【実施例】
【0063】
以下に、実施例を用いて本発明についてより詳細に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0064】
I.方法
1.参照ポリペプチド
参照ポリペプチドとして、Aprotinin(Sigma-Aldrich, A3886-1VL, 流体力学的半径1.4 nm);Hen egg-white lysozyme(lysozyme)(Sigma-Aldrich, L4919-500MG, 流体力学的半径1.9 nm);Carbonic anhydrase(CA)(Sigma-Aldrich, C7025-1VL, 流体力学的半径2.1 nm);ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma-Aldrich, A8531-1VL, 流体力学的半径3.5 nm);β−アミラーゼ(Sigma-Aldrich, A8781-1VL, 流体力学的半径5.4 nm)、Apo-ferritin(Sigma-Aldrich, A3660-1VL, 流体力学的半径6.4 nm)、Thyroglobulin(Sigma-Aldrich, T1001-100MG, 流体力学的半径8.6 nm)を使用した。
【0065】
2.ポリペプチドへの蛍光標識
(1)蛍光色素のポリペプチドへの直接標識
Alexa Fluor(商標) 647 (Invitrogen, Cat. No. A20006)、および/またはAlexa Fluor(商標) 488 (Invitrogen, Cat. No. A20000)のN-hydroxy succinimidyl (NHS) esterを用いて参照ポリペプチドおよび標的ポリペプチドのアミンに、アミンカップリング反応により蛍光色素を標識した。FCSで測定する各ポリペプチドには、上記のうちいずれか1種類の蛍光色素を標識した。FCCSで測定する各ポリペプチドには、上記の2種類の蛍光色素を標識した。
アミンカップリング反応は、蛍光色素とポリペプチドとをPBSの中で混合し、暗所の室温で400 rpmで攪拌しながら1時間行った。
【0066】
FCSでは、ポリペプチドと蛍光色素のNHS esterの混合比は、モル比で、Aprotinin:蛍光色素=1:2、CA:蛍光色素=1:2、lysozyme:蛍光色素=1:2、BSA:蛍光色素=1:5、β−アミラーゼ:蛍光色素=1:20、Apo-ferritin:蛍光色素=1:20、Thyroglobulin:蛍光色素=1:50とした。FCCSにおいて2つの蛍光色素を使用する場合には、例えば、モル比をAprotinin:第1の蛍光色素:第2の蛍光色素=1:2:2のように、第1と第2の蛍光色素のモル比は同じになるように混合した。
【0067】
アミンカップリング反応後に、HiTrap Desalting column (GE Healthcare Cat. No. 29048684)を使って、反応液を脱塩し、未反応の蛍光色素を除去した。脱塩後の反応液を、さらにTSKgel G3000SWXL column (TOSOH Cat. No. 08541)を使った超高速液体クロマトグラフィ(Ultra High Performance Liquid Chromatography, UHPLC)に供し、蛍光標識ポリペプチドの品質を解析した。
【0068】
蛍光標識ポリペプチドの品質は、230 nmから700 nmの領域の蛍光スペクトルを取得し、タンパク質に由来する280 nmの領域と、各蛍光色素の蛍光波長領域のピークを観察することで評価した。
【0069】
(2)蛍光色素のポリペプチドへの間接標識
間接標識は、血清や血漿のように多数の成分を含む検体中の標的ポリペプチドを検出する測定で使用した。
【0070】
標的ポリペプチドに対するAlexa Fluor(商標) 647またはAlexa Fluor(商標) 488を結合した標識抗体を検体に含まれる各ポリペプチドと反応させることにより、標的ポリペプチドに間接的に蛍光標識をした。FCCSで測定する各ポリペプチドには、Alexa Fluor(商標)647標識抗体とAlexa Fluor(商標)488標識抗体の両方を使って標識した。
【0071】
血清または血漿には、検体と同じ量の蛍光標識抗体溶液を添加した。蛍光標識抗体を添加したあと、暗所、室温、5分間混合し、インキュベートした。その後、13,000 rpm/5分遠心し、上清を測定サンプルとした。
【0072】
3.測定
(1)蛍光標識参照ポリペプチドの測定
