【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、特にことわりの無い限り、以下の実施例における収率は内部標準法ガスクロマトグラフィー(GC)定量分析によって求めたものである。
【0061】
実施例触媒1
Ni
2Pナノ粒子の製造:
塩化ニッケル(NiCl
2)(1mmol)、ヘキサデシルアミン(10mmol)、1−オクタデセン(10mL)、トリフェニルフォスファイト(10mmol)をシュレンクフラスコに加えて真空中、120℃で1時間撹拌し、不純物・水分・酸素を除去した後アルゴン雰囲気下、300℃で2時間撹拌し黒色コロイド溶液を得た。その後、混合液をアセトンで沈殿、ろ過し、クロロホルムとアセトンの混合溶媒で数回洗浄し得られた粉末を真空下で一晩乾燥させてNi
2Pナノ粒子を得た。本実施により調製されたNi
2Pナノ粒子触媒は平均直径が5.4nmのサイズ分布が狭い(±1.4nm)規則的な粒子であった。実施例触媒1のHAADF−STEM画像を
図1に示した。得られた実施例触媒1を大気中で一日放置して乾燥させたが、スポンジ触媒で懸念されるような発火は生じなかった。
【0062】
実施例触媒2
Ni
5P
4ナノ粒子の製造:
Ni(acac)
2(0.33mmol)とオレイルアミン(0.5mmol)をn−オクチルエーテル(4.7mL)に溶かし、トリオクチルホスフィン(11mmol)を加えて真空中、120℃で1時間撹拌し、不純物・水分・酸素を除去した後アルゴン雰囲気下、400℃で20時間撹拌し黒色コロイド溶液を得た。その後、混合液をアセトンで沈殿、ろ過し、クロロホルムとアセトンの混合溶媒で数回洗浄し得られた粉末を真空下で一晩乾燥させてNi
5P
4ナノ粒子を得た。
【0063】
実施例触媒3
Ni
2P/モルデナイトの調製:
上記の操作で得られた実施例触媒1を22mg、ヘキサン(50mL)に加え1時間超音波処理し、担体としてのモルデナイト(1g)を加え、室温で6時間撹拌し、ろ過・洗浄後、真空乾燥することで本発明の実施例触媒3を得た。
【0064】
実施例触媒4
Ni
2P/SiO
2の調製:
担体としてモルデナイトに替えSiO
2を使用した以外は実施例触媒3と同様にして本発明の実施例触媒4を得た。
【0065】
実施例触媒5
Ni
2P/ZSM−5の調製:
担体としてモルデナイトに替えZSM−5を使用した以外は実施例触媒3と同様にして本発明の実施例触媒5を得た。
【0066】
実施例触媒6
NiP
2ナノ粒子の製造:
Ni(acac)
2(0.33mmol)とオレイルアミン(0.5mmol)をn−オクチルエーテル(2.0mL)に溶かし、トリオクチルホスフィン(16mmol)を加えて真空中、120℃で1時間撹拌し、不純物・水分・酸素を除去した後アルゴン雰囲気下、400℃で20時間撹拌し黒色コロイド溶液を得た。その後、混合液をアセトンで沈殿、ろ過し、クロロホルムとアセトンの混合溶媒で数回洗浄し得られた粉末を真空下で一晩乾燥させてNiP
2ナノ粒子を得た。
【0067】
比較例触媒1
Ni
2P:
市場から試薬のNi
2Pを入手して比較例触媒1とした。
【0068】
比較例触媒2
Co
2Pナノ粒子:
塩化コバルト(CoCl
2)(1.0mmol)、ヘキサデシルアミン(10mmol)、トリフェニルホスファイト(10mmol)、1−オクタデセン(10.0mL)をシュレンクフラスコに加えて撹拌した。混合液をアルゴンフロー下で150℃1時間加熱した。続いて、温度を20分間で溶媒沸点(約290℃)まで上昇させ、その後2時間維持した後、200℃まで冷却し、水浴で急速に室温まで冷却し黒色生成物を得た。得られた黒色生成物をアセトンで洗浄し、沈殿させて回収し、更にクロロホルムとアセトンを用いて洗浄を行い、比較例触媒2を得た。
【0069】
試験例1
水素化反応:
水素化反応はオートクレーブにて行った。オートクレーブに6mol%のNi
2P/モルデナイト触媒、10mlの水、0.1mmolの基質3‐ヘキセン‐2,5-ジオンを加え、その後、水素の加圧雰囲気2MPa、100℃の条件下で1時間、以下の反応を行ったところ収率は96%だった。
【0070】
【化1】
【0071】
上記の結果から、本発明の触媒は水素の圧力が低い条件でも高い収率で水素化化合物を得ることができることが確認できた。
【0072】
試験例2
開環反応:
