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特開2021-161411シラン系塗料組成物の製造方法および積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-161411(P2021-161411A)
(43)【公開日】2021年10月11日
(54)【発明の名称】シラン系塗料組成物の製造方法および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20210913BHJP
   C09D 183/06 20060101ALI20210913BHJP
   C09D 7/48 20180101ALI20210913BHJP
   C09D 7/47 20180101ALI20210913BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20210913BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20210913BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210913BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20210913BHJP
【FI】
   C09D183/04
   C09D183/06
   C09D7/48
   C09D7/47
   C09D7/61
   B32B27/00 101
   B05D7/24 302Y
   B05D5/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2021-57587(P2021-57587)
(22)【出願日】2021年3月30日
(31)【優先権主張番号】特願2020-63949(P2020-63949)
(32)【優先日】2020年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】大下 浄治
(72)【発明者】
【氏名】塚田 学
(72)【発明者】
【氏名】濱田 崇
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲爾
(72)【発明者】
【氏名】桂 大詞
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB26Z
4D075BB42Z
4D075BB54Z
4D075CA02
4D075CA39
4D075CA40
4D075CA48
4D075CB06
4D075DC13
4D075EB42
4D075EC30
4F100AG00B
4F100AK52A
4F100AT00B
4F100CA06A
4F100CA07A
4F100CA18A
4F100DE00A
4F100EC04
4F100EH46A
4F100EH66A
4F100EJ08A
4F100EJ42A
4F100EJ54A
4F100EJ60A
4F100GB31A
4F100JB07A
4F100JD15A
4F100JK07B
4F100JK09A
4F100JL07
4F100JN01
4F100JN06
4F100YY00A
4J038DL051
4J038DL081
4J038JA19
4J038JC35
4J038KA04
4J038MA08
4J038MA09
4J038MA16
4J038NA06
4J038NA07
4J038PA17
4J038PA19
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】塗料組成物の沈殿や吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止しつつ、吸湿性および耐傷付性の両方に十分に優れた吸湿膜を製造することができる、シラン系塗料組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】不活性気体雰囲気および温度10℃以下の環境にて、シラン溶液を調製した後、加熱してシラン縮合物を形成する、シラン系塗料組成物の製造方法であって、前記シラン溶液は、ハンセン溶解度パラメーターに関するδPおよびδHが以下の関係式を満たす親水基含有炭化水素基を有するシランおよび/またはその誘導体を含む、シラン系塗料組成物の製造方法:3≦δP≦15;および3≦δH≦40。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性気体雰囲気および温度10℃以下の環境にて、シラン溶液を調製した後、加熱してシラン縮合物を形成する、シラン系塗料組成物の製造方法であって、
前記シラン溶液は、ハンセン溶解度パラメーターに関するδPおよびδHが以下の関係式を満たす親水基含有炭化水素基を有するシランおよび/またはその誘導体を含む、シラン系塗料組成物の製造方法:
3≦δP≦15;および
3≦δH≦40。
【請求項2】
前記シラン溶液の調製工程において、シランおよび有機溶媒を含む混合物を前記環境にて撹拌した後、少なくとも水を添加し、前記環境にて混合および撹拌する、請求項1に記載のシラン系塗料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記シラン溶液において、
前記有機溶媒の配合量は、シラン1モルに対して、1〜100モルであり、
前記水の配合量は、シラン1モルに対して、0.1〜10モルである、請求項2に記載のシラン系塗料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記不活性気体雰囲気は、露点が5℃以下である気体の雰囲気である、請求項1〜3のいずれかに記載のシラン系塗料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記不活性気体雰囲気は、フロー方式または非フロー方式の不活性気体雰囲気である、請求項1〜4のいずれかに記載のシラン系塗料組成物の製造方法。
【請求項6】
前記不活性気体は、窒素、二酸化炭素、希ガスおよび空気からなる群から選択される1種以上の気体である、請求項1〜5のいずれかに記載のシラン系塗料組成物の製造方法。
【請求項7】
前記シラン溶液は、下記一般式(Ia):
【化1】
[式(Ia)中、Rは、下記一般式(i)〜(iv)で表される前記親水基含有炭化水素基からなる群から選択される1価の有機基である;
は1価の炭化水素基である;
101は水素原子または1価の炭化水素基である;
aは1または2の整数である;
bは0〜2の整数である;
aとbとの和は3以下の整数である]
で表されるシラン(Ia)を含む、請求項1〜6のいずれかに記載のシラン系塗料組成物の製造方法:
【化2】
[式(i)〜(iv)中、R11、R12、R21およびR42は、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される1価の親水基である;
31およびR41は、それぞれ独立して、イミノ基、ケトン基、およびエーテル基からなる群から選択される2価の親水基である;
n1およびn6は、それぞれ独立して、1〜10の整数である;
n2、n3、n4およびn5は、それぞれ独立して、0〜10の整数である;
*は結合手を有し得る炭素原子を表す;1分子中、*を有する炭素原子が1つ存在する場合、当該炭素原子が前記シランのケイ素原子と直接的に結合する;1分子中、*を有する炭素原子が2つ以上で存在する場合、当該炭素原子のうちいずれか1つの炭素原子が前記シランのケイ素原子と直接的に結合する]。
【請求項8】
前記シラン溶液は、下記一般式(IIa):
【化3】
[式(IIa)中、Rは1価の炭化水素基である;
201は水素原子または1価の炭化水素基である;
cは3以下の整数である]
で表されるシラン(IIa)をさらに含む、請求項7に記載のシラン系塗料組成物の製造方法。
【請求項9】
前記シラン(IIa)の配合量は、前記シラン(Ia)配合量1モルに対して0.2〜2モルである、請求項8に記載のシラン系塗料組成物の製造方法。
【請求項10】
前記シラン縮合物の形成工程において、前記加熱を前記不活性気体雰囲気で行う、請求項1〜9のいずれかに記載のシラン系塗料組成物の製造方法。
【請求項11】
前記加熱により、前記シラン溶液に含まれるシランの加水分解反応および縮合反応を行う、請求項1〜10のいずれかに記載のシラン系塗料組成物の製造方法。
【請求項12】
35℃以上の加熱温度にて、シラン系塗料組成物のモノマー反応率が50%以上となるように、前記加熱を行う、請求項1〜11のいずれかに記載のシラン系塗料組成物の製造方法。
【請求項13】
前記シラン系塗料組成物は、酸化防止剤、UV吸収剤、IR吸収剤、レベリング剤、無機粒子、有機粒子および重合開始剤からなる群から選択される1種類以上の添加剤を含む、請求項1〜12のいずれかに記載のシラン系塗料組成物の製造方法。
【請求項14】
前記シラン系塗料組成物は、吸湿膜を形成するための吸湿膜形成用シラン系塗料組成物である、請求項1〜13のいずれかに記載のシラン系塗料組成物の製造方法。
【請求項15】
前記吸湿膜は車両用ウィンドウ部材に形成される吸湿膜である、請求項14に記載のシラン系塗料組成物の製造方法。
【請求項16】
基体に対して、請求項1〜15のいずれかに記載のシラン系塗料組成物の製造方法で製造されたシラン系塗料組成物を、塗布した後、120℃以上の加熱または光の照射により、前記塗料組成物を硬化させて吸湿膜を形成する、積層体の製造方法。
【請求項17】
透明体に対して、請求項1〜15のいずれかに記載のシラン系塗料組成物の製造方法で製造されたシラン系塗料組成物を塗布し、前記透明体を、その前記塗布面が基体と接触するように、基体に対して積層した後、光の照射を前記透明体側から行うことにより、前記塗料組成物を基体に転写および硬化させて吸湿膜を形成する、積層体の製造方法。
【請求項18】
基体に対して、請求項1〜15のいずれかに記載のシラン系塗料組成物の製造方法で製造されたシラン系塗料組成物を、蒸着法で蒸着させた後、120℃以上の加熱または光の照射により、前記塗料組成物を硬化させて吸湿膜を形成する、積層体の製造方法。
【請求項19】
前記基体は2GPa以上の引張弾性率を有し、
前記基体および前記吸湿膜は、基体の厚み/吸湿膜の厚み≧10の関係式を満たす、請求項16〜18のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項20】
前記積層体は20%以下のヘイズを示す、請求項16〜19のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項21】
ハンセン溶解度パラメーターに関するδPおよびδHが以下の関係式を満たす親水基含有炭化水素基を有するシランの縮合物および有機溶媒を含み、
モノマー反応率が50%以上である、シラン系塗料組成物:
3≦δP≦15;および
3≦δH≦40。
【請求項22】
前記シランは、下記一般式(Ia):
【化4】
[式(Ia)中、Rは、下記一般式(i)〜(iv)で表される前記親水基含有炭化水素基からなる群から選択される1価の有機基である;
は1価の炭化水素基である;
101は水素原子または1価の炭化水素基である;
aは1または2の整数である;
bは0〜2の整数である;
aとbとの和は3以下の整数である]
で表されるシラン(Ia)である、請求項21に記載のシラン系塗料組成物:
【化5】
[式(i)〜(iv)中、R11、R12、R21およびR42は、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される1価の親水基である;
31およびR41は、それぞれ独立して、イミノ基、ケトン基、およびエーテル基からなる群から選択される2価の親水基である;
n1およびn6は、それぞれ独立して、1〜10の整数である;