水性溶媒としてPBSを用いる場合には、蛍光色素を直接標識した各蛍光標識参照ポリペプチドを100 nMとなるようにPBSに添加し、検量線作成用の標準サンプルとした。水性溶媒として希釈検体を用いる場合には、血清または血漿に各蛍光標識参照ポリペプチドを100 nMとなるように添加し検量線作成用の標準サンプルとした。
【0073】
それぞれの標準サンプルを、ブロッキング試薬N101(日本油脂、71S410050011)であらかじめブロッキングされた384ウェルのガラス底プレート(Sigma-Aldrich, M4437-16EA)に30μlずつ添加し、測定に供した。測定は、LSM710レーザーモジュールを備えたZeiss AxioObserverのConfocor3セットアップで行った。Alexa Fluor(商標) 488は488 nmのレーザーで励起した。Alexa Fluor(商標) 647は、633 nm レーザーで励起した。488 nmおよび633 nmのレーザーは、それぞれ8 mWおよび1.2 mWで出力した。各ウェルあたり1回の測定を20秒間とし、10回の測定を行った。すなわち、各ウェルあたりの総測定時間を 200秒とした。相関関数は、この10回の測定に基づいて算出した。測定時の温度は23℃とした。FCS解析、およびFCCS解析には、Zeiss社のZen softwareを使用した。
【0074】
(2)各関数のフィッティングとポリペプチドのサイズ推定
Zen softwareを使用し、取得した生データに対して、ベースラインのドリフトまたはバースト(平均蛍光輝度と3倍以上高い蛍光信号)を示す測定値を削除する前処理を行った。FCCSにおいて使用する相互相関、及びFCSに使用する自己相関曲線のフィッティングは、3D拡散モデルに基づく1成分または2成分フィッティング(3D、または3D+3D、またはT×3D、またはT×{3D+3D})により行った。
【0075】
3次元1成分相関曲線(3D)を求めるためのフィッティング関数G(τ)は、下記Eq. 1Aで表される。3次元2成分相関曲線(3D+3D)を求めるためのフィッティング関数G(τ)は、下記Eq. 1Bで表される。両方ともの関数は、並進拡散プロセスを示す。相互相関曲線から並進拡散時間を算出する場合、下記Eq.1AまたはEq.1Bのようにフィッティングモデルを使用した。
【0076】
【数1】
【数2】
【0077】
Eq.1Aにおいて、Nは振幅(分子数)を表す。τ
Dは拡散時間(μs)を示す。τは、lag timeを示す。ω(構造因子)は、レーザー焦点体積の横(XY)幅及び縦(Z)軸幅の比(w
z/w
xy)である。 Eq.1Bにおいて、Qは量子収率である。
【0078】
構造因子は、参照として使用される100 nM のAlexa Fluor(商標) 488 と10 nMのAlexa Fluor(商標) 647の色素混合物から得られた公知の拡散時間に基づいて、測定開始時に毎日割り当てた。
【0079】
三重項状態遷移時間(T)を算出する為、以下Eq.2のようにフィッティングモデルを使用した。
下記Eq. 2は、三重項状態遷移を示す。
【0080】
【数3】
Eq. 2において、Τは、は三重項状態振幅を示す。τ
Tは色素フルオロフォアの三重項状態遷移を示す。
【0081】
自己相関関数の場合は、並進拡散時間及び色素の三重項状態遷移時間両方(T×3D、又はT×{3D+3D})を含めた以下Eq. 3のようにフィッティングモデルを使用した。
【0082】
【数4】
上記各数式は公知(Krichevsky and Bonnet, 2002. Fluorescent Correlation Spectroscopy, the technique and its applications. Rep. Prog. Phys.65 251)である。
【0083】
(i)検体を用いたFCS解析
FCSは、2成分モデルで自己相関関数のフィッティングを行った。1成分目を未反応蛍光標識抗体とした。2成分目は、各参照ポリペプチドとこれらに対応する蛍光標識抗体との各免疫複合体とした。はじめに、Zen software 上で、1成分モデルを選択し、蛍光標識抗体ごとに、1成分目の拡散時間を、抗原を含まない別の独立した実験系で測定した(Tp
488またはTp
647)。次に、Zen software 上で、2成分モデルを選択し、1成分目の拡散時間を先に測定した1成分目の拡散時間(Tp
488またはTp
647)に固定した。2成分目の拡散時間を測定した。取得された拡散時間と、各参照ポリペプチドの流体力学的半径(nm)の回帰式を求め、検量線を作成した。
