【解決手段】逆補正制御系50と、外乱オブザーバ制御系60とを利用して、コギング状態に対して逆補正を加える逆補正制御と、外乱に対する外乱オブサーバ制御とを組み合わせる。コギング状態に対する逆補正を加えてコギングの影響を大まかに除去するとともに、この逆補正制御では低減できない影響を外乱に対する外乱オブサーバ制御にて低減する。
前記モータは、複数の永久磁石を配列させた可動子と、複数の磁極歯それぞれにコイルを巻回させた固定子とを備えるリニアモータであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のモータの制御方法。
前記モータは、複数の永久磁石を配列させた可動子と、複数の磁極歯それぞれにコイルを巻回させた固定子とを備えるリニアモータであることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のモータの制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの従来技術では、発生するコギングの十分な補償が実現されていないのが現状である。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、発生するコギングに対して十分な補償を行うことができ、コギングの影響を大幅に低減して所望の動作特性を実現できるモータの制御方法及び制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るモータの制御方法は、モータに生じるコギングを低減するためにモータを制御する制御方法において、コギングの状態に対して逆補正を加える逆補正制御と、前記モータの動作時の外乱を補正する外乱オブザーバ制御とを組み合わせることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るモータの制御方法は、前記逆補正制御と前記外乱オブザーバ制御との組み合わせを利用して、前記モータの速度及び位置を制御することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るモータの制御方法は、前記外乱オブザーバ制御では、定常カルマンフィルタを使用することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るモータの制御方法は、前記モータは、複数の永久磁石を配列させた可動子と、複数の磁極歯それぞれにコイルを巻回させた固定子とを備えるリニアモータであることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るモータの制御装置は、モータに生じるコギングを低減するためにモータを制御する制御装置において、コギングの状態に対して逆補正を加える逆補正制御系と、前記モータの動作時の外乱を補正する外乱オブザーバ制御系とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るモータの制御装置は、前記モータの速度を制御する速度制御系,及び,前記モータの位置を制御する位置制御系を更に備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るモータの制御装置は、前記外乱オブザーバ制御系は、定常カルマンフィルタを有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係るモータの制御装置は、前記モータは、複数の永久磁石を配列させた可動子と、複数の磁極歯それぞれにコイルを巻回させた固定子とを備えるリニアモータであることを特徴とする。
【0015】
本発明にあっては、コギング状態に対して逆補正を加える逆補正制御と、外乱に対する外乱オブサーバ制御とを組み合わせる。即ち、コギング状態に対する逆補正を加えてコギングの影響を大まかに除去するとともに、この逆補正では低減できない影響を外乱オブサーバ制御にて低減する。よって、発生する不可避なコギングに対して十分な補償を行うことができ、コギングの影響を大幅に低減し得る。
【0016】
本発明にあっては、上記のような逆補正制御と外乱オブザーバ制御との組み合わせを利用して、モータの速度及び位置を制御する。よって、コギングの影響を抑制して、モータにおける速度及び位置を精度良く制御できる。
