【解決手段】本発明の一態様に係る、ニッケル水素二次電池集電体用Niめっき鋼箔は、質量%で、C:0.0001〜0.0200%、Si:0.0001〜0.0200%、Mn:0.005〜0.300%、P:0.001〜0.020%、S:0.0001〜0.0100%、Al:0.0005〜0.1000%、N:0.0001〜0.0040%を含み、Ti:0.800%以下、Nb:0.050%以下の1種又は2種を含み、残部がFe及び不純物からなり、両面のNiめっき層の厚みはそれぞれ、0.15μm以上、Niめっき鋼箔の厚みは5μm〜50μm、伸びが3%以上、引張強度が400MPa以上1000MPa以下、表面欠陥面積率がNiめっき鋼箔の第1面及び第2面ともに5.00%以下である。
前記Niめっき鋼箔の前記第1面及び前記第2面の前記Niめっき層の厚みが、それぞれ、0.20μm以上1.50μm以下である請求項1又は2に記載のニッケル水素二次電池集電体用Niめっき鋼箔。
正極集電体上に、正極活物質層、セパレータ、負極活物質層及び負極集電体が順次積層されてなるニッケル水素二次電池であって、前記正極集電体及び前記負極集電体の少なくとも一方が、請求項4に記載のニッケル水素二次電池集電体である、ニッケル水素二次電池。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンや携帯電話など電子機器の急激な普及に伴い、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池、さらにはリチウムポリマー二次電池など大量の充放電可能な電池が使用されている。特に、ニッケル水素二次電池は高エネルギー密度を有するため、移動体通信、携帯用情報端末用電源として利用されている。また、ニッケル水素二次電池は、エネルギー密度や出力特性は中庸であるが、信頼性や安全性、コスト面で有利であり、近年は、車載用にも実用化されており、その市場が急速に伸びている。それに伴い、小型化、軽量化を、さらに追及するため、機器の中で大きな容積を占める電池に対し、さらなる小型化、軽量化のための性能改善が求められている。
【0003】
このような二次電池の基本構造は、箔状の金属集電体に可逆的に電気化学反応を起こす物質、いわゆる活物質を塗布した電極、正極及び負極を分離するセパレータ、電解液並びに電池ケースからなっている。ニッケル水素二次電池では、ニッケルフォームを集電体もしくは芯体として用いるのが一般的であるが、ニッケルフォームは複雑な製造工程を経て多孔質体を形成するため、高価である。また、集電体もしくは芯体自体は電池容量に直接寄与しない。そのため、最近の高容量化の要求に応えることを目的に、集電体に安価でかつ薄い金属箔を用いることが検討され始めている。
【0004】
上記にあげる箔状の金属集電体として、鉄系の箔が従来提案されている。鉄は、銅に比較すると電気抵抗が大きいが、近年の電池構造の工夫とともに、電池の用途、要求特性の多様化から、電気抵抗が必ずしも問題とはならなくなってきている。
【0005】
負極集電体に鉄箔を用いるものとしては、特許文献1に、厚さ35ミクロン以下の電解鉄箔を、リチウム二次電池の負極の集電体に用いることが提案されている。また、防錆性の観点から、Niめっきされた電解鉄箔を用いることも提案されている。
【0006】
特許文献2には、鉄箔又はNiめっきを施した鉄箔の表面に三二酸化鉄を形成してなる金属箔を、リチウム二次電池等の非水電解質二次電池の負極集電体に用いることが提案されている。しかし、この鉄系金属箔は過放電時のFe溶出が避けられないとともに、負極電位での副反応が起き易く、結果として、電池の効率や寿命を阻害し易い。
【0007】
特許文献3、4には、リチウムイオン二次電池等の非水系電解液二次電池の負極集電体に用いることができる鋼箔が提案されている。これらの鋼箔は、薄くて強度があり、軽量で経済的であり、防錆性、過放電時の耐金属イオン溶出性、負極電位での安定性に優れた負極集電体用高強度鋼箔であることが記載されている。
【0008】
以上の特許文献に記載されているように、鋼箔は、薄くて強度があり、軽量で経済的であり、防錆性、過放電時の耐金属イオン溶出性、負極電位での安定性を有しており、リチウムイオン二次電池の負極集電体用として優れていることがわかっている。
しかし、これらの特許文献で提案されている鉄箔、鋼箔はいずれも、リチウムイオン二次電池用であり、ニッケル水素二次電池の集電体用ではない。