【0084】
標的ポリペプチドについても、参照ポリペプチドと同様に拡散時間を求め、検量線から、流体力学的半径を算出した。
【0085】
(ii) 希釈検体を用いたFCCS解析
FCCSは、1成分モデルで相関関数のフィッティングを行った。1成分は、各ポリペプチドとこれらに対応する蛍光標識抗体との各免疫複合体である。Zen software 上で、1成分モデルを選択し、各免疫複合体の拡散時間を測定した。取得された拡散時間と、各参照ポリペプチドの流体力学的半径(nm)の回帰式を求め、検量線を作成した。
標的ポリペプチドについても、参照ポリペプチドと同様に拡散時間を求め、検量線から、流体力学的半径を算出した。
【0086】
II.比較例1
比較例1として、非特許文献1に記載の比例転換を用いた。
図3に比例転換の概略を示す。比例転換では、はじめに、スタンダードとして流体力学的半径R
HCが既知のAlexa Fluor(商標) 488(流体力学的半径R
HC=0.7 nm)の拡散時間と、Alexa Fluor(商標) 647(流体力学的半径R
HC=0.8 nm)の拡散時間とをFCSにより測定した(
図3の工程1)。測定時の温度は23℃とした。続いて、スタンダードの自己相関関数を求め、蛍光色素の拡散時間を補正した(
図3の工程2)。続いて、蛍光標識標的ポリペプチドの拡散時間をFCSで測定し、蛍光色素の拡散時間τ
DC(μs)と蛍光標識標的ポリペプチドの拡散時間τ
D(μs)と、スタンダードとして流体力学的半径R
HCから、蛍光標識標的ポリペプチドの流体力学的半径R
Hを求めた。
【0087】
III.実施例1
上記I.において説明した方法にしたがい、水性溶媒としてPBSまたは希釈検体を用い、参照ポリペプチドとして、Aprotinin、lysozyme、CA、BSA、β-Amylase、Apo-ferritin、Thyroglobulinを用いてFCCSにて拡散時間を測定し、検量線を作成した。さらに、血清1例、被検者が異なる血漿2例を検体として用いて、検量線を作成した。
【0088】
図4に、水性溶媒としてPBSを用いた場合と希釈血漿を用いた場合の拡散時間(lag time(s))の違いを示す。
図4(A)は、PBS内で流体力学的半径を測定し、基準化した後の結果を示す。
図4(B)は、希釈血漿内で流体力学的半径を測定し、基準化した後の結果を示す。
図4(B)では、
図4(A)に比べて、相関曲線が右にシフトした。また、
図4(C)は、水性溶媒としてPBSを用いた場合と希釈血漿を用いた場合における検量線の違いを示す。検量線の傾きは、水性溶媒としてPBSを用いた場合と希釈血漿を用いた場合で変わらないが、PBSの方が接片が低くなった。このことから、PBSよりも粘度の高い希釈血漿では、分子移動速度が遅くなることが示された。
【0089】
図5に、異なる3種の検体を使用し取得した検量線を示す。
図5(A)は、希釈血清を使用して測定した拡散時間に基づいて作成した検量線である。
図5(B)は、希釈血漿1を使用して測定した拡散時間に基づいて作成した検量線である。
図5(C)は、希釈血漿1とは異なる希釈血漿2を使用して測定した拡散時間に基づいて作成した検量線である。血漿と比べて、血清は拡散時間が短かった。また血漿に関しても、検体によって、拡散時間に差があることが示された。
【0090】
これらの結果から、標的ポリペプチドの大きさを予測するためには、参照ポリペプチドの測定も標的ポリペプチドと同等の溶媒環境で行い、検量線を作成することが好ましいと考えられた。
【0091】
また、参照ポリペプチドのそれぞれを標的ポリペプチドと仮定し、本発明のFCCSの希釈検体を用いた測定系で得られた検量線に基づいて、各参照ポリペプチドの流体力学的半径の予測値を算出した。検体は、血清、血漿1または血漿2を用いた。そして、ゲル濾過クロマトグラフィマーカとして記載されている分子サイズを流体力学的半径の理論値として予測値と理論値の間の差、および差の絶対値を求めた。
図6(A)にβ-Amylaseについて求めた差の値を示す。また、
図6(B)に、各検体において、各参照ポリペプチドについて求めた差の絶対値と参照ポリペプチドの流体力学的半径との関係を示す。
【0092】
さらに、比較例1の方法にしたがって、同様に参照ポリペプチドの予測値を算出し、それぞれの参照ポリペプチドの理論値と比較した。その結果を
図7に示す。
図7(A)は、β-Amylaseについて求めた予測値と理論値の差の値を示す。