【0017】
本発明にあっては、外乱オブザーバ制御に、定常カルマンフィルタを利用する。よって、モータの作動時における外乱を効率良く補償することが可能である。
【0018】
本発明にあっては、複数の永久磁石を配列させた可動子と、複数の磁極歯それぞれにコイルを巻回させた固定子とを備えるリニアモータを、制御の対象とする。よって、リニアモータにおける不可避のコギングの低減を図れる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、コギング状態に対して逆補正を加える制御と、外乱に対するオブサーバ制御とを組み合わせるようにしたので、発生する不可避のコギングの影響を大幅に低減できて、モータにあって所望の動作特性を確実に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。なお、以下では、モータの一例としてのリニアモータに本発明を適用する場合について説明する。まず、このリニアモータの構成について簡単に説明する。
【0022】
図1及び
図2は、リニアモータ1の構成を示す斜視図及び側面図である。リニアモータ1は、所定距離だけ隔てて対向させた可動子2と固定子3とを有している。
【0023】
可動子2は、例えば14個の矩形状の永久磁石21を、等ピッチで薄板状のバックヨーク22に支持固定して可動方向(
図2の左右方向)に並置させて構成される。各永久磁石21は厚さ方向(
図2の上下方向)に磁化されており、隣り合う永久磁石21,21同士でその磁化方向は逆向きである。即ち、可動子2側から固定子3側に向かう方向(
図2の上から下に向かう方向)に磁化された永久磁石21と、固定子3側から可動子2側に向かう方向(
図2の下から上に向かう方向)に磁化された永久磁石21とが交互に配置されている。
【0024】
一方、固定子3は、薄板状のコア31に可動方向に等ピッチにて例えば30個の矩形状の磁極歯32を一体的に設け、各磁極歯32にコイル33を巻いて構成される。
図2におけるU、V、Wは夫々3相交流電源のU相、V相、W相を示し、3相平行通電を行うために、正逆2スロット3対を1セットとしている。そして、リニアモータ1は、7個の永久磁石21と6個の磁極歯32及びコイル33とを有する7極6スロット構成を基本ユニットとしている。
【0025】
固定子3のコイル33に3相交流を通電して磁極歯32に磁界を発生させると、この磁界に可動子2の永久磁石21が順次磁気吸引反発することによって可動子2に推力が発生して、可動子2は固定子3に対して直線運動を行う。
【0026】
以下、このような構成をなすリニアモータ1に不可避的に発生するコギングの影響を低減するための方法及び装置について詳述する。
【0027】
本発明にあっては、コギング状態に対して逆補正を加える制御と、外乱に対する外乱オブサーバ制御とを組み合わせる。即ち、コギング状態に対する逆補正を加えてコギングの影響を大まかに除去するとともに、この逆補正では低減しきれない外乱による影響を外乱オブサーバ制御にて低減する。よって、発生する不可避なコギングに対して十分な補償を行うことができ、コギングの影響を大幅に低減し得る。
【0028】
外乱オブサーバ制御は、フィードバックシステムに外乱が加わるような作動機構に対して、比較的簡単に外乱を除去して動作の安定化を図れる制御である。リニアモータ1を例にした場合、外乱としては、通電ケーブルの張力の影響(張力によってリニアモータ1の前進方向と後退方向とで推力に差が生じる現象)、リニアガイドの影響(リニアガイドを組み付けたことによってリニアモータ1に位置ずれが生じる現象)などが存在する。本発明では、このようなリニアモータ1における外乱の影響を、外乱オブサーバ制御にて補償する。
【0029】
図3は、本発明に係るモータの制御装置の一実施形態の構成を示すブロック線図である。この制御装置は、リニアモータ1と、コギング要素部41と、加算器42と、非線形補償器51と、外乱オブザーバ61と、微分器62と、減算器71とを備えている。そして、リニアモータ1、コギング要素部41及び加算器42にて一つの制御対象+コギング40が構成され、非線形補償器51を有して逆補正制御系50が構成され、外乱オブザーバ61及び微分器62を有して外乱オブザーバ制御系60が構成されている。
【0030】
