(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-161242(P2021-161242A)
(43)【公開日】2021年10月11日
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、及びそれを用いたトウプリプレグ
(51)【国際特許分類】
C08G 59/22 20060101AFI20210913BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20210913BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20210913BHJP
C08K 5/31 20060101ALI20210913BHJP
C08K 5/315 20060101ALI20210913BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20210913BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20210913BHJP
【FI】
C08G59/22
C08G59/40
C08L63/00 C
C08K5/31
C08K5/315
C08K3/013
C08J5/24CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-64144(P2020-64144)
(22)【出願日】2020年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】谷口 裕一
(72)【発明者】
【氏名】三宅 力
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD25
4F072AD28
4F072AE01
4F072AF30
4F072AF31
4F072AG03
4F072AH02
4F072AH19
4F072AJ22
4F072AK11
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL17
4J002BN00Y
4J002CD01X
4J002CD05W
4J002CL06Z
4J002DA018
4J002DK008
4J002DL008
4J002ER026
4J002ET017
4J002FA048
4J002FA04Z
4J002FD018
4J002FD01Y
4J002FD01Z
4J002FD146
4J002FD147
4J002GC00
4J002GF00
4J002GL00
4J002GN00
4J036AD01
4J036AD08
4J036AJ01
4J036AJ05
4J036DC25
4J036DC31
4J036FB00
4J036HA12
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】強化繊維への良好な含浸性を有する粘度であり、かつ硬化して得られる成形物の靱性が高く、吸湿環境下においても硬化物の吸水率が小さく、繊維強化複合材料のマトリクス樹脂として好適に使用される硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)、脂肪族エポキシ樹脂(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物(D)を必須成分とする硬化性樹脂組成物であって、硬化性樹脂組成物中に含まれるエポキシ基のモル数に対する、(C)成分に含まれる活性水素基のモル数の比(H/E)が0.25〜0.50であり、脂肪族エポキシ樹脂(B)の配合量が(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の合計100質量部に対し3〜15質量部であり、かつE型粘度計により測定した25℃における粘度が4〜32Pa・sの範囲である硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)、分子内に平均して2つ以上のエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物(D)を必須成分とする硬化性樹脂組成物であって、硬化性樹脂組成物中に含まれるエポキシ基のモル数に対する、(C)成分に含まれる活性水素基のモル数の比(H/E)が0.25〜0.50であり、脂肪族エポキシ樹脂(B)の配合量が(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の合計100質量部に対し3〜15質量部であり、かつE型粘度計により測定した25℃における粘度が4〜32Pa・sの範囲であることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
