【課題】生物の生体内に入れられた蛍光物質から放射される蛍光を生物の生体外から検出する精度の向上と、製造コストの増大の抑制とを両立することができる検出装置を提供すること。
【解決手段】検出装置は、所定の種類の蛍光物質を含む物質を対象物質として、生物が有する部位のうち予め決められた対象部位に入れられた対象物質から放射される蛍光を検出する検出装置であって、生物の生体外から蛍光物質へ励起光を照射する照射部と、当該蛍光を生物の生体外から検出する検出部と、を備え、照射部は、生物の体表に接触させる第1接触部を有し、第1接触部には、励起光を照射する照射口が設けられており、検出部は、生物の体表に接触させる第2接触部を有し、第2接触部には、当該蛍光が入射する入射口が設けられており、照射口と入射口との間の距離は、所定の関係に応じて決められる距離である。
所定の種類の蛍光物質を含む物質を対象物質として、生物が有する部位のうち予め決められた対象部位に入れられた前記対象物質から放射される蛍光を検出する検出装置であって、
前記生物の生体外から前記蛍光物質へ励起光を照射する照射部と、
前記蛍光を前記生物の生体外から検出する検出部と、
を備え、
前記照射部は、前記生物の体表に接触させる第1接触部を有し、
前記第1接触部には、前記励起光を照射する照射口が設けられており、
前記検出部は、前記生物の体表に接触させる第2接触部を有し、
前記第2接触部には、前記蛍光が入射する入射口が設けられており、
前記照射口と前記入射口との間の距離は、所定の関係に応じて決められる距離である、
検出装置。
前記所定の関係には、前記生物の体表に前記第2接触部が接触している場合における前記入射口から前記生物の生体内における前記対象物質までの第1距離と、前記検出部により検出される前記蛍光の強度との関係が含まれる、
請求項1に記載の検出装置。
前記制御部は、前記生物の体表において予め決められた位置に前記第1接触部と前記第2接触部とのそれぞれが接触させられた場合、前記照射部による前記励起光の照射を開始させる、
請求項8に記載の検出装置。
前記制御部は、前記励起光を所定の第1時間照射する照射期間と、前記励起光を所定の第2時間照射しない非照射期間とを交互に繰り返すように前記励起光を前記照射部により照射する、
請求項8から10のうちいずれか一項に記載の検出装置。
前記制御部は、前記照射期間において前記検出部により検出された前記蛍光と、前記非照射期間において前記検出部により検出された光とに基づいて、前記対象部位における前記対象物質の残留の有無を判定する、
請求項11に記載の検出装置。
所定の種類の蛍光物質を含む物質を対象物質として、生物が有する部位のうち予め決められた対象部位に入れられた前記対象物質へ前記生物の生体外から励起光を照射する照射部と、前記対象物質から放射される蛍光を前記生物の生体外から検出する検出部と、を備えた検出装置を用いた前記蛍光の検出方法であって、
前記照射部は、前記生物の体表に接触させる第1接触部を有し、
前記第1接触部には、前記励起光を照射する照射口が設けられており、
前記検出部は、前記生物の体表に接触させる第2接触部を有し、
前記第2接触部には、前記蛍光が入射する入射口が設けられており、
前記照射口と前記入射口との間の距離は、所定の関係に応じて決められる距離であり、
前記検出方法は、
前記生物の体表において予め決められた位置に前記第1接触部と前記第2接触部とのそれぞれが接触させる接触ステップと、
前記照射部により前記励起光を照射する照射ステップと、
前記検出部により前記蛍光を検出する検出ステップと、
を有する、
検出方法。
所定の種類の蛍光物質を含む物質を対象物質として、生物が有する部位のうち予め決められた対象部位に入れられた前記対象物質へ前記生物の生体外から励起光を照射する照射部と、
前記対象物質から放射される蛍光を前記生物の生体外から検出する検出部と、
を備え、
前記照射部は、前記生物の体表に接触させる第1接触部を有し、
前記第1接触部には、前記励起光を照射する照射口が設けられており、
前記検出部は、前記生物の体表に接触させる第2接触部を有し、
前記第2接触部には、前記蛍光が入射する入射口が設けられており、
前記照射口と前記入射口との間の距離は、所定の関係に応じて決められる距離である、
検出器。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<実施形態>
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0025】
まず、実施形態に係る検出装置の概要について説明する。実施形態に係る検出装置は、生物の生体内に入れられた蛍光物質から放射される蛍光を生物の生体外から検出する装置である。
【0026】
生物の生体内に入れられた蛍光物質から放射される蛍光を生物の生体外から検出することは、例えば、医学、生物学等における検査、実験において利用される。ここで、蛍光物質を生体内に入れられる生物は、人であってもよく、人以外の動物であってもよく、植物であってもよい。
【0027】
生物の生体内に入れられた蛍光物質から放射される蛍光を生物の生体外から検出する従来の装置は、生物の生体内に入れられた蛍光物質から放射される蛍光を生物の生体外から精度よく検出するため、例えば、時間分解計測ユニット等の比較的高価なユニットを備えている。このため、当該装置は、当該蛍光を生物の生体外から検出する精度の向上と、製造コストの増大の抑制とを両立することが困難な場合があった。当該装置の製造コストの増大を抑制できない場合、生物の生体外からの当該蛍光の検出を必要とする検査、実験等の費用は、当該装置の製造コストの増大に応じて増大する。これは、これらの検査、実験等を利用する利用者にとって望ましいことではない。一方、当該装置の製造コストの増大を抑制するために当該蛍光の検出精度を低下させてしまうことも、これらの検査、実験等の結果の信頼性を落とすことに繋がり、望ましいものではない。
【0028】
そこで、実施形態に係る検出装置は、所定の種類の蛍光物質を含む物質を対象物質として、生物が有する部位のうち予め決められた対象部位に入れられた対象物質から放射される蛍光を検出する検出装置である。当該検出装置は、生物の生体外から当該蛍光物質へ励起光を照射する照射部と、蛍光を生物の生体外から検出する検出部と、を備える。照射部は、生物の体表に接触させる第1接触部を有する。第1接触部には、励起光を照射する照射口が設けられている。検出部は、生物の体表に接触させる第2接触部を有する。第2接触部には、蛍光が入射する入射口が設けられている。そして、照射口と入射口との間の距離は、所定の関係に応じた距離である。これにより、検出装置は、生物の生体内に入れられた蛍光物質から放射される蛍光を生物の生体外から検出する精度の向上と、製造コストの増大の抑制とを両立することができる。また、検出装置は、操作に不慣れな者も容易に扱うことができる。
【0029】
以下では、一例として、実施形態に係る検出装置が、残留検査に用いられる場合について説明する。残留検査は、対象物質を嚥下させた後の人の梨状窩に対象物質が残留するか否かを検出する検査である。なお、当該検出装置は、残留検査以外の検査、実験、調査等に用いられる構成であってもよい。
【0030】
ここで、残留検査が行われる対象は、人である。この場合、残留検査が行われる対象となる人は、前述の生物の一例である。以下では、説明の便宜上、残留検査が行われる対象となる人のことを、被験者と称して説明する。被験者は、対象物質を嚥下可能であれば、如何なる人であってもよい。また、以下では、説明の便宜上、当該検出装置を用いて被験者に対して残留検査を行う人のことを、検査者と称して説明する。検査者は、検出装置1を用いて残留検査を行う人、検出装置1を用いた残留検査の補助を行う人等の検出装置1を利用可能な人であれば、如何なる人であってもよい。
【0031】
なお、実施形態に係る検出装置が残留検査に用いられる場合、被験者の対象部位は、被験者が有する部位のうち梨状窩を含む部位である。すなわち、当該場合、当該検出装置は、被験者が有する部位のうち梨状窩を含む部位に入れられた対象物質から放射される蛍光を検出する。これにより、当該検出装置は、対象物質を嚥下させた後の被験者の梨状窩に対象物質が残留するか否かを検出することができる。なお、残留検査の結果は、被験者の誤嚥のリスク評価の情報の1つとして、例えば、医療従事者等に提供される。以下では、説明の便宜上、被験者の体内に入った蛍光物質が励起光を当該体外から照射された場合において当該蛍光物質から放射される蛍光を、信号蛍光と称して説明する。残留検査において、信号蛍光は、被験者の体内に入った対象物質の当該体内における存在を示すマーカーである。信号蛍光に対し、以下では、説明の便宜上、被験者の体内の組織に元々含まれている蛍光物質が励起光を当該体内から照射された場合において当該蛍光物質から放射される蛍光を、背景蛍光と称して説明する。
【0032】