n2、n3、n4およびn5は、それぞれ独立して、0〜10の整数である;
*は結合手を有し得る炭素原子を表す;1分子中、*を有する炭素原子が1つ存在する場合、当該炭素原子が前記シランのケイ素原子と直接的に結合する;1分子中、*を有する炭素原子が2つ以上で存在する場合、当該炭素原子のうちいずれか1つの炭素原子が前記シランのケイ素原子と直接的に結合する]。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン系塗料組成物の製造方法および積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、自動車、トラック、バスおよび電車等の車両において、省エネルギーの観点から、窓等の部材に結露を起こさせない防曇技術が求められている。防曇技術においては、窓等の部材に吸湿膜を形成することにより、結露しようとする水分を吸湿膜内に吸収させ、結果として防曇を達成する。
【0003】
このような吸湿膜としては、例えば、吸水性樹脂層形成用組成物を反応させて得られる硬化エポキシ樹脂を主として含む吸水性樹脂層(特許文献1)、およびポリビニルアセタール樹脂を含む吸水性樹脂層(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2013/183441
【特許文献2】特開2012−117025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明の発明者等は、従来の吸湿膜では以下の問題が生じることを見い出した。
従来の吸湿膜を構成するポリマーは炭素骨格を有するため、傷が付き易く、吸湿膜は耐傷付性に劣った。耐傷付性を向上させるために、架橋密度を上げる、フィラーを添加するなどの解決手段が考えられるが、このような解決手段を施すと、吸湿性が低下した。
【0006】
そこで、吸湿性および耐傷付性の観点から、シランを含むシラン系塗料組成物を用いて、従来の方法により、ポリシロキサン骨格を有する吸湿膜を製造したところ、当該塗料組成物に沈殿が生じたり、得られた吸湿膜にハジキが生じたりする、という新たな問題が生じた。
さらに、得られた吸湿膜の表面に凹凸が生じたり、または吸湿膜の透明性が低下したりする、という新たな別の問題が生じた。
【0007】
本発明は、塗料組成物の沈殿や吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止しつつ、吸湿性および耐傷付性の両方に十分に優れた吸湿膜を製造することができる、シラン系塗料組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、塗料組成物の沈殿や吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止しつつ、吸湿性、耐傷付性、表面平滑性および透明性に十分に優れた吸湿膜を製造することができる、シラン系塗料組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明において塗料組成物の沈殿、吸湿膜のハジキならびに吸湿膜の吸湿性および耐傷付性などの課題は、本発明により解決されるべき課題である。
本発明において吸湿膜の表面平滑性および透明性などの課題は、本発明により必ずしも解決されなければならない課題というわけではなく、本発明により解決されることが好ましい課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
不活性気体雰囲気および温度10℃以下の環境にて、シラン溶液を調製した後、加熱してシラン縮合物を形成する、シラン系塗料組成物の製造方法であって、
前記シラン溶液は、ハンセン溶解度パラメーターに関するδPおよびδHが以下の関係式を満たす親水基含有炭化水素基を有するシランおよび/またはその誘導体を含む、シラン系塗料組成物の製造方法に関する:
3≦δP≦15;および
3≦δH≦40。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塗料組成物の沈殿や吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止しつつ、吸湿性および耐傷付性の両方に十分に優れた吸湿膜を製造することができる、シラン系塗料組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[シラン系塗料組成物の製造方法]
本発明においては、シラン溶液を調製した後、シラン溶液に含まれるシランの縮合を行い、シラン系塗料組成物を製造する。
【0013】
(シラン溶液の調製工程)
本工程においては、不活性気体雰囲気下、温度10℃以下の環境(以下、単に「不活性低温環境」という)にて、シラン溶液を調製する。詳しくは、不活性低温環境を保持しつつ、シラン溶液を調製する。本発明においては、不活性低温環境でシラン溶液を調製した後、縮合を行うため、シランの加水分解反応および縮合反応の暴走がより十分に防止される。この結果として、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止することができる。不活性低温環境でシラン溶液を調製しない場合、シランの加水分解反応および縮合反応の暴走が起こるため、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキが発生する。
【0014】
不活性低温環境は、上記のように、不活性基体雰囲気下、かつ温度10℃以下の環境のことである。不活性低温環境の上記温度(10℃以下)は、シラン溶液を調製する装置(例えばフラスコ)内部の雰囲気(または気体)の温度であってもよく、好ましくは被撹拌物自体の温度である。被撹拌物とは、撹拌を受ける物質という意味である。
【0015】
「不活性気体雰囲気」の「雰囲気」とは、シラン溶液を調製する装置(例えばフラスコ)内部の気体(またはその状態)のことであり、本発明においては、この内部の気体を不活性気体で置換させる。シラン溶液の調製を不活性気体雰囲気で行わない場合、シランの加水分解反応および縮合反応の暴走が起こるため、塗料組成物の沈殿が発生する。置換の時期は、調製装置(例えばフラスコ)への原料(特に水)の仕込み以前であることが好ましく、乾燥した装置への水の進入を防ぐために、加熱乾燥した装置にあっては加熱乾燥後の冷却中から、既に乾燥した状態にある装置にあっては使用する前から不活性気体で装置内を置換することがより好ましい。例えば、シラン、有機溶媒および水等の成分を混合してシラン溶液を調製する場合、通常は、少なくとも水の仕込み以前に、不活性低温環境が保持されて、シラン溶液が調製される。塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止する観点、吸湿膜の吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から好ましい実施態様においては、シランおよび有機溶媒を含む混合物を、不活性低温環境にて撹拌した後、少なくとも水(所望により水と有機溶媒との混合物)を添加し、当該不活性低温環境にて混合および撹拌して、シラン溶液を得る。水添加前の撹拌は通常、シランおよび有機溶媒を含む混合物が不活性低温環境における温度を有するまで継続される。水添加前の撹拌時間は、被撹拌物の量に応じて適宜、決定されるため、一概に規定できるものではないが、例えば100mLのフラスコを用いてシラン溶液を調製する場合、通常5〜60分(特に5〜20分)である。水の添加は、被撹拌物の急激な温度上昇を回避する観点から、徐々に行われる。また水添加後の撹拌は通常、水添加後の混合物が不活性低温環境における温度を有するまで継続される。水の添加時間および水添加後の撹拌時間の合計時間もまた、被撹拌物の量に応じて適宜、決定されるため、一概に規定できるものではないが、例えば100mLのフラスコを用いてシラン溶液を調製する場合、通常5〜60分(特に10〜30分)である。
【0016】
不活性気体とは、シランの加水分解反応に対して不活性な気体という意味であり、詳しくは水蒸気含有量のパラメータとしての露点が5℃以下(好ましくは−5℃以下)である乾燥気体のことである。不活性気体は、露点が5℃以下である限り、特に限定されず、例えば、酸素が含まれていてもよい。不活性気体の具体例として、例えば、窒素;二酸化炭素;ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン、オガネソン等の希ガス;および空気等が挙げられる。不活性気体の代わりに、露点が5℃超の気体を用いると、シラン溶液中に結露が発生することで水の存在量が増加し、シランの加水分解反応および縮合反応の暴走が起こるため、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキが発生する。
【0017】
不活性気体の乾燥状態(5℃以下(特に−5℃以下)の露点)は、あらゆる方法により達成されてよい。不活性気体の乾燥状態は、例えば、空気等の気体を一旦5℃以下に冷却して凝縮した水滴を除去すること、または、アルミナゲル、シリカゲル、塩化カルシウム等の吸湿剤を充填した充填層への通過により除湿することにより達成される。特に、オイルバスを用いて40℃以上に装置(特にフラスコ)内を加熱しながら、気体導入管より、乾燥窒素ガスを装置(フラスコ)内に流し入れることにより、装置内における不活性気体の露点が−5℃以下になることはよく知られている。
【0018】
本工程において不活性気体雰囲気は、フロー方式の不活性気体雰囲気であってもよいし、または非フロー方式の不活性気体雰囲気であってもよい。
フロー方式の不活性気体雰囲気とは、調製装置(例えばフラスコ)内に、不活性気体を流し入れて、一旦、内部の気体を不活性気体で置換した後、継続して流し入れる環境雰囲気のことである。フロー方式の不活性気体雰囲気において、不活性気体の流速は、シランの加水分解反応および縮合反応の暴走が十分に防止される限り特に限定されず、例えば100mLのフラスコを用いてシラン溶液を調製する場合、100〜1000mL/分、特に200〜500mL/分であってもよい。
非フロー方式の不活性気体雰囲気とは、調製装置(例えばフラスコ)内に、不活性気体を流し入れて、一旦、内部の気体を不活性気体で置換したら、継続して流し入れることなく、装置(例えばフラスコ)内部を閉系とする環境雰囲気のことである。
不活性気体雰囲気は、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止する観点、吸湿膜の吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、非フロー方式であることが好ましい。
【0019】
不活性低温環境における温度は10℃以下であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止する観点、吸湿膜の吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは5℃以下、より好ましくは0℃以下である。当該温度が10℃超であると、シランの加水分解反応および縮合反応の暴走が起こるため、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキが発生する。低温環境はあらゆる方法により達成されてよく、例えば、氷浴が使用される。
【0020】
本発明は、本工程においてシラン縮合物が形成されることを排除するものではない。例えば、本工程においては、上記したように不活性低温環境にてシラン溶液が調製されることにより、シランの加水分解反応および縮合反応の暴走が十分に防止される限り、シラン溶液中の一部のシランが加水分解反応および縮合反応されてシラン縮合物が形成されてもよい。
【0021】
シラン溶液は、シラン、有機溶媒および水、ならびに所望により添加される添加剤より構成される。
【0022】
シラン
