【実施例】
【0061】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
[試薬等]
SORは、米国のAstaTech社から入手した。MK−siRNAとコントロールsiRNA(siGL4)は、表1に記載の塩基配列からなる合成RNAを用いた。qRT−PCRで使用されるオリゴヌクレオチドプライマーは、表2に記載の塩基配列からなる合成RNAを用いた。SP94ペプチドの末端にシステインを付加したペプチド(SFSIIHTPILPL−Cys)は、化学合成したものを用いた。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
YSK05は、非特許文献3に記載の方法で合成した。N−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル]−N、N、N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTAP)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン(DOPE)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスフォコリン(DOPC)、及び1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフォコリン(DSPC)は、米国のAvanti Polar Lipids社から入手した。1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン(POPE)、卵黄由来L−α−ホスファチジルコリン(EPC)、及び1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン−N−[マレイミド(ポリエチレングリコール)−2000](DSPE−PEG
2k−MA)は、日本のNOF社から入手した。コレステロール、Triton X100、Tri試薬、及びシナピン酸は、米国のSigma-Aldrich社から入手した。分岐型ポリエチレンイミン(PEI)(平均分子量10KDa)は、日本の和光社から入手した。 ステアリル化オクタアルギニンペプチド(STR−R8)は、日本のクラボウ社によって合成された。Ribogreenは、米国のInvitrogen社から入手した。3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)細胞増殖アッセイキットは、英国のAbcam社から入手した。ReverTra Ace qPCR RT Master Mix kitとgDNA Remover及びThunderbird SYBR qPCRMixは、日本のTOYOBO社から購入した。細胞培養プレート(2.5×150mm、6ウェルプレート及び24ウェルプレート)は、米国のCorning社から入手した。ガラス底ディッシュ(35mm)は、日本のいわき社から入手した。
【0066】
ヌクレアーゼフリー水、1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチルインドジカルボシアニン−4−クロロベンゼンスルホン酸塩(DiD)及び2’−(4−エトキシフェニル)−5−(4−メチルピペラジン−1−イル)−2,5’−ビベンゾイミダゾール(Hoechst 33342)は、米国のThermo Fisher Scientific社から入手した。Cy3標識siRNAは、米国のQiagen社から入手した。カットオフ分子量3.5KDa(Spectra / Por 6)の透析膜は、米国のSpectrum Labs社から入手した。
【0067】
[細胞]