基質を0.25mmolの5‐メチルフルフリルアルコール、水素を窒素の1MPa雰囲気にかえた以外は試験例1と同様にして以下の反応を行ったところ収率は41%だった。
【0073】
【化2】
【0074】
試験例2の結果から、本発明の触媒は環状ヘテロ化合物の開環反応に有用であることができることが確認できた。
【0075】
試験例3
水素化と開環の一段階反応:
窒素を水素の2MPa雰囲気にかえた以外は試験例2と同様にして以下の反応を行ったところ収率は79%だった。
【0076】
【化3】
【0077】
試験例3の結果から、本発明の触媒は、不飽和結合を持つ環状ヘテロ化合物の水素化と開環反応を一段階で効率的に行えることが分かった。
【0078】
試験例4
基質多様性:
基質をHMF(5‐ヒドロキシメチルフルフラール)にかえた以外は試験例3と同様にして以下の反応を行ったところ収率は84%だった。
【0079】
【化4】
【0080】
試験例5
触媒・多様性担体:
基質を5‐メチルフルフラール、反応温度を130℃、表1に示す反応時間・触媒にかえた以外は試験例3と同様にして以下の反応を行った結果を表1に示す。
【0081】
【化5】
【0082】
【表1】
【0083】
表1より粉状のNi
2PやCo
2Pナノ粒子ではほとんど反応が進まなかったのと比べて、Ni
xP
yナノ粒子触媒およびNi
xP
yナノ粒子を担体に担持した触媒は、反応が進み高い転化率と収率を示すことが分かった。また、Ni
xP
yナノ粒子中のリンのモル比がニッケルに対して1以下、好ましくは0.8以下であることにより触媒としての性能が高いことが分かった。
【0084】
試験例6
触媒の耐久性:
本発明触媒の耐久性を評価するため、表1の例4の反応に使用した触媒を濾過した後、前記の触媒の比較時と同じ反応を繰り返し、本発明の触媒の耐久性を検証した。結果を表2に記す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2の結果から、本発明触媒は優れた耐久性を有することが分かった。
【0087】
また、本発明触媒について構造解析を行った。結果を
図2に示す。
図2は実施例触媒1に関するX線回折の結果とJCPDSカード[Ni
2P (03−953)]を共に表示した図である。
図2中の縦の棒グラフで示してあるのがJCPDSカードに記載のNi
2Pピークである。本発明の実施例触媒1ではNi
2P粉末の特徴的なピークが確認された。これにより、実施例触媒1にはNi
2Pが含まれている事が分かる。同様に実施例触媒2と6についてもX線回折の結果とJCPDSカードからその構造を特定しNi
5P
4とNiP
2がそれぞれに含まれている事を確認した。
【0088】
図3は
図1の一部にEDX(Energy dispersive X―ray spectrometry;エネルギー分散型X線分析)線分析によりNiとPの存在位置を観察した画像を重ねた画像である。この結果から、実施例触媒1は一つのナノ粒子中でNi元素とP元素が均一に分布している事が分かった。
【0089】
図4と
図5はHAADF−STEMにより元素マッピングを行った画像である。
図4はNi元素の分布を表した画像であり、
図5はP元素の分布を表した画像であり、
図6の右はNi元素分布とP元素分布を複合した画像である。この結果から、実施例触媒1ではNi元素とP元素が偏りなく粗均一に分布していることがわかった。
【0090】
XRD、HAADF−STEMによる解析結果から、実施例触媒1の触媒は、Ni
2Pを構成要素としたナノサイズの整った形状の結晶構造を有する事が分かった。
【0091】
実施例触媒1‘
Ni
2P NW(ワームライクナノ粒子)の調製:
ニッケルアセチルアセトナート(Ni(acac)
2)(1mmol)、ヘキサデシルアミン(10mmol)、トリフェニルフォスファイト(10mmol)をシュレンクフラスコに加えて真空中、120℃で1時間撹拌し、不純物・水分・酸素を除去した後アルゴン雰囲気下、315℃で2時間撹拌し黒色コロイド溶液を得た。その後、得られた混合液を室温に冷却し、アセトンを加えて生じた沈殿をろ過し、クロロホルムとアセトン(1:1)の混合溶媒で数回洗浄し得られた粉末を真空下で一晩乾燥させてNi
2P NWを得た。本実施により調製されたNi
2P NW触媒は長さが25nm、幅が3nmの独特の虫のようなナノ構造が規則的に形成されていた。実施例触媒1‘のHAADF−STEM画像を