シラン溶液に含まれるシランは、特に限定されないが、シラン溶液は、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止する観点、吸湿膜の吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、ハンセン溶解度パラメータに関するδPおよびδHが以下の関係式のそれぞれを満たす親水基含有炭化水素基を有するシランおよび/またはその誘導体を含むことが好ましい:
3≦δP≦15;および
3≦δH≦40。
誘導体は、シランの二量体(すなわちジシロキサン)等のシランオリゴマーを包含する。詳しくは、シラン溶液は、親水基含有炭化水素基を有するシラン系原料(例えばシランおよび/またはジシロキサン等のシランオリゴマー)を含む。
【0023】
親水基含有炭化水素基のハンセン溶解度パラメータに関するδPおよびδHは、吸湿膜の吸湿性と耐傷付性のさらなる向上の観点から、水のハンセン溶解度パラメータに関するδP(16(J/cm1/2、)およびδH(42.3(J/cm1/2)それぞれに近似していることが好ましい。
【0024】
親水基含有炭化水素基のδPまたはδHの少なくとも一方が小さすぎると、親水基を有していたとしても、親水基含有炭化水素基全体としての水との親和性が低下するため、吸湿膜の吸湿性が低下する。
親水基含有炭化水素基のδPまたはδHの少なくとも一方が大きすぎると、吸湿膜の製造時において、シランの加水分解反応および脱水縮合反応の暴走が起こり、吸湿膜の製造が困難となる。
【0025】
親水基含有炭化水素基のδPは、吸湿膜の吸湿性と耐傷付性のさらなる向上、吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点ならびにポリシロキサン合成時の沈殿および吸湿膜形成時のハジキの防止の観点から、好ましくは3〜15(J/cm1/2より好ましくは3〜10(J/cm1/2、さらに好ましくは4〜10(J/cm1/2最も好ましくは4〜8(J/cm1/2である。
【0026】
ポリシロキサンが有する親水基含有炭化水素基のδHは、吸湿膜の吸湿性と耐傷付性のさらなる向上、吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点ならびにポリシロキサン合成時の沈殿および吸湿膜形成時のハジキの防止の観点から、好ましくは3〜40(J/cm1/2より好ましくは3〜30(J/cm1/2、さらに好ましくは5〜20(J/cm1/2最も好ましくは7〜12(J/cm1/2である。
【0027】
ハンセン溶解度パラメータ(HSP:Hansen Solubility parameters)(δ)は、分散力項(δD)(分散力によるエネルギー)、極性項(δP)(双極子相互作用によるエネルギー)および水素結合項(δH)(水素結合によるエネルギー)の3成分に基づいて、物質の極性(例えば溶解性)を考慮したパラメータであり、「δ=(δD)+(δP)+(δH)」の関係を有する。
【0028】
親水基含有炭化水素基のハンセン溶解度パラメータに関するδPおよびδHは、詳しくは、当該親水基含有炭化水素基においてシロキサン骨格のケイ素原子と結合する結合手が、当該ケイ素原子の代わりに、水素原子と結合した親水基含有炭化水素化合物のハンセン溶解度パラメータに関するδPおよびδHを用いている。なお、親水基含有炭化水素基においてシロキサン骨格のケイ素原子と結合する原子は炭素原子または窒素原子である。このような親水基含有炭化水素化合物のハンセン溶解度パラメータに関するδPおよびδHは以下の条件により算出される値を用いている:
パソコンソフト:HSPiP(Hansen Solubility parameters)ver.5
【0029】
このような親水基含有炭化水素基を有するシランを用いると、吸湿膜の吸湿性および耐傷付性がより一層、向上する。詳しくは、上記のような親水基含有炭化水素基は、シランにおいて、ケイ素原子に直接的に結合する基であって、少なくとも親水基および当該親水基とケイ素原子との間に介在する炭化水素基を含む。従って、上記のような親水基含有炭化水素基は、結果的に得られるポリシロキサンにおいては、シロキサン骨格(特に当該骨格を構成するケイ素原子)に直接的に結合する側鎖基(特にその全体)であって、少なくとも親水基および当該親水基とシロキサン骨格との間に介在する炭化水素基を含む。このため、ポリシロキサンは親水基を親水基含有炭化水素基の形態で有し、親水基は炭化水素基を介してシロキサン骨格のケイ素原子と結合する。
【0030】
本明細書中、吸湿性は、吸湿膜が液体または気体の水を吸収し得る特性であり、吸湿膜の吸水率に基づく特性である。吸湿性は、防曇性および調湿性を包含する。防曇性は、吸湿膜への液体または気体の水の吸収により、水の結露を防止する特性である。調湿性は、吸湿膜への液体または気体の水の吸収および吸湿膜が吸収した液体または気体の水の放出により、周囲環境の湿度を調整し得る特性である。
耐傷付性は、吸湿膜が外力によっても塑性変形し難い特性のことであり、単に、硬度が高いことにより傷付き難い特性とは異なる。詳しくは、物体に外力が付与され、変形が起こるとき、一般的には、当該変形は、元に回復し得る弾性変形と元に回復し得ない塑性変形とを含む。本発明の吸湿膜は、外力による塑性変形の少なくとも一部を弾性変形に有意に変換し得る特性を有するため、塑性変形が十分に低減される。
【0031】
親水基含有炭化水素基は、上記したように、親水基および当該親水基とケイ素原子との間に介在する炭化水素基を含む。
【0032】
親水基は水分子との親和性が比較的良好な官能基のことであり、1価の有機基であってもよいし、または2価の有機基であってもよい。親水基の具体例として、例えば、ヒドロキシル基(すなわち−OH)、アミノ基(すなわち−NH)、メルカプト基(すなわち−SH)、スルホン酸基(すなわち−SOH)、カルボキシル基(すなわち−COOH)等の1価親水基;およびイミノ基(すなわち−NH−)、ケトン基(すなわち−CO−)、およびエーテル基(すなわち−O−)等の2価親水基が挙げられる。
【0033】
親水基とケイ素原子との間に介在する炭化水素基は、親水基とケイ素原子とを連結するための2価の連結基(以下、単に「連結型炭化水素基」ということがある)である。連結型炭化水素基は、2価飽和または不飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、または2価芳香族炭化水素基であってもよく、耐久性のさらなる向上の観点から、好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基または2価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基である。2価飽和脂肪族炭化水素基の具体例として、例えば、炭素原子数1〜10、好ましくは1〜7、より好ましくは1〜5の直鎖状および分岐状アルキレン基が挙げられる。2価不飽和脂肪族炭化水素基の具体例として、例えば、炭素原子数1〜10、好ましくは1〜7、より好ましくは1〜5の直鎖状および分岐状アルケニレン基が挙げられる。2価芳香族炭化水素基の具体例として、例えば、炭素原子数6〜14、好ましくは6〜10、より好ましくは6のアリーレン基が挙げられる。
【0034】
親水基含有炭化水素基の具体例として、下記一般式(i)〜(iv)で表される親水基含有炭化水素基が挙げられる。好ましくは下記一般式(i)および(iv)で表される親水基含有炭化水素基、より好ましくは下記一般式(iv)で表される親水基含有炭化水素基である:
【0035】
【化1】
【0036】
式(i)〜(iv)中、*は結合手を有し得る炭素原子を表す。1分子中、*を有する炭素原子が1つ存在する場合、当該炭素原子がシランのケイ素原子と直接的に結合する。1分子中、*を有する炭素原子が2つ以上で存在する場合、当該炭素原子のうちいずれか1つの炭素原子がシロキサン骨格のケイ素原子と直接的に結合する。式(i)〜(iv)が結合手を有し得る炭素原子*(すなわち*を有する炭素原子)を2つ以上で有する場合、各式において、これらの炭素原子のうち、最左の炭素原子が結合手を有する炭素原子であることが好ましい。
式(i)〜(iv)中、R11、R12、R21およびR42は、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される1価の親水基であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくはヒドロキシル基およびアミノ基であり、より好ましくはアミノ基である。
31およびR41は、それぞれ独立して、イミノ基、ケトン基、およびエーテル基からなる群から選択される2価の親水基であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくはイミノ基である。
n1およびn6は、それぞれ独立して、1〜10の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは1〜7の整数であり、より好ましくは1〜5の整数、さらに好ましくは1〜3の整数である。
n2、n3、n4およびn5は、それぞれ独立して、0〜10の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは0〜7の整数であり、より好ましくは0〜5の整数、さらに好ましくは0〜3の整数である。
【0037】
式(i)中、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは以下の通りである:
11およびR12は、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される1価の親水基であり、好ましくはヒドロキシル基およびアミノ基であり、より好ましくはヒドロキシル基である;R11およびR12は同じ基であることが好ましい;
n1は、好ましくは1〜5の整数、より好ましくは1〜3の整数である。
【0038】
式(i)の親水基含有炭化水素基の具体例を以下に示す。なお、以下の具体例においても、式(i)〜(iv)においてと同様に、*は結合手を有し得る炭素原子を表す。1分子中、*を有する炭素原子が1つ存在する場合、当該炭素原子がシロキサン骨格のケイ素原子と直接的に結合する。1分子中、*を有する炭素原子が2つ以上で存在する場合、当該炭素原子のうちいずれか1つの炭素原子がシロキサン骨格のケイ素原子と直接的に結合する。後述する式(ii)〜(iv)の親水基含有炭化水素基の具体例においても同様に、*は結合手を有し得る炭素原子を表す。
【0039】
【化2】
【0040】
上記親水基含有炭化水素基(i−1)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが13.5(J/cm1/2であり、δHが27.4(J/cm1/2である。
【0041】
式(ii)中、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは以下の通りである:
21は、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される1価の親水基であり、好ましくはヒドロキシル基およびアミノ基であり、より好ましくはヒドロキシル基である;
n2は、好ましくは0〜5の整数、より好ましくは0〜3の整数である。
【0042】
式(ii)の親水基含有炭化水素基の具体例を以下に示す。
【0043】
【化3】
【0044】
上記親水基含有炭化水素基(ii−1)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが6.3(J/cm1/2であり、δHが10.0(J/cm1/2である。
上記親水基含有炭化水素基(ii−2)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが9.3(J/cm1/2であり、δHが17.2(J/cm1/2である。
