【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例にも束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0063】
[実施例1]レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12の立体構造解析
<1:レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12の取得>
レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12遺伝子(配列番号2)をクローニングしたpGEX−6P−1プラスミド(GE Healthcare社製)を大腸菌BL21(DE3)pLysS大腸菌株(Promega社製)に導入した。
【0064】
得られた大腸菌株を、M9培地(47.7mM Na
2HPO
4・12H
2O、22mM KH
2PO
4、8.6mM NaCl、2mM MgSO
4、50μM ZnSO
4、100μM CaCl
2、4.1μM ビオチン、7.2μM 塩化コリン、2.3μM 葉酸、8.2μM ニコチンアミド、4.6μM パントテン酸カルシウム、6μM 塩酸ピリドキサール、0.3μM リボフラビン、16.6μM 塩酸チアミン、27mM アンピシリンナトリウム、18.7mM
15N−NH
4Cl、11.1mM
13C−グルコース)で、37℃でOD
600が0.6に達するまで培養し、氷水で急冷した。IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)を終濃度1mMになるように加え、16℃で36時間培養した後、7000rpm、15分、4℃で遠心し、大腸菌を回収した。
【0065】
得られた大腸菌1gにつき、BugBuster(Merck Millipore社製)を5mL、ベンゾナーゼ
(登録商標)エンドヌクレアーゼ(Merck Millipore社製)を5μL添加し、室温で30分間振盪し、大腸菌を完全に溶解した。0.45μmフィルターで濾過した後、Profiniaタンパク質精製システム(Bio-Rad社製)を用いて、グルタチオン−セファロースカラムでリボソームタンパク質L7/L12を精製した。得られたタンパク質溶液15mLに1.5mLの10倍濃度PBS(リン酸緩衝生理食塩水)及びPrescissionプロテアーゼ(GE Healthcare社製)を加え、室温で2時間振盪した。反応液をグルタチオン−セファロースカラムに再度通し、素通り画分をリボソームタンパク質L7/L12として取得した。
【0066】
取得したリボソームタンパク質L7/L12を50mM リン酸ナトリウムpH6.8を外液として透析し、4倍量の20mM Tris−HCl pH8.0で希釈し、イオン交換カラムRESOURCE Q(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に2mL/分の流速で流した。続いて、1M NaClを添加した20mM Tris−HCl pH8.0を0〜50%まで直線的に増加するように2mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を溶出した。
得られたリボソームタンパク質L7/L12をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を移動相として、ゲル濾過カラムHiLoad 16/60 Superdex 75pg(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に1mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を取得した。取得したリボソームタンパク質L7/L12をプロテインアッセイキットI(BIO−RAD社製、型番5000001JA)を用いて1mMになるように遠心濃縮した後、NMR測定に供した。
【0067】
<2:NMRによるレジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12の立体構造解析>
Shigemi NMR試料管に、1mM リボソームタンパク質L7/L12を250μL、重水を20μL、5mg/mL DSS(4,4−ジメチル−4−シラペンタン−1−スルホン酸)を1μL入れ、アスピレーターで脱気後、NMR装置に設置した。
【0068】
AVANCE III HD 600MHz NMR装置(Bruker社製)で、HNCO(積算回数4、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HN(CO)CA(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HNCA(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、CBCA(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HNCACB(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HBHA(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HN(CA)HA(積算回数32、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、C(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)128×128×1024)のパルスシーケンスを用いて各FIDを、Unity INOVA 800MHz NMR装置(Agilent社製)で[
1H−
15N] HSQC(積算回数8、データポイント数(F1×F2)512×2048)、[
1H−
13C] HSQC aliphatic(積算回数8、データポイント数(F1×F2)868×2048)、[
1H−
13C] HSQC aromatic(積算回数32、データポイント数(F1×F2)204×2048)、HCCH−TOCSY aliphatic(積算回数4、データポイント数(F1×F2×F3)96×256×2048)、HCCH−TOCSY aromatic(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)128×128×2048)、
15N−edited NOESY(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×256×2048)、
13C−edited NOESY aliphatic(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)96×256×2048)、
13C−edited NOESY aromatic(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×256×2048)のパルスシーケンスを用いて各FIDを得た。得られた各FIDをNMR Pipeソフトを用いてフーリエ変換し、各スペクトルを取得した。
【0069】
取得した各スペクトルをSparkyソフト上で帰属した。まず、リボソームタンパク質L7/L12の主鎖−NH−をHNCO、HN(CO)CA、HNCA、CBCA(CO)NH、HNCACB、HBHA(CO)NH、HN(CA)HAの各スペクトルを用いて、[
