m/g以下であり、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Bに対する2θ=37.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Aの比であるA/Bが0.80を超え1.33以下である、リチウム二次電池用正極活物質前駆体。
CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Dに対する、2θ=43.5±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Cの比であるC/Dが0.80以上1.05以下である請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一態様におけるリチウム二次電池用正極活物質前駆体、リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法及びこれを用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法について説明する。以下の複数の実施形態では、好ましい例や条件を共有してもよい。
【0012】
本明細書において、Niとは、ニッケル金属ではなく、ニッケル原子を指し、Co、Mn、及びLi等も同様に、それぞれコバルト原子、マンガン原子、及びリチウム原子等を指す。
【0013】
本実施形態において、「一次粒子」とは、走査型電子顕微鏡などを用いて5000倍以上20000倍以下の視野にて観察した際に、外観上に粒界が存在しない粒子を意味する。
【0014】
本実施形態において、「二次粒子」とは、前記一次粒子が凝集している粒子である。即ち、二次粒子は一次粒子の凝集体である。
【0015】
本実施形態において、「BET比表面積」は、BET(Brunauer,Emmet,Teller)法によって測定される値である。BET比表面積の測定では、吸着ガスとして窒素ガスを用いる。例えば、リチウム二次電池用正極活物質前駆体の粉末1gを窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、BET比表面積計(例えば、マウンテック社製、Macsorb(登録商標))を用いて測定することができる(単位:m
2/g)。
【0016】
本実施形態において、「累積体積粒度」は、レーザー回折散乱法によって測定される。具体的には、リチウム二次電池用正極活物質前駆体又は金属複合水酸化物の粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、前記粉末を分散させた分散液を得る。次に、得られた分散液についてレーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。
【0017】
得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から50%累積時の粒子径の値が50%累積体積粒度D
50(μm)である。
【0018】
「放電レート特性」とは、1CAでの放電容量を100%とした場合の5CAでの放電容量の比率をいう。この比率が高ければ高いほど電池は高出力を示し、電池性能として好ましい。本明細書では、以下の条件で放電レート試験を行って得られた値を放電レート特性の指標とする。
【0019】
(放電レート試験)
試験温度:25℃
充電最大電圧4.3V、充電電流1CA、定電流定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流1CAまたは5CA、定電流放電
【0020】
1CAで定電流放電させたときの放電容量と5CAで定電流放電させたときの放電容量とを用い、以下の式で求められる5CA/1CA放電容量比率を求め、放電レート特性の指標とする。
(5CA/1CA放電容量比率)
5CA/1CA放電容量比率(%)
=5CAにおける放電容量/1CAにおける放電容量×100
【0021】
<リチウム二次電池用正極活物質前駆体>
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質前駆体は、少なくともNiを含有し50%累積体積粒度D
50に対するBET比表面積Sの比であるS/D
50が2×10
6m/g以上20×10
6m/g以下であり、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Bに対する、2θ=37.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Aの比であるA/Bが0.80を超え1.33以下である。以下、リチウム二次電池用正極活物質前駆体を「前駆体」と称することがある。
なお、本明細書において、「前駆体」とは、リチウム二次電池用正極活物質を製造するために、後述のリチウム化合物と混合する物質である。
【0022】
本発明の一つの態様においてリチウム二次電池用正極活物質前駆体は、一次粒子と、一次粒子の凝集体である二次粒子とから構成される。
本発明の一つの態様においてリチウム二次電池用正極活物質前駆体は、粉末である。
【0023】
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質前駆体において、50%累積体積粒度D
50に対するBET比表面積Sの比であるS/D
50は、2×10
6m/g以上20×10
6m/g以下であり、2.0×10
6m/g以上20×10
6m/g以下であることが好ましく、2.8×10
6m/g以上11×10
6m/g以下であることがより好ましく、3.0×10
6m/g以上10×10
6m/g以下であることがさらに好ましく、3.0×10
6m/g以上9×10
6m/g未満が特に好ましい。S/D
50が、2×10
6m/g以上であると、前駆体が過度に結晶化されていないといえる。S/D
50が、20×10
6m/g以下であると、前駆体に含まれる一次粒子が適度な密度で凝集している。
【0024】
S/D
50が2×10
6m/g以上20×10
6m/g以下である前駆体を用いてリチウム二次電池用正極活物質を製造すると、リチウムイオンの脱離及び挿入に係わる面積が大きく、リチウム二次電池の放電レート特性の高いリチウム二次電池用正極活物質が得られる。
【0025】
前駆体のBET比表面積は、6m
2/g以上45m
2/g以下であることが好ましく、8m
2/g以上43m
2/g以下であることがより好ましく、10m
2/g以上40m
2/g以下であることがさらに好ましい。前駆体のBET比表面積が6m
2/g以上45m
2/g以下であると、前駆体に含まれる一次粒子が適度な密度で凝集している。そのため、このような前駆体を用いてリチウム二次電池用正極活物質を製造すると、リチウム二次電池の放電レート特性の高いリチウム二次電池用正極活物質が得られる。
【0026】
前駆体の50%累積体積粒度D
50は、2μm以上10μm以下であることが好ましく、2.5μm以上8μm以下であることがより好ましく、3.0μm以上6μm以下であることがさらに好ましい。前駆体の50%累積体積粒度D
50が2μm以上10μm以下であると、後の焼成工程時においてリチウム化合物との反応性が高められ、粒子中にリチウムイオンが均一に分布したリチウム二次電池用正極活物質が得られる。その結果、リチウム二次電池の初回クーロン効率及び放電レート特性の向上に寄与することができる。
【0027】
前駆体のCuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Bに対する2θ=37.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Aの比であるA/Bが0.80を超え1.33以下であることが好ましく、0.90以上1.30以下であることがより好ましく、1.0以上1.25以下であることがさらに好ましい。
【0028】
前駆体の粉末X線回折測定は、X線回折装置(例えば、株式会社リガク製UltimaIV)を用いて行うことができる。例えば、リチウム二次電池用正極活物質前駆体の粉末を専用の基板に充填し、Cu−Kα線源を用いて、回折角2θ=10°〜90°、サンプリング幅0.02°、スキャンスピード4°/minの条件にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得る。統合粉末X線解析ソフトウェアJADEを用い、この粉末X線回折図形から2θ=37.5±1°の範囲の積分強度A及び2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Bを得て、積分強度Bに対する積分強度Aの比であるA/Bを算出する。
【0029】
回折角2θ=37.5±1°の範囲に存在するピークは、後述する空間群Fm−3mに帰属される前駆体の場合、結晶構造における最小単位である単位格子の(111)面に相当するピークである。
【0030】
回折角2θ=62.8±1°の範囲に存在するピークは、後述する空間群Fm−3mに帰属される前駆体の場合、結晶構造における最小単位である単位格子の(220)面に相当するピークである。
【0031】
積分強度Bに対する積分強度Aの比であるA/Bは、前駆体の酸化度合いを示す。積分強度Aに該当するピークが観察できない物質は、酸化されていない状態、例えば金属複合水酸化物等であることを示す。比A/Bが0.80以下であると、前駆体は、十分に酸化された状態でなく、リチウム二次電池の放電レート特性の向上に寄与しにくい。比A/Bが0.80を超え、1.33以下であると、前駆体は、十分に酸化された状態であり、リチウム二次電池の放電レート特性の向上に寄与する。比A/Bが1.33を超えると、前駆体が十分酸化されているが、リチウム二次電池用正極活物質が(220)面方向に異方性を有する結晶構造となりやすく、リチウム二次電池の放電レート特性の向上に寄与しにくい。但し、前駆体は、比A/Bが0.80を超え、1.33以下である限り完全に酸化されていなくてもよく、例えば金属複合水酸化物を含んでいてもよい。
【0032】
50%累積体積粒度D
50に対するBET比表面積Sの比であるS/D
50は、2×10
6m/g以上20×10
6m/g以下であり、且つCuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Bに対する、2θ=37.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Aの比であるA/Bが0.80を超え1.33以下であると、この前駆体を用いて製造されたリチウム二次電池用正極活物質のリチウムイオンの脱離及び挿入に係わる面積が大きくなる。従って、高レートで充放電を行う場合でも、正極活物質粒子表面でリチウイオンの脱挿入を行う際のリチウムイオン移動に伴う抵抗を低減することができる。その結果、リチウム二次電池の放電レート特性の向上に寄与することができる。
【0033】
前駆体は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Dに対する2θ=43.5±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Cの比であるC/Dが0.80以上1.05以下であることが好ましく、0.81以上1.03以下であることがより好ましい。前駆体の半値幅Dに対する半値幅Cの比であるC/Dが0.80以上1.05以下であると、前駆体は、十分に酸化された状態であり、等方性の高い結晶子となる。このような前駆体を用いて製造したリチウム二次電池用正極活物質は、リチウムイオンの脱離及び挿入に係わる結晶面が結晶子全体に均一に分布するため、リチウム二次電池の放電レート特性の高いリチウム二次電池用正極活物質が得られる。
【0034】
半値幅Dに対する半値幅Cの比であるC/Dは以下のように算出することができる。
上述の方法で、リチウム二次電池用正極活物質前駆体の粉末X線回折図形を得た後、統合粉末X線解析ソフトウェアJADEを用い、前記粉末X線回折図形から2θ=43.5±1°の範囲の回折ピークの範囲の回折ピークの半値幅Cと、2θ=62.8±1°の範囲の回折ピークの範囲の回折ピークの半値幅Dを算出する。得られた半値幅Cと半値幅Dの値から比C/Dを算出する。
【0035】
前駆体は、下記式(I)で表されるモル比率で、Niと、Co、Mn及びM1からなる群より選択される1種以上の元素とを含むことが好ましい。M1は、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選択される1種以上の元素を表す。
Ni:Co:Mn:M1=(1−y−z−w):y:z:w ・・・(I)
式(I)は、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1、及び0<y+z+wを満たす。
【0036】
電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、前記式(I)におけるyは、0以上であり、0を超えることが好ましく、0.005以上であることがより好ましく、0.05以上であることがさらに好ましい。前記式(I)におけるyは0.4以下であり、0.35以下であることが好ましく、0.33以下であることがより好ましく、0.30以下であることがさらに好ましい。
【0037】
yの上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。例えばyは、0以上0.4以下であり、0を超え0.35以下であることがより好ましく、0.005以上0.33以下であることがさらに好ましく、0.05以上0.30以下であることが特に好ましい。
【0038】
サイクル維持率が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記式(I)におけるzは、0以上であり、0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。また、前記式(I)におけるzは、0.4以下であり、0.39以下であることが好ましく、0.38以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましい。
【0039】