【0009】
特許文献3、4に記載されている鋼箔は、薄くて強度があり、防錆性、過放電時の耐金属溶出性、負極電位での安定性に優れているので、これらの鋼箔をニッケル水素二次電池の集電体として用いることが企図される。
しかし、特許文献3,4に記載の鋼箔をニッケル水素二次電池の集電体に用いると、ニッケル水素二次電池の理論容量(Ah/kg)を遥かに下回る容量しか得られないことが分かっている。この理由は、リチウムイオン二次電池の電解液とニッケル水素二次電池の電解液とが異なっているためであると考えられる。リチウムイオン二次電池の電解液は、リチウム電池の特性上、非水系電解液が用いられている。一方、ニッケル水素二次電池では、通常、アルカリ性水溶液が用いられている。そのため、リチウムイオン二次電池集電体用の鋼箔では問題にはならなかった、アルカリ性水溶液環境下での集電体からの金属イオンの溶出が、ニッケル水素二次電池での電池容量の低下に関係していると考えられる。
【0010】
また、鋼箔を集電体として用いた電極を捲回するときなどに鋼箔が破断することを防止するために、より高い伸び性が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、薄くて強度があり、伸び性、耐金属イオン溶出性に優れるニッケル水素二次電池集電体用Niめっき鋼箔、当該Niめっき鋼箔を備えるニッケル水素二次電池集電体、及び当該Niめっき鋼箔を備えるニッケル水素二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、上記ニッケル水素二次電池の容量低下の原因が、集電体として用いる鋼箔の金属成分、特にFe成分が電解液に溶出して、正極上で酸化されることにあることを知見した。この知見を基に、このFe成分の溶出を抑制するためのNiめっき層を備えた鋼箔に特定の条件で熱処理を施すことで、Feの溶出防止性能を維持しつつ、優れた強度及び伸びを鋼箔に付与することで本発明を完成させた。
【0014】
上記目的を達成する本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0015】
(1)質量%で、
C:0.0001〜0.0200%、
Si:0.0001〜0.0200%、
Mn:0.005〜0.300%、
P:0.001〜0.020%、
S:0.0001〜0.0100%、
Al:0.0005〜0.1000%、
N:0.0001〜0.0040%、
を含み、
Ti:0.800%以下、
Nb:0.050%以下、の1種又は2種を含み、
そして残部がFe及び不純物からなり、Niめっき層を両面に有するNiめっき鋼箔であって、
前記Niめっき鋼箔の第1面及び第2面Niめっき層の厚みが、それぞれ、0.15μm以上であり、
前記Niめっき鋼箔の厚みが、5μm〜50μmであり、
伸びが3%以上であり、
引張強度が400MPa以上1000MPa以下であり、
表面欠陥面積率が前記Niめっき鋼箔の前記第1面及び前記第2面ともに5.00%以下であることを特徴とするニッケル水素二次電池集電体用Niめっき鋼箔。
(2)前記Niめっき鋼箔の厚みが、10μm〜30μmである前記(1)に記載のニッケル水素二次電池集電体用Niめっき鋼箔。
(3)前記Niめっき鋼箔の前記第1面及び前記第2面の前記Niめっき層の厚みが、それぞれ、0.20μm以上1.50μm以下である前記(1)又は(2)に記載のニッケル水素二次電池集電体用Niめっき鋼箔。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のニッケル水素二次電池集電体用Niめっき鋼箔からなるニッケル水素二次電池集電体。
(5)正極集電体上に、正極活物質層、セパレータ、負極活物質層及び負極集電体が順次積層されてなるニッケル水素二次電池であって、前記正極集電体及び前記負極集電体の少なくとも一方が、前記(4)に記載のニッケル水素二次電池集電体である、ニッケル水素二次電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記態様によれば、薄くて強度があり、伸び性、耐金属イオン溶出性に優れるニッケル水素二次電池集電体用Niめっき鋼箔、当該Niめっき鋼箔を備えるニッケル水素二次電池集電体、及び当該Niめっき鋼箔を備えるニッケル水素二次電池を提供することができる。本発明のニッケル水素二次電池集電体用Niめっき鋼箔は、ニッケル水素二次電池の正極集電体及び負極集電体のいずれにも好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(Niめっき鋼箔)