1H−
15N] HSQCスペクトル上に帰属した。次に、側鎖−CH−、−CH
2−、−CH
3−をC(CO)NH、HCCH−TOCSY aliphatic、HCCH−TOCSY aromaticの各スペクトルを用いて、[
1H−
13C] HSQC aliphaticスペクトルと[
1H−
13C] HSQC aromaticスペクトル上に帰属した。最後に、
15N−edited NOESY、
13C−edited NOESY aliphatic、
13C−edited NOESY aromaticの各スペクトルを用いて、5A以内の距離にある
1Hを検出、帰属した。帰属方法の詳細は、PROTEIN NMR SPECTROSCOPY PRINCIPLES AND PRACTICE SECOND EDITION, 2007, Cavanagh, J., Fairbrother, W.J., Palmer, III, A.G., Rance, M., and Skelton, N.J., Elsevier Academic Press.に従った。
【0070】
帰属した原子座標と
1H間距離情報をCYANA立体構造自動計算ソフトに入力して、20回の立体構造計算を経て充分にエネルギー値を収束させ、リボソームタンパク質L7/L12立体構造の空間原子座標を得た。
【0071】
取得した空間原子座標をPymolソフトに入力し、リボソームタンパク質L7/L12の立体構造を描画した(
図1)。リボソームタンパク質L7/L12の主鎖の立体構造を表示すると、1〜40位のアミノ酸残基で一つの立体構造(NTD:N-Terminal Domain)を形成しており、およそ17アミノ酸残基の立体構造を形成していないリンカーを経て、更に58〜125位のアミノ酸残基で別の立体構造(CTD:C-Terminal Domain)を形成していることが分かった(
図1)。また、斯かる立体構造を有するリボソームタンパク質L7/L12分子が2つ、互いのNTD同士で会合し、二量体を形成していることが分かった(
図1)。
【0072】
[実施例2]モラクセラ・カタラーリス菌のリボソームタンパク質L7/L12の立体構造解析
<1:モラクセラ・カタラーリス菌のリボソームタンパク質L7/L12の取得>
モラクセラ・カタラーリス菌のリボソームタンパク質L7/L12遺伝子(配列番号36)をクローニングしたpGEX−6P−1プラスミド(GE Healthcare社製)を大腸菌BL21(DE3)pLysS大腸菌株(Promega社製)に導入した。
【0073】
得られた大腸菌株を、M9培地(47.7mM Na
2HPO
4・12H
2O、22mM KH
2PO
4、8.6mM NaCl、2mM MgSO
4、50μM ZnSO
4、100μM CaCl
2、4.1μM ビオチン、7.2μM 塩化コリン、2.3μM 葉酸、8.2μM ニコチンアミド、4.6μM パントテン酸カルシウム、6μM 塩酸ピリドキサール、0.3μM リボフラビン、16.6μM 塩酸チアミン、27mM アンピシリンナトリウム、18.7mM
15N−NH
4Cl、11.1mM
13C−グルコース)で、37℃でOD
600が0.6に達するまで培養し、氷水で急冷した。IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)を終濃度1mMになるように加え、16℃で36時間培養した後、7000rpm、15分、4℃で遠心し、大腸菌を回収した。
【0074】
得られた大腸菌1gにつき、BugBuster(Merck Millipore社製)を5mL、ベンゾナーゼ
(登録商標)エンドヌクレアーゼ(Merck Millipore社製)を5μL添加し、室温で30分間振盪し、大腸菌を完全に溶解した。0.45μmフィルターで濾過した後、Profiniaタンパク質精製システム(Bio-Rad社製)を用いて、グルタチオン−セファロースカラムでリボソームタンパク質L7/L12を精製した。得られたタンパク質溶液15mLに1.5mLの10倍濃度PBS(リン酸緩衝生理食塩水)及びPrescissionプロテアーゼ(GE Healthcare社製)を加え、室温で2時間振盪した。反応液をグルタチオン−セファロースカラムに再度通し、素通り画分をリボソームタンパク質L7/L12として取得した。
【0075】
取得したリボソームタンパク質L7/L12を50mM リン酸ナトリウムpH6.8を外液として透析し、4倍量の20mM Tris−HCl pH8.0で希釈し、イオン交換カラムRESOURCE Q(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に2mL/分の流速で流した。続いて、1M NaClを添加した20mM Tris−HCl pH8.0を0〜50%まで直線的に増加するように2mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を溶出した。
【0076】
得られたリボソームタンパク質L7/L12をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を移動相として、ゲル濾過カラムHiLoad 16/60 Superdex 75pg(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に1mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を取得した。取得したリボソームタンパク質L7/L12をプロテインアッセイキットI(BIO−RAD社製、型番5000001JA)を用いて1mMになるように遠心濃縮した後、NMR測定に供した。
【0077】
<2:NMRによるモラクセラ・カタラーリス菌のリボソームタンパク質L7/L12の立体構造解析>
Shigemi NMR試料管に、1mM リボソームタンパク質L7/L12を250μL、重水を20μL、5mg/mL DSS(4,4−ジメチル−4−シラペンタン−1−スルホン酸)を1μL入れ、アスピレーターで脱気後、NMR装置に設置した。
【0078】
AVANCE III HD 600MHz NMR装置(Bruker社製)で、HNCO(積算回数4、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HN(CO)CA(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HNCA(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、CBCA(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HNCACB(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HBHA(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HN(CA)HA(積算回数32、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、C(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)128×128×1024)のパルスシーケンスを用いて各FIDを、Unity INOVA 800MHz NMR装置(Agilent社製)で[