上記親水基含有炭化水素基(ii−3)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが6.2(J/cm1/2であり、δHが6.3(J/cm1/2である。
上記親水基含有炭化水素基(ii−4)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが5.9(J/cm1/2であり、δHが13(J/cm1/2である。
【0045】
式(iii)中、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは以下の通りである:
31は、イミノ基、ケトン基、およびエーテル基からなる群から選択される2価の親水基であり、好ましくはケトン基、またはエーテル基である;
n3およびn4は、それぞれ独立して、好ましくは0〜5の整数、より好ましくは0〜3の整数である。
【0046】
式(iii)の親水基含有炭化水素基の具体例を以下に示す。
【0047】
【化4】
【0048】
上記親水基含有炭化水素基(iii−1)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが9.1(J/cm1/2であり、δHが6.5(J/cm1/2である。
上記親水基含有炭化水素基(iii−2)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが5.5(J/cm1/2であり、δHが5.0(J/cm1/2である。
【0049】
式(iv)中、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは以下の通りである:
41は、イミノ基、ケトン基、およびエーテル基からなる群から選択される2価の親水基であり、好ましくはイミノ基である;
42は、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される1価の親水基であり、好ましくはヒドロキシル基およびアミノ基であり、より好ましくはアミノ基である;
n5は、好ましくは0〜5の整数、より好ましくは0〜3の整数である。
n6は、好ましくは1〜5の整数、より好ましくは1〜3の整数である。
式(iv)において、結合手を有し得る2つ以上の炭素原子*(すなわち*を有する2つ以上の炭素原子)のうち、最左の炭素原子が結合手を有する炭素原子であることが好ましい。
【0050】
式(iv)の親水基含有炭化水素基の具体例を以下に示す。
【0051】
【化5】
【0052】
上記親水基含有炭化水素基(iv−1)について、ハンセン溶解度パラメータはδPが5.2(J/cm1/2であり、δHが9(J/cm1/2である。式(iv−1)において、結合手を有し得る炭素原子*は最左の炭素原子であることが好ましい。)式(iv−1)において、結合手を有し得る5つの炭素原子*(すなわち*を有する5つの炭素原子)のうち、最左の炭素原子が結合手を有する炭素原子であることが好ましい。
【0053】
親水基含有炭化水素基を有するシランは、例えば、下記一般式(Ia)で表されるシラン(Ia)を含む。
【0054】
【化6】
【0055】
式(Ia)中、Rは、前記一般式(i)〜(iv)で表される親水基含有炭化水素基からなる群から選択される1価の有機基であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは前記一般式(i)および(iv)で表される親水基含有炭化水素基であり、より好ましくは前記一般式(iv)で表される親水基含有炭化水素基であり、より好ましくは前記一般式(iv−1)で表される親水基含有炭化水素基である。シラン(Ia)が1分子中、複数のRを有する場合、当該複数のRは、それぞれ独立して、上記群から選択されてもよい。一般式(iv)における好ましいR41、R42、n5およびn6は、式(iv)の説明で上記した好ましいR41、R42、n5およびn6と同様である。このとき、式(iv)において、結合手を有し得る2つ以上の炭素原子*(すなわち*を有する2つ以上の炭素原子)のうち、最左の炭素原子が結合手を有する炭素原子であることが好ましい。
【0056】
式(Ia)中、Rは1価の炭化水素基である。Rは、詳しくは、1価飽和または不飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、または1価芳香族炭化水素基であってもよく、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは1価飽和脂肪族炭化水素基または1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは1価飽和脂肪族炭化水素基である。1価飽和脂肪族炭化水素基として、例えば、炭素原子数1〜10、好ましくは1〜7、より好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3の直鎖状および分岐状アルキル基が挙げられる。このようなアルキル基の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。1価不飽和脂肪族炭化水素基として、例えば、炭素原子数2〜10、好ましくは2〜7、より好ましくは2〜5、さらに好ましくは2〜3の直鎖状および分岐状アルケニル基が挙げられる。このようなアルケニル基の具体例として、例えば、ビニル基等が挙げられる。1価芳香族炭化水素基として、例えば、炭素原子数6〜14、好ましくは6〜10、より好ましくは6のアリール基が挙げられる。このようなアリール基の具体例として、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。シラン(Ia)が複数のRを有する場合、当該複数のRは、それぞれ独立して、選択されてもよい。
【0057】
式(Ia)中、R101は水素原子または1価の炭化水素基である。R101としての1価の炭化水素基は、式(Ia)におけるRとしての1価の炭化水素基と同様である。好ましいR101は、水素原子、1価飽和脂肪族炭化水素基または1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは水素原子または1価飽和脂肪族炭化水素基である。式(Ia)におけるR101として好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基はそれぞれ、式(Ia)におけるRとして好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基と同様である。シラン(Ia)が1分子中、複数のR101を有する場合、当該複数のR101は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
【0058】
式(Ia)中、aは1または2の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは1である。
bは0〜2の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは0〜1の整数であり、より好ましくは0である。
aとbとの和は3以下(特に1〜3)の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは2以下(特に1または2)の整数、より好ましくは1である。
【0059】
親水基含有炭化水素基を有するシランの誘導体は、上記シラン(Ia)の二量体(すなわちジシロキサン)等のシランオリゴマーを包含する。詳しくは、シラン(Ia)の二量体は通常、上記したシラン(Ia)のうち、1分子中のOR101基の数(すなわち「4−a−b」)が2以上(すなわち2または3)の整数(好ましくは3)であるシラン(Ia)2分子が脱水縮合してなるジシロキサンのことである。
【0060】
親水基含有炭化水素基を有するシランの誘導体は、例えば、下記一般式(Ia’)で表されるジシロキサン(Ia’)を含む。
【0061】
【化7】
【0062】
式(Ia’)中、Rは、前記一般式(Ia)におけるRと同様である。好ましいRは、前記一般式(Ia)における好ましいRと同様である。ジシロキサン(Ia’)が1分子中、複数のRを有する場合、当該複数のRは、それぞれ独立して、選択されてもよい。
式(Ia’)中、Rは、前記一般式(Ia)におけるRと同様である。好ましいRは、前記一般式(Ia)における好ましいRと同様である。ジシロキサン(Ia’)が1分子中、複数のRを有する場合、当該複数のRは、それぞれ独立して、選択されてもよい。
式(Ia’)中、R101は、前記一般式(Ia)におけるR101と同様である。好ましいR101は、前記一般式(Ia)における好ましいR101と同様である。ジシロキサン(Ia’)が1分子中、複数のR101を有する場合、当該複数のR101は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
式(Ia’)中、aは1または2の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは1である。
bは0〜2の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは0〜1の整数であり、より好ましくは0である。
aとbとの和は3以下(特に1〜3)の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは2以下(特に1または2)の整数、より好ましくは1である。
【0063】
シラン(Ia)の好ましい一実施態様として、下記一般式(Ia−n)で表されるシラン(Ia−n)が挙げられる。シラン(Ia−n)が有する親水基含有炭化水素基「NH−(CHn6−NH−(CHn5−CH−」を、以下、「アミノ基含有炭化水素基」ということがある。アミノ基含有炭化水素基は、前記一般式(iv)で表される親水基含有炭化水素基において、R42がアミノ基であり、R41がイミノ基である親水基含有炭化水素基に包含される。
【0064】
【化8A】
【0065】
式(Ia−n)中、n6は、1〜10の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは1〜7の整数であり、より好ましくは1〜5の整数、さらに好ましくは1〜3の整数である。
n5は、0〜10の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは0〜7の整数であり、より好ましくは0〜5の整数、さらに好ましくは0〜3の整数、特に好ましくは1〜3の整数である。
aは1または2の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは1である。シラン(Ia−n)が複数のアミノ基含有炭化水素基を有する場合、当該複数のアミノ基含有炭化水素基は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
【0066】
式(Ia−n)中、Rは1価の炭化水素基である。Rは、詳しくは、1価飽和または不飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、または1価芳香族炭化水素基であってもよく、吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは1価飽和脂肪族炭化水素基または1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは1価飽和脂肪族炭化水素基である。1価飽和脂肪族炭化水素基として、例えば、炭素原子数1〜10、好ましくは1〜7、より好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3の直鎖状および分岐状アルキル基が挙げられる。このようなアルキル基の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。1価不飽和脂肪族炭化水素基として、例えば、炭素原子数2〜10、好ましくは2〜7、より好ましくは2〜5、さらに好ましくは2〜3の直鎖状および分岐状アルケニル基が挙げられる。このようなアルケニル基の具体例として、例えば、ビニル基等が挙げられる。1価芳香族炭化水素基として、例えば、炭素原子数6〜14、好ましくは6〜10、より好ましくは6のアリール基が挙げられる。このようなアリール基の具体例として、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。シラン(Ia−n)が複数のRを有する場合、当該複数のRは、それぞれ独立して、選択されてもよい。
