いピーク高さを有する測定面のピーク強度をピーク強度(B)とした。続いて、ピーク強度(A)のピーク強度(B)に対する相対強度比α〔ピーク強度(A)/ピーク強度(B)〕を計算した。このとき、ピーク強度の算出に際しては、回折ピーク左右の変曲点を結ぶ線をベースラインとして各ピークの頂点からグラフの横軸へ下ろした垂線のうち、ベースラインと垂線の交点から頂点までの長さ分の回折強度(cps)をピーク高さ(ピーク強度)とした。
【0032】
コークス粉の形状は、例えば、球状、楕円状、フレーク状、繊維状、樹枝状(デンドライト状)等が挙げられる。コークス粉としては、単一形状のコークス粉を用いてもよいし、異なる形状のコークス粉を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
コークス粉の体積平均粒子径(MV)は、導電性を向上させる観点から、1μm以上、好ましくは10μm以上である。また、コークス粉の体積平均粒子径は、成形性を向上させる観点から、500μm以下、好ましくは50μm以下である。なお、本明細書において、体積平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法により測定される体積で重みづけされた平均径をいう。
【0034】
導電性樹脂組成物におけるコークス粉の含有率は、導電性を向上させる観点から、1質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、さらに一層好ましくは30質量%以上である。また、前記コークス粉の含有率は、成形性を向上させる観点から、60質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0035】
図1(表1も参照)に示すように、導電材としてコークス粉(体積平均粒子径:25μm)を単独で用いる場合、十分な電磁波シールド性能(例えば45dB以上)を確保するためには、前記含有率60質量%超過のコークス粉をマトリクス樹脂(図1ではPP)に添加する必要がある。
【0036】
この理由としては、マトリクス樹脂中に分散しているコークス粉が相互に接触することで導電性機能が発現されるところ、コークス粉の含有量が大きくなる程、マトリクス樹脂中で隣り合うコークス粉同士が接触するようになる。その結果、導電性が向上すると考えられる。しかし、コークス粉の含有量を多くすると、マトリクス樹脂の流れ性が悪化し、混練機のシリンダーや金型の摩耗が大きくなる。そのため、成形性に劣るとともに、得られる電磁波シールド材の機械的特性も低下する。
【0037】
そこで、本願発明者らは前記の点について鋭意検討を行った結果、コークス粉に比較的少量の炭素繊維を組み合わせることにより、導電性が飛躍的に上昇するパーコレーション現象が生じることを見出した。
【0038】
炭素繊維(カーボンファイバー)は、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN系)、ピッチ系、セルロース系、炭化水素による気相成長系炭素繊維、黒鉛繊維等の一般に市販されている炭素繊維を使用できる。これら炭素繊維は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
炭素繊維の平均繊維長(重量平均繊維長)は、導電性を向上させる観点から、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上、より一層好ましくは2mm以上、さらに好ましくは3mm以上である。また、炭素繊維の平均繊維長は、成形性及び機械的特性を向上させる観点から、好ましくは25mm以下、より好ましくは10mm以下である。炭素繊維のなかでは、導電性をより一層向上させる観点から、2mm以上の平均繊維長を有する長繊維仕様の炭素繊維が好ましい。
【0040】
なお、本明細書において、平均繊維長とは、成形品中の繊維を100本以上抽出して測定された繊維長さの平均値をいう。繊維を取り出す方法としては、例えば灰化法等が挙げられる。
【0041】
炭素繊維の平均繊維径は、導電性を向上させる観点から、好ましくは3μm以上、より好ましくは6μm以上である。また、炭素繊維の平均繊維径は、成形性及び機械的特性を向上させる観点から、好ましくは12μm以下、より好ましくは10μm以下である。
【0042】
なお、本明細書において、平均繊維径とは、繊維束を構成するモノフィラメントのモノフィラメント直径を合計した値を、繊維束を構成するモノフィラメント数で除して平均化した平均直径をいう。モノフィラメント直径とは、モノフィラメントを繊維軸方向に垂直な方向にカットした際に得られる断面の最大径と最小径の平均値とする。なお、繊維の前記断面の形状は、特に限定するものではなく、真円でもよく、楕円でもよい。また、繊維の前記断面の外周は、凹凸がある波状形状でもよい。凹凸の高さは、モノフィラメント直径に対して10%以内程度であればよい。
【0043】