1H−
15N] HSQC(積算回数8、データポイント数(F1×F2)512×2048)、[
1H−
13C] HSQC aliphatic(積算回数8、データポイント数(F1×F2)868×2048)、[
1H−
13C] HSQC aromatic(積算回数32、データポイント数(F1×F2)204×2048)、HCCH−TOCSY aliphatic(積算回数4、データポイント数(F1×F2×F3)96×256×2048)、HCCH−TOCSY aromatic(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)128×128×2048)、
15N−edited NOESY(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×256×2048)、
13C−edited NOESY aliphatic(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)96×256×2048)、
13C−edited NOESY aromatic(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×256×2048)のパルスシーケンスを用いて各FIDを得た。得られた各FIDをNMR Pipeソフトを用いてフーリエ変換し、各スペクトルを取得した。
【0079】
取得した各スペクトルをSparkyソフト上で帰属した。まず、リボソームタンパク質L7/L12の主鎖−NH−をHNCO、HN(CO)CA、HNCA、CBCA(CO)NH、HNCACB、HBHA(CO)NH、HN(CA)HAの各スペクトルを用いて、[
1H−
15N] HSQCスペクトル上に帰属した。次に、側鎖−CH−、−CH
2−、−CH
3−をC(CO)NH、HCCH−TOCSY aliphatic、HCCH−TOCSY aromaticの各スペクトルを用いて、[
1H−
13C] HSQC aliphaticスペクトルと[
1H−
13C] HSQC aromaticスペクトル上に帰属した。最後に、
15N−edited NOESY、
13C−edited NOESY aliphatic、
13C−edited NOESY aromaticの各スペクトルを用いて、5A以内の距離にある
1Hを検出、帰属した。帰属方法の詳細は、PROTEIN NMR SPECTROSCOPY PRINCIPLES AND PRACTICE SECOND EDITION, 2007, Cavanagh, J., Fairbrother, W.J., Palmer, III, A.G., Rance, M., and Skelton, N.J., Elsevier Academic Press.に従った。
【0080】
帰属した原子座標と
1H間距離情報をCYANA立体構造自動計算ソフトに入力して、20回の立体構造計算を経て充分にエネルギー値を収束させ、リボソームタンパク質L7/L12立体構造の空間原子座標を得た。
【0081】
取得した空間原子座標をPymolソフトに入力し、リボソームタンパク質L7/L12の立体構造を描画した(
図2)。リボソームタンパク質L7/L12の主鎖の立体構造を表示すると、1〜40位のアミノ酸残基で一つの立体構造(NTD:N-Terminal Domain)を形成しており、およそ17個のアミノ酸残基からなる、立体構造を形成していないリンカーを経て、更に58〜124位のアミノ酸残基で別の立体構造(CTD:C-Terminal Domain)を形成していることが分かった(
図2)。また、斯かる立体構造を有するリボソームタンパク質L7/L12分子が2つ、互いのNTD同士で会合し、二量体を形成していることが分かった(
図2)。
【0082】
[実施例3]淋菌のリボソームタンパク質L7/L12の立体構造解析
<1:淋菌のリボソームタンパク質L7/L12の取得>
淋菌のリボソームタンパク質L7/L12遺伝子(配列番号24)をクローニングしたpGEX−6P−1プラスミド(GE Healthcare社製)を大腸菌BL21(DE3)pLysS大腸菌株(Promega社製)に導入した。
【0083】
得られた大腸菌株を、M9培地(47.7mM Na
2HPO
4・12H
2O、22mM KH
2PO
4、8.6mM NaCl、2mM MgSO
4、50μM ZnSO
4、100μM CaCl
2、4.1μM ビオチン、7.2μM 塩化コリン、2.3μM 葉酸、8.2μM ニコチンアミド、4.6μM パントテン酸カルシウム、6μM 塩酸ピリドキサール、0.3μM リボフラビン、16.6μM 塩酸チアミン、27mM アンピシリンナトリウム、18.7mM
15N−NH
4Cl、11.1mM
13C−グルコース)で、37℃でOD
600が0.6に達するまで培養し、氷水で急冷した。IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)を終濃度1mMになるように加え、16℃で36時間培養した後、7000rpm、15分、4℃で遠心し、大腸菌を回収した。
【0084】
得られた大腸菌1gにつき、BugBuster(Merck Millipore社製)を5mL、ベンゾナーゼ
(登録商標)エンドヌクレアーゼ(Merck Millipore社製)を5μL添加し、室温で30分間振盪し、大腸菌を完全に溶解した。0.45μmフィルターで濾過した後、Profiniaタンパク質精製システム(Bio-Rad社製)を用いて、グルタチオン−セファロースカラムでリボソームタンパク質L7/L12を精製した。得られたタンパク質溶液15mLに1.5mLの10倍濃度PBS(リン酸緩衝生理食塩水)及びPrescissionプロテアーゼ(GE Healthcare社製)を加え、室温で2時間振盪した。反応液をグルタチオン−セファロースカラムに再度通し、素通り画分をリボソームタンパク質L7/L12として取得した。
【0085】
取得したリボソームタンパク質L7/L12を50mM リン酸ナトリウムpH6.8を外液として透析し、4倍量の20mM Tris−HCl pH8.0で希釈し、イオン交換カラムRESOURCE Q(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に2mL/分の流速で流した。続いて、1M NaClを添加した20mM Tris−HCl pH8.0を0〜50%まで直線的に増加するように2mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を溶出した。
【0086】
得られたリボソームタンパク質L7/L12をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を移動相として、ゲル濾過カラムHiLoad 16/60 Superdex 75pg(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に1mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を取得した。取得したリボソームタンパク質L7/L12をプロテインアッセイキットI(BIO−RAD社製、型番5000001JA)を用いて1mMになるように遠心濃縮した後、NMR測定に供した。
【0087】
<2:NMRによる淋菌のリボソームタンパク質L7/L12の立体構造解析>