図7に示した。得られた実施例触媒1を大気中で一日放置して乾燥させたが、スポンジ触媒で懸念されるような発火は生じなかった。
【0092】
また、実施例触媒1‘について構造解析を行った。結果を
図8に示す。
図8は実施例触媒1‘に関するX線回折の結果とJCPDSカード[Ni
2P (03−953)]を共に表示した図である。
図8中の縦の棒グラフで示してあるのがJCPDSカードに記載のNi
2Pピークである。本発明の実施例触媒1‘ではNi
2P粉末の特徴的なピークが確認された。これにより、実施例触媒1‘にはNi
2Pが含まれている事が分かる。
【0093】
図9と
図10と
図11はHAADF−STEMにより元素マッピングを行った画像である。
図9はNi元素の分布を表した画像であり、
図10はP元素の分布を表した画像であり、
図11はNi元素分布とP元素分布を複合した画像である。この結果から、実施例触媒1ではNi元素とP元素が偏りなく粗均一に分布していることがわかった。
【0094】
HAADF−STEMによる解析結果から、実施例触媒1の触媒は、Ni
2Pを構成要素としたナノサイズの整った形状の結晶構造を有する事が分かった。
【0095】
実施例触媒7
Ni
2P/HTの調製:
上記の操作で得られた実施例触媒1‘を30mg、ヘキサン(50mL)に加え1時間超音波処理し、担体としてのハイドロタルサイト(富田製薬社製AD−500NS:1g)を加え、室温で6時間撹拌し、ろ過・洗浄後、真空乾燥することで本発明の実施例触媒7を得た。
【0096】
実施例触媒8
Ni
2P/TiO
2の調製:
上記の操作で得られた実施例触媒1‘を30mg、ヘキサン(50mL)に加え1時間超音波処理し、担体としてのTiO
2(富士シリシア社製JRC TIO−4:1g)を加え、室温で6時間撹拌し、ろ過・洗浄後、真空乾燥することで本発明の実施例触媒8を得た。
【0097】
実施例触媒9
Ni
2P/Y
2O
3の調製:
上記の操作で得られた実施例触媒1‘を30mg、ヘキサン(50mL)に加え1時間超音波処理し、担体としてのY
2O
3(和光純薬工業社製:1g)を加え、室温で6時間撹拌し、ろ過・洗浄後、真空乾燥することで本発明の実施例触媒Xを得た。
【0098】
実施例触媒10
Ni
2P/ZrO
2の調製:
上記の操作で得られた実施例触媒1‘を30mg、ヘキサン(50mL)に加え1時間超音波処理し、担体としてのZrO
2(富士シリシア社製JRC ZRO−6:1g)を加え、室温で6時間撹拌し、ろ過・洗浄後、真空乾燥することで本発明の実施例触媒10を得た。
【0099】
実施例触媒11
Ni
2P/Al
2O
3の調製:
上記の操作で得られた実施例触媒1‘を30mg、ヘキサン(50mL)に加え1時間超音波処理し、担体としてのAl
2O
3(住友化学社製AKP−G015:1g)を加え、室温で6時間撹拌し、ろ過・洗浄後、真空乾燥することで本発明の実施例触媒11を得た。
【0100】
実施例触媒12
Ni
2P/Nb
2O
5の調製:
上記の操作で得られた実施例触媒1‘を30mg、ヘキサン(50mL)に加え1時間超音波処理し、担体としてのNb
2O
5(和光純薬工業社製:1g)を加え、室温で6時間撹拌し、ろ過・洗浄後、真空乾燥することで本発明の実施例触媒12を得た。
【0101】
実施例触媒13
Ni
2P/SiO
2の調製:
上記の操作で得られた実施例触媒1‘を30mg、ヘキサン(50mL)に加え1時間超音波処理し、担体としてのSiO
2(1g)を加え、室温で6時間撹拌し、ろ過・洗浄後、真空乾燥することで本発明の実施例触媒13を得た。
【0102】
試験例7
カルボニル基の水素化反応(担体効果):
カルボニル基の水素化反応はオートクレーブにて行った。50mLのステンレスオートクレーブに10mol%の各触媒、3mLの水、0.5mmolの基質を加え、その後、2MPaの水素の加圧雰囲気の下、100℃、1時間反応を行った結果を表3に示す。
【0103】
【化6】
【0104】
【表3】
【0105】
試験例8
触媒の耐久性:
表3のNi
2P/HTの反応(収率93%)後、遠心分離により触媒を分離し、脱イオン水で洗浄し繰り返し反応を行ったところ、収率が1回目は93%、2回目は94%、3回目は92%、4回目は93%、5回目は90%となった。
【0106】
試験例9
カルボニル基の水素化反応:
カルボニル基の水素化反応は実施例触媒7(Ni