炭素繊維のアスペクト比は、導電性及び機械的特性を向上させる観点から、3以上、好ましくは70以上、より好ましくは100以上、より一層好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上である。また、炭素繊維のアスペクト比は、成形性を向上させる観点から、1700以下、好ましくは1000以下、より好ましくは600以下である。なお、本明細書において、アスペクト比とは、繊維の、長手方向(繊維軸方向)の長さの、長手方向と直交する短手方向の長さに対する比をいう。また、アスペクト比は、レーザー回折・散乱法により測定される値をいう。
【0044】
導電性樹脂組成物における炭素繊維の含有率は、導電性を向上させる観点から、0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上である。また、前記炭素繊維の含有率は、電磁波シールド材のコスト低減の観点から、10質量%以下、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0045】
図2(表1も参照)に示すように、炭素繊維を導電材として単独で用いる場合、十分な電磁波シールド性能(例えば45dB以上)を確保するためには、前記含有率7質量%以上の長繊維仕様の炭素繊維をマトリクス樹脂(図2ではPP)に添加する必要がある。しかし、炭素繊維の含有量を多くすると、マトリクス樹脂の流れ性が悪化し、混練機のシリンダーや金型の摩耗が大きくなるため、成形性に劣るとともに、得られる電磁波シールド材の機械的特性も低下する。さらに、電磁波シールド材のコストが高くなる。
【0046】
これに対し、図3(表1も参照)に示すように、所定の体積平均粒子径(図3では、25μm)を有するコークス粉と、所定のアスペクト比(図3では、570)を有する炭素繊維とを、所定の含有率(図3では、コークス粉:30質量%、炭素繊維:2質量%)で組み合わせることにより、前記炭素繊維の含有率が7質量%未満であっても、優れた電磁波シールド性能が発現される。
【0047】
この理由としては、前記したように、マトリクス樹脂中に分散されているコークス粉末及び炭素繊維のネットワークが形成されたことに基づくと考えられる。より具体的には、マトリクス樹脂中で互いに離れた状態のコークス粉間に炭素繊維が接触することにより、電気が通るパスが形成される。その結果、パーコレーション現象が生じて導電性が飛躍的に上昇したと考えられる。
【0048】
また、導電材として、コークス粉及び炭素繊維を組み合わせて用いるときの導電性樹脂組成物における両者の含有率の合計は、コークス粉及び炭素繊維をそれぞれ単独で用いるときの導電性樹脂組成物におけるコークス粉及び炭素繊維の各含有率の合計よりも低くなる。例えば45dB以上の電磁波シールド性能を確保する場合、コークス粉を単独で用いるときのコークス粉の含有率は60質量%である(図1参照)。炭素繊維を単独で用いるときの炭素繊維の含有率は7質量%である(図2参照)。コークス粉及び炭素繊維を組み合わせて用いるときの両者の含有率の合計は32質量%である(図3参照)。すなわち、コークス粉及び炭素繊維を組み合わせて用いるときの導電性樹脂組成物における両者の含有率の合計(32質量%)は、コークス粉及び炭素繊維をそれぞれ単独で用いるときの導電性樹脂組成物におけるコークス粉及び炭素繊維の各含有率の合計(67質量%)と比較して半分以下に低減される。これにより、電磁波シールド材の機械的特性を向上できるとともに、導電材の材料コストを低減できる。
【0049】
導電性樹脂組成物におけるコークス粉及び炭素繊維の含有率の合計は、導電性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、より一層好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。また、前記コークス粉及び炭素繊維の含有率の合計は、成形性及び機械的特性の向上、並びに電磁波シールド材のコスト低減の観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、より一層好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、さらに一層好ましくは35質量%以下である。
【0050】
なお、導電性樹脂組成物には、本開示の効果を阻害しない範囲で、コークス粉及び炭素繊維以外の他の導電材(任意成分)を添加してもよい。他の導電材としては、例えば、カーボンブラック;金属繊維;銅粉、銀粉、ニッケル粉、銀コ−ト銅粉、金コート銅粉、銀コートニッケル粉、金コートニッケル粉等の金属フィラー;金属被覆樹脂フィラー等が挙げられる。これら他の導電材は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。他の導電材の中では、カーボンブラックが好ましい。
【0051】