Shigemi NMR試料管に、1mM リボソームタンパク質L7/L12を250μL、重水を20μL、5mg/mL DSS(4,4−ジメチル−4−シラペンタン−1−スルホン酸)を1μL入れ、アスピレーターで脱気後、NMR装置に設置した。
【0088】
AVANCE III HD 600MHz NMR装置(Bruker社製)で、HNCO(積算回数4、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HN(CO)CA(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HNCA(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、CBCA(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HNCACB(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HBHA(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、HN(CA)HA(積算回数32、データポイント数(F1×F2×F3)64×128×1024)、C(CO)NH(積算回数16、データポイント数(F1×F2×F3)128×128×1024)のパルスシーケンスを用いて各FIDを、Unity INOVA 800MHz NMR装置(Agilent社製)で[
1H−
15N] HSQC(積算回数8、データポイント数(F1×F2)512×2048)、[
1H−
13C] HSQC aliphatic(積算回数8、データポイント数(F1×F2)868×2048)、[
1H−
13C] HSQC aromatic(積算回数32、データポイント数(F1×F2)204×2048)、HCCH−TOCSY aliphatic(積算回数4、データポイント数(F1×F2×F3)96×256×2048)、HCCH−TOCSY aromatic(積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)128×128×2048)、
15N−edited NOESY(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×256×2048)、
13C−edited NOESY aliphatic(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)96×256×2048)、
13C−edited NOESY aromatic(ミキシングタイム75ミリ秒、積算回数8、データポイント数(F1×F2×F3)64×256×2048)のパルスシーケンスを用いて各FIDを得た。得られた各FIDをNMR Pipeソフトを用いてフーリエ変換し、各スペクトルを取得した。
【0089】
取得した各スペクトルをSparkyソフト上で帰属した。まず、リボソームタンパク質L7/L12の主鎖−NH−をHNCO、HN(CO)CA、HNCA、CBCA(CO)NH、HNCACB、HBHA(CO)NH、HN(CA)HAの各スペクトルを用いて、[
1H−
15N] HSQCスペクトル上に帰属した。次に、側鎖−CH−、−CH
2−、−CH
3−をC(CO)NH、HCCH−TOCSY aliphatic、HCCH−TOCSY aromaticの各スペクトルを用いて、[
1H−
13C] HSQC aliphaticスペクトルと[
1H−
13C] HSQC aromaticスペクトル上に帰属した。最後に、
15N−edited NOESY、
13C−edited NOESY aliphatic、
13C−edited NOESY aromaticの各スペクトルを用いて、5A以内の距離にある
1Hを検出、帰属した。帰属方法の詳細は、PROTEIN NMR SPECTROSCOPY PRINCIPLES AND PRACTICE SECOND EDITION, 2007, Cavanagh, J., Fairbrother, W.J., Palmer, III, A.G., Rance, M., and Skelton, N.J., Elsevier Academic Press.に従った。
【0090】
帰属した原子座標と
1H間距離情報をCYANA立体構造自動計算ソフトに入力して、20回の立体構造計算を経て充分にエネルギー値を収束させ、リボソームタンパク質L7/L12立体構造の空間原子座標を得た。
【0091】
取得した空間原子座標をPymolソフトに入力し、リボソームタンパク質L7/L12の立体構造を描画した(
図3)。リボソームタンパク質L7/L12の主鎖の立体構造を表示すると、1〜40位のアミノ酸残基で一つの立体構造(NTD:N-Terminal Domain)を形成しており、17個のアミノ酸残基からなる、立体構造を形成していないリンカーを経て、更に58〜123位のアミノ酸残基で別の立体構造(CTD:C-Terminal Domain)を形成していることが分かった(
図3)。また、斯かる立体構造を有するリボソームタンパク質L7/L12分子が2つ、互いのNTD同士で会合し、二量体を形成していることが分かった(
図3)。
【0092】
[実施例4]レジオネラ菌、モラクセラ・カタラーリス菌、及び淋菌のリボソームタンパク質L7/L12のCTD部分の比較検討
図4は、
レジオネラ菌、モラクセラ・カタラーリス菌、及び淋菌のリボソームタンパク質L7/L12のC末端ドメイン(CTD)部分の立体構造をそれぞれ模式的に示す図である。本図から明らかなように、レジオネラ菌、モラクセラ・カタラーリス菌、及び淋菌のリボソームタンパク質L7/L12のCTDの立体構造を比較すると、表面形状と電荷分布に大きな差がある領域が認められた(
図4の点線部)。当該領域は、レジオネラ菌のL7/L12の102〜114位のアミノ酸残基であり、モラクセラ・カタラーリス菌の101〜113位、淋菌の100〜112位のアミノ酸残基に相当する。当該領域は、モラクセラ・カタラーリス菌(MC)の場合は疎水性(白色)〜非電荷親水性領域(薄青、薄赤色)の占める割合が高く、レジオネラ菌(LP)および淋菌(NG)の場合は負電荷領域(赤色)が支配的である。また、レジオネラ菌と淋菌を比較した場合、レジオネラ菌の当該領域の大部分を負電荷(赤色)が占めているが、淋菌の場合は上部に負電荷領域(赤色)が、下部に疎水性(白色)〜非電荷親水性領域(薄青、薄赤色)が位置している(
図4の点線部)。
【0093】
さらに、レジオネラ菌、モラクセラ・カタラーリス菌、淋菌のリボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列を比較すると、レジオネラ菌の102〜114位のアミノ酸残基と当該領域に相当するモラクセラ・カタラーリス菌の101〜113位のアミノ酸残基、淋菌の100〜112位のアミノ酸残基において菌種間の差異が大きいことも判った(
図5)。例えば、レジオネラ菌のL7/L12の109〜110位のアミノ酸残基は、モラクセラ・カタラーリス菌の108〜109位のアミノ酸残基、淋菌の107〜108位のアミノ酸残基に相当し、レジオネラ菌の場合はA(アラニン:疎水性)、S(セリン:親水性、非電荷)であるのに対し、モラクセラ・カタラーリス菌の場合はE(グルタミン酸:親水性、負電荷)、E(グルタミン酸:親水性、負電荷)、淋菌の場合はE(グルタミン酸:親水性、負電荷)、D(アスパラギン酸:親水性、負電荷)であり、アミノ酸の種類および極性の順序が菌種ごとに異なっている(