bは0〜2の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは0〜1の整数であり、より好ましくは0である。
aとbとの和は3以下(特に1〜3)の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは2以下(特に1または2)の整数、より好ましくは1である。
【0067】
式(Ia−n)中、R101は水素原子または1価の炭化水素基である。R101としての1価の炭化水素基は、式(Ia−n)におけるRとしての1価の炭化水素基と同様である。好ましいR101は、水素原子、1価飽和脂肪族炭化水素基または1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは水素原子または1価飽和脂肪族炭化水素基である。式(Ia−n)におけるR101として好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基はそれぞれ、式(Ia−n)におけるRとして好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基と同様である。シラン(Ia−n)が1分子中、複数のR101を有する場合、当該複数のR101は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
【0068】
シラン(Ia−n)はその二量体(すなわちジシロキサン)等のシランオリゴマーを包含する。詳しくは、シラン(Ia−n)の二量体は通常、上記したシラン(Ia−n)のうち、1分子中のOR101基の数(すなわち「4−a−b」)が2以上(すなわち2または3)の整数(好ましくは3)であるシラン(Ia−n)2分子が脱水縮合してなるジシロキサンのことである。
【0069】
シラン(Ia)およびその誘導体の具体例を以下に示す。
【0070】
【化8B】
(式(Ia−1)中、星印は結合手を表す。)
【0071】
シラン(Ia)およびその誘導体は、市販品として入手することができるし、または公知の方法により製造することもできる。
シラン(Ia)の市販品として、例えば、アルキレングリコールシラン(商品名「X−12−1098」;信越化学工業社製)、(商品名「KBP90」;信越化学工業社製)等が挙げられる。アルキレングリコールシラン(「X−12−1098」;信越化学工業社製)は、親水基含有炭化水素基を有するシラン誘導体に属する化合物であり、上記構造式(Ia−1)で表されるジシロキサン化合物である。
シラン(Ia)の市販品として、例えば、商品名「3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン」(信越化学工業社製)(前記式(Ia−2)に相当する)等が挙げられる。
シラン(Ia)の市販品として、例えば、商品名「3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン」(信越化学工業社製)(前記式(Ia−3)に相当する)等が挙げられる。
シラン(Ia)の市販品として、例えば、商品名「3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン」(信越化学工業社製)(前記式(Ia−4)に相当する)等が挙げられる。
【0072】
シラン溶液は、上記シラン(Ia)から選択される1種以上のシランおよび/またはその誘導体を含んでもよい。
【0073】
シラン溶液は、下記一般式(IIa)で表されるシラン(IIa)をさらに含んでもよい。
【0074】
【化9】
【0075】
式(IIa)中、Rは1価の炭化水素基である。Rとしての1価の炭化水素基は、式(Ia)におけるRとしての1価の炭化水素基と同様である。好ましいRは1価飽和脂肪族炭化水素基または1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは水素原子または1価飽和脂肪族炭化水素基である。式(IIa)におけるRとして好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基はそれぞれ、式(Ia)におけるRとして好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基と同様である。シラン(IIa)が1分子中、複数のRを有する場合、当該複数のRは、それぞれ独立して、選択されてもよい。
【0076】
式(IIa)中、R201は水素原子または1価の炭化水素基である。R201としての1価の炭化水素基は、式(Ia)におけるRとしての1価の炭化水素基と同様である。好ましいR201は、水素原子、1価飽和脂肪族炭化水素基または1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは水素原子または1価飽和脂肪族炭化水素基である。式(IIa)におけるR201として好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基はそれぞれ、式(Ia)におけるRとして好ましい1価飽和および不飽和脂肪族炭化水素基ならびに1価芳香族炭化水素基と同様である。シラン(IIa)が1分子中、複数のR201を有する場合、当該複数のR201は、それぞれ独立して、選択されてもよい。
【0077】
式(IIa)中、cは3以下(すなわち0〜3)の整数であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは2以下(すなわち0〜2)の整数、より好ましくは1または2、さらに好ましくは2である。
cが2であるシラン(IIa)は、「2官能シラン」と称され得る。
cが1であるシラン(IIa)は、「3官能シラン」と称され得る。
cが0であるシラン(IIa)は、「4官能シラン」と称され得る。
【0078】
シラン(IIa)の具体例を以下に示す。
【0079】
・2官能シラン
ジメチルジメトキシシラン(IIa−1)
ジメチルジエトキシシラン(IIa−2)
ジエチルジメトキシシラン(IIa−3)
ジエチルジエトキシシラン(IIa−4)
【0080】
・3官能シラン
モノメチルトリメトキシシラン(IIa−5)
モノメチルトリエトキシシラン(IIa−6)
モノエチルトリメトキシシラン(IIa−7)
モノエチルトリエトキシシラン(IIa−8)
【0081】
シラン(IIa)は、市販品として入手することができるし、または公知の方法により製造することもできる。
シラン(IIa)の市販品として、例えば、「KBM−22」(ジメチルジメトキシシラン、信越化学工業社製、2官能シラン)、「KBM−13」(モノメチルトリメトキシシラン、信越化学工業社製、3官能シラン)、「KBE−22」(ジメチルジエトキシシラン、信越化学工業社製、2官能シラン)、「KBE−13」(モノメチルトリエトキシシラン、信越化学工業社製、3官能シラン)等が挙げられる。
【0082】
シラン(IIa)の配合量は、特に限定されず、例えば、シラン(Ia)配合量1モルに対して10モル以下(特に0〜10モル)であり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは0.1〜2モル、より好ましくは0.2〜2モル、さらに好ましくは0.4〜1.5モル、特に好ましくは0.8〜1.2モルである。
【0083】
有機溶媒
シラン溶液を構成する有機溶媒は、当該有機溶媒がシランおよび水と相溶する限り特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン等のケトン類、THF、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類等が挙げられる。有機溶媒の沸点は、加熱攪拌時の溶媒の蒸発のし易さの観点から、好ましくは60〜160℃であり、より好ましくは60〜90℃である。
【0084】
有機溶媒の配合量は通常、シラン溶液中のシラン(シラン(Ia)および(IIa)を含む)1モルに対して、1〜100モルであり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは5〜20モルである。本工程において、有機溶媒が多段階で添加される場合、それらの合計配合量が上記範囲内であればよい。
【0085】

水は通常、蒸留水、イオン交換水が使用される。
シラン溶液を構成する水の配合量は通常、シラン溶液中のシラン(シラン(Ia)および(IIa)を含む)1モルに対して、0.1〜10モルであり、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生のより有効な防止ならびに吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点、ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは1〜3モルである。
【0086】
添加剤
シラン溶液は、酸化防止剤、UV吸収剤、IR吸収剤、レベリング剤、無機粒子、有機粒子および重合開始剤からなる群から選択される1種類以上の添加剤をさらに含んでもよい。このような添加剤は、本工程のいずれのタイミングで添加されてもよく、例えば、本工程の初期においてシランとともに添加されてもよいし、本工程で調製されたシラン溶液に対して添加されてもよいし、またはそれらのタイミングの間のいずれかの時期に添加されてもよい。なお、添加剤は、本工程で添加される代わりに、または本工程で添加されるとともに、次の縮合工程で添加されてもよい。
【0087】
(シラン縮合物の形成工程)
本工程においては、前工程で調製されたシラン溶液を加熱して、シラン縮合物を得る。これにより、シラン系塗料組成物が得られる。このとき、加熱は、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止する観点、吸湿膜の吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、不活性気体雰囲気で行うことが好ましい。不活性気体雰囲気は、シラン溶液の調製工程における不活性気体雰囲気と同様である。
【0088】
本工程において不活性気体雰囲気は、フロー方式の不活性気体雰囲気であってもよいし、または非フロー方式の不活性気体雰囲気であってもよい。本工程は通常、前工程が行われた調製装置(例えばフラスコ)を用いて行われる。従って、例えば、前工程でフロー方式の不活性気体雰囲気が採用された場合、本工程においてもフロー方式不活性気体雰囲気が採用されてもよい。また例えば、前工程で非フロー方式の不活性気体雰囲気が採用された場合、本工程においても非フロー方式不活性気体雰囲気が採用されてもよい。なお、本発明は、本工程を、前工程が行われた装置(例えばフラスコ)とは別の装置(例えばフラスコ)で行うことを妨げるものではない。
【0089】
本工程で形成されるシラン縮合物は、前工程で調製されたシラン溶液中のシランが適度に加水分解反応および縮合反応に供されてなるポリシロキサンである。シラン縮合物の数平均分子量は、シラン系塗料組成物中、シラン縮合物が溶解されるような分子量であればよい。シラン縮合物が溶解されるとは、シラン系塗料組成物が透明性を有しつつ、シラン縮合物を含むことである。シラン縮合物は通常、500以上、特に500〜10万(例えば1000〜10万)、好ましくは800〜5万、より好ましくは800〜4万の数平均分子量を有する。