本発明の実施形態に係るニッケル水素二次電池集電体用Niめっき鋼箔(以下、「Niめっき鋼箔」ということがある。)は、下記の鋼成分組成からなり(%は質量%)、Niめっき鋼箔の両面(第1面及び第2面)のNiめっき層の厚みが、それぞれ、0.15μm以上であり、Niめっき鋼箔の厚みが、5μm〜50μmであり、伸びが3%以上であり、引張強度が400MPa以上1000MPa以下であり、表面欠陥面積率がNiめっき鋼箔の第1面及び第2面ともに5.00%以下である。なお、本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔は、鋼箔及びめっき層を備える。
【0018】
本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔は、特に、表面欠陥面積率がNiめっき鋼箔の第1面及び第2面ともに5.00%以下である。前述したように、リチウムイオン二次電池集電体用の鋼箔をニッケル水素二次電池の集電体に用いると、過放電時以外では特に問題にはならなかった集電体成分の金属イオン溶出に起因する電池容量の低下が問題になる。
本願発明者らは、研究の結果この電池容量の低下が、Niめっき鋼箔の表面欠陥により、鋼箔の金属成分、特にFe成分が、アルカリ性水溶液に溶出することに起因することを見出した。
【0019】
Niめっき鋼箔の表面欠陥としては、Niめっきされた鋼板(薄板)を、圧延してNiめっき鋼箔にする際、圧延ロールとの接触や、被圧延材の変形により導入される、Niめっき層のクラックや疵、剥がれなどの不良が挙げられる。このNiめっき層の不良部から、鋼箔の金属成分のFeが、電解質のアルカリ性水溶液に溶出して、ニッケル水素二次電池の電池容量が、急速に低下してしまうことが分かった。
【0020】
本願発明者らは、Niめっきされた鋼板(薄板)を、圧延してNiめっき鋼箔にする際の箔圧延工程を制御することで、このNiめっき層の不良を、劇的に低減させることができることを見出した。また、熱処理条件を制御することで、Niめっき層中のNiの拡散を抑制しつつ、優れた強度及び伸びを付与できることを見出した。本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔の表面欠陥面積率は、第1面及び第2面ともに5.00%以下である。表面欠陥面積率が5.00%を超えると、電解液へのFeイオンの溶出量が大きくなり、理論容量の半分以下の電池容量しか得られない。Niめっき鋼箔の表面に欠陥がないことが好ましいので、Niめっき鋼箔の欠陥面積率の下限は0%である。
【0021】
Niめっき鋼板の表面欠陥面積率は、一般的にフェロキシル試験によって評価される。本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔の表面欠陥面積率は、下記試験方法に基づいて得られた試験片の第1面及び第2面(表裏の両面)の表面欠陥の写真から計算される。
【0022】
具体的な操作としては、まず、純水に、フェロシアン化ナトリウム(ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム三水和物)10g/L、フェリシアン化カリウム(ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム三水和物)10g/L、及び塩化ナトリウム5g/Lを溶解させたフェロキシル試験溶液を用意する。この試験溶液に、第1面及び第2面にNiめっき層を有する50mm角のNiめっき鋼箔試験片を3分間浸漬する。この試験片を試験溶液から取り出し、水洗し、65℃で、5分間乾燥する。青色斑点が現れた試験片の第1面及び第2面を写真に撮り、コンピュータに取り込み、画像解析ソフトを用いて二値化処理して、第1面及び第2面の表面欠陥面積率を数値化する。一例としてImageJ(画像解析ソフト)の2つの閾値による二値化処理機能を用いて前述する青色斑点を識別する方法を記載する。はじめにコンピュータに取り込んだ写真を8bitでグレースケール化する。なお8bitで保存されたグレースケール画像では、光度が0のときは黒、最大値255のときは白を表す。光度の閾値として0と215とを設定すると青色斑点を精度よく識別できることが判明している。そこで、これらの光度が0〜215の範囲が色変わりするよう画像を処理し、青色斑点を識別する。その後、解析機能を用いて青色斑点部の面積率を算出する。なお二値化処理はImageJ以外の画像解析ソフトを使用してもよい。