zの上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。例えばzは、0以上0.4以下であり、0.01以上0.39以下であることが好ましく、0.02以上0.38以下であることがより好ましく、0.1以上0.35以下であることがさらに好ましい。
【0040】
電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるwは、0以上であり、0を超えることが好ましく、0.0005以上であることがより好ましく、0.001以上であることがさらに好ましい。また、高い電流レートにおいて放電容量が多いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるwは、0.1以下であり、0.09以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.07以下であることがさらに好ましい。
【0041】
wの上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。例えば、wは、0以上0.01以下であり、0を超え0.09以下であることが好ましく、0.0005以上0.08以下であることがより好ましく、0.001以上0.07以下であることがさらに好ましい。
【0042】
サイクル特性を向上させる観点から、y+z+wは、0を超え、0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましい。熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、y+z+wは、0.9以下であり、0.75以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0043】
y+z+wの上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。y+z+wは、0以上0.9以下であり、0.01以上0.5以下であることが好ましく、0.05以上0.3以下であることがより好ましい。
【0044】
サイクル維持率が高いリチウム二次電池を得る観点から、M1は、Ti、Mg、Al、W、B及びZrからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましく、Al、W、B及びZrからなる群より選択される1種以上の元素であることがより好ましい。
【0045】
本実施形態の前駆体は、下記式(II)で表される金属複合酸化物を含有することが好ましい。
Ni
(1−y−z−w)Co
yMn
zM1
wO
2 ・・・(II)
式(II)中のy、z、及びwの数値範囲及び好ましい範囲は、前記式(I)中のy、z、及びwと同様である。
【0046】
リチウム二次電池用正極活物質前駆体の組成分析は、例えばリチウム二次電池用正極活物質前駆体粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行うことができる。
【0047】
本実施形態において、前駆体の結晶構造は、立方晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0048】
立方晶型の結晶構造は、Fm−3m、Fd−3m、Fm3、Fm―3c、Fd−3c、Fd3,F−43m、F23、Pa3,Pm−3m、Pn−3n、P−43c、P−43m、P−43n、P23、P2
13、Ia―3d、I2
13、Pm3、Pn3、P432、P4
132、P4
232、I23、I432、Ia3、Im3、I−43d、I−43m、及びIm−3mからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0049】
これらのうち、放電容量が高いリチウム二次電池を得るため、結晶構造は、空間群Fm−3mに帰属される立方晶型の結晶構造、又はFd−3mに帰属される立方晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0050】
<リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法>
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法は、少なくともNiを含み、タップ密度が0.60g/cm
3以上2.0g/cm
3以下である金属複合水酸化物を400℃以上700℃以下で加熱することを含む。
以下、リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法について説明する。一例として、リチウム二次電池用正極活物質前駆体がLi、Ni、Co及びMnを含む前駆体である場合の製造方法について説明する。
【0051】
前駆体の原料粉末として、Ni、Co及びMnを含む金属複合水酸化物を調製する。金属複合水酸化物は、通常公知のバッチ式共沈殿法又は連続式共沈殿法により製造することが可能である。
【0052】
具体的には、特開2002−201028号公報に記載された連続式共沈殿法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液及び錯化剤を反応させ、Ni
(1−y−z)Co
yMn
z(OH)
2(この製造方法の例においてはNi、Co及びMnを含むことを前提とするため、式中、0<y≦0.4、0<z≦0.4である。)で表される金属複合水酸化物を製造する。
【0053】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの少なくとも1種を使用することができる。
【0054】
上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト及び酢酸コバルトのうちの少なくとも1種を使用することができる。
【0055】
上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン及び酢酸マンガンのうちの少なくとも1種を使用することができる。
【0056】
以上の金属塩は、上記Ni
(1−y−z)Co
yMn
z(OH)
2の組成比に対応する割合で用いられる。すなわち、上記金属塩を含む混合溶液中におけるNi、Co及びMnのモル比が、前駆体の上記式(I)の(1−y−z):y:zと対応するように各金属塩の量を規定する。また、溶媒として水が使用される。
【0057】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケルイオン、コバルトイオン及びマンガンイオンと錯体を形成可能なものであり、例えばアンモニウムイオン供給体(水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム又は弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸及びウラシル二酢酸及びグリシンが挙げられる。
【0058】
金属複合水酸化物の製造工程において、錯化剤は、用いられてもよく、用いられなくてもよい。錯化剤が用いられる場合、ニッケル塩溶液、任意金属塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩(ニッケル塩及び任意金属塩)のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。本実施形態においては、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩(ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩)のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。
【0059】
共沈殿法に際しては、ニッケル塩溶液、任意金属塩溶液及び錯化剤を含む混合液のpH値を調整するため、混合液のpHがアルカリ性から中性になる前に、混合液にアルカリ金属水酸化物を添加する。アルカリ金属水酸化物とは、例えば水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムである。
【0060】
なお、本明細書におけるpHの値は、混合液の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。混合液のpHは、反応槽からサンプリングした混合液の温度が、40℃になったときに測定する。サンプリングした混合液が40℃未満である場合には、混合液を40℃まで加温してpHを測定する。サンプリングした混合液が40℃を超える場合には、混合液を40℃まで冷却してpHを測定する。
【0061】
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給すると、ニッケル、コバルト、及びマンガンが反応し、Ni
(1−y−z)Co
yMn
z(OH)
2が生成する。
【0062】
反応に際しては、反応槽の温度を、例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30℃以上70℃以下の範囲内で制御する。
【0063】
また、反応に際しては、反応槽内のpH値を、例えばpH9以上pH13以下、好ましくはpH10.5以上pH12.4以下の範囲内で制御する。反応槽内のpHを高くすると、得られる金属複合水酸化物のタップ密度が高くなる傾向にある。
【0064】
反応槽内の物質は、撹拌して混合する。攪拌速度は、100rpm以上5000rpm以下あることが好ましく、500rpm以上2000rpm以下であることがより好ましい。攪拌速度を遅くすると、得られる金属複合水酸化物のタップ密度が高くなる傾向にある。
【0065】
反応槽内で形成された反応沈殿物を攪拌しながら中和する。反応沈殿物の中和の時間は、1時間以上20時間以下であることが好ましく、5時間以上15時間以下であることがより好ましい。中和時間を長くすると、得られる金属複合水酸化物のタップ密度が高くなる傾向にある。
【0066】
反応開始時に、硫酸アンモニウム結晶を投入してもよい。硫酸アンモニウム結晶を投入する場合の硫酸アンモニウム結晶の投入量は、反応槽の容積1Lに対して0gを超え20g以下であることが好ましく、0gを超え1g以下であることが好ましく、0gを超え0.5g以下であることが好ましい。硫酸アンモニウム結晶を投入すると得られる金属複合水酸化物のタップ密度が低くなる傾向にある。
【0067】
以上のように、反応槽内のpH、攪拌速度、中和時間、および硫酸アンモニウムの結晶の添加量を適宜調整することにより、金属複合水酸化物のタップ密度や50%累積体積粒度D
50を本実施形態の範囲に制御することができる。
【0068】
連続式共沈殿法で用いる反応槽は、形成された反応沈殿物を分離するためオーバーフローさせるタイプの反応槽を用いることができる。
【0069】
各種気体、例えば、窒素、アルゴン又は二酸化炭素等の不活性ガス、空気又は酸素等の酸化性ガス、又はそれらの混合ガスを反応槽内に供給してもよい。
【0070】
バッチ式共沈殿法で用いる反応槽は、オーバーフローパイプを備えない反応槽を用いることができる。あるいは、オーバーフローパイプに連結された濃縮槽を備え、オーバーフローした反応沈殿物を濃縮層で濃縮し、再び反応槽へ循環させる機構を有するタイプの装置を用いることもできる。
【0071】
以上の反応後、中和された反応沈殿物を単離する。単離には、例えば反応沈殿物を含むスラリー(共沈物スラリー)を遠心分離や吸引ろ過などで脱水する方法が用いられる。
【0072】
中和された反応沈殿物を洗浄、脱水、乾燥及び篩別し、Ni、Co及びMnを含む金属複合水酸化物が得られる。
【0073】
反応沈殿物の洗浄は、水又はアルカリ性洗浄液で行うことが好ましい。本実施形態においては、アルカリ性洗浄液で洗浄することが好ましく、水酸化ナトリウム溶液で洗浄することがより好ましい。また、硫黄元素を含有する洗浄液を用いて洗浄してもよい。硫黄元素を含有する洗浄液としては、カリウムやナトリウムの硫酸塩水溶液等が挙げられる。
【0074】
以上により製造される金属複合水酸化物のタップ密度は、0.60g/cm
3以上であることが好ましく、0.80g/cm
3以上がより好ましく、0.90g/cm
3以上がさらに好ましい。金属複合水酸化物のタップ密度は、2.0g/cm
3以下であることが好ましく、1.9g/cm
3以下がより好ましく、1.8g/cm
3以下がさらに好ましい。金属複合水酸化物のタップ密度の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。例えば、金属複合水酸化物のタップ密度は、0.60g/cm
3以上2.0g/cm
3以下であることが好ましく、0.80g/cm
3以上1.9g/cm
3以下がより好ましく、0.90g/cm
3以上1.8g/cm
3以下がさらに好ましい。
【0075】
ここで、タップ密度は、JIS R 1628−1997におけるタップかさ密度に該当する。
【0076】
金属複合水酸化物の50%累積体積粒度D
50は、2μm以上であることが好ましく、2.0μm以上であることがより好ましく、2.5μm以上であることがさらに好ましい。金属複合水酸化物の50%累積体積粒度D
50は、10μm未満であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることがさらに好ましい。金属複合水酸化物の50%累積体積粒度D
50の上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。例えば、金属複合水酸化物の50%累積体積粒度D
50は、2μm以上10μm未満であることが好ましく、2.0μm以上8μm以下であることがより好ましく、2.5μm以上6μm以下であることがさらに好ましい。
【0077】
タップ密度が0.6g/cm
3以上2.0g/cm
3以下であり、好ましくは50%累積体積粒度D
50が2μm以上10μm未満である金属複合水酸化物を用いることで、製造される前駆体の50%累積体積粒度D
50に対するBET比表面積Sの比であるS/D