また、実施形態に係る検出装置が残留検査に用いられる場合、被験者の体内に入れる蛍光物質として選択可能な蛍光物質は、人にとって無害な種類の蛍光物質、又は、人にとって害が少ない種類の蛍光物質であることが望ましい。ここで、人にとって害が少ない種類の蛍光物質は、医学的・生物学的に人が許容できると判断される程度の害を人に与える種類の蛍光物質である。換言すると、当該場合、被験者の体内に入れる蛍光物質として選択可能な蛍光物質は、残留検査を行うために必要な量を被験者の体内に入れた場合において被験者に対して毒性を示さない種類の蛍光物質である。また、当該場合、所定の種類の蛍光物質を含ませる物質も、残留検査を行うために必要な量を被験者の体内に入れた場合において被験者に対して毒性を示さない物質である必要がある。そこで、以下では、一例として、残留検査において、所定の種類の蛍光物質として、インドシアニングリーンを用いる場合について説明する。また、以下では、一例として、残留検査において、インドシアニングリーンを含ませる物質が、牛乳である場合について説明する。なお、残留検査に用いられる所定の種類の蛍光物質は、インドシアニングリーンに代えて、残留検査を行うために必要な量を被験者の体内に入れた場合において被験者に対して毒性を示さない他の種類の蛍光物質であってもよい。また、残留検査において所定の種類の蛍光物質を含ませる物質は、牛乳に代えて、残留検査を行うために必要な量を被験者の体内に入れた場合において被験者に対して毒性を示さない他の物質(例えば、卵白、寒天、ゼリー、豆乳、ヨーグルト等)であってもよい。
【0033】
ここで、前述の信号蛍光の強度は、対象物質中のインドシアニングリーンの濃度に応じて変化する。残留検査において用いる対象物質中のインドシアニングリーンの濃度については、後述する。
【0034】
<検出装置の構成>
以下、実施形態に係る検出装置の構成について説明する。また、以下では、実施形態の検出装置の一例として、検出装置1を例に挙げて説明する。また、以下では、説明の便宜上、対象物質に含まれる蛍光物質を、単に蛍光物質と称して説明する。
【0035】
図1は、検出装置1の構成の一例を示す図である。検出装置1は、検出器10と、制御装置20を備える。なお、検出装置1は、
図1に示したように検出器10と制御装置20とが別体に構成されてもよく、検出器10と制御装置20とが一体に構成されてもよい。
【0036】
検出器10は、残留検査に応じた位置に設置される。残留検査に応じた位置は、被験者の体表上において予め特定された位置のうち、残留検査において検出器10が設置される位置のことである。
図1に示した例では、検出器10は、被験者TSについての残留検査に応じた位置に設置されている。残留検査に応じた位置は、予め決められた特定方法によって検査者により特定される。予め決められた特定方法の詳細については、後述する。以下では、説明の便宜上、残留検査に応じた位置に検出器10が設置されている状態のことを、設置状態と称して説明する。
【0037】
また、検出器10は、制御装置20からの制御に応じて、所定の照射波長の光を励起光として照射する。このため、設置状態の検出器10は、被験者の対象部位に対して被験者の体外から励起光を照射する。以下では、一例として、残留検査において励起光が照射される対象である人に対して無害であることと、残留検査において人の体内に励起光を透過させる必要があることとの理由から、照射波長が785[nm]である場合について説明する。この場合、励起光は、近赤外光である。なお、照射波長は、近赤外光の波長帯のうち蛍光物質を励起可能な波長であれば、785[nm]より短い波長であってもよく、785[nm]より長い波長であってもよい。また、残留検査において励起光が照射される対象が人ではない場合、照射波長は、近赤外光の波長帯に含まれない波長であってもよい。
【0038】
また、検出器10は、所定の検出波長帯の光を検出する。このため、設置状態の検出器10は、対象部位から放射される光のうち所定の検出波長帯の光を検出する。検出波長帯は、信号蛍光の波長を含む波長帯である。これにより、検出器10は、例えば、検出器10が照射した励起光を除去しながら、信号蛍光を含む光を検出することができる。照射波長が785[nm]であり、且つ、蛍光物質の種類がインドシアニングリーンである場合、検出波長帯は、例えば、817[nm]〜873[nm]の波長帯である。検出波長帯の詳細については、後述する。
【0039】
ここで、設置状態の検出器10が被験者の対象部位に励起光を照射し、且つ、当該検出器10が当該対象部位から放射される光を検出している場合において、被験者に対象物質を嚥下させると、検出器10は、梨状窩を通る対象物質に対して励起光を照射することができ、且つ、励起光により励起された蛍光物質を含む当該対象物質から放射される信号蛍光を検出することができる。この際、被験者の対象部位に対象物質が残留する場合、検出器10は、被験者の対象部位に対象物質が残留しない場合と比べて、信号蛍光を長い時間検出することになる。つまり、被験者が対象物質を嚥下した場合、被験者の梨状窩に対象物質が残留しなくとも、検出器10は、対象物質が梨状窩を通過する時間に応じた時間、信号蛍光を検出する。このことから、検出装置1は、設置状態の検出器10による信号蛍光の検出時間の長短により、被験者の対象部位に対象物質が残留するか否かを検出することができる。
【0040】
より具体的には、検出器10は、照射部11と、検出部12を備える。照射部11は、光源LTと、フィルター部FL1と、照射プローブP1を備える。検出部12は、検出プローブP2と、フィルター部FL2と、検出部DTを備える。ここで、照射プローブP1の先端と検出プローブP2の先端とは、プローブヘッドHDを構成する。なお、検出器10では、光源LTと、フィルター部FL1と、照射プローブP1と、検出プローブP2と、フィルター部FL2と、検出部DTとのうちの一部又は全部が一体に構成されてもよい。
【0041】
光源LTは、例えば、半導体レーザーである。光源LTは、制御装置20からの制御に応じて、前述の照射波長の光を励起光として射出する。ただし、光源LTから射出される光は、照射波長以外の波長の光が含まれてしまうことがある。このため、光源LTは、フィルター部FL1を介して、照射プローブP1が備える光ファイバーであるファイバーF1の第1端と接続されている。これにより、光源LTから射出された励起光は、照射プローブP1から照射される。ファイバーF1の第1端は、ファイバーF1が有する2つの先端のうちの一方のことである。なお、光源LTは、半導体レーザーに代えて、照射波長の光を励起光として射出することが可能な光源であれば、如何なる光源であってもよい。
【0042】
フィルター部FL1は、光源LTとファイバーF1との間に接続されている。フィルター部FL1は、光源LTからファイバーF1へと射出される光のうち、照射波長の光をファイバーF1へ通過させる。換言すると、フィルター部FL1は、光源LTからファイバーF1へと射出される光から、照射波長の光(すなわち、励起光)以外の光を除去する。これにより、検出装置1は、蛍光物質に対して照射波長の光を励起光として照射することができる。
【0043】
フィルター部FL1は、例えば、バンドパスフィルターである。なお、検出器10は、フィルター部FL1に代えて、光源LTからファイバーF1へと射出される光から、照射波長(この一例において、785[nm])以外の波長の光を除去することが可能な他の部材を備える構成であってもよい。また、検出器10は、フィルター部FL1を備えない構成であってもよい。
【0044】
照射プローブP1は、フィルター部FL1からファイバーF1を通って導光された励起光を、照射プローブP1が有する照射口から射出する光プローブである。照射プローブP1の筐体に形成された開口部には、ファイバーF1の第2端が、当該照射口として挿通されている。換言すると、当該開口部には、ファイバーF1の第2端が当該照射口として設けられている。ファイバーF1の第2端は、ファイバーF1が有する2つの先端のうちファイバーF1の第1端と反対側の先端のことである。以下では、一例として、照射プローブP1から照射される励起光の最大強度が、70[mW]である場合について説明する。
【0045】
ここで、ファイバーF1は、光源LTからフィルター部FL1を介してファイバーF1に入射した励起光を、照射プローブP1が有する照射口まで導光する光ファイバーである。ファイバーF1は、例えば、直径0.20[mm]のシングルモードの光ファイバーである。ファイバーF1として当該光ファイバーを用いることにより、ファイバーF1は、光源LTから射出される励起光を効率よく当該照射口まで導光することができる。なお、ファイバーF1は、当該光ファイバーに代えて、他の光ファイバーであってもよい。また、照射プローブP1は、ファイバーF1を備える構成に代えて、光源LTからフィルター部FL1を介してファイバーF1に入射した励起光を当該照射口まで導光可能な他の部材を備える構成であってもよい。また、照射プローブP1は、ファイバーF1(又はファイバーF1に相当する部材)を備えない構成であってもよい。この場合、照射プローブP1の照射口には、例えば、フィルター部FL1から励起光が直接射出される。