【0090】
シラン縮合物の数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定された値を用いている。シラン縮合物がアミノ基および/またはイミノ基を有する場合、アミノ基および/またはイミノ基を保護基で変性して分子量を測定する。保護基としては、例えば、アセチル基、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基である。
測定条件は以下の通りである:
装置:SHIMADZU製 高速液体クロマトグラフィー(送液ポンプ:LC−6AD、検出器:RI−10A)、
カラム:Polymer Science製PLgel5μ MIXED−D2本、
検出部セル温調温度:40℃、カラム温度:25℃、注入口温度:25℃、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、
流速:1mL/min、
試料:THFで1wt%に希釈し、20μL注入、
標準物質:Polymer Laboratories製単分散ポリスチレン(670000、422000、107000、43000、19200、4800、2030、1350)。
【0091】
本工程において、加熱前においては、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止する観点、吸湿膜の吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、前工程で不活性低温環境にて調製されたシラン溶液を室温で撹拌することにより、シラン溶液の温度を徐々に上昇させることが好ましい。本工程における加熱前の撹拌時間は、被撹拌物の量に応じて適宜、決定されるため、一概に規定できるものではないが、例えば100mLのフラスコを用いて本工程を実施する場合、通常1〜60分(特に5〜30分)である。
【0092】
本工程における加熱は通常、得られるシラン縮合物の硬化(または架橋)を引き起こすことなく、シラン溶液中のシランが適度に加水分解反応および縮合反応に供され得る程度の比較的温和な条件で行う。加熱により、通常、本工程で得られる塗料組成物のモノマー反応率が50%以上となる。加熱は、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止する観点、吸湿膜の吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、本工程で得られる塗料組成物のモノマー反応率が70%以上、特に81%となるように、行うことが好ましい。加熱温度は、例えば、35℃以上(特に35〜130℃)であってもよく、上記と同様の観点から、好ましくは45℃以上(特に45〜120℃)、より好ましくは50℃以上(特に50〜110℃)、さらに好ましくは60〜130℃(特に60〜100℃)である。加熱時間は特に限定されず、例えば、30分間〜10時間、特に2時間〜7時間であってもよい。加熱は、あらゆる方法により達成されてもよく、例えば、オイルバスが使用される。加熱しない場合(例えば35℃以上に加熱しない場合)、モノマー反応率は50%未満となり、吸湿膜の耐傷付性および透明性が低下する。モノマー反応率が増大すると、塗料組成物の沈殿防止、吸湿膜のハジキ防止、吸湿膜の吸湿性、耐傷付性、表面平滑性および透明性に関する本発明の効果がより一層優れるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下の現象に基づくものと考えられる。塗料組成物にモノマーが存在すると、吸湿膜の製造に際し、吸湿膜におけるモノマーの周辺において、硬化反応(すなわちシラン縮合物の3次元化反応)が十分に行われない。このため、モノマーの反応率が高いほど(すなわち塗料組成物中のモノマーが少ないほど)、本発明の効果がより一層優れるものと考えられる。
【0093】
本工程における加熱は、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止する観点、吸湿膜の吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性のさらなる向上の観点から、以下の加熱(1)を行うことが好ましく、以下の加熱(2)を行うことがより好ましく、以下の加熱(3)を行うことがさらに好ましい:
加熱(1)は、35℃以上の加熱温度にて、シラン系塗料組成物のモノマー反応率が50%以上となるように、行う;このとき、加熱時間は、当該モノマー反応率が達成される時間であり、例えば、30分間〜10時間、特に30分間〜7時間であってもよい;
加熱(2)は、35℃以上の加熱温度にて、シラン系塗料組成物のモノマー反応率が70%以上となるように、行う;このとき、加熱時間は、当該モノマー反応率が達成される時間であり、例えば、30分間〜10時間、特に30分間〜7時間であってもよい; 加熱(3)は、45℃以上の加熱温度にて、シラン系塗料組成物のモノマー反応率が81%以上となるように、行う;このとき、加熱時間は、当該モノマー反応率が達成される時間であり、例えば、2時間〜10時間、特に2.5時間〜7時間であってもよい。
【0094】
モノマー反応率は、シランのアルコキシ基が有するプロトンの減少量に基づいて算出された値を用いている。例えば、シランが上記一般式(Ia)で表されるシラン(Ia)である場合、モノマー反応率は、R101のプロトンの減少量に基づいて算出することができる。R101が例えば、エチル基である場合、H−NMR(400MHz)チャートにおけるエトキシ基部分のピーク(1.20ppmと3.80ppm)の積分値の減少量から、モノマー反応率を算出することができる。
【0095】
加熱方法は、塗料組成物のモノマー反応率の増大の観点から、加熱還流法を採用することが好ましい。加熱還流法を用いると、反応液における温度ムラおよび反応ムラをより十分に低減することができるため、モノマー反応率が増大するものと考えられる。モノマー反応率が増大する結果、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止することができ、吸湿膜の吸湿性、耐傷付性、表面平滑性および透明性がさらに向上する。加熱還流法とは、溶媒が沸騰と凝縮を繰り返している状態で加熱することである。
【0096】
本工程においては、加熱後において、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止する観点、吸湿膜の吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、反応液を室温で撹拌することにより、反応液の温度を室温まで徐々に降下させることが好ましい。
【0097】
本工程において得られるシラン系塗料組成物は、シラン縮合物および有機溶媒を含み、所望により水および添加剤をさらに含む。
シラン縮合物は、本工程で形成されるシラン縮合物であり、「シラン溶液の調製工程」で説明されたシランが相互に加水分解反応および縮合反応してなるものである。
有機溶媒、水および添加剤はそれぞれ、「シラン溶液の調製工程」で説明された有機溶媒、水および添加剤である。
【0098】
シラン系塗料組成物におけるシラン縮合物の含有量は、シラン溶液中のシランの配合量が上記範囲内である限り特に限定されず、例えば、シラン系塗料組成物全量に対して、1〜99重量%であってもよく、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止する観点、吸湿膜の吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは10〜50重量%である。
【0099】
シラン系塗料組成物における有機溶媒の含有量は、シラン溶液中の有機溶媒の配合量が上記範囲内である限り特に限定されず、例えば、シラン系塗料組成物全量に対して、1〜99重量%であってもよく、塗料組成物の沈殿および吸湿膜のハジキの発生をより十分に防止する観点、吸湿膜の吸湿性および耐傷付性のさらなる向上の観点ならびに吸湿膜の表面平滑性および透明性の向上の観点から、好ましくは50〜90重量%である。
【0100】
[積層体の製造方法]
本発明は、積層体の製造方法も提供する。本発明に係る積層体の製造方法は、上記したシラン系塗料組成物の製造方法により製造されたシラン系塗料組成物(本明細書中、単に「塗料組成物」ということがある)を用いることを特徴とする。
【0101】
本発明に係る積層体の製造方法は、直接塗布方式、転写方式および蒸着方式を包含する。
【0102】
(直接塗布方式)
積層体は、塗料組成物を基体に直接塗布方式により塗布した後、硬化させることにより製造することができる。詳しくは、基体に対して、塗料組成物を塗布した後、塗料組成物を硬化させて吸湿膜を形成し、積層体を得ることができる。
【0103】
塗料組成物の塗布工程において、塗布方法は、基体表面の少なくとも一部に塗料組成物を付着または適用できる限り特に限定されず、例えば、フローコート法、ドロップキャスト法、スピンコート法、バーコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、ディップコート法およびダイコート法等が挙げられる。
【0104】
塗料組成物の硬化工程においては、一旦、塗料組成物(すなわち塗膜)を乾燥(例えば仮焼き)した後、加熱(例えば焼成)または光照射により、硬化を行う。
【0105】
乾燥のための乾燥温度および乾燥時間は、乾燥が達成される限り特に限定されない。
例えば、乾燥温度は、30℃以上、特に50〜100℃であってもよい。
また例えば、乾燥時間は、乾燥温度に応じて適宜設定され、50〜100℃の場合、0.5〜5時間、特に1〜3時間であってもよい。
【0106】
硬化は、シロキサン結合の形成反応(すなわち脱水縮合反応)に基づく3次元化による架橋反応である。
硬化のための加熱温度および加熱時間は、硬化が達成される限り特に限定されない。
例えば、加熱温度は、120℃以上、特に120〜250℃であってもよい。
また例えば、加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定され、150〜200℃の場合、0.5〜5時間、特に1〜3時間であってもよい。
【0107】
硬化のための照射光および照射時間は、硬化が達成される限り特に限定されない。
例えば、照射光は、活性エネルギー線であってもよい。
また例えば、照射光は、照射条件が200nm以上400nm以下の波長域の光で、照度が100〜500mW/cmおよび積算光量が100〜1000mJ/cmであってもよい。
【0108】
(転写方式)
積層体は、透明体上の塗料組成物を転写方式により基体に転写した後、硬化させることにより製造することができる。詳しくは、透明体に対して塗料組成物を塗布する。この透明体を、その塗料組成物塗布面が基体と接触するように、基体に対して積層した後、光の照射を透明体側から行う。これにより、塗料組成物が硬化するとともに、塗料組成物が基体に転写される。この後、透明体を剥離することにより、基体上に吸湿膜が形成され、積層体を得ることができる。
【0109】
転写方式における塗料組成物の塗布工程は、塗料組成物を透明体に塗布すること以外、直接塗布方式における塗料組成物の塗布工程と同様である。透明体は、硬化工程において照射光を透過できる限り特に限定されず、例えば、ガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル等から構成されていてもよい。透明体の厚みは、剥離可能な限り特に限定されず、例えば、100μm〜50mmであってもよい。
【0110】
転写方式における塗料組成物の硬化工程は、光照射を透明体側から行うことにより硬化を行うこと以外、直接塗布方式における塗料組成物の硬化工程と同様である。
【0111】
(蒸着方式)