カーボンブラックとしては、その原料、製造法から、例えば、アセチレンブラック、ガスブラック、オイルブラック、ナフタリンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ロールブラック、ディスクブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。
【0052】
また、導電性樹脂組成物には、ガラス繊維(ガラスファイバー)を添加してもよい。ガラス繊維を添加することにより、電磁波シールド材の機械的特性及び導電性をさらに向上できる。
【0053】
本願発明者らは、ガラス繊維添加の影響について鋭意検討を行った結果、図4A及び図4B(表1も参照)に示すように、マトリクス樹脂に、コークス粉及び炭素繊維とともにガラス繊維を添加した導電性樹脂組成物は、ガラス繊維を含まない導電性樹脂組成物と比較して、電磁波シールド材の機械的特性のみならず、その導電性もさらに向上することを見出した。したがって、導電性樹脂組成物には、ガラス繊維が含有されていることが好ましい。なお、図4Aにおいて、例えば、「Coke21+CF2」(配合成分の略記)とは、コークス粉21質量%及び炭素繊維2質量%を含有する導電性樹脂組成物を示す(以下同じ)。
【0054】
この理由としては、図5B及び図6Bに示すように、ガラス繊維の添加により、コークス粉及び炭素繊維のネットワークがより密な構造になることが考えられる。なお、図5A及び図6Aに示される粒状物はコークス粉、線状物は炭素繊維を示す。図5B及び図6Bに示される粒状物はコークス粉、粒状物間に延びる細い線状物は炭素繊維、太くて長い線状物はガラス繊維を示す。
【0055】
より具体的には、ガラス繊維の添加により、導電性樹脂組成物の固形分(コークス粉、炭素繊維及びガラス繊維)量は、ガラス繊維が添加されていない導電性樹脂組成物の固形分(コークス粉及び炭素繊維)量よりも多くなる。そうすると、コークス粉同士、及びコークス粉と炭素繊維とがより一層接触し(繋がり)易くなるため、コークス粉及び炭素繊維のネットワークがより密な構造になる。このとき、コークス粉同士、及びコークス粉と炭素繊維との接触面積も大きくなる。その結果、形成されたパスが長く、太くなるため、導電性がさらに向上すると考えられる。
【0056】
ガラス繊維は、例えば、Eガラス、Sガラス等の一般に市販されているガラス繊維を使用できる。これらガラス繊維は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0057】
ガラス繊維の平均繊維長は、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上、さらに一層好ましくは1.5mm以上、さらに一層好ましくは2mm以上である。また、ガラス繊維の平均繊維長は、成形性を向上させる観点から、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である。なお、ガラス繊維のなかでは、電磁波シールド材の機械的特性及び導電性をより一層向上させる観点から、1.5mm以上の平均繊維長を有する長繊維仕様のガラス繊維が好ましい。
【0058】
ガラス繊維の平均繊維径は、電磁波シールド材の機械的特性を向上させる観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは12μm以上である。また、前記平均繊維径は、成形性を向上させる観点から、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0059】
ガラス繊維のアスペクト比は、機械的特性を向上させる観点から、好ましくは5以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。また、ガラス繊維のアスペクト比は、成形性を向上させる観点から、好ましくは700以下、より好ましくは250以下、さらに好ましくは150以下である。
【0060】
導電性樹脂組成物におけるガラス繊維の含有率は、電磁波シールド材の機械的特性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。また、前記ガラス繊維の含有率は、成形性を向上させる観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0061】
導電性樹脂組成物におけるコークス粉、炭素繊維及びガラス繊維の含有率の合計は、電磁波シールド材の機械的特性及び導電性を向上させる観点から、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、さらに一層好ましくは30質量%以上である。また、前記コークス粉、炭素繊維及びガラス繊維の含有率の合計は、成形性及び機械的特性の向上、並びに電磁波シールド材のコスト低減の観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下である。
【0062】
(導電性樹脂組成物の製造方法)