【0046】
検出プローブP2は、検出プローブP2が有する入射口から入射した光を、検出プローブP2が備えるファイバーF2を介して検出部DTへ導光する検出プローブである。検出プローブP2の筐体に形成された開口部には、ファイバーF2の第1端が当該入射口として挿通されている。換言すると、当該開口部には、ファイバーF2の第1端が当該入射口として設けられている。ファイバーF2の第1端は、ファイバーF2が有する2つの先端のうちの一方のことである。
【0047】
ここで、ファイバーF2は、検出プローブP2の入射口から入射した光を、フィルター部FL2まで導光する光ファイバーである。ファイバーF2は、例えば、直径1.0[mm]のバンドルファイバーである。ファイバーF2として当該バンドルファイバーを用いることにより、ファイバーF2は、残留検査において、励起光により励起された蛍光物質から放射される蛍光を効率よくフィルター部FL2まで導光することができる。なお、ファイバーF2は、当該バンドルファイバーに代えて、他の光ファイバーであってもよい。また、検出プローブP2は、ファイバーF2に代えて、当該入射口から入射した光をフィルター部FL2まで導光可能な他の部材を備える構成であってもよい。また、検出プローブP2は、ファイバーF2(又はファイバーF2に相当する部材)を備えない構成であってもよい。この場合、フィルター部FL2には、例えば、当該入射口から入射した光が直接入射する。
【0048】
フィルター部FL2は、ファイバーF2の第2端と検出部DTとの間に接続されている。ファイバーF2の第2端は、ファイバーF2が有する2つの先端のうちファイバーF2の第1端と反対側の先端のことである。フィルター部FL2は、ファイバーF2によって検出部DTへ導光される光から、信号蛍光の検出部DTによる検出においてノイズとなる励起光、励起光の散乱光の少なくとも一部等を除去する。具体的には、フィルター部FL2は、ファイバーF2によって検出部DTへ導光される光から、前述の検出波長帯(すなわち、この一例において、817[nm]〜873[nm]の波長帯)以外の波長帯の光を除去する。この波長帯は、蛍光物質がインドシアニングリーンである場合において、信号蛍光のうち励起光と弁別可能な蛍光の波長帯として決められる。すなわち、フィルター部FL2は、817[nm]〜873[nm]の波長帯以外の波長帯の光を除去することにより、残留検査において、信号蛍光を主成分とする光を検出部DTへと通過させることができる。その結果、検出装置1は、信号蛍光の検出部DTによる検出においてノイズとなる光を低減することができる。
【0049】
ここで、
図2は、信号蛍光のうち励起光と弁別可能な蛍光の波長帯を決めるための情報の一例を示す図である。
図2に示したグラフの縦軸は、対象物質(
図2に示した例では、互いに同じ体積の生卵白と0.9%の塩化ナトリウム水溶液との混和物に対してインドシアニングリーン水溶液を混合した物質)に対して励起光を照射した場合において励起されたインドシアニングリーンから放射される蛍光の強度を示す。当該グラフの横軸は、当該蛍光の波長を示す。すなわち、当該グラフは、当該蛍光のスペクトルを示す。当該グラフ上には、対象物質中におけるインドシアニングリーンの濃度を互いに異ならせた場合における当該蛍光のスペクトルがプロットされている。
図2に示したように、当該濃度が0.65〜1.1[μM]の範囲内に含まれる場合、当該蛍光の強度は、当該濃度が当該範囲と異なる範囲に含まれる場合と比較して、強い。このため、当該濃度としては、0.65〜1.1[μM]の範囲内に含まれる濃度を選択することが望ましいことが分かる。以下では、一例として、当該濃度が0.8[μM]である場合について説明する。
【0050】
図2に示したように、対象物質に対して励起光を照射した場合において励起されたインドシアニングリーンから放射される蛍光の強度は、800[nm]付近の波長において最大となる。しかしながら、この波長付近の当該蛍光は、励起光と弁別することが困難であることが推測される。これは、例えば、照射波長の光(すなわち、励起光)が検出プローブP2の入射口側に漏れたり、当該光により誘発されるラマン散乱、自家蛍光等の光が当該蛍光に重畳することがあるからである。そこで、残留検査では、信号蛍光の波長帯のうち、800[nm]付近の波長帯と、当該蛍光の強度がほぼ0となる波長帯とを除いた波長帯を、信号蛍光のうち励起光と弁別可能な蛍光の波長帯として決める。ただし、当該波長帯の上限値と下限値との決定には、任意性がある。そこで、実施形態では、817[nm]〜873[nm]の波長帯を、信号蛍光のうち励起光と弁別可能な蛍光の波長帯として採用している。このため、フィルター部FL2は、ファイバーF2によって検出部DTへ導光される光から、817[nm]〜873[nm]の波長帯以外の波長帯の光を除去する。
図2に示した領域R1に含まれる波長帯は、817[nm]〜873[nm]の波長帯を示している。
【0051】
図1に戻る。フィルター部FL2は、例えば、バンドパスフィルターである。なお、検出器10は、フィルター部FL2に代えて、ファイバーF2によって検出部DTへ導光される光から励起光を除去することが可能な他の部材を備える構成であってもよい。また、検出器10は、フィルター部FL2を備えない構成であってもよい。
【0052】
検出部DTは、例えば、光子数検出器である。検出部DTは、ファイバーF2により導光された光に応じた光子数を、当該光の強度として検出する。検出部DTは、フィルター部FL2を介してファイバーF2と接続されている。なお、検出部DTは、光子数検出器に代えて、ファイバーF2により導光された光の強度を検出可能な検出器であれば、如何なる検出器であってもよい。
【0053】
ここで、
図3を参照し、プローブヘッドHDのより詳細な構成について説明する。
図3は、プローブヘッドHDの構成の一例を示す図である。
【0054】
図3に示したように、照射プローブP1の筐体に形成された開口部には、前述したとおり、ファイバーF1の第2端が、照射プローブP1の照射口として設けられている。そして、設置状態の検出器10における当該照射口は、被験者の体外から対象部位に対して励起光を照射するため、被験者の体表に接触させられる。このため、照射プローブP1は、被験者の体表に接触させる第1接触部M1を有する。ここで、第1接触部M1は、照射プローブP1が有する部位のうち当該開口部が形成されている部位である。
図3に示した例では、第1接触部M1は、照射プローブP1の筐体が有する面のうち当該開口部が形成された面である。
図3では、当該開口部を開口部H1として示している。
【0055】
また、
図3に示したように、検出プローブP2の筐体に形成された開口部には、前述したとおり、ファイバーF2の第1端が、検出プローブP2の入射口として設けられている。そして、設置状態の検出器10における当該入射口は、対象部位から放射される光を被験者の体外から検出するため、被験者の体表に接触させられる。このため、検出プローブP2は、被験者の体表に接触させる第2接触部M2を有する。ここで、第2接触部M2は、検出プローブP2が有する部位のうち当該開口部が形成されている部位である。
図3に示した例では、第2接触部M2は、検出プローブP2の筐体が有する面のうち当該開口部が形成された面である。
図3では、当該開口部を開口部H2として示している。
【0056】
また、
図3に示した例では、照射プローブP1の筐体と検出プローブP2の筐体とは、治具BDによって相対的な位置関係が変化しないように互いに組み付けられている。また、照射プローブP1と検出プローブP2とは、第1接触部M1が被験者の体表に接触した場合において、第2接触部M2も被験者の体表に接触するように、治具BDによって互いに組み付けられる。当該例では、照射プローブP1と検出プローブP2とは、照射プローブP1の第1接触部M1がある平面に接面した場合、検出プローブP2の第2接触部M2も当該平面に接面するように、治具BDによって互いに組み付けられている。なお、照射プローブP1と検出プローブP2とは、第1接触部M1が被験者の体表に接触した場合において、第2接触部M2も被験者の体表に接触するような組み付け方であれば、他の組み付け方によって組み付けられる構成であってもよい。また、照射プローブP1の筐体と検出プローブP2の筐体とは、第1接触部M1及び第2接触部M2の両方ともに被験者の体表への接触を保持することができる場合、治具BDにより組み付けられる必要はない。また、治具BDは、照射プローブP1の照射口と検出プローブP2の入射口との間の距離を可変とする機構(例えば、スライダ機構)を有する構成であってもよい。ただし、検出器10の使用時において、照射プローブP1の照射口と検出プローブP2の入射口との間の距離は、所定の距離に固定される。
【0057】