分子内に平均して2つ以上のエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂(B)が、エポキシ当量100〜250g/eqのグリセロール、トリメチロールプロパン、またはペンタエリスリトールから選択される多価ヒドロキシ化合物由来の構造を有し、かつE型粘度計により測定した25℃における粘度が1000mPa・s以下のエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)、分子内に平均して2つ以上のエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物(D)に加えて、コアシェルゴム粒子(E)を含み、コアシェルゴム粒子(E)の配合量が(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分の合計100質量部に対し、1〜6質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物に、体積含有率が48〜72%となるように強化繊維を配合してなることを特徴とするトウプリプレグ。
【請求項5】
請求項4に記載のトウプリプレグをフィラメントワインディング成形法で成形して得られる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化時に高い破壊靱性、耐熱性、低吸水率が得られるエポキシ樹脂組成物と、それを用いたトウプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料はガラス繊維、アラミド繊維や炭素繊維等の強化繊維と、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂等の熱硬化性マトリクス樹脂から構成され、軽量かつ、強度、耐食性や耐疲労性等の機械物性に優れることから、航空機、自動車、土木建築およびスポーツ用品等の構造材料として幅広く適応されている。
【0003】
繊維強化複合材料の製造方法には、熱硬化性のマトリクス樹脂が予め強化繊維へ含浸されたプリプレグを用いるオートクレーブ成形法、プレス成形法や、強化繊維へ液状のマトリクス樹脂を含浸させる工程と熱硬化による成形工程を含む、ウェットレイアップ成形法、引き抜き成形法、フィラメントワインディング成形法、RTM法等の手法がある。
【0004】
フィラメントワインディング成形法の一つに、強化繊維へあらかじめ樹脂が含浸されたトウプリプレグを用いるドライ法が挙げられる。ドライ法は巻き付け速度の短時間化や樹脂比率の安定性に優れることから、繊維強化複合材料の高生産性と品質安定化に優位性があり、特に高圧ガスタンクの製造法の一つとして適用されている。
【0005】
ドライ法ではトウプリプレグ品質を高めるべく、用いられるマトリクス樹脂には安定した含浸性と巻き付け時のハンドリング性を確保するため、好ましい粘度の範囲にあり粘度の増加率が小さいマトリクス樹脂が用いられる。また、硬化後の成形体には繊維強化複合材料の耐衝撃性と耐疲労性を高めるべく破壊靱性値が高いことや耐熱性が高いこと、加えて長期信頼性の点から吸水率が低いことが望まれる。
【0006】
マトリクス樹脂を低粘度化させる手法として脂肪族エポキシ樹脂を使用することは特許文献1や特許文献2に記されている。しかし、これらの手法では耐熱性が低下する。よって、低粘度化と耐熱性を両立させるためには、脂肪族エポキシ樹脂以外の成分にも着目する必要がある。
【0007】
マトリクス樹脂の耐熱性を高める手法は様々あり、多官能エポキシ樹脂の使用や高い架橋密度が得られる硬化剤の使用等が挙げられる(特許文献3、4)。しかし、これらの手法ではガラス転移温度(Tg)を高められるものの、樹脂粘度の増大や架橋密度が高いことに由来して靭性が低下する。
【0008】
マトリクス樹脂が硬化することによって得られる繊維強化複合材料は長期使用において徐々に吸水し、強度やガラス転移温度が低下する。架橋密度を高めることで初期のガラス転移温度を向上させられるが、エポキシ樹脂が開環して生じた架橋部位には水酸基が存在しており、吸水率が高くなりガラス転移温度が低下する。吸水率を低くするためには架橋密度を高め過ぎてはならない。
【0009】
成形物の吸水率を低下させるためには、構造中に含まれる水酸基の量を減らすことが重要であり、エポキシ樹脂のエポキシ基と硬化剤の活性水素基が反応により生成される水酸基の量を低減させる、すなわち架橋密度を低下させることが有効な手法の一つである。
【0010】
しかしながら架橋密度を低下させると硬化物のガラス転移温度低下に伴う耐熱性の低下を招くため、架橋密度が低い際にも耐熱性を高められる手法が望まれている。
【0011】
繊維強化複合材料のマトリクス樹脂に関し、多官能のエポキシ樹脂や硬化剤を用いることで成形物の耐熱性を向上させる試みが成されているものの、加えて低粘度、低吸水率を達成させられる手法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−302507号公報
【特許文献2】特開2019−189750号公報
【特許文献3】特表2019−526650号公報