図5)。
【0094】
同様に、レジオネラ菌の112〜114位のアミノ酸残基と、当該領域に相当するモラクセラ・カタラーリス菌の111〜113位のアミノ酸残基、淋菌の110〜112位のアミノ酸残基においても菌種間の差異が大きいことも判った。レジオネラ菌の112〜114位のアミノ酸残基はK(リジン:親水性、正電荷)、K(リジン:親水性、正電荷)、E(グルタミン酸:親水性、負電荷)であるのに対し、モラクセラ・カタラーリス菌の111〜113位のアミノ酸残基はK(リジン:親水性、正電荷)、K(リジン:親水性、正電荷)、K(リジン:親水性、正電荷)、淋菌の110〜112位のアミノ酸残基はQ(グルタミン:親水性、非電荷)、K(リジン:親水性、正電荷)、Q(グルタミン:親水性、非電荷)であり、アミノ酸の種類および極性の順序が菌種ごとに異なっている(
図5)。
【0095】
以上のように、レジオネラ菌のL7/L12の102〜114位の領域の立体構造及びアミノ酸残基の極性は、他2菌種と比較して大きく異なることから、抗体との相互作用の中心部位に近いと予測される(
図4、5)。さらに、3菌種間のアミノ酸極性の違いから、レジオネラ菌のL7/L12のCTDを構成するアミノ酸残基の中でも、好ましくは102位、又は、106位、又は、109〜110位、又は、112〜114位のアミノ酸残基が、抗体との相互作用の中心であると予測される(
図5)。
【0096】
[実施例5]レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12に結合する抗体の取得
以下の手順で、レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12の58〜125位のアミノ酸残基により形成されるCTDを単独で発現させ、これを抗原抗体反応により認識するモノクローナル抗体として4B1、36A2及び54A3を取得した。
【0097】
<1:レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12のCTDを単独で発現する大腸菌の調製>
BamHI及びXhoI制限酵素切断部位を追加したレジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12の58〜125位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列(配列番号3)をコードする塩基配列(配列番号4)を含む人工合成遺伝子(GenScript社製)を、前述2種類の制限酵素で切断後、1.5%アガロースゲル中にて電気泳動とエチジウムブロマイドによる染色を行った。ゲルから約400bpのバンドを切り取った。このバンドをQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)で精製し、一般的なベクターであるpGEX−6P−1(GE Healthcare社製)に挿入した。
【0098】
具体的には、ベクターpGEX−6P−1と、先のDNA(制限酵素で切断し、ゲルで精製した人工合成遺伝子)とを、そのモル比が1:3となるように混ぜ合わせて、T4 DNAリガーゼ(Invitrogen社製)にてベクターに当該DNAを組み込んだ。前記DNAを組み込んだベクターpGEX6P−1を、BL21(DE3)pLysS大腸菌株(Promega社)に遺伝子学的手法により導入し、ついで50μg/mLのアンピシリン(シグマ社)を含む半固体状の培養プレートであるLB L−ブロス寒天(宝酒造株式会社製)に接種した。プレートを37℃で12時間インキュベートし、成長したコロニーを無差別に選択し、同じ濃度のアンピシリンを含むL−ブロス培養液に接種した。37℃で8時間振盪培養後、遠心分離にて集菌し、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社)を用い、添付の説明書に従ってプラスミドを分離した。得られたプラスミドを制限酵素BamHI/XhoIにて切断処理し、約370bpのDNAを切断することによって、PCR生成物の挿入を確認した。挿入されたDNAの塩基配列を上記クローンを用いて決定した。
【0099】
具体的に、挿入DNA断片の塩基配列の決定は、蛍光シークエンサー(Applied Biosystems社製)を用いて実施した。シークエンスサンプルの調製は、PRISM, Ready Reaction Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)を用いて行った。まず、9.5μLの制限酵素反応液、4.0μLのT7プロモータープライマー(Gibco BRL社製)(濃度0.8pmol/μL)、及び0.16μg/μLのテンプレートDNA(濃度6.5μL)を、0.5mLのマイクロチューブに加えて混合した。混合物を2層の100μL鉱油で覆ったのち、25サイクルのPCR増幅処理を行った。ここで、1サイクルは、96℃での30秒間の処理、55℃での15秒間の処理、及び60℃での4分間の処理からなる。生成物を4℃で5分間保持した。反応終了後、80μLの無菌精製水を加え、攪拌した。生成物を遠心分離し、水層をフェノールークロロホルム混合液で3回抽出した。10μLの3M酢酸ナトリウムpH5.2と300μLのエタノールを100μLの水層に加え、攪拌した。その後14,000rpm、室温で15分間遠心し、沈殿を回収した。沈殿を75%エタノールで洗浄後、真空下に2分間静置して乾燥させ、シークエンス用サンプルとした。シークエンスサンプルは、4μLの10mMのEDTAを含むホルムアミドに溶解して90℃で2分間変性した。このものは氷中で冷却してシークエンスに供した。
【0100】
無差別に選択した5個のクローンのうち2個は、PCRに用いたプローブと配列上の相同性を有していた。また、レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12の58〜125位のアミノ酸残基の遺伝子配列と一致したDNA配列が明白であった。この遺伝子断片は、明らかにレジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12の58〜125位のアミノ酸残基からなるCTDを遺伝子をコードするものである。
【0101】
<2:レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12のCTDを単独で発現する大腸菌の培養による同CTDの調製>
前述で得られたレジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12の58〜125位のアミノ酸残基により形成されるCTDを単独で発現する大腸菌を用いて、レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12の58〜125位のアミノ酸残基により形成されるCTDに対応するタンパク質(CTDタンパク質)の調製を行った。
【0102】
具体的には、同大腸菌株を、M9培地(47.7mM Na
2HPO
4・12H
2O、22mM KH
2PO
4、8.6mM NaCl、2mM MgSO
4、50μM ZnSO
4、100μM CaCl
