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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-162640(P2021-162640A)
(43)【公開日】2021年10月11日
(54)【発明の名称】光変調器
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20210913BHJP
【FI】
   G02F1/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-62097(P2020-62097)
(22)【出願日】2020年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】坂井 猛
(72)【発明者】
【氏名】片岡 利夫
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA00
2K102DA04
2K102DB04
2K102DB05
2K102DC08
2K102DD05
2K102EA02
2K102EA08
2K102EA21
2K102EA22
(57)【要約】
【課題】
光分岐部又は光合波部を信号電極が横切る場合でも、伝送特性の劣化を抑制した光変調器を提供すること。
【解決手段】
基板に、光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調する変調電極とを形成し、該基板を筐体内に収容した光変調器において、該光導波路は、1つの光波を2つに分岐する光分岐部又は2つの光波を1つに合波する光合波部を少なくとも備え、該変調電極は、信号電極と接地電極とを有すると共に、該信号電極の一部が該光分岐部又は該光合波部を横切るように配置され、該光分岐部又は該光合波部を横切る該信号電極によって、該光分岐部で分岐する光波の強度比又は該光合波部で合波する光波の強度比が変化することを抑制するための抑制手段(例えば、樹脂層)を備えたことを特徴とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に、光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調する変調電極とを形成し、該基板を筐体内に収容した光変調器において、
該光導波路は、1つの光波を2つに分岐する光分岐部又は2つの光波を1つに合波する光合波部を少なくとも備え、
該変調電極は、信号電極と接地電極とを有すると共に、該信号電極の一部が該光分岐部又は該光合波部を横切るように配置され、
該光分岐部又は該光合波部を横切る該信号電極によって、該光分岐部で分岐する光波の強度比又は該光合波部で合波する光波の強度比が変化することを抑制するための抑制手段を備えたことを特徴とする光変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の光変調器において、該筐体に設けられ、該変調電極に電気信号を供給するインターフェース部は、該光分岐部又は該光合波部を通過する光波の伝搬方向であり該光分岐部又は該光合波部の線対称軸の延長線と、該筐体の側面とが交差する位置の近傍に形成されていることを特徴とする光変調器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光変調器において、該光分岐部又は該光合波部はY分岐部で構成され、
該Y分岐部は、シングルモードに対応する導波路幅Wを有する1本の入出力用導波路と、該入出力用導波路に接続し、導波路幅が前記Wよりも広い導波路幅で形成される変換用導波路と、該変換用導波路に接続する2つの分岐用導波路を有し、
該信号電極が該光分岐部又は該光合波部を横切る位置は、該変換用導波路又は、該変換用導波路から2つの該分岐用導波路の距離が該分岐用導波路を伝搬する光波のモードフィールド径の3倍まで離れるまでの範囲以内の該分岐用導波路の何れかであることを特徴とする光変調器。
【請求項4】
請求項3に記載の光変調器において、該抑制手段は、該光分岐部又は該光合波部と、該変調電極との間に設けられた樹脂層であることを特徴とする光変調器。
【請求項5】