ここで、照射プローブP1の照射口と、検出プローブP2の入射口との間の距離は、所定の関係に応じて決められる距離である。所定の関係は、検出器10による蛍光物質の励起と、蛍光物質から放射される蛍光の検出器10による検出との効率に関する関係のことである。以下では、一例として、照射プローブP1の照射口と、検出プローブP2の入射口との間の距離が、30[mm]である場合について説明する。
図3では、当該距離を、距離dxによって示している。すなわち、この一例では、dx=30[mm]である。距離dxとして30[mm]を採用することの妥当性については、所定の関係の詳細とともに後述する。
【0058】
また、
図3に示した例では、第1接触部M1には、接触検出部Sが設けられている。接触検出部Sは、第1接触部M1及び第2接触部M2が被験者の体表に接触したことを検出する接触センサーである。換言すると、接触検出部Sは、検出器10の状態が設置状態となったことを検出する接触センサーである。接触検出部Sは、例えば、図示しないケーブルを介して、制御装置20と接続される。これにより、制御装置20は、検出器10の状態が設置状態となったことを接触検出部Sが検出した場合、照射部11による励起光の照射を開始させる。換言すると、検査者は、検出器10の状態を設置状態とすることにより、残留検査を開始する。検出器10は、レーザーを用いる際の安全基準の観点から、レーザーを人に用いる場合において、接触検出部Sを備えている方が望ましい。これにより、検出装置1は、残留検査を、より安全に行わせることができる。なお、接触検出部Sにより操作を自動化できるため、検出装置1は、残留検査を行う検査者の手間を軽減することができる。
【0059】
図1に戻る。制御装置20は、検出器10を制御する。具体的には、制御装置20は、検出器10を制御し、検出器10に励起光を照射させる。例えば、制御装置20は、前述した通り、検出器10の状態が設置状態となったことを接触検出部Sが検出した場合、照射部11による励起光の照射を開始させる。また、制御装置20は、検出器10により検出された検出結果を示す検出結果情報の取得を開始する。検出結果情報は、すなわち、検出部DTにより検出された強度を示す情報のことである。制御装置20は、取得した検出結果情報に基づく各種の処理を行う。例えば、制御装置20は、残留検査において、取得した検出結果情報に基づいて、信号蛍光の強度の時間的な変化を示すグラフを表示する。また、例えば、制御装置20は、残留検査において、取得した検出結果情報に基づいて、被験者の対象部位に対象物質が残留するか否かを判定する。
【0060】
制御装置20は、例えば、専用に設計された情報処理装置であってもよく、PC(Personal Computer)等の汎用の情報処理装置であってもよい。制御装置20が汎用の情報処理装置である場合、制御装置20は、例えば、ノートPC、デスクトップPC、タブレットPC、多機能携帯電話端末(スマートフォン)、PDA(Personal Digital Assistant)等である。
【0061】
ここで、
図4を参照し、制御装置20のハードウェア構成について説明する。
図4は、制御装置20のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0062】
制御装置20は、例えば、制御部21と、記憶部22と、入力受付部23と、通信部24と、表示部25を備える。これらの構成要素は、バスを介して相互に通信可能に接続されている。また、制御装置20は、通信部24を介して、検出器10や他の装置と通信を行う。
【0063】
制御部21は、制御装置20のCPU(Central Processing Unit)を備える。制御部21は、制御装置20の各機能部の動作を制御する。制御部21は、プログラムを実行することにより各種の処理を実行する。制御部21は、ユーザが入力した指示を入力受付部23から取得する。すなわち、制御部21は、入力受付部23によってユーザからの操作を受け付ける。制御部21は、取得した指示に基づいて制御処理を実行する。
【0064】
記憶部22は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read−Only Memory)、ROM(Read−Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含む。なお、記憶部22は、制御装置20に内蔵されるものに代えて、USB等のデジタル入出力ポート等によって接続された外付け型の記憶装置であってもよい。記憶部22は、制御装置20が処理する各種の情報、各種のプログラム等を格納する。
【0065】
入力受付部23は、キーボード、マウス、タッチパッド等の入力装置である。なお、入力受付部23は、表示部25と一体に構成されたタッチパネルであってもよい。
【0066】
通信部24は、例えば、USB等のデジタル入出力ポートやイーサネット(登録商標)ポート等を含んで構成される。
【0067】
表示部25は、例えば、液晶ディスプレイパネル、あるいは、有機EL(ElectroLuminescence)ディスプレイパネルである。
【0068】
次に、
図5を参照し、制御部21の機能構成について説明する。
図5は、制御部21の機能構成の一例を示す図である。
【0069】
制御部21は、照射制御部211と、同期部212と、取得部213と、算出部214と、判定部215と、表示制御部216を備える。制御部21が備えるこれらの機能部は、例えば、制御部21が備えるCPUが、記憶部22に記憶された各種のプログラムを実行することにより実現される。また、当該機能部のうちの一部又は全部は、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア機能部であってもよい。
【0070】
照射制御部211は、例えば、変調器である。照射制御部211は、照射部11が備える光源LTを制御し、光源LTに励起光を射出させる。その際、照射制御部211は、励起光を所定の第1時間照射する照射期間と、励起光を所定の第2時間照射しない非照射期間とを交互に繰り返すように励起光を光源LTに射出させる(すなわち、励起光のデジタル変調を行う)。第1時間と第2時間は、同じ時間であってもよく、異なる時間であってもよい。以下では、一例として、第1時間と第2時間とが互いに同じ時間である場合について説明する。また、以下では、説明の便宜上、第1時間及び第2時間を、まとめて切替時間と称して説明する。切替時間は、例えば、5[ms]である。なお、切替時間は、5[ms]より短い時間であってもよく、5[ms]より長い時間であってもよい。
【0071】
同期部212は、前述の照射期間が開始されたタイミングと、非照射時間が開始されたタイミングとのそれぞれを示す情報を取得部213に出力する。以下では、一例として、同期部212がクロックである場合について説明する。この場合、同期部212は、照射期間が開始されたタイミングと、非照射時間が開始されたタイミングとのそれぞれを示すクロック信号を生成する。そして、同期部212は、生成したクロック信号を取得部213に出力する。
【0072】
取得部213は、前述の検出結果情報を検出部DTから取得する。より具体的には、取得部213は、同期部212から出力されるクロック信号に基づいて、照射期間に取得された検出結果情報を、照射期間内情報として取得する。また、取得部213は、同期部212から出力されるクロック信号に基づいて、非照射期間に取得された検出結果情報を、非照射期間内情報として取得する。
【0073】
算出部214は、取得部213により取得された検出結果情報に基づいて、検出部12により検出された光の強度を算出する。例えば、算出部214は、残留検査において、当該検出結果情報に基づいて、信号蛍光の強度を算出する。
【0074】
判定部215は、算出部214により算出された強度に基づいて、被験者の対象部位における対象物質の残留の有無を判定する。より具体的には、例えば、判定部215は、当該強度の時間的な変化に基づいて、被験者の対象部位における対象物質の残留の有無を判定する。なお、判定部215は、当該強度又は当該変化に基づいて、被験者の対象部位における対象物質の存在の有無を判定する構成であってもよい。また、判定部215は、当該強度のみに基づいて、被験者の対象部位における対象物質の残留の有無を判定する構成であってもよい。
【0075】
表示制御部216は、算出部214により算出された強度の時間的な変化を示す情報を表示部25に表示させる。また、表示制御部216は、判定部215により判定された判定結果を示す情報を表示部25に表示させる。
【0076】
<残留検査に応じた位置を特定する特定方法>
検査者は、残留検査を行う際、予め決められた特定方法に基づいて、被験者の体表上の位置の中から残留検査に応じた位置を特定する。そこで、以下、
図6を参照し、被験者の体表上の位置の中から残留検査に応じた位置を特定する特定方法について説明する。
図6は、被験者の体表上の位置の中から残留検査に応じた位置を特定する特定方法の工程の流れの一例を示す図である。
【0077】