2、4.1μM ビオチン、7.2μM 塩化コリン、2.3μM 葉酸、8.2μM ニコチンアミド、4.6μM パントテン酸カルシウム、6μM 塩酸ピリドキサール、0.3μM リボフラビン、16.6μM 塩酸チアミン、27mM アンピシリンナトリウム、18.7mM NH
4Cl、11.1mM グルコース)で、37℃でOD
600が0.6に達するまで培養し、氷水で急冷した。IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)を終濃度1mMになるように加え、16℃で36時間培養した後、7000rpm、15分、4℃で遠心し、大腸菌を回収した。得られた大腸菌1gにつき、BugBuster(Merck Millipore社製)を5mL、ベンゾナーゼ エンドヌクレアーゼ(Merck Millipore社製)を5μL添加し、室温で30分間振盪し、大腸菌を完全に溶解した。0.45μmフィルターで濾過した後、Profiniaタンパク質精製システム(Bio-Rad社製)を用いて、グルタチオン−セファロースカラムでリボソームタンパク質L7/L12を精製した。得られたタンパク質溶液15mLに1.5mLの10倍濃度PBS(リン酸緩衝生理食塩水)及びPrescissionプロテアーゼ(GE Healthcare社製)を加え、室温で2時間振盪した。反応液をグルタチオン−セファロースカラムに再度通し、素通り画分をCTDタンパク質含有画分として取得した。
【0103】
取得したCTDタンパク質含有画分を、50mM リン酸ナトリウムpH6.8を外液として透析し、4倍量の20mM Tris−HCl pH8.0で希釈し、イオン交換カラムRESOURCE Q(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に2mL/分の流速で流した。続いて、1M NaClを添加した20mM Tris−HCl pH8.0を0%から50%まで直線的に増加するように2mL/分の流速で流し、CTDタンパク質を溶出した。
【0104】
得られたリボソームタンパク質L7/L12をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を移動相として、ゲル濾過カラムHiLoad 16/60 Superdex 75pg(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に1mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を精製し、プロテインアッセイキットI(BIO−RAD社製、型番5000001JA)を用いて濃度定量し、モノクローナル抗体取得用のレジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12のCTDタンパク質として供した。
【0105】
<3:レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12のCTDタンパク質を用いたマウスモノクローナル抗体株の取得>
取得したモノクローナル抗体取得用のレジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12のCTDタンパク質を用いて、国際公開第2001/057199号の実施例3に記載の方法に従って、同CTDタンパク質に対するモノクローナル抗体株4B1、36A2及び54A3の3株を取得した。
【0106】
具体的には、前記手順にて得られたレジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12のCTDタンパク質100μgを抗原として、200μLのPBSに溶解した後、フロイントのコンプリートアジュバント(Freund's Complete Adjuvant)を200μL加え、混合してエマルジョン化した。得られた抗原エマルジョン200μLを、マウスの腹腔内に注射した。また、初回抗原投与から2週間後、4週間後、及び6週間後に、同じ抗原エマルジョンをマウスの腹腔内に注射した。更に、初回抗原投与から10週間後及び14週間後に、2倍濃度の抗原エマルジョンをマウスの腹腔内に注射した。最終抗原投与から3日後に、マウスから脾臓を摘出し、無菌的に脾細胞を採取して、以下の手順にて骨髄腫細胞との細胞融合を行った。
【0107】
骨髄腫細胞としては、NS−1系の細胞株を用いた。当該細胞株を、10%の牛胎児血清を含むRPMI1640培地で培養し、細胞融合の2週間前からは、0.13mMのアザグアニン、0.5μg/mLのMC−210、10%の牛胎児血清を含むRPMI1640培地で1週間培養した後、更に10%の牛胎児血清を含むRPMI1640培地で1週間培養してから用いた。
【0108】
前記手順により無菌的に採取したマウスの脾細胞10
8個と、前記培養後の骨髄腫細胞2×10
7個とを、ガラスチューブ内でよく混合した後、1,500rpmで5分間遠心し、上澄みを廃棄してから、細胞を更によく混合した。この混合細胞試料に、37℃に保持したRPMI1640培養液50mLを加え、1,500rpmで遠心分離した後、上澄み液を除去し、37℃に保持した50%ポリエチレングリコール1mLを加え、1分間攪拌した。この細胞混合液に、37℃に保持したRPMI1640培養液10mLを加え、殺菌したピペットで約5分間吸引・排出することにより激しく攪拌した後、1,000rpmで5分間遠心分離し、上澄み液を除去した後、細胞濃度が5×10
6/mLとなるように30mLのHAT培養液を加え、均一になるまで攪拌した。この細胞混合液を0.1mLずつ96ウェル培養プレートの各ウェルに注ぎ、7%の炭酸ガス雰囲気下、37℃で培養した。培養開始から第1日、第1週、及び第2週に、HAT培地をそれぞれ0.1mLずつ加え、ELISA法により所望の抗体を産生する融合細胞のスクリーニングを行った。
【0109】
ELISA法により所望の抗体を産生する細胞をスクリーニングした。レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12のCTDタンパク質に、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)タンパク質を融合し、GSTフュージョンL7/L12CTDタンパク質を作製した。得られたGSTフュージョンL7/L12CTDタンパク質及びGSTタンパク質を、0.05%のアジ化ソーダ含むPBSに、それぞれ10μg/mL濃度で溶解した希釈した液を作製した。これらの液を100μLずつ、96穴プレートの各ウェルに別々に分注し、4℃で1晩吸着させた。上澄み除去後、1%牛血清アルブミン溶液(PBS中)200μLを添加し、室温で1時間反応させてブロッキングした。上澄み液を除去し、生成物を洗浄液(0.02%Tween20含有PBS)で洗浄した後、融合細胞の培養液100mLを加え、室温にて2時間反応させた。上澄み液を除去し、沈殿を洗浄液で洗浄した後、ペルオキシダーゼでラベルしたヤギ抗マウスIgG抗体溶液(濃度50ng/mL)100μLを加え、室温にて1時間反応させた。上澄み液を除去し、生成物を再び洗浄液で洗浄した後、TMB溶液(KPL社製)を100μLずつ加え、室温にて20分間反応させた。着色したところで、各セルに1N硫酸100μLを加えて反応を停止し、450nmの吸光度を測定した。
【0110】