ヒト肝細胞癌細胞株HepG2、ヒト子宮頸部腺癌細胞株HeLa、マウス肝細胞癌細胞株Hepa 1−6、及びマウス正常肝細胞株FL83Bは、米国のATCC(American Type Culture Collection)から入手した。各細胞株は、製造業者のガイドラインに従って培養され、維持された。HepG2及びHepa 1−6細胞は、高比率のグルコース(4.5g/L)(ナカライテスク社、日本)を含むダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)で培養され、HeLa細胞は、低比率のグルコース(1g/L)を含むDMEM(米国、Sigma Aldrich社)で培養された。FL83B細胞をF−12K培地(米国、ATCC)で培養した。すべての培地に10容量%の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)(Biosera、米国)と抗生物質溶液(Thermo Fisher Scientific社、米国)を追加し、微生物汚染を防ぐために100ユニット/mL ペニシリンと100μg/mL ストレプトマイシンを含有させた。すべての細胞は、37℃、5% CO
2、湿度95%のインキュベーター内で培養した。
【0068】
[脂質ナノ粒子の調製]
以降の実験において、特に記載のない限り、脂質ナノ粒子は、脂質薄膜水和法によって調製された。
siRNA(3nmol)とPEIは、個別にHEPESバッファー(10mM、pH4)に溶解し、リン酸に対する窒素比(N/P)がイコールから0.5になるように、PEI溶液をsiRNA溶液にボルテックスをしながら徐々に加えることで、負に帯電したコアを形成するようにして、複合体を形成した。室温で30分間インキュベーションした後、このコア溶液を使用して、脂質のエタノール溶液を真空下で蒸発させることにより形成された脂質フィルムを水和させた。SORは、エバポレーション前に、望ましい量のエタノール溶液を脂質溶液に添加することにより、脂質ナノ粒子に内包させた。室温でさらに30分間インキュベーションした後、水和したフィルムを1分間超音波処理して脂質ナノ粒子を形成し、脂質ナノ粒子を安定させるためにさらに室温で30分間インキュベートした。脂質ナノ粒子溶液を、分子量15kDaのフィルターチューブ(Merck Millipore社)を使用した限外濾過−遠心分離(2000g、30分間、室温)で濾過し、内包されていないSORを除去した。
【0069】
次に、フィルター上に保持された脂質ナノ粒子をHEPESバッファー(10mM、pH7.4)に再懸濁して、YSK05のカチオン電荷を中和した。他のpH非依存性脂質を使用した場合も、すべての調製物はHEPESバッファー(10mM、pH7.4)で処理した。ブランク脂質ナノ粒子は、siRNA又はSORなしで同様の方法で調製され、ネガティブコントロールとした。
【0070】
[脂質ナノ粒子の粒子径及びゼータ電位の測定]
脂質ナノ粒子の粒子径及びゼータ電位は、動的光散乱法を用いて粒子径を、DLS装置(製品名:「ゼータサイザー」、マルバーン・パナリティカル社製)を用いて測定した。
【0071】
[脂質ナノ粒子への封入効率の評価]
SORの脂質ナノ粒子への封入効率(encapsulation efficiency:EE)は、最終的に得られた脂質ナノ粒子溶液のサンプル30μLを、適切な量のエタノールと激しくボルテックスしながら混合して測定した。SOR含有量は、脂質ナノ粒子を入れずに同様に調製したサンプルをブランクとして、266nmの分光光度法(「Life Science UV / vis Spectrophotometer DU730」、米国、Beckman Coulter社)で決定された。予め設定された検量線を使用して、封入されたSOR量を計算した。SOR封入効率は、以下の式で計算した。
【0072】
【数1】
【0073】
siRNA封入効率は、Ribogreen蛍光分析法(非特許文献7)によって決定された。
【0074】
[細胞毒性の評価]
以降の実験において、特に記載のない限り、細胞毒性は以下の方法によって評価された。
細胞を、各実験の24時間前に5×10
4細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートに播種した。実験時に、0.25mLの無血清培地で、細胞を目的の濃度に調製した脂質ナノ粒子で処理し、37℃で4時間インキュベートした。次に、10% FBSを含む1mLの新鮮な培地を各ウェルに加え、細胞をさらに20時間インキュベートした。 細胞生存率を評価するために、製造元のガイドラインに従ってMTTアッセイを実施した。