検査者は、被験者の体表上の位置の中から、残留検査に応じた位置を特定するための基準として用いる位置を基準点として特定する(ステップS110)。ここで、基準点は、被験者の体表上の位置のうち、対象部位に対する相対的な位置の個体差による違いがほぼない位置であれば如何なる位置であってもよい。ただし、基準点は、対象部位に近いほど、検出器10を設置する位置が所望の位置からずれてしまうことを抑制することができるため、望ましい。実施形態のように、被験者が有する部位のうち梨状窩を含む部位が対象部位である場合、基準点としては、例えば、被験者の体表上において喉頭の凸部頂点が位置する位置が採用される。この場合、検査者は、特別な訓練を受けることなく、基準点を容易に特定することができる。
【0078】
次に、検査者は、ステップS110において特定した基準点に基づいて、被験者の体表上の位置のうち、残留検査において照射プローブP1の照射口を接触させる照射口接触位置を、残留検査に応じた位置の1つとして特定する(ステップS120)。照射口接触位置は、残留検査に応じた位置のうちの一例である。具体的には、検査者は、当該基準点と、第1位置情報とに基づいて、照射口接触位置を特定する。第1位置情報は、基準点から照射口接触位置までの相対的な位置を示す情報のことである。当該位置は、例えば、対象部位へ照射される励起光の強度が所望の強度以上となるようにトライアンドエラーを繰り返すことによって、基準点に対して相対的に決められる。また、当該位置は、検出器10の状態が設置状態である場合において検出器10が当該照射口から被験者の対象部位へ励起光を照射可能な位置の中から選択される。なお、当該位置は、トライアンドエラーに代えて、人体の構造に基づいて決められてもよく、何らかの理論に基づいて決められてもよく、他の方法によって決められてもよい。
【0079】
例えば、第1位置情報は、基準点から被験者の体表に沿って被験者の頭頂部に向かう方向(すなわち、上方)へ5ミリメートル移動した位置であり、且つ、基準点から被験者の体表に沿って当該方向と直交する2つの方向(すなわち、前方、後方の2つの方向)のいずれかに30ミリメートル移動した位置を示す情報である。この場合、照射口接触位置は、基準点から被験者の体表に沿って被験者の頭頂部に向かう方向へ5ミリメートル移動した位置であり、且つ、基準点から被験者の体表に沿って当該方向と直交する2つの方向のいずれかに30ミリメートル移動した位置である。検査者は、ステップS120において、照射口接触位置を特定した後、特定した照射口接触位置に、何らかの方法によって印を付ける。これにより、検査者は、残留検査において、照射プローブP1の照射口を照射口接触位置へ容易に接触させることができる。
【0080】
次に、検査者は、ステップS110において特定した基準点に基づいて、被験者の体表上の位置のうち、残留検査において検出プローブP2の入射口を接触させる入射口接触位置を、残留検査に応じた位置の1つとして特定する(ステップS130)。入射口接触位置も、残留検出検査に応じた位置のうちの一例である。具体的には、検査者は、当該基準点と、第2位置情報とに基づいて、入射口接触位置を特定する。第2位置情報は、基準点から入射口接触位置までの相対的な位置を示す情報のことである。当該位置は、例えば、対象部位に入れられた蛍光物質から放射される蛍光の強度が所望の強度以上となるようにトライアンドエラーを繰り返すことによって、基準点に対して相対的に決められる。また、当該位置は、検出器10の状態が設置状態である場合において検出器10の当該入射口に被験者の対象部位から放射される光を入射可能な位置の中から選択される。なお、当該位置は、トライアンドエラーに代えて、人体の構造に基づいて決められてもよく、何らかの理論に基づいて決められてもよく、他の方法によって決められてもよい。
【0081】
例えば、第2位置情報は、基準点から被験者の体表に沿って被験者の頭頂部に向かう方向へ5ミリメートル移動した位置であり、且つ、基準点から被験者の体表に沿って当該方向と直交する2つの方向のいずれかに60ミリメートル移動した位置を示す情報である。この場合、入射口接触位置は、基準点から被験者の体表に沿って被験者の頭頂部に向かう方向へ5ミリメートル移動した位置であり、且つ、基準点から被験者の体表に沿って当該方向と直交する2つの方向のいずれかに60ミリメートル移動した位置である。検査者は、ステップS130において、入射口接触位置を特定した後、特定した入射口接触位置に、何らかの方法によって印を付ける。これにより、検査者は、残留検査において、検出プローブP2の入射口を入射口接触位置へ容易に接触させることができる。
【0082】
ここで、
図7は、
図1に示した被験者TSについて特定された基準点、照射口接触位置、入射口接触位置のそれぞれの一例を示す図である。
図7に示した点RPは、基準点の一例を示す。
図7に示した点EPは、照射口接触位置の一例を示す。
図7に示した点IPは、入射口接触位置の一例を示す。
図7に示したように、点RPは、被験者TSの喉頭の凸部頂点の位置である。そして、点EPは、点RPから被験者TSの体表に沿って被験者TSの頭頂部に向かう方向(すなわち、上方)へ5ミリメートル移動した位置であり、且つ、点RPから被験者TSの体表に沿って当該方向と直交する2つの方向のうち被験者TSの右手の方向(すなわち、後方)に30ミリメートル移動した位置である。また、点IPは、点RPから被験者TSの体表に沿って被験者TSの頭頂部に向かう方向(すなわち、上方)へ5ミリメートル移動した位置であり、且つ、点RPから被験者TSの体表に沿って当該方向と直交する2つの方向のうち被験者TSの右手の方向(すなわち、後方)に60ミリメートル移動した位置である。
【0083】
以上のように、検査者は、ステップS110〜ステップS130の工程を順に行うことにより、被験者の体表上の位置の中から、照射口接触位置及び入射口接触位置のそれぞれを残留検出検査に応じた位置として特定する。これにより、検査者は、照射プローブP1の照射口を照射口接触位置に接触させるとともに、検出プローブP2の入射口を入射口接触位置に接触させることにより、検出器10の状態を設置状態にすることができる。なお、検査者は、基準点、照射口接触位置、入射口接触位置のそれぞれに加えて、被験者の体表上の位置のうち、前述の接触検出部Sを接触させる位置を特定する構成であってもよい。これにより、検査者は、検出器10の状態を設置状態にする際、3つの位置(すなわち、照射口接触位置、入射口接触位置、接触検出部Sを接触させる位置のそれぞれ)に対して検出器10の位置を合わせながら検出器10を被験者の体表に設置させることになる。このため、検査者は、被験者の体表上において検出器10を所望の位置と異なる位置に接触させてしまうことを抑制することができる。
【0084】
なお、上記において説明したステップS120の工程とステップS130の工程とは、逆の順で行われてもよく、並列に行われてもよい。
【0085】
<残留検出検査を行う処理>
以下、
図8を参照し、検出装置1が残留検査を行う処理について説明する。
図8は、検出装置1が残留検査を行う処理の流れの一例を示す図である。以下では、一例として、以下において説明するステップS230〜ステップS260の繰り返し処理を行っている期間内における所定のタイミングにおいて、検査者が被験者に対象物質を嚥下させることによって残留検査を行う場合について説明する。所定のタイミングは、当該期間内における如何なるタイミングであってもよい。
【0086】
照射制御部211は、検出器10の状態が設置状態となるまで待機する(ステップS210)。具体的には、照射制御部211は、ステップS210において、予め特定された照射口接触位置に照射プローブP1の照射口が接触し、且つ、予め特定された入射口接触位置に検出プローブP2の入射口が接触するまで待機する。ここで、検査者は、残留検査において、予め特定された照射口接触位置に照射プローブP1の照射口を接触させ、且つ、予め特定された入射口接触位置に検出プローブP2の入射口を接触させるように、検出器10を被験者の体表に設置する。このため、照射制御部211は、前述の接触検出部Sからの出力に応じて、検出器10の状態が設置状態になったか否かを判定する。照射制御部211は、検出器10が被験者の体表に接触したことを示す情報を接触検出部Sから取得した場合、検出器10の状態が設置状態になったと判定する。一方、照射制御部211は、当該情報を接触検出部Sから取得していない場合、検出器10の状態が設置状態になっていないと判定する。
【0087】
照射制御部211は、検出器10の状態が設置状態になったと判定した場合(ステップS210−YES)、光源LTを制御し、照射制御部211の照射口からの励起光の照射を開始する。また、当該場合、取得部213は、検出部DTが検出した検出結果を示す検出結果情報の検出部DTからの取得を開始する(ステップS220)。
【0088】
ここで、ステップS220の処理について説明する。照射制御部211は、ステップS220において、前述の切替時間が経過する毎に照射期間と非照射期間とを交互に繰り返すように励起光を光源LTに射出させる処理を開始する。その結果、被験者の対象部位には、照射期間において励起光が照射され、非照射期間において励起光が照射されない。