請求項4に記載の光変調器において、変調電極と樹脂層とが重なった部分の長さは、変調信号の波長の10分の1以下に設定されていることを特徴とする光変調器。
【請求項6】
請求項3乃至5のいずれかに記載の光変調器において、該抑制手段は、該光分岐部又は該光合波部を通過する光波の伝搬方向であり該光分岐部又は該光合波部の線対称軸に沿って配置され、該線対称軸に対して対称な形状を有し、該信号電極が該光分岐部又は該光合波部を横切る位置では、該信号電極の幅が該分岐用導波路を伝搬する光波のモードフィールド径の3倍以上であることを特徴とする光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器に関し、特に、基板に形成した光導波路が光分岐部又は光合波部を有し、変調電極を構成する信号電極が、該光分岐部又は該光合波部を横切る構成を備えた光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野や光計測分野において、ニオブ酸リチウム(LN)などの電気光学効果を有する基板に、光導波路と該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極を形成した光変調器が多用されている。
【0003】
図1は、DP−QPSK変調器などの光変調器の一例を示す平面図であり、光導波路や変調電極を形成したLN基板が筐体内に収容されている。LN基板の入射側には光ファイバにより入力された光波が、入射コリメータ等を介してLN基板の光導波路に導入される。また、LN基板の出射側では、変調された光波が、偏波合成光学系や出射コリメータ等を介して出射側の光ファイバに導入され、光出力として出力される。
【0004】
LN基板の変調電極には、筐体側面に設けたRFコネクタなどを介して導入された電気信号が印加される。LN基板に電気信号を入力する際に、中継基板に形成した電気配線を利用することも可能である。また、LN基板に形成した電極には、DCバイアス電圧を印加するためのDC電極もある。筐体側面に形成したDCリードピンを介して、DCバイアスがLN基板のDC電極に供給される。
【0005】
図2は、LN基板の一例を示す平面図である。図2では、説明を簡略するため、LN基板上に形成される光導波路では、一つのマッハツェンダー型光導波路を形成・配置している。光導波路の形状はこれに限らず、一つの主マッハツェンダー型光導波路を構成する各分岐導波路に副マッハツェンダー型光導波路を入れ子状に組み込んだ、所謂、ネスト型光導波路も使用される。さらに、図1のDP−QPSK変調器などでは、一つの光導波路を2つに分岐し、分岐した各導波路にネスト型光導波路を接続した光導波路の構成も採用されている。
【0006】
図1図2に示すような光変調器では、外部から光導波路に供給される入射光(光入力)の位置と、外部から変調電極に供給される電気信号によって変調された光波が出射する出射光(光出力)の位置は、基板の長手方向の両端(長方形の基板の短辺部分)に配置されている。図2のLN基板には、光導波路と変調電極が形成されている。変調電極は、信号電極と接地電極とを有し、特に、信号電極は、基板の長手方向に沿った側面側(長方形の基板の長辺部分。図2のLN基板の下辺側)から導入され、同じ側面側又は対向する側面側から導出されている。信号電極の端部には電気信号(変調信号)を終端する終端器が接続されている。
【0007】
図2のような基板の長辺部分から信号電極を導入する場合には、特許文献1に示すように、信号電極はマッハツェンダー型光導波路の光分岐部や光合波部を避けて、分岐導波路の直線部分付近や入力導波路等を横切って配置されることが多い。この場合、信号電極が光導波路を横切る際に、Y分岐部等の光分岐部の光の強度比(分岐比)に影響を与えることはない。また同様に、光合波部での合波する光波の強度比(合波比)にも影響を与えることもない。
【0008】
他方、伝送する電気信号が高速(例えば、50GHz以上)になればなるほど、伝送損失が大きくなるため、所定の位相・タイミングで電気信号を発生することが可能なデジタル信号プロセッサ(Digital Signal Processor,DSP)から信号を増幅し変調器を駆動するためのドライバへ、さらにドライバからLN変調素子(LN基板の信号電極)へと電気信号を伝送する電気信号線路を短くする必要がある。