2P/HT触媒)を用い、オートクレーブにて行った。50mLのステンレスオートクレーブに1.5mol%(41.8mg)、6mol%(167mg)または12mol%(333mg)のNi
2P/HT触媒、3mLの水、0.1mmolの基質を加え、その後、水素の加圧雰囲気の下記表の各条件下で反応を行った結果を表4に示す。
【0107】
【化7】
【0108】
【表4】
【0109】
また、例30のHMFの水素化(60℃、H
2 5MPa、水1mL)における触媒回転頻度は実施例触媒7のNi
2P/HTは14.4、ラネーニッケル触媒は0.64と22倍となった。
【0110】
また、上記HMFの水素化におけるアレニウスプロットを
図12に示す。アレニウスプロットの傾きから活性化エネルギーは、Ni
2P/HTは37.9 kJ/mol、ラネーニッケルは53.7 kJ/molと計算された。
【0111】
試験例10
ニトリル基の水素化反応:
ニトリル基の水素化反応はオートクレーブにて行った。50mLのステンレスオートクレーブに5mol%(7.4mg)のNi
2P NW触媒、3mLのアンモニア水(NH
3aq.)、0.5mmolの基質を加え、その後、水素の加圧雰囲気の下記表の各条件下で反応を行った結果を表5に示す。
【0112】
【化8】
【0113】
【表5】
【0114】
試験例11
ニトリル基の水素化反応:
ニトリル基の水素化反応はオートクレーブにて行った。50mLのステンレスオートクレーブに5mol%Niの各触媒、3mLの12.5%アンモニア水(NH
3aq.)、0.5mmolの基質を加え、その後、水素の4MPa加圧雰囲気、130℃、6時間の条件下で反応を行った結果を表6に示す。
【0115】
【化9】
【0116】
【表6】
【0117】
試験例12
ニトロ基の水素化反応:
ニトロ基の水素化反応はオートクレーブにて行った。50mLのステンレスオートクレーブに5mol%Ni(7.4mg)の実施例触媒1‘(Ni
2P NW触媒)、3mLの水、0.5mmolの基質を加え、その後、水素の加圧雰囲気の下記表の各条件下で反応を行った結果を表7に示す。
【0118】
【化10】
【0119】
【表7】
【0120】
表7の結果から、本発明の触媒はハロゲン、メトキシ、アミノ、エステル、アミド、ヒドロキシ基を含む官能基は、水素化されずにニトロ基だけを選択的に水素化できた。
【0121】
試験例13
単糖類(グルコース)の開環反応及び水素化反応:
単糖類の水素化反応はオートクレーブにて行った。50mLのステンレスオートクレーブに、D−グルコース0.5mmolの基質、有効成分(Ni換算)が6.6mol%(200mg)の表8に示す触媒と、水3mLとを加え、その後、水素の加圧雰囲気の下記表の各条件下で反応を行った結果を表8に示す。
【0122】
【化11】
【0123】
【表8】
【0124】
表8の結果から、本発明の触媒はグルコース等の単糖類の開環反応(加水分解)及び水素化反応を優れた収率で生じさせ、副生物の生成量も極めて少ないことがわかった。
【0125】
試験例14
触媒の耐久性:
表8の例84の条件で反応(収率99%)後、触媒を遠心分離し得られた触媒に基質と溶媒を追加し、繰り返し反応を行ったところ、収率が1回目は99%、2回目は99%、3回目は98%、4回目は98%、5回目は97%となった。
【0126】
上記結果より、本発明の触媒は優れた耐久性を持つことがわかった。
【0127】
試験例15
多糖類(マルトース)の開環反応及び水素化反応:
多糖類の水素化反応はオートクレーブにて行った。50mLのステンレスオートクレーブに、マルトース0.25mmolの基質、有効成分(Ni換算)が6.6mol%の表9に示す触媒と、水3mLとを加え、その後、水素の加圧雰囲気の下記表の各条件下で反応を行った結果を表9に示す。
【0128】
【化12】
【0129】
【表9】
【0130】
表9の結果から、本発明の触媒はグルコース等の単糖類の開環反応(加水分解)及び水素化反応を優れた収率で生じさせることができることがわかった。
【0131】
試験例16
触媒の耐久性:
表9の例94の条件で反応後、触媒を遠心分離し得られた触媒に基質と溶媒を追加し、繰り返し反応を行ったところ、収率が1回目は94%、2回目は94%、3回目は93%、4回目は93%、5回目は94%となった。
【0132】
上記結果より、本発明の触媒は優れた耐久性を持つことがわかった。