【0075】
まず、培地を除去し、細胞を滅菌PBSで洗浄した。MTT試薬の50μLアリコートと等量の無血清培地を各ウェルに加え、細胞を37℃で3時間インキュベートした。次いで、各ウェルに150μLのMTT溶媒を加えて、形成されたホルマザンを溶解し、プレートをシェーカーで15分間振とうした。各ウェルの溶液の590nmの吸光度を、マルチプレートリーダー(「Enspire 2300 Multilabel Reader」、PerkinElmer社、米国)を使用して分光測光法で測定し、その吸光度を未処理のコントロール細胞の吸光度と比較した。細胞を含まない無血清培地を同様の方法で処理したものをネガティブコントロールとし、バックグラウンドの吸光度を補正した。細胞生存率は、未処理細胞の補正後吸光度に対する、処理細胞の補正後吸光度の割合([処理細胞の補正後吸光度]/[未処理細胞の補正後吸光度])(%)として求めた。
【0076】
[細胞へのin vitroトランスフェクション]
以降の実験において、特に記載のない限り、細胞へのin vitroトランスフェクションは以下の方法によって実施した。
各実験の24時間前に、細胞を2×10
5細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートに播種した。無血清培地1mLに目的の濃度になるようにsiRNA搭載脂質ナノ粒子を含有させたサンプルを各ウェルに加え、細胞を37℃で4時間インキュベートした。次いで、10% FBSを含む新鮮な培地(4mL)を各ウェルに加え、細胞をさらに20時間インキュベートした。細胞をPBSで洗浄した後、500μLのTri試薬を使用して溶解し、測定が行われるまで−80℃で保存した。
【0077】
[遺伝子発現の測定]
以降の実験において、特に記載のない限り、遺伝子発現量は以下の方法によって測定した。
細胞溶解物を含むTri試薬をクロロホルムと混合し、遠心分離して、DNA及びタンパク質から全RNAを分離した。上部のRNA層を分離し、RNAペレットをイソプロパノールで沈殿させ、75% 冷エタノールで2回洗浄した。次に、最終的なRNAペレットを適切な量のヌクレアーゼフリー水に溶解し、UV分光光度法(「NanoDrop Lite」、Thermo Fisher Scientific社、米国)で定量化した。製造元のプロトコルに従って、gRNA Remover(TOYOBO社、日本)を含むReverTra Ace qPCR RT Master Mix kitを使用して、トータルRNAの500ngサンプルを逆転写して相補DNA(cDNA)に得た。
【0078】
qRT−PCR分析は、Thunderbird SYBR qPCR Mix(TOYOBO社、日本)と表2に記載のプライマーを使用して、取得したcDNAを用いて実行した。qRT−PCRは、サクライらの方法(非特許文献8)と同じ条件下で、Light Cycler 480(Roche Diagnostics、バーゼル、スイス)を使用して96ウェルプレートで行われた。MK遺伝子のmRNAの相対量は、サクライらの方法(非特許文献8)と同様にddCt法で計算され、ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子のmRNAで正規化された。
【0079】
[蛍光活性化セルソーティング(FACS)分析による細胞取り込み実験]
以降の実験において、特に記載のない限り、FACS分析による細胞取り込み実験は以下の方法によって実施した。
調製した脂質ナノ粒子の細胞への取り込みを、様々な細胞株で評価した。被験細胞は、各実験の24時間前に2×10