制御対象となるリニアモータ1の入力端及びコギング要素部41の入力端は、減算器71の出力端子に接続されている。リニアモータ1の出力端は加算器42の一方の入力端子に接続され、コギング要素部41の出力端は加算器42の他方の入力端子に接続されている。加算器42の出力端子は、非線形補償器51の入力端及び微分器62の入力端に接続されている。非線形補償器51の出力端は、減算器71の一方の減算入力端子に接続されている。微分器62の出力端と外乱オブザーバ61の入力端とが接続されている。また、外乱オブザーバ61の出力端は減算器71の他方の減算入力端子に接続されている。
【0031】
減算器71の加算入力端子及び外乱オブザーバ61には外部から入力指令u′が入力され、また、減算器71の一方の減算入力端子には非線形補償器51から補正出力^i
cog(コギングの周期的補正の推定値)が入力され、減算器71の他方の減算入力端子には外乱オブザーバ61から制御出力^d(外乱の推定値)が入力される。なお、「^」の記号は推定値を表している。
【0032】
減算器71の出力端子から、リニアモータ1及びコギング要素部41へ、電流指令uが出力される。リニアモータ1からの出力にコギング要素部41からの出力(コギング要素C)が、加算器42にて加算され、加算器42から位置xが、非線形補償器51、微分器62及び外部へ出力される。
【0033】
コギング要素の中で、特に周期的に発生する部分に対しては非線形補償器51を用いて補正を行う。非線形補償器51は、コギングの状態(コギング要素C)に逆補正(C
-1)を加えて、コギング補正の推定値^i
cog を減算器71へ出力する。この推定値^i
cogは、コギング要素のモデルより導出する。
【0034】
一方、外乱オブザーバ61は、外乱に対する外乱オブザーバ制御を行って、外乱の推定値^dを減算器71へ出力する。なお、この外乱に対する外乱オブザーバ制御の詳細については後述する。
【0035】
本発明にあっては、コギングの状態に対して逆補正を加える逆補正制御系50による逆補正制御と、外乱に対する外乱オブザーバ制御系60によるオブサーバ制御とを組み合わせる。即ち、逆補正制御系50(非線形補償器51)を用いてコギング状態に対する逆補正を加えてコギングの影響を大まかに除去するとともに、この逆補正では低減できない外乱に起因する影響を、外乱オブザーバ制御系60(外乱オブザーバ61)を用いて低減する。この結果、発生する不可避なコギングに対して十分な補償を行うことができ、コギングの影響を大幅に低減し得る。
【0036】
以下、外乱オブザーバ制御の詳細について説明する。
図4は、外乱オブザーバ61の内部構成を示すブロック線図である。なお、
図4において、
図3と同一部分には同一の番号及び符号を付している。
【0037】
外乱オブザーバ61は、推定モデル生成部81と、比較部82と、外乱推定値決定部83と、減算器84とを有している。減算器84の加算入力端子には上述した微分器62の出力端が接続され、減算器84の減算入力端子には推定モデル生成部81の出力端が接続されている。減算器84の出力端子には比較部82の入力端が接続されている。比較部82の出力端と外乱推定値決定部83の入力端とが接続されている。また、外乱推定値決定部83の出力端は上述した減算器71の他方の減算入力端子に接続されている。
【0038】
外乱オブザーバ制御では、制御対象のモデリングと入力とから目標となる動作(推定モデル)を作成し、この推定モデルと実機の応答とを比較する。そして、比較した際に生じる差分を外乱として、誤差を入力に印加する。
【0039】
推定モデル生成部81は、制御対象のモデリングと外部から入力される入力指令u′とから目標となる推定モデルを作成し、この推定モデルから計算した速度の推定値^velを減算器84へ出力する。この推定モデルは外乱の影響を受けない場合の制御モデルである。一方、微分器62にて制御対象からの出力(位置x)を時間微分して得られる速度値velが、微分器62から減算器84へ入力される。減算器84にて、微分器62からの出力(速度値vel)と推定モデル生成部81からの出力(速度の推定値^vel)との差分が得られる。得られた差分は比較部82へ出力される。
【0040】
比較部82は、制御対象からの出力と推定モデルとの差分に基づいて、補正値を決定する。具体的には、両者の差分の大きさ(面積の広さ)に応じて、補正値を決定する。