50、積分強度Bに対する積分強度Aの比であるA/B及び積分強度Dに対する積分強度Cの比であるC/Dを本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
【0078】
上述では、Ni、Co及びMnを含む金属複合水酸化物を一例に挙げたが、金属複合水酸化物は、少なくともNiを含んでいればよい。金属複合水酸化物は、下記式(I)で表されるモル比率で、Niと、Co、Mn及びM1からなる群より選択される1種以上の元素とを含むことが好ましい。M1は、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選択される1種以上の元素を表す。
Ni:Co:Mn:M1=(1−y−z−w):y:z:w ・・・(I)
式(I)は、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1及び0<y+z+wを満たす。
【0079】
また、本実施形態の金属複合水酸化物は、下記式(III)で表されることが好ましい。
Ni
(1−y−z−w)Co
yMn
zM1
w(OH)
2 ・・・(III)
式(III)中のy、z、及びwの数値範囲及び好ましい範囲は、前記式(I)中のy、z、及びwと同様である。
【0080】
次に、金属複合水酸化物を加熱して前駆体を製造する。具体的には、金属複合水酸化物を400℃以上700℃以下で加熱する。必要ならば複数の加熱工程を実施してもよい。本明細書における加熱温度とは、加熱装置の設定温度を意味する。複数の加熱工程を有する場合、各加熱工程のうち、最高保持温度で加熱した際の温度を意味する。
【0081】
加熱温度は、400℃以上700℃以下であることが好ましく、450℃以上680℃以下であることがより好ましい。加熱温度が400℃未満であると、金属複合水酸化物が十分に酸化されないおそれがある。加熱温度が700℃を超えると、金属複合水酸化物が過剰に酸化され、前駆体のBET比表面積が小さくなり過ぎるおそれがある。
【0082】
前記加熱温度で保持する時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられ、0.5時間以上10時間以下が好ましい。前記加熱温度までの昇温速度は、通常50℃/時間以上400℃/時間以下であり、前記加熱温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、加熱雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガスを用いることができる。
【0083】
加熱温度及び保持時間を上記の範囲に調整して得られた前駆体を用いることにより、製造される前駆体の50%累積体積粒度D
50に対するBET比表面積Sの比であるS/D
50及び積分強度Bに対する積分強度Aの比であるA/Bを本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
【0084】
また、加熱装置内は、適度な酸素含有雰囲気であってもよい。酸化性雰囲気は、不活性ガスに、酸化性ガスを混合した酸素含有雰囲気であってもよく、不活性ガス雰囲気下で酸化剤を存在させてもよい。加熱装置内が適度な酸化性雰囲気であることにより、混合液に含まれる遷移金属が適度に酸化され、前駆体の形態を制御しやすくなる。
【0085】
酸化性雰囲気中の酸素や酸化剤は、遷移金属を酸化させるために十分な酸素原子が存在すればよい。
【0086】
酸化性雰囲気が酸素含有雰囲気である場合、加熱装置内の雰囲気の制御は、反応槽内に酸化性ガスを通気させる、混合液に酸化性ガスをバブリングするなどの方法で行うことができる。
【0087】
酸化剤として、過酸化水素などの過酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン又はオゾンなどを使用できる。
【0088】
<リチウム二次電池用正極活物質の製造方法>
上述のリチウム二次電池用正極活物質前駆体を用い、リチウム二次電池用正極活物質を製造する。すなわち、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、リチウム二次電池用正極活物質前駆体と、リチウム化合物とを混合して混合物を得ることと、前記混合物を焼成することを含む。
【0089】
上述の通り、50%累積体積粒度D
50に対するBET比表面積Sの比であるS/D
50が2×10
6m/g以上20×10
6m/g以下であり、且つ積分強度Bに対する積分強度Aの比であるA/Bが0.80を超え1.33以下であるリチウム二次電池用正極活物質前駆体を用いることで、放電レート特性の良好なリチウム二次電池用正極活物質を製造することができる。
【0090】
まず、前記前駆体を乾燥させた後、リチウム化合物と混合する。前駆体の乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
【0091】
本実施形態に用いるリチウム化合物は、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム及びフッ化リチウムのうち何れか一つ、又は、二つ以上を混合して使用することができる。これらの中では、水酸化リチウム及び炭酸リチウムのいずれか一方又は両方が好ましい。
また、水酸化リチウムが炭酸リチウムを含む場合には、水酸化リチウム中の炭酸リチウムの含有量は、5質量%以下であることが好ましい。
【0092】
リチウム化合物と前駆体とを、最終目的物の組成比を勘案して混合する。具体的には、リチウム化合物と前駆体は、組成式(IV)の組成比に対応する割合で混合する。組成式(IV)は、−0.1≦x≦0.2を満たし、組成式(IV)中のy、z及びwの数値範囲及び好ましい範囲は、前記組成式(I)中のy、z及びwと同じである。より具体的には、前駆体に含まれる金属原子の合計に対するリチウム原子のモル比が1.0より大きくなるようにリチウム塩と混合する。金属原子の合計に対するリチウム原子のモル比は、1.05以上が好ましく、1.10以上がより好ましい。
Li[Li
x(Ni
(1−y−z−w)Co
yMn
zM1
w)
1−x]O
2・・・(IV)
【0093】
続いて、前駆体とリチウム化合物との混合物の焼成を行う。焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、又は不活性雰囲気等が用いられ、必要ならば複数の焼成工程が実施される。
【0094】
前駆体とリチウム化合物との焼成温度としては、特に制限はないが、例えば600℃以上1100℃以下であることが好ましく、650℃以上900℃以下であることがより好ましく、650℃以上875℃以下であることがさらに好ましい。焼成温度が上記下限値以上であると、強固な結晶構造を有するリチウム二次電池用正極活物質を得ることができる。また、焼成温度が上記上限値以下であると、二次粒子表面のリチウムの揮発を低減できる。
【0095】
本明細書における焼成温度とは、焼成炉内雰囲気の温度を意味し、かつ焼成工程での保持温度の最高温度(以下、最高保持温度と呼ぶことがある)であり、複数の焼成工程を有する焼成工程の場合、各焼成工程のうち、最高保持温度で焼成した際の温度を意味する。
【0096】
焼成時間は、3時間以上50時間以下が好ましい。焼成時間が50時間を超えると、リチウムの揮発によって実質的に電池性能に劣る傾向となる。焼成時間が3時間より少ないと、結晶の発達が悪く、電池性能が悪くなる傾向となる。なお、上記の焼成の前に、仮焼成を行うことも有効である。仮焼成の温度は、300℃以上850℃以下の範囲で、1時間以上10時間以下で行うことが好ましい。
【0097】
本実施形態において、最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は180℃/時間以上が好ましく、200℃/時間以上がより好ましく、250℃/時間以上が特に好ましい。
最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から後述の保持温度に到達するまでの時間から算出される。
【0098】
焼成工程は、焼成温度が異なる複数の焼成段階を有することが好ましい。例えば、第1の焼成段階と、第1の焼成段階よりも高温で焼成する第2の焼成段階を有することが好ましい。さらに焼成温度及び焼成時間が異なる焼成段階を有していてもよい。
【0099】
また、本実施形態の他の態様として、リチウム化合物と前駆体との混合物を不活性溶融剤の存在下で焼成してもよい。不活性溶融剤を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製法を、フラックス法ともいう。
【0100】
不活性溶融剤の存在下で混合物を焼成することで、混合物の反応を促進させることができる。不活性溶融剤は、焼成後のリチウム二次電池用正極活物質に残留してもよいし、焼成後に洗浄液で洗浄すること等により除去されてもよい。本実施形態においては、焼成後のリチウム二次電池用正極活物質は、純水や前述のアルカリ性洗浄液などを用いて洗浄することが好ましい。
【0101】
焼成温度は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤及び不活性溶融剤の種類及び量に応じて適宜調整すればよい。
【0102】
焼成雰囲気として、所望の組成に応じて大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガス等が用いられ、必要ならば複数の焼成工程が実施される。
【0103】
本実施形態においては、焼成温度の設定は、後述する不活性溶融剤の融点を考慮すればよく、[不活性溶融剤の融点−200℃]以上[不活性溶融剤の融点+200℃]以下の範囲で行うことが好ましい。
【0104】
焼成温度として、具体的には、200℃以上1150℃以下の範囲を挙げることができ、300℃以上1000℃以下が好ましく、500℃以上875℃以下がより好ましい。
【0105】
焼成における保持時間は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤、及び不活性溶融剤の種類及び量に応じて適宜調整すればよい。
【0106】
具体的には、前記焼成温度で保持する時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられ、0.5時間以上10時間以下が好ましい。前記焼成温度までの昇温速度は、例えば、50℃/時間以上400℃/時間以下であり、前記焼成温度から室温までの降温速度は、例えば、10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガスを用いることができる。
【0107】
本実施形態に使用することができる不活性溶融剤は、焼成の際に混合物と反応し難いものであれば特に限定されない。本実施形態においては、Na、K、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr及びBaからなる群より選ばれる1種以上の元素(以下、「M」と称する。)のフッ化物、Mの塩化物、Mの炭酸塩、Mの硫酸塩、Mの硝酸塩、Mのリン酸塩、Mの水酸化物、Mのモリブデン酸塩及びMのタングステン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つが挙げられる。
【0108】
Mのフッ化物としては、NaF(融点:993℃)、KF(融点:858℃)、RbF(融点:795℃)、CsF(融点:682℃)、CaF
2(融点:1402℃)、MgF
2(融点:1263℃)、SrF
2(融点:1473℃)及びBaF
2(融点:1355℃)を挙げることができる。
【0109】
Mの塩化物としては、NaCl(融点:801℃)、KCl(融点:770℃)、RbCl(融点:718℃)、CsCl(融点:645℃)、CaCl
2(融点:782℃)、MgCl
2(融点:714℃)、SrCl
2(融点:857℃)及びBaCl
2(融点:963℃)を挙げることができる。
【0110】
Mの炭酸塩としては、Na
2CO
3(融点:854℃)、K
2CO
3(融点:899℃)、Rb
2CO
3(融点:837℃)、Cs
2CO
3(融点:793℃)、CaCO
3(融点:825℃)、MgCO
3(融点:990℃)、SrCO
3(融点:1497℃)及びBaCO
3(融点:1380℃)を挙げることができる。
【0111】
Mの硫酸塩としては、Na
2SO
4(融点:884℃)、K
2SO
4(融点:1069℃)、Rb
2SO
4(融点:1066℃)、Cs
2SO
4(融点:1005℃)、CaSO
4(融点:1460℃)、MgSO
4(融点:1137℃)、SrSO
4(融点:1605℃)及びBaSO
4(融点:1580℃)を挙げることができる。
【0112】
Mの硝酸塩としては、NaNO
3(融点:310℃)、KNO
3(融点:337℃)、RbNO
3(融点:316℃)、CsNO
3(融点:417℃)、Ca(NO
3)
2(融点:561℃)、Mg(NO
3)
2、Sr(NO
3)
2(融点:645℃)及びBa(NO
3)
2(融点:596℃)を挙げることができる。
【0113】
Mのリン酸塩としては、Na
3PO
4、K
3PO
4(融点:1340℃)、Rb
3PO
4、Cs
3PO
4、Ca
3(PO
4)
2、Mg
3(PO
4)
2(融点:1184℃)、Sr
3(PO
4)
2(融点:1727℃)及びBa
3(PO
4)
2(融点:1767℃)を挙げることができる。
【0114】
Mの水酸化物としては、NaOH(融点:318℃)、KOH(融点:360℃)、RbOH(融点:301℃)、CsOH(融点:272℃)、Ca(OH)
2(融点:408℃)、Mg(OH)
2(融点:350℃)、Sr(OH)
2(融点:375℃)及びBa(OH)
2(融点:853℃)を挙げることができる。
【0115】
Mのモリブデン酸塩としては、Na
2MoO
4(融点:698℃)、K
2MoO
4(融点:919℃)、Rb
2MoO
4(融点:958℃)、Cs
2MoO
4(融点:956℃)、CaMoO
4(融点:1520℃)、MgMoO
4(融点:1060℃)、SrMoO
4(融点:1040℃)及びBaMoO
4(融点:1460℃)を挙げることができる。
【0116】
Mのタングステン酸塩としては、Na