この結果、GSTフュージョンL7/L12CTDタンパク質のみに反応し、GSTタンパク質には反応しない陽性ウェルが見出され、これらのウェルにはL7/L12CTDタンパク質に対する抗体が含まれていることが判明した。そこで、各陽性ウェル中の細胞を回収し、24穴プラスティックプレートに入れ、HAT培地を加えて培養した後、細胞数が約20個/mLになるようにHT培地で希釈し、その50μLを96穴培養プレートの各ウェルに入れた。HT培地に懸濁した6週齢のマウス胸腺細胞10
6個を加えて混合した後、7%CO
2条件下、37℃で2週間培養した。培養上澄み中の抗体活性を前述のELISA法にて同様に検定し、L7/L12CTDタンパク質との反応が陽性の細胞を回収した。更に同様の希釈検定及びクローニング操作を繰り返すことにより、L7/L12CTDタンパク質に対するモノクローナル抗体株4B1、36A2及び54A3を産生する各ハイブリドーマを取得した。
【0111】
前述のようにして取得した陽性クローンモノクローナル抗体株4B1、36A2及び54A3の3株を用いて、定法にしたがってモノクローナル抗体を生産、回収した。
【0112】
<4:得られたマウスモノクローナル抗体株の軽鎖及び重鎖各可変領域のアミノ酸配列の決定>
取得したモノクローナル抗体株4B1、36A2及び54A3の3株について、定法にしたがって軽鎖及び重鎖各可変領域のアミノ酸配列及び対応する塩基配列を決定した。
【0113】
モノクローナル抗体株4B1、36A2及び54A3の重鎖及び軽鎖各可変領域のアミノ酸配列及び塩基配列を、それぞれ以下の表1に示す配列番号で示す。
【0114】
【表1】
【0115】
[実施例6]レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12と抗体の相互作用解析
実施例5で得られた、レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12のCTDを認識するモノクローナル抗体4B1、36A2、及び54A3について、以下の手順により、レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12との相互作用のNMRによる解析を行った。
【0116】
<1:レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12の取得>
実施例1で作成した大腸菌株を、M9培地(47.7mM Na
2HPO
4・12H
2O、22mM KH
2PO
4、8.6mM NaCl、2mM MgSO
4、50μM ZnSO
4、100μM CaCl
2、4.1μM ビオチン、7.2μM 塩化コリン、2.3μM 葉酸、8.2μM ニコチンアミド、4.6μM パントテン酸カルシウム、6μM 塩酸ピリドキサール、0.3μM リボフラビン、16.6μM 塩酸チアミン、27mM アンピシリンナトリウム、18.7mM
15N−NH
4Cl、11.1mM
12C−グルコース)で、37℃でOD
600が0.6に達するまで培養し、氷水で急冷した。IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)を終濃度1mMになるように加え、16℃で36時間培養した後、7000rpm、15分、4℃で遠心し、大腸菌を回収した。得られた大腸菌1gにつき、BugBuster(Merck Millipore社製)を5mL、ベンゾナーゼ エンドヌクレアーゼ(Merck Millipore社製)を5μL添加し、室温で30分間振盪し、大腸菌を完全に溶解した。0.45μmフィルターで濾過した後、Profiniaタンパク質精製システム(Bio-Rad社製)を用いて、グルタチオン−セファロースカラムでリボソームタンパク質L7/L12を精製した。得られたタンパク質溶液15mLに1.5mLの10倍濃度PBS(リン酸緩衝生理食塩水)及びPrescissionプロテアーゼ(GE Healthcare社製)を加え、室温で2時間振盪した。反応液をグルタチオン−セファロースカラムに再度通し、素通り画分をリボソームタンパク質L7/L12として取得した。
【0117】
取得したリボソームタンパク質L7/L12を50mM リン酸ナトリウムpH6.8を外液として透析し、4倍量の20mM Tris−HCl pH8.0で希釈し、イオン交換カラムRESOURCE Q(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に2mL/分の流速で流した。続いて、1M NaClを添加した20mM Tris−HCl pH8.0を0%から50%まで直線的に増加するように2mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を溶出した。
得られたリボソームタンパク質L7/L12をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を移動相として、ゲル濾過カラムHiLoad 16/60 Superdex 75pg(GE Healthcare社製)を接続したAKTAタンパク質精製システム(GE Healthcare社製)に1mL/分の流速で流し、リボソームタンパク質L7/L12を精製し、プロテインアッセイキットI(BIO−RAD社製、型番5000001JA)を用いて濃度定量した後、NMR測定に供した。
【0118】
<2:レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12の抗体の前処理>
実施例5で得られた、レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12のCTDを認識するモノクローナル抗体4B1、36A2、及び54A3を、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)を外液として透析し、紫外光(波長280nm)の吸光度により濃度定量した後、NMR測定に供した。
【0119】
<3:NMRによるレジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12と抗体の相互作用解析>
レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12を、抗体4B1、36A2、及び54A3とそれぞれ混合した。L7/L12と抗体4B1又は36A2との混合比率は何れも1:1(モル比)とし、L7/L12と抗体54A3との混合比率は1:1.5(モル比)とした。各混合物をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で250μLまでメスアップした後、重水を20μL、5mg/mL DSS(4,4−ジメチル−4−シラペンタン−1−スルホン酸)を1μL、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)およびAEBSF(フッ化4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホニル)を各々終濃度1.8mMになるように添加し、Shigemi NMR試料管に移し、アスピレーターで脱気後、NMR装置に設置した。
【0120】
AVANCE III HD 600MHz NMR装置(Bruker社製)で、[
1H−
15N] HSQC(積算回数128、データポイント数(F1×F2)512×2048)のパルスシーケンスを用いてFIDを得た。得られたFIDをNMR Pipeソフトを用いてフーリエ変換し、スペクトルを取得した。取得したスペクトルに対し、Sparkyソフト上で、実施例1の帰属情報を追記した。
【0121】