図5は、制御対象からの出力(実動作モデル)と対照となる推定モデルとの動作波形を示す図ある。
図5にあって、(a)は実動作モデルの動作波形を示し、(b)は推定モデルの動作波形を示している。
【0041】
図5のAに示すように実動作モデルと推定モデルとの差分の大きさ(面積)が大きい場合には、外乱の影響が大きいため、大きな補正値を決定し、
図5のBに示すように実動作モデルと推定モデルとの差分の大きさ(面積)が小さい場合には、外乱の影響が小さいため、小さな補正値を決定する。決定された補正値は、外乱推定値決定部83へ出力される。
【0042】
外乱推定値決定部83は、入力された補正値に応じて外乱の推定値^dを生成する。生成された外乱の推定値^dは、減算器71に出力されて、入力指令u′に印加される。
【0043】
外乱オブザーバ制御追加後の動作確認として、コギングの逆補正波形及び外乱オブザーバ制御による推定波形を
図6に示す。
図6にあって、横軸は時間[s]、縦軸は電流[A]を表しており、また、
図6における(a)、(b)はそれぞれ、コギングの逆補正波形、外乱オブザーバ制御による推定波形を示している。
【0044】
両波形とも制御対象のモデルに基づいて計算されたものであり、コギングの発生周期に沿った波形となっている。コギングの逆補正波形(a)では、コギングのみの補正のために一定の補正値になっているのに対して、外乱オブザーバ制御による推定波形(b)は、コギングの影響以外も外乱として補正しているため、
図6に示すようにコギング以外の外乱が大きい(推定モデルとの差がより大きい)位置では補正値も大きくなるため、位置によって補正が異なっている。
【0045】
入力指令u′に上記2つの補正を加えた電流指令uの波形を、入力指令u′の波形と共に
図7に示す。
図7にあって、横軸は時間[s]、縦軸は電流[A]を表しており、また、
図7における(a)、(b)はそれぞれ、入力指令u′の波形、電流指令uの波形を示している。
図3に示す制御装置には、
図7に示すような波形を示す入力指令u′が入力される。
【0046】
次に、本発明による制御を行った場合の結果について述べる。
図7に示す電流指令uに基づいて実際のリニアモータ1を動作させた際(本発明例)の動作波形を
図8に示す。なお、全く補正を行わずにリニアモータ1を動作させた場合(第1比較例)と、コギングの逆補正制御のみを行ってリニアモータ1を動作させた場合(第2比較例)とにおける動作波形も
図8に併せて示す。
図8にあって、横軸は時間[s]、縦軸は速度[m/s]を表しており、また、
図8における(a)、(b)、(c)はそれぞれ、本発明例、第1比較例、第2比較例の動作波形を示している。
【0047】
第1比較例における動作波形(b)と、第2比較例における動作波形(c)とを比較すると、第2比較例では、第1比較例と比べて、コギングの影響をある程度は低減できており、加速時及び減速時における応答性もある程度は改善されているが、十分とは言えない。これに対して、本発明例における動作波形(a)をこれらの第1比較例及び第2比較例における動作波形(b)及び(c)と比較してみると、本発明例では、更なるコギングの影響を低減できており、等速動作時のゆらぎも大幅に少なくなり、加速時及び減速時における応答性も格段に改善されていることが分かる。
【0048】
図9に、上記本発明例と理想の動作モデルとにおける動作波形の比較を示す。
図9にあって、横軸は時間[s]、縦軸は速度[m/s]を表しており、また、
図9における(a)、(b)はそれぞれ、本発明例、理想の動作モデルの動作波形を示している。
【0049】
図9を参照すれば、等速時、加速時及び減速時の何れにあっても、本発明例では理想の動作モデルに追従できていることが理解される。このことから、コギング状態に対する逆補正制御と、外乱に対する外乱オブサーバ制御とを組み合わせた本発明の制御は、極めて有効であることが立証されている。
【0050】
以下、本発明の他の実施の形態について説明する。この実施の形態では、外乱オブザーバに、定常カルマンフィルタを使用している。定常カルマンフィルタは、誤差が含まれる実測値を用いて、ある動的システムの状態を推定または制御するために用いる無限インパルス応答フィルタの一種である。定常カルマンフィルタは、離散的な誤差が存在する実測結果から、経時的に変化する量(例えばある物体の位置と速度)を推定するために広く用いられる。