【0089】
このため、検出部DTは、照射期間において、励起光が照射された対象部位から放射される光を検出する。当該光には、例えば、信号蛍光、背景蛍光、励起光の対象部位における拡散光や散乱光、環境光等が含まれる。なお、実施形態では、環境光は、室内光等のように被験者が位置する環境において存在する光のことを意味する。一方、検出部DTは、非照射期間において、励起光が照射されていない対象部位から放射される光を検出する。当該光には、例えば、環境光等が含まれている。検出部DTは、ステップS220において、このような光の検出を開始する。
【0090】
検出部DTにより検出された検出結果を示す検出結果情報は、検出部DTにより取得部213に出力される。当該検出結果情報を取得する際、取得部213は、前述したように、同期部212から出力されるクロック信号に基づいて、照射期間内に取得された検出結果情報を照射期間内情報として取得し、非照射期間内に取得された検出結果情報を非照射期間内情報として取得する。取得部213は、ステップS220において、このような情報の取得を開始する。
【0091】
次に、算出部214は、ステップS220の処理により励起光が照射され始めたタイミングから所定時間が経過する毎に、ステップS240〜ステップS260の処理を繰り返し行う(ステップS230)。所定時間は、例えば、1.6[s]である。なお、所定時間は、1.6[s]より短い時間であってもよく、1.6[s]より長い時間であってもよい。
【0092】
ステップS230において所定時間が経過したと判定された後、算出部214は、検出部DTにより単位時間あたりに検出された光の強度を算出する(ステップS240)。具体的には、算出部214は、ステップS230において経過したと判定された所定時間内において取得部213により取得されたすべての照射期間内情報に基づいて、検出部DTにより単位時間あたりに検出された光の強度を照射期間内強度として算出する。また、算出部214は、ステップS230において経過したと判定された所定時間内において取得部213により取得されたすべての非照射期間内情報に基づいて、検出部DTにより単位時間あたりに検出された光の強度を非照射期間内強度として算出する。算出部214は、算出した照射期間内強度から、算出した非照射期間内強度を差し引いた値を、第1強度として算出する。これにより、検出装置1は、照射期間内強度の中から、環境光の強度を差し引いた値を第1強度として算出することができる。しかしながら、第1強度には、残留検査においてバックグラウンド光(例えば、上記において説明した背景蛍光、励起光の対象部位における拡散光や散乱光)となる光の強度が含まれている。そこで、算出部214は、記憶部22に予め記憶された第2強度情報が示す第2強度を、算出した第1強度から差し引いた値を、信号蛍光の強度として算出する。ここで、第2強度情報は、第2強度を示す情報のことである。第2強度は、対象物質を嚥下させていない被験者に対して残留検査を行うことによって検出器10により検出される光の強度のことであり、背景蛍光の強度、励起光の対象部位における拡散光や散乱光の強度等を足し合わせた強度である。これにより、検出装置1は、信号蛍光の強度を、精度よく算出することができる。なお、第2強度は、
図8に示したフローチャートの処理を行う前に検出された強度である。ただし、第2強度の検出処理は、被験者が対象物質を嚥下していないことを除いて、
図8に示したフローチャートの処理と同様の処理である。また、算出部214は、第1強度を、信号蛍光の強度として算出する構成であってもよい。
【0093】
次に、算出部214は、ステップS240において算出した信号蛍光の強度を示す信号蛍光強度情報を、現在の時刻を示す時刻情報に対応付けて記憶部22に記憶させる(ステップS250)。
【0094】
次に、算出部214は、ステップS220の処理により励起光が照射され始めたタイミングから所定の測定時間が経過したか否かを判定する(ステップS260)。
【0095】
算出部214は、ステップS220の処理により励起光が照射され始めたタイミングから所定の測定時間が経過していないと判定した場合(ステップS260−NO)、ステップS230に遷移し、直前に実行されたステップS230において所定時間が経過したと判定したタイミングから所定時間が経過するまで待機する。
【0096】
一方、判定部215は、ステップS220の処理により励起光が照射され始めたタイミングから所定の測定時間が経過したと算出部214が判定した場合(ステップS260−YES)、ステップS230〜ステップS260の繰り返し処理を終了させ、ステップS270に遷移する。
【0097】
ステップS270において、判定部215は、ステップS230〜ステップS260の繰り返し処理において記憶部22に記憶された信号蛍光強度情報に基づいて、被験者に嚥下させた対象物質が被験者の対象部位に残留しているか否かを判定する(ステップS270)。すなわち、判定部215は、ステップS270において、当該対象部位における対象物質の残留の有無を判定する。判定部215は、例えば、信号蛍光強度情報が示す強度が所定の第1閾値以上となっていた時間が所定の第2閾値以上である場合、被験者に嚥下させた対象物質が被験者の対象部位に残留したと判定する。一方、判定部215は、例えば、信号蛍光強度情報が示す強度が所定の第1閾値以上となっている時間が所定の第2閾値未満である場合、被験者に嚥下させた対象物質が被験者の対象部位に残留していないと判定する。
【0098】
次に、表示制御部216は、ステップS270において判定部215が判定した判定結果を示す情報を表示部25に表示させるとともに、ステップS230〜ステップS260の繰り返し処理において記憶部22に記憶された信号蛍光強度情報が示す強度の時間的な変化を示す情報を表示部25に表示させ(ステップS280)、処理を終了する。ここで、
図9に示したグラフは、当該情報の一例である。
図9は、ステップS230〜ステップS260の繰り返し処理において記憶部22に記憶された信号蛍光強度情報が示す強度の時間的な変化を示すグラフの一例を示す図である。当該グラフの縦軸は、当該強度を示す。当該グラフの横軸は、当該信号蛍光強度情報に対応付けられた時刻情報に基づいて算出された経過時間を示す。ただし、当該横軸の原点は、検査者が被験者に対象物質を嚥下させようと動き始めたタイミングの一例を示す。また、
図9に示した領域R2に含まれる時間帯は、被験者が対象物質を嚥下し始めてから嚥下し終わるまでの時間帯を示す。また、当該縦軸の値THは、前述の第1閾値の一例を示す。
図9に示した例では、ステップS230〜ステップS260の繰り返し処理において記憶部22に記憶された信号蛍光強度情報が示す強度が値TH以上である時間が、17.6[s]以上の時間である。仮に第2閾値が10[s]であった場合、判定部215は、ステップS270において、対象物質を嚥下した被験者の対象部位に対象物質が残留していると判定する。なお、第1閾値及び第2閾値は、医学、生物学等に基づく何らかのルールによって決められる。また、
図9に示した例では、インドシアニングリーンの濃度が0.8[μM]となるように調製した牛乳を用いている。
【0099】
以上のように、検出装置1は、
図8に示したフローチャートの処理を、残留検査を行う処理として行う。これにより、検出装置1は、被験者の誤嚥のリスク評価の情報の1つとして、残留検査の結果を示す情報(例えば、ステップS270における判定結果、ステップS280において表示されたグラフ等)を、医療従事者等に容易に提供することができる。
【0100】
<照射口と入射口との間の距離の妥当性>
以下、
図10及び
図11を参照し、照射プローブP1の照射口と検出プローブP2の入射口との間の距離dxが30[mm]であることの妥当性について説明する。
【0101】
図10は、光学ファントムを用いた検出器10の検出試験の結果の一例を示す図である。光学ファントムは、光学特性値(光の散乱と吸収)を生体に似せた均一溶液媒体の生体模擬試料のことである。光学ファントムは、散乱体としてイントラリポス(イントラリポス溶液20%、大塚製薬製)、吸収体として緑色色素(粉末食用色素、緑)、蛍光体としてインドシアニングリーン(水に混ぜ合わせたインドシアニングリーン)を用いて製作された生体模擬試料である。検出器10の検出試験では、このような光学ファントムが容器に入れられ、容器に入れられた光学ファントムの液面がプラスチック板によって覆われる。当該検出試験では、このプラスチック板がプローブヘッドHDの筐体の代わりとして用いられる。すなわち、当該検出試験では、当該液面は、被験者の体表の代わりとして用いられる。このため、当該プラスチック板には、照射プローブP1の照射口としてファイバーF1の第2端が設けられる第1開口部と、検出プローブP2の入射口としてファイバーF2の第1端が設けられる第2開口部との2つの開口部が当該プラスチック板に形成されている。そして、第1開口部には、ファイバーF1の第2端が設けられる。第2開口部には、ファイバーF2の第1端が設けられる。これにより、被験者の体表上において設置状態にされた検出器10を、光学ファントムを用いて擬似的に作り出すことができる。この際、光学ファントム内に対象物質を入れると、当該液面から対象物質までの深さは、残留検査に応じた位置から被験者の対象部位までの深さに相当する。また、第1開口部と第2開口部との間の距離は、照射プローブP1の照射口と検出プローブP2の入射口との間の距離dxに相当する。