2WO
4(融点:687℃)、K
2WO
4、Rb
2WO
4、Cs
2WO
4、CaWO
4、MgWO
4、SrWO
4及びBaWO
4を挙げることができる。
【0117】
本実施形態においては、これらの不活性溶融剤を2種以上用いることもできる。2種以上用いる場合は、融点が下がることもある。また、これらの不活性溶融剤の中でも、より結晶性が高いリチウム二次電池用正極活物質を得るための不活性溶融剤としては、Mの炭酸塩及び硫酸塩、Mの塩化物のいずれか又はその組み合わせであることが好ましい。また、Mとしては、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)のいずれか一方又は両方であることが好ましい。すなわち、上記の中で、とりわけ好ましい不活性溶融剤は、NaOH、KOH、NaCl、KCl、Na
2CO
3、K
2CO
3、Na
2SO
4、及びK
2SO
4からなる群より選ばれる1種以上である。
【0118】
本実施形態において、不活性溶融剤として、K
2CO
3又はK
2SO
4が好ましい。
【0119】
本実施形態において、焼成時の不活性溶融剤の使用量は、適宜調整すればよい。焼成時の不活性溶融剤の使用量は、リチウム化合物と不活性溶融剤の合計量に対する不活性溶融剤の量(モル比)が、0.010モル%以上30モル%以下であることが好ましく、0.015モル%以上20モル%以下であることがより好ましく、0.020モル%以上15モル%以下であることがさらに好ましい。
【0120】
以上により、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質を製造することができる。上記操作に加え、以下の操作をさらに行ってもよい。
【0121】
本実施形態において、焼成後のリチウム二次電池用正極活物質を、例えば10分間以上2時間以下の範囲で解砕することが好ましい。本実施形態では、例えば、乳鉢、ピンミル、マスコロイダー等を用いて解砕することができる。
【0122】
解砕後のリチウム二次電池用正極活物質に残留する不活性溶融剤を洗浄してもよい。洗浄には、純水やアルカリ性洗浄液を用いることができる。例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸アンモニウムからなる群より選ばれる1種以上の無水物並びにその水和物の水溶液を挙げることができる。また、アルカリとして、アンモニアを使用することもできる。
【0123】
洗浄に用いる洗浄液の温度は、15℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましく、8℃以下がさらに好ましい。洗浄液の温度を凍結しない範囲で上記範囲に制御することで、洗浄時にリチウム金属複合酸化物の結晶構造中から洗浄液中へのリチウムイオンの過度な溶出が抑制できる。
【0124】
洗浄において、洗浄液とリチウム二次電池用正極活物質とを接触させる方法としては、各洗浄液の水溶液中に、リチウム二次電池用正極活物質を投入して撹拌する方法が挙げられる。また、各洗浄液の水溶液をシャワー水として、リチウム二次電池用正極活物質にかける方法でもよい。さらに、洗浄液の水溶液中に、リチウム二次電池用正極活物質を投入して撹拌した後、各洗浄液の水溶液からリチウム二次電池用正極活物質を分離し、次いで、各洗浄液の水溶液をシャワー水として、分離後のリチウム二次電池用正極活物質にかける方法でもよい。
【0125】
洗浄において、洗浄液とリチウム二次電池用正極活物質を適正な時間の範囲で接触させることが好ましい。洗浄における「適正な時間」とは、リチウム二次電池用正極活物質の表面に残留する不活性溶融剤を除去しつつ、リチウム二次電池用正極活物質の各粒子を分散させる程度の時間を指す。洗浄時間は、リチウム二次電池用正極活物質の凝集状態に応じて調整することが好ましい。洗浄時間は、例えば5分間以上1時間以下の範囲が特に好ましい。
【0126】
本実施形態は、リチウム二次電池用正極活物質の洗浄後にさらにリチウム二次電池用正極活物質を熱処理することが好ましい。リチウム金属複合酸化物を熱処理する温度や方法は特に限定されないが、充電容量の低下を防止できる観点から、300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることがさらに好ましい。また、特に制限はないが、リチウムの揮発を防止でき、本実施形態の組成を有するリチウム金属複合酸化物が得られる観点から、1000℃以下であることが好ましく、950℃以下であることがより好ましい。
【0127】
リチウムの揮発量は、熱処理温度により制御することができる。熱処理温度の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、熱処理温度は、300℃以上1000℃以下であることが好ましく、350℃以上950℃以下であることがより好ましく、400℃以上950℃以下であることがさらに好ましい。
【0128】
熱処理中の雰囲気は、酸素雰囲気、不活性雰囲気、減圧雰囲気又は真空雰囲気が挙げられる。洗浄後の乾燥を上記雰囲気で行うことで、熱処理中にリチウム二次電池用正極活物質と雰囲気中の水分又は二酸化炭素との反応が抑制され、不純物の少ないリチウム二次電池用正極活物質が得られる。
【0129】
リチウム金属複合酸化物の乾燥は、送風により行ってもよい。リチウム金属複合酸化物の乾燥は、上述の乾燥温度、乾燥中の雰囲気、送風の条件を組み合わせて行ってもよい。
【0130】
<リチウム二次電池>
次いで、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質を用いる場合の好適なリチウム二次電池の構成を説明する。
さらに、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質を用いる場合に好適な正極について説明する。
さらに、正極の用途として好適なリチウム二次電池について説明する。
【0131】
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質を用いる場合の好適なリチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0132】
リチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0133】
図1及び
図2は、リチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0134】
まず、
図1に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、及び一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0135】
次いで、
図2に示すように、電池缶5に電極群4及び不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7及び封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0136】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形又は角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0137】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型又は角型などの形状を挙げることができる。
【0138】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、又はペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0139】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
正極は、まず正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極合剤を調製し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0140】
(導電材)
正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)及び繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率及び出力特性を向上させることができるが、多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着力、及び正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0141】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維又はカーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0142】
(バインダー)
正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体及び四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0143】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂及びポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極集電体との密着力及び正極合剤内部の結合力がいずれも高い正極合剤を得ることができる。
【0144】
(正極集電体)
正極が有する正極集電体としては、Al、Ni又はステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0145】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、正極合剤を正極集電体上で加圧成型する方法が挙げられる。また、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体に正極合剤を担持させてもよい。
【0146】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン及びジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド及びN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0147】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
【0148】
(負極)
リチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、及び負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0149】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物又は硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0150】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛又は人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維及び有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0151】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO
2及びSiOなど式SiO
x(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO
2及びTiOなど式TiO
x(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V
2O
5及びVO
2など式VO
x(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe
3O
4、Fe
2O
3及びFeOなど式FeO
x(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO
2及びSnOなど式SnO
x(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO
3及びWO
2など一般式WO
x(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li
4Ti
5O
12及びLiVO
2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する複合金属酸化物;を挙げることができる。
【0152】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti
2S
3、TiS
2及びTiSなど式TiS
x(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V
3S
4、VS
2及びVSなど式VS
x(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe
3S
4、FeS
2及びFeSなど式FeS
x(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo
2S
3及びMoS
2など式MoS
x(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS
2及びSnSなど式SnS
x(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS
2など式WS
x(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb
2S
3など式SbS