次に、導電性樹脂組成物の製造方法について説明する。マトリクス樹脂に、コークス粉、炭素繊維、及び必要に応じてガラス繊維や他の導電材等の各成分が含有されてなるペレットをマスターバッチとする。各成分が所望の配合比となるように混合したマスターバッチを混練押出機に投入する。混練押出機は、例えば2軸の押出機である。この混練押出機に投入した混合物を溶融混練させて、各成分をマトリクス樹脂内に均一に分散させることにより、導電性樹脂組成物が得られる。
【0063】
<電磁波シールド材>
(電磁波シールド材)
本実施形態に係る電磁波シールド材は、前記導電性樹脂組成物により成形される。この電磁波シールド材は、導電性樹脂組成物が用いられてなるため、優れた電磁波シールド性能及び優れた機械的特性を発現するとともに、低コスト化を実現し得る。
【0064】
電磁波シールド材は、例えば、バンパー等、車両の周囲(前方、側方、後方)に使用されるカバー材の他、レーダー関連品のカバー材等に好適に使用できる。なお、この電磁波シールド材は、車両の部材に限定されず、例えば、一般電子機器の筐体やロボットのボディ等、電磁波を遮蔽する必要がある部材にも好適に使用できる。
【0065】
(電磁波シールド材の製造方法)
電磁波シールド材の製造方法は、特に限定されず、一般に使用される加熱、加圧プレス等の成形方法により、所望の形状を有する電磁波シールド材を得ることができる。例えば、射出成形の場合、前記で溶融混練された溶融材料(導電性樹脂組成物)を金型内に射出して、冷却することにより、電磁波シールド材を製造する。なお、成形方法は、特に限定されず、前記した射出成形の他、例えば、押出成形、真空成形、圧縮成形、オートクレーブ成形、樹脂トランスファー成形(RTM)等でもよい。
【0066】
<効果>
本実施形態に係る導電性樹脂組成物によれば、導電材としてコークス粉とともに炭素繊維とが併用されているため、マトリクス樹脂中にコークス粉及び炭素繊維のネットワークが形成され、電気が通るパスが形成される。これにより、優れた電磁波シールド性能を有する電磁波シールド材を成形できる。また、マトリクス樹脂中にコークス粉及び炭素繊維のネットワークが形成されることにより、電磁波シールド材の機械的特性も向上する。さらに、コークス粉及び炭素繊維は比較的少量で用いられているため、材料コストが低減され、低コストの電磁波シールド材を得ることができる。
【0067】
また、コークス粉及び炭素繊維にさらにガラス繊維を組み合わせることで、機械的特性のみならず、導電性がさらに向上した電磁波シールド材が得られる。
【実施例】
【0068】
以下に、本開示を実施例に基づいて説明する。なお、本開示は、以下の実施例に限定されるものではなく、以下の実施例を本開示の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本開示の範囲から除外するものではない。
【0069】
<導電性樹脂組成物及び電磁波シールド材の製造>
マトリクス樹脂として、プライムポリプロ製のポリプロピレン(PP)(品番:J106B)を用いた。コークス粉として、シーケム製ピッチコークス(品番:LPC−U)の微粉砕物(体積平均粒子径:25μm、面間隔d002:0.350nm、ピーク強度の相対強度比α:25.9)を用いた。炭素繊維として、ダイセルポリマー製プラストロン(炭素繊維40%配合PP)を使用し、成形条件によって、長繊維仕様(平均繊維長:4mm、平均繊維径:7μm、アスペクト比:約570)、及び短繊維仕様(平均繊維長:0.9mm、平均繊維径:7μm、アスペクト比:約130)を作製した。ガラス繊維として、日本ポリプロ製ファンクスター(ガラス繊維40%配合PP)を使用し、成形条件によって、長繊維仕様(平均繊維長:2mm、平均繊維径:18μm、アスペクト比:約110)、及び短繊維仕様(平均繊維長:1mm、平均繊維径18μm、アスペクト比:約56)を作製した。
【0070】
ポリプロピレンに、ピッチコークス粉及び炭素繊維、必要に応じてガラス繊維等の各成分が表1に示す各含有率で含有されてなるペレットをマスターバッチとして調製した。このマスターバッチを混練押出機に投入し、溶融混練させた。上記各成分をマトリクス樹脂内に均一に分散させることにより、溶融混練された溶融材料(導電性樹脂組成物)を得た。
【0071】
続いて、前記で得られた導電性樹脂組成物を射出成形装置に投入し、1点ダイレクトゲートの金型(360mm×250mm×3mm)へ射出して試験用樹脂板(電磁波シールド材)を作製した。試験用樹脂板の厚みは3mmとした。成形条件は、樹脂温度240℃、金型温度60℃、スクリュー回転数80rpm(スクリューはダブルフライトスクリュー) 、背圧10MPa、射出速度40mm/s、保圧40MPa×4secとした。
【0072】
<基礎物性(機械的特性)の評価>
前記で得られた試験用樹脂板を用いて、電磁波シールド材の基礎物性及び電磁波シールド性能を以下の方法により評価した。その結果を表1に示す。
【0073】
(比重)