5細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートに播種した。脂質ナノ粒子は、親油性蛍光プローブDiD(0.1モル%)で標識された。被験脂質ナノ粒子を含むサンプルを無血清細胞培養培地と混合して、総量1mLで10μM SORに相当する最終濃度に調整して、細胞を37℃で4時間インキュベートした。培地を除去して細胞をPBSで洗浄した後、0.05% トリプシンでの処理により剥離した。次に、細胞懸濁液500gを4℃で10分間遠心し、細胞ペレットを、0.5% ウシ血清アルブミンと0.1% アジ化ナトリウムを含む1mLのFACSバッファーに懸濁した。遠心分離と細胞ペレットのFACSバッファーによる洗浄を2サイクル行った後、細胞ペレットを750μLのFACSバッファーに完全に懸濁し、ナイロンメッシュに通して全ての細胞凝集体を除去した。細胞の平均蛍光強度(MFI)は、FACSCaliburフローサイトメトリー(BD Biosciences社、米国)によって決定され、様々な細胞株による様々な脂質ナノ粒子の細胞取り込みを比較するために、未処理の細胞のMFIに正規化された。
【0080】
[統計]
以降の実験において、特に記載のない限り、分析による細胞取り込み実験は以下の方法によって実施した。
GraphPad Prism 7ソフトウェアを使用して、統計分析を行った。さまざまなグループの平均値の比較は、一元配置分散分析(ANOVA)に続いてBonferroni検定を使用して行った。平均間のペアワイズ比較は、両側スチューデントt検定を使用して行った。 P値<0.05は有意であるとした。各測定値は、3つの独立した実験の平均値±標準偏差で表された。
【0081】
[製造例1]
肝癌細胞結合性PEG化脂質として、SP94修飾DSPE−PEGを合成した。システインが末端に付加されたSP94ペプチド(Cys−SP94)を、Micheal反応を介してDSPE−PEG
2k−MAに結合させた。
【0082】
【化6】
【0083】
Cys−SP94とDSPE−PEG
2k−MAのエタノール溶液又は水溶液を2mM濃度で調製した。次に、等量の2つの溶液を混合し、900rpm、30℃で24時間振とうしながらインキュベートして、最終濃度1mMのコンジュゲートを得た。マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)を使用して、反応の完了とコンジュゲートの分子量を確認した。
【0084】
[MALDI−TOF−MS分析]
反応物と生成物の分子量を確認するために、共役反応の後にMALDI−TOF−MSを使用した。0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)と1% シナピン酸を含むアセトニトリル(30%)の水溶液をマトリックス溶液として使用した。各サンプルの分子量は、MALDI−TOF Ultraflex II機器(Bruker Daltonics社、米国)を用いて測定された。
【0085】
[実施例1]
製造例1で合成したSP94修飾DSPE−PEGを構成脂質として含み、SORとMK−siRNAを搭載した脂質ナノ粒子(SP94修飾脂質ナノ粒子)を製造し、各培養細胞へのin vitroにおける取り込み等を調べた。
【0086】
さらに、pH感受性カチオン性脂質YSK05も構成脂質として用いた。脂質ナノ粒子の構成脂質のモル比は、YSK05/EPC/コレステロール/SP94修飾DSPE−PEG=4:3:3:0.5とした。SP94修飾脂質ナノ粒子には、10μMのSORと400nMのMK−siRNAを搭載させた。
【0087】
SP94修飾DSPE−PEGは、事前挿入法又事後挿入法のいずれかの方法で、脂質ナノ粒子に挿入した。事前挿入法では、SP94修飾DSPE−PEGのエタノール溶液を、蒸発及び脂質薄膜の形成前に、他の脂質のエタノール溶液に目的の量で直接添加した。事後挿入法では、SP94修飾DSPE−PEGの水溶液を目的の量で脂質ナノ粒子の水溶液に添加し、脂質ナノ粒子を室温又は60℃で30分間インキュベートして、脂質ナノ粒子を安定化させた。
【0088】
調製されたSP94修飾脂質ナノ粒子を、HepG2細胞、HeLa細胞、Hepa 1−6細胞、及びFL83B細胞にそれぞれ導入させて、FACS分析による細胞への取り込み量を調べた。HepG2細胞への取り込み量を100%とした相対取り込み量(%)を