x(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se
5S
3、SeS
2及びSeSなど式SeS
x(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0153】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li
3N及びLi
3−xA
xN(ここで、AはNi及びCoのいずれか一方又は両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0154】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物及び窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物及び窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0155】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属及びスズ金属などを挙げることができる。
【0156】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Si、Li−Sn及びLi−Sn−Niなどのリチウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu及びSn−Laなどのスズ合金;Cu
2Sb及びLa
3Ni
2Sn
7などの合金;を挙げることもできる。
【0157】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0158】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い及び繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛又は人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0159】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン及びポリプロピレンを挙げることができる。
【0160】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni又はステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0161】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布又は乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0162】
(セパレータ)
リチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂又は含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布又は織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。
【0163】
本実施形態において、セパレータは、電池使用時(充放電時)に電解質を良好に透過させるため、JIS P 8117で定められるガーレー法による透気抵抗度が、50秒/100cc以上且つ300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上且つ200秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0164】
また、セパレータの空孔率は、セパレータの総体積に対し好ましくは30体積%以上80体積%以下、より好ましくは40体積%以上70体積%以下である。セパレータは、空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0165】
(電解液)
リチウム二次電池が有する電解液は、電解質及び有機溶媒を含有する。
【0166】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)(COCF
3)、Li(C
4F
9SO
3)、LiC(SO
2CF
3)
3、Li
2B
10Cl
10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、及びLiAlCl
4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2及びLiC(SO
2CF
3)
3からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0167】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン及び1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン及び2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル及びγ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル及びブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド及びN,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド及び1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。
【0168】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒及び環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒を用いた電解液は、動作温度範囲が広く、高い電流レートにおける充放電を行っても劣化し難く、長時間使用しても劣化し難く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという多くの特長を有する。
【0169】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPF
6などのフッ素を含むリチウム塩及びフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル及び2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、高い電流レートにおける充放電を行っても容量維持率が高いため、さらに好ましい。
【0170】
<全固体リチウム二次電池>
次いで、全固体リチウム二次電池の構成を説明しながら、本発明の一態様に係るリチウム金属複合酸化物を全固体リチウム二次電池の正極活物質として用いた正極、及びこの正極を有する全固体リチウム二次電池について説明する。
【0171】
図3及び
図4は、本実施形態の全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
図3及び
図4に示す全固体リチウム二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。各部材を構成する材料については、後述する。
【0172】
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。その他、全固体リチウム二次電池1000は、正極110と負極120との間にセパレータを有していてもよい。
【0173】
全固体リチウム二次電池1000は、さらに積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーター及び外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
【0174】
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼又はニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、外装体200として、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
【0175】
全固体リチウム二次電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(またはシート型)、円筒型、角型、又はラミネート型(パウチ型)などの形状を挙げることができる。
【0176】
全固体リチウム二次電池1000は、一例として積層体100を1つ有する形態が図示されているが、本実施形態はこれに限らない。全固体リチウム二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
【0178】
(正極)
本実施形態の正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。
【0179】
正極活物質層111は、上述した本発明の一態様であるリチウム金属複合酸化物及び固体電解質を含む。また、正極活物質層111は、導電材及びバインダーを含んでいてもよい。
【0180】
(固体電解質)
本実施形態の正極活物質層111に含まれる固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、公知の全固体電池に用いられる固体電解質を採用することができる。このような固体電解質としては、無機電解質及び有機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質及び水素化物系固体電解質を挙げることができる。有機電解質としては、ポリマー系固体電解質を挙げることができる。
【0181】
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物及びガーネット型酸化物などが挙げられる。
【0182】
ペロブスカイト型酸化物としては、Li
aLa
1−aTiO
3(0<a<1)などのLi−La−Ti系酸化物、Li
bLa
1−bTaO
3(0<b<1)などのLi−La−Ta系酸化物及びLi
cLa
1−cNbO
3(0<c<1)などのLi−La−Nb系酸化物などが挙げられる。
【0183】
NASICON型酸化物としては、Li
1+dAl
dTi
2−d(PO
4)
3(0≦d≦1)などが挙げられる。NASICON型酸化物とは、Li
mM
1nM
2oP
pO
q(式中、M
1は、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeからなる群から選ばれる1種以上の元素である。M
2は、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlからなる群から選ばれる1種以上の元素である。m、n、o、pおよびqは、任意の正数である。)で表される酸化物である。
【0184】
LISICON型酸化物としては、Li
4M
3O
4−Li
3M
4O
4(M
3は、Si、Ge、及びTiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。M
4は、P、As及びVからなる群から選ばれる1種以上の元素である。)で表される酸化物などが挙げられる。
【0185】
ガーネット型酸化物としては、Li
7La
3Zr
2O
12(LLZともいう)などのLi−La−Zr系酸化物などが挙げられる。
【0186】
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0187】
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、Li
2S−P
2S
5系化合物、Li
2S−SiS
2系化合物、Li
2S−GeS
2系化合物、Li
2S−B
2S
3系化合物、Li
2S−P
2S
3系化合物、LiI−Si
2S−P
2S
5、LiI−Li
2S−P
2O
5、LiI−Li
3PO
4−P
2S
5及びLi
10GeP
2S
12などを挙げることができる。
【0188】
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「Li
2S」「P
2S
5」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、Li
2S−P
2S
5系化合物には、Li
2SとP
2S
5とを主として含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。Li
2S−P
2S
5系化合物に含まれるLi
2Sの割合は、例えばLi
2S−P
2S
5系化合物全体に対して50〜90質量%である。Li
2S−P
2S
5系化合物に含まれるP
2S
5の割合は、例えばLi
2S−P
2S
5系化合物全体に対して10〜50質量%である。また、Li
2S−P
2S
5系化合物に含まれる他の原料の割合は、例えばLi
2S−P
2S
5系化合物全体に対して0〜30質量%である。また、Li
2S−P
2S
5系化合物には、Li
2SとP
2S
5との混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
【0189】
Li
2S−P
2S
5系化合物としては、Li
2S−P
2S
5、Li
2S−P
2S
5−LiI、Li
2S−P
2S
5−LiCl、Li
2S−P
2S
5−LiBr、Li
2S−P
2S
5−Li
2O、Li
2S−P
2S
5−Li
2O−LiI及びLi
2S−P
2S
5−Z
mS
n(m、nは正の数である。Zは、Ge、ZnまたはGaである。)などを挙げることができる。
【0190】
Li
2S−SiS
2系化合物としては、Li
2S−SiS
2、Li
2S−SiS
2−LiI、Li
2S−SiS
2−LiBr、Li
2S−SiS
2−LiCl、Li
2S−SiS
2−B
2S
3−LiI、Li
2S−SiS
2−P
2S