【0023】
本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔の成分は、
C:0.0001〜0.0200%、
Si:0.0001〜0.0200%、
Mn:0.005〜0.300%、
P:0.001〜0.020%、
S:0.0001〜0.0100%、
Al:0.0005〜0.1000%、
N:0.0001〜0.0040%、
を含み、
Ti:0.800%以下、
Nb:0.050%以下、の1種又は2種
を含み、
残部がFe及び不純物である。
【0024】
まず、成分組成の限定理由を説明する。なお、本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。「未満」、「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。成分の%は質量%を意味する。
【0025】
(C:0.0001〜0.0200%)
Cは、鋼の強度を高める元素であり、C含有量の増加とともに加工硬化が起こりやすくなる。C含有量の増加とともに冷間圧延時の変形抵抗が大きくなると、圧延ロールでの高い加圧が必要になるため、Niめっきされた鋼板(薄板)を圧延してNiめっき鋼箔にする際に導入されるNiめっき層の欠陥が増えてしまう。さらに、過剰にCを含有させると鋼の電気抵抗が悪化する場合があるので、C含有量の上限を0.0200%とする。C含有量の下限は、特に規定されないが、現行の精錬技術における限界が0.0001%程度であるので、これを下限とした。C含有量は、より好ましくは0.0010%〜0.0100%である。
【0026】
(Si:0.0001〜0.0200%)
Siは、鋼の強度を高める元素であるが、過剰に含有させると鋼の電気抵抗が悪化する場合があるので、Si含有量の上限を0.0200%とする。Si含有量を0.0001%未満にすると、精練コストが多大となるので、Si含有量の下限は0.0001%とする。Si含有量は、より好ましくは0.0010%〜0.0080%である。
【0027】
(Mn:0.005〜0.300%)
Mnは、鋼の強度を高める元素であるが、過剰に含有させると鋼の電気抵抗が悪化する場合があるので、Mn含有量の上限を0.300%とする。Mn含有量を0.005%未満にすると、精練コストが多大となるとともに、鋼が軟質化しすぎて圧延性が低下してしまう場合があるため、Mn含有量の下限は0.005%とする。Mn含有量は、より好ましくは0.050%〜0.200%である。
【0028】
(P:0.001〜0.020%)
Pは、鋼の強度を高める元素であるが、過剰に含有させると鋼の電気抵抗が悪化する場合があるので、P含有量の上限を0.020%とする。P含有量を0.001%未満にすると、精練コストが多大となる場合があるので、P含有量の下限は0.001%とする。P含有量は、より好ましくは0.001%〜0.010%である。
【0029】
(S:0.0001〜0.0100%)
Sは、鋼の熱間加工性及び耐食性を低下させる元素であるから、少ないほど好ましい。さらに、本実施形態に係る鋼箔のような薄い鋼箔の場合、Sが多いと、Sの存在に起因する介在物によって電気抵抗が悪化したり、また、鋼の強度が低下したりする場合があるので、S含有量の上限は0.0100%とする。S含有量を0.0001%未満にすると、精練コストが多大となる場合があるので、S含有量の下限は0.0001%とする。S含有量は、より好ましくは0.0010%〜0.0080%である。
【0030】
(Al:0.0005〜0.1000%)
Alは、鋼の脱酸元素として0.0005%以上を含有させる。過剰に含有させると、電気抵抗が悪化し、また、製造コストの増大を招く場合があるので、Al含有量の上限は0.1000%とする。Al含有量は、より好ましくは0.0100%〜0.0500%である。
【0031】
(N:0.0001〜0.0040%)