図1に示す。図中、「*」はP<0.05、「***」はP<0.0001を表す。
図1に示すように、肝癌細胞由来のHepG2細胞とHeLa細胞とHepa 1−6細胞では、いずれもSP94修飾脂質ナノ粒子の取り込みが確認されたが、正常肝細胞由来のFL83B細胞には、SP94修飾脂質ナノ粒子の取り込みは確認されなかった。
【0089】
また、SP94修飾脂質ナノ粒子の取り込み処理を行った各細胞について、細胞毒性を評価した。各細胞の細胞生存率(%)を調べた。結果を
図2に示す。図中、「**」はP<0.001を表し、「***」はP<0.0001を表す。SP94修飾脂質ナノ粒子の取り込みが確認されなかったFL83B細胞では細胞生存率はほぼ100%近くであったのに対して、3種の肝癌細胞由来の培養株では、
図1に示すSP94修飾脂質ナノ粒子の取り込み量が多いほど、細胞生存率は低い傾向が観察された。
【0090】
搭載させるMK−siRNAの量を0〜400nMとした以外は同様にして、SP94修飾脂質ナノ粒子を製造した。得られたSP94修飾脂質ナノ粒子を各細胞へ取り込ませ、RNA干渉によるMK遺伝子の発現抑制(サイレンシング)を調べた。MK−siRNAを搭載していないSP94修飾脂質ナノ粒子(MK−siRNA量が0nM)のMK遺伝子の発現量を100%とした相対発現量の測定結果を
図3に示す。図中、「**」はP<0.001を表し、「***」はP<0.0001を表す。SP94修飾脂質ナノ粒子の取り込みが確認されなかったFL83B細胞では、MK−siRNAの搭載量を増大させてもMK遺伝子の発現量は変化しなかった。3種の肝癌細胞由来の培養株では、MK−siRNAの搭載量依存的にMK遺伝子の発現量は低下した。
【0091】
これらの結果から、SP94修飾脂質ナノ粒子は、肝癌細胞に選択的に取り込まれ、MK遺伝子の発現抑制と細胞死を引き起こすことがわかった。
【0092】
[実施例2]
製造例1で合成したSP94修飾DSPE−PEGを構成脂質として含む脂質ナノ粒子(SP94修飾脂質ナノ粒子)に、SORのみ、MK−siRNAのみ、SORとMK−siRNA、又はSORとCtrl−siRNAを搭載させ、得られたSP94修飾脂質ナノ粒子をHepG2細胞に取り込ませた。
【0093】
SP94修飾脂質ナノ粒子は、SOR濃度が0、5、又は10μM、MK−siRNA及びCtrl−siRNAの濃度が400nMとした以外は実施例1と同様にして製造した。製造されたSP94修飾脂質ナノ粒子は、HepG2細胞の培養培地に添加した後、24又は48時間インキュベートした後の細胞生存率(%)を調べた。
【0094】
SOR濃度が10μMのSP94修飾脂質ナノ粒子を取り込ませて24時間インキュベート後の細胞生存率の結果を
図4に示す。図中、「**」はP<0.001を表し、「***」はP<0.0001を表す。MK−siRNAのみが搭載されたSP94修飾脂質ナノ粒子やSORとCtrl−siRNAが搭載されたSP94修飾脂質ナノ粒子を取り込ませた細胞よりも、SORとMK−siRNAの両方が搭載されたSP94修飾脂質ナノ粒子を取り込ませた細胞のほうが、細胞生存率が明らかに低下していた。
【0095】
SOR濃度が0、5、又は10μMであり、SOR単独、MK−siRNA単独、SORとMK−siRNA、又はSORとCtrl−siRNAを搭載させたSP94修飾脂質ナノ粒子を取り込ませて、24時間インキュベート後の細胞生存率の結果を
図5Aに、48時間インキュベート後の細胞生存率の結果を
図5Bに、それぞれ示す。図中、「**」は、SORとCtrl−siRNAを搭載させたSP94修飾脂質ナノ粒子に対してP<0.001を表し、「***」はP<0.0001を表す。SORのみが搭載されたSP94修飾脂質ナノ粒子を取り込ませた細胞よりも、SORとMK−siRNAの両方が搭載されたSP94修飾脂質ナノ粒子を取り込ませた細胞のほうが、細胞生存率が明らかに低下していた。
【0096】