5−LiI、Li
2S−SiS
2−Li
3PO
4、Li
2S−SiS
2−Li
2SO
4及びLi
2S−SiS
2−Li
xMO
y(x、yは正の数である。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はInである。)などを挙げることができる。
【0191】
Li
2S−GeS
2系化合物としては、Li
2S−GeS
2及びLi
2S−GeS
2−P
2S
5などを挙げることができる。
【0192】
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0193】
(水素化物系固体電解質)
水素化物系固体電解質材料としては、LiBH
4、LiBH
4−3KI、LiBH
4−PI
2、LiBH
4−P
2S
5、LiBH
4−LiNH
2、3LiBH
4−LiI、LiNH
2、Li
2AlH
6、Li(NH
2)
2I、Li
2NH、LiGd(BH
4)
3Cl、Li
2(BH
4)(NH
2)、Li
3(NH
2)I及びLi
4(BH
4)(NH
2)
3などを挙げることができる。
【0194】
(ポリマー系固体電解質)
ポリマー系固体電解質として、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物及びポリオルガノシロキサン鎖及びポリオキシアルキレン鎖からなる群から選ばれる1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を挙げることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。
【0195】
固体電解質は、発明の効果を損なわない範囲において、2種以上を併用することができる。
【0196】
(導電材)
本実施形態の正極活物質層111が有する導電材としては、炭素材料及び金属化合物の少なくとも1つを用いることができる。炭素材料として、黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)及び繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、後述する適切な量を正極活物質層111に添加することにより正極110の内部の導電性を高め、充放電効率及び出力特性を向上させることができる。一方、カーボンブラックの添加量が多すぎると、正極活物質層111と正極集電体112との結着力、及び正極活物質層111内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。また、金属化合物としては電気導電性を有する金属、金属合金や金属酸化物が挙げられる。
【0197】
正極活物質層111中の導電材の割合は、炭素材料の場合は正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維及びカーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0198】
(バインダー)
正極活物質層111がバインダーを有する場合、バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリイミド系樹脂;ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体及び四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;及びポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0199】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂及びポリオレフィン樹脂を用い、正極活物質層111全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極活物質層111と正極集電体112との密着力、及び正極活物質層111内部の結合力がいずれも高い正極活物質層111となる。
【0200】
(正極集電体)
本実施形態の正極110が有する正極集電体112としては、Al、Ni及びステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工した部材が好ましい。
【0201】
正極集電体112に正極活物質層111を担持させる方法としては、正極集電体112上で正極活物質層111を加圧成型する方法が挙げられる。加圧成型には、冷間プレスや熱間プレスを用いることができる。
【0202】
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材及びバインダーの混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0203】
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質及び導電材の混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、焼結することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0204】
正極合剤に用いることができる有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン及びジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド及びN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0205】
正極合剤を正極集電体112へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法及びグラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
【0206】
以上に挙げられた方法により、正極110を製造することができる。
【0207】
(負極)
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質及び導電材を含んでいてもよい。固体電解質、導電材及びバインダーは、上述したものを用いることができる。
【0208】
(負極活物質)
負極活物質層121が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金であり、正極110よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0209】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛及び人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維及び有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0210】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO
2及びSiOなど式SiO
x(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO
2及びTiOなど式TiO
x(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V
2O
5及びVO
2など式VO
x(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe
3O
4、Fe
2O
3及びFeOなど式FeO
x(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO
2及びSnOなど式SnO
x(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO
3及びWO
2など一般式WO
x(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;及びLi
4Ti
5O
12及びLiVO
2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する金属複合酸化物;を挙げることができる。
【0211】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti
2S
3、TiS
2及びTiSなど式TiS
x(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V
3S
4、VS
2及びVSなど式VS
x(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe
3S
4、FeS
2及びFeSなど式FeS
x(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo
2S
3及びMoS
2など式MoS
x(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS
2及びSnSなど式SnS
x(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS
2など式WS
x(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb
2S
3など式SbS
x(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;及びSe
5S
3、SeS
2及びSeSなど式SeS
x(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0212】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li
3N及びLi
3−xA
xN(ここで、AはNi及びCoのいずれか一方または両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0213】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物及び窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物及び窒化物は、結晶質または非晶質のいずれでもよい。
【0214】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属及びスズ金属などを挙げることができる。
【0215】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Si、Li−Sn及びLi−Sn−Niなどのリチウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu及びSn−Laなどのスズ合金;及びCu
2Sb及びLa
3Ni
2Sn
7などの合金;を挙げることもできる。
【0216】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0217】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極120の電位がほとんど変化しない(つまり、電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(つまり、サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛及び人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0218】
また、上記負極活物質の中では、熱的安定性が高い、Li金属によるデンドライト(樹枝状晶ともいう)が生成しがたいなどの理由から、酸化物が好ましく用いられる。酸化物の形状としては、繊維状、又は微粉末の凝集体などが好ましく用いられる。
【0219】
(負極集電体)
負極120が有する負極集電体122としては、Cu、Ni及びステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工した部材が好ましい。
【0220】
負極集電体122に負極活物質層121を担持させる方法としては、正極110の場合と同様に、加圧成型による方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法、及び負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後、焼結する方法が挙げられる。
【0221】
(固体電解質層)
固体電解質層130は、上述の固体電解質を有している。
【0222】
固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、無機物の固体電解質をスパッタリング法により堆積させることで形成することができる。
【0223】
また、固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、固体電解質を含むペースト状の合剤を塗布し、乾燥させることで形成することができる。乾燥後、プレス成型し、さらに冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧して固体電解質層130を形成してもよい。
【0224】
積層体100は、上述のように正極110上に設けられた固体電解質層130に対し、公知の方法を用いて、固体電解質層130の表面に負極電解質層121が接するように負極120を積層させることで製造することができる。
【0225】
以上のような構成のリチウム二次電池において、正極活物質は、上述した本実施形態により製造されるリチウム金属複合酸化物粉末を用いているため、この正極活物質を用いたリチウム二次電池の放電レート特性を向上させることができる。
【0226】
また、以上のような構成の正極は、上述した構成のリチウム二次電池用正極活物質を有するため、リチウム二次電池の放電レート特性を向上させることができる。