図7(B)は、各検体において、各参照ポリペプチドについて求めた差の絶対値と参照ポリペプチドの分子サイズとの関係を示す。比較例1に記載の方法では、スタンダードとして、Alexa Fluor(商標) 488およびAlexa Fluor(商標) 647の蛍光色素を用いた場合でも、予測値と理論値の差が大きかった。また、3種類の検体のいずれを用いた場合であっても、予測値と理論値の差が大きかった。特に、参照ペプチドの流体力学的半径が大きくなるほど、予測値と理論値の差が大きくなることが示された。
【0093】
これらの結果から、本発明の情報収集方法の方が、比較例よりも予測精度が高いことが示された。
【0094】
IV.実施例2
大きなサイズのポリペプチドについて、本発明の情報の取得方法により流体力学的半径の予測が可能であることを証明するため、FCCSを用いた本発明の情報取得方法にしたがって、フォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor:VWF;分子量約250kDa)の分子サイズを予測した。
【0095】
陽性サンプルとして、終濃度で、25nMとなるようにリコンビナントVWFタンパク質(Merck、681300-100UGCN)を血漿に添加したサンプルを調製した。陰性サンプルとして、リコンビナントVWFタンパク質を添加せず、リコンビナントVWFタンパク質溶液と同じ量のバッファーを血漿に添加したサンプルを調製した。陽性サンプルと陰性サンプルは、以下に示す同様の処理を行った。
【0096】
各サンプルに、Alexa Fluor(商標)488標識2F2A9抗体(BD Biosciences、555849)およびAlexa Fluor(商標)647標識NMC4 Fabを終濃度でそれぞれ100nMとなるように添加し、暗所室温で、5分間反応させた。NMC4 Fabは、公知のNMC4 Fabのアミノ酸配列から遺伝子組換えにより作製した。
上記3.に記載の方法にしたがって、FCCSの測定を行った。
【0097】
結果を
図8に示す。
図8(A)は、基準化前の相互相関G(τ)とlag timeを示す。
図8(B)は、本発明の情報取得方法に基づいて算出されたリコンビナントVWFタンパク質の予測値、理論値、およびその差を示す。
【0098】
リコンビナントVWFタンパク質の流体力学的半径の理論値は、抗体と反応させていない状態で16.25 nmであり、比較的大きなタンパク質である。このように大きなタンパク質であっても、予測値と実測値の差は2.3 nmと小さく、精度よく予測が可能であることが示された。
【0099】
V.実施例3
小さなサイズのポリペプチドについて、本発明の情報の取得方法により流体力学的半径の予測が可能であることを証明するため、FCCSを用いた本発明の情報取得方法にしたがって、卵白リゾチーム(分子量約14kDa;流体力学的半径3 nm)の流体力学的半径を予測した。
【0100】
陽性サンプルとして、終濃度で、100 nMとなるように卵白リゾチームタンパク質(Sigma-Aldrich、L4919-500MG)を血漿に添加したサンプルを調製した。陰性サンプルとして、卵白リゾチームタンパク質を添加せず、卵白リゾチームタンパク質溶液と同じ量のバッファーを血漿に添加したサンプルを調製した。陽性サンプルと陰性サンプルは、以下に示す同様の処理を行った。
【0101】
各サンプルに、Alexa Fluor(商標)488標識cAB-Lys2 VHHおよびAlexa Fluor(商標)647標識D2L24 VHHを終濃度でそれぞれ100 nMとなるように添加し、暗所室温で、5分間反応させた。cAB-Lys2 VHHおよびD2L24 VHHは、それぞれ公知のcAB-Lys2 VHHのアミノ酸配列およびD2L24 VHHのアミノ酸配列から遺伝子組換えにより作製した。
上記3.に記載の方法にしたがって、FCCSの測定を行った。
【0102】
結果を
図9に示す。
図9(A)は、基準化前の相互相関G(τ)とlag timeを示す。
図9(B)は、本発明の情報取得方法に基づいて算出された卵白リゾチームタンパク質の予測値、理論値、およびその差を示す。
【0103】
卵白リゾチームタンパク質の流体力学的半径の理論値は、抗体と反応させていない状態で3 nmであり、比較的小さなタンパク質である。このように小さなタンパク質であっても、予測値と実測値の差は0.5 nmと小さく、精度よく予測が可能であることが示された。
【0104】
VI.実施例4および比較例2
水性溶媒としてPBSを用いた測定系において、本発明の情報取得方法をFCCSにより実施した場合の予測精度を評価した。
【0105】