【0051】
図10は、定常カルマンフィルタを使用する外乱オブザーバの内部構成を示すブロック線図である。なお、
図10において、
図3及び
図4と同一部分には同一の番号及び符号を付している。
【0052】
外乱オブザーバ61は、第1パラメータ部86と、第2パラメータ部87と、第3パラメータ部88と、第4パラメータ部89と、第5パラメータ部90と、第1加算器91と、第2加算器92と、減算器93と、第1積分器94と、第2積分器95とを有している。これらの構成要素にあって、第1パラメータ部86、第2パラメータ部87、第3パラメータ部88、第4パラメータ部89、第1加算器91、第2加算器92、減算器93、及び第1積分器94にて、定常カルマンフィルタ100が構成されている。
【0053】
第2パラメータ部87の出力端は、第1加算器91の一方の加算入力端子に接続されている。第1加算器91の出力端子に第1積分器94の入力端が接続され、第1積分器94の出力端は第1パラメータ部86の入力端及び第3パラメータ部88の入力端に接続されている。第3パラメータ部88の出力端は、減算器93の減算入力端子に接続されている。減算器93の加算入力端子は、上述した微分器62の出力端に接続されている。減算器93の出力端子は、第4パラメータ部89の入力端及び第5パラメータ部90の入力端に接続されている。第1パラメータ部86の出力端は第2加算器92の一方の加算入力端子に接続され、第4パラメータ部89の出力端は第2加算器92の他方の加算入力端子に接続されている。第2加算器92の出力端子は、第1加算器91の他方の加算入力端子に接続されている。第5パラメータ部90の出力端と第2積分器95の入力端とが接続され、第2積分器95の出力端は、上述した減算器71の減算入力端子に接続されている。
【0054】
第1パラメータ部86、第2パラメータ部87、第3パラメータ部88はそれぞれ、モデル(入力:電流、出力:速度)の状態変数パラメータA、B、Cを格納している。これらのパラメータA、B、Cの導出は、MATLAB(登録商標)(マトラバ)のプログラムに従って行われる。
【0055】
また、第4パラメータ部89は、モデルの状態推定パラメータL
x を格納しており、第5パラメータ部90は、リニアモータ1の外乱推定パラメータL
d を格納している。パラメータL
x は、モデルゲインであって、比較したモデルの波形と実機の波形との間に生じる誤差に対する感度を規定するものであり、小さな誤差であっても補正を行いたい場合には、このパラメータL
x を大きく設定する。また、パラメータL
d もパラメータL
x と同様に、補正における感度を規定するためのモデルゲインである。
【0056】
なお、実際の実装時にあっては、これらの各パラメータとして、離散化したものを使用することが好ましい。
【0057】
モデルに入力指令u′を入力した際の速度波形の推定値(コギングの影響がない場合の速度波形)を算出する。この算出したモデルの速度波形と、微分器62によって位置情報xを微分して得られる実際のリニアモータ1の速度波形とを比較し、その差分を減算器93にて求める。このように、モデルからの推定値を用いて、動的システム(制御対象)の動きを推定しており、パラメータL
x をモデルゲインとして決まった値を用いるため、定常カルマンフィルタとしての形態をとっている。
【0058】
減算器93で得られた差分(誤差)を用いて外乱の推定値^dを決定し、決定した外乱の推定値^dを減算器71にて入力指令u′から減算して、コギングの低減を図る。
【0059】
以下、上述したような逆補正制御とオブサーバ制御との組み合わせを利用して、リニアモータ1の速度及び位置を制御する実施の形態について説明する、
【0060】
図11は、本発明に係るモータの制御装置の他の実施形態の構成を示すブロック線図である。なお、
図11において、
図3及び
図4と同一部分には同一の番号及び符号を付している。
【0061】
この実施形態は、
図3と同様な制御対象+コギング40、逆補正制御系50、及び外乱オブザーバ制御系60に加えて、速度制御部111、減算器112、位置制御部121、及び減算器122を有している。速度制御部111及び減算器112にて速度制御系110が構成され、位置制御部121及び減算器122にて位置制御系120が構成されている。
【0062】