【0009】
伝送損失を少なくするためには、図3に示すように、DSP、ドライバ、光変調素子をほぼ一直線状に配置し、信号線路の長さや曲りを極力少なすることが求められる。また、光変調器の筐体内に、光変調素子であるLN基板だけでなく、ドライバ素子も併せて組み込む、所謂、集積化も行われている。
【0010】
これらを実施する場合、図2に示すような光変調器と異なり、電気信号をLN基板の長手方向に沿った長辺部分からではなく、図4(a)に示すように、LN基板の短辺部分から入力することにより、信号線路を短縮できると共に、信号線路を直線的に配置することが可能となる。
【0011】
特許文献2や図4(a)のようにLN基板の短辺部分(図4(a)のLN基板の右側の短辺)から電気信号を入力する場合には、信号電極は、マッハツェンダー型光導波路などの光分岐部を横切って配置されることが多くなる。このため、信号電極が光導波路を横切る際に、例えば、図4(b)に示すように、Y分岐部等の光分岐部を構成する2つの分岐用導波路の片方に電界が印加され、光の分岐比に影響を与えることとなる。図4(b)は図4(a)の点線A−A’における断面図である。
【0012】
また、後述するように光分岐部に接続する入力用導波路の真上に沿って信号電極が配置され、Y分岐部の中央を信号電極が横切る場合であっても、Y分岐部を構成する2つの分岐用導波路の分岐直後付近では、各分岐用導波路に異なる方向の変調電界が印加され、2つの分岐用導波路には異なる屈折率変化が発生する。このため、2つの分岐用導波路に分岐する光波の分岐比が変化する原因となる。
【0013】
DP−QPSK変調器の場合では、X偏波とY偏波に分岐する初段のY分岐部で分岐比が変動すると、X偏波とY偏波の損失差が変化することとなる。また、ネスト型光導波路のY分岐部の場合では、出力する信号光の消光比が変化することになり、何れの場合でも伝送特性の劣化の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2016−194577号公報
【特許文献2】特開2014−112219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、光分岐部又は光合波部を信号電極が横切る場合でも、伝送特性の劣化を抑制した光変調器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明の光変調器は、以下の技術的特徴を有する。
(1) 基板に、光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調する変調電極とを形成し、該基板を筐体内に収容した光変調器において、該光導波路は、1つの光波を2つに分岐する光分岐部又は2つの光波を1つに合波する光合波部を少なくとも備え、該変調電極は、信号電極と接地電極とを有すると共に、該信号電極の一部が該光分岐部又は該光合波部を横切るように配置され、該光分岐部又は該光合波部を横切る該信号電極によって、該光分岐部で分岐する光波の強度比又は該光合波部で合波する光波の強度比が変化することを抑制するための抑制手段を備えたことを特徴とする。
【0017】
(2) 上記(1)に記載の光変調器において、該筐体に設けられ、該変調電極に電気信号を供給するインターフェース部は、該光分岐部又は該光合波部を通過する光波の伝搬方向であり該光分岐部又は該光合波部の線対称軸の延長線と、該筐体の側面とが交差する位置の近傍に形成されていることを特徴とする。
【0018】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光変調器において、該光分岐部又は該光合波部はY分岐部で構成され、該Y分岐部は、シングルモードに対応する導波路幅Wを有する1本の入出力用導波路と、該入出力用導波路に接続し、導波路幅が前記Wよりも広い導波路幅で形成される変換用導波路と、該変換用導波路に接続する2つの分岐用導波路を有し、該信号電極が該光分岐部又は該光合波部を横切る位置は、該変換用導波路又は、該変換用導波路から2つの該分岐用導波路の距離が該分岐用導波路を伝搬する光波のモードフィールド径の3倍まで離れるまでの範囲以内の該分岐用導波路の何れかであることを特徴とする。
【0019】