JIS K 7112のA法に準拠して比重を測定した。試験機として、水中置換式試験機であるMIRAGE製試験機品番:ED−120Tを用いた。測定は水温23℃にて測定した。
【0074】
(引張降伏応力及び引張破断歪み)
JIS K 7161に準拠して引張試験を行い、引張降伏応力及び引張破断歪みを測定した。試験機として、精密万能試験機(オートグラフAG−5kNX、(株)島津製作所製)を用いた。なお、測定に際しては、変位速度を5mm/minとし、チャック間距離12.5cmで、23℃、50RH%の環境下にて実施した。
【0075】
(曲げ強度及び曲げ弾性率)
JIS K 7171に準拠して三点曲げ試験を行い、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。試験機として、精密万能試験機(オートグラフAG−5kNX、(株)島津製作所製)を用いた。なお、測定に際しては、変位速度を2mm/minとし、23℃、50RH%の環境下にて実施した。
【0076】
(シャルピー強度)
JIS K 7111に準拠してシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー強度を測定した。試験機として、東洋精機製シャルピー試験機を用い、ハンマーは1Jハンマーを用いて、タイプAノッチ付き試験片での測定を行った。測定は23℃、50RH%の環境下にて実施した。
【0077】
<電磁波シールド性能の評価>
前記で得られた試験用樹脂板の電界シールド効果を、一般社団法人KEC関西電子工業振興センターで開発された電磁波シールド効果測定装置を用いたKEC法により評価した。周波数1.7MHzの電磁波を用いた。測定は、温度25℃、相対湿度30〜50%の雰囲気で行った。
【0078】
【表1】
【0079】
<その他>
導電性樹脂組成物の性能指標に対する電磁波シールド性能を図7に示す。なお、性能指標とは、GF30を基準(100%)とする機械的特性の性能を示す指数をいう。この性能指数は、以下の式により算出される値である。
【0080】
性能指標=[(TM/TMGF30)+(TS/TSGF30)+(TE/TEGF30)]/3×100 (式)
【0081】
前記式中、TM、TS及びTEは、それぞれ、各試験用樹脂板の引張弾性率、引張降伏応力及び引張破断歪みを示す。また、TMGF30、TSGF30及びTEGF30は、それぞれ、GF30の引張弾性率、引張降伏応力及び引張破断歪みを示す。
【0082】
また、導電性樹脂組成物のコスト比率を図8に示す。コスト比率は、GF30の材料コストを基準(100%)として評価した。
【0083】
<まとめ>
図7に示された結果から、実施例1(Coke30+CF2)は、電磁波シールド性能が同等に優れる比較例3(Coke50)及び比較例4(Coke60)と対比して、導電性樹脂組成物における導電材の含有率(合計)が少ないため、機械的特性にも優れることが分かる。
【0084】
図8に示された結果から、実施例1(Coke30+CF2)は、電磁波シールド性能が同等に優れる比較例7(CF10)と対比して、導電性樹脂組成物における炭素繊維の含有率が少ない(3分の1以下)ため、コスト比率が2分の1以下に低くなることが分かる。
【0085】
したがって、実施例1の導電性樹脂組成物は、導電材としてコークス粉と炭素繊維とを所定の含有率でそれぞれ含有するため、優れた電磁波シールド性能を有する電磁波シールド材を成形できる。また、実施例1の導電性樹脂組成物は、マトリクス樹脂中にコークス粉及び炭素繊維のネットワークが形成されるため、優れた機械的特性を有する電磁波シールド材を成形できる。さらに、実施例1の導電性樹脂組成物は、コークス粉及び炭素繊維を比較的少量で含有するため、低コスト化が実現された電磁波シールド材を成形できる。
【0086】
また、図7に示された結果から、実施例4(Coke30+CF2+GF18(L))は、実施例1(Coke30+CF2)と対比して、さらにガラス繊維を含有するため、機械的特性により一層優れるのみならず、電磁波シールド性能が飛躍的に向上することが分かる。
【0087】
図8に示された結果から、実施例4(Coke30+CF2+GF18(L))は、実施例1(Coke30+CF2)と対比して、コスト比率が同等であることが分かる。なお、実施例4と同様に、ガラス繊維を含有する実施例2及び3(表1参照)のコスト比率も、実施例4と同等である。
【0088】
したがって、実施例2〜4の各導電性樹脂組成物は、コークス粉及び炭素繊維と、さらにガラス繊維とを所定の含有率でそれぞれ含有するため、より一層優れた機械的特性及び電磁波シールド性能を有し、且つ低コストが実現された電磁波シールド材を成形できる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明したように、本開示に係る導電性樹脂組成物は、電磁波シールド材等の成形材料として有用である。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8