速度制御部111の出力端は、前述した減算器71の加算入力端子及び前述した外乱オブザーバ61の入力端に接続されている。速度制御部111の入力端は、減算器112の出力端子に接続されている。減算器112の減算入力端子は前述した微分器62の出力端子に接続され、減算器112の加算入力端子は位置制御部121の出力端に接続されている。位置制御部121の入力端は、減算器122の出力端子に接続されている。また、減算器122の減算入力端子は前述した制御対象+コギング40の出力端(加算器42の出力端子)に接続されている。
【0063】
減算器122には、位置の基準値r
p が外部から入力されるとともに、加算器42からの位置出力x
p が入力され、減算器122は、両者の差分(=r
p −x
p )である位置指令e
p を位置制御部121へ出力する。また、減算器112には、位置制御部121の出力である速度の基準値r
v が入力されるとともに、微分器62からの速度出力x
v が入力され、減算器112は、両者の差分(=r
v −x
v )である位置指令e
vを速度制御部111へ出力する。
【0064】
図11に示す構成にあって、逆補正制御とオブサーバ制御との組み合わせを利用することにより、リニアモータ1の速度制御部111及び位置制御部121を、それぞれ、PIコントローラ及びPコントローラとして簡単に設計できる。PIコントローラにおける関数式を下記(1)に、Pコントローラにおける関数式を下記(2)に、時間sの関数として表す。
u′(s)=K
Pv(1+1/T
I s) (1)
r
v (s)=K
Ppe
p (s) (2)
但し、K
Pv:PI制御のゲイン定数、
T
I:PI制御の積分係数、
K
Pp:P制御のゲイン定数である。
【0065】
以下、
図11に示す構成を用いて行った制御の具体例について説明する。
【0066】
速度制御に関しては、速度制御部111のゲイン定数K
Pvと積分係数T
I とを、それぞれK
Pv =100とT
I =0.0083として手動で調整した。
図12に、目標速度が0.05m/s、最大加速度が14m/s
2 となるように基準を設定した速度制御の結果を示す。また、本発明のような逆補正制御とオブサーバ制御との組み合わせを利用しないで同様に行った速度制御の結果も、
図12に併せて示す。
図12にあって、横軸は時間[s]、縦軸は速度[m/s]を表しており、また、
図12における(a)、(b)はそれぞれ、逆補正制御とオブサーバ制御との組み合わせを利用した例(本発明例)、逆補正制御とオブサーバ制御との組み合わせを利用しない例(比較例)を示している。
【0067】
また、
図13には、上記の本発明例(a)と比較例(b)とにおける時間6.5秒〜6.7秒間の過渡状態での速度変化を示す。
図13にあって、横軸及び縦軸は
図12と同じである。
【0068】
逆補正制御とオブサーバ制御とを組み合わせてコギング補償を行っている本発明例(a)での速度応答のオーバーシュートは、コギング補償が行われていない比較例(b)に比べて抑制されていることが、
図12及び13に示す結果から理解される。
【0069】
位置制御に関しては、位置制御部121のゲイン定数K
PpをK
Pp=19として手動で調整した。
図14に、目標位置が0.045mと0.135m、速度が1.25m/sと0.1m/sとなるように基準を設定した本発明例による位置制御の結果を示す。なお、
図14には、基準とした位置制御の例を破線にて示している。
図14にあって、横軸は時間[s]、縦軸は位置[m]を表している。
【0070】
図14に示す結果から、逆補正制御とオブサーバ制御との組み合わせを利用した本発明例にあっては、コギングの影響を受けることなく、ほぼ基準に合った位置制御を行えていることが理解される。
【0071】
以上のことから、前述したような逆補正制御とオブサーバ制御との組み合わせを利用することにより、コギングの影響を抑制できて、リニアモータ1の速度及び位置を高精度に制御することが理解でき、本発明における制御方法及び制御装置の有効性が立証されている。
【0072】
なお、上述した実施の形態では、制御対象をリニアモータにすることとしたが、回転型のモータにも、リニアモータと同様に、本発明の制御を適用できることは勿論である。
【0073】
開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。