【特許文献4】特開2013−159618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、低粘度であり強化繊維への含浸性に優れ、硬化して得られる成形物の耐熱性が高くかつ吸水率が低いため、長期信頼性に優れた繊維強化複合材料を得ることができるトウプリプレグ用のマトリクス樹脂として使用される樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは前述の課題を解決するため検討を行った結果、特定の脂肪族エポキシ樹脂と用いる硬化剤の当量比に着目し、低粘度であり、かつ成形物に高い耐熱性と低い吸水率を与える樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち本発明は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)、分子内に平均して2つ以上のエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物(D)を必須成分とする硬化性樹脂組成物であって、硬化性樹脂組成物であって、硬化性樹脂組成物中に含まれるエポキシ基のモル数に対する、(C)成分に含まれる活性水素基のモル数の比(H/E)が0.25〜0.50であり、脂肪族エポキシ樹脂(B)の配合量が(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の合計100質量部に対し3〜15質量部であり、かつE型粘度計により測定した25℃における粘度が4〜32Pa・sPa・sの範囲であることを特徴とする硬化性樹脂組成物である。
【0016】
上記分子内に平均して2つ以上のエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂(B)が、エポキシ当量100〜250g/eqのグリセロール、トリメチロールプロパン、またはペンタエリスリトールから選択される多価ヒドロキシ化合物由来の構造を有し、かつE型粘度計により測定した25℃における粘度が1000mPa・s以下のエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0017】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)、分子内に平均して2つ以上のエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物(D)に加えて、コアシェルゴム粒子(E)を含み、コアシェルゴム粒子(E)の配合量が(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分の合計100質量部に対し、1〜6質量部であることが好ましい。
【0018】
本発明における好ましいトウプリプレグの形態は、体積含有率が48〜72%の割合にて強化繊維を配合していることである。
【0019】
本発明の他の形態は、上記の樹脂組成物に強化繊維を配合したトウプリプレグをフィラメントワインディング成形法で成形して得られる繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の硬化性樹脂組成物は、低粘度であり強化繊維への含浸性に優れ、これを使用したトウプリプレグを硬化させて得られる成形物が高い破壊靱性と耐熱性、低い吸水率を示し、特にフィラメントワインディング成形法によって得られる繊維強化複合材料に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の硬化性樹脂組成物は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)、分子内に平均して2つ以上のエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物(D)を必須成分とする。以下、ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)、脂肪族エポキシ樹脂(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)を、それぞれ(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分ともいう。
【0022】
本発明では硬化性樹脂組成物中に含まれるエポキシ基のモル数に対する、(C)成分に含まれる活性水素基のモル数の比(H/E)が0.25〜0.50である。H/Eが0.25未満であると架橋が疎になり、Tgが低くて脆い硬化物となる。H/Eが0.50を超えると架橋が密になるため水酸基の量が多くなり吸水率の高く長期信頼性に劣る硬化物となる。
【0023】
本発明では硬化性樹脂組成物中に含まれる脂肪族エポキシ樹脂(B)の配合量が(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の合計100質量部に対し3〜15質量部である。(B)成分が3質量部未満であると耐熱性の向上が見られず、(B)成分が15質量部を超えると硬化物の靭性が低下する。
【0024】
本発明の硬化性樹脂組成物はE型粘度計により測定した25℃における粘度が4〜40Pa・sの範囲であり、好ましくは5〜25Pa・sの範囲である。この範囲内であると強化繊維への含浸性が良好であり、かつ成型後に得られる繊維強化複合材料の外観が良好になる。
【0025】