Nは、鋼の熱間加工性及び加工性を低下させる元素であるから、少ないほど好ましく、N含有量の上限は0.0040%とする。N含有量を0.0001%未満にすると、コストが多大となる場合があるので、N含有量の下限は0.0001%とする。N含有量は、より好ましくは0.0010%〜0.0030%である。
【0032】
(Ti:0.800%以下、Nb:0.050%以下の1種又は2種)
本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔の鋼箔は、Ti及びNbは、鋼中のC及びNを炭化物及び窒化物として固定して、鋼の加工性を向上させることができるので、これらから選択される1種を単独で、または2種を複合して含有してもよい。ただし、いずれの元素も過剰に含有すると、製造コストの増大、及び電気抵抗の悪化を招く場合がある。好ましい含有量範囲は、Ti:0.010〜0.800%、Nb:0.005〜0.050%である。さらに好ましい含有量範囲は、Ti:0.010〜0.100%、Nb:0.005〜0.040%である。
【0033】
(不純物)
本明細書で用いる用語「不純物」は、原料由来の不純物元素、Niめっき鋼板の製造中に混入する元素及び意図的に添加された元素であって、本発明の特性を阻害しない範囲の元素のことを意味する。本発明の実施形態に係る鋼箔では、本発明の特性を阻害しない範囲で不純物の混入が許容される。
【0034】
本発明の実施形態に係る鋼箔は、さらに、付加的に、Feの一部に代えて、B、Cu、Ni、Sn、Cr等の元素を、本発明の実施形態に係る鋼箔の特性を損なわない範囲で含有してもよい。
【0035】
上述したNiめっき鋼箔の成分は、一般的な分析方法によって測定すればよい。成分の測定箇所は、中央部とする。ここで、中央部とは、Niめっき鋼箔の端部から1cmの部分を除いた任意の場所である。例えば、ICP−AES(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、CおよびSは燃焼−赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解−熱伝導度法を用いて測定すればよい。表面のNiめっき層を機械研削により除去してから化学組成の分析を行えばよい。
【0036】
本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔は、鋼箔の第1面及び第2面に、Niめっき層を有する。ここで、第1面は、Niめっき鋼箔の一方の面をいい、第2面は、Niめっき鋼箔のもう一方の面をいう。
鋼箔上の第1面及び第2面に付着したNiめっき層の厚みは、それぞれ、0.15μm以上である。Niめっき層の厚みが厚いほど、鋼箔からの金属溶出性が改善されるが、コストは増加する。各面のNiめっき層の厚みが2.00μmを超えても、顕著な性能向上は認められないので、コスト対効果の観点から、Niめっき層の厚みの実質的な上限は2.00μmである。Niめっき層のより好ましい厚みは、0.20μm以上1.50μm以下である。
【0037】
箔圧延前の鋼板の第1面及び第2面にNiめっきを施し(圧延前めっき)、このNiめっき鋼板を焼鈍し、Fe−Ni拡散層(Fe−Ni合金層ともいう)を形成させた後、箔圧延する。Niめっき層を有する鋼板の箔圧延には細心の注意を要する。例えば、箔圧延の際のNiめっき層の伸びが鋼板の伸びに比較して小さい場合、Niめっき層にクラックなどの欠陥が発生し、この欠陥が箔強度の低下を引き起こす場合がある。
【0038】
箔強度を低下させないNiめっきとしては、軟質Niめっきが特に好適である。具体的には、鋼板上に付着させた、不純物以外は含有しない純Niめっきを、300℃以上の熱処理を行い、これによって、めっき層のひずみを解放したNiめっきを本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔における軟質Niめっきとしてもよい。また、Niめっきは、箔圧延中に導入されたNiめっき層の欠陥の補修を目的に、箔圧延後に追加で実施してもよい。
【0039】
なお、Niめっき鋼鈑のめっき厚は、JIS H8501−1999に規定する試験方法に基づいて測定される。すなわち、製造上はめっき電流値によって制御されるが、直接的には、箔圧延前の鋼板の第1面及び第2面にNiめっきを施し(圧延前めっき)、このNiめっき鋼板を焼鈍する前に、ICP等の化学分析を用いて、Niめっきの付着量(g/m