【0227】
さらに、以上のような構成のリチウム二次電池は、上述した正極を有するため、放電レート特性の高い二次電池となる。
【0228】
本発明のもう一つの側面は、以下の態様を包含する。
[10]少なくともNiを含有し、50%累積体積粒度D
50に対するBET比表面積Sの比であるS/D
50が3.0×10
6m/g以上10×10
6m/g以下であり、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Bに対する、2θ=37.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Aの比であるA/Bが1.0以上1.25以下である、リチウム二次電池用正極活物質前駆体。
[11]CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Dに対する、2θ=43.5±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Cの比であるC/Dが0.81以上1.03以下である[10]に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
[12]前記BET比表面積が10m
2/g以上40m
2/g以下である[10]又は[11]に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
[13]前記50%累積体積粒度D
50が3.0μm以上6μm以下である[10]〜[12]の何れか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
[14]下記式(I)で表されるモル比率で、Niと、Co、Mn及びM1からなる群より選択される1種以上の元素とを含み、前記M1は、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選択される1種以上の元素を表す、[10]〜[13]のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
Ni:Co:Mn:M1=(1−y−z−w):y:z:w ・・・(I)
式(I)は、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1、及び0<y+z+wを満たす。
[15]少なくともNiを含み、タップ密度が0.90g/cm
3以上1.8g/cm
3以下である金属複合水酸化物を、450℃以上680℃以下で加熱することを含む、リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
[16]前記金属複合水酸化物の50%累積体積粒度D
50が2.5μm以上6μm以下である、[15]に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
[17]前記金属複合水酸化物が、下記式(I)で表されるモル比率で、Niと、Co、Mn及びM1からなる群より選択される1種以上の元素とを含み、前記M1は、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選択される1種以上の元素を表す、[15]又は[16]に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
Ni:Co:Mn:M1=(1−y−z−w):y:z:w ・・・(I)
式(I)は、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1及び0<y+z+wを満たす。
[18][10]〜[14]のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体と、リチウム化合物とを混合して混合物を得ることと、前記混合物を焼成することを含む、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【実施例】
【0229】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0230】
<組成分析測定>
後述の方法で製造されるリチウム二次電池用正極活物質前駆体の組成分析は、得られたリチウム二次電池用正極活物質前駆体粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。
【0231】
<BET比表面積測定>
リチウム二次電池用正極活物質前駆体の粉末1gを窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、BET比表面積計(マウンテック社製、Macsorb(登録商標))を用いて測定した(単位:m
2/g)。
【0232】
<積分強度Bに対する積分強度Aの比であるA/Bの測定>
粉末X線回折測定は、X線回折装置(株式会社リガク製UltimaIV)を用いて行った。リチウム二次電池用正極活物質前駆体の粉末を専用の基板に充填し、Cu−Kα線源を用いて、回折角2θ=10°〜90°、サンプリング幅0.02°、スキャンスピード4°/minの条件にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得た。
統合粉末X線解析ソフトウェアJADEを用い、この粉末X線回折図形から2θ=37.5±1°の範囲の積分強度A及び2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Bを得て、積分強度Bに対する積分強度Aの比であるA/Bを算出した。
【0233】
<半値幅Dに対する半値幅Cの比であるC/Dの測定>
上述の方法で、リチウム二次電池用正極活物質前駆体の粉末X線回折図形を得た後、統合粉末X線解析ソフトウェアJADEを用い、前記粉末X線回折図形から2θ=43.5±1°の範囲の回折ピークの範囲の回折ピークの半値幅Cと、2θ=62.8±1°の範囲の回折ピークの範囲の回折ピークの半値幅Dを算出し、半値幅Dに対する半値幅Cの比であるC/Dを算出した。
【0234】
<累積体積粒度測定>
リチウム二次電池用正極活物質前駆体又は複合金属水酸化物の粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、この粉末を分散させた分散液を得た。得られた分散液についてレーザー回折散乱粒度分布測定装置(マルバーン社製、マスターサイザー2000)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から50%累積時の粒子径の値を50%累積体積粒度D
50とした。
【0235】
<タップ密度測定>
金属複合水酸化物のタップ密度は、JIS R 1628−1997記載の方法により測定した。
【0236】
<リチウム二次電池用正極の作製>
後述する製造方法で得られるリチウム二次電池用正極活物質と導電材であるアセチレンブラックとバインダーであるPVdFとを、リチウム二次電池用正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N−メチル−2−ピロリドンを有機溶媒として用いた。
【0237】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得た。このリチウム二次電池用正極の電極面積は1.65cm
2とした。
【0238】
<リチウム二次電池(コイン型ハーフセル)の作製>
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
<リチウム二次電池用正極の作製>で作製したリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上に積層フィルムセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層した厚さが16μmの積層体)を置いた。ここに電解液を300μl注入した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの16:10:74(体積比)混合液に、LiPF
6を1.3mol/Lとなるように溶解し、炭酸ビニレンを1.0%溶解させたものを用いた。
次に、負極として金属リチウムを用いて、前記負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型ハーフセルR2032。以下、「コイン型ハーフセル」と称することがある。)を作製した。
【0239】
<放電レート試験>
上記の方法で作製したコイン型ハーフセルを用いて、初期充放電後に、放電レート試験を実施し、放電レート特性を評価した。初期充放電は、試験温度25℃において、充放電ともに電流0.2CAにてそれぞれ定電流定電圧充電と定電流放電を行った。
【0240】
(放電レート試験)
試験温度:25℃
充電最大電圧4.3V、充電電流1CA、定電流定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流1CAまたは5CA、定電流放電
【0241】
1CAで定電流放電させたときの放電容量と5CAで定電流放電させたときの放電容量とを用い、以下の式で求められる5CA/1CA放電容量比率を求め、放電レート特性の指標とする。5CA/1CA放電容量比率が高ければ高いほど、放電レート特性が高く、リチウム二次電池が高出力を示すことを意味する。
(5CA/1CA放電容量比率)
5CA/1CA放電容量比率(%)
=5CAにおける放電容量/1CAにおける放電容量×100
【0242】
実施例1
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0243】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.88:0.08:0.04となるように混合して、混合原料液を調製した。
【0244】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液500Lに対し、攪拌速度750rpmで攪拌しながら反応槽内の溶液のpHが12.4(測定温度:40℃)になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下した。12.5時間後に水酸化ナトリウム水溶液の滴下を停止し、反応沈殿物1を得た。
【0245】
反応沈殿物1を洗浄し、脱水、乾燥及び篩別し、Ni、Co及びMnを含む金属複合水酸化物1が得られた。金属複合水酸化物1のタップ密度は、1.56g/cm
3であった。
【0246】
金属複合水酸化物1を大気雰囲気中650℃で5時間保持して加熱して酸化し、室温まで冷却してリチウム二次電池用正極活物質前駆体1を得た。リチウム二次電池用正極活物質前駆体1の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、y=0.08、z=0.04、w=0であった。
【0247】
リチウム二次電池用正極活物質前駆体1に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するリチウムの量(モル比)が1.1となるように水酸化リチウムを秤量した。不活性溶融剤である硫酸カリウムと水酸化リチウムの合計量に対する硫酸カリウムの量(モル比)が10モル%となるように硫酸カリウムを秤量した。リチウム二次電池用正極活物質前駆体1と水酸化リチウムと硫酸カリウムを乳鉢により混合して混合物を得た。
【0248】
次いで、得られた混合物を酸素雰囲気中において、650℃で5時間保持して焼成した後、室温まで冷却した後に粉砕した。
【0249】
得られた粉砕物を酸素雰囲気中850℃で5時間保持して焼成した後、室温まで冷却して焼成物を得た。得られた焼成物をロールミルで粗解砕し、ディスクミル(スーパーマスコロイダー MKCA6―2J 増幸産業株式会社製)を間隙100μm、1200rpmで施すことでD50を100μm以下になるように粉砕した。
【0250】
得られた粉砕物をさらに16000rpmの回転数で運転したピンミル(ミルシステム株式会社製、インパクトミル AVIS-100)に投入し解砕し、解砕粉1を得た。
【0251】
解砕粉1を5℃の純水に分散させた後、脱水した。さらに、液温5℃に調整した純水を用いて、上記粉末を洗浄した後、脱水し、大気雰囲気下760℃で5時間焼成して熱処理を行い、粉末状のリチウム二次電池用正極活物質1を得た。
【0252】
実施例2
実施例1と同じ操作により、金属複合水酸化物2を得た。金属複合水酸化物2のタップ密度は、1.56g/cm
3であった。
【0253】
金属複合水酸化物2を酸素雰囲気中500℃で5時間保持して加熱し、室温まで冷却してリチウム二次電池用正極活物質前駆体2を得た。
【0254】
リチウム二次電池用正極活物質前駆体2に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するリチウムの量(モル比)が1.1となるように水酸化リチウムを秤量し、リチウム二次電池用正極活物質前駆体2と水酸化リチウムを乳鉢により混合して混合物を得た。
【0255】
次いで、得られた混合物を酸素雰囲気中790℃で10時間保持して焼成した後、室温まで冷却して焼成物を得た。得られた焼成物を乳鉢で解砕し、5℃の純水に分散させた後、脱水した。さらに、液温5℃に調整した純水を用いて、上記粉末を洗浄した後、脱水し、大気雰囲気下760℃で5時間焼成して熱処理を行い、粉末状のリチウム二次電池用正極活物質2を得た。
【0256】
実施例3
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を70℃に保持した。
【0257】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.91:0.07:0.02となるように混合して、混合原料液を調製した。
【0258】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液15Lに対し、攪拌速度1500rpmで攪拌しながら反応槽内の溶液のpHが10.6(測定温度:40℃)になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下した。12.5時間後に水酸化ナトリウム水溶液の滴下を停止し、反応沈殿物3を得た。