本発明では硬化性樹脂組成物中に含まれる分子内に平均して2つ以上のエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂(B)が、エポキシ当量100〜250g/eqであって、グリセロール、トリメチロールプロパン、またはペンタエリスリトールから選択される多価ヒドロキシ化合物由来の構造を有し、かつE型粘度計により測定した25℃における粘度が1000mPa・s以下のエポキシ樹脂であると、耐熱性を高めながら硬化性樹脂組成物の粘度を低下させられるため好ましい。
【0026】
本発明の硬化性樹脂組成物では、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の合計100質量部に対し20質量部未満であれば、ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)または分子内に平均して2つ以上のエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂(B)以外のエポキシ樹脂を含んでいても良い。
【0027】
(A)成分、(B)成分以外、他のエポキシ樹脂としては、例えば1分子中に2つ以上のエポキシ基を有する、ビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレ−ト、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1−エポキシエチル−3,4−エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル類、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミン等のグリシジルアミン類等を用いることができる。これらのエポキシ樹脂は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明の樹脂組成物中にはビスフェノール型エポキシ樹脂(A)、分子内に平均して2つ以上のエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物(D)に加えて、コアシェルゴム粒子(E)を含んでいても良く、コアシェルゴム粒子(E)の配合量が(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分の合計100質量部に対し、1〜6質量部であることが良い。この範囲内であれば硬化物の弾性率を落とすこと無く、破壊靱性を高められ強度に優れた繊維強化複合材料が得られる。
【0029】
コアシェル型ゴム粒子(E)は、コア部と、コア部の外層を形成するシェル部より構成される。コア部はエラストマーまたはゴム状のポリマーを主成分とするポリマーからなることが好ましく、シェル部はコア部にグラフト重合されたポリマーからなることが好ましい。コアシェル型ゴム粒子の添加には、靱性の向上やプリプレグのタック性の改善効果があり、平均粒子径が体積平均粒子径で1〜500nmであることが好ましく、30〜300nmであればさらに好ましい。
【0030】
本発明の樹脂組成物には、硬化剤としてジシアンジアミドまたはその誘導体(C)が用いられる。ジシアンジアミドは常温で固体の硬化剤であり、室温ではエポキシ樹脂にほとんど溶解しないが、180℃以上まで加熱すると溶解しエポキシ基と反応する室温での保存安定性に優れた潜在性硬化剤である。また、その誘導体としては、特開平11−119429号公報に記載のN‐ヘキシルジシアンジアミドのようなN−置換ジシアンジアミド誘導体等を使用することが出来る。
【0031】
本発明の硬化性樹脂組成物中に含まれるシアンジアミドまたはその誘導体(C)の使用量は、(A)成分及び(B)成分を含む全エポキシ樹脂のエポキシ基のモル数[E]に対する、(C)成分に含まれる活性水素基のモル数[H]の比(H/E)が0.25〜0.50であり、より好ましくは0.30〜0.40当量である。H/Eが0.25未満であると架橋が疎になり、Tgが低くなる。H/Eが0.50を超えると架橋が密になって硬化物が脆くなる。別の観点では硬化性樹脂組成物100重量部に対して、(C)成分の使用量は2.0〜6.0重量部の範囲が好ましい。
【0032】
固形の芳香族ウレア化合物(D)としては、硬化促進剤として作用し、混合時での強化繊維への含浸性に加え、硬化時における耐熱性をより満足させるものが好ましい。
固形の芳香族ウレア化合物としては例えば、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、1,1’−(4−メチル−1,3−フェニレン)ビス(3,3−ジメチルウレア)、N−フェニル−N’,N’−ジメチルウレア、N−(4−クロロフェニル)−N’,N’−ジメチルウレア、N−(3,4−ジクロロフェニル)−N’,N’−ジメチルウレア、N−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−N’,N’−ジメチルウレア、N−(3−クロロ−4−エチルフェニル)−N’,N’−ジメチルウレア、N−(3−クロロ−4−メトキシフェニル)−N’,N’−ジメチルウレア、N−(4−メチル−3−ニトロフェニル)−N’,N’−ジメチルウレア、2,4−ビス(N’,N’−ジメチルウレイド)トルエン、メチレン−ビス(p−N’,N’−ジメチルウレイドフェニル)等を挙げることができ、この中でも3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、1,1’−(4−メチル−1,3−フェニレン)ビス(3,3−ジメチルウレア)が好ましい。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、化学的に安定で、かつ、常温ではエポキシ樹脂に溶解しないものであれば上記に限定されるものではない。