図10に示したグラフの横軸は、当該液面から対象物質までの深さを示す。また、当該グラフの縦軸は、第1開口部から対象物質へ励起光を照射した場合において検出部DTにより検出された蛍光の強度を示す。ここで、当該蛍光は、光学ファントム内に入れられた対象物質から放射される蛍光のことである。なお、当該強度の検出方法は、
図8に示したフローチャートの処理と同様の処理である。当該グラフ上にプロットされた曲線FC1は、第1開口部と第2開口部との間の距離を15[mm]にした場合において検出された当該強度と当該深さとの関係を示す。当該グラフ上にプロットされた曲線FC2は、第1開口部と第2開口部との間の距離を20[mm]にした場合において検出された当該強度と当該深さとの関係を示す。当該グラフ上にプロットされた曲線FC3は、第1開口部と第2開口部との間の距離を25[mm]にした場合において検出された当該強度と当該深さとの関係を示す。当該グラフ上にプロットされた曲線FC4は、第1開口部と第2開口部との間の距離を30[mm]にした場合において検出された当該強度と当該深さとの関係を示す。当該グラフ上にプロットされた曲線FC5は、第1開口部と第2開口部との間の距離を35[mm]にした場合において検出された当該強度と当該深さとの関係を示す。当該グラフ上にプロットされた曲線FC6は、第1開口部と第2開口部との間の距離を40[mm]にした場合において検出された当該強度と当該深さとの関係を示す。当該グラフ上にプロットされた曲線FC7は、第1開口部と第2開口部との間の距離を45[mm]にした場合において検出された当該強度と当該深さとの関係を示す。
【0102】
図10において曲線FC1〜曲線FC7のそれぞれを見比べることにより、光学ファントム内に入れられた対象物質から放射される蛍光の強度は、光学ファントムの液面から対象物質までの深さが増大するほど弱くなることが分かる。また、
図10において曲線FC1〜曲線FC7のそれぞれを見比べることにより、光学ファントム内に入れられた対象物質から放射される蛍光の強度は、第1開口部と第2開口部との間の距離が長くなるほど、弱くなることが分かる。また、この距離が30[mm]よりも長くなると、蛍光強度は、ノイズレベルに近くなる。その結果、時間的変動が大きくなるため、誤差は、大きく不確定となる。これらは、当該深さが増大するほど対象物質に照射される励起光が光路長の増大にともなって拡散、散乱、減衰されてしまうことと、当該深さが増大するほど対象物質から放射される蛍光が光路長の増大にともなって拡散、散乱、減衰されてしまうこととの2つの要因によるものと推定される。
図10に示した当該深さと当該強度との関係は、所定の関係の一例である。
【0103】
一方、
図11は、
図10と同じ光学ファントムを用いた検出器10の検出試験の結果を別の観点から示す図である。
図11に示したグラフの横軸は、光学ファントムの液面から対象物質までの深さを示す。また、当該グラフの縦軸は、
図8に示したフローチャートの処理によって光学ファントムから検出部DTにより検出された蛍光についてのSB比(Signal-Background Ratio)である。このSB比におけるシグナルは、光学ファントムに対象物質を入れた場合において当該処理によって検出部DTにより検出された蛍光の強度(
図8に示した例では、第1強度から第2強度を差し引いた値に相当)である。ここで、当該蛍光は、光学ファントム内に入れられた対象物質から放射される蛍光のことである。なお、当該強度の検出方法は、
図8に示したフローチャートの処理(より具体的には、第1強度を検出(算出)する処理)と同様の処理である。また、このSB比におけるバックグラウンド光は、光学ファントムに対象物質を入れていない場合において当該処理によって検出装置1により検出された光の強度(当該例では、第2強度に相当)である。ここで、当該光は、光学ファントム内から検出プローブP2の入射口に入射した光のことである。なお、当該強度の検出方法は、
図8に示したフローチャートの処理と同様の処理(より具体的には、第2強度を検出(算出)する処理)である。ただし、
図10に示したように、距離dxが30[mm]を超えると、蛍光強度の時間的変動は、大きくなり誤差が増大する。このため、確実なデータは、得られにくい。
【0104】
図11に示したグラフ上にプロットされた曲線FD1は、第1開口部と第2開口部との間の距離を15[mm]にした場合において検出部DTにより検出された蛍光についてのSB比と、光学ファントムの液面から対象物質までの深さとの関係を示す。当該グラフ上にプロットされた曲線FD2は、第1開口部と第2開口部との間の距離を20[mm]にした場合において検出部DTにより検出された蛍光についてのSB比と、光学ファントムの液面から対象物質までの深さとの関係を示す。当該グラフ上にプロットされた曲線FD3は、第1開口部と第2開口部との間の距離を25[mm]にした場合において検出部DTにより検出された蛍光についてのSB比と、光学ファントムの液面から対象物質までの深さとの関係を示す。当該グラフ上にプロットされた曲線FD4は、第1開口部と第2開口部との間の距離を30[mm]にした場合において検出部DTにより検出された蛍光についてのSB比と、光学ファントムの液面から対象物質までの深さとの関係を示す。当該グラフ上にプロットされた曲線FD5は、第1開口部と第2開口部との間の距離を35[mm]にした場合において検出部DTにより検出された蛍光についてのSB比と、光学ファントムの液面から対象物質までの深さとの関係を示す。当該グラフ上にプロットされた曲線FD6は、第1開口部と第2開口部との間の距離を40[mm]にした場合において検出部DTにより検出された蛍光についてのSB比と、光学ファントムの液面から対象物質までの深さとの関係を示す。当該グラフ上にプロットされた曲線FD7は、第1開口部と第2開口部との間の距離を45[mm]にした場合において検出部DTにより検出された蛍光についてのSB比と、光学ファントムの液面から対象物質までの深さとの関係を示す。
【0105】
図11において曲線FD1〜曲線FD7のそれぞれを見比べることにより、検出器10により検出された蛍光についてのSB比は、光学ファントムの液面から対象物質までの深さが増大するほど弱くなることが分かる。これも、当該深さが増大するほど対象物質に照射される励起光が光路長の増大にともなって拡散、散乱、減衰されてしまうことと、当該深さが増大するほど対象物質から放射される蛍光が光路長の増大にともなって拡散、散乱、減衰されてしまうこととの2つの要因によるものと推定される。一方、当該SB比は、第1開口部と第2開口部との間の距離が長くなるほど、強くなる傾向にあることが分かる。これは、第1開口部と第2開口部との間の距離が短いほど、第1開口部から光学ファントム内に照射された励起光の散乱光がバックグラウンド光として第2開口部から検出部DTへと入射してしまうためであると推定される。
図11に示した当該SB比と当該強度との関係は、所定の関係の一例である。
【0106】
検査者は、
図10に示した関係と、
図11に示した関係とに基づいて、第1開口部と第2開口部との間の距離を、検出部DTにより検出される蛍光の強度と、SB比との両方が大きくなるように決める。このようにして決められた値の1つが、dx=30[mm]という値である。すなわち、距離dxを30[mm]とすることの妥当性は、これら2つの関係によって担保されている。なお、検査者は、
図10に示した関係と、
図11に示した関係とのいずれか一方に基づいて、距離dxを決定してもよい。
【0107】
なお、上記において説明した検出装置1を用いた残留試験では、人体にとって無害(又は人体にとって害が少ない)蛍光物質を牛乳等の食品に混ぜている。このため、当該残留試験では、被験者は、対象物質を容易に経口摂取することができる。これは、被験者の負担を減らす観点からも望ましいことである。
【0108】
また、上記において説明した検出装置1を用いた残留試験では、人体に無害な強度(上記において説明した例では、70[mW])の近赤外光を用いている。このため、当該残留試験は、X線を用いた場合のように被験者を被爆させることなく、非侵襲で繰り返し行うことができる。
【0109】
また、上記において説明した検出装置1は、近赤外光を照射するため、検出装置1の大きさを小さくすることができるとともに、容易な操作を実現している。そして、当該検出装置1は、リアルタイムで残留検査を行うことができる。