図4〜5に示すように、MK−siRNAの存在は、HepG2細胞におけるSORの用量反応曲線を大幅に改善した。これは、MK−siRNAをコントロールのsiRNAであるsiCntrlで置き換えた場合には示されなかった。さらに、二元配置分散分析テスト(SOR*MK−siRNAのP値<0.05)、及び、Compusyn(登録商標)ソフトウェアを使用してChou−Talalayモデルから計算された組み合わせインデックス値(CI<1)から、SORとMK−siRNA間の相互作用効果は、相加的であるだけでなく、相乗的であった。すなわち、これらの結果から、SORとMK−siRNAを併用することにより、SORの抗癌効果が相乗的に増強されることが確認された。
【0097】
5μMのSOR、200nMのMK−siRNAをpH5.5又はpH7.4で搭載したSP94修飾脂質ナノ粒子について、脂質ナノ粒子からのin vitroにおけるSORの放出の経時的変化を調べた。各pHでの脂質ナノ粒子からのin vitro SOR放出プロファイル(「***」は、pH7.4の結果に対してP<0.0001を表す。)を
図6に示す。SORは、pH7.4の場合よりもpH5.5においてより多く放出されており、脂質ナノ粒子からのSORのin vitro放出は、pHに敏感であることがわかった。
【0098】
[実施例3]
実施例2において、in vitroにおける優れた抗癌効果が確認された、SORとMK−siRNAを搭載したSP94修飾脂質ナノ粒子について、肝細胞癌の担癌マウスに対する抗癌効果を調べた。
【0099】
雄のBALB/cヌードマウスの右側腹部に、ヒト肝細胞癌由来培養細胞株HepG2を皮下接種して、4〜6週間生育させることにより、肝細胞癌の担癌マウスを作製した。腫瘍の体積が約100mm
3に達したとき、当該担癌マウスに0.5mg/kgのsiRNA用量で尾静脈からSP94修飾脂質ナノ粒子を静脈内投与した。
【0100】
投与されたSP94修飾脂質ナノ粒子は、実施例1及び2におけるin vitroでの細胞への取り込みや抗癌効果等について優れていたにもかかわらず、担癌マウスへ投与した場合には、腫瘍細胞への選択的な取り込みが確認できず、腫瘍細胞内においてMK遺伝子のサイレンシング活性を誘発することもできなかった。
【0101】
SP94修飾脂質ナノ粒子の構成脂質全体に占めるSP94修飾DSPE−PEGの割合を、5又は10モル%とした以外は実施例2と同様にして、5μMのSORと200nMのMK−siRNAを搭載したSP94修飾脂質ナノ粒子を製造した。コントロールとして、SP94修飾DSPE−PEGに代えてDSPE−PEG
2k−MAを用いた以外は同様にして、SP94不含脂質ナノ粒子を製造した。これらの脂質ナノ粒子を、担癌マウスに0.5mg/kgのsiRNA用量で尾静脈からSP94修飾脂質ナノ粒子を静脈内投与し、血中量を経時的に測定した。SP94修飾DSPE−PEG又はDSPE−PEG
2k−MAの割合を5モル%とした脂質ナノ粒子の血中濃度(ID%/mL)の測定結果を
図7Aに、SP94修飾DSPE−PEG又はDSPE−PEG
2k−MAの割合を10モル%とした脂質ナノ粒子の血中濃度(ID%/mL)の測定結果を
図7Bに、それぞれ示す。
【0102】
SP94修飾DSPE−PEGを全構成脂質に対して5モル%含有しているSP94修飾脂質ナノ粒子は、in vitroでは優れた肝癌細胞への取り込みと抗癌効果を有していたにもかかわらず(実施例2)、担癌マウスでは血中での平均滞留時間(MRT)が20分間未満と非常に低い薬物動態を示し、肝臓と脾臓による急速なクリアランスを示した(
図7A)。これに対して、SP94修飾DSPE−PEGを全構成脂質に対して10モル%含有しているSP94修飾脂質ナノ粒子は、MRTが9時間を超えて延長され、血中プロファイルが劇的に改善された(
図7B)。これらの結果から、肝癌細胞結合性PEG化脂質の含有割合を最適化することにより、SP94修飾脂質ナノ粒子のin vivoにおける抗癌効果を顕著に改善できることがわかった。
【0103】
[実施例4]