(4) 上記(3)に記載の光変調器において、該抑制手段は、該光分岐部又は該光合波部と、該変調電極との間に設けられた樹脂層であることを特徴とする。
【0020】
(5) 上記(4)に記載の光変調器において、変調電極と樹脂層とが重なった部分の長さは、変調信号の波長の10分の1以下に設定されていることを特徴とする。
【0021】
(6) 上記(3)乃至(5)のいずれかに記載の光変調器において、該抑制手段は、該光分岐部又は該光合波部を通過する光波の伝搬方向であり該光分岐部又は該光合波部の線対称軸に沿って配置され、該線対称軸に対して対称な形状を有し、該信号電極が該光分岐部又は該光合波部を横切る位置では、該信号電極の幅が該分岐用導波路を伝搬する光波のモードフィールド径の3倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、基板に、光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調する変調電極とを形成し、該基板を筐体内に収容した光変調器において、該光導波路は、1つの光波を2つに分岐する光分岐部又は2つの光波を1つに合波する光合波部を少なくとも備え、該変調電極は、信号電極と接地電極とを有すると共に、該信号電極の一部が該光分岐部又は該光合波部を横切るように配置され、該光分岐部又は該光合波部を横切る該信号電極によって、該光分岐部で分岐する光波の強度比又は該光合波部で合波する光波の強度比が変化することを抑制するための抑制手段を備えているため、伝送特性の劣化を抑制した光変調器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来の光変調器の概略を示す平面図である。
図2】従来の光変調素子の概略を示す平面図である。
図3】DSP、ドライバ素子、光変調素子がほぼ直線状に配置される様子を説明する図である。
図4】信号電極が光導波路の光分岐部を横切る光変調素子の一例を説明する図である。(a)は平面図であり、(b)は(a)の点線A−A’における断面図である。
図5】光分岐部に使用されるY分岐部の一形状を説明する図である。
図6】本発明の光変調器に用いられる光変調素子の一例(その1)を説明する図である。(a)は平面図であり、(b)は(a)の点線A−A’における断面図である。
図7】本発明の光変調器に用いられる光変調素子の一例(その2)を説明する図である。(a)は平面図であり、(b)は(a)の点線A−A’における断面図である。
図8】本発明の光変調器の筐体内の様子を説明する平面図である。
図9】本発明の光変調器に用いられる光変調素子の一例(その3)を説明する図である。
図10】本発明の光変調器の筐体内の他の様子を説明する平面図である。
図11】本発明の光変調器に用いられる光変調素子の一例(その4)を説明する図である。
図12】本発明の光変調器に用いられる光変調素子の一例(その5)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の光変調器について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光変調器は、図6、7、9、11又は12に示すような、光導波路の光分岐部又は光合波部を信号電極が横切るよう構成された光変調器を対象としている。
具体的には、図6などに示すように、基板に、光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調する変調電極とを形成し、図8又は10に示すように、該基板を筐体内に収容した光変調器において、該光導波路は、1つの光波を2つに分岐する光分岐部又は2つの光波を1つに合波する光合波部を少なくとも備え、該変調電極は、信号電極と接地電極とを有すると共に、該信号電極の一部が該光分岐部又は該光合波部を横切るように配置され、該光分岐部又は該光合波部を横切る該信号電極によって、該光分岐部で分岐する光波の強度比又は該光合波部で合波する光波の強度比が変化することを抑制するための抑制手段を備えたことを特徴とする。
【0025】