固形の芳香族ウレア化合物(D)の使用量は、硬化性樹脂組成物100重量部に対して0.01〜7重量部が好ましい。より好ましくは、1〜5重量部である。7重量部を超える場合、粉末成分が多くなるため、ボイドが多くなり易くなる問題が生じる。0.01重量部未満の場合、速硬化性を実現できない問題が生じる。
【0033】
本発明の硬化性樹脂組成物には、添加剤として表面平滑性を向上させる目的で消泡剤、レベリング剤を添加することが可能である。これら添加剤は、樹脂組成物100質量部に対して、0.01〜3質量部、好ましくは0.01〜1質量部を配合することができる。
【0034】
本発明の硬化性樹脂組成物は、上記の(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、及び必要に応じてその他の成分を均一に混合することにより製造される。得られた樹脂組成物は、25℃におけるE型粘度計コーンプレートタイプを使用して測定した粘度が4〜32Pa・sの範囲である。この範囲内であると強化繊維への含浸性が良好であり、かつ成型後に得られる繊維強化複合材料の外観が良好になり空隙も少ない繊維強化複合材料が得られる。
【0035】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、更に他の硬化性樹脂を配合することもできる。このような硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、硬化性アクリル樹脂、硬化性アミノ樹脂、硬化性メラミン樹脂、硬化性ウレア樹脂、硬化性シアネートエステル樹脂、硬化性ウレタン樹脂、硬化性オキセタン樹脂、硬化性エポキシ/オキセタン複合樹脂等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0036】
本発明の硬化性樹脂組成物には、カップリング剤や、カーボン粒子や金属めっき有機粒子等の導電性粒子、熱硬化性樹脂粒子、あるいはシリカゲル、ナノシリカ、アルミナファイバーやクレー等の無機フィラーや、導電性フィラーを配合することができる。導電性粒子や導電性フィラーを用いることにより得られる樹脂硬化物や繊維強化複合材料の導電性を向上させられる。
【0037】
導電性フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、金属ナノ粒子などが挙げられ、単独で使用しても併用してもよい。この中で特にカーボンナノチューブの配合は導電性を向上させるだけで無く、繊維強化複合材料に対して1wt%未満の配合量でも繊維強化複合材料の衝撃強度を高められるという点で広く知られており、好適に用いることができる。
【0038】
本発明の硬化性樹脂組成物は、強化用繊維又は束に含浸されてトウプリプレグとされる。トウプリプレグとする方法は公知の方法でよい。このようにして得られるトウプリプレグは、フィラメントワインディング成形法によって得られる繊維強化複合材料に好適に用いられる。
【0039】
本発明の硬化性樹脂組成物を、トウプリプレグへ加工し、繊維強化複合材料を作製する方法は特に限定されないが、フィラメントワインディング法による圧力容器の製造方法として望ましく適用される。金属製または樹脂製のライナーにトウプリプレグを巻きつけた後に熱硬化させることで、ライナーを被覆するよう繊維強化複合材料の層が形成された成形品が得られる。この後、必要に応じてライナーを除去しても良い。また、フィラメントワインディング法による円注状の中空な繊維強化複合材料、例えばシャフトやロール形状の成形体の製造方法として望ましく適用される。金属製または樹脂製のマンドレルにトウプリプレグを巻き付けて加熱成形することで成形品が得られ、用途に応じてマンドレルを除去しても良い。
【0040】
本発明のトウプリプレグに用いられる強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等から選ばれるが、強度に優れた繊維強化複合材料を得るためには炭素繊維を使用するのが好ましい。
【0041】
本発明の硬化性樹脂組成物と強化繊維より構成されたトウプリプレグにおける、強化繊維の体積含有率は48〜72%であると良く、より好ましくは55〜68%の範囲であると、空隙が少なく、かつ強化繊維の体積含有率が高い成形体が得られるため、優れた強度の成形材料が得られる。
【0042】