侵襲性脂質ナノ粒子製造装置(iLiNP)と呼ばれるマイクロ流体デバイス(非特許文献5)を利用して、装置の製造条件や、構成脂質の組成を変化させて、個数平均粒子径が100nm以下となるように調節して、SORとMK−siRNAを搭載したSP94修飾脂質ナノ粒子を調製した。マイクロ流体デバイスの流量比を変化させて調製された脂質ナノ粒子の特性値を表3に、マイクロ流体デバイスのバッファーを変化させて調製された脂質ナノ粒子の特性値を表4に、siRNA量と構成脂質のモル比を変化させて調製された脂質ナノ粒子の特性値を表5に、それぞれ示す(n=6)。
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
これらの結果から、以降は、より粒子径が小さく、生体内の肝細胞癌へ送達させやすい脂質ナノ粒子を製造するため、流量比を4:1、HEPESバッファーを用い、siRNA/脂質モル比を1:1000として製造することにした。
【0108】
流量比等の条件を最適化した上で、YSK05の構成脂質全体に対する割合(モル%)を変化させて調製されたSP94修飾脂質ナノ粒子の特性値を表6に示す。また、調製された脂質ナノ粒子と、実施例2と同じ条件で、YSK05の構成脂質全体に対する割合40モル%で調製されたSP94修飾脂質ナノ粒子を作製した。これらのSP94修飾脂質ナノ粒子を、実施例2と同様にして作製した肝細胞癌の担癌マウスに対して、腫瘍の体積が約100mm
3に達したとき、0.5mg/kgのsiRNA用量で尾静脈からSP94修飾脂質ナノ粒子を静脈内投与し、肝細胞癌と正常肝臓におけるMK遺伝子の相対発現量を調べた。結果を
図8に示す(n=3)。図中、「NT」は、SP94修飾脂質ナノ粒子を尾静脈投与していない担癌マウスの結果を示す。
【0109】
【表6】
【0110】
図8に示すように、個数平均粒子径を160nmから100nmに減少させると、脂質組成は同じであるにもかかわらず、肝細胞癌に対する選択性が向上した。さらに、YSK05の含有量を増大させ、個数平均粒子径を70nmに小さくすることにより、肝細胞癌に対する選択性をより向上させることができた。
【0111】
次いで、YSK05の含有量が50モル%、個数平均粒子径が70nmの脂質ナノ粒子の構成脂質に、ポリアルキレングリコール修飾脂質を加えて、正常肝臓におけるMK遺伝子の遺伝子サイレンシング能に対する影響を調べた。具体的には、DSPE−PEG
2k−MAを構成脂質全体に対して0、1、3、又は5モル%となるように添加した以外が前記と同様にしてSP94修飾脂質ナノ粒子を製造した。実施例2と同様にして作製した肝細胞癌の担癌マウスに対して、腫瘍の体積が約100mm
3に達したとき、0.5mg/kgのsiRNA用量で尾静脈からSP94修飾脂質ナノ粒子を静脈内投与し、肝細胞癌と正常肝臓におけるMK遺伝子の相対発現量を調べた。結果を
図9に示す(n=3)。図中、「NT」は、SP94修飾脂質ナノ粒子を尾静脈投与していない担癌マウスの結果を示す。
【0112】
DSPE−PEG
2k−MAの含有量依存的に、得られたSP94修飾脂質ナノ粒子の個数平均粒子径は小さくなった。DSPE−PEG
2k−MAの含有量が0モル%では得られたSP94修飾脂質ナノ粒子の個数平均粒子径は70nmであったのに対して、DSPE−PEG
2k−MAの含有量が3モル%では得られたSP94修飾脂質ナノ粒子の個数平均粒子径は60nm程度、DSPE−PEG
2k−MAの含有量が5モル%では得られたSP94修飾脂質ナノ粒子の個数平均粒子径は50nm程度であった。DSPE−PEG
2k−MAの含有量が3モル%で平均粒子径60nmのSP94修飾脂質ナノ粒子が、肝細胞癌において最大のMK遺伝子の遺伝子サイレンシングが達成され、正常肝臓では遺伝子サイレンシングを最小限にすることができた。
【0113】
[実施例5]
SP94修飾脂質ナノ粒子の構成脂質のうち、リン脂質の種類がMK遺伝子の遺伝子サイレンシング能に対する影響を調べた。リン脂質としては、EPC、DOPC、又はDOPEを用いた。脂質ナノ粒子の構成脂質のモル比は、YSK05/リン脂質/コレステロール/SP94修飾DSPE−PEG/DSPE−PEG
2k−MA=5:2:3:1:0.3とした。SP94修飾脂質ナノ粒子には、5μMのSOR、200nMのMK−siRNAを搭載させた。
【0114】