積層体は、塗料組成物を基体に蒸着法により蒸着させた後、硬化させることにより製造することができる。詳しくは、基体に対して塗料組成物を蒸着法により蒸着させた後、塗料組成物を硬化させて吸湿膜を形成し、積層体を得ることができる。
【0112】
塗料組成物の蒸着工程において、蒸着方法としては、例えば、化学蒸着(CVD)法等が挙げられる。
【0113】
蒸着方式における塗料組成物の硬化工程は、直接塗布方式における塗料組成物の硬化工程と同様である。
【0114】
(積層体)
積層体は、基体および当該基体の少なくとも一部の表面に形成された吸湿膜を有する。吸湿膜は基体の一部の表面に形成されていてもよいし、基体の片面全面に形成されていてもよいし、または基体の全表面に形成されていてもよい。
【0115】
基体は、吸湿膜を形成可能な限り、特に限定されない。基体は、例えば、無機材料から構成されていてもよいし、有機材料から構成されていてもよいし、または無機材料と有機材料との複合材料から構成されていてもよい。
【0116】
無機材料は、特に限定されず、あらゆる無機材料であってもよい。無機材料として、例えば、ガラス、金属、セラミックス等が挙げられる。
【0117】
有機材料は、特に限定されず、あらゆる熱硬化性ポリマーおよび/または熱可塑性ポリマーであってもよい。吸湿膜形成時の耐熱性の観点からは通常、熱硬化性ポリマーが使用される。
【0118】
熱硬化性ポリマーとしては、熱硬化性を有するあらゆるポリマーが使用可能である。例えば、以下のポリマーおよびそれらの混合物が挙げられる:
フェノール樹脂;
エポキシ樹脂;
メラミン樹脂;および
尿素樹脂。
【0119】
熱可塑性ポリマーとしては、熱可塑性を有するあらゆるポリマーが使用可能である。例えば、以下のポリマーおよびそれらの混合物が挙げられる:
ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂およびそれらの変性物;
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリ乳酸(PLA)などのポリエステル系樹脂;
ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)などのポリアクリレート系樹脂;
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンエーテル(PPE)などのポリエーテル系樹脂;
ポリアセタール(POM);
ポリフェニレンサルファイド(PPS);
PA6、PA66、PA11、PA12、PA6T、PA9T、MXD6などのポリアミド系樹脂(PA);
ポリカーボネート系樹脂(PC);
ポリウレタン系樹脂;
フッ素系ポリマー樹脂;および
液晶ポリマー(LCP)。
【0120】
基体は、吸湿膜形成時の焼成に対する耐熱性の観点から、無機材料および/または熱硬化性ポリマーから構成されていることが好ましく、無機材料から構成されていることがより好ましい。
【0121】
基体は、吸湿膜の硬化収縮に対する機械的強度の観点から、1GPa以上、好ましくは2GPa以上のヤング率(引張弾性率)を有することが好ましい。基体のヤング率の上限値は特に限定されない。
【0122】
本明細書中、ヤング率はISO14577に準拠して測定された値を用いている。
【0123】
基体は、吸湿膜の硬化収縮に対する機械的強度の観点から、基体の厚み/吸湿膜の厚み≧10の関係式を満たすことが好ましく、より好ましくは基体の厚み/吸湿膜の厚み≧100の関係式を満たす。
【0124】
基体の厚みは通常、100μm以上であり、好ましくは500μm以上、より好ましくは1000μm以上である。基体の厚みの上限値は特に限定されず、基体の厚みは、例えば10cm以下であってもよい。
【0125】
吸湿膜は、上記したシラン系塗料組成物の硬化により形成される架橋ポリシロキサン膜である。
【0126】
吸湿膜の厚みは通常、1μm以上であり、好ましくは10μm以上、より好ましくは100μm以上である。吸湿膜の厚みの上限値は特に限定されず、吸湿膜の厚みは、例えば1000μm以下であってもよい。
【0127】
積層体は、例えば、後述のようなウィンドウ部材として使用される場合、20%以下のヘイズを有することが好ましく、より好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下、さらに好ましくは4%以下、さらに好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下のヘイズを有するである。この場合における積層体のヘイズの下限値は特に限定されない。
【0128】
積層体のヘイズは、吸湿膜単独のヘイズではなく、吸湿膜および基体のヘイズである。ヘイズはJIS R 3212に従って測定された値を用いている。
【0129】
積層体は、例えば、後述のようなウィンドウ部材として使用される場合、75%以上の可視光透過率を有することが好ましく、85%以上の可視光透過率を有することがより好ましい。この場合における積層体の可視光透過率の上限値は特に限定されない。
【0130】
積層体の可視光透過率は、吸湿膜単独の可視光透過率ではなく、吸湿膜および基体の可視光透過率である。可視光透過率はJIS R 3212により測定された値を用いている。
【実施例】
【0131】
(実施例A1)
シラン(Ia)、蒸留水ならびにエタノールは表1に記載の比率および量で使用した。
シラン(Ia)は、商品名「3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン」(信越化学工業社製)(前記式(Ia−2)に相当する)を用いた。
【0132】
操作方法の詳細は以下の通りであった。
(1)準備工程:
100mlの四口フラスコとガラス撹拌棒と撹拌羽の重さを計測し、フラスコをクランプで固定した。
【0133】
(2)シラン溶液の調製工程:
本工程はフロー方式の不活性気体雰囲気下で実施した。
詳しくは、気体導入管より、窒素発生装置から生成した窒素ガスをフラスコ内に流しながら、本工程を実施した。このような方法により、露点が−5℃以下になるようにした。
より詳しくは、シリカゲルを充填した乾燥管を通した窒素ガス(本明細書中、「乾燥窒素ガス」と略す)をフラスコ内に流しながら、本工程を実施した。
さらに詳しくは、フラスコを、オイルバスを用いて50℃に加熱しながら、気体導入管より、乾燥窒素ガスをフラスコ内に流し、装置内を乾燥させた。
このような方法により、装置内における不活性気体の露点が−5℃以下になるようにした。
その後、オイルバスをはずし、室温(20℃)まで冷却した。
なお、器具の乾燥、仕込み、及び反応の際は、気体導入管より、360ml/分で乾燥窒素ガスを流しながら、以下の処理を行った。
シラン(Ia)をパスツールでフラスコに添加した。その後、サンプル瓶にエタノールを量りとり、そのおおよそ半分をフラスコに添加した。氷浴中で150rpmにて15分撹拌した。他方、サンプル瓶に蒸留水を量りとり、このサンプル瓶に先ほどの残りのエタノールを添加した。この溶液を、氷浴中、フラスコに5分間かけて添加し、得られたシラン溶液を10分撹拌した。
【0134】
(3)縮合工程:
本工程もまた、シラン溶液の調製と同様のフロー方式の不活性気体雰囲気下で実施した。詳しくは、気体導入管より乾燥窒素ガスをフラスコ内に流しながら、以下の処理を行った。
シラン溶液の調製工程で得られたシラン溶液を、室温(20℃)で10分撹拌した後、80℃のオイルバス中で3時間撹拌した。撹拌後、オイルバスから出し、室温(20℃)に戻るまで放置し、粘性液体を得た。粘性液体の重量を測定し、収量を算出した。粘性液体をエタノールで20重量%で溶解させて塗料組成物を得た。オイルバスの設定温度は80℃であり、反応液の温度は78〜80℃であった。
塗料組成物におけるシラン縮合物、有機溶媒の含有量それぞれは、塗料組成物全量に対して、20重量%および80重量%であった。
【0135】
(4)硬化工程:
縮合工程で得られた塗料組成物を、IPA(イソプロピルアルコール)で脱脂したガラス基板にバーコータ(wet膜厚:120μm)により塗布し、60℃で2時間、180℃で30分加熱し、シロキサンコート吸湿膜を有する積層体を得た。
【0136】
(実施例A2〜A4)
硬化工程における180℃での加熱時間を表1に示すように変更したこと以外、実施例A1と同様の方法により、粘性液体(および塗料組成物)および積層体を得た。
【0137】
(比較例A1)
シラン溶液の調製工程および縮合工程を、不活性気体雰囲気ではなく、周囲環境への開放系雰囲気で実施したこと以外、実施例A1と同様の方法を実施した。
【0138】
(比較例A2)
シラン溶液の調製工程および縮合工程を、不活性気体雰囲気ではなく、周囲環境への開放系雰囲気で実施したこと、シラン溶液の調製工程において氷浴の代わりに、20℃の水による温浴を用いたこと以外、実施例A1と同様の方法を実施した。
【0139】
(比較例A3)
シラン溶液の調製工程において氷浴の代わりに、20℃の水による温浴を用いたこと以外、実施例A1と同様の方法を実施した。
【0140】
(実施例B1)
シラン溶液の調製工程における仕込み量を表2に示すように変更したこと以外、実施例A1と同様の方法により、粘性液体(および塗料組成物)および積層体を得た。
なお、シラン(Ia)および(IIa)、蒸留水ならびにエタノールは表2に記載の比率および量で使用した。
シラン(Ia)は、商品名「3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン」(信越化学工業社製)(前記式(Ia−3)に相当する)を用いた。
シラン(IIa)は商品名「KBM−22」(化学名:ジメチルジメトキシシラン、信越化学工業社製)前記式(IIa−1)に相当する)を用いた。
【0141】
実施例B1の塗料組成物における特性値は以下の通りであった。
塗料組成物におけるシラン縮合物、有機溶媒の含有量それぞれは、塗料組成物全量に対して、20重量%、80重量%であった。
【0142】
(比較例B1)
シラン溶液の調製工程および縮合工程を、不活性気体雰囲気ではなく、周囲環境への開放系雰囲気で実施したこと以外、実施例B1と同様の方法を実施した。
【0143】
(比較例B2)
シラン溶液の調製工程および縮合工程を、不活性気体雰囲気ではなく、周囲環境への開放系雰囲気で実施したこと、シラン溶液の調製工程において氷浴の代わりに、20℃の水による温浴を用いたこと以外、実施例B1と同様の方法を実施した。
【0144】
(実施例C1)
シラン溶液の調製工程における仕込み量を表2に示すように変更したこと以外、実施例A1と同様の方法により、粘性液体(および塗料組成物)および積層体を得た。
なお、シラン(Ia)、蒸留水ならびにエタノールは表2に記載の比率および量で使用した。
シラン(Ia)は、商品名「3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン」(信越化学工業社製)(前記式(Ia−2)に相当する)及び、シラン商品名「3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン」(信越化学工業社製)(前記式(Ia−4)に相当する)を用いた。
【0145】
実施例C1の塗料組成物における特性値は以下の通りであった。
塗料組成物におけるシラン縮合物、有機溶媒の含有量それぞれは、塗料組成物全量に対して、20重量%、80重量%であった。
【0146】
(比較例C1)
シラン溶液の調製工程および縮合工程を、不活性気体雰囲気ではなく、周囲環境への開放系雰囲気で実施したこと以外、実施例C1と同様の方法を実施した。
【0147】
(比較例C2)
シラン溶液の調製工程および縮合工程を、不活性気体雰囲気ではなく、周囲環境への開放系雰囲気で実施したこと、シラン溶液の調製工程において氷浴の代わりに、20℃の水による温浴を用いたこと以外、実施例C1と同様の方法を実施した。
【0148】
(実施例D1)