【0110】
また、上記において説明した検出装置1を用いた残留検査は、信号蛍光の検出により対象部位における対象物質の残留の有無を判定するため、被験者の首や喉の動きによる誤差が生じにくい。これも、被験者の負担を減らす観点から望ましいことである。
【0111】
<検出装置による残留検出検査の結果とその考察>
以下、検出装置1による残留検出検査の結果とその考察について説明する。
図12は、検出装置1による残留検出検査の結果の一例を示す図である。より具体的には、
図12は、
図8に示したステップS230〜ステップS260の繰り返し処理において記憶部22に記憶された信号蛍光強度情報が示す強度の時間的な変化を示すグラフの他の例を示す図である。
図12に示したグラフの縦軸は、第1開口部から対象物質へ励起光を照射した場合において検出部DTにより検出された蛍光の強度を示す。当該グラフの横軸は、当該信号蛍光強度情報に対応付けられた時刻情報に基づいて算出された経過時間を示す。ただし、当該横軸の原点は、検査者が被験者に対象物質を嚥下させようと動き始めたタイミングの一例を示す。また、
図12に示した領域R3に含まれる時間帯は、被験者が嚥下し始めてから嚥下し終わるまでの時間帯を示す。より具体的には、領域R3は、対象物質を口に含んでいる状態の被験者が対象物質を嚥下し始めてから嚥下し終わるまでの時間帯を示す。また、
図12に示した例では、領域R3に含まれる時間帯が過ぎた後の時間帯において、検査者は、被験者に2回空嚥下をさせている。ここで、被験者の行なう空嚥下は、口に何も含んでいない状態の被験者が行なう嚥下のことである。すなわち、
図12に示した領域R4は、領域R3に含まれる時間帯が過ぎた後に被験者が1回目の空嚥下を行い始めてから空嚥下を行い終わるまでの時間を示す。また、
図12に示した領域R5は、領域R3に含まれる時間帯が過ぎた後に被験者が2回目の空嚥下を行い始めてから空嚥下を行い終わるまでの時間を示す。なお、
図12に示した例では、インドシアニングリーンの濃度が0.8[μM]となるように調製した牛乳を用いている。
【0112】
図12に示したように、領域R3において被験者が口に含んでいた対象物質を嚥下した後、検出装置1は、領域R3に含まれる時間帯よりも前の時間帯において検出部DTにより検出された蛍光の強度よりも高い強度の蛍光を検出している。このような高い強度の蛍光の検出は、領域R4において被験者が空嚥下を行なうまで続いている。一方、領域R4に含まれる時間帯の後の時間帯では、検出装置1は、領域R3に含まれる時間帯よりも前の時間帯において検出部DTにより検出された蛍光の強度とほぼ同じ強度の蛍光を検出している。そして、このような強度の蛍光の検出は、領域R5において被験者が空嚥下を行なっても変わりなく続いている。
【0113】
以上のことから、被験者が対象物質を嚥下した後から、1回目の空嚥下を行なうまでの期間、すなわち、領域R3と領域R4との間の期間において、対象物質は、被験者の対象部位に残留していたことが分かる。そして、被験者が1回目の空嚥下を行なった後、検出部DTにより検出された蛍光の強度が下がったことは、被験者が対象物質を嚥下した場合、被験者が対象物質を嚥下してから1回目の空嚥下をするまでの間、被験者の対象部位に対象物質が残留してことを裏付けている。従って、検出装置1を用いて検査を行なう検査者は、
図12に示したようなグラフを描くことにより、被験者の嚥下に関係する筋の筋力と統合動作との評価を、精度よく行なうことができる。
【0114】
このように、検出装置1は、被験者の誤嚥のリスク評価の情報の1つとして、残留検査の結果を示す情報(例えば、ステップS270における判定結果、ステップS280において表示されたグラフ等)を、医療従事者等に容易に提供することができる。
【0115】
以上説明したように、実施形態に係る検出装置(上記において説明した例では、検出装置1)は、所定の種類の蛍光物質(上記において説明した例では、インドシアニングリーン)を含む物質(上記において説明した例では、牛乳)を対象物質として、生物(上記において説明した例では、被験者)が有する部位のうち予め決められた対象部位(上記において説明した例では、被験者が有する部位のうち梨状窩を含む部位)に入れられた対象物質から放射される蛍光(上記において説明した例では、信号蛍光)を検出する検出装置であって、生物の生体外から蛍光物質へ励起光を照射する照射部(上記において説明した例では、照射部11)と、蛍光を生物の生体外から検出する検出部(上記において説明した例では、検出部12)と、を備え、照射部は、生物の体表に接触させる第1接触部(上記において説明した例では、第1接触部M1)を有し、第1接触部には、励起光を照射する照射口が設けられており、検出部は、生物の体表に接触させる第2接触部(上記において説明した例では、第2接触部M2)を有し、第2接触部には、蛍光が入射する入射口が設けられており、照射口と入射口との間の距離は、所定の関係に応じて決められる距離である。これにより、検出装置は、生物の生体内に入れられた蛍光物質から放射される蛍光を生物の生体外から検出する精度の向上と、製造コストの増大の抑制とを両立することができる。
【0116】
また、検出装置では、所定の関係には、生物の体表に第2接触部が接触している場合における入射口から生物の生体内における対象物質までの第1距離と、検出部により検出される蛍光の強度との関係(上記において説明した例では、
図10に示した関係)が含まれる、構成が用いられてもよい。
【0117】
また、検出装置では、所定の関係には、検出部により検出されるシグナルと、検出部により検出されるバックグラウンド光との関係(上記において説明した例では、
図11に示した関係)が含まれる、構成が用いられてもよい。
【0118】
また、検出装置では、生物は、人であり、対象部位は、人が有する部位のうち梨状窩を含む部位である、構成が用いられてもよい。
【0119】
また、検出装置では、蛍光物質は、インドシアニングリーンである、構成が用いられてもよい。
【0120】
また、検出装置では、励起光は、近赤外光である、構成が用いられてもよい。
【0121】
また、検出装置では、照射部による励起光の照射と、検出部による蛍光の検出とを制御する制御部(上記において説明した例では、制御部21)を備える、構成が用いられてもよい。
【0122】
また、検出装置では、制御部は、生物の体表において予め決められた位置(上記において説明した例では、照射口接触位置、入射口接触位置)に第1接触部と第2接触部とのそれぞれが接触させられた場合、照射部による励起光の照射を開始させる、構成が用いられてもよい。
【0123】
また、検出装置では、生物の体表において予め決められた位置に第1接触部と第2接触部とのそれぞれが接触させられたことを検出する接触検出部(上記において説明した例では、接触検出部S)を備え、制御部は、生物の体表において予め決められた位置に第1接触部と第2接触部とのそれぞれが接触させられたことを接触検出部が検出した場合、照射部による励起光の照射を開始させる、構成が用いられてもよい。
【0124】
また、検出装置では、制御部は、励起光を所定の第1時間照射する照射期間と、励起光を所定の第2時間照射しない非照射期間とを交互に繰り返すように励起光を照射部により照射する、構成が用いられてもよい。
【0125】
また、検出装置では、制御部は、照射期間において検出部により検出された蛍光と、非照射期間において検出部により検出された光とに基づいて、対象部位における対象物質の残留の有無を判定する、構成が用いられてもよい。
【0126】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない限り、変更、置換、削除等されてもよい。
【0127】
また、以上に説明した装置(例えば、制御装置20)における任意の構成部の機能を実現するためのプログラムを、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録し、そのプログラムをコンピューターシステムに読み込ませて実行するようにしてもよい。なお、ここでいう「コンピューターシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD(Compact Disk)−ROM等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバーやクライアントとなるコンピューターシステム内部の揮発性メモリー(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0128】
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピューターシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピューターシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。