実施例4と同様の製造条件で、平均粒子径が60μm程度のSP94修飾脂質ナノ粒子を調製した。実施例2と同様にして作製した肝細胞癌の担癌マウスに対して、腫瘍の体積が約100mm
3に達したとき、得られたSP94修飾脂質ナノ粒子を、0.3mg/kgのsiRNA用量で尾静脈から静脈内投与し、肝細胞癌と正常肝臓におけるMK遺伝子の相対発現量を調べた。結果を
図10に示す(n=3)。図中、「NT」は、SP94修飾脂質ナノ粒子を尾静脈投与していない担癌マウスの結果を示す。いずれのリン脂質を用いたSP94修飾脂質ナノ粒子でも肝細胞癌に対して選択的な高いMK遺伝子の遺伝子サイレンシングが達成された。中でも、YSK05/DOPE/コレステロール/SP94修飾DSPE−PEG/DSPE−PEG
2k−MA=5:2:3:1:0.3(モル比)のSP94修飾脂質ナノ粒子は肝細胞癌に対する選択性が最も良好であった。
【0115】
[実施例6]
血中滞留時間は、充分な治療効果を得るために重要なファクターである。そこで、構成脂質に占めるSP94修飾DSPE−PEGの割合の、血中滞留時間に対する影響を調べた。構成脂質をYSK05/DOPE/コレステロール/SP94修飾DSPE−PEG/DSPE−PEG
2k−MA=5:2:1.5〜3:0〜1.5:0.3(モル比)とした以外は実施例5と同様の製造条件で、平均粒子径が60μm程度のSP94修飾脂質ナノ粒子を調製した。
【0116】
実施例2と同様にして作製した肝細胞癌の担癌マウスに対して、腫瘍の体積が約100mm
3に達したとき、得られたSP94修飾脂質ナノ粒子を、0.5mg/kgのsiRNA用量で尾静脈から静脈内投与し、血中濃度を経時的に測定した。各SP94修飾脂質ナノ粒子を投与したマウスのT
20%(脂質ナノ粒子の血中濃度が20%ID/mLに下がるまでの時間)を表7に示す。SP94修飾DSPE−PEGが8〜13モル%のSP94修飾脂質ナノ粒子では、T
20%が6時間以上であり、非常に良好であった。
【0117】
【表7】
【0118】
また、SP94修飾脂質ナノ粒子を尾静脈投与した担癌マウスにおける、肝細胞癌と正常肝臓におけるMK遺伝子の相対発現量を調べた。結果を
図11に示す(n=3)。図中、「NT」は、SP94修飾脂質ナノ粒子を尾静脈投与していない担癌マウスの結果を示す。SP94修飾DSPE−PEGが10又は13モル%のSP94修飾脂質ナノ粒子を投与したマウスでは、肝細胞癌において高い遺伝子サイレンシングが達成され、正常肝臓では遺伝子サイレンシングが抑えられており、肝癌細胞に対する選択性が良好であった。
【0119】
[実施例7]
SP94修飾脂質ナノ粒子の肝細胞癌に対する治療効果を調べた。実施例3と同様にして作製された肝細胞癌の担癌マウスを4つのグループに分け、脂質ナノ粒子を尾静脈投与した。グループ1は、HEPESバッファーのみを封入した脂質ナノ粒子を尾静脈投与するコントロールグループ、グループ2は、SORとsiCntrを封入した脂質ナノ粒子を尾静脈投与するグループ、グループ3は、MK−siRNAを封入した脂質ナノ粒子を尾静脈投与するグループ、グループ4は、SORとMK−siRNAを封入した脂質ナノ粒子を尾静脈投与するグループとした。脂質ナノ粒子のSOR含有量は7.5モル%とした。SORの用量は、中程度の抗癌活性を示す2.5mg/kgとした。siRNA用量は、0.5mg/kgとした。
【0120】
HepG2細胞を移植した日から7、10、13、16、19、22、及び25日目に脂質ナノ粒子を尾静脈投与した。また、各マウスの腫瘍体積をモニタリングした。結果を
図12に示す。腫瘍体積は以下の式で算出した。
【0121】
[腫瘍体積(mm
3)]=[長径(mm)]×[短径(mm)]
2×0.52
【0122】
グループ2〜4の治療終了時の腫瘍増殖の抑制は、グループ1(コントロール群)と比較して、グループ2は40%、グループ3は18%、グループ4は85%であった。これらの結果から、MK−siRNAが、肝細胞癌のSORに対する感受性を2倍以上増加させること、SOR等の抗癌剤とMK−siRNAを両方内包し、肝癌細胞への選択性が高い本発明に係る脂質ナノ粒子は、肝細胞癌の治療剤として非常に有効であることが明らかである。