【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし、本開示の作用メカニズムは推定を含んでいる。作用メカニズムの正否により、特許請求の範囲が限定されるべきではない。
【0008】
〔1〕水素ガスの製造装置は、水電解セルと電源とを含む。水電解セルは、第1電極と、第2電極と、アルカリ水溶液とを含む。第1電極と第2電極とは、それぞれアルカリ水溶液に接触している。第1電極と第2電極とは、互いに離れて配置されている。第1電極は、水素吸蔵合金を含む。水素吸蔵合金は、20℃において0.2MPa以上の平衡解離圧を有する。第1電極と、第2電極とは、それぞれ電源に接続されている。電源は、第1電極が陰極となり、かつ第2電極が陽極となるように、両極間に電圧を印加する。アルカリ水溶液の電気分解により、第1電極において水素ガスが発生する。
【0009】
水電解における、理論上の電解電圧は、1.23Vである。しかし過電圧、オーム損等があるため、実際の電解電圧は、例えば1.7Vから2.2V程度になり得る。
【0010】
図1は、従来のアルカリ水電解における陰極反応を示す概念図である。
従来、陰極となる電極には、例えばニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の金属材料が使用されている。まず、水素イオン(H
+)が電極の表面に吸着する。水素イオンが電極から電子(e
-)を受け取ることにより、原子状水素(H)が生成される。電極の表面を構成する原子と、原子状水素との間に、化学結合(−H)が生成される。電極の表面において、近接する2個の水素原子同士の間に、新たな共有結合が生成される。すなわち水素分子(H−H)が生成される。水素分子が電極の表面から離脱する。
【0011】
図2は、本開示のアルカリ水電解における陰極反応を示す概念図である。
本開示において、陰極となる電極には、水素吸蔵合金が使用されている。水素イオン(H
+)は、電極から電子を受け取ると共に、原子状水素(H)となって水素吸蔵合金に吸蔵される。水素吸蔵合金の結晶構造中において、2つの原子状水素が結合することにより、水素分子(H−H)が生成される。水素分子が水素ガスとなって放出される。
【0012】
本開示のアルカリ水電解においては、電解電圧が低減し得る。本開示のアルカリ水電解においては、例えば、1.6V程度の電解電圧により、電気分解が進行し得る。本開示のアルカリ水電解における反応経路が、従来のアルカリ水電解における反応経路に比して、小さい活性化エネルギーを有するためと考えられる。
【0013】
本開示の新知見によれば、電極に水素吸蔵合金が使用されている場合、生成した水素ガスの圧力は、水素吸蔵合金の平衡解離圧と同程度の高さになり得る。すなわち、水素ガスが電気化学的に昇圧され得る。本開示においては、水素吸蔵合金が高い平衡解離圧を有している。すなわち、水素吸蔵合金は、0.2MPa以上の平衡解離圧を有している。したがって、水素吸蔵合金から放出される水素ガスは、0.2MPa以上の圧力を有することになる。すなわち、高い圧力を有する水素ガスが製造され得る。
【0014】
以下、本明細書においては、0.2MPa以上の平衡解離圧を有する水素吸蔵合金が「高解離圧合金」とも記される。0.2MPa未満の平衡解離圧を有する水素吸蔵合金が「低解離圧合金」とも記される。
【0015】
従来、低解離圧合金は、例えば、ニッケル水素電池に使用されている。一般に、ニッケル水素電池用の低解離圧合金は、0.01MPa程度の平衡解離圧を有する。例えば、低解離圧合金がアルカリ水電解の陰極材料として使用された場合、電解開始初期に、低解離圧合金から水素ガスが放出され難いと考えられる。低解離圧合金の平衡解離圧(すなわち水素ガスの放出圧力)が大気圧(約0.1MPa)よりも低いためである。
【0016】
〔2〕上記〔1〕に記載される水素ガスの製造装置において、水素吸蔵合金は、例えばAB
5型であってもよい。AB
5型の水素吸蔵合金は、高い平衡解離圧を有し得る。
【0017】
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載される水素ガスの製造装置において、水素吸蔵合金は、組成式:
La
sCe
tPr
uNd
vNi
wCo
xMn
yAl
z
により表されてもよい。
組成式中、s、t、u、v、w、x、yおよびzは、各元素の比を示し、
0.2≦s≦0.3、
0.5≦t≦0.6、
0≦u≦0.1、
0.1≦v≦0.2、
3.9≦w≦4.2、
0.6≦x≦0.8、
0≦y≦0.4、かつ
0≦z≦0.1
の関係を満たす。
上記組成式により表される水素吸蔵合金は、高い平衡解離圧を有し得る。
【0018】
〔4〕上記〔1〕から〔3〕のいずれか1つに記載される水素ガスの製造装置において、第2電極は、例えば水酸化ニッケルを含んでいてもよい。
【0019】
第2電極には、種々の陽極材料が使用され得る。従来、アルカリ水電解における陽極材料は、例えば、Ni、Fe、NiFe合金等が使用されている。
【0020】
アルカリ水電解においては、通常、水素ガスと酸素ガスとが同時に発生する。そのため、水素ガスと酸素ガスとが、発生と同時に分離される。