実施例4では、上記3.で述べた水性溶媒としてPBSを用いたFCCSの測定系を使用し、上述の2色の蛍光色素で二重標識した参照ポリペプチドを用いて検量線を作成した。それぞれの参照ポリペプチドを標的ポリペプチドと仮定し、それぞれの参照ポリペプチドの流体力学的半径を検量線から求めた。
図10(A)は、FCCSでの各参照ポリペプチドの拡散時間(μs)と、流体力学的半径の予測値を示す。また、
図10(B)は、
図10(A)に基づいて作成した検量線を示す。
図10(C)は、実施例4により求められた予測値と理論値の差の絶対値と、精度を示す。精度(%)は、100%から%エラーを差し引くことにより求めた。%エラーは、100×[(差の絶対値)÷(理論値)]の式でもとめた。
【0106】
また、比較例2において、FCCSで測定した拡散時間測定値τ
DCを使って比較例1と同様に非特許文献1に記載の比例転換により流体力学的半径を予測した。但し、スタンダードは、FCCSで測定できるよう、蛍光色素にかえてAlexa Fluor(商標) 647標識抗BSA抗体、およびAlexa Fluor(商標) 488標識抗BSA抗体を結合させたBSAを用いた。また、測定系はPBSを水性溶媒として用いた。二重蛍光標識BSAの流体力学的半径R
HCは、3.5 nmであり、拡散時間測定値τ
DCは、230 μsである。二重蛍光標識したそれぞれの参照ポリペプチドを標的ポリペプチドと仮定し、それぞれの参照ポリペプチドの流体力学的半径を比較例1の方法にしたがって求めた。
図10(D)は、比較例2により求められた予測値と理論値の差の絶対値と、精度を示す。用語の定義は、
図10(C)と同様である。
【0107】
比較例2は、スタンダードとしてBSAを用いているため、差の絶対値は0、予測精度は100%となったが、それ以外は本発明の実施例4の方が精度が高かった。
【0108】
VII.実施例5、参考例および比較例3
水性溶媒としてPBSを用いた測定系において、本発明の情報取得方法をFCSにより実施した場合の予測精度を評価した。
【0109】
実施例5では、上記3.で述べた水性溶媒としてPBSを用いたFCSの測定系を使用し、上述の2色の蛍光色素で標識した参照ポリペプチドを用いて検量線を作成した。それぞれの参照ポリペプチドを標的ポリペプチドと仮定し、それぞれの参照ポリペプチドの流体力学的半径を検量線から求めた。検量線を
図11(A)は、FCSでの各参照ポリペプチドの拡散時間(μs)と、流体力学的半径の予測値を示す。また、
図11(B)は、
図11(A)に基づいて作成した検量線を示す。
【0110】
参考例は、非特許文献2に記載のキャリブレータとして蛍光ビーズを使用する方法で測定した例である。
図11(C)に示すように、様々な粒子径の蛍光ビーズの拡散時間(m秒)をFCSで測定し、拡散時間と粒子径に基づいて回帰式を作成し、この回帰式に蛍光標識した標的ポリペプチドのFCSで測定した拡散時間をあてはめた。Alexa Fluor(商標) 647標識抗体と反応させたそれぞれの参照ポリペプチドを標的ポリペプチドと仮定して流体力学的半径を求めた。
【0111】
比較例3は、II.で述べた比較例1と同様の方法で、流体力学的半径を求めた例である。スタンダードとして、Alexa Fluor(商標) 647色素を使用した。また、測定系はPBSを水性溶媒として用いた。Alexa Fluor(商標) 647色素の流体力学的半径R
HCは、0.8 nmであり、拡散時間測定値τ
DCは、49 μsである。蛍光標識したそれぞれの参照ポリペプチドを標的ポリペプチドと仮定し、それぞれの参照ポリペプチドの流体力学的半径を比較例1の方法にしたがって求めた。
【0112】
図12(A)は、実施例5の結果を、
図12(B)は、参考例の結果を、
図12(C)は、比較例3の結果を示す。実施例5は、使用した参照ポリペプチドの範囲において、良好な精度を示した。参考例および比較例3は、流体力学的半径が大きい範囲での精度が実施例5と比べて不良であり、流体力学的半径が実際よりも小さく出る傾向があることが示された。
【0113】
図13(A)は、β-Amylaseの差の絶対値の比較データを示す。
図13(B)は、Thyroglobulinの差の絶対値の比較データを示す。実施例5は、どちらのポリペプチドにおいても、参考例および比較例3よりも、差の絶対値が小さかった。
【0114】
異常タンパク質は正常タンパク質と比較して流体力学的半径が大きいことがある。そのような場合は、非特許文献1および非特許文献2に記載の方法では、異常タンパク質の流体力学的半径が実際より小さく見積もられてしまい、偽陰性のリスクがあると考えられた。