2)を測定する。Niめっき目付量毎に予め検量線を作成しておき、Niの蛍光X線強度からNiめっき厚を算出する。ただし、Niめっき鋼鈑を焼鈍した後は、内部に拡散したNiの検出強度が低くなるため、同一の目付量であっても、蛍光X線強度は低めに検知される。そのため、Niめっき鋼鈑を焼鈍した後の検量線を新たに作成する必要がある。
【0040】
さらに、Niめっき鋼箔のめっき厚は、グロー放電発行分光分析法(GDS)によって測定する。具体的には、GDSによって測定されるNi原子の深さ方向のプロファイルにおいて、Ni原子の含有比率が最大値の1/2となる深さをNiめっき厚とする。GDSによって測定されるFe原子の含有量が90質量%以上となる領域を鋼箔とする。また、Niめっき層と鋼箔との間に存在する領域をFe−Ni合金層とする。ここで、深さの基準には、シリコン単結晶のスパッタリング時間とスパッタリング速度との積に換算して得られた厚さを用いる。なお、Niめっき鋼箔のNiめっき層のNi含有量の最大値は90質量%以上である。このNiの最大含有量は、GDSで各元素の含有量を測定することで得られる。
【0041】
本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔の厚みは、Niめっき層を含めて5μm〜50μmである。これは、本発明のような機械的強度が十分に高いNiめっき鋼箔を用いて電池を小型化及び軽量化していくうえでは、薄い集電体、すなわち薄い鋼箔が望まれるからである。小型化及び軽量化の観点からは、鋼箔はより薄い方が好ましく、下限を特に限定する必要はない。しかしながら、コスト又は厚さの均一性を考えると、5μm以上がよい。Niめっき鋼箔の厚みは、好ましくは、10μm〜30μmである。
【0042】
本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔の伸びは、3%以上である。より好ましくは、4%以上であり、さらに好ましくは5%以上である。破断伸びが3%以上であれば、Niめっき鋼箔を捲回する際に破断することを十分に防止することができる。なお、ここで、伸びとは、破断伸びを意味する。伸びは、JIS Z2241−2011に規定する金属材料引張試験方法に準拠する試験方法に基づいて測定される。試験片の形状は13B号、引張方向は圧延方向とする。試験速度は1mm/minとする。
【0043】
本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔の引張強度は、400MPa以上1000MPa以下である。なお、引張強度は、常温での測定値である。伸びが3%以上の場合において、引張強度が400MPa未満となると、集電体に活物質層を塗工する際の取り扱いによる皺や折れの発生や、充放電に伴う活物質の膨張収縮により、鋼箔が変形したり活物質が剥がれたりする問題が起きる可能性がある。なお、鋼箔の引張強度は、JIS Z2241−2011に規定する金属材料引張試験方法に準拠する試験方法に基づいて測定される。試験片の形状は13B号、引張方向は圧延方向とする。試験速度は1mm/minとする。
【0044】
鋼箔の皺や折れ、変形及び活物質の剥離を防止する観点からは、特に、引張強度の上限を限定する必要はない。しかしながら、取り扱いの容易性、及び工業的な圧延による加工硬化によって強度を得る際の安定性を考慮すると、伸びが3%以上の場合では、引張強度1000MPaが鋼箔の引張強度の実質的な上限となる。
【0045】
(Niめっき鋼箔の製造方法)
本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔の製造方法は、以下の通りである。まず、通常の薄板製法に従って、前述した所定の成分組成の薄板(鋼板)を製造する。その後、箔圧延前の鋼板の第1面及び第2面にNiめっきを施す。このNiめっき鋼板を、焼鈍し、Fe−Ni拡散層(Fe−Ni合金層ともいう)を形成させた後、冷間圧延(箔圧延)によって、5μm〜50μm厚のNiめっき鋼箔とする。冷間圧延によって生じる加工硬化を利用して、600Mpa超1200MPa以下の高強度のNiめっき鋼箔を製造する。
【0046】