NMRでは、リボソームタンパク質L7/L12のように低分子量(13、000)であれば、明瞭(sharp)な信号として観測可能であるが、抗体のような高分子量(150、000)の場合は、非常に幅広く不明瞭(broad)な信号となるため、強度不足により観測不可能である。また、一般的に抗原抗体反応の結合/解離定数は1μM以下であり、結合側に偏った平衡状態にあると考えられている。従って、リボソームタンパク質L7/L12が抗体と相互作用(結合)すると、抗体の影響を受けてリボソームタンパク質L7/L12の信号がbroad化し、その強度が減衰すると考えられる。そこで、リボソームタンパク質L7/L12の[
1H−
15N] HSQCスペクトル(アミノ酸1個につき1信号が観測される)上で、抗体の添加により信号強度が減衰する残基を追跡することで相互作用部位を同定しようと試みた。相互作用解析の詳細は、Williamson, M. P., Using chemical shift perturbation to characterise ligand binding, Prog. Nucl. Magn. Reson. Spectrosc. 73(2013):1-16に従った。
【0122】
リボソームタンパク質L7/L12と、抗体4B1、36A2、又は、54A3とをそれぞれ上記比率で混合した場合のリボソームタンパク質L7/L12の各アミノ酸残基の[
1H−
15N] HSQC信号強度を、抗体と混合する前のリボソームタンパク質L7/L12の各アミノ酸残基の[
1H−
15N] HSQC信号強度で除算し、その除算値を縦軸に、リボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列を横軸に示したグラフを作成した(
図6A、B、C)。CTD(58〜125位の残基)の除算値が概ね0.4以下(抗体と相互作用してリボソームタンパク質L7/L12の信号強度が60%以上減衰したことを意味する)であったため、リボソームタンパク質L7/L12はCTD(58〜125位の残基)で抗体4B1、36A2、又は、54A3と相互作用していることが判った(
図6A、B、C)。
【0123】
[実施例7]レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12に結合する抗体の交差反応性の検討
実施例5で得られた、レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12のCTDを認識するモノクローナル抗体4B1、36A2及び54A3について、以下の手順により、レジオネラ菌以外の細菌のリボソームタンパク質L7/L12との交差反応性のELISAによる解析を行った。
【0124】
<1:交差反応性解析用の各細菌種の組換全長リボソームタンパク質L7/L12の調製>
以下の方法により交差反応性試験用の組換え全長リボソームタンパク質L7/L12を調製した。まず、交差反応性解析に用いる対象細菌種として、下記表2に示す各菌種のリボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列をコードする塩基配列の人工合成遺伝子(GenScript社製)を含むプラスミドベクターpGEX−6P−1を作製した。
【0125】
【表2】
【0126】
得られた各菌種のL7/L12遺伝子を担持するプラスミドベクターpGEX−6P−1を、大腸菌One Shot Competent Cells(Invitrogen社製)に導入し、50μg/mLのアンピシリン(Sigma社製)を含むLB培地(宝酒造社製)の半固型培地のプレートに播種し、37℃で12時間程度放置し、生じたコロニーを無作為に選択し、同濃度のアンピシリンを含むLB液体培地2mLに植え付け、8時間程度37℃で振盪培養し、菌体を回収した。得られた菌体からQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社)を用い、添付の説明書に従ってプラスミドを分離した。得られたプラスミドを制限酵素BamHI/XhoIにて切断処理した。約 370bpのDNAを切断することによって、各細菌種のリボソームタンパク質L7/L12人工合成遺伝子の挿入を確認した。当該プラスミドベクターを導入した大腸菌を、50mLのLB培地中で37℃で1晩培養した後、500mLのTB培地に入れ、1時間培養した。その後、100mMのイソプロピルβ−D(−)−チオガラクトピラノシド(IPTG)を550μL加えて、更に4時間培養した。回収後、1/100量のBugBuster(Merck社製)を加えて、室温で20分間振盪した。その後、10,000rpmで30分間遠心分離し、大腸菌を回収した。
【0127】
前記実施例1と同様の方法により、組換全長リボソームタンパク質L7/L12の採取・精製を行い、各菌種の組換全長リボソームタンパク質L7/L12を得た。
【0128】
<2:交差反応性解析用ELISAの実施>
前記各菌種の組換えリボゾームタンパク質L7/L12を、それぞれELISAプレートに固相化し、前記モノクローナル抗体4B1、36A2及び54A3の各々を反応させ、洗浄した後、固相化された各菌種のL7/L12に結合したモノクローナル抗体をパーオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体と反応させ、各モノクローナル抗体と各菌種のL7/L12との交差反応性を評価した。
【0129】
具体的には、レジオネラ菌及び前記各菌種の組換え全長リボゾームタンパク質L7/L12をそれぞれ0.01μg/mL、0.1μg/mL又は1μg/mLの濃度で含むPBS溶液各100μLを、96穴ELISAプレート(Nunc社製Maxsorp ELISA plate)に分注し、4℃で一晩吸着させた。上澄み除去後、1%牛血清アルブミン溶液(PBS中)200μLを添加し、室温で1時間反応させてプロッキングした。上澄み除去後、洗浄液(0.02%Tween20含有PBS)で数回洗浄し、抗体4B1、36A2、又は54A3を1μg/mLになるように0.5%TritonX−100/PBSで希釈した抗体溶液、又は、約1×PBSそのもの(陰性コントロール)をそれぞれ100μL添加し、室温にて1時間反応させた。上澄みを除去した後、パーオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体試薬を2次抗体として、0.02%Tween20/PBSにて最終濃度1μg/mLになるように希釈した液を100μLずつ添加し、室温にて1時間反応させた。上澄み除去後、さらに洗浄液で数回洗浄し、TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)溶液(KPL社製)を100μLずつ加え、室温で10分間反応させた後、1mol/Lの塩酸を100μL添加して反応を停止させた。得られた溶液の450nmの吸光度を測定し、陰性コントロールの450nmの吸光度との差を求めることにより、各モノクローナル抗体と各菌種のL7/L12との交差反応性を評価した。
【0130】
結果として得られた、抗体4B1、36A2、又は54A3と、レジオネラ菌又は他の各菌種の組換え全長リボゾームタンパク質L7/L12との反応性の評価結果を、下記の表3に示す。下記表中、陽性(+)は、陰性コントロールに対する吸光度の差が0.5以上のもの、陰性(−)は、陰性コントロールに対する吸光度の差が0.1以下の値のものをそれぞれ示す。
【0131】
【表3】