シラン溶液の調製工程における仕込み量と調整工程と縮合工程を表3に示すように変更したこと以外、実施例A1と同様の方法により、粘性液体(および塗料組成物)および積層体を得た。
なお、シラン(Ia)、蒸留水ならびにエタノールは表3に記載の比率および量で使用した。
シラン(Ia)は、商品名「3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン」(信越化学工業社製)(前記式(Ia−3)に相当する)を用いた。
【0149】
操作方法の詳細は以下の通りであった。
(1)準備工程:
100mlの四口フラスコとガラス撹拌棒と撹拌羽の重さを計測し、フラスコをクランプで固定した。
【0150】
(2)シラン溶液の調製工程:
本工程は非フロー方式の不活性気体雰囲気下で実施した。
詳しくは、気体導入管より、窒素発生装置から生成した窒素ガスをフラスコ内に流しながら、本工程を実施した。このような方法により、露点が−5℃以下になるようにした。
より詳しくは、気体導入管より、シリカゲルを充填した乾燥管を通したアルゴンガス(本明細書中、「乾燥アルゴンガス」と略す)でフラスコ内を置換させただけの雰囲気下で、本工程を実施した。
さらに詳しくは、フラスコを、オイルバスを用いて50℃に加熱しながら、気体導入管より、乾燥アルゴンガスをフラスコ内に流し、装置内を乾燥させた。このような方法により、装置内における不活性気体の露点が−5℃以下になるようにした。
その後、オイルバスをはずし、室温(20℃)まで冷却した。なお、器具の乾燥、仕込み、及び反応の際は、乾燥アルゴンガスを流し続けることなく、閉系乾燥アルゴンガス雰囲気下で、以下の処理を行った。
シラン(Ia)をパスツールでフラスコに添加した。その後、サンプル瓶にエタノールを量りとり、そのおおよそ半分をフラスコに添加した。氷浴中で150rpmにて15分撹拌した。他方、サンプル瓶に蒸留水を量りとり、このサンプル瓶に先ほどの残りのエタノールを添加した。この溶液を、氷浴中、フラスコに5分間かけて添加し、得られたシラン溶液を10分撹拌した。
【0151】
(3)縮合工程:
シラン溶液の調製工程で得られたシラン溶液を、不活性気体雰囲気下、室温(20℃)で10分撹拌した後、100℃のオイルバス中で5時間撹拌および加熱還流した。撹拌後、オイルバスから出し、室温(20℃)に戻るまで放置した。放置後、エタノールと水をエバポレーターにより除去し、粘性液体を得た。粘性液体の重量を測定し、収量を算出した。加熱還流を行ったため、反応液の温度は78℃であった。粘性液体をエタノールで20重量%で溶解させて塗料組成物を得た。
塗料組成物におけるシラン縮合物、有機溶媒の含有量それぞれは、塗料組成物全量に対して、20重量%、80重量%であった。
【0152】
(4)硬化工程:
縮合工程で得られた塗料組成物を、IPA(イソプロピルアルコール)で脱脂したガラス基板にバーコータ(wet膜厚:120μm)により塗布し、60℃で2時間、180℃で30〜120分加熱し、シロキサンコート吸湿膜を有する積層体を得た。
【0153】
(実施例D2〜D4)
シラン溶液の硬化工程における加熱時間を表3に示すように変更したこと以外、実施例D1と同様の方法により、粘性液体(および塗料組成物)および積層体を得た。
【0154】
(比較例E1)
ガラス容器にポリビニルアルコール(東京化成工業株式会社製)および蒸留水を添加し、混合した。
混合して得られた溶液にスターラチップを入れ、栓をして、30分間撹拌し、塗料組成物を得た。
IPA(イソプロピルアルコール)で脱脂したガラス基板に、バーコータ(wet膜厚:120μm)で、塗料組成物を塗布した。
塗膜を有するガラス基板を乾燥(70℃×3時間)してポリビニルアルコール(PVA)樹脂吸湿膜を形成し、積層体を得た。
【0155】
(比較例E2)
シラン溶液の調製工程における仕込み量を表3に示すように変更したこと、蒸留水を塩酸(濃度:10w/w%)に変更したこと以外、実施例A1と同様の方法により、粘性液体(および塗料組成物)および積層体を得た。なお、シラン(IIa)は商品名「KBE−13」(モノメチルトリエトキシシラン、信越化学工業社製)前記式(IIa−6)に相当する)を用いた。
【0156】
(実施例F1〜F8および比較例F1〜F2)
縮合工程および硬化工程を表4に示すように変更したこと以外、実施例D1と同様の方法により、粘性液体(および塗料組成物)および積層体を得た。ガラス基板のヘイズ値は0.1以下であった。
【0157】
(実施例F9)
縮合工程を、実施例A1の縮合工程と同様の方法により行ったこと以外、実施例F1と同様の方法により、粘性液体(および塗料組成物)および積層体を得た。
【0158】
(吸湿性)
各積層体における吸湿膜の吸水率を以下の方法により測定した。
詳しくは、湿度20%RH環境下で、吸水膜を有するガラス基板(以下、サンプルという)の重量を天秤で測定し、予め測定していたガラス基板のみの重量から、吸湿膜の重量を算出した。
サンプルを、95%RH(設定温度:30℃)の恒温恒湿環境下で1〜2時間保持した後、サンプルの重量変化を天秤で測定し、吸湿膜の吸水量とした。
吸湿膜の重量および吸湿膜の吸水量から、以下の式に基づいて、吸水率を算出した。
【0159】
【数1】
【0160】
吸湿性を吸水率に基づいて評価を行った。
◎:0.35≦吸水率(最良);
○:0.30≦吸水率<0.35(良);
△:0.15≦吸水率<0.30(実用上問題なし);
×:吸水率<0.15(実用上問題あり)。
【0161】
(耐傷付性)
各積層体における吸湿膜の傷抵抗値を以下の方法により測定した。
詳しくは、押し込み圧子を用いたスクラッチ試験を行い、耐傷付性能評価を行った。スクラッチ後の傷の形状を観測し、傷の深さを塑性変形深さと定義し、これを耐傷付性能パラメータとして取り扱う。スクラッチ試験は、Agilent Technologies社製 Nano Indenter G200を使用した。耐傷付性能は、式(1)で定義しており、傷抵抗値として扱う。傷抵抗値が高い程、耐傷付性が高く、傷つきにくいことを意味している。
【0162】
【数2】
【0163】
耐傷付性を傷抵抗値に基づいて評価を行った。
◎:2.35×10≦傷抵抗値(最良);
○:1.50×10≦傷抵抗値<2.35×10(良);
△:1.00×10≦傷抵抗値<1.50×10(実用上問題なし);
×:傷抵抗値<1.00×10(実用上問題あり)。
【0164】
(縮合工程後の溶液の外観)
縮合工程で得られた溶液としての塗料組成物の外観を目視により評価した。
「透明◎」な溶液は、縮合工程で、脱水縮合反応(すなわちシロキサン結合が形成される反応)の暴走が十分に抑制されていることを意味する。
「不透明×」な溶液は、縮合工程で、脱水縮合反応(すなわちシロキサン結合が形成される反応)が暴走し、十分に抑制されていないことを意味する。
【0165】
(硬化工程後の状態)
硬化工程後に得られた吸湿膜の外観を目視により評価した。
「きれいな膜◎」は、ハジキのない膜のことであり、吸湿膜の焼成段階で、脱水縮合反応(すなわちシロキサン結合が形成される反応)の暴走が十分に抑制されていることを意味する。
「ハジキ×」は、ハジキが生じた膜を意味し、吸湿膜の焼成段階で、脱水縮合反応(すなわちシロキサン結合が形成される反応)が暴走し、十分に抑制されていないことを意味する。
【0166】
(表面平滑性)
表面平滑性は、表4の実施例および参考例のみについて評価した。
吸湿膜の表面粗さ(Ra)を、ミツトヨ製SV−C4000CNC(検出器S−3000)により測定した。Raが小さいほど、表面が平らで滑らかであることを示している。
【0167】
表面平滑性を表面粗さ(Ra)に基づいて評価した。
◎:Ra≦0.6(最良);
○:0.6<Ra≦3.0(良);
△:3.0<Ra≦4.0(実用上問題なし);
×:4.0<Ra(実用上問題あり)。
【0168】
(透明性)
透明性は、表4の実施例および参考例のみについて評価した。
吸湿膜の透明性を積層体の透明性として評価した。
積層体の透明性をヘイズ値にて評価した。ヘイズ値は、(株)日立製作所製 分光光度計「U−4000」を用いて測定した。ヘイズ値が大きいほど、曇りや濁りが強いことを示している。試験片(すなわち、積層体)に光を当て、全光透過率(Tt)と拡散光の透過率(拡散透過率:Td)を求めた後、以下の式でヘイズ値を算出した。
【0169】
【数3】
【0170】
透明性をヘイズ値に基づいて評価した。
◎:ヘイズ値≦4.0(最良);
○:4.0<ヘイズ値≦15.0(良);
△:15.0<ヘイズ値≦20.0(実用上問題なし);
×:20.0<ヘイズ値(実用上問題あり)。
【0171】
(モノマー反応率)
塗料組成物のモノマー反応率を測定した。
モノマー反応率は、測定対象となる化合物(シラン縮合物)を重クロロホルムに溶解させたサンプルを用いて、H−NMR(400MHz、Varian製)により測定した。モノマー反応率を、エトキシ基部分のピーク1.20ppmと3.80ppmの積分値の減少量から、以下の式に基づいて算出した。標準物質はテトラメチルシラン(TMS)とした。
【0172】
【数4】
【0173】
モノマー反応率を以下の基準に基づいて評価した。
◎:81%≦モノマー反応率(最良);
○:70%≦モノマー反応率<81%(良);
△:50%≦モノマー反応率<70%(実用上問題なし);
×:モノマー反応率<50%(実用上問題あり)。
【0174】
【表1】
【0175】
【表2】
【0176】
【表3】
【0177】
【表4】
【0178】
実施例F1〜F9において、縮合工程で得られた塗料組成物の外観は「透明」であり、硬化工程後に得られた吸湿膜は「きれいな膜」であった。
【0179】
表4においては、塗料組成物の外観、吸湿膜の外観、ならびに吸湿膜の表面平滑性、透明性、吸湿膜および耐傷付性の全ての評価結果に基づいて全体評価を行った。
◎:全ての評価結果が◎であった(最良);
○:全ての評価結果のうち最低の評価結果が○であった(良);
△:全ての評価結果のうち最低の評価結果が△であった(実用上問題なし);
×:全ての評価結果のうち最低の評価結果が×であった(実用上問題あり)。
全体評価の結果はモノマー反応率の評価結果とよく一致していた。
【0180】
表1〜表4中において、「シラン溶液の調製工程」の欄における「不活性気体」および「温度」は以下の通りである。
「不活性気体」は、実際に使用した基体の種類を示し、純度99.9%以上の所定の不活性気体を用いた。
「温度」は、水を添加する直前の混合物の温度であり、実施例または比較例の各々において、「シラン溶液の調製工程」直後のシラン溶液の温度は、水を添加する直前の混合物の温度と同じであった。
【0181】
全ての実施例(実施例A1〜A4、B1、C1、D1〜D4およびF1〜F9)で得られたシラン縮合物の数平均分子量は1000〜3万の範囲内であった。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明の塗料組成物および積層体ならびにそれらの製造方法は、吸湿性(例えば防曇性および調湿性)が要求される、あらゆる用途で有用である。
例えば、本発明の塗料組成物を用いて形成された吸湿膜を有する積層体は、車両用部材として有用である。車両として、例えば、自動車、トラック、バスおよび電車等が挙げられる。車両用部材としては、例えば、ルーフウィンドウ、フロントウィンドウ、三角窓、リアウィンドウ、リアクオータウィンドウ、バックウインドウなどの車両用ウィンドウ部材等が挙げられる。
また例えば、本発明の塗料組成物を用いて形成された吸湿膜を有する積層体は、建築用部材として有用である。建築用部材としては、例えば、窓などのウィンドウ部材等が挙げられる。
【0183】
本発明のシラン系塗料組成物を用いて形成された吸湿膜を有する積層体は特に、車両用部材(例えば車両用ウィンドウ部材(特に車両用ウィンドウ))として使用されることが好ましい。このとき、本発明の塗料組成物を用いて形成された吸湿膜を有する積層体は、基体の片面全面(詳しくは基体(特にウィンドウ)の内装側全面)に吸湿膜を有することが好ましい。