箔圧延の際の累積圧下率は70%以上とする。ここで、累積圧下率とは、最初の圧延スタンドの入口板厚に対する累積圧下量(最初のパス前の入口板厚と最終パス後の出口板厚との差)の百分率である。累積圧下率が70%未満であると、十分な箔強度が発現しない。箔圧延の際の累積圧下率は、好ましくは80%以上である。累積圧下率の上限は、特に限定されない。しかしながら通常の圧延能力では、98%程度が達成できる累積圧下率の限界である。また、各パスでの圧延によるめっき不良を低減させるために、圧延の各パスの圧下率は、5〜40%の範囲とすることが好ましい。
【0047】
また、各パスの単位圧延荷重(kN/mm)を適正域にコントロールする。単位圧延荷重とは、圧延ロールから被加工材にかかる荷重を被加工材の板幅で除したものである。好ましい単位圧延荷重は、0.5〜1.2kN/mmである。0.5kN/mm未満であると、圧延に伴う加工発熱が少なく、Niめっき層の柔軟性が低下するため、Niめっき層にクラックが生じ、表面欠陥面積率が高くなる。また、1.2kN/mmを超えても、加工発熱が多くなりすぎるため、Niめっき層が圧延ロールにピックアップされてしまうため(圧延ロールにNiが付着)、表面欠陥面積率は高くなる。
【0048】
冷間圧延後のNiめっき鋼箔に対し、熱処理を行う。熱処理は700℃〜850℃の温度域で3秒〜30秒の条件で行う。熱処理を行うことで、伸びを3%以上としつつ、引張強度を400MPa以上1000MPa以下の範囲に制御する。
【0049】
熱処理の温度が700℃未満の場合、Niめっき鋼箔の再結晶が十分進まず、伸びが3%以上とならない。そのため、熱処理の温度は700℃以上とする。熱処理の温度が850℃超の場合、Niめっき層のNiが鋼箔中に拡散するので、表面欠陥率が5%超となる。そのため、熱処理の温度は850℃以下とする。
【0050】
熱処理の処理時間は3秒未満であると、Niめっき鋼箔の再結晶が十分進まず、伸びが3%以上とならない。そのため、熱処理の処理時間は、3秒以上である。熱処理の処理時間が30秒超の場合、Niめっき層のNiが鋼箔中に拡散するので、表面欠陥率が5%超となる。そのため、熱処理の処理時間は、30秒以下である。
【0051】
また、本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔を、ニッケル水素二次電池正極集電体又は負極集電体として用いることで、電池容量が低下しにくい、つまり電池寿命の長いニッケル水素電池を得ることができる。具体的には、一般的なニッケル水素二次電池は、正極集電体上に、正極活物質層、セパレータ、負極活物質層及び負極集電体が順次積層されてなるが、本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔からなるニッケル水素二次電池集電体を上述の正極集電体及び上述の負極集電体の少なくとも一方に用いる。本発明の実施形態に係るニッケル水素二次電池集電体は、Niめっき鋼箔をそのまま用いてもよいし、活物質層との接触面積を改善するために、表面加工を施してもよい。
Niめっき鋼箔は正極集電体及び負極集電体のどちらにも好適に使用できるが、耐金属イオン溶出性に優れるという観点から、特に正極集電体として好適に使用できる。
【0052】
この本発明の実施形態に係るニッケル水素電池において、本発明の実施形態に係るNiめっき鋼箔以外の各構成部材は、公知のものを使用することができる。
Niめっき鋼箔以外の正極集電体及び負極集電体としては、例えば、ニッケル箔が挙げられる。
正極活物質層に用いられる活物質としては、例えば、水酸化ニッケルが挙げられる。
負極活物質層に用いられる活物質としては、例えば、水素吸蔵合金が挙げられる。
セパレータとしては、例えば、ポリオレフィン不織布、ポリアミド不織布が挙げられる。
これらの構成部材の他に、公知の外装容器、集電リード、電解液、導電助剤、バインダーを構成部材として使用することができる。
【実施例】
【0053】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0054】
〔試験用Niめっき鋼箔の準備〕
下記の成分を有するスラブAを溶製した。残部はFeおよび不純物であり、単位は質量%である。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示す成分組成のスラブAから、通常の薄板製造方法により熱間圧延、冷間圧延を行い、板厚0.15mmの薄板を得た。