本発明の光変調器に使用される基板としては、ニオブ酸リチウム(LN)などの電気光学効果を有する基板や、半導体基板などが利用可能である。光導波路については、例えば、LN結晶成長やLN基板加工により導波路を形成したり、LN基板にTiなどの金属を熱拡散して光導波路を形成するなどの公知の技術を利用することが可能である。また、電極については、例えば、金メッキ処理で電極を形成するなどの公知の技術を利用することが可能である。本発明の説明では、光導波路や電極が形成された基板(チップ)を「光変調素子」という場合もある。
【0026】
本発明の光変調器において、図3、8又は10に示すように、筐体内に配置される光変調素子の変調電極に電気信号を供給するため、該筐体に設けられるインターフェース部(図8又は10のRF/DCコネクタの特にRFコネクタ)は、光分岐部又は光合波部を通過する光波の伝搬方向(各図面の左右方向)であり該光分岐部又は該光合波部の線対称軸の延長線と、該筐体の側面とが交差する位置の近傍に形成されている。この結果、インターフェース部の外側近傍にDSPを配置し、筐体内のインタフェース部の内側近傍にドライバ素子を配置し、さらに、ドライバ素子のインターフェース部と反対側には、光変調素子を配置することができる。そして、DSPから光変調素子(変調電極)までを、より短い配線でほぼ直線状に接続することができ、電気信号の伝送損失を最小限に抑制することが可能となる。
【0027】
図8又は10では、インターフェース部であるRF/DCコネクタが筐体の短辺側に配置され、反対の短辺側には、光入力/光出力部が配置されている。光入力部は、筐体の長辺側(図面の下側の長辺側)に配置することも可能である。図8の場合は、光変調素子自体への光入力部分を基板の長辺側に配置し、筐体の光入力部から導入された光波は、空間光学系を介して光変調素子を構成する基板の光導波路に入射される。また、図10のように、光入力部と光出力部とを同じ基板の短辺側に配置し、後述する図11又は12のように、光入力部から光変調部(変調信号により光波が変調作用を受ける光導波路の部分)までの折り返し光路を基板内に形成した光導波路で構成することも可能である。
【0028】
基板内の光変調部では、図8又は10の右から左方向に光波が伝搬し、光変調作用を受けた後、基板端部から出射すると共に、偏波合成部を含む空間光学系で偏波合成され、光出力部から出射する。電気信号も基板内の変調電極(信号電極)を図8又は10の右から左に伝播する。筐体内のインターフェース部近傍には、ドライバ素子を含む中継基板が配置され、インターフェース部から中継基板、中継基板から光変調素子(基板)へと最短経路で変調信号が伝送されている。
【0029】
電気信号を伝搬する信号電極における伝送損失を抑制するためには、図4に示すように、信号電極の入力端子から光導波路と変調電極との相互作用部までがほぼ直線形状をしていることが必要となる。この結果、光導波路の光分岐部を信号電極が横切ることとなる。
【0030】
図5は、Y分岐部を利用した光分岐部の一例を示す拡大図であり、点線C1から右側の入力用導波路、点線C1からC2までの区間にある変換用導波路、点線C2から左側の分岐用導波路で光分岐部を構成している。光合波部の構成もY分岐部を採用することが可能であり、その際には、2つの分岐用導波路が変換用導波路に接続し、変換用導波路を介して、1つの出力用導波路に繋がっている。例えば、図5のY分岐部の光伝搬方向を逆方向(図の左から右に向かう方向)にした形状となる。以下では、光分岐部を中心に説明を行うが、光合波部の一部を信号電極が横切る場合にも、本発明を適用することで、合波する光波の強度比の変化を抑制することが可能となる。なお、図5ではY分岐部について示したが、他の光合分岐手段であるMMI(多モード干渉用導波路)やカプラー等にも、本発明は適用可能である。
【0031】
光分岐部は、シングルモードに対応する導波路幅Wを有する入力用導波路と、該入力用導波路に接続し、導波路幅が前記Wと同じとなる一方の端部から、前記Wよりも広い導波路幅を有する他方の端部との間に形成される変換用導波路と、該変換用導波路に接続する2つの分岐用導波路から構成されている。本発明では、信号電極が光分岐部を横切る位置が、変換用導波路又は、変換用導波路から2つの分岐用導波路の距離Dが分岐用導波路を伝搬する光波のモードフィールド径の3倍まで離れるまでの範囲以内の該分岐用導波路の何れかの場合には、光分岐部の光波の分岐比が、所望の設定値、例えば、1対1から変化することを見出して、本発明の光変調器を完成させている。