本発明においては、トウプリプレグ用硬化性樹脂組成物を160℃の温度下で1時間かけて硬化させた硬化物について、JIS K7171に準じて測定された曲げ弾性率が2.0GPa以上、かつ、JIS K7121に準じて測定されたガラス転移温度(Tg)が120℃以上を示すことがより好ましい。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。配合量を示す部は、特に断りがない限り質量部である。またエポキシ当量の単位はg/eqである。
【0044】
合成例、実施例で使用した各成分の略号は下記の通りである。
(A)成分
YD−128:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量187(日鉄ケミカル&マテリアル製)
YDF−170:ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量170(日鉄ケミカル&マテリアル製)
(B)成分
YH−300:トリメチロールプロパンのグリシジルエーテル、エポキシ当量144、粘度149mPa・s、平均エポキシ基数:2.2(日鉄ケミカル&マテリアル製)
EX−411:ペンタエリスリトールのグリシジルエーテル、エポキシ当量227、粘度819mPa・s、平均エポキシ基数:2.9(ナガセケムテックス社製)
(B’)成分
PG−207:ポリプロピレングリコールのグリシジルエーテル、エポキシ当量298、粘度44mPa・s(日鉄ケミカル&マテリアル製)、平均エポキシ基数:1.7
EX−211:ネオペンチルグリコールのグリシジルエーテル、エポキシ当量140、粘度22mPa・s(ナガセケムテックス社製)、平均エポキシ基数:1.8
(C)成分
DICY:ジシアンジアミド、活性水素基当量21g/eq
(D)成分
DCMU:3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア
TDU:1,1’−(4−メチル−1,3−フェニレン)ビス(3,3−ジメチル尿素ウレア)
その他成分
MX−154:コアシェル型ゴム粒子を40wt%含有するビスフェノールA型エポキシ樹脂(カネカ社製)、エポキシ当量297
(A)成分
CSR−MX:MX−154中のコアシェル型ゴム粒子成分
(E)成分
EP−MX:MX−154中のビスフェノールA型エポキシ樹脂成分、エポキシ当量187
【0045】
実施例1
(A)成分としてYD−128を85部、(B)成分としてYH−300を9部、(C)成分としてDICYを3.2部、(D)成分としてTDUを2.9部、150mLのポリ容器へ入れ、真空ミキサー「あわとり練太郎」(シンキー社製)を用いて、室温下で5分間攪拌しながら混合し、硬化性樹脂組成物を得た。
【0046】
(粘度の測定)
25℃における粘度の値は、E型粘度計コーンプレートタイプを用いて測定した。硬化性樹脂組成物を調整し、その内0.8mLを測定に用い、測定開始から60秒経過後の値を粘度の値とした。
【0047】
(ガラス転移温度、破壊靱性、吸水率測定用成形板の作製)
硬化性樹脂組成物を、平板形状にくり抜かれた4mm厚のスペーサーを設けた縦60mm×横240mmの金型へ流し込み、160℃で2時間硬化させて測定用成形板とし、後述するガラス転移温度、機械的物性、吸水率の測定に用いた。
【0048】
(ガラス転移温度の測定)
得られた成形板を卓上バンドソーにより3mm×3mmの大きさに切削し、さらにベルトディスクサンダーを用いておよそ1.0mmの厚さまで研磨加工した。示差走査熱量計を用い、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分の条件で測定し、DSC曲線の変曲点での接線と、変曲の開始が見られる温度、すなわち変曲点から20〜30℃低い温度領域における接線との交点をガラス転移温度Tgとした。
【0049】
(曲げ弾性率と曲げ強度の測定)
得られた成形板を卓上バンドソーにより80mm×10mmの大きさに切削し、曲げ試験片をJIS7171に準拠する手法にて23℃の温度条件で曲げ試験を行い、曲げ弾性率と曲げ強度を算出した。
【0050】
(破壊靱性の測定)
得られた成形板を卓上バンドソーにより80mm×10mmの大きさに切削し、
ASTM5045に準拠した試験片に加工した上で23℃の温度条件にて破壊靱性試験を行い、破壊靱性値を算出した。
【0051】
(吸水率の測定)
得られた成形板を卓上バンドソーにより40mm×10mmの大きさに切削し、吸水試験前の重量を測定し、初期重量とした。次に恒温恒湿器SH−641(エスペック社製)内にて85℃−85%RHの条件で240h静置することで試験片に吸水させた。その後、試験片を取り出し23℃−50%RHの条件で88h以上試験片を静置させてから重量を測定し、吸水後重量とした。下記式により吸水率を算出した。
吸水率(%)=(吸水後重量−初期重量)/初期重量×100
【0052】
実施例2〜10、比較例1〜7
(A)〜(E)成分として表1および表2に記載された組成にて各原料を使用した以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を作製した。
この硬化性樹脂組成物を使用して、実施例1と同様にしてガラス転移温度、機械的物性、吸水率を測定した。
【0053】
試験の結果をそれぞれ表1、及び表2に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】