【0057】
〔Niめっきを施す操作〕
Niめっきでは、硫酸ニッケル:320g/L、塩化ニッケル:70g/L、ほう酸:40g/Lを含むめっき浴を用い、浴温度:65℃、電解電流:20A/dm
2の条件にて、通板速度を変えて、めっき厚み3.9〜8.5μmのNiめっき層を鋼板の両面に形成した。次いで、5%H
2(残部N
2)雰囲気で保持温度820℃かつ保持時間40秒で連続焼鈍処理を行った。
【0058】
〔箔圧延の操作〕
表2に示すように、各パス単位圧延荷重の最小/最大(kN/mm)に設定して、箔圧延操作を行った。上記操作により、鋼箔番号1及び8の鋼箔を得た。
【0059】
〔熱処理の操作〕
箔圧延の操作後、表2に示す熱処理条件で、熱処理を行った。なお、表2中の熱処理温度及び熱処理時間の欄の「−」は、熱処理を行っていないことを示す。上記操作により、鋼箔番号2〜7及び10の鋼箔を得た。
【0060】
〔Niめっき鋼箔の厚みの測定〕
得られたNiめっき鋼箔の厚みを、電気マイクロメーターによって測定した。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
〔めっき厚の測定〕
得られた鋼箔のめっき厚みを、前記のグロー放電発行分光分析法によって測定した。Niめっき層の厚みが0.15μm以上を合格とし、それ以外を不合格とした。結果を表3に示す。
【0063】
〔引張強度及び伸びの測定〕
得られたNiめっき鋼箔の引張強度及び破断伸びを、JIS Z2241−2011に規定する金属材料引張試験方法に準拠する試験方法に基づいて測定した。引張強度が400MPa以上1000MPa以下を合格とし、それ以外を不合格とした。また破断伸びが3%以上を合格とし、それ以外を不合格とした。結果を表3に示す。
【0064】
〔表面欠陥面積率の測定〕
鋼箔番号1〜8及び10のNiめっき鋼箔の表面欠陥面積率を、前記のフェリシアン化カリウムを用いた試験方法に基づいて測定した。得られた試験片の第1面及び第2面の表面欠陥の写真を撮り、画像解析ソフトImageJを用いて二値化処理して、第1面及び第2面の表面欠陥面積率を数値化した。その後、解析機能を用いて青色斑点部の面積率を算出した。結果を表3に示す。
【0065】
〔アルカリ中での定電位試験〕
耐金属イオン溶出性を評価するために、鋼箔番号1〜8及び10の鋼箔及び鋼箔番号9のNi箔に対して、定電位試験を行い、アルカリ中での24時間後の定電位電流値(μA/cm
2)を測定した。
被浸漬サイズ:50mm角程度のサンプルの一端に、Ni線をスポット溶接して、接続部を寺岡製作所製、品番No.647、厚み0.05mmのサーキットテープにて保護した後、6N(規定)のKOH試験液を満たした蓋付ポリテトラフルオロエチレン製容器にサンプルを浸漬した。試験温度は65℃とし、+0.4Vvs.SHE、対極:Pt、参照極:アルカリ用水銀電極(BAS製RE−61AP)の条件で電位を印加した。使用装置:北斗電工製ポテンショスタットHA−151Bを用い、電圧印加24時間後までの電流変化を測定した。24時間後の定電位電流値が4μA/cm
2以下の場合を合格とし、それ以外を不合格とした。結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
アルカリ中での24時間後の定電位電流値の評価の基準として、比較例9として純Ni箔(箔厚み200μm)を用意した。表3に示すように、発明例の鋼箔番号3〜5及び7では、圧延の各パスの単位圧延荷重及び熱処理条件を適正にコントロールすることにより、Niめっき層の表面欠陥面積率が第1面及び第2面ともに5.00%以下となり、かつ、伸びが3%以上となった。発明例の鋼箔番号4では、アルカリ中での24時間後の定電位電流値が純Ni箔(表面欠陥がない場合)と同等のレベルまで改善できた。一方、比較例の鋼箔番号1、2、8では、熱処理の条件が適正範囲を外れているため、Niめっき層の厚みは本発明の範囲内ではあるものの伸びが低かった。また、比較例の鋼箔番号6では、熱処理温度が高すぎたため、Niめっき層の表面欠陥面積率が大きくなってしまっており、アルカリ中での24時間後の定電位電流値が大きく悪化した。比較例の鋼箔番号10では、圧延加重が高すぎたため、Niめっき層の表面欠陥面積率が大きくなり、アルカリ中での24時間後の定電位電流値が大きく悪化した。