【0032】
図5に示す、点線C1から点線C3の範囲(距離Dは分岐用導波路を伝搬する光波のシングルモードのモードフィールド径の3倍)以内を信号電極が光導波路を横切る場合には、光分岐部の光波の分岐比が設定値(例えば、1対1)から変化し易い。なお、本発明において、「信号電極が光分岐部又は光合波部を横切る」ことの意味は、図5に示すY分岐部の点線C1から点線C3の範囲内に信号電極が配置されることを意味している。
【0033】
分岐比の変化を抑制するためには、図6に示すように、光分岐部を構成する光導波路と変調電極(信号電極と接地電極(GND))との間に、抑制手段として樹脂層を設けている。樹脂層としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂等の樹脂であり、一例として、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、アミノ系樹脂、エポキシ系樹脂等がある。また、樹脂層は、例えば永久レジストを用いることができ、熱硬化型の樹脂を材料とするフォトレジスト材料が利用可能である。光変調素子の製造工程において、スピンコートにより基板上に樹脂層を塗布し、通常のフォトリソグラフィプロセスによってパターニングを行った後に熱硬化させることで、変調電極と基板との間に樹脂層を配置することができる。さらに、樹脂層の屈折率は、光導波路のコア部の光屈折率より低くなるよう選択する必要がある。
【0034】
また、永久レジストを利用することにより、容易にパターニング可能であること、厚さ3〜5μmと厚く成膜できることなどの利点がある。本発明の構成において基板表面にバッファ層(SiO膜)を入れても良いが、バッファ層は厚さ1μm程度と薄く、本発明のような効果を得ることはできない。
【0035】
図6(b)は、図6(a)の点線A−A’における断面図を示したものである。図6(b)に示すように、抑制手段としての樹脂層を配置することで、信号電極と接地電極との間に形成される電界が、一方の分岐用導波路(図6(b)の右側の光導波路)に印加されるのを抑制している。これにより、光分岐部を構成する分岐用導波路に、余分な電界が印加されず、分岐する光波の分岐比が変化することが抑えられる。なお、樹脂層は、信号電極、又は信号電極と接地電極が光導波路を横切る場所に局所的に設けても良いし、変調電極やDC電極などの電極が形成する電界と光導波路とが相互作用する作用部を除き、基板表面に広く形成することも可能である。
【0036】
図6のように、信号電極を含む変調電極の伝送路の途中に樹脂層を配置する場合には、樹脂層が存在する部分と樹脂層が存在しない部分とでは、変調電極の特性インピーダンスが変化する。変調電極と樹脂層とが重なった部分の長さが、変調信号の波長の10分の1以下であれば、特性インピーダンスの変化の影響は極めて少ないが、それよりも長くなる場合には、特性インピーダンスの変化を抑制する工夫が必要となる。具体的には、樹脂層上の信号電極の幅を、他の部分と比較して、広くしたり、樹脂層上の信号電極と接地電極とのギャップ幅を、他の部分と比較して、狭くすることが考えられる。また、信号電極の幅やキャップ幅を変化させる場合には、変化する部分をテーパー形状で連続的に調整してもよい。
【0037】
図7は、図6のマッハツェンダー型光導波路の入力用導波路に重なるように信号電極を配置した場合を示している。また、図7(b)は図7(a)の点線A−A’における断面図を示しており、特に、図7(b)は、光分岐部を構成する分岐用導波路が分岐した直後の様子を示している。このような分岐用導波路が近接して配置されている状況であっても、抑制手段としての樹脂層を配置することにより、2つの分岐用導波路の各々に異なる電界(異なる方向の電界が作用する場合を含む)が作用することが抑制され、2つの分岐用導波路において異なる屈折率変化が発生することが防止される。その結果、2つの分岐用導波路に分岐する光波の分岐比が変化することが抑制される。
【0038】
図9は、本発明の光変調器に使用可能な光変調素子の他の例である。なお、図9の基板に形成される光導波路の入力部は、基板の長辺側に設けられており、図8のように、基板の長辺側に光波の入力部を備える光変調器には、好適に用いることが可能である。
【0039】