【0259】
反応沈殿物3を洗浄し、脱水、乾燥及び篩別し、Ni、Co及びMnを含む金属複合水酸化物3が得られた。金属複合水酸化物3のタップ密度は、0.99g/cm
3であった。
【0260】
金属複合水酸化物3を酸素雰囲気中650℃で5時間保持して加熱して酸化し、室温まで冷却してリチウム二次電池用正極活物質前駆体3を得た。リチウム二次電池用正極活物質前駆体3の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、y=0.07、z=0.02、w=0であった。
【0261】
リチウム二次電池用正極活物質前駆体3に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するリチウムの量(モル比)が1.1となるように水酸化リチウムを秤量した。不活性溶融剤である炭酸カリウムと水酸化リチウムの合計量に対する炭酸カリウムの量(モル比)が10モル%となるように炭酸カリウムを秤量した。リチウム二次電池用正極活物質前駆体3と水酸化リチウムと炭酸カリウムを乳鉢により混合して混合物を得た。
【0262】
次いで、得られた混合物を酸素雰囲気中790℃で10時間保持して焼成した後、室温まで冷却して焼成物を得た。得られた焼成物を乳鉢で解砕し、5℃の純水に分散させた後、脱水した。さらに、液温5℃に調整した純水を用いて、上記粉末を洗浄した後、脱水し、酸素雰囲気下760℃で5時間焼成して熱処理を行い、粉末状のリチウム二次電池用正極活物質3を得た。
【0263】
比較例1
実施例1と同じ操作により、金属複合水酸化物C1を得た。金属複合水酸化物C1のタップ密度は、1.56g/cm
3であった。
【0264】
金属複合水酸化物C1を酸素雰囲気中300℃で5時間保持して加熱し、室温まで冷却してリチウム二次電池用正極活物質前駆体C1を得た。
【0265】
リチウム二次電池用正極活物質前駆体C1に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するリチウムの量(モル比)が1.1となるように水酸化リチウムを秤量した。不活性溶融剤である炭酸カリウムと水酸化リチウムの合計量に対する炭酸カリウムの量(モル比)が10モル%となるように炭酸カリウムを秤量した。リチウム二次電池用正極活物質前駆体C1と水酸化リチウムと炭酸カリウムを乳鉢により混合して混合物を得た。
【0266】
次いで、得られた混合物を酸素雰囲気中790℃で10時間保持して焼成した後、室温まで冷却して焼成物を得た。得られた焼成物を乳鉢で解砕し、5℃の純水に分散させた後、脱水した。さらに、液温5℃に調整した純水を用いて、上記粉末を洗浄した後、脱水し、酸素雰囲気下760℃で5時間焼成して熱処理を行い、粉末状のリチウム二次電池用正極活物質C1を得た。
【0267】
比較例2
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内と、オーバーフローパイプに連結された濃縮槽、および濃縮槽から反応槽へ循環を行う機構を有する装置を用い、反応槽に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0268】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.91:0.05:0.04となるように混合して、混合原料液を調製した。
【0269】
次に、反応槽内に、反応槽の容積1Lに対して30gの硫酸アンモニウム結晶を投入し、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液15Lに対し、攪拌速度1500rpmで攪拌しながら反応槽内の溶液のpHが12.5(測定温度:40℃)になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下した。26時間後に水酸化ナトリウム水溶液の滴下を停止し、反応沈殿物C2を得た。
【0270】
反応沈殿物C2を洗浄し、脱水、乾燥及び篩別し、Ni、Co及びMnを含む金属複合水酸化物C2が得られた。金属複合水酸化物C2のタップ密度は、0.57g/cm
3であった。金属複合水酸化物C2をリチウム二次電池用正極活物質前駆体C2とした。
【0271】
リチウム二次電池用正極活物質前駆体C2に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するリチウムの量(モル比)が1.2となるように水酸化リチウムを秤量した。不活性溶融剤である硫酸カリウムと水酸化リチウムの合計量に対する硫酸カリウムの量(モル比)が10モル%となるように硫酸カリウムを秤量した。リチウム二次電池用正極活物質前駆体C2と水酸化リチウムと硫酸カリウムを乳鉢により混合して混合物を得た。
【0272】
次いで、得られた混合物を酸素雰囲気中880℃で5時間保持して焼成した後、室温まで冷却して焼成物を得た。得られた焼成物を乳鉢で解砕し、5℃の純水に分散させた後、脱水した。さらに、液温5℃に調整した純水を用いて、上記粉末を洗浄した後、脱水し、酸素雰囲気下760℃で5時間焼成して熱処理を行い、粉末状のリチウム二次電池用正極活物質C2を得た。
【0273】
比較例3
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を60℃に保持した。
【0274】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.91:0.05:0.04となるように混合して、混合原料液を調製した。
【0275】
次に、反応槽内に、反応槽の容積1Lに対して1gの硫酸アンモニウム結晶を投入し、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液500Lに対し、攪拌速度750rpmで攪拌しながら反応槽内の溶液のpHが11.6(測定温度:40℃)になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下した。12.5時間後に水酸化ナトリウム水溶液の滴下を停止し、反応沈殿物C3を得た。
【0276】
反応沈殿物C3を洗浄し、脱水、乾燥及び篩別し、Ni、Co及びMnを含む金属複合水酸化物C3が得られた。金属複合水酸化物1のタップ密度は、1.67g/cm
3であった。
【0277】
金属複合水酸化物C3を酸素雰囲気中800℃で5時間保持して加熱して酸化し、室温まで冷却してリチウム二次電池用正極活物質前駆体C3を得た。リチウム二次電池用正極活物質前駆体C3の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、y=0.05、z=0.04、w=0であった。
【0278】
リチウム二次電池用正極活物質前駆体C3に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するリチウムの量(モル比)が1.1となるように水酸化リチウムを秤量した。不活性溶融剤である炭酸カリウムと水酸化リチウムの合計量に対する炭酸カリウムの量(モル比)が10モル%となるように炭酸カリウムを秤量した。リチウム二次電池用正極活物質前駆体C3と水酸化リチウムと炭酸カリウムを乳鉢により混合して混合物を得た。
【0279】
次いで、得られた混合物を酸素雰囲気中760℃で10時間保持して焼成した後、室温まで冷却して焼成物を得た。得られた焼成物を乳鉢で解砕し、5℃の純水に分散させた後、脱水した。さらに、液温5℃に調整した純水を用いて、上記粉末を洗浄した後、脱水し、酸素雰囲気下760℃で5時間焼成して熱処理を行い、粉末状のリチウム二次電池用正極活物質C3を得た。
【0280】
比較例4
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽と、オーバーフローパイプに連結された濃縮槽、および濃縮槽から反応槽へ循環を行う機構を有する装置を用い、反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を60℃に保持した。
【0281】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.88:0.08:0.04となるように混合して、混合原料液を調製した。
【0282】
反応槽内に、反応槽の容積1Lに対して30gの硫酸アンモニウム結晶を投入し、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液15Lに対し、攪拌速度1500rpmで攪拌しながら反応槽内の溶液のpHが12.5(測定温度:40℃)になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下した。20時間後に水酸化ナトリウム水溶液の滴下を停止し、反応沈殿物C4を得た。
【0283】
反応沈殿物C4を洗浄し、脱水、乾燥及び篩別し、Ni、Co及びMnを含む金属複合水酸化物C4が得られた。金属複合水酸化物C4のタップ密度は、0.56g/cm
3であった。
【0284】
実施例1と同じ操作により、金属複合水酸化物C4を酸化し、リチウム二次電池用正極活物質前駆体C4を得た。リチウム二次電池用正極活物質前駆体C4の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、y=0.08、z=0.04、w=0であった。
【0285】
比較例1と同じ操作により、リチウム二次電池用正極活物質前駆体C4と水酸化リチウムと炭酸カリウムを焼成し、粉末状のリチウム二次電池用正極活物質C4を得た。
【0286】
表1に、実施例1〜3及び比較例1〜4のリチウム二次電池用正極活物質1〜3及びC1〜C4の製造条件及びリチウム二次電池用正極活物質前駆体1〜3及びリチウム二次電池用正極活物質前駆体C1〜C4の組成比を示す。
【0287】
表2に、実施例1〜3及び比較例1〜4のリチウム二次電池用正極活物質前駆体1〜3及びリチウム二次電池用正極活物質前駆体C1〜C4のBET比表面積S、50%累積体積粒度D
50、50%累積体積粒度D
50に対するBET比表面積Sの比であるS/D
50、積分強度Bに対する積分強度Aの比であるA/B、半値幅Dに対する半値幅Cの比であるC/D、及びリチウム二次電池用正極活物質1〜3及びリチウム二次電池用正極活物質前駆体C1〜C4を使用したコイン型ハーフセルの放電レート特性を示す。
【0288】
【表1】
【0289】
【表2】
【0290】
表1及び表2に示す通り、実施例1〜3では、タップ密度が0.6g/cm
3以上2.0g/cm
3以下である金属複合水酸化物を400℃以上700℃以下で加熱している。その結果、比S/D
50が2×10
6m/g以上11×10
6m/g以下であり、比A/Bが0.80を超え1.33以下であった。その結果、リチウム二次電池の放電レート特性は、89%以上と高い値になった。
【0291】
一方で、金属複合水酸化物の加熱温度が300℃である比較例1では、比S/D
50が11.4×10
6m/gであり、比A/Bが0.80であった。その結果、リチウム二次電池の放電レート特性は87.2%だった。
【0292】
金属複合水酸化物の酸化を行っていない比較例2では、比S/D
50が21.4×10
6m/gであった。また、積分強度Aに該当するピークが観測されなかったため、比A/Bを算出することができなかった。その結果、リチウム二次電池の放電レート特性は80.1%だった。
【0293】
金属複合水酸化物の加熱温度が800℃である比較例3では、金属複合水酸化物の加熱温度が800℃であり、比S/D
50が1.30×10
6m/gと小さい値となった。その結果、リチウム二次電池の放電レート特性は83.3%だった。
【0294】
タップ密度が0.56g/cm
3以上である金属複合水酸化物を650℃で加熱した比較例4では、比S/D
50が20.0×10
6m/gと大きい値となった。その結果、リチウム二次電池の放電レート特性は76.0%だった。
CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Dに対する、2θ=43.5±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Cの比であるC/Dが0.80以上1.05以下である請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Dに対する、2θ=43.5±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Cの比であるC/Dが0.80以上1.05以下である請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
m/g以下であり、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Bに対する、2θ=37.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度Aの比であるA/Bが0.80を超え1.33以下である、リチウム二次電池用正極活物質前駆体。
[2]CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=62.8±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Dに対する、2θ=43.5±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Cの比であるC/Dが0.80以上1.05以下である[1]に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
[5]下記式(I)で表されるモル比率で、Niと、Co、Mn及びM1からなる群より選択される1種以上の元素とを含み、前記M1は、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選択される1種以上の元素を表す、[1]〜[4]のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体。