【0021】
本開示における陽極材料は、例えば水酸化ニッケルであってもよい。陽極材料が水酸化ニッケルである場合、第2電極において、酸素ガスの発生反応に代わって、水酸化ニッケルの酸化反応が進行し得る。水酸化ニッケルの酸化反応が進行している間、水素ガスのみが発生し得る。
【0022】
〔5〕上記〔4〕に記載される水素ガスの製造装置は、放電セルと外部回路とをさらに含んでいてもよい。放電セルは、第2電極の一部と、第3電極と、水とを含む。第2電極の一部と、第3電極とは、それぞれ水に接触している。第2電極の一部と、第3電極とは、互いに離れて配置されている。外部回路を通じて、第2電極と第3電極とが接続されることにより、第2電極が還元され、かつ第3電極において酸素ガスが発生する。
【0023】
例えば、上記〔4〕に記載される水素ガスの製造装置においては、水電解により、陽極材料である水酸化ニッケルが酸化される。水酸化ニッケルの酸化により、オキシ水酸化ニッケルが生成される。すべての水酸化ニッケルが、オキシ水酸化ニッケルに変化した後、水電解が続行されると、第2電極において酸素ガスが発生し始める。また、オキシ水酸化ニッケルに不可逆的な構造変化等が生じる可能性もある。
【0024】
例えば、上記〔5〕に記載される水素ガスの製造装置においては、第2電極が放電され得る。第2電極の放電により、オキシ水酸化ニッケルが還元される。すなわち、水酸化ニッケルが再生され得る。第2電極の放電に伴って、第3電極においては酸素ガスが発生し得る。第1電極は、第2電極の放電に関与しない。すなわち、第2電極の放電中、第1電極において水素ガスは発生しない。
【0025】
上記〔5〕に記載される水素ガスの製造装置は、例えば、2つの運転モードの切り替えにより、運用され得る。1つの運転モードは、水電解モードである。水電解モードにおいては、実質的に水素ガスのみが発生し得る。もう1つの運転モードは、放電モードである。放電モードにおいては、実質的に酸素ガスのみが発生し得る。すなわち、水素ガスの発生タイミングと、酸素ガスの発生タイミングとが異なる。したがって、水素ガスと酸素ガスとの分離が容易であると考えられる。
【0026】
〔6〕上記〔5〕に記載される水素ガスの製造装置において、第3電極は、例えばニッケルを含んでいてもよい。
【0027】
ニッケルは、低い酸素過電圧を有し得る。第3電極がニッケルであることにより、例えば、放電に必要な電圧が低減され得る。
【0028】
〔7〕水素ガスの製造方法は、下記(A)および(B)を含む。
(A)第1電極と第2電極とを、それぞれアルカリ水溶液に接触させる。
(B)第1電極と第2電極との間に電圧を印加することにより、アルカリ水溶液を電気分解する。
第1電極と第2電極とは、互いに離れて配置される。第1電極が陰極となり、かつ第2電極が陽極となるように、両極間に電圧が印加される。第1電極は、水素吸蔵合金を含む。水素吸蔵合金は、20℃において0.2MPa以上の平衡解離圧を有する。アルカリ水溶液の電気分解により、第1電極において水素ガスが発生する。
【0029】
上記〔7〕に記載される水素ガスの製造方法によれば、電解電圧が低減され、かつ高い圧力を有する水素ガスが製造され得る。
【0030】
〔8〕上記〔7〕に記載される水素ガスの製造方法において、水素吸蔵合金は、例えばAB
5型であってもよい。
【0031】
〔9〕上記〔7〕または〔8〕に記載される水素ガスの製造方法において、水素吸蔵合金は、上記組成式:La
sCe
tPr
uNd
vNi
wCo
xMn
yAl
zにより表されてもよい。
【0032】
〔10〕上記〔7〕から〔9〕のいずれか1つに記載される水素ガスの製造方法において、第2電極は、例えば水酸化ニッケルを含んでいてもよい。
【0033】
〔11〕上記〔10〕に記載される水素ガスの製造方法は、下記(C)をさらに含んでいてもよい。
(C)電気分解によって酸化された第2電極を放電させる。
第2電極の一部と、第3電極とが、それぞれ水に接触させられる。第2電極の一部と、第3電極とが、互いに離れて配置される。外部回路を通じて、第2電極と第3電極とが接続されることにより、第2電極が還元され、かつ第3電極において酸素ガスが発生する。
【0034】
〔12〕上記〔11〕に記載される水素ガスの製造方法において、第3電極は、例えばニッケルを含んでいてもよい。
【0035】
〔13〕水素吸蔵合金は、アルカリ水電解の陰極材料として使用される。水素吸蔵合金は、20℃において0.2MPa以上の平衡解離圧を有する。
【0036】
本開示の新知見によれば、高解離圧合金は、アルカリ水電解の陰極材料として使用された時、高い圧力の水素ガスを放出するという属性を有している。該属性により、高解離圧合金の新たな用途「アルカリ水電解の陰極材料」が提供される。
【0037】
〔14〕上記〔13〕に記載される水素吸蔵合金は、例えばAB
5型であってもよい。
【0038】
〔15〕上記〔13〕または〔14〕に記載される水素吸蔵合金は、例えば、上記組成式:La
sCe
tPr
uNd
vNi
wCo
xMn
yAl
zにより表されてもよい。