図9の光変調素子の主な特徴は、光分岐部に重なるように配置した信号電極の形状である。図9は、光分岐部を通過する光波の伝搬方向であり該光分岐部の線対称軸Eに沿って配置され、該線対称軸Eに対して対称な形状を有する信号電極を用いた例を示している。上述した線対称軸に対して対称な形状を信号電極が有しているため、光分岐部における分岐比に与える影響も、線対称軸を挟んでほぼ同じとなるため、分岐比が例えば1対1から変化することが抑制される。なお、図9では、中継基板にドライバ素子(DRV)が配置された様子を図示している。
【0040】
図9では、信号電極の幅が変化しており、入力用導波路上よりも光導波路との作用部の方が狭くなるよう設定されている。信号電極の形状として、特に重要なことは、信号電極が光分岐部を横切る位置では、信号電極の幅が、図5に示す、分岐用導波路を伝搬する光波のモードフィールド径の3倍(符号D)以上であることである。このように幅の広い信号電極を用いて光分岐部(Y分岐部)を横切ることで、導波路に印加される電界が分散されるため、分岐比等の変化を抑制する抑制手段として機能することが可能となる。
【0041】
また、信号電極を途中で2つに分け、その後合流するように構成し、2つに分かれた部分で光分岐部(Y分岐部)の変換用導波路等を迂回するように信号電極を配置することも可能である。当然、光分岐部を横切る分岐した信号電極の間隔は、図5の符号Dよりも広いことが好ましい。
【0042】
図9のような信号電極を用いる場合であっても、光導波路と変調電極とが重なった場所には、図6又は7に示すような樹脂層を配置することが可能である。これにより、さらに、光分岐部の分岐比に与える影響を抑制することが可能となる。
【0043】
図7又は図9では、マッハツェンダー型光導波路の特に入力用光導波路及びそれに続く分岐用導波路の一部に対して、信号電極や接地電極を対称に配置している。このように、光導波路に対して信号電極等の電極(DCバイアス電極を含む)を対称に配置することで、光導波路に加わる内部応力が均一化又は対称化し、光変調素子の温度変動によるDCドリフトの発生を抑制することが可能となる。
【0044】
図10に示すように、光変調素子を構成する基板の一方の短辺側から光波を入出力する場合について、さらに詳細に説明する。図11及び12は、図10の光変調素子の具体例であり、光導波路として4つのマッハツェンダー型光導波路を並列に配置した、2つのネスト型光導波路を用いている。また、各ネスト型光導波路で変調された光波は、基板外の偏波合成部を介して偏波合成して出力される。
【0045】
図11及び12では、基板の同じ短辺側に光波の入出部を配置するため、基板内に入力した光波を折り返すための光導波路が形成されている。また、図11及び12では、基板の他の短辺側から複数の電気信号(変調信号)が入力されている。また、信号電極の終端部には、終端抵抗などを含む終端器が接続され、電気信号の反射が抑制されている。終端器は、基板の2つの長辺側に分かれて配置されているが、一方の長辺側に集約することも可能である。さらに、フリップチップボンディング等を利用して基板上に配置することも可能である。
【0046】
図11の光変調素子では、図6と同様に、4つのマッハツェンダー型光導波路に対し、光分岐部の入力用導波路と信号電極(RF信号電極)とが重なるのを避けながら、光分岐部を信号電極が横切る場合を示している。また、図12の光変調素子では、図7と同様に、4つのマッハツェンダー型光導波路に対し、光分岐部の入力用導波路と信号電極(RF信号電極)とが重なるように配置しながら、光分岐部を信号電極が横切る場合を示している。図11及び12においても、光分岐部を信号電極(RF信号電極)が横切る位置に樹脂層を配置し、分岐比が変化することを抑制している。なお、光導波路をRF信号電極やDC信号電極が横切る他の位置においても、樹脂層を配置し、不要場所で信号電極の電界が光導波路に印加されることや、光導波路を伝搬する光波が信号電極に吸収されることを抑制することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、光分岐部又は光合波部を信号電極が横切る場合でも、伝送特性の劣化を抑制